説明

反応性プラズマ中におけるダスト定量検出

【課題】反応性プラズマ中のラジカルとダストを同時に検出し、サイズが小さく(8 nm以下)、かつ、低濃度なダストを高感度に検出する。
【解決手段】時間分解しながらキャビティリングダウン分光(CRDS)測定を行うことで、ラジカルのみならず、ダストによる吸収・散乱効果(L、L)を計測し、ダストの定量検出を可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、キャビティリングダウン分光法を応用し、ラジカルおよびダストを同時に定量検出する方法及びダスト成長過程検出方法に関する。また、本願発明は、プラズマCVDのみならずスパッタリング法等において、反応容器内で発生するラジカルおよびダストの定量検出を行う方法に関する。
【0002】
産業分野としては、半導体、化学及びバイオ等であり、具体的な装置としては、反応容器・薄膜堆積装置(プラズマCVDチャンバー)、プラズマ診断装置、散乱体検出装置及び散乱体定量評価装置等である。
【背景技術】
【0003】
プラズマCVD法により作製されるシリコン系薄膜においては、プラズマ中において様々なラジカルが発生し、膜堆積に寄与することが明らかとなっている。これらラジカルは、気相プラズマ中において〜1012 cm-3程度以下と非常に希薄であるため、その検出には、吸収分光法を利用したキャビティリングダウン分光法(CRDS)が用いられてきた。この手法は、ラジカル吸収によるレーザー光の損失成分を検出し、ラジカル濃度を定量検出するものである。
【0004】
プラズマ法により薄膜を作製する場合、膜堆積にとっての副生成物であるダストも同時に反応容器内に発生する。これらダストは、膜質の低下を招くことが明らかになりつつあり、膜質を左右する重要な要素であると考えられている。
【0005】
従来、このダストの検出には、レーザー散乱法(LLS)が用いられてきた。この手法は、レーザー光を反応容器内に照射し、ダストから散乱される散乱光を検出する手法である(図1参照)。
【0006】
しかし、より高品質シリコン系薄膜をプラズマCVD法により作製するためには、ラジカルのみならずダストを同時に検出し、その挙動および薄膜への寄与を理解する必要がある。
【0007】
そこで、本願発明者は、ラジカルのみならずダストの同時検出法としてCRDS法を応用した技術に着目した(図2参照)。
【0008】
CRDS法の特長としては、二枚の高反射率のミラーにより光学キャビティを形成し、このキャビティ内の光損失を検出する点にある。キャビティ内の光の損失を誘起するものとしては、ラジカルおよび分子以外に、ダストによる吸収および散乱が考えられる。
【0009】
従来のCRDS法は、ダストの検出ではなく、ラジカルおよび分子の吸収によるキャビティ内の全光損失を計測し、これらを定量検出するために用いられてきた。
【0010】
一方、ダストによる光の吸収あるいは散乱は、ダストのサイズと強い相関を有する(図3参照)。ダストのサイズが小さい場合には、ダストによる吸収効果が散乱効果より大きいことが予想される。これは図3に示すように、吸収断面積が散乱断面積より大きくなるためである。
【0011】
さらに、従来のLLS法では、ダストから散乱される光の一部しか検出できないのに対し、CRDS法ではダストによる吸収および散乱を含めたキャビティ内の全光損失を検出するため、検出感度の向上が期待できる。
【0012】
さらに、図3を用い説明したように、ダストサイズが小さい場合には、ダストによる吸収効果が散乱効果より支配的になるため、ダストサイズの小さな範囲内においては、ダストの高感度検出が期待できる。
【0013】
そこで、本願発明者は、ラジカル検出のみならずダストの定量検出ならびに成長過程を検出できる手法としてCRDS法を応用した技術を開発した。本願発明は、プラズマCVD中のダスト定量検出技術としての利用のみならず、スパッタリング法および他の反応容器内でラジカルおよびダスト定量検出技術として使用できるため、その工業的用途は広いと考えられる。
【非特許文献1】T. Nagai, A. H. M. Smets, and M. Kondo,Jpn. J. Appl. Phys. 45, 8095 (2006)
【非特許文献2】W. M. M. Kessels, A. Leroux, M. G. H.Boogaarts, J. P. H. Hoefnagels, M. C. M. van de Sanden, and D. C. Schram, J.Vac. Sci. Technol. A 19, 467 (2001).
【非特許文献3】S. H. Hong and J. Winter, J. Appl. Phys. 100,064303 (2006).
【非特許文献4】D. Kujundzic and A. Gallagher, J. Appl.Phys. 99, 033301-1 (2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
これまで、ダストは、レーザー散乱法(LLS)を用い検出されており、ラジカルとダストの同時定量検出を行う手法は、開発されていない。さらにLLS法では、ダストから散乱される散乱光の一部を検出するため、サイズの小さな数ナノメートルのダストを検出するには、比較的高いダスト密度が要求される。そのため、サイズが小さく、かつ、密度の低い条件下においてダストをより高感度検出するためには、新規概念および新規測定法が要求されることとなる。
【0015】
そこで、本願発明においては、ラジカルおよびダストを同時検出する手法として、従来ラジカルを検出する手法としてのみ用いられてきたキャビティリングダウン分光法(CRDS)を応用・発展させ、ダストならびにラジカルの定量検出技術として応用可能であることを明らかにした。
【0016】
この技術では、キャビティ内の全光損失(ラジカルによる吸収、ダストによる吸収、ダストによる散乱)を検出するため、従来使用されてきたLLS法よりダストの高感度検出できることが期待できる。これはダストのサイズが数nmの場合には、吸収断面積が散乱断面積より大きいため(図3)、散乱光を検出するLLS法より、CRDS法を用いた方が高感度に小さなサイズのダストが検出可能であるためである。
【0017】
そこで、本願発明の課題は、ラジカルとダストを同時に検出し、サイズが小さく(8 nm以下)、かつ、低濃度なダストを高感度に検出することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
これまでダストの検出には、ダストからの散乱光を検出する手法が取られて来た。しかし、図3に示すように8nm以下の微小なナノダストでは、吸収断面積が散乱断面積より大きくなることが予想される。そこで、この点に着目し、キャビティリングダウン分光法を用いたダスト検出技術を発明した。この分光法では、キャビティ内の全光損失成分(ラジカル吸収、分子吸収、ダスト吸収、ダスト散乱)を検出することができ、ダストサイズが小さくかつ低濃度な条件下においてもダストの高感度検出が期待できる。
【発明の効果】
【0019】
従来、散乱体を検出するためにはレーザー散乱法(LLS)を用い検出がなされてきた。この場合、レーザー光を散乱した場合のみ検出が可能である。さらに、散乱光強度にはレーザーの進行方向と検出角には、非常に強い依存性を有するため、検出時の角度依存性が重要と成る。これに対し、キャビティリングダウン分光法を応用した本願発明においては、レーザー光の全損失成分(ラジカル吸収、ダストによる吸収、ダストによる散乱)を検出するため、ミー(Mie)散乱以外では角度依存性を考慮することなく検出可能である。またダストによる吸収成分を観測することができるため、LLS法より高感度検出が期待できる。さらに、本手法では、レーザー光の波長を選択することで、ダストおよびラジカルを同時検出できる点に利点を有する
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
キャビティリングダウン分光法では、二枚の高反射率のミラーを用いキャビティを形成し、そのキャビティに擬似的に光を閉じ込めることで、吸収体・散乱体の存在する光路長を伸ばし、高感度検出を可能とする。
【実施例1】
【0021】
この手法では、キャビティ長の決定を緩和するため、ナノ秒パルス光が用いられる。そのため、CRDS信号は、キャビティミラーから抜けてくる光の強度を時間に対しプロットし、減衰の時定数(リングダウンタイム)を求めることで得られる。
【0022】
ここで、キャビティ内において光を損失させる物質(ラジカル吸収、ダスト吸収、ダスト散乱)が無い場合、レーザー光強度の減衰する時定数(τ)は、二枚のミラーの反射率(R)で決定される。
τ=1/2(1−R) (1)
【0023】
一方、キャビティ内に光を損失させる物質(ラジカル吸収、ダスト吸収、ダスト散乱)がある場合、リングダウンタイム(τ)は、ラジカル吸収(L)、ダスト吸収(L)、ダスト散乱(L)の効果が重畳し小さくなる。
τ=1/2{(1−R)+L+L+L} (2)
【0024】
ここで、これら重畳した効果(ラジカル吸収、ダスト吸収、ダスト散乱)のみを取り出すため、キャビティ内の光損失を表すパラメーター(Cavity Loss)は次式(3)で表される。
Cavity Loss=1/c(1/τ−1/τ)=σNd (3)
ただし、cは光速、σは吸収及び散乱断面積、Nはラジカル及びダストの濃度、dは電極の直径である。
【0025】
これまでCRDS法は、ダストの吸収および散乱の無い条件(L=0かつL=0)において使用されており、主としてラジカル濃度を求めるために使用されてきた。この場合、式(3)より濃度を簡単に定量検出することができる。
【0026】
しかし、式(1)〜(3)に示すように、ダストによる吸収・散乱効果(L、L)が重畳する条件下、時間分解しながらCRDS測定を行うことで、これらダストによる吸収・散乱効果(L、L)を計測し、ダストの定量検出が可能である。
【0027】
ラジカルによる吸収断面積σabsは、物質固有のものであるため、σabs=一定である。したがって、Nが一定な場合にはキャビティ・ロス(Cavity・Loss)は、時間に依存せず一定となる。
【0028】
ところがダストの吸収・散乱断面積(σabs、σscat)は、ダストの半径(r)に依存する(非特許文献3参照)。さらに、r、Nは、プラズマ点灯時間(ton)に依存すると予想される。実際、これらr、Nのプラズマ点灯時間に対する測定結果は、非特許文献4等において報告がなされている。
【0029】
そこで実験条件においても同様の関係(次式(4)、(5))が成り立つと仮定すると、ダストによる吸収および散乱(レイリー散乱)によるキャビティ・ロス(Cavity Lossabs, Cavity Lossscat)は、式(3)〜(5)より次式(6)、(7)が成り立つ。
【0030】
∝ton (4)
∝ton−χ (5)
Cavity Lossabs∝ton4−χ (6)
Cavity Lossscat∝ton6−χ (7)
【0031】
ダストによるキャビティ・ロスは、上述の式(4)、(5)に示されるように、プラズマ点灯時間に依存する形状を取る。
【0032】
そこで、パルス化したプラズマ条件下(パルスプラズマ)においてτ−CRDS測定を行うことによりで、ダストの検出が可能で有ることに着目した。
【0033】
式(6)、(7)からも解るように、光の損失メカニズムが吸収からレイリー散乱へと変化した場合、キャビティ・ロスのプラズマ点灯時間は、さらに強くなりプラズマ点灯時間に対し〜6乗で増加する。このように、本願発明においては、ダストの吸収による効果からもダスト検出ができるため、非常に高感度検出が可能である(図4、図5参照)。
【0034】
図4及び図5においては、ラジカルとしてSiHラジカルに着目し、ラジカルおよびダストの同時検出が可能であることを示している。そのため、図中には、SiHラジカルの吸収のある波長220nm(○)と、SiHラジカルの吸収の無い波長280nm(●)の実験結果を示している。
【0035】
220nmのレーザー光を用いた場合には、プラズマ点灯直後、わずかに増加する「キャビティ内の光損失成分」が観測され、この成分は時間領域I(図4および図5において、時間領域(I))の間、ほぼ一定の値を推移する。これに対し、280nmのレーザー光を用いた場合には、プラズマ点灯前後において、このような「キャビティ内の光損失成分」は、観測されていない。すなわち、220nmの波長にはSiHラジカルの吸収が有るのに対し、280nmにはないことを考慮すると、220nmと280nmの「キャビティ内の光損失成分」差は、SiHラジカル吸収による「キャビティ内の光損失成分」であることを示している。
【0036】
ここで、ダストは、ラジカルと母ガスあるいはラジカル同士の反応により成長してゆくことを考慮すると、まず始めに現れるダストによる光損失は、サイズの小さなダストによる吸収成分が現れることが予想される。
【0037】
実際、図4の領域IIになると、プラズマ点灯時間に対し緩やかな依存性を示し約1.5乗で増加する「ダストによる吸収に起因したキャビティ内の光損失成分」が220nmおよび280nmのレーザー光を用いた場合の両方の結果に現れる。
【0038】
しかし、その後、プラズマ点灯時間を長くすると(図において、IIIの時間領域)、ダストのサイズが大きくなり、220nmの実験結果には、キャビティ内の光損失過程が「ダストによる吸収」から「ダストによるレイリー散乱」へと変化するため、プラズマ点灯時間に対し強い依存性を示す。
但し、280nmのレーザー光を用いた場合には、「ダストによる吸収に起因したキャビティ内の光損失」が続く様子が観測されている。
【0039】
これらのことからも分かるように、ダストのサイズが小さな場合、散乱断面積が吸収断面積より小さくなるため、ダストによる吸収を利用し、ダスト検出を行った方が高感度に検出できることがわかる。
【0040】
また、一般に、レイリー散乱ではダストのサイズが波長の1/10程度以下であることが知られている。そのため、より短波長のレーザー光を用いることにより散乱効果がより早い時間領域で現れ、ダストのサイズのより小さな物を検出することができる。したがって、本願発明においてはレーザー光の波長をより短くすることで、より小さなダストの検出も可能である。
【0041】
次に、ダストによる散乱に着目すると、図5に示すように「ダストによるレイリー散乱に起因した光損失成分(図5中領域II)」が観測され、「ダストによるミー散乱に起因した光損失成分(図中領域III)」が観測されている。このように本願発明をダスト検出に用いた場合、ラジカル濃度のみならずダストの定量検出法としても使用できることができる。
【0042】
また、ダストによる吸収が支配的となる〜8nm以下のサイズの小さなダストも、キャビティ内の光損失成分として観測されるため、非常に高感度にダストの検出が行える様子がわかる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
ガスの種類および製膜手法に限らず、反応性ラジカルを生成する容器内でのラジカルおよびダストの検出が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】レーザー散乱法(LLS)を用いたダスト定量検出法の模式図。この手法では、ダストによる吸収成分を観測できず、また、検出角依存性が非常に強い。図中の大きな矢印は、レーザー光を意味する。また図中の小さな波型矢印は、散乱光を意味する。
【図2】キャビティリングダウン分光法を用いたダスト検出法の模式図。本方法においては、ラジカル吸収、ダストによる吸収および散乱の全ての光損失成分を検出可能であり、ラジカルとダストが同時検出可能である。図中の黒実線の丸は、キャビティ内で発生する全光損失(ラジカル吸収、ダスト吸収、ダスト散乱)を意味する。図中の大きな矢印は、レーザー光を意味する。また図中の小さな波型矢印は、散乱光を意味する。
【図3】散乱・吸収断面積とダストサイズの依存性。220nmの光を用いた場合のシミュレーション結果を示す。ダストのサイズが小さな場合(8nm以下)には、主として吸収が支配的に現れる。一方、ダストのサイズが大きな場合(8nm以上)には、レイリー散乱による光散乱が現れ、その後、ミー散乱へと散乱メカニズムが変化する。このシミュレーションにおいては屈折率4.5、憔悴係数0.05を用いた。σは吸収断面積、散乱断面積を、Rはダスト半径を、レイリー散乱およびミー散乱は、散乱メカニズムを意味する。
【図4】キャビティ内における光損失のプラズマ点灯時間依存性。図に示すように、220nmのレーザー光を用いた場合、プラズマ点灯時間の増加につれ、ラジカル吸収(I)、ダスト吸収(II)、ダスト散乱(II)へとキャビティ・ロスが変化する様子が観測されている。280nmの実験結果には、SiHラジカル吸収は観測されず(図中I)、ダスト吸収(II、III)が支配的に観測されている。
【図5】キャビティ内における光損失のプラズマ点灯時間依存性。散乱による光損失を支配的に観測した場合。図に示すように、220nmの実験結果には、プラズマ点灯時間の増加につれ、ラジカル吸収(領域I)、ダストによるレイリー散乱(領域II)、ミー散乱(領域III)へと光損失が変化する様子が観測されている。一方、280nmの実験結果においては、ラジカル吸収は観測されず(領域I)、ダストによるレイリー散乱(領域II)、ミー散乱(領域III)へと光損失が変化している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャビティリングダウン分光法を利用した反応性プラズマ中のラジカルの濃度測定方法において、波長の異なる2つのレーザー光を該測定対象に照射し、それぞれの波長によるキャビティ・ロスを計測することにより、該ラジカルの濃度を求めることを特徴とする濃度測定方法。
【請求項2】
キャビティリングダウン分光法を利用した反応性プラズマ中のダスト濃度測定方法において、時間分解しながらCRDS測定を行うことにより、ダストによる吸収及び散乱効果を計測し、ダストの濃度を求めることを特徴とするダスト濃度測定方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−261758(P2008−261758A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−105293(P2007−105293)
【出願日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】