説明

反射型光変調装置

【課題】光変調層への電界印加効率の低下を抑えつつ高い反射率を実現できる誘電体多層膜を備える反射型光変調装置を提供する。
【解決手段】反射型液晶装置(反射型光変調装置)1は、光Lを透過する導電性材料を含む透明導電膜22と、透明導電膜22に沿って二次元配列された金属製の複数の画素電極16と、複数の画素電極16と透明導電膜22との間に配置され、各画素電極16及び透明導電膜22により形成される電界に応じて光Lを変調する液晶層20と、複数の画素電極16上に形成された誘電体多層膜18とを備える。誘電体多層膜18は、画素電極16に接する第1の層と、第1の層より屈折率が高く第1の層に接する第2の層とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射型光変調装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
反射型光変調装置として、反射型液晶(LCoS(登録商標):Liquid crystal on silicon)装置が知られている。反射型液晶装置は、二次元配列された複数の画素電極と、導電性光透過層と、複数の画素電極及び導電性光透過層の間に配置された液晶層(光変調層)とを備えており、導電性光透過層を介して入射した光を反射しつつ、任意の画素電極と導電性光透過層との間に電界を形成して液晶層に変調作用を生じさせ、所望の光像を得るものである。そして、光の反射率を高めて更に高輝度の光像を得るために、液晶層と複数の画素電極との間には誘電体多層膜が設けられる。
【0003】
例えば非特許文献1,2には、反射型液晶構造を備える液晶ライトバルブ(LCLV:Liquid Crystal Light Valve)が開示されている。非特許文献1に記載された誘電体多層膜は、λ/4(λ:入射光の波長)の光学膜厚を有する複数のSi層及びSiO層が交互に積層されて成る。また、非特許文献2に記載された誘電体多層膜は、λ/4の光学膜厚を有する複数のTiO層及びSiO層が交互に積層されて成る。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】U.Efron et al., “Siliconliquid crystal light valves: status and issues”, Optical Engineering, November,December 1983, Vol.22, No.6, pp.682-686 (1983)
【非特許文献2】A.Jacobson et al., “Areal-time optical data processing device”, Information Display, Vol.12,September 1975, PP.17-22 (1975)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らの知見によれば、従来の反射型液晶装置において誘電体多層膜はガラス基板等の表面に積層されたものが用いられている。そして、その積層数を多くすることにより、99%超といった高い反射率を得ている。例えば、ガラス基板上の誘電体多層膜において反射率99%以上を得るためには、TiO/SiOで13層、HfO/SiOで19層を必要とし、反射率99.8%以上を得るためには、TiO/SiOで17層、HfO/SiOで25層を必要とする。
【0006】
しかしながら、誘電体多層膜は液晶層と画素電極との間に配置されるので、画素電極と導電性光透過層との間に形成された電界は液晶層だけでなく誘電体多層膜にも印加される。誘電体多層膜の積層数が多くなると、誘電体多層膜の厚さ(物理膜厚)が増し、誘電体多層膜に印加される電界の割合が大きくなってしまうので、液晶層への電界印加効率が低下してしまう。
【0007】
本発明は、上記した問題点を鑑みてなされたものであり、光変調層への電界印加効率の低下を抑えつつ高い反射率を実現できる誘電体多層膜を備える反射型光変調装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した課題を解決するために、本発明による反射型光変調装置は、前方より入射した光を反射しつつ、二次元配列された複数の画素毎に光を変調して光像を前方へ出力する反射型光変調装置であって、光を透過する導電性材料を含む導電性光透過層と、導電性光透過層に沿って二次元配列された金属製の複数の画素電極と、複数の画素電極と導電性光透過層との間に配置され、各画素電極及び導電性光透過層により形成される電界に応じて光を変調する光変調層と、複数の画素電極上に形成された誘電体多層膜とを備え、誘電体多層膜は、画素電極に接する第1の層と、第1の層より屈折率が高く第1の層に接する第2の層とを含むことを特徴とする。
【0009】
先に述べたように、従来の一般的な反射型光変調装置においては、ガラス基板上に形成された誘電体多層膜を利用している。これに対し、本発明による反射型光変調装置においては、誘電体多層膜が金属製の複数の画素電極上に形成されている。これにより、金属表面の高い反射率を利用することができる。また、本発明者らは、金属表面に誘電体多層膜を形成する場合、低屈折率層(第1の層)をまず金属表面に形成し、次いで高屈折率層(第2の層)をその上に積層することにより、高屈折率層から積層し始める場合と比較して格段に少ない積層数で十分な反射率が得られることを見出した。従って、上記した反射型光変調装置によれば、誘電体多層膜の物理膜厚を従来より薄くして光変調層への電界印加効率の低下を抑えることができるとともに、十分に高い反射率を実現して光の取り出し効率を高めることができる。
【0010】
また、反射型光変調装置は、第1の層の光学膜厚が、光の波長をλとして(λ/4)±30%の範囲内であることを特徴としてもよい。或いは、反射型光変調装置は、第1の層の光学膜厚が、光の波長をλとして(λ/4)×n(nは奇数)と実質的に等しいことを特徴としてもよい。これらのうち何れかの構成により、所定波長の光に対して高い反射率を好適に実現できる。
【0011】
また、反射型光変調装置は、第1の層の光学膜厚が、第1の層の内部における光の入射角をθ、光の波長をλとして(λ/4cosθ)±30%の範囲内であることを特徴としてもよい。或いは、反射型光変調装置は、第1の層の光学膜厚が、第1の層の内部における光の入射角をθ、光の波長をλとして(λ/4cosθ)×n(nは奇数)と実質的に等しいことを特徴としてもよい。これらのうち何れかの構成により、斜め方向から誘電体多層膜に入射した光に対しても高い反射率を好適に実現できる。
【0012】
また、反射型光変調装置は、誘電体多層膜が、第1の層を含む複数の低屈折率層と、第2の層を含み複数の低屈折率層より屈折率が高い複数の高屈折率層とが交互に積層されて成り、複数の低屈折率層の層数と複数の高屈折率層の層数との和が10層以下であることを特徴としてもよい。先に述べたように、一般的な反射型光変調装置における誘電体多層膜の積層数は13層以上を必要とする。これに対し、上記した反射型光変調装置によれば、10層以下といった少ない積層数でも十分に高い反射率を実現できるので、光変調層への電界印加効率の低下を効果的に抑えることができる。
【0013】
また、反射型光変調装置は、第1の層がSiOを含み、第2の層がTiO、Nb、Ta、及びHfOのうち少なくとも一種類の材料を含むことを特徴としてもよい。これにより、第1の層、及び第1の層より屈折率が高い第2の層を含む誘電体多層膜を好適に構成できる。
【0014】
また、反射型光変調装置は、第1の層が、画素電極に接する下層と、下層と第2の層とに挟まれた上層とを有し、上層がSiOを含み、下層がSiO及びMgFのうち少なくとも一種類の材料を含むことを特徴としてもよい。画素電極の表面には保護膜としてSiO膜或いはMgF膜が形成されている場合があり、この保護膜を第1の層の一部(下層)として利用してもよい。このような構成であっても、上記した反射型光変調装置による効果を好適に得ることができる。
【0015】
また、本発明による反射型光変調装置は、前方より入射した光を反射しつつ、二次元配列された複数の画素毎に光を変調して光像を前方へ出力する反射型光変調装置であって、光を透過する導電性材料を含む導電性光透過層と、導電性光透過層に沿って二次元配列された金属製の複数の画素電極と、複数の画素電極と導電性光透過層との間に配置され、各画素電極及び導電性光透過層により形成される電界に応じて光を変調する光変調層と、複数の画素電極上に形成された誘電体多層膜とを備え、誘電体多層膜は、画素電極に接する第3の層と、第3の層より屈折率が低く第3の層に接する第1の層と、第1の層より屈折率が高く第1の層に接する第2の層とを含み、第3の層の光学膜厚が、光の波長をλとして(λ/2)×n(nは奇数)と実質的に等しいことを特徴とする。
【0016】
このように、高屈折率層(第3の層)が金属表面に形成されている場合であっても、この第3の層の光学膜厚をλ/2×n(nは奇数)と実質的に等しくすることで、反射率への影響を極めて小さくすることができる。従って、第3の層上に低屈折率層(第1の層)から始まる誘電体多層膜を形成することにより、実質的に前述した反射型光変調装置と同様の反射特性を実現することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明による反射型光変調装置によれば、光変調層への電界印加効率の低下を抑えつつ光取り出し効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る反射型光変調装置の一実施形態として、反射型液晶装置の構成を示す平面図である。
【図2】図1に示した反射型液晶装置のII−II線に沿った側面断面図である。
【図3】誘電体多層膜の構成を拡大して示す側面断面図である。
【図4】誘電体多層膜の変形例の構成を示す側面断面図である。
【図5】(a)アルミニウム基板に接する第1の層を低屈折率膜(SiO)とする形態を示す図である。(b)アルミニウム基板に接する第1の層を高屈折率膜(TiO)とする形態を示す図である。
【図6】アルミニウム基板の表面に誘電体多層膜を設けない場合の分光反射率を示すグラフである。
【図7】図5(a)に示した形態において、誘電体多層膜の積層数を2層、4層、6層、及び10層とした各場合における分光反射率を示すグラフである。
【図8】図5(a)に示した形態において、積層数を4層、6層、10層、及び14層とした各場合における分光反射率を示すグラフである。
【図9】図5(b)に示した形態において、誘電体多層膜の積層数を3層、5層、7層、及び9層とした各場合における分光反射率を示すグラフである。
【図10】図5(b)に示した形態において、積層数を5層、9層、15層、及び21層とした各場合における分光反射率を示すグラフである。
【図11】アルミニウム基板の表面にSiO膜が様々な光学膜厚nd(50[nm]、150[nm]、及び250[nm])で設けられた場合の分光反射率特性を示すグラフである。
【図12】(a)保護膜に接する層を低屈折率膜(SiO)とする形態を示す図である。(b)保護膜に接する層を高屈折率膜(TiO)とする形態を示す図である。
【図13】保護膜の光学膜厚を150[nm]とし、図12(a)で示した形態で6層の誘電体多層膜を設けた場合における分光反射率を示すグラフである。
【図14】保護膜の光学膜厚を150[nm]とし、図12(b)で示した形態で5層の誘電体多層膜を設けた場合における分光反射率を示すグラフである。
【図15】図12(a)で示した形態において、保護膜の光学膜厚を50[nm]とし、その上層の光学膜厚を150[nm]とした場合(すなわち、第1の層である低屈折率層の光学膜厚が200[nm]である場合)の分光反射率を示すグラフである。
【図16】図12(b)で示した形態において、保護膜の光学膜厚を50[nm]とした場合(すなわち、第1の層である低屈折率層の光学膜厚が50[nm]である場合)の分光反射率を示すグラフである。
【図17】図12(a)で示した形態において、保護膜の光学膜厚を250[nm]とし、その上層の光学膜厚を150[nm]とした場合(すなわち、第1の層である低屈折率層の光学膜厚が400[nm]である場合)の分光反射率を示すグラフである。
【図18】図12(b)で示した形態において、保護膜の光学膜厚を250[nm]とした場合(すなわち、第1の層である低屈折率層の光学膜厚が250[nm]である場合)の分光反射率を示すグラフである。
【図19】(a)保護膜(MgF)に接する層を低屈折率膜(SiO)とする形態を示す図である。(b)保護膜に接する層を高屈折率膜(TiO)とする形態を示す図である。
【図20】誘電体多層膜に対して斜め方向から光Lが入射する様子を示す図である。
【図21】P偏光成分およびS偏光成分に対する誘電体多層膜の反射率の例を示すグラフであり、アルミニウム基板上に第1の層として低屈折率層(SiO)を配置した場合を示している。
【図22】P偏光成分およびS偏光成分に対する誘電体多層膜の反射率の例を示すグラフであり、アルミニウム基板上に第1の層として高屈折率層(TiO)を配置した場合を示している。
【図23】Nb/SiO誘電体多層膜における分光反射特性を示すグラフであり、アルミニウム基板上に第1の層として低屈折率層(SiO、光学膜厚150[nm])を配置した場合を示している。
【図24】Nb/SiO誘電体多層膜における分光反射特性を示すグラフであり、アルミニウム基板上に第1の層として高屈折率層(Nb、光学膜厚150[nm])を配置した場合を示している。
【図25】アルミニウムミラーの分光反射率の測定結果を示すグラフである。
【図26】実線は、アルミニウムミラー上に形成した誘電体多層膜の反射率を測定した結果を示すグラフであり、アルミニウムミラーと接する第1の層として低屈折率層(SiO)を配置した場合を示している。破線は、この誘電体多層膜の反射率の計算結果を示すグラフである。
【図27】実線は、アルミニウムミラー上に形成した誘電体多層膜の反射率を測定した結果を示すグラフであり、アルミニウムミラーと接する第1の層として高屈折率層(TiO)を配置した場合を示している。破線は、この誘電体多層膜の反射率の計算結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照しながら本発明による反射型光変調装置の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0020】
(実施の形態)
図1は、本発明に係る反射型光変調装置の一実施形態として、反射型液晶装置の構成を示す平面図である。また、図2は、図1に示した反射型液晶装置のII−II線に沿った側面断面図である。なお、図1及び図2には、説明を容易にする為にXYZ直交座標系が示されている。本実施形態の反射型液晶装置1は、図1に示すように互いに直交する2軸(X軸およびY軸)に沿って二次元配列された複数の画素4を備えている。反射型液晶装置1は、前方(Z軸正方向)より入射した光を反射しつつ、各画素4毎に入射光を変調して任意の光像を前方へ出力する装置である。
【0021】
図2を参照すると、反射型液晶装置1は、シリコン基板12、駆動回路層14、複数の画素電極16、誘電体多層膜18、液晶層20、透明導電膜22、及び透明基板24を備えている。
【0022】
透明基板24は、XY平面に沿った表面24aを有しており、該表面24aは反射型液晶装置1の表面10aを構成している。透明基板24は、例えばガラスなどの光透過性材料を主に含んでおり、反射型液晶装置1の表面10aから入射した所定波長の光Lを、反射型液晶装置1の内部へ透過する。また、透明導電膜22は、本実施形態における導電性光透過層である。透明導電膜22は、透明基板24の裏面24b上に形成されており、光Lを透過する導電性材料(例えばITO)を主に含んで構成されている。
【0023】
複数の画素電極16は、図1に示した複数の画素4の配列に従って二次元状に配列されており、透明導電膜22に沿ってシリコン基板12上に配列されている。各画素電極16は、例えばアルミニウムといった金属材料からなり、それらの表面16aは平坦且つ滑らかに加工されている。複数の画素電極16は、駆動回路層14に設けられたアクティブ・マトリクス回路によって駆動される。アクティブ・マトリクス回路は、複数の画素電極16とシリコン基板12との間に設けられ、反射型液晶装置1から出力しようとする光像に応じて各画素電極16への印加電圧を制御する。このようなアクティブ・マトリクス回路は、例えばX軸方向に並んだ各画素列の印加電圧を制御する第1のドライバ回路と、Y軸方向に並んだ各画素列の印加電圧を制御する第2のドライバ回路とを有しており、双方のドライバ回路によって指定された画素4の画素電極16に所定電圧が印加されるしくみになっている。
【0024】
液晶層20は、本実施形態における光変調層である。液晶層20は、複数の画素電極16と透明導電膜22との間に配置されており、各画素電極16と透明導電膜22とにより形成される電界に応じて光Lを変調する。すなわち、アクティブ・マトリクス回路によって或る画素電極16に電圧が印加されると、透明導電膜22と該画素電極16との間に電界が形成される。この電界は、誘電体多層膜18及び液晶層20のそれぞれに対し、各々の厚さに応じた割合で印加される。そして、液晶層20に印加された電界の大きさに応じて液晶分子20aの配列方向が変化する。光Lが透明基板24及び透明導電膜22を透過して液晶層20に入射すると、この光Lは液晶層20を通過する間に液晶分子20aによって変調され、誘電体多層膜18において反射した後、再び液晶層20により変調されてから取り出される。
【0025】
誘電体多層膜18は、複数の画素電極16と液晶層20との間に配置されている。特に、本実施形態の誘電体多層膜18は、複数の画素電極16の表面16a上に直接形成されている。誘電体多層膜18は、画素電極16の表面16aが有する光反射作用と協働して、光Lを例えば99%超といった高い反射率で反射する。ここで、図3は、誘電体多層膜18の構成を拡大して示す側面断面図である。図3に示すように、誘電体多層膜18は、画素電極16に接する層18a(第1の層)を含む複数の低屈折率層18a〜18dと、低屈折率層18aより屈折率が高く低屈折率層18aに接する層18e(第2の層)を含む複数の高屈折率層18e〜18hとを含んで構成されている。低屈折率層18a〜18d及び高屈折率層18e〜18hは、画素電極16上において交互に積層されている。低屈折率層18a〜18dの構成材料としては例えばSiO、MgFが例示され、特にSiOが主に含まれることが好ましい。また、高屈折率層18e〜18hの構成材料としては例えばTiO、Nb、Ta、HfO、ZrOなどが例示され、これらのうち少なくとも一種類の材料が含まれることが好ましい。なお、本実施形態では誘電体多層膜18の積層数が8層(低屈折率層18a〜18d及び高屈折率層18e〜18hが各4層)の場合を示しているが、誘電体多層膜18の積層数は2層以上(すなわち低屈折率層及び高屈折率層が各1層以上)、10層以下(すなわち低屈折率層及び高屈折率層が各5層以下)であることが好ましい。また、誘電体多層膜の積層数は偶数に限定されることなく、奇数であってもよい。この場合、誘電体多層膜18のうち最も液晶層20側に位置する誘電体膜は、低屈折率層となる。以下の実施形態においても、誘電体多層膜18の積層数は偶数又は奇数であるを問わないが、最も液晶層20側に位置する誘電体膜は、高屈折率層とするのが好ましい。
【0026】
また、低屈折率層18aの光学膜厚(=n×d、nは低屈折率層18aの屈折率、dは低屈折率層18aの物理膜厚)は、光Lの波長をλとして(λ/4)±30%の範囲内に設定されることが好ましい。或いは、低屈折率層18aの光学膜厚は、(λ/4)×n(nは奇数)と実質的に等しくなるように設定されてもよい。また、誘電体多層膜18に対して光Lが斜め方向から入射する場合には、低屈折率層18aの光学膜厚は、低屈折率層18aの内部における光Lの入射角(すなわち、低屈折率層18a中を光Lが進む方向と層厚方向との相対角度)をθとして(λ/4cosθ)±30%の範囲内に設定されることが好ましい。或いは、低屈折率層18aの光学膜厚は(λ/4cosθ)×n(nは奇数)と実質的に等しくなるように設定されてもよい。なお、低屈折率層18aの光学膜厚の好ましい値については、後述する実施例において詳細に述べる。
【0027】
以上に説明した本実施形態による反射型液晶装置1は、次の効果を有する。反射型液晶装置1においては、誘電体多層膜18が金属製の複数の画素電極16上に形成されているので、金属表面の高い反射率を利用して光Lに対する反射率を高めることができる。また、後述する実施例において示すように、金属表面に誘電体多層膜18を形成する場合、低屈折率層(第1の層)18aをまず金属表面に形成し、次いで高屈折率層(第2の層)18eをその上に積層することにより、高屈折率層から積層し始める場合と比較して格段に少ない積層数で十分な反射率が得られる。従って、本実施形態の反射型液晶装置1によれば、誘電体多層膜18の物理膜厚を従来より薄くして液晶層20への電界印加効率の低下を抑えることができるとともに、十分に高い反射率を実現して光の取り出し効率を高めることができる。
【0028】
(変形例)
図4は、上記実施形態の変形例として、誘電体多層膜28の構成を示す側面断面図である。上記実施形態に係る反射型液晶装置1は、図3に示した誘電体多層膜18に代えて、図4に示す誘電体多層膜28を備えても良い。
【0029】
図4を参照すると、誘電体多層膜28は、画素電極16に接する層28a(第1の層)を含む複数の低屈折率層28a〜28dと、低屈折率層28aより屈折率が高く低屈折率層28aに接する層28e(第2の層)を含む複数の高屈折率層28e〜28hとが交互に積層されて成る。なお、低屈折率層28aを除く低屈折率層28b〜28d、及び高屈折率層28e〜28hの各構成材料は、図3に示した低屈折率層18a〜18d及び高屈折率層18e〜18hと同様である。
【0030】
本変形例の低屈折率層28aは、画素電極16に接する下層281と、下層281と高屈折率層28eとに挟まれた上層282とを有している。下層281及び上層282は同一の材料により構成されていてもよく、異なる材料により構成されていてもよい。下層281の構成材料としては例えばSiO、MgFが例示され、これらのうち少なくとも一種類の材料が含まれる。上層282の構成材料は図3に示した低屈折率層18a〜18dと同様であり、特にSiOが主に含まれることが好ましい。
【0031】
本変形例の誘電体多層膜28のような構成は、例えば画素電極16の表面16a上に絶縁性の保護膜が形成されている場合に適用されるとよい。すなわち、アルミニウムなどの金属からなる部品(本実施例では画素電極16)の表面には、保護膜が施されている場合がある。このような保護膜は、殆どの場合において、低屈折率物質であるSiOまたはMgFからなる。従って、誘電体多層膜28を製造する際にこのような保護膜を画素電極16の表面16aに残して下層281とし、その上にSiO等の低屈折率物質を成膜して上層282とすることにより、本変形例に係る低屈折率層28aを好適に得ることができる。このように、画素電極16の表面16aに形成された保護膜を低屈折率層28aの一部(下層281)として利用してもよい。このような構成であっても、上記実施形態の反射型液晶装置1と同等の効果を好適に得ることができる。
【0032】
なお、本変形例においても、誘電体多層膜28の積層数は、低屈折率層28aを一層と数えて2層以上10層以下であることが好ましい。また、低屈折率層28aの光学膜厚(すなわち下層281の光学膜厚と上層282の光学膜厚との和)は、光Lの波長をλとして(λ/4)±30%の範囲内に設定されることが好ましく、(λ/4)×n(nは奇数)と実質的に等しくなるように設定されてもよい。誘電体多層膜28に対して光Lが斜め方向から入射する場合、低屈折率層28aの光学膜厚は、低屈折率層28aにおける光Lの入射角をθとして(λ/4cosθ)±30%の範囲内に設定されることが好ましく、(λ/4cosθ)×n(nは奇数)と実質的に等しくなるように設定されてもよい。
【実施例1】
【0033】
<アルミニウム上の誘電体多層膜の反射率>
アルミニウム基板上に誘電体多層膜を形成した場合の分光反射率を調べた。誘電体多層膜の構成材料は、低屈折率層をSiOとし、高屈折率層をTiOとした。そして、入射光の波長をλ=600[nm]と想定し、各層の光学膜厚を150[nm](すなわちλ/4)とした。誘電体多層膜の積層形態としては、図5(a)に示すようにアルミニウム基板30に接する第1の層32を低屈折率膜(SiO)とする形態A、及び図5(b)に示すようにアルミニウム基板30に接する第1の層42を高屈折率膜(TiO)とする形態Bがある。
【0034】
図6は、アルミニウム基板の表面に誘電体多層膜を設けない場合の分光反射率を示すグラフである。図7は、図5(a)に示した形態Aにおいて、誘電体多層膜の積層数を2層、4層、6層、及び10層とした各場合における分光反射率を示すグラフである。図8は、形態Aにおいて、積層数を4層、6層、10層、及び14層とした各場合における分光反射率を示すグラフである。図9は、図5(b)に示した形態Bにおいて、誘電体多層膜の積層数を3層、5層、7層、及び9層とした各場合における分光反射率を示すグラフである。図10は、形態Bにおいて、積層数を5層、9層、15層、及び21層とした各場合における分光反射率を示すグラフである。
【0035】
図5(a)に示した形態Aにおいては、図7に示すように、積層数を2層(すなわちSiO低屈折率層とTiO高屈折率層とを各1層ずつ)とした場合における波長600[nm]での反射率が95%を超えており、アルミニウム基板(図6参照)の反射率より大きいことがわかる。そして、図7及び図8に示すように、積層数を6層(SiO低屈折率層とTiO高屈折率層とを各3層ずつ)とした場合に波長600[nm]での反射率は99%を超え、積層数を10層(SiO低屈折率層とTiO高屈折率層とを各5層ずつ)とした場合に99.8%となった。
【0036】
これに対し、図5(b)に示した形態Bにおいては、図9及び図10に示すように、入射光の波長600[nm]の近傍の波長において反射率が低下する現象が現れた。この反射率の低下度合いは、積層数が21層以上の場合には軽減されるが、10層未満といった少ない積層数の場合には、所望の波長での反射率が十分に得られないこととなる。
【0037】
また、下の表1は、形態A,Bそれぞれにおける、誘電体多層膜の積層数、反射率、及び厚さ(物理膜厚)を纏めた表である。なお、表1中における太字は、反射型液晶装置において好ましい数値であることを示している。表1に示されるように、形態Bにおいて積層数を11層以上とすれば反射率が99%以上となり、15層以上とすれば反射率が99.8%以上となる。このように、形態Bであっても積層数を多くすれば反射型液晶装置において十分な反射率が得られることがわかる。しかし、積層数を11層以上とすると厚さが0.9[μm]を超え、15層以上とすると厚さが1.2[μm]を超えてしまう。このように誘電体多層膜が厚くなると、前述したように液晶層(光変調層)への電界印加効率が低下し、好ましくない。これに対し、形態Aにおいては積層数が僅か6層の場合でも反射率が99%以上となり、10層とした時点で反射率が99.8%以上となる。これらの場合、積層数6層では厚さが約0.5[μm]、10層では厚さが約0.8[μm]となり、形態Bと比較して誘電体多層膜を極めて薄く構成できることがわかる。
【表1】

【0038】
以上のことから、アルミニウム基板上に誘電体多層膜を形成すれば、10層以下といった少ない積層数で高い反射率を実現できることが示された。但し、好ましい反射特性により所定波長の光に対する反射率を高めるためには、形態Aのように先ず第1の層32として低屈折率層をアルミニウム基板30の表面に形成し、次いで第2の層34として高屈折率層をその上に積層するとよい。これにより、形態Bのように高屈折率層から積層し始める場合と比較して、格段に少ない積層数で十分な反射率が得られるので、光変調層への電界印加効率の低下を効果的に抑えることができる。
【実施例2】
【0039】
<アルミニウムの表面に保護膜が施されている場合>
アルミニウム表面に保護膜が施されている場合について述べる。保護膜の構成材料の多くは低屈折率物質であるSiOやMgFである。図11は、アルミニウム基板の表面にSiO膜が様々な光学膜厚nd(50[nm]、150[nm]、及び250[nm])で設けられた場合の分光反射率特性を示すグラフである。図11を参照すると、光学膜厚ndの4倍となる波長では、アルミニウム基板上にSiO膜を設けた場合の反射率は、SiO膜による反射低減作用により、アルミニウム表面の反射率と比較して減少している。一方、光学膜厚ndの2倍となる波長ではSiO膜は反射率には殆ど影響しておらず、アルミニウム基板上にSiO膜を設けた場合の反射率はアルミニウム表面の反射率と等しくなる。例えば、図11において、光学膜厚ndが250[nm]であるときの波長500[nm]における反射率は、アルミニウム表面の反射率と等しくなっている。従って、保護膜の光学膜厚は、反射率の低下を防ぐため使用波長の1/2とされることが一般的である。
【0040】
ここで、アルミニウム基板の保護膜の上に誘電体多層膜を形成する場合を考える。この場合、保護膜を誘電体多層膜の構成の一部として考慮するとよい。この場合における誘電体多層膜の積層形態としては、図12(a)に示すように保護膜36に接する層38を低屈折率膜(SiO)とする形態C、及び図12(b)に示すように保護膜36に接する層44を高屈折率膜(TiO)とする形態Dがある。形態Cにおいては保護膜36及び層38によってアルミニウム基板に接する低屈折率層(第1の層)が構成され、形態Dにおいては保護膜36のみによってアルミニウム基板に接する低屈折率層(第1の層)が構成される。
【0041】
図13は、保護膜36の光学膜厚を150[nm]とし、形態Cで6層の誘電体多層膜を設けた場合における分光反射率を示すグラフである。また、図14は、保護膜36の光学膜厚を150[nm]とし、形態Dで5層の誘電体多層膜を設けた場合における分光反射率を示すグラフである。なお、図13及び図14においては、入射光の波長を600[nm]と想定し、誘電体多層膜を構成する各層の光学膜厚を150[nm]とした。
【0042】
本実施例のようにアルミニウム基板30上に光学膜厚λ/4の保護膜36が設けられている場合、図13,図14に示すように、高屈折率膜(TiO)から積層し始めた形態D(図12(b)参照)のほうが、低屈折率膜(SiO)から積層し始めた形態C(図12(a)参照)よりも分光反射特性が良好となり、入射光の波長λ=600[nm]における反射率が高くなった。
【0043】
形態Cの場合、保護膜36及び層38によって低屈折率層(第1の層)が構成されるが、保護膜36及び層38の光学膜厚がそれぞれλ/4であることから、第1の層の光学膜厚がλ/2(300[nm])となってしまい、保護膜36及び層38は反射率には殆ど影響しない。従って、形態Cの分光反射特性は、アルミニウム基板に接する第1の層が高屈折率膜である形態B(図5(b)参照)と実質的に同様となり、図13のような特性となったものと考えられる。
【0044】
図15は、本実施例の形態Cにおいて、保護膜36の光学膜厚を50[nm]とし、層38の光学膜厚を150[nm]とした場合(すなわち、第1の層である低屈折率層の光学膜厚が200[nm]である場合)の分光反射率を示すグラフである。また、図16は、本実施例の形態Dにおいて、保護膜36の光学膜厚を50[nm]とした場合(すなわち、第1の層である低屈折率層の光学膜厚が50[nm]である場合)の分光反射率を示すグラフである。また、図17は、形態Cにおいて、保護膜36の光学膜厚を250[nm]とし、層38の光学膜厚を150[nm]とした場合(すなわち、第1の層である低屈折率層の光学膜厚が400[nm]である場合)の分光反射率を示すグラフである。また、図18は、形態Dにおいて、保護膜36の光学膜厚を250[nm]とした場合(すなわち、第1の層である低屈折率層の光学膜厚が250[nm]である場合)の分光反射率を示すグラフである。
【0045】
また、次の表2は、第1の層である低屈折率層の光学膜厚、λ/4または3λ/4(λ=600[nm])に対する光学膜厚のずれ、波長λでの反射率、及び反射型光変調装置に採用する際の反射率の適否を示す表である。なお、この表2においては、反射率99%以上を好適(○)と判定した。
【表2】

【0046】
図13〜図18及び表2に示されるように、第1の層である低屈折率層の光学膜厚がλ/4のとき(本実施例では150[nm])、または3λ/4のとき(本実施例では450[nm])に、最も大きな反射率が得られることがわかる。また、低屈折率層の光学膜厚がλ/4から僅かにずれていても、反射型光変調装置において十分な反射率が得られることがわかる。
【0047】
ここで表3〜表5は、入射光の波長λが1550[nm]、1200[nm]、1000[nm]、800[nm]、600[nm]、及び400[nm]の各場合における、第1の層である低屈折率層の光学膜厚、λ/4に対する光学膜厚のずれ、及び波長λでの反射率を示す表である。なお、表3〜表5中における太字は、反射型液晶装置において好ましい数値であることを示している。
【表3】


【表4】


【表5】

【0048】
低屈折率層及びアルミニウム基板表面の屈折率には波長分散が存在するので、表3〜表5に示したように、反射率の値は各波長毎に異なる値を示す。しかし、何れの波長においても、低屈折率層(第1の層)の光学膜厚がλ/4に対して±30%の範囲内であれば、反射型液晶装置において十分な反射率が得られることがわかる。
【0049】
次に、保護膜がMgFからなる場合について調べた結果を示す。この場合、図19(a)に示すように保護膜46(MgF)に接する層48を低屈折率膜(SiO)とする形態E、及び図19(b)に示すように保護膜46に接する層50を高屈折率膜(TiO)とする形態Fがある。形態Eにおいては保護膜46及び層48によってアルミニウム基板に接する低屈折率層(第1の層)が構成され、形態Fにおいては保護膜46のみによってアルミニウム基板に接する低屈折率層(第1の層)が構成される。表6は、保護膜46及び層48の光学膜厚を様々に設定した場合における、第1の層である低屈折率層の光学膜厚、λ/4または3λ/4(λ=600[nm])に対する光学膜厚のずれ、波長λでの反射率、及び反射型光変調装置に採用する際の反射率の適否を示している。なお、この表6においても、反射率99%以上を好適(○)と判定した。
【表6】

【0050】
表6に示すように、保護膜46(MgF)と層48(SiO)とを一つの低屈折率層(第1の層)として評価すると、前述した表2とほぼ同様の結果が得られた。また、600[nm]以外の波長をλとして設計した場合でも、保護膜46(MgF)及び層48(SiO)の光学膜厚の和がλ/4に対して±30%の範囲内であれば、反射型液晶装置にとって十分な反射率が得られた。
【0051】
すなわち、本実施例の結果によれば、アルミニウム基板に接する低屈折率層(第1の層)に保護膜を含め、この第1の層の光学膜厚がλ/4×n(nは奇数)と実質的に等しければ、反射型光変調装置にとって十分な反射率が得られることが示された。また、第1の層の光学膜厚がλ/4に対して±30%の範囲内であっても、反射型光変調装置にとって十分な反射率が得られることが示された。
【0052】
なお、保護膜の構成材料としてはSiも考えられる。Siは、その屈折率が2.0〜2.1であり、誘電体多層膜においては高屈折率物質に分類される。これまで述べてきたようにアルミニウム基板の直上には低屈折率層が配置されることが好ましいが、Siといった高屈折率の保護膜が既に設けられている場合には、保護膜の上に先ず高屈折率層を形成し、この高屈折率層および保護膜からなる層(第3の層)の光学膜厚をλ/2×n(nは奇数)と実質的に等しくすることで、反射率への影響を極めて小さくすることができる。従って、この高屈折率の第3の層上に低屈折率層(第1の層)から始まる誘電体多層膜を形成することにより、実質的に形態A(図5(a)参照)と同様の反射特性を実現することができる。
【実施例3】
【0053】
<誘電体多層膜に対して光が斜め方向から入射する場合>
次に、誘電体多層膜への光の入射角による反射率への影響について説明する。或る層へ入射角θで入射する光が当該層を進む光学的距離は、当該層の厚さ方向の光学膜厚をcosθで除することにより求められる。また、屈折率が異なる媒質同士の界面における各媒質の屈折率n及びnと光の入射角θ及び屈折角θとの間には、次の数式(1)(スネルの法則)が成立する。
【数1】

【0054】
図20に示すように、誘電体多層膜52の表面に接する媒質の屈折率をn、誘電体多層膜52の表面52aへの光Lの入射角をθ、基板の屈折率をnsub、基板への光Lの入射角をθsubとすると、誘電体多層膜52内の表面からi番目の層の屈折率nとその入射角(屈折角)θとの関係は、上述したスネルの法則を適用して、次の数式(2)
【数2】


と表すことができる。従って、式(2)により、誘電体多層膜52内の各層内における光の進行方向の傾きを求めることができる。
【0055】
以上のことから、斜入射用の誘電体多層膜を設計する場合には、入射角ゼロの場合の光学膜厚をcosθで除した値を新たに光学膜厚とするとよい。従って、前述した実施例2の結果に適用すると、アルミニウム基板に接する低屈折率層(第1の層)の光学膜厚は、(λ/4cosθ)×n(nは奇数)と実質的に等しいことが好ましく、または(λ/4cosθ)±30%の範囲内であることが好ましい。そして、このθは、次の数式(3)によって求められる。
【数3】

【0056】
具体的な数値例を示す。例えば、TiO高屈折率層とSiO低屈折率層とが交互に積層された誘電体多層膜に入射角45°で光が入射すると、TiO高屈折率層内の入射角(屈折角)θTiO2は、次の数式(4)に示す値となる。なお、数式(4)においては、TiOの屈折率nTiO2を2.27としている。また、誘電体多層膜の表面に接する媒質を大気(n=1)としている。
【数4】

【0057】
同様に、SiO低屈折率層内の入射角(屈折角)θSiO2は、次の数式(5)に示す値となる。数式(5)においては、SiOの屈折率nSiO2を1.46としている。
【数5】

【0058】
従って、TiO高屈折率層及びSiO低屈折率層の各光学膜厚にそれぞれcos(18.1°)、cos(29.0°)を乗じた結果が150[nm]となるようにすれば、波長λ=600[nm]における45°入射用の誘電体多層膜を好適に実現できる。すなわち、TiO高屈折率層の光学膜厚ndを、
【数6】


SiO低屈折率層の光学膜厚ndを、
【数7】


とするとよい。このように、斜め方向からの入射に対応させる場合についても、光学膜厚nd=λ/4を基準として、入射角に応じて各層の光学膜厚を補正すれば、斜入射用の誘電体多層膜を好適に実現できる。
【0059】
なお、斜入射の場合、光のS偏光成分およびP偏光成分に対する屈折率n及びnは、層内の屈折率をn、層内の入射角(屈折角)をθとして、
【数8】


となる。このように、各偏光成分によって層内における屈折率が異なるので、誘電体多層膜による反射率も異なる。図21及び22は、P偏光成分およびS偏光成分に対する誘電体多層膜の反射率の例を示すグラフである。なお、図21はアルミニウム基板上に第1の層として低屈折率層(SiO)を配置した場合(図5(a)参照)を示しており、図22はアルミニウム基板上に第1の層として高屈折率層(TiO)を配置した場合(図5(b)参照)を示している。
【実施例4】
【0060】
<高屈折率層に様々な材料を用いた場合>
高屈折率層の好適な構成材料としては、TiOの他に、Nb、Ta、HfO、ZrOなどがある。屈折率の値がそれぞれ異なるため誘電体多層膜の反射率の値も異なってくるが、いずれの材料を用いてもTiOを用いた場合と同様の傾向がある。図23及び図24は、Nb/SiO誘電体多層膜における分光反射特性を示すグラフである。図23はアルミニウム基板上に第1の層として低屈折率層(SiO、光学膜厚150[nm])を配置した場合を示しており、図24はアルミニウム基板上に第1の層として高屈折率層(Nb、光学膜厚150[nm])を配置した場合を示している。これらの図に示すように、高屈折率層の構成材料をNbとした場合でも、低屈折率層(第1の層)をまず金属表面に形成し、次いで高屈折率層(第2の層)をその上に積層することにより、高屈折率層から積層し始める場合と比較して格段に少ない積層数で十分な反射率が得られることがわかる。
【実施例5】
【0061】
<実験による実証>
市販の金属アルミニウムミラー上に、TiO/SiO交互多層膜を真空蒸着法により成膜した。市販のアルミニウムミラーには、保護膜として光学膜厚280[nm]のMgF膜が形成されている。図25は、このアルミニウムミラーの分光反射率の測定結果を示すグラフである。なお、図25には、比較のため、保護膜のないアルミニウム表面の反射率の計算値も破線で示されている。
【0062】
そして、このアルミニウムミラーの表面に誘電体多層膜を形成した。積層の形態としては、アルミニウムミラーに接する第1の層として低屈折率層(SiO、光学膜厚150[nm])を形成し、その上に高屈折率層(TiO、光学膜厚150[nm])及び低屈折率層(SiO、光学膜厚150[nm])を交互に積層し、積層数を4層とした。図26に示す実線は、この誘電体多層膜の反射率を測定した結果を示すグラフである。また、図26に示す破線は、この誘電体多層膜の反射率の計算結果を示すグラフである。図26に示すように、反射率の実測値と計算値とがほぼ一致する結果となった。
【0063】
また、比較例として、アルミニウムミラーに接する第1の層として高屈折率層(TiO、光学膜厚150[nm])を形成し、その上に低屈折率層(SiO、光学膜厚150[nm])及び高屈折率層(TiO、光学膜厚150[nm])を交互に積層し、積層数を5層とした。図27に示す実線は、この誘電体多層膜の反射率を測定した結果を示すグラフである。また、図27に示す破線は、この誘電体多層膜の反射率の計算結果を示すグラフである。図27に示すように、こちらの形態においても反射率の実測値と計算値とがほぼ一致する結果となった。
【0064】
本発明による反射型光変調装置は、上記した実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態では誘電体多層膜の低屈折率層の構成材料としてSiOおよびMgFを例示したが、低屈折率層の構成材料は、屈折率が1.35〜1.75、より好ましくは1.35〜1.50の誘電体であれば他の材料であってもよい。また、上記実施形態では誘電体多層膜の高屈折率層の構成材料としてTiO、Nb、Ta、及びHfOを例示したが、高屈折率層の構成材料は、屈折率が1.75〜2.50、より好ましくは1.90〜2.50の誘電体であれば他の材料であってもよい。
【符号の説明】
【0065】
1…反射型液晶装置、4…画素、12…シリコン基板、14…駆動回路層、16…画素電極、18,28,52…誘電体多層膜、18a〜18d,28a〜28d…低屈折率層、18e〜18h,28e〜28h…高屈折率層、20…液晶層、22…透明導電膜、24…透明基板、30…アルミニウム基板、36,46…保護膜、281…下層、282…上層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前方より入射した光を反射しつつ、二次元配列された複数の画素毎に前記光を変調して光像を前方へ出力する反射型光変調装置であって、
前記光を透過する導電性材料を含む導電性光透過層と、
前記導電性光透過層に沿って二次元配列された金属製の複数の画素電極と、
前記複数の画素電極と前記導電性光透過層との間に配置され、各画素電極及び導電性光透過層により形成される電界に応じて前記光を変調する光変調層と、
前記複数の画素電極上に形成された誘電体多層膜と
を備え、
前記誘電体多層膜は、
前記画素電極に接する第3の層と、
前記第3の層より屈折率が低く前記第3の層に接する第1の層と、
前記第1の層より屈折率が高く前記第1の層に接する第2の層と
を含み、
前記第3の層の光学膜厚が、前記光の波長をλとして(λ/2)×n(nは奇数)と実質的に等しいことを特徴とする、反射型光変調装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公開番号】特開2012−150510(P2012−150510A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−87635(P2012−87635)
【出願日】平成24年4月6日(2012.4.6)
【分割の表示】特願2007−94634(P2007−94634)の分割
【原出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、ナノテクノロジープログラム/三次元光デバイス高効率製造技術、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】