説明

可動式導電体を備えたバイオセンサー

【課題】 液中の物質を短時間で、高感度で分析することが可能なバイオセンサーを提供することを解決すべき課題とした。さらに本発明は、センサー部材に電極を配置することなく、センサー部材をディスポ化することが可能なバイオセンサーを提供すること。
【解決手段】 基板に液を接触させるための流路、基板、及び該流路内の液に電界を印加するための導電体を少なくとも有するバイオセンサーであって、該導電体が、流路に挿入及び流路から排出できるような可動式導電体であることを特徴とするバイオセンサー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可動式導電体を備えたバイオセンサー及びそれを用いた液中の目的物質を濃縮する方法に関する。さらに詳細には、本発明は、流路に挿入及び流路から排出できるような可動式導電体を備えたバイオセンサー及びそれを用いた液中の目的物質を濃縮する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオセンサーにおいて、センサー表面に分子を固定する際や、微量の試料を測定する際にセンサー表面に試料を濃縮することによりその固定効率や検出感度を高めるということが考えられる。特に表面プラズモン共鳴(SPR)センサーでは、センサー表面材料として金属膜を用いることから、電界印加により、帯電分子を積極的に検出表面に濃縮するという手段が考えられてきた。例えば、特許文献1及び2には分子結合を検出するSPRシステムにおいて結合の場に電界を印加することが記載されている。また特許文献3には、交流電圧を印加することを可能にしたバイオセンサーが記載されている。また特許文献4には、プリズムに対向電極を設けて直流電圧印加する装置が記載されている。また特許文献5には、金属膜との間に試料液を挟んで該金属膜に対面するように配置された電極と、この電極と前記金属膜との間に直流電圧を印加する手段とが設けられている表面プラズモンセンサーが記載されている。
【0003】
しかしながら、上記したいずれの技術もセンサー部材に電極を配置するものであり、電極を備えたセンサー部材をディスポ化することは、コスト高となり実用上極めて困難であった。さらに、信号検出表面に対向した電極を設けた場合、実際の結合検出時には対向電極の影響により、検出表面の誘電率が影響をうけ真の結合を検出できない可能性があるという問題があった。また、対向電極は平面でなくてはならないため、結合の場の形状が制限されるという問題もあった。
【0004】
【特許文献1】米国特許第6,862,398号公報
【特許文献2】米国特許第6,870,627号公報
【特許文献3】特開平2−297053号公報
【特許文献4】特開平9−257702号公報
【特許文献5】特開平10−19769号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記した従来技術の問題点を解消することを解決すべき課題とした。即ち、本発明は、液中の物質を短時間で、高感度で分析することが可能なバイオセンサーを提供することを解決すべき課題とした。さらに本発明は、センサー部材に電極を配置することなく、センサー部材をディスポ化することが可能なバイオセンサーを提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意努力した結果、流路に挿入及び流路から排出できるような可動式導電体をバイオセンサーに設けることによって上記課題を解決できることを見出した。本発明はこの知見に基づいて完成されたものである。
【0007】
すなわち本発明によれば、基板に液を接触させるための流路、基板、及び該流路内の液に電界を印加するための導電体を少なくとも有するバイオセンサーであって、該導電体が、流路に挿入及び流路から排出できるような可動式導電体であることを特徴とするバイオセンサーが提供される。
【0008】
好ましくは、導電体は、該導電体を流路に挿入及び流路から排出できるように移動するための導電体移動手段に連結されている。
好ましくは、流路は絶縁体から構成されている。
好ましくは、複数個の導電体が設置されている。
好ましくは、回路又はコンデンサーにより導電体に電界を印加する。
【0009】
好ましくは、流路内の液に電界を印加するための導電体は、流路に液を注入するための導電体チップである。
好ましくは、本発明のバイオセンサーは、表面プラズモン共鳴分析に使用するためのものである。
【0010】
好ましくは、本発明のバイオセンサーは、基板上の金属膜の上に形成されたセルを含む流路系と、金属膜面で全反射した光ビームの強度を測定して表面プラズモン共鳴の状態を検出する光検出手段とを備えてなる。
【0011】
好ましくは、本発明のバイオセンサーは、金属膜と、光ビームを発生させる光源と、前記光ビームを金属膜との界面で全反射条件が得られるように、かつ、種々の入射角成分を含むようにして入射させる光学系と、前記金属膜上に形成されたセルを含む流路系と、前記界面で全反射した光ビームの強度を測定して表面プラズモン共鳴の状態を検出する光検出手段とを備えてなる。
【0012】
本発明の別の側面によれば、上記した本発明のバイオセンサーにおいて、流路内の液に電界を印加するための導電体を流路内に挿入することによって電界を印加することを含む、液中の目的物質を濃縮する方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明のバイオセンサーにおいては、センサー部材には電極がないので、電界印加を可能としたディスポのセンサー部材を低コストで生産することができる。また、本発明のバイオセンサーによれば、検出面への電界印加により等電点に左右されず蛋白質などの生理活性物質を濃縮できる一方、実際の結合信号の検出時には導電体を移動させることができるので電界印加による悪影響(誘電率変化など)を除くことができ、正確な結合信号を検出することができる。また、本発明のバイオセンサーにおいては、結合の場の形状が制限されることがないため、結合解析の自由度が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明のバイオセンサーは、基板に液を接触させるための流路、基板、及び該流路内の液に電界を印加するための導電体を少なくとも有するバイオセンサーであって、該導電体が、流路に挿入及び流路から排出できるような可動式導電体であることを特徴とするバイオセンサーである。本発明のバイオセンサーのセンサー部材には電極がなく、導電体を流路に挿入することにより、電圧を印加し流路内の液体に対して電場を生じさせることができる。また、本発明のバイオセンサーにおける導電体は可動式である。
【0015】
本発明のバイオセンサー(好ましくは、表面プラズモン共鳴(SPR)センサー)の表面に濃縮する生理活性物質(好ましくは、蛋白質、核酸など)は緩衝液とともに流路内へ供される。
【0016】
本発明で用いる緩衝液としては、電界印加に使用できる緩衝成分を含む緩衝液であれば特に限定されず、例えば、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、グリシン−トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液などを使用することができる。緩衝液としては、気泡の発生を抑制できるという観点から、できるだけ伝導度の低い緩衝液を選択することが好ましい。上記で例として挙げた緩衝液の中では、グリシン−トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液、およびトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液がより好ましい。
【0017】
緩衝成分のモル濃度としては1mM以上の濃度であれば特に限定されず、1〜20mMが好ましい。1mM未満の場合、緩衝能力が低すぎて望ましくない。濃縮したい蛋白質や核酸の等電点に応じて緩衝液のpHを選択することができる。例えば蛋白質を陽極側に濃縮したいときは緩衝液のpHを蛋白質のもつ等電点より高い値にし、蛋白質をマイナスに帯電させればよい。
【0018】
例えば蛋白質としてCarbonic Anhydarseを陽極側に濃縮する場合には、pH7.75の10mM Sodium Borate Bufferに蛋白濃度を0.1mg/ml程度になるように混和することができる。逆にCarbonic Anhydarseを陰極側に濃縮する場合には、pH5.0の10mM Sodium Acetate Bufferに蛋白濃度を0.1mg/ml程度になるように混和することができる。
【0019】
本発明のバイオセンサーにおける導電体は1個でもよいし(図1の実施例1を参照)、
2個以上の導電体を設置してもよい(図1の実施例2を参照)。導電体の数は特に限定されず、任意の数の導電体を流路に挿入することができる。また対向電極は、平面でなくてもよいので、結合の場の形状は制限されることがない。
【0020】
本発明で用いる導電体は可動式導電体であり、該導電体は、流路に挿入及び流路から排出できるような構造を有している。好ましくは、導電体は、該導電体を流路に挿入及び流路から排出できるように移動するための導電体移動手段(図1において、「可動式」として表示)に連結されている。
【0021】
蛋白質を緩衝液とともに流路内へ供した後、可動式導電体を流路に挿入し、回路(図1の実施例1を参照)又はコンデンサー(図1の実施例3を参照)により直流電界を印加することができる。センサー表面と導電体との電界印加は、好ましくは1から10Vの電圧を1から10秒間のパルスで行うことができる。
【0022】
SPRセンサー表面をマイナスに荷電させ、導電体をプラスに荷電させた場合は、溶液中でプラスに帯電した蛋白質をSPRセンサー表面に濃縮できる。この濃縮により短時間で効率よく蛋白質の濃縮を行うことができる。
【0023】
本発明のバイオセンサーにおける導電体は可動式のため、流路から移動させることができ、次の蛋白濃縮反応に使用することができる。本発明のバイオセンサーにおいてはセンサー部材に電極を配置していないので、センサー部材をディスポ化した際、コストを抑えることができる。また、導電体は可動式のため任意の時のみ導電体を挿入できるので、センサー表面の誘電率への悪影響を与えることもない。
【0024】
流路に溶液を注入する際に導電チップ(Tip)を用いる場合は、その導電チップをそのまま、流路内の液に電界を印加するための導電体として用いることができる。このように流路内の試料液に電界を印加するための導電体が、流路に試料液を注入するための導電体チップである場合には、チップ中で液を荷電させてから流路に注入してもよいし、あるいはチップ中の液を流路に注入してから、該チップを帯電させて、流路中の液に電界を印加してもよい。
【0025】
本発明のバイオセンサーは、好ましくは、表面プラズモン共鳴測定装置に用いられるためのバイオセンサーである。
【0026】
表面プラズモン共鳴の現象は、ガラス等の光学的に透明な物質と金属薄膜層との境界から反射された単色光の強度が、金属の出射側にある試料の屈折率に依存することによるものであり、従って、反射された単色光の強度を測定することにより、試料を分析することができる。以下、表面プラズモン共鳴測定装置について説明する。
【0027】
表面プラズモン共鳴測定装置とは、表面プラズモンが光波によって励起される現象を利用して、被測定物質の特性を分析するための装置である。本発明で用いられる表面プラズモン共鳴測定装置は、金属膜と、光ビームを発生させる光源と、前記光ビームを金属膜との界面で全反射条件が得られるように、かつ、種々の入射角成分を含むようにして入射させる光学系と、前記界面で全反射した光ビームの強度を測定して表面プラズモン共鳴の状態を検出する光検出手段とを備える。
【0028】
本発明では、具体的には、特開2001−330560号公報記載の図1〜図32で説明されている表面プラズモン共鳴測定装置、特開2002−296177号公報記載の図1〜図15で説明されている表面プラズモン共鳴測定装置を用いることができる。特開2001−330560号公報および特開2002−296177号公報に記載の内容は全て本明細書の開示の一部として本明細書中に引用するものとする。例えば、本発明のバイオセンサーは、特開2001−330560号公報の図22に記載の装置(本明細書において図2として示す)、及び同公報の図23に記載の誘電体ブロック(本明細書において図3として示す)を用いて構築することもできる。
【0029】
図2に示す表面プラズモン共鳴測定装置は、測定ユニットを支持する支持体として、互いに平行に配された2本のガイドロッド400,400に摺動自在に係合し、それらに沿って図中の矢印Y方向に直線移動自在とされたスライドブロック401が用いられている。そしてこのスライドブロック401には、上記ガイドロッド400,400と平行に配された精密ねじ402が螺合され、この精密ねじ402はそれとともに支持体駆動手段を構成するパルスモータ403によって正逆回転されるようになっている。
【0030】
なおこのパルスモータ403の駆動は、モータコントローラ404によって制御される。すなわちモータコントローラ404には、スライドブロック401内に組み込まれてガイドロッド400,400の長手方向における該スライドブロック401の位置を検出するリニアエンコーダ(図示せず)の出力信号S40が入力され、モータコントローラ404はこの信号S40に基づいてパルスモータ403の駆動を制御する。
【0031】
またガイドロッド400,400の側下方には、それに沿って移動するスライドブロック401をそれぞれ左右から挟む形で、レーザ光源31および集光レンズ32と、光検出器40とが配設されている。集光レンズ32は光ビーム30を集光する。また、光検出器40が設置されている。
【0032】
ここで本実施形態においては、一例として8個の測定ユニット10を連結固定してなるスティック状のユニット連結体410が用いられ、測定ユニット10は8個一列に並べた状態でスライドブロック401にセットされるようになっている。
【0033】
図3は、このユニット連結体410の構造を詳しく示すものである。ここに示される通りユニット連結体410は、測定ユニット10が8個、連結部材411により連結されてなるものである。
【0034】
この測定ユニット10は、誘電体ブロック11と試料保持枠13とを例えば透明樹脂等から一体成形してなるものであり、ターンテーブルに対して交換可能な測定チップを構成している。交換可能とするためには、例えばターンテーブルに形成された貫通孔に、測定ユニット10を嵌合保持させる等すればよい。なお本例では、金属膜12の上にセンシング物質14が固定されている。
【0035】
特開2001−330560号公報記載の表面プラズモン共鳴測定装置としては、例えば、誘電体ブロック、この誘電体ブロックの一面に形成された金属膜からなる薄膜層、およびこの薄膜層の表面上に試料を保持する試料保持機構を備えてなる複数の測定ユニットと、これら複数の測定ユニットを支持した支持体と、光ビームを発生させる光源と、前記光ビームを前記誘電体ブロックに対して、該誘電体ブロックと前記金属膜との界面で全反射条件が得られるように種々の入射角で入射させる光学系と、前記界面で全反射した光ビームの強度を測定して、表面プラズモン共鳴による全反射減衰の状態を検出する光検出手段と、前記複数の測定ユニットの各誘電体ブロックに関して順次前記全反射条件および種々の入射角が得られるように、前記支持体と前記光学系および光検出手段とを相対移動させて、各測定ユニットを順次前記光学系および光検出手段に対して所定位置に配置する駆動手段とを備えてなることを特徴とする表面プラズモン共鳴測定装置が挙げられる。
【0036】
なお、上記の測定装置においては、例えば前記光学系および光検出手段が静止状態に保たれるものとされ、前記駆動手段が、前記支持体を移動させるものとされる。
【0037】
その場合、前記支持体は、回動軸を中心とする円周上に前記複数の測定ユニットを支持するターンテーブルであり、また前記駆動手段は、このターンテーブルを間欠的に回動させるものであることが望ましい。またこの場合、前記支持体として、前記複数の測定ユニットを直線的に1列に並べて支持するものを用い、前記駆動手段として、この支持体を前記複数の測定ユニットの並び方向に間欠的に直線移動させるものを適用してもよい。
【0038】
一方、上記とは反対に、前記支持体が静止状態に保たれるものであり、前記駆動手段が、前記光学系および光検出手段を移動させるものであっても構わない。
【0039】
その場合、前記支持体は、円周上に前記複数の測定ユニットを支持するものであり、前記駆動手段は、前記光学系および光検出手段を、前記支持体に支持された複数の測定ユニットに沿って間欠的に回動させるものであることが望ましい。またこの場合、前記支持体として、前記複数の測定ユニットを直線的に1列に並べて支持するものを用い、前記駆動手段として、前記光学系および光検出手段を、前記支持体に支持された複数の測定ユニットに沿って間欠的に直線移動させるものを適用してもよい。
【0040】
他方、前記駆動手段が、その回動軸を支承するころがり軸受けを有するものである場合、この駆動手段は、該回動軸を一方向に回動させて前記複数の測定ユニットに対する一連の測定が終了したならば、この回動量と同量だけ該回動軸を他方向に戻してから、次回の一連の測定のためにこの回動軸を前記一方向に回動させるように構成されることが望ましい。
【0041】
また上記の測定装置においては、前記複数の測定ユニットが連結部材により1列に連結されてユニット連結体を構成し、前記支持体が、このユニット連結体を支持するように構成されていることが望ましい。
【0042】
また上記の測定装置においては、前記支持体に支持されている複数の測定ユニットの各試料保持機構に、自動的に所定の試料を供給する手段が設けられることが望ましい。
【0043】
さらに上記の測定装置においては、前記測定ユニットの誘電体ブロックが前記支持体に固定され、測定ユニットの薄膜層および試料保持機構が一体化されて測定チップを構成し、この測定チップが上記誘電体ブロックに対して交換可能に形成されていることが望ましい。
【0044】
そして、このような測定チップを適用する場合は、この測定チップを複数収納したカセットと、このカセットから測定チップを1つずつ取り出して、前記誘電体ブロックと組み合う状態に供給するチップ供給手段とが設けられることが望ましい。
【0045】
あるいは、測定ユニットの誘電体ブロック、薄膜層および試料保持機構が一体化されて測定チップを構成し、この測定チップが前記支持体に対して交換可能に形成されてもよい。
【0046】
測定チップをそのような構成とする場合は、この測定チップを複数収納したカセットと、このカセットから測定チップを1つずつ取り出して、支持体に支持される状態に供給するチップ供給手段とが設けられることが望ましい。
【0047】
他方、前記光学系は、光ビームを誘電体ブロックに対して収束光あるいは発散光の状態で入射させるように構成され、そして前記光検出手段は、全反射した光ビームに存在する、全反射減衰による暗線の位置を検出するように構成されることが望ましい。
【0048】
また上記光学系は、光ビームを前記界面にデフォーカス状態で入射させるものとして構成されることが望ましい。そのようにする場合、光ビームの上記界面における、前記支持体の移動方向のビーム径は、この支持体の機械的位置決め精度の10倍以上とされることが望ましい。
【0049】
さらに上記の測定装置において、測定ユニットは前記支持体の上側に支持され、前記光源は前記支持体より上の位置から下方に向けて前記光ビームを射出するように配設され、前記光学系は、前記下方に向けて射出された前記光ビームを上方に反射して、前記界面に向けて進行させる反射部材を備えていることが望ましい。
【0050】
また、上記の測定装置において、前記測定ユニットは前記支持体の上側に支持され、前記光学系は、前記光ビームを前記界面の下側から該界面に入射させるように構成され、前記光検出手段は前記支持体よりも上の位置で光検出面を下方に向けて配設されるとともに、前記界面で全反射した光ビームを上方に反射して、前記光検出手段に向けて進行させる反射部材が設けられることが望ましい。
【0051】
他方、上記の測定装置においては、前記支持体に支持される前および/または支持された後の前記測定ユニットを、予め定められた設定温度に維持する温度調節手段が設けられることが望ましい。
【0052】
また、上記の測定装置においては、前記支持体に支持された測定ユニットの試料保持機構に貯えられた試料を、前記全反射減衰の状態を検出する前に撹拌する手段が設けられることが望ましい。
【0053】
また、上記の測定装置においては、前記支持体に支持された複数の測定ユニットの少なくとも1つに、前記試料の光学特性と関連した光学特性を有する基準液を供給する基準液供給手段が設けられるとともに、前記光検出手段によって得られた、試料に関する前記全反射減衰の状態を示すデータを、前記基準液に関する前記全反射減衰の状態を示すデータに基づいて補正する補正手段が設けられることが望ましい。
【0054】
そのようにする場合、試料が被検体を溶媒に溶解させてなるものであるならば、前記基準液供給手段は、基準液として前記溶媒を供給するものであることが望ましい。
【0055】
さらに、上記の測定装置は、測定ユニットの各々に付与された、個体識別情報を示すマークと、測定に使用される測定ユニットから前記マークを読み取る読取手段と、測定ユニットに供給される試料に関する試料情報を入力する入力手段と、測定結果を表示する表示手段と、この表示手段、前記入力手段および前記読取手段に接続されて、各測定ユニット毎の前記個体識別情報と前記試料情報とを対応付けて記憶するとともに、ある測定ユニットに保持された試料について求められた測定結果を、その測定ユニットに関して記憶されている前記個体識別情報および前記試料情報と対応付けて前記表示手段に表示させる制御手段とを備えることが望ましい。
【0056】
上記した測定装置を用いて生理活性物質と相互作用する物質を検出または測定する場合、前記測定ユニットの1つにおける試料に関して全反射減衰の状態を検出した後、前記支持体と前記光学系および光検出手段とを相対移動させて、別の測定ユニットにおける試料に関して全反射減衰の状態を検出し、その後前記支持体と前記光学系および光検出手段とを相対移動させて、前記1つの測定ユニットにおける試料に関して、再度全反射減衰の状態を検出することにより測定を行うことができる。
【0057】
本発明のバイオセンサーは、好ましくは、表面プラズモン共鳴測定装置に用いられるためのバイオセンサーであって、金属膜で構成されていることが好ましい。
【0058】
金属膜を構成する金属としては、表面プラズモン共鳴が生じ得るようなものであれば特に限定されない。好ましくは金、銀、銅、アルミニウム、白金等の自由電子金属が挙げられ、特に金が好ましい。それらの金属は単独又は組み合わせて使用することができる。また、上記金属膜への付着性を考慮して、基板と金属からなる層との間にクロム等からなる介在層を設けてもよい。
【0059】
金属膜の膜厚は任意であるが、例えば、表面プラズモン共鳴測定装置用を考えた場合、0.1nm以上500nm以下であるのが好ましく、特に1nm以上200nm以下であるのが好ましい。500nmを超えると、媒質の表面プラズモン現象を十分検出することができない。また、クロム等からなる介在層を設ける場合、その介在層の厚さは、0.1nm以上10nm以下であるのが好ましい。
【0060】
金属膜の形成は常法によって行えばよく、例えば、スパッタ法、蒸着法、イオンプレーティング法、電気めっき法、無電解めっき法等によって行うことができる。
【0061】
金属膜は好ましくは基板上に配置されている。ここで、「基板上に配置される」とは、金属膜が基板上に直接接触するように配置されている場合のほか、金属膜が基板に直接接触することなく、他の層を介して配置されている場合をも含む意味である。本発明で使用することができる基板としては例えば、表面プラズモン共鳴測定装置用を考えた場合、一般的にはBK7等の光学ガラス、あるいは合成樹脂、具体的にはポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマーなどのレーザー光に対して透明な材料からなるものが使用できる。このような基板は、好ましくは、偏光に対して異方性を示さずかつ加工性の優れた材料が望ましい。
【0062】
金属膜は、最表面に生理活性物質を固定化することができる官能基を有することが好ましい。ここで言う「最表面」とは、「金属膜から最も遠い側」という意味である。
【0063】
好ましい官能基としては−OH、−SH、−COOH、−NR12(式中、R1及びR2は互いに独立に水素原子又は低級アルキル基を示す)、−CHO、−NR3NR12(式中、R1、R2及びR3は互いに独立に水素原子又は低級アルキル基を示す)、−NCO、−NCS、エポキシ基、またはビニル基などが挙げられる。ここで、低級アルキル基における炭素数は特に限定されないが、一般的にはC1〜C10程度であり、好ましくはC1〜C6である。
【0064】
最表面にそれらの官能基を導入する方法としては、例えば、それらの官能基の前駆体を含有する高分子を金属表面あるいは金属膜上にコーティングした後、化学処理により最表面に位置する前駆体からそれらの官能基を生成させる方法が挙げられる。
【0065】
上記のようにして得られたバイオセンサーにおいて、上記の官能基を介して生理活性物質を共有結合させることによって、金属膜に生理活性物質を固定化することができる。
【0066】
本発明のバイオセンサーの表面上に固定される生理活性物質としては、測定対象物と相互作用するものであれば特に限定されず、例えば免疫蛋白質、酵素、微生物、核酸、低分子有機化合物、非免疫蛋白質、免疫グロブリン結合性蛋白質、糖結合性蛋白質、糖を認識する糖鎖、脂肪酸もしくは脂肪酸エステル、あるいはリガンド結合能を有するポリペプチドもしくはオリゴペプチドなどが挙げられる。
【0067】
免疫蛋白質としては、測定対象物を抗原とする抗体やハプテンなどを例示することができる。抗体としては、種々の免疫グロブリン、即ちIgG、IgM、IgA、IgE、IgDを使用することができる。具体的には、測定対象物がヒト血清アルブミンであれば、抗体として抗ヒト血清アルブミン抗体を使用することができる。また、農薬、殺虫剤、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌、抗生物質、麻薬、コカイン、ヘロイン、クラック等を抗原とする場合には、例えば抗アトラジン抗体、抗カナマイシン抗体、抗メタンフェタミン抗体、あるいは病原性大腸菌の中でO抗原26、86、55、111 、157 などに対する抗体等を使用することができる。
【0068】
酵素としては、測定対象物又は測定対象物から代謝される物質に対して活性を示すものであれば、特に限定されることなく、種々の酵素、例えば酸化還元酵素、加水分解酵素、異性化酵素、脱離酵素、合成酵素等を使用することができる。具体的には、測定対象物がグルコースであれば、グルコースオキシダーゼを、測定対象物がコレステロールであれば、コレステロールオキシダーゼを使用することができる。また、農薬、殺虫剤、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌、抗生物質、麻薬、コカイン、ヘロイン、クラック等を測定対象物とする場合には、それらから代謝される物質と特異的反応を示す、例えばアセチルコリンエステラーゼ、カテコールアミンエステラーゼ、ノルアドレナリンエステラーゼ、ドーパミンエステラーゼ等の酵素を使用することができる。
【0069】
微生物としては、特に限定されることなく、大腸菌をはじめとする種々の微生物を使用することができる。
核酸としては、測定の対象とする核酸と相補的にハイブリダイズするものを使用することができる。核酸は、DNA(cDNAを含む)、RNAのいずれも使用できる。DNAの種類は特に限定されず、天然由来のDNA、遺伝子組換え技術により調製した組換えDNA、又は化学合成DNAの何れでもよい。
低分子有機化合物としては通常の有機化学合成の方法で合成することができる任意の化合物が挙げられる。
【0070】
非免疫蛋白質としては、特に限定されることなく、例えばアビジン(ストレプトアビジン)、ビオチン又はレセプターなどを使用できる。
免疫グロブリン結合性蛋白質としては、例えばプロテインAあるいはプロテインG、リウマチ因子(RF)等を使用することができる。
糖結合性蛋白質としては、レクチン等が挙げられる。
脂肪酸あるいは脂肪酸エステルとしては、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、ステアリン酸エチル、アラキジン酸エチル、ベヘン酸エチル等が挙げられる。
【0071】
生理活性物質が抗体や酵素などの蛋白質又は核酸である場合、その固定化は、生理活性物質のアミノ基、チオール基等を利用し、金属表面の官能基に共有結合させることで行うことができる。
【0072】
上記のようにして生理活性物質を固定化したバイオセンサーは、当該生理活性物質と相互作用する物質の検出及び/又は測定のために使用することができる。
【0073】
可動式導電体を備えた本発明のバイオセンサーにおいては、上記したような生理活性物質をバイオセンサーに固定化する際、あるいは当該生理活性物質と相互作用する物質をバイオセンサー表面に接触させる際に、可動式導電体により、流路内の液に電界を印加することによって、液中の目的物質(即ち、生理活性物質、あるいは生理活性物質と相互作用する物質)を濃縮することができ、これにより固定効率や検出感度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】図1は、本発明の可動式導電体を備えたバイオセンサーの構成例を示す。
【図2】図2は、表面プラズモン共鳴測定装置の例を示す。
【図3】図3は、誘電体ブロックの例を示す。
【符号の説明】
【0075】
10 測定ユニット
11 誘電体ブロック
12 金属膜
13 試料保持枠
14 センシング物質
30 光ビーム
31 レーザ光源
32 集光レンズ
40 光検出器
S40 出力信号
400 ガイドロッド
401 スライドブロック
402 精密ねじ
403 パルスモータ
404 モータコントローラ
410 ユニット連結体
411 連結部材



【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に液を接触させるための流路、基板、及び該流路内の液に電界を印加するための導電体を少なくとも有するバイオセンサーであって、該導電体が、流路に挿入及び流路から排出できるような可動式導電体であることを特徴とするバイオセンサー。
【請求項2】
導電体が、該導電体を流路に挿入及び流路から排出できるように移動するための導電体移動手段に連結されている、請求項1に記載のバイオセンサー。
【請求項3】
流路が絶縁体から構成されている、請求項1又は2に記載のバイオセンサー。
【請求項4】
複数個の導電体が設置されている、請求項1から3の何れかに記載のバイオセンサー。
【請求項5】
回路又はコンデンサーにより導電体に電界を印加する、請求項1から4の何れかに記載のバイオセンサー。
【請求項6】
流路内の液に電界を印加するための導電体が、流路に液を注入するための導電体チップである、請求項1から5の何れかに記載のバイオセンサー。
【請求項7】
表面プラズモン共鳴分析に使用するための請求項1から6の何れかに記載のバイオセンサー。
【請求項8】
基板上の金属膜の上に形成されたセルを含む流路系と、金属膜面で全反射した光ビームの強度を測定して表面プラズモン共鳴の状態を検出する光検出手段とを備えてなる、請求項1から7の何れかに記載のバイオセンサー。
【請求項9】
金属膜と、光ビームを発生させる光源と、前記光ビームを金属膜との界面で全反射条件が得られるように、かつ、種々の入射角成分を含むようにして入射させる光学系と、前記金属膜上に形成されたセルを含む流路系と、前記界面で全反射した光ビームの強度を測定して表面プラズモン共鳴の状態を検出する光検出手段とを備えてなる、請求項8に記載のバイオセンサー。
【請求項10】
請求項1から9の何れかに記載のバイオセンサーにおいて、流路内の液に電界を印加するための導電体を流路内に挿入することによって電界を印加することを含む、液中の目的物質を濃縮する方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−85770(P2007−85770A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−272104(P2005−272104)
【出願日】平成17年9月20日(2005.9.20)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】