可変インダクタ
【課題】 インダクタの形状を変えることなく、インダクタンス値を変化させることが可能である可変インダクタを提供する。
【解決手段】 複数の薄膜コイル2,3を備え、この複数の薄膜コイル2,3のうち、少なくとも1つの薄膜コイル3に対してアクチュエータ5が設けられ、このアクチュエータ5が、熱膨張によって曲がることにより薄膜コイル3を移動させる構成である可変インダクタ10を構成する。
【解決手段】 複数の薄膜コイル2,3を備え、この複数の薄膜コイル2,3のうち、少なくとも1つの薄膜コイル3に対してアクチュエータ5が設けられ、このアクチュエータ5が、熱膨張によって曲がることにより薄膜コイル3を移動させる構成である可変インダクタ10を構成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インダクタンスを変化させることが可能な可変インダクタに係わる。
【背景技術】
【0002】
従来は、電子回路の特性を可変にするためには、回路に含まれる能動素子の特性或いは受動素子の特性値(抵抗値や容量値等)を変化させていた。
【0003】
能動素子については、能動素子に印加されるバイアス電圧を変化させることにより、その能動素子の特性を変化させることができる。
また、受動素子については、例えばMOSFETのオン抵抗を利用することによって可変抵抗素子を容易に実現することができ、PN接合を利用することによって可変容量素子を容易に実現することができる。
【0004】
しかし、受動素子としてのインダクタについて、良好な特性を維持しつつ、インダクタンスを可変とすることは困難とされている。
【0005】
これに対して、能動素子を用いてインダクタを構成し、インダクタを可変とする方法もあるが、この構成では能動素子が使われていることから、雑音や歪の特性が悪いという問題がある。
【0006】
また、相互結合係数を変化させるために、インダクタの形状を物理的に変化させる方法(例えば、特許文献1参照)があるが、構成する回路の小型化並びに低コスト化が難しくなる、という点で問題がある。
【0007】
そこで、小型化や低コスト化、集積化が容易な可変インダクタとして、複数のコイルを設けて、分配器によって、それぞれのコイルに流れる電流の分配比を変更可能とした構成が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0008】
【特許文献1】特開平7−320942号公報
【特許文献2】特開2004−165612号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献2に記載された構成では、インダクタとは別に分配器が必要になり、また複数のインダクタの切り替えが必要となる。
このため、可変インダクタを設けることによって、回路構成が制約される。
【0010】
また、インダクタンスを大幅に変化させることは難しいため、可変インダクタを適用するアプリケーションに対応して、インダクタの構成を選択する必要がある。
【0011】
上述した問題の解決のために、本発明においては、インダクタの形状を変えることなく、簡単な構造でインダクタンス値を変化させることが可能である可変インダクタを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の可変インダクタは、複数の薄膜コイルを備え、この複数の薄膜コイルのうち、少なくとも1つの薄膜コイルに対してアクチュエータが設けられ、このアクチュエータが、熱膨張によって曲がることにより薄膜コイルを移動させる構成であるものである。
【0013】
上記本発明の可変インダクタにおいて、アクチュエータが、薄膜コイルの膜面に略垂直な方向に薄膜コイルを移動させる構成としてもよい。
【0014】
本発明の可変インダクタは、複数の薄膜コイルを備え、この複数の薄膜コイルのうち、少なくとも1つの薄膜コイルに対してアクチュエータが設けられ、このアクチュエータが、固定された第1の電極と、移動可能な第2の電極とから成り、静電作用によって第2の電極を第1の電極に対して相対的に動かすことにより薄膜コイルを移動させる構成であるものである。
【0015】
上記本発明の可変インダクタにおいて、アクチュエータが、薄膜コイルの膜面に略平行な方向に薄膜コイルを移動させる構成としてもよい。
【0016】
上記本発明の可変インダクタにおいて、アクチュエータが、互い違いに配置された、第1の櫛歯電極及び第2の櫛歯電極から成り、これら第1の櫛歯電極と第2の櫛歯電極との間に電位差を印加することにより、第2の櫛歯電極が移動すると共に、薄膜コイルが移動する構成としてもよい。
【発明の効果】
【0017】
上述の本発明によれば、アクチュエータにより薄膜コイルを移動させることにより、コイル間の相互インダクタンスを変化させて、可変インダクタ全体のインダクタンスを変化させることができる。
従って、インダクタの形状を変えることなく、インダクタンス値を変化させることができる。
また、アクチュエータを制御することにより、可変インダクタのインダクタンス値を制御することができる。
【0018】
そして、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を用いてアクチュエータを製造することにより、可変インダクタを、半導体基板、例えばシリコン基板上に作製することが可能となる。
これにより、構成が簡単で、かつ集積化・小型化・低消費電力化・低コスト化が可能な可変インダクタを実現することができる。
【0019】
また、MEMS技術を用いてアクチュエータを作製することにより、コイル間の距離も狭くすることが可能になるため、電磁的結合力を大きくすることができる。
また、アクチュエータを利用して複数のコイルの相互インダクタンスを変化させることから、任意にかつ連続的にインダクタンスを変化させることができ、コイルを切り替えを前提とした仕様とする必要がない。
【0020】
さらに、コイルに与える電流量や電圧量を変化させることによって、インダクタンスの変化量を調整することが可能であり、アクチュエータにより相互インダクタンスの変化と合わせて、広い範囲で連続的にインダクタンスを変化させることが可能になる。
【0021】
また、可変インダクタは、携帯通信機器の高性能化の要求から搭載個数が増加していくと予想され、今後大きな市場が期待できることから、本発明の可変インダクタによって、高性能の携帯通信機器を小型で安い価格で実現することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
まず、本発明の具体的な実施の形態の説明に先立ち、本発明の概要について説明する。
本発明に係る可変インダクタにおいては、複数のコイル間の距離等を変化させることにより、相互インダクタンスの大きさを変化させて、インダクタンスを変化させる。
【0023】
この原理を、図16A及び図16Bを参照して説明する。
図16A及び図16Bにおいて、インダクタンスL1のコイル1と、インダクタンスL2のコイル2とが、中心軸をほぼ同一として、上下に配置されている。
図16Aに示すように、コイル1及びコイル2の距離が短いときには、コイル1に電流iを流したときに発生する磁束のうち、コイル2を通る錯交磁束が増えるため、相互インダクタンスが大きくなる。
図16Bに示すように、コイル1及びコイル2の距離が長いときには、コイル1に電流iを流したときに発生する磁束のうち、コイル2を通る錯交磁束が減り、コイル2を通らない漏れ磁束が増えるため、相互インダクタンスが小さくなる。
【0024】
また、図16の2つのコイルを薄膜コイルにより構成した場合を、図17A及び図17Bの断面図を参照して説明する。
図17Aに示すように、下層の薄膜コイル71と上層の薄膜コイル72の水平方向の相対位置が一致していて、かつ2つのコイル71,72の距離が小さいときには、2つのコイル71,72の相互インダクタンスが最大となる。
図17Bに示すように、下層の薄膜コイル71と上層の薄膜コイル72の水平方向の相対位置がずれていて、各コイル71,72の導体が他方のコイルの導体の間にあって互い違いの位置にあり、かつ2つのコイル71,72の距離が大きいときには、2つのコイル71,72の相互インダクタンスが最小となる。
【0025】
また、前述した特許文献1に記載された構成でも、上述した原理によって相互インダクタンスを変化させている。
しかしながら、特許文献1に記載された構成では、コイルをスライダに取り付けて、スライダの動作によって手動でコイル間の距離を変化させているため、小型化することや電子回路に組み込むことが困難である。
【0026】
そこで、本発明に係る可変インダクタでは、微細な素材の熱膨張や静電作用を利用したアクチュエータを構成し、このアクチュエータを用いてコイルを移動させる。これにより、アクチュエータを制御することにより、可変インダクタのインダクタンスを制御することが可能になる。
そして、薄膜コイルから成るコイルを複数層設けて、複数層のコイルのうち、少なくとも1層のコイルを、アクチュエータにより移動させる構成とする。
【0027】
熱膨張を利用したアクチュエータとしては、例えばバイメタルのように、熱膨張係数の異なる2つの材料を積層して構成する。
そして、この構成のアクチュエータは、熱を加えることにより、熱膨張係数の小さい材料の側に曲げることができる。
この熱膨張を利用した構成のアクチュエータは、大きな力を取り出すことができること、単純な構造でアクチュエータを構成することができること、集積化に向いていること、等の特徴を有している。
【0028】
静電作用を利用したアクチュエータとしては、例えば図13に示す構成等が考えられる。
図13Aに示すように、図中左側の基板に、金属板電極から成る第1の櫛歯電極101が取り付けられており、第1の櫛歯電極101の間に第2の櫛歯電極102が配置されている。
【0029】
ここで、例えば第1の櫛歯電極101を接地電位に接続し、第2の櫛歯電極102を正電位に接続すると、図13Aに示すように、第1の櫛歯電極101は相対的に−電位となり、第2の櫛歯電極102は相対的に+電位となる。これにより、図中細い矢印で示す、第2の櫛歯電極102から第1の櫛歯電極101に向かう静電気力を生じる。
静電気力のうち、図中真上に向かう力と図中真下に向かう力とはつりあって相殺されるため、図中左方向の成分のみが残る。これにより、図中太い矢印に示すように、左方向の力Fが生じる。
そして、力Fの作用により、図13Bに示すように、第2の櫛歯電極102が左方向に移動する。このとき、第2の櫛歯電極102を、移動させたい物体に取り付けておけば、静電作用を利用して物体の移動を行うことができる。
【0030】
このような静電作用を利用したアクチュエータは、動作速度が速いこと、消費電力が少ないこと、集積化に向いていること、等の特徴を有している。
【0031】
また、図13A及び図13Bに示した原理を利用した、アクチュエータの構成を図14Aに示す。
図14Aに示すアクチュエータは、第1の櫛歯電極111と第2の櫛歯電極112とが互い違いに配置され、各第1の櫛歯電極111は左側の支持材111Aに取り付けられ、各第2の櫛歯電極112は右側の支持材112Aに取り付けられている。
また、第2の櫛歯電極112の支持材112Aは、導電性のバネ113に接続されている。バネ113は、左側が第2の櫛歯電極112の支持材に取り付けられており、右側が固定材114に固定されている。
さらに、第1の櫛歯電極111の支持材111Aと固定材114との間が配線により接続され、配線の途中に電源115及びスイッチ116が設けられている。図14Aに示す状態では、スイッチ116が切断されており、第1の櫛歯電極111の支持材111Aと固定材114とは導通していない。
【0032】
図14Bに示すように、スイッチ116を接続すると、第1の櫛歯電極111の支持材111Aと固定材114とが導通し、電源115によって第1の櫛歯電極111の支持材111Aと固定材114とに電圧+Vが印加される。
これにより、第1の櫛歯電極111は相対的に正電位となり、固定材114に電気的に接続された第2の櫛歯電極112は相対的に負電位となるため、図13A及び図13Bに示したと同様に静電気力が作用して第2の櫛歯電極112が左側への力を受ける。
従って、図中矢印に示すように左向きの力を受けて、第2の櫛歯電極112がバネ113の弾性力に打ち勝って左側に移動する。
【0033】
その後、図14Cに示すように、スイッチ116を切断すると、第1の櫛歯電極111の支持材111Aと固定材114とが導通しなくなるため、図14Bで示した静電気力による左向きの力がなくなる。
従って、バネ113の弾性力によって、矢印で示すように右向きの力を受けて、第2の櫛歯電極112が右側に移動する。
【0034】
なお、図13及び図14に示した構成において、2つの櫛歯電極に印加する電位の極性を逆にしても、動作は同様であり、静電気力が発生したときには第2の櫛歯電極が左側への力を受けて左側に移動する。
【0035】
続いて、本発明の可変インダクタの具体的な実施の形態を説明する。
【0036】
本発明の可変インダクタの一実施の形態の概略構成図(斜視図)を、図1に示す。
この可変インダクタ1は、薄膜コイルから成る2つのコイル2,3と、アクチュエータ5とを備えて構成されている。
【0037】
2つのコイル2,3は、薄膜コイルがスパイラル状(渦巻状)に形成され、スパイラルの外側に一方の端子T1が設けられ、スパイラルの中心部からスパイラルの下を通って外側に伸びた部分に他方の端子T2が設けられている。
下層側のコイル2は、基板6上に形成されている。
上層側のコイル3は、額縁状の枠4の上に形成されている。
枠4は、コイル2,3の四隅付近に設けられたアクチュエータ5の上に載置されている。
【0038】
各層のコイル2,3は、図2に断面図を示すような薄膜コイル51によって構成されている。
図2に示す薄膜コイル51は、基体52上に絶縁層53を介して、第1層の導電層54が形成され、その上に絶縁層55を介して、第2層の導電層57が形成されて成る。
第2層の導電層57は、スパイラル状(渦巻状)に形成され、その表面を絶縁層58で覆われている。また、図示しないが、外側に上述した一方の端子T1が設けられる。
第1層の導電層54は、絶縁層55内を貫通して形成された導電層56を介して、スパイラル状に形成された第2層の導電層57の中央部と接続されている。そして、第1層の導電層54には、図示しないが、端部に上述した他方の端子T2が設けられる。
【0039】
下層側のコイル2は、基板6が図2の基体52となっている。上層側のコイル3は、枠4が図2の基体52となっている。
【0040】
それぞれのアクチュエータ5は、基板6の上に配置された支持台7の上に設けられている。そして、図示しないが、各アクチュエータ5のコイル2,3とは反対側(つまり外側)の端部は、支持台7に固定されている。
【0041】
アクチュエータ5は、熱膨張を利用する構成となっている。図1のアクチュエータ5の詳細な構成を、図3A〜図3Cに示す。
図3Aはアクチュエータ5の上面図を示し、図3Bはアクチュエータ5の斜視図を示している。図3A及び図3Bに示すように、このアクチュエータ5は、細長いコ字状に折れ曲がった角棒状に形成されている。
なお、コ字状の先端部分が、外側に配置されて支持台7に固定され、コ字状の屈曲部がコイル2,3の側に配置される。
【0042】
また、図3Cに、角棒状のアクチュエータ5の断面図を示す。
図3Cに示すように、下層から、第1配線層11、金属層12、絶縁層13、絶縁層14、絶縁層15、金属層16、第2配線層17が積層されて成る。
【0043】
第1配線層11及び第2配線層17には、例えば金(Au)を用いることができる。また、これら第1配線層11及び第2配線層17は、両端部を外部と接続することにより、配線層11,17内に電流を流すことができるように構成する。
金属層12,16には、例えばチタンTiを用いることができる。
絶縁層13,15には、例えばプラズマSiO2を用いることができる。
絶縁層14には、例えばSiO2を用いることができる。
【0044】
そして、例えば、第1配線層11として膜厚0.1μmのAu膜、金属層12として膜厚0.05μmのTi膜、絶縁層13として膜厚1μmのプラズマSiO2膜、絶縁層14として膜厚1μmのSiO2膜、絶縁層15として膜厚1μmのプラズマSiO2膜、金属層16として膜厚0.05μmのTi膜、第2配線層17として膜厚0.1μmのAu膜を積層することにより、上下が対称なアクチュエータ5を構成することができる。
【0045】
次に、このアクチュエータ5の動作を、図4を参照して説明する。
図4Aに示すように、上層の第2配線層17に電流iを流すと、電流iによる発熱で熱膨張することにより、第2配線層17側の層(例えば第2配線層17及び金属層16)が伸びる。一方、下層の第1配線層11側はそのままである。
このため、アクチュエータ5は、上側が凸になるように曲がることになり、先端部が支持台7に固定されていることから、屈曲部が図中太い矢印で示すように下に曲がる。
【0046】
また、図4Bに示すように、下層の第1配線層11に電流iを流すと、電流iによる発熱で熱膨張することにより、第1配線層11側の層(例えば第1配線層11及び金属層12)が伸びる。一方、上層の第2配線層17側はそのままである。
このため、アクチュエータ5は、下側が凸になるように曲がることになり、先端部が支持台7に固定されていることから、屈曲部が図中太い矢印で示すように上に曲がる。
【0047】
このように、第1配線層11或いは第2配線層17のいずれか一方に電流を流すことにより、アクチュエータ5の屈曲部を下又は上に曲げることができる。
そして、第1配線層11に電流を流した状態と、第2配線層17に電流を流した状態とにより、アクチュエータ5の屈曲部の上に載置されたコイル3を上下に移動させることができる。
さらに、第1配線層11及び第2配線層17のどちらにも電流を流さない状態とすることにより、アクチュエータ5をまっすぐにすることができる。
また、第1配線層11或いは第2配線層17のいずれか一方に流す電流の量を変化させることにより、アクチュエータ5の屈曲部が上下に曲がる量を変化させることができ、これにより、コイル3の位置をアクチュエータの可動範囲内で任意に調節することが可能である。
【0048】
例えば、第1配線層11及び第2配線層17のどちらにも電流を流さない状態と、第1配線層11のみに電流を流した状態とにより、図5A及び図5Bに示すようにコイルを移動させることができる。
図5Aに示す状態では、第1配線層11及び第2配線層17のどちらにも電流を流さないことにより、アクチュエータ5がまっすぐになっている。
図5Bに示す状態では、第1配線層11に電流を流すことにより、アクチュエータ5の屈曲部が上に曲がり、上層のコイル3が載置された枠4が上に移動する。これにより、図4Aに示す状態と比較して、下層のコイル2と上層のコイル3との間隔が広がるため、2つのコイル2,3の相互インダクタンスが小さくなる。
【0049】
逆に、下層のコイル2と上層のコイル3との間隔が狭まると、2つのコイル2,3の相互インダクタンスが大きくなる。
そして、2つのコイル2,3の相互インダクタンスの大きさが変化することにより、可変インダクタ1全体のインダクタンスを変化させることができる。
【0050】
なお、例えば、アクチュエータ5の屈曲部の下の部分の支持台7に凹部を形成したり、アクチュエータ5の屈曲部の下には支持台7がない構成としたりすることにより、アクチュエータ5を下側に曲げることが可能になる。
【0051】
上述の本実施の形態の可変インダクタ1の構成によれば、薄膜コイルから成る2層のコイル2,3を備え、上層のコイル3が上下方向に曲がるアクチュエータ5の上に載置されていることにより、アクチュエータ5の動作によってコイル3を上下方向に移動させて、2層のコイル2,3間の距離を変化させることができる。
これにより、2層のコイル2,3の相互インダクタンスを変化させることができ、可変インダクタ1全体のインダクタンスを変化させることができる。
【0052】
また、アクチュエータ5が、第1の配線層11或いは第2の配線層17に電流を流すことによって屈曲部が曲がる構成であることにより、配線層11,17に流す電流の量を変化させれば、屈曲部が曲がる量を変化させることができる。
これにより、アクチュエータ5の配線層11,17に流す電流の量を調節することにより、コイル3の移動量を調節して、アクチュエータ5の可動範囲内で可変インダクタ1のインダクタンスを任意にかつ連続的に変化させることが可能になる。
【0053】
さらに、本実施の形態の可変インダクタ1のアクチュエータ5は、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を用いて作製することができる。
このようにMEMS技術を用いてアクチュエータ5を作製することにより、可変インダクタ1を、半導体基板、例えばシリコン基板上に作製することが可能となる。
これにより、構成が簡単で、かつ集積化・小型化・低消費電力化・低コスト化が可能な可変インダクタ1を実現することができる。そして、例えば、可変インダクタ1を備えた集積回路を1チップで形成することも可能になる。
【0054】
次に、図1に示した可変インダクタ1の構成を変形した、可変インダクタを次に示す。
本発明の可変インダクタの他の実施の形態の概略構成図(斜視図)を図6に示す。
本実施の形態の可変インダクタ20は、アクチュエータ5の屈曲部の上に載置されたコイル3の上方に、さらにコイル8を設けて、合計3層のコイル2,3,8を設けた構成である。
【0055】
本実施の形態では、3層のコイル2,3,8を設けたことにより、各コイル間に相互インダクタンスを発生させることが可能になる。
そして、2層目のコイル3を、アクチュエータ5を用いて上下方向(薄膜コイルの膜面に垂直な方向)に移動させることにより、2層目のコイル3と他のコイル2,8との相互インダクタンスを変化させて、可変インダクタ8全体のインダクタンスを変化させることができる。
【0056】
なお、相互インダクタンスは、インダクタの巻き数や外形、内径の大きさや、インダクタ間の距離に応じてその強さが決定される。
そこで、これらの寸法・距離等を変えて、相互インダクタンスが異なる組み合わせにすることにより、3層のコイル2,3,8を有する可変インダクタ20において、インダクタンスが変化する範囲を広げることも可能になる。
【0057】
ここで、図6に示した構成の可変インダクタ20を実際に作製して、その特性を調べた。
3層のコイル2,3,8を、同じ材料かつ同じ形状に形成して、アクチュエータ5により2層目のコイル3をコイル3の膜面に垂直な方向に移動させて、コイル間の距離を変化させる構成として、可変インダクタ20を作製した。
【0058】
そして、2層目のコイル3を、上層の3層目のコイル8に近づけたり、離したりしたときの、それぞれの自己インダクタンスと相互インダクタンスの変化量特性を、シミュレーションにより求めた。結果を図7に示す。
図7において、L11は下層(1層目)のコイル2の自己インダクタンスであり、L22は2層目のコイル3の自己インダクタンスであり、L33は上層(3層目)のコイル8の自己インダクタンスである。また、L12は1層目のコイル2と2層目のコイル3の相互インダクタンスであり、L23は2層目のコイル3と3層目のコイル8の相互インダクタンスであり、L13は1層目のコイル2と3層目のコイル8の相互インダクタンスである。また、図7の横軸は、2層目のコイル3の膜面に垂直な方向における移動距離[μm]を示しており、上方(3層目のコイル8側)に移動した場合を+として、下方(1層目のコイル2側)に移動した場合を−としている。
【0059】
図7より、3層のコイル2,3,8の材料及び形状が同じであるため、自己インダクタンスL11,L22,L33は等しくなっている。
また、2層目のコイル3と他のコイル2,8との相互インダクタンスL12,L23は、2層目のコイル3の移動に対応して変化している。移動距離が+のときは、2層目のコイル3が3層目のコイル8側に移動しているので、これらの間の相互インダクタンスL23が大きくなり、2層目のコイル3と1層目のコイル2との相互インダクタンスL12は逆に小さくなる。移動距離が−のときは、2層目のコイル3が1層目のコイル2側に移動しているので、これらの間の相互インダクタンスL12が大きくなり、2層目のコイル3と3層目のコイル8との相互インダクタンスL23は小さくなる。
このように、コイル間の距離に依存して、相互インダクタンスL12,L23が変化することが確認できた。
【0060】
上述の各実施の形態の可変インダクタ1,20は、熱膨張を利用したアクチュエータ5を備えた構成であったが、前述した静電作用を利用したアクチュエータを備えた構成を以下に示す。
【0061】
本発明の可変インダクタのさらに他の実施の形態の概略構成図(平面図)を図8に示す。
この可変インダクタ30は、先の実施の形態と同様に基板上に形成された第1層のコイル(図示せず)と、その上方に設けられた第2層のコイル31とを備えている。
第2層のコイル31は、薄膜コイルがスパイラル(渦巻)状に形成され、外側に第1の端子T1が設けられ、内側からコイル31の下を通って外側に延びる配線の先端に第2の端子T2が設けられている。
【0062】
そして、第2層のコイル31は、その四隅付近が、それぞれアクチュエータ32に取り付けられている。
このアクチュエータ32は、第1の櫛歯電極33と第2の櫛歯電極34とを有し、第1の櫛歯電極33は基板に対して固定され、第2の櫛歯電極34に2層目のコイル31が取り付けられている。
第2の櫛歯電極34は、図8のコイル31の四隅付近に配置され、第1の櫛歯電極33は、図8の第2の櫛歯電極34と向かい合わせに配置されている。
【0063】
第2の櫛歯電極34は、図14Aに示したバネ113等の導電性の弾性材にも取り付けられ、静電気力がない状態では、弾性材により第1の櫛歯電極33から離れる方向に付勢されている。
このようにアクチュエータ32が構成されていることにより、図14A〜図14Cに示したアクチュエータと同様に動作する。即ち、電圧を印加したときには、静電気力により第1の櫛歯電極33の間に第2の櫛歯電極34が入り込んでいき、電圧を印加していないときには、弾性材の弾性力により第1の櫛歯電極33から第2の櫛歯電極34が離れていく。
【0064】
また、上述のように弾性材を接続することにより、弾性材の弾性力と静電気力とが釣り合う箇所で第2の櫛歯電極34が静止するため、2つの櫛歯電極33,34に印加する電位の電位差によって静電気力の大きさを調整すれば、第2の櫛歯電極34が静止する位置を調整することができる。これにより、第2の櫛歯電極34に取り付けられた2層目のコイル31の移動量を調整することができる。
【0065】
また、本実施の形態では、互い違いに配置された第1の櫛歯電極33及び第2の櫛歯電極34に対して、それぞれ一本置きの櫛歯電極33,34にのみ電圧を印加することができるように構成する。
そのために、第1の櫛歯電極33及び第2の櫛歯電極34を、図9に示すような櫛歯電極60の構成とする。
図9に示す櫛歯電極60は、支持材61にそれぞれ独立した電位φ1,φ2が印加される、第1の配線62と第2の配線63とを備えており、支持材61に取り付けられた多数の櫛歯64,65が、一本置きに各配線62,63に電気的に接続されている。即ち、櫛歯64は、第1の配線62に電気的に接続されて、第1の電位φ1が印加される。また、櫛歯65は、第2の配線63に電気的に接続されて、第2の電位φ2が印加される。
【0066】
このような構成の櫛歯電極60を用いて、第1の櫛歯電極33及び第2の櫛歯電極34を構成することにより、図10A〜図10Cに示すようにアクチュエータ32を動作させることができる。
【0067】
まず、図10Aに示すように、例えば、全ての第1の櫛歯電極33に相対的に負電位を印加し、全ての第2の櫛歯電極34に相対的に正電位を印加することにより、図13及び図14に示したように、第2の櫛歯電極34が第1の櫛歯電極33の支持材に近づくように移動する。
この場合には、各櫛歯電極33,34において、支持材内の第1の配線61及び第2の配線62に同じ電位を印加している。
【0068】
次に、図10Bに示すように、第1の櫛歯電極33及び第2の櫛歯電極34において、一本置きの櫛歯電極に電位を印加するようにして、第1の櫛歯電極33の負電位が印加される櫛歯電極の左に第2の櫛歯電極34の正電位が印加される櫛歯電極が位置するように構成すると、電位が印加された櫛歯電極同士が静電気力により引き寄せられて、第2の櫛歯電極34が右に移動する。
この場合には、各櫛歯電極33,34において、支持材内の第1の配線61及び第2の配線62のうち、一方の配線のみに電位を印加している。
【0069】
次に、図10Cに示すように、第1の櫛歯電極33及び第2の櫛歯電極34において、一本置きの櫛歯電極に電位を印加するようにして、第1の櫛歯電極33の負電位が印加される櫛歯電極の右に第2の櫛歯電極34の正電位が印加される櫛歯電極が位置するように構成すると、電位が印加された櫛歯電極同士が静電気力により引き寄せられて、第2の櫛歯電極34が左に移動する。
この場合には、各櫛歯電極33,34において、支持材内の第1の配線61及び第2の配線62のうち、一方の配線のみに電位を印加している。
【0070】
このようにアクチュエータ32が動作することにより、図8に示した2層目のコイル31が、図10Aの場合は図8の上下方向に移動し、図10B及び図10Cの場合は図8の左右方向に移動する。
即ち、コイル31が、その膜面に平行な方向に移動する。
【0071】
本実施の形態では、アクチュエータ32が図8及び図10に示す構成であるため、第2の櫛歯電極34の移動量は、櫛歯電極33,34の長手方向(図10A)の方が、長手方向に垂直な方向(図10B及び図10C)よりも大きい。
従って、第2層のコイル31の移動量も、同様に、櫛歯電極33,34の長手方向に沿った方向(前後方向)Yが大きくなり、長手方向に垂直な左右方向Xが小さくなる。
【0072】
上述の本実施の形態の可変インダクタ30の構成によれば、薄膜コイルから成る2層のコイルを備え、上層のコイル31が、静電気力により第2の櫛歯電極34が移動するアクチュエータ32の第2の櫛歯電極34に取り付けられていることにより、アクチュエータ32の動作によってコイル31を膜面に平行な方向(前後左右)に移動させて、2層のコイルを構成する導体の水平距離を変化させることができる。また、コイルの対向する面積が変化するため、一方のコイルから発生した磁束が他方のコイル内を通過する量が変化する。
これにより、2層のコイルの相互インダクタンスを変化させることができ、可変インダクタ30全体のインダクタンスを変化させることができる。
【0073】
また、アクチュエータ32が、第1の櫛歯電極33と第2の櫛歯電極34にそれぞれ印加される電位の電位差により静電気力を生じて第2の櫛歯電極34が移動する構成であることにより、第2の櫛歯電極34を弾性材により静電気力と反対向きに付勢して、両電極33,34に印加される電位の電位差の大きさを調整することにより、静電気力を調整して、第2の櫛歯電極34の移動量即ち第2層のコイル31の移動量を調整して、アクチュエータ32の第2の櫛歯電極34の可動範囲内で可変インダクタ30のインダクタンスを任意にかつ連続的に変化させることが可能になる。
【0074】
さらに、本実施の形態の可変インダクタ30のアクチュエータ32は、MEMS技術を用いて作製することができる。
このようにMEMS技術を用いてアクチュエータ32を作製することにより、可変インダクタ30を、半導体基板、例えばシリコン基板上に作製することが可能となる。
これにより、構成が簡単で、かつ集積化・小型化・低消費電力化・低コスト化が可能な可変インダクタ30を実現することができる。そして、例えば、可変インダクタ30を備えた集積回路を1チップで形成することも可能になる。
【0075】
なお、図8に示した可変インダクタ30の構成に対して、図6に示した実施の形態と同様に、第2層のコイル31の上に第3層のコイルを配置して、可変インダクタを構成することも可能である。
【0076】
また、図8では、第2層のコイル31がアクチュエータ32の第2の櫛歯電極34に直接取り付けられているが、例えば図1に示した枠4と同様の枠を用いて、枠をアクチュエータの第2の櫛歯電極に取り付けて、この枠の上に第2層のコイルを形成した構成としてもよい。
【0077】
次に、本発明の可変インダクタのさらに別の実施の形態の概略構成図(平面図)を図11に示す。
この可変インダクタ40は、先の実施の形態と同様に基板上に形成された第1層のコイル(図示せず)と、その上方に設けられた第2層のコイル41とを備えている。
第2層のコイル41は、薄膜コイルがスパイラル(渦巻)状に形成され、外側に第1の端子T1が設けられ、内側からコイル41の下を通って外側に延びる配線の先端に第2の端子T2が設けられている。
【0078】
そして、第2層のコイル41は、その四隅付近が、それぞれアクチュエータ42に取り付けられている。
このアクチュエータ42は、第1の櫛歯電極43と第2の櫛歯電極44とを有し、第1の櫛歯電極43は基板に対して固定され、第2の櫛歯電極44に2層目のコイル41が取り付けられている。
第2の櫛歯電極44は、図11のコイル41の四隅付近に配置され、第1の櫛歯電極43は、図11の第2の櫛歯電極44と向かい合わせに配置されている。
【0079】
第2の櫛歯電極44は、図14Aに示したバネ113等の導電性の弾性材にも取り付けられ、静電気力がない状態では、弾性材により第1の櫛歯電極43から離れる方向に付勢されている。
このようにアクチュエータ42が構成されていることにより、図14A〜図14Cに示したアクチュエータと同様に動作する。即ち、電圧を印加したときには、静電気力により第1の櫛歯電極43の間に第2の櫛歯電極44が入り込んでいき、電圧を印加していないときには、弾性材の弾性力により第1の櫛歯電極43から第2の櫛歯電極44が離れていく。
【0080】
また、上述のように弾性材を接続することにより、弾性材の弾性力と静電気力とが釣り合う箇所で第2の櫛歯電極44が静止するため、2つの櫛歯電極43,44に印加する電位の電位差によって静電気力の大きさを調整すれば、第2の櫛歯電極44が静止する位置を調整することができる。これにより、第2の櫛歯電極44に取り付けられた2層目のコイル41の移動量を調整することができる。
【0081】
また、本実施の形態では、図11及び図12Aに示すように、アクチュエータ42の第1の櫛歯電極43及び第2の櫛歯電極44の長手方向が、前後方向及び左右方向に対して斜めの方向となっている。
【0082】
そして、図12Bに示すように、例えば、第1の櫛歯電極43に相対的に負電位を印加して、第2の櫛歯電極44に相対的に正電位を印加することにより、第2の櫛歯電極44が第1の櫛歯電極43の支持材に近づくように斜めに移動する。
これにより、第2櫛歯電極44に接続された第2層のコイル41が、第2の櫛歯電極44の長手方向に沿って、図11に太い矢印で示す斜め方向に移動する。
【0083】
本実施の形態の構成の場合には、第1の櫛歯電極43及び第2の櫛歯電極44の長手方向と、左右方向X及び前後方向Yとの間の角度によって、左右方向Xの移動量ΔXと前後方向Yの移動量ΔYとの比率が決まり、ΔX/ΔYはほぼ一定となる。
この場合、先の実施の形態の可変インダクタ30のように左右方向及び前後方向に任意に移動することはできないが、弾性材を1方向に設ければ済み、3方向に設ける必要がなくなる利点を有する。
【0084】
上述の本実施の形態の可変インダクタ40の構成によれば、薄膜コイルから成る2層のコイルを備え、上層のコイル41が、静電気力により第2の櫛歯電極44が移動するアクチュエータ42の第2の櫛歯電極44に取り付けられていることにより、アクチュエータ42の動作によってコイル41を膜面に平行な方向(左右方向X及び前後方向Yに対して斜めの方向)に移動させて、2層のコイルを構成する導体の水平距離を変化させることができる。また、コイルの対向する面積が変化するため、一方のコイルから発生した磁束が他方のコイル内を通過する量が変化する。
これにより、2層のコイルの相互インダクタンスを変化させることができ、可変インダクタ40全体のインダクタンスを変化させることができる。
【0085】
また、アクチュエータ42が、第1の櫛歯電極43と第2の櫛歯電極44にそれぞれ印加される電位の電位差により静電気力を生じて第2の櫛歯電極44が移動する構成であることにより、第2の櫛歯電極44を弾性材により静電気力と反対向きに付勢して、両電極43,44に印加される電位の電位差の大きさを調整することにより、静電気力を調整して、第2の櫛歯電極44の移動量即ち第2層のコイル41の移動量を調整して、アクチュエータ42の第2の櫛歯電極44の可動範囲内で可変インダクタ40のインダクタンスを任意にかつ連続的に変化させることが可能になる。
【0086】
なお、図11に示した可変インダクタ40の構成に対して、図6に示した実施の形態と同様に、第2層のコイル41の上に第3層のコイルを配置して、可変インダクタを構成することも可能である。
【0087】
また、図11では、第2層のコイル41がアクチュエータ42の第2の櫛歯電極44に直接取り付けられているが、例えば図1に示した枠4と同様の枠を用いて、枠をアクチュエータの第2の櫛歯電極に取り付けて、この枠の上に第2層のコイルを形成した構成としてもよい。
【0088】
なお、櫛歯電極を付勢する弾性材は、図14に示した導電性のバネ113に限定されるものではなく、その他の弾性材も使用することができる。
また、弾性材を導電性の材料で構成する代わりに、弾性材とは別に配線を第2の櫛歯電極の支持材に接続して、この配線から第2の櫛歯電極に電位を印加するようにしても構わない。
【0089】
上述の各実施の形態では、2層又は3層の薄膜コイルを備え、そのうちの1層(第2層の薄膜コイル)のみがアクチュエータにより移動する構成であった。
本発明では、複数層の薄膜コイルを備え、そのうち一部の層或いは全部の層がアクチュエータにより移動する構成であれば、その他の構成とすることも可能である。
【0090】
また、各層の薄膜コイルの構成は、図2に示した薄膜コイル51と同様の構成に限定されるものではなく、その他の構成も可能である。
【0091】
上述の各実施の形態では、コイルがアクチュエータによりコイルの膜面に垂直な方向又は膜面に平行な方向に移動する構成であったが、膜面に垂直な方向や膜面に平行な方向から若干ずれていても、即ち、コイルの膜面に略垂直な方向又は膜面に略平行な方向であれば、同様の作用効果が得られる。
なお、本発明では、コイルの移動方向が斜め上方向等、その他の方向に移動する構成であってもよく、このような構成でもコイル間の相互インダクタンスを変化させて可変インダクタのインダクタンスを変化させることができる。
【0092】
また、本発明の可変インダクタのコイルがアクチュエータにより移動する構成に加えて、さらに、スイッチングにより電流を流すコイルを切り替える構成や、それぞれのコイルに流す電流量を異ならせる構成等を組み合わせることも可能である。
このように構成を組み合わせることにより、可変インダクタのインダクタンスが変化する範囲を広げることも可能になる。
【0093】
上述の各実施の形態の可変インダクタ1,20,30,40等の、本発明の可変インダクタは、例えば、図15A及び図15Bに回路構成図を示す、VCO(電圧制御発振器)に用いることができる。
図15A及び図15Bに示すVCO(電圧制御発振器)では、それぞれ図中上方に2つのコイルが設けられており、この2つのコイルに本発明の可変インダクタを適用して、コイルのインダクタンスを変化させることができる。
【0094】
このVCO(電圧制御発振器)は、例えば、携帯電話等の無線通信用の電子機器において、基準周波数を生成するPLL回路等に使用されるものであり、電圧で出力周波数を制御することができる。
【0095】
本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲でその他様々な構成が取り得る。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明のインダクタは、例えば、携帯電話やLSIテスター等の電子機器、スイッチング電源回路に代表されるDC−DCコンバーターに適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明の可変インダクタの一実施の形態の概略構成図(斜視図)である。
【図2】図1の各層のコイルを構成する薄膜コイルの断面図である。
【図3】A〜C 図1のアクチュエータの詳細な構成を示す図である。
【図4】A、B 図1のアクチュエータの動作を説明する図である。
【図5】A、B 図1のアクチュエータによるコイルの移動を説明する図である。
【図6】本発明の可変インダクタの他の実施の形態の概略構成図(斜視図)である。
【図7】図6の可変インダクタのコイルの移動距離とインダクタンスの大きさとの関係を示す図である。
【図8】本発明の可変インダクタのさらに他の実施の形態の概略構成図(平面図)である。
【図9】図8のアクチュエータを構成する櫛歯電極の概略構成図である。
【図10】A〜C 図8のアクチュエータの動作を説明する図である。
【図11】本発明の可変インダクタのさらに別の実施の形態の概略構成図(平面図)である。
【図12】A、B 図11のアクチュエータの動作を説明する図である。
【図13】A、B 静電作用を利用したアクチュエータの構成及び動作を説明する図である。
【図14】A〜C 図13の原理を利用したアクチュエータの構成及び動作を説明する図である。
【図15】A、B 本発明の可変インダクタを適用することができるVCO(電圧制御発振器)の回路構成図である。
【図16】A、B 相互インダクタンスを変化させて全体のインダクタンスを変化させることを説明する図である。
【図17】A、B 2層の薄膜コイルの相対位置と相互インダクタンスの大きさとの関係を説明する図である。
【符号の説明】
【0098】
1,20,30,40 可変インダクタ、2,3,8,31,41 コイル、5,32,42 アクチュエータ、6 基板、7 支持台、33,43 第1の櫛歯電極、34,44 第2の櫛歯電極、51 薄膜コイル、60 櫛歯電極
【技術分野】
【0001】
本発明は、インダクタンスを変化させることが可能な可変インダクタに係わる。
【背景技術】
【0002】
従来は、電子回路の特性を可変にするためには、回路に含まれる能動素子の特性或いは受動素子の特性値(抵抗値や容量値等)を変化させていた。
【0003】
能動素子については、能動素子に印加されるバイアス電圧を変化させることにより、その能動素子の特性を変化させることができる。
また、受動素子については、例えばMOSFETのオン抵抗を利用することによって可変抵抗素子を容易に実現することができ、PN接合を利用することによって可変容量素子を容易に実現することができる。
【0004】
しかし、受動素子としてのインダクタについて、良好な特性を維持しつつ、インダクタンスを可変とすることは困難とされている。
【0005】
これに対して、能動素子を用いてインダクタを構成し、インダクタを可変とする方法もあるが、この構成では能動素子が使われていることから、雑音や歪の特性が悪いという問題がある。
【0006】
また、相互結合係数を変化させるために、インダクタの形状を物理的に変化させる方法(例えば、特許文献1参照)があるが、構成する回路の小型化並びに低コスト化が難しくなる、という点で問題がある。
【0007】
そこで、小型化や低コスト化、集積化が容易な可変インダクタとして、複数のコイルを設けて、分配器によって、それぞれのコイルに流れる電流の分配比を変更可能とした構成が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0008】
【特許文献1】特開平7−320942号公報
【特許文献2】特開2004−165612号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献2に記載された構成では、インダクタとは別に分配器が必要になり、また複数のインダクタの切り替えが必要となる。
このため、可変インダクタを設けることによって、回路構成が制約される。
【0010】
また、インダクタンスを大幅に変化させることは難しいため、可変インダクタを適用するアプリケーションに対応して、インダクタの構成を選択する必要がある。
【0011】
上述した問題の解決のために、本発明においては、インダクタの形状を変えることなく、簡単な構造でインダクタンス値を変化させることが可能である可変インダクタを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の可変インダクタは、複数の薄膜コイルを備え、この複数の薄膜コイルのうち、少なくとも1つの薄膜コイルに対してアクチュエータが設けられ、このアクチュエータが、熱膨張によって曲がることにより薄膜コイルを移動させる構成であるものである。
【0013】
上記本発明の可変インダクタにおいて、アクチュエータが、薄膜コイルの膜面に略垂直な方向に薄膜コイルを移動させる構成としてもよい。
【0014】
本発明の可変インダクタは、複数の薄膜コイルを備え、この複数の薄膜コイルのうち、少なくとも1つの薄膜コイルに対してアクチュエータが設けられ、このアクチュエータが、固定された第1の電極と、移動可能な第2の電極とから成り、静電作用によって第2の電極を第1の電極に対して相対的に動かすことにより薄膜コイルを移動させる構成であるものである。
【0015】
上記本発明の可変インダクタにおいて、アクチュエータが、薄膜コイルの膜面に略平行な方向に薄膜コイルを移動させる構成としてもよい。
【0016】
上記本発明の可変インダクタにおいて、アクチュエータが、互い違いに配置された、第1の櫛歯電極及び第2の櫛歯電極から成り、これら第1の櫛歯電極と第2の櫛歯電極との間に電位差を印加することにより、第2の櫛歯電極が移動すると共に、薄膜コイルが移動する構成としてもよい。
【発明の効果】
【0017】
上述の本発明によれば、アクチュエータにより薄膜コイルを移動させることにより、コイル間の相互インダクタンスを変化させて、可変インダクタ全体のインダクタンスを変化させることができる。
従って、インダクタの形状を変えることなく、インダクタンス値を変化させることができる。
また、アクチュエータを制御することにより、可変インダクタのインダクタンス値を制御することができる。
【0018】
そして、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を用いてアクチュエータを製造することにより、可変インダクタを、半導体基板、例えばシリコン基板上に作製することが可能となる。
これにより、構成が簡単で、かつ集積化・小型化・低消費電力化・低コスト化が可能な可変インダクタを実現することができる。
【0019】
また、MEMS技術を用いてアクチュエータを作製することにより、コイル間の距離も狭くすることが可能になるため、電磁的結合力を大きくすることができる。
また、アクチュエータを利用して複数のコイルの相互インダクタンスを変化させることから、任意にかつ連続的にインダクタンスを変化させることができ、コイルを切り替えを前提とした仕様とする必要がない。
【0020】
さらに、コイルに与える電流量や電圧量を変化させることによって、インダクタンスの変化量を調整することが可能であり、アクチュエータにより相互インダクタンスの変化と合わせて、広い範囲で連続的にインダクタンスを変化させることが可能になる。
【0021】
また、可変インダクタは、携帯通信機器の高性能化の要求から搭載個数が増加していくと予想され、今後大きな市場が期待できることから、本発明の可変インダクタによって、高性能の携帯通信機器を小型で安い価格で実現することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
まず、本発明の具体的な実施の形態の説明に先立ち、本発明の概要について説明する。
本発明に係る可変インダクタにおいては、複数のコイル間の距離等を変化させることにより、相互インダクタンスの大きさを変化させて、インダクタンスを変化させる。
【0023】
この原理を、図16A及び図16Bを参照して説明する。
図16A及び図16Bにおいて、インダクタンスL1のコイル1と、インダクタンスL2のコイル2とが、中心軸をほぼ同一として、上下に配置されている。
図16Aに示すように、コイル1及びコイル2の距離が短いときには、コイル1に電流iを流したときに発生する磁束のうち、コイル2を通る錯交磁束が増えるため、相互インダクタンスが大きくなる。
図16Bに示すように、コイル1及びコイル2の距離が長いときには、コイル1に電流iを流したときに発生する磁束のうち、コイル2を通る錯交磁束が減り、コイル2を通らない漏れ磁束が増えるため、相互インダクタンスが小さくなる。
【0024】
また、図16の2つのコイルを薄膜コイルにより構成した場合を、図17A及び図17Bの断面図を参照して説明する。
図17Aに示すように、下層の薄膜コイル71と上層の薄膜コイル72の水平方向の相対位置が一致していて、かつ2つのコイル71,72の距離が小さいときには、2つのコイル71,72の相互インダクタンスが最大となる。
図17Bに示すように、下層の薄膜コイル71と上層の薄膜コイル72の水平方向の相対位置がずれていて、各コイル71,72の導体が他方のコイルの導体の間にあって互い違いの位置にあり、かつ2つのコイル71,72の距離が大きいときには、2つのコイル71,72の相互インダクタンスが最小となる。
【0025】
また、前述した特許文献1に記載された構成でも、上述した原理によって相互インダクタンスを変化させている。
しかしながら、特許文献1に記載された構成では、コイルをスライダに取り付けて、スライダの動作によって手動でコイル間の距離を変化させているため、小型化することや電子回路に組み込むことが困難である。
【0026】
そこで、本発明に係る可変インダクタでは、微細な素材の熱膨張や静電作用を利用したアクチュエータを構成し、このアクチュエータを用いてコイルを移動させる。これにより、アクチュエータを制御することにより、可変インダクタのインダクタンスを制御することが可能になる。
そして、薄膜コイルから成るコイルを複数層設けて、複数層のコイルのうち、少なくとも1層のコイルを、アクチュエータにより移動させる構成とする。
【0027】
熱膨張を利用したアクチュエータとしては、例えばバイメタルのように、熱膨張係数の異なる2つの材料を積層して構成する。
そして、この構成のアクチュエータは、熱を加えることにより、熱膨張係数の小さい材料の側に曲げることができる。
この熱膨張を利用した構成のアクチュエータは、大きな力を取り出すことができること、単純な構造でアクチュエータを構成することができること、集積化に向いていること、等の特徴を有している。
【0028】
静電作用を利用したアクチュエータとしては、例えば図13に示す構成等が考えられる。
図13Aに示すように、図中左側の基板に、金属板電極から成る第1の櫛歯電極101が取り付けられており、第1の櫛歯電極101の間に第2の櫛歯電極102が配置されている。
【0029】
ここで、例えば第1の櫛歯電極101を接地電位に接続し、第2の櫛歯電極102を正電位に接続すると、図13Aに示すように、第1の櫛歯電極101は相対的に−電位となり、第2の櫛歯電極102は相対的に+電位となる。これにより、図中細い矢印で示す、第2の櫛歯電極102から第1の櫛歯電極101に向かう静電気力を生じる。
静電気力のうち、図中真上に向かう力と図中真下に向かう力とはつりあって相殺されるため、図中左方向の成分のみが残る。これにより、図中太い矢印に示すように、左方向の力Fが生じる。
そして、力Fの作用により、図13Bに示すように、第2の櫛歯電極102が左方向に移動する。このとき、第2の櫛歯電極102を、移動させたい物体に取り付けておけば、静電作用を利用して物体の移動を行うことができる。
【0030】
このような静電作用を利用したアクチュエータは、動作速度が速いこと、消費電力が少ないこと、集積化に向いていること、等の特徴を有している。
【0031】
また、図13A及び図13Bに示した原理を利用した、アクチュエータの構成を図14Aに示す。
図14Aに示すアクチュエータは、第1の櫛歯電極111と第2の櫛歯電極112とが互い違いに配置され、各第1の櫛歯電極111は左側の支持材111Aに取り付けられ、各第2の櫛歯電極112は右側の支持材112Aに取り付けられている。
また、第2の櫛歯電極112の支持材112Aは、導電性のバネ113に接続されている。バネ113は、左側が第2の櫛歯電極112の支持材に取り付けられており、右側が固定材114に固定されている。
さらに、第1の櫛歯電極111の支持材111Aと固定材114との間が配線により接続され、配線の途中に電源115及びスイッチ116が設けられている。図14Aに示す状態では、スイッチ116が切断されており、第1の櫛歯電極111の支持材111Aと固定材114とは導通していない。
【0032】
図14Bに示すように、スイッチ116を接続すると、第1の櫛歯電極111の支持材111Aと固定材114とが導通し、電源115によって第1の櫛歯電極111の支持材111Aと固定材114とに電圧+Vが印加される。
これにより、第1の櫛歯電極111は相対的に正電位となり、固定材114に電気的に接続された第2の櫛歯電極112は相対的に負電位となるため、図13A及び図13Bに示したと同様に静電気力が作用して第2の櫛歯電極112が左側への力を受ける。
従って、図中矢印に示すように左向きの力を受けて、第2の櫛歯電極112がバネ113の弾性力に打ち勝って左側に移動する。
【0033】
その後、図14Cに示すように、スイッチ116を切断すると、第1の櫛歯電極111の支持材111Aと固定材114とが導通しなくなるため、図14Bで示した静電気力による左向きの力がなくなる。
従って、バネ113の弾性力によって、矢印で示すように右向きの力を受けて、第2の櫛歯電極112が右側に移動する。
【0034】
なお、図13及び図14に示した構成において、2つの櫛歯電極に印加する電位の極性を逆にしても、動作は同様であり、静電気力が発生したときには第2の櫛歯電極が左側への力を受けて左側に移動する。
【0035】
続いて、本発明の可変インダクタの具体的な実施の形態を説明する。
【0036】
本発明の可変インダクタの一実施の形態の概略構成図(斜視図)を、図1に示す。
この可変インダクタ1は、薄膜コイルから成る2つのコイル2,3と、アクチュエータ5とを備えて構成されている。
【0037】
2つのコイル2,3は、薄膜コイルがスパイラル状(渦巻状)に形成され、スパイラルの外側に一方の端子T1が設けられ、スパイラルの中心部からスパイラルの下を通って外側に伸びた部分に他方の端子T2が設けられている。
下層側のコイル2は、基板6上に形成されている。
上層側のコイル3は、額縁状の枠4の上に形成されている。
枠4は、コイル2,3の四隅付近に設けられたアクチュエータ5の上に載置されている。
【0038】
各層のコイル2,3は、図2に断面図を示すような薄膜コイル51によって構成されている。
図2に示す薄膜コイル51は、基体52上に絶縁層53を介して、第1層の導電層54が形成され、その上に絶縁層55を介して、第2層の導電層57が形成されて成る。
第2層の導電層57は、スパイラル状(渦巻状)に形成され、その表面を絶縁層58で覆われている。また、図示しないが、外側に上述した一方の端子T1が設けられる。
第1層の導電層54は、絶縁層55内を貫通して形成された導電層56を介して、スパイラル状に形成された第2層の導電層57の中央部と接続されている。そして、第1層の導電層54には、図示しないが、端部に上述した他方の端子T2が設けられる。
【0039】
下層側のコイル2は、基板6が図2の基体52となっている。上層側のコイル3は、枠4が図2の基体52となっている。
【0040】
それぞれのアクチュエータ5は、基板6の上に配置された支持台7の上に設けられている。そして、図示しないが、各アクチュエータ5のコイル2,3とは反対側(つまり外側)の端部は、支持台7に固定されている。
【0041】
アクチュエータ5は、熱膨張を利用する構成となっている。図1のアクチュエータ5の詳細な構成を、図3A〜図3Cに示す。
図3Aはアクチュエータ5の上面図を示し、図3Bはアクチュエータ5の斜視図を示している。図3A及び図3Bに示すように、このアクチュエータ5は、細長いコ字状に折れ曲がった角棒状に形成されている。
なお、コ字状の先端部分が、外側に配置されて支持台7に固定され、コ字状の屈曲部がコイル2,3の側に配置される。
【0042】
また、図3Cに、角棒状のアクチュエータ5の断面図を示す。
図3Cに示すように、下層から、第1配線層11、金属層12、絶縁層13、絶縁層14、絶縁層15、金属層16、第2配線層17が積層されて成る。
【0043】
第1配線層11及び第2配線層17には、例えば金(Au)を用いることができる。また、これら第1配線層11及び第2配線層17は、両端部を外部と接続することにより、配線層11,17内に電流を流すことができるように構成する。
金属層12,16には、例えばチタンTiを用いることができる。
絶縁層13,15には、例えばプラズマSiO2を用いることができる。
絶縁層14には、例えばSiO2を用いることができる。
【0044】
そして、例えば、第1配線層11として膜厚0.1μmのAu膜、金属層12として膜厚0.05μmのTi膜、絶縁層13として膜厚1μmのプラズマSiO2膜、絶縁層14として膜厚1μmのSiO2膜、絶縁層15として膜厚1μmのプラズマSiO2膜、金属層16として膜厚0.05μmのTi膜、第2配線層17として膜厚0.1μmのAu膜を積層することにより、上下が対称なアクチュエータ5を構成することができる。
【0045】
次に、このアクチュエータ5の動作を、図4を参照して説明する。
図4Aに示すように、上層の第2配線層17に電流iを流すと、電流iによる発熱で熱膨張することにより、第2配線層17側の層(例えば第2配線層17及び金属層16)が伸びる。一方、下層の第1配線層11側はそのままである。
このため、アクチュエータ5は、上側が凸になるように曲がることになり、先端部が支持台7に固定されていることから、屈曲部が図中太い矢印で示すように下に曲がる。
【0046】
また、図4Bに示すように、下層の第1配線層11に電流iを流すと、電流iによる発熱で熱膨張することにより、第1配線層11側の層(例えば第1配線層11及び金属層12)が伸びる。一方、上層の第2配線層17側はそのままである。
このため、アクチュエータ5は、下側が凸になるように曲がることになり、先端部が支持台7に固定されていることから、屈曲部が図中太い矢印で示すように上に曲がる。
【0047】
このように、第1配線層11或いは第2配線層17のいずれか一方に電流を流すことにより、アクチュエータ5の屈曲部を下又は上に曲げることができる。
そして、第1配線層11に電流を流した状態と、第2配線層17に電流を流した状態とにより、アクチュエータ5の屈曲部の上に載置されたコイル3を上下に移動させることができる。
さらに、第1配線層11及び第2配線層17のどちらにも電流を流さない状態とすることにより、アクチュエータ5をまっすぐにすることができる。
また、第1配線層11或いは第2配線層17のいずれか一方に流す電流の量を変化させることにより、アクチュエータ5の屈曲部が上下に曲がる量を変化させることができ、これにより、コイル3の位置をアクチュエータの可動範囲内で任意に調節することが可能である。
【0048】
例えば、第1配線層11及び第2配線層17のどちらにも電流を流さない状態と、第1配線層11のみに電流を流した状態とにより、図5A及び図5Bに示すようにコイルを移動させることができる。
図5Aに示す状態では、第1配線層11及び第2配線層17のどちらにも電流を流さないことにより、アクチュエータ5がまっすぐになっている。
図5Bに示す状態では、第1配線層11に電流を流すことにより、アクチュエータ5の屈曲部が上に曲がり、上層のコイル3が載置された枠4が上に移動する。これにより、図4Aに示す状態と比較して、下層のコイル2と上層のコイル3との間隔が広がるため、2つのコイル2,3の相互インダクタンスが小さくなる。
【0049】
逆に、下層のコイル2と上層のコイル3との間隔が狭まると、2つのコイル2,3の相互インダクタンスが大きくなる。
そして、2つのコイル2,3の相互インダクタンスの大きさが変化することにより、可変インダクタ1全体のインダクタンスを変化させることができる。
【0050】
なお、例えば、アクチュエータ5の屈曲部の下の部分の支持台7に凹部を形成したり、アクチュエータ5の屈曲部の下には支持台7がない構成としたりすることにより、アクチュエータ5を下側に曲げることが可能になる。
【0051】
上述の本実施の形態の可変インダクタ1の構成によれば、薄膜コイルから成る2層のコイル2,3を備え、上層のコイル3が上下方向に曲がるアクチュエータ5の上に載置されていることにより、アクチュエータ5の動作によってコイル3を上下方向に移動させて、2層のコイル2,3間の距離を変化させることができる。
これにより、2層のコイル2,3の相互インダクタンスを変化させることができ、可変インダクタ1全体のインダクタンスを変化させることができる。
【0052】
また、アクチュエータ5が、第1の配線層11或いは第2の配線層17に電流を流すことによって屈曲部が曲がる構成であることにより、配線層11,17に流す電流の量を変化させれば、屈曲部が曲がる量を変化させることができる。
これにより、アクチュエータ5の配線層11,17に流す電流の量を調節することにより、コイル3の移動量を調節して、アクチュエータ5の可動範囲内で可変インダクタ1のインダクタンスを任意にかつ連続的に変化させることが可能になる。
【0053】
さらに、本実施の形態の可変インダクタ1のアクチュエータ5は、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を用いて作製することができる。
このようにMEMS技術を用いてアクチュエータ5を作製することにより、可変インダクタ1を、半導体基板、例えばシリコン基板上に作製することが可能となる。
これにより、構成が簡単で、かつ集積化・小型化・低消費電力化・低コスト化が可能な可変インダクタ1を実現することができる。そして、例えば、可変インダクタ1を備えた集積回路を1チップで形成することも可能になる。
【0054】
次に、図1に示した可変インダクタ1の構成を変形した、可変インダクタを次に示す。
本発明の可変インダクタの他の実施の形態の概略構成図(斜視図)を図6に示す。
本実施の形態の可変インダクタ20は、アクチュエータ5の屈曲部の上に載置されたコイル3の上方に、さらにコイル8を設けて、合計3層のコイル2,3,8を設けた構成である。
【0055】
本実施の形態では、3層のコイル2,3,8を設けたことにより、各コイル間に相互インダクタンスを発生させることが可能になる。
そして、2層目のコイル3を、アクチュエータ5を用いて上下方向(薄膜コイルの膜面に垂直な方向)に移動させることにより、2層目のコイル3と他のコイル2,8との相互インダクタンスを変化させて、可変インダクタ8全体のインダクタンスを変化させることができる。
【0056】
なお、相互インダクタンスは、インダクタの巻き数や外形、内径の大きさや、インダクタ間の距離に応じてその強さが決定される。
そこで、これらの寸法・距離等を変えて、相互インダクタンスが異なる組み合わせにすることにより、3層のコイル2,3,8を有する可変インダクタ20において、インダクタンスが変化する範囲を広げることも可能になる。
【0057】
ここで、図6に示した構成の可変インダクタ20を実際に作製して、その特性を調べた。
3層のコイル2,3,8を、同じ材料かつ同じ形状に形成して、アクチュエータ5により2層目のコイル3をコイル3の膜面に垂直な方向に移動させて、コイル間の距離を変化させる構成として、可変インダクタ20を作製した。
【0058】
そして、2層目のコイル3を、上層の3層目のコイル8に近づけたり、離したりしたときの、それぞれの自己インダクタンスと相互インダクタンスの変化量特性を、シミュレーションにより求めた。結果を図7に示す。
図7において、L11は下層(1層目)のコイル2の自己インダクタンスであり、L22は2層目のコイル3の自己インダクタンスであり、L33は上層(3層目)のコイル8の自己インダクタンスである。また、L12は1層目のコイル2と2層目のコイル3の相互インダクタンスであり、L23は2層目のコイル3と3層目のコイル8の相互インダクタンスであり、L13は1層目のコイル2と3層目のコイル8の相互インダクタンスである。また、図7の横軸は、2層目のコイル3の膜面に垂直な方向における移動距離[μm]を示しており、上方(3層目のコイル8側)に移動した場合を+として、下方(1層目のコイル2側)に移動した場合を−としている。
【0059】
図7より、3層のコイル2,3,8の材料及び形状が同じであるため、自己インダクタンスL11,L22,L33は等しくなっている。
また、2層目のコイル3と他のコイル2,8との相互インダクタンスL12,L23は、2層目のコイル3の移動に対応して変化している。移動距離が+のときは、2層目のコイル3が3層目のコイル8側に移動しているので、これらの間の相互インダクタンスL23が大きくなり、2層目のコイル3と1層目のコイル2との相互インダクタンスL12は逆に小さくなる。移動距離が−のときは、2層目のコイル3が1層目のコイル2側に移動しているので、これらの間の相互インダクタンスL12が大きくなり、2層目のコイル3と3層目のコイル8との相互インダクタンスL23は小さくなる。
このように、コイル間の距離に依存して、相互インダクタンスL12,L23が変化することが確認できた。
【0060】
上述の各実施の形態の可変インダクタ1,20は、熱膨張を利用したアクチュエータ5を備えた構成であったが、前述した静電作用を利用したアクチュエータを備えた構成を以下に示す。
【0061】
本発明の可変インダクタのさらに他の実施の形態の概略構成図(平面図)を図8に示す。
この可変インダクタ30は、先の実施の形態と同様に基板上に形成された第1層のコイル(図示せず)と、その上方に設けられた第2層のコイル31とを備えている。
第2層のコイル31は、薄膜コイルがスパイラル(渦巻)状に形成され、外側に第1の端子T1が設けられ、内側からコイル31の下を通って外側に延びる配線の先端に第2の端子T2が設けられている。
【0062】
そして、第2層のコイル31は、その四隅付近が、それぞれアクチュエータ32に取り付けられている。
このアクチュエータ32は、第1の櫛歯電極33と第2の櫛歯電極34とを有し、第1の櫛歯電極33は基板に対して固定され、第2の櫛歯電極34に2層目のコイル31が取り付けられている。
第2の櫛歯電極34は、図8のコイル31の四隅付近に配置され、第1の櫛歯電極33は、図8の第2の櫛歯電極34と向かい合わせに配置されている。
【0063】
第2の櫛歯電極34は、図14Aに示したバネ113等の導電性の弾性材にも取り付けられ、静電気力がない状態では、弾性材により第1の櫛歯電極33から離れる方向に付勢されている。
このようにアクチュエータ32が構成されていることにより、図14A〜図14Cに示したアクチュエータと同様に動作する。即ち、電圧を印加したときには、静電気力により第1の櫛歯電極33の間に第2の櫛歯電極34が入り込んでいき、電圧を印加していないときには、弾性材の弾性力により第1の櫛歯電極33から第2の櫛歯電極34が離れていく。
【0064】
また、上述のように弾性材を接続することにより、弾性材の弾性力と静電気力とが釣り合う箇所で第2の櫛歯電極34が静止するため、2つの櫛歯電極33,34に印加する電位の電位差によって静電気力の大きさを調整すれば、第2の櫛歯電極34が静止する位置を調整することができる。これにより、第2の櫛歯電極34に取り付けられた2層目のコイル31の移動量を調整することができる。
【0065】
また、本実施の形態では、互い違いに配置された第1の櫛歯電極33及び第2の櫛歯電極34に対して、それぞれ一本置きの櫛歯電極33,34にのみ電圧を印加することができるように構成する。
そのために、第1の櫛歯電極33及び第2の櫛歯電極34を、図9に示すような櫛歯電極60の構成とする。
図9に示す櫛歯電極60は、支持材61にそれぞれ独立した電位φ1,φ2が印加される、第1の配線62と第2の配線63とを備えており、支持材61に取り付けられた多数の櫛歯64,65が、一本置きに各配線62,63に電気的に接続されている。即ち、櫛歯64は、第1の配線62に電気的に接続されて、第1の電位φ1が印加される。また、櫛歯65は、第2の配線63に電気的に接続されて、第2の電位φ2が印加される。
【0066】
このような構成の櫛歯電極60を用いて、第1の櫛歯電極33及び第2の櫛歯電極34を構成することにより、図10A〜図10Cに示すようにアクチュエータ32を動作させることができる。
【0067】
まず、図10Aに示すように、例えば、全ての第1の櫛歯電極33に相対的に負電位を印加し、全ての第2の櫛歯電極34に相対的に正電位を印加することにより、図13及び図14に示したように、第2の櫛歯電極34が第1の櫛歯電極33の支持材に近づくように移動する。
この場合には、各櫛歯電極33,34において、支持材内の第1の配線61及び第2の配線62に同じ電位を印加している。
【0068】
次に、図10Bに示すように、第1の櫛歯電極33及び第2の櫛歯電極34において、一本置きの櫛歯電極に電位を印加するようにして、第1の櫛歯電極33の負電位が印加される櫛歯電極の左に第2の櫛歯電極34の正電位が印加される櫛歯電極が位置するように構成すると、電位が印加された櫛歯電極同士が静電気力により引き寄せられて、第2の櫛歯電極34が右に移動する。
この場合には、各櫛歯電極33,34において、支持材内の第1の配線61及び第2の配線62のうち、一方の配線のみに電位を印加している。
【0069】
次に、図10Cに示すように、第1の櫛歯電極33及び第2の櫛歯電極34において、一本置きの櫛歯電極に電位を印加するようにして、第1の櫛歯電極33の負電位が印加される櫛歯電極の右に第2の櫛歯電極34の正電位が印加される櫛歯電極が位置するように構成すると、電位が印加された櫛歯電極同士が静電気力により引き寄せられて、第2の櫛歯電極34が左に移動する。
この場合には、各櫛歯電極33,34において、支持材内の第1の配線61及び第2の配線62のうち、一方の配線のみに電位を印加している。
【0070】
このようにアクチュエータ32が動作することにより、図8に示した2層目のコイル31が、図10Aの場合は図8の上下方向に移動し、図10B及び図10Cの場合は図8の左右方向に移動する。
即ち、コイル31が、その膜面に平行な方向に移動する。
【0071】
本実施の形態では、アクチュエータ32が図8及び図10に示す構成であるため、第2の櫛歯電極34の移動量は、櫛歯電極33,34の長手方向(図10A)の方が、長手方向に垂直な方向(図10B及び図10C)よりも大きい。
従って、第2層のコイル31の移動量も、同様に、櫛歯電極33,34の長手方向に沿った方向(前後方向)Yが大きくなり、長手方向に垂直な左右方向Xが小さくなる。
【0072】
上述の本実施の形態の可変インダクタ30の構成によれば、薄膜コイルから成る2層のコイルを備え、上層のコイル31が、静電気力により第2の櫛歯電極34が移動するアクチュエータ32の第2の櫛歯電極34に取り付けられていることにより、アクチュエータ32の動作によってコイル31を膜面に平行な方向(前後左右)に移動させて、2層のコイルを構成する導体の水平距離を変化させることができる。また、コイルの対向する面積が変化するため、一方のコイルから発生した磁束が他方のコイル内を通過する量が変化する。
これにより、2層のコイルの相互インダクタンスを変化させることができ、可変インダクタ30全体のインダクタンスを変化させることができる。
【0073】
また、アクチュエータ32が、第1の櫛歯電極33と第2の櫛歯電極34にそれぞれ印加される電位の電位差により静電気力を生じて第2の櫛歯電極34が移動する構成であることにより、第2の櫛歯電極34を弾性材により静電気力と反対向きに付勢して、両電極33,34に印加される電位の電位差の大きさを調整することにより、静電気力を調整して、第2の櫛歯電極34の移動量即ち第2層のコイル31の移動量を調整して、アクチュエータ32の第2の櫛歯電極34の可動範囲内で可変インダクタ30のインダクタンスを任意にかつ連続的に変化させることが可能になる。
【0074】
さらに、本実施の形態の可変インダクタ30のアクチュエータ32は、MEMS技術を用いて作製することができる。
このようにMEMS技術を用いてアクチュエータ32を作製することにより、可変インダクタ30を、半導体基板、例えばシリコン基板上に作製することが可能となる。
これにより、構成が簡単で、かつ集積化・小型化・低消費電力化・低コスト化が可能な可変インダクタ30を実現することができる。そして、例えば、可変インダクタ30を備えた集積回路を1チップで形成することも可能になる。
【0075】
なお、図8に示した可変インダクタ30の構成に対して、図6に示した実施の形態と同様に、第2層のコイル31の上に第3層のコイルを配置して、可変インダクタを構成することも可能である。
【0076】
また、図8では、第2層のコイル31がアクチュエータ32の第2の櫛歯電極34に直接取り付けられているが、例えば図1に示した枠4と同様の枠を用いて、枠をアクチュエータの第2の櫛歯電極に取り付けて、この枠の上に第2層のコイルを形成した構成としてもよい。
【0077】
次に、本発明の可変インダクタのさらに別の実施の形態の概略構成図(平面図)を図11に示す。
この可変インダクタ40は、先の実施の形態と同様に基板上に形成された第1層のコイル(図示せず)と、その上方に設けられた第2層のコイル41とを備えている。
第2層のコイル41は、薄膜コイルがスパイラル(渦巻)状に形成され、外側に第1の端子T1が設けられ、内側からコイル41の下を通って外側に延びる配線の先端に第2の端子T2が設けられている。
【0078】
そして、第2層のコイル41は、その四隅付近が、それぞれアクチュエータ42に取り付けられている。
このアクチュエータ42は、第1の櫛歯電極43と第2の櫛歯電極44とを有し、第1の櫛歯電極43は基板に対して固定され、第2の櫛歯電極44に2層目のコイル41が取り付けられている。
第2の櫛歯電極44は、図11のコイル41の四隅付近に配置され、第1の櫛歯電極43は、図11の第2の櫛歯電極44と向かい合わせに配置されている。
【0079】
第2の櫛歯電極44は、図14Aに示したバネ113等の導電性の弾性材にも取り付けられ、静電気力がない状態では、弾性材により第1の櫛歯電極43から離れる方向に付勢されている。
このようにアクチュエータ42が構成されていることにより、図14A〜図14Cに示したアクチュエータと同様に動作する。即ち、電圧を印加したときには、静電気力により第1の櫛歯電極43の間に第2の櫛歯電極44が入り込んでいき、電圧を印加していないときには、弾性材の弾性力により第1の櫛歯電極43から第2の櫛歯電極44が離れていく。
【0080】
また、上述のように弾性材を接続することにより、弾性材の弾性力と静電気力とが釣り合う箇所で第2の櫛歯電極44が静止するため、2つの櫛歯電極43,44に印加する電位の電位差によって静電気力の大きさを調整すれば、第2の櫛歯電極44が静止する位置を調整することができる。これにより、第2の櫛歯電極44に取り付けられた2層目のコイル41の移動量を調整することができる。
【0081】
また、本実施の形態では、図11及び図12Aに示すように、アクチュエータ42の第1の櫛歯電極43及び第2の櫛歯電極44の長手方向が、前後方向及び左右方向に対して斜めの方向となっている。
【0082】
そして、図12Bに示すように、例えば、第1の櫛歯電極43に相対的に負電位を印加して、第2の櫛歯電極44に相対的に正電位を印加することにより、第2の櫛歯電極44が第1の櫛歯電極43の支持材に近づくように斜めに移動する。
これにより、第2櫛歯電極44に接続された第2層のコイル41が、第2の櫛歯電極44の長手方向に沿って、図11に太い矢印で示す斜め方向に移動する。
【0083】
本実施の形態の構成の場合には、第1の櫛歯電極43及び第2の櫛歯電極44の長手方向と、左右方向X及び前後方向Yとの間の角度によって、左右方向Xの移動量ΔXと前後方向Yの移動量ΔYとの比率が決まり、ΔX/ΔYはほぼ一定となる。
この場合、先の実施の形態の可変インダクタ30のように左右方向及び前後方向に任意に移動することはできないが、弾性材を1方向に設ければ済み、3方向に設ける必要がなくなる利点を有する。
【0084】
上述の本実施の形態の可変インダクタ40の構成によれば、薄膜コイルから成る2層のコイルを備え、上層のコイル41が、静電気力により第2の櫛歯電極44が移動するアクチュエータ42の第2の櫛歯電極44に取り付けられていることにより、アクチュエータ42の動作によってコイル41を膜面に平行な方向(左右方向X及び前後方向Yに対して斜めの方向)に移動させて、2層のコイルを構成する導体の水平距離を変化させることができる。また、コイルの対向する面積が変化するため、一方のコイルから発生した磁束が他方のコイル内を通過する量が変化する。
これにより、2層のコイルの相互インダクタンスを変化させることができ、可変インダクタ40全体のインダクタンスを変化させることができる。
【0085】
また、アクチュエータ42が、第1の櫛歯電極43と第2の櫛歯電極44にそれぞれ印加される電位の電位差により静電気力を生じて第2の櫛歯電極44が移動する構成であることにより、第2の櫛歯電極44を弾性材により静電気力と反対向きに付勢して、両電極43,44に印加される電位の電位差の大きさを調整することにより、静電気力を調整して、第2の櫛歯電極44の移動量即ち第2層のコイル41の移動量を調整して、アクチュエータ42の第2の櫛歯電極44の可動範囲内で可変インダクタ40のインダクタンスを任意にかつ連続的に変化させることが可能になる。
【0086】
なお、図11に示した可変インダクタ40の構成に対して、図6に示した実施の形態と同様に、第2層のコイル41の上に第3層のコイルを配置して、可変インダクタを構成することも可能である。
【0087】
また、図11では、第2層のコイル41がアクチュエータ42の第2の櫛歯電極44に直接取り付けられているが、例えば図1に示した枠4と同様の枠を用いて、枠をアクチュエータの第2の櫛歯電極に取り付けて、この枠の上に第2層のコイルを形成した構成としてもよい。
【0088】
なお、櫛歯電極を付勢する弾性材は、図14に示した導電性のバネ113に限定されるものではなく、その他の弾性材も使用することができる。
また、弾性材を導電性の材料で構成する代わりに、弾性材とは別に配線を第2の櫛歯電極の支持材に接続して、この配線から第2の櫛歯電極に電位を印加するようにしても構わない。
【0089】
上述の各実施の形態では、2層又は3層の薄膜コイルを備え、そのうちの1層(第2層の薄膜コイル)のみがアクチュエータにより移動する構成であった。
本発明では、複数層の薄膜コイルを備え、そのうち一部の層或いは全部の層がアクチュエータにより移動する構成であれば、その他の構成とすることも可能である。
【0090】
また、各層の薄膜コイルの構成は、図2に示した薄膜コイル51と同様の構成に限定されるものではなく、その他の構成も可能である。
【0091】
上述の各実施の形態では、コイルがアクチュエータによりコイルの膜面に垂直な方向又は膜面に平行な方向に移動する構成であったが、膜面に垂直な方向や膜面に平行な方向から若干ずれていても、即ち、コイルの膜面に略垂直な方向又は膜面に略平行な方向であれば、同様の作用効果が得られる。
なお、本発明では、コイルの移動方向が斜め上方向等、その他の方向に移動する構成であってもよく、このような構成でもコイル間の相互インダクタンスを変化させて可変インダクタのインダクタンスを変化させることができる。
【0092】
また、本発明の可変インダクタのコイルがアクチュエータにより移動する構成に加えて、さらに、スイッチングにより電流を流すコイルを切り替える構成や、それぞれのコイルに流す電流量を異ならせる構成等を組み合わせることも可能である。
このように構成を組み合わせることにより、可変インダクタのインダクタンスが変化する範囲を広げることも可能になる。
【0093】
上述の各実施の形態の可変インダクタ1,20,30,40等の、本発明の可変インダクタは、例えば、図15A及び図15Bに回路構成図を示す、VCO(電圧制御発振器)に用いることができる。
図15A及び図15Bに示すVCO(電圧制御発振器)では、それぞれ図中上方に2つのコイルが設けられており、この2つのコイルに本発明の可変インダクタを適用して、コイルのインダクタンスを変化させることができる。
【0094】
このVCO(電圧制御発振器)は、例えば、携帯電話等の無線通信用の電子機器において、基準周波数を生成するPLL回路等に使用されるものであり、電圧で出力周波数を制御することができる。
【0095】
本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲でその他様々な構成が取り得る。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明のインダクタは、例えば、携帯電話やLSIテスター等の電子機器、スイッチング電源回路に代表されるDC−DCコンバーターに適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明の可変インダクタの一実施の形態の概略構成図(斜視図)である。
【図2】図1の各層のコイルを構成する薄膜コイルの断面図である。
【図3】A〜C 図1のアクチュエータの詳細な構成を示す図である。
【図4】A、B 図1のアクチュエータの動作を説明する図である。
【図5】A、B 図1のアクチュエータによるコイルの移動を説明する図である。
【図6】本発明の可変インダクタの他の実施の形態の概略構成図(斜視図)である。
【図7】図6の可変インダクタのコイルの移動距離とインダクタンスの大きさとの関係を示す図である。
【図8】本発明の可変インダクタのさらに他の実施の形態の概略構成図(平面図)である。
【図9】図8のアクチュエータを構成する櫛歯電極の概略構成図である。
【図10】A〜C 図8のアクチュエータの動作を説明する図である。
【図11】本発明の可変インダクタのさらに別の実施の形態の概略構成図(平面図)である。
【図12】A、B 図11のアクチュエータの動作を説明する図である。
【図13】A、B 静電作用を利用したアクチュエータの構成及び動作を説明する図である。
【図14】A〜C 図13の原理を利用したアクチュエータの構成及び動作を説明する図である。
【図15】A、B 本発明の可変インダクタを適用することができるVCO(電圧制御発振器)の回路構成図である。
【図16】A、B 相互インダクタンスを変化させて全体のインダクタンスを変化させることを説明する図である。
【図17】A、B 2層の薄膜コイルの相対位置と相互インダクタンスの大きさとの関係を説明する図である。
【符号の説明】
【0098】
1,20,30,40 可変インダクタ、2,3,8,31,41 コイル、5,32,42 アクチュエータ、6 基板、7 支持台、33,43 第1の櫛歯電極、34,44 第2の櫛歯電極、51 薄膜コイル、60 櫛歯電極
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の薄膜コイルを備え、
前記複数の薄膜コイルのうち、少なくとも1つの薄膜コイルに対してアクチュエータが設けられ、
前記アクチュエータが、熱膨張によって曲がることにより、前記薄膜コイルを移動させる構成である
ことを特徴とする可変インダクタ。
【請求項2】
前記アクチュエータが、前記薄膜コイルの膜面に略垂直な方向に、前記薄膜コイルを移動させることを特徴とする請求項1に記載の可変インダクタ。
【請求項3】
複数の薄膜コイルを備え、
前記複数の薄膜コイルのうち、少なくとも1つの薄膜コイルに対してアクチュエータが設けられ、
前記アクチュエータが、固定された第1の電極と、移動可能な第2の電極とから成り、静電作用によって前記第2の電極を前記第1の電極に対して相対的に動かすことにより、前記薄膜コイルを移動させる構成である
ことを特徴とする可変インダクタ。
【請求項4】
前記アクチュエータが、前記薄膜コイルの膜面に略平行な方向に、前記薄膜コイルを移動させることを特徴とする請求項3に記載の可変インダクタ。
【請求項5】
前記アクチュエータが、互い違いに配置された、第1の櫛歯電極及び第2の櫛歯電極から成り、前記第1の櫛歯電極と前記第2の櫛歯電極との間に電位差を印加することにより、前記第2の櫛歯電極が移動すると共に、前記薄膜コイルが移動することを特徴とする請求項3に記載の可変インダクタ。
【請求項1】
複数の薄膜コイルを備え、
前記複数の薄膜コイルのうち、少なくとも1つの薄膜コイルに対してアクチュエータが設けられ、
前記アクチュエータが、熱膨張によって曲がることにより、前記薄膜コイルを移動させる構成である
ことを特徴とする可変インダクタ。
【請求項2】
前記アクチュエータが、前記薄膜コイルの膜面に略垂直な方向に、前記薄膜コイルを移動させることを特徴とする請求項1に記載の可変インダクタ。
【請求項3】
複数の薄膜コイルを備え、
前記複数の薄膜コイルのうち、少なくとも1つの薄膜コイルに対してアクチュエータが設けられ、
前記アクチュエータが、固定された第1の電極と、移動可能な第2の電極とから成り、静電作用によって前記第2の電極を前記第1の電極に対して相対的に動かすことにより、前記薄膜コイルを移動させる構成である
ことを特徴とする可変インダクタ。
【請求項4】
前記アクチュエータが、前記薄膜コイルの膜面に略平行な方向に、前記薄膜コイルを移動させることを特徴とする請求項3に記載の可変インダクタ。
【請求項5】
前記アクチュエータが、互い違いに配置された、第1の櫛歯電極及び第2の櫛歯電極から成り、前記第1の櫛歯電極と前記第2の櫛歯電極との間に電位差を印加することにより、前記第2の櫛歯電極が移動すると共に、前記薄膜コイルが移動することを特徴とする請求項3に記載の可変インダクタ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2006−303120(P2006−303120A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−121593(P2005−121593)
【出願日】平成17年4月19日(2005.4.19)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年4月19日(2005.4.19)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【Fターム(参考)】
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