説明

反射鏡付き管球、および照明装置

【課題】一重コイル状をした複数個の発光部が反射鏡の光軸と交差する方向に配列されてなるフィラメント体を有する管球を備えた反射鏡付き管球において、反射鏡を構成するガラス基体の熱割れの発生を防止すること。
【解決手段】反射鏡22のガラス基体28を形成するガラス材料として、発光部2個でフィラメント体を構成する場合は熱膨張係数が5.0×10−6[1/K]以下のものを、発光部3個でフィラメント体を構成する場合は熱膨張係数が4.0×10−6[1/K]以下のものを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射鏡付き管球、および照明装置に関し、特に、反射鏡の改良技術に関する。
【背景技術】
【0002】
反射鏡付き管球の一種である反射鏡付きハロゲン電球は、凹面状をした反射面を有する反射鏡とハロゲン電球とを組み合わせてなるものであり、例えば、店舗などのスポット照明用として使用されている。
反射鏡は、漏斗状をしたガラス製基体を有し、当該基体内面に多層干渉膜等がコーティングされて反射面が形成されている。
【0003】
ハロゲン電球は、気密封止されたバルブ内にフィラメント体が収納されてなる構成を有している。
ハロゲン電球を反射鏡と組み合わせて使用する場合、フィラメント体をできるだけコンパクトにして、その発光領域を可能な限り反射鏡の焦点位置に集中させることによって、集光効率を向上させることができる。この場合に、発光領域を特に反射鏡の光軸方向に縮小することが、集光効率を向上させるためには効果的であることが知られている。
【0004】
しかしながら、一般的に、ハロゲン電球の定格電圧[V]、定格電力[W]、および定格寿命(例えば、3000時間)が決まると、これに応じて、フィラメント体を構成するタングステン線の線径や長さが実質的に定まってしまう。したがって、例えば、単純にタングステン線の長さを短縮することによってフィラメント体のコンパクト化を図ることは困難である。
【0005】
そこで、定格電圧100[V]以上のハロゲン電球において、実用化されているものは、一般的に、フィラメント体のコンパクト化を図るため二重巻きコイルが用いられている。また、特許文献1には、さらなるコンパクト化のため、フィラメント体として、三重巻きコイルを用いたハロゲン電球が開示されている。これによれば、タングステン線の長さが同じであれば、反射鏡の光軸方向におけるコイル全体の長さを短縮でき、もって集光効率が向上することとなるからである。
【0006】
しかしながら、コイルの重ね巻数を増やせば増やすほど、ハロゲン電球に外力(衝撃力)が加えられた際に生じるコイルの振動の振幅が大きくなり、これが原因で断線し易くなるといった問題が生じる。
この問題を解決しつつ、フィラメント体のコンパクト化(光軸方向の短縮化)を図れるハロゲン電球として、特許文献2には、複数個の一重コイルが全体的に反射鏡の光軸に対して対称となるように各々の一重コイルを反射鏡の光軸と平行に配したものが開示されている。これにより、当該複数個の一重コイルに相当するものを1個の一重コイルで作製した場合と比較して、光軸方向の長さが短縮されるので、集光効率が向上することとなる。また、各々のコイルは一重なので、上記振動に因る問題も軽減される。
【0007】
さらに、これを改善したものとして、特許文献3には、上記複数個の一重コイルの内の1個を、反射鏡の光軸に平行にかつ光軸を含む位置に配する構成としたハロゲン電球が開示されている。光軸位置にコイル(すなわち、発光部)が存するのと存しないのとでは得られる照度に大きな差が生じると、一般的に考えられているからである。
【特許文献1】特開2001−345077号公報
【特許文献2】特表平6−510881号公報
【特許文献3】特開2002−63869号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2や特許文献3のハロゲン電球と上記した反射鏡とを組み合わせて、反射鏡付きハロゲン電球を構成した場合、点灯後まもなく、反射鏡のガラス基体に割れ(亀裂)が入るものが出現している。
そこで、本発明は、集光効率の改善された上記のような管球等を用いたとしても、反射鏡に割れの発生しにくい反射鏡付き管球を提供することを目的とする。また、そのような反射鏡付き管球を備える照明装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明に係る反射鏡付き管球は、ガラス基体の凹面部に反射面が形成されてなる反射鏡と、気密封止されたバルブと当該バルブ内に設けられたフィラメント体とを有し、前記反射鏡内に組み込まれた管球と、を備え、前記フィラメント体は、一重のコイル状をした2個の発光部からなり、各発光部のコイル軸心が前記反射鏡の光軸と略平行となる姿勢で、かつ、両発光部が前記光軸と交差する方向に間隔を置いて配列されてなるものであり、前記基体を形成するガラス材料の熱膨張係数が5.0×10−6[1/K]以下であることを特徴とする。
【0010】
上記の目的を達成するため、本発明に係る反射鏡付き管球は、ガラス基体の凹面部に反射面が形成されてなる反射鏡と、気密封止されたバルブと当該バルブ内に設けられたフィラメント体とを有し、前記反射鏡内に組み込まれた管球と、を備え、前記フィラメント体は、一重のコイル状をした3個の発光部からなり、各発光部のコイル軸心が前記反射鏡の光軸と略平行となる姿勢で、かつ、発光部の各々が前記光軸と交差する方向に互いに間隔を置いて配列されてなるものであり、前記基体を形成するガラス材料の熱膨張係数が4.0×10−6[1/K]以下であることを特徴とする。
【0011】
また、前記発光部の前記配列の方向を確認できる目印が、外観上目視できるところに設けられていることを特徴とする。
上記の目的を達成するため、本発明に係る照明装置は、照明器具と、前記照明器具に取り付けられている、上記の反射鏡付き管球と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る反射鏡付き管球によれば、フィラメント体が上記の構成をとるが故に、熱源となる発光部の少なくとも一部が反射鏡の光軸から外れ、ガラス基体に近接し、ガラス基体が局所的に加熱されることとなるものにおいて、ガラス基体を形成するガラス材料の熱膨張係数の上限が上記のように規定されているので、当該局所的に加熱される部分において発生する熱割れを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、実施の形態1に係る照明装置10の概略構成を示す一部切欠き図である。なお、図1を含む全ての図面において、各部材間の縮尺は統一していない。
照明装置10は、例えば、住宅、店舗、あるいはスタジオ等におけるスポットライト照明として用いられる。照明装置10は、照明器具12と反射鏡付き管球(反射鏡一体型の管球)の一例として示す反射鏡付きハロゲン電球14とを有する。
【0014】
照明器具12は、有底円筒状をした器具本体16と器具本体16を壁面等に取り付けるための固定具18とを有する。
器具本体16の底部には、反射鏡付きハロゲン電球14の口金26(図2参照)を取り付けるための受け具(図示せず)が設けられている。なお、器具本体16は、円筒状に限らず、種々の公知形状とすることができる。
【0015】
図2に、反射鏡付きハロゲン電球14の概略構成を表した断面図を示す。
反射鏡付きハロゲン電球14は、ハロゲン電球20、反射鏡22、前面ガラス24、および口金26等で構成される。
ハロゲン電球20の詳細については後述する。
反射鏡22は、ホウ珪酸ガラスからなり、漏斗状をしたガラス基体28を有する。ガラス基体28において回転楕円面または回転放物面等に形成された凹面部分28Aには、反射面を構成する多層干渉膜30が形成されている。多層干渉膜30は、アルミニウムやクロム等の金属膜の他、二酸化ケイ素(SiO)、二酸化チタン(TiO)、フッ化マグネシウム(MgF)、硫化亜鉛(ZnS)等で形成することができ、これにより、ダイクロイックミラーが構成される。実施の形態におけるダイクロイックミラーは、可視光は反射し、赤外線を80%透過する特性を有している。反射鏡22の開口径(ミラー径)は100mmである。なお、反射面には必要に応じてファセットを形成してもよい。
【0016】
前面ガラス24は、ガラス基体28の大きい方の開口部に設けられている。前面ガラス24は、ガラス基体28に公知の止め金具34によって係止されている。なお、止め金具34に代えて、接着剤で固着してもよい。あるいは、両方を併用しても構わない。
ガラス基体28のネック部28Bは、口金26の端子部36,38とは反対側に設けられた基体受け部40と嵌合された上、接着剤42で固着されている。
【0017】
なお、ガラス基体28の口金26への取り付けに先立って、ハロゲン電球20が、口金26に取り付けられている。また、口金26にハロゲン電球20とガラス基体28(反射鏡22)とが取り付けられた状態で(すなわち、反射鏡22内にハロゲン電球20が組み込まれた状態で)、ハロゲン電球20の後述するバルブ44の中心軸と反射鏡22の光軸とが略同軸上に位置する(前記中心軸と前記光軸とが略一致する)こととなる。
【0018】
図3に、ハロゲン電球20の一部切欠き正面図を示す。なお、ハロゲン電球20は、定格電圧が100[V]以上150[V]以下で、かつ定格電力が100[W]以下に設定された電球である。
ハロゲン電球20は、気密封止されたバルブ44を有している。
バルブ44は、封止切りの残痕であるチップオフ部46、後述するフィラメント体72等を収納するフィラメント体収納部48、略円筒状をした筒部50、および公知のピンチシール法によって形成された封止部52がこの順に連なった構造をしている。
【0019】
フィラメント体収納部48は、図3に示すように、略回転楕円体形状をしている。ここで言う「略回転楕円体形状」とは、完全な回転楕円体形を含むことはもちろんのこと、ガラスの加工上ばらつく程度分、完全な回転楕円体形からずれた形状を含むことを意味している。なお、フィラメント体収納部は、上記した形状に限らず、例えば、略円筒形状や略球形状、あるいは略複合楕円体形状としても構わない。
【0020】
また、バルブの構造も上記したものに限らず、例えば、チップオフ部(場合によっては無い場合もある)、フィラメント体収納部、封止部がこの順に連なったものとすることができる。
なお、フィラメント体収納部48の外面には赤外線反射膜が形成されている。もっとも、この赤外線反射膜は必ずしも必要なものではなく、適宜形成されるものである。
【0021】
バルブ44内には、ハロゲン物質と希ガスとがそれぞれ所定量封入されている。これに加えて、窒素ガスを封入することとしても構わない。
封止部52内には、一対の金属箔54,56が封着されている。金属箔54,56はモリブデン製である。
金属箔54の一端部には外部リード線58の一端部が、金属箔56の一端部には外部リード線60の一端部が、それぞれ接合されて電気的に接続されている。外部リード線58,60は、タングステン製である。外部リード線58,60の他端部は、バルブ44の外部に導出されていて、それぞれ、口金26(図2)の端子部36,38(図2)に電気的に接続されている。
【0022】
金属箔54の他端部には内部リード線62の一端部が、金属箔56の他端部には内部リード線64の一端部が、それぞれ接合されて電気的に接続されている。内部リード線62,64は、タングステン製である。内部リード線62,64の一端部は、バルブ44の封止部52で支持されている。内部リード線62,64は、口金26(図2)を介して供給される外部電力をフィラメント体72に給電すると共に、フィラメント体72の一部を直接に支持する支持部材としての役割を果たす。
【0023】
図4に、フィラメント体72を支持する支持構造体を示す斜視図を、図5に、当該支持構造体にフィラメント体72が支持された状態を示す斜視図をそれぞれ示す。
図4に示すように、フィラメント体72の一部を直接に支持する支持部材としては他に、タングステンからなるサポート線66がある。
内部リード線62,64、サポート線66は、一対の円柱状ステムガラス68,70で挟持されている。これによって、サポート線66が支持されると共に、内部リード線62,64、サポート線66相互間の相対的な位置が保持されることとなる。
【0024】
図5に示すように、フィラメント体72は、第1フィラメントコイル74および第2フィラメントコイル76の2個のフィラメントコイルからなる。第1および第2フィラメントコイル74,76は、タングステン線を後述するように巻回したものである。
内部リード線62,64、サポート線66は、フィラメントコイル74,76の端部部分に挿入されて、フィラメントコイル74,76を支持するための「コ」字状に屈曲した部分(以下、この部分を「コイル支持部」と称する。)を1箇所または2箇所有する。
【0025】
ここで、第1フィラメントコイル74は、内部リード線62のコイル支持部62A(図4参照)とサポート線66のコイル支持部66A(図4参照)とで支持されている。
第2フィラメントコイル76は、サポート線66のコイル支持部66B(図4参照)と内部リード線64のコイル支持部64A(図4参照)とで支持されている。
また、図5から明らかなように、第1フィラメントコイル74と第2フィラメントコイル76の一端部同士は、サポート線66で電気的に接続されている。すなわち、第1フィラメントコイル74と第2フィラメントコイル76は、サポート線66によって電気的に直列に接続されている。
【0026】
図5に示す状態で、内部リード線62,64から給電すると、第1および第2フィラメントコイル74,76は、コイル支持部が挿入されている部分では発光せずに(非発光部)、コイル支持部間で発光する。ここで、各フィラメントコイル74,76におけるコイル支持部間の部分(すなわち、発光する部分)を、それぞれ第1発光部74A、第2発光部76Aと規定することとする。すなわち、フィラメント体72は、一重のコイル状をした2個の発光部74A,76Aを有している。
【0027】
また、図4に示すように、第1、第2フィラメントコイル74,76(第1、第2発光部74A,76A)は、扁平な筒状に巻回されてなる一重コイル(以下、「扁平コイル」と略称する。)状をしている。このような形状にしたのは、以下の理由による。すなわち、特許文献2や特許文献3に記載されているような、円筒状に巻回されてなる従来の一重コイル(以下、「円筒コイル」と略称する。)と比較して、(扁平な筒の短軸長と円筒の直径が等しいとした場合)1ターン当たりの素線長を長くすることができる関係上、タングステン線の素線長が同じであれば、コイル長を短縮でき、もって、反射鏡の光軸方向(バルブの中心軸方向)におけるフィラメントコイル(発光部)の縮小化が図れることとなるからである。なお、コイルを扁平にすることにより、反射鏡の光軸と交差する方向の長さは、円筒状に巻回されたコイルよりも長くなるものの、集光効率の向上には、光軸と交差する方向よりも光軸方向に短縮する方の効果が大きいので問題はない。
【0028】
扁平コイルであるフィラメントコイル74,76は、以下のようにして作製される。
すなわち、図6に示すように、円柱状をした芯線(マンドレル)78を複数本(図示例では4本)、平行かつ一列に密着させて並べたものの外周に、タングステン線80を巻回した後、芯線78を溶解して作製する。
図7の上部に示すのは、第1フィラメントコイル74をそのコイル軸心CX方向から視た平面図を模式的に表したものであり、図7の下部に示すのは、同正面図を模式的に表したものである。
【0029】
第1、2フィラメントコイル74,76は略同一形態なので、第1フィラメントコイル74を代表にして説明する。
図7の上部に示すように、第1フィラメントコイル74は、そのコイル軸心CX方向から見て、平行に配された2本の線分の対応する端同士を半円で結んでなる、いわゆる(陸上競技の)トラック形状をしている。この形状は、上記した作製方法に由来するものであり、芯線78の本数が多いほど、より扁平したトラック形状となる。すなわち、芯線78の本数で、扁平の度合い(扁平率)を調整することができる。
【0030】
ここで、扁平率は、第1フィラメントコイル74内周における長軸LXの長さを短軸SXの長さで除して得られる値と規定する。本例では、上記した製作法を採る関係上、扁平率は整数の値となる。
また、上述したとおり、図7の下部に示すように、第1フィラメントコイル74は、コイル支持部62Aとコイル支持部66A(図4、図5)で支持された両端部部分の非発光部74Bと両コイル支持部62A,66A間部分の発光部74Aとを有している。
【0031】
図8の上部に示すのは、内部リード線62,64、サポート線66に取り付けられた状態の第1、第2フィラメントコイル74,76を、バルブ44の中心軸B(図2、図3)方向から見た平面図を模式的に表したものであり、図8の下部に示すのは、同正面図を模式的に表したものである。なお、ハロゲン電球20を反射鏡22に組み込んだ状態においては、図8は、反射鏡22の光軸R(図2)方向から、第1、第2フィラメントコイル74,76を見た図とも言える。ここで、図8は、第1、第2フィラメントコイル74,76間の配置位置の関係等を説明する目的で用いるため、本図において、内部リード線62,64の図示は省略し、サポート線66は、第1、第2フィラメントコイル74,76間の電気的な接続関係を示す目的で、単に線で表した。また、下部の正面図では、第1、第2フィラメントコイル74,76の第1、第2発光部74A,76Aを実線で、非発光部74B,76Bを二点鎖線でそれぞれ表した。
【0032】
図8に示すように、第1フィラメントコイル74(第1発光部74A)と第2フィラメントコイル76(第2発光部76A)とが、各々のコイル軸心CXが中心軸Bに略平行となり、かつ、両コイルの長軸LX同士が略平行となる姿勢で配されてフィラメント体72が構成されている。また、第1フィラメントコイル74(第1発光部74A)と第2フィラメントコイル76(第2発光部76A)とは、所定のコイル間隔(発光部間隔)D1を空けて配されている。さらに、中心軸Bに関する対称性を考慮して、第1フィラメントコイル74(第1発光部74A)と第2フィラメントコイル76(第2発光部76A)とは、中心軸Bから略等距離の位置に配されている。
【0033】
上記コイル間隔D1は、以下の観点から決定される。集光効率を考慮した場合、コイル間隔D1はできるだけ短いほうが好ましい。しかし、コイル間隔D1を短くして、第1フィラメントコイル74(発光部74A)と第2フィラメントコイル76(発光部76A)を接近させすぎると、当該コイル(発光部)間でアーク放電が生じ、コイル線が断線してしまうといった事態が生じる。そこで、コイル間隔D1は、少なくとも上記アーク放電が生じない程度の長さに設定される。
【0034】
上記のようにフィラメント体を、複数個(上記例では2個)の一重コイル(発光部)が全体的に反射鏡の光軸に対して対称となるように各々の一重コイルを反射鏡の光軸と平行に配したことにより、当該複数個の一重コイルに相当するものを1個の一重コイルで作製した場合と比較して、光軸方向の長さが短縮されるので、集光効率が向上することとなる。また、各々のコイルは一重なので、上記振動に因る問題も軽減される
しかしながら、このようにフィラメント体を構成した場合には、点灯後まもなくに、反射鏡を構成するガラス基体の割れるものが発生した。本願発明者がその原因を追究したところ、ガラス基体が局所的に加熱されることによる熱割れであることが判明した。
【0035】
フィラメント体が二重巻コイルからなる従来のハロゲン電球の場合、反射鏡に組み込まれた際、二重巻コイルは反射鏡の光軸を含む位置に配される。これに対し、上記実施の形態では、複数個の一重コイル(発光部)が光軸と直交する方向に配されるので、少なくとも一つの一重コイル(発光部)は、反射鏡の光軸から外れ、その分、反射鏡に近接することとなる。その結果、当該近接した一重コイル(発光部)で局所的に加熱される部分でガラス基体が割れるのである。
【0036】
ここで、ガラスにおける熱割れの原理について、ガラス基体を例に次のように考えた。ハロゲン電球の点灯直後、ガラス基体はその内面から急加熱され、熱せられた内面は熱膨張により伸びようとするが、ガラスの熱伝導率は小さいため、外面はほとんど伸びない。このため、内面部分には圧縮応力が、外面部分には引っ張り応力が発生する。そして、引っ張り応力が破断応力を超えると、ガラス基体は、その外面から割れるのである。
【0037】
本願発明者らは、この対策として内外面の伸びの差による応力を小さくするため、ガラス材料の熱膨張率に注目し、検討、実験を行った。
実験は、熱膨張係数の異なるガラス材料で基体を構成し、点灯させた際のガラス基体の割れ(亀裂)発生の有無を調査することによって行った。熱膨張係数は、3.6×10−6[1/K]、4.0×10−6[1/K]、4.5×10−6[1/K]、5.0×10−6[1/K]、および5.6×10−6[1/K]の5通りとした。なお、熱膨張係数は、ホウ珪酸ガラスを組成する成分中のホウ素(酸化ホウ素)とナトリウムやカリウムなどのアルカリ金属との成分比によって調整できる。
【0038】
なお、参考例として、従来の二重コイルのフィラメント体を有するハロゲン電球を用いた場合についても実験を行った。参考例として用いたのは、実用化されている反射鏡付きハロゲン電球(松下電器産業株式会社製、品番JDR110V65WKM/5E11)を構成するハロゲン電球である。
ここで、上記参考例として準備した反射鏡付きハロゲン電球を「参考電球」、フィラメント体72を有するハロゲン電球を備えた反射鏡付きハロゲン電球を「第1供試電球」と称することとする。
【0039】
実験は、反射鏡の光軸が水平となる姿勢で反射鏡付きハロゲン電球を点灯させて行った。
また、第1供試電球は、第1フィラメントコイル74(第1発光部74A)と第2フィラメントコイル76(第2発光部76A)が鉛直方向(縦方向)に並ぶ姿勢で点灯させた。後述するように、この姿勢が、ガラス基体の割れ(亀裂)が発生しやすい姿勢だからである。
【0040】
実験結果を図9に示す。
参考電球においては、いずれの熱膨張係数の場合でもガラス基体の割れ(亀裂)は発生しなかった。
一方、第1供試電球の場合、熱膨張係数が5.6×10−6[1/K]の場合に亀裂が発生し、5.0×10−6[1/K]以下の場合では割れ・亀裂は派生しなかった。
【0041】
したがって、第1供試電球の場合には、ガラス基体を形成するガラス材料の熱膨張係数を5.0×10−6[1/K]以下にすることで、点灯後間もなく生じるガラス基体の割れ(亀裂)を防ぐことが可能となる。
上記実施の形態では、2個のフィラメントコイル(発光部)でフィラメント体を構成したが、これに限らず、3個のフィラメントコイル(発光部)でフィラメント体を構成しても構わない。
【0042】
そのように構成したフィラメント体82について図10,図11を参照しながら説明する。なお、フィラメント体82を構成する各フィラメントコイル(発光部)の構成やその支持構造体は、その大きさ等を除き、フィラメント体72の場合と基本的に同様なので、その詳細についての説明は省略する。
図10は、支持構造体に支持されたフィラメント体82を表した斜視図であり、図5に対応するものである。図11は、フィラメント体82を模式的に表したものであり、図8に対応する図である。
【0043】
図10、図11に示すように、フィラメント体82は、第1フィラメントコイル84、第2フィラメントコイル86、および第3フィラメントコイル88を有する。
第1フィラメントコイル84は、内部リード線90のコイル支持部90Aとサポート線92のコイル支持部92Aとで支持されている。第2フィラメントコイル86は、サポート線92のコイル支持部92Bとサポート線94のコイル支持部94Aとで支持されている。第3フィラメントコイル88は、サポート線94のコイル支持部94Bと内部リード線96のコイル支持部96Aとで支持されている。
【0044】
内部リード線90,96、サポート線92,94は、一対の円柱状ステムガラス98,100で挟持されている。これによって、サポート線92,94が支持されると共に、内部リード線90,96、サポート線92,94相互間の相対的な位置が保持されることとなる。本例では、第2フィラメントコイル84内をバルブ44の中心軸B(反射鏡22の光軸R)が通過するように、理想的には、第2フィラメントコイル84のコイル軸心がバルブ44の中心軸B(反射鏡22の光軸R)と重なるように、第2フィラメントコイル84の位置決めがなされている。
【0045】
第1〜第3フィラメントコイル84,86,88は、第1、第2フィラメントコイル74,76(図5、図8)と同様、それぞれ、コイル支持部が挿入されていて発光しない非発光部84B,86B,88Bとコイル支持部間にあって発光する第1発光部84A、第2発光部86A、第3発光部88Aを有する。
フィラメント体82において、図11に示すコイル間隔d1も、フィラメント体72のコイル間隔D1の場合と同様の観点から定められる。
【0046】
フィラメント体82の場合は、フィラメント体72(図8)よりも反射鏡の光軸Rと直交する方向に大きくなる。すなわち、フィラメント体82の場合は、フィラメント体72の場合よりも、反射鏡22(ガラス基体28)に近接するフィラメントコイル(発光部)が存することとなる。その結果、ガラス基体28の局所的に加熱される部分の温度がさらに上昇する。そこで、フィラメント体82の場合に、ガラス基体28の熱割れが防止できる熱膨張係数の上限を調査すべく、上記と同様の実験を行った。なお、フィラメント体82を有するハロゲン電球を備え、当該実験に供した反射鏡付きハロゲン電球を「第2供試電球」と称することとする。また、第1供試電球の場合と同様、第1フィラメントコイル84(第1発光部84A)と第2フィラメントコイル86(第2発光部86A)と第3フィラメントコイル88(第3発光部88A)とが鉛直方向(縦方向)に並ぶ姿勢で点灯させた。
【0047】
実験の結果を図9に示す。図9に示すように、第2供試電球の場合、熱膨張係数が4.5×10−6[1/K]以上の場合に亀裂が発生し、4.0×10−6[1/K]以下の場合では割れ・亀裂は派生しなかった。
したがって、第2供試電球の場合には、ガラス基体を形成するガラス材料の熱膨張係数を4.0×10−6[1/K]以下にすることで、点灯後間もなく生じるガラス基体の割れ(亀裂)を防ぐことが可能となる。
【0048】
上述したように、上記実験は、複数個のフィラメントコイルが鉛直方向(縦方向)に並ぶ姿勢で反射鏡付きハロゲン電球を保持して行った。これは、以下の理由による。ハロゲン電球の点灯中、反射鏡22内には、フィラメントコイル(発光部)で発生した熱の対流が生じる。この対流による加熱の程度は、当然のことながらガラス基体内側の上部で最も高くなる。そして、当該上部に対する加熱の程度は、反射鏡の光軸を水平方向に向けて点灯した際には、上記の姿勢をとった場合に最も高くなり、熱割れが最も発生しやすくなる。したがって、熱膨張係数の上記範囲を画定するに際し、熱割れに対して最も悪条件となる上記姿勢で実験を行ったのである。
【0049】
このように、最も悪い条件の下で熱膨張係数の範囲を画定しているので、当該範囲の熱膨張係数を有するガラス材料でガラス基体を形成すれば、どのような姿勢で反射鏡付きハロゲン電球を用いても基本的に問題はない。しかしながら、対流による熱の悪影響をできるだけ排除するためには、複数個のフィラメントコイルが水平方向(横方向)に並ぶ姿勢で反射鏡付きハロゲン電球を使用することが好ましい。ところが、ハロゲン電球は反射鏡に組み込まれており、さらに前面ガラスを有する場合には、フィラメントコイルの並び方向を確認するのは困難である。このため、反射鏡付きハロゲン電球の外観からフィラメントコイルの並び方向を確認できるようにするための目印を付けることとしても構わない。
【0050】
図12に、そのような目印を有する反射鏡付きハロゲン電球を示す。図12(a)、(b)、(c)、(d)に示すのは、いずれも、フィラメント体82(図10、図11)を有するハロゲン電球を備えた反射鏡付きハロゲン電球である。
図12(a)に、一例として示す反射鏡付きハロゲン電球102の正面図を、図12(b)に同平面図を示す。反射鏡付きハロゲン電球102では、反射鏡104のガラス基体106に上記目印として突起108を設けた。突起108の設けるのは、反射鏡104の光軸Rが水平方向となり、かつ、3個のフィラメントコイル84,86,88が水平方向に並ぶような姿勢をとった際に、ガラス基体106の外表面上、光軸R周りに最上部となる位置を含む部分である。
【0051】
図12(c)に示す反射鏡付きハロゲン電球110は、突起108に代え、目印として凹部112を設けた例である。当該目印を設ける位置や、その他の構成は、ハロゲン電球102と同様なので、その説明については省略する。
図12(d)に示す反射鏡付きハロゲン電球114は、目印となる突起116を前面ガラス118に設けた例である。突起116の設けるのは、反射鏡120の光軸Rが水平方向となり、かつ、3個のフィラメントコイル84,86,88が水平方向に並ぶような姿勢をとった際に、前面ガラス118の外表面上、光軸R周りに最上部となる位置を含む部分である。なお、突起116に代えて凹部を設けることとしてもよい。
【0052】
また、突起や凹部に限らず、例えば、閉じた領域に形成した凹凸による模様でも構わない。
照明器具によっては、取り付けられた反射鏡付きハロゲン電球の姿勢をある程度変更できるものがある。このような照明器具の場合、上記目印を見ながら、反射鏡付きハロゲン電球を上記した好ましい姿勢に調整することが可能となる。
【0053】
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明してきたが、本発明は上記した形態に限らないことは勿論であり、例えば、以下のような形態とすることも可能である。
(1)上記実施の形態では、フィラメント体を複数個のフィラメントコイルで構成したが、これに限らず、フィラメントコイル1個で構成することとしても構わない。
図13は、そのように構成したフィラメント体122を表した図である。フィラメント体122は、フィラメントコイル74,76(図5)、フィラメントコイル84,86,88(図10)と同様にして作成された(図6)1個のフィラメントコイル124を湾曲状態で保持したものである。
【0054】
フィラメントコイル124の一端部部分は内部リード線126のコイル支持部126Aで支持され、他端部部分は内部リード線128のコイル支持部128Aで支持されている。そして、山型に湾曲した形状とするため、フィラメントコイル124の長手方向中央位置がサポート線130で支持されている。フィラメントコイル124は、コイル支持部126A,128Aで支持されている部分では発光せず(非発光部)、コイル支持部間で発光する(発光部)。なお、符号132,134で示すのはステムガラスである。
【0055】
図14(a)は、図13において矢印Aの向きにフィラメントコイル124の発光部を見た場合の発光部の形状を模式的に表した図である。
図13に示した例では、図14(a)に示すように、発光部を山型の形状としたがこれに限らず、例えば、図14(b)に示すように「U」字状としても、図14(c)に示すように「V」字状としても構わない。
【0056】
そのような形状は、サポート線を増設する等して、フィラメントコイルの中間支持位置を適宜選択することにより実現可能である。
(2)フィラメントコイルは、上記したトラック形状に限らず、他の扁平形状でも構わない。要は、互いに直交する長軸と短軸を有する扁平な横断面をした筒状に巻回されていれば構わない。また、扁平率も整数に限らず、任意の小数をとり得る。
【0057】
ここで、本発明において「短軸と長軸とを有する扁平な横断面」とは、以下に記すような形状のものを含む。当該形状について図15を参照しながら説明する。なお、図15では、短軸に符号「SX」を、長軸に符号「LX」を、また、短軸および長軸の両軸と略直交する中心軸(すなわち、コイル軸心)に符号「CX」をそれぞれ付している。
(i)同図(a)に示すように、コイル軸心CX方向から見て、上記したトラック形状のもの、つまり二つの平行な線分とそれらの各々の両端を略半円で結んだもの。
【0058】
(ii)同図(b)に示すように、コイル軸心CX方向から見て、円形を押し潰した形状のもの。
(iii)同図(c)に示すように、コイル軸心CX方向から見て、略楕円形状のもの
(iv)同図(d)に示すように、コイル軸心CX方向から見て、略長方形のもの。但し、四隅は、加工上、丸みを帯びる。
【0059】
(v)その他、コイル軸心CX方向から見て、上記(i)〜(iv)に類似した形状のもの。例えば上記(i)において、同図(e)に示すように、二つの平行な線分が内方向に湾曲していても上記(i)に類似した形状として含む。また、ここでは、加工ばらつきによる上記(i)〜(iv)の変形形状も含む。
(3)また、本発明は、フィラメント体の発光部を扁平な筒状に巻回された一重のコイル状をしたものとしたが、これに限らず、円筒状に巻回された一重のコイル状をしたものとしても構わない。
(4)上記実施の形態では、管球の一例としてハロゲン電球を示したが、本発明は、ハロゲン電球以外の管球にも適用可能である。要は、フィラメント体に電流を流して白熱発光させる光源であれば構わないのである。
(5)上記実施の形態では、反射鏡のガラス材料として、ホウ珪酸ガラスを例に説明したが、本発明は、他の硬質ガラス、例えば、石英ガラスを用いた場合にも適用可能である。あるいは、反射鏡のガラス材料として、ソーダガラス等の軟質ガラスを用いた場合にも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明に係る反射鏡付き管球は、例えば、店舗などのスポット照明として好適に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】実施の形態に係る照明装置の概略構成を示す一部切欠き図である。
【図2】上記照明装置を構成する反射鏡付きハロゲン電球を示す図である。
【図3】上記反射鏡付きハロゲン電球を構成するハロゲン電球を示す図である。
【図4】上記ハロゲン電球におけるフィラメント体の支持構造を示す斜視図である。
【図5】上記支持構造にフィラメント体が支持された状態を示す斜視図である。
【図6】上記フィラメント体を構成するフィラメントコイルの製作方法を説明するための図である。
【図7】フィラメントコイルの平面図(上部)と正面図(下部)を表す模式図である。
【図8】上記フィラメント体の平面図(上部)と正面図(下部)を表す模式図である。
【図9】熱割れに関する実験結果を示す図である。
【図10】別のフィラメント体を示す斜視図である。
【図11】上記別のフィラメント体の平面図(上部)と正面図(下部)を表す模式図である。
【図12】(a),(b)は反射鏡のガラス基体に目印となる突起が設けられた反射鏡付きハロゲン電球を示す図であり、(c)は反射鏡のガラス基体に目印となる凹部が設けられた反射鏡付きハロゲン電球を示す図であり、(d)は前面ガラスに目印となる突起が設けられた反射鏡付きハロゲン電球を示す図である。
【図13】変形例に係るフィラメント体を示す斜視図である。
【図14】(a)は上記変形例に係るフィラメント体の発光部形状を示す模式図であり、(b)、(c)は、他の変形例に係るフィラメント体の発光部形状を示す模式図である。
【図15】扁平な筒(状)の横断面の形状を例示した図である。
【符号の説明】
【0062】
10 照明装置
12 照明器具
14,102,110,114 反射鏡付きハロゲン電球
22,104,120 反射鏡
28,106 ガラス基体
30 多層干渉膜
44 バルブ
72,82,122 フィラメント体
108,118 突起
112 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基体の凹面部に反射面が形成されてなる反射鏡と、
気密封止されたバルブと当該バルブ内に設けられたフィラメント体とを有し、前記反射鏡内に組み込まれた管球と、
を備え、
前記フィラメント体は、一重のコイル状をした2個の発光部からなり、各発光部のコイル軸心が前記反射鏡の光軸と略平行となる姿勢で、かつ、両発光部が前記光軸と交差する方向に間隔を置いて配列されてなるものであり、
前記基体を形成するガラス材料の熱膨張係数が5.0×10−6[1/K]以下であることを特徴とする反射鏡付き管球。
【請求項2】
ガラス基体の凹面部に反射面が形成されてなる反射鏡と、
気密封止されたバルブと当該バルブ内に設けられたフィラメント体とを有し、前記反射鏡内に組み込まれた管球と、
を備え、
前記フィラメント体は、一重のコイル状をした3個の発光部からなり、各発光部のコイル軸心が前記反射鏡の光軸と略平行となる姿勢で、かつ、発光部の各々が前記光軸と交差する方向に互いに間隔を置いて配列されてなるものであり、
前記基体を形成するガラス材料の熱膨張係数が4.0×10−6[1/K]以下であることを特徴とする反射鏡付き管球。
【請求項3】
前記発光部の前記配列の方向を確認できる目印が、外観上目視できるところに設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の反射鏡付き管球。
【請求項4】
照明器具と、
前記照明器具に取り付けられている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の反射鏡付き管球と、を有することを特徴とする照明装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2008−140582(P2008−140582A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−323435(P2006−323435)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】