説明

口腔内細菌の検出装置

【課題】口腔内細菌を、短時間かつ簡便な操作で高感度に検出するための装置および方法を提供する。
【解決手段】基板、前記基板上に配置されたソース電極およびドレイン電極、前記ソース電極とドレイン電極とを電気的に接続する超微細繊維体(例えばカーボンナノチューブ)を含むチャネル、ならびに前記チャネルを流れる電流を制御するゲート電極を有する電界効果トランジスタ;前記電界効果トランジスタに結合された、口腔内細菌(特にう蝕原因菌)に対する抗体を含む、口腔内細菌の検出装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔内細菌、または口腔内細菌に対する抗体を検出する装置に関する。より具体的に本発明は、電界効果トランジスタを検出部とするこれらの検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
口腔内細菌のうち、う蝕の原因とされる細菌の一つは、ミュータンス連鎖球菌であることが知られている。ミュータンス連鎖球菌数と、初期う蝕は、高い関連性があることが報告されている(非特許文献1を参照)。ミュータンス連鎖球菌には7種類あることが知られており、主にヒトの口腔内で検出される菌種は「ストレプトコッカス・ミュータンス(ミュータンス菌)」および「ストレプトコッカス・ソブリヌス(ソブリヌス菌)」である。両菌種は染色体DNAのGC含量、細胞壁多糖構造、ペプチドグリカンの構造、血清型などの諸性状を異にする別種の細菌である(非特許文献2を参照)。ソブリヌス菌とミュータンス菌とは、いくつかの生化学的特徴が相違しており、ソブリヌス菌の酸産生能は、ミュータンス菌のそれよりも高いことが知られている。また、ミュータンス菌とソブリヌス菌のいずれの菌種をも口腔内に保有するヒトは、いずれか一方のみを保有するヒトよりも、う蝕罹患のリスクが有意に高いことが知られている(非特許文献1および3を参照)。
【0003】
ミュータンス菌やソブリヌス菌の従来の検出方法の例には、寒天培地法、PCR法、イムノクロマト法などがある。
寒天培地法は、ミュータンス連鎖球菌用選択培地(Mitis salivarius bacitracin)で分離培養後、形成されたコロニー形態の違いを指標にして、実体顕微鏡で菌の存否と数をカウントする(非特許文献3および4を参照)。したがって、検出に必要とされる時間が長い。また、ミュータンス菌やソブリヌス菌をそれぞれ別個に検出することはできない。
【0004】
最近ではPCR法、特にリアルタイムPCR法によるミュータンス連鎖球菌の検出方法が研究されており、ミュータンス菌やソブリヌス菌をそれぞれ別個に検出することができる(非特許文献2を参照)。しかしながら、本検出方法では複雑な操作が必要とされる。
【0005】
イムノクロマト法を用いて検出する方法も知られている。本方法では、ミュータンス菌に対する2種類のモノクローナル抗体を用いる(非特許文献5参照)。具体的には、第一のモノクローナル抗体(着色粒子で標識されている)とミュータンス菌が結合し、さらに第二のモノクローナル抗体(捕捉抗体)と結合することによって、着色粒子に基づく着色を指標として検出する方法である。この方法は、特異性が高く、培養操作が不要であり、感染のリスクも少なく、判定時間も短い(15〜30分間程度)。
【0006】
一方、電界効果トランジスタ(以下「FET」とも称する)は、ソース電極、ドレイン電極およびゲート電極の3端子を有し、ソース電極およびドレイン電極に接続されるチャネルに流れる電流がゲート電極に印加される電圧に生じた電界によって制御される半導体素子である。チャネルが超微細繊維体、例えばカーボンナノチューブ(以下「CNT」とも称する)で構成されたカーボンナノチューブ電界効果トランジスタ(以下「CNT−FET」とも称する)なども知られている。
【0007】
CNT−FETの一例が、図1Aおよび図1Bに示される(例えば、非特許文献6参照)。
図1Aに示されるCNT−FETにおいては、基板2の第一の面に形成された絶縁膜1上に、ソース電極3およびドレイン電極4、ならびにこれらの電極を接続するチャネルが配置され、第二の面上にシリコン基板2と電気的に接続されているゲート電極5が配置されている。このようなFETは、ゲート電極の配置に基づいて、バックゲート型電界効果トランジスタ(以下「バックゲート型FET」とも称する)と称されることがある。
図1Bに示されるFETにおいては、基板2の第一の面に形成された絶縁膜1上に、ソース電極3、ドレイン電極4およびゲート電極5が配置されている。このようなFETは、ゲート電極の配置に基づいて、サイドゲート型電界効果トランジスタ(以下「サイドゲート型FET」とも称する)と称されることがある。
【0008】
また、CNT−FETの電気特性を利用したセンサの開発が進められている(例えば、特許文献1を参照)。これらのセンサは、チャネルとなるCNTの電気特性がCNTに結合あるいは固定された分子認識部位の状態変化に依存して変化することを利用しており、例えば、その分子認識部位と被検出物質の反応を、反応により誘起されるCNTの電気特性の変化を介してCNT−FETのソース電極とドレイン電極との間の電流(以下「ソース−ドレイン電流」という)または電圧(以下「ソース−ドレイン電圧」という)の変化として検出する。
【特許文献1】国際公開第2004/104568号パンフレット
【非特許文献1】Caries Research, 1993, 27, 292-297.
【非特許文献2】Journal of Clinical Microbiology, Sept 2003, 4438-4441.
【非特許文献3】Journal of Clinical Microbiology, May 1979, 584-588.
【非特許文献4】J. Dent. Res. March, 1989, 68 (3), 468-471.
【非特許文献5】Caries Research, 2006, 40, 15-19.
【非特許文献6】松本和彦, 「カーボンナノチューブSET/FETのセンサー応用」, 電気学会電子材料研究会資料, Vol.EFM-03, No.35-44, 2003.12.19, p.47-50.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述の通り、従来のう蝕原因菌を検出する方法は、検出に必要とされる時間が長かったり、複雑な操作を必要としたり、2種類のモノクローナル抗体を必要としたり、検出感度が十分でない場合があった。さらに、「唾液」をそのまま測定試料として用いることは困難であり、それぞれ特定の前処理(強アルカリで処理するなど)が必要とされる場合もあった。
【0010】
本発明者等は、口腔内細菌に対する抗体を結合させたFETを用いて、抗原(口腔内細菌)−抗体複合体形成をFETの電気特性(ソース−ドレイン電流または電圧)の変化から検出することを検討した。それにより、検出に必要とされる時間の短縮、検出手順の簡便化、検出感度の向上などを達成することを試みた。さらに、唾液そのもの、またはその簡単な処理物(例えば希釈物)から、口腔内細菌を検出することを試みた。
【0011】
さらに、検出装置のFETを特定の構造とすることにより、検出感度を上げること、およびセンサとしての構造自由度を上げることを検討した。従来のFETでは、ソース−ドレイン電流を制御するため、チャネルの電気特性を制御するゲート電極をチャネルの近傍に配置する必要があった。
【0012】
つまり、従来のバックゲート型FETにおいては、基板をバックゲート電極として作用させることで、ゲート電極を基板上に形成した絶縁膜のみを隔ててチャネルに近接させていた。そのため、ゲート電極を基板と電気的に接触させる必要があると考えられてきた。すなわち、ゲート電極を、電気伝導性を有する基板に電気的に直接接触させて配置させて、できるだけゲート電極の電位変化によるチャネル近傍の電界変化、すなわちソース−ドレイン電流またはソース−ドレイン電圧への作用を高めることが必要であると考えられていた。
【0013】
また、従来のサイドゲート型FETにおいては、ゲート電極によりソース−ドレイン電流を制御するため、ゲート電極をチャネルに近づけて配置させることが必要であると考えられていた。すなわち、ソース電極、ドレイン電極およびチャネルが配置された基板面と同一の面に配置されたゲート電極を、ナノメートルレベルにまでチャネルに接近させて、できるだけソース−ドレイン電流またはソース−ドレイン電圧への作用を高めることが必要であると考えられていた。
【0014】
本発明者は、支持基板に形成された絶縁膜上に、ソース電極、ドレイン電極およびチャネルが形成されたFETにおいて、「支持基板において自由電子の移動による分極が生じるようにゲート電極を配置する」という、新しい原理(ソース−ドレイン電流の制御原理)に基づくFETを開発することを検討した。
【0015】
そして本発明者は、FETの性能の向上、およびFETのバイオセンサへの適用を検討するなかで、FETのゲート電極は、ソース電極、ドレイン電極およびチャネルが配置された基板の裏面に配置された場合に、その基板裏面に絶縁膜が形成されていても、ソース−ドレイン電流を制御することができることを見出した。
さらに本発明者は、FETのゲート電極は、ソース電極、ドレイン電極およびチャネルが配置された基板表面と同一の表面に配置された場合に、ソース電極、ドレイン電極およびチャネルからある程度離されて配置されても、ソース−ドレイン電流を制御することができることを見出した。
さらに本発明者は、ソース電極、ドレイン電極およびチャネルが配置された基板とは分離されるが、電気的に接続されている別個の基板に配置されたゲート電極が、ソース−ドレイン電流を制御することができることを見出した。
【0016】
そして、これらの新しい制御原理に基づくFETに、口腔内細菌に対する抗体を結合させることによって、口腔内細菌を検出することを検討した。また、これらの知見から、口腔内細菌に対する抗体を検出することを検討した。
【課題を解決するための手段】
【0017】
すなわち、本発明の第一は以下に示す検出装置に関する。
[1]基板、前記基板上に配置されたソース電極およびドレイン電極、前記ソース電極とドレイン電極とを電気的に接続する超微細繊維体を含むチャネル、ならびに前記チャネルを流れる電流を制御するゲート電極を有する電界効果トランジスタ;および前記電界効果トランジスタに結合された、口腔内細菌に対する抗体を含む、口腔内細菌の検出装置。
[2]基板、前記基板上に配置されたソース電極およびドレイン電極、前記ソース電極とドレイン電極とを電気的に接続する超微細繊維体を含むチャネル、ならびに前記チャネルを流れる電流を制御するゲート電極を有する電界効果トランジスタ;および前記電界効果トランジスタに結合された口腔内細菌を含む、口腔内細菌に対する抗体の検出装置。
[3]前記口腔内細菌は、う蝕原因菌である、[1]または[2]に記載の検出装置。
[4]前記う蝕原因菌は、ストレプトコッカス・ミュータンスまたはストレプトコッカス・ソブリヌスである、[3]に記載の検出装置。
[5]前記抗体は、前記電界効果トランジスタの基板、ゲート電極または超微細繊維体に結合されている、[1]に記載の検出装置。
[6]前記抗体は、二価性架橋試薬を介して前記電界効果トランジスタに結合されている、[1]に記載の検出装置。
[7]前記抗体の結合濃度は1ng/ml〜1000mg/mlである、[1]に記載の検出装置。
[8]前記超微細繊維体は、カーボンナノチューブである、[1]〜[7]のいずれかに記載の検出装置。
[9]前記ゲート電極は、前記基板に自由電子の移動による分極を生じさせる、[1]〜[8]のいずれかに記載の検出装置。
[10]前記基板は、半導体または金属からなる支持基板、前記支持基板の第一の面に形成された第一の絶縁膜、および前記支持基板の第二の面に形成された第二の絶縁膜を有し;前記ソース電極、ドレイン電極およびチャネルは、前記第一の絶縁膜上に配置され;前記ゲート電極は、前記第二の絶縁膜上に配置されており、かつ
前記抗体は、前記第二の絶縁膜またはゲート電極に結合されている、[1]に記載の検出装置。
[11]前記基板は、半導体または金属からなる支持基板、および前記支持基板の第一の面に形成された第一の絶縁膜を有し;前記ソース電極、ドレイン電極、チャネルおよびゲート電極は、前記第一の絶縁膜上に配置され、かつ
前記抗体は、前記第一の絶縁膜またはゲート電極に結合されている、[1]に記載の検出装置。
[12]前記ゲート電極と前記超微細繊維体との間隔が10mm以上である、[11]に記載の検出装置。
[13]前記電界効果トランジスタは、前記基板に電気的に接続されている第二の基板をさらに含み;前記基板は、半導体または金属からなる支持基板、および前記支持基板の第一の面に形成された第一の絶縁膜を有し;前記ソース電極、ドレイン電極およびチャネルは、前記第一の絶縁膜上に配置され;前記ゲート電極は、前記第二の基板の第一の面上に配置されており、かつ
前記抗体は、前記第二の基板の第一の面またはゲート電極に結合されている、[1]に記載の検出装置。
【0018】
本発明の第二は、以下に示す検出方法に関する。
[14][1]に記載の検出装置に含まれる抗体に、口腔内細菌を含むサンプルを接触させるステップ、および
前記接触後の電界効果トランジスタのソース−ドレイン電流またはソース−ドレイン電圧を測定するステップ、を含む口腔内細菌を検出する方法。
[15]前記口腔内細菌を含むサンプルは、唾液またはその処理物である、[14]に記載の口腔内細菌を検出する方法。
[16][2]に記載の検出装置に含まれる口腔内細菌に、口腔内細菌に対する抗体を含むサンプルを接触させるステップ、および
前記接触後の電界効果トランジスタのソース−ドレイン電流またはソース−ドレイン電圧を測定するステップ、を含む口腔内細菌に対する抗体を検出する方法。
【発明の効果】
【0019】
前述の通り、抗原−抗体複合体形成を、カーボンナノチューブFETの電気特性(ソース−ドレイン電流など)の変化から測定することにより、口腔内細菌(例えば、う蝕原因菌)、または口腔内細菌に対する抗体を高感度かつ簡便に検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
1.本発明の検出装置
本発明の検出装置は、電界効果トランジスタと、前記電界効果トランジスタに結合された口腔内細菌に対する抗体、または口腔内細菌を含む。
【0021】
1−1.電界効果トランジスタについて
検出装置に含まれる電界効果トランジスタは、基板;前記基板上に配置されたソース電極およびドレイン電極;前記ソース電極およびドレイン電極を電気的に接続するチャネル;ならびに前記チャネルを流れる電流を制御するゲート電極を含む。
【0022】
1−1−1.基板について
電界効果トランジスタは基板を有し、基板上にはソース電極およびドレイン電極ならびにチャネルが配置されている。基板の構造および材質は、ゲート電極(後述)に電圧を印加することにより、基板に自由電子の移動による分極(後述)が生じるのであれば特に限定されない。通常は、基板は、半導体または金属からなる支持基板;および支持基板と、ソース電極、ドレイン電極およびチャネルとを電気的に絶縁する絶縁膜を有する。図2に基板の例が示される。図2Aは支持基板400、および第一の絶縁膜402を含む基板である。図2Bは支持基板400、第一の絶縁膜402および第二の絶縁膜404を含む基板である。
【0023】
支持基板は、半導体または金属であることが好ましい。半導体は、特に限定されないが、例えば、シリコン、ゲルマニウムなどの14族元素、砒化ガリウム、リン化インジウムなどのIII−V化合物、テルル化亜鉛などのII−VI化合物などである。金属は、特に限定されないが、例えば、アルミニウムやニッケルなどである。支持基板の厚さは、特に限定されないが、0.1〜1.0mmであることが好ましく、0.3〜0.5mmが特に好ましい。
【0024】
支持基板の第一の面(ソース電極、ドレイン電極およびチャネルが配置された面)に形成された第一の絶縁膜の材質は、特に限定されないが、酸化シリコン、窒化シリコン、酸化アルミニウムや酸化チタンなどの無機化合物、およびアクリル樹脂やポリイミドなどの有機化合物が挙げられる。第一の絶縁膜の表面には、水酸基、アミノ基またはカルボキシル基などの官能基が導入されていてもよい。
第一の絶縁膜の厚さは、特に限定されないが、10〜1000nmが好ましく、20〜500nmが特に好ましい。第一の絶縁膜が薄すぎると、トンネル電流が流れてしまう可能性がある。一方、第一の絶縁膜が厚すぎると、ゲート電極を用いてソース−ドレイン電流を制御することが困難になる可能性がある。
【0025】
支持基板の第二の面(第一の面の裏面)に、第二の絶縁膜が形成されていてもよい。第二の絶縁膜の材質は、第一の絶縁膜の材質の例と同様である。第二の絶縁膜の厚さも、第一の絶縁膜と同様に10nm以上が好ましく、20nm以上が特に好ましいが、特に限定される訳ではない。一方、バックゲート型FET(後述)または分離ゲート型FET(後述)である場合、第二の絶縁膜の厚さは、特に限定されないが、第一の絶縁膜と同様に、1000nm以下が好ましく、500nm以下が特に好ましい。
【0026】
支持基板の絶縁膜に被覆される面(第一の面または第二の面)は、平滑であることが好ましい。すなわち、支持基板と絶縁膜との界面は平滑であることが好ましい。支持基板の表面が平滑であると、その表面を被覆する絶縁膜の信頼性が高まるためである。支持基板の絶縁膜に被覆される面は、特に限定されないが、研磨されている方が好ましい。支持基板の表面の平滑度は、表面粗さ測定機などにより確認することができる。
【0027】
1−1−2.チャネルについて
前記チャネルは半導体であればよく、特に限定されないが、好ましくは半導体特性を示す超微細繊維体を含むことが好ましい。超微細繊維体とは、電気伝導性を示す、直径が数nmの繊維体である。超微細繊維体の例には、CNT、DNA、導電性高分子、シリコン繊維、シリコンウイスカー、グラフェンなどが含まれる。この中ではCNTが好ましい。
【0028】
チャネルに含まれる超微細繊維体の数は1本でも複数本でもよい。超微細繊維体の数はAFMによって確認されうる。また、超微細繊維体と基板との間には空隙が合ってもよい。
【0029】
超微細繊維体がカーボンナノチューブである場合は、単層CNTまたは多層CNTのいずれでもよいが、単層CNTが好ましい。また、CNTには欠陥が導入されていてもよい。「欠陥」とは、CNTを構成する炭素五員環または六員環が開環している状態を意味する。欠陥が導入されたCNTは、かろうじて繋がっているような構造をしていると推測されるが、実際の構造は限定されない。CNTに欠陥を導入する方法は、特に限定されないが、例えば、CNTを焼鈍しすればよい。
【0030】
超微細繊維体は、損傷を防ぐために絶縁性保護膜によって保護されていてもよい。絶縁性保護膜で超微細繊維体を被覆することにより、FET全体を超音波洗浄したり、強酸や強塩基を用いて洗浄したりすることが可能となる。さらに、絶縁性保護膜を設けることによって超微細繊維体の損傷が防止されるので、FETの寿命を著しく延ばすことができる。
【0031】
絶縁性保護膜は、例えば、絶縁性接着剤により形成される膜やパッシベーション膜などである。絶縁性保護膜が酸化シリコン膜の場合、絶縁性保護膜に抗体を容易に結合させることができる。
【0032】
1−1−3.ソース電極およびドレイン電極について
ソース電極およびドレイン電極は、基板の第一の絶縁膜上に配置される。ソース電極およびドレイン電極の材質は、例えば、金、白金やチタンなどの金属である。ソース電極およびドレイン電極は、二種以上の金属で多層構造にされていてもよい。例えば、チタンの層に金の層を重ねてもよい。ソース電極およびドレイン電極は、これらの金属を第一の絶縁膜上に蒸着することにより形成される。金属を蒸着するときは、リソグラフィを用いてパターンを転写しておくことが好ましい。
【0033】
ソース電極とドレイン電極との間隔は、特に限定されないが、通常は2〜10μm程度である。この間隔は、超微細繊維体による電極間の接続を容易にするために、さらに縮めてもよい。
【0034】
1−1−4.ゲート電極について
検出装置のFETに含まれるゲート電極は、電圧を印加されることで、ソース電極およびドレイン電極が配置されている基板に、自由電子の移動による分極を生じさせることが好ましい。「自由電子の移動による分極」とは、自由電子が基板内を移動することにより、プラスの電荷に偏った領域およびマイナスの電荷に偏った領域がそれぞれ、基板内に形成されることをいう。半導体または金属からなる支持基板と絶縁膜とからなる基板の場合、自由電子の移動による分極は、電気伝導性を有する支持基板において生じる。基板が分極しているか否かは、基板両面の電位差の測定などによって確認されうる。
【0035】
ゲート電極の大きさは、特に限定されず、超微細繊維体素子(ソース電極、ドレイン電極およびチャネルとなる超微細繊維体からなる)の大きさに応じて決定すればよい。ゲート電極の大きさが超微細繊維体素子に対して小さすぎると、ゲート電極がソース−ドレイン電流を制御することが困難になる場合がある。例えば、ソース電極とドレイン電極との間の距離が2〜10μmである場合、ゲート電極の大きさは、およそ0.1mm×0.1mm以上であればよい。
【0036】
基板を分極させるように配置されたゲート電極は、(A)バックゲート電極、(B)サイドゲート電極、および(C)分離ゲート電極の態様に分類される。
【0037】
(A)バックゲート電極について
バックゲート電極は、基板の第二の絶縁膜上に配置されている。ソース電極、ドレイン電極およびチャネルに対して基板の裏面に配置されているので、バックゲート電極と称される。バックゲート電極は、第二の絶縁膜に直接接触して配置されていてもよく、第二の絶縁膜から物理的に離されて配置されていてもよい。
【0038】
バックゲート電極は、第二の絶縁膜の一部にだけ配置されていても、第二の絶縁膜の全面に配置されていてもよい。基板の第二の面の全面にゲート電極が設けられていれば、抗体または口腔内細菌を第二の絶縁膜の全面に結合させることができる。
【0039】
従来のバックゲート型FETでは、バックゲート電極によりソース−ドレイン電流を制御するために、バックゲート電極を支持基板(半導体または金属からなる)に直接接触させて配置することによって、相互作用を得ていた。
一方、本発明者は、バックゲート電極と支持基板とを直接接触させる必要は必ずしもないことを見出した。つまり、バックゲート電極と支持基板との間に絶縁膜を設けても、ソース−ドレイン電流を制御することができることがわかった。ゲート電極に電圧が印加されると支持基板(半導体または金属からなる)において、支持基板内の自由電子の存在に起因する分極が起こり、その分極によってソース−ドレイン電流が制御されるからであると考えられる。自由電子の移動による分極には、容量結合による要因も含まれるが、他の要因も排除しない。
【0040】
バックゲート電極を有する電界効果トランジスタの例が、図3に示される。
【0041】
(B)サイドゲート電極について
サイドゲート電極は、基板の第一の絶縁膜上に配置されている。ソース電極、ドレイン電極およびチャネルが配置された面と同一の面に配置されているので、サイドゲート電極と称される。サイドゲート電極は、第一の絶縁膜に直接接触して配置されていてもよく、第一の絶縁膜から物理的に離されて配置されていてもよい。
【0042】
基板の同一面上に配置されたサイドゲート電極と超微細繊維体との間隔は特に制限されないが、本発明のFETでは10μm以上、さらに100μm以上、さらに1mm以上とすることができる。上限も特に制限されないが、数cm以下である。「ゲート電極と超微細繊維体との間隔」とは、互いの最短間隔を意味する。
【0043】
従来のサイドゲート型FETは、ゲート電極によりソース−ドレイン電流を制御するために、サイドゲート電極とソース電極、ドレイン電極およびチャネルとの間で直接の相互作用を得る必要があると考えられていた。したがって、従来のサイドゲート型FETでは、サイドゲート電極とチャネルとの間隔を、できるだけ短くしていた(長くとも1μm程度)。
【0044】
一方、本発明者は、サイドゲート電極を、ソース電極、ドレイン電極およびチャネルに接近させる必要が必ずしもないことを見出した。サイドゲート電極ならびにソース電極、ドレイン電極およびチャネルが同一の絶縁膜上に設けられている場合に、サイドゲート電極に電圧が印加されると、その絶縁膜の下の支持基板(半導体または金属からなる)において、支持基板内の自由電子の存在に起因する分極が起こり、その分極によってソース−ドレイン電流が制御されるからであると考えられる。分極には、容量結合による要因も含まれるが、他の要因も排除しない。
【0045】
検出装置において、サイドゲート電極には抗体または口腔内細菌が結合され、さらに試料溶液を滴下されることがある。本発明の検出装置のサイドゲート型FETでは、サイドゲート電極と、ソース電極、ドレイン電極およびチャネルとの間隔を広げることができるので、チャネルに含まれる超微細繊維体の試料溶液による汚染が防止されうる。
【0046】
サイドゲート電極を有する電界効果トランジスタの例が、図4に示される。
【0047】
(C)分離ゲート電極について
分離ゲート電極は、ソース電極、ドレイン電極およびチャネルが配置された基板とは分離されているが、電気的に接続されている第二の基板上に配置されている。第二の基板は、半導体または金属からなる支持基板と、支持基板の少なくとも一方の面に形成された絶縁膜とを有する基板、または絶縁体からなる基板でありうるが、好ましくは前者の基板である。
【0048】
分離ゲート電極が配置されている第二の基板は、ソース電極、ドレイン電極およびチャネルが配置されている基板とは分離されている。ソース電極、ドレイン電極およびチャネルが配置されている基板とゲート電極が配置されている第二の基板との間隔は、特に限定されず、3mm以上、さらには10mm以上、さらには15mm以上とすることができ、それ以上にすることもできる。
【0049】
前記の通り、ゲート電極が配置されている第二の基板は、ソース電極、ドレイン電極およびチャネルが配置されている基板と電気的に接続されている。電気的に接続されているとは、例えば、(a)基板および第二の基板が、同一の導電性基板に載置されている、または(b)基板および第二の基板が、それぞれ異なる導電性基板に載置され、かつそれぞれの導電性基板が導電性部材により接続されていることを意味する。(a)の態様の例が図5に示され、(b)の態様の例が図6に示される。
【0050】
導電性基板は、特に限定されないが、金薄膜を蒸着されたガラス基板や真鍮などの材料からなる基板などである。導電性部材は、特に限定されないが、例えば銅線などの導電性ワイヤなどである。
【0051】
分離ゲート型FETでは、ソース電極、ドレイン電極およびチャネルを配置された基板を、ゲート電極が配置された第二の基板から分離することができるため、構造上の自由度が高い。したがって、分離ゲート型FETを利用する検出装置は、実用性の高い装置となりうる。
【0052】
1−2.口腔内細菌、口腔内細菌に対する抗体について
1−2−1.種類について
前述の通り本発明の検出装置は、電界効果トランジスタに結合された抗体を含みうる。抗体は、被検出物質である口腔内細菌に対する抗体であればよい。モノクローナル抗体でも、ポリクローナル抗体であってもよい。
被検出物質は、口腔内細菌であれば特に制限されないが、う蝕原因菌を検出できれば、う蝕予防に効果的に利用される。う蝕原因菌の例には、ミュータンス連鎖球菌(mutans streptococci)などの耐酸性乳酸発酵菌が含まれ、特に、ヒトの口腔内で検出されるう蝕原因菌は、ストレプトコッカス・ミュータンス、およびストレプトコッカス・ソブリヌスである。
【0053】
口腔内において、ストレプトコッカス・ミュータンス、およびストレプトコッカス・ソブリヌスが共存すると、う蝕罹患のリスクが高まることが知られている(Caries Research, 1993, 27, 292-297; Journal of Clinical Microbiology, May 1979, 584-588)。したがって、本発明の検出装置を組み合わせて、両方の細菌を検出できるようにしてもよい。
【0054】
ストレトコッカス・ミュータンスに対する抗体の例には、マウス(mouse) IgG、ウサギ(rabbit) IgG、ヤギ(goat) IgG、ロバ(donkey) IgG、ヒツジ(sheep) IgG、ヒト(human) IgA、ヒト(human) IgG 等のポリクローナルまたはモノクローナル抗体が含まれるが特に限定されない。ストレプトコッカス・ソブリヌスに対する抗体の例には、マウス(mouse) IgG、ウサギ(rabbit) IgG、ヤギ(goat) IgG、ロバ(donkey) IgG、ヒツジ(sheep) IgG、ヒト(human) IgA、ヒト(human) IgG等のポリクローナルまたはモノクローナル抗体が含まれるが特に限定されない。
【0055】
同様に本発明の検出装置は、電界効果トランジスタに結合された口腔内細菌を含みうる。口腔内細菌が結合されている場合は、被検出物質は口腔内細菌に対する抗体である。結合される口腔内細菌の例は特に制限されないが、う蝕原因菌を含む。
【0056】
1−2−2.抗体などが結合するFETの部位について
本発明の検出装置において、口腔内細菌に対する抗体または口腔内細菌は、FETに結合されていればよい。その結合部位は特に制限されないが、基板、ゲート電極またはチャネルに含まれる超微細繊維体(超微細繊維体を保護する膜を含む)などが含まれる。以下、抗体または口腔内細菌を電界効果トランジスタに結合させる例を、図面を参照して説明する。図7〜図22においては、抗体を結合させた例が示されているが、同様の態様で口腔内細菌を結合させてもよい。
【0057】
図7〜図11は、バックゲート型FETに抗体を結合させた例が示される。
【0058】
図7には、チャネルに抗体を結合させた例が示される。図7では抗体がチャネルに直接結合されているので、検出感度の向上が見込める。一方、図8では抗体が絶縁性保護膜を介してチャネルに結合されているので、試料溶液がチャネルと接触することがなく、ノイズが低減される。
【0059】
図9には、基板の第二の絶縁膜に抗体を結合させた例が示される。第二の絶縁膜は、超微細繊維体を損傷させることなく洗浄することができるので、再利用することもできる。また、第二の絶縁膜全体に抗体を結合させてもよく、そのため比較的多くの抗体を結合させることができる。
【0060】
図9Aでは抗体を第二の絶縁膜の全面に結合しており、バックゲート電極が第二の絶縁膜に固定されていない場合に有用である。一方、図9BおよびCでは抗体が第二の絶縁膜の一部に結合しており、バックゲート電極が第二の絶縁膜に固定されている場合に有用である。図9Dでは、第二の絶縁膜に、複数のバックゲート電極が配置され、かつ複数種の抗体が第二の絶縁膜に結合されている。複数種の抗体の組み合わせは、ストレプトコッカス・ミュータンスに対する抗体と、ストレプトコッカス・ソブリヌスに対する抗体との組み合わせであってもよい。
【0061】
図10には、基板の第二の面上に凹部を形成し、この凹部の底に位置する第二の絶縁膜に抗体を結合させた例が示される。凹部の側壁の材質は、特に限定されないが、例えば、酸化シリコンである。この例では、凹部の容積を調整することにより、一定量の試料溶液を提供することができる。また、添加された試料溶液が散逸されにくく、抗体が結合された部位に安定して保持されうる。
図10Aおよび図10Bは、バックゲート電極を凹部の蓋として機能させる例を示す図である。図10Cは、バックゲート電極を凹部の側壁上に配置させた例を示す図である。図10Dは、バックゲート電極を凹部の側壁側面に配置させた例を示す図である。図10Eは、バックゲート電極を凹部外の第二の絶縁膜上に配置させた例を示す図である。
【0062】
図11には、抗体をゲート電極に結合させた例が示される。この例では、超微細繊維体を損傷させることなく基板の第二の面を洗浄することができるので、再利用することが容易である。
図11Aは、バックゲート電極が一つ配置されている場合に、抗体をバックゲート電極に結合させた例を示す図である。図11Bは、バックゲート電極が複数配置されている場合に、複数種の抗体をそれぞれ異なるバックゲート電極に結合させた例を示す図である。複数種の抗体の組み合わせは、ストレプトコッカス・ミュータンスに対する抗体と、ストレプトコッカス・ソブリヌスに対する抗体との組み合わせであってもよい。
【0063】
図12〜図16には、サイドゲート型FETに抗体を結合させた例が示される。
【0064】
図12には、抗体を超微細繊維体に結合させた例が示される。この例では、抗体がチャネルである超微細繊維体に直接結合しているため、検出感度が向上しうる。図13には、抗体を、超微細繊維体を保護する絶縁性保護膜に結合させた例が示される。この例では、試料溶液が超微細繊維体および電極と直接接触することがないので、高感度センサを提供しうる。
図13Aには、抗体を、超微細繊維体素子を保護する絶縁性保護膜を介して超微細繊維体に結合させた例が示される。図13Bには、抗体を、超微細繊維体素子およびゲート電極を保護する絶縁性保護膜を介して超微細繊維体に結合させた例を示す図である。
【0065】
図14には、サイドゲート電極が第一の絶縁膜と接触するように配置されている場合に、抗体を第一の絶縁膜に結合させた例が示される。試料溶液は、バックゲート電極に接触しても(図14A)しなくても(図14B)よい。
【0066】
図15には、基板の第二の面上に凹部を形成し、この凹部の底に位置する第二の絶縁膜に抗体を結合させた例が示される。凹部の側壁の材質は、特に限定されないが、例えば酸化シリコンである。この例では、抗体が結合されている部位(すなわち凹部内)に試料溶液を的確に位置させることができる。
図16には抗体をゲート電極に結合させた例が示される。
【0067】
図17〜図22には、分離ゲート型FETに抗体を結合させた例が示される。
【0068】
図17は、分離ゲート電極が絶縁膜と接触せずに配置されている場合に、抗体を絶縁膜に結合させた例を示す図である。
図18は、分離ゲート電極が絶縁膜と接触するように配置されている場合に、抗体を絶縁膜に結合させた例を示す図である。試料溶液は、分離ゲート電極に接触していても(図18A)しなくても(図18B)よい。図18Cは、分離ゲート電極が複数配置されている場合に、複数種の抗体をそれぞれ絶縁膜に結合させた例を示す図である。
【0069】
図19は、抗体をゲート電極に結合させた例を示す図である。図19Aは、分離ゲート電極が一つ配置されている場合に、抗体を分離ゲート電極に結合させた例を示す図である。図19Bは、分離ゲート電極が複数配置されている場合に、複数種の抗体をそれぞれ異なる分離ゲート電極に結合させた例を示す図である。
【0070】
図20は、ゲート素子部(ゲート電極と第二の基板を含む)が複数ある場合に、複数種の抗体をそれぞれ異なる分離ゲート電極に結合させた例を示す図である。
図21は、超微細繊維体素子部およびゲート素子部が、導電性基板を挟むように配置され、かつゲート素子部上に分離ゲート電極が複数配置されている場合に、複数種の抗体をそれぞれ絶縁膜に結合させた例を示す図である。この例では、ゲート素子部を超微細繊維体素子部から取り外すことを容易に行うことができる。したがって、一の超微細繊維体素子部に対して、複数のゲート素子部を付け替えることが可能である。
図22は、超微細繊維体素子部およびゲート素子部が、導電性部材によって電気的に接続され、かつゲート素子部上に分離ゲート電極が複数配置されている場合に、複数種の抗体をそれぞれ絶縁膜に結合させた例を示す図である。
【0071】
1−2−3.抗体などを結合させる方法について
口腔内細菌に対する抗体または口腔内細菌を、FETに結合させる方法は特に制限されないが、たとえば二価性架橋試薬を介して結合させる方法がある。二価性架橋試薬とは二の官能基を有し、一の官能基はFETとの結合に、別の一の官能基が抗体などとの結合に用いられる。二価性架橋試薬は、例えば二つの官能基、およびそれを結ぶ親水性ポリマー鎖(ポリエチレングリコール鎖など)または疎水鎖(アルキル鎖など)などを有する。二つの官能基の例には、アミノ基と結合する官能基と、チオール基と結合する官能基の組み合わせが含まれる。
【0072】
例えば、二価性架橋試薬を介して抗体を絶縁膜に結合する場合は以下の手順で行えばよい。
抗体と二価性架橋試薬とを反応させた後、透析などにより未反応の二価性架橋試薬を除去して、抗体−二価性架橋試薬複合体を得て;シラン化カップリング剤で処理した基板の絶縁膜と、前記抗体−二価性架橋試薬複合体を反応させて結合する。または、シラン化カップリング剤で処理した基板絶縁膜と二価性架橋試薬を反応させ、さらに抗体を反応させて結合する。
【0073】
抗体などの結合方法は、二価性架橋試薬を介する方法に限定される訳ではなく、例えば、ヒスタグ融合抗体をNTA−Ni錯体などを介して結合させる方法も用いられうる。また、レクチンを介して結合してもよく、レクチンの例にはプロテインA、プロテインG、プロテインA/G、プロテインLなどが含まれる。
【0074】
1−2−4.抗体などの結合濃度について
FETに結合される抗体の濃度(抗体結合濃度)を制御することによって、ダイナミックレンジを調整することができる場合がある。抗体結合濃度とは、FETに抗体を結合させるときに用いる「抗体溶液の濃度」を意味する。ダイナミックレンジとは、例えばI−V曲線(ソース−ドレイン電流とゲート電圧との関係を示す曲線)が変化するレンジを意味する。I−V曲線から被検出物質(口腔内細菌など)を検出しようとする場合には、ゲート電圧が0V付近(例えば−20V〜+20Vの範囲内)に、ダイナミックレンジがあることが好ましい。ゲート電圧を印加するための電源を小型化できるからである。そこで、抗体結合濃度を調整して、ダイナミックレンジを調整することが好ましい。
【0075】
また、本発明の検出装置の抗体結合濃度は、検出感度の低下が見られない範囲で低濃度にすることが好ましい。逆に、抗体結合濃度が過剰に高いと、ダイナミックレンジが低下することがある。例えば、抗体結合濃度は1ng/ml〜1000μg/mlであればよく、好ましくは100μg/ml以下、より好ましくは10μg/ml以下、さらに好ましくは1μg/ml以下とするとよい場合がある。
【0076】
同様に、口腔内細菌の結合濃度を制御して、ダイナミックレンジを調整をしてもよい。
【0077】
1−3.電気特性を測定する部材について
本発明の検出装置は、抗原−抗体複合体形成により引き起こされるFETの電気特性の変化を観察することにより、抗原である被検出物質、または抗体である被検出物質の検出または濃度の測定をすることができる。FETの電気特性の例には、ソース−ドレイン電流とゲート電圧の関係;およびソース−ドレイン電流とソース−ドレイン電圧の関係が含まれる。
したがって本発明の検出装置は、FETの電気信号を測定する部材、好ましくはFETのソース−ドレイン電流またはソース−ドレイン電圧を測定する部材を有することが好ましい。FETのソース−ドレイン電流を測定する部材には、通常の半導体パラメータアナライザを適宜に適用することができる。これらの部材により、ダイナミックレンジにおける電気的特性の変化を観察すればよい。
【0078】
2.本発明の検出方法
本発明の検出方法は、前述の検出装置を用いて、口腔内細菌または口腔内細菌に対する抗体を検出する方法である。FETに結合された抗体または口腔内細菌と、被検出物質である口腔内細菌または口腔内細菌に対する抗体とが、抗原−抗体反応して複合体を形成することにより、ソース−ドレイン電流またはソース−ドレイン電圧の変化が生じ、その変化を観察することにより口腔内細菌または口腔内細菌に対する抗体を検出する。
【0079】
本発明の検出方法の第一は、前述の本発明の検出装置に含まれる抗体に、口腔内細菌を含むサンプルを接触させる工程;当該接触後の電界効果トランジスタの電気信号(ソース−ドレイン電流やソース−ドレイン電圧を含む)を測定する工程を含む。予め検出装置の、検出対象である口腔内細菌の濃度と、電気信号の関係を求めて検量線を取得していれば、検出対象の濃度も測定できる。
【0080】
本発明の検出方法によれば、サンプルとして唾液またはその簡易な処理物を用いることができ、例えば緩衝液による唾液の希釈物を用いることができる。唾液には多糖などの夾雑物が含まれるため、それに含まれる口腔内細菌を従来の一般的な方法で検出するには、複雑な処理が必要とされた。本発明の検出方法によれば、極めて簡易な処理をするだけで口腔内細菌を検出することができる。
【0081】
本発明の検出方法の第二は、前述の本発明の検出装置に含まれる口腔内細菌に、口腔内細菌に対する抗体を含むサンプルを接触させる工程;当該接触後の電界効果トランジスタの電気信号(ソース−ドレイン電流やソース−ドレイン電圧を含む)を測定する工程を含む。予め検出装置の、検出対象である口腔内細菌に対する抗体の濃度と、電気信号の関係を求めて検量線を取得していれば、検出対象の濃度も測定できる。
【0082】
以下に、検出手順の例の概略を示す。この例では、試料として検出対象(口腔内細菌)を含む「溶液」を用いた場合について説明する。より具体的に本発明の検出装置を用いて、う蝕原因菌であるストレプトコッカス・ミュータンスまたはストレプトコッカス・ソブリヌスを検出した例を説明する。
【0083】
(1)抗体の評価
FETに結合させる抗体について、予め以下の手法で「抗体価」と「特異性」を評価した。
抗体価の測定:オートクレーブ滅菌したBrain Heart Infusion(BHI)/1%glucose液体培地を準備し、15ml試験管に13mlの培地を入れた。さらに適量の濃度になるように、所望の菌(ストレプトコッカス・ソブリヌスATCC33478など)を添加した。37℃のインキュベーターに一晩静置した。翌日、血球計算板を使って顕微鏡下で菌数を測定し、増殖期にあることを確認して集菌した。集菌は、5000rpm,5分の条件で遠心処理して菌を回収し、回収された菌を、PBSで二度洗浄した。1%ホルムアルデヒド/PBSを5ml程度添加し、30分室温で静置した。静置後、PBSで2回洗浄した。PBS−0.1%AZIDE液をホルマリン処理し、PBSで2回洗浄した菌ペレットに添加、懸濁した。これを4℃で保存した。
得られたホルマリン処理した菌(50μl)を、プレートの各ウエルに添加した。これをゲルドライヤーで乾燥させた(3時間)。さらに、1%BSA/PBS(200μl)を各ウエルに添加した。37℃で一時間静置した後、0.05%Tween20/PBSで3回洗浄した。
一抗体につき、96穴固相化プレートの2列分(16ウエル)を用いた。起点となる1ウエル以外の15ウエルに、1%BSA/PBS(100μl)を添加した。10μg/mlに調整した抗体サンプルを、1%BSA/PBSで10倍希釈した。起点となるウエルには、10倍希釈の抗体サンプル(200μl)を添加して、さらに他のウエルには、2倍毎に32768倍希釈まで希釈系列を作製して添加した。全ての希釈系列を作製した後、37℃で1時間静置した。静置後、0.05%Tween20/PBSで3回洗浄した。
【0084】
アルカリホスファターゼ標識された抗マウスIgG抗体[AP181A GtX Ms IgGAP]を1%BSA/PBSで3000倍希釈して、各ウエルに100μlづつ添加した。37℃で30分間静置した後、0.05%Tween20/PBSで3回洗浄した。p-ニトロフェニルホスフェート二ナトリウム塩六水和物(Disodium p-Nitrophenylphosphate Hexahydrate)を、ジエタノールアミンバッファー(Diethanolamine buffer)で希釈した(2mg/ml)。得られた希釈溶液を、各ウエルに100μlづつ添加した。適度な発色が得られたら、マイクロプレートリーダで415nmの吸光度を測定した。
【0085】
抗ミュータンス菌抗体SW1の抗体価の測定では、15ng/mlまで飽和状態が続き、さらに希釈すると吸光度の減少が認められた(図23参照)。また、抗ソブリヌス菌抗体2C7の抗体価の測定では、0.125ng/mlまで飽和状態が続き、さらに希釈すると吸光度の減少が認められた(図24参照)。したがって、いずれの抗体も十分な抗体価があることがわかった。
【0086】
抗体の特異性試験(クロスチェック):ホルマリン処理した菌の8種類それぞれを、プレートの各ウエルに50μlずつ添加して、ゲルドライヤーで乾燥させた(3時間)。さらに、1%BSA/PBS(200μl)を各ウエルに添加した。37℃で1時間静置した後、0.05%Tween20/PBSで3回洗浄した。
1μg/mlに調整した抗体(100μl)を、8種類の菌が添加されたウエルそれぞれに添加した。37℃で静置した後、0.05%Tween20/PBSで3回洗浄した。アルカリ性ホスファターゼ標識された抗マウスIgG抗体[AP181A GtX Ms IgG AP]を、1%BSAで3000倍希釈した。得られた希釈物を各ウエルに100μl添加した。37℃で30分間静置した後、0.05%Tween20/PBSで3回洗浄した。p-ニトロフェニルホスフェート二ナトリウム塩六水和物を、ジエタノールアミンバッファーで希釈した(2mg/ml)。得られた希釈溶液を、各ウエルに100μlづつ添加した。適度な発色が得られたら、マイクロプレートリーダで415nmの吸光度を測定した。
【0087】
抗ミュータンス菌抗体SW1の特異性試験では、2株のミュータンス菌(ATCC25175およびMT8148)に対しては抗原−抗体反応が顕著に表れたが、ミュータンス連鎖球菌の一種であるソブリヌス菌や、それ以外のStreptococciに対してはほとんど反応が確認されなかった(図25参照)。また、抗ソブリヌス菌抗体2C7の特異性試験では、2株のソブリヌス菌(ATCC33478およびATCC6715)に対しては抗原抗体反応が認められたが、それ以外の菌には反応が見られなかった(図26参照)。したがって、いずれの抗体も特異性が高いことがわかった。
【0088】
抗ミュータンス菌抗体SW1については、HYBRIDOMA; vol.17, No.4 p.365-371 (1998) (Shi W., Jewett A., Hume W. R., Rapid and Quantitative Detection of Streptococcus mutans with Species-Specific Monoclonal Antibodies) などに記載されている。抗ソブリヌス抗体2C7については、特開2002−105100に記載されている(工業技術院生命工学工業技術研究所特許微生物寄託センターに寄託された[受託番号FERM P−17613]ハイブリドーマSS−1が産生する抗体が、2C7抗体である)。
【0089】
(2)抗体の調製
上記(1)抗体の評価で十分な抗体価および特異性が認められた、マウスIgG抗体である抗ミュータンス菌抗体SW1、および抗ソブリヌス菌抗体2C7を用いた。それぞれを、pH7.6のリン酸バッファで希釈して、700μg/mlの希釈液500μlを得た。得られた希釈液に、二価性架橋試薬(N−(6−Maleimide caproyloxy) sulfo succinimide:Sulfo−EMCS)を添加して、架橋試薬の終濃度を抗体濃度の10倍モル濃度とした。得られた溶液を、1時間室温で振とうさせ、架橋試薬と抗体を反応させた。反応後、透析用リン酸バッファ(100mMリン酸ナトリウム, pH6.0)で1晩透析した。
得られた抗体溶液の濃度を調整して、700μg/ml,70μg/ml,20μg/ml,7μg/ml,0.7μg/mlとした。
【0090】
(3)抗体の結合
(2)で調製した抗体を、前述のバックゲート型の電界効果トランジスタに結合させた。用いた電界効果トランジスタの概略は図9Aに示され、支持基板は厚さ550μmのシリコン基板、第一の絶縁膜および第二の絶縁膜は厚さ300nmの酸化シリコン膜、基板の面積は1cm(1cm×1cm)、超微細繊維体は単層カーボンナノチューブ、ソース電極とドレイン電極の間隔は5μm、ゲート電極は第二の絶縁膜の全面に接触させた。数本の単層カーボンナノチューブによってソース電極とドレイン電極とが接続されていることがAFMにより確認された。
【0091】
バックゲート型電界効果トランジスタのバックゲート面に、NaOH水溶液(2M:50μl)を添加し、45℃で2分間処理した。処理面を純水で洗浄し、窒素ガスで乾燥させた。シランカップリング剤(S810)3μlを添加し、45℃で15分間、さらに200℃で30分間処理した。50μlの還元剤(テトラヒドロホウ酸ナトリウム)水溶液(1mM)を添加し、45℃で15分間処理した。
処理後の基板を蓋付きのケースに入れて、前記(2)で調整された抗体溶液(50ml)を添加して、室温にて1時間静置した。
添加した抗体溶液の濃度(抗体固定化濃度)によって、ダイナミックレンジ(試料の測定が可能であるゲート電圧の範囲)を調節しうることがわかった。例えば、ゲート電圧−20〜20Vの範囲のソース−ドレイン電流を測定することにより試料濃度を測定する場合には、抗体固定化濃度を「SW1;7μg/ml」「2C7;0.7μg/ml」程度以上とすればよいことがわかった。SW1と2C7の濃度の違いは、前述のように、2C7抗体価が、SW1の抗体価よりも高いためであると推察される。
【0092】
(4)サンプルの調製
A)ミュータンス菌またはソブリヌス菌の培養サンプルの調製
BHI液体培地(DIFCO社)を、15mlチューブに準備して、凍結保存品の S. mutans ATCC 25175、または S. soburinusATCC 33478を適量添加して、37℃にて一晩前培養した。チューブ内に培養した菌を50mlチューブに移しかえ、菌数が1×10程度になるまで培養した。培養後、遠心分離(1000rpm,5分)して上清を除去した。PBS(20ml程度)を添加し、Vortexで攪拌した後、遠心分離(1000rpm,5分)して上清を除去した。1%ホルムアルデヒド(10ml)を添加し、室温にて30分間静置した。さらにPBS(20ml)で2回洗浄した後、菌の沈殿物にPBS(0.1%NaN3)を添加して攪拌し、4℃で保存した。
【0093】
ミュータンス菌の初期濃度は5.0×10CFU/ml;ソブリヌス菌の初期濃度は3.1×10CFU/mlとした。菌数測定は、MSB寒天培地を用いて行った。培養サンプルをPBSで適度に希釈し、MSB寒天培地にEddie Jetを用いて播種して、37℃にて48時間、嫌気培養後、コロニーを測定し、CFU/mlで表した。
【0094】
B)唾液サンプルの調製
ヒトから得た「唾液」を、PBSで希釈した(10〜10000倍)サンプルを準備した。各サンプルについてリアルタイムPCR法でミュータンスの菌数(CFU/ml)を予め測定した。ミュータンスの菌数を予め測定されたサンプルを、以下の検出に用いた。
【0095】
(5)検出
培養サンプルからのミュータンス菌の検出:(3)で得られたSW1を結合させた検出装置の抗体結合面を、BSAブロッキングして、さらにPBSバッファで2回洗浄した。その後、(4)で得られたミュータンス菌培養サンプルの、10000倍希釈物を添加・乾燥した。1000倍希釈物、100倍希釈物、10倍希釈物、原液(1倍希釈物)についても、順次同じ操作を行った。
【0096】
各ステップ後においてソース−ドレイン電流とゲート電圧の関係(I−V特性:ゲート電圧は−20〜20V)を測定した。図27のグラフには、各ステップ後におけるI−V特性の、ゲート電圧;−3Vのときのソース−ドレイン電流値が示される。図27のグラフに示されたように、10000倍希釈物添加・乾燥後と1000倍希釈物添加・乾燥後のソース−ドレイン電流の値に変化はほとんど見られないが、1000倍希釈物添加・乾燥後から1倍希釈物添加・乾燥後に亘って、ソース−ドレイン電流が増大している。
【0097】
図28のグラフは、ミュータンス菌培養サンプルの菌濃度(寒天培地法で測定した濃度)を横軸に、上記で測定されたソース−ドレイン電流の値を縦軸としてプロットしたグラフである。得られた検量線の相関係数Rは0.90であった。また、検出限界は5.0×10CFU/mlであった。
【0098】
培養サンプルからのソブリヌス菌の検出:(3)で得られた2C7を結合させた検出装置の抗体結合面を、BSAブロッキングして、さらにPBSバッファで2回洗浄した。その後、(4)で得られたソブリヌス菌培養サンプルの、10000倍希釈物を添加・乾燥した。1000倍希釈物、100倍希釈物、10倍希釈物、原液(1倍希釈物)についても順次同じ操作を行った。
【0099】
各ステップ後においてソース−ドレイン電流とゲート電圧の関係(I−V特性:ゲート電圧は−20〜20V)を測定した。図29のグラフには、各ステップ後におけるI−V特性の、ゲート電圧15Vのときのソース−ドレイン電流値が示される。図29のグラフに示されたように、10000倍希釈物添加・乾燥後から1倍希釈物添加・乾燥後に亘って、ソース−ドレイン電流が概して増大している。
【0100】
図30のグラフは、ソブリヌス菌サンプルの菌濃度(寒天培地法で測定した濃度)を横軸に、上記で測定されたソース−ドレイン電流の値を縦軸としてプロットしたグラフである。得られた検量線の相関係数R2は0.92であった。また、検出限界は3.1×10CFU/mlであった。
【0101】
唾液サンプルからのミュータンス菌の検出:培養サンプルからのミュータンス菌の検出の場合と同様に、前記(4)で得られた唾液サンプル(10〜10000倍希釈)を用いて、ミュータンス菌を検出した。唾液をPBSで希釈しただけにもかかわらず、培養サンプルと同様の結果が得られた。
【0102】
以上のように、ミュータンス菌およびソブリヌス菌をそれぞれ別個に検出することができ、かつ10CFU/ml程度の感度で検出できた。この感度は培地法による検出感度に匹敵する。
【0103】
また、FETに口腔内細菌を結合させれば、同様に口腔内細菌を検出することができる。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明の検出装置は、短時間で簡単な操作により口腔内細菌を検出することができる。特に、う蝕原因菌として重要なストレプトコッカス・ミュータンスやストレプトコッカス・ソブリヌスを高感度に検出することができ、かつそれぞれを別個に測定することができる。したがって、本発明の検出装置はう蝕の予防に特に有効に用いられ得る。また本発明の検出装置によれば、口腔内細菌に対する抗体を検出することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】図1Aは従来のバックゲート型FETの概略図である。図1Bは従来のサイドゲート型FETの概略図である。1は絶縁膜、2は基板、3はソース電極、4はドレイン電極、5はゲート電極を示す。
【図2】FETの基板の例を示す図である。400は支持基板、402は第一の絶縁膜、404は第二の絶縁膜を示す。
【図3】バックゲート型FETの一例を示す図である。100はバックゲート型FET、102は支持基板、104は第一の絶縁膜、106は第二の絶縁膜、108はソース電極、110はドレイン電極、112は超微細繊維体、114はゲート電極を示す。
【図4】サイドゲート型FETの一例を示す図である。150はサイドゲート型FET、102は支持基板、104は第一の絶縁膜、106は第二の絶縁膜、108はソース電極、110はドレイン電極、112は超微細繊維体、114はゲート電極を示す。
【図5】分離ゲート型FETの一例を示す図である。200は分離ゲート型FET、102は第一の支持基板、104は第一の絶縁膜、106は第二の絶縁膜、108はソース電極、110はドレイン電極、112は超微細繊維体、202は第二の支持基板、204は第三の絶縁膜、206は第四の絶縁膜、208はゲート電極、210は導電性基板、212は超微細繊維体素子部、214はゲート素子部を示す。
【図6】分離ゲート型FETの一例を示す図である。300は分離ゲート型FET、102は第一の支持基板、104は第一の絶縁膜、106は第二の絶縁膜、108はソース電極、110はドレイン電極、112は超微細繊維体、202は第二の支持基板、204は第三の絶縁膜、206は第四の絶縁膜、208はゲート電極、212は超微細繊維体素子部、214はゲート素子部、302は第一の導電性基板、304は第二の導電性基板、306は導電性部材を示す。
【図7】バックゲート型FETにおいて、口腔内細菌に対する抗体を超微細繊維体に結合させた例を示す図である。100はバックゲート型FET、102は支持基板、104は第一の絶縁膜、106は第二の絶縁膜、108はソース電極、110はドレイン電極、112は超微細繊維体、114はゲート電極、472は抗体、482は試料溶液を示す。
【図8】バックゲート型FETにおいて、口腔内細菌に対する抗体を絶縁性保護膜に結合させた例を示す図である。100はバックゲート型FET、102は支持基板、104は第一の絶縁膜、106は第二の絶縁膜、108はソース電極、110はドレイン電極、112は超微細繊維体、114はゲート電極、472は抗体、482は試料溶液、640は絶縁性保護膜を示す。
【図9】バックゲート型FETにおいて、口腔内細菌に対する抗体を第二の絶縁膜に結合させた例を示す図である。510、520および520aはバックゲート型FET、102は支持基板、104は第一の絶縁膜、106は第二の絶縁膜、108はソース電極、110はドレイン電極、112は超微細繊維体、512、522、522aおよび522bはゲート電極、472、472aおよび472bは抗体、490、490aおよび490bは試料溶液を示す。
【図10】バックゲート型FETにおいて、口腔内細菌に対する抗体を第二の絶縁膜に結合させた他の例を示す図である。102は支持基板、104は第一の絶縁膜、106は第二の絶縁膜、108はソース電極、110はドレイン電極、112は超微細繊維体、114はゲート電極、116は凹部側壁、472は抗体、482は試料溶液を示す。
【図11】バックゲート型FETにおいて、口腔内細菌に対する抗体をゲート電極に結合させた例を示す図である。530および530aはバックゲート型FET、102は支持基板、104は第一の絶縁膜、106は第二の絶縁膜、108はソース電極、110はドレイン電極、112は超微細繊維体、532、532aおよび532bはゲート電極、472、472aおよび472bは抗体、490、490aおよび490bは試料溶液を示す。
【図12】サイドゲート型FETにおいて、口腔内細菌に対する抗体を超微細繊維体に結合させた例を示す図である。102は支持基板、104は第一の絶縁膜、108はソース電極、110はドレイン電極、112は超微細繊維体、114はゲート電極、472は抗体、490は試料溶液を示す。
【図13】サイドゲート型FETにおいて、口腔内細菌に対する抗体を絶縁性保護膜に結合させた例を示す図である。102は支持基板、104は第一の絶縁膜、108はソース電極、110はドレイン電極、112は超微細繊維体、114はゲート電極、472は抗体、490は試料溶液、640は絶縁性保護膜を示す。
【図14】サイドゲート型FETにおいて、口腔内細菌に対する抗体を第一の絶縁膜に結合させた例を示す図である。102は支持基板、104は第一の絶縁膜、108はソース電極、110はドレイン電極、112は超微細繊維体、114はゲート電極、472は抗体、490は試料溶液を示す。
【図15】サイドゲート型FETにおいて、口腔内細菌に対する抗体を第二の絶縁膜に結合させた他の例を示す図である。102は支持基板、104は第一の絶縁膜、106は第二の絶縁膜、108はソース電極、110はドレイン電極、112は超微細繊維体、114はゲート電極、116は凹部側壁、472は抗体、482は試料溶液を示す。
【図16】サイドゲート型FETにおいて、口腔内細菌に対する抗体をゲート電極に結合させた例を示す図である。102は支持基板、104は第一の絶縁膜、108はソース電極、110はドレイン電極、112は超微細繊維体、114はゲート電極、472は抗体、490は試料溶液を示す。
【図17】分離ゲート型FETにおいて、口腔内細菌に対する抗体をゲート素子部の絶縁膜に結合させた例を示す図である。600は分離ゲート型FET、102は第一の支持基板、104は第一の絶縁膜、106は第二の絶縁膜、108はソース電極、110はドレイン電極、112は超微細繊維体、202は第二の支持基板、204は第三の絶縁膜、206は第四の絶縁膜、472は抗体、490は試料溶液、602はゲート電極、210は導電性基板、212は超微細繊維体素子部、214はゲート素子部を示す。
【図18】分離ゲート型FETにおいて、口腔内細菌に対する抗体をゲート素子部の絶縁膜に結合させた他の例を示す図である。610および610aはゲート素子部、202は第二の支持基板、204は第三の絶縁膜、206は第四の絶縁膜、472、472aおよび472bは抗体、490、490aおよび490bは試料溶液、612、612aおよび612bはゲート電極を示す。
【図19】分離ゲート型FETにおいて、口腔内細菌に対する抗体をゲート素子部のゲート電極に結合させた例を示す図である。620および620aはゲート素子部、202は第二の支持基板、204は第三の絶縁膜、206は第四の絶縁膜、472、472aおよび472bは抗体、490、490aおよび490bは試料溶液、622、622aおよび622bはゲート電極を示す。
【図20】分離ゲート型FETにおいて、複数のゲート素子部がある場合に複数種の抗体を各ゲート電極に結合させた例を示す図である。630は分離ゲート型FET、102は第一の支持基板、104は第一の絶縁膜、106は第二の絶縁膜、108はソース電極、110はドレイン電極、112は超微細繊維体、202は第二の支持基板、204は第三の絶縁膜、206は第四の絶縁膜、472aおよび472bは抗体、490aおよび490bは試料溶液、622はゲート電極、210は導電性基板、212は超微細繊維体素子部、214aおよび214bはゲート素子部を示す。
【図21】分離ゲート型FETにおいて、複数種の抗体をそれぞれゲート素子部の絶縁膜に結合させた例を示す図である。800は分離ゲート型FET、102は第一の支持基板、104は第一の絶縁膜、106は第二の絶縁膜、108はソース電極、110はドレイン電極、112は超微細繊維体、202は第二の支持基板、204は第三の絶縁膜、206は第四の絶縁膜、472aおよび472bは抗体、490aおよび490bは試料溶液、612aおよび612bはゲート電極、210は導電性基板、212は超微細繊維体素子部、214はゲート素子部を示す。
【図22】分離ゲート型FETにおいて、複数種の抗体をそれぞれゲート素子部の絶縁膜に結合させた他の例を示す図である。900は分離ゲート型FET、102は第一の支持基板、104は第一の絶縁膜、106は第二の絶縁膜、108はソース電極、110はドレイン電極、112は超微細繊維体、202は第二の支持基板、204は第三の絶縁膜、206は第四の絶縁膜、472aおよび472bは抗体、490aおよび490bは試料溶液、612aおよび612bはゲート電極、302は第一の導電性基板、304は第二の導電性基板、306は導電性部材、212は超微細繊維体素子部、214はゲート素子部を示す。
【図23】抗ミュータンス菌抗体SW1の抗体価を測定した結果を示す。縦軸は415nmの波長の光の吸光度(光学密度)、横軸は希釈倍率を示す。グラフにおいて、SW1(◆)は希釈系列を作製した抗体を添加した場合、コントロール(□)は別ロットのSW1抗体を添加した場合、SFM(▲)は抗体を添加しない場合の結果を示す。
【図24】抗ソブリヌス菌抗体2C7の抗体価を測定した結果を示す。縦軸は415nmの波長の光の吸光度(光学密度)、横軸は希釈倍率を示す。グラフにおいて、2C7(◆)は希釈系列を作製した抗体を添加した場合、コントロール(□)は別ロットの2C7抗体を添加した場合、SFM(▲)は抗体を添加しない場合の結果を示す。
【図25】抗ミュータンス菌抗体SW1の特異性試験の結果を示す。縦軸は415nmの波長の光の吸光度(光学密度)を示し、横軸に各細菌が示される。ミュータンス菌とだけ抗体−抗原複合体を形成していることがわかる。グラフにおいて、SW1は希釈系列を作製した抗体を添加した場合、コントロールは別ロットのSW1抗体を添加した場合、SFMは抗体を添加しない場合の結果を示す。
【図26】抗ソブリヌス菌抗体2C7の特異性試験の結果を示す。縦軸は415nmの波長の光の吸光度(光学密度)を示し、横軸に各細菌が示される。ソブリヌス菌とだけ抗体−抗原複合体を形成していることがわかる。グラフにおいて、2C7は希釈系列を作製した抗体を添加した場合、コントロールは別ロットのSW1抗体を添加した場合、SFMは抗体を添加しない場合の結果を示す。
【図27】本発明の検出装置を用いてミュータンス菌を検出したときの、各ステップにおけるソース−ドレイン電流値(ゲート電圧:−3V)が示される。
【図28】図27に示された結果を、縦軸をソース−ドレイン電流値、横軸を菌濃度としてプロットしたグラフである。
【図29】本発明の検出装置を用いてソブリヌス菌を検出したときの、各ステップにおけるソース−ドレイン電流値(ゲート電圧:15V)が示される。
【図30】図29に示された結果を、縦軸をソース−ドレイン電流値、横軸を菌濃度としてプロットしたグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板、前記基板上に配置されたソース電極およびドレイン電極、前記ソース電極とドレイン電極とを電気的に接続する超微細繊維体を含むチャネル、ならびに前記チャネルを流れる電流を制御するゲート電極を有する電界効果トランジスタ、および
前記電界効果トランジスタに結合された、口腔内細菌に対する抗体を含む、口腔内細菌の検出装置。
【請求項2】
基板、前記基板上に配置されたソース電極およびドレイン電極、前記ソース電極とドレイン電極とを電気的に接続する超微細繊維体を含むチャネル、ならびに前記チャネルを流れる電流を制御するゲート電極を有する電界効果トランジスタ、および
前記電界効果トランジスタに結合された口腔内細菌を含む、口腔内細菌に対する抗体の検出装置。
【請求項3】
前記口腔内細菌は、う蝕原因菌である、請求項1または2に記載の検出装置。
【請求項4】
前記う蝕原因菌は、ストレプトコッカス・ミュータンスまたはストレプトコッカス・ソブリヌスである、請求項3に記載の検出装置。
【請求項5】
前記抗体は、前記電界効果トランジスタの基板、ゲート電極または超微細繊維体に結合されている、請求項1に記載の検出装置。
【請求項6】
前記抗体は、二価性架橋試薬を介して前記電界効果トランジスタに結合されている、請求項1に記載の検出装置。
【請求項7】
前記抗体の結合濃度は、1ng/ml〜1000mg/mlである、請求項1に記載の検出装置。
【請求項8】
前記超微細繊維体は、カーボンナノチューブである、請求項1または2に記載の検出装置。
【請求項9】
前記ゲート電極は、前記基板に自由電子の移動による分極を生じさせる、請求項1または2に記載の検出装置。
【請求項10】
前記基板は、半導体または金属からなる支持基板、前記支持基板の第一の面に形成された第一の絶縁膜、および前記支持基板の第二の面に形成された第二の絶縁膜を有し、
前記ソース電極、ドレイン電極およびチャネルは、前記第一の絶縁膜上に配置され、
前記ゲート電極は、前記第二の絶縁膜上に配置されており、かつ
前記抗体は、前記第二の絶縁膜またはゲート電極に結合されている、請求項1に記載の検出装置。
【請求項11】
前記基板は、半導体または金属からなる支持基板、および前記支持基板の第一の面に形成された第一の絶縁膜を有し、
前記ソース電極、ドレイン電極、チャネルおよびゲート電極は、前記第一の絶縁膜上に配置され、かつ
前記抗体は、前記第一の絶縁膜またはゲート電極に結合されている、請求項1に記載の検出装置。
【請求項12】
前記ゲート電極と前記超微繊維体との間隔が10mm以上である、請求項11に記載の検出装置。
【請求項13】
前記電界効果トランジスタは、前記基板に電気的に接続されている第二の基板をさらに含み、
前記基板は、半導体または金属からなる支持基板、および前記支持基板の第一の面に形成された第一の絶縁膜を有し、
前記ソース電極、ドレイン電極およびチャネルは、前記第一の絶縁膜上に配置され、
前記ゲート電極は、前記第二の基板の第一の面上に配置されており、かつ
前記抗体は、前記第二の基板の第一の面またはゲート電極に結合されている、請求項1に記載の検出装置。
【請求項14】
請求項1に記載の検出装置に含まれる抗体に、口腔内細菌を含むサンプルを接触させるステップ、および
前記接触後の電界効果トランジスタのソース−ドレイン電流またはソース−ドレイン電圧を測定するステップ、を含む口腔内細菌を検出する方法。
【請求項15】
前記口腔内細菌を含むサンプルは、唾液またはその処理物である、請求項14に記載の口腔内細菌を検出する方法。
【請求項16】
請求項2に記載の検出装置に含まれる口腔内細菌に、口腔内細菌に対する抗体を含むサンプルを接触させるステップ、および
前記接触後の電界効果トランジスタのソース−ドレイン電流またはソース−ドレイン電圧を測定するステップ、を含む口腔内細菌に対する抗体を検出する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【公開番号】特開2008−82986(P2008−82986A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−266125(P2006−266125)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【出願人】(000181217)株式会社ジーシー (279)
【Fターム(参考)】