説明

受信装置、受信方法、および通信システム

【課題】妨害信号を送信することにより情報の秘匿化を行う場合において、より効率的に通信を行うことができるようにする。
【解決手段】送信装置11は、秘匿化を要求する旨の情報である秘匿化要求情報を受信装置12に送信後、秘匿化すべき情報を受信装置12に送信する。受信装置12は、秘匿化要求情報を受信後、妨害信号を発生するので、妨害信号は、秘匿化すべき情報が通信路を伝送している間だけ、通信路に送出される。受信装置12は、秘匿化すべき情報に妨害信号が重畳された受信信号を受信し、減算器において受信信号から妨害信号を減算することにより、受信信号の妨害信号を除去して、秘匿化すべき情報を取得する。本発明は、例えば、受信装置に適用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、受信装置、受信方法、および通信システムに関し、特に、妨害信号を送信することにより情報の秘匿化を行う場合に用いて好適な受信装置、受信方法、および通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
所定の通信路において情報の秘匿性を高める方法として暗号が知られている。暗号は、暗号化と復号(解読)に鍵を使わない古典暗号と、鍵を使う現代暗号に大別される。さらに、鍵を用いる現代暗号は、共通鍵を用いる共通鍵暗号方式と、公開鍵を使う公開鍵暗号方式に大別される。共通鍵暗号方式としては、例えば、DES,Triple DES,AESなどが、公開鍵暗号方式としては、例えば、RSAなどが知られている。
【0003】
共通鍵暗号方式では、送信側と受信側が共通の鍵(共通鍵)を持ち、送信側がこの共通鍵で情報を暗号化して送信し、受信側は暗号化された情報を共通鍵で復号する。従って、共通鍵暗号方式は、送信側と受信側だけが共通鍵を共有することで、他者(悪意の第三者)が情報を解読することを回避する方式である。
【0004】
一方、公開鍵暗号方式では、受信側は秘密鍵を所有し、また、秘密鍵から生成された公開鍵を送信側に提供する。送信側は、公開鍵で情報を暗号化して送信し、受信側は、暗号化された情報を、秘密鍵を用いて復号する。従って、公開鍵暗号方式は、秘密鍵を推測することが困難な公開鍵を用いることで、他者が情報を解読することを回避する方式である。
【0005】
共通鍵暗号方式および公開鍵暗号方式のいずれにおいても、送信側と受信側がいかに安全に鍵情報を共有することができるかが重要となってくる。例えば、鍵情報を相手側に渡す場合の専用の安全な通信路を確保することができればよいが、そのような通信路を確保するのは難しい。また、鍵情報を更新する度に専用の通信路を何度も確保するのはさらに困難である。
【0006】
また、普通の情報を送信する通信路と同じ通信路を使うのは、送信した鍵情報に対する安全性が、暗号化されていない情報と同じ程度の安全性しか確保できないため問題がある。
【0007】
そこで、送信側と受信側で鍵情報を共有する以外の方法として、受信側で妨害信号を送信し、第三者の装置では、妨害信号により正常に復調することができないようにして、妨害信号を送信している受信装置自身は、受信した変調波から妨害信号を相殺除去することにより、送信装置から送信された情報を取り出す技術が考えられている(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
【特許文献1】特開2001−94536
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、例えば、受信装置が受信状態である場合に絶えず妨害信号を発生し続けることは、秘匿化する必要のない情報に対しては無駄な処理であり、受信装置が余分な電力を消費することにもなる。また、通信路の容量の低下ももたらすことにもなる。
【0010】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、妨害信号を送信することにより情報の秘匿化を行う場合において、より効率的に通信を行うことができるようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の側面の受信装置は、所定の通信路を介して、第三者に対して秘匿化すべき情報を送信装置から受信する受信装置において、前記秘匿化すべき情報の送信前に前記送信装置から送信されてくる秘匿化を要求する旨の情報である秘匿化要求情報が受信された場合に、妨害信号を発生する妨害信号発生手段と、前記妨害信号発生手段により発生された前記妨害信号を前記通信路に送信する送信手段と、前記秘匿化要求情報を受信するとともに、前記秘匿化すべき情報に前記妨害信号が重畳された受信信号を受信する受信手段と、前記受信手段により受信された前記受信信号から、前記妨害信号を除去する除去手段とを備える。
【0012】
前記妨害信号発生手段により発生される前記妨害信号は、前記受信信号から前記秘匿化すべき情報を検波して復調する動作を妨げる作用を持つ信号とさせることができる。
【0013】
前記妨害信号発生手段により発生される前記妨害信号は、前記受信信号から前記秘匿化すべき情報を復号する動作を妨げる作用を持つ信号とさせることができる。
【0014】
前記妨害信号発生手段により発生される前記妨害信号は、前記受信信号から前記妨害信号を除去しない場合の前記情報の誤り率を、前記受信信号から前記妨害信号を除去した場合の前記情報の誤り率よりも増加させる作用を持つ信号とさせることができる。
【0015】
前記妨害信号発生手段により発生される前記妨害信号は、雑音として作用する信号とさせることができる。
【0016】
前記妨害信号発生手段により発生される前記妨害信号は、前記情報を表すビット系列と異なるビット系列を、所定の変調方式で変調した信号とさせることができる。
【0017】
前記所定の変調方式は、前記送信装置が採用する変調方式と同一の変調方式とさせることができる。
【0018】
前記所定の変調方式は、前記送信装置が採用する変調方式が用いる搬送波と同一の搬送波を用いる変調方式とさせることができる。
【0019】
前記妨害信号の前記ビット系列のデータクロックの周波数は、前記送信装置が採用する変調方式が用いる搬送波の周波数と同一とさせることができる。
【0020】
前記妨害信号の前記ビット系列のデータクロックの周波数は、前記送信装置が送信する前記情報のビット系列のデータクロックの周波数と同一とさせることができる。
【0021】
前記除去手段には、前記受信手段により受信された前記受信信号から、前記妨害信号発生手段により発生された前記妨害信号を除去することにより、前記受信信号に含まれる前記妨害信号を除去させることができる。
【0022】
前記受信信号に含まれる前記妨害信号と、前記妨害信号発生手段により発生された前記妨害信号とを同期させる信号同期手段をさらに設けることができる。
【0023】
前記信号同期手段は、前記妨害信号発生手段と前記除去手段の間、前記妨害信号発生手段と前記送信手段の間、または、前記受信手段と前記除去手段の間のうちのいずれか1つ以上に配置させることができる。
【0024】
前記受信信号に含まれる前記妨害信号と、前記妨害信号発生手段により発生された前記妨害信号とで、信号の振幅を合わせる振幅調整手段をさらに設けることができる。
【0025】
前記振幅調整手段は、前記妨害信号発生手段と前記除去手段の間、前記妨害信号発生手段と前記送信手段の間、または、前記受信手段と前記除去手段の間のうちのいずれか1つ以上に配置させることができる。
【0026】
前記受信信号に含まれる前記妨害信号と、前記妨害信号発生手段により発生された前記妨害信号とで、信号の伝播特性を合わせる伝播特性調整手段をさらに設けることができる。
【0027】
前記伝播特性調整手段は、前記妨害信号発生手段と前記除去手段の間、前記妨害信号発生手段と前記送信手段の間、または、前記受信手段と前記除去手段の間のうちのいずれか1つ以上に配置させることができる。
【0028】
本発明の第1の側面の受信方法は、所定の通信路を介して、第三者に対して秘匿化すべき情報を送信装置から受信する受信装置の受信方法において、前記秘匿化すべき情報の送信前に前記送信装置から送信されてくる秘匿化を要求する旨の情報である秘匿化要求情報が受信された場合に、妨害信号を発生し、発生された前記妨害信号を前記通信路に送信し、前記秘匿化要求情報を受信するとともに、前記秘匿化すべき情報に前記妨害信号が重畳された受信信号を受信し、受信された前記受信信号から、前記妨害信号を除去するステップを含む。
【0029】
本発明の第1の側面においては、秘匿化すべき情報の送信前に送信装置から送信されてくる秘匿化を要求する旨の情報である秘匿化要求情報が受信された場合に、発生された妨害信号が通信路に送信され、秘匿化すべき情報に妨害信号が重畳された受信信号が受信され、受信された受信信号から、妨害信号が除去される。
【0030】
本発明の第2の側面の通信システムは、第三者に対して秘匿化すべき情報を送信する送信装置と、前記秘匿化すべき情報を受信する受信装置とからなる通信システムにおいて、前記送信装置は、所定の通信路を介して、前記秘匿化すべき情報の送信前に、秘匿化を要求する旨の情報である秘匿化要求情報を前記受信装置に送信する秘匿化要求送信手段を備え、前記受信装置は、前記秘匿化要求情報が受信された場合に、妨害信号を発生する妨害信号発生手段と、前記妨害信号発生手段により発生された前記妨害信号を前記通信路に送信する妨害信号送信手段と、前記秘匿化要求情報を受信するとともに、前記秘匿化すべき情報に前記妨害信号が重畳された受信信号を受信する受信手段と、前記受信手段により受信された前記受信信号から、前記妨害信号を除去する除去手段とを備える。
【0031】
前記妨害信号送信手段には、前記妨害信号を送信する前に、妨害信号の送信を開始する旨の情報である秘匿化開始情報を前記送信装置にさらに送信させ、前記秘匿化要求送信手段には、前記秘匿化開始情報を前記受信装置から受信してから、前記秘匿化すべき情報を前記受信装置に送信させるようにすることができる。
【0032】
前記秘匿化要求送信手段には、前記秘匿化すべき情報のデータ長を表すデータ長情報を前記受信装置にさらに送信させ、前記受信手段には、前記データ長情報をさらに受信させ、前記妨害信号発生手段には、前記秘匿化すべき情報のデータ長だけ前記秘匿化すべき情報が受信された場合に、前記妨害信号の発生を終了させるようにすることができる。
【0033】
前記秘匿化要求送信手段には、前記秘匿化すべき情報の送信の終了を表す秘匿化終了情報を、前記受信装置にさらに送信させ、前記受信手段には、前記秘匿化終了情報をさらに受信させ、前記妨害信号発生手段には、前記秘匿化終了情報が受信された場合に、前記妨害信号の発生を終了させるようにすることができる。
【0034】
本発明の第2の側面においては、送信装置において、所定の通信路を介して、秘匿化すべき情報の送信前に、秘匿化を要求する旨の情報である秘匿化要求情報が受信装置に送信され、受信装置において、秘匿化要求情報が受信された場合に、妨害信号が発生され、秘匿すべき情報に妨害信号が重畳された受信信号が受信されて、その受信信号から、妨害信号が除去される。
【発明の効果】
【0035】
本発明の第1および第2の側面によれば、妨害信号を送信することにより、送信側と受信側が鍵情報を共有せずに情報を秘匿化した通信を行うことができ、かつ、より効率的な通信を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下に本発明の実施の形態を説明するが、本発明の構成要件と、明細書又は図面に記載の実施の形態との対応関係を例示すると、次のようになる。この記載は、本発明をサポートする実施の形態が、明細書又は図面に記載されていることを確認するためのものである。従って、明細書又は図面中には記載されているが、本発明の構成要件に対応する実施の形態として、ここには記載されていない実施の形態があったとしても、そのことは、その実施の形態が、その構成要件に対応するものではないことを意味するものではない。逆に、実施の形態が構成要件に対応するものとしてここに記載されていたとしても、そのことは、その実施の形態が、その構成要件以外の構成要件には対応しないものであることを意味するものでもない。
【0037】
本発明の第1の側面の受信装置は、所定の通信路(例えば、図1の通信路13)を介して、第三者に対して秘匿化すべき情報を送信装置(例えば、図1の送信装置11)から受信する受信装置(例えば、図1の受信装置12)において、前記秘匿化すべき情報の送信前に前記送信装置から送信されてくる秘匿化を要求する旨の情報である秘匿化要求情報が受信された場合に、妨害信号を発生する妨害信号発生手段(例えば、図1の妨害信号発生器31)と、前記妨害信号発生手段により発生された前記妨害信号を前記通信路に送信する送信手段(例えば、図1の送信アンテナ32)と、前記秘匿化要求情報を受信するとともに、前記秘匿化すべき情報に前記妨害信号が重畳された受信信号を受信する受信手段(例えば、図1の受信アンテナ33)と、前記受信手段により受信された前記受信信号から、前記妨害信号を除去する除去手段(例えば、図1の減算器34)とを備える。
【0038】
前記受信信号に含まれる前記妨害信号と、前記妨害信号発生手段により発生された前記妨害信号とを同期させる信号同期手段(例えば、図2の遅延素子46)をさらに設けることができる。
【0039】
前記受信信号に含まれる前記妨害信号と、前記妨害信号発生手段により発生された前記妨害信号とで、信号の振幅を合わせる振幅調整手段(例えば、図2の増幅器44)をさらに設けることができる。
【0040】
前記受信信号に含まれる前記妨害信号と、前記妨害信号発生手段により発生された前記妨害信号とで、信号の伝播特性を合わせる伝播特性調整手段(例えば、図2のフィルタ45)をさらに設けることができる。
【0041】
本発明の第1の側面の受信方法は、所定の通信路を介して、第三者に対して秘匿化すべき情報を送信装置から受信する受信装置の受信方法において、前記秘匿化すべき情報の送信前に前記送信装置から送信されてくる秘匿化を要求する旨の情報である秘匿化要求情報が受信された場合に、妨害信号を発生し(例えば、図7のステップS31)、発生された前記妨害信号を前記通信路に送信し(例えば、図7のステップS32)、前記秘匿化要求情報を受信するとともに、前記秘匿化すべき情報に前記妨害信号が重畳された受信信号を受信し(例えば、図8のステップS36)、受信された前記受信信号から、前記妨害信号を除去する(例えば、図8のステップS40)ステップを含む。
【0042】
本発明の第2の側面の通信システムは、第三者に対して秘匿化すべき情報を送信する送信装置(例えば、図1の送信装置11)と、前記秘匿化すべき情報を受信する受信装置(例えば、図1の受信装置12)とからなる通信システムにおいて、前記送信装置は、所定の通信路(例えば、図1の通信路13)を介して、前記秘匿化すべき情報の送信前に、秘匿化を要求する旨の情報である秘匿化要求情報を前記受信装置に送信する秘匿化要求送信手段(例えば、図1の送信アンテナ23)を備え、前記受信装置は、前記秘匿化要求情報が受信された場合に、妨害信号を発生する妨害信号発生手段(例えば、図1の妨害信号発生器31)と、前記妨害信号発生手段により発生された前記妨害信号を前記通信路に送信する妨害信号送信手段(例えば、図1の送信アンテナ32)と、前記秘匿化要求情報を受信するとともに、前記秘匿化すべき情報に前記妨害信号が重畳された受信信号を受信する受信手段(例えば、図1の受信アンテナ33)と、前記受信手段により受信された前記受信信号から、前記妨害信号を除去する除去手段(例えば、図1の減算器34)とを備える。
【0043】
以下、図を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0044】
図1は、本発明を適用した通信システムの第1の実施の形態の構成例を示している。
【0045】
図1の通信システム1は、所定の情報を送信する送信装置11、送信装置11から送信された所定の情報を受信する受信装置12、および、送信装置11と受信装置12との間で所定の情報を伝送する通信路13により構成される。
【0046】
通信システム1においては、送信装置11が所定の情報を送信している間、受信装置12から所定の妨害信号が通信路13に出力(送信)される。受信装置12は、受信した受信信号から、自分で出力した妨害信号を除去して、送信装置11からの所定の情報を取得することができる。これに対して、送信装置11の使用者である送信者と受信装置12の使用者である受信者以外の第三者は、送信信号に妨害信号が重畳されているので、通信路13上の信号を受信しても情報を解読することはできない。即ち、通信システム1では、送信側と受信側との間での、所定の情報の秘匿が実現される。なお、このシステムを利用する事により送受される情報の種別はいかなるものであっても良い。例えば、この手法を用いて鍵情報を送受した場合、送信装置11と受信装置12の間で安全に鍵情報を共有することも可能である。特に、無線LAN(Local Area Network)や静電界通信、更にはUWB(Ultra Wide Band)といった各種のシステムにおいては、鍵情報の安全なる共有は非常に重要な意味合いを有するため、本発明を適用する事の意義は非常に大きなものとなる。以下、かかる機能を実現するための具体的な構成及び動作について説明する。
【0047】
送信装置11は、送信コントローラ20、符号化器21、変調器22、および送信アンテナ23により構成され、そのうちの符号化器21、変調器22、および送信アンテナ23は、送信器11aを構成する。
【0048】
送信コントローラ20は、受信装置12に送信する所定の情報を符号化器21に供給する。この所定の情報は、第三者に対して秘匿化すべき情報である。また、送信コントローラ20は、秘匿化すべき情報を受信装置12に送信する前に、即ち、秘匿化すべき情報を符号化器21に供給する前に、受信装置12に秘匿化を要求する旨の情報である秘匿化要求情報を符号化器21に供給する。なお、以下において、秘匿化すべき情報または秘匿化要求情報を特に区別しない場合には、送信装置11から送信される情報という意味で送信情報ともいう。
【0049】
符号化器21は、送信情報を所定の符号化方式で符号化して、変調器22に供給する。即ち、符号化器21は、送信情報を所定のビット系列(送信ビット系列)に変換し、変調器22に供給する。
【0050】
変調器22は、符号化された送信情報を所定の変調方式で変調し、変調した結果得られる送信信号を送信アンテナ23に供給する。なお、変調後の送信信号は、ベースバンド信号でもよいし、帯域の制限に応じて所定の周波数の搬送波を用いた信号でもよい。搬送波を用いた信号の場合には、ベースバンド信号が搬送波の周波数(キャリア周波数)にアップコンバージョンされる。搬送波を用いた変調方式としては、例えば、OSK(On-Off Shift Keying) などのASK(Amplitude Shift Keying)、BPSK(Binary Phase Shift Keying),QPSK(Quadrature Phase Shift Keying)などのPSK(Phase Shift Keying)、または、16QAM,64QAM,256QAMなどのQAM(Quadrature Amplitude Modulation)等を採用することができる。また、送信信号がベースバンド信号である場合には、ランレングス制約を施すものなどを除いて、変調器22を省略することが可能である。
【0051】
なお、送信装置11には、送信情報に対して暗号化の処理を施す暗号化器、送信情報のビット系列にスクランブル処理を施すスクランブラ、バースト誤りを防止するためビット系列を所定の規則に従って並べ替えるインターリーバ、および、受信装置12での誤り訂正のための符号化処理である誤り訂正符号化処理を施す誤り訂正符号化器などを、必要に応じて設けることができる。
【0052】
訂正符号化処理の誤り訂正符号化方式としては、リードソロモン符号、BCH符号、またはハミング符号などを採用することができる。これらの誤り訂正符号化方式は、入力されたビット系列が所定の誤り率よりも小さければ誤り率の極めて小さなビット系列を出力するが、入力されたビット系列が所定の誤り率よりも大きい場合には、符号化しない場合の誤り率に近づく符号化方式である。ここで、上述の二つの所定の誤り率は必ずしも同じ誤り率である必要はない。誤り訂正符号化方式として、リードソロモン符号、BCH符号、またはハミング符号などが採用されている場合、受信装置12では、妨害信号を除去して得られる送信情報のビット系列の誤り率が上記の所定の誤り率よりも低く、かつ、妨害信号を含んだ受信信号から得られるビット系列の誤り率が上記の所定の誤り率よりも大きくなるように、妨害信号の大きさが調整される。
【0053】
また、誤り訂正符号化方式として、ターボ符号やLDPC(Low density parity-check)符号を採用してもよい。これらの誤り訂正符号化方式は、入力信号が所定の信号雑音比(SNR)よりも大きいと極めて小さなビット系列を出力するが、所定の信号雑音比よりも小さい場合には、符号化しない場合の誤り率に近づく符号化である。ここで、上述の二つの所定の信号雑音比は、必ずしも同じ信号雑音比である必要はない。誤り訂正符号化方式として、ターボ符号やLDPC符号が採用されている場合、受信装置12では、妨害信号を除去した後の受信信号の信号雑音比が上記の所定の信号雑音比よりも大きく、かつ、妨害信号を含んだ受信信号の信号雑音比が上記の所定の信号雑音比よりも小さくなるように、妨害信号の大きさが調整される。
【0054】
なお、誤り訂正符号化処理を施さなくても、上述した条件を満足する所定の誤り率または所定の信号雑音比を設定することは可能である。従って、必ずしも誤り訂正符号化処理を行う必要はないが、図21を参照して後述するように、誤り訂正符号化処理を行う方が、より簡単に情報を秘匿化することができるので、送信装置11に設けることが望ましい。
【0055】
通信路13は、例えば、送信側と受信側が近接して無線通信を行う近接通信に採用される、電界と電位を利用する静電界通信路、磁界を利用する電磁界通信路などである。また、通信路13は、無線電波のような強い指向性を持たない通信路でもよい。即ち、通信路13は、送信側の信号と受信側の信号が容易に重ね合わせられ、送信側からの信号であるか、または、受信側からの信号であるのかが物理的に容易には区別できない通信路であればよい。
【0056】
受信装置12は、受信コントローラ30、妨害信号発生器31、送信アンテナ32、受信アンテナ33、減算器34、復調器35、および復号器36により構成され、そのうちの妨害信号発生器31および送信アンテナ32は、送信器12aを構成し、受信アンテナ33、減算器34、復調器35、および復号器36は、受信器12bを構成する。
【0057】
受信コントローラ30は、送信装置11から送信され、通信路13を介して受信アンテナ33で受信されて、復号器36から供給された情報が、情報の秘匿化を要求する秘匿化要求情報である場合、妨害信号発生器31に制御信号を供給することにより、妨害信号発生器31に妨害信号を発生させる。
【0058】
妨害信号発生器31は、受信コントローラ30の制御にしたがい、第三者による送信信号の盗聴を妨害するための雑音として作用する妨害信号を発生する。妨害信号発生器31としては、例えば、白色雑音(AWGN:Additive White Gaussian Noise)を発生させる回路を設ける場合と、乱数(擬似乱数)のビット系列を発生させる回路を設ける場合とがあり、それらの回路から生成された信号が妨害信号として発生される。
【0059】
白色雑音を用いた妨害信号は、送信信号がベースバンド信号である場合に特に有効である。白色雑音を発生させるためには、例えば、回路上の熱雑音を利用するアナログ回路を用いることができる。この場合、妨害信号発生器31は、熱雑音をフィルタリングして所望の帯域にしてから増幅し、必要に応じてADコンバータなどで雑音信号をデジタル化する。
【0060】
また、デジタル回路を用いて白色雑音を発生することも可能である。白色雑音を発生させるアルゴリズムとして、例えば、Box-Muller,Ziggurat,Wallaceのアルゴリズムなどがあるが、このようなアルゴリズムをロジック回路で構成することにより、デジタル回路で白色雑音を発生することができる。デジタル信号の白色雑音は、DAコンバータなどによってアナログ信号に変換される。
【0061】
一方、擬似乱数のビット系列を用いた妨害信号は、送信信号がベースバンド信号である場合と搬送波を用いた信号である場合の両方において有効である。なお、送信信号が搬送波を用いた信号である場合には、受信装置12は、送信アンテナ32に入力する前に、妨害信号発生器31からの妨害信号を、送信装置11で行われている変調方式と同一の変調、少なくとも搬送波の周波数と同じ周波数を用いる変調を行うことで、送信装置と兼用した構成を実現できる。
【0062】
擬似乱数のビット系列を用いた妨害信号では、擬似乱数ビット系列のクロック周波数を、送信装置11が送信する送信ビット系列のクロック周波数と同一とすることにより、擬似乱数のビット系列と送信ビット系列の区別ができないようにさせることができる。また、擬似乱数ビット系列のクロック周波数を、送信ビット系列のクロック周波数よりも大きい周波数、例えば、搬送波の周波数とすることにより、送信情報に対する雑音としての機能を増大させることができる。これらの妨害信号の効果については、図17乃至図20を参照して後述する。
【0063】
妨害信号発生器31からの妨害信号は、送信アンテナ32を介して、通信路13に出力される。妨害信号は、第三者に送信信号を復元させない程度の大きさである必要があり、そのため、妨害信号の大きさが予め測定され、所定の大きさに調整された妨害信号が通信路13に出力される。
【0064】
なお、妨害信号は、白色雑音の信号、または、擬似乱数のビット系列の信号以外の信号でもよく、受信側で既知であって、送信側および第三者に送信信号を判別困難とさせる信号であればよい。
【0065】
受信アンテナ33は、通信路13上を伝送してきた受信信号を受信して、減算器34に供給する。この受信信号は、通信路13において、送信装置11から出力された送信信号と、受信装置12から出力された妨害信号とが重畳された信号である。
【0066】
送信アンテナ32と受信アンテナ33は、共通のアンテナとしてもよい。また、送信アンテナ32は、送信装置11の送信アンテナ23と同種のものとすることができる。
【0067】
減算器34には、受信アンテナ33から受信信号が供給されるほか、妨害信号発生器31から妨害信号も供給される。減算器34は、受信信号から妨害信号発生器31からの妨害信号を減算器34で除去することにより、受信アンテナ33から供給された受信信号に含まれる妨害信号を除去し、除去後の信号を復調器35に供給する。なお、減算器34に、妨害信号が供給されていない場合には、減算器34は、受信アンテナ33から供給される受信信号をそのまま復調器35に供給する。
【0068】
復調器35は、送信装置11の変調器22で行われる変調方式に対応する方式で、減算器34からの信号を復調する。なお、受信信号がベースバンド信号である場合には、ランレングス制約などの変調を行っている場合を除いて復調器35を省略することができる。また、受信信号が搬送波を用いた信号である場合には、復調器35は、包絡線検波、同期検波などにより、搬送波の帯域からベースバンドの帯域にダウンコンバージョンする。
【0069】
復号器36は、送信装置11の符号化器21で行われる符号化方式に対応する方式で、復調器35で復調された後の信号を復号する。その結果、送信装置11から送信された所定の情報(秘匿化すべき情報、秘匿化要求情報など)が受信情報として得られる。復号器36は、受信情報を、受信コントローラ30に供給する。
【0070】
なお、送信装置11に、暗号化器、スクランブラ、インターリーバ、および誤り訂正符号化器などを設けた場合には、それに対応して、受信装置12に、暗号化された所定の情報を解読する暗号情報解読器、スクランブル処理の逆変換を施すデスクランブラ、ビット系列を所定の規則に従って並べ替えるデインターリーバ、および、誤り訂正符号化器の誤り訂正符号化処理に対応する復号を行う誤り訂正復号器が設けられる。
【0071】
受信装置12は、受信した受信信号から自分の出力した妨害信号を減算器34で除去することにより、送信装置11から送信された秘匿化すべき情報を取得するが、妨害信号発生器31により発生された妨害信号が、通信路13上に出力され、受信信号の一部として減算器34に供給されるまでの時間は、妨害信号発生器31から減算器34に直接供給されるときの時間よりも当然遅くなる。また、受信信号に含まれる妨害信号は、通信路13上に存在する各種の影響により、妨害信号発生器31が発生した妨害信号とは、振幅または周波数特性などが異なる。
【0072】
そこで、受信装置12の、妨害信号発生器31から送信アンテナ32および減算器34までの経路と、受信アンテナ33から減算器34までの経路には、受信信号の一部として受信される妨害信号の振幅、周波数特性(伝播特性)、および遅延(同期)を調整し、減算器34において過不足なく妨害信号を除去するための各種のブロックが配置されている。
【0073】
図2は、受信装置12の、妨害信号発生器31から送信アンテナ32および減算器34までの経路と、受信アンテナ33から減算器34までの経路の詳細な構成例を示している。
【0074】
受信アンテナ33と減算器34の間の経路には、増幅器41、フィルタ42、および遅延素子43が設けられている。また、妨害信号発生器31と減算器34の間の経路には、増幅器44、フィルタ45、および遅延素子46が設けられている。さらに、妨害信号発生器31と送信アンテナ32の間には、増幅器47が設けられている。
【0075】
増幅器41は、受信アンテナ33から供給される受信信号の大きさ(振幅)を所定の大きさに調整(増幅)する。フィルタ42は、受信信号の周波数特性(伝播特性)を調整するものであり、受信信号がベースバンド信号であれば等化処理を行い、受信信号が搬送波を含む信号であれば、搬送波の周波数をバンドパスさせる。遅延素子43は、受信信号を所定の時間だけ遅延させてから、減算器34に供給する。
【0076】
受信アンテナ33と減算器34の間に配置される増幅器41、フィルタ42、および遅延素子43の配置順は、この順に限らず、任意の順番で配置することが可能である。なお、増幅器41およびフィルタ42の条件を変更すると、後述する増幅器44、フィルタ45、および増幅器47の条件も変える必要が出てくるため、一度決定した後はできるだけ変更しないほうが良い。
【0077】
増幅器44は、妨害信号発生器31から供給される妨害信号の大きさ(振幅)を、受信信号に含まれる妨害信号の大きさに合わせるために調整(増幅)する。フィルタ45は、受信信号に含まれる妨害信号の周波数特性となるように、妨害信号発生器31からの妨害信号の周波数特性(伝播特性)を調整する。遅延素子46は、後段の減算器34に妨害信号を供給するタイミングが、受信アンテナ33で受信された受信信号に含まれる妨害信号が減算器34に供給されるのと同一のタイミングとなるように、フィルタ45から供給された妨害信号を所定の時間だけ遅延させる。
【0078】
妨害信号発生器31と減算器34の間に配置される増幅器44、フィルタ45、および遅延素子46の配置順は、この順に限らず、任意の順番で配置することが可能である。また、増幅器44、フィルタ45、および遅延素子46を通る妨害信号は、受信信号に含まれる妨害信号を相殺するためのものであるので、送信側と通信を行う前に、増幅器47、送信アンテナ32、通信路13、受信アンテナ33、増幅器41、フィルタ42、および遅延素子43を通って減算器34に供給される妨害信号の減衰特性、伝播特性、および遅延量を予め測定し、増幅器44、フィルタ45、および遅延素子46の条件を設定する必要がある。
【0079】
遅延素子43と遅延素子46は、その両方を必ずしも配置する必要はなく、妨害信号発生器31から出力され、増幅器44およびフィルタ45を通る妨害信号と、送信アンテナ32、通信路13、受信アンテナ33、増幅器41、およびフィルタ42を通る妨害信号とを同期させることができれば、いずれか一方だけでよい。
【0080】
遅延素子43および遅延素子46は、レジスタ、FIFOメモリなど、一定時間分の信号(データ)を保持できるものであれば何でもよい。
【0081】
増幅器47は、妨害信号発生器31から供給される妨害信号の大きさを、所定の大きさに調整(増幅)して送信アンテナ32に供給する。増幅器47による増幅率を出来るだけ大きくし、送信アンテナ32から送信される妨害信号を大きくすれば、送信信号の盗聴を困難にするが、あまりに大きくしすぎると、受信信号から妨害信号を過不足なく減算して所定の情報を取得することが困難になる。従って、増幅器47による増幅率は、第三者が送信信号を解読できず、かつ、受信装置12が妨害信号を復元可能なように決定される。
【0082】
図3は、送信装置11から送信される送信情報の例を示している。
【0083】
送信装置11は、図3に示すように、受信装置12が同期を取るためのプレアンブルを送信した後、秘匿化要求情報、秘匿化すべき情報、の順で受信装置12に送信する。また、秘匿化すべき情報の送信後には、秘匿化すべき情報の送信の終了を表す秘匿化終了情報を受信装置12に送信する。
【0084】
これにより、受信装置12は、秘匿化要求情報の受信により妨害信号の送信を開始し、秘匿化終了情報の受信により、妨害信号の送信を停止することが可能となる。即ち、妨害信号を過不足なく発生することができる。
【0085】
なお、秘匿化終了情報のビット系列が、秘匿化すべき情報のビット系列と一致するようなことがあると、その区別ができなくなるので、秘匿化終了情報のビット系列は、例えば、符号化方式を秘匿化すべき情報の符号化方式と異なるものにするなど、秘匿化すべき情報としては生じることのないビット系列とする必要がある。
【0086】
また、秘匿化すべき情報の送信の終了を明確にするためには、送信情報を図4に示すような構成とすることも可能である。即ち、図4は、送信装置11から送信される送信情報のその他の例を示している。
【0087】
図4では、送信装置11は、プレアンブルの次に送信される秘匿化要求情報を拡張する形で、秘匿化要求情報の次に、これから送信する秘匿化すべき情報のデータ長を表すデータ長情報と、そのデータ長情報の誤り検出コードである誤り検出情報を付加して送信する。そして、誤り検出情報の後に、秘匿化すべき情報が送信される。
【0088】
次に、図5および図6のフローチャートを参照して、通信システム1による送受信処理について説明する。図5は、送信装置11による送信処理のフローチャートであり、図6は、図5の送信処理により送信される送信情報を受信する受信装置12の受信処理のフローチャートである。なお、ここでは、送信装置11が図3を参照して説明したフォーマットの送信情報を送信するものとして説明する。
【0089】
図5では、初めに、ステップS1において、送信装置11は、プレアンブルを受信装置12に送信し、次に、ステップS2において、秘匿化要求情報を受信装置12に送信する。
【0090】
そして、ステップS3において、送信装置11は、秘匿化すべき情報を受信装置12に送信し、ステップS4において、秘匿化終了情報を受信装置12に送信して、送信処理を終了する。
【0091】
これに対し、受信装置12では、図6に示すように、最初に、ステップS11において、図5のステップS1の処理で送信装置11から送信されたプレアンブルを受信し、そのプレアンブルに基づいて送信情報の同期をとる。
【0092】
ステップS12において、受信装置12は、図5のステップS2の処理で送信装置11から送信された秘匿化要求情報を受信する。また、ステップS12では、秘匿化要求情報が供給された受信コントローラ30は、妨害信号を発生させるための制御信号を妨害信号発生器31に供給する。
【0093】
ステップS13において、受信装置12は、妨害信号を発生する妨害信号発生処理を開始する。この処理は、図7を参照して詳述する。
【0094】
ステップS14において、受信装置12は、受信信号から妨害信号を除去して、秘匿化すべき情報を取得する妨害信号除去処理を行う。この処理は、図8を参照して詳述する。
【0095】
ステップS15において、受信装置12は、秘匿化終了情報を受信したかを判定する。ステップS15で、秘匿化終了情報を受信していないと判定された場合、処理はステップS14に戻る。従って、秘匿化終了情報を受信するまでは、妨害信号除去処理が継続して実行される。
【0096】
一方、ステップS15で、秘匿化終了情報を受信したと判定された場合、処理はステップS16に進み、受信装置12は、妨害信号の発生を終了し、受信処理を終了する。
【0097】
図7は、図6のステップS13における妨害信号発生処理のフローチャートを示している。
【0098】
妨害信号発生処理では、初めに、ステップS31において、妨害信号発生器31は、白色雑音を発生させる回路、または、擬似乱数のビット系列を発生させる回路により、妨害信号を発生する。発生された妨害信号は、増幅器44および増幅器47に供給される。
【0099】
ステップS32において、送信アンテナ32は、増幅器47によって増幅された妨害信号を通信路13上に送信する。
【0100】
ステップS33において、増幅器44は、妨害信号発生器31から供給される妨害信号の大きさを調整する。
【0101】
ステップS34において、フィルタ45は、受信信号に含まれる妨害信号の周波数特性となるように、増幅器44から供給された妨害信号の周波数特性を調整する。
【0102】
ステップS35において、遅延素子46は、フィルタ45から供給された妨害信号を所定の時間だけ遅延させ、減算器34に供給する。
【0103】
図8は、図6のステップS14における妨害信号除去処理のフローチャートを示している。
【0104】
ステップS36において、受信アンテナ33は、送信装置11から出力された送信信号と受信装置12から出力された妨害信号を含む受信信号を受信し、増幅器41に供給する。
【0105】
ステップS37において、増幅器41は、受信アンテナ33から供給される受信信号の大きさを所定の大きさに調整する。
【0106】
ステップS38において、フィルタ42は、増幅器41から供給された受信信号の周波数特性を調整する。即ち、フィルタ42は、受信信号がベースバンド信号であれば等化処理を行い、受信信号が搬送波を含む信号であれば、搬送波の周波数をバンドパスさせる。
【0107】
ステップS39において、遅延素子43は、フィルタ42から供給された受信信号を所定の時間だけ遅延させ、減算器34に供給する。
【0108】
ステップS40において、減算器34は、遅延素子43から供給される受信信号から、遅延素子46から供給される妨害信号を減算することにより、受信信号から妨害信号を除去して復調器35に供給する。受信信号から妨害信号が除去されることにより得られる信号(秘匿化すべき情報に対応する信号)が復調器35に供給され、処理は終了する。
【0109】
そして、復調器35において所定の復調方式で秘匿化すべき情報に対応する信号が復調され、復号器36において送信装置11の符号化器21で行われる符号化方式に対応する方式で復号されることにより、秘匿化すべき情報が取得される。
【0110】
以上のように、図1の通信システム1によれば、受信装置12が通信路13上に妨害信号を送信し、受信した受信信号から妨害信号を除去することにより、第三者による盗聴を防止しつつ、送信装置11から送信された秘匿すべき情報を取得することができる。
【0111】
受信装置12が通信路13上に送信する妨害信号は、送信装置11が送信した秘匿すべき情報を暗号化(秘匿化)する鍵情報に相当するが、送信側には、この鍵情報に相当する妨害信号を知らせずに、安全な通信を実現することができる。即ち、通信システム1では、送信側と受信側が鍵情報を共有せずに情報を秘匿化することができる。
【0112】
また、受信装置12の妨害信号発生器31は、送信装置11から送信されてくる秘匿化要求情報を受信したときに妨害信号の発生を開始し、秘匿化終了情報を受信したときに妨害信号の発生を終了しており、妨害信号を通信路13に出力するのは、実際に送信装置11が秘匿化すべき情報を送信している間のみに限られるので、無駄に妨害信号を送信し続けることがない。すなわち、妨害信号の送信を効率的に行うことが可能となり、消費電力を低減させることもできる。また、通信路13の通信容量を必要以上に低下させなくて済むという効果も奏する。
【0113】
なお、上述した例では、送信装置11が、最初にプレアンブルを送信した後、秘匿化要求情報、秘匿化すべき情報、秘匿化終了情報を続けて送信するようにしたが、各情報を送信する前には必ずプレアンブルを送信するようにして、受信装置12がその都度同期を取り直すことができるようにすることも可能である。
【0114】
また、上述した例では、秘匿化すべき情報の送信終了を、秘匿化終了情報の送信、または、秘匿化すべき情報のデータ長を送信することにより、送信装置11から受信装置12に明示するようにしたが、これらの秘匿化すべき情報の送信終了を示す情報を省略し、受信装置12側において、予め定められた所定時間だけ情報の受信がなかったときに、秘匿化すべき情報の送信終了と判断するようにしてもよい。
【0115】
秘匿化すべき情報の送信終了を省略するとともに、各情報の送信前にプレアンブルを送信するようにした場合の送受信処理について、図9を参照して簡単に説明する。
【0116】
図9では、送信装置11が、初めにプレアンブル(第1のプレアンブル)を送信し、これを受信した受信装置12の受信器12bが同期処理を実行して同期をとる。
【0117】
次に、送信装置11により送信された秘匿化要求情報を、受信装置12の受信器12bが受信すると、受信装置12の受信コントローラ30は、送信器12aに対して妨害信号の送信を行わせる。
【0118】
送信装置11は、秘匿化要求情報の送信後、プレアンブル(第2のプレアンブル)を受信装置12に送信し、続いて秘匿化すべき情報を受信装置12に送信する。
【0119】
受信装置12の受信器12bは、第2のプレアンブルを受信し、同期処理を実行して同期をとった後、続いて送信されてくる(妨害信号が重畳されている)秘匿化すべき情報を受信する。
【0120】
上述の第1のプレアンブルと第2のプレアンブルは、同一のものでもよいし、異なるものでもよい。
【0121】
なお、図9では、受信装置12が秘匿化要求情報を受信した後すぐに妨害信号を発生するので、第2のプレアンブルに対応する同期処理時においても妨害信号が重畳された信号を受信することになるが、第2のプレアンブルを受信し終わるまでは妨害信号を発生せずに、第2のプレアンブルを受信後に妨害信号を発生するようにしてもよい。プレアンブルについては妨害信号なしで受信することで、それ以降の秘匿化すべき情報の受信精度が向上する場合があるからである。
【0122】
ところで、上述した第1の実施の形態においては、送信装置11が秘匿化要求情報を受信装置12に送信したが、実は受信装置12は秘匿化要求情報を受信しておらず(受信できず)、秘匿化すべき情報が妨害信号で秘匿化されず通信路13上に存在したり、受信装置12が妨害信号を送信する前に送信装置11が秘匿化すべき情報を送信した結果、秘匿化すべき情報が妨害信号で秘匿化されず通信路13を伝送してしまうことも考えられる。従って、送信装置11は、受信装置12が秘匿化要求情報を受信したことを確認した上で、秘匿化すべき情報を送信する方がより安全である。
【0123】
そこで、次の実施の形態では、受信装置12が秘匿化要求情報を受信したことを確認した上で、送信装置11が秘匿化すべき情報を送信するようにした通信システム1の実施の形態について説明する。即ち、図10は、本発明を適用した通信システムの第2の実施の形態を示している。
【0124】
図10において、図1と対応する部分については同一の符号を付してあり、その説明は省略する。
【0125】
送信装置11は、送信コントローラ20、符号化器21、変調器22、送信アンテナ23、受信アンテナ24、復調器25、および復号器26により構成される。送信装置11において、符号化器21、変調器22、および送信アンテナ23は、図1における場合と同様に送信器11aを構成するとともに、受信アンテナ24、復調器25、および復号器26は、受信器11bを構成する。
【0126】
受信装置12は、受信コントローラ30、妨害信号発生器31、送信アンテナ32、受信アンテナ33、減算器34、復調器35、復号器36、符号化器37、および変調器38により構成される。受信装置12において、妨害信号発生器31、送信アンテナ32、符号化器37および変調器38は、送信器12aを構成し、受信アンテナ33、減算器34、復調器35、および復号器36は、受信器12bを構成する。
【0127】
従って、図10の送信装置11では、受信器11bとしての受信アンテナ24、復調器25、および復号器26が新たに設けられている点が図1の送信装置11と相違し、図10の受信装置12では、符号化器37および変調器38が新たに設けられている点が図1の受信装置12と相違する。
【0128】
送信装置11の受信アンテナ24、復調器25、および復号器26は、受信装置12の受信アンテナ33、復調器35、および復号器36それぞれと同様の処理を行う。即ち、受信装置12から送信された送信情報が、受信アンテナ24において受信され、復調器25において変調器22が行う変調方式に対応する方式で復調され、復号器26において符号化器21が行う符号化方式に対応する方式で復号される。
【0129】
ここで、受信装置12から送信されてくる送信情報とは、受信装置12が秘匿化要求情報を受信し、これから妨害信号の送信を開始する旨の情報である秘匿化開始情報である。
【0130】
受信装置12の符号化器37および変調器38は、送信装置11の符号化器21および変調器22それぞれと同様の処理を行う。即ち、符号化器21は、送信装置11に送信する送信情報を所定の符号化方式で符号化して変調器22に供給し、変調器22は、符号化された送信情報を所定の変調方式で変調し、送信アンテナ32に供給する。
【0131】
図11を参照して、通信システム1の第2の実施の形態における送受信処理の概要について説明する。図11は、図9における場合と同様に、秘匿化すべき情報の送信終了を省略し、各情報の送信前にプレアンブルを送信するようにした場合の例である。
【0132】
初めに、送信装置11から受信装置12にプレアンブルが送信され、それを受信した受信装置12は同期処理を実行する。次に、送信装置11は秘匿化要求情報を送信し、受信装置12は、これを受信する。秘匿化要求情報を受信した受信装置12は、プレアンブルを送信装置11に送信し、続けて秘匿化開始情報を送信装置11に送信する。また、受信装置12は、秘匿化開始情報を送信後、妨害信号を通信路13に送信する。
【0133】
一方、送信装置11は、受信装置11からのプレアンブルを受信して同期をとり、その後に送信されてくる秘匿化開始情報を受信する。送信装置11の送信器11aは、秘匿化要求情報を送信してから、秘匿化開始情報を受信するまでの間、待機しており、秘匿化開始情報受信後、プレアンブルと秘匿化すべき情報を受信装置12に送信する。
【0134】
受信装置12は、送信装置11からのプレアンブルを受信し、同期をとった後、続けて送信されてくる秘匿化すべき情報を受信する。この秘匿化すべき情報は、受信装置12自身が送出している妨害信号と重畳された状態で受信され、減算器34で妨害信号が除去されることで得られる。
【0135】
なお、送信装置11の送信器11aは、秘匿化要求情報を送信してから秘匿化開始情報を受信するまでの間、待機するとしたが、図11においてカッコ書きで示されているように、プレアンブルを送信するようにしてもよい。送信装置11がプレアンブルを送信し続けることにより、受信装置12の受信器12bが、秘匿化すべき情報を受信する時の同期が取り易くなる(早く同期することができる)という効果を奏することができる。
【0136】
図12および図13のフローチャートを参照して、第2の実施の形態における送受信処理についてさらに説明する。
【0137】
図11に示した送受信処理を、送信装置11または受信装置12の処理ごとに示したものが図12および図13のフローチャートであり、図12は、図10の送信装置12の送信処理を、図13は、図10の受信装置12の受信処理を示している。
【0138】
図12では、初めに、ステップS51において、送信装置11は、プレアンブルを受信装置12に送信し、ステップS52において、秘匿化要求情報を受信装置12に送信する。
【0139】
ステップS53において、送信装置11は、後述する図13のステップS73の処理により受信装置12から送信されてくるプレアンブルを受信する。
【0140】
ステップS54において、送信装置11は、後述する図13のステップS74の処理により受信装置12から送信されてくる秘匿化開始情報を受信する。
【0141】
秘匿化開始情報を受信し、受信装置12が妨害信号を送出していることを認識すると、ステップS55において、送信装置11は、プレアンブルを受信装置12に送信し、ステップS56において、秘匿化すべき情報を受信装置12に送信して、処理を終了する。
【0142】
以上の送信装置11による送信処理に対応して、受信装置12は、初めに、ステップS71において、図12のステップS51の処理により送信装置11から送信されてくるプレアンブルを受信し、そのプレアンブルに基づいて送信情報の同期をとる。
【0143】
ステップS72において、受信装置12は、図12のステップS52の処理により送信装置11から送信されてくる秘匿化要求情報を受信する。また、ステップS72では、秘匿化要求情報が供給された受信コントローラ30は、妨害信号を発生させるための制御信号を妨害信号発生器31に供給する。
【0144】
ステップS73において、受信装置12は、送信装置11に対してプレアンブルを送信し、ステップS74において、秘匿化開始情報を送信する。
【0145】
ステップS75において、受信装置12は、妨害信号を発生する妨害信号発生処理を開始する。この処理は、図7を参照して説明した処理である。
【0146】
ステップS76において、受信装置12は、図12のステップS55の処理により送信装置11から送信されてくるプレアンブルを受信する。
【0147】
ステップS77において、受信装置12は、受信信号から妨害信号を除去して、秘匿化すべき情報を取得する妨害信号除去処理を行う。この処理は、図8を参照して説明した処理である。
【0148】
ステップS78において、受信装置12は、秘匿化すべき情報の受信が終了したかを判定する。この処理では、秘匿化終了情報や秘匿化すべき情報のデータ長を表すデータ長情報等が送信装置11から送信されてこないため、所定時間の間、秘匿化すべき情報が取得されなかった場合に、秘匿化すべき情報の受信が終了したと判定する。
【0149】
ステップS78で、秘匿化すべき情報の受信が終了していないと判定された場合、処理はステップS77に戻る。
【0150】
一方、ステップS78で、秘匿化すべき情報の受信が終了したと判定された場合、処理はステップS79に進み、受信装置12は、妨害信号の発生を終了し、受信処理を終了する。
【0151】
以上のように、第2の実施の形態における通信システム1においても、受信装置12は、通信路13上に妨害信号を送信し、受信した受信信号から妨害信号を除去することにより、第三者による盗聴を防止しつつ、送信装置11から送信された秘匿すべき情報を取得することができる。
【0152】
また、受信装置12は、送信装置11から送信されてくる秘匿化要求情報を受信したときに妨害信号の発生を開始し、秘匿化終了情報を受信したときに妨害信号の発生を終了するので、妨害信号の送信を効率的に行うことが可能となり、消費電力を低減させることができる。
【0153】
さらに、送信装置11は、受信装置12からの秘匿化開始情報を受信してから、秘匿化すべき情報の送信を開始するので、受信装置12が確実に妨害信号を送信していることを確認した上で、秘匿化すべき情報を送信することができる。
【0154】
上述した第1および第2の実施の形態において、送信信号は、ベースバンド信号または搬送波を用いた信号のどちらでも適用することができるが、送信信号が搬送波を用いた信号である場合、受信装置12では、受信信号に含まれる妨害信号を減算器34で減算するまで、高周波のまま処理を行うため、送信信号の特性が不安定になることが懸念される。
【0155】
そこで、次に、送信信号が搬送波を用いた信号である場合に、できるだけ先に搬送波の帯域からベースバンドの帯域に変換し、より安定した処理を行うようにした実施の形態について説明する。
【0156】
図14は、本発明を適用した通信システムの第3の実施の形態を示している。
【0157】
図14において、図10と対応する部分については同一の符号を付してあり、その説明は省略する。
【0158】
図14では、妨害信号発生器31が生成する妨害信号が、変調器71を介して、送信アンテナ32に供給される。変調器71は、妨害信号発生器31から供給される妨害信号を、搬送波の帯域(周波数)にアップコンバージョン(変調)し、送信アンテナ32に供給する。
【0159】
また、図14では、受信装置11の受信器12bにおいて、図10の受信器12bと比較して、復調器72と減算器34が反対に配置されており、受信アンテナ33から供給された搬送波の帯域の受信信号が、復調器72においてベースバンドの帯域にダウンコンバージョン(復調)されてから減算器34に供給される。
【0160】
図15は、第3の実施の形態の図2に対応する図である。即ち、第3の実施の形態における妨害信号発生器31から送信アンテナ32および減算器34までの経路と、受信アンテナ33から減算器34までの経路の詳細な構成例を示す図である。
【0161】
図15において、図2と対応する部分については同一の符号を付してあり、その説明は適宜省略する。
【0162】
なお、図15においては、妨害信号発生器31が、より簡便な構成とすることが可能な、擬似乱数のビット系列を用いた妨害信号を発生するものに限定した擬似乱数発生器31’とされ、変調器71がアップコンバータ71とされ、復調器72がダウンコンバータ72とされている。
【0163】
アップコンバータ71は、擬似乱数発生器31’により発生された擬似乱数のビット系列を、搬送波の帯域(周波数)にアップコンバージョンし、増幅器47に供給する。
【0164】
ダウンコンバータ72は、増幅器41から供給される、搬送波の帯域の受信信号を、ベースバンドの帯域にダウンコンバージョンする。これにより、フィルタ42および遅延素子43の処理、並びに、減算器34の処理を周波数の低いベースバンドの帯域で行うことができ、特性が安定になる。
【0165】
ベースバンドの帯域に変換された受信信号は、送信装置11が送信した送信ビット系列のビット値と、受信装置12が送信したビット系列のビット値に応じて4つのレベル、または、ベースバンドの周波数特性によってはパーシャルレスポンスによってそれ以上のレベルに分離される。
【0166】
ベースバンドの帯域の受信信号が、送信信号と妨害信号の加算になっているようにするには、変調方式として、ASKやBPSKなどの比較的単純な変調方式を採用することが望ましい。
【0167】
たとえば、変調方式をASKとした場合、送信信号と妨害信号が同じ位相、周波数であれば、送信装置11の送信した送信ビット系列のビット値と受信装置12の送信したビット系列のビット値に応じた4つの振幅をもつ変調信号が生成される。このような変調信号は、包絡線検波や同期検波で容易にベースバンドに落とすことができ、その振幅レベルは4つのレベルとなる。
【0168】
また、変調方式をBPSKとした場合には、送信信号と妨害信号が同じ位相、周波数であれば、送信装置11の送信した送信ビット系列のビット値と受信装置12の送信したビット系列のビット値に応じて、2つの振幅レベル、2つの位相をもつ変調信号が生成される。このような変調信号は、同期検波を用いれば容易にベースバンドに落とすことができ、その振幅レベルは、やはり4つのレベルとなる。
【0169】
減算器34は、ベースバンドの帯域に変換された受信信号に含まれる妨害信号を除去し、除去後の信号を復号器36に供給する。
【0170】
なお、増幅器41、ダウンコンバータ72、フィルタ42、および遅延素子43の配置順は、この順に限らず、任意の順番で配置することが可能である。
【0171】
以上のように、送信信号が搬送波を用いた信号である場合に、できるだけ先に搬送波の帯域からベースバンドの帯域に変換することにより、より安定した処理を行うことが可能である。
【0172】
図2および図15に示した、妨害信号を妨害信号発生器31から送信アンテナ32に供給するまでの処理、および受信アンテナ33で受信した受信信号から妨害信号発生器31(擬似乱数発生器31’)で発生させた妨害信号を除去する処理は、アナログ信号およびデジタル信号のどちらで処理することも可能である。
【0173】
即ち、DAコンバータは妨害信号発生器31から送信アンテナ32までの任意の位置、ADコンバータは受信アンテナ33の後段から減算器34の後段までの任意の位置に設けることが可能である。
【0174】
図16は、図2に示した構成に対するDAコンバータおよびADコンバータの配置例であって、送信アンテナ32の前段にDAコンバータ81が配置され、受信アンテナ33の後段にADコンバータ82が配置されている例である。
【0175】
従って、図2を参照して上述したように、例えば、ロジック回路で構成されたデジタル信号の白色雑音が、妨害信号発生器31から出力され、増幅器44および47に供給される。
【0176】
DAコンバータ81は、デジタル信号の妨害信号を、アナログ信号に変換し、送信アンテナ32に供給する。ADコンバータ82は、受信アンテナ33から供給されるアナログ信号の受信信号をデジタル信号に変換し、増幅器41に供給する。
【0177】
図16のその他の構成については、図2と同様であるので、その説明は省略する。
【0178】
次に、図17乃至図20を参照して、妨害信号による効果を説明する。
【0179】
初めに、図17は、受信装置12が妨害信号を通信路13上に送信していない場合に受信アンテナ33で受信される、妨害信号が重畳されていない受信信号の波形(アイパターン)を示す。図17の横軸は、時間を表し、1目盛が搬送波の周期(キャリア周期)に等しい。また、図17の縦軸は、受信信号の振幅を表す。なお、図17乃至図20に示される受信信号の波形は、すべてベースバンドの帯域のものである。
【0180】
送信装置11から送信される送信信号は、0かまたは1のデータ(ビット系列)である。また、送信信号には、−0.1から0.1の間で均一に発生する乱数の値を、妨害信号ではない通常の雑音として、重畳させている。データクロックの周波数は、搬送波の周波数の4分の1であり、従って、キャリア周期の4倍で1ビットを表す。
【0181】
このような送信信号に対して伝播特性(1,2,2,1)が加味されたものが、受信信号として、図17に示されている。
【0182】
伝播特性(1,2,2,1)とは、1個のデータが4データクロック周期分にわたり(1,2,2,1)の影響を及ぼすことを表す。従って、図17に示されるように、受信信号の振幅の最大値は、4個の連続するデータが(1,1,1,1)のときの(1×1+1×2+1×2+1×1)=6となり、受信信号の振幅の最小値は、4個の連続するデータが(0,0,0,0)のときの(0×1+0×2+0×2+0×1)=0となっている。
【0183】
図18は、妨害信号発生器31によって発生させた妨害信号が重畳されたときの受信信号の波形を示している。
【0184】
図18に示される受信信号には、−0.5乃至0.5の間で均一に発生する乱数が、妨害信号として含まれている。
【0185】
アイパターンの開口部は、図18に示されるように、妨害信号の影響により縮小している。妨害信号発生器31が発生する妨害信号の大きさを大きくすると、アイパターンの開口部はさらに縮小する。
【0186】
通信路13上のデータを盗聴する悪意の第三者は、図18に示されるような信号を盗聴しても、そこから送信信号を抽出することはできない。しかしながら、受信装置12では、自分が通信路13上に送信した妨害信号がわかっているので、その分を取り除くことで、図17の受信波形を得ることができ、送信情報を取得することが可能である。
【0187】
図19は、擬似乱数のビット系列による妨害信号が重畳された受信信号の波形を示している。
【0188】
なお、図19において、擬似乱数のビット系列のクロック周波数は、搬送波の周波数と同一、即ち、送信ビット系列のデータクロックの4倍の周波数とし、擬似乱数のビット系列、搬送波、および送信ビット系列の位相は、説明を簡単にするため、一致させている。
【0189】
アイパターンの開口部は、図19においても、妨害信号の影響により縮小していることが分かる。妨害信号発生器31が発生する妨害信号の大きさを大きくすると、アイパターンの開口部はさらに縮小する。
【0190】
従って、通信路13上のデータを盗聴する悪意の第三者は、図19に示されるような信号を盗聴しても、そこから送信信号を抽出することはできないが、受信装置12では、自分が通信路13上に送信した妨害信号がわかっているので、その分を取り除くことで、図17の受信波形を得ることができ、送信情報を取得することが可能である。
【0191】
なお、図19では、擬似乱数のビット系列、搬送波、および送信ビット系列の位相が一致しているものとしたが、これらの位相が一致していない場合には、より小さい妨害信号を通信路13上に送信することで、アイパターンの開口部を縮小させることができることは言うまでもない。
【0192】
また、図19では、擬似乱数のビット系列の振幅も、送信ビット系列の振幅と同一としたが、このように、妨害信号の振幅と送信信号の振幅が同一である場合には、図2などで示した増幅器47を省略することができる。
【0193】
図20は、図19における場合と同様に、擬似乱数のビット系列による妨害信号が重畳された受信信号の波形を示している。但し、擬似乱数のビット系列のクロック周波数が、送信ビット系列のデータクロックと同じ周波数である点だけが、図19と異なる。
【0194】
図20の受信信号の波形は、図19に示した受信信号の波形と一見して異なる。即ち、図20は、妨害信号による影響で、アイパターンの形が変形して分離している。このような受信信号の波形では、雑音は少ないとも考えられるが、送信ビット系列と擬似乱数のビット系列の区別ができなくなるため、結局、悪意の第三者は、送信信号を抽出することができない。一方、受信装置12では、自分が通信路13上に送信した妨害信号がわかっているので、その分を取り除くことで、図17の受信波形を得ることができ、送信情報を取得することが可能である。
【0195】
次に、図21を参照して、誤り訂正符号化処理の有無における、誤り率(以下、bERと称する)と信号雑音比(以下、SNRと称する)との関係について説明する。
【0196】
図21において、横軸は受信信号のSNR[dB]を表し、縦軸はbERを表す。また、図21中の実線が、受信装置12において誤り訂正符号化処理が行われる場合のbERとSNRの関係を示し、点線が、誤り訂正符号化処理が行われない場合のbERとSNRの関係を示している。
【0197】
いま、十分に情報を解読できるbERが10-6であり、情報を解読できないbERが10-1であるとする。
【0198】
図21によれば、誤り訂正符号化処理が行われない場合には、SNRが11[dB]であれば、bERが10-6となるので情報を十分に解読することができ、SNRが0[dB]であれば、bERが10-1となるので情報を解読できなくなることが分かる。
【0199】
従って、受信装置12が妨害信号を重畳させることによってSNRが0[dB]となるまで受信信号を劣化させることにより、情報の秘匿化が可能となる。即ち、受信装置12では、誤り訂正符号化処理が行われない場合、受信信号のSNRが11[dB]から0[dB]となるように妨害信号の大きさを調整すればよい。
【0200】
一方、誤り訂正符号化処理が行われる場合には、SNRが6.5[dB]であれば、bERが10-6となるので情報を十分に解読することができ、SNRが0[dB]であれば、bERが10-1となるので情報を解読できなくなることが分かる。
【0201】
従って、受信装置12が妨害信号を重畳させることによってSNRが0[dB]となるまで受信信号を劣化させることにより、情報の秘匿化が可能となる。即ち、受信装置12では、誤り訂正符号化処理が行われる場合、受信信号のSNRが6.5[dB]から0[dB]となるように妨害信号の大きさを調整すればよい。
【0202】
このように、誤り訂正符号化処理の有りと無しでは、誤り訂正符号化処理を行った方が、妨害信号の増幅率を小さくすることができるので、誤り訂正符号化処理を行うことにより、余分な手間および電力を削減し、より簡単に情報を秘匿化することができる。
【0203】
なお、図21に示したデータは、妨害信号として白色雑音を用いた例であるが、白色雑音以外の場合でも図21と同様の特性を示すことは言うまでもない。
【0204】
また、bERを10-1とするレベルでは、情報の秘匿化のレベルが不十分である場合には、冗長度を増すことにより、秘匿化のレベルを高めることができる。
【0205】
上述した例では、妨害信号によって通信路13上を流れる信号を盗聴した第三者が復号することができなくなるようにすることで情報の秘匿化を実現する例、換言すれば、妨害信号が復号に対して作用する例について説明したが、妨害信号が復調を困難にしたり、PLLがロックしなくなるようにすることで情報の秘匿化を実現するものでもよい。即ち、妨害信号によって最終的に送信信号の復元を困難にするものであればよい。
【0206】
本明細書において、フローチャートに記述されたステップは、記載された順序に沿って時系列的に行われる処理はもちろん、必ずしも時系列的に処理されなくとも、並列的あるいは個別に実行される処理をも含むものである。
【0207】
なお、本明細書において、システムとは、複数の装置により構成される装置全体を表すものである。
【0208】
本発明の実施の形態は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0209】
【図1】本発明を適用した通信システムの第1の実施の形態の構成例を示すブロック図である。
【図2】第1の実施の形態の受信装置の詳細な構成例を示すブロック図である。
【図3】送信装置から送信される送信情報の例を示す図である。
【図4】送信装置から送信される送信情報のその他の例を示す図である。
【図5】送信装置による送信処理を説明するフローチャートである。
【図6】受信装置による受信処理を説明するフローチャートである。
【図7】妨害信号発生処理を説明するフローチャートである。
【図8】妨害信号除去処理を説明するフローチャートである。
【図9】第1の実施の形態の通信システムによるその他の送受信処理を説明する図である。
【図10】本発明を適用した通信システムの第2の実施の形態の構成例を示すブロック図である。
【図11】第2の実施の形態の通信システムによる送受信処理を説明する図である。
【図12】送信装置による送信処理を説明するフローチャートである。
【図13】受信装置による受信処理を説明するフローチャートである。
【図14】本発明を適用した通信システムの第3の実施の形態の構成例を示すブロック図である。
【図15】第3の実施の形態の受信装置の詳細な構成例を示すブロック図である。
【図16】DAコンバータおよびADコンバータの配置例を示すブロック図である。
【図17】妨害信号が重畳されていない受信信号の波形を示す図である。
【図18】乱数を用いた妨害信号が重畳された受信信号の波形を示す図である。
【図19】擬似乱数のビット系列による妨害信号が重畳された受信信号の波形を示す図である。
【図20】送信ビット系列のデータクロックと同じ周波数の擬似乱数ビット系列による妨害信号が重畳された受信信号の波形を示す図である。
【図21】誤り訂正符号化処理の有無における誤り率と信号雑音比との関係を示した図である。
【符号の説明】
【0210】
1 通信システム, 11 送信装置, 12 受信装置, 13 通信路, 31 妨害信号発生器, 23 送信アンテナ, 32 送信アンテナ, 33 受信アンテナ, 34 減算器, 44 増幅器, 45 フィルタ, 46 遅延素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の通信路を介して、第三者に対して秘匿化すべき情報を送信装置から受信する受信装置において、
前記秘匿化すべき情報の送信前に前記送信装置から送信されてくる秘匿化を要求する旨の情報である秘匿化要求情報が受信された場合に、妨害信号を発生する妨害信号発生手段と、
前記妨害信号発生手段により発生された前記妨害信号を前記通信路に送信する送信手段と、
前記秘匿化要求情報を受信するとともに、前記秘匿化すべき情報に前記妨害信号が重畳された受信信号を受信する受信手段と、
前記受信手段により受信された前記受信信号から、前記妨害信号を除去する除去手段と
を備える受信装置。
【請求項2】
前記妨害信号発生手段により発生される前記妨害信号は、前記受信信号から前記秘匿化すべき情報を検波して復調する動作を妨げる作用を持つ信号である
請求項1に記載の受信装置。
【請求項3】
前記妨害信号発生手段により発生される前記妨害信号は、前記受信信号から前記秘匿化すべき情報を復号する動作を妨げる作用を持つ信号である
請求項1に記載の受信装置。
【請求項4】
前記妨害信号発生手段により発生される前記妨害信号は、前記受信信号から前記妨害信号を除去しない場合の前記情報の誤り率を、前記受信信号から前記妨害信号を除去した場合の前記情報の誤り率よりも増加させる作用を持つ信号である
請求項1に記載の受信装置。
【請求項5】
前記妨害信号発生手段により発生される前記妨害信号は、雑音として作用する信号である
請求項1に記載の受信装置。
【請求項6】
前記妨害信号発生手段により発生される前記妨害信号は、前記情報を表すビット系列と異なるビット系列を、所定の変調方式で変調した信号である
請求項1に記載の受信装置。
【請求項7】
前記所定の変調方式は、前記送信装置が採用する変調方式と同一の変調方式である
請求項6に記載の受信装置。
【請求項8】
前記所定の変調方式は、前記送信装置が採用する変調方式が用いる搬送波と同一の搬送波を用いる変調方式である
請求項6に記載の受信装置。
【請求項9】
前記妨害信号の前記ビット系列のデータクロックの周波数は、前記送信装置が採用する変調方式が用いる搬送波の周波数と同一である
請求項6に記載の受信装置。
【請求項10】
前記妨害信号の前記ビット系列のデータクロックの周波数は、前記送信装置が送信する前記情報のビット系列のデータクロックの周波数と同一である
請求項6に記載の受信装置。
【請求項11】
前記除去手段は、前記受信手段により受信された前記受信信号から、前記妨害信号発生手段により発生された前記妨害信号を除去することにより、前記受信信号に含まれる前記妨害信号を除去する
請求項1に記載の受信装置。
【請求項12】
前記受信信号に含まれる前記妨害信号と、前記妨害信号発生手段により発生された前記妨害信号とを同期させる信号同期手段をさらに備える
請求項11に記載の受信装置。
【請求項13】
前記信号同期手段は、前記妨害信号発生手段と前記除去手段の間、前記妨害信号発生手段と前記送信手段の間、または、前記受信手段と前記除去手段の間のうちのいずれか1つ以上に配置される
請求項12に記載の受信装置。
【請求項14】
前記受信信号に含まれる前記妨害信号と、前記妨害信号発生手段により発生された前記妨害信号とで、信号の振幅を合わせる振幅調整手段をさらに備える
請求項11に記載の受信装置。
【請求項15】
前記振幅調整手段は、前記妨害信号発生手段と前記除去手段の間、前記妨害信号発生手段と前記送信手段の間、または、前記受信手段と前記除去手段の間のうちのいずれか1つ以上に配置される
請求項14に記載の受信装置。
【請求項16】
前記受信信号に含まれる前記妨害信号と、前記妨害信号発生手段により発生された前記妨害信号とで、信号の伝播特性を合わせる伝播特性調整手段をさらに備える
請求項11に記載の受信装置。
【請求項17】
前記伝播特性調整手段は、前記妨害信号発生手段と前記除去手段の間、前記妨害信号発生手段と前記送信手段の間、または、前記受信手段と前記除去手段の間のうちのいずれか1つ以上に配置される
請求項16に記載の受信装置。
【請求項18】
所定の通信路を介して、第三者に対して秘匿化すべき情報を送信装置から受信する受信装置の受信方法において、
前記秘匿化すべき情報の送信前に前記送信装置から送信されてくる秘匿化を要求する旨の情報である秘匿化要求情報が受信された場合に、妨害信号を発生し、
発生された前記妨害信号を前記通信路に送信し、
前記秘匿化要求情報を受信するとともに、前記秘匿化すべき情報に前記妨害信号が重畳された受信信号を受信し、
受信された前記受信信号から、前記妨害信号を除去する
ステップを含む受信方法。
【請求項19】
第三者に対して秘匿化すべき情報を送信する送信装置と、前記秘匿化すべき情報を受信する受信装置とからなる通信システムにおいて、
前記送信装置は、
所定の通信路を介して、前記秘匿化すべき情報の送信前に、秘匿化を要求する旨の情報である秘匿化要求情報を前記受信装置に送信する秘匿化要求送信手段
を備え、
前記受信装置は、
前記秘匿化要求情報が受信された場合に、妨害信号を発生する妨害信号発生手段と、
前記妨害信号発生手段により発生された前記妨害信号を前記通信路に送信する妨害信号送信手段と、
前記秘匿化要求情報を受信するとともに、前記秘匿化すべき情報に前記妨害信号が重畳された受信信号を受信する受信手段と、
前記受信手段により受信された前記受信信号から、前記妨害信号を除去する除去手段とを備える
通信システム。
【請求項20】
前記妨害信号送信手段は、前記妨害信号を送信する前に、妨害信号の送信を開始する旨の情報である秘匿化開始情報を前記送信装置にさらに送信し、
前記秘匿化要求送信手段は、前記秘匿化開始情報を前記受信装置から受信してから、前記秘匿化すべき情報を前記受信装置に送信する
請求項19に記載の通信システム。
【請求項21】
前記秘匿化要求送信手段は、前記秘匿化すべき情報のデータ長を表すデータ長情報を前記受信装置にさらに送信し、
前記受信手段は、前記データ長情報をさらに受信し、
前記妨害信号発生手段は、前記秘匿化すべき情報のデータ長だけ前記秘匿化すべき情報が受信された場合に、前記妨害信号の発生を終了する
請求項19に記載の通信システム。
【請求項22】
前記秘匿化要求送信手段は、前記秘匿化すべき情報の送信の終了を表す秘匿化終了情報を、前記受信装置にさらに送信し、
前記受信手段は、前記秘匿化終了情報をさらに受信し、
前記妨害信号発生手段は、前記秘匿化終了情報が受信された場合に、前記妨害信号の発生を終了する
請求項19に記載の通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2008−252855(P2008−252855A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−154760(P2007−154760)
【出願日】平成19年6月12日(2007.6.12)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】