説明

反射型液晶表示素子および該反射型液晶表示素子への画像書き込み方法、並びにその表示画像の消去方法

【課題】層表示画像を消去するに際し、消去のための書き込み装置が不要で、かつ低いエネルギーで消去することが可能な反射型液晶表示素子および該反射型液晶表示素子への画像書き込み方法、並びにその表示画像の消去方法を提供すること。
【解決手段】少なくとも、含まれる液晶の状態変化により光を透過または反射する表示画像を形成し得る表示層7と、表示層7の表示面側と反対側に接触してまたは他の層を介して配され、光の反射と吸収とが切り替え可能な光反射吸収層9と、を含むことを特徴とする反射型液晶表示素子1、および反射型液晶表示素子1への画像書き込み方法、並びにその表示画像の消去方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、書き込みおよび消去が可能な反射型液晶表示素子および該反射型液晶表示素子への画像書き込み方法、並びにその表示画像の消去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
利便性の高い各種リライタブルマーキング技術の研究が為されているが、その1つの方向性として、コレステリック液晶を用いた表示素子は、無電源で表示を保持できるメモリー性を有すること、偏光板を使用しないため明るい表示が得られること、カラーフィルターを用いずにカラー表示が可能なことなどの特長を有することから近年注目を集めている。
【0003】
コレステリック液晶(カイラルネマチック液晶)が示すプレーナ相は、螺旋軸に平行に入射した光を右旋光と左旋光に分け、螺旋の捩れ方向に一致する円偏光成分をブラッグ反射し、残りの光を透過させる選択反射現象を起こす。反射光の中心波長λおよび反射波長幅Δλは、螺旋ピッチをp、螺旋軸に直交する平面内の平均屈折率をn、複屈折率をΔnとすると、それぞれ、λ=n・p、Δλ=Δn・pで表され、プレーナ相のコレステリック液晶層による反射光は、螺旋ピッチに依存した鮮やかな色を呈する。
【0004】
正の誘電率異方性を有するコレステリック液晶は、図7(A)に示すように、螺旋軸がセル表面に垂直になり、入射光に対して上記の選択反射現象を起こすプレーナ相、図7(B)に示すように、螺旋軸がほぼセル表面に平行になり、入射光を少し前方散乱させながら透過させるフォーカルコニック相、および図7(C)に示すように、螺旋構造がほどけて液晶ダイレクタが電界方向を向き、入射光をほぼ完全に透過させるホメオトロピック相、の3つの状態を示す。
【0005】
上記の3つの状態のうち、プレーナ相とフォーカルコニック相は、無電界で双安定に存在することができる。したがって、コレステリック液晶の相状態は、液晶層に印加される電界強度に対して一義的に決まらず、プレーナ相が初期状態の場合には、電界強度の増加に伴って、プレーナ相、フォーカルコニック相、ホメオトロピック相の順に変化し、フォーカルコニック相が初期状態の場合には、電界強度の増加に伴って、フォーカルコニック相、ホメオトロピック相の順に変化する。
【0006】
一方、液晶層に印加した電界強度を急激にゼロにした場合には、プレーナ相とフォーカルコニック相はそのままの状態を維持し、ホメオトロピック相はプレーナ相に変化する。
したがって、パルス信号を印加した直後のコレステリック液晶層は、図8に示すようなスイッチング挙動を示し、印加されたパルス信号の電圧が、Vfh以上のときには、ホメオトロピック相からプレーナ相に変化した選択反射状態となり、VpfとVfhの間のときには、フォーカルコニック相による透過状態となり、Vpf以下のときには、パルス信号印加前の状態を継続した状態、すなわちプレーナ相による選択反射状態またはフォーカルコニック相による透過状態となる。
【0007】
図8中、縦軸は正規化光反射率であり、最大光反射率を100、最小光反射率を0として、光反射率を正規化している。また、プレーナ相、フォーカルコニック相およびホメオトロピック相の各状態間には、遷移領域が存在するため、正規化光反射率が50以上の場合を選択反射状態、正規化光反射率が50未満の場合を透過状態と定義し、プレーナ相とフォーカルコニック相の相変化のしきい値電圧をVpfとし、フォーカルコニック相とホメオトロピック相の相変化のしきい値電圧をVfhとする。
【0008】
コレステリック液晶表示素子は、一対の表示基板間に液晶を連続相として封入する構造のほかに、高分子バインダ中にコレステリック液晶をドロップ状に分散したPDLC(Polymer Dispersed Liquid Crystal)構造や、高分子バインダ中にマイクロカプセル化されたコレステリック液晶を分散したPDMLC(Polymer Dispersed Microencapsulated Liquid Crystal)構造にすることができる(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0009】
PDLC構造やPDMLC構造を用いると、液晶の流動性が抑えられるため曲げや圧力に対する画像の乱れが小さくなり、フレキシブルな媒体を実現できる。また、複数のコレステリック液晶層を直接積層してカラー表示を行ったり、光導電層と積層して光信号で画像をアドレスする表示素子とすることもできる。さらに、表示層を厚膜印刷技術を用いて形成することが可能となるため、製造方法が簡略化されて低コストになるという利点もある。
【0010】
従来より、当該技術を利用した表示素子が多数提案されている(例えば、特許文献4参照)。
当該技術による光書き込み型(光アドレス型)表示素子では、このコレステリック液晶の双安定現象を利用して、(A)プレーナ相による選択反射状態と、(B)フォーカルコニック相による透過状態と、をスイッチングすることによって、無電界でのメモリ性を有する各種色相のモノクロ表示、または無電界でのメモリ性を有するカラー表示を行う。
【0011】
図9に、当該技術による一般的な表示素子に対して、露光装置で画像の書き込みを行っている様子を模式的に表す模式図を示す。図9に示されるように、当該技術による表示素子は、一対の透明電極間に、液晶層である表示層と、光を吸収する遮光層(光吸収層)と、光導電層である有機感光層(OPC層)とが積層され、一対の基板で挟持されてなるものである。両透明電極に所定のバイアス電圧を印加した状態で、有機感光層側の表面を露光装置で像様に露光することで、所望の記録画像を書き込むことができる。
当該技術による表示素子は、表示層と光導電層と(必要に応じてさらに遮光層と)を電極層で挟み込んだユニットをRGBの3色積層することでフルカラー画像を形成することもできる。
【0012】
一方、特定の性質を有するコレステリック液晶化合物を含む記録材料は、コレステリック液晶相状態から急冷することによって、コレステリック液晶相状態の反射色を常温で長時間保存でき、再び加熱してコレステリック液晶相状態に戻すことで、繰り返し書き込み可能であることが知られている(例えば、特許文献5および6参照)。当該記録材料は、例えばサーマルヘッド等で熱エネルギーを印加することにより選択的に相変化させることで書き込み可能な熱書き込み型表示素子の表示層として用いることができる。
【0013】
【特許文献1】特公平7−009512号公報
【特許文献2】特開平9−236791号公報
【特許文献3】特許第3178530号明細書
【特許文献4】特開平11−237644号公報
【特許文献5】特開2000−251317号公報
【特許文献6】特開2002−127486号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
これら表示素子において、一旦表示させた画像を消去しようとする場合、光書き込み型表示素子では高電圧の書き込みが必要であり、熱書き込み型表示素子では高発熱の書き込みが必要となる。すなわち、これら画像を消去するためだけに、高電圧あるいは高発熱の書き込み装置が必要となる。
【0015】
一旦書き込んだ画像であっても、一定期間のみ表示させておけばよい場合や、必要な閲覧が過ぎた後には寧ろ表示画像を消去したい場合も十分に想定される。特に、消去の後すぐに書き込む予定が無い場合には、簡単に表示画像の消去だけしたいものである。
【0016】
にもかかわらず、表示画像の消去のためだけに、高電圧あるいは高発熱の書き込みが可能な書き込み装置を用意しなければならないのは、使用者にとって負担である。
また、そのような高電圧あるいは高発熱を生じさせるには大きなエネルギーを必要とするため、消費エネルギーも少なくない。
【0017】
従って本発明は、表示画像を消去するに際し、消去のための書き込み装置が不要で、かつ低いエネルギーで消去することが可能な反射型液晶表示素子および該反射型液晶表示素子への画像書き込み方法、並びにその表示画像の消去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的は、以下の本発明により達成される。すなわち本発明の反射型液晶表示素子は、少なくとも、含まれる液晶の状態変化により光を透過または反射する表示画像を形成し得る表示層と、該表示層の表示面側と反対側に接触してまたは他の層を介して配され、光の反射と吸収とが切り替え可能な光反射吸収層と、を含むことを特徴とする。
【0019】
反射型液晶表示素子(以下、単に「表示素子」という場合がある。)における表示画像は、一般に、表示層に含まれる液晶の状態(相状態)に応じて像様に、入射光の内一方の円偏光を表示層で反射し、反対の円偏光は表示層を透過してその下層に配される光吸収層(遮光層)で吸収されることにより、観察者に画像として認識される。
【0020】
本発明の表示素子においても、同様に表示層を透過した円偏光が前記光反射吸収層で吸収されることにより画像として認識可能になるが、当該光反射吸収層は光の反射と吸収とが切り替え可能であるため、画像を表示したいときには光を吸収する状態にしておき、表示画像を消去する際には光を反射する状態に切り替えればよい。
【0021】
一方の円偏光のみが反射して他方の円偏光が光反射吸収層で吸収されることにより、表示画像として認識されていたものが、前記光反射吸収層が光を反射する状態に切り替えられると、表示層を透過した円偏光も当該光反射吸収層で反射され、表示素子全体としてみれば全ての円偏光が反射された状態になるため、観察者にとって画像として認識できる状態ではなくなる。
【0022】
すなわち、画像が表示された状態の表示素子について、前記光反射吸収層を光が吸収される状態から反射される状態に切り替えるだけで、表示画像を消去することができる。そのため、表示画像を消去するためだけに大掛かりな書き込み装置を準備する必要がなくなる。また、前記光反射吸収層の態様にもよるが、吸収→反射への状態変化の切り替えは、書き込み装置で消去するために要するエネルギーに比較すれば概して格段に低いエネルギーで足り、省エネルギー化をも実現することができる。
本発明において、前記光反射吸収層は、前記表示層の表示面側と反対側であれば、該表示層に接触状態で配されていてもよいし、必要に応じて他の層を介して配されていてもよい。
【0023】
本発明において、前記光反射吸収層としては、例えば以下の2つの態様を例示することができる。
(光反射吸収層の態様A)
紫外線の照射により吸収状態になり、時間の経過と共に反射状態になる性質を有する態様。
【0024】
この態様においては、一定期間のみ画像を表示させておきたい場合に極めて有効である。画像の書き込みに際しては、予め光反射吸収層に紫外線を照射して光を吸収する状態にしておいてから、表示層における液晶を駆動させて書き込めばよい。必要な期間のみ光反射吸収層が吸収状態を維持するように構成しておけば、画像の書き込み後、消去のための操作を何ら実施しなくても、時間の経過により光反射吸収層が光を反射する状態に切り替わり、自然に表示画像が消去される。
なお、その後また画像を書き込む際には、再び光反射吸収層に紫外線を照射して光を吸収する状態にしてから画像の書き込み操作を行えばよい(後述する画像書き込み方法の項における初期化工程を参照。)。
【0025】
(光反射吸収層の態様B)
還元雰囲気に晒されることにより吸収状態になり、酸化雰囲気に晒されることにより反射状態になる性質を有する態様。
この態様においては、画像を表示させておきたい期間をコントロールしたい場合に極めて有効である。画像の書き込みに際しては、予め光反射吸収層を還元雰囲気に晒して光を吸収する状態にしておいてから、表示層における液晶を駆動させて書き込めばよい。そして、表示画像を消去する必要が生じた時に、光反射吸収層を酸化雰囲気に晒して光を反射する状態に切り替わり、表示画像が消去される。
なお、その後また画像を書き込む際には、再び光反射吸収層を還元雰囲気に晒して光を吸収する状態にしてから画像の書き込み操作を行えばよい。
【0026】
当該態様における光反射吸収層としては、具体的には、還元雰囲気に晒されることにより透過状態になり、酸化雰囲気に晒されることにより反射状態になる性質を有する調光ミラーと、遮光層とからなる態様が挙げられる。
このような性質を有する調光ミラーとしては、Pd層とMg−Ni合金層とが積層されてなる物を好適なものとして例示することができる。
前記表示層としては、液晶としてコレステリック液晶を含むことが好ましい。
【0027】
本発明の反射型液晶表示素子としては、少なくとも表示面側が透明である一対の電極層の間に、前記表示層および前記光反射吸収層が挟持されてなる態様を好適なものとして例示することができる。当該態様の反射型液晶表示素子によれば、選択的に電圧を印加することで画像を書き込むこと、すなわち電圧書き込みをすることができる。
【0028】
この場合、さらに、特定波長域の光を吸収して該吸収した光の光量に応じて電気特性が変化する光導電層を、表示面側とは反対側の前記電極層と前記光反射吸収層との間に配する構成とすることで、選択的に光照射することで画像を書き込むこと、すなわち光書き込みをすることができる。
【0029】
また、本発明の画像書き込み方法は、上記本発明の反射型液晶表示素子における前記光反射吸収層の全面を、光を吸収する状態にする初期化工程と、
前記表示層に含まれる液晶を選択的に駆動させる書き込み工程と、
を含むことを特徴とする。
【0030】
本発明の反射型液晶表示素子に対しては、初期化工程において、予め前記光反射吸収層の全面を、光を吸収する状態にしておくことで、通常の反射型液晶表示素子と同様に書き込み工程の操作を為すことで画像を書き込むことができる。
【0031】
さらに、本発明の表示画像の消去方法は、上記本発明の反射型液晶表示素子に書き込まれた表示画像について、前記光反射吸収層の全面を、光を反射する状態に切り替える操作を為すことで消去することを特徴とする。
【0032】
既述の通り、反射型液晶表示素子は、一般に、表示層に含まれる液晶の状態(相状態)に応じて像様に、入射光の内一方の円偏光を表示層で反射し、反対の円偏光は表示層を透過してその下層に配される光吸収層(遮光層)で吸収されることにより、観察者に画像として認識されるが、本発明においてはこの光吸収層(遮光層)に相当する光反射吸収層が光の反射と吸収とが切り替え可能になっており、画像表示時に光の吸収状態になっていたものを反射状態に切り替えることで、表示層を透過していた光も反射されて全ての円偏光が反射され、観察者にとって画像が認識できない状態になる、すなわち画像が消去される。
【0033】
そのため、表示画像を消去するためだけに大掛かりな書き込み装置を準備する必要がなくなる。また、前記光反射吸収層の態様にもよるが、吸収→反射への状態変化の切り替えは、書き込み装置で消去するために要するエネルギーに比較すれば概して格段に低いエネルギーで足り、省エネルギー化をも実現することができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、表示画像を消去するに際し、消去のための書き込み装置が不要で、かつ低いエネルギーで消去することが可能な反射型液晶表示素子および該反射型液晶表示素子への画像書き込み方法、並びにその表示画像の消去方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
<<反射型液晶表示素子>>
まず、本発明の反射型液晶表示素子について、好ましい実施形態を挙げて詳細に説明する。
<第1の実施形態>
図1は、本発明の例示的一態様である第1の実施形態の光書き込み型の表示素子に画像書き込みしている状態を示す概略構成図である。図1には、光書き込み型の表示素子(反射型液晶表示素子)1と、それを駆動する(画像を書き込む)ための駆動装置2とが描かれている。駆動装置2は、電源装置(電圧印加手段)17、および光照射装置(光照射手段)18の他、これらの動作を制御する制御回路16が含まれてなる。
【0036】
[表示素子]
本実施形態において、表示素子(反射型液晶表示素子)1は、表示書き込み面側から順に、基板3、電極5、表示層7、ラミネート層8、有機感光層(光導電層)10、電極(電極層)6、光反射吸収層9および基板4が積層されてなる物である。
【0037】
なお、本実施形態においては、表示面と書き込み面とが同一面となる構成(表書き込み型)の表示素子を例に挙げているが、本発明においては、表示面と書き込み面とが異なる面になる構成(裏書き込み型)であっても構わない。特に有機感光層(光導電層)が1層のみの場合には、表裏いずれの書き込み型であっても問題ない。ただし、フルカラー表示の3層構成の場合等有機感光層(光導電層)が2層以上含まれる場合には表書き込み型であることが好ましい。
【0038】
(基板)
基板3,4は、各機能層を内面に保持し、表示素子の構造を維持する目的の部材である。基板3,4は、外力に耐える強度を有するシート形状の物体であり、フレキシブル性を有することが好ましい。具体的な材料としては、無機シート(たとえばガラス・シリコン)、高分子フィルム(たとえばポリエチレンテレフタレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート)等を挙げることができる。なお、少なくとも表示書き込み面側の基板3は表示光を透過する機能を有する。その外表面に、防汚膜、耐磨耗膜、光反射防止膜、ガスバリア膜など公知の機能性膜を形成してもよい。
【0039】
(電極)
電極(電極層)5,6は、電源装置17から印加されたバイアス電圧を、表示素子1内の各機能層へ印加する目的の部材である。具体的には、金属(たとえば金、銀、銅、鉄、アルミニウム)、金属酸化物(たとえば酸化インジウム、酸化スズ、酸化インジウムスズ(ITO))、炭素、これらを高分子中に分散させた複合体、導電性有機高分子(たとえばポリチオフェン系・ポリアニリン系)などで形成された導電性薄膜を挙げることができる。表面に、密着力改善膜、光反射防止膜、ガスバリア膜など公知の機能性膜を形成してもよい。
【0040】
(表示層)
本実施形態において表示層とは、電場によって入射光の反射・透過状態を変調する機能を有し、選択した状態が無電場で保持できる性質を有し、液晶の配向変化を利用するものである。具体的には例えば、双安定型ツイストネマチック液晶、表面安定化強誘電性液晶等の偏光状態の変化を利用する方式のもの、メモリ性高分子分散型液晶などの光散乱状態の変化を利用する方式のもの、これらに二色性色素を混合したゲストホスト液晶などの光吸収状態の変化を利用する方式のもの、メモリ性コレステリック(カイラルネマチック)液晶などの光干渉状態の変化を利用する方式のものなど、光学効果の異なる種々の液晶素子を用いることができる。本実施形態では、最後者の方式のものを例示している。表示層としては、曲げや圧力などの外力に対して変形しない構造であることが好ましい。
【0041】
本実施形態において表示層としては、コレステリック液晶および透明樹脂からなる自己保持型液晶複合体の液晶層が形成されてなるものである。すなわち、複合体として自己保持性を有するためスペーサ等を必要としない液晶層である。本実施形態では、不図示ではあるが、高分子マトリックス(透明樹脂)中にコレステリック液晶が分散した状態となっている。
なお、本発明においては、表示層が、自己保持型液晶複合体の液晶層であることは必須ではなく、単に液晶のみで表示層を構成することとしても勿論構わない。
【0042】
コレステリック液晶は、入射光のうち特定の色光の反射・透過状態を変調する機能を有し、液晶分子がらせん状に捩れて配向しており、らせん軸方向から入射した光のうち、らせんピッチに依存した特定の光を干渉反射する。電場によって配向が変化し、反射状態を変化させることができる。表示層を自己保持型液晶複合体とする場合には、ドロップサイズが均一で、単層稠密に配置されていることが好ましい。
【0043】
コレステリック液晶として使用可能な具体的な液晶としては、ステロイド系コレステロール誘導体、あるいはネマチック液晶やスメクチック液晶(たとえばシッフ塩基系、アゾ系、アゾキシ系、安息香酸エステル系、ビフェニル系、ターフェニル系、シクロヘキシルカルボン酸エステル系、フェニルシクロヘキサン系、ビフェニルシクロヘキサン系、ピリミジン系、ジオキサン系、シクロヘキシルシクロヘキサンエステル系、シクロヘキシルエタン系、シクロヘキサン系、トラン系、アルケニル系、スチルベン系、縮合多環系)、またはこれらの混合物に、カイラル剤(たとえばステロイド系コレステロール誘導体、シッフ塩基系、アゾ系、エステル系、ビフェニル系)を添加したもの等を挙げることができる。
【0044】
コレステリック液晶の螺旋ピッチは、液晶分子の化学構造や、ネマチック液晶に対するカイラル剤の添加量で調整する。例えば、表示色を青、緑あるいは赤にする場合には、それぞれ選択反射の中心波長が、順に400nm〜500nm、500nm〜600nmあるいは600nm〜700nmの範囲になるようにする。また、コレステリック液晶の螺旋ピッチの温度依存性を補償するために、捩れ方向が異なる、または逆の温度依存性を示す複数のカイラル剤を添加する公知の手法を用いてもよい。
【0045】
表示層7がコレステリック液晶と高分子マトリックス(透明樹脂)からなる自己保持型液晶複合体を形成する形態としては、コレステリック液晶の連続相中に網目状の樹脂を含むPNLC(Polymer Network Liquid Crystal)構造や、高分子の骨格中にコレステリック液晶がドロップレット状に分散されたPDLC(Polymer Dispersed Liquid Crystal)構造(マイクロカプセル化されたものを含む)を用いることができ、PNLC構造やPDLC構造とすることによって、コレステリック液晶と高分子の界面にアンカリング効果を生じ、無電界でのプレーナ相またはフォーカルコニック相の保持状態を、より安定にすることができる。
【0046】
PNLC構造やPDLC構造は、高分子と液晶とを相分離させる公知の方法、例えば、アクリル系、チオール系、エポキシ系などの、熱や光、電子線などによって重合する高分子前駆体と液晶を混合し、均一相の状態から重合させて相分離させるPIPS(Polymerization Induced PhaseSeparation)法、ポリビニルアルコールなどの、液晶の溶解度が低い高分子と液晶とを混合し、攪拌懸濁させて、液晶を高分子中にドロップレット分散させるエマルジョン法、熱可塑性高分子と液晶とを混合し、均一相に加熱した状態から冷却して相分離させるTIPS(Thermally Induced Phase Separation)法、高分子と液晶とをクロロホルムなどの溶媒に溶かし、溶媒を蒸発させて高分子と液晶とを相分離させるSIPS(Solvent Induced Phase Separation)法などによって形成することができるが、特に限定されるものではない。
【0047】
高分子マトリックスは、コレステリック液晶を保持し、表示素子の変形による液晶の流動(画像の変化)を抑制する機能を有するものであり、液晶材料に溶解せず、また液晶と相溶しない液体を溶剤とする高分子材料が好適に用いられる。また、高分子マトリックスとしては、外力に耐える強度をもち、少なくとも反射光および書き込み光に対して高い透過性を示す材料であることが望まれる。
【0048】
高分子マトリックスとして採用可能な材料としては、水溶性高分子材料(たとえばゼラチン、ポリビニルアルコール、セルロース誘導体、ポリアクリル酸系ポリマー、エチレンイミン、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリルアミド、ポリスチレンスルホン酸塩、ポリアミジン、イソプレン系スルホン酸ポリマー)、あるいは水性エマルジョン化できる材料(たとえばフッ素樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂)等を挙げることができる。
【0049】
(有機感光層)
有機感光層(光導電層)10は、内部光電効果をもち、書き込み光の照射強度に応じてインピーダンス特性が変化する特性を有する層である。交流(AC)動作を行う場合には、書き込み光に対して対称駆動であることが望ましく、一般に、電荷発生層(CGL)が電荷輸送層(CTL)の上下に積層された3層構造に形成されてなる。本実施形態では、有機感光層10として、図1における上層から順に上側の電荷発生層13、電荷輸送層14および下側の電荷発生層15が積層されてなる。
【0050】
電荷発生層13,15は、書き込み光を吸収して光キャリアを発生させる機能を有する層である。主に、電荷発生層13が表示面側の電極5から書き込み面側の電極6の方向に流れる光キャリア量を、電荷発生層15が書き込み面側の電極6から表示面側の電極5の方向に流れる光キャリア量を、それぞれ左右している。電荷発生層13,15としては、書き込み光を吸収して励起子を発生させ、CGL内部、またはCGL/CTL界面で自由キャリアに効率良く分離させられるものが好ましい。
【0051】
電荷発生層13,15は、電荷発生材料(たとえば金属又は無金属フタロシアニン、スクアリウム化合物、アズレニウム化合物、ペリレン顔料、インジゴ顔料、ビスやトリス等アゾ顔料、キナクリドン顔料、ピロロピロール色素、多環キノン顔料、ジブロモアントアントロンなど縮環芳香族系顔料、シアニン色素、キサンテン顔料、ポリビニルカルバゾールとニトロフルオレン等電荷移動錯体、ピリリウム塩染料とポリカーボネート樹脂からなる共昌錯体)を直接成膜する乾式法か、またはこれら電荷発生材料を、高分子バインダー(たとえばポリビニルブチラール樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ビニルカルバゾール樹脂、ビニルホルマール樹脂、部分変性ビニルアセタール樹脂、カーボネート樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、スチレン樹脂、ビニルアセテート樹脂、酢酸ビニル樹脂、シリコーン樹脂等)とともに適当な溶剤に分散ないし溶解させて塗布液を調製し、これを塗布し乾燥させて成膜する湿式塗布法等により形成することができる。
【0052】
電荷輸送層14は、電荷発生層13,15で発生した光キャリアが注入されて、バイアス信号で印加された電場方向にドリフトする機能を有する層である。
電荷輸送層14は、電荷発生層13,15からの自由キャリアの注入が効率良く発生し(電荷発生層13,15とイオン化ポテンシャルが近いことが好ましい)、注入された自由キャリアができるだけ高速にホッピング移動するものが好適である。暗時のインピーダンスを高くするため、熱キャリアによる暗電流は低い方が好ましい。
【0053】
電荷輸送層14は、低分子の正孔輸送材料(たとえばトリニトロフルオレン系化合物、ポリビニルカルバゾール系化合物、オキサジアゾール系化合物、ベンジルアミノ系ヒドラゾンあるいはキノリン系ヒドラゾン等のヒドラゾン系化合物、スチルベン系化合物、トリフェニルアミン系化合物、トリフェニルメタン系化合物、ベンジジン系化合物)、または低分子の電子輸送材料(たとえばキノン系化合物、テトラシアノキノジメタン系化合物、フルオレノン化合物、キサントン系化合物、ベンゾフェノン系化合物)を、高分子バインダー(たとえばポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリスチレン樹脂、含珪素架橋型樹脂等)とともに適当な溶剤に分散ないし溶解させたもの、あるいは上記正孔輸送材料や電子輸送材料を高分子化した材料を適当な溶剤に分散ないし溶解させたものを調製し、これを塗布し乾燥させて形成すればよい。
【0054】
(光反射吸収層)
光反射吸収層9とは、光の反射と吸収とが切り替え可能な機能を有する層であり、本発明において特徴的な層である。画像の書き込みと消去についての詳細は後述するが、当該光反射吸収層9は、書き込み時乃至表示時には光を吸収する状態になっており、書き込み時に書き込み光と入射光とを光学分離し、相互干渉による誤動作を防ぐとともに、表示時に表示素子の非表示面側から入射する外光と表示画像を光学分離し、画質の劣化を防ぐ目的で一般に設けられる着色層(遮光層)としての機能をも有する。光反射吸収層9が光を吸収する状態の時には、少なくとも電荷発生層の吸収波長域の光、および表示層の反射波長域の光を吸収する機能が要求される。
【0055】
光反射吸収層9としては、何らかの操作(放置を含む)により光の反射と吸収とが切り替え可能な機能を有していればよく、本発明において、その態様は限定されない。具体的には例えば、既述の如きAおよびBの2つの態様を例示することができる。以下に、これら態様について詳細に説明する。
【0056】
(光反射吸収層の態様A)
当該態様は、紫外線の照射により吸収状態になり、時間の経過と共に反射状態になる性質を有する態様である。
当該態様の光反射吸収層としては、フルキド類、カルコン類、スピロラン類等のフォトクロミズム化合物を利用したものが挙げられる。これらフォトクロミズム化合物は、紫外線の照射により発色する性質を有するものであり、本発明における光反射吸収層の機能を司る材料として有用である。
【0057】
具体的なフォトクロミズム化合物としては、ピリジルオキサゾリル系化合物、イソプロピリデン系化合物等のフルキド類、ヒドロキシカルコン系化合物等のカルコン類、スピロナフトオキサジン系化合物、ニトロスピロベンゾピラン系化合物等のスピロラン類、ジアリールエテン類、アゾベンゼン類を例示することができる。
【0058】
当該態様における光反射吸収層の具体的な構成は、鏡面層と上記フォトクロミズム化合物を適当な結着樹脂中に分散配置したフォトクロミズム化合物層とを積層してなるものである。当該フォトクロミズム化合物層としては、上記フォトクロミズム化合物をそのまま塗布して膜を形成しても構わない。一方、前記鏡面層としては、各種メッキで形成すればよく、金属光沢があれば材料に制限は無い。
【0059】
上記フォトクロミズム化合物を結着樹脂中に分散配置する場合には、結着樹脂を適当な溶剤に溶解し、ここに上記フォトクロミズム化合物を分散させて塗布液を調製し、当該塗布液を塗布し乾燥して膜を形成すればよい。上記フォトクロミズム化合物をそのまま塗布する場合には、適当な分散媒に上記フォトクロミズム化合物を直接分散させて塗布液を調製し、当該塗布液を塗布し乾燥して膜を形成すればよい。塗布液の配合や塗膜の厚さ等は、使用するフォトクロミズム化合物や樹脂、さらには溶剤乃至分散剤の種類や特性、所望とする反射乃至吸収特性等を勘案して、適宜調整すればよい。
【0060】
上記フォトクロミズム化合物と鏡面層との組み合わせにより、フォトクロミズム化合物が紫外線の照射により吸収状態のときは画像を表示することが可能となり、フォトクロミズム化合物が透明になって鏡面反射状態時には画像が消去された状態となる。
【0061】
本態様では、フォトクロミズム化合物層と鏡面層の組み合わせにより機能する。フォトクロミズム化合物層が紫外線の照射により吸収状態のときは画像を表示することが可能となり、フォトクロミズム化合物層が透明になり鏡面反射状態時には画像が消去された状態となる。
【0062】
(光反射吸収層の態様B)
当該態様は、還元雰囲気に晒されることにより吸収状態になり、酸化雰囲気に晒されることにより反射状態になる性質を有する態様である。具体的には、還元雰囲気に晒されることにより透過状態になり、酸化雰囲気に晒されることにより反射状態になる性質を有する調光ミラーと、遮光層とからなる態様が例示される。
【0063】
上記のような性質を有する調光ミラーには、基板表面にPd層、その上にMg−Ni合金層が積層されてなる物を好適なものとして例示することができる。かかる調光ミラーを備えた光反射吸収層の構成例を図2に模式断面図にて示す。図2に示す光反射吸収層90は、基板93上に遮光層94と、厚さ約4nmのPd層91および厚さ約40nmのMg−Ni合金層92が積層されてなる調光ミラー95とが積層されてなるものである。
【0064】
Mg−Ni合金は、可逆的に、脱水素型の『Mg2Ni』と水素化型の『Mg2NiH4』との2つの状態を取ることができる。『Mg2Ni』は金属光沢があるので当該状態を取った場合Mg−Ni合金層92が鏡面となり、『Mg2NiH4』の状態を取った場合は透明になる。
【0065】
一方、Pd層91は、水素化反応(還元雰囲気中)および脱水素化反応(酸化雰囲気中)の触媒としての働きと、その下層のMg−Ni合金層92の酸化を防ぐ保護膜としての役割を有する。
Mg−Ni合金層92の部分は、Mg−Ni合金以外にも例えばイットリウムやランタンなどに置換可能である。ただし、これらは希土類であり高価であるため、Mg−Ni合金が低コストで実用的な点で好ましい。
【0066】
遮光層94としては、具体的には、無機顔料(たとえばカドミウム系、クロム系、コバルト系、マンガン系、カーボン系)、または有機染料や有機顔料(アゾ系、アントラキノン系、インジゴ系、トリフェニルメタン系、ニトロ系、フタロシアニン系、ペリレン系、ピロロピロール系、キナクリドン系、多環キノン系、スクエアリウム系、アズレニウム系、シアニン系、ピリリウム系、アントロン系)を高分子バインダー(たとえばポリビニルアルコール樹脂、ポリアクリル樹脂等)とともに適当な溶剤に分散ないし溶解させて塗布液を調製し、これを基板93の表面に塗布し乾燥させて成膜する湿式塗布法等により形成することができる。
【0067】
基板93としては、第1の実施形態における基板3,4と同様の物を使用することができるが、表示素子における他の層(本実施形態で言えば、有機感光層10)に遮光層94、Pd層91およびMg−Ni合金層92を直接積層してもよく、その場合には当該他の層が基板となるため、基板93として別途用意する必要は無い。
【0068】
図2に例示される調光ミラーの薄膜は、例えば、3連のマグネトロンスパッタ装置を用い、真空相内の3つのスパッタ銃に、金属Mg、金属Ni、金属Pdのターゲットをセットし、遮光層94が形成された基板93上に約4nmの薄いパラジウム薄膜を蒸着し、その上にMgとNiの同時スパッタによる約40nmの厚さのMg−Ni合金薄膜を蒸着することで形成することができる。
上記調光ミラー95と遮光層94との組み合わせにより、調光ミラー95が水素型の透明状態のときは画像を表示することが可能となり、調光ミラー95が脱水素型鏡面反射状態時には画像が消去された状態となる。
【0069】
なお、本実施形態において、光反射吸収層9は電極6と基板4との間に配しているが、本発明においては当該配置に限定されるものではない。例えば、電極6と有機感光層10との間に配しても構わないし、裏書き込み型であれば表示層7と有機感光層10との間に配しても構わない(この場合、光反射吸収層9に接するどちらか側にラミネート層8を配しても勿論構わない。)。製造適性上は、本実施形態の配置が好ましい。
【0070】
(ラミネート層)
ラミネート層8は、上下基板3,4それぞれの内面に形成された各機能層を貼り合わせる際に、凹凸吸収および接着の役割を果たす目的で設けられる層であり、本発明において必須の構成要素ではない。ラミネート層8は、熱可塑性、熱硬化性、あるいはこれらの混合型の有機材料からなるものであり、熱や圧力によって表示層7と光反射吸収層9とを密着・接着させることができる材料が選択される。また、少なくとも入射光に対して透過性を有することが条件となる。
ラミネート層8に好適な材料としては、粘着・接着性の高分子材料(たとえばポリエチレン系、ポリプロピレン系、ポリウレタン系、エポキシ系、アクリル系、ゴム系、シリコーン系)を挙げることができる。
【0071】
(接触端子)
接触端子19とは、電源装置17からの電圧が供給される導線11と、表示素子1(電極5,6)との導通を行う部材であり、高い導電性を有し、電極5,6および導線11との接触抵抗が小さいものが選択される。表示素子1と駆動装置2とを切り離すことができるように、図示の如く電極5,6から分離できる(これに代えて、あるいは加えて、駆動装置2から分離できる)構造であることが好ましい。
【0072】
接触端子19としては、金属(たとえば金、銀、銅、鉄、アルミニウム)、炭素、これらを高分子中に分散させた複合体、金属酸化物(たとえば酸化インジウム、酸化スズ、酸化インジウムスズ(ITO))、炭素、これらを高分子中に分散させた複合体、導電性有機高分子(たとえばポリチオフェン系・ポリアニリン系)などでできた端子で、電極を挟持するクリップ・コネクタ形状のものが挙げられる。
【0073】
[駆動装置]
本実施形態において駆動装置2は、表示素子1に画像を書き込む装置であり、表示素子1に対して書き込み光の照射を行う光照射装置(光照射手段)18、および表示素子1にバイアス電圧を印加する電源装置(電圧印加手段)17を主要構成要素とし、さらにこれらの動作を制御する制御回路16が配されてなる。
【0074】
(光照射装置)
光照射装置(光照射手段)18は、像様となる所定の書き込み光パターンを表示素子1に照射する機能を有し、制御回路16からの入力信号に基づき、表示素子1上(詳しくは、有機感光層10上)に所望の光画像パターン(スペクトル・強度・空間周波数)を照射できるものであれば特に制限されるものではない。なお、光照射すべき領域としては、表示素子1の書き込み面の全面である必要は無く、表示層が形成されている範囲内であることはもちろんのこと、書き込もうとする領域(書き込み領域)内であれば十分である。
【0075】
光照射装置18により照射される書き込み光としては、以下の条件のものが好ましく選択されるが、本発明においてはこれに限定されるものではない。
・スペクトル:有機感光層10の吸収波長域のエネルギーができるだけ多いことが好ましい。
・照射強度:明時に表示層7への印加電圧が有機感光層10との分圧により上下閾値の電圧以上となって、表示層7中の液晶を配向変化させ、暗時にはそれ以下となるような強度。
光照射装置18により照射される書き込み光としては、有機感光層10の吸収波長域内にピーク強度を持ち、できるだけバンド幅の狭い光であることが望ましい。
【0076】
光照射装置18としては、具体的には以下のものが挙げられる。
(1−1)光源(たとえば、冷陰極管、キセノンランプ、ハロゲンランプ、発光ダイオード(LED)、EL、レーザ等)を一次元のアレイ状に配置したものや、ポリゴンミラーと組み合せたもの、など走査動作によって任意の二次元発光パターンを形成できるもの
(1−2)光源をアレイ状に配置したものや導光板と組み合せたもの、などの均一な光源と、光パターンを作る調光素子(たとえば、LCD、フォトマスクなど)の組み合わせ
(2)光源を面状に配置したものなどの自発光型ディスプレイ(たとえばCRT、PDP、EL、発光ダイオード、FED、SED)
(3)上記(1−1)、(1−2)あるいは(2)と光学素子(たとえばマイクロレンズアレイ、セルホックレンズアレイ、プリズムアレイ、視野角調整シート)との組み合わせ
【0077】
(電源装置)
電源装置(電圧印加手段)17は、所定のバイアス電圧(駆動電圧、書き込み電圧)を表示素子1に印加する機能を有し、制御回路16からの入力信号に基づき、表示素子(各電極間)に所望の電圧波形を印加できるものであればよい。ただし、高いスルーレートであることが好ましい。電源装置17には、例えばバイポーラ高電圧アンプなどを用いることができる。
電源装置17による表示素子1への電圧の印加は、接触端子19を介して電極5−電極6間に為される。
【0078】
(制御回路)
制御回路16は、外部(画像取り込み装置、画像受信装置、画像処理装置、画像再生装置、あるいはこれらの複数の機能を併せ持つ装置等)からの画像データに応じて、電源装置17および光照射装置18の動作を適宜制御する機能を有するドライバIC等の部材である。制御回路16による具体的な制御内容は、後述する。
【0079】
(全体構成)
図3は、本発明に供し得る駆動装置2の例を示す斜視図であり、光照射手段にレーザを用いた場合である。なお、当該図において、制御回路16の図示は省略されている。
【0080】
光照射を行う露光光学系(光照射装置18)は、光源51として半導体レーザを用い、コリメータレンズ52、ポリゴンミラー53、ポリゴンモーター54、f−θレンズ55、折り返し用ミラー56などによって構成され、レーザビーム57は、ビーム調整ミラー58を介して同期信号発生器59に送られ、走査タイミングの同期に用いられる。図では省略されているが、この駆動装置の制御装置(制御回路)は、一般の電子写真用レーザ露光装置のそれと同様である。
【0081】
表示素子1の副走査方向への送りは、図示のように表示素子1を平面状に固定して、パルスモータによって行い、または、表示素子1の基板をフィルムで構成することにより、表示素子1を柔軟性のあるものとして、円筒状のドラムに固定して、モータによって回転させる、などの方法によることができる。
【0082】
図4は、本発明の表示素子の駆動装置の他の一例を示し、光照射装置に発光ダイオードアレイを用いた場合である。光照射用の光源が発光ダイオードアレイ62と自己結像型ロッドレンズアレイ63によって構成されるほかは、図2を用いて説明した上記例と同様である。
【0083】
(画像書き込みの基本動作)
本実施形態の表示素子においては、一対の電極層間に所定の電圧を印加しつつ、光導電層に所定の波長並びに光量の書き込み光を照射することで表示層に相変化がもたらされて、表示画像が形成されるのが基本動作である。
【0084】
本発明においては、表示素子1における光反射吸収層9の全面を、光を吸収する状態にする初期化工程の操作が為された後に、当該基本動作に当たる書き込み工程の操作が為される。初期化工程については後述することとし、ここではこの基本動作(書き込み工程)についてのみ説明する。
【0085】
本実施形態においては、既述の通り、コレステリック液晶および透明樹脂からなる自己保持型液晶複合体の液晶層が表示層7として形成されてなるものである。本実施形態の表示素子1では、このコレステリック液晶の双安定現象を利用して、(A)プレーナ相による選択反射状態と、(B)フォーカルコニック相による透過状態とを、電源装置17により所定の電圧を印加しつつ光照射装置18によりスイッチングすることによって、無電界でのメモリ性を有する表示画像が書き込まれる。
【0086】
図8を参考に説明すると、電源装置17により印加する電圧は、例えば、表示層7にVpf〜Vfh間の分圧がかかり、光照射装置18により所定の波長並びに強度の書き込み光が照射された時に、表示層7にかかる分圧がVfh以上となる電圧としておく。かかる電圧が印加された状態では、プレーナ(P)状態の部位はフォーカルコニック(F)状態に相変化し、フォーカルコニック(F)状態の部位はそのまま相変化せず、全ての部位がフォーカルコニック(F)状態となる。
【0087】
この状態で、光照射装置18により選択的に書き込み光が照射されると、当該照射された部位のみがVfh以上の分圧がかかり、フォーカルコニック(F)状態からホメオトロピック(H)状態に相変化する。その後印加電圧を解除すると、書き込み光が照射されホメオトロピック(H)状態に相変化した部位は、選択反射状態のプレーナ(P)相となる。一方、書き込み光が照射されなかった部位は、透過状態のフォーカルコニック(F)相のままである。このようにして相変化が選択的に為され、表示画像が書き込まれる。
【0088】
なお、本発明においては、どの相状態の変化を利用するかは特に制限は無く、所定の波長並びに強度の書き込み光を選択的に照射することで相変化が生じ、反射/透過が選択されて画像が書き込みできれば問題無い。本実施形態の表示素子1においても、例えば、Vfh以上の電圧を印加してこれを解除する等により、予め全面をプレーナ(P)状態としておき、その後Vpf以下で所定の波長並びに強度の書き込み光が照射された時にVpf以上となる電圧を表示層7に印加しつつ、書き込み光を選択的に照射して、当該照射された部位をフォーカルコニック(F)状態にさせる相変化を利用しても構わない。この場合、書き込み光が照射された部位は、透過状態のフォーカルコニック(F)相となり、書き込み光が照射されなかった部位は、選択反射状態のプレーナ(P)相となる。このようにして相変化が選択的に為され、画像が書き込まれる。
【0089】
<第2の実施形態>
図5は、本発明の例示的一態様である第2の実施形態の熱書き込み型の表示素子に画像書き込みしている状態を示す概略構成図である。図5には、熱書き込み型の表示素子(反射型液晶表示素子)21と、それを駆動する(画像を書き込む)ための駆動装置22とが描かれている。駆動装置22は、表示素子21の表面を走査するサーマルヘッド25を含む熱書込装置(熱書込手段)28と、その動作を制御する制御回路26と、不図示の冷却装置(冷却手段)とが含まれてなる。
【0090】
[表示素子]
本実施形態において、表示素子(反射型液晶表示素子)21は、表示面側から順に、基板23、表示層27、光反射吸収層29および基板24が積層されてなる物である。基板23,24は、第1の実施形態と同一の機能を有する部材であるため、説明を省略する。
【0091】
また、本発明に特徴的な光反射吸収層29についても、第1の実施形態と同様であるため、説明を省略する。なお、本実施形態においては、光反射吸収層29が書き込み側の基板24の内面側に設けられる態様を例示しているが、光反射吸収層は非表示面側の基板(基板24)における外面側に設けても構わない。
【0092】
(表示層)
本実施形態において表示層とは、特定の性質を有するコレステリック液晶化合物を含む層であり、サーマルヘッド等の熱書込手段で熱エネルギーを印加することにより選択的に相変化させることで書き込み可能なものである。
【0093】
本実施形態の如き熱書き込み型の表示素子に好適な液晶としては、中分子コレステリック液晶性化合物あるいはその混合物が好ましい。中分子コレステリック液晶性化合物の具体的な分子量としては、900〜10000の範囲が好ましく、1000〜2000の範囲がより好ましい。このとき、なるべく分子量分布が少ない、乃至は、有さないことが特に好まし。また、当該中分子コレステリック液晶性化合物あるいはその混合物についてガラス転移温度が観測される場合、そのガラス転移温度としては30℃以上であることが好ましい。
【0094】
本実施形態の如き熱書き込み型の表示素子に使用可能なコレステリック液晶性化合物に要求される性質としては、以下の通りである。
コレステリック結晶相から加熱し融点以上で等方相となる。そこからコレステリック液晶相を示す温度まで徐冷あるいは急冷すると温度に応じた選択反射色を示す。なお、100℃程度以上の比較的高温においてもコレステリック液晶相を示すコレステリック結晶が好ましい。
【0095】
次にコレステリック液晶相を示す温度から室温程度まで冷やす際に徐冷すると、結晶化して光散乱による白濁状態となる。このとき記録層が薄い場合はほぼ透明として観測される場合もある。一方、コレステリック液晶相から室温程度まで冷やす際に急冷すると、コレステリック液晶相の螺旋状分子配列を保持した固体状のコレステリックガラス相になり、螺旋ピッチに依存した選択反射色が観測される。そして急冷開始時おける加熱による到達温度あるいは急冷時の冷却速度を適宜像様に選択することで、任意の選択反射色を示す画像を形成することができる。
【0096】
表示層27の厚さとしては、0.5〜50μmの範囲内が好ましく、1〜20μmの範囲内であることがより好ましい。表示層が薄過ぎると最大反射が得られる波長における反射率が低くなり表示画像のコントラストが低下する一方、厚過ぎると厚さ方向に熱が均一に伝わりにくく色純度が低下すると共に、表示層での光吸収が多くなって表示画像のコントラストが低下するため、それぞれ好ましくない。
その他の表示層27の構成としては、第1の実施形態における表示層7と同様であり、好ましい態様も同様である。
【0097】
(画像書き込みの基本動作)
本実施形態の表示素子においては、熱書込手段を用いて像様に等方相となる温度以上に加熱し、当該温度から室温程度まで急冷して、選択反射色を示すコレステリックガラス相に固定化して表示画像が形成されるのが基本動作である。
【0098】
本発明においては、表示素子21における光反射吸収層29の全面を、光を吸収する状態にする初期化工程の操作が為された後に、当該基本動作に当たる書き込み工程の操作が為される。初期化工程については後述することとし、ここではこの基本動作(書き込み工程)についてのみ説明する。
【0099】
本実施形態においては、まず熱書込装置(熱書込手段)28により像様に等方相となる温度以上に加熱する。熱書込装置28は、本実施形態においてはサーマルヘッド25により表示素子21の表面を走査して選択的に加熱し、画像を書き込む。このとき、加熱の温度を制御することで色相を任意に選択することも可能である。勿論、加熱温度を一定にして単一色のモノクローム画像を形成することにしても構わない。なお、サーマルヘッド25の前に表示素子21を予備加熱する手段等を配してもよい。
【0100】
サーマルヘッド25での加熱による画像書き込みの後、表示素子21は不図示の冷却装置により急速に冷却される。冷却装置としては、サーマルヘッド25で走査した直後の表示素子21表面に接触することで放熱させる部材が好適なものとして挙げられる。当該部材としては、金属製のものが好ましく、別途空冷手段や水冷手段を具備していてもよい。
【0101】
以上のようにして、選択反射色を示すコレステリックガラス相に固定化されて表示画像が形成される。
その他、熱書き込み型の表示素子、およびかかる表示素子に画像書き込みする方法の詳細や各種変形例等は、特許文献6に詳しい。
【0102】
<<画像書き込み方法>>
次に、本発明の反射型液晶表示素子への画像書き込み方法について詳細に説明する。説明には、第1の実施形態および第2の実施形態の表示素子を例に挙げ、図1および図5を参照する。
【0103】
既述の通り、本発明の反射型液晶表示素子への画像書き込み方法は、表示素子1,21における光反射吸収層9,29の全面を、光を吸収する状態にする初期化工程の操作が為された後に、書き込み工程の操作が為される。書き込み工程の操作は、第1の実施形態および第2の実施形態の項でそれぞれ説明した通りである。なお、書き込みに際して、表示素子1,21における表示層7中の液晶の状態を揃える操作が一般に行われることがあり、当該操作を「初期化」と称することもあるが、本発明において当該操作は、書き込み工程における1つの操作として扱う。
以下、初期化工程の操作についてのみ説明する。
【0104】
初期化工程の操作は、既に画像が書き込まれたり、さらに後述するように表示画像を消去した後の状態の表示素子について再度画像を書き込もうとする際には必ず行う必要がある。また、表示素子として使用を開始する際や、既に初期化してあっても長期間使用していない場合にも行うことが好ましい。
【0105】
表示素子1,21における光反射吸収層9,29の全面を、光を吸収する状態にしておくことで、次工程の書き込み工程で画像が書き込まれて表示層7,27における液晶の状態による反射/透過が選択されると、その透過の部位において透過した光が光反射吸収層9,29に吸収され、表示層7,27で反射した光による表示画像が形成される。
【0106】
初期化工程における「表示素子1,21における光反射吸収層9,29の全面を、光を吸収する状態にする」方法は、光反射吸収層9,29の態様により、その具体的な操作が異なる。光反射吸収層9,29の性質に応じて適切な操作を為せばよい。既述の如きAおよびBの2つの態様を例示して、具体的な操作を説明する。
【0107】
(光反射吸収層の態様A)
紫外線の照射により吸収状態になり、時間の経過と共に反射状態になる性質を有する態様Aの場合、初期化工程の操作は、光反射吸収層9,29の全面に紫外線を照射することで実現される。紫外線の照射方法としては、一般的な紫外線ランプを用いてもよいが、単に太陽光に直接晒すだけでも構わない。
【0108】
(光反射吸収層の態様B)
還元雰囲気に晒されることにより吸収状態になり、酸化雰囲気に晒されることにより反射状態になる調光ミラーの態様Bの場合、初期化工程の操作は、光反射吸収層9,29を還元雰囲気に晒すことで実現される。
【0109】
還元雰囲気に晒す方法としては、まず、表示素子1,21を例えば水素雰囲気(96%アルゴン)の室内に放置しておくガスクロミック方式が挙げられる。なお、酸素雰囲気に晒すには、乾燥空気にガスを切り替えればよい。
また、以下に示すエレクトロクロミック方式も好適である。
エレクトロクロミック方式とは、電圧の印加によりプロトン移動を生じさせて、還元雰囲気と酸化雰囲気とをスイッチ一つで切り替える方式である。
【0110】
エレクトロクロミック方式を実現するためには、光反射吸収層9,29として予め図6に示すような光反射吸収層90’を採用しておくことが必要である。ここで、図6は、エレクトロクロミック方式として機能する調光ミラーを備えた光反射吸収層の構成例を示す模式断面図である。
【0111】
図6に示す光反射吸収層90’は、遮光層94と、Pd層91およびMg−Ni合金層92が積層されてなる調光ミラー95とが形成されている点は、図2に示す光反射吸収層90と同様であるが、さらにPd層91と遮光層94との間にアルカリ層94が、およびMg−Ni合金層92の上層に透明導電性膜95がそれぞれ積層されてなるものである。遮光層94、Pd層91およびMg−Ni合金層92については、図2に示す光反射吸収層90と同様であるため、説明を省略する。
【0112】
透明導電性基板93’は、第1の実施形態における電極5,6と同様の材質の物や、第1の実施形態における基板3,4の表面に電極5,6を形成してなる物などを挙げることができるが、導電性を有する基板であれば特に制限は無い。表示素子1,21の他の層に直接透明導電性基板93’を積層しようとする場合には、それ自体自立性の無い膜状のものであっても構わない。また、透明導電性膜95も透明導電性基板93’と同様、第1の実施形態における電極5,6と同様の材質の物が用いられる。
【0113】
アルカリ層94は、アルカリ溶液を含浸させた固体状乃至半固体状物質からなる層、アルカリ溶液を用いずに全て固体状の層、あるいは、アルカリ溶液を充填した層である。
アルカリ溶液を含浸させ得る固体状乃至半固体状物質としては、各種多孔質体やゲル状物質を利用することができる。多孔質体としては、活性炭、各種セラミック材料、各種発泡樹脂、各種不織布、各種織布等を挙げることができる。また、ゲル状物質としては、ゼラチン、カンテン、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール等を挙げることができる。
【0114】
アルカリ溶液を用いずに全て固体状の層とは、具体的には、酸化タングステン(WO3)と酸化タンタル(Ta25)とを組み合わせた層等が挙げられる。
アルカリ溶液を充填した層とは、Pd層91と透明導電性膜95との間にスペーサを配して周囲を封止することにより形成された空洞内にアルカリ溶液を充填してなる層である。
【0115】
アルカリ溶液を用いる場合に、使用可能なアルカリ溶液としては、アルカリ金属の水酸化物、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムからなる群より選択される1種または2種以上を用いた水溶液等が挙げられる。
アルカリ層94としては、実用的には水溶液を用いない全固体型のエレクトロクロミック方式が、破損時の液体漏れの懸念がない点で好ましい。
【0116】
図6に示す光反射吸収層90’は、透明導電性膜95側の面が光の吸収/反射を切り替え可能となっているので、図1,5における光反射吸収層9,29としてこれを用いる場合には、当該透明導電性膜95側が表示面側(図1ではラミネート層8と接する側、図5では表示層27と接する側。)になるように配して積層する。そして、図6に示すように、透明導電性膜95−透明導電性基板93’間に電圧を印加することができるように電源装置97が結線される。
【0117】
図6に示す光反射吸収層90’を用いた場合において、光反射吸収層9,29を還元雰囲気に晒す初期化工程の操作は、電源装置97により、透明導電性膜95側がマイナス(−)、透明導電性基板93’側がプラス(+)となるように直流電圧(例えば3V程度)を印加してプロトン移動を生じさせることによって行われる。
【0118】
<<表示画像の消去方法>>
次に、本発明の反射型液晶表示素子に書き込まれた表示画像の消去方法について詳細に説明する。説明には、「画像書き込み方法」の項と同様、第1の実施形態および第2の実施形態の表示素子を例に挙げ、図1および図5を参照する。
既述の通り、本発明の反射型液晶表示素子に書き込まれた表示画像の消去方法は、表示素子1,21における光反射吸収層9,29の全面を、光を反射する状態にする操作(以下、単に「消去操作」という場合がある。)を為すことである。
【0119】
表示画像が形成された表示素子1,21は、表示層7,27における液晶の状態による反射/透過が選択され、その透過の部位において透過した光が光反射吸収層9,29に吸収され、表示層7,27で反射した光による表示画像が形成された状態になっている。この状態から、消去操作を実施すると、表示層7,27における液晶の状態による透過の部位において透過した光が光反射吸収層9,29で反射され、液晶の状態による反射の部位における反射と相俟って、全ての光が反射状態になり、観察者にとって画像が認識できない状態になる。すなわち表示画像が消去される。
【0120】
そのため、表示画像を消去するためだけに大掛かりな書き込み装置を準備する必要がなくなる。また、光反射吸収層9,29の態様にもよるが、吸収→反射への状態変化の切り替えは、書き込み装置で消去するために要するエネルギーに比較すれば概して格段に低いエネルギーで足り、省エネルギー化をも実現することができる。
【0121】
表示画像の消去のための消去操作は、光反射吸収層9,29の態様により、その具体的な操作が異なる。光反射吸収層9,29の性質に応じて適切な操作を為せばよい。既述の如きAおよびBの2つの態様を例示して、具体的な操作を説明する。
【0122】
(光反射吸収層の態様A)
紫外線の照射により吸収状態になり、時間の経過と共に反射状態になる性質を有する態様Aの場合、消去操作は、そのまま放置しておき時間の経過を待てばよい。必要な期間のみ光反射吸収層が吸収状態を維持するように構成しておけば、画像の書き込み後、消去のための操作を何ら実施しなくても、時間の経過により光反射吸収層が光を反射する状態に切り替わり、自然に表示画像が消去される。
本発明の表示画像の消去方法においては、以上のように単にそのまま放置して時間の経過を待つ行為も「光を反射する状態に切り替える操作」の一態様に含まれる。
【0123】
(光反射吸収層の態様B)
還元雰囲気に晒されることにより吸収状態になり、酸化雰囲気に晒されることにより反射状態になる調光ミラーの態様Bの場合、消去操作は、光反射吸収層9,29を酸化雰囲気に晒すことで実現される。
【0124】
酸化雰囲気に晒す方法としては、「画像書き込み方法」の項で説明した2つの方式に対応した、以下に示すそれぞれの操作を行えばよい。
既述のガスクロミック方式による場合には、画像表示時に水素雰囲気(96%アルゴン)の室内に放置しておいた表示素子1,21を、室内のガスを乾燥空気に切り替えればよい。
【0125】
また、既述のエレクトロクロミック方式による場合には、画像表示時に印加していた電圧の電極を正負逆にして印加すればよい。エレクトロクロミック方式を実現するために、光反射吸収層9,29として予め図6に示すような光反射吸収層90’を採用しておくことが必要である点は、「画像書き込み方法」の項で説明した通りである。
【0126】
図6に示す光反射吸収層90’を用いた場合において、光反射吸収層9,29を酸化雰囲気に晒す消去操作は、電源装置97により、透明導電性膜95側がプラス(+)、透明導電性基板93’側がマイナス(−)となるように直流電圧(例えば3V程度)を印加してプロトン移動を生じさせることによって行われる。
【0127】
以上、好ましい実施形態並びに例を挙げて本発明の反射型液晶表示素子および該反射型液晶表示素子への画像書き込み方法、並びにその表示画像の消去方法を詳細に説明したが、本発明は以上の実施形態並びに例に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では表示層が1層のみからなる単色画像形成用の表示素子を例に挙げて説明したが、表示層やその他の層を必要に応じて複数層として多色画像が形成できる表示素子としてもよいし、このとき少なくともブルー、グリーンおよびレッドの三原色を表示し得る表示層を積層することでフルカラー画像が形成できる表示素子としてもよい。
【0128】
その他、当業者は、従来公知の知見に従い、本発明の反射型液晶表示素子および該反射型液晶表示素子への画像書き込み方法、並びにその表示画像の消去方法を適宜改変することができる。かかる改変によってもなお本発明の構成を具備する限り、勿論、本発明の範疇に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1】本発明の例示的一態様である第1の実施形態の光書き込み型の表示素子に画像書き込みしている状態を示す概略構成図である。
【図2】調光ミラーを備えた光反射吸収層の構成例を示す模式断面図である。
【図3】本発明の駆動装置の一例を示す斜視図である。
【図4】本発明の駆動装置の他の一例を示す斜視図である。
【図5】本発明の例示的一態様である第2の実施形態の熱書き込み型の表示素子に画像書き込みしている状態を示す概略構成図である。
【図6】エレクトロクロミック方式として機能する調光ミラーを備えた光反射吸収層の構成例を示す模式断面図である。
【図7】コレステリック液晶の分子配向と光学特性の関係を示す模式説明図であり、(A)はプレーナ、(B)はフォーカルコニック、(C)ホメオトロピックの各状態におけるものである。
【図8】コレステリック液晶のスイッチング挙動を説明するためのグラフである。
【図9】従来からの一般的な表示素子に対して、露光装置で画像の書き込みを行っている様子を模式的に表す模式図である。
【符号の説明】
【0130】
1,21:表示素子(反射型液晶表示素子)、 2,22:駆動装置、 3,4,23,24:基板、 5,6:電極、 7,27:表示層、 8:ラミネート層、 9,29:光反射吸収層、 10:有機感光層(光導電層)、 11:導線、 12:制御装置、 13,15:電荷発生層、 14:電荷輸送層、 16,26:制御回路、 17:電源装置、 18:光照射装置、 19:接触端子、 25:サーマルヘッド、 28:熱書込装置、 51:光源、 52:コリメータレンズ、 53:ポリゴンミラー、 54:ポリゴンモーター、 55:f−θレンズ、 56:折り返し用ミラー、 57:レーザビーム、 58:ビーム調整ミラー、 59:同期信号発生器、 62:発光ダイオードアレイ、 63:自己結像型ロッドレンズアレイ、 90,90’:調光ミラー、 91:Pd層、 92:Mg―Ni合金層、 93:基板、 93’:透明導電性基板、 94:アルカリ層、 95:透明導電性膜、 97:電源装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、含まれる液晶の状態変化により光を透過または反射する表示画像を形成し得る表示層と、該表示層の表示面側と反対側に接触してまたは他の層を介して配され、光の反射と吸収とが切り替え可能な光反射吸収層と、を含むことを特徴とする反射型液晶表示素子。
【請求項2】
前記光反射吸収層が、紫外線の照射により吸収状態になり、時間の経過と共に反射状態になる性質を有することを特徴とする請求項1に記載の反射型液晶表示素子。
【請求項3】
前記光反射吸収層が、還元雰囲気に晒されることにより吸収状態になり、酸化雰囲気に晒されることにより反射状態になる性質を有することを特徴とする請求項1に記載の反射型液晶表示素子。
【請求項4】
前記光反射吸収層が、Pd層とMg−Ni合金層とが積層されてなる調光ミラーと遮光層とからなることを特徴とする請求項3に記載の反射型液晶表示素子。
【請求項5】
前記表示層が、液晶としてコレステリック液晶を含むことを特徴とする請求項1に記載の反射型液晶表示素子。
【請求項6】
少なくとも表示面側が透明である一対の電極層の間に、前記表示層および前記光反射吸収層が挟持されてなることを特徴とする請求項1に記載の反射型液晶表示素子。
【請求項7】
さらに、特定波長域の光を吸収して該吸収した光の光量に応じて電気特性が変化する光導電層が、表示面側とは反対側の前記電極層と前記光反射吸収層との間に配されてなることを特徴とする請求項8に記載の反射型液晶表示素子。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の反射型液晶表示素子における前記光反射吸収層の全面を、光を吸収する状態にする初期化工程と、
前記表示層に含まれる液晶を選択的に駆動させる書き込み工程と、
を含むことを特徴とする画像書き込み方法。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載の反射型液晶表示素子に書き込まれた表示画像について、前記光反射吸収層の全面を、光を反射する状態に切り替える操作を為すことで消去することを特徴とする表示画像の消去方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2009−222808(P2009−222808A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−64749(P2008−64749)
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成16年度独立行政法人科学技術振興機構革新技術開発研究事業、産業技術力強化法第19条の規定を受けるもの)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】