説明

受容体特異性を変化させたミュータント増殖因子およびそれを含有する医薬組成物

【課題】 天然分泌型FGF18の受容体に対する反応特異性とは異なる受容体特異性を有するFGF18のミュータントタンパク質を提供すること。
【解決手段】 以下の(a)、(b)、(c)又は(d)のいずれかのタンパク質。
(a)天然分泌型繊維芽細胞増殖因子18のN末端から1個以上のアミノ酸を欠損させることにより、繊維芽細胞増殖因子受容体特異性が変化したミュータントタンパク質
(b)(a)のミュータントタンパク質のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ天然分泌型繊維芽細胞増殖因子18と比べて繊維芽細胞増殖因子受容体特異性が変化したタンパク質
(c)分泌シグナル配列及び/又はタグ配列が付加された(a)又は(b)のタンパク質
(d)機能に影響を与えない修飾がなされた(a)、(b)又は(c)のタンパク質

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維芽細胞増殖因子18 [Fibroblast Growth Factor18 (FGF18)] タンパク質のN末端のアミノ酸を適切な数だけ欠損させることにより得られる受容体特異性の変化したミュータント増殖因子タンパク質、ならびにこれを有効成分とする医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維芽細胞増殖因子(FGF)リガンドファミリーはヒト及びマウスで22種類のメンバーからなること、これらは7つのサブクラスから成るFGF受容体(FGFR)、すなわちFGFR1c,FGFR1b,FGFR2c,FGFR2b,FGFR3c,FGFR3b,FGFR4、のいずれか一つまたは複数、との固有の反応特異性を有することが知られていた。一般にFGFリガンドの生理機能が多岐に渡ることは、多種のリガンドと多種の受容体との組み合わせによって説明されうることが多いと考えられている。一方、個々のFGFリガンドが固有に有する受容体特異性を、人為的に制御する例はほとんど知られていない。
【0003】
このような背景にあって、FGF18は骨と軟骨の形成や成長を制御することが報告された(非特許文献1及び2)。また、FGF18が毛包の成長期を誘導して毛成長を促進することが報告された(非特許文献3)。しかしこれらをはじめとする多種のFGF18の生理活性が、FGF18といずれのFGF受容体の結合・反応に起因して発揮されるのかは明らかではない。天然分泌型FGF18の有する受容体特異性を操作することが出来れば、FGF18の種々の活性の中から、個々の活性を特異的に示す因子や活性を制御する因子が実現する可能性があるが、そのようなものは未だ発見されていない。天然分泌型FGF18はFGFR1c、FGFR2c、FGFR3c、FGFR4と反応すると考えられている。
【0004】
従来、受容体に対する反応特異性の異なるFGF18のミュータントタンパク質は一切知られていなかった。また、天然分泌型FGF18の作用を制御するFGF18のミュータントタンパク質は、まったく知られていなかった。しかしながら、FGF18は、毛成長の制御因子としての活性や骨や軟骨の形成・成長・修復の制御因子としての活性、その他の多面的な活性を有するので、上述のようなFGF18のミュータントタンパク質が存在すればその価値は高い。
【0005】
【非特許文献1】Ohbayashi N, Shibayama M, Kurotaki Y, Imanishi M, Fujimori T, Itoh N, Takada S. FGF18 is required for normal cell proliferation and differentiation during osteogenesis and chondrogenesis. Genes Dev. 2002, 16(7):870-9
【非特許文献2】Moore EE, Bendele AM, Thompson DL, Littau A, Waggie KS, Reardon B, Ellsworth JL. Fibroblast growth factor-18 stimulates chondrogenesis and cartilage repair in a rat model of injury-induced osteoarthritis. Osteoarthritis Cartilage. 2005, 13(7):623-31
【非特許文献3】Kawano M, Komi-Kuramochi A, Asada M, Suzuki M, Oki J, Jiang J, Imamura T. Comprehensive analysis of FGF and FGFR expression in skin: FGF18 is highly expressed in hair follicles and capable of inducing anagen from telogen stage hair follicles. J Invest Dermatol. 2005, 124(5):877-885
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
FGF18は7種類あるFGF受容体サブクラス(FGFR1c、FGFR1b、FGFR2c、FGFR2b、FGFR3c、FGFR3b、FGFR4)のうち少なくとも4つ、すなわちFGFR1c、FGFR2c、FGFR3c、FGFR4と反応すると考えられている。従って標的細胞が発現する受容体の種類や量、標的細胞の性質に応じて、FGF18の活性は異なった表現となり、骨や軟骨の形成や成長、肺の形成、毛の成長など広範な生命現象の制御に働く。従って、これら生命現象のどれかを選択的に制御しようとする場合には、望まない受容体特異性を持たず、望まれる受容体特異性だけを持つタンパク質が実現することが有用であると考えられる。
【0007】
本発明は、天然分泌型FGF18の受容体に対する反応特異性とは異なる受容体特異性を有するFGF18のミュータントタンパク質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、従来知られていた天然分泌型FGF18の受容体に対する反応特異性とは異なる受容体特異性を有するFGF18のミュータントタンパク質を創製することが出来た。一例としてFGF受容体サブクラスのうちFGFR1cには反応せずFGFR4に反応するFGF18のミュータントタンパク質を創製することができた。さらに、FGF受容体サブクラスのうちFGFR1cとFGFR4には反応せずFGFR2bには反応するFGF18のミュータントタンパク質を創製することができた。これらのタンパク質は天然分泌型FGF18が惹起する生命現象の一部のみを惹起し調節することができるので、医薬品として利用できる。本発明はこれらの知見に基づいて完成された。
【0009】
本発明の要旨は以下の通りである。
【0010】
(1)以下の(a)、(b)、(c)又は(d)のいずれかのタンパク質。
【0011】
(a)天然分泌型繊維芽細胞増殖因子18のN末端から1個以上のアミノ酸を欠損させることにより、繊維芽細胞増殖因子受容体特異性が変化したミュータントタンパク質
(b)(a)のミュータントタンパク質のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ天然分泌型繊維芽細胞増殖因子18と比べて繊維芽細胞増殖因子受容体特異性が変化したタンパク質
(c)分泌シグナル配列及び/又はタグ配列が付加された(a)又は(b)のタンパク質
(d)機能に影響を与えない修飾がなされた(a)、(b)又は(c)のタンパク質
(2)(a)のミュータントタンパク質が、配列番号2〜11又は13〜22のいずれかのアミノ酸配列からなる(1)記載のタンパク質。
【0012】
(3)(a)のミュータントタンパク質が、配列番号24〜33又は35〜44のいずれかのDNA配列にコードされる(2)記載のタンパク質。
【0013】
(4)(a)のミュータントタンパク質が、天然分泌型繊維芽細胞増殖因子18のメチオニンを除くN末端から4個以上22個以下のいずれかの数のアミノ酸を欠損させたものである(1)〜(3)のいずれかに記載のタンパク質。
【0014】
(5)(1)〜(4)のいずれかに記載のタンパク質を含有する医薬組成物。
【0015】
(6)繊維芽細胞増殖因子受容体第4遺伝子産物と反応して細胞機能を調節するための(5)記載の医薬組成物。
【0016】
(7)発毛または育毛調節のための(5)記載の医薬組成物。
【0017】
(8)骨形成調節または軟骨形成調節のための(5)記載の医薬組成物。
【0018】
(9)天然分泌型繊維芽細胞増殖因子18のN末端から1個以上のアミノ酸を欠損させることを含む、繊維芽細胞増殖因子受容体特異性が変化したミュータントタンパク質を作製する方法。
【0019】
本発明により、天然分泌型FGF18の受容体に対する反応特異性とは異なる受容体特異性を有するFGF18のミュータントタンパク質が提供された。
【0020】
本発明により、FGF18の生理活性を正又は負に制御するのに有効な医薬組成物を提供することができる。具体的には、毛の産生メカニズムの一部であるFGF18の発毛または育毛調節活性と同様の活性またはその特異的阻害活性を有し、FGF18のその他の望まれない生理活性を持たない、発毛または育毛の調節に有効な医薬組成物を提供することができる。また、FGF18の骨形成促進または軟骨形成抑制活性と同様の活性またはその特異的阻害活性を有し、FGF18のその他の望まれない生理活性を持たない、骨形成または軟骨形成の調節に有効な医薬組成物を提供することができる。
【0021】
さらに、本発明により、神経細胞死の抑制や他のFGF因子群の発現制御等に有効な医薬組成物、各種再生医療に有効な組成物などを提供することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の新規なFGF18ミュータント増殖因子タンパク質は、天然分泌型FGF18の受容体に対する反応特異性とは異なる受容体特異性を有する。これにより、FGF18の生理活性を正又は負に制御することが可能となる。
【0023】
以下、本発明を詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明のミュータント増殖因子タンパク質は、FGF18タンパク質のN末端を適切な長さだけ短縮したタンパク質である。
【0025】
FGF18タンパク質はヒトとマウスでは産生細胞の細胞質で207アミノ酸のポリペプチドとして合成されるが、それが細胞外に分泌される際にN末端のシグナルペプチドが切断される。本明細書の中では181アミノ酸より成る分泌体としての全長のアミノ末端に翻訳開始のためのメチオニンを付加した182アミノ酸より成るものを天然分泌型FGF18と称する(例えば、配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質、配列番号12のアミノ酸配列からなるタンパク質)。これに対し、本発明では、そのメチオニンを除くアミノ末端から4アミノ酸、12アミノ酸、16アミノ酸、18アミノ酸、22アミノ酸、37アミノ酸、48アミノ酸、67アミノ酸、77アミノ酸、95アミノ酸を欠損したミュータントタンパク質が、受容体特異性の変化した活性型ミュータント増殖因子タンパク質であることを実証している。尚、配列番号1の第3アミノ酸から開始するポリペプチドを天然分泌型分泌体とする説もあるが、配列番号1の第2アミノ酸が付加することによる活性上の差異はない。
【0026】
本発明のミュータント増殖因子タンパク質は、具体的には、ヒトでは実質的に配列番号2〜11記載のアミノ酸配列を有するタンパク質、マウスでは実質的に配列番号13〜22記載のアミノ酸配列を有するタンパク質であり、前者は配列番号24〜33、後者は配列番号35〜44に示されるDNA配列によりそれぞれコードされる。ここで、「実質的に」とは、その機能を発揮する限りにおいて、そのアミノ酸配列の一部に、付加、欠失、置換、修飾があってもよい。
【0027】
さらに本発明のミュータント増殖因子タンパク質は、配列番号1及び13記載のタンパク質のアミノ末端から22アミノ酸以内の欠損を実質的に有するミュータント増殖因子タンパク質を含む。
【0028】
さらに本発明のミュータント増殖因子タンパク質は、配列表に記載されたcDNAが一次的に規定するタンパク質に加えて、動物細胞等から分泌される際にそのアミノ末端に必要とされるシグナルペプチドと呼ばれる分泌の為のペプチド配列を付加した形のタンパク質を含む。また、大腸菌の菌体内でシグナルペプチドを持たない形で生産するために、翻訳開始のためのメチオニンを付加した形のタンパク質を含む。さらに、検出や精製のためのタグをN-末端またはC-末端に付加した形のタンパク質、機能に影響を与えない修飾を受けたものを含む。検出や精製のためのタグとしては、FLAG-Hisタグ、Hisタグ、FLAGタグ、c-Mycタグ、HAタグ、V5タグ、GFPタグ、これらの組み合わせなどを例示することができる。機能に影響を与えない修飾としては、N末端アミノ酸のメチル化、糖鎖の付加、リン酸化など生産系の中で自然に起こりうるもの、ポリエチレングリコール化など既に他のタンパク質に適用する技術が確立されているものを例示することができる。
【0029】
すなわち、組み換え体その他の形で本発明の医薬組成物の有効成分として含有させるミュータント増殖因子タンパク質は、これらの形で製造してもその有用性には変化がない。
【0030】
以下、本発明のミュータント増殖因子タンパク質の調製方法を具体的に述べる。
【0031】
まず、動物組織より抽出したRNAを、ランダムヘキサオリゴヌクレオチドをプライマーとして逆転写し、これをPCR反応によって増幅する。その際プライマーとしてはFGF18のオープンリーディングフレームを増幅することができるオリゴヌクレオチドを用いると、既知のFGF18タンパク質に相当する大きさのDNAフラグメントを生じる。これをゲル電気泳動によって分離後、ゲルから切り出し、クローニングベクターのマルチクローニングサイトに組み込むことで、プラスミドが得られる。
【0032】
さらに、上記で得たFGF18cDNAを含むプラスミドをテンプレートとして用い、天然分泌型FGF18及びそのN-末端を欠損したタンパク質をコードするようにデザインした各種オリゴヌクレオチドをプライマーとして用いてPCR反応を行うと、それぞれのタンパク質に相当する大きさのDNAフラグメントを生じる。これをゲル電気泳動によって分離後、ゲルから切り出し、クローニングベクターのマルチクローニングサイトに組み込むことで、プラスミドが得られる。上記のオリゴヌクレオチドのデザインにおいて、N-末端の欠損アミノ酸数は自由に決めることが出来る。また、オリゴヌクレオチドの配列中にアミノ酸の置換、付加、欠失をコードする配列を含めておける。これらのデザインにより、ミュータントタンパク質のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列をコードするDNAフラグメントを得ることが出来る。これをゲル電気泳動によって分離後、ゲルから切り出し、クローニングベクターのマルチクローニングサイトに組み込むことで、プラスミドが得られる。
【0033】
DNAを組み込むプラスミドとしては、宿主内で複製保持されるものであれば、いずれも使用することができるが、例えば大腸菌由来のpBR322、pUC18 、及びこれらを基に構築されたpET-3cなどを挙げることができる。
【0034】
プラスミドに組み込む方法としては、例えばT.Maniatisら、Molecular Cloning, Cold Spring Harbor Laboratory, p. 239 (1982) に記載の方法などが挙げられる。
【0035】
クローン化された遺伝子は、発現に適したベクター中のプロモーターの下流に連結して発現型ベクターを得ることができる。ベクターとしては、上記の大腸菌由来のプラスミド(pBR322 、pBR325、pUC12 、pUC13 、pET-3)、枯草菌由来のプラスミド(pUB110 、pTP5、pC194)、酵母由来のプラスミド(pSH19、pSH15)由来のプラスミド、あるいはλファージなどのバクテリオファージやこの誘導体およびレトロウイルス、ワクシニアウイルスなどの動物ウイルス、あるいは昆虫ウイルスなどが挙げられる。
【0036】
該遺伝子はその5'末端に翻訳開始コドンとしてのATG を有し、また3'末端には翻訳終始コドンとしてのTAA 、TGA またはTAG を有してもよい。あるいは3'末端には翻訳終始コドンを有さずにタグ配列をコードするDNA配列を結合しても良い。さらに該遺伝子を発現させるにはその上流にプロモーターを接続する。本発明で用いられるプロモーターとしては、遺伝子の発現に用いる宿主に対応して適切なプロモーターであればいかなるものでもよい。
【0037】
また、形質転換する宿主が大腸菌である場合には、trp プロモーター、lac プロモーター、rec A プロモーター、λPLプロモーター、lpp プロモーター、T7プロモーターなどが、宿主が枯草菌である場合には、SP01プロモーター、SP02プロモーター、penPプロモーターなど、宿主が酵母である場合には、PHO5プロモーター、PGK プロモーター、GAP プロモーター、ADH プロモーターなどが好ましい。また、宿主が動物細胞である場合には、SV40由来のプロモーター、レトロウイルスのプロモーターが挙げられる。
【0038】
タグ配列は既知の配列情報からヌクレオチドを合成して得ることが出来る。
【0039】
このようにして構築されたミュータント増殖因子タンパク質をコードする塩基配列を有する組み換えDNAを含むベクターを用いて、該ベクターを保持する形質転換体を製造する。
【0040】
宿主としては、大腸菌 [例えばBL21, BL21(DE3), BL21(DE3)pLysS, BL21(DE3)pLysE]、枯草菌 (例えばBacillus subtilis DB105)、酵母 (例えばPichia pastoris, Saccharomyces cerevisiae)、動物細胞(例えばCOS cell, CHO cell, BHK cell, NIH3T3 cell, BALB/c3T3 cell, HUVE cell, LEII cell)、昆虫細胞などが挙げられる。
【0041】
上記の形質転換は、それぞれの宿主について一般的に行われている方法で行う。または一般的でなくとも適用可能な方法ならばよい。例としては、宿主が大腸菌ならばカルシウム法その他の方法により作成したコンピータント細胞に組み換えDNAを含むベクターを温度ショック法あるいはエレクトロポレーション法により導入する。宿主が酵母であればリチウム法その他の方法により作成したコンピータント細胞に組み換えDNAを含むベクターを温度ショック法あるいはエレクトロポレーション法により導入する。宿主が動物細胞であれば、増殖期等の細胞に組み換えDNAを含むベクターをリン酸カルシウム法、リポフェクション法あるいはエレクトロポレーション法により導入する。
【0042】
このようにして得られた形質転換体を培地に培養することにより、ミュータント増殖因子タンパク質を産生させる。
【0043】
形質転換体を培養する場合、培養に使用される培地としては、それぞれの宿主について一般的に用いられているものを用いる。または一般的でなくとも適用可能な培地ならば良い。例としては、宿主が大腸菌ならばLB培地などを用いる。宿主が酵母であればYPD培地などを用いる。宿主が動物細胞であれば、Dulbecco's MEMに動物血清を加えたものなどを用いる。培養は、それぞれの宿主について一般的に用いられている条件で行う。また一般的でなくとも適用可能な条件ならばよい。例としては、宿主が大腸菌ならば約30〜37℃で、約3 〜24時間行い、必要により通気や攪拌を加えることができる。宿主が酵母であれば約25〜37℃で、約12時間〜2 週間行い、必要により通気や攪拌を加えることができる。宿主が動物細胞であれば約32〜37℃で、5% CO2、100%湿度の条件で約24時間〜2 週間行い、必要により気相の条件を変えたり攪拌を加えることができる。
【0044】
上記培養物からミュータント増殖因子タンパク質を培養菌体あるいは細胞から抽出するに際しては、培養後、ホモジェナイザー、フレンチプレス、超音波、リゾチームおよび/または凍結融解によって菌体あるいは細胞を破壊することにより菌体外に目的のタンパク質を溶出させ、可溶性の画分から該タンパク質を得る。また目的のタンパク質が不溶性画分に含まれる場合は菌体あるいは細胞を破壊後、遠心分離により不溶性画分を回収し、塩酸グアニジンなどを含む緩衝液などによって可溶性にして回収する方法も用いうる。このほか塩酸グアニジンなどのタンパク質変性剤を含む緩衝液によって直接菌体あるいは細胞を破壊し、菌体外に目的のタンパク質を溶出させる方法もある。
【0045】
上記上澄み液からミュータント増殖因子タンパク質を精製するには、公知の分離・精製法を適切に組み合わせて行うことができる。これらの公知の分離、精製法としては、塩析、溶媒沈殿、透析、限外濾過、ゲル濾過、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相高速液体クロマトグラフィー、等電点電気泳動などが使用されうる。さらに、多くのミュータント増殖因子タンパク質については、ヘパリンセファロースを担体としたアフィニティークロマトグラフィー法が適用できる。また、タグを付加して精製する際には、タグについて公知の分離・精製法を適切に組み合わせて行うことができる。
【0046】
このようにして得られた標品はミュータント増殖因子タンパク質の活性が損なわれない限りにおいて透析、凍結乾燥を行い、乾燥粉末とすることもできる。さらに、担体として血清アルブミンなどを添加して保存することは、標品の容器への吸着を防ぐのに有効である。
【0047】
また、精製過程、あるいは保存過程での微量の還元剤の共存は、該標品の酸化を防ぐのに好適である。還元剤としては、β-メルカプトエタノール、ジチオスレイトール、グルタチオンなどが挙げられる。
【0048】
本発明のミュータント増殖因子タンパク質には、FGF受容体のうちFGFR4を活性化する作用を有するものがある。
【0049】
本発明のミュータント増殖因子タンパク質には、FGF受容体のうちFGFR2bを活性化する作用を有するものがある。
【0050】
また、本発明のミュータント増殖因子タンパク質には、FGF受容体のうちFGFR2bを弱く活性化する作用を有するものがある。
【0051】
また、本発明のミュータント増殖因子タンパク質は、FGF18の生理的機能の少なくとも一部を発揮したり、調節する作用を有する。
【0052】
FGF18の生理的機能とは、具体的には、毛の産生メカニズムを調節する作用、具体的には頭髪などの発毛を促進または抑制する作用、毛の成長を促進または抑制する作用を挙げることができる。
【0053】
また、FGF18の生理的機能とは、骨や軟骨の形成と成長メカニズムを調節する作用、具体的には骨形成や軟骨の形成を促進または抑制する作用を挙げることができる。
【0054】
また、本発明のミュータント増殖因子タンパク質は、その他のFGF18の生理的機能を調節する作用を有しうる。
【0055】
その他のFGF18の生理的機能としては、肺の形成を調整すること、繊維芽細胞、血管内皮細胞、筋芽細胞、神経細胞、グリア細胞、の増殖や分化を促進または抑制すること、また、これらの細胞の機能を調節したり細胞死を抑制することを挙げられる。
【0056】
本発明のミュータント増殖因子タンパク質は、繊維芽細胞増殖因子受容体第4遺伝子産物と反応して細胞機能を調節しうる。繊維芽細胞増殖因子受容体第4遺伝子産物としては、成熟mRNAが生成する際の種々のスプライシングや翻訳後の糖鎖など各種修飾があっても構わない。
【0057】
上記のようにして得られたミュータント増殖因子タンパク質は、医薬的に許容できる溶剤、賦形剤、担体、補助剤などを使用し、製剤製造の常法に従って液剤、ローション剤、エアゾール剤、注射剤、散剤、顆粒剤、錠剤、坐剤、腸溶剤およびカプセル剤などの医薬組成物とする。
【0058】
医薬組成物中、有効成分であるミュータント増殖因子タンパク質の含有量は、0.0000000001〜1.0重量%程度とすればよい。
【0059】
該医薬組成物は、発毛剤、育毛剤、骨形成促進剤、軟骨形成抑制剤、脳神経系栄養剤・機能制御剤、学習効果調節剤、その他として例えばヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ等の哺乳動物に対して非経口的にまたは経口的に安全に投与することができる。本医薬組成物の投与量は、剤形、投与ルート、症状等により適宜変更しうるが、例えばヒトを含む哺乳動物に投与する場合、当該ミュータント増殖因子タンパク質を0.0001〜1000mgを患部に1 日に数回適用することが例示される。
【実施例】
【0060】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0061】
(1)プラスミドの構築
マウスミュータントFGF18タンパク質をコードするcDNAを含むプラスミドの構築
マウスミュータントFGF18タンパク質をコードするcDNAは次のようにして取得できる。
【0062】
材料としては、C3H/HeNマウス(Japan SLC, Hamamatsu, Japan)7週齢オス個体より皮膚を摘出し、これよりRNAを抽出した。このマウスRNA 1 microgram に 120 ng random hexanucleotide DNA(GIBCO BRL, Tokyo, Japan)を加え、200 unit M-HLV逆転写酵素(GIBCO BRL, Tokyo, Japan)によりcDNA混合物を得る。
【0063】
上記cDNA混合物からマウスFGF18全長をコードするcDNAをPCR反応により増幅する。PCR反応に用いたプライマーの配列は以下の通りである。
【0064】
Sense primer 5’-ATGTATTCAGCGCCCTCCGCCTGCACTTGCCTGT-3’ (配列番号51);
Anti-sense primer 5’-CTAGCCGGGGTGAGTGGGGCGGATCCGCCGGGAT-3’ (配列番号52)
FLAGタグ配列3連とHisタグ配列を連続的に一体化したタグ(以後FLAG-Hisタグと称する)をコードするcDNAを作製するために、#468(5’-CAG CCG CTC GAG A-3’ (配列番号53))と#469 (5’-TGC GGG CCC TCA A-3’ (配列番号54))をプライマーとし、鋳型としての#466 (5’-CCG CTC GAG ACT ACA AAG ACC ATG ACG GTG ATT ATA AAG ATC ATG ACA TCG ACT ACA AG-3’ (配列番号55)) と #467 (5’-TGC GGG CCC TCA ATG GTG ATG GTG ATG ATG ACC CTT GTC ATC GTC ATC CTT GTA GTC GA-3’ (配列番号56))のメガプライマーの存在下で、PCRを行った。反応産物をXho IとApa Iで消化し、予め消化したpcDNA3.1(+)(インビトロージェン株式会社)にクローニングし、その結果、プラスミドFLAG-His/pcDNA3.1(+)を得た。FGF18 ORFの5’末端と相同配列を持つプライマーにEcoRV認識配列及び3’末端と相同配列を持つプライマーにSalI認識配列を担持させ、FGF18 ORFを鋳型として用い、PCRで増幅し、EcoRV及びSalIで消化し、予めEcoRVとXhoIで消化したFLAG-His/pcDNA3.1(+)に挿入して、FLAG-Hisタグ付きFGF18タンパク質をコードするcDNAを作製した。生成したcDNAのヌクレオチド配列を確認したところ、配列番号34に示す配列のはじめのATGを除く配列を完全に含む配列であった。
【0065】
次に上記マウスFGF18全長cDNAをテンプレートとして、配列番号34に示す天然分泌型FGF18及び配列番号35〜44に示す各種ミュータントFGF18のcDNAをPCR反応で作製し、それぞれをベクターにクローニングして配列を確認した。PCR反応に用いたプライマーの配列は以下の通りである。
【0066】
Sense primers
#full-length(38bp) 5’-GTGAATGCCATATGgccgaggagaatgtggacttccgc-3’(配列番号57)
#226(38bp) 5’-GTGAATGCCATATGGTGGACTTCCGCATCCACGTGGAG-3’ (配列番号58);
#249(38bp) 5’-GTGAATGCCATATGAACCAGACGCGGGCTCGAGATGAT-3’ (配列番号59);
#262(38bp) 5’-GTGAATGCCATATGGCTCGAGATGATGTGAGTCGGAAG-3’ (配列番号60);
#268(38bp) 5’-GTGAATGCCATATGGATGATGTGAGTCGGAAGCAGCTG-3’ (配列番号61);
#280(38bp) 5’-GTGAATGCCATATGCGGAAGCAGCTGCGCTTGTACCAG-3’ (配列番号62);
#325(38bp) 5’-GTGAATGCCATATGAAGCACATTCAAGTCCTGGGCCGT-3’ (配列番号63);
#358(38bp) 5’-GTGAATGCCATATGGCCCGTGGCGAGGACGGGGACAAG-3’ (配列番号64);
#415(38bp) 5’-GTGAATGCCATATGGGGAGTCAAGTCCGGATCAAGGGC-3’ (配列番号65);
#445(38bp) 5’-GTGAATGCCATATGACAGAATTCTACCTGTGTATGAAC-3’ (配列番号66);
#498(38bp) 5’-GTGAATGCCATATGGGTACTAGCAAGGAGTGCGTGTTC-3’ (配列番号67)
Anti-sense primer
#537 (34bp) 5’-GAAGATCTCTTCAATGGTGATGGTGATGATGACC-3’ (配列番号68)
なお、配列番号34〜44のcDNA配列は翻訳終止コドンtagを付加した表記になっている。実際に作製したコンストラクトでは、FGF18配列の後(C末)にタグの配列が続くので、このtagはない。
【0067】
ヒトミュータントFGF18タンパク質コードするcDNAの取得
ヒトミュータントFGF18タンパク質をコードするcDNAは基本的にマウスミュータントFGF18タンパク質と同様にして容易に取得することが出来る。
【0068】
材料としては、ヒトRNA、例えば、Clonetech社Catalog number 64020-1 Human Brain Whole RNAを用いる。このヒトRNA 1 microgram に 120 ng random hexanucleotide DNAを加え、200 unit M-HLV逆転写酵素によりcDNA混合物を得る。
【0069】
上記cDNA混合物からヒトFGF18全長をコードするcDNAをPCR反応により増幅する。生成したcDNAをpBlueScriptベクターにクローニングし、そのヌクレオチド配列を確認したところ、配列番号23に示す配列のはじめのATGを除く配列を完全に含む配列であった。PCR反応に用いたプライマーの配列は以下の通りである。
【0070】
Sense primer 5’-atgtattcagcgccctccgcctgcacttgcctgt-3’ (配列番号69)
Antisense primer 5’-ctaggcagggtgtgtgggccggatccgacgggac-3’ (配列番号70)
次に上記ヒトFGF18全長cDNAをテンプレートとして、配列番号23に示す天然分泌型FGF18及び配列番号24〜33に示す各種ミュータントFGF18タンパク質のcDNAをPCR反応で作製し、それぞれをベクターにクローニングして配列を確認した。この際、PCR反応に用いたプライマーの配列は#325(38bp)を除いてマウスのときと同じである。ヒトでは、#325(38bp)の代わりに(38bp) 5’-GTGAATGCCATATGAAACACATCCAGGTCCTGGGCCGC-3’ (配列番号71)を用いる。
【0071】
なお、配列番号23〜33のcDNA配列は翻訳終止コドンtagを付加した表記になっている。実際に作製したコンストラクトでは、FGF18配列の後(C末)にタグの配列が続くので、このtagはない。
【0072】
(2)ミュータントFGF18タンパク質の発現と同定
マウスミュータントFGF18タンパク質cDNAの3’端にFLAG-HisタグをコードするcDNA(上述)を付加し、pET-3cベクター(タカラバイオ)のT7プロモーターの下流に組み込んだプラスミドを作製した。これを用いてBL21(DE3)pLysS大腸菌(タカラバイオ)を常法により形質転換し、得られた大腸菌で常法によりタンパク質を生産した。大腸菌を破壊し、水溶性画分を得た後、ニッケルカラムクロマトグラフィーを用いて、Hisタグ付きタンパク質精製の常法に従って、ミュータントFGF18タンパク質を精製した。精製タンパク質をSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって分離し、ニトロセルロース膜に移した。この膜を抗Hisタグウサギ抗体とインキュベートし、抗体結合分子をHRP標識抗ウサギ抗体と化学発光方法によって検出した。その結果を図2に示す。レーン1に全長マウスFGF18タンパク質(配列番号12に配列番号45を付加したもの)、レーン2〜レーン11にマウスミュータント増殖因子タンパク質(配列番号13〜22に配列番号45を付加したもの)の結果を示す。横に示す線は、分子量マーカーの移動度で、上から、37KDa, 25KDa, 20KDa, 15KDaを示す。それぞれのタンパク質が確かに予想される分子量を有することを確認するとともに、蛋白質を取得した。
【0073】
全長マウスFGF18タンパク質(配列番号12)、マウスミュータントFGF18タンパク質(配列番号13〜22)をタグ付きで発現させたタンパク質の構造を図1に模式的に示す。
【0074】
(3)ミュータントFGF18タンパク質のヘパリンアフィニティー
全長マウスFGF18タンパク質(配列番号12)、マウスミュータントFGF18タンパク質(配列番号13〜22)をタグ付きで発現し、ヘパリンセファロースビーズと吸着させ、ビーズをカラムに詰めたのち、リン酸緩衝生理食塩液で洗浄した。その後カラムを順次NaCl濃度を高めたリン酸緩衝液で洗浄し、洗浄液を回収してドットブロットを行った。結果を図3に示す。図の左から右へ向かって、順次NaCl濃度が高まっていることを示す。溶出液の中に含まれているミュータントタンパク質をタグに対する抗体で検出したものが黒いドットシグナルとして現れている。
【0075】
図3から、全長マウスFGF18タンパク質は0.9M NaCl付近のヘパリンアフィニティーを持つことがわかる。また、Δ4〜Δ16は0.9M NaCl〜2.0M NaCl付近のヘパリンアフィニティーを持つことがわかる。Δ18〜Δ95まで、0.9M NaCl〜1.1M NaCl付近のヘパリンアフィニティーを持つことがわかる。
【0076】
(4)ミュータントFGF18タンパク質のFGFR4発現細胞に対する増殖促進活性
FGFRとしてはFGFR4のみを発現する細胞 R4/BaF3細胞(BaF3細胞は理研BRCより入手。R4/BaF3細胞は自製(FGFR4細胞外ドメイン/FGFR1細胞内ドメインキメラ分子をコードするプラスミド(Ornitz DM, Xu J, Colvin JS, McEwen DG, MacArthur CA, Coulier F, gao D, Goldfarb M (1996) J Biol Chem 271, 15292-15297.)を用いて、Yoneda A, Asada M, Oda Y, Suzuki M, Imamura T. (2000) Nature Biotechnology 18, 641-644.に記載の方法と同様にして作製した。)。)をミュータントFGF18タンパク質と共に培養し、一定時間後の3H-チミジン取り込みによって細胞のDNA合成(増殖)を測定した結果を図4示す。
【0077】
全長マウスFGF18タンパク質と同様にΔ4〜Δ22ミュータントFGF18タンパク質もR4/BaF3細胞に対する増殖促進活性を持つことがわかる。また、Δ37〜Δ95はほとんど又は全く増殖促進活性を持たないことがわかる。
【0078】
(5)ミュータントFGF18タンパク質のFGFR1c発現細胞に対する増殖促進活性
FGFRとしてはFGFR1cのみを発現する細胞 R1c/BaF3細胞(BaF3細胞は理研BRCより入手。R1c/BaF3細胞は自製(Yoneda A, Asada M, Oda Y, Suzuki M, Imamura T. (2000) Nature Biotechnology 18, 641-644.に記載の方法と同様にして作製した。)をミュータントFGF18タンパク質と共に培養し、一定時間後の3H-チミジン取り込みによって細胞のDNA合成(増殖)を測定した結果を図5に示す。
【0079】
全長マウスFGF18タンパク質と同様にΔ4ミュータントFGF18タンパク質もR1c/BaF3細胞に対する増殖促進活性を持つことがわかる。しかし、Δ12〜Δ95のミュータントFGF18タンパク質はほとんど又は全く増殖促進活性を持たないことがわかる。図4の結果と合わせることにより、Δ12〜Δ22のミュータントFGF18タンパク質はFGFR4とは反応し、FGFR1cとは反応しないことがわかる。
【0080】
(6)ミュータントFGF18タンパク質のFGFR2b発現細胞に対する増殖促進活性
FGFRとしてはFGFR2bのみを発現する細胞 R2b/BaF3細胞(BaF3細胞は理研BRCより入手。R2b/BaF3細胞は自製(FGFR2b分子をコードするプラスミド(Ornitz DM, Xu J, Colvin JS, McEwen DG, MacArthur CA, Coulier F, gao D, Goldfarb M (1996) J Biol Chem 271, 15292-15297.)を用いて、R1c/BaF3細胞の作製方法と同様にして作製した。)をミュータントFGF18タンパク質と共に培養し、一定時間後の3H-チミジン取り込みによって細胞のDNA合成(増殖)を測定した結果を図6に示す。
【0081】
全長マウスFGF18タンパク質はこれまでFGFR2bに対して反応することが報告されていなかったが、この実験結果から、R2b/BaF3細胞に対する弱い増殖促進活性を持つことがわかる。それと同様にΔ4〜Δ95のミュータントFGF18タンパク質もR2b/BaF3細胞に対する弱い増殖促進活性を持つことがわかる。
【0082】
(7)内在性FGF受容体を有するNIH3T3細胞に対するミュータントFGF18タンパク質の増殖促進活性
NIH3T3細胞は本来FGF受容体を有するため、その細胞に対してミュータントFGF18タンパク質が増殖促進活性を有するか否かを調べた。NIH3T3細胞(ATCCより入手)を血清飢餓処理したのち、ミュータントFGF18タンパク質とともに培養し、一定時間後の3H-チミジン取り込みによって細胞のDNA合成(増殖)を測定した結果を図7に示す。
【0083】
全長マウスFGF18タンパク質とΔ4ミュータントFGF18タンパク質はNIH3T3細胞に対する増殖促進活性を持つことがわかる。また、Δ12〜Δ37はごく弱い増殖促進活性を持つことがわかる。また、Δ48〜Δ96は増殖促進活性を持たないことがわかる。
【0084】
このことから、FGFR4とは反応し、FGFR1cとは反応しないΔ12〜Δ22のミュータントFGF18タンパク質を用いれば、NIH細胞に対する作用を惹起せずにFGFR4により伝達される細胞反応を惹起できることがわかる。
【0085】
上記の実験においては、タグ付きのミュータントFGF18タンパク質の活性を測定したが、タグはFGF18の受容体結合ドメインと考えられる領域から離れたC末端の後に付加されているため、タグの有無により受容体との結合には影響がないと考えられる。さらに、FGF18のヘパリン結合ドメインも受容体結合ドメインの近傍にあるが、本実験で用いたタグ付きのミュータントFGF18タンパク質はヘパリンとの結合アフィニティーを高いレベルで維持しており、このことからも、タグの有無により活性は変化しないものと考えられる。
【0086】
また、上記の実験データはマウスミュータントFGF18タンパク質のものであるが、ヒトとマウスのFGF18全長(配列番号1と12)では、アミノ酸が異なるのはたった一カ所で、それ以外は完全に同一であり、しかも異なる1アミノ酸はC末から25アミノ酸程度の位置であり、上記の実験で作製した一連のミュータントFGF18タンパク質で欠損をさせた部位とは無関係であることから、本発明のミュータントFGF18タンパク質については、ヒトとマウスでほぼ同じ結果が出ると考えられる。
【0087】
(8)ミュータントFGF18タンパク質の発毛養毛活性
体毛が毛成長周期上で休止期(テロジェン)にある、生後7週令のC3H/HeNマウス(オス)を複数用いる。それらのマウス背部の毛を短く刈り、皮下にミュータントFGF18タンパク質を1匹当たり1マイクログラムを生理食塩水溶液として注射する。3週間後から5週間後にかけて、背部皮膚を観察し、毛包の成長周期進行を評価する。皮膚が黒ずんできたら毛成長周期上で成長期が開始したことがわかる。さらに外観上毛が生えてきたら、成長期がさらに進行していることがわかる。
【0088】
(9)ミュータントFGF18タンパク質の骨形成活性
マウス長管骨骨幹端部の骨欠損モデルとして、動物実験として生後10週令のICRマウス(オス)を複数用いる。それらのマウスを麻酔下、頸骨近位に歯科用ドリルで直径1mmの円型の骨孔を穿つ。骨孔よりドリルを骨髄内に進め、海綿骨を掘削し、対側の皮質骨の手前まで骨欠損を作製する。欠損部分にFGF18を含浸させたハイドロゲルを充填する。対照として生理食塩水を用いる。閉創し、回復時は特に制限無く飼育する。自然経過をマクロ、放射線学的、組織学的に評価する。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明のミュータント増殖因子タンパク質は、天然分泌型FGF18の受容体に対する反応特異性と異なる受容体特異性を有する。本発明のミュータント増殖因子タンパク質により、天然分泌型FGF18が惹起する生命現象を調節することができる。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本実施例中で解析したミュータントFGF18タンパク質の構造を模式的に示す。
【図2】大腸菌発現系で発現させ精製したミュータントFGF18タンパク質をウエスタンブロッティングで検出したものを示す。
【図3】ミュータントFGF18タンパク質のヘパリンアフィニティーを示す。
【図4】ミュータントFGF18タンパク質のFGFR4発現細胞に対する増殖促進活性を示す。
【図5】ミュータントFGF18タンパク質のFGFR1c発現細胞に対する増殖促進活性を示す。
【図6】ミュータントFGF18タンパク質のFGFR2b発現細胞に対する増殖促進活性を示す。
【図7】内在性FGF受容体を有するNIH3T3細胞に対するミュータントFGF18タンパク質の増殖促進活性を示す。
【配列表フリーテキスト】
【0091】
<配列番号1>
配列番号1は、ヒトFGF18全長(−シグナルペプチド)のアミノ酸配列を示す。
<配列番号2>
配列番号2は、ヒトΔ4-FGF18のアミノ酸配列を示す。
<配列番号3>
配列番号3は、ヒトΔ12-FGF18のアミノ酸配列を示す。
<配列番号4>
配列番号4は、ヒトΔ16-FGF18のアミノ酸配列を示す。
<配列番号5>
配列番号5は、ヒトΔ18-FGF18のアミノ酸配列を示す。
<配列番号6>
配列番号6は、ヒトΔ22-FGF18のアミノ酸配列を示す。
<配列番号7>
配列番号7は、ヒトΔ37-FGF18のアミノ酸配列を示す。
<配列番号8>
配列番号8は、ヒトΔ48-FGF18のアミノ酸配列を示す。
<配列番号9>
配列番号9は、ヒトΔ67-FGF18のアミノ酸配列を示す。
<配列番号10>
配列番号10は、ヒトΔ77-FGF18のアミノ酸配列を示す。
<配列番号11>
配列番号11は、ヒトΔ95-FGF18のアミノ酸配列を示す。
<配列番号12>
配列番号12は、マウスFGF18全長(−シグナルペプチド)のアミノ酸配列を示す。
<配列番号13>
配列番号13は、マウスΔ4-FGF18のアミノ酸配列を示す。
<配列番号14>
配列番号14は、マウスΔ12-FGF18のアミノ酸配列を示す。
<配列番号15>
配列番号15は、マウスΔ16-FGF18のアミノ酸配列を示す。
<配列番号16>
配列番号16は、マウスΔ18-FGF18のアミノ酸配列を示す。
<配列番号17>
配列番号17は、マウスΔ22-FGF18のアミノ酸配列を示す。
<配列番号18>
配列番号18は、マウスΔ37-FGF18のアミノ酸配列を示す。
<配列番号19>
配列番号19は、マウスΔ48-FGF18のアミノ酸配列を示す。
<配列番号20>
配列番号20は、マウスΔ67-FGF18のアミノ酸配列を示す。
<配列番号21>
配列番号21は、マウスΔ77-FGF18のアミノ酸配列を示す。
<配列番号22>
配列番号22は、マウスΔ95-FGF18のアミノ酸配列を示す。
<配列番号23>
配列番号23は、ヒトFGF18全長(−シグナルペプチド)をコードするDNA配列を示す。
<配列番号24>
配列番号24は、ヒトΔ4-FGF18をコードするDNA配列を示す。
<配列番号25>
配列番号25は、ヒトΔ12-FGF18をコードするDNA配列を示す。
<配列番号26>
配列番号26は、ヒトΔ16-FGF18をコードするDNA配列を示す。
<配列番号27>
配列番号27は、ヒトΔ18-FGF18をコードするDNA配列を示す。
<配列番号28>
配列番号28は、ヒトΔ22-FGF18をコードするDNA配列を示す。
<配列番号29>
配列番号29は、ヒトΔ37-FGF18をコードするDNA配列を示す。
<配列番号30>
配列番号30は、ヒトΔ48-FGF18をコードするDNA配列を示す。
<配列番号31>
配列番号31は、ヒトΔ67-FGF18をコードするDNA配列を示す。
<配列番号32>
配列番号32は、ヒトΔ77-FGF18をコードするDNA配列を示す。
<配列番号33>
配列番号33は、ヒトΔ95-FGF18をコードするDNA配列を示す。
<配列番号34>
配列番号34は、マウスFGF18全長(−シグナルペプチド)をコードするDNA配列を示す。
<配列番号35>
配列番号35は、マウスΔ4-FGF18をコードするDNA配列を示す。
<配列番号36>
配列番号36は、マウスΔ12-FGF18をコードするDNA配列を示す。
<配列番号37>
配列番号37は、マウスΔ16-FGF18をコードするDNA配列を示す。
<配列番号38>
配列番号38は、マウスΔ18-FGF18をコードするDNA配列を示す。
<配列番号39>
配列番号39は、マウスΔ22-FGF18をコードするDNA配列を示す。
<配列番号40>
配列番号40は、マウスΔ37-FGF18をコードするDNA配列を示す。
<配列番号41>
配列番号41は、マウスΔ48-FGF18をコードするDNA配列を示す。
<配列番号42>
配列番号42は、マウスΔ67-FGF18をコードするDNA配列を示す。
<配列番号43>
配列番号43は、マウスΔ77-FGF18をコードするDNA配列を示す。
<配列番号44>
配列番号44は、マウスΔ95-FGF18をコードするDNA配列を示す。
<配列番号45>
配列番号45は、FLAG-Hisタグのアミノ酸配列を示す。
<配列番号46>
配列番号46は、FLAG-HisタグのDNA配列を示す。
<配列番号47>
配列番号47は、ヒトFGF18のシグナルペプチドのアミノ酸配列を示す。
<配列番号48>
配列番号48は、ヒトFGF18のシグナルペプチドのDNA配列を示す。
<配列番号49>
配列番号49は、マウスFGF18のシグナルペプチドのアミノ酸配列を示す。
<配列番号50>
配列番号50は、マウスFGF18のシグナルペプチドのDNA配列を示す。
<配列番号51>
配列番号51は、マウスFGF18全長(シグナル配列も含む全長)をコードするcDNAを増幅するためのプライマー(センスプライマー)のDNA配列を示す。
<配列番号52>
配列番号52は、マウスFGF18全長(シグナル配列も含む全長)をコードするcDNAを増幅するためのプライマー(アンチセンスプライマー)のDNA配列を示す。
<配列番号53>
配列番号53は、プライマー#468のDNA配列を示す。
<配列番号54>
配列番号54は、プライマー#469のDNA配列を示す。
<配列番号55>
配列番号55は、プライマー#466のDNA配列を示す。
<配列番号56>
配列番号56は、プライマー#467のDNA配列を示す。
<配列番号57>
配列番号57は、マウスFGF18全長(シグナル配列を含まない)をコードするcDNAを増幅するためのプライマー(センスプライマー)のDNA配列を示す。
<配列番号58>
配列番号58は、プライマー#226のDNA配列を示す。
<配列番号59>
配列番号59は、プライマー#249のDNA配列を示す。
<配列番号60>
配列番号60は、プライマー#262のDNA配列を示す。
<配列番号61>
配列番号61は、プライマー#268のDNA配列を示す。
<配列番号62>
配列番号62は、プライマー#280のDNA配列を示す。
<配列番号63>
配列番号63は、プライマー#325のDNA配列を示す。
<配列番号64>
配列番号64は、プライマー#358のDNA配列を示す。
<配列番号65>
配列番号65は、プライマー#415のDNA配列を示す。
<配列番号66>
配列番号66は、プライマー#445のDNA配列を示す。
<配列番号67>
配列番号67は、プライマー#498のDNA配列を示す。
<配列番号68>
配列番号68は、マウスFGF18全長(シグナル配列を含まない)をコードするcDNAを増幅するためのプライマー#537(アンチセンスプライマー)のDNA配列を示す。
<配列番号69>
配列番号69は、ヒトFGF18全長(シグナル配列も含む全長)をコードするcDNAを増幅するためのプライマー(センスプライマー)のDNA配列を示す。
<配列番号70>
配列番号70は、ヒトFGF18全長(シグナル配列も含む全長)をコードするcDNAを増幅するためのプライマー(アンチセンスプライマー)のDNA配列を示す。
<配列番号71>
配列番号71は、ヒトミュータントFGF18のC末端にFLAG-Hisタグが付いたタンパク質をコードするcDNAを増幅するためのプライマー(プライマー#325の代わりに使える)のDNA配列を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)、(b)、(c)又は(d)のいずれかのタンパク質。
(a)天然分泌型繊維芽細胞増殖因子18のN末端から1個以上のアミノ酸を欠損させることにより、繊維芽細胞増殖因子受容体特異性が変化したミュータントタンパク質
(b)(a)のミュータントタンパク質のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ天然分泌型繊維芽細胞増殖因子18と比べて繊維芽細胞増殖因子受容体特異性が変化したタンパク質
(c)分泌シグナル配列及び/又はタグ配列が付加された(a)又は(b)のタンパク質
(d)機能に影響を与えない修飾がなされた(a)、(b)又は(c)のタンパク質
【請求項2】
(a)のミュータントタンパク質が、配列番号2〜11又は13〜22のいずれかのアミノ酸配列からなる請求項1記載のタンパク質。
【請求項3】
(a)のミュータントタンパク質が、配列番号24〜33又は35〜44のいずれかのDNA配列にコードされる請求項2記載のタンパク質。
【請求項4】
(a)のミュータントタンパク質が、天然分泌型繊維芽細胞増殖因子18のメチオニンを除くN末端から4個以上22個以下のいずれかの数のアミノ酸を欠損させたものである請求項1〜3のいずれかに記載のタンパク質。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のタンパク質を含有する医薬組成物。
【請求項6】
繊維芽細胞増殖因子受容体第4遺伝子産物と反応して細胞機能を調節するための請求項5記載の医薬組成物。
【請求項7】
発毛または育毛調節のための請求項5記載の医薬組成物。
【請求項8】
骨形成調節または軟骨形成調節のための請求項5記載の医薬組成物。
【請求項9】
天然分泌型繊維芽細胞増殖因子18のN末端から1個以上のアミノ酸を欠損させることを含む、繊維芽細胞増殖因子受容体特異性が変化したミュータントタンパク質を作製する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−186432(P2007−186432A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−4210(P2006−4210)
【出願日】平成18年1月11日(2006.1.11)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度文部科学省「ベンチャー開発戦略研究センター」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】