説明

収納体および磁気ディスク用ガラス基板の検査方法

【課題】 検査中に平滑性が悪化する恐れのない収納体を提供する。
【解決手段】本発明の収納体は、可視光の透過率が50%以上であるカバー33a、33bを有しており、カバー33a、33bは、厚さ2mmにおける可視光の透過率が50%以上、70%以下であるポリプロピレンで構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、収納体およびそれを用いた磁気ディスク用ガラス基板の検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、情報化技術の高度化に伴い、情報記録技術、特に磁気記録技術は著しく進歩している。
【0003】
このような磁気記録技術のひとつであるHDD(ハードディスクドライブ)は、ディスク状の基板の表面に磁性体薄膜からなる磁気記録層を有した磁気ディスクと、磁気ディスクを高速で回転させるスピンドルモータと、スイングアームの先端に取り付けられ磁気ディスクの磁気記録層に磁気データを読み書きする磁気ヘッドと、磁気ヘッドを磁気ディスク上の半径方向に移動する位置決め装置とを主な構成要素としている(特許文献1)。
【0004】
磁気ディスクの両主表面に形成された磁気記録層に対してそれぞれ磁気ヘッドが対向配置されるので、1つの磁気ディスクにつき2つの磁気ヘッドを備えているのが、一般的な構成である。ここで、磁気記録媒体用基板としては、かつてはアルミニウム基板が広く用いられてきた。
【0005】
しかしながら、磁気ディスクの小型化、薄板化、および高密度記録化に伴い、近年は、アルミニウム基板に比べ基板表面の平坦性及び基板強度に優れたガラス基板の需要が高まっている。
【0006】
ガラス基板は、従来、例えば、特許文献2の段落〔0004〕に示すように、ガラスを円盤状に形成して面取りを行い、端面および主表面を研磨し、その後に耐衝撃性や耐振動性を向上させるための化学強化処理を施すことにより製造されていた(特許文献2)。
【0007】
このようにして製造されたガラス基板は、両面に磁性層等の記録層を設けることにより、磁気記録媒体として利用されてきた。
【0008】
ここで、ガラス基板は各製造工程間では、特許文献3に示すように、樹脂性のカセットのような収納体に収納されて搬送され、製造工程の最後に、特許文献4に示すように収納体から取り出された状態で検査を行っていた(特許文献3、4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−243735号公報
【特許文献2】特開2000−076652号公報
【特許文献3】特開2006−99945号公報
【特許文献4】特開2008−116340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ここで、検査には欠陥検査のように、表面の微細な平滑性を検査するものもあれば、ディスク出荷前の枚数確認検査や異種確認検査(異なる寸法のディスクが混じっていないかを確認する検査)のように、目視や写真撮影で簡単に検査できるようなものもある。
【0011】
しかしながら、従来は枚数確認検査や異種確認検査の際には基板を収納体から取り出したり、収納体を分解してから検査を行ったりしているため、検査環境によっては、外部から飛来したパーティクル等が基板表面に付着し、検査中に表面清浄度が悪化してしまう恐れがあった。また、取り出す際に基板を傷つけたり落下させたりすることにより、最悪の場合磁気ディスクとしての使用に耐えない状況になる恐れがあった。
【0012】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、検査中に表面清浄度などが悪化する恐れのない収納体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討した結果、収納体において、ガラス基板を覆うカバーとして、一定値以内の透過率を有するポリプロピレンを用いることにより、ガラス基板を収納体から取り出すことなく、カバー越しに枚数確認検査や異種確認検査が可能であることを見出した。
【0014】
さらに、ポリプロピレンはその構造中に不安定な3級水素を有しており、熱、光、水分、金属等の影響を受け、酸素を介して劣化し、ガスを発生させるという特性を持っているが、本発明者は、ガスの放出特性と透過率の間に一定の関係があることを見出し、ガスの放出量を抑えつつ、透過率を保持したカバーを用いることにより、収納体を分解せずに、ガラス基板を収納した状態で、カバー越しに枚数確認検査や異種確認検査が可能であることを見出し、本発明をするに至った。
【0015】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を有する。
【0016】
(構成1)可視光の透過率が50%以上であるカバーを有し、前記カバーは、厚さ2mmにおける可視光の透過率が50%以上、70%以下であるポリプロピレンで構成されていることを特徴とする収納体。
【0017】
(構成2)磁気ディスク用ガラス基板を収納することを特徴とする構成1記載の収納体。
【0018】
(構成3)前記ポリプロピレンは、温度80度で30分加熱した際のガス放出量が1グラム当たり12μg以下であることを特徴とする構成1または2のいずれかに記載の収納体。
【0019】
(構成4)開口部を有する箱型の本体と、前記本体の内部に設けられ、前記磁気ディスク用ガラス基板を保持する保持部と、を有し、前記カバーは、前記開口部を覆うように設けられていることを特徴とする構成1〜3のいずれかに記載の収納体。
【0020】
(構成5)前記開口部は、前記本体の対向する面にそれぞれ設けられ、前記カバーは、一対の前記開口部を覆う一対のカバーであることを特徴とする構成4記載の収納体。
【0021】
(構成6)構成1〜5のいずれかに記載の収納体に磁気ディスク用ガラス基板が収納された状態で、前記カバー越しに前記磁気ディスク用ガラス基板を検査する工程を有することを特徴とする磁気ディスク用ガラス基板の検査方法。
【0022】
(構成7)構成6記載の検査方法を工程に含むことを特徴とする磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【0023】
(構成8)構成7記載の製造方法により製造されたことを特徴とする磁気ディスク用ガラス基板。
【0024】
(構成9)構成8に記載の磁気ディスク用ガラス基板と、前記磁気ディスク用ガラス基板の主表面に設けられた下地層、磁性層、保護層、潤滑層と、を有することを特徴とする磁気記録媒体。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、検査中に平滑性が悪化する恐れのない収納体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1(a)はガラス基板1の平面図、図1(b)は図1(a)のA−A断面図、図1(c)は磁気記録媒体100を示す断面図である。
【図2】ガラス基板1の製造方法の詳細を示すフローチャートである。
【図3】収納体31を示す分解斜視図である。
【図4】収納体31を示す斜視図である。
【図5】透過率とガス放出量の関係を示す表である。
【図6】透過率とガス放出量の関係を示すグラフである
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面に基づき、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0028】
まず、図1を参照して、本実施形態に係るガラス基板1(磁気ディスク用ガラス基板)の製造方法を用いて製造されるガラス基板1の構造について簡単に説明する。
【0029】
図1(a)に示すように、ガラス基板1は、円板形状を有する本体3を有し、本体3の中心には内孔5が形成されている。
【0030】
図1(b)に示すように、本体3は、実質的に平滑な主表面7a、7bを有している。
【0031】
主表面7a、7bは、情報を記録再生するための層が形成される面であり、例えば図1(c)に示すように、主表面7a、7bの一方または両方に、下地層18a、磁性層18b、保護層18c、潤滑層18dを設けることにより、ガラス基板1は、磁気記録媒体100となる(少なくとも磁性層18bは記録層として必要)。
【0032】
また、図1(b)に示すように、本体3は主表面7a、7bに対して直交している内周端面11および外周端面9を有している。
【0033】
内周端面11および外周端面9は面取されており、それぞれ内周面取面13a、13bおよび外周面取面15a、15bが設けられている。
さらに、本体3は表面に化学強化層17が形成されている。
【0034】
化学強化層17の詳細については後述するが、例えば、ガラス基板1の原料となるガラスのイオンの一部を、よりイオン半径の大きいイオンに置換し、圧縮応力層とした層である。
【0035】
次に、図1〜図2を参照して、本実施形態に係るガラス基板1の製造方法について説明する。
【0036】
なお、以下の説明では、製造工程中におけるガラスを「ガラス基材1a」と称し、完成品を「ガラス基板1」と称することにする。
【0037】
まず、図2に示すように、原料となるガラスを円板状に成形してガラス基材1aを製造する(ステップ101)。
【0038】
原料となるガラスとしては例えばフロート法、ダウンドロー法、リドロー法又はプレス法で製造されたソーダライムガラス、アルミノシリケートガラス、ボロシリケートガラス、結晶化ガラス等が挙げられる。
【0039】
なお、以下の実施形態ではプレス法で製造されたガラスを例に説明する。
【0040】
次に、ガラス基材1aの板厚調整のため、研削装置21を用いて主表面7a、7bを研削(第1ラッピング)する(ステップ102)。
研削は、例えば両面ラッピング装置とアルミナ等の砥粒を用いて行う。
【0041】
次に、図2に示すように、ガラス基材1aの中心に内孔5(図1参照)を形成する(ステップ103)。
内孔5の形成は、例えばコアドリルを用いて行う。
【0042】
なお、シートガラスを用いた場合は、ステップ101〜103は行わず、代わりに、カッターを用いてシート形状から円板形状にガラスを切り出し、さらに内孔5を切り出す工程(カッティング工程)を行う。
【0043】
次に、図2に示すように、ガラス基材1aの端面のクラックを除去するため、内周端面11および外周端面9の面取を行う(ステップ104)。面取は、例えばダイヤモンド砥粒が付着した砥石を用いて行う。
【0044】
なお、面取後に主表面7a、7bを研削(第2ラッピング)する工程を追加してもよい。これにより、内孔5の形成や面取によって生じた凹凸を研削でき、研磨の際の負担を軽減できる。
【0045】
次に、図2に示すように、ガラス基材1aの内周端面11および外周端面9の研磨、即ち端面研磨を行う(ステップ105)。
端面研磨は例えば回転ブラシを用いて行う。
【0046】
次に、図2に示すように、ガラス基材1aに化学強化を行い、化学強化層17を形成する(ステップ106)。
【0047】
具体的には、化学強化液にガラスを浸漬し、化学強化液に含まれているイオンのうち、ガラスに含まれているイオンよりもイオン半径が大きいイオンを、ガラスに含まれている当該イオンとイオン交換して化学強化層17を形成する。
【0048】
次に、化学強化が終わると、ガラス基材1aを洗浄して表面の化学強化液を除去した後、図2に示すように、ガラス基材1aの主表面7a、7bの平坦度と表面粗さを調整する(実質的に平滑にする)ため、主表面7a、7bを研磨する(ステップ107)。
【0049】
研磨は、例えば両面研磨装置と硬質樹脂ポリッシャとを用い、遊星歯車機構を用いて行うことができる。研磨液は、例えば、酸化セリウムや酸化ランタン等の砥粒を水に分散させてスラリーとしたものが用いられる。
【0050】
研磨が終了すると、ガラス基材1aを洗浄し、製造中に表面に付着した研磨剤や不純物を除去する(ステップ108)。
【0051】
具体的にはスクラブ洗浄、超音波洗浄等の物理的な洗浄や、フッ化物、有機酸、過酸化水素、界面活性剤等を用いた薬液洗浄が挙げられる。
【0052】
次に、製品検査(例えば主表面7a、7bの表面粗さやパーティクルの量の検査)を行う(ステップ109)。以上の工程により、ガラス基板1が完成する。
【0053】
次に、完成したガラス基板1を収納体31に収納する(ステップ110)。
【0054】
ここで、ステップ110の詳細について説明する。
【0055】
まず、収納体31の構造について、図3および図4を参照して説明する。
図3および図4に示すように、収納体31はガラス基板1を収納する本体33と、本体33に設けられた一対の樹脂製のカバー33a、33bとを有している。
【0056】
より詳細に説明すると、本体33は対向する上面32aと下面32bが開放された箱型の形状を有しており、内部にはガラス基板1を保持するための溝である保持部35が設けられている。本体33は、例えば(1)ポリカーボネート(非導電性タイプ)或いは(2)ポリカーボネートにカーボンブラックなどを加えた材料(導電性タイプ、磁気ディスクの静電気帯電防止のため)で構成される。これは(1)磁気ディスク用収納体用としての加工がし易く、(2)化学的にも安定しており磁気ディスクと化学反応を起こし難いこと、そして(3)価格的にも他の材料に比べ安価であるためである。
【0057】
なお、本体33は、上面32aよりも下面32bが幅が狭く形成されており、保持部35が設けられた面である側面34は、上面32a側から下面32b側へ向けて幅狭となるテーパ部36を有している。
【0058】
ガラス基板1は、上面32aより保持部35に挿入されるが、テーパ部36で係止され、下面32b側から落下することはない。
【0059】
カバー33a、33bは上面32aおよび下面32bに対応した形状を有する蓋状の部材であり、ポリプロピレンを含む材料で構成されている。ポリプロピレンを用いる理由としては、(1)加工がし易く、(2)化学的にも安定しており磁気ディスクと化学反応を起こし難いこと、そして(3)価格的にも他の材料に比べ安価であること、(4)適度の弾力性/柔らかさを有することからカバー33a、33b(上蓋/下蓋)として受ける取り扱い時の変形にも耐えうることが挙げられる。
【0060】
ここで、後述するステップ111においては、カバー33a、33b越しに製品検査を行うため、カバー33a、33bは透過率が高いのが望ましい。
【0061】
一方で、カバー33a、33bの構成材料であるポリプロピレンは、その構造中に不安定な3級水素を有しており、熱、光、水分、金属等の影響を受け、酸素を介して劣化し、ガスを発生させるため、ガスの放出量がなるべく少ないものが望ましい。具体的には、ガスの放出量は温度80度で30分加熱した際のガス放出量が、1g当たり15μg以下であるのが望ましい。これは15μgを超えると磁気ディスクへのガス吸着が著しくなり、HDI(Head Disk Interface)における機械的/物理的不具合(ヘッド、ディスク表面が吸着ガスにより汚染され、ヘッドの浮上安定性が損なわれるなど)が発生しやすくなるためである。
【0062】
このような条件を満たすポリプロピレンは、後述するように可視光の透過率が70%以下になるため、カバー33a、33bは、厚さ2mmにおける可視光(もしくは検査に用いられる入射光)の透過率が50%以上70%以下のポリプロピレンを用いるのが望ましい。
【0063】
ここで、カバー33a、33bの透過率は、カバー33a、33bの厚さによって異なる(上記した透過率は厚さ2mmの場合である)。
【0064】
そのため、カバー33a、33bは、上記した厚さにおける上記した透過率およびガス放出量の要件を満たすポリプロピレンを用いて、透過率が50%以上となるような厚さとする必要がある。
具体的にはカバー33a、33bの厚さは1mm〜3mm程度であるのが望ましい。
【0065】
なお、カバー33a、33bの可視光の透過率を50%以上とする理由は、透過率が50%未満では、カバー33a、33b越しにガラス基板1を視認するのが困難であるためである。
【0066】
透過率とガス放出量が上記範囲にあるポリプロピレンを用いることにより、ガスの放出量を抑えつつ、透過率を確保することができる。
即ち、平滑性が悪化する恐れなく、検査を行うことができる。
【0067】
次に、ガラス基板1を収納体31に収納する手順について、簡単に説明する。
【0068】
まず、図3に示すように、特定の枚数(例えば50枚)のガラス基板1を本体33の上面32aから保持部35に挿入する。
【0069】
次に、図4に示すように、上面32aおよび下面32bにそれぞれカバー33a、33bを嵌めこみ、固定する。
以上がステップ110の詳細である。
【0070】
最後に、収納体31に収納されたガラス基板1の異種確認検査および枚数確認検査をカバー33a、33b越しに行う(ステップ111)。なお、検査はカメラ等の撮影装置を用いて行われる。
【0071】
このように、本実施形態によれば、ガラス基板1を収納する収納体31は、可視光の透過率が50%以上のカバー33a、33bを有しており、カバー33a、33bを構成する材料は、厚さ2mmにおける可視光の透過率が50%以上70%以下であり、ガスの放出量が1g当たり15μg以下であるポリプロピレンである。
【0072】
そのため、カバー33a、33bは、ガスの放出量を抑えつつ、透過率を確保することができ、収納体31を分解することなく、カバー33a、33b越しに異種確認検査および枚数確認検査を行うことができる。
【実施例】
【0073】
以下、実施例に基づき、本発明をさらに詳細に説明する。
【0074】
<透過率とガス放出量の関係の評価>
まず、図3および図4に示す収納体31を製造し、(可視光の)透過率とガス放出量の関係を求めた。
【0075】
まず、本体33を、材料としてポリカーボネートを用い、射出成形によって作製した。
本体33の寸法は、2.5インチのガラス基板1が25枚入る寸法とした。
【0076】
次に、カバー33a、33bを作製した。
具体的には、ポリプロピレンを用い、透過率を変化させたカバー33a、33bを作製した。なお、カバー33a、カバー33bの板厚は2mmとした。
【0077】
次に、作製したカバー33a、33bの透過率を以下の手順で測定した。
まず、デジタル照度計testo545(株式会社テストー社製)を用いてカバー33a、33bの透過率を2回測定し、平均値を透過率の測定値とした。次に、作製したカバー33a、33bのガス放出量を加熱脱着装置とガスクロマトグラフ質量分析計を用い、以下の手順で測定した。
【0078】
まず、作製したカバー33a、33bをメタノールで洗浄した後にアルミホイル上にカバーを載せ、質量が0.05gとなるようにカッターで切断し、試料片を得た。
【0079】
次に、試料片を加熱脱着装置内の280℃に加熱されたチューブにセットし、80度で30分加熱し、ガスを放出させた。
【0080】
発生したガスを−150℃のコールドトラップを経由させ、キャリアガスとして1ml/minで流したHeによって、アジレントテクノロジー社製ガスクロマトグラフ質量分析計(モデル:HP7890/HP5975C)のカラム内に導入し、ガス質量を測定した。
【0081】
なお、カラムとしてはアジレントテクノロジー社製HP-5msセミボラタイルカラム(内径0.25mm、長さ30mm、膜厚0.5μm)を用い、オーブンによって5℃/分の加熱速度で40℃から300℃まで加熱されたものを用いた。
また、検出器の温度は300℃とした。
【0082】
透過率とガス放出量の関係を示す表(測定値)を図5に、透過率とガス放出量の関係をグラフ化したものを図6に示す。
【0083】
図5および図6から明らかなように、透過率が70%以上になると急激にガス放出量が増加していることが分かった。
【0084】
一方で、透過率が70%未満ではガス放出量は大きく変化せず、15μg/g以下であった。
【0085】
<目視検査の可否の評価>
次に、作製した収納体31のうち、透過率が45%、50%、60%、70%、75%のカバー33a、33bを用いたものに対し、以下の工程により作製したガラス基板1をそれぞれ25枚収納し、目視検査の可否を評価した。
【0086】
(ガラス基板1の作製)
まず、溶融させたアルミノシリケートガラスを上型、下型、胴型を用いたダイレクトプレスによりディスク形状に成型し、アモルファスの板状ガラス素材(ブランクス、ガラス基材1a)を得た。
【0087】
なお、このアルミノシリケートガラスとしては、SiO:58質量%〜75質量%、Al:5質量%〜23質量%、LiO:3質量%〜10質量%、NaO:4質量%〜13質量%を含有する化学強化用ガラスを使用した。この時点でブランクスの直径は65mmであった。
【0088】
次に、このブランクスの両主表面を第1ラッピング加工した後、円筒状のコアドリルを用いて、このブランクスの中心部に穴部を形成して円環状に加工(コアリング)した。そして端部(外周端部及び内周端部)に面取り面を形成するチャンファリング加工(面取り面形成工程))を施して、直径2.5インチとした。その後、このガラス基材1aに第2ラッピング加工を行った。
【0089】
次いで、ガラス基材1aの外周端部について、ブラシ研磨方法により、鏡面研磨を行った。
このとき、研磨砥粒としては、酸化セリウム砥粒を含むスラリー(遊離砥粒)を用いた。
そして、鏡面研磨工程を終えたガラス基材1aを水洗浄した。
【0090】
次いで、主表面研磨工程として、ガラス基材1aの両主表面に対して第1研磨工程を施した。第1研磨工程においては、研磨装置として、両面研磨機を使用した。この研磨装置における研磨パッドとしては、ウレタンパッドを用いた。また、研磨剤としては、セリウム研磨剤を用いた。これにより、ガラス基材1aの主表面7a、7bの表面粗さRaは約1.0nmとなった。
【0091】
次いで、ガラス基材1aの両主表面について、主表面7a、7bを鏡面状に仕上げる第2研磨工程を施した。第2研磨工程においては、研磨装置として、両面研磨機を使用した。この研磨装置における研磨パッドとしては、軟質スウェードパッド(アスカーC硬度:54)を用いた。また、研磨剤としては、平均粒径20nmのコロイダルシリカ研磨剤を用いた。
【0092】
この第2研磨工程を終えたガラス基材1aを、アルカリ溶液に浸漬して、超音波を印加して洗浄し、アルカリ洗浄液を用いてスクラブ洗浄を行い、極微量に希釈した希硫酸及び前記アルカリ洗浄液で洗浄を行った後に、IPA(イソプロピルアルコール)の蒸気乾燥を行った。
【0093】
次いで、上述した最終研磨工程を終えたガラス基材1aに、化学強化を施した。化学強化は、硝酸カリウム(60%)と硝酸ナトリウム(40%)を混合した化学強化溶液を用意し、この化学強化溶液を380°Cに加熱し、その中に洗浄済みのガラス基材1aを約4時間浸漬することによって行った。そして、この化学強化を終えたガラス基材1aに対して、アルカリ洗浄を行い、ガラス基板1を作製した。
【0094】
なお、本実施例では、洗浄工程を便宜的に化学強化工程の後に記載したが、洗浄工程は、ラッピング工程から第1研磨工程および第2研磨工程までの各工程間でも適宜行われる。
【0095】
次に、作製したガラス基板1を収納体31に収納し、カバー越しに目視検査を試みた。結果は以下の通りである。
【0096】
(1)透過率が45%のカバー33a、33bを用いた収納体31では、カバー33a、33b越しに内容物(ガラス基板1)をうまく確認することができなかった。
【0097】
(2)透過率が50%、60%、70%、75%のカバー33a、33bを用いた収納体31では、カバー33a、33b上から内容物(ガラス基板1)を確認することができた。
【0098】
<収納体31に収納されたガラス基板1の状態確認>
次に、(2)の収納体31についてそれぞれ枚数確認検査を行った後、1週間常温で保管した後、ガラス基板1の状態を確認した。
【0099】
その結果、透過率が50%、60%、70%、75%のカバー33a、33bを用いた収納体31に収納されたガラス基板1には変化が見られなかったのに対し、透過率が75%のカバー33a、33bを用いた収納体31に収納されたガラス基板1の主表面7a、7bにパーティクルが付着しているのが確認された。
【0100】
以上より、透過率が50〜70%のポリプロピレンを用いることにより、ガス放出量を抑制しつつ、透過率を確保可能であることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0101】
上述した実施形態では、本発明を磁気記録媒体用のガラス基板1を収納する収納体31に適用した場合について説明したが、本発明は何らこれに限定されることなく、ガス放出量と透過率を両立させる必要がある全ての収納体に適用できる。
【符号の説明】
【0102】
1……………ガラス基板
1a…………ガラス基材
3……………本体
5……………内孔
7a…………主表面
17…………化学強化層
18b………磁性層
31…………収納体
33…………本体
32a………上面
32b………下面
33a………カバー
33b………カバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可視光の透過率が50%以上であるカバーを有し、
前記カバーは、厚さ2mmにおける可視光の透過率が50%以上、70%以下であるポリプロピレンで構成されていることを特徴とする収納体。
【請求項2】
磁気ディスク用ガラス基板を収納することを特徴とする請求項1記載の収納体。
【請求項3】
前記ポリプロピレンは、温度80度で30分加熱した際のガス放出量が1グラム当たり12μg以下であることを特徴とする請求項1または2のいずれか一項に記載の収納体。
【請求項4】
開口部を有する箱型の本体と、
前記本体の内部に設けられ、前記磁気ディスク用ガラス基板を保持する保持部と、
を有し、
前記カバーは、前記開口部を覆うように設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の収納体。
【請求項5】
前記開口部は、前記本体の対向する面にそれぞれ設けられ、
前記カバーは、一対の前記開口部を覆う一対のカバーであることを特徴とする請求項4記載の収納体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の収納体に磁気ディスク用ガラス基板が収納された状態で、前記カバー越しに前記磁気ディスク用ガラス基板を検査する工程を有することを特徴とする磁気ディスク用ガラス基板の検査方法。
【請求項7】
請求項6記載の検査方法を工程に含むことを特徴とする磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項8】
請求項7記載の製造方法により製造されたことを特徴とする磁気ディスク用ガラス基板。
【請求項9】
請求項8に記載の磁気ディスク用ガラス基板と、
前記磁気ディスク用ガラス基板の主表面に設けられた下地層、磁性層、保護層、潤滑層と、
を有することを特徴とする磁気記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−123968(P2011−123968A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−282475(P2009−282475)
【出願日】平成21年12月14日(2009.12.14)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【出願人】(503069159)ホーヤ ガラスディスク タイランド リミテッド (85)
【Fターム(参考)】