説明

口腔用ポリマー

【課題】 効果的に歯表面への細菌の吸着を阻害することのできる、細菌吸着阻害剤として有用な口腔用ポリマー、及び口腔用組成物の提供。
【解決手段】 一般式(I)で表わされる繰り返し構造を含むポリマー鎖と、親水性のポリマー鎖を有する口腔用ポリマー、その口腔用ポリマーからなる細菌吸着阻害剤、及びその口腔用ポリマーを含有する口腔用組成物。
【化1】


[式中、Rは2価の炭化水素基、R1、R2、R3及びR4は水素原子、フッ素原子又は置換基を有していてもよい1価の炭化水素基、Xは−O−又は−NH−、Y-は陰イオン基を示す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オーラルケア剤に有用な、歯表面への細菌付着を抑制する口腔用ポリマー、そのポリマーからなる細菌吸着阻害剤及びそれを含有する口腔用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
歯垢が歯周病や虫歯の原因であることは公知の事実であり、更に、歯垢を放置しておくと、除去が困難な歯石(結晶性カルシウム)に変化する。歯垢の形成は、唾液中の蛋白質が歯表面に吸着しペリクルと呼ばれる皮膜が形成され、このペリクルに細菌が吸着することで始まる。そのため、細菌や、微生物の吸着を阻害する剤が提案されている。
【0003】
特許文献1には、塩化ジメチルジアリルアンモニウムのホモポリマーとベタイン型界面活性剤とからなる組成物、及び塩化ジメチルジアリルアンモニウムと少なくとも1種のエチレン性不飽和炭化水素結合を有する重合可能なモノマーとのコポリマーとベタイン型界面活性剤とからなる組成物が、歯表面への微生物の付着抑制に効果があることが開示されている。また特許文献2には、塩化トリメチルアンモニウムエチルメタクリレート単位とアルキルメタクリレート単位とから構成される水溶性コポリマーにより、歯垢の形成を阻止出来ることが開示されている。しかし、それらの効果はまだ十分ではない。
【特許文献1】特開平9−175965号公報
【特許文献2】特許第2866393号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、効果的に歯表面への細菌の吸着を阻害することのできる、細菌吸着阻害剤として有用な口腔用ポリマー、及び口腔用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、歯への吸着性がある官能基を有するポリマー鎖と、親水性ポリマー鎖を有するポリマーに、高い細菌吸着阻害効果があることを見出した。
【0006】
即ち、本発明は、一般式(I)で表わされる繰り返し構造を含むポリマー鎖(以下、ポリマー鎖1という)と、親水性のポリマー鎖(以下、ポリマー鎖2という)を有する口腔用ポリマー、その口腔用ポリマーからなる細菌吸着阻害剤、及びその口腔用ポリマーを含有する口腔用組成物を提供する。
【0007】
【化3】

【0008】
[式中、Rは、2価の炭化水素基を示し、R1、R2、R3及びR4は、同一又は異なって、水素原子、フッ素原子又は置換基を有していてもよい1価の炭化水素基を示す。Xは−O−又は−NH−を示す。Y-は陰イオン基を示す。]
【発明の効果】
【0009】
本発明の口腔用ポリマーは、高い細菌吸着阻害効果を有する細菌吸着阻害剤として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
[口腔用ポリマー]
本発明の口腔用ポリマーは、ポリマー鎖1とポリマー鎖2を有する、2種類以上のポリマー鎖からなる。
【0011】
ポリマー鎖1は歯への吸着性に寄与する部分であり、モノマー単位中に含まれるカチオン基が歯への付着性を向上させるものと推定される。ポリマー鎖2はその親水性による細菌の付着防止性に寄与する部分と考えられる。親水性ポリマー鎖は、周囲に大量の水を含んだ散漫層と呼ばれる層を形成すると考えられ、排除体積効果に基づく反発力のため細菌の付着を防止するものと考えられる。かかる観点より、ポリマー鎖1とポリマー鎖2の分子量比(ポリマー鎖1/ポリマー鎖2)は、10/1〜1/10が好ましく、5/1〜1/5が更に好ましい。この範囲内では、歯への吸着性及び親水性を適度に有し、細菌吸着阻害効果が高く好ましい。
【0012】
2種類以上のポリマー鎖からなるポリマーには、スターポリマー、ブロックポリマー、グラフトポリマー等が挙げられるが、好ましくはポリマー鎖1と2からなるブロック又はグラフトポリマーであり、更に好ましくはグラフトポリマー、最も好ましくはポリマー鎖1を幹鎖とし、ポリマー鎖2を側鎖とするグラフトポリマーである。
【0013】
本発明の口腔用ポリマーの分子量は、後述する測定法による重量平均分子量で、6000〜100万が好ましく、1万〜20万が更に好ましい。この範囲内では、水溶液中の粘度が適度で扱い易く、また細菌吸着の阻害効果が高い。
【0014】
本発明の口腔用ポリマーとしては、前記一般式(I)で表わされる繰り返し構造と、下記一般式(II)で表わされる繰り返し構造を含むポリマーが特に好ましい。
【0015】
【化4】

【0016】
[式中、R6及びR7は、同一又は異なって、水素原子、フッ素原子又は置換基を有していてもよい1価の炭化水素基を示す。AOは炭素数2〜3のオキシアルキレン基、nは数平均値で1〜200の数を示し、n個のAOは同一でも異なっていてもよい。]
一般式(I)中、R4は水素原子又はメチル基が好ましく、メチル基が更に好ましい。Rは炭素数1〜22の直鎖もしくは分岐鎖のアルキレン基が好ましく、アルキレン基中にフェニレン基等のアリーレン基を有していてもよい。更に好ましくは炭素数2〜6の直鎖アルキレン基であり、特に好ましくは炭素数2の直鎖アルキレン基である。Xは、−O−が好ましい。
【0017】
1、R2及びR3は水素原子、又は置換基を有していてもよい炭素数1〜22の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基が好ましく、置換基を有する場合は、置換基としてヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、アンモニウム基、アルコキシ基(炭素数1〜4)、アシル基(炭素数1〜8)、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子等)、フェニル基等が挙げられる。R1、R2及びR3は同一でもよいが、それぞれ異なってもよい。好ましくは、R1とR2がメチル基、R3がメチル基若しくはベンジル基である。4級アンモニウム基に対する対イオンY-は、特に限定されないが、好ましくはハロゲンイオン、更に好ましくは塩素イオンである。
【0018】
一般式(II)中、R7は水素原子又はメチル基が好ましく、メチル基が更に好ましい。R6は、水素原子、又は置換基を有していてもよい炭素数1〜22の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基が好ましく、置換基を有する場合は、親水性であることが好ましく、置換基としてヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、アンモニウム基、アルコキシ基(炭素数1〜4)、アシル基(炭素数1〜8)、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子等)等が挙げられる。
【0019】
(AO)nは、ポリオキシエチレン鎖、ポリオキシプロピレン鎖、又はオキシエチレン基とオキシプロピレン基の混合鎖であってもよく、その結合は、ランダム、ブロック、交互のいずれでもよい。好ましくは、ポリオキシエチレン鎖である。nは数平均で1〜200であり、10〜200が好ましく、20〜200が更に好ましく、40〜150が特に好ましく、40〜120が最も好ましい。
【0020】
[ポリマー鎖1]
本発明の口腔用ポリマーを構成するポリマー鎖1は、前記一般式(I)で表される繰り返し構造を含むが、特に、塩化メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム及び塩化メタクリロイルオキシエチルベンジルジメチルアンモニウムから選ばれるモノマー由来の繰り返し構造を含むポリマー鎖が好ましい。
【0021】
また、ポリマー鎖1は、一般式(I)で表される繰り返し構造を誘導するモノマーの単一重合体であってもよいが、共重合可能な他のモノマーとの共重合体でもよい。
【0022】
[ポリマー鎖2]
ポリマー鎖2は親水性のポリマー鎖であるが、ポリマー鎖が親水性であるとは、有機概念図−基礎と応用−(甲田善生著、三共出版株式会社、昭和59年5月10日初版第1刷発行)において、ポリマー鎖の無機性(I)と有機性(O)の比率[I/O]が、0.6以上であることを意味し、好ましくは1.0以上、更に好ましくは1.5以上である。
【0023】
親水性のポリマー鎖2としては、下記(i)〜(xii)のモノマー群由来の構成単位を含むポリマー鎖等が好ましく挙げられる。
【0024】
(i)(メタ)アクリルアミド、(ii)N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−n−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド等のアルキル(炭素数1〜3)(メタ)アクリルアミド、(iii)N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド等のジアルキル(総炭素数2〜8)(メタ)アクリルアミド、(iv)ヒドロキシアルキル(炭素数1〜3)基を有する(メタ)アクリル酸エステル又は(メタ)アクリルアミド、(v)(メタ)アクリル酸及びその塩、(vi)スチレンスルホン酸、アクリルアミドプロパンスルホン酸(AMPS)、メタクリルスルホン酸等のスルホン酸基を有するモノマー又はその塩、(vii)エチレンイミン、アリルアミン等のアミン系モノマー、(viii)エチレンオキシド、プロピレンオキシド等のアルキレンオキシド、(ix)ビニルアルコール、アリルアルコール等のヒドロキシ基を有するモノマー、(x)ビニルピロリドン、(xi)エピクロロヒドリン、(xii)グリシジルエーテル及びそのアルキル(炭素数1〜3)エーテル等が挙げられる。塩としては、アンモニウム塩、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等が挙げられる。
ここで、(メタ)アクリルとは、アクリル又はメタクリルを意味する。
【0025】
ポリマー鎖2は、上記のモノマーと、共重合し得る他のモノマーと共重合していてもよいが、親水性を保持するために、(i)〜(xii)のモノマー群からなる構成単位の割合は、ポリマー鎖2中、70〜100重量%が好ましく、80〜100重量%が更に好ましく、90〜100重量%が特に好ましく、100重量%が最も好ましい。
【0026】
特にこれらの中では、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリ(メタ)アクリル酸及びその塩、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリオキシアルキレン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエピクロロヒドリン、ポリグリシジルエーテル及びそのアルキル(炭素数1〜3)エーテル等の単一重合体が好ましく、ポリオキシアルキレンが、製造法が容易であり更に好ましい。ポリオキシアルキレンとしては、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、又はそれらのランダム、ブロック共重合体等のいずれであっても良いが、ポリオキシエチレンが特に好ましい。
【0027】
[ポリマーの合成]
本発明のポリマーの合成法は特に限定されず、公知の方法を選択できる。具体的には下記製法1又は2が挙げられる。
【0028】
製法1:親水性ポリマー部分を含むマクロアゾ開始剤を使用して、一般式(III)で表わされるモノマー、及び必要によりその他のビニルモノマーをラジカル重合する製法
【0029】
【化5】

【0030】
〔式中、R、R1、R2、R3、R4、X及びY-は前記と同じ意味を示す。〕
製法1によれば、ポリマー鎖1とポリマー鎖2とがブロックポリマーをなすポリマーが得られる。マクロアゾ開始剤としては、例えば、一般式(IV)で表されるポリオキシエチレンがアゾ基で複数結合した開始剤を使用することができる。
【0031】
【化6】

【0032】
〔式中pは40〜200の数、qは3〜20の数を示す。〕
製法2:前記一般式(III)で表わされるモノマーと、親水性ポリマー部分を含むビニルマクロモノマー及び必要によりその他のビニルモノマーを重合してラジカル重合する製法
製法2の場合、ポリマーはラジカル重合開始剤の存在下、公知の方法、即ちバルク重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等により重合させて製造できるが、溶液重合法が好ましい。製法2によれば、親水性ポリマーをグラフト鎖として有するポリマーを得ることができる。製法2はポリマー鎖1とポリマー鎖2の比率の調整が容易であること、及び歯への付着性もしくは菌付着阻害性が良好であるという観点において好ましい。
【0033】
製法2において、親水性ポリマー部分を含むビニルマクロモノマーとしては、例えば、一般式(V)で表されるポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステルを用いることができる。
【0034】
【化7】

【0035】
〔式中、R6、R7、AO及びnは前記と同じ意味を示す。〕
この時、一般式(III)で表わされるモノマーと一般式(V)で表わされるポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステルとの割合は、(III)/(V)(重量比)=10/90〜90/10が好ましく、50/50〜90/10が更に好ましく、60/40〜80/20が特に好ましい。
【0036】
重合に用いる溶媒は、特に限定されないが、水、炭素数3以下のアルコール、ケトン、エーテルが好ましく、水、炭素数3以下のアルコールが更に好ましい。これらを任意の割合で混合して使用してもよい。あるいは無溶媒でも良い。炭素数3以下のアルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等が、ケトンとしては、例えばアセトン、メチルエチルケトン等が、エーテルとしては、例えばテトラヒドロフラン、グライム、ジグライム、ジオキサン等が挙げられる。
【0037】
重合開始剤は、溶媒に溶解すること以外は特に限定されないが、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩;2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピレンアミジン)塩酸塩等のアゾ化合物;ラウロイルパーオキシド等の有機過酸化物が好ましい。あるいは、還元剤と組み合わせてレドックス系開始剤として使用しても良い。重合開始剤の使用量は、モノマーに対して2.5〜10重量%が好ましい。
【0038】
分子量を制御する目的で、メルカプトエタノール等の連鎖移動剤を併用してもよい。連鎖移動剤の使用量は、モノマーに対して0.5〜10モル%が好ましい。
【0039】
重合温度は、重合開始剤の種類によっても異なるが60〜95℃が好ましく、重合時間はモノマー種、重合開始剤、反応温度によって異なるが1〜12時間が好ましい。
【0040】
[細菌吸着阻害剤]
本発明の口腔用ポリマーからなる細菌吸着阻害剤は、効果的に歯表面への細菌の吸着を阻害するものである。本発明の細菌吸着阻害剤の細菌吸着阻害性は下記式(1)で定義される細菌吸着阻害値で示し、細菌としてS.Mutans菌を用いた場合、口腔用ポリマー1重量%以下の濃度で、この細菌吸着阻害値が50%以上であることが好ましく、90%以上であることが更に好ましく、95%以上であることが特に好ましい。
【0041】
細菌吸着阻害値=[(A−X)/(A−B)]×100 (1)
[式中、Aは唾液処理を行ったヒドロキシアパタイト板へ付着した細菌数(×107cells/cm2)を示し、Bは唾液処理を行っていないヒドロキシアパタイト板へ付着した細菌数(×107cells/cm2)を示し、Xは1重量%の口腔用ポリマー水溶液で処理した後に、唾液処理を行ったヒドロキシアパタイト板へ付着した細菌数(×107cells/cm2)を示す。]
即ち、唾液処理を行ったヒドロキシアパタイト板へ付着した細菌数(A)と、唾液処理を行っていないヒドロキシアパタイト板へ付着した細菌数(B)との差を基準値(100)として、(A)と、1重量%の口腔用ポリマー水溶液で処理した後に、唾液処理を行ったヒドロキシアパタイト板へ付着した細菌数(X)の差を、式(1)に示すように数値化したものを、細菌吸着阻害値とした。
【0042】
[口腔用組成物]
本発明の口腔用ポリマーを含有する本発明の口腔用組成物は、更に水及び/又は炭素数1〜5の低級アルコールを担体として含有することが好ましい。ここで、低級アルコールとしては、炭素数1〜5の直鎖又は分岐鎖の飽和アルコールが好ましく、なかでもエタノール、イソプロピルアルコールが好ましく、エタノールが特に好ましい。水及び低級アルコールから選ばれる2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0043】
本発明の口腔用ポリマーの口腔用組成物中の含有量は、0.001〜20重量%が好ましく、0.1〜10重量%が更に好ましく、0.1〜5重量%が特に好ましい。水及び/又は低級アルコールの含有量は、0.1〜99.9重量%が好ましく、5〜80重量%が更に好ましい。
【0044】
本発明の口腔用組成物には、更に口腔用組成物に通常用いられる成分、例えば界面活性剤、研磨剤、殺菌剤、甘味料、香料、保存剤、美白剤、湿潤剤、粘結剤等を、本発明の効果を損なわない範囲で適宜配合できる。その他、酵素阻害剤、血行促進剤、抗炎症剤、止血剤、鎮痛剤、抗ヒスタミン剤、更にこれらの作用を有する植物エキス等の薬効剤を含有することも好ましい。
【0045】
本発明の口腔用組成物は、練り歯磨き、粉歯磨き、水歯磨き、液状歯磨、液体歯磨、潤製歯磨、洗口剤、マウスウォッシュ、マウススプレー、歯牙コーティング剤、義歯コーティング剤、義歯洗浄剤、チューインガム等の剤形に使用できる。特に練り歯磨とするのが好ましい。
【実施例】
【0046】
以下に、合成例、実施例を示す。%は特に記載しなければ、重量%である。尚、ゲルパーミュエーションクロマトグラフー(GPC)による重量平均分子量の測定条件は以下の通りである。
【0047】
<GPCの測定条件>
カラム:α−M(2本直列)(東ソー株式会社製)
溶離液:0.15mol/L Na2SO4、1重量%酢酸/水(1Lの水中に、0.15molのNa2SO4と、1重量%の酢酸が含まれている。)
流速:1mL/min
カラム温度:40℃
サンプル:5mg/mL
検出:RI
換算分子量:ポリエチレングリコール
合成例1
300mLセパラブルフラスコにメトキシポリエチレングリコールメタクリレート(新中村化学(株)製M−900G、平均EO付加モル数90)5.0g、塩化メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム(MRCユニテック社製)15.0g、イオン交換水75gを仕込み撹拌しながら均一にした。窒素置換を行った後80℃に昇温した。約10分後17%過硫酸アンモニウム水溶液6gを一気に加え6時間重合を行った。放冷後、濃塩酸9.6gを加える。水で約5倍に希釈後、セルロースチューブ(直径23.8mm、長さ約80cm、分画分子量12000〜14000)に詰め、外液を約5Lとし約12時間おきに交換しながら透析を3日間行った。その後、内容物を取り出し凍結乾燥を行い無色の粉末(ポリマー1という)17.5gを得た。
【0048】
ポリマー1を5%重水溶液としてプロトンNMRの測定を行ったところ(図1)、δ=3.8にカルボキシル基に結合したメチレン基のプロトン、δ=3.6〜3.8にポリオキシエチレン鎖のメチレンのプロトン、δ=3.4に窒素原子に結合したメチレン基のプロトン、δ=3.3に窒素原子に結合したメチル基のプロトン、δ=1.6〜1.8にポリマー主鎖中のメチレンのプロトン、δ=0.8〜1.2に主鎖に結合したメチル基のプロトンを確認し、ポリマー1がメトキシポリエチレングリコールメタクリレートと、塩化メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムの共重合体であることを確認した。重量平均分子量はゲルパーミュエーションクロマトグラフー(GPC:ポリエチレングリコール換算)より84.4万であった。
【0049】
合成例2
300mLセパラブルフラスコにメトキシポリエチレングリコールメタクリレート(平均EO付加モル数90)5.0g、塩化メタクリロイルオキシエチルベンジルジメチルアンモニウム(MRCユニテック社製)15.0g、イオン交換水75g、2−メルカプトエタノール0.21gを仕込み撹拌しながら均一にした。窒素置換を行った後85℃に昇温した。約10分後17%過硫酸アンモニウム水溶液6gを一気に加え6時間重合を行った。放冷後、水で約5倍に希釈し、セルロースチューブ(直径23.8mm、長さ約80cm、分画分子量12000〜14000)に詰め、外液を約5Lとし約12時間おきに交換しながら透析を3日間行った。その後、内容物を取り出し凍結乾燥を行い無色の粉末(ポリマー2という)17.8gを得た。
【0050】
ポリマー2を5%重水溶液としてプロトンNMRの測定を行ったところ(図2)、δ=7.6にベンジル基のプロトン、δ=4.7にベンジル基のプロトン、δ=3.8にカルボキシル基に結合したメチレン基のプロトン、δ=3.6〜3.8にポリオキシエチレン鎖のメチレンのプロトン、δ=3.4に窒素原子に結合したメチレン基のプロトン、δ=3.3に窒素原子に結合したメチル基のプロトン、δ=1.6〜1.8にポリマー主鎖中のメチレンのプロトン、δ=0.8〜1.2に主鎖に結合したメチル基のプロトンを確認し、ポリマー2がメトキシポリエチレングリコールメタクリレートと、塩化メタクリロイルオキシエチルベンジルジメチルアンモニウムの共重合体であることを確認した。重量平均分子量はゲルパーミュエーションクロマトグラフー(GPC:ポリエチレングリコール換算)より2.4万であった。
【0051】
実施例1
合成例1〜2で得られたポリマー1、2及び表1に示す比較のポリマーを細菌吸着阻害剤として用い、下記方法で細菌吸着阻害性を測定した。
【0052】
<細菌吸着阻害性測定法>
ヒト口腔内より単離したS.mutans保存菌体を10μCi/mLメチル化[3H]−チミジン0.2重量%グルコース含有ブレインハートインフュージョン培地(DIFCO社)10mLに接種し、37℃で24時間嫌気培養した。緩衝KCl溶液(50mM塩化カリウム、1mM塩化マグネシウム、0.1mM塩化マグネシウム含有1mMリン酸緩衝液)で3回洗浄後、5mg/mLウシ血清アルブミン含有緩衝塩化カリウム溶液に1×109CFU/mLの濃度で分散させ、3H標識S.mutans液とした。ヒドロキシアパタイト平板(旭光学(株))1cm×1cm×2mmを表1記載の細菌吸着阻害剤の1%濃度の水溶液1mLで37℃1時間処理をした。緩衝塩化カリウム溶液2mLで洗浄後、健常男性被験者より採取した耳下腺唾液0.5mL中、4℃で一晩処理した。緩衝塩化カリウム溶液2mLで2回洗浄後、5mg/mLウシ血清アルブミン含有緩衝塩化カリウム溶液0.5mLと、上記3H標識S.mutans液0.5mLを加え、37℃で1時間処理した。緩衝塩化カリウム溶液で3回洗浄後、ヒドロキシアパタイト平板を2M/L水酸化ナトリウム1mL中、70℃で1時間処理した。2N塩酸1mLで中和後、液体シンチレーションカウンターにて、3H放射活性を測定し、細菌吸着数(X)を出した。上記操作で、表1記載の細菌吸着阻害剤の1%水溶液の代わりに蒸留水1mLを用いて同様の処理を行ったときの、細菌吸着数をAとする。A=2.5(×107cells/cm2)であった。また表1記載の細菌吸着阻害剤の1%水溶液の代わりに蒸留水1mL、耳下腺唾液の代わりに緩衝塩化カリウム溶液0.5mLを用いて同様の処理を行ったときの、細菌吸着数をBとする。B=0.52(×107cells/cm2)であった。
【0053】
上記A,B及びXの値から、前述の式(1)で定義される細菌吸着阻害値を求めた。結果を表1に示すが、本発明の細菌吸着阻害剤であるポリマー1、2は、比較品に比べていずれも高い細菌吸着阻害効果を示した。
【0054】
【表1】

【0055】
処方例1:歯磨き剤
次の処方により、常法に従い練り歯磨きを製造した。
ポリマー1 5.0%
シリカ 30.0%
ソルビトール 30.0%
ラウリル硫酸ナトリウム 1.0%
カルボキシメチルセルロース*1 1.0%
サッカリン 0.1%
香料 0.3%
水 残り
計 100%
*1:カルボキシメチルセルロース(商品名サンローズF20−HC、日本製紙(株)製)。
【0056】
処方例2:洗口剤
次の処方により、常法に従い洗口剤を製造した。
ポリマー2 5.0%
エタノール 20.0%
ピロリン酸ナトリウム 2.0%
サッカリン 0.1%
香料 0.3%
水 残り
計 100.0%
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】合成例1で得られたポリマー1のプロトンNMRの結果を示す図である。
【図2】合成例2で得られたポリマー2のプロトンNMRの結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)で表わされる繰り返し構造を含むポリマー鎖(以下、ポリマー鎖1という)と、親水性のポリマー鎖(以下、ポリマー鎖2という)を有する口腔用ポリマー。
【化1】

[式中、Rは、2価の炭化水素基を示し、R1、R2、R3及びR4は、同一又は異なって、水素原子、フッ素原子又は置換基を有していてもよい1価の炭化水素基を示す。Xは−O−又は−NH−を示す。Y-は陰イオン基を示す。]
【請求項2】
ポリマー鎖1を幹鎖とし、ポリマー鎖2を側鎖とするグラフトポリマーである、請求項1記載の口腔用ポリマー。
【請求項3】
口腔用ポリマーが、請求項1記載の一般式(I)で表わされる繰り返し構造と、下記一般式(II)で表わされる繰り返し構造を含むポリマーである、請求項1又は2記載の口腔用ポリマー。
【化2】

[式中、R6及びR7は、同一又は異なって、水素原子、フッ素原子又は置換基を有していてもよい1価の炭化水素基を示す。AOは炭素数2〜3のオキシアルキレン基、nは数平均値で1〜200の数を示し、n個のAOは同一でも異なっていてもよい。]
【請求項4】
ポリマー鎖1が、塩化メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム及び塩化メタクリロイルオキシエチルベンジルジメチルアンモニウムから選ばれるモノマー由来の繰り返し構造を含むポリマー鎖である請求項1〜3のいずれかの項記載の口腔用ポリマー。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかの項記載の口腔用ポリマーからなる細菌吸着阻害剤。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかの項記載の口腔用ポリマーを含有する口腔用組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−16424(P2006−16424A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−192913(P2004−192913)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】