説明

口腔洗浄剤、オゾン水製造方法、及び口腔洗浄剤製造装置

【課題】使用者に与える負担を軽減でき、バイオフィルムを充分に除去でき、且つエナメル質の脱灰を充分に抑制できる口腔洗浄剤を提供すること。
【解決手段】本発明は、pHが8以上12以下であり、口腔内細菌性疾患の予防に用いられる液体の口腔洗浄剤を提供する。本発明の口腔洗浄剤によれば、うがいを所定時間行うだけで、バイオフィルムを迅速に溶解し、除去することができる。一方、強アルカリによる口腔内の傷害等の問題も発生しない。また、口腔洗浄剤に所定の塩を添加することにより、バイオフィルムの溶解能を向上させると共に、歯質の再石灰化を促進することができる。本発明においては、口腔洗浄剤の一例であるオゾン水製造方法、口腔洗浄剤製造装置の一例であるオゾン水製造装置を提供する。本発明のオゾン水製造方法、口腔洗浄剤製造装置によれば、口腔洗浄剤の一例であるオゾン水を容易に製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、う蝕防止のために用いられる口腔洗浄剤、並びに、口腔洗浄剤の一つであるオゾン水、オゾン水の製造方法、及び口腔洗浄剤製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
口腔内細菌性疾患の代表例であるう蝕は、歯周病と並ぶ歯科の二大疾患の一つであり、歯質の表面で増殖したう蝕原因菌が産生する乳酸などの酸で、エナメル質又は象牙質を構成する無機質が溶解(脱灰)されることにより誘発される歯質の欠損である。
【0003】
う蝕の進行の過程においては、バイオフィルムが歯質の表面に形成される。バイオフィルムが歯質表面に形成されると、バイオフィルム直下の歯質が脱灰し、う蝕が誘発される(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
そこで、う蝕を防止するために、う蝕原因菌を増殖抑制又は殺菌すること、機械的手段を用いてバイオフィルムを除去すること、脱灰された歯質を再石灰化させることなどが行われている。
【0005】
う蝕原因菌を増殖抑制又は殺菌する方法の代表例としては、う蝕原因菌の増殖抑制成分又は殺菌成分を含有する含嗽剤を用いたうがいなどが挙げられる。この方法によれば、歯質表面でのう蝕原因菌の増殖が抑制されることで、歯質の脱灰が抑制されるので、う蝕を有効に予防できるとされている。
【0006】
また、機械的手段を用いてバイオフィルムを除去する方法の代表例としては、家庭的に行われるブラッシングや、歯科医師による口腔内清掃(PMTC)などが挙げられる。これらの方法によれば、一旦増殖したう蝕原因菌がバイオフィルムとともに除去されるので、歯質表面における酸の産生が低減され、う蝕を有効に防止できるとされている。
【0007】
更に、脱灰されたエナメル質を再石灰化する方法の代表例としては、家庭的に行われるキシリトールなどの糖アルコールの摂取やフッ素塗布などが挙げられる。キシリトール等の糖アルコールを含んだ食品を摂取した場合、咀嚼することで唾液が多量に分泌されることにより、唾液中に含まれるカルシウムイオンやリン酸イオンにより脱灰されたエナメル質が再石灰化され、更に、唾液中の成分により細菌の増殖を防ぐことができるとされている。一方、フッ素塗布を行った場合、フルオロアパタイトにより再石灰化が促進される。このため、歯質の脱灰から欠損への進行が抑制されるので、う蝕を有効に防止できるとされている。
【特許文献1】特開2003−116516号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、含嗽剤によるうがいなどでは、一旦バイオフィルムが形成されると、バイオフィルムの内部にまで含嗽剤の成分が到達しないため、う蝕原因菌の増殖抑制、殺菌が充分になされない。
【0009】
更に、バイオフィルムを構成する主な多糖類であるα−1,3−グルカン、及びα−1,6−グルカンは、一般に、水に不溶であることが知られている。このため、バイオフィルムが水に分散せず、バイオフィルムを除去することもできなかった。よって、一旦バイオフィルムが形成されると、う蝕を防止できなかった。
【0010】
また、家庭的に行われるブラッシングでは、バイオフィルムを完全に除去しきれない場合が多く、歯科医師によるPMTCでは、家庭的に行うことができないうえ、処置に長時間を要するといったように、患者に与える負担が大きかった。
【0011】
更に、糖アルコールの摂取やフッ素塗布のみでは、脱灰速度を上回る速度で効果的に再石灰化させることが困難である。このため、う蝕を防止するためには、糖アルコールの摂取やフッ素塗布と他の手法を併せて行い、脱灰を抑制する必要があった。
【0012】
本発明は、以上の問題に鑑みてなされたものであり、使用者に与える負担を軽減でき、バイオフィルムを充分に除去でき、且つ歯質の脱灰を充分に抑制できる口腔洗浄剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、pHが8以上12以下である液体の口腔洗浄剤を用いることで、口腔内環境をアルカリ性化して脱灰を抑制できるとともに、バイオフィルムを溶解して効率的に除去できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0014】
(1) 液体の口腔洗浄剤であって、pHが8以上12以下であり、口腔内細菌性疾患の予防に用いられる口腔洗浄剤。
【0015】
(1)の発明によれば、口腔洗浄剤をpH8以上のアルカリ性としたので、α−1,3−グルカン、及びα−1,6−グルカンが口腔洗浄剤に溶解する。これによりバイオフィルムが分散するので、バイオフィルムを十分に除去できる。
しかも、口腔洗浄剤を液体としたので、うがいを所定時間行うだけで、バイオフィルムが迅速に分散されて除去される。よって、使用者に与える負担を激減できる。
また、口腔洗浄剤を用いた後の口腔内環境は一時的にアルカリ性になり、その後正常なpHを保つようになり、酸性化が抑制されるため、歯質の脱灰を充分に抑制できる。
【0016】
一方で、口腔洗浄剤をpH12以下としたので、強アルカリによる口腔内の傷害等の問題も発生しない。よって、使用者に対する安全性を確保できる。その他、血中カリウム値の上昇などの悪影響を人体に及ぼすことがない。
【0017】
ここで、「口腔内細菌性疾患」とは、口腔内において細菌により引き起こされる疾患を指し、具体的には、う蝕を指す。
【0018】
(2) カルシウムイオン、リン酸イオン、重炭酸イオンからなる群より選ばれる少なくとも一種が有効量添加された(1)に記載の口腔洗浄剤。
【0019】
(2)の発明によれば、カルシウムイオン、リン酸イオン、重炭酸イオンといった歯質の再石灰化に必要なイオンを有効量添加したので、これらのイオンが口腔内の洗浄に伴って供給されることで、歯質の再石灰化が促進される。よって、歯質が脱灰された状態から欠損された状態へと移行するのを充分に抑制できる。
【0020】
しかも、カルシウムイオン、リン酸イオン、重炭酸イオンからなる群より選ばれる少なくとも一種が有効量添加された口腔洗浄剤は、多くのα−1,3−グルカン、及びα−1,6−グルカンを溶解させることができる。よって、歯質の表面から、バイオフィルムを有効に除去できる。
【0021】
(3) 消毒性成分が有効量添加された(1)又は(2)に記載の口腔洗浄剤。
【0022】
(3)の発明によれば、消毒性成分を有効量添加したので、口腔内のう蝕原因菌が消毒(殺菌)され、う蝕をより防止できる。
【0023】
ここで、口腔洗浄剤に添加される消毒性成分とは、う蝕原因菌に対する殺菌作用を有する成分を指し、例えば、オゾンが挙げられる。
【0024】
(4) 消毒性成分が含有されていない(1)又は(2)に記載の口腔洗浄剤。
【0025】
口腔内に存在するう蝕や他の疾患の原因とならない菌類は、口腔常在菌とよばれる。口腔常在菌により、口腔常在菌叢が口腔内に形成されると、結核菌、ピロリ菌、真菌、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌、及び緑膿菌等の、重篤な疾患の原因細菌が新たに侵入し、口腔内で増殖するのが抑制される。
【0026】
(4)の発明によれば、口腔洗浄剤に消毒性成分を実質的に含有させなかったので、口腔内常在菌叢は破壊されない。これにより、重篤な疾患の原因となる細菌の侵入及び増殖が抑制されるから、重篤な疾患の発症を予防できる。
【0027】
(5) 電解質を含有する原料水を電気分解することにより、pHが調整された(1)から(4)のいずれかに記載の口腔洗浄剤。
【0028】
電解質を含有する水を電気分解した場合、陰極付近の溶液の液性はアルカリ性を示し、陽極付近の溶液の液性は酸性を示す。(5)の発明によれば、電解質を含有する原料水を電気分解することによって、pHが8以上12以下に調整された口腔洗浄剤を容易に入手できる。
【0029】
ここで、原料水に添加される電解質は、生体に適用できる電解質である限りにおいて、特に限定されない。具体的には、乳酸カルシウム、グリセロリン酸カルシウム、炭酸カルシウム、及び水酸化カルシウム等が挙げられる。
【0030】
(6) 水のpHが上昇された高pH水を調製する高pH水調製工程と、調製された高pH水にオゾンを溶解させる溶解工程と、を備えるオゾン水製造方法。
【0031】
(6)の発明によれば、高pH水調製工程において高pH水を調製し、溶解工程において高pH水にオゾンを溶解させるので、pHが高く保たれたオゾン水を製造できる。
【0032】
(7) 前記高pH水調製工程は、カルシウム塩を含有する原料水を電気分解することで、高pH水と低pH水とを生成する電気分解工程と、生成された高pH水を分離する分離工程と、を有する(6)に記載のオゾン水製造方法。
【0033】
(7)の発明によれば、電解質を含有する原料水を電気分解することで、高pH水と低pH水が生成され、分離した高pH水を用いることで、pHが高く保たれたオゾン水を製造できる。ここで、高pH水を電気分解で調製したので、電圧、水量等の電気分解条件を変更するだけで、容易にpHを制御できる。
【0034】
(8) 消毒性成分を水に溶解させる溶解手段と、この溶解手段に水供給路を介して水を供給する水供給手段と、前記溶解手段に消毒性成分供給路を介して消毒性成分を供給する消毒性成分供給手段と、を備える口腔洗浄剤製造装置であって、前記水供給手段は、前記水供給路に接続され水のpHが上昇された高pH水を調製する高pH水調製手段と、前記高pH水調製手段に原料水を供給する原料水供給手段と、を有する口腔洗浄剤製造装置。
【0035】
(8)の発明によれば、まず、原料水供給手段により原料水が高pH調製手段に供給され、この原料水はpHが調整されて高pH水となる。続いて、高pH水は水供給路を介して溶解手段に供給され、消毒性成分供給路を介して消毒性成分供給手段から供給された消毒性成分を溶解することで、口腔洗浄剤が生成される。このように、(8)の発明によれば、pHの高い口腔洗浄剤を製造するための口腔洗浄剤製造装置を提供できる。
【0036】
(9) 前記原料水供給手段は、電解質を含有する原料水を供給し、前記高pH水調製手段は、供給された原料水を電気分解することで、高pH水を生成する電気分解手段を有する(8)に記載の口腔洗浄剤製造装置。
【0037】
(9)の発明によれば、原料水供給手段に電気分解手段を設けたので、オゾン水の製造に用いられる高pH水は、電気分解で調製される。このため、電圧、水量等の電気分解条件を変更するだけで、容易にpHを調節できる。
【0038】
(10) 前記高pH水調製手段は、生成する高pH水を所定の範囲内に保持するpH制御手段を有する(8)又は(9)に記載の口腔洗浄剤製造装置。
【0039】
(11) 前記溶解手段は、高pH水に溶解させる消毒性成分の濃度を所定の範囲内に保持する濃度制御手段を更に有する(10)に記載の口腔洗浄剤製造装置。
【0040】
(10)及び(11)の発明によれば、口腔洗浄剤のpH及び消毒性成分の濃度が所定の範囲内に保持されるので、口腔洗浄剤の使用目的に応じて、口腔洗浄剤のpH及び、口腔洗浄剤に含まれる消毒性成分の濃度を調整することができる。
【発明の効果】
【0041】
本発明によれば、口腔洗浄剤をpH8以上のアルカリ性としたので、α−1,3−グルカン、及びα−1,6−グルカンが口腔洗浄剤に溶解する。これにより、バイオフィルムが分散するので、バイオフィルムを充分に除去できる。しかも、口腔洗浄剤を液体としたので、うがいを所定時間行うだけで、バイオフィルムが迅速に分散されて除去される。よって、使用者に与える負担を激減できる。また、口腔洗浄剤を用いた後の口腔内環境は一時的にアルカリ性になり、その後正常なpHを保って、酸性化が抑制されるため、歯質の脱灰を充分に抑制できる。
【0042】
一方で、口腔洗浄剤をpH12以下としたので、強アルカリによる口腔内の傷害等の問題も発生しない。よって、使用者に対する安全性を確保できる。その他血中カリウム値の上昇などの悪影響を人体に及ぼすことがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0044】
<口腔洗浄剤>
本実施形態に係る口腔洗浄剤は液体の口腔洗浄剤であって、口腔内細菌性疾患の予防に用いられる口腔洗浄剤である。口腔洗浄剤のpHは、低すぎると、α−1,3−グルカン、及びα−1,6−グルカン(以下、「ムタン」ということがある)の充分な溶解度が得られない場合がある一方、高すぎると、血中カリウム値の上昇など、人体に悪影響を及ぼすおそれがあることから、8以上12以下であり、好ましくは9以上10.5以下である。
【0045】
口腔洗浄剤のpHを調節する方法は特に限定されない。即ち、口腔洗浄剤のpHは、水に塩基性の化合物を添加することで調節されてもよく、電解質を含有する水を電気分解することで調節されてもよい。
【0046】
pHの調節のために、水に添加できる塩基性の化合物としては、特に限定されないが、例えば、水酸化カルシウム等の強塩基、並びに乳酸カルシウム、重炭酸ナトリウム、及びリン酸水素ナトリウム等の弱酸と強塩基との塩が挙げられる。また、口腔洗浄剤に緩衝作用が付与され口腔内のpHを長時間に亘って、一定のpH以上に維持できる点で、弱塩基とその塩とを所定量添加することが好ましい。
【0047】
口腔洗浄剤のpHの調節は、電解質を含有する水を電気分解することで行ってもよい。口腔洗浄剤のpHの調節にあたって使用できる電解質としては、乳酸カルシウム、グリセロリン酸カルシウム、炭酸カルシウム、及び水酸化カルシウム等が挙げられる。電解質の含有量としては、例えば炭酸カルシウムであれば、300mg/l以下であることが好ましい。
【0048】
電解質を添加した水の電気分解は、半透膜を有する電解槽で行う。電解質として、乳酸カルシウムを用いた場合、陰極側では水溶液中に含まれる水素イオンが、電子を獲得して水素分子となり、放出される。このため、陰極側の水溶液では、水素イオンに比べて水酸化物イオンが過剰な状態となり、pHが上昇する。水溶液を電気的中性に保つために、半透膜を通じて陽極側の水溶液からカルシウムイオンが浸透するので、陰極側の水溶液はカルシウムイオン、水酸化物イオン、乳酸イオンが混在する状態となり、ミネラルを多く含むようになる。
【0049】
[イオンの添加]
本実施形態に係る口腔洗浄剤には、必要に応じて所定のイオンを添加するで、歯質の再石灰化作用を向上できる。このようなイオンとしては、例えば、カルシウムイオン、リン酸イオン、重炭酸イオンが挙げられる。
【0050】
カルシウムイオンは、歯質の脱灰部に供給されると、脱灰部の再石灰化を促進する。また、カルシウムイオンを溶解させると、口腔洗浄剤のムタン溶解能が更に向上される。カルシウムイオンの供給源としては、乳酸カルシウム、リン酸化オリゴ糖カルシウム、及び炭酸カルシウム等が挙げられる。口腔洗浄剤中のカルシウムイオンの含有量は、1mol/L以下であることが好ましい。
【0051】
[消毒性成分の添加]
本実施形態に係る口腔洗浄剤には、必要に応じて、消毒性成分が添加されてよい。これにより、バイオフィルムの除去と併せて、う蝕原因菌の殺菌を行うことができる。口腔洗浄剤に添加できる消毒性成分としては、特に限定されないが、例えば、オゾンが挙げられる。
【0052】
[高pHオゾン水]
本実施形態に係る口腔洗浄剤に、オゾンを溶解させることにより、pHが高く保たれた高pHオゾン水を製造できる。高pHオゾン水のpHとしては、8以上10以下であることが好ましく、8以上9以下であることが更に好ましい。高pHオゾン水中のオゾンの含有量は、0.05ppm以下であることが好ましい。
【0053】
オゾンは、水に溶解されると低いpH値を示すので、エナメル質及び象牙質の脱灰を促進する。しかし、高pHオゾン水によれば、pHが高く保たれるので、歯質の脱灰を抑制でき、更に、高pHオゾン水の適用部位のpHを高く維持できる。また、オゾンを溶解させることで、口腔洗浄剤のムタン溶解能を更に向上できる。
【0054】
なお、本実施形態に係る口腔洗浄剤は、消毒成分を実質的に含有しなくてもよい。これにより、う蝕原因菌を除く有用な口腔常在菌が殺菌されないので、口腔内における、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌、真菌、及び緑膿菌などの、他の重篤な疾患の原因となる細菌の付着及び増殖が抑制される。よって、これらの細菌により引き起こされる重篤な疾患を予防できる。
【0055】
また、本実施形態に係る口腔洗浄剤は、生体洗浄剤として、他の疾患の治療などにも用いることができるものである。具体的には、歯周病原因菌が構成するバイオフィルムの除去などの口腔内に形成されるバイオフィルムの除去、膀胱留置カテーテルに際して、尿路内に形成されるバイオフィルムの除去、及び、人工関節形成手術などにおいて、人工関節形成部位に形成されるバイオフィルムの除去などにも好適に用いることができる。
【0056】
<オゾン水製造方法>
本実施形態に係るオゾン水製造方法は、水のpHが上昇された高pH水を調製する高pH水調製工程と、調製された高pH水にオゾンを溶解させる溶解工程と、を備える。
【0057】
[高pH水調製工程]
高pH水調製工程においては、水のpHを調節することにより、高pH水を得る。高pH水の調製は、pHが10.0以上12.0以下となるように行うことが好ましい。水のpHを調節する方法は特に限定されない。即ち、口腔洗浄剤のpHは、水に塩基性の化合物を添加することにより調節してもよく、電解質を有する水を電気分解することで調節してもよい。
【0058】
(塩基性の化合物の添加)
pHの調節のために、水に添加できる化合物としては、特に限定されないが、例えば、水酸化カルシウム等の強塩基、及び乳酸カルシウム等の弱酸と強塩基の塩などが挙げられる。また、弱塩基とその塩を所定量添加することにより、口腔洗浄剤に緩衝作用を持たせてもよい。これにより、口腔内環境が高pHに維持されるので、う蝕を長時間に亘って抑制できる。
【0059】
(電気分解工程)
高pH水の調製にあたっては、電解質を添加した水を電気分解することにより、pHの調節を行ってもよい。口腔洗浄剤のpHの調節に使用できる電解質としては、乳酸カルシウム、グリセロリン酸カルシウム、炭酸カルシウム、及び水酸化カルシウムが挙げられる。添加する電解質の濃度としては、例えば炭酸カルシウムであれば、300mg/l以下であることが好ましい。
【0060】
電解質を含有する水の電気分解は、半透膜を有する電解槽で行う。電解質として、水酸化カルシウムを用いた場合、陰極側では水溶液中に含まれる水素イオンが電子を獲得して水素分子となり、放出される。このため、陰極側の水溶液では、水素イオンに比べて水酸化物イオンが過剰な状態となり、全体的にpHが上昇する。同時に、水溶液を電気的に中性に保つため、半透膜を通じて陽極側の水溶液からカルシウムイオンが浸透するため、陰極側の水溶液はカルシウムイオン、水酸化物イオンが混在する状態となり、ミネラル成分の多い状態となる。
【0061】
なお、電気分解工程は、一定量の水を蓄えて電気分解を行うバッチ式で行ってもよいし、一定の流速で連続的に水を通水して電気分解を行う連続通水式で行ってもよいが、効率よく大量の高pH水を製造できる点で、連続通水式で行うことが好ましい。
【0062】
連続通水式で行う場合、電解槽の陰極側に含まれる水溶液のpHに応じて、通水する水の水量を調整することが好ましい。即ち、陰極側の水溶液のpHが所定のpH(上限値)を超える場合には、通水する水の水量を増加させて、pHが所定(上限値)のpHを越える前に電解槽から高pH水を回収し、pHが所定のpH(下限値)未満である場合には、通水する水の水量を低下させて、pHが所定のpH(下限値)以上となるまで、電解槽から高pH水を回収しない。これにより、高pH水のpHを所定のpHの範囲に保つことができる。
【0063】
(分離工程)
分離工程では、電気分解工程により陰極側で生じた高pH水を回収する。電気分解工程において用いられる電解槽では、陽極側と陰極側とが半透膜で区切られているため、陽極側に生じた低pH水を排出し、陰極側に生じた高pH水を回収することにより、高pH水を分離できる。
【0064】
[オゾン]
本実施形態に係るオゾン水製造方法において、オゾンを供給する方法としては、オゾン水の製造と平行してオゾンを発生させる方法が挙げられる。オゾンを発生させる方法としては、具体的には無声放電が挙げられる。
【0065】
無声放電では、板状の誘電体と、板状の金属又は板状の誘電体とを、0.1mm〜10mmの間隔で配置して、乾燥させた酸素を含む気体を誘電体と誘電体又は金属との間に流して9000V以上12000V以下の電圧をかけることにより、オゾンを発生できる。なお、誘電体と誘電体又は金属との間に流す気体としては、一酸化窒素の発生を抑制できる点で、窒素を実質的に含有していない気体が好ましく、酸素がより好ましい。
【0066】
[溶解工程]
溶解工程では、高pH水調製工程において製造した高pH水にオゾンを溶解させる。オゾンは、例えば、高pH水にオゾンを含有する気体をバブリングさせるとともに、圧力を負荷することで、溶解できる。高pH水へのオゾンのバブリングでは、溶解の効率を高めるため、より小さな気泡を生じさせることが好ましい。なお、バブリングは、溶解装置内部に設けられ微小な孔を有するパイプ内に、一定以上の圧力を有するオゾンを供給することで行うことができる。
【0067】
高pH水にオゾンを溶解させる場合、オゾン濃度は、高pH水中のオゾン濃度を測定し、その測定値に応じてオゾンを含有する気体の供給量、オゾンを含有する気体中に含まれるオゾンの含有量、及びオゾンを含有する気体を供給する圧力を調整することで、変更できる。高pH水中のオゾン濃度を測定する方法としては、特に限定されないが、例えば紫外吸収法などが挙げられる。
【0068】
<オゾン水製造装置>
図1は、本実施形態に係るオゾン水製造装置10の概略構成図である。図2は、オゾン水製造装置10のブロック図である。
【0069】
オゾン水製造装置10は、口腔洗浄剤製造装置の一例である。オゾン水製造装置10は、オゾンを水に溶解させる溶解手段としての溶解装置20と、この溶解装置20に水供給路31を介して水を供給する水供給手段としての水供給装置30と、水に塩類を供給して塩類を含有した水を、塩類含有水供給路63を通じて溶解装置20に供給する塩類供給装置60と、溶解装置20にオゾン供給路41(消毒性成分供給路の一例)を介してオゾンを供給する消毒性成分供給手段としてのオゾン供給装置40と、オゾン水製造装置10を制御する制御装置50と、を備える。
【0070】
[水供給装置]
水供給装置30は、供給された原料水を電気分解することで高pH水を生成する電気分解手段としての電気分解装置32と、この電気分解装置32に原料水としての水道水を供給する原料水供給手段としての原料水供給部33と、を備える。電気分解装置32は、高pH水調製手段及び電気分解手段を構成する。
【0071】
電気分解装置32は、内部を水が流通可能な電気分解槽321と、この電気分解槽321の内部空間を分割する半透膜322と、この半透膜322に関して反対側に各々配置された陰極323及び陽極324と、を有する。これら陽極324及び陰極323は、電源325の正極及び負極にそれぞれ電気的に接続され、この電源325は、後述する制御部51に接続されており、水道水が電気分解槽321へ通水されると電流を流すように、構成されている。
【0072】
電気分解槽321の陽極324側には、低pH水排出路326が接続され、この低pH水排出路326から後述するように低pH水が排出される。一方、電気分解槽321の陰極323側には、水供給路31が接続され、この水供給路31を介して後述するように高pH水が溶解装置20へと供給される。
【0073】
原料水供給部33は、図示しない水源及び電気分解槽321を連通する原料水供給路34を有し、原料水供給路34の途中には、原料水に電解質を添加する図示しない電解質添加部が設けられている。この電解質添加部により添加される電解質としては、乳酸カルシウム、グリセロリン酸カルシウム、及び炭酸カルシウム等が挙げられる。原料水供給路34には、流量計52が設けられており、原料水供給路34を通る原料水の流量を測定できるようになっている。流量計52は、後述する制御部51に接続されている。
【0074】
[塩類供給装置]
塩類供給装置60は、水供給路31から分岐して溶解装置へと通じる塩類含有水供給路63と、塩類含有水供給路63に設けられた塩類溶解部61と、水供給路31から塩類含有水供給路63への流路の切換を行う切換弁62と、を有する。切換弁62は後述する制御部51に接続されており、使用者による操作によって、流路を切り替えることができるようになっている。
【0075】
[オゾン供給装置]
オゾン供給装置40は、オゾンを発生するオゾン発生装置42を有し、このオゾン発生装置42はオゾン供給路41を介して後述の溶解槽21に連通されている。このオゾン供給路41の途中には、コンプレッサ411及びオゾン供給弁412が設けられている。コンプレッサ411はオゾンに所定圧力を負荷する一方、オゾン供給弁412は開度に応じてオゾン供給量を変更でき、更に、使用者による操作によってオゾンを供給しないこともできる。オゾン供給弁412は、後述する制御部51に接続されている。
【0076】
なお、オゾン発生装置42としては、特に限定されないが、例えば、無声放電装置が使用できる。
【0077】
[溶解装置]
溶解装置20は、内部空間を有する溶解槽21を有する。この溶解槽21にはオゾン水放出路22が接続されており、このオゾン水放出路22から、溶解槽21内のオゾン水が外部へと放出される。また、溶解槽21には、オゾン濃度計53が配置され、このオゾン濃度計53は後述する制御部51に接続されている。
【0078】
なお、前述したオゾン供給路41の溶解槽21側の端部413の表面には微細孔が多数形成され、これら微細孔からオゾンの気泡が高pH水中へと噴出される(バブリング)。
【0079】
以上のオゾン水製造装置10は、以下のように動作する。
まず、原料水源から、原料水が、原料水供給路34を介して水供給装置30に通水される。このとき、電解質添加部により、原料水に電解質が添加される。
【0080】
電解質が添加された原料水が電気分解装置32に通水されると、電源325から電流が流通される。これにより、電気分解装置32での水の電気分解が開始される。即ち、陽極324側では低pH水が生成され低pH水排出路から排出されるとともに、陰極323側では高pH水が生成され水供給路31を介して溶解槽21内へと供給される。
【0081】
ここで、使用者が、カルシウムイオン、重炭酸イオン、リン酸イオンなどを含有するオゾン水を必要とする場合は、使用者の操作により、制御部51を介して切換弁62の切換を行い水供給路31から塩類含有水供給路63へと流路が切り替えられる。これにより、高pH水が塩類溶解部61に通水され、高pH水に塩類が溶解される。塩類が溶解された高pH水は塩類含有水供給路63を介して溶解槽21内へと供給される。
【0082】
一方、オゾン供給装置40では、稼動したオゾン発生装置42によりオゾンが発生され、このオゾンはコンプレッサ411で圧縮される。ここで、オゾン供給弁412を所定の開度に開くと、圧縮されたオゾンが、オゾン供給路41を介して溶解槽21内部へと供給される。
【0083】
溶解槽21に収容された高pH水には、オゾン発生装置42から供給されたオゾンが、端部413から微細な気泡となって噴出される(バブリング)。これにより、オゾンが高pH水に溶解されることで、高pHのオゾン水が生成される。最後に、このオゾン水はオゾン水放出路22から外部へと放出される。
【0084】
溶解槽21においては、オゾンを溶解させず、高pH水のみを生成することもできる。この場合、使用者の操作により、制御部51を介してオゾン供給弁412が閉弁され、オゾンの供給が完全に遮断される。この際、オゾン発生装置42及びコンプレッサ411は停止し、オゾンの生成及び濃縮が中断される。
【0085】
[制御装置]
図3は、制御装置50のブロック図である。
制御装置50は、制御手段としての制御部51と、この制御部51に接続された流量計52及びオゾン濃度計53と、を備える。
【0086】
流量計52は、原料水供給路34内を流通して電気分解槽321に供給される原料水の流量を検出し、制御部51へと送信する。オゾン濃度計53は、溶解槽21内の高pH水中のオゾン濃度を測定し、制御部51へと送信する。
【0087】
制御部51は、原料水量制御手段としての原料水量判断部511と、オゾン量制御手段としてのオゾン量判断部512と、を有する。
【0088】
原料水量判断部511は、流量計52での検出値が所定の流量を超える場合には、電気分解装置32において電源325により印加される電圧を上昇させ、流量計52での検出値が所定の流量未満である場合には、電源325により印加される電圧を減少させる。原料水の流量が所定の流量であるときの、電源325により印加される電圧と、電気分解の結果生成する高pH水のpHとの関係は、予め制御部51に記憶されており、これにより、印加電圧の制御を介したpHの制御が可能となる。
【0089】
オゾン量判断部512は、オゾン濃度計53での測定値が所定の濃度未満である場合には、オゾンの供給量を増加させ、オゾン濃度計53での測定値が所定の濃度を超える場合には、オゾンの供給量を低減させる。具体的には、オゾン濃度計53での測定値が所定の濃度未満である場合には、オゾン供給弁412の開度を上昇させてオゾンの供給量を増加させ、オゾン濃度計53での測定値が所定の濃度を超える場合には、オゾン供給弁412の開度を減少させてオゾンの供給量を低減させる。
【0090】
このような制御装置50の動作を、図4に基づいて説明する。
【0091】
まず、使用者が、電解質が添加された原料水を水供給装置30へと通水する(ST1)。すると、電源325は、電流を陰極323及び陽極324との間に流通させ、水供給装置30での水の電気分解を開始する(ST2)。
【0092】
次に、流量計52は電気分解槽321に供給される原料水の流量を検出し(ST3)、原料水量判断部511は、この検出値が所定値を超える時には電圧を上昇させ、検出値が所定値未満であるときには、電圧を減少させる。これにより電圧を調整する(ST4)。
【0093】
電圧を調整した後は、原料水量判断部511は、高pH水のpHが所望の範囲にあると判断し、高pH水へのオゾン溶解を開始する(ST5)。
【0094】
続いて、オゾン濃度計53が溶解槽21内に収容された高pH水中のオゾン濃度を計測し(ST6)、オゾン量判断部512は、この検出値が所定の濃度未満であるか否かを判別する(ST7)。この判別が“YES”であった場合、オゾン量判断部512はオゾン供給量を増加させた(ST8)後、ST7へと戻る。
【0095】
一方、ST7での判別が“NO”であった場合、オゾン量判断部512は、ST6での検出値が所定の濃度を超えるか否かを判別する(ST9)。この判別が“YES”であった場合、オゾン量判断部512はオゾン供給量を低減させる(ST10)。
【0096】
そして、ST9での判別が“NO”であった場合には、高pH水中のオゾン濃度が所望の値にあると判断し、終了する。
【0097】
本実施形態によれば、以下のような作用効果が得られる。
(A)水供給装置30に電気分解装置32を設けたので、オゾン水の製造に用いられる高pH水は、電気分解で調製される。このため、電圧、水量等の電気分解条件を変更するだけで、容易にpHを調節できる。
【0098】
(B)制御部51に原料水量判断部511を設けたので、流量計52で検知する原料水の流量に応じて、水供給装置30で生成される高pH水のpHを、所望の範囲に調節できるから、pHが所望の範囲にあるオゾン水を製造できる。
【0099】
(C)制御部51にオゾン量判断部512を設けたので、溶解槽21内部の高pH水中のオゾン濃度に対応させて、溶解装置20に供給するオゾン供給量を制御できるので、高pH水に溶解させるオゾン濃度を所望の所定濃度に保持できる。
【0100】
なお、本実施形態においては、電気分解装置32で高pH水調製手段を構成したが、これに限定されない。即ち、高pH水調製手段としては、原料水に塩基性の化合物などを添加して、pHを調整するものであってもよい。
【0101】
また、本実施形態においては、流量計52を用いて原料水の水量を測定し、原料水量判断部511を介して電源325における印加電圧を制御しているがこれに限定されない。即ち、高pH水のpHの調整にあたっては、pHメータで高pH水のpHを測定し、高pH水のpHが所定のpHの範囲内に収まるよう、原料水の流量を調整するものであっても良い。
【実施例】
【0102】
図5は、各実施例で使用した人工口腔装置100の全体斜視図である。
人工口腔装置100は、筒状の透光壁110で形成された内部空間を有し、この内部空間は外部から遮断されている。内部空間には、円板状のステージ120が設けられ、このステージ120の上部には複数の滴下管130の先端が配置されている。これにより、130の先端から滴下された液体培地等は、ステージ120上に載置された試料121に添加される。
【0103】
<実施例1> バイオフィルムの溶解
乳酸カルシウムを含有する水を電気分解して得られる高pH水(以下、「アルカリイオン水」ということがある)のバイオフィルム溶解能を、以下の試験を行うことにより調べた。
【0104】
牛歯エナメル質を4mm×4mm×1.5mmとなるように切断し、この切断片の表面を耐水研磨紙#800SiC〜#1500SiCで研削し、更にダイヤモンドペースト6〜3μmで研磨することで、試料を調製した。この試料を、前述した人工口腔装置100(37℃温熱還流)のステージ120上に固定し、固定された試料に、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、Streptococcus mutans MT8148株の懸濁液(OD300=3.0)、スクロース入りHI培地(25g/l スクロース、10.0g/l ハートインフュージョン、10.0g/l トリプトース、5.0g/l 塩化ナトリウム)を8時間に亘って連続的に滴下して、バイオフィルムを形成させた。
【0105】
続いて、試料を人工口腔装置100から取り出し、表面をPBSで洗浄した後、アルカリイオン水(pH11.5)、ミネラルウォーター(pH7.0)に浸しながら、常温で10Hzの振動を20秒間ずつ、1分おきに、3回加えた。次に、試料を取り出した後の各溶液500μLに、フェノール250μL及び95%硫酸1250μLを添加し、反応させた後、分光光度計(商品名Spectrophotometer BiotrakII Plate Reader、Biochrom. GE社製)を用いて490nmでの吸光度を測定することで、溶液中のグルカン濃度を算出した。この結果を図6に示す。
【0106】
図6に示されるように、アルカリイオン水(pH11.5)には、ミネラルウォーターに比べ、有意に多量のグルカンが溶解されていた。このことから、アルカリイオン水は、ミネラルウォーターよりも優れたバイオフィルム分散能を有することが確認された。
【0107】
<実施例2> バイオフィルムの溶解
振動を加えるに際して、15Hzの振動を30秒間加え、10分間放置した後15Hzの振動を30秒間加えた点を除いて、実施例1と同様の方法により、牛歯エナメル質に付着したグルカンの、ミネラルウォーター(pH7.0)、アルカリイオン水(pH11.0)、水酸化ナトリウム水溶液(pH13.5)に対する溶解量を測定した。この結果を図7に示す。
【0108】
図7に示されるように、アルカリイオン水(pH11.0)には、ミネラルウォーターに比べて有意に多量のグルカンが溶解されていたとともに、水酸化ナトリウム水溶液と同等の量のグルカンが溶解されていた。このことから、アルカリイオン水は、水酸化ナトリウム水溶液のような危険性を有しないながらも、ミネラルウォーターよりも優れ且つ水酸化ナトリウム水溶液と同等のバイオフィルム分散能を有することが確認された。
【0109】
<実施例3> エナメル質からのバイオフィルムの剥離
実施例1と同様の方法で、牛歯エナメル質の表面にバイオフィルムを形成させ、バイオフィルムの表面積を測定した。続いて、牛歯エナメル質を、pH13.5の水酸化ナトリウム水溶液(NaOH)、pH11.5のアルカリイオン水(AW(pH11.5))、pH10.0のアルカリイオン水(AW(pH10.0))、ミネラルウォーター(MW)にそれぞれ浸しながら、10分間、2時間、5時間、及び15時間、放置した。その後、各溶液から取り出した牛歯エナメル質について、バイオフィルムが付着している表面積を測定し、浸漬前バイオフィルムの表面積と比較することで、剥離されたグルカンの割合を算出した。この結果を図8に示す。
【0110】
図8に示されるように、浸漬時間が2時間以上になると、pH11.5のアルカリイオン水は、ミネラルウォーターに比べ、剥離されたグルカンの割合を有意に上昇させた。また、浸漬時間が15時間になると、pH10.0のアルカリイオン水は、ミネラルウォーターに比べ、剥離されたグルカンの割合を有意に上昇させた。このことから、アルカリイオン水は、ミネラルウォーターよりも迅速にバイオフィルム分散させ、除去できることが確認された。
【0111】
<実施例4> 口腔内細菌に与える影響
まず、実施例1と同様の方法で、牛歯エナメル質の表面にバイオフィルムを形成させた。続いて、一定量のバイオフィルムを採取し、滅菌済の水酸化ナトリウム水溶液(pH13.5)、2種類のアルカリイオン水(AW11.5、AW10.0)、ミネラルウォーター(MW)にそれぞれ懸濁した後、常温で2時間放置した。その後、各溶液中の細胞数を計数し、適宜倍率で希釈したうえで、互いに同等の細胞数をそれぞれMitis Salivarius培地に接種した。37℃で48時間培養した後、培地上に生じたコロニーの数を計数した。この結果を図9に示す。
【0112】
図9に示されるように、水酸化ナトリウム水溶液では、菌のコロニーが全く形成されなかったのに対し、いずれのアルカリイオン水、及びミネラルウォーターでは、同等数の菌のコロニーが形成されていた。即ち、アルカリイオン水は、口腔内に投与されても、口腔内常在菌等を含む有用な細菌を殺菌しないことが期待できる。
【0113】
<実施例5> 口腔内細菌に与える影響
まず、実施例1と同様の方法で、表面にバイオフィルムを形成させた牛歯エナメル質を、ミネラルウォーター(MW)、2種のアルカリイオン水(AWpH10.0、AWpH11.5)にそれぞれ30分間浸漬した。その後、牛歯エナメル質上に残存したバイオフィルムを採取し、Live/Dead BacLight Bacterial Viability Kit(Molecular Probes invitrogen detection社製)で染色し、蛍光顕微鏡で観察した。この結果を図10に示す。図10の上段は、630nmの励起光を照射したときの蛍光顕微鏡像であり、生存している細菌の存在を示す。下段は460nmの励起光を照射したときの蛍光顕微鏡像であり、死滅している細菌の存在を示す。
【0114】
同様に、0.5%シクロヘキシジン、水道水、水酸化ナトリウム水溶液(pH13.5)を用い、観察を行った。この結果を図11に示す。図11の上段は、630nmの励起光を照射したときの蛍光顕微鏡像であり、生存している細菌の存在を示し、下段は460nmの励起光を照射したときの蛍光顕微鏡像でありによる染色像であり、死滅している細菌の存在を示す。
【0115】
図10及び図11に示されるように、アルカリイオン水の殺菌効果は、シクロヘキシジンや水酸化ナトリウム水溶液よりも弱く、ミネラルウォーターと同等であった。即ち、アルカリイオン水は、口腔内に投与されても、口腔内常在菌等を含む有用な細菌を殺菌しないことが期待できる。
【0116】
<実施例6> バイオフィルムの溶解
まず、水溶液A(0.1M NaHCO、0.001M Ca(OH)、0.01M NaHPO)を、pH10.5のアルカリイオン水で100倍(溶液a)、10倍(溶液b)、2倍(溶液c)に希釈することで、浸漬液を作製した。希釈後のpHは、溶液aが10.78、溶液bが9.70、溶液cが9.01であった。
【0117】
次に、Streptococcus mutans MT8148株の懸濁液をOD500=2.0とし、スクロース含有HI培地の滴下時間を4時間とした点を除き、実施例1と同様の方法で、牛歯エナメル質の表面にバイオフィルムを形成させ、バイオフィルムの表面積を測定した。この牛歯エナメル質を各種溶液a〜c、pH13.5の水酸化ナトリウム溶液(NaOH)、pH10.5のアルカリイオン水(AW10.5)に浸漬しながら、20秒間10Hzの振動を3回繰返して与えた。
【0118】
その後、各溶液から牛歯エナメル質を取り出し、バイオフィルムの付着面積を測定し、浸漬前のバイオフィルムの付着面積と比較した。この結果を図12に示す。また、浸漬後の各溶液500μLにフェノール250μL及び95%硫酸1250μLを添加し、反応させた後、分光光度計(Spectrophotometer BiotrakII Plate Reader、Biochrom GE社製)を用いて490nmでの吸光度を測定した。この吸光度の値から、溶液中のグルカン濃度を算出した結果を図13に示す。
【0119】
図12に示されるように、溶液a〜cは、塩を添加していないアルカリイオン水よりも、有意にグルカンの残存率を低下させた。また、図13に示されるように、溶液aは、塩を添加していないアルカリイオン水よりも、有意に多量のグルカンを溶解させた。従って、アルカリイオン水に塩を添加することで、より迅速にバイオフィルムを分散させ、除去できることが確認された。
【0120】
<実施例7> 口腔内環境のpHに与える影響
歯牙を充分にブラッシングした3人の被験者に、キャラメル1個を経口投与した。続いて、被験者にアルカリイオン水でうがいを行わせ、所定時間後に採取した唾液についてpHを測定した。この結果を図14に示す。なお、pHの測定は、キャラメル投与前(キャラメル前)、キャラメル投与10分後(キャラメル後10分後)、うがいの直後(AWでうがい)、10分後(AWでうがい10分後)、20分後(AWでうがい20分後)、30分後(AWでうがい30分後)、40分後(AWでうがい40分後)に行った。
【0121】
図14に示されるように、キャラメルを投与すると、口腔内環境のpHは急速に低下するが、アルカリイオン水を用いてうがいを行うと、口腔内環境のpHは上昇し、うがいの40分後まで高pHが維持された。従って、アルカリイオン水によれば、長時間に亘りエナメル質の脱灰が抑制されることが期待できる。
【0122】
<実施例8>
まず、実施例1と同様の方法で、牛歯エナメル質の表面にバイオフィルムを形成させた。次に、この牛歯エナメル質を、オゾンを含有するアルカリイオン水(AW+OZONE)、オゾンを含有する水道水(W+OZONE)、アルカリイオン水(AW)、水道水(W)にそれぞれ浸漬しながら、20秒間10Hzの振動を1分おきに3回繰り返して与えた。その後、牛歯エナメル質を取り出した各溶液500μLに、フェノール250μL及び95%硫酸1250μLを添加し、反応させた後、分光光度計(Spectrophotometer BiotrakII Plate Reader、Biochrom. GE社製)を用い、490nmでの吸光度を測定した。この吸光度の値から、溶液中のグルカン濃度を算出した結果を図15に示す。
【0123】
図15に示されるように、オゾンを含有するアルカリイオン水は、オゾンを含有しないアルカリイオン水よりも多量のグルカンを溶解させた。従って、高pHオゾン水は、極めて優れたバイオフィルム分散能を有することが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0124】
【図1】本発明の一実施形態に係る口腔洗浄剤製造装置の概略構成図である。
【図2】図1の口腔洗浄剤製造装置のブロック図である。
【図3】前記実施形態に係る口腔洗浄剤製造装置を構成する制御装置のブロック図である。
【図4】前記実施形態に係る口腔洗浄剤製造装置のフローチャートである。
【図5】本発明の実施例で使用した人工口腔装置の斜視図である。
【図6】本発明の実施例1に係る口腔洗浄剤によるグルカン溶解能を示す図である。
【図7】本発明の実施例2に係る口腔洗浄剤によるグルカン溶解能を示す図である。
【図8】本発明の実施例3に係る口腔洗浄剤によるグルカン剥離能を示すグラフである。
【図9】本発明の実施例4に係る口腔洗浄剤の、口腔内細菌の生育に対する影響を示す図である。
【図10】本発明の実施例5に係る口腔洗浄剤を使用した際の、口腔内細菌を示す顕微鏡像である。
【図11】本発明の比較例に係る口腔洗浄剤を使用した際の、口腔内細菌を示す顕微鏡像である。
【図12】本発明の実施例6に係る口腔洗浄剤によるグルカン剥離能を示すグラフである。
【図13】本発明の実施例6に係る口腔洗浄剤によるグルカン溶解能を示す図である。
【図14】本発明の実施例7に係る口腔洗浄剤を使用した際の、口腔内環境のpHの経時的変化を示す図である。
【図15】本発明の実施例8に係る口腔洗浄剤によるグルカン溶解能を示す図である。
【符号の説明】
【0125】
10 オゾン水製造装置
20 溶解装置(溶解手段)
21 溶解槽
22 オゾン水放出路
30 水供給装置(水供給手段)
31 水供給路
32 電気分解装置(高pH水調製手段、電気分解手段)
33 原料水供給部(原料水供給手段)
34 原料水供給路
40 オゾン供給装置(消毒性成分供給手段)
41 オゾン供給路(消毒性成分供給路)
42 オゾン発生装置
50 制御装置
51 制御部(制御手段)
52 流量計
53 オゾン濃度計
60 塩類供給装置
61 塩類溶解部
62 切換弁
63 塩類含有水供給路
321 電気分解槽
322 半透膜
323 陰極
324 陽極
325 電源
326 低pH水排出路
341 原料水供給弁
411 コンプレッサ
412 オゾン供給弁
413 端部
511 原料水量判断部(pH制御手段)
512 オゾン量判断部(濃度制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体の口腔洗浄剤であって、
pHが8以上12以下であり、口腔内細菌性疾患の予防に用いられる口腔洗浄剤。
【請求項2】
カルシウムイオン、リン酸イオン、重炭酸イオンからなる群より選ばれる少なくとも一種が有効量添加された請求項1に記載の口腔洗浄剤。
【請求項3】
消毒性成分が有効量添加された請求項1又は2に記載の口腔洗浄剤。
【請求項4】
消毒性成分が含有されていない請求項1又は2に記載の口腔洗浄剤。
【請求項5】
電解質を含有する原料水を電気分解することにより、pHが調整された請求項1から4のいずれかに記載の口腔洗浄剤。
【請求項6】
水のpHが上昇された高pH水を調製する高pH水調製工程と、
調製された高pH水にオゾンを溶解させる溶解工程と、を備えるオゾン水製造方法。
【請求項7】
前記高pH水調製工程は、カルシウム塩を含有する原料水を電気分解することで、高pH水と低pH水とを生成する電気分解工程と、
生成された高pH水を分離する分離工程と、を有する請求項6に記載のオゾン水製造方法。
【請求項8】
消毒性成分を水に溶解させる溶解手段と、この溶解手段に水供給路を介して水を供給する水供給手段と、前記溶解手段に消毒性成分供給路を介して消毒性成分を供給する消毒性成分供給手段と、を備える口腔洗浄剤製造装置であって、
前記水供給手段は、前記水供給路に接続され水のpHが上昇された高pH水を調製する高pH水調製手段と、前記高pH水調製手段に原料水を供給する原料水供給手段と、を有する口腔洗浄剤製造装置。
【請求項9】
前記原料水供給手段は、電解質を含有する原料水を供給し、
前記高pH水調製手段は、供給された原料水を電気分解することで、高pH水を生成する電気分解手段を有する請求項8に記載の口腔洗浄剤製造装置。
【請求項10】
前記高pH水調製手段は、生成する高pH水を所定の範囲内に保持するpH制御手段を有する請求項8又は9に記載の口腔洗浄剤製造装置。
【請求項11】
前記溶解手段は、高pH水に溶解させる消毒性成分の濃度を所定の範囲内に保持する濃度制御手段を更に有する請求項10に記載の口腔洗浄剤製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−1657(P2008−1657A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−174248(P2006−174248)
【出願日】平成18年6月23日(2006.6.23)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り “1267 Efficacy of HO−ion Superadded Alkali Water on Artificial Biofilm Detachment”. 2006/5/12 11:30にInternational Association for Dental Research(IADR)がインターネットアドレス http://iadr.confex.com/iadr/2006Brisb/techprogram/abstract_80434.htmにおいて発表。
【出願人】(504179255)国立大学法人 東京医科歯科大学 (228)
【Fターム(参考)】