説明

反応液、インクジェット記録方法及びインクセット

【課題】優れた発色性が得られ、画像形成から短時間での耐マーカー性にも優れた画像を形成可能な反応液を提供すること。
【解決手段】顔料を含有してなるインクと共に用いられるインクジェット用であって、かつ、フッ素系界面活性剤及び多価金属塩を含有することを特徴とする反応液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応液、インクジェット記録方法及びインクセットに関する。
【背景技術】
【0002】
普通紙などのインク受容層の形成されていない記録媒体は、その表面にパルプ繊維が露出した状態になっているため、インクジェット記録で画像形成を行った場合に、パルプ繊維に沿ってインクが広がる傾向がある。このため、画像が滲み、満足の行く画像品位が得られないという問題があった。また、このような記録媒体に顔料を含有するインク(顔料インク)で記録した場合は、画像の発色性も十分でなく、鮮明な画像を得ることが難しいという問題もあった。これは、顔料インクを普通紙などの記録媒体に記録した場合、繊維により形成される空隙の大きさに比べて顔料の粒子径が小さいために、顔料が記録媒体の厚さの方向(内部)へと浸透してしまうために起こると考えられる。
【0003】
以上の課題を改善し、普通紙などの記録媒体に形成した画像品位を向上させるなどの目的で、顔料インクとは別に、記録媒体に反応液を付与するシステム(以下、2液反応システムと呼ぶ)が提案されている。特許文献1には、ブラックインクと、塩を含有するカラーインクとを接触させ、ブラックインクを凝集させることにより画像濃度を向上する方法が開示されている。特許文献2には、顔料と樹脂エマルジョンとを含有する顔料インクと、多価金属塩を含有する反応液との反応により発色性や耐ラインマーカー性を改善する方法が開示されている。特許文献3及び4には、インクと反応液との記録媒体への浸透性を調整することが開示されている。2液反応システムでは、インクと反応液との接触により、反応液中の多価金属イオンが、インク中の顔料の分散破壊を誘引し、記録媒体上で顔料の凝集を生じさせる。多価金属イオンによる顔料の凝集は速やかに進行し、インクと反応液が接触した瞬間からほぼ数百ミリ秒の間に反応はほぼ終了する。したがって、凝集した顔料の凝集物は記録媒体の表面上に残るため、記録媒体の表面はこの顔料の凝集物で隠蔽されることとなる。これにより、顔料が繊維の内部に浸透しないため、発色性に優れた画像を得ることが可能となる。また、顔料の凝集により、インクは増粘するため、記録媒体の表面上におけるインクの滲みも抑制されるため、画像品位の向上などにおいても効果的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−106735号公報
【特許文献2】特開平9−207424号公報
【特許文献3】特開2004−181955号公報
【特許文献4】特開2005−305687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記のような2液反応システムによる画像は、発色性や画像品位などには優れるものの、記録媒体に付与される液体の総量が多くなり易く、これに起因して下記の課題を生じる。すなわち、2液反応システムによって形成した画像に、マーカーペンでマークをした際、尾引きなどの画像乱れが発生し易く、画像が耐マーカー性に劣るという問題があった。特に、画像形成後、数秒から数分以内の画像にマークをした場合の耐マーカー性は不十分で、文字が乱れる、マーカーペンを汚染するなどの問題があり、改善の余地が大きかった。特に近年、2液反応システムは、ビジネス文章などの画像をより高品位に出力することを要求されるようになっており、反応液を使用しない一般的な記録システムよりも、耐マーカー性の満足度をはるかに高いレベルにする必要もある。また、近年のインクジェット記録装置の高速化に伴い、画像形成までの時間が大幅に短縮化されているため、画像形成後においてインクが記録媒体に対して速やかに定着し、形成画像に十分な耐マーカー性を与えることが極めて重要となってきている。
【0006】
したがって、本発明の目的は、2液反応システムによって、優れた発色性を保持したまま、画像形成後、数秒から数分以内の画像にマークをした場合の画像の耐マーカー性にも優れた画像形成が可能な反応液を提供することにある。また、本発明の目的は、かかる反応液を用いることで、上記の優れた画像の形成を可能とするインクセット及びインクジェット記録方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、顔料を含有してなるインクと共に用いられるインクジェット用であって、かつ、フッ素系界面活性剤及び多価金属塩を含有することを特徴とする反応液である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、普通紙などのインクジェット適性の低い記録媒体を用いた場合であっても、2液反応システムによって、優れた発色性を保持したまま、耐マーカー性にも優れた画像形成が可能な反応液を提供することができる。また、本発明によれば、かかる反応液を用いることで、上記の優れた画像の形成を可能とするインクセット及びインクジェット記録方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】2液反応システムにおける、インクの定着モデルを示す模式図。
【図2】記録ヘッドを吐出口側から見た外観図。
【図3】ブリストー浸透曲線の一例を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に好ましい実施の形態を挙げて本発明を詳細に説明する。本発明者らは、鋭意検討の結果、顔料インクを用いた2液反応システムにおける課題を、反応液中にフッ素系界面活性剤と多価金属塩とを含有させることで、普通紙などであっても、発色性と耐マーカー性に優れた画像形成が可能となることを見出した。なお、本発明における耐マーカー性とは、画像形成後、数秒から数分以内の画像にマークをした場合の性能のことを意味する。まず、多価金属塩を含有する反応液と、顔料インクとによる2液反応システムについて説明する。
【0011】
<2液反応システムのインク定着モデル>
図1に、上記した反応液とインクによるインクの定着概念を表した模式図を示す。図1(a)は、記録媒体100に反応液101が付与され、該反応液がインク102と接触する前の状態を表している。図1(b)は、記録媒体100において、反応液101とインク102が接触した直後の状態を表している。(b)の時点で、反応液中の多価金属イオン114により、インク中の顔料粒子111の分散破壊が誘引されるため、顔料粒子111が凝集した凝集物111bが発生する。図1(c)は、図1(b)で凝集した顔料粒子111bが、記録媒体100の表層付近に顔料粒子111cとして定着した状態を示している。これと並行して、反応液中の液体成分103bとインク中の液体成分103aが、それぞれに固液分離して、記録媒体100の内部へと液体成分103cとして浸透する。
【0012】
ここで、図1の(a)から(c)への状態変化について、図2に示す記録ヘッドの吐出口側から見た外観図を参照しながら、インクジェット記録における時間スケールを基にして説明する。反応液の吐出口群21S(図2左側のもの)を構成する吐出口23とインクの吐出口群21Kを構成する吐出口24との距離をD(mm)とし、記録ヘッドを搭載するキャリッジの主走査方向への移動速度をV(inch/秒)とする。記録ヘッドの1回の主走査で反応液とインクをこの順序で吐出した場合、記録媒体上で反応液とインクが接触するまでの時間差T(以下、単に時間差Tという)は、下記式(1)で計算することができる。ここで、インクジェット記録装置の一般的な構成を想定して、反応液とインクの吐出速度は同等であり、D=30(mm)、V=30(inch/秒)とすると、TはT=(D/V)×39.4の式により求められ、約40ミリ秒となる。このように、反応液とインクとが接触するまでの時間差Tは、通常、数十ミリ秒オーダーとなるが、このような短時間での反応液の記録媒体への浸透挙動が、インクとの接触時におけるインク凝集に影響していると考えられる。なお、本発明は、図2に示す吐出口群の配列順序に限られるものではない。
【0013】
記録媒体に対する反応液の浸透挙動の評価方法として、JAPAN TAPPI紙パルプ試験方法No.51の『紙及び板紙の液体吸収性試験方法』に記載されたブリストー法が挙げられる。ブリストー法については多くの市販図書に説明があるため、詳細な説明は省略するが、濡れ時間Tw、吸収係数Ka(mL/m2・ms1/2)と粗さ指数Vr(mL/m2)により定義される。吸収曲線の例を図3に示す。図3に示した吸収曲線は、液体が記録媒体に接触した後、濡れ時間Twを経て記録媒体の内部への浸透が始まるという浸透モデルに基づいたものである。濡れ時間Twの後における直線の傾きが吸収係数Kaであり、この吸収係数Kaは記録媒体の内部への液体の浸透速度に対応している。なお、濡れ時間Twは、図3に示すように、吸収係数Kaを算出するための最小二乗法による近似直線Aと、液体の転移量V、粗さ指数Vrで表されるV=Vrの直線Bとの交点ABを求め、この交点ABまでの時間として求める。
【0014】
2液反応システムで使用する反応液は、この濡れ時間Twを経過した頃から記録媒体の内部に浸透し始める。したがって、濡れ時間Twと、反応液とインクが接触するまでの時間差Tとの関係が、Tw≧T(条件1)である場合は、反応液が記録媒体の内部へ浸透する以前ないしは同時に、反応液とインクとの接触が行われることとなる。一方、濡れ時間Twと前記時間差Tとの関係が、Tw<T(条件2)である場合は、反応液が記録媒体の内部へ浸透し始めた後に、反応液とインクとの接触が行われることとなる。条件1の場合は、記録媒体の表面上に留まった状態で存在している反応液の界面にインクが接触することとなるため、反応液によるインク凝集が十分に行われ、発色性の向上にとって好ましい。一方、条件2の場合は、インクが反応液に接触する際に、反応液の記録媒体の内部への浸透が始まっているため、記録媒体の表面上で反応液とインクとが十分に混ざり合わず、凝集が弱まり、条件1に比べて発色性向上の効果は低下することになる。本発明者らは、上述のようなメカニズムにより、ミリ秒オーダーという短時間のスケールで発色性に違いが生じると推測している。多価金属塩を含む従来の反応液では、多価金属塩の少なくとも一部が反応液中で解離して多価金属イオンとして存在している。そして、反応液中の液体成分と共に多価金属イオンも記録媒体の内部へ浸透してしまい、これに起因してインクへの凝集作用が大きく損なわれたため、十分な画像の発色性が達成されなかったものと考えられる。
【0015】
次に、図1(c)より、反応液とインクとの接触後の状態について説明する。反応液とインクとの接触による顔料の凝集は瞬時に生じ、凝集した顔料粒子111bは、記録媒体の表面に付着して、図1(c)の111cの状態になる。また、反応液やインクに含まれる液体成分は記録媒体の内部への浸透と、空気中への蒸発(不図示)により、記録媒体の表面から減少し、凝集し、付着した顔料粒子111cの記録媒体への定着が徐々に進む。ここで、定着が十分でない状態のうちに画像に対してマーカーペンによりマークを行うと、顔料が簡単に剥がれ落ちてしまうため、耐マーカー性の低さとして認識される。
【0016】
インクジェット用の水性のインクは、記録ヘッドの吐出口近傍におけるインクの乾燥や固着を抑制するために、一般にグリセリンなどの高沸点の水溶性有機溶剤を含有させている。このような水溶性有機溶剤を含んで構成される水性媒体は、画像形成直後の数分という短時間では蒸発が進まないため、画像の定着を遅らせる要因となる。さらに、2液反応システムでは、反応液とインクの両方を用いて画像形成を行うため、水溶性有機溶剤の付与量が全般的に多くなるので、画像形成後の数秒〜数分オーダーという短時間で十分な耐マーカー性を得ることは、より難しい。
【0017】
以上の状況のもと、耐マーカー性を十分なものにするためには、反応液やインクに含まれる水溶性有機溶剤などを含む液体成分の記録媒体の内部への浸透速度を高め、記録媒体の顔料が定着している領域から液体成分を速やかに減少させることが極めて重要となる。反応液とインクとが接触した後におけるそれぞれの水性媒体の浸透速度を実際に測定することは困難であるが、混合された状態で記録媒体に浸透した場合、その浸透速度は、反応液及びインクのうち、浸透速度の高い方の液体の挙動が支配的になると考えられる。
【0018】
しかし、下記に述べるように、反応液(特に水性媒体)の浸透速度を高めて、2液反応システムを実施しようとした場合、インクジェット記録方法に特有の大きな技術的矛盾が生じることとなる。すなわち、水性媒体の浸透速度を高めるためには、前述した図3のブリストー曲線から算出される吸収係数Ka(mL/m2・ms1/2)の値を大きくすることが必要である。この手段としては、一般的には、液体の表面張力を下げる水溶性有機溶剤や界面活性剤を多く使用する方法があるが、これらの材料を多く使用すると、吸収係数Kaの上昇と共に、濡れ時間Twは短くなる。前述したように、濡れ時間Twが短くなると、発色性向上のために上記の(条件1)を成り立たせるためには、Tをより小さくすることが必要になるが、記録ヘッドの走査速度などのインクジェット記録方法における制約から、実現が困難となってしまう。以上の理由から、2液反応システムにおいては、上記特許文献4に記載されているように、反応液中の水性媒体の浸透速度よりも、インク中の水性媒体の浸透速度を高める手法が一般的となっていた。
【0019】
しかし、反応液の記録媒体への浸透特性を制御して、濡れ時間Twを短くせずに、吸収係数Kaを高めることができれば、発色性と耐マーカー性とを両立することができると考えられる。そこで、本発明者らがインクを用いた2液反応システムにおいて鋭意検討した結果、フッ素系界面活性剤を用いた反応液によりこれらの課題を改善できることを見いだし本発明に至ったものである。以下に、本発明の反応液の構成成分について説明する。
【0020】
<反応液>
本発明の反応液は、インクと共に使用され、インクと接触すると反応を生じる、インクジェット用の反応液であり、フッ素系界面活性剤及び多価金属塩を含有してなることを特徴とする。以下、反応液を構成する成分や反応液の物性について説明する。
【0021】
(フッ素系界面活性剤)
本発明者らは、多価金属塩を含む反応液と顔料インクとを用いた2液反応システムにおいて従来技術の課題を解決すべく、先に述べた観点から、反応液に用いる各種の界面活性剤について、種々の検討を行った。その結果、フッ素系界面活性剤を用いることで、発色性の維持と、耐マーカー性とを両立した画像形成が可能とできることを見いだした。本発明者らは、2液反応システムにおいて、反応液にフッ素系界面活性剤を含有させ、これによって反応液の浸透性を調整することで、上記の効果が得られる理由について、以下のように考えている。
【0022】
本発明者らの検討によれば、フルオロアルキル鎖は、従来の反応液に使用されている炭化水素系界面活性剤の炭化水素分子鎖に比較して極性が低いため、フッ素系界面活性剤は液体の表面張力を下げる性能に優れている。例えば、25℃において、純水に対して炭化水素系界面活性剤を多量に添加しても、表面張力は30mN/m付近までしか低下しないが、フッ素系界面活性剤は20mN/m付近を下回る程度にまで低下させることができる。先の図3で説明したように、一般的には、液体の表面張力を下げると浸透性は上がり、吸収係数Kaの上昇と共に、濡れ時間Twは短くなる。したがって、前述したように、反応液とインクとの接触までに数十ミリ秒を要する一般的なインクジェット記録方法では、発色性向上の条件である(条件1)を成り立たせることが困難となるため、発色性と耐マーカー性とを両立することは難しい。しかし、本発明者らが反応液の浸透性を変化させるため各種の界面活性剤について検討した結果、フッ素系界面活性剤は、表面張力を大きく低下させるにも関わらず、濡れ時間Twが短くならずに、吸収係数Kaを添加量に応じて高めることが可能であった。これは、フッ素系界面活性剤の界面への移動速度が影響していると考えられる。液体が空気や固体に接触し界面が形成されると、界面の自由エネルギーを下げようと界面活性剤は界面に移動する。フッ素系界面活性剤の界面への移動速度と、界面へ移動後の表面張力の低下能力の大きさから、反応液中に多価金属を含有させた本発明の2液反応システムにおいて好適に影響し、本発明の優れた効果が得られたものと考えられる。すなわち、反応液に多価金属塩を含有させたものを使用した場合、液体成分と共に多価金属イオンの記録媒体への浸透が起こるため、併用する界面活性剤の性質によって大きな影響を受けたものと考えられる。
【0023】
フッ素系界面活性剤は、分子構造中に疎水性のフルオロアルキル鎖(Rf:疎水性部)と親水性の分子鎖(親水性部)を有する化合物である。界面活性剤は親水性部の構造により、アニオン性、ノニオン性、カチオン性に分類され、親水性部と疎水性部の構造や質量比率などにより水性媒体への溶解性を調整することができる。本発明の反応液は多価金属塩に由来するカチオンである多価金属イオンを含有するため、ノニオン性又はカチオン性のフッ素系界面活性剤を用いることが好ましい。これは、アニオン性の界面活性剤を用いた場合に、反応液中に含有させたカチオン性の多価金属イオンと反応するおそれがあり、反応液の安定性を十分に保つことができなくなるのを避けるためである。
【0024】
本発明においては、フッ素系界面活性剤として、フルオロアルキル鎖により変性されたフルオロアルキルアクリル系単量体を少なくとも含む単量体を共重合することにより得られるフルオロアルキル化合物を用いることが好ましい。このようなフルオロアルキル化合物の中でも、フルオロアルキル鎖により変性されたフルオロアルキルアクリル系単量体と、親水性のアクリル系単量体とを共重合することにより得られる化合物が特に好ましい。この理由は、フルオロアルキルアクリル系単量体と共重合可能なアクリル系単量体は、その種類が幅広いため、それらの共重合比率を設計することにより、界面活性剤の特性をコントロールし易く、本発明の効果を得る上で特に好適である。上記共重合により、フルオロアルキルアクリル系単量体により疎水性部が構成され、親水性のアクリル系単量体により親水性部が構成され、界面活性剤としての性能を有する。以下、本発明においてフッ素系界面活性剤として好適に用いることができる、フルオロアルキルアクリル系単量体と、親水性のアクリル系単量体とを共重合して得られた化合物を、「フルオロアクリル系界面活性剤」という。
【0025】
本発明に用いるフルオロアクリル系界面活性剤は、下記に示すアクリル系単量体などを用いて公知の重合法により合成できる。具体的な合成方法の一例としては、有機溶媒剤中でラジカル重合反応を行った後に溶媒成分を除去することで得ることができる。
【0026】
フルオロアクリル系界面活性剤の疎水性部を構成するフルオロアルキルアクリル系単量体の一般的な化学構造を下記式(1)に示す。該単量体は、下記式(1)に示したように、不飽和二重結合を有するアクリル基(X:H)、又はメタクリル基(X:CH3)とフルオロアルキル鎖(Rf)とがスペーサー[A]を介して結合した化学構造を有している。

【0027】
ここで、上記式(1)中のフルオロアルキル鎖(Rf)としては、完全にフッ素化されたフルオロアルキル基であるF(CF2n−、部分的にフッ素化されず、水素原子が存在するH(CF2n−などの各種の分子構造が挙げられる。また、上記式(1)中のスペーサー[A]としては、炭素数1乃至5のアルキレン基、スルホンアミド基(−SO2N(R1)−)などが挙げられる。前記スルホンアミド基におけるR1は、水素原子又は炭素数1乃至5のアルキル基であることが好ましい。
【0028】
フルオロアルキルアクリル系単量体の具体例としては、例えば、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、2,2,2−トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、3−(パーフルオロ−5−メチルヘキシル)−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、1H,1H,5H−オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート、2−(パーフルオロオクタン)エチルアククリレート、2−(N−プロピルパーフルオロオクタンスルホンアミド)エチルアクリレート、2−(N−ブチルパーフルオロオクタンスルホンアミド)エチルアクリレートなどが挙げられる。
【0029】
フルオロアルキル系界面活性剤の親水性部を構成するアクリル系単量体としては、エトキシ基などのアルコキシ基を有するアクリル系単量体、フェノキシ基などのアリールオキシ基を有するアクリル系単量体、ポリエチレンオキサイドなどのポリアルキレンオキサイド変性のアクリル系単量体、水酸基を有するアクリル系単量体などのノニオン性の単量体が挙げられる。
【0030】
これらのアクリル系単量体の具体例としては、例えば、メトキシジエチレングリコールメタクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、メトキシポリエチレングリコールメタクリレートなどのアルコキシ基を有するアクリル系単量体;フェノキシエチレングリコールアクリレート、フェノキシエチレングリコールメタクリレート、フェノキシポリエチレングリコールアクリレートなどのアリールオキシ基を有するアクリル系単量体;エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレートなどのポリアルキレンオキサイド変性のアクリル系単量体;2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレートなどの水酸基を有するアクリル系単量体などが挙げられる。
【0031】
また、上記本発明の反応液に用いるフッ素系界面活性剤の重合には、親水性基により変性された高分子アゾ重合開始剤を使用することもできる。これらの高分子アゾ重合開始剤を使用して、上記フルオロアルキルアクリル系単量体と上記アクリル系単量体とを重合することで、末端に親水性基が導入されたフッ素系界面活性剤を得ることができる。親水基により変性された高分子アゾ重合開始剤としては、ポリエチレングリコール変性の高分子アゾ重合開始剤としてVPS−0201(和光純薬工業製)などが市販されている。
【0032】
重合の際に上記に加えて、以下に挙げるような疎水性のアクリル系単量体を適宜使用することも可能である。ただし、これらの単量体を共重合することで、フルオロアルキル鎖(Rf)特有の界面活性能を損なう場合があり慎重に行われなければならない。例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ノルマルブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ノルマルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ノルマルオクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2−エチルへキシル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ジアルキルエチル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリルエステル類;スチレン、ビニルトルエン、ビニル安息香酸、α−メチルスチレンなどのスチレン類及びその誘導体;メチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、メトキシエチルビニルエーテル、N−ビニルピロリドンなどのビニルエーテル類及びその誘導体が挙げられる。なお、「(メタ)アクリル」とは「アクリル」及び「メタクリルの双方を意味し、「(メタ)アクリレート」とは「アクリレート」及び「メタクリレート」の双方を意味する。
【0033】
本発明では、市販のフッ素系界面活性剤を用いることもできる。ノベック(登録商標):FC−4430、FC−4432(以上、住友スリーエム製)などが、フルオロアクリル系界面活性剤として市販されており、いずれも好適に使用することができる。
【0034】
また、本発明では、以下に示すノニオン性のフッ素系界面活性剤も好適に使用することができる。例えば、親水性部がポリオキシエチレン鎖で構成されている、パーフルオロアルキルオキシエチレン化合物、パーフルオロアルキルアミンオキサイド化合物、パーフルオロアルキルスルホンアミドオキシエチレン化合物などが挙げられる。また、非解離の正電荷と負電荷を同一分子内に持ったベタイン構造の、パーフルオロアルキルベタイン化合物などがある。上記のノニオン性のフッ素系界面活性剤のうち、HLB値が高く水への溶解性が良好ものとしては、パーフルオロアルキルオキシエチレン化合物である、ゾニール(登録商標):FSO−100、FSN−100(以上、デュポン製)などが好ましい。また、パーフルオロアルキルスルホンアミドオキシエチレン化合物としては、エフトップ(登録商標)EF−122A(ジェムコ製)などが好ましい。
【0035】
本発明で用いるフッ素系界面活性剤は、HLB値が、13以下であることが好ましい。HLB値が13を超えると、反応液を構成する水性媒体に対するフッ素系界面活性剤の親和性が高くなるため、界面へ移動後に表面張力を低下させる能力が十分に発揮されず、発色性と耐マーカー性とを高いレベルで両立することが難しい場合がある。また、フッ素系界面活性剤のHLB値は、5以上であることが好ましい。HLB値が5未満であると水性媒体への溶解性が低下し、乳化状態や分離状態となってしまうおそれがあり、インクジェット用の反応液としての十分な適性を得るためには好ましくないからである。
【0036】
ここで、界面活性剤のHLB値の計算方法は各種の手法が提唱されているが、本発明においては、グリフィン法を採用する。HLB値は0から20までの値を取り、0に近いほど疎水性が高く、20に近いほど親水性が高くなる。グリフィン法では、以下の計算式でHLB値が定義される。
HLB値=20×(親水性部の式量/分子量)
【0037】
反応液中のフッ素系界面活性剤の含有量(質量%)は、反応液の全質量を基準として、0.01質量%以上1.0質量%以下とすることが好ましい。フッ素系界面活性剤の含有量が0.01質量%未満であると、反応液の浸透性が十分に高まらず、発色性と耐マーカー性とを高いレベルで両立できない傾向があるので、好ましくない。一方、フッ素系界面活性剤の含有量が1.0質量%を超えると、反応液の浸透性が高くなりすぎて、インク中の顔料を記録媒体の内部に浸透させる作用が大きくなり、発色性が十分に得られない傾向があるので、好ましくない。
【0038】
本発明に用いるフッ素系界面活性剤の分子量は、ポリスチレン換算の重量平均分子量で500以上20,000以下であることが好ましい。重量平均分子量が20,000より大きくなると、発色性と耐マーカー性とを高いレベルで両立できない場合がある。この理由については、次のように考えている。界面活性剤の分子全体としてのサイズが大きくなり過ぎると、界面への移動速度が落ち、反応液の浸透性を向上させる効果が低下するためと考えられる。また、界面活性剤の分子量が大きくなり過ぎると、反応液の乾燥による増粘傾向が強まり、インクジェット吐出が不安定化しやすくなるおそれがあるため、この点でも好ましくない。一方、重量平均分子量が500未満であると、界面活性剤の分子における疎水性部と親水性部の構造が小さくなり、界面活性剤としての作用が十分に得られない場合や、界面活性剤の界面への移動速度が高くなり、発色性が十分に得られない場合がある。
【0039】
(炭化水素系界面活性剤)
本発明の反応液には、上記で説明したフッ素系界面活性剤の他に、さらに炭化水素系界面活性剤を含有させることが好ましい。炭化水素系界面活性剤としては、フッ素系界面活性剤の場合と同様の理由により、ノニオン性又はカチオン性のものが好ましく、特にはノニオン性界面活性剤がより好ましい。ノニオン性の炭化水素系界面活性剤としては、具体的には、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル類、アセチレンアルコール類、アセチレングリコール類、プルロニック類などが挙げられる。炭化水素系界面活性剤の含有量(質量%)は、反応液の全質量を基準として、0.10質量%以上5.0質量%以下、さらには0.10質量%以上2.0質量%以下とすることが好ましい。
【0040】
(多価金属塩)
本発明の反応液は、反応剤である多価金属塩が含有されている。アニオン性の成分を含有するインクと接触した際に、顔料の分散破壊を誘引するような反応剤としては、多価金属塩やカチオン性化合物、有機酸などの各種の化合物が知られている。この中で、多価金属塩が好適である理由は、インクと接触した際の凝集効果が極めて高く、普通紙などのインクジェット記録適性の低い記録媒体に対しても良好な発色性が得られるためである。また、インク中における顔料の分散方式としては、自己分散顔料や樹脂分散顔料などが挙げられる。多価金属塩は、どのような分散方式の顔料を用いた場合であっても、インクと接触した際にインクの分散破壊を誘引する十分な反応性が得られるため、これまでにも、発色性の向上効果が得られるものとして広く用いられている。
【0041】
本発明でいう多価金属塩とは、2価以上の多価金属イオンとこれら多価金属イオンに結合する陰イオンとから構成されるもののことであり、化合物中に結晶水を含むものであってもよい。なお、多価金属塩の少なくとも一部は反応液中において多価金属イオン及び陰イオンに解離して存在するが、本発明においては、便宜上、このような状態も含めて「多価金属塩」と記載する。また、反応液中の多価金属塩の濃度は、インクとの反応が十分に生じる濃度とすればよく、多価金属イオン換算の濃度として、0.13モル/kg以上1.2モル/kg以下、さらには0.2モル/kg以上0.8モル/kg以下であることが好ましい。上記濃度が0.13モル/kg未満であると少な過ぎて、反応が十分に生じない場合があり、反応液としての安定した効果を得るためには好ましくない。一方、上記濃度が1.2モル/kgを超えても、濃度に応じた効果の向上は期待できず経済的でないだけでなく、析出物の発生や粘度が高くなるなどの問題が新たに発生するおそれがあるため、好ましくない。
【0042】
多価金属塩を構成する多価金属イオンとしては、例えば、マグネシウム、カルシウム、バリウム、鉄(II)、銅(II)、亜鉛などの2価の金属イオン、鉄(III)、アルミニウム、イットリウムなどの3価の金属イオンなどが挙げられる。一方、多価金属塩を構成する陰イオンとしては、例えば、ハロゲン化物イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、酢酸イオン、乳酸イオン、グリセロリン酸イオン、メタンスルホン酸イオンなどが挙げられる。本発明においては、多価金属塩として、硝酸カルシウム、メタンスルホン酸カルシウムなどのカルシウム塩を用いることが特に好ましい。
【0043】
(水性媒体)
本発明の反応液には、水、又は水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である水性媒体を含有させることができる。水溶性有機溶剤としては、インクジェット方式に適用される液体に用いることができる、公知のものをいずれも使用することができ、また、1種又は2種以上の水溶性有機溶剤を用いてもよい。反応液中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、反応液の全質量を基準として、3.0質量%以上60.0質量%以下、さらには、5.0質量%以上30.0質量%以下であることが好ましい。また、反応液中の水の含有量(質量%)は、反応液の全質量を基準として、40.0質量%以上90.0質量%以下であることが好ましい。
【0044】
(その他の添加剤)
本発明の反応液は、上記の成分の他に、水溶性樹脂、pH調整剤、消泡剤、防腐剤、酸化防止剤及び粘度調整剤などを適宜に添加することができる。
【0045】
(反応液の物性)
本発明の反応液は、上述の通り、表面張力を顕著に低下させることができるため、フッ素系界面活性剤を含有することを必須とする。本発明においては、25℃における反応液の表面張力が、25mN/m以下であることが好ましい。上記反応液の表面張力が25mN/mを超えると、耐マーカー性が十分に得られない場合がある。また、上記25℃における反応液の粘度は、1mPa・s以上10mPa・s以下の範囲となるように調整されたものが好ましい。
【0046】
<インク>
次に、上記した構成の本発明の反応液とインクとを併用してインクセットとする場合のインクについて説明する。本発明では、本発明の反応液との接触によって反応を起こすインクを使用することが好ましい。なお、上記のように反応が生じるのは、反応液中の多価金属塩に由来する多価金属イオンと、インク中のアニオン性の成分(顔料粒子の表面に化学的に結合したアニオン性基やアニオン性の分散剤)とが、互いに反応を生じるためである。
【0047】
(顔料)
上記インクセットを構成するインクに含有させる顔料について説明する。顔料としては、主にブラックインクに用いるカーボンブラックなどの無機顔料や、主にカラーインクに用いる有機顔料が挙げられる。これらの顔料としては、従来よりインクジェット用インクの材料として使用されているものをいずれも使用できる。また、本発明において、インク中の顔料の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、1.0質量%以上20.0質量%以下、さらには、2.0質量%以上12.0質量%以下の範囲であることが好ましい。
【0048】
本発明では、顔料粒子の表面にアニオン性基を直接又は他の原子団を介して結合させ、分散剤を用いることなく分散可能な自己分散顔料や、樹脂や界面活性剤などの分散剤により顔料を分散させる樹脂分散顔料などの分散方式を利用することができる。
【0049】
(分散剤)
顔料を分散させるための分散剤は、分子内に、顔料と親和性を持つ疎水性の機能と、水性媒体への分散を可能とする親水性の機能とを有しているものであることが好ましい。特には、親水性の機能が、イオン性の材料、又は、イオン性の材料と非イオン性の材料の両方により実現されているものが好ましい。このような分散剤としては、疎水性と親水性の機能を併せ持つ樹脂や界面活性剤などが挙げられる。これらの分散剤を適宜用いて、インク中に分散された状態の顔料と反応液中の多価金属イオンとの反応性を生じさせるために、顔料がマイナスに帯電するように分散剤を選択することができる。
【0050】
上記の疎水性と親水性の機能を併せ持つ樹脂は、疎水性の単量体と親水性の単量体とを少なくとも用いて共重合することで得られる。各種の単量体としては、従来より顔料を分散させるための樹脂を得るために単量体として使用されているものをいずれも使用できる。上記樹脂の構造としては、ブロック、グラフト、及び、ランダムなどの構造の共重合体や、これらが組み合わされた構造の共重合体のいずれでもよい。上記樹脂の重量平均分子量は1,000以上30,000以下、さらには、3,000以上15,000以下であることが好ましく、また、酸価は50mgKOH/g以上300mgKOH/g以下であることが好ましい。顔料の分散剤として樹脂を用いる場合、インク中の樹脂の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上5.0質量%以下であることが好ましい。
【0051】
上記の顔料の分散剤として用いる界面活性剤は、イオン性の親水性の機能を有する界面活性剤としてはアニオン性界面活性剤又は両性界面活性剤が、また、非イオン性の親水性の機能を有する界面活性剤としてはノニオン性界面活性剤などが挙げられる。これらの界面活性剤としては、従来よりインクジェット用のインクの材料として使用されているものをいずれも好ましく使用することができ、1種又は2種以上の界面活性剤を用いてもよい。
【0052】
(水性媒体)
本発明の反応液と共に用いるインクには、水、又は水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である水性媒体を含有させることができる。上記水溶性有機溶剤としては、インクジェット用のインクの材料として使用されているものをいずれも好ましく使用することができ、また、1種又は2種以上の水溶性有機溶剤を用いてもよい。インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、3.0質量%以上50.0質量%以下、さらには3.0質量%以上40.0質量%以下であることが好ましい。また、インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、40.0質量%以上90.0質量%以下であることが好ましい。
【0053】
(添加剤)
また、本発明に用いるインクには、上記の成分の他に、所望の物性を得るなどの目的のために、必要に応じて、界面活性剤、消泡剤及び防腐剤などを適宜に添加することができる。特に、記録媒体への液体成分の浸透を適切にコントロールできるように、インクには適量の界面活性剤を含有させることが好ましい。この場合、インク中の界面活性剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.05質量%以上10.0質量%以下、さらには0.5質量%以上5.0質量%以下が好適である。界面活性剤としては、インクジェット用のインクに用いることができる公知のものをいずれも使用することができる。
【0054】
(インクの物性)
上記したような顔料と分散剤が含有されているインクは、中性又はアルカリ性に調整されていることが好ましい。このようにすれば、分散剤として使用される親水性の材料の溶解性を向上させ、長期保存性に一層優れたインクとすることができる。ただし、この場合、インクジェット記録装置に使われている種々の部材の腐食の原因となる場合があるので、pHを7乃至10の範囲とするのが好ましい。
【0055】
本発明の反応液と共に用いるインクの各種物性の好適な範囲としては、25℃における粘度が1.5mPa・s以上30mPa・s以下の範囲、25℃における表面張力が28mN/m以上52mN/m以下の範囲となるように調整されたものが好ましい。なお、反応液とインクの表面張力に差をつけることで、記録媒体上で反応液とインクが十分に混合し、その後、速やかに液体成分を記録媒体へ浸透させることもできる。このようにすることで、発色性のみならず高速記録のための耐マーカー性をさらに向上させることも可能である。
【0056】
<インクジェット記録方法>
本発明のインクジェット記録方法は、上記で説明した本発明のインクセットを構成するインクと反応液とを記録媒体において互いに接触させて記録を行うものである。本発明においては、インク及び反応液の双方をインクジェット方式の記録ヘッドより吐出させて記録媒体に付与するが、インクジェット方式としては、熱エネルギーを利用したサーマルジェット方式を好ましく用いることができる。また、インクと反応液を記録媒体に付与する順序としては、インクを先に記録媒体に付与した後に、反応液を記録媒体に付与する方法であっても、その逆の方法であってもよく、さらにはこれらを組み合わせてもよい。本発明においては、反応を効率よく生じさせることができるため、反応液を記録媒体に付与した後に、インクを記録媒体に付与することで、反応液のドットとインクのドットとを少なくとも一部で接触させることが好ましい。特には、記録ヘッドの1回の主走査で反応液とインクを吐出させ、記録媒体において反応液のドットとインクのドットとを少なくとも一部で接触させることが好ましい。
【実施例】
【0057】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、以下の記載において、「部」又は「%」とあるものは特に断わらない限り質量基準である。
【0058】
<顔料分散液の調製>
分散剤1.4部、モノエタノールアミン1.0部、ジエチレングリコール5.0部及びイオン交換水81.6部を混合した。前記分散剤としては、酸価200mgKOH/g、重量平均分子量9,000のスチレン−アクリル酸−アクリル酸エチルのランダム共重合体を用いた。この混合物をウォーターバスで70℃に加温し、樹脂を溶解させた後、カーボンブラック(FW18;デグサ製)10.0部、イソプロピルアルコール1.0部をさらに加え、30分間プレミキシングを行った。そして、この混合物を、1mm径のジルコニウムビーズの充填率を体積比で50%としたサンドグラインダー(五十嵐機械製)に仕込み、3時間分散した。さらに、12,000rpmにて20分間遠心分離を行って粗大粒子を除去し、顔料分散液を得た。
【0059】
<インクの調製>
下記に示す各成分を混合して、十分に撹拌した後、ポアサイズが1.2μmのポリプロピレンフィルター(ミリポア製)にて加圧ろ過を行い、インク1を調製した。また、アセチレノールE100を0.1%、イオン交換水を54.9%に変更すること以外はインク1と同様にして、インク2を調製した。得られた各インクについて、自動表面張力計(CBVP−Z型;協和界面科学製)を用いて25℃における表面張力を測定したところ、インク1は38.0mN/m、インク2は51.0mN/mであった。
【0060】
・顔料分散液 30.0%
・グリセリン 10.0%
・エチレングリコール 5.0%
・アセチレノールE100(ノニオン性界面活性剤;川研ファインケミカル製)
1.0%
・イオン交換水 54.0%
【0061】
<界面活性剤の準備>
[フッ素系界面活性剤1]
撹拌機、還流冷却器、温度計、窒素導入管を備えた反応容器に、溶媒(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)を仕込み、窒素ガスで反応容器内の空気を置換して酸素を除去した。そして、35部の2−(パーフルオロオクタン)エチルアククリレート(フルオロアルキルアクリル系単量体)、65部のメトキシポリエチレングリコールアクリレート(アクリル系単量体、エチレンオキサイド基の付加モル数9)を含む溶液を滴下した。そして、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを用い、連鎖移動剤としてオクチルメルカプタンを使用し、加温しながら各単量体を重合させた。反応終了後、減圧加熱乾燥により溶媒を除去して、HLB値(理論値)が11、ポリスチレン換算の重量平均分子量が2,000であるフッ素系界面活性剤1を得た。
【0062】
[フッ素系界面活性剤2〜7及び炭化水素系界面活性剤1〜3]
フッ素系界面活性剤2〜7及び炭化水素系界面活性剤1〜3としては、下記表1に示す市販のノニオン性界面活性剤を使用した。
【0063】

【0064】
<反応液の調製>
下記表2の上段に示す各成分を混合して、十分に撹拌した後、pHを5.0に調整し、さらにポアサイズが1.2μmのポリプロピレンフィルター(ミリポア製)にて加圧ろ過を行い、各反応液を調製した。得られた各反応液について、自動表面張力計(CBVP−Z型;協和界面科学製)を用いて25℃における表面張力を測定した結果を表2の下段に示す。
【0065】

【0066】

【0067】
<評価>
表3に示した反応液とインクとの組み合わせを有するインクセットを用いて、インクに先立って反応液を吐出させる記録順序とし、1パス記録にて、インクと反応液とを記録媒体において互いに接触させるようにして画像形成を行った。記録媒体としては、普通紙(PB Paper;キヤノン製)を使用した。記録条件は、1,200dpiの記録密度を有し、1ドットあたりの吐出体積が4pLの記録ヘッドを使用し、駆動周波数は15kHzとした。また、記録の際の環境条件は、温度25℃、相対湿度55%とした。
【0068】
(発色性)
表3に示した組み合わせのインクセットを用いて、反応液及びインクの記録デューティをそれぞれに変更した1cm×1cmのベタ画像をそれぞれ記録した。反応液の記録デューティは5%〜50%の間で5%刻み、インクの記録デューティは10%〜100%の間で10%刻みとした。ここで、本発明における100%の記録デューティとは、600dpiの画像単位領域に対して、1,200dpiの解像度で4滴のインクを付与することに相当する。得られた各ベタ画像について、画像濃度を反射濃度計(X−Rite製)で測定して、最も高い画像濃度の値により発色性の評価を行った。発色性の評価基準は下記の通りである。そして、得られた評価結果を表3に示した。本発明においては、下記の評価基準でAを優れているレベル、Bを許容できるレベル、Cを許容できないレベルとした。
A:画像濃度の最大値が1.35以上であった。
B:画像濃度の最大値が1.25以上1.35未満であった。
C:画像濃度の最大値が1.25未満であった。
【0069】
(耐マーカー性)
表3に示した組み合わせのインクセットを用いて、12ポイントのゴシック体の英数字を含む文字画像を形成し、5分間自然乾燥させた後に、市販の水性蛍光マーカーペンSpotliter(PILOT製)で文字上をマークした。この画像とマーカーペンの状態を目視で確認して、耐マーカー性の評価を行った。そして、得られた評価結果を表3に示した。本発明においては、下記の評価基準でAを優れているレベル、Bを許容できるレベル、Cを許容できないレベルとした。
A:文字が乱れないか、乱れても気にならず、マーカーペンの汚れもない。
B:文字が一部乱れて、マーカーペンの汚れも一部あった。
C:文字が大きく乱れ、マーカーペンの汚れもあった。
【0070】

【0071】
なお、実施例8の反応液8は、他の反応液と比較して、吐出性がやや劣っていた。インク1に代えてインク2を使用した場合も、評価結果は上記表3と同様であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料を含有してなるインクと共に用いられるインクジェット用であって、かつ、フッ素系界面活性剤及び多価金属塩を含有することを特徴とする反応液。
【請求項2】
前記フッ素系界面活性剤が、フルオロアルキル化合物である請求項1に記載の反応液。
【請求項3】
前記フルオロアルキル化合物が、少なくともフルオロアルキルアクリル系単量体とアクリル系単量体とを共重合してなる化合物である請求項2に記載の反応液。
【請求項4】
前記フッ素系界面活性剤のHLB値が、13以下である請求項3に記載の反応液。
【請求項5】
前記フッ素系界面活性剤の含有量(質量%)が、反応液の全質量を基準として、0.01質量%以上1.0質量%以下である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の反応液。
【請求項6】
さらに、炭化水素系界面活性剤を含有してなる請求項1乃至5のいずれか1項に記載の反応液。
【請求項7】
25℃における表面張力が、25mN/m以下である請求項1乃至6のいずれか1項に記載の反応液。
【請求項8】
反応液とインクとを記録媒体において互いに接触させて記録を行うインクジェット記録方法であって、反応液に請求項1乃至7のいずれか1項に記載の反応液を用いることを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項9】
反応液とインクとの組み合わせを有するインクセットであって、反応液が、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の反応液であることを特徴とするインクセット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−136542(P2011−136542A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−134(P2010−134)
【出願日】平成22年1月4日(2010.1.4)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】