説明

反応チップ、反応チップの製造方法及び反応方法

【課題】コンタミネーションの発生防止及び反応試薬の活性の維持が可能であり、試薬と試液の混合性を向上させることが可能な反応チップを提供すること。
【解決手段】反応試薬が配置された複数のウェル状反応容器と、前記複数のウェル状反応容器に対して反応試液を供給する試液流路とを備えた反応チップであって、前記反応試薬が、界面活性剤による逆ミセル構造体内に封入され、更に前記ウェル状反応容器内に配置された熱溶融型の封止剤で覆われていることを特徴とする反応チップとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学反応や生化学反応等に好適な反応チップ及び反応方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、化学反応やDNA反応、タンパク質反応などの生化学反応をチップ上にて行うμ−TAS(Total Analysis System)技術やLab−on−Chip技術が研究され、実現されてきている。これらの技術により、今まで大型の実験装置や大量の反応試薬が必要であった反応実験が、数ミリ角以下の反応チップを用いて少量の反応試薬で行えるようになってきている。
【0003】
この種の生化学反応の例としては、酵素反応によるDNA増幅反応や、既知の配列を有するプローブDNAを用い、検体DNAの配列を検出するハイブリダイゼーション反応、DNAの配列中のSNP(一塩基多型)の検出反応などが挙げられる。SNP検出法としては、インベーダー(登録商標)法、タックマンPCR法などが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
チップを用いて、これらの反応を行う場合、例えば遺伝子やDNAの配列を決定する際は、スライドガラス上にプローブDNAを固定し、その上でハイブリダイゼーション反応を行う方法が知られている。
また、チップ上に、ウェルと呼ばれる微小な穴や窪みを形成し、それを反応場として用いる方法も知られている。ウェルの作製には、半導体やガラスをエッチングしたり、穴の開いた板を積層したり、樹脂の射出成型によって成型したり等、様々な方法がある。これらの方法を用いて、複数のウェルとこれらウェルに反応試液を供給するための流路を形成した分析チップも知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
これらの分析チップを用いて反応を行うには、まず複数のウェル状反応容器内に反応試薬を配置する。次に、分析チップに反応試液を注入することにより、流路を介して複数のウェル状反応容器に反応試液を供給する。これにより、固定試薬と反応試液とが接触して反応が開始する。なお、必要に応じて、反応時にウェル状反応容器を加熱する。
【0006】
しかしながら、上述した反応方法では、流路を介してウェル状反応容器内に反応試液を供給する際に、予めウェル状反応容器内に配置されていた固定試薬が隣接するウェル状反応容器に流出する虞がある。これにより、コンタミネーション(汚染)が発生するという問題がある。また、各ウェル状反応容器での反応中に、固定試薬や反応試液、検出用の蛍光物質等が隣接するウェル状反応容器に拡散するおそれがある。これにより、正確な反応データを測定することができなくなる、という問題がある。
そこで、そのようなコンタミネーションの発生を防止することができ、また、正確な反応データの測定が可能な反応チップおよび反応方法が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【0007】
特許文献3に記載された反応チップは、ウェル状反応容器を形成した基板と、基板を覆うカバー材とから構成されている。そして、これを用いた反応方法は、ウェル状反応容器内に配置した反応試薬を熱溶融型の封止剤で覆い、封止剤の上方に反応試液を供給した後、封止剤を加熱して溶融させ、反応試薬と反応試液とを接触させるというものである。この方法によれば、反応試薬が隣接するウェル状反応容器に流出することがなくなるため、コンタミネーションの発生を防止することができる。
【0008】
反応方法においては、反応チップが、相対的に熱伝導率が低い第1の基材と相対的に熱伝導率が高い第2の基材とから構成されており、試薬は第1の基材の凹部内に配置されている。そして、反応を行わせる際には、熱伝導率が高い第2の基材側から加熱を行い、封止剤を溶融させて試薬と試液とを接触させ、反応を進行させる。したがって、試液を供給した時点では試薬は封止剤に覆われており、コンタミネーションの発生を防止することができる。また、第2の基材側から加熱を行うことで反応容器全体に対する熱効率は優れたものとなる一方、試薬は熱伝導率が低い第1の基材側に配置されているため、チップ製造時に加わる熱が試薬に伝わりにくく、試薬の活性を低下させたり、失活させることがない。これにより、正確な反応データを測定することができる。
【0009】
また、第2の基材側から加熱を行い、第1の基材、第2の基材の少なくとも一方に設けたシーラント層の熱溶着により第1の基材と第2の基材とを接合する構成であれば、基材同士を接合する際の熱で封止剤が溶解しにくく、封止剤が流出して流路を塞ぎ、試薬の封止が不完全になる等の不具合を防止し、反応チップを安定して作製できるとともに、コンタミネーションの発生を確実に防止することができる。また、反応を阻害しないシーラント層を使用すれば、各基材の材質をより自由に選択することができる。これにより、耐熱性、バリア性、耐薬品性、試薬保存性が高く、反応性(熱伝導性)に優れたチップを実現可能な材質を選択することができる。
【0010】
また、第2の基材にも第1の基材の凹部に対応する凹部を形成し、第1の基材の凹部と第2の基材の凹部の双方で反応容器を構成すれば、反応容器の容量を十分に確保できるとともに、反応容器の容量や形状に対する設計の自由度を高めることができる。また、熱伝導率が高い第2の基材の表面積が増えるため、反応容器全体の熱伝導率が高まり、酵素反応等の加熱により進行する反応をより効率良く短時間で行うことができる。
【0011】
また、第1の基材に樹脂材料を用い、第2の基材に金属材料を用いる構成とすれば、上記のような優れた特性を有する反応容器や流路の加工を容易に行うことができる。
【0012】
また、封止剤を試薬および試液に不溶な材料で構成すれば、試薬と試液とが組成が変化することなく接触し反応することができ、正確な反応データを測定することができる。
【0013】
また、反応容器が酵素反応用の反応容器であれば、一般的な生化学反応である、酵素反応によるDNA増幅反応や、ハイブリタイゼーションによるDNA検出反応、SNPの検出反応等を反応チップ上で実現することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2002−300894号公報
【特許文献2】特開2002−159285号公報
【特許文献3】特開2007−090290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、従来技術における反応系においては、封止材で被覆された反応試薬と試液が接触、混合する事が反応開始の絶対条件であるが、従来技術では、試液と封止材とが不溶性であり、加熱環境下においても混合性が低い為、反応が開始、進行されない現象が危惧されるという問題がある。
【0016】
また、上記のように反応が開始、進行されないことにより、SNP検出や配列検出において誤判定として観測されてしまうという問題もある。
【0017】
上述の問題を解決する為、本発明では従来技術で重要な機能となるコンタミネーションの発生防止及び反応試薬の活性の維持に加え、試薬と試液の混合性を向上させる反応系及び方法の構築を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成する為になされた請求項1に係る発明は、反応試薬が配置された複数のウェル状反応容器と、前記複数のウェル状反応容器に対して反応試液を供給する試液流路とを備えた反応チップであって、前記反応試薬が、界面活性剤による逆ミセル構造体内に封入され、更に前記ウェル状反応容器内に配置された熱溶融型の封止剤で覆われていることを特徴とする反応チップである。
また請求項2に係る発明は、前記封止剤が、前記反応試薬および前記反応試液より比重が小さい材料で構成されていることを特徴とする請求項1に記載の反応チップである。
また請求項3に係る発明は、前記反応チップが、試薬貯蓄部を備え、前記試液流路は、この試液貯留部から延設されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の反応チップである。
また請求項4に係る発明は、前記試液貯留部から、複数の前記試液流路が延設されていることを特徴とする請求項3に記載の反応チップである。
また請求項5に係る発明は、前記反応試薬が、核酸プローブを含むことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の反応チップである。
また請求項6に係る発明は、前記逆ミセル構造体が、疎水性を有し、前記熱溶融型封止剤と高い親和性を有することを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の反応チップである。
また請求項7に係る発明は、前記逆ミセル構造体が、封止剤と反応試液界面に局在した際に崩壊し、内包した反応試薬を反応試液内に放出することを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の反応チップである。
また請求項8に係る発明は、前記逆ミセル構造体の粒径が50nm〜1000nmであることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の反応チップ。
また請求項9に係る発明は、請求項1ないし請求項8のいずれか記載の反応チップの製造方法であって、前記反応試薬が封入された構造体の作成する工程と、前記ウェル状反応容器に前記構造体を配置する工程と、を有することを特徴とする反応チップの製造方法である。
請求項10に係る発明は、基板上に形成された試液貯留部と、前記試液貯留部から延設された試液流路と、前記試液流路により順に連結された複数のウェル状反応容器と、第一の反応試薬が封入された逆ミセル構造体と、前記ウェル状反応容器内に配置された、試薬封入逆ミセル構造体と、前記封入逆ミセル構造体を覆って前記ウェル状反応容器内に配置された熱溶融型の封止剤とを備える反応チップを用いた反応方法であって、前記試液貯留部に第二の反応試液を注入することにより、前記試液流路を介して、前記複数のウェル状反応容器における前記封止剤の上方に前記反応試液を供給する工程と、前記封止剤を加熱して溶融させることにより、前記第一の反応試薬と前記第二の反応試液とを接触させる工程と、を有することを特徴とする反応方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る反応チップ及び反応方法においては、反応チップが、相対的に熱伝導率が低い第1の基材と相対的に熱伝導率が高い第2の基材とから構成されており、試薬は界面活性剤による逆ミセル構造体内に封入した状態で第1の基材の凹部内に配置されている。そして、反応を行わせる際には、熱伝導率が高い第2の基材側から加熱を行い、封止剤を溶融させて試薬と試液とを接触させ、反応を進行させる。この反応を進行させる過程において、封止剤と親和性の高い疎水性の界面活性剤による逆ミセル構造体内に試薬を封入しておく事で、試薬と試液との混合性の向上を図ることが可能であり、その事によって反応をより早く、そして確実に進行する事が可能となる。勿論、従来技術が特性して有するコンタミネーションの防止や熱効率の向上、熱安定性も保持される。これによって、正確な反応データを測定でき、誤判定を防ぐ事が可能となる。
【0020】
また、従来法では、試液と試薬が混合する方法として、試液相と封止相の比重の違いが重要な要素であったため、封止剤の構成材料が限定されていたが、本発明の反応方法においては、比重に左右されること無く、熱エネルギーによる封止剤の溶融と界面活性剤の特性によって安定的に試液と試薬を接触、混合させる事が可能となる。
【0021】
また、本発明の反応方法においては、試薬内包逆ミセル構造体が疎水性を有し、封止剤環境下で安定的に存在できる為、従来、各成分別々に反応容器内部に配置する必要性があるのに対し、試薬内包逆ミセル構造体を封止剤で溶解して同時に配置する事が可能となり、反応チップ製造時の工程数を削減する事ができる。
【0022】
また、本発明の反応方法においては、逆ミセル構造体内に試薬を封入させる事で、界面活性剤層によって周囲の環境から区画されている為、チップ製造時の熱など試薬活性の低下の原因となりうるファクターより保護する事が可能となり、正確な測定ができるだけでなく、保存性も向上させる事ができる。
【0023】
また、反応容器が酵素反応用の反応容器であれば、一般的な生化学反応である、酵素反応によるDNA増幅反応や、ハイブリタイゼーションによるDNA検出反応、SNPの検出反応等を反応チップ上で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態の反応チップの斜視図である。
【図2】(a)は同反応チップの平面図、(b)は図1のA−A’線に沿う断面図である。
【図3】(a)試薬内包逆ミセル構造体を含む反応容器の断面図である。(b)は試薬内包逆ミセル構造体の模式図である。
【図4】(a)は試薬Lを注入した段階における反応容器の断面図である。(b)は、封止材Wを溶融させた段階での反応容器の断面図である。(c)は、(b)の段階でのミセル構造体の様態を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の一実施の形態を図1〜図3を参照して説明する。
図1は、本実施形態の反応チップの斜視図である。図2(a)は、同反応チップの平面図、図2(b)は図1のA−A’線に沿う断面図である。図3は、試薬内包逆ミセル構造体を含む反応容器の断面図である。
なお、以下では、説明の便宜上、蛍光反応等を検出、測定する際に上側に位置する樹脂基材側を「上側」、下側に位置する金属基材側を「下側」とする。
【0026】
本実施形態の反応チップ1は、図1に示すように、長方形状であり、厚みが数mm程度の小型のものである。反応チップ1は、カバー材2(第1の基材)と、カバー材2の下面側に嵌め込まれた基板3(第2の基材)と、から構成されている。本実施形態の反応チップ1は、図2(b)に示すように、カバー材2に反応容器4を構成する凹部6が形成され、基板3には反応容器4を構成する凹部7と流路5を構成する溝部8とが形成されている。本実施形態の反応チップ1は、12個の反応容器4を有する流路5を3組備えている。
【0027】
(カバー材)
カバー材2は、全体的に長方形状を呈しており、使用中に容易に折れ曲がることのない厚みで形成されている。カバー材2は、PP(ポリプロピレン)やPC(ポリカーボネート)、アクリル樹脂(ポリメチルメタクリレート)、PET(ポリエチレンテレフタレー)、PE(ポリエチレン)、PV(ポリ塩化ビニル)、PS(ポリスチレン)等の樹脂材料で構成されている。このような合成樹脂を用いてカバー材2を作製すれば、耐熱性、耐薬品性、成形加工性などに優れているため、好ましい。さらに、2種類以上の樹脂を接合して用いてもよい。この場合、それぞれの樹脂の特徴を活かしてカバー材2を作製する
ことにより、試薬および試液等の特性に応じた多様なカバー材2とすることが可能となり、用途ごとに使い分けることができる。例えば、カバー材2の上半分と下半分とで材料を分けたりすることも可能となる。なお、カバー材2の素材として、樹脂材料の他、石英ガラス等を用いてもよい。
【0028】
カバー材2には、図2(a)、(b)に示すように、試薬を配置する複数(本実施形態の場合、36個)の凹部6と、反応容器4および試液を供給するための流路5に連結する試液注入口10が設けられている。また、1組の流路5において、試液注入口10と反対側の端部には微小な貫通孔11が設けられており、貫通孔11の内部に高密度フィルター(図示略)が充填されている。これにより、送液された試液が出口から溢れ出るのを防止することができる。あるいは、試液注入口10と反対側の端部にも同様の注入口を設け、流路5のどちらからでも注入できる構成としても良い。また、試液注入口10の内側は、
一般的なピペットマン用の分注チップの先端が注入口の途中で嵌るように、テーパ状になっている方が好ましい。これにより、試液の送液が容易になり、気泡の混入を防止する事ができる。また、試液注入口10および出口側の構造物を覆う蓋を設ければ、反応中の試液の飛散による装置の汚染を防止することができる。
【0029】
(基板)
基板3は、全体的に長方形状を呈している。この基板3は、金、銀、銅、アルミニウム、亜鉛、錫、白金、ニッケル、またはこれら2種類以上の合金、等の金属を含む材料で構成されている。このような金属を含む材料で基板3を作製すれば、反応容器4内の反応液への熱伝導率が良くなり、効率良く短時間で反応を行うことができるため好ましい。また、カバー材2と基板3を熱溶着により貼り合わせるため、基板3の金属層の上部にはシーラント層(図示略)が設けられている。この構成によれば、基板3を構成する金属が直接反応液に触れないため、反応阻害を引き起こす金属を使用することも可能となる。
【0030】
基板3には、カバー材2の凹部6に対応する位置に複数(本実施形態の場合、36個)の凹部7が形成され、隣接する凹部7間を連通させるように、試液を供給するための溝部8が設けられている。凹部7の直径は、カバー材2の凹部6の直径とほぼ同じであることが好ましい。これにより、凹部6および凹部7に対して均等に反応試液を供給することができ、気泡の混入を防止することができる。また、流路5の幅および深さは、0.5mm以上、5mm以下であることが望ましい。この寸法とすれば、カバー材2と基板3とを貼り合わせる際に、シーラント層の流路へのはみ出しによる流路閉塞を防止でき、また、気泡の混入を防止することができる。
【0031】
(反応容器)
カバー材2側の凹部6は、図2(b)に示すように、基板3に対向する下側の領域が円柱状の空間となっており、上側(底面側)の領域が円錐台状の空間となっている。このように、凹部6の底部は、平坦であることが好ましい。これにより、透明なカバー材2を通して反応結果を蛍光検出によって得る場合、底部が平坦でない場合に比べて光の拡散が少なくなり、効率良く蛍光検出を行うことが可能となる。凹部6の直径は、0.5mm以上、10mm以下であることが望ましい。これにより、凹部6に対する試液の供給が容易になり、気泡の混入を防止することができる。
【0032】
基板3側の凹部7は、図2(b)に示すように、半球状の形状になっている。反応容器4の下側にあたる凹部7を半球状に形成すれば、試液充填後に反応のための熱を加えた際に反応容器4内で効率良く対流が起こり、よりスムーズに反応を進行させることができる。また、反応容器4の形状を、一般的にPCRで使用されるPP製チューブと同様の形状にすれば、反応のための熱をかけるヒートブロックとの密着性が増し、より効率良く反応液に伝熱することができ、短時間に反応を進行させることができる。
【0033】
凹部6は、樹脂材料からなるカバー材2を切削する方法や、金型内で樹脂材料を射出成型する方法等によって形成される。カバー材2をPC(ポリカーボネート)などの硬質の樹脂材料で構成する場合には、切削法を用いて凹部6を形成することができる。また、基板をPP(ポリプロピレン)などの軟質な樹脂材料で構成する場合には、成型法を用いて凹部6を形成することが好ましい。また、PCで成型法を用いて凹部6を形成することもできる。
【0034】
一方、凹部7および溝部8は、金属層とシーラント層を接着剤によって貼り合わせた基板3に、金型を用いた絞り成型を施す方法等によって形成される。
【0035】
(試薬内包逆ミセル構造体)
図3(a)は、反応容器内に配置された試薬内包逆ミセル構造体Xの一例を示す概略図である。また、図3(b)は試薬Sを内包した逆ミセル構造体Xの拡大概略図である。
界面活性剤による逆ミセル構造体Xとは、非水溶性環境下において界面活性剤が、一定水準以上の濃度(臨界ミセル濃度)になった際に、界面活性剤同士が分子間相互作用により、親水部を中心として自己集積する事で形成される球状の構造体である。この内部空間内に試薬Sを内包させた構造体を使用する。界面活性剤には、試薬S組成並びに試薬―試液反応を阻害しないものを用いる事がのぞましい。また、封止剤容量内において臨界ミセル濃度以上に到達し、最終的な反応容器容量では、臨界ミセル濃度以下となるものが望ましい。試薬Sを内包した逆ミセル構造体Xは反応容器内に配置する以前に、あらかじめ懸濁液として調整し、凹部6内への配置方法については、懸濁液を直接的にピペットマンなどで分注する方法、もしくは試薬Sを内包した逆ミセル構造体Xのみ抽出し、封止剤W内に溶解させて、封止剤Wと共に配置する事も可能である(図3(a)は前者の方法の場合)。
【0036】
(封止剤)
熱溶融型の封止剤Wとは、常温で固体であり、固定試薬と試液との反応(以下、「主反応」という。)の開始温度付近で溶融する封止剤である。少なくとも80〜90℃付近で溶解するように、融点は35〜90℃付近であることが望ましい。また、溶解後粘性が低いものが望ましい。ただし、主反応を阻害しないものであることが前提となる。具体的な封止剤として、Applied Biosystems社製のAmpliWax(登録商標)PCR Gem 100等を採用することができる。これは、PCR増幅反応の際に溶解して層をなし、反応試液の蒸発を防ぐよう、ミネラルオイルにかわるものとして考案された製品である。常温では固体であり、55〜58℃で融解する。
この封止剤Wを凹部6内に配置するには、凹部6内に、適量の固体の封止剤Wを投入し、その封止剤Wを加熱するという方法を用いることができる。これにより、溶融された封止剤Wが凹部6の底部に濡れ広がり、その後、封止剤Wを冷却すれば、試薬Sを内包した逆ミセル構造体Xを含んだ状態で出凹部6内に封止剤Wを配置することができる。もしくは、試薬Sを内包した逆ミセル構造体を配置した凹部6内に、予め溶融させておいた封止剤Wをピペットマンで分注する方法でも配置することができる。この方法では、封止剤Wの量をより正確に規定することができるため、有利である。また、あらかじめ試薬Sを内包した逆ミセル構造体Xを封止剤W内に導入した状態で両者を同時に分注することで配置する方法もある。
【0037】
さらに、溶融された封止剤Wが凹部6の底部に濡れ広がっている状態で、冷却させる前に遠心操作を行なうことが好ましい。これにより、比重の重い試薬Sを内包した逆ミセル構造体Xを反応容器内部底面に沈殿させ、封止剤Wにより確実に隠蔽することができる。また、凹部6の壁面にある封止剤Wが凹部6の底部に移動するため、カバー材2と基板3とを熱溶着により貼り合わせる際、封止剤Wの再溶融による流路5への流出を防止することができる。
このようにして、凹部6内に封止剤Wを配置した後に基板3を貼り合わせる。
【0038】
(反応方法)
次に、上述した分析チップを用いた反応方法を、図4を用いて説明する。
まず、図1、図2に示す試液注入口10から試液Lを注入する。こうして、図4(a)に示すように、試液注入口10から流路5へと試液Lを流入させる。すると、試液Lは、流路5を通って複数の反応容器4に対して順に供給される。この試液Lの供給は、常温または常温以下の送液可能なまでの低温で行う。
【0039】
ここで、図4(a)に示すように、カバー材2側の凹部6の内部には、試薬Sを内包した界面活性剤による逆ミセル構造体Xを覆った状態で固体状の封止剤Wが配置されている。そのため、反応容器4に供給された試液Lは、試薬Sと接触することなく、封止剤Wの表面に配置される。
このように、本実施形態の反応チップ1では、試薬S及びそれを内包した逆ミセル構造体Xを覆った封止剤Wの下方に試液Lが供給されるので、固定試薬Sが隣接する反応容器4に流出することがなくなる。したがって、コンタミネーションの発生を防止することができる。
【0040】
反応容器4に試液Lを送液した後、基板3の隣接する凹部7間の溝部8の一部を塑性変形させて流路5を閉塞し、各反応容器4を独立した状態とする。各反応容器4を独立した状態とすることで、隣接する反応容器4間で不要な試薬の混合が生じるのを防止できる。
基板3の溝部8を塑性変形させる手段として、装置を用いて溝部8の一部に外側から機械的に外力を加えても良いし、人手により外力を加えても良い。
【0041】
次に、図4(b)、(c)に示すように、反応容器4を加熱して封止剤Wを溶融させる。このとき、試薬Sが内包された逆ミセル構造体Xが配置されたカバー材2側ではなく、基板3側から加熱を行う。すると、封止剤Wが溶融されるとともに試薬Sを内包した逆ミセル構造体Xが拡散し、試液Lと接触する。そして、試液Lに到達すると逆ミセル構造体Xが崩壊し、試薬Sが試液L内に放出される事で主反応が開始する。
本実施形態において、反応中に加熱を行うときは基板3側から行う。
【0042】
本実施形態の反応方法においては、相対的に熱伝導率が低い第1の基材と相対的に熱伝導率が高い第2の基材とから構成されており、試薬は界面活性剤による逆ミセル構造体内に封入した状態で第1の基材の凹部内に配置されている。そして、反応を行わせる際には、熱伝導率が高い第2の基材側から加熱を行い、封止剤を溶融させて試薬と試液とを接触させ、反応を進行させる。この反応を進行させる過程において、封止剤と親和性の高い界面活性剤による逆ミセル構造体内に試薬を封入しておく事で、試薬と試液との混合性の向上を図ることが可能であり、その事によって反応をより早く、そして確実に進行する事が可能となる。勿論、従来技術が特性して有するコンタミネーションの防止や熱効率の向上、熱安定性も保持される。これによって、正確な反応データを測定でき、誤判定を防ぐ事が可能となる。
【0043】
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
上記実施形態で例示した反応容器や流路の形状、数、配置、各基材の材料、寸法、一連の製造工程で用いた各種手法等の具体的な構成はほんの一例に過ぎず、適宜変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の反応方法及びチップは、例えば核酸あるいは、酵素(タンパク質)等の生化学物質を用いた生化学反応の検出や分析に用いることができる。特に酵素反応によるDNA増幅反応や、既知の配列を有するプローブDNAを用い、検体DNAの配列を検出するハイブリダイゼーション反応、DNAの配列中のSNP(一塩基多型)の検出反応を主な用途とし、これらを複数ターゲットに対し同時並行的に微小反応容器内で安定的に反応させる際に応用可能である。
【符号の説明】
【0045】
1…反応チップ、2…カバー材(第1の基材)、3…基板(第2の基材)、4…反応容器、5…流路、6…(カバー材の)凹部、7…(基板の)凹部、8…溝部、S…試薬(逆ミセル構造体封入試薬)、W…封止剤、X…逆ミセル構造体、Y…試薬放出現象中における逆ミセル構造体、Z…界面活性剤、L…試液(注入試薬)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応試薬が配置された複数のウェル状反応容器と、前記複数のウェル状反応容器に対して反応試液を供給する試液流路とを備えた反応チップであって、前記反応試薬が、界面活性剤による逆ミセル構造体内に封入され、更に前記ウェル状反応容器内に配置された熱溶融型の封止剤で覆われていることを特徴とする反応チップ。
【請求項2】
前記封止剤は、前記反応試薬および前記反応試液より比重が小さい材料で構成されていることを特徴とする請求項1に記載の反応チップ。
【請求項3】
前記反応チップは、試薬貯蓄部を備え、前記試液流路は、この試液貯留部から延設されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の反応チップ。
【請求項4】
前記試液貯留部から、複数の前記試液流路が延設されていることを特徴とする請求項3に記載の反応チップ。
【請求項5】
前記反応試薬が、核酸プローブを含むことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の反応チップ。
【請求項6】
前記逆ミセル構造体が、疎水性を有し、前記熱溶融型封止剤と高い親和性を有することを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の反応チップ。
【請求項7】
前記逆ミセル構造体が、封止剤と反応試液界面に局在した際に崩壊し、内包した反応試薬を反応試液内に放出することを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の反応チップ。
【請求項8】
前記逆ミセル構造体の粒径が50nm〜1000nmであることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の反応チップ。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか記載の反応チップの製造方法であって、
前記反応試薬が封入された構造体の作成する工程と、
前記ウェル状反応容器に前記構造体を配置する工程と、
を有することを特徴とする反応チップの製造方法。
【請求項10】
基板上に形成された試液貯留部と、前記試液貯留部から延設された試液流路と、前記試液流路により順に連結された複数のウェル状反応容器と、第一の反応試薬が封入された逆ミセル構造体と、前記ウェル状反応容器内に配置された、試薬封入逆ミセル構造体と、前記封入逆ミセル構造体を覆って前記ウェル状反応容器内に配置された熱溶融型の封止剤とを備える反応チップを用いた反応方法であって、前記試液貯留部に第二の反応試液を注入することにより、前記試液流路を介して、前記複数のウェル状反応容器における前記封止剤の上方に前記反応試液を供給する工程と、前記封止剤を加熱して溶融させることにより、前記第一の反応試薬と前記第二の反応試液とを接触させる工程と、を有することを特徴とする反応方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−211946(P2011−211946A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−82327(P2010−82327)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】