説明

反応処理装置及び反応処理方法

【課題】所定反応を基板上で行なうに際し、温度制御を高い精度で行ない得る反応処理装置を提供すること。
【解決手段】基板上に設けられた複数の反応領域内で所定反応を行なう反応処理装置であって、反応領域が複数設けられた基板(11)と、少なくとも熱源として用いられる光源(12)と、この光源(12)から照射される光を走査させる走査手段(14)と、走査された光を反応領域へ導光する光学素子(1121)と、を少なくとも備え、光学素子(1121)から出射する光が、照射目標とする反応領域に対して照射可能となるように、光学素子(1121)の回折角が調整された反応処理装置とすること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応処理装置及び反応処理方法に関する。より詳しくは、所定反応を行なうに際し、加熱を光照射により行い、その加熱照射を高精度で行う技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、微細流路等で化学反応や生化学反応等を行う技術が開発されている。このようなものとして、例えば、μTAS(Total Analysis System)やLab−on−a−chip等の如きバイオ・化学アプリケーションとして開発されているものが挙げられる。微量な試料により行われる所定反応が高精度に制御できれば、試料としての少量化等が可能となり、網羅意的な解析も可能となる。
【0003】
例えば、PCR(Polymerase Chain Reaction)法については、目的のDNA断片を数十万倍に増幅させる技術への応用が期待される。即ち、微量にしか存在しないDNAの目的部分であってもこれを増幅させることができれば、塩基配列の解析等に多大な効果が期待できる。
【0004】
その一方で、マイクロスケールで反応を行なうには、そのスケール故に流路表面やその表面積等の影響が大きい。そのため、マイクロスケールで所定反応等を行うにはこれらの因子等に関して高精度の制御を行なうことが要求される。同様に、反応温度等の制御も高精度である必要がある。これに関して、特許文献1には、マイクロチップ微細流路内の液相の温度の測定と制御に関する技術が開示されている。そのなかで、赤外線レーザーを用いて液相を加熱する技術が開示されている。
【0005】
特許文献2には、分析用具の温度調整に関する技術として、レーザーダイオードや発光ダイオード等を光源として用い、この光エネルギーを利用して加熱を行う技術等が開示されている。特許文献3には、マイクロチャンネルチップの反応制御システム等に関する技術が開示されている。また、特許文献4には、透明素材基材の一表面に複数の流路を設け、反対面に光学素子を一体成形した流路形成基板と、流路側の表面に透明カバー板を貼り付けたマイクロ化学チップに関する技術が開示されている。
【0006】
【特許文献1】国際公開第2002/090912号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2003/093835号パンフレット
【特許文献3】特開2006−145516号公報
【特許文献4】特開2004−340752号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、基板上で所定反応を行なう際には、高い精度で反応を制御できることが望まれている。そのなかでも反応は温度条件による影響が大きいことから、高精度の温度制御が可能であることが重要である。そこで、本発明は、所定反応を基板上で行なうに際し、温度制御を高い精度で行ない得る反応処理装置を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
まず、本発明は、基板上に設けられた複数の反応領域内で所定反応を行なう反応処理装置であって、反応領域が複数設けられた基板と、少なくとも熱源として用いられる光源と、この光源から照射される光を走査させる走査手段と、走査された光を反応領域へ導光する光学素子と、を少なくとも備え、光学素子から出射する光が、照射目標とする反応領域に対して照射可能となるように、光学素子の回折角が調整された反応処理装置を提供する。
光学素子の回折角を、照射目標とする反応領域に対して照射可能となるように調節することで、光源から走査照射された各光線について、光軸からの距離に係らず、目標とする反応領域に対して光照射できる。
次に、本発明は、光学素子は、反応領域ごとに対応して複数設けられ、光学素子の回折格子間隔は、光照射の入射角が大きい光学素子ほど密である反応処理装置を提供する。回折格子間隔をこのように設定することで、より正確に各反応領域に対して照射できる。
そして、前記光学素子は下記関係式を具備するように工夫できる。
【0009】
【数2】

【0010】
そして、本発明は、光学素子を基板と一体にすることができる。また、本発明は、光学素子をフレネルレンズとすることができる。更に、本発明は、反応領域と、この反応領域に対応する光学素子とを、それぞれアレイ状に配置する反応処理装置を提供する。
また、本発明は、基板上に設けられた複数の反応領域内で所定反応を行なう反応処理方法であって、少なくとも熱源として用いられる光源から照射する光を走査させ、この走査された光が照射目標とする反応領域に照射されるように回折角が調整された光学素子から、走査された光を出射させることを少なくとも行う反応処理方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、基板上において所定反応を行なうにあたり、高い精度で温度制御することができる。その結果、所定反応を高精度で制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、添付図面に基づいて本発明について説明する。なお、添付図面に示された各実施形態は、本発明に係わる代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。なお、以下に使用する図面では、説明の便宜上、装置の構成等については、適宜に簡素化して示している。
【0013】
図1は、本発明に係る反応処理装置の第1実施形態の簡略側面図である。図1中の符号1は、本発明に係る反応処理装置を示している。この反応処理装置1のサイズや装置構成等についても本発明の目的に沿う範囲で設計又は変更可能である。反応処理装置1は、反応領域が複数設けられた基板11と、光源12と、光学レンズ13と、走査手段14とを少なくとも備えている。基板11は、反応領域A1,A2,A3(以下、反応領域Aと総称することがある。)と、これらに対応する光学素子1121を備えている。
【0014】
基板11は、基板本体111と、被覆層112から形成されており、この被覆層112は、光学素子1121を備えている。そして、基板本体111は、各反応領域Aに即した形状であり、これに被覆層112を積層させることで、各反応領域Aに相当する空間を形成する。
【0015】
基板11は、必ずしも基板本体111と被覆層112を積層させる構造に限定するものではなく、必要に応じて一体成形してもよいが、好適には、基板本体111と脱着可能な被覆層112を設けることが望ましい。被覆層112を設けることで、被覆層112を基板本体111から剥がして試料を導入し、被覆層112を基板本体111に貼着すること等によって再び反応領域Aを形成することができる。即ち、被覆層112により反応領域Aをシーリングできるため好適である。また、被覆層112を設ける際には、必ずしも層状にすることに限定されず、反応領域Aや基板の形状や大きさ等を考慮して、適宜に好適な形状に設計できる。
【0016】
基板本体111や被覆層112の材料は限定されず、例えば、種々の合成樹脂やガラス等を用いることができ、例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、ホウ珪酸ガラス、石英ガラス等を用いることができる。そのなかでも、好適には、光透過性を備えた材料であることが望ましく、例えば、ポリメタクリル酸メチルや低蛍光発光プラスチック材料やホウ珪酸ガラスや石英ガラス等を用いることが望ましい。かかる材料は特に優れた光透過性を有するため、高い高熱効率が得られる点等から望ましい。
【0017】
また、被覆層112には、光学素子1121が設けられている。この光学素子は、各反応領域Aに対応して夫々設けられている。各光学素子1121は、光学素子1121から出射する光を導入したい反応領域Aに対して照射可能なように回折角を調整していることを特徴の一としている。
【0018】
光学素子1121は、光を照射したい反応領域Aに対して照射可能となるように、回折角を調節されたものであればよく、その種類は限定されない。例えば、回折光学素子として、回折格子やフレネルレンズ等の如き回折レンズや、ホログラム、ホログラフィック光学素子等を用いることができる。また、MEMSを用いた可変回折格子を用いることもできる。
【0019】
また、本発明は、光学素子1121を基板と一体とすることが望ましい。一体とすることで、反応領域Aと、これに対応する光学素子1121との位置きめ等の負担を軽減できる。即ち、あらかじめ光学素子1121を基板と一体化しておくことで、光学素子の位置ズレ等の問題を軽減できる。その結果、各反応領域Aへの加熱照射の制御を個別かつ高精度に行なうことができる。
【0020】
また、基板11と光学素子1121とを一体とする際には、必要に応じて、光学素子1121の上面に保護層を設けることが望ましい。これにより、光学素子1121へのキズや歪み等の発生を防止できる。保護層の形成手法については通常行い得る手法を用いることができる。例えば、紫外線を用いてコーティング液を硬化させるスピンコート等を用いることができる。
【0021】
光源12から照射される光は、少なくとも加熱に用いられる。この光は、走査手段14において、光走査することで各反応領域A1,A2,A3に対して照射される。図1では、光軸上に照射される光L1と、基板11の反応領域のなかで最も光軸から離れた反応領域A3に対して照射される光L3等を例にして説明する。
【0022】
そして、光源12から発せられる光は、加熱にのみ用いることに限定されず、各種反応の検出・測定用(例えば、蛍光分析、散乱光分析、赤外分光、紫外分光等の光学的分析)等といった他の用途にも併用することもできる。そして、同軸光路上に別途他の光源を設けておき、別波長の光照射を行うこともできる。例えば、加熱用光源と、測定用又は分析用光源とを同軸光路上に設けることができる。これらについては後述する。
【0023】
光源12は、少なくとも熱源として用いることができる。光源12から照射される光の光熱効果を利用して加熱することで、反応領域A1,A2,A3に対して直接光熱を伝達することができる。例えば、ヒータ等といった発熱体を用いる場合であれば、基板11を介して熱伝導するため熱干渉が起こる。即ち、隣接する反応領域同士が熱伝導により互いに干渉してしまい、温度の影響を受けてしまう等の問題がある。更に、操作上の問題としては、より厳密な温度制御を必要とする場合には、あらかじめ基板11を所定温度に到達するまで暖める必要がある。
【0024】
反応領域A1,A2,A3同士の微小な温度のずれは、熱源として半導体素子等を用いる場合には重要な問題の一つである。半導体素子は一般に製造上にばらつきがある。そのため、反応領域A1,A2,A3同様の温度制御を行なった場合であっても、各反応領域A1,A2,A3に対応するヒータユニットごとに加熱量のばらつきが生じてしまう。また、半導体素子は、一般に温度によって特性が変化する性質がある。例えば、単結晶シリコンを用いたMOSトランジスタは負の温度特性を持ち、同じ電圧値を印加しても、温度が高くなると流れる電流が減少する。従って、同じ電圧値であっても温度によって加熱量が変化する結果となる。
【0025】
このような問題に関して、加熱照射は、直接反応領域中の試料に光熱伝達を行うことができるという点で、ある程度解決できているが、その照射精度等についてはまだ十分ではない。本発明では、回折角を調節した光学素子1121を設けることで、照射目標である反応領域A1,A2,A3のいずれに対しても光照射することができる。より詳しくは、光学素子1121の回折角を、照射目標とする反応領域Aに対し照射すべき照射量が照射されるように調整する。これにより、光軸L1からの距離に係らず、目標とする反応領域A1,A2,A3の夫々に対して正確に光照射できる。
【0026】
このように、光学素子1121の回折角を調節することで、各反応領域A1,A2,A3の夫々に対して所望の光量を正確に照射することができる。その結果、基板上において所定反応を行なうにあたり、高い精度で温度制御することができるので、所定反応を高精度で制御することができる。更に、回折光学素子等を用いることにより、装置構成をコンパクトにすることができる。
【0027】
光源12は特に限定されないが、照射する光の指向性や収束性が良好であることが望ましく、発光ダイオード(LED)や半導体レーザー(LD)光源であることが望ましい。
【0028】
LED光源の種類は限定されず、例えば、接合部に電流が流れると光を放射するダイオードを光源とするものを用いることができる。そして、所望する波長等に応じて適宜に好適な材料を選択することができる。
【0029】
LD光源の種類は限定されず、半導体素子を光源とするものを用いることができる。そして、発光源が小型であること等からも好適に用いることができる。例えば、Ga(ガリウム)、In(インジウム)、As(ヒ素)、P(リン)等を含む半導体を用いた比較的長波長のLD光源(例えば、λ=1〜3μm)は水の吸収効率が良く、液体試料を直接加熱するのに好適である。また、短波長のLD光源は水の吸収効率が低いが、反応領域A1,A2,A3にLD光源からの光を吸収する蓄熱層(例えば、金属膜や樹脂層等)を設けることで同様の効果を得ることができる。
【0030】
光学レンズ13は、集光光学レンズとして光源12から照射される光を集束させることができる。また、適宜に光路上に別途に種々の光学素子やコリメートレンズを設けることで、光をガイドすることができる。光学レンズ13以外にも光路上に別途光学レンズを設けることができる。
【0031】
また、図示はしないが、必要に応じ、基板11と光源12との間に所定波長の光を透過するフィルターを設けることが望ましい。これにより、所望する波長の光のみを効率よく取り出すことができる。更に、必要に応じて、ダイクロックミラー等を設けることで、散乱光等の影響を排除することができるため好適である。また、複数波長の光を用いる場合には、光学フィルターを複数用いることができる。
【0032】
光照射の走査手段14は特に限定されないが、好適には、ガルバノミラーや、電気光学素子や、ポリゴンミラーや、MEMS素子等によって光走査させることが望ましい。特に、電気光学素子は可動部がないため、安定性や信頼性が特に高い点で好適である。また、これらの走査手段を複数用いてもよい。また、光学素子としてMEMSによる可変回折格子を用いる場合であれば、この光走査と同期させて回折角度を変化させるようにもできる。
【0033】
光走査は定速度で走査することに限定されず、各反応領域Aの設定温度条件や加熱時間等を考慮して適宜変速で走査させてもよい。走査手段として、走査速度の制御手段を更に設けることで、走査時間や走査速度等の走査条件を制御することができる。
【0034】
例えば、反応領域A1,A2,A3を均一に加熱したい場合には定速度で走査させることで、各反応領域A1,A2,A3を均一に加熱照射することができる。あるいは、反応領域A1,A2,A3の温度を均一にするのではなく、各反応領域の設定温度について温度勾配を設けたい場合には、変速で走査させることができる。より加熱したい反応領域には長時間の照射をし、あまり加熱したくない反応領域には短時間の照射をするように設定できる。このように、走査速度を適宜調節することで、各反応領域Aについて個別の条件設定が可能となり、更に高精度の温度制御が可能となる。
【0035】
ここで、反応領域A1,A2,A3に対して行う加熱照射の一例について説明する。
通常、光走査を行うことで、複数の反応領域に対して効率よく照射することができるが、その照射効率のばらつきが問題となる。例えば、光軸と同軸上の光L1の場合は、そのまま反応領域A1に対して略垂直方向に入射する。この場合の光学素子1121への入射角は略0°であり、出射角も略0°である(図1の領域Sの拡大図参照)。
【0036】
しかし、光軸から遠い位置に配置されている反応領域A3に対して光L3を照射する場合は、反応領域A1の照射条件と異なる。即ち、光を角度δ(図1参照)だけ走査させることで、光学素子1121への入射角が変化する。そのため、本発明では、この光学素子1121の回折角を調節することで、この反応領域A3に対しても照射可能とする(図1の領域Tの拡大図参照)。
【0037】
図1の場合であれば、反応領域A1に対応する光学素子1121と同じ光学素子では、反応領域A3への出射角を略0°(即ち、略垂直方向)に出射させることができない。そこで、本発明では、反応領域A3に対応する光学素子1121の回折角を調節することで、反応領域A3に対しても略垂直に加熱照射することができる。同様に、反応領域A2に対応する光学素子1121の回折角を調節することで、略垂直に加熱照射できる。その結果、各反応領域Aへの加熱照射量を、光軸からの距離に係らず均一にすることができる。これにより、加熱効率を均一にすることができ、温度制御の精度をより向上させることができる。なお、ここでは照射角度を略垂直に調節した場合を一例としたが、反応領域Aに対する照射角度は限定されず、各反応領域Aに対して照射可能となればよい。例えば、各反応領域Aに対する照射角度のいずれもが所定角度となるように、各光学素子1121の回折角を調節してもよく、これにより各反応領域Aに対する照射角度を同じくすることができる。
【0038】
従来であれば、走査角δの大きさに応じて各光学素子1121への入射角が異なることで、各光学素子の出射角が異なってしまう。そのため、各反応領域Aへ照射される光の入射角も異なる。従って、反応領域Aの配置位置によって加熱効率のばらつきがでてくることがあった。しかし、本発明では、各光学素子1121の回折角を夫々調節することで、このような加熱効率のばらつき問題を解消することができる。なお、光学素子の回折条件等については後述する。
【0039】
従って、反応処理装置1によれば、各反応領域Aにおける加熱のばらつき等を解消することができ、その結果として、個別かつ高精度の温度制御が可能となる。例えば、各反応領域Aについて独立して個別に温度制御する場合には、熱源(例えば、光源や発熱体等)を個別に設けること等が行なわれ得るが、本発明であれば光走査を行うことで光源数の軽減等にも寄与することができる。
【0040】
図2は、本発明に係る反応処理装置の第2実施形態で用いられる基板の一部拡大概念図である。図3は、光学素子の入射角と回折格子間隔との関係の一例を示すグラフである。以下、第1実施形態との相違点を中心に説明し、共通する部分についてはその説明を割愛する。
【0041】
図2に示す符号2は、反応処理装置を示している。この反応処理装置2は、基板21を備えている。基板21は、基板本体211と被覆層212とから構成されている。この被覆層212上には、光学素子が設けられているが、この光学素子は回折格子であり、各光学素子の回折格子間隔が光軸から離れるほど密になっていることを特徴の一つとしている。図2は、光学素子の回折格子間隔を概念化して示している。そして、図2は、基板21の一部を簡略化して表したものであり、その他の部位については省略して示している。
【0042】
図2を参照しながら説明する。入射光と回折格子の法線(点線参照)のなす角度を入射角θiとし、回折光と回折格子の法線(点線参照)のなす角度を回折角θmとする。そして、nはn次光を示す整数(0,±1,±2,・・・)である。この場合、各光学素子の回折格子間隔aは、光軸から離れるほど密とすることが望ましい。光軸から離れるほど入射角θiの角度は大きくなる。従って、領域Uの反応領域Aへの加熱照射が、最も入射角θiが大きくなる(図2の領域Uの拡大図参照)。
【0043】
加熱照射する光の光軸(例えば、図1の光L1参照)から距離が離れた位置に照射しようとするほど、入射角θiは大きくなる。また、同じ光学素子であれば、入射角θiが大きければ回折角θmも大きくなる。その結果、例えば、領域Uの如き、光軸から離れた位置の反応領域Aへの照射については、角度θmで照射されてしまう。
【0044】
従って、光学素子の回折格子間隔を、入射角θiが大きい光学素子(例えば、領域Uの光学素子)ほど密となるように設定することが望ましい。更に好ましくは、光学素子の回折格子間隔を下記式を満たすように設定することが望ましい。
【0045】
【数3】

【0046】
なお、n=0(0次光)は、全ての波長の光が直進(光軸方向)するため、波長分離が困難となる。この場合は、別途光学フィルター等を設けることが望ましい(図示せず)。しかし、それ以外の場合は、波長ごとに回折角θmが異なるので、所望する波長を取り出すことができる。
【0047】
そして、入射角と回折格子間隔との関係の一例として、図3のような関係を示すことができる。図3では、入射角が大きくなるにつれて回折格子間隔を小さくすることを示している。
【0048】
図4は、本発明に係る反応処理装置の第3実施形態の簡略側面図である。以下、上述した各実施形態との相違点を中心に説明し、共通する部分についてはその説明を割愛する。
【0049】
図4に示す符号3は、反応処理装置を示している。この反応処理装置3は、基板31と、光源32と、光学レンズ33と、走査手段34と、光学素子35を備えている。この反応処理装置は、基板31と光学素子35が別個に設けられている点を特徴の一つとする。
【0050】
基板31は、基板本体311と被覆層312とを有しており、反応領域A1,A2,A3を夫々備えている。そして、各反応領域Aに対応する光学素子35は、基板31と走査手段34の間の光路上に配置されている。
【0051】
図5は、本発明に係る反応処理装置の第4実施形態の簡略側面図である。以下、上述した各実施形態との相違点を中心に説明し、共通する部分についてはその説明を割愛する。
【0052】
図5に示す符号4は、反応処理装置を示している。この反応処理装置4は、基板41と、光源ユニット42と、第1の光学レンズ43と、走査手段44と、第2の光学レンズ45と、検出器46とを備えている。この反応処理装置は、検出・測定系を備えていることを特徴の一つとする。基板41は、基板本体411と被覆層412からなり、被覆層412には光学素子4121が設けられている。
【0053】
光源ユニット42は、異なる4種類の波長の光源を格納した光源ユニットである。この光源ユニット42により、用途に応じて波長を使い分けることができる。例えば、加熱用の光源として赤外線レーザーダイオードを用い、測定用(又は検出用)光として赤色レーザーダイオード(RLD)や青色レーザーダイオード(BLD)や緑色レーザーダイオード(GLD)等を用いることができる。ここでは、好適な光源の一例としてレーザーダイオードを挙げたが、これらの光源はレーザーダイオードに限定されないことは勿論である。
【0054】
加熱用の光源からの光照射によって各反応領域Aの温度制御を行なうことができる。そして、他の光源を測定用光源として用いることができる。例えば、検出・測定系として分光分析(例えば、蛍光分析、散乱光分析、赤外分光、紫外分光等)を行う場合には、これ らの波長に対応する光源を用いることができる。そして、その測定光を各反応領域A1,A2,A3中の試料に対して照射する。これにより発生する検出光L(例えば、蛍光や散乱光等)を検出器46で受光することで検出・測定できる。
【0055】
そして、蛍光分析を行なう場合を一例に挙げれば、励起波長が異なる複数の蛍光色素を用いることができる。これらの蛍光色素の励起波長に対応する励起光を各光源から照射することで、これらの蛍光色素を励起させることができる。その結果、各蛍光色素について検出・測定することができる。
【0056】
検出器46として用いられ得るものについては限定されず、例えば、光検出素子としてフォトダイオード等を用いることができる。そして、例えば、CCDやMOS等を用いることができる。また、必要に応じて、多分割のPINフォトダイオードや、フォトダイオードと集積回路とを組み合わせたフォトIC等を用いることもできる。
【0057】
更に、本発明では、この複数波長の光を時分割で照射することができる。例えば、加熱(温度制御)用と、測定用又は検出用の光について時間分割することで、最適な温度となるように制御しながら、かつ反応領域Aにおける各種反応等をリアルタイムで検出すること等ができる。
【0058】
このように検出・測定系を組み込むことで、各反応領域Aで行われる所定反応についてリアルタイムで検出することも可能であるし、定量的な分析を行なうことも可能である。
【0059】
そして、検出・測定系の光照射においても光学素子45を経由させることで、温度制御系と同様に、各反応領域Aについて均一な照射が可能となる。その結果、反応の検出・測定についても高い精度で行うことができる。更には、温度制御系と検出・測定系とを同一光路に組み込むことで、装置構成としての小デバイス化にも寄与できる。このように、本発明に係る反応処理装置は、加熱照射を正確に行なうことができるだけでなく、光学的測定や光学的検出等についても各反応領域Aについて正確に検出・測定することもできる。
【0060】
図6は、本発明に係る反応処理装置の第5実施形態の簡略斜視図である。以下、上述した各実施形態との相違点を中心に説明し、共通する部分についてはその説明を割愛する。
【0061】
図6に示す符号5は、本発明に係る反応処理装置を示している。この反応処理装置5は、基板51と、光源52と、光学レンズ53と、第1の走査手段54と、第2の走査手段55とを備えている。この反応処理装置は、光学素子が一体形成された基板51に対して、二次元的に光走査を行うことを特徴の一としている。
【0062】
基板51は、複数の反応領域Aが二次元的(X方向とY方向;図6参照)に配置されている。そして、各反応領域Aに対応する光学素子(図示せず)が夫々基板51上に設けられている。
【0063】
第1の走査手段54は、光源52から照射された光を基板51のX方向(横方向)に走査する。続いて、第2の走査手段55は、この光を基板51のY方向(縦方向)に走査する。この第1の走査手段54と第2の走査手段55とを用いることで、基板51上の反応領域Aに対して二次元的に光走査することができる。走査方向に関して、図6で示したX方向とY方向は例示であり、複数の走査手段を用いることで基板51に対して二次元的に光走査可能とする構造であればよい。これにより各反応領域Aに対して光照射できる。
【0064】
更に、各反応領域Aに対応して光学素子が夫々設けられているため、各反応領域Aに対して正確に光照射することができる。特に、反応領域Aと対応する光学素子がアレイ状に設けられている場合等には、このように光源52から照射される光を二次元走査することが望ましい。
【0065】
図7は、本発明に係る反応処理装置で用いられる基板の一形態例の簡略斜視図である。
【0066】
図7に示す符号61は、本発明に係る反応処理装置で用いられ得る基板を示している。この基板61は、試料の注入部613と、流路614と、使用後(例えば、反応終了後)の反応物を回収又は排出する排出部616と、を備えている。図7は、基板の流路構造を図示しており、基板内のその他の構成(例えば、被覆層等)については省略している。
【0067】
基板61の反応領域Aに試料を導入する方法としては、通常行い得る手法を適宜に採用することができる。注入部613から導入された試料は矢印Fの方向に沿って搬送され、各反応領域A等に導入される。続いて、本発明の反応処理装置に基板61をセットして、所定反応を行う。勿論必要に応じて解析を行なってもよい。反応終了後、必要に応じて、試料を排出部616から回収したり廃棄する。
【0068】
反応領域Aや流路614等を微小な空間とし、反応領域Aを流路614等で連通された構造とすることができる。また、その際の試料導入の手法としては、毛細管現象等を利用して試料を導入できる。更に、これらの流路表面をコーティング処理することで親水性等を高めることができる。これにより、試料を効率よく搬送すること等が可能となる。
【0069】
特に、複数の反応領域を設けた基板は、各種チップやセンサーの如き形態として使用することができる。例えば、生体高分子検出チップや血液分析チップ等として用いることができる。更に、基板としての形態で用いるため、使い捨てとした場合でも経済的な負担を軽減できる。従って、本発明の基板を使い捨てのチップ等として用いることが十分に可能であり、これにより試料のコンタミネーション等を防止できる。その結果、高い測定精度を簡便に得ることができる。
【0070】
そして、基板に用いる測定試料の小容量化や微量化が可能であれば、基板上で網羅的な解析を行なうことができる。また、解析時間の短縮や、測定に必要とする試料の少量化も可能となる。従って、各種測定試料の小容量化や微量化に貢献し得る技術として、本発明に関する技術は医療、環境科学、食品分析等をはじめとする幅広い分野に応用できる。
【0071】
このような観点から、基板に設けた反応領域をアレイ状に配置するとともに、これらの反応領域に対応する光学素子もそれぞれアレイ状に配置することが望ましい。このようなアレイ状の配置とすることで、網羅的な解析をより効率よく且つ高精度に行うことができる。
【0072】
本発明の反応処理装置は、複数の反応領域を備えているため、各反応領域において所定反応を行なうことができる。そのため、網羅的解析等を行なう際に好適に用いることができる。例えば、生物のゲノムやタンパク質の解析や、創薬支援、コンビナトリアルケミストリ等の化合物合成や分析、環境のモニタリング試験、食品の安全性検査等に用いることができる。その中でも、微小な試料を増幅させる遺伝子増幅反応や、マイクロリアクター等に用いることができる。
【0073】
例えば、遺伝子増幅反応は、微小な試料を正確に増幅させることが必要である。その増幅反応は温度制御を高精度に行なう必要がある。この点で、本発明の反応処理装置は反応領域夫々について高精度の温度制御等が可能であるため好適である。
【0074】
遺伝子増幅反応は、その出発物質と増幅産物の種類に応じて、種々の手法が用いられているが、ここでは一例として、本発明の制御装置においてPCR法を行う場合について説明する。PCR法は、「熱変性、プライマーとのアニーリング、ポリメラーゼ伸長反応」という増幅サイクルを連続的に行うことで、DNA等を数十万倍にも増幅させることができる。本発明の反応処理装置の各反応領域でこの増幅反応を行なうことができる。更に、光学測定系を設けることでリアルタイムでモニタリングすることができ、微量核酸の定量分析を行なうこともできる。
【0075】
PCR法等においては、増幅サイクルを正確に制御することが重要である。そのためには高精度の温度制御を必要とする。温度制御が不十分である場合には、無関係なDNA配列を増幅させてしまったり、増幅がうまく進行しなかったりする。
【0076】
一方、本発明の反応処理装置は、各反応領域に対して正確な加熱照射が可能である。従って、DNA解離温度やアニーリング温度や伸長温度等の絶対温度だけでなく、各反応領域の昇温や高温勾配、加熱時間等といった様々な条件についても正確に制御することができる。
【0077】
また、本発明の反応処理装置は、必要に応じて、複数波長の光を照射することもできる。そして、分光測定等の検出系の光照射も同軸光路で行うことができるため、デバイスとしての小型化にも貢献できる。
【0078】
そして、今まで説明してきた反応処理装置と同様に、本発明の反応処理方法でも同様の効果を得ることができる。基板上に設けられた複数の反応領域内で所定反応を行なう反応処理方法であって、少なくとも熱源として用いられる光源から照射する光を走査させ、この走査された光が照射目標とする反応領域に照射されるように回折角が調整された光学素子から、走査された光を出射させることを少なくとも行う反応処理方法である。そして、上述の反応処理装置においても、この反応処理方法を行うことができるのは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明に係る反応処理装置の第1実施形態の簡略側面図である。
【図2】本発明に係る反応処理装置の第2実施形態で用いられる基板の一部拡大概念図である。
【図3】光学素子の入射角と回折格子間隔との関係の一例を示すグラフである。
【図4】本発明に係る反応処理装置の第3実施形態の簡略側面図である。
【図5】本発明に係る反応処理装置の第4実施形態の簡略側面図である。
【図6】本発明に係る反応処理装置の第5実施形態の簡略斜視図である。
【図7】本発明に係る反応処理装置で用いられる基板の一形態例の簡略斜視図である。
【符号の説明】
【0080】
1,2,3,4, 5 反応処理装置
11,21,31,41,51,61 基板
12,32,42,52 光源(光源ユニット)
13,33,43,45,53光学レンズ
14,34,44,54,55 走査手段
1121,35,4121 光学素子
A 反応領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に設けられた複数の反応領域内で所定反応を行なう反応処理装置であって、
前記反応領域が複数設けられた基板と、
少なくとも熱源として用いられる光源と、
該光源から照射される光を走査させる走査手段と、
前記走査された光を前記反応領域へ導光する光学素子と、を少なくとも備え、
前記光学素子から出射する光が、照射目標とする前記反応領域に対して照射可能となるように、前記光学素子の回折角が調整された反応処理装置。
【請求項2】
前記光学素子は、前記反応領域ごとに対応して複数設けられ、
前記光学素子の回折格子間隔は、前記光の入射角が大きい光学素子ほど密であることを特徴とする請求項1記載の反応処理装置。
【請求項3】
前記光学素子は、下記関係式を具備することを特徴とする請求項1記載の反応処理装置。
【数1】

【請求項4】
前記光学素子は、前記基板と一体に設けられていることを特徴とする請求項1記載の反応処理装置。
【請求項5】
前記光学素子は、フレネルレンズであることを特徴とする請求項1記載の反応処理装置。
【請求項6】
前記反応領域と、該反応領域に対応する光学素子とが、それぞれアレイ状に配置されることを特徴とする請求項1記載の反応処理装置。
【請求項7】
基板上に設けられた複数の反応領域内で所定反応を行なう反応処理方法であって、
少なくとも熱源として用いられる光源から照射する光を走査させ、
前記走査された光が照射目標とする前記反応領域に照射されるように回折角が調整された前記光学素子から、前記走査された光を出射させることを少なくとも行う反応処理方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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