説明

反射鏡

【課題】発熱量の大きい光源ランプで長時間に亘って加熱されてもクラックや破損を発生し難い耐熱性に優れた反射鏡を安価に提供すること。
【解決手段】凹面を有する鏡基材11を含む反射鏡10において、前記凹面に反射膜12が形成されている。鏡基材はガラス部材からなる。鏡基材の凹面とは反対側を向いた背面は凹凸状に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶プロジェクター、オーバーヘッドプロジェクター、及び映写機等の投影機器、一般照明及びスポットライト等を得るための照明機器、及びその他の機器に使用可能な光源ランプのための反射鏡に関するものである。
【背景技術】
【0002】
投影機器や照明機器に使用される反射鏡の鏡基材として、前面側に、回転放物面や回転楕円面をなす凹面を有するガラス部材を用いたものがある。鏡基材の凹面には、多層反射膜(例えばSiO膜とTiO膜が交互に25〜50層積層された多層膜)がスパッタリングや真空蒸着で形成される。こうして、凹状の反射面を有する反射鏡が製造されている。なお、鏡基材の中央部には光源ランプのための取り付け孔が形成されている。
【0003】
光源ランプは、長時間の使用によって応力集中が発生したり、異常放電が起こることによって破裂することがあるため、反射鏡の前面は、保護ガラス板で封止されている。これによって、光源ランプが破裂した時でも、その破片が前方に飛び散らないようにしている。
【0004】
このような投影機器や照明機器には強い可視光が要求されるため、光源ランプとしては、超高圧水銀ランプ、アークメタルハライドランプ、ハロゲンランプ等が一般に使用される。この種の光源ランプからは可視光だけでなく赤外光も放射されるため、反射鏡の鏡基材が加熱されることになる。
【0005】
そのため反射鏡の鏡基材には、耐熱性と耐熱衝撃性に優れていることが要求される。従来、反射鏡の鏡基材には低膨張のホウケイ酸ガラスや結晶化ガラスが使用されている。
【0006】
また、特許文献1には、鏡基材の凹面とは反対側の背面に複数の放熱フィンを設けた反射鏡が提案されている。
【0007】
【特許文献1】特開平9−55109号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
投影機器や照明機器において、投影される像をより明るくするため、使用する光源ランプの高輝度化すなわち高ワット化を進めると、それに伴い光源ランプの発熱量が増大する。増大した発熱量をもつ光源ランプで反射鏡が長時間に亘って加熱されると、鏡基材に応力が発生し、僅かな衝撃が加わるだけでクラックが生じ、多層反射膜が剥離したり、場合によっては、鏡基材が破損したりすることがある。
【0009】
さらに、反射鏡の加工や搬送の際に、鏡基材の外側の面すなわち背面が他の部材と接触することによって微少な傷を形成されることがある。このような傷が存在すると、反射鏡が加熱された際、傷の部分に応力が集中し、そこを起点として鏡基材が破損する虞が増大する。
【0010】
増大した発熱量をもつ光源ランプを使用した場合は、鏡基材に放熱フィンを設けるだけでは十分に放熱することができず、鏡基材にクラックや破損が生じる虞がある。加えて、放熱フィンの成形は一般に困難で歩留まりが悪く、反射鏡のコスト上昇の要因ともなる。
【0011】
それ故に本発明の課題は、発熱量の大きい光源ランプで長時間に亘って加熱されてもクラックや破損を発生し難い耐熱性に優れた反射鏡を安価に提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様によれば、凹面を有する鏡基材と、前記凹面に形成された反射膜とを有し、前記鏡基材がガラス部材からなり、前記鏡基材の前記凹面とは反対側を向いた背面が凹凸状に形成されている、ことを特徴とする反射鏡が得られる。
【発明の効果】
【0013】
本発明による反射鏡は、耐熱性に優れ、しかも安価に製造することが可能で、かつ発熱量の大きい光源ランプで長時間に亘って加熱されてもクラックや破損を発生し難い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
まず図1を参照して、本発明の実施形態に係る反射鏡を備えた光源装置について説明する。
【0015】
図示の光源装置において、反射鏡10は、前面を曲面で構成される凹面とする形状の鏡基材11と、その凹面に多層に形成されて回転放物面をなす凹状の反射面12aを生成する反射膜12と、鏡基材11の最外周部分に形成した矩形状の開口部11aに結合された保護ガラス板13とを有している。鏡基材11はその背面側に、ランプ取り付け孔11bを規定する支持筒部11cを備えている。
【0016】
ランプ取り付け孔11bには、光源ランプとしてショートアーク型高圧水銀放電ランプ14が装着されている。高圧水銀放電ランプ14は、石英ガラスからなる略球状体の放電容器14aを有している。放電容器14aの内部には、一対の電極、つまり陽極14bと陰極14cが対向配置されている。また放電容器14aの内部には、水銀と希ガスが封入されている。保護ガラス板13は、高圧水銀放電ランプ14が破裂したときその破片が前方へ飛び散るのを防ぐためのものである。
【0017】
放電容器14aの両端には、封止部14dが一体に連結されている。封止部14dは、放電容器14aの両端から伸びる石英ガラスのパイプ体を溶融状態にして内部を減圧にする方法、つまり、シュリンクシール法により形成されたものである。封止部14dの内部には電極14b、14cと外部リード14eとを電気的に接続するモリブデン箔(図示省略)が埋設されている。
【0018】
直流点灯型の陽極14bと陰極14cの極性は図1に示すものとは逆でも良く、更には交流点灯型であっても良い。また封止部14dは、石英ガラスのパイプ体を溶融状態にして圧潰するピンチシール法により形成しても良い。
【0019】
高圧水銀放電ランプ14の水銀封入量は0.2mg/mmであり、希ガスとしてアルゴンガスが10kPaの圧力で封入されている。また電極間距離は1.5mm、放電容器11の内容積は260mmであり、定格電圧が82V、定格消費電力が200Wである。因みにショートアーク型高圧水銀放電ランプ14を液晶プロジェクションのランプとして使用するためには、水銀は0.16mg/mm以上封入する必要がある。
【0020】
高圧水銀放電ランプ14の軸線は、鏡基材11の光軸と一致し、且つ、点灯時に電極14b、14c間に形成されるアーク輝点が鏡基材11の第1焦点に位置した状態で、支持筒部11cに充填された接着剤15により鏡基材11に固定されている。鏡基材11の開口部11aには、保護ガラス板13が低融点ガラスフリット(図示省略)で封着されている。
【0021】
上述した反射鏡10において、鏡基材11及び保護ガラス板13のうち少なくとも一方が、イオン交換により機械強度が強化されたガラス部材からなる。そのため、光源ランプの発熱量が大きくなり、長時間加熱されても反射鏡10にクラックや破損が発生し難い。さらに機械強度を強化することで、ガラス部材の厚みを小さくすることも可能となり、機器の軽量化や小型化を図ることができる。またイオン交換によりガラス部材の機械強度を強化すると、常温下のみならず、高温下での機械的強度も高くなる。またイオン交換によって耐熱衝撃性も向上するため、反射鏡10は急激な温度変化に曝されても破損し難くなる。
【0022】
イオン交換の方法としては、低温型イオン交換法、高温型イオン交換法、表面結晶化法等が知られているが、イオン交換時におけるガラスの変形が殆どない低温型イオン交換法が最適である。低温型イオン交換法は、ガラスを化学強化溶液に浸漬し、ガラスの徐冷点以下の温度で、ガラス中のアルカリ金属イオンを、それよりイオン半径の大きいアルカリ金属イオンと置換し、イオン交換部の容積増加によってガラスの表面層に強い圧縮応力を発生させてガラス表面を強化する方法である。
【0023】
イオン交換に使用される化学強化溶液としては、硝酸カリウム(KNO)、硝酸ナトリウム(NaNO)、炭酸カリウム(KCO)等の溶融塩や、これらの塩を混合したもの(KNO+NaNO、KNO+KCO)の溶融塩、あるいは、これらの塩にCu、Ag、Rb、Cs等のイオンの塩を混合したものの溶融塩等が使用できる。イオン交換時の温度は300〜600℃程度、加熱時間は数時間〜数十時間である。
【0024】
図2(a)及び(b)を用いて、上述したイオン交換の原理について説明する。図2(a)はイオン交換前の状態を示し、図2(b)はイオン交換後の状態を示す説明図である。
【0025】
イオン交換を行うには、まずガラス部材を徐冷点より低い温度に保持されたイオン交換浴槽の溶融塩中に所定時間浸漬し、ガラス中のアルカリ金属イオン(Li、Na)を、それよりもイオン半径の大きいアルカリ金属イオン(LiにはNa及び/又はK、NaにはK)で置換すれば良く、これによってガラス表面に強い圧縮応力を発生させて実用強度を増大させることができる。
【0026】
イオン交換法は、例えば物理強化法の一種である風冷強化法に比べて2倍以上の強度が得られること、形状や肉厚の制限を受けないこと、変形が起こらないため、高い寸法精度が得られること、後加工ができること、傷が付きにくいこと等の長所を有している。
【0027】
ガラス部材は、30〜380℃の温度域で、5〜60×10−7/℃の熱膨張係数を有すると、膜剥がれが少なく、優れた耐熱衝撃性が得られるため好ましい。すなわち熱膨張係数が5×10−7/℃より小さいと、反射防止膜の熱膨張係数との差が大きくなり、膜剥がれが発生しやすくなり、60×10−7/℃より大きいと、イオン交換しても、耐熱衝撃性を十分に上げることができなくなり、急激な温度変化に曝されるとガラスが破損しやすくなる。好ましい熱膨張係数は、20〜50×10−7/℃、さらには30〜48×10−7/℃である。
【0028】
反射膜は鏡基材の凹面に多層をなして形成されているため、光源ランプから放射された光が、効率良く前方に反射され、したがって高輝度の投影機器や照明機器が得られる。この多層の反射膜は、イオン交換されたガラス部材の強度の低下を抑えることができるという機能も備えている。例えば、イオン交換されたガラス部材が長時間に亘って高温下に曝されると、ガラス中のアルカリ金属イオンが、空気中の水分と徐々に置換され、その結果、ガラス部材の機械的強度が低下しやすくなる。しかし、ガラス部材の表面に多層に反射膜を形成すると、これがバリア層となって、ガラス中のアルカリ金属イオンと空気中の水分の置換が起こらないため、強度低下を防止することが可能となる。
【0029】
高屈折率膜と低屈折率膜を交互に25〜50層積層し、30〜50×10−7/℃の熱膨張係数(30〜380℃の温度域)を有するものが反射膜として適している。高屈折率膜としては、TiO、Ta、Nb等の膜が適している。低屈折率膜としては、SiO、MgF等の膜が適している。成膜性及び耐熱性に優れ、かつ安価であるという理由から、TiOとSiOの交互層膜が好適である。また成膜法としては、スパッタリング法や真空蒸着法が使用できる。
【0030】
また鏡基材は、600℃以上の歪点を有するガラスから作製すると、非常に優れた耐熱性が得られ、しかも高温下で長期間使用しても機械的強度が低下することがないため好ましい。高温下で長期間使用しても鏡基材の機械的強度が低下しない理由は、次のとおりである。
【0031】
上記したように、イオン交換法は、ガラス中のアルカリ金属イオン(Li、Na)を、溶融塩中のイオン半径のより大きいアルカリ金属イオンと置換することによって、ガラス表面から数十ミクロン(例えば20〜30μm程度)の深さに圧縮応力層を発生させ、強度を増大させる方法である。ところが、ガラスをイオン交換しても、その使用温度が、ガラスの歪点より高いと、徐々にガラス表面の圧縮応力が緩和されて強度が低下しやすくなる。一般に鏡基材の使用温度は500〜600℃程度であるので、歪点が600℃以上のガラス部材を使用すれば、長期間使用されても圧縮応力が緩和され難く、機械的強度の低下を抑えることができる。ガラスの歪点は、620℃以上、さらには630℃以上であることがより好ましい。
【0032】
次に、図3をも参照して、図1に示す反射鏡10の細部を説明する。
【0033】
反射鏡10の加工や搬送の際に、鏡基材11の外側の面すなわち背面が他の部材と接触することによって微少な傷を与えられることがある。このような傷が存在すると、反射鏡10が加熱された際、傷の部分に応力が集中し、そこを起点として鏡基材11が破損する虞がある。
【0034】
この破損を防止するため、鏡基材11の背面を凹凸状(凸部を11dで示し、凹部を11eで示した)に形成している。鏡基材11の背面を凹凸状に形成すると、背面が他の部材と接触しても、凸部11dに傷が形成されるだけであり、凸部11d同士の谷間である凹部11eには傷が形成されにくい。反射鏡10が加熱された時、背面に形成された凸部11dよりも、凹部11eに応力が集中しやすくなるが、凹部11eには傷が形成されにくいため、傷への応力集中を防止できることになる。
【0035】
凹部11d及び凸部11eの大きさや数は、鏡基材11の背面が他の部材と接触した際に、凸部11dのみに傷が形成され、凹部11eには傷が形成されないように適宜設計すれば良い。したがって、鏡基材11の背面は、例えばJIS B0601における中心線平均粗さ(Ra)が10μm以上、好ましくは100μm以上となるような面に形成すれば良い。また凸部11d及び凹部11eは、反射鏡の背面の全面に亘って形成しても良いし、特に他の部材と接触しやすい部分のみに限定して形成しても良い。
【0036】
ガラス部材の材質としては、アルミノシリケートガラス、ホウケイ酸ガラス、結晶化ガラスのいずれかが適しているが、最も適した材質は、アルミノシリケートガラスである。アルミノシリケートガラスは、ホウケイ酸ガラスに比べて、耐熱性に優れ、イオン交換によって強度を増大させやすいという特徴を有し、より具体的には、質量%で、SiO 50〜80%、Al 5〜35%、LiO+NaO 0.5〜15%の組成を有するアルミノシリケートガラスが好適である。
【0037】
このようにアルミノシリケートガラスの組成を限定した理由は、次のとおりである。
【0038】
SiOはガラスの骨格を形成する成分であり、その含有量は50〜80%、好ましくは55〜75%、より好ましくは60〜72%である。SiOが50%より少ないと、歪点が低下すると共に熱膨張係数が大きくなりすぎて耐熱衝撃性が低下し、80%より多いとガラスの溶融が困難となる。
【0039】
Alもガラスの骨格を形成すると共にイオン交換を促進するための成分であり、その含有量は5〜35%、好ましくは10〜30%、より好ましくは12〜28%である。Alが5%より少ないと、上記効果が得られ難く、また歪点が低下すると共にガラスが失透し易くなり、35%より多いと、ガラスの粘度が大きくなりすぎてガラスの溶融が困難となる。
【0040】
LiOとNaOは、ガラスの粘度を調整すると共にイオン交換で置換される成分であり、合量で0.5〜15%、好ましくは1〜10%、より好ましくは3〜8%含有される。LiOとNaOの合量が、0.5%より少ないと、イオン交換しても十分な強度が得られず、15%より多いと、ガラスが失透し易くなる。特にガラス中のLiOを、イオン交換によってNaOと置換すると、強度を向上させやすいため、LiOを1〜7%含有することが好ましい。
【0041】
またこのガラスは、上記成分以外にも、粘度、熱膨張係数、失透性、溶融性等を調整する目的で、KO、MgO、CaO、ZnO、BaO、B、TiO、ZrO、P等を各々10%まで、清澄剤を2%まで含有させることができ、特に、SiO 60〜72%、Al 12〜28%、LiO 1〜7%、NaO 0〜5%、KO 0〜5%、MgO 0〜5%、ZnO 0〜5%、BaO 0〜8%、TiO 0〜8%、ZrO 0〜7%、P 0〜7%、清澄剤 0〜2%の組成を有するガラスが生産性に優れているため好ましい。尚、清澄剤は、As、Sb、SnO、Cl等を単独で使用したり、これらの複数を適宜組み合わせて使用すれば良いが、Asは環境上、有害であるため使用しない方が良い。
【0042】
またホウケイ酸ガラスとしては、質量%で、SiO 70〜85%、B 5〜18%、Al 1〜5%、LiO+NaO 3〜10%の組成を有し、30〜380℃における平均熱膨張係数が、40×10−7/℃以下のガラスが好ましい。
【0043】
このようにホウケイ酸ガラスの組成を限定した理由は、次の通りである。SiOが70%より少ないと、熱膨張係数が上昇し、耐熱性が低下する。一方、85%より多いと、ガラスの溶融性が低下する。Bが5%より少ないと、ガラスの溶融性が低下し、18%より多いと、化学的耐久性が低下し、ガラスが不安定となる。Alが1%より少ないと、化学的耐久性が低下し、ガラスが不安定となり、5%より多いと、ガラスの溶融性が低下する。LiOとNaOの合量が3%より少ないと、ガラスの溶融性が低下すると共に、イオン交換による強化が困難となり、10%より多いと、熱膨張係数が上昇し、耐熱性が低下しやすくなる。また他の成分として、Cl、F、Sb、As、Bi、CaO、ZrO等を合量で3%まで含有させても良い。
【0044】
また結晶化ガラスとしては、質量%で、SiO 55〜80%、Al 15〜30%、LiO+NaO 1〜10%、KO 0〜10%、MgO+CaO+BaO+ZnO 0.5〜5%、TiO+ZrO+P 0.5〜10%、As+Sb 0〜2%の組成を有し、熱処理によりβ−石英固溶体結晶やβ−スポジューメン結晶を析出し、30〜380℃における平均熱膨張係数が−10〜+25×10−7/℃の結晶化ガラスが好ましい。
【0045】
このように結晶化ガラスの組成を限定した理由は、次の通りである。SiOが55%より少ないと、ガラスが失透しやすくなり、80%より多いと、ガラスの溶融が困難となる。Alが15%より少ないと、熱膨張係数が上昇し、耐熱性が低下しやすく、30%より多いと、ガラスの溶融が困難となる。LiO+NaOが1%より少ないと、ガラスの溶融性が低下すると共に、イオン交換による強化が困難となり、LiO+NaOが10%より多くなったり、KOが10%より多くなると、熱膨張係数が上昇し、耐熱性が低下する。MgO+CaO+BaO+ZnOが0.5%より少ないと、ガラスの溶融が困難となり、5%より多いと、熱膨張係数が上昇し、耐熱性が低下する。TiO、ZrO、Pは核形成剤として作用するが、これらの成分の合量が0.5%より少ないと、結晶化が困難となり、10%より多いと、ガラスの溶融が困難となる。AsとSbは、清澄剤として作用し、2%まで添加可能である。
【0046】
また、図1及び3の光源装置の各々における反射鏡10の鏡基材11は、プレス成形法で略円椀形状に成形される。成形後の鏡基材11の前面部の表面粗さ(Ra)が0.05μm以上であると、光が乱反射したり、イオン交換の薬液が残存し、成膜性が低下しやすくなる。したがって、その場合には、表面を研磨して表面粗さ(Ra)を0.05μm未満(好ましくは、0.03μm以下)にすることが要求される。
【0047】
また保護ガラス板13は、低融点ガラスフリットを使用して鏡基材の前面側に封着すれば良いが、鏡基材と同じ材質から作製すると良好な封着状態が得られるため好ましい。さらに、保護ガラス板13の片面又は両面に反射防止膜を形成すると、光源ランプから放射される光が、保護ガラス板13の表面で反射するのを抑えることができ、高輝度の投影機器や照明機器が得られるため好ましい。この反射防止膜は、保護ガラス板13の強度や透過率の低下を抑えることができるという機能も備えている。例えば、イオン交換された保護ガラス板13が長時間に亘って高温下に曝されると、ガラス中のアルカリ金属イオンが、空気中の水分と徐々に置換され、その結果、保護ガラス板13の機械的強度が低下したり、白濁しやすくなる。しかし、保護ガラス板13の表面に反射防止膜を形成すると、これがバリア層となって、ガラス中のアルカリ金属イオンと空気中の水分の置換が起こらないため、強度低下や白濁の発生を防止することが可能となる。以上のことから、反射防止膜は、保護ガラス板13の片面だけでなく、両面に形成することがより望ましい。
【0048】
上述した反射防止膜としては、高屈折率膜と低屈折率膜を交互に3〜10層積層し、30〜50×10−7/℃の熱膨張係数(30〜380℃の温度域)を有するものが適している。高屈折率膜としては、TiO、Ta、Nb等の膜が適しており、低屈折率膜としては、SiO、MgF等の膜が適しているが、成膜性、耐熱性に優れ、安価であるという理由から、TiOとSiOの交互層膜が好適である。また成膜法としては、スパッタリング法や真空蒸着法が使用できる。
【0049】
保護ガラス板13は、従来から約5.0mm厚のホウケイ酸ガラスから形成されているが、その機械強度を強化すると、厚みを小さくしても、従来品と同等の強度を得たり、或いは従来品よりも高い強度を得ることが可能となる。また厚みが小さいほど、機器の軽量化、小型化を図ることができるため、厚みを3.0mm以下、さらには2.5mm以下にすることが好ましい。ただし厚みが小さくなりすぎると、必要な強度が得られ難くなるため、0.5mm以上にすべきである。この保護ガラス板13は、フロート法、ダウンドロー法、ロールアウト法等の成形法で板状に成形すればよい。また表面粗さ(Ra)は、0.01μm未満とすることが好ましく、成形面の粗さが大きい場合には、所望の値となるように表面を研磨すれば良い。
【0050】
また保護ガラス板13の可視光透過率が低いと、光源ランプから放射された光が保護ガラス板13を通過し難くなり、輝度が低下する。そのため、保護ガラス板13は420〜720nmの波長域で95%以上の透過率を有することが好ましい。より好ましい透過率は、97%以上である。
【0051】
以下、本発明の幾つかの実施例と比較例とを用いて詳細に説明する。
【0052】
表1は、実施例1〜3に係る反射鏡の鏡基材のガラス組成を示すものである。
【0053】
【表1】

【0054】
表1の実施例1、2は、次の方法で作製した。まず表1に示す実施例1、2のガラス組成となるように調合した原料を白金ルツボに投入し、電気炉中で約1580℃で溶融した後、金型に流し出し、略円椀形状で、開口部付近が矩形状となるようにプレス成形し、さらにランプ取り付け孔の孔あけ加工を施した。次にこれらのガラス鏡基材を500℃に保持されたKNO(硝酸カリウム)の浴槽中に6時間浸漬した。
【0055】
こうして得られた実施例1のガラス鏡基材は、30〜380℃における平均熱膨張係数が43×10−7/℃であり、表面に強い圧縮応力層が形成された。その後、このガラス鏡基材の凹状面(反射面)に、TiOとSiOを交互に40層積層した反射膜を真空蒸着法によって成膜した。
【0056】
また実施例2のガラス鏡基材は、30〜380℃における平均熱膨張係数が33×10−7/℃であり、表面に強い圧縮応力層が形成された。その後、このガラス鏡基材の凹状面に、TiOとSiOを交互に40層積層した反射膜を真空蒸着法によって成膜した。
【0057】
また実施例3は、次の方法で作製した。まず表中のガラス組成となるように調合した原料を白金ルツボに投入し、電気炉中で約1600℃で溶融した後、金型に流し出し、略円椀形状で、開口部が矩形となるようにプレス成形し、さらにランプ取り付け孔の孔あけ加工を施した。次にこのガラス鏡基材を、電気炉に入れ、780℃−2時間(核形成工程)及び1160℃−1時間(結晶成長工程)の温度スケジュールで熱処理を行って結晶化させた後、徐冷した。尚、昇温速度は、室温から核形成温度までを300℃/時、核形成温度から結晶成長温度までを100〜200℃/時とした。その後、ガラス鏡基材を500℃に保持されたKNO(硝酸カリウム)の浴槽中に24時間浸漬した。こうして得られたガラス鏡基材は、主結晶としてβ−スポジューメン固溶体を析出し、30〜380℃における平均熱膨張係数が約10×10−7/℃であり、表面に強い圧縮応力層が形成された。その後、このガラス鏡基材の凹状面に、TiOとSiOを交互に40層積層した反射膜を真空蒸着法によって成膜した。
【0058】
また表2は、実施例4と比較例1、2に係る保護ガラス板の組成、熱膨張係数、歪点、及び落下強度試験による破壊時の落下高さを示すものである。
【0059】
【表2】

【0060】
表2の実施例4の保護ガラス板は、次の方法で作製した。
【0061】
まず表2に示すガラス組成となるように調合した原料を白金ルツボに投入し、電気炉中で約1580℃で溶融した後、厚み2mmの板状にロール成形し、次いで切断加工することによって、約60×65mmの寸法を有する矩形状のガラス板とした。
【0062】
次に、このガラス板を、500℃に保持されたKNO(硝酸カリウム)の浴槽中に6時間浸漬することによって、イオン交換処理を行い、ガラス板の表面に強い圧縮応力層を形成した。その後、ガラス板の両面に、TiOとSiOを交互に4層づつ積層した反射防止膜をスパッタリング法によって成膜した。
【0063】
また比較例1の保護ガラス板は、実施例4と同様のガラスをロール成形し、矩形状に切断加工した後、イオン交換処理を行わずに、その両面に、TiOとSiOを交互に4層づつ積層した反射防止膜をスパッタリング法によって成膜することによって作製した。
【0064】
また比較例2の保護ガラス板は、表中のガラス組成となるように調合した原料を白金ルツボに投入し、電気炉中で約1550℃で溶融した後、厚み5mmの板状にロール成形した後、切断加工することによって、60×65mmの矩形状のガラス板を作製してから、イオン交換処理を行わずに、その両面に、TiOとSiOを交互に4層づつ積層した反射防止膜をスパッタリング法によって成膜することによって作製した。
【0065】
こうして得られた実施例4と比較例1、2の保護ガラス板を落下強度試験に供した。この試験は、先の丸い円錐形の錘(重さ200g)をガラス板に落下させることによって行ったものであり、落下高さは、10cmからスタートし、10cm刻みで高くしていった。その結果、比較例1、2の保護ガラス板は、いずれも最初の10cmの高さで破壊したが、実施例4の保護ガラス板は、60cmの高さで破壊が起こった。
【0066】
また実施例4の保護ガラス板を電気炉中に入れ、500℃で1時間保持して加熱した後、電気炉から取り出し、上記の落下強度試験に供したところ、やはり60cmの高さで破壊が起こった。
【0067】
さらに、実施例4の保護ガラス板を上記と同じ条件で加熱した後、その可視光透過率を分光光度計を用いて測定し、その結果を図4に示した。図4から明らかなように、この保護ガラス板は、420〜720nmの波長域において95%以上の透過率を有していた。
【0068】
以上のことから、実施例4の保護ガラス板は、イオン交換されているため、機械的強度が高く、また両面に反射防止膜が形成されているため、加熱されても、ガラス板の強度や透過率の低下を抑えることができることが理解できる。
【0069】
表1に示す実施例1〜3の鏡基材の各々に対し、表2に示す実施例4の保護ガラス板を封着することによって、20個づつ(合計60個)の光源装置を作製した。これらの光源装置の光源ランプについて、1時間通電と20分間遮断とを1サイクルとして50サイクル繰り返す熱サイクル試験を行った後、保護ガラス板と鏡基材の状態を観察したところ、全ての光源装置について、保護ガラス板と鏡基材のいずれにもクラックや割れは認められなかった。
【0070】
また比較のため、実施例1と同様のガラス材質からなり、イオン交換処理を施していない鏡基材と、表2の比較例1の保護ガラス板とを使用して光源装置を20個作製し、これらを上記の熱サイクル試験に供したところ、5個の光源装置の鏡基材や保護ガラス板にクラック又は割れが生じた。
【0071】
さらに故意に過入力として光源ランプの破裂を起こしたところ、実施例1−3に係る光学装置の鏡基材と保護ガラス板は破損しなかったが、比較例1、2に係る光学装置の鏡基材と保護ガラス板は、ランプの破片によって破損し、その破片が飛散した。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、液晶プロジェクター、オーバーヘッドプロジェクター、及び映写機等の投影機器、一般照明及びスポットライト等を得るための照明機器、及びその他の機器に使用可能な光源ランプのための反射鏡に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の実施形態に係る反射鏡を備えた光源装置の概略断面図である。
【図2】図1に示した反射鏡の製造に使用されるイオン交換技術を説明するための図である。
【図3】図1に示した光源装置における反射鏡の細部を説明するための概略断面図である。
【図4】上記反射鏡に含まれる保護ガラス板の可視光透過率曲線を示すグラフである。
【符号の説明】
【0074】
10 反射鏡
11 鏡基材
11a 開口部
11b ランプ取り付け孔
11c 支持筒部
11d 凸部
11e 凹部
12a 反射面
13 保護ガラス板
14 ショートアーク型高圧水銀放電ランプ
14a 放電容器
14b 陽極
14c 陰極
14d 封止部
14e 外部リード
15 接着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹面を有する鏡基材と、前記凹面に形成された反射膜とを有し、前記鏡基材がガラス部材からなり、前記鏡基材の前記凹面とは反対側を向いた背面が凹凸状に形成されている、ことを特徴とする反射鏡。
【請求項2】
前記反射膜が多層に形成されている請求項1に記載の反射鏡。
【請求項3】
前記背面は、JIS B0601における中心線平均粗さが10μm以上である請求項1に記載の反射鏡。
【請求項4】
前記ガラス部材が、機械強度を強化されている請求項1に記載の反射鏡。
【請求項5】
前記凹面の周囲部分に、保護ガラス板が結合されている請求項1に記載の反射鏡。
【請求項6】
前記保護ガラス板が、機会強度を強化されている請求項5に記載の反射鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−33345(P2008−33345A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−232514(P2007−232514)
【出願日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【分割の表示】特願2002−238353(P2002−238353)の分割
【原出願日】平成14年8月19日(2002.8.19)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】