説明

反応性セラミック化によるゼノタイムセラミックの製造

YP−ガラスとY原料物質との反応を含む、YPO4セラミックを製造するための反応性セラミック化方法。本発明は、とりわけ、比較的低温、比較的短時間、および低コストで、純粋相のYPO4セラミック材料を合成するのに用いることができる。本発明は、例えば、大きい寸法のガラスシートを製造するためのフュージョンダウンドロー法におけるアイソパイプに適した大きいYPO4ブロック片の製造に使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本願は、2010年2月25日に出願した米国仮特許出願第61/308,080号の優先権の利益を主張する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、一般に、セラミック材料およびその製造方法に関する。特に、本発明は、ゼノタイム型のセラミック材料、および、反応性セラミック化を用いることによるその製造方法に関する。本発明は、例えば、高温で動作するフュージョンダウンドロー法用のアイソパイプなど、溶融ガラスを取扱う装置の耐火性部品に使用するのに適した、大きいゼノタイム型のバルク材料の製造に有用である。
【背景技術】
【0003】
ジルコニア、アルミナ、ジルコンなどの耐火性のセラミック材料は、溶融金属およびガラス材料などの高温液体の製造および取り扱いのためのシステムの構成要素の製造に用いられている。これらの材料は、高い動作温度下において良好な機械的性能および性能安定性、耐酸化性、および流体に対する耐腐食性を有することが望ましい。
【0004】
例えば、ジルコンは、液晶ディスプレイ(LCD)基板用のガラスシートなどの高精度のガラス物品の製造システムにおける溶融ガラスの取扱設備の製造に使用されている。LCD基板用など、高精度のガラスシートを製造する最先端の方法は、米国ニューヨーク州所在のCorning Incorporated社によって開発されたフュージョンダウンドロー法である。この方法は、アイソパイプと呼ばれるバルク耐火性成形ブロックの使用を含む。ガラス製造システムの許容される生産サイクルで、一貫性のあるガラスシートが生産できるように、アイソパイプの寸法安定性は高いことが望ましい。アイソパイプの寸法安定性を示唆するパラメーターの1つは、溶融ガラスおよびブロック自体の重力の負荷の下、成形プロセスの高い動作温度における、材料のクリープ速度である。ジルコンは、例えば、約2000mmの幅を有するガラスシートの製造用の比較的短いアイソパイプを製造するための許容されるクリープ速度を有することが見出された。
【0005】
しかしながら、精密に、一貫して、より大きいガラスシートを作るためには、ジルコンよりも低いクリープ速度を有する材料が望ましい。ジルコンに代わるアイソパイプ製造に提案される材料の1つは、ゼノタイム(YPO4)セラミックである。純粋相の(phase-pure)YPO4セラミックは、アイソパイプの通常の動作温度において、非常に高い溶融点(1990℃)および低いクリープ速度を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、許容される特性を有するバルクYPO4セラミックブロックの製造は、簡単な仕事ではない。単純な、費用効率が高い方法が非常に望まれている。
【0007】
本発明は、上記および他の必要性を満たす。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のいくつかの態様が本明細書に開示される。これらの態様は、互いに重複する場合もしない場合もありうることが理解されるべきである。よって、1つの態様の一部は、別の態様の範囲内に入る可能性があり、その逆もまた然りである。
【0009】
各態様は、多くの実施の形態によって例証され、これらも、同様に、1つ以上の特定の実施の形態を含みうる。実施の形態は、互いに重複する場合も、しない場合もありうることが理解されるべきである。よって、1つの実施の形態またはそれらの特定の実施の形態の一部は、別の実施の形態またはそれらの特定の実施の形態の範囲内に入る可能性があり、その逆もまた然りである。
【0010】
よって、本開示の第1の態様は、基本的にY23(P25xからなる化学組成を有する実質的に結晶性の物質の製造方法であり、ここで、xは、結晶性物質の組成におけるP25のY23に対するモル比であって、0.30≦x≦1.20であり、ある特定の実施の形態では0.50≦x≦1.20であり、ある特定の実施の形態では0.60≦x≦1.20であり、ある特定の実施の形態では0.70≦x≦1.20であり、ある特定の他の実施の形態では0.80≦x≦1.10であり、ある特定の実施の形態では0.90≦x≦1.10であり、ある特定の実施の形態では0.95≦x≦1.05であり、次の工程:
(I)基本的にY23(P25yからなる組成および軟化温度Tsoftを有するYP−ガラスを提供し、ここで、yは、YP−ガラス中のP25のY23に対するモル比であって、1.6≦y≦9.0であり、ある特定の実施の形態では2.0≦y≦8.0であり、ある特定の実施の形態では3.0≦y≦6.5であり、ある特定の他の実施の形態では4.0≦y≦6.5であり;
(II)Y原料物質を提供し;
(III)溶融の際に、xに等しいP25のY23に対するモル比を有し、前記YP−ガラスの複数の粒子および前記Y原料物質の複数の粒子を含む混合物を得て;
(IV)ステップ(III)から得られた前記混合物をTsoftよりも高い温度T1まで加熱し、それによって第1のセラミックが得られる、
各工程を含む。
【0011】
本開示の第1の態様のある特定の実施の形態では、前記実質的に結晶性の物質が、実質的に均質な化学組成を有する。
【0012】
本開示の第1の態様のある特定の実施の形態では、ステップ(III)において、混合物は0.95≦x≦1.00となるようにもたらされ、ある特定の実施の形態では0.98≦x≦1.00である。
【0013】
本開示の第1の態様のある特定の実施の形態では、ステップ(III)において、混合物は1.00≦x≦1.05となるようにもたらされ、ある特定の実施の形態では1.00≦x≦1.03である。
【0014】
本開示の第1の態様のある特定の実施の形態では、T1は、少なくとも1000℃であり、ある特定の実施の形態では少なくとも1200℃であり、ある特定の実施の形態では少なくとも1500℃であり、ある特定の実施の形態では少なくとも1700℃であり、ある特定の他の実施の形態では少なくとも1800℃である。
【0015】
本開示の第1の態様のある特定の実施の形態では、本方法はさらに、次の工程:
(V)ステップ(IV)から得られた前記第1のセラミックの複数の粒子を形成し;
(VI)前記第1のセラミックの粒子から圧縮未焼成体を成形し;
(VII)前記圧縮未焼成体を、1400℃より高い温度T2、ある特定の実施の形態では1500℃より高い、ある特定の実施の形態では1600℃より高い、ある特定の他の実施の形態では1700℃より高い、ある特定の他の実施の形態では1800℃より高い、ある特定の他の実施の形態では1900℃より高い温度T2まで加熱して、密度の高いバルクセラミック材料を得る
各工程を含む。
【0016】
本開示の第1の態様のある特定の実施の形態では、ステップ(I)は、(I1)、(I2)および(I3)のうちのいずれか1つを含む:
(I1)Y23粉末およびP25粉末から溶融ガラスを形成する;
(I2)Y23粉末およびH3PO4液から溶融ガラスを形成する;および
(I3)Y23材料物質およびP25材料物質から溶融ガラスを形成する。
【0017】
本開示の第1の態様のある特定の実施の形態では、実質的に結晶性の物質は、基本的に、純粋な相YPO4からなる。
【0018】
本開示の第1の態様のある特定の実施の形態では、ステップ(III)において、前記YP−ガラス粒子の粒径分布は、5μm〜30μmのメジアン粒径を有し、ある特定の実施の形態では5μm〜25μm、ある特定の実施の形態では10μm〜20μm、ある特定の実施の形態では10μm〜15μmのメジアン粒径を有する。
【0019】
本開示の第1の態様のある特定の実施の形態では、ステップ(III)において、前記Y原料物質の粒子の粒径分布は、5μm〜30μmのメジアン粒径を有し、ある特定の実施の形態では5μm〜25μm、ある特定の実施の形態では10μm〜20μm、ある特定の実施の形態では10μm〜15μmのメジアン粒径を有する。
【0020】
本開示の第1の態様のある特定の実施の形態では、ステップ(III)において、混合物は、前記YP−ガラス粒子に加えて、次のうちの少なくとも1つを含む:
(III−M−1)Y23粒子;
(III−M−2)基本的にY23(P25zからなる組成式によって表わされる組成を有する第2のY原料物質の粒子[ここで、zは、YP−ガラス中のP25のY23に対するモル比であって、z<1であり、ある特定の実施の形態ではz<0.8、他の実施の形態ではz<0.5、ある特定の他の実施の形態ではz<0.3である];
(III−M−3)ステップ(IV)において、Y23内に移すことができる、第3のY原料物質の粒子。
【0021】
本開示の第1の態様のある特定の実施の形態では、ステップ(V)において、前記第1のセラミックの粒径分布は、5μm〜30μmのメジアン粒径を有し、ある特定の実施の形態では5μm〜25μm、ある特定の実施の形態では10μm〜20μm、ある特定の実施の形態では10μm〜15μmのメジアン粒径を有する。
【0022】
本開示の第1の態様のある特定の実施の形態では、得られた実質的に結晶性の物質は、8体積%未満の細孔率を有し、ある特定の実施の形態では5体積%未満、ある特定の他の実施の形態では3体積%未満、ある特定の他の実施の形態では1体積%未満の細孔率を有する。
【0023】
本開示の第1の態様のある特定の実施の形態では、実質的に結晶性の物質内に細孔が存在する場合には、細孔の少なくとも80%は閉鎖された細孔であり、ある特定の実施の形態では少なくとも85%、ある特定の実施の形態では少なくとも90%、ある特定の他の実施の形態では少なくとも95%が閉鎖された細孔である。
【0024】
本開示の第1の態様のある特定の実施の形態では、実質的に結晶性の物質は、最大で5.0×10-7-1、ある特定の実施の形態では最大で4.0×10-7-1、ある特定の他の実施の形態では最大で3.0×10-7-1、ある特定の実施の形態では最大で2.0×10-7-1、ある特定の実施の形態では最大で1.0×10-7-1の、1250℃および1000psiにおけるクリープ速度を有する。
【0025】
本開示の第2の態様は、第1の態様およびそれらのさまざまな実施の形態に従った方法によって作られた、実質的に結晶質のバルク材料に関する。
【0026】
本開示の第3の態様は、第2の態様およびそれらのさまざまな実施の形態に従った実質的に結晶質のバルク材料を含む溶融ガラス材料の溶融、供給、取り扱い、調節および成形に使用するための耐火ブロックである。
【0027】
本開示の第3の態様のある特定の実施の形態では、耐火ブロックは、ガラスシートを製造するためのフュージョンダウンドロー法のためのアイソパイプを含む。
【0028】
本開示の第3の態様のある特定の実施の形態では、耐火ブロックおよび/またはアイソパイプは、少なくとも2500mmの寸法を有し、ある特定の実施の形態では少なくとも3000mm、ある特定の他の実施の形態では少なくとも3500mmの寸法を有する。
【0029】
本開示の第4の態様は、第3の態様およびそれらのさまざまな実施の形態に従った耐火ブロックを含めた溶融ガラス処理装置を使用する、ガラスシートの製造方法である。
【0030】
本開示の第4の態様のある特定の実施の形態では、耐火ブロックは、少なくとも2500mmの寸法、ある特定の実施の形態では少なくとも3000mm、ある特定の他の実施の形態では少なくとも3500mmの寸法を有するアイソパイプを含む。
【0031】
本開示の第4の態様のある特定の実施の形態では、アイソパイプは、少なくとも2週間の連続した期間、ある特定の実施の形態では少なくとも1ヶ月の連続した期間、ある特定の実施の形態では少なくとも3ヶ月の連続した期間、ある特定の実施の形態では少なくとも6ヶ月の連続した期間、少なくとも1200℃の動作温度、ある特定の実施の形態では少なくとも1300℃、ある特定の実施の形態では少なくとも1400℃、ある特定の他の実施の形態では少なくとも1500℃の動作温度に供される。
【0032】
本開示のさまざまな態様の1つ以上の実施の形態は、次の利点の1つ以上を有する。第1に、実質的に純粋な相のYPO4セラミックは、比較的低い合成温度、比較的短時間で得ることができ、大きいYPO4セラミックブロックを比較的低コストで製造することを可能にする。第2に、フュージョンダウンドロー法でガラスシートを製造するための大きい寸法のアイソパイプの製造に適した、高密度および低細孔率の基本的に純粋なYPO4セラミックの大きいブロックを製造することができる。第3に、高温において非常に低いクリープ速度を有するYPO4セラミックのアイソパイプを作ることができ、少なくとも1300℃の高い成形温度を有するガラス組成に基づいたガラスシートの製造に適している。
【0033】

添付の図面は、本発明のさらなる理解を提供することが意図されており、本明細書に取り込まれ、その一部を構成する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】フュージョンダウンドロー法によるガラスシートの製造のために操作するアイソパイプの略図。
【図2】P25−Y23の2成分系の平衡状態図。
【図3】YP−ガラスおよびYP−ガラスとY23の混合物の示差走査熱量測定(DSC)図。
【図4】1000℃まで加熱されたYP−ガラスのXRDグラフ。
【図5】1000℃で中間保持され、1200℃まで焼成した後の図4に示すものと同一の混合物のXRDグラフ。
【図6】1580℃まで焼成した後の図4および5に示すものと同一の混合物のXRDグラフ。
【図7】1580℃まで焼成した後の異なる比のY23を有する、3種類の異なるYP−ガラスとY23の混合物の30°、2θを軸として展開するXRDグラフの一部を示す図。
【図8】本発明の1つの実施の形態に従って作られたセラミック材料のSEM画像。
【図9】本発明の1つの実施の形態に従って作られた棒状のYPO4の研磨した断面のSEM顕微鏡写真。
【発明を実施するための形態】
【0035】
他に指示されない限り、本明細書および特許請求の範囲に用いられる材料の重量パーセントおよびモルパーセント、寸法、およびある特定の物理的特性についての値などを表すすべての数値は、「約」という用語によって修飾されると理解されるべきである。本明細書および特許請求の範囲に用いられる正確な数値は、本発明の追加の実施の形態を形成することも理解されるべきである。実施例に開示される数値の正確性が確保されるように努力がさなれている。しかしながら、測定した数値はいずれも、本質的に、それぞれの測定技術に見られる標準偏差から生じる、ある特定の誤差を含みうる。
【0036】
本明細書では、成分または材料の「重量%」または「重量パーセント」または「重量によるパーセント」、および「モル%」、または「モルパーセント」または「モルによるパーセント」は、そうでないことが明確に述べられていない限り、その成分を含む組成物または物品の全重量またはモルに基づいている。
【0037】
本開示のバルク材料は、室温で少なくとも200立方センチメートル(cm3)の全体積を有する連続した固体塊である。よって、それぞれ100cm3未満の全体積を有する大量の粉末またはペレットは、本開示におけるバルク材料を有するとはみなされない。
【0038】
本開示では、ゼノタイムおよびYPO4という用語は、互換的に用いられる。「ゼノタイム型」の材料は、Y23およびP25を含む、0.30〜1.20のP25のY23に対するモル比を有する材料である。本明細書では、YP−ガラスという用語は、イットリウムおよびリン酸(phosphate)の両方を含むガラス材料を意味し;Pが豊富なYP−ガラスとは、1より大きい、P原子のY原子に対するモル比を有するガラス材料を意味する。
【0039】
図1は、フュージョンダウンドロー法を通じてガラスリボン111を製造するために動作するアイソパイプ100を概略的に示している。アイソパイプ100は、V字形の下部105の上にトラフ状の上部103を備えた単一片(unitary piece)のジルコンを含む。溶融ガラスは、注入チューブ101を通じてトラフ103内に入り、トラフ103の上部表面から両側に溢れ出て、トラフ103の外部側面、およびV字形の下部105の2つの側面が1つに合わさった部分にわたって2枚のリボンを形成し、V字形の部分の下側の先端であるルート109で融合し、単一のガラスリボン111を形成し、これが方向113の方に下向きにドローされる。ガラスリボン111は、下流でさらに冷却されて(図示せず)硬いガラスシートを形成し、さらに、ガラスリボンから切り出されて、寸法に合わせて切断され、LCDの製造に使用される。ガラスリボン111の両外表面は、周囲空気にのみ晒されており、アイソパイプの表面とは決して接触に至らず、したがって、ガラスは、研削および研磨などのさらなる表面仕上げの必要のない、基本的に引っかき傷のない純粋なままの表面品質を有する。この方法で作られたガラスシートは、表面欠陥がないことに起因して、非常に高い機械的強度を有する傾向がある。高い厚さ均一性、低い応力、高い応力均一性など、所望の特性を有する精密なガラスシートを製造するためには、生産サイクルの間のアイソパイプ100の形状の安定性は非常に重要である。残念なことに、アイソパイプは、それ自体および溶融ガラスの負荷の重力に起因して経時によりたるみ、形状および寸法の変化を引き起こしうる。実質的に一定の材料クリープ速度および所定の動作温度と仮定すれば、アイソパイプの期間が長ければ、たるみはさらに顕著になる。ジルコン・セラミックの細孔率は、アイソパイプのたるみおよび他の特性に影響を及ぼす。したがって、一般に、アイソパイプ用のジルコン・セラミックは、約10体積%未満の細孔率を有するように高密化されることが望ましい。望ましくは、アイソパイプのジルコン・セラミック中の細孔は、ほとんどが閉鎖細孔である、すなわち、それらは、アイソパイプの表面を取り囲む周囲空気に曝露されない。
【0040】
ジルコンは、フュージョンダウンドロー法用のアイソパイプの製造に用いられている。ジルコンのクリープ速度は、より小さい世代のガラスシートの製造に適した幅を有するアイソパイプでは許容されるが、ガラスシートの大きさはますます大型化しつつあることから、クリープ破壊またはクリープが誘起する製品欠陥を防ぐために、クリープ速度がさらに低下されることが非常に望まれている。さらには、ジルコンが長い生産活動にわたって耐えられる最高動作温度は制限される。非常に大きいアイソパイプまたはより高い溶融供給温度のための可能性のある材料の1つは、ゼノタイム(YPO4またはY23・P25)である。純粋なYPO4は、約1995℃の溶融点を有する。本開示は、とりわけ、望ましくは1250℃および1000psiにおいて、従来のジルコンよりも10倍を超えて低い、最大で5×10-7/時間の高温クリープ速度を有する、バルクYPO4セラミックを製造するための新しい方法に関する。
【0041】
しかしながら、ゼノタイムなどの非常に耐火性の材料をアイソパイプなどの大きい部品へと加工することは簡単ではない。まず初めに、押圧に供する準備ができた精錬された鉱石として入手するには、ゼノタイムは、天然には(または、十分な純度では)存在しない。ゼノタイム・ガラスセラミックに関して、少なくとも1つの特許(米国特許第7,300,896号明細書)が見つかっているが、化学量論的ゼノタイム組成のガラスを得るために必要とされる溶融温度は2000℃を超えるであろうことから、実際は、その特許から得られる材料は純粋なゼノタイムではなく、融剤およびガラス形成酸化物(例えばB23およびSiO2など)を含むゼノタイムである。低溶融酸化物が存在するこれらのガラスセラミックは、恐らくは、アイソパイプの性能にとって必要とされる耐火性および耐クリープ性を有しないであろう。
【0042】
国際出願公開第2007/145847号パンフレットおよび欧州特許出願公開第1838633号明細書は、YPO4セラミック材料およびそれらのさまざまな製造方法について記載しており、それらの関連内容は、参照することによってそれらの全体が本明細書に取り込まれる。それらが教示する方法は、最小限に抑えられた収縮を有する、高密な低細孔率のゼノタイム体を得ることに関しては、多くの技術的障害が存在する。
【0043】
本開示の方法は、より単純で費用のかからない代替となる、YPO4セラミックの合成経路の提供を目的としている。本開示の方法は、一般に、「反応性セラミック化」と称され、次に示す反応を含む:
ガラスフリット + 反応物質 → 所望のセラミック
ここで、ガラスフリットは、P豊富なYP−ガラス、およびY原料物質としての反応物質を含み、最終的な所望の製品のために追加のYおよび随意的なPを提供し、ガラスフリットと反応物質との高い温度反応が、所望の組成、結晶相およびそれらの集合を有する所望のセラミックを生じる。ガラスフリットは、比較的低い溶融温度を有することが望ましく、反応性セラミック化段階の間に反応物質を流し、湿らし、比較的低温において所望のセラミックの形成を効果的に促進する。反応性セラミック化におけるフリットの使用はまた、合成反応の前にガラスの流れを生じさせ、高密度化および比較的低い細孔率を生じさせる。
【0044】
反応性セラミック化は、次に概略的に記すことができるガラスセラミックの経路とは異なる:
前駆体ガラス → 所望のセラミック
【0045】
ガラスセラミックの経路では、最終的な所望のセラミックにおける残留ガラスの量を最小限に抑えるため、前駆体ガラスは、最終製品の組成にしっかりと近づけなければならない。よって、前駆体ガラスを溶融するのに必要とされる温度は、ガラスセラミックの方法を非常に難しくすることから、このガラスセラミックの方法を実質的に用いて、純粋相の非常に耐火性の化合物を大量に得ることができる見込みはない。
【0046】
23-P25系についての2成分の平衡状態図が図2に示されている(重量%)。YPO4の高い液相温度(2150℃)は、基本的にガラスセラミック経路による合成を不可能にしている。
【0047】
本発明の方法は、基本的にY23(P25xからなる実質的に均質な化学組成を有する、実質的に結晶性の物質(以後「標的材料」)のいずれかの製造に使用することができ、ここで、xは、前記結晶性物質の組成におけるP25のY23に対するモル比であって、0.30≦x≦1.20であり、ある特定の実施の形態では0.50≦x≦1.20であり、ある特定の実施の形態では0.60≦x≦1.20、ある特定の実施の形態では0.70≦x≦1.20であり、ある特定の他の実施の形態では0.80≦x≦1.10であり、および0.90≦x≦1.10である。xが1のとき、標的材料は化学量論的ゼノタイムであり、最も高い耐火性を有すると考えられる。しかしながら、少しだけ過量のP25またはY23も、0.30≦x≦1.20の程度まで許容される。ある特定の実施の形態では、より良好な高温性能、特に、少なくとも1200℃の動作温度におけるクリープ速度のためには、0.90≦x≦1.10が望ましく、ある特定の実施の形態では0.95≦x≦1.05が望ましい。ある特定のガラス組成およびガラス製造法では、標的材料は、動作可能なことが望ましく、標的材料は、1200℃を超える温度で、ある特定の実施の形態では1250℃を超える、ある特定の他の実施の形態では1280℃を超える、ある特定の他の実施の形態では1300℃を超える温度で、長時間、一貫して機能することが要求されうる。これらの高温用途では、P25のY23に対するモル比は、化学量論的量に近いことが非常に望ましく、例えば、0.98≦x≦1.02であり、ある特定の実施の形態では0.99≦x≦1.02である。標的材料における高いP25モル比は、原料物質としてのY23の相対的希少性および高いコストの理由から、材料のコストを低下させる。しかしながら、標的材料中のP25が過剰すぎると、セラミックの耐火性およびクリープ速度が低下してしまいかねない。したがって、材料のコストおよび機械的性能の両方の理由から、標的材料は、化学量論的YPO4に比較的近い組成を有することが非常に望ましい。
【0048】
「実質的に結晶質」とは、材料が、体積で、少なくとも90%の結晶相を含むことを意味する。よって、標的材料は、1つ以上の結晶相を含みうる。標的材料は、少なくとも80%のYPO4結晶相を含むことが非常に望ましく、ある特定の実施の形態では少なくとも85%、ある特定の他の実施の形態では少なくとも90%、ある特定の他の実施の形態では少なくとも95%、さらに他の実施の形態では少なくとも98%、さらに他の実施の形態では少なくとも99体積%のYPO4結晶相を含むことが非常に望ましい。「〜から基本的になる」とは、その材料が、追加の成分を、その材料の特性に物質的に影響を与えない量で含みうることを意味する。よって、標的材料は、特定のモル比のY23およびP25に加えて、これら他の酸化物が、合成すべき標的材料の所望の特性、例えば耐火性およびクリープ速度などに物質的に悪影響を与えない程度に少量で、他の成分、例えばZrO2、TiO2、Fe23、CaO、MgO、および他の金属酸化物などを含みうる。しかしながら、他の酸化物は、意図的ではなく、バッチ材料中に不純物として、合成プロセスの間の汚染物質として、または意図的に、焼結助剤、および他の加工助剤および/または改質剤として、最終的な材料内に含まれうる。一般に、最終的な標的材料は、例えばLCDガラス基板の製造用のものなど、無アルカリガラス溶融物を処理することが意図されている場合は、アルカリ金属酸化物は無アルカリガラス溶融物内に移動する能力を有することから、基本的に、アルカリ金属酸化物を含まないことが非常に望ましい。Fe23およびTiO2などの他の酸化物の存在は、標的材料の耐火性および機械的性能を低下させる;しかしながら、ある特定の実施の形態では、それらの少量の添加は、標的材料中の細孔率を低下させ、より良好な、および/または、より速い焼結を達成するために望ましい場合がある。とはいえ、標的材料中のP25およびY23以外の他の酸化物のそれぞれの量は、最大で3モル%、ある特定の実施の形態では最大で2モル%、ある特定の他の実施の形態では最大で1モル%、ある特定の他の実施の形態では最大で0.5モル%、ある特定の他の実施の形態では最大で0.1モル%であることが望ましい。
【0049】
本発明の方法のステップ(I)で提供されたYP−ガラスは、基本的に、Y23(P25yからなる組成および軟化温度Tsoftを有し、ここで、yは、YP−ガラスにおけるP25のY23に対するモル比であって、1.6≦y≦9.0であり、ある特定の実施の形態では2.0≦y≦8.0であり、ある特定の実施の形態では3.0≦y≦6.5であり、ある特定の他の実施の形態では4.0≦y≦6.5である。モル比yが高くなると、YP−ガラスの軟化点(Tsoft)は低くなる。「軟化温度」または「軟化点」とは、均質な組成を有するガラスが、107.6の粘度を有する温度を意味する。比較的低いTsoftは、反応性セラミック化のステップ(IV)において、Y原料物質のより良好な湿潤、反応物質のより良好な混合を可能にし、したがって、第1のセラミックおよび最終的な標的材料中のより低い細孔率、より低い反応温度およびより速い反応速度を潜在的に可能にするであろう。一般に、y≧1.6のとき、YP−ガラスは、低温で溶融し、1000℃またはそれより低温で注入することができる。しかしながら、y>9.0の場合、YP−ガラスは、周囲空気中で湿りやすい傾向にあり、取り扱いにはあまり望ましくなくなってしまう。
【0050】
YP−ガラスは、Y23材料物質とP25材料物質との反応によって製造することができる。Y23材料物質は、有利には、Y23粉末、ハロゲン化イットリウム、Y(OH)3、Y(NO33、Y(NO23などであって差し支えなく;P25 原料物質は、P25粉末、H3PO4液などであって差し支えない。Y23材料物質およびP25材料物質は両方とも、Y以外の金属を、最終的な組成において望まれる量を超えた量で取り込まないことが非常に望ましい。YP−ガラスがP25およびY23から製造される実施の形態では、これら2種類の酸化物の粉末は、計量および混合され、次いで反応によってガラスを形成することができる。YP−ガラスがY23粉末およびH3PO4から製造される実施の形態では、正確に計量したY23を、正確に計量したH3PO4注入し、続いて、混合し、水を除去するために焼成し、その後、溶融して実質的に均質なガラス材料を形成する。製造方法にかかわらず、YP−ガラスは溶融され、かつ、実質的に均質な組成を有する、すなわち、Y23およびP25の分布がガラス材料全体にわたり、実質的に均等であることが望ましい。P25またはH3PO4がYP−ガラス材料の製造の開始材料として用いられる場合には、熱処理の間のP25の揮発度を考慮に入れるべきである。よって、YP−ガラスの溶融は、有利には、閉鎖系で行うべきである。YP−ガラスの正確な組成を知ることが必要とされる場合には、所定の標的材料についてステップ(III)のための正確かつ精密な計量を行うことができるように、ステップ(I)の終了時にYP−ガラスの組成分析を行うことが必要とされうる。溶融ガラスは、冷却され、ボールミル粉砕されて、続く工程にとって望ましい粒径および粒径分布を有するYP−ガラスの粒子が製造されうる。あるいは、熱いYP−ガラスは、空気ジェットまたは水流などの冷却流体によるクエンチに供され、それらから直接的に粒子が得られてもよい。
【0051】
ステップ(II)で提供されたY原料物質は、有利には、Y23粉末または基本的にY23(P25zからなる組成を有する材料の粉末であって差し支えなく、ここで、zは、YP−ガラスにおけるP25のY23に対するモル比であって、z<1であり、ある特定の実施の形態ではz<0.8であり、他の実施の形態ではz<0.5であり、ある特定の他の実施の形態ではz<0.3である。さらなる代替として、Y原料物質は、ステップ(IV)における処理の際に、酸素を含む雰囲気下で、Y23に変換することができる、Y含有材料の粉末でありうる。これらのY原料物質は、例えば、Y(OH)3、ハロゲン化イットリウム、Y(NO33、Y(NO23などでありうる。1種類以上のY原料物質を用いることもできる。当業者は、所定の組成を有するYP−ガラスから、所定の組成を有する標的材料を製造することが必要とされるY原料物質の適正な量を容易に計算することができる。
【0052】
ステップ(III)では、YP−ガラスおよびY原料物質の比較的均一な混合物が非常に望ましい。そのためには、YP−ガラスおよびY原料物質は、両方とも、粉末の形態であることが望ましい。上述のように、標的材料およびYP−ガラスの組成が分かれば、所定の組成を有するY原料物質の必要量は容易に計算することができる。
【0053】
ステップ(III)におけるYP−ガラスおよびY原料物質の粒径および粒径分布は本発明にとっては重要ではないが、それでもなお、粒子は、これら2種類の材料の緊密な混合物を得るためには、比較的細かい大きさであることが望ましい。緊密な混合物は、ステップ(IV)の間にYP−ガラスによるY原料物質の湿潤を促進することができ、したがって、YP−ガラスとY原料物質との反応を促進し、結果として、最終的な標的材料における均質な組成および、より速い合成プロセスをもたらす。典型的な実施の形態では、ステップ(III)において、YP−ガラスの粒径分布は、5μm〜30μmのメジアン粒径を有し、ある特定の実施の形態では5μm〜25μmであり、ある特定の実施の形態では10μm〜20μmであり、ある特定の実施の形態では10μm〜15μmである。典型的な実施の形態では、ステップ(III)において、Y原料物質の粒径分布は、5μm〜30μmのメジアン粒径を有し、ある特定の実施の形態では5μm〜25μmであり、ある特定の実施の形態では10μm〜20μmであり、ある特定の実施の形態では10μm〜18μmである。
【0054】
ステップ(IV)では、ステップ(III)で得られたYP−ガラスとY原料物質の混合物が熱処理に供され、ここで、それらが反応して第1のセラミック材料を形成し、これは、ある特定の実施の形態では標的材料として使用することができる。望ましくは、混合物は、YP−ガラスの軟化温度より高い温度T1まで加熱され、それによって、YP−ガラスが流れ、Y原料物質を湿らせ、その後にY原料物質と反応して標的材料の組成を有するセラミックを得る。ある特定の実施の形態では、T1は少なくとも1000℃であり、ある特定の他の実施の形態では、T1は少なくとも1200℃であり、ある特定の他の実施の形態では、T1は少なくとも1500℃であり、ある特定の他の実施の形態ではT1は少なくとも1700℃であり、ある特定の他の実施の形態ではT1は少なくとも1800℃である。
【0055】
ある特定の実施の形態では、ステップ(IV)は、比較的低温、例えば室温などで開始する複数の工程を含む。加熱工程の間に、混合物は、最初に、温度TA、例えば200℃前後などまで加熱されて差し支えなく、ここで、水および水分の蒸発を可能にするように維持され、次に、TAよりも高い温度TBに加熱され、ここで、含まれる場合には、ある特定の成分が変換され、次いで、TBよりも高い温度TC加熱され、ここで、YP−ガラスが溶融し、その後、温度TDまで加熱され、ここで、YP−ガラスとY原料物質との反応が生じ、最後に、温度T1まで加熱され、ここで、反応を完了することができ、結晶粒が互いに融合し、望ましい結晶寸法が得られる。
【0056】
ステップ(IV)で得られた第1のセラミックは、ある特定の用途にそのまま使用するのに適している場合もあるが、例えば、フュージョンダウンドロー・ガラスシート製造法のアイソパイプに使用するためにさらに良好な性能を有する材料を得ることを目的として、さらに加工することが望ましい場合がある。1280℃の高さの温度において非常に低い細孔率および低いクリープ速度を有する、非常に高密な標的セラミック材料を得るためには、前記第1のセラミックを次の追加の工程に供することが非常に好ましい:
(V)ステップ(IV)から得られた前記第1のセラミックの複数の粒子を形成し;
(VI)前記第1のセラミックの粒子から圧縮未焼成体を成形し;
(VII)前記圧縮未焼成体を1400℃より高い、ある特定の実施の形態では1500℃より高い、ある特定の実施の形態では1600℃より高い、ある特定の他の実施の形態では1700℃より高い、ある特定の他の実施の形態では1800℃より高い、ある特定の他の実施の形態では1900℃より高い温度T2まで加熱して、密度の高いバルクセラミック材料を得る。
【0057】
粒子は、ステップ(V)においてバルクの第1のセラミックをボールミル粉砕することによって得ることができる。粒径および粒径分布は、未焼成体へと成形されるときに、ステップ(V)における充填効率に顕著な影響を与えうる。典型的な粒子分布は、5μm〜30μmのメジアン粒径を実証し、ある特定の実施の形態では5μm〜25μm、ある特定の実施の形態では10μm〜20μm、ある特定の実施の形態では10μm〜15μmである。
【0058】
1つの実施の形態では、ステップ(V)において、第1のセラミックの粒子は、緊密に封止可能な可撓性のバッグ内に入れられ、圧縮充填(compact packing)を得るために振動を与えられ、次に、高度に圧縮された密度の高い未焼成体を得るために等方高圧プレス内に置かれる。次に、未焼成体は、ステップ(VII)において焼結されて、高密化された標的セラミックブロックを得る。ステップ(VII)の間に、結晶粒は互いに融合し、収縮して非常に低い細孔率を有する密度の高い本体を形成する。したがって、ある特定の実施の形態では、得られた標的材料は、8体積%未満の細孔率を有し、ある特定の実施の形態では5体積%未満、ある特定の他の実施の形態では3体積%未満、ある特定の他の実施の形態では1体積%未満の細孔率を有する。したがって、ある特定の他の実施の形態では、得られた標的材料において、存在する場合には、細孔の少なくとも80%、ある特定の実施の形態では少なくとも85%、ある特定の実施の形態では少なくとも90%、ある特定の他の実施の形態では少なくとも95%が、閉鎖細孔である。閉鎖細孔とは、標的材料の表面を取り囲む雰囲気から隔離されている細孔である。
【0059】
目的のセラミック材料は、望ましくは、最大で5.0×10-7-1の1250℃および1000psiにおけるクリープ速度を示し、ある特定の実施の形態では最大で4.0×10-7-1、ある特定の他の実施の形態では最大で3.0×10-7-1、ある特定の実施の形態では最大で2.0×10-7-1、ある特定の実施の形態では最大で1.0×10-7-1である。
【0060】
上記ステップ(V)〜(VII)を含む焼結工程を用いることによって、それ以外ではステップ(IV)の終わりに達成することは困難であったであろう、実質的に均質な組成を有する標的セラミック材料の大型の高品質の高密なブロックを作ることができる。このような大きいブロックは、少なくとも1メートルの大きさ、ある特定の実施の形態では少なくとも2メートル、ある特定の他の実施の形態では少なくとも2.5メートル、ある特定の他の実施の形態では少なくとも3.0メートルの大きさの、少なくとも1つの寸法を有し、ある特定の実施の形態では互いに垂直な少なくとも2つの寸法を有する。高強度の非常に均一な標的材料のこのような大きいブロックは、多くの用途、例えば、限定はしないが、LCDガラス基板として使用するための大きい寸法のガラスシートの製造のためのフュージョンダウンドロー法のアイソパイプを含めた、ガラスの製造、供給、調整および形成システムに用いることができる。例えば、目的のセラミック材料は、少なくとも2500mm、ある特定の実施の形態では少なくとも3000mm、ある特定の他の実施の形態では少なくとも3500mmの長さを有するアイソパイプの製造に用いられうる。その材料のアイソパイプの正常な動作温度における低いクリープ速度は、第10世代またはそれ以上のガラスシートを製造するための安定なフュージョンダウンドロー法にとって特に有用であり好都合である。アイソパイプは、少なくとも2週間、ある特定の実施の形態では少なくとも1ヶ月、ある特定の実施の形態では少なくとも3ヶ月、ある特定の実施の形態では少なくとも6ヶ月の連続した期間、少なくとも1200℃の動作温度、ある特定の実施の形態では少なくとも1300℃、ある特定の実施の形態では少なくとも1400℃、ある特定の他の実施の形態では少なくとも1500℃の動作温度に供されうる。
【0061】
アイソパイプは、例えば、本発明の方法のある実施の形態のステップ(VII)から得られる大きいセラミックブロック片を機械加工することによって製造されうる。
【0062】
次の非限定的な例は、本発明をさらに例証するものである。
【実施例】
【0063】
バッチ材料として試薬等級の二酸化イットリウムおよび五酸化リンを使用する、70〜80重量%のP25範囲を有する、2種類のYP−ガラス組成物、YPG−1およびYPG−2(下記表1を参照)を溶融した。選択したガラスは、白金のるつぼ内で6時間溶融した後に1600℃で注入したときには流動性であった。過度の起泡などの溶融の問題は起こらなかった。アニールしたガラスは、不溶のバッチまたは失透は認められず、澄んでいて透明であった。
【表1】

【0064】
溶融の後、ガラスYPG−1およびYPG−2は、10〜15μmの平均粒径を有するガラスフリットになるまでジェットミル粉砕され、325Mのスクリーンを通じてふるいにかけられた。上記粉砕されたフリットのそれぞれの少量の混合物(50g)をY23と混合して、表2に従った1:1のY23:P25比(モル基準)を有する混合物を得た。
【表2】

【0065】
フリット自体および関連する反応性セラミック化混合物における初期加熱の間に生じる反応は図3に示されており、ここで、YPG−1フリットおよび対応する配合物−1のDSCスキャンが提示されている。
【0066】
YPG−1フリットおよび配合物−1の両方が、結晶化事象の特徴である、約850℃における通常の発熱を示している。約1250℃において、前記配合物には、第2の幅広い発熱が見られる。YPG−1フリットには第2の発熱は見られない。フリットには、約1400℃において、溶融の特徴である鋭い吸熱が生じているが、前記配合物には生じていない。YPG−2およびその関連する配合物−2のDSCスキャンは、図3に示す対応する材料と同様の挙動を示す。
【0067】
図3において発熱を生じさせるさまざまな反応の同定は、室温のXRDスキャンを示す図4〜6に提示されている。図4は、1000℃まで加熱された後のYPG−1フリットのXRDグラフを示している。フリットは、この熱処理の後に結晶化されて、少量のYPO4とともに、主要相として結晶質の生成物Y(PO33、およびY2(P413)を形成していた。2つの主要相は、状態図(図2)から予測された相とよく合致することに着目されたい。図3における、ストレートフリット(YPG−1)および配合物−1についての対応する850℃の発熱の一致は、この同一の反応が、ストレートフリットと配合物の両方に生じることを強く暗示しており、YPG−1フリットが、Y23バッチ成分の存在とは無関係に結晶化して、平衡状態図から予測される2相を形成することを示唆している。
【0068】
図5は、図4に示すYPG−1フリットサンプルの熱履歴をシミュレートするために、加熱サイクルの間に1000℃で中間保持され、1200℃まで焼成された後の配合物−1のXRDスキャンを示している。850℃の発熱の後に形成される初期の結晶相Y(P39)およびY2(P413)は、大部分が消失し、これらの相の痕跡程度のXRDピークが存在するのみである。YPO4および少量の未反応のY23は、存在する唯一の結晶相である。Y23反応物質の不存在下では、図3に示すYPG−1フリット自体のDSCスキャンは、この温度範囲における溶融吸熱しか示唆していないことから、YPO4は、YPG−1フリット(または、大抵はその後の失透相に由来)とイットリア反応物質との「反応性セラミック化」反応から形成されたということに着目されたい。よって、YPO4の情報は、配合物−1の図5に示す1200℃の発熱に対応する。
【0069】
図6は、1580℃まで焼成した後の配合物−1のXRD図である。この図は、1580℃まで焼成した後に、未反応のY23が配合物−1には見られないことを示している。主要結晶相はYPO4である。未反応のY23には対応しない、未知の結晶相に属する、未確認の、30℃、2θ近くに位置する非常に微小なピークが幾つか存在している。
【0070】
反応性セラミック化工程の間に形成された未確認の相の量は、配合組成(すなわち、YP−ガラス反応物質フリット:Y23比)によって調整されうる。表IIIに示されるのは、3種類の組成物、化学量論的配合物−1、および、イットリアをさらに強化した配合−4、および配合−3になるように設計された2種類の組成物についての配合情報である。
【表3】

【0071】
図7に示されているのは、60:40のYPG−1:Y23 重量比を有する化学量論的配合物−1、ならびに、より高いイットリア含量で製造した2種類の配合物である、45:55のYPG−1:Y23 重量比を有する配合−3、および54:46のYPG−1:Y23 重量比を有する配合−4について、30℃、2θで展開したXRDスキャンの一部分である。すべてのサンプルは、1200℃で6時間、次に1580℃で6時間、焼成された。3種類の組成物にはすべて、15μmの平均粒径を有する同一の反応フリット、YPG−1を使用した。3種類の焼成組成物のすべてのXRDは、2θ=30℃に近い、小さい未確認のピークを除き、YPO4の純粋な相を示した。しかしながら、未確認の相の量は、XRDピーク高さによって表わされるように、配合組成物によって変化する。化学量論的配合物−1は、この同一のフリット:イットリア比について前に提示されたXRDの結果と似た非常に微小なピークである、カウント数約100の、未確認相のピーク高さを有していた(図7参照)。54:46のYPG−1のイットリアに対する重量比を有する、中程度にイットリア豊富な配合物(配合−4)は、化学量論的配合物よりも顕著に高い、カウント数300〜400の未確認の相のピーク高さを有していた。45:55のYPG−1のイットリアに対する重量比を有する、イットリア豊富な配合物である配合−3は、他の配合物よりも顕著に大きい、カウント数約800〜1000の未確認の相のピーク高さを有していた。イットリア含量を用いた、未確認の相のピーク高さのスケーリングは、この相が、化学量論的YPO4に対してイットリアが豊富であることを示唆している。
【0072】
等方プレスに十分な量のこれら3種類の配合物のより大規模バッチを次の工程によって調製した:
(a)YPG−1ガラスを溶融し;
(b)ステップ(a)で溶融した前記YPG−1ガラスをボールミル粉砕し、325Mのスクリーンを通じてふるいにかけ;
(c)前記ボールミル粉砕したYPG−1ガラス粉末をY23粉末と合わせて、タービュラブレンダー(turbula blender)内で所望の重量比で混合し、所望の配合物を形成し; 続いて100Mのスクリーンを通じてふるいにかけ;
(d)前記配合物を、水、エチルセルロースおよび他の押出助剤とともに混合し、スパゲッティ状に押出成形し;
(e)前記スパゲッティ状の押出成形物を1580℃まで焼成し、この温度で8時間維持して、所望のセラミック材料を形成し;
(f)前記焼成したスパゲッティ状の押出成形物を10〜15μmまでボールミル粉砕し、次いで、325Mのスクリーンを通じてふるいにかけ;
(g)前記ボールミル粉砕した粉末を等方プレス用の型(isostatic mold)に充填し、押圧して成形し、1750℃まで焼成して焼結する。
【0073】
一方は、5μmの平均フリット粒径、もう一方は、15μmのフリット平均粒径を用いた、各配合物の2つの改良型を調製した。
【0074】
1750℃で5日間の最終的な焼結ステップ後の、配合−4から調製された等方プレスしたロッド(指定番号:RC−01)のXRDの結果が、図8に示されている。材料は、未確認の相に由来する、図7に記載された28〜31℃、2θにおける非常に微小なピークを除き、基本的に純粋相のYPO4である。未知の相のピーク高さは低かったが、等方プレスした化学量論的混合物のXRDスキャンは、中程度のイットリア配合物である配合−4についての図7に示されるのと同様であった。
【0075】
図9は、RC−01(配合−4)ロッドの研磨された内部のSEM顕微鏡写真を示している。残留ガラスまたは第2の相の痕跡が残っていない、高密な連結した結晶構造が見られる。写真に示される白い粒子は、SEM用にサンプルを研磨するために使用されるジルコニア粒子である。粗い結晶寸法(約10〜25μm)は、高い温度における非常に低いクリープ挙動にとって特に魅力的である。顕微鏡写真に見られる密度の高い外観は、サンプルの細孔率の測定結果によって確認され、アルキメデス法によれば、3.8%であった。
【0076】
焼成後、RC−01の等方プレスしたロッドは、高温機械的評価用に、6本の試験棒に分割された。この評価は、次の形態を取った:1)100時間、1000psiの負荷の下、1250℃まで再加熱された曲げ棒でのたるみの測定; および2)1250℃および1000psiの負荷で行う曲げクリープ測定。
【0077】
反応性セラミック化工程によって製造された幾つかの等方プレスしたYPO4ロッドについて、たるみ、クリープ、およびXRDの結果を表IVにまとめた。固体状態プロセスおよび湿式プロセスによって製造されたYPO4サンプルの代表的なデータも示されている。固体状態プロセスでは、P25およびY23の乾燥粉末は混合されて、最終的な化学量論的組成のセラミックを得るために、直接焼成された。湿式プロセスでは、Y23は、H3PO4と混合されて、次に、最終的な化学量論的組成のセラミックを得るために、直接焼成された。たるみの結果は、配合−4および配合物−1から製造された棒の偏差が、最良の固体状態プロセスのバッチのものに匹敵していたことを示唆した。定常状態のクリープ速度は、2つのアプローチ間で同程度:固体状態プロセスの1.0〜2.0×10-7/時間に対し、配合−4から作られたロッドでは1.4×10-7/時間であった。化学量論的配合物−1から作られたロッドの曲げクリープ速度は、サンプル損傷の理由から測定されなかった。しかしながら、低いたるみ偏差を考えれば、配合物−1から作られたロッドのクリープ速度は、乾燥プロセスについて測定された範囲の下端、すなわち、約1.0×10-7/時間であったであろう。
【0078】
したがって、反応性セラミック化は、YPO4の固体状態プロセスに少なくとも匹敵する高温変形抵抗を有する焼結された高密度のYPO4物品を得るために用いることができるが、実質的なプロセス簡素化の可能性を有している。
【表4】

【0079】
配合−3のサンプルは、1580℃の温度を乗り切ったものの、1750℃の焼成の間に溶融した。
【0080】
本発明の範囲および精神から逸脱することなく、さまざまな変更および調整が本発明になされうることは当業者にとって明らかであろう。よって、本発明は、添付の特許請求の範囲およびその等価物の範囲内にあることを条件として、本発明の変更および変化にも及ぶことが意図されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基本的にY23(P25xからなる化学組成を有する実質的に結晶性の物質を製造する方法であって[xは、前記結晶性物質の組成におけるP25のY23に対するモル比であり、0.30≦x≦1.20]、
(I)基本的にY23(P25yからなる組成および軟化温度Tsoftを有するYP−ガラスを提供し[ここで、yは、前記YP−ガラス中のP25のY23に対するモル比であり、1.6≦y≦9.0];
(II)Y原料物質を提供し;
(III)溶融の際にxに等しいP25のY23に対するモル比を有し、前記YP−ガラスの複数の粒子および前記Y原料物質の複数の粒子を含む、混合物を得て;
(IV)ステップ(III)から得られた前記混合物をTsoftよりも高い温度T1まで加熱し、それによって第1のセラミックが得られる、
各工程を含む方法。
【請求項2】
ステップ(III)において、前記混合物が、0.95≦x≦1.00となるようにもたらされることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
ステップ(III)において、前記混合物が、1.00≦x≦1.05となるようにもたらされることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記実質的に結晶性の物質が、実質的に均質な化学組成を有することを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の方法。
【請求項5】
T1が少なくとも1000℃であることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載の方法。
【請求項6】
(V)ステップ(IV)から得られた前記第1のセラミックの複数の粒子を形成し;
(VI)前記第1のセラミックの粒子から圧縮未焼成体を成形し;および
(VII)前記圧縮未焼成体を1400℃より高い温度T2まで加熱して、密度の高いバルクセラミック材料を得る、
各工程を含む請求項1〜5いずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記実質的に結晶性の物質が、純粋相のYPO4から基本的になることを特徴とする請求項1〜6いずれか1項記載の方法。
【請求項8】
ステップ(III)において、前記混合物が、前記YP−ガラス粒子に加えて、次のうちの少なくとも1つ:
(III−M−1)Y23粒子;
(III−M−2)基本的にY23(P25zからなる組成式によって表わされる組成を有する第2のY原料物質の粒子[ここで、zは、YP−ガラス中のP25のY23に対するモル比であり、z<1];および
(III−M−3)ステップ(IV)において、Y23内に移すことができる、第3のY原料物質の粒子
を含むことを特徴とする請求項1〜7いずれか1項記載の方法。
【請求項9】
ステップ(V)において、前記第1のセラミックの粒径分布が5μm〜30μmのメジアン粒径を有することを特徴とする請求項2〜8いずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記得られた実質的に結晶性の物質が8体積%未満の細孔率を有することを特徴とする請求項1〜9いずれか1項記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2013−521204(P2013−521204A)
【公表日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−555170(P2012−555170)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【国際出願番号】PCT/US2011/026172
【国際公開番号】WO2011/106597
【国際公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【Fターム(参考)】