説明

反射型露光用マスク

【課題】露光対象となっている回路パターン領域以外から光が反射することなく、精度よく露光転写ができる反射型露光用マスクを提供する。
【解決手段】基板上に多層反射膜、保護膜、吸収膜、裏面導電膜が形成された反射型マスクブランクスを準備する。次に、回路パターンとその領域外の吸収膜を選択的に除去して回路パターンと遮光枠領域を形成する。次に、前記遮光枠領域において保護膜と多層反射膜を除去する。加えて、前記遮光枠領域の基板とは対向位置の裏面導電膜に酸化インジウムスズを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射型露光用マスクに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造プロセスにおいては、半導体デバイスの微細化に伴い、フォトリソグラフィ技術の微細化に対する要求が高まっている。既に、フォトリソグラフィ技術の微細化への対応の一環として、リソグラフィの露光方式においては、従来の波長が193nmのArFエキシマレーザー光を用いた露光から、波長が13.5nmのEUV(Extreme Ultra Violet:極端紫外線)領域の光を用いた露光に置き換わりつつある。
【0003】
EUV領域の光に対しては、ほとんどの物質が高い光吸収性をもつため、従来の透過型のマスクを、EUV露光用のマスクとして用いることはできず、反射型のマスクを、EUV露光用のマスク(EUVマスク)として用いる(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、ガラス基板上にモリブデン(Mo)層及びシリコン(Si)層を交互に積層して多層膜からなる光反射膜を形成し、その上にタンタル(Ta)を主成分とする光吸収体によりパターンを形成する技術が開示されている。
【0004】
また、EUV光は上述の通り、光の透過を利用する屈折光学系が使用できないことから、露光機の光学系も反射型となる。このため、透過型のビームスプリッターを利用した偏向が不可能である。従って、反射型マスクでは、マスクへの入射光と反射光が同軸上に設計できない欠点がある。このため、EUVマスクは、6度程度光軸を傾けてマスクへ入射した光の反射光を半導体基板に導く手法が採用されている。この手法では、光軸を傾斜することから、マスクパターンに対する光の入射方向に依存して半導体基板上でマスクの配線パターンがマスクパターンとは異なる線幅となる射影効果と呼ばれる問題が指摘されている。そこで、この射影効果を抑制ないし軽減するために、マスクパターンを形成している吸収膜の膜厚を薄膜化することが提案されている。
【0005】
この光吸収膜の薄膜化の手法では、EUV光を吸収するのに必要な光の減衰量が不足するため、半導体基板への反射光が増加し、半導体基板上に塗布されたレジスト膜を感光させてしまう問題が発生する。また、半導体基板では、チップを多面付で露光するために、隣接するチップにおいてはその境界領域において多重露光が発生する。さらに、EUV光源は13.5nmにその放射スペクトルのピークを有するが、アウトオブバンド(Out of Band)と呼ばれる13.5nm帯以外の真空紫外線から近赤外線領域の光も放射することが知られている。このアウトオブバンドは本来不必要なものであり、これは半導体基板に塗布されたレジストを感光することから、フィルターなどで除去すべき不要な光である。
【0006】
しかしながらタンタル(Ta)を用いた光吸収膜は真空紫外線から遠紫外線(Deep Ultra Violet:遠紫外線)領域、近赤外線領域の光も反射することから、上述の通り、隣接したチップの境界領域近傍の半導体配線部分において無視できない光量が積算され、配線パターンの寸法に影響を与える問題が発生する。
【0007】
この問題に対して、チップ境界の反射光を低減するためにEUV光の反射に寄与する多層反射膜をパターンを形成する吸収層に引き続きエッチングなどの手段で除去し、母材の石英表面を露出させるマスク構造も提案されている。しかしながら、アウトオブバンド光は、母材の石英を透過して、EUVマスクのパターン側とは反対面に形成された窒化クロム(CrN)などの裏面導電膜にて反射し、再度石英を透過して半導体基板側に放射し、半導体基板に塗布されたレジストを感光する問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−273651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、半導体基板で多重露光されるチップの境界領域に相応するマスク領域においてEUVおよび紫外線領域から近赤外線領域の光の反射を低減した反射型マスクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、波長5nmから15nmの光を露光光とするリソグラフィで用いられる反射型マスクブランクであって、基板と、基板上に形成された露光光を反射する多層反射膜と、多層反射膜上に形成された多層反射膜を保護する保護膜と、保護膜上に形成された露光光を吸収する吸収膜と、基板の、多層反射膜が形成された面とは反対面上に形成された導電膜とを備え、基板は、石英(SiO2)を主成分とし酸化チタン(TiO2)を含む材料で形成され、多層反射膜は、基板上にモリブデン(Mo)を材料とする層と珪素(Si)を材料とする層とが重ねられた層が、複数重ねられることで構成された多層構造で形成され、保護膜は、多層反射膜上に形成され、ルテニウム(Ru)またはシリコン(Si)のいずれかを含む材料で形成された単層構造、または、当該単層構造に最上層としてルテニウム(Ru)の酸化物、窒化物、酸窒化物、および、珪素(Si)の酸化物、窒化物、酸窒化物のいずれかを含む材料がさらに積層された積層構造を有し、吸収膜は、保護膜上に形成され、タンタル(Ta)及びその酸化物、窒化物、酸窒化物のいずれかを含む材料で形成された単層構造、または、当該単層構造に最上層としてタンタル(Ta)の酸化物、窒化物、酸窒化物、および、珪素(Si)の酸化物、窒化物、酸窒化物のいずれかを含む材料がさらに積層された積層構造を有し、導電膜は、酸化インジウムスズ(ITO)または酸化亜鉛(ZnO)のいずれかを含む材料の層を有する積層構造を有する。
【0011】
本発明はまた、上述の反射型マスクブランクにおいて、吸収膜を選択的に除去することで回路パターンが形成され、回路パターンを除く回路パターンの周囲の部分に、吸収膜と保護層と多層反射膜とを選択的に除去した枠状の領域が形成されて成る、反射型マスクである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、EUVおよびDUVの反射を除去する手段として、半導体基板で多重露光されるチップの境界領域に相応するマスク領域の吸収層、保護層および多層反射膜の一部を選択的に除去し枠状の領域を形成し、また、基板に対して対向位置の裏面導電膜は紫外線領域から可視領域の反射率が低いことを特徴とするフォトマスクを提供し、マスク領域においてEUVおよび紫外線領域から近赤外線領域の光の反射を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施例の反射型マスクブランクスの断面図
【図2】本発明の実施例の反射型マスクの平面図
【図3】本発明の実施例を反射型マスクの製造方法を示す工程図
【図4】本発明の実施例の反射型マスクの製造方法の各工程における断面図
【図5】本発明の実施例の反射型マスクの製造方法の各工程における断面図
【図6】本発明の実施例の裏面導電膜と従来の裏面導電膜との光学特性を示す図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。本実施形態では説明のため、膜として記載しているが、膜を層としてもよい。
【0015】
先ず、本発明の第1の実施形態について図1を参照して説明する。図1は、反射型マスクブランクス10の断面図である。反射型マスクブランクス10は、より具体的には、EUV光を用いた露光に使用するマスク用のブランクスである。EUV光の波長は、例えば13.5nmである。基板11の一面上に多層反射膜12、保護膜13、吸収膜14をこの順に形成する。基板11は石英基板であり、6インチ角で厚さは6.35mmである。多層反射膜12はモリブデン(Mo)を4.2nm、珪素(Si)を2.8nm、イオンビームスパッタリング装置で交互に40対、合計80層を、最上層が珪素(Si)となるように積層する。次に保護膜13としてルテニウム(Ru)をマグネトロンスパッタにて0.5nmから3nm積層する。次に吸収膜14を、タンタル(Ta)を母材として珪素(Si)を含む化合物からなる合金を窒素ガスの雰囲気中に混合し、マグネトロンスパッタにより20nmから150nm堆積し、さらにその上層にタンタル(Ta)を母材として珪素(Si)を含む化合物からなる合金を、窒素ガス、酸素ガスを混合したガスの雰囲気中に混合し、マグネトロンスパッタにより5nmから20nm堆積することで形成する。さらに、基板11の、多層反射膜12とは反対側面には、裏面導電膜15として酸化インジウムスズ(ITO)をマグネトロンスパッタにより100nm積層して形成する。
【0016】
次に、本発明の第2の実施形態について、図2を参照して説明する。図2は、図1で示した反射型マスクブランクス10を用いた露光用反射型マスク100であって、図2(a)はそのマスク100の平面図、図2(b)はそのマスク100の断面図である。図2(a)、(b)に示すように、マスク100は、回路パターンAの領域の外側に、吸収膜14、保護膜13及び多層反射膜12の一部にわたり、遮光枠領域Bを形成した構造である。
【0017】
次に、マスク100の製造方法を図3乃至図5に示す。ここで、図3は工程のステップを示し、図4及び図5は各工程での加工状態の断面図を示す。
【0018】
まず、図1に示したマスクブランクス10を用意し、吸収膜14に回路パターンAと領域Bを形成する。つまり、電子線に反応を示す化学増幅系や非化学増幅系レジスト21を吸収膜14に200nmの膜厚で塗布し(S1)、所定の回路パターンAと遮光枠領域Bを電子線描画装置により描画する(S2)。その後、アルカリ溶液などで現像を行い(S3)、これにより形成したレジスト21のパターンをマスクにして、フッ素系ガスや塩素系ガスを用いたガスプラズマによるエッチングを行い(S4)、不要なレジスト21のパターンを酸素プラズマによる灰化や硫酸やオゾン水などの酸化薬液による分解ないし有機溶剤などで溶解除去する(S5)。その後、必要に応じて、酸・アルカリ系薬品やオゾンガスや水素ガスなどを溶解した超純水や有機アルカリ系薬品、界面活性剤などによる洗浄処理(S6)と、遠心力を利用したスピン乾燥(S7)を行う。以上の工程により回路パターンAと遮光枠領域Bが形成される。
【0019】
次に、遮光枠領域Bの保護膜13と多層反射膜12の部分を形成する。まず、吸収膜14に紫外線または電子線に反応を示すレジスト21を塗布する(S8)。この後、遮光枠領域Bを露光または電子線で描画する(S9)。上述の(S3)−(S7)と同様、現像(S10)、エッチング(S11)、レジストの除去(S12)、洗浄(S13)、乾燥(S14)を行い、領域Bを完成する。エッチング工程(S11)では、まず、保護膜13の除去をフッ素系ガスプラズマを用い、多層反射膜12は保護膜13と同じくフッ素系ガスプラズマもしくは塩素ガス系プラズマを交互に用いる方法で行い、遮光枠領域Bを形成する。以上の工程により反射型マスク100が完成する。
【0020】
遮光枠領域Bの形成だけでは、基板11を一旦透過して裏面導電膜15から反射して再度戻ってくる光成分を除去しきれない。図6に従来の裏面導電膜材料の一例としてクロム(Cr)と、本発明のITOとによる透過率および反射率スペクトルの比較を示す。反射光とは吸収膜14側から入射し、基板11を透過して裏面導電膜15を反射して再度基板11を透過して吸収膜14から射出した光である。測定には反射率計を用いた。測定の結果、波長250nmから850nmの範囲において従来のクロム(Cr)に対して本発明のITOは平均で反射率は42.1%から13.5%に低減した。またITOのシート抵抗は90オーム/cm2(オーム/□とも記す)であった。なお、シート抵抗とは、JIS規格K6911−1995において定義された表面抵抗率を意味する。
【0021】
本発明により、裏面導電膜の導電性を確保しつつ透明性を向上させた材料を用いることにより、アウトオブバンド光が半導体基板側に導かれず、半導体基板上に塗布されたレジストの感光を避けることが可能となった。
【0022】
本発明は上述の実施形態そのままに限定されるものでなく、本発明の趣旨を逸脱しない限り、変形して具体化できる。また、明細書に示される事項の適宜の組み合わせによって種々の発明を想定できるものである。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は、反射型露光用マスク等に有用である。
【符号の説明】
【0024】
10 反射型マスクブランクス
11 基板
12 多層反射膜
13 保護膜
14a 吸収膜
14b 吸収膜
15a 裏面導電膜
15b 裏面導電膜
21 レジスト(パターン)
100 反射型マスク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長5nmから15nmの光を露光光とするリソグラフィで用いられる反射型マスクブランクであって、
基板と、
前記基板上に形成された露光光を反射する多層反射膜と、
前記多層反射膜上に形成された多層反射膜を保護する保護膜と、
前記保護膜上に形成された露光光を吸収する吸収膜と、
前記基板の、前記多層反射膜が形成された面とは反対面上に形成された導電膜とを備え、
前記基板は、石英(SiO2)を主成分とし酸化チタン(TiO2)を含む材料で形成され、
前記多層反射膜は、前記基板上にモリブデン(Mo)を材料とする層と珪素(Si)を材料とする層とが重ねられた層が、複数重ねられることで構成された多層構造で形成され、
前記保護膜は、前記多層反射膜上に形成され、ルテニウム(Ru)またはシリコン(Si)のいずれかを含む材料で形成された単層構造、または、当該単層構造に最上層としてルテニウム(Ru)の酸化物、窒化物、酸窒化物、および、珪素(Si)の酸化物、窒化物、酸窒化物のいずれかを含む材料がさらに積層された積層構造を有し、
前記吸収膜は、前記保護膜上に形成され、タンタル(Ta)及びその酸化物、窒化物、酸窒化物のいずれかを含む材料で形成された単層構造、または、当該単層構造に最上層としてタンタル(Ta)の酸化物、窒化物、酸窒化物、および、珪素(Si)の酸化物、窒化物、酸窒化物のいずれかを含む材料がさらに積層された積層構造を有し、
前記導電膜は、酸化インジウムスズ(ITO)または酸化亜鉛(ZnO)のいずれかを含む材料の層を有する積層構造を有する反射型マスクブランク。
【請求項2】
請求項1に記載の反射型マスクブランクにおいて、前記吸収膜を選択的に除去することで回路パターンが形成され、前記回路パターンを除く前記回路パターンの周囲の部分に、前記吸収膜と前記保護層と前記多層反射膜とを選択的に除去した枠状の領域が形成されて成る、反射型マスク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−93395(P2013−93395A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233553(P2011−233553)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】