説明

双眼鏡

【課題】中央転輪と視度調節環との操作を、1本又は2本の指で行え、焦点位置の決定及び視度位置の決定後、中央転輪と視度調節環とを固定可能な双眼鏡の提供。
【解決手段】光学系の調節レンズを光軸に沿って前後進可能に支持する一対の支持体と、前記一対の支持体の中間に位置する中心軸線を中心にして回転可能な中央転輪と、前記中央転輪に係合又は脱離する回転筒体と、前記回転筒体に螺合すると共に一方の支持体を結合する内側筒体と、前記内側筒体に螺合すると共に他方の支持体を結合し、かつ外周面に係合片を備えた外側筒体と、前記係合片に係合する規制部材を備え、前記中央転輪と係合脱離可能である視度調節環と、前記中央転輪を回転可能又は回転不能に規制する中央転輪回転規制部とを有することを特徴とする双眼鏡。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、双眼鏡に関し、更に詳しくは、双眼鏡を持つ手の位置をわざわざ変更することなく焦点調節及び視度調節を行うことができ、しかも調節後にその調節状態を固定することのできる双眼鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
図4に示されるように、従来の双眼鏡100においては、左右の光学系の視度を同時に調節する中央転輪101と、左右の視度差を調整する視度調節環102とを備えた、中央繰り出し式の視度調整機構が多く採用されている。この場合、左右どちらかの接眼レンズの光軸と同軸になるように視度調節環102が設けられている。そうすると、中央転輪101と視度調節環102とが離れているので、双眼鏡を持ち続けている両手のそれぞれの指で、例えば右手の指で中央転輪101を操作し、左手の指で視度調節環を操作することを余儀なくされ、又は、右手の指で中央転輪101を操作してからその指の位置を変えて視度調節環を操作することを余儀なくされる。
【0003】
1970年以降の特許出願につき、特許庁ホームページにアップされている電子図書館にて、視度調節をキーワードにして公開公報を検索すると、以下の2件が見出された。
【0004】
特許文献1に記載の発明は視度補正機構に関し、その請求項1には、「接眼レンズを保持する接眼レンズ鏡筒と、該接眼レンズ鏡筒の端面を含む一端部が突出するように前記接眼レンズ鏡筒を保持する双眼鏡本体と、前記端面より光軸方向に摺動させながら前記接眼レンズ鏡筒の外側に装着され前記一端部の外周面を被覆する視度調節環と、前記視度調節環を前記接眼レンズ鏡筒に固定する固定手段と、前記視度調節環の光軸周りの回転操作による前記接眼レンズ鏡筒の回転により該接眼レンズ鏡筒を光軸方向に移動させ視度補正を可能にする機構とを有する双眼鏡の視度補正機構において、前記固定手段は、前記接眼レンズ鏡筒の一端部の側面に前記端面との間に顎部を形成するように穿設された切欠き溝と、弾性部材によって前記視度調節環の内周面に一体に形成され、前記摺動時に前記顎部によって弾性変形させられ、前記被覆完了時に弾性復帰して前記切欠き溝内まで侵入する弾性突起とを有し、前記切欠き溝と前記弾性突起との係合により前記視度調節環を前記接眼レンズに光軸方向に固定したことを特徴とする双眼鏡の視度補正機構。」が提案されている。
【0005】
この特許文献1に記載された双眼鏡においては、前記したように、視度調節環と中央転輪とが相互に離れた位置に設けられているので、前記した問題点を有する。
【0006】
特許文献2に記載された双眼鏡は、その請求項1に記載されているように、「一対の接眼光学系と対物光学系との間に設けられる調節レンズを光軸に沿って前後進可能に支持する一対の支持体と、
前記一対の支持体を光軸方向に同時に前後進させて焦点調節を行う焦点調節手段と、
一方の支持体を、他方の支持体を不動状態にしたまま、光軸方向に前後進させて視度調節を行う視度調節手段と、
前記焦点調節手段と視度調節手段とを切り替える切替手段とを有する焦点視度調節ユニットを備えてなることを特徴とする双眼鏡。」である。
【0007】
しかしながら、特許文献2に開示された双眼鏡は、請求項2に記載されたように、「前記焦点調節手段が、固定中心軸体に回転可能に装着され、外周に雄ネジを有する太径部と外周に雄ネジを有する細径部とを有し、調節レンズを支持する一方の支持体を回動不能に前記太径部で支持するリード環と、
前記リード環と螺合により結合され、回転により前記リード環を前後進させる第1回転体とを備え、
前記視度調節手段が、前記リード環に回転可能に支持され、他方の調節レンズを支持する他方の支持体を支持する小リード環を備え、
前記切替手段が、固定中心軸体の軸線に沿って一方向に移動すると、前記小リード環に回転運動伝達不能状態下に前記第1回転体に回転運動を伝達可能にし、前記軸線方向に沿って逆方向に移動すると前記第1回転体の回転運動伝達不能状態下に前記小リード環に回転運動を伝達可能とする第2回転体を備えて成る
前記請求項1に記載の双眼鏡。」といった態様しか示されていない。
【0008】
【特許文献1】特開平7−281103号公報
【特許文献2】特開2006−53381号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この発明が解決しようとする課題は、中央転輪と視度調節環との操作を、操作する指を変更することなく1本又は2本の指で簡単に行うことができ、中央転輪操作で焦点位置を決定し、視度調節環操作で視度位置を決定した後に、簡単に中央転輪と視度調節環とを固定することのできる双眼鏡を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
課題を解決するための手段として、
請求項1は、
「一対の接眼光学系と対物光学系との間に設けられる調節レンズを光軸に沿って前後進可能に支持するとともに互いに平行に配置された一対の支持体と、
前記一対の支持体の各々の中心軸線に平行に、かつ前記一対の支持体の中間に位置する中心軸線を中心にして回転可能な中央転輪と、
外周面に雄ネジを備えてなると共に前記中央転輪に係合又は脱離することにより、前記中央転輪の回転に応じて回転し又は不動となる回転筒体と、
前記回転筒体の雄ネジに螺合する雌ネジを内周面に有すると共に外周面に雄ネジを備え、一方の支持体を結合する内側筒体と、
前記内側筒体の雄ネジに螺合する雌ネジを内周面に有すると共に他方の支持体を結合し、かつ外周面に係合片を備えた外側筒体と、
前記係合片に係合する規制部材を備え、前記中央転輪と係合脱離可能であり、前記中央転輪に係合しかつ前記中央転輪が前記回転筒体から脱離するときには、前記中央転輪の回転の中心となる前記中心軸線を中心にして回動可能でありかつ前記規制部材及び前記係合片を回動可能にし、前記中央転輪から脱離しかつ前記中央転輪が前記回転筒体に係合するときには、前記規制部材及び前記係合片を回動不能にしつつ前記係合片を前記外側筒体の軸方向に移動可能にする視度調節環と、
前記中央転輪を回転可能又は回転不能のいずれかに規制する中央転輪回転規制部と、
を有することを特徴とする双眼鏡」であり、
請求項2は、
「前記中央転輪は、前記中心軸線を中心にして回転可能にかつ有底円筒体状に形成された操作円筒体と、前記操作円筒体における底面の中心部に立設形成されて成る中心軸体とを備えて成り、
前記視度調節環は、前記中心軸体を挿入配置する挿入孔を中心部に備える筒状基体に回動可能に装着された円筒体を備えて成り、
前記中央転輪回転規制部は、前記筒状基体の外周端部に形成された中央転輪用係合部と前記中央転輪に設けられた中央転輪被係合部とを備えて成る前記請求項1に記載の双眼鏡」である。
【発明の効果】
【0011】
この発明に係る双眼鏡においては、先ず、中央転輪回転規制部により中央転輪を回転可能にし、かつ回転筒体を中央転輪に係合させ、かつ視度調節環を中央転輪から脱離させておく。双眼鏡を両手で持って構えた状態で、例えば指で中央転輪を回転させる。
【0012】
中央転輪が回転すると、中央転輪に回転筒体が係合しているので、回転筒体に中央転輪の回転が伝達される。
【0013】
回転筒体が回転すると、内側筒体の内周面に設けられた雌ネジが回転筒体の外周面に設けられた雄ネジに螺合しているので、内側筒体に回転力が伝達される。なお、外側筒体の外周面に備わる係合片が規制部材により回動不能に規制されているので、内側筒体の回転力が外側筒体の回転力となって伝達されることは無い。そうすると、内側筒体に伝えられた中央転輪の回転力は、中央転輪の回転方向に応じて、内側筒体がその軸線方向に前後進する並進移動力に、変換される。つまり、中央転輪の回転により、内側筒体がその軸線方向に沿って前後進する。
【0014】
上述したように、外側筒体は回動不能になっているので、中央転輪の回転力が変換された内側筒体の並進移動力が、外側筒体にも伝達することにより、外側筒体も並進移動せしめることとなる。内側筒体には一方の支持体を結合し、かつ外側筒体には他方の支持体を結合しているので、内側筒体と外側筒体との同時並進移動により、一対の支持体が同時に並進移動する。
【0015】
一対の支持体の同時並進移動により、一対の支持体それぞれに結合された一対の調節レンズが同時に並進移動して焦点調節が行われる。
【0016】
焦点調節が完了すると、回転筒体を中央転輪から脱離させ、かつ視度調節環に中央転輪を係合させる。回転筒体を中央転輪から脱離させることにより、一旦調整した焦点の狂いを生じることがなくなる。
【0017】
焦点調節の後に視度調節をするには、中央転輪を例えば指操作により回動させる。中央転輪が回動すると、中央転輪に係合している視度調節環が回動することになる。視度調節環が回動すると、規制部材に係合している係合片により外側筒体も回動する。なお、回転筒体は中央転輪から脱離しているので回転することは無く、かつ内側筒体は回転筒体が回転することが無いので同様に回転することが無い。よって、回転筒体及び内側筒体に外側筒体の回動力が伝達することは無い。外側筒体が回動すると、固定されている内側筒体に螺合している外側筒体は、外側筒体の回動量に応じて中心軸線に沿って並進移動をする。外側筒体の並進移動により、外側筒体に結合する他方の支持体が並進移動する。外側筒体の並進移動による調節レンズが並進移動して視度調節が行われる。
【0018】
視度調節が完了すると、例えば指操作により、中央転輪回転規制部が中央転輪を回転不能にする。中央転輪が回転不能となることにより、双眼鏡の操作中に不用意に視度調節環に手が触れるなどして視度の狂いを生じることがなくなる。
【0019】
かくして、この発明によると、中央転輪と視度調節環とが、双眼鏡の一対の光軸の中央であって前記光軸と平行な軸線を有するように同軸かつ近接して配置されているので、この双眼鏡を持っている手の指を変えることなく、指1本又は2本で焦点調節と視度調節とを簡単に操作することができる双眼鏡を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
この発明の一例である双眼鏡を図1及び図2に示す。図1に示されるように、この発明の一例である双眼鏡1は、接眼光学系と対物光学系とを内蔵する一方の鏡筒2aと、同様に接眼光学系と対物光学系とを内蔵する他方の鏡筒2bと、前記一方の鏡筒2aと前記他方の鏡筒2bとを回動可能に結合して接眼光学系の一方の光軸と接眼光学系の他方の光軸とを観察者の両眼間隔に一致させることができるようにする回動結合部3とを備える。
【0021】
双眼鏡1は、一方の鏡筒2aの軸線と他方の鏡筒2bの軸線との中間であって夫々の軸線に平行な仮想的中間軸線上に配置された視度調節環4と中央転輪5とを備える。視度調節環4と中央転輪5とは仮想的中間軸線を共有する。
【0022】
図1に示されるように、前記回動結合部3は、一方の鏡筒2aの略中央部から張り出した装着部と他方の鏡筒2bの略中央部から張り出した装着部とを回動可能に装着する基体(図示せず。)を有する。
【0023】
図2に示されるように、前記基体の接眼部側端部に、仮想的中間軸線Xを共有し、かつ略有底円筒体状を成す筒状基体6が取り付けられる。筒状基体6は、前記回動結合部3側の端部を閉鎖する有底円筒体である。筒状基体6の外周部である円筒状外周部6aには、視度調節環4が装着され、かつ筒状基体6の開口部を閉鎖するように中央転輪5が装着される。なお、筒状基体6は、固定された部材であり、回転又は回動することはない。
【0024】
前記筒状基体6の外周面における回動結合部3側の端部には、半径方向側に張り出した環状のフランジ6bが、形成される。
【0025】
視度調節環4は、筒状基体6の円筒状外周部6aに装着された円筒体であるところの装着円筒部4aを有する。視度調節環4は、円筒状外周部6aに摺接し、かつ仮想的中間軸線Xを中心にして一定の範囲内で回動可能である。
【0026】
前記筒状基体6の円筒状外周部6aには、円筒状外周部6aの外周面及び内周面を貫通するボール配設孔6cが開設されている。ボール配設孔6cの中には、付勢部材6d例えば板バネにより、筒状基体6の内側から外側へと付勢されたボール6eが、嵌められている。
【0027】
前記視度調節環4における装着円筒部4aの内周面には、前記ボール6eの一部が没入可能な溝4bが、少なくとも視度調節環4の回動可能範囲よりも大きい範囲で形成されている。視度調節環4の溝4bに前記ボール6eが没入していると、視度調節環4が溝4bに沿って滑らかに回動可能であり、かつ視度調節環4の回動が螺旋軌道に乗らないように案内をすることができる。なお、前記溝4b及びボール配設孔6cの形成位置は、特に制限は無い。
【0028】
前記筒状基体6には、前記仮想的中間軸線Xを中心軸線とする挿入孔6fが開設される。挿入孔6fは、筒状基体6の仮想的中間軸線Xを軸線とする細径部6gと太径部6hとが直列に形成されることにより、その内部空間として形成される。太径部6hの内径は、細径部6gの内径よりも大きく設計される。
【0029】
前記細径部6gは、一方の鏡筒2aの略中央部から張り出した装着部と他方の鏡筒2bの略中央部から張り出した装着部とを回動可能に装着する基体(図示せず。)の反対側に設けられる。
【0030】
太径部6hの周側面には、外周面及び内周面を貫通する第2ボール配設孔6iが開設される。ボール配設孔6iには、ボール6jが装着される。ボール6jは、第2付勢部材6k例えば板バネにより、太径部6hの内部に向かって付勢される。
【0031】
前記細径部6gの外周面には、回転筒体7が、仮想的中間軸線Xを中心にして回転可能に、嵌装される。この回転筒体7は、外周面に雄ネジ7aを有すると共に、内周面の少なくとも一部に係合部材7b例えばキーを備える。
【0032】
前記回転筒体7の外側には、内側筒体8が装着されている。内側筒体8の内周面には雌ネジ8aが設けられ、雌ネジ8aは回転筒体7の雄ネジ7aに螺合している。前記内側筒体8の外周面には雄ネジ8bが設けられている。この内側筒体8の前記基体(図示せず。)側の端部に、円環状フランジ8cが内側筒体8の半径方向に突出して形成される。この円環状フランジ8cには、第1支持体9aの一端部が結合される。
【0033】
この第1支持体9aは、筒状基体6に設けられた装着貫通孔6mに挿通され、その第1支持体9aの他端部は、適宜の部材10を介して、図1に示す一方の鏡筒2a内に設けられている調節レンズ(図示せず。)に結合されている。したがって、この第1支持体9aが仮想的中間軸線Xと同じ軸線方向に沿って、前後進可能になっている。もっとも、第1支持体9aの他端部は、適宜の部材10を介することなく、調節レンズに結合されても良い。
【0034】
図2に示されるように、前記内側筒体8の外側には、外側筒体11が装着されている。内側筒体8の外周面に設けられた雄ネジ8bと、前記外側筒体11の内周面に設けられた雌ネジ11aとが螺合している。
【0035】
外側筒体11の外周面には、係合片11bが立設形成される。係合片11bは、図2に示されるように、仮想的中間軸線Xと平行に形成された長辺部と、前記仮想的中間軸線Xを中心とする半径方向に沿って形成された短辺部とを有する矩形板状を呈する。この矩形板状を成す係合片11bは、装着円筒部4aの内周面に立設形成された規制部材4cに係合する。規制部材4cは、仮想的中間軸線Xの半径方向でかつ係合片11bに向かって開口する係合溝(図示せず。)を有している。係合片11bと係合溝とは、前記係合片11bの長辺部が係合溝内に装着されることにより、係合している。したがって、装着円筒部4aを有する視度調節環4が回動すると、前記係合溝を有する規制部材4cが回動するので、規制部材4cの回動によって前記係合溝に係合する係合片11bも回動することとなる。回転筒体7は仮想的中間軸線Xに沿って移動することはないので、係合片11bの回動により、外側筒体11及び回転筒体7に螺合している内側筒体8が仮想的中間軸線Xに沿って前進又は後進することができる。
【0036】
一方、この外側筒体11の下端には、仮想的中間軸線Xの半径方向に張り出した環状の第2フランジ11cが形成される。この第2フランジ11cには、第2支持体9bの一端部が結合される。
【0037】
この第2支持体9bは、筒状基体6に設けられた第2装着貫通孔6nに挿通され、その第2支持体9bの他端部は、適宜の部材10を介して、他方の鏡筒2b内に設けられている調節レンズ(図示せず。)に結合されている。もっとも、第1支持体9aの他端部は、適宜の部材10を介することなく、調節レンズに結合されても良い。
【0038】
上述したように、視度調節環4を回動することにより、内側筒体8が仮想的中間軸線Xに沿って前進又は後進するので、第1支持体9aが仮想的中間軸線Xに沿って前進又は後進することになる。
【0039】
前記中央転輪5は、図2に示されるように、一端を開口する有底円筒体状であり、筒状基体6の開口部を覆蓋している。中央転輪は、仮想的中間軸線Xを中心にして回転可能である有底円筒体状の操作円筒体と、操作円筒体における底面の中心部に立設形成されて成る中心軸体とを備えていることが好ましい。図2においては、操作円筒体の一例として、底面5a及び円筒状周側部5bを示した。また、中心軸体の一例として、円柱状突出基部5c、装着ピン5e及び太径ヘッド5fを示した。図2に示されるように、底面5aは上側に位置し、かつ開口部が下側に位置し、かつ円筒状周側部5bが前記底面5aの両端部から下方に延在している。この底面5aにおいて、前記円筒状周側部5bに囲まれた空間に向かう面の中央部には、円柱状突出基部5cが突設され、その円柱状突出基部5cの外周には、被係合部材5dが設けられている。被係合部材5dは、双眼鏡1が図2に示すような初期状態にあるときに、係合部材7b例えばキーに係合する部材であり、例えばキー溝として形成される。図2に示す状態では、係合部材7b及び被係合部材5dが係合しているので、回転筒体7及び中央転輪5が係合していることになる。つまり、中央転輪5を回転させると、この被係合部材5d及び係合部材7bが係合している場合には、回転筒体7も回転するように、なっている。
【0040】
前記円柱状突出基部5cの先端部から更に細径の装着ピン5eが延在し、この装着ピン5eが、筒状基体6における挿入孔6fに、回転可能に挿入されている。装着ピン5eの先端部には円柱状の太径ヘッド5fが形成される。太径ヘッド5fの外径は、前記細径部6gの内径よりも大きく設計されているので、中央転輪5が筒状基体6から脱落することは無い。太径ヘッド5fの外周側面には断面劣弧形状を成し、かつ前記太径ヘッド5fの外周面を一巡するように形成された環状溝が3個形成されている。3個の環状溝それぞれを、太径ヘッド5fの下端面側から、第1環状溝5g、第2環状溝5h及び第3環状溝5iと称する。
【0041】
第1環状溝5g、第2環状溝5h及び第3環状溝5iには、ボール配設孔6iに配設されたボール6jの一部が、没入可能である。
【0042】
図2に示すように、中央転輪回転規制部12は、中央転輪5の歯5j及び筒状基体6の歯6pを有している。前記中央転輪5における底面5aの内壁面周縁部には、中央転輪被係合部の一例として環状でかつ放射状に列設された歯5jが設けられている。また、筒状基体6の円筒状外周部6aにおける環状端面には、中央転輪用係合部の一例として歯6pが設けられる。この歯5jと歯6pとは、中央転輪5を仮想的中間軸線Xに沿って移動させると、互いに噛み合うことができるように、形成される。上述したように、筒状基体6は固定される部材であるので、中央転輪回転規制部12における歯5jと歯6pとが噛み合うと中央転輪5が回転不能となる。
【0043】
視度調節環4の外周面でかつ下端部近傍には、視度調節用係合部材4d例えばキーが設けられ、中央転輪5の円筒状周側部5bにおける内周面でかつ開口部近傍には、視度調節用被係合部材5k例えばキー溝が設けられている。双眼鏡1が図2に示される状態にあるときは、視度調節用係合部材4d及び視度調節用被係合部材5kが係合していないので、中央転輪5が回転しても視度調節環4は回転しない。歯6pと歯5jとが噛み合わないようにしつつ、中央転輪5を図2における下方に押圧すると、視度調節用係合部材4dと視度調節用被係合部材5kとが係合して、中央転輪5の回転力が視度調節環4に直接伝達されることとなる。
【0044】
図2に示す双眼鏡1は、歯6pと歯5jとが噛み合っておらず、前記第1環状溝5gにボール6jが没入しているので、ボール6jの没入位置を第2環状溝5h又は第3環状溝5iに移動させる外力を中央転輪5に加えない限り、中央転輪5がその位置を安定的に保持することができる。また、ボール6jが第1環状溝5gに没入している状態の中央転輪5を仮想的中間軸線Xに沿って移動させることにより、視度調節用係合部材4dと視度調節用被係合部材5kとが噛み合う状態になったときには、前記第2環状溝5hにボール6jが没入しているので、ボール6jの没入位置を第1環状溝5g又は第3環状溝5iに移動させる外力を中央転輪5に加えない限り、中央転輪5がその位置を安定的に保持することができる。更に、ボール6jが第2環状溝5hに没入している状態の中央転輪5を仮想的中間軸線Xに沿って移動させることにより、歯6pと歯5jとが噛み合う状態になったときには、前記第3環状溝5iにボール6jが没入しているので、ボール6jの没入位置を第1環状溝5g又は第2環状溝5hに移動させる外力を中央転輪5に加えない限り、中央転リン5がその位置を安定的に保持することとなる。なお、前記第1環状溝5g、第2環状溝5h及び第3環状溝5iの形成位置並びに第2ボール配設孔6iの開設位置は、特に制限はなく、被係合部材5d及び係合部材7b並びに歯5j及び歯6pの位置及び大きさを考慮し、かつボール6jが安定的に保持可能であるように決定される。
【0045】
次に、以上構成の双眼鏡の作用について、以下に説明する。
【0046】
操作者が双眼鏡を両手で持って構え、両眼に接眼部を当てる。双眼鏡1が初期状態つまり焦点調節をする前の状態では、図2に示されるように、視度調節用係合部材4d及び視度調節用被係合部材5kが噛み合わず、また歯6p及び歯5jが噛み合っていない。すなわち、視度調節環4が中央転輪5から脱離しており、かつ回転筒体7が中央転輪5に係合している。図2に示される状態の回転結合部3、視度調節環4及び中央転輪5の外観を図3(A)に示した。図3(A)では、回転結合部3と中央転輪5との間に視度調節環4を視認可能な状態になっている。視度調節環4を外部から視認可能な状態のとき、図2に示すように、ボール6jは第1環状溝5gに没入しているので、中央転輪5に仮想的中間軸線Xに沿う方向に外力を加えない限り、中央転輪5が仮想的中間軸線Xに沿って移動することはない。また、図3(A)に示される状態では、視度調節環4は回動不能である。
【0047】
双眼鏡1の操作としては、先ず焦点調節を行うこととし、操作者が、例えば指で中央転輪5を回転させる。中央転輪5が回転すると、図2に示されるように、被係合部材5d例えばキー溝に係合部材7b例えばキーが係合しているので、回転筒体7が回転する。しかしながら、外側筒体11に結合している係合片11bが、規制部材4cにより回動不能に規制されている。よって、回転筒体7の回転により、回転筒体7に螺合する内側筒体8及び内側筒体8に螺合する外側筒体11が一体になって、仮想的中間軸線Xに沿って、図2における下方又は上方に移動する。したがって、内側筒体8に結合された第1支持体9aと外側筒体11に結合された第2支持体9bとが、仮想的中間軸線Xに沿って同時に移動することになる。第1支持体9a及び第2支持体9bが仮想的中間軸線Xに沿って移動することで、焦点調節が行われる。
【0048】
焦点調節が完了すると、視度調節環4における視度調節用係合部材4dと中央転輪5における視度調節用被係合部材5kとを係合させ、かつ回転筒体7における係合部材7bを中央転輪5における被係合部材5dから脱離させると共に、ボール配設孔6i内に配設されているボール6jが第1環状溝5gから第2環状溝5hへとその没入位置を変えるように、中央転輪5を仮想的中間軸線Xに沿って移動させる。
【0049】
視度調節用係合部材4dと視度調節用被係合部材5kとが係合することにより、中央転輪5の回転力が視度調節環4に直接伝達されるようになる。また、係合部材7bを被係合部材5dから脱離させることにより、中央転輪5の回転力が回転筒体7に伝達されなくなり、回転筒体7が回転することは無い。したがって、中央転輪5が回転しても、回転筒体7は回転せず、内側筒体8及び外側筒体11が同時に仮想的中間軸線Xに沿って移動することが無いので、調節された焦点が固定される。すなわち、焦点を固定した状態が、視度調節環4が中央転輪5に係合し、かつ回転筒体7が中央転輪5から脱離した状態である。
【0050】
次いで、中央転輪5を例えば指で回動させる。中央転輪5が回動することにより、視度調節用被係合部材5kと視度調節用係合部材4dとが係合しているので、視度調節環4を回動させる。視度調節環4が回動すると、規制部材4cの係合溝に係合している係合片11bも回動し、外側筒体11が回動することとなる。特に限定されることではないが、通常の場合、外側筒体11の回動範囲は仮想的中間軸線Xを中心とする中心角で120度以内に設計されることが好ましい。
【0051】
外側筒体11が回動すると、この外側筒体11の内周面に形成されている雌ネジ11aに螺合する雄ネジ8bを外周面に有する内側筒体8が、回動する。内側筒体8の内周面に形成されている雌ネジ8aに螺合する雄ネジ7aを有する回転筒体7は、上述したように回転不能になっているので、外側筒体8の回動により内側筒体7が回動しつつ仮想的中間軸線Xに沿って移動する。内側筒体7の移動により、第1支持体9aだけが仮想的中間軸線Xに沿って移動し、第2支持体9bは移動しない。第1支持体9aのみが移動することにより、第1支持体9aに連携する調節レンズによる視度調節を行うことができる。
【0052】
視度調節が完了すると、中央転輪5を、仮想的中間軸線Xに沿って更に移動させる。中央転輪5を仮想的中間軸線Xに沿って図2における下方に移動させることにより、歯5iと歯6pとが噛み合うので、中央転輪5が回動不能になる。また、ボール6jが第2環状溝5gから第3環状溝5iへとその没入位置を変えるので、視度調節環4は大きな外力が作用しない限り仮想的中間軸線Xに沿って移動せず、調節した視度が固定される。
【0053】
以上、この発明の一例について説明したが、この発明は前記実施の態様に限定されることはなく、様々の設計変更を行うことができる。
【0054】
この発明における支持体は、双眼鏡における一対の鏡筒内それぞれに存在する接眼光学系と対物光学系との間に設けられる調節レンズを、光軸に沿って前後進可能に支持することができる限り、様々の機械的構造を取り得る。支持体は、一つの部材で形成されていても複数の部材の組合せにより形成されていても良い。この支持体の材質及び寸法は、双眼鏡を用いるフィールド及び状況等に応じて適宜に決定することのできる設計事項である。
【0055】
この発明における中央転輪は、接眼光学系と対物光学系との間に配設される調節レンズを光軸に沿って前後進可能に支持すると共に互いに平行に配置された一対の支持体の軸線に平行であり、かつ前記一対の支持体の中間に位置する仮想的中間軸線を中心にして回転することができ、この回転によって、一方の支持体に結合される内側筒体を回転させることができる限り、様々の構造を有することができる。この中央転輪は、一つの部材で形成されていても複数の部材の組合せにより形成されていても良い。この中央転輪の材質及び寸法は、双眼鏡を用いるフィールド及び状況等に応じて適宜に決定することのできる設計事項である。
【0056】
この発明における内側筒体は、中央転輪の回転により回転することができること、及び外周面に雄ネジを有すること、及び視度調節のための調節レンズに結合される支持体を結合することという条件を満たす限り、様々な構造を採用することができる。この内側筒体は、通常、中央転輪が有する仮想的中間軸線を共有する軸線を有する筒状体を呈する。この内側筒体の材質及び寸法は、双眼鏡を用いるフィールド及び状況等に応じて適宜に決定することのできる設計事項である。
【0057】
この発明における外側筒体は、前記内側筒体の外周面に形成された雄ネジと噛み合う雌ネジを内周面に備えること、視度調節環を回転させると回動可能である一方、前記中央転輪の回転により回転不能であること、及び焦点調節のための調節レンズに結合される他の支持体を結合することという条件を満たす限り、様々な構造を採用することができる。この外側筒体は、通常、中央転輪が有する仮想的中間軸線を共有する軸線を有する筒状体を呈する。この外側筒体の材質及び寸法は、双眼鏡を用いるフィールド及び状況等に応じて適宜に決定することのできる設計事項である。
【0058】
視度調節環は、内側筒体に結合する支持体に取り付けられた調節レンズを仮想的中間軸線に沿って前後進させることが機能を発揮するために、前記外側筒体を回動させることができる一方、中央転輪が回転しているときには外側筒体を回動ないし回転させないように形成される。この視度調節環の材質及び寸法は、双眼鏡を用いるフィールド及び状況等に応じて適宜に決定することのできる設計事項である。
【0059】
中央転輪回転規制部は、中央転輪を回転可能状態及び回転不能状態に規制可能である限り、図2の実施態様に制限されることはなく、適宜の部材を採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】図1はこの発明の双眼鏡の一例を示す説明図である。
【図2】図2はこの発明の双眼鏡の一例における構造を示す一部断面説明図である。
【図3】図3はこの発明の双眼鏡の一例における中央転輪及び視度調節環を示す説明図であり、図3(A)は中央転輪が回転可能でかつ視度調節環が回動不能な状態にある中央転輪及び視度調節環を示す説明図であり、図3(B)は中央転輪及び視度調節環が回動可能な状態にある中央転輪及び視度調節環を示す説明図であり、図3(C)は中央転輪及び視度調節環が回動不能な状態にある中央転輪及び視度調節環を示す説明図である。
【図4】図4は従来の双眼鏡の一例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0061】
1 双眼鏡
2a 一方の鏡筒
2b 他方の鏡筒
3 回動結合部
4 視度調節環
4a 装着円筒部
4b 溝
4c 規制部材
4d 視度調節用係合部材
5 中央転輪
5a 底面
5b 円筒状周側部
5c 円柱状突出基部
5d 被係合部材
5e 装着ピン
5f 太径ヘッド
5g 第1環状溝
5h 第2環状溝
5i 第3環状溝
5j 歯
5k 視度調節用被係合部材
6 筒状基体
6a 円筒状外周部
6b フランジ
6c ボール配設孔
6d 付勢部材
6e ボール
6f 挿入孔
6g 細径部
6h 太径部
6i 第2ボール配設孔
6j ボール
6k 第2付勢部材
6m 装着貫通孔
6n 第2装着貫通孔
6p 歯
7 回転筒体
7a 雄ネジ
7b 係合部材
8 内側筒体
8a 雌ネジ
8b 雄ネジ
8c 円環状フランジ
9a 第1支持体
9b 第2支持体
10 適宜の部材
11 外側筒体
11a 雌ネジ
11b 係合片
11c 第2フランジ
12 中央転輪回転規制部
X 仮想的中間軸線
100 双眼鏡
101 中央転輪
102 視度調節環

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の接眼光学系と対物光学系との間に設けられる調節レンズを光軸に沿って前後進可能に支持するとともに互いに平行に配置された一対の支持体と、
前記一対の支持体の各々の中心軸線に平行に、かつ前記一対の支持体の中間に位置する中心軸線を中心にして回転可能な中央転輪と、
外周面に雄ネジを備えてなると共に前記中央転輪に係合又は脱離することにより、前記中央転輪の回転に応じて回転し又は不動となる回転筒体と、
前記回転筒体の雄ネジに螺合する雌ネジを内周面に有すると共に外周面に雄ネジを備え、一方の支持体を結合する内側筒体と、
前記内側筒体の雄ネジに螺合する雌ネジを内周面に有すると共に他方の支持体を結合し、かつ外周面に係合片を備えた外側筒体と、
前記係合片に係合する規制部材を備え、前記中央転輪と係合脱離可能であり、前記中央転輪に係合しかつ前記中央転輪が前記回転筒体から脱離するときには、前記中央転輪の回転の中心となる前記中心軸線を中心にして回動可能でありかつ前記規制部材及び前記係合片を回動可能にし、前記中央転輪から脱離しかつ前記中央転輪が前記回転筒体に係合するときには、前記規制部材及び前記係合片を回動不能にしつつ前記係合片を前記外側筒体の軸方向に移動可能にする視度調節環と、
前記中央転輪を回転可能又は回転不能のいずれかに規制する中央転輪回転規制部と、
を有することを特徴とする双眼鏡。
【請求項2】
前記中央転輪は、前記中心軸線を中心にして回転可能にかつ有底円筒体状に形成された操作円筒体と、前記操作円筒体における底面の中心部に立設形成されて成る中心軸体とを備えて成り、
前記視度調節環は、前記中心軸体を挿入配置する挿入孔を中心部に備える筒状基体に回動可能に装着された円筒体を備えて成り、
前記中央転輪回転規制部は、前記筒状基体の外周端部に形成された中央転輪用係合部と前記中央転輪に設けられた中央転輪被係合部とを備えて成る前記請求項1に記載の双眼鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−168953(P2009−168953A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−4981(P2008−4981)
【出願日】平成20年1月11日(2008.1.11)
【出願人】(000156396)鎌倉光機株式会社 (14)
【Fターム(参考)】