説明

可変パターンを有する凹版印刷物およびその製造方法

【課題】一般的なプレス機などでは再現(複製)が不可能で、かつ可変パターンにして偽造防止性をより高めた可変パターンを有する凹版印刷物およびその製造方法の提供。
【解決手段】版胴あるいはインキ着肉ローラーの1回転目の凹版印刷物1−1と、2回転目の凹版印刷物1−2と、3回転目の凹版印刷物1−3のように、A色インキパターンAと、B色インキパターンBと、C色インキパターンCの形状と位置が次々に変化する可変パターンとし、より偽造防止性を高めた可変パターンを有する凹版印刷物およびその製造方法とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偽造防止策が必要不可欠の有価証券類、証書類で代表される凹版印刷物に関するものであり、特に、複数色の可変パターンを有して偽造防止性をより高めた凹版印刷物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
株券、債券、商品券等の有価証券類、あるいはIDカード、出入国証、登録証等の証書類等凹版印刷物は、例えば、図12(a)に示すように、証券用紙等基材(10)上に、単色の凹版インキでなる画線(22)が高さ(H)10〜70μm程度の高低差で階調を表現している単色凹版印刷物(3)、あるいは、図12(b)に示すように、多色(3色)の凹版インキでなる画線(24)が高さ(H)10〜70μm程度の高低差で階調と多色(3色)を表現した多色凹版印刷物(4)がある。
【0003】
このように、単色あるいは多色凹版印刷物(3、4)は、1)画線の深浅で表現された階調が写真(コピー等)での複製が困難である。2)マイクロ文字等精巧な画線が得られる。3)技術、設備が一般化されていない。4)手触りでインキの凹凸が簡単に判別できる。5)多色凹版印刷では、異なる色同士の境界線が多少混じり合っている(レインボー印刷という)などの理由から偽造防止効果が非常に高いものとされている。
【0004】
また、上記凹版印刷物、特に多色凹版印刷物(4)の作製は、例えば、図1の側面図に示すように、回転する版胴(30)の周長面に、圧胴(32)と、インキを着ける部分が凸部でなるA色インキ着肉ローラー(33A)(分色胴ともいう)、B色インキ着肉ローラ(33B)、C色インキ着肉ローラー(33C)、さらに余分なインキを拭き取るワイピングローラー(34)が周長方向(P)に順に周設されている多色凹版印刷機(100)を用い、版胴(30)の一回転で用紙等基材(10)に多色(3色)の凹版印刷を行うもので、これはザンメル凹版印刷と言われている方法である。
【0005】
上記多色凹版印刷機(100)で印刷された多色凹版印刷物(4)としては、例えば、図13(a)に示すように、△▽の凹部パターン(20)が周長方向(P)に配列された版胴の面(30a)に、図13(b)に示すように、A色のインキが着く凸部を有するA色インキ着肉ローラーにてA色インキパターン(A)を形成し、続いて、図13(c)に示すように、B色のインキが着く凸部を有するB色インキ着肉ローラーにてB色インキパターン(B)を形成し、続いて、図13(d)に示すように、C色のインキが着く凸部を有するC色インキ着肉ローラーにてC色インキパターン(C)を形成する。
【0006】
このように、図13(d)に示す3色のインキパターン(A、B、C)が形成された版胴の版面を、逆回転するワイピングローラーで拭き取ると、例えば、図13(e)に示すように、△▽の凹部パターン(20)以外の3色のインキが拭き取られて、図13(f)に示すように、この版胴の版面(20)のインキを基材(10)に転移された多色凹版印刷物(3)とすることができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のように、従来の凹版印刷物の技術においては、偽造(複製)が不可能とまで言われているが、例えば、多色凹版印刷機(100)を使用しなくとも、精密に再現された凹版を入手すれば、一般的なプレス機等により再現(複製)が不可能ではなく、偽造(複製)されるという問題点があった。
【0008】
また、上記のように、固定のパターンを有する多色凹版印刷物(4)は可能であるが、可変のパターンを有して偽造防止効果をより高める多色凹版印刷物の作製は不可能であった。
【0009】
本発明は、かかる従来技術の問題点を解決するものであり、その課題とするところは、一般的なプレス機などでは再現(複製)が不可能であり、かつ可変パターンにして偽造防止性をより高めた可変パターンを有する凹版印刷物およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に於いて上記課題を達成するために、まず請求項1の発明では、周長方向に回転し、インキを着ける部分が凸部パターンでなるインキ着肉ローラーの周設で、凹部パターンを有する版胴の版面にインキが着肉され、該版面がワイピングローラーで拭き取られ、該凹部パターン内に着肉された凸部パターンのインキが、該インキ着肉ローラーの1回転で基材に転移された凹版印刷物であって、前記凸部パターンは、周長方向に所定の幅を有し、一定のピッチで配列されていて、前記1回転目の凸部パターンに対し、2回転目以降の凸部パターンは、周長方向に該凸部パターンの1ピッチに満たない距離分づつずれて形成されていることを特徴とする可変パターンを有する凹版印刷物としたものである。
【0011】
また、請求項2の発明では、前記凸部パターンは、複数色でなり、各色が該凸部パターンの一幅分づつ互いにずれていることを特徴とする請求項1記載の可変パターンを有する凹版印刷物としたものである。
【0012】
また、請求項3の発明では、前記複数色のうちの最終色目の凸部パターンは、全ベタで形成されていることを特徴とする請求項2記載の可変パターンを有する凹版印刷物としたものである。
【0013】
また、請求項4の発明では、前記複数色のうちの少なくとも1色が、特殊インキでなることを特徴とする請求項2乃至3のいずれか1項記載の可変パターンを有する凹版印刷物としたものである。
【0014】
また、請求項5の発明では、前記特殊インキが、蛍光凹版インキもしくは赤外線吸収凹版インキであることを特徴とする請求項4記載の可変パターンを有する凹版印刷物としたものである。
【0015】
また、請求項6の発明では、前記版胴の版面を形成する凹部パターンが格子状もしくは変形格子状様のデザインであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の可変パターンを有する凹版印刷物としたものである。
【0016】
また、請求項7の発明では、周長方向に回転し、インキを着ける部分が凸部パターンでなるインキ着肉ローラーを周設して、凹部パターンを有する版胴の版面にインキを着肉せしめ、該版面をワイピングローラーで拭き取って、該凹部パターン内に着肉された凸部パターンのインキを、該インキ着肉ローラーの1回転で基材に転移せしめる凹版印刷物の製造方法であって、前記凸部パターンを、周長方向に所定の幅と一定のピッチで配列せしめ、前記1回転目の凸部パターンに対し、2回転目以降の凸部パターンを、周長方向に該凸部パターンの1ピッチに満たない距離分づつずらすことを特徴とする可変パターンを有する凹版印刷物の製造方法としたものである。
【0017】
また、請求項8の発明では、前記1回転目の凸部パターンに対し、2回転目以降の凸部
パターンを、周長方向への該凸部パターンの1ピッチに満たない距離分づつのずらしは、版胴の周長に対し、インキ着肉ローラーの周長を凸部パターンの1ピッチに満たない距離分だけ小さくするか、もしくは版胴の周速に対し、インキ着肉ローラーの周速を凸部パターンの1ピッチに満たない距離分だけ速くすることを特徴とする請求項7記載の可変パターンを有する凹版印刷物の製造方法としたものである。
【0018】
また、請求項9の発明では、前記凸部パターンを、複数色で形成し、各複数色を該凸部パターンの一幅分づつ互いにずらすことを特徴とする請求項7乃至8のいずれか1項記載の可変パターンを有する凹版印刷物の製造方法としたものである。
【0019】
また、請求項10の発明では、前記複数色のうちの最終色目の凸部パターンを、全ベタで形成することを特徴とする請求項9記載の可変パターンを有する凹版印刷物の製造方法としたものである。
【0020】
また、請求項11の発明では、前記複数色のうちの少なくとも1色を、特殊インキとすることを特徴とする請求項9乃至10のいずれか1項記載の可変パターンを有する凹版印刷物の製造方法としたものである。
【0021】
また、請求項12の発明では、前記特殊インキを、蛍光凹版インキもしくは赤外線吸収凹版インキとすることを特徴とする請求項11記載の可変パターンを有する凹版印刷物の製造方法としたものである。
【0022】
また、請求項13の発明では、前記版胴の版面を形成する凹部パターンを格子状もしくは変形格子状様のデザインとすることを特徴とする請求項7乃至12のいずれか1項記載の可変パターンを有する凹版印刷物の製造方法としたものである。
【0023】
上記請求項3および請求項10でいう「全ベタ」とは、版面の全面が平坦で、その版で印刷された印刷面に濃淡の差や白く抜けた部分がなく、印刷インキで完全に覆われている部分をいう(印刷事典 日本印刷学会編)。
【発明の効果】
【0024】
本発明は以上の構成であるから、下記に示す如き効果がある。
【0025】
即ち、上記請求項1に係る発明によれば、周長方向に回転し、インキを着ける部分が凸部パターンでなるインキ着肉ローラーの周設で、凹部パターンを有する版胴の版面にインキが着肉され、該版面がワイピングローラーで拭き取られ、該凹部パターン内に着肉された凸部パターンのインキが、該インキ着肉ローラーの1回転で基材に転移された凹版印刷物において、前記凸部パターンは、周長方向に所定の幅を有し、一定のピッチで配列されていて、前記1回転目の凸部パターンに対し、2回転目以降の凸部パターンは、周長方向に該凸部パターンの1ピッチに満たない距離分づつずれて形成されているので、1回転ごとにパターンが変化して偽造防止性の高い可変パターンを有する凹版印刷物を提供することができる。なお、1回転目の凸部パターンに対する2回転目以降の凸部パターンのずれを1ピッチとすると、得られるパターンが可変パターンとはならない危惧があるので好ましくない。
【0026】
また、上記請求項2に係る発明によれば、前記凸部パターンは、複数色でなり、各複数色が該凸部パターンの一幅分づつ互いにずれて形成されているので、1回転ごとにパターン自体が変化していることに加え複数色に変化して、より偽造防止性の高いかつデザイン性にも優れた多色の可変パターンを有する凹版印刷物を提供することができる。
【0027】
また、上記請求項3に係る発明によれば、前記複数色のうちの最終色目の凸部パターンを、全ベタで形成すること、すなわち全面が平坦な凸部パターンとすることによって、所定の幅と一定のピッチで配列されている凸部パターンとする必要がなく、かつ他の色の凸部パターンとの見当合わせをも必要がないのでインキ着肉ローラーの作製が容易になり、さらにこの最終色目以前の凸部パターン同士の隙間(見当不良などによる)を補完して体裁のよい凹版印刷物とすることができる。
【0028】
また、上記請求項4に係る発明によれば、前記複数色のうちの少なくとも1色が、特殊インキでなることによって、より偽造防止効果の高い可変パターンを有する凹版印刷物とすることができる。
【0029】
さらにまた、上記請求項5に係る発明によれば、上記請求項4の特殊インキを、蛍光凹版インキもしくは赤外線吸収凹版インキとすることによって、目視では視認が不可能で、ブラックランプもしくは赤外線モニターを使用することにより可変パターンを視認できるので、より偽造防止性を高めた可変パターンを有する凹版印刷物とすることができる。
【0030】
また、上記請求項6に係る発明によれば、前記版胴の版面を形成する凹部パターンを格子状もしくは変形格子状様のデザインとすることによって、版胴の版面に凹部パターン以外の部分、すなわち非画線部分がほぼ無くなるので、凸部パターンとの組合せによる可変パターンをより多数(格子状の凹部パターンの形状やコマ数等周期の変更によっては無数に近い)とすることができ、よってより偽造防止性を高めた可変パターンを有する凹版印刷物とすることができる。
【0031】
また、上記請求項7に係る発明によれば、周長方向に回転し、インキを着ける部分が凸部パターンでなるインキ着肉ローラーを周設して、凹部パターンを有する版胴の版面にインキを着肉せしめ、該版面をワイピングローラーで拭き取って、該凹部パターン内に着肉された凸部パターンのインキを、該インキ着肉ローラーの1回転で基材に転移せしめる凹版印刷物の製造方法において、前記凸部パターンを、周長方向に所定の幅と一定のピッチで配列せしめ、前記1回転目の凸部パターンに対し、2回転目以降の凸部パターンを、周長方向に該凸部パターンの1ピッチに満たない距離分づつずらす製造方法とすることによって、1回転目の凹部パターン内の凸部パターンに対し、2回転目以降の凸部パターンは、周長方向に1幅分づつずれて形成されるようになるので、1回転ごと、すなわち印刷枚数ごとにパターンが変化して偽造防止性の高い可変パターンを有する凹版印刷物を提供することができる。
【0032】
また、上記請求項8に係る発明によれば、前記1回転目の凸部パターンに対し、2回転目以降の凸部パターンを、周長方向への該凸部パターンの1ピッチに満たない距離分づつのずらしは、版胴の周長に対し、インキ着肉ローラーの周長を凸部パターンの1ピッチに満たない距離分だけ小さくするか、もしくは版胴の周速に対し、インキ着肉ローラーの周速を凸部パターンの1ピッチに満たない距離分だけ速くすることによって得られ、このずらしによって1回転目の凹部パターン内の凸部パターンに対し、2回転目以降の凸部パターンは、周長方向に1ピッチに満たない距離分づつずれて形成されるようになるので、1回転ごと、すなわち印刷枚数ごとにパターンが変化して偽造防止性の高い可変パターンを有する凹版印刷物を提供することができる。
【0033】
また、上記請求項9に係る発明によれば、前記凸部パターンを、複数色で形成し、各複数色を該凸部パターンの一幅分づつ互いにずらす製造方法とすることによって、1回転ごとにパターン自体が変化していることに加え、複数色に変化して、より偽造防止性の高いかつデザイン性にも優れた多色の可変パターンを有する凹版印刷物を提供することができる。
【0034】
また、上記請求項10に係る発明によれば、前記複数色のうちの最終色目の凸部パターンを、全ベタで形成すること、すなわち全面を平坦な凸部パターンで形成する製造方法とすることによって、所定の幅と一定のピッチで配列されている凸部パターンとする必要がないのでインキ着肉ローラーの作製が容易になり、さらにこの最終色目以前の凸部パターン同士の隙間を補完して体裁のよい多色の可変パターンを有する凹版印刷物を得ることができる。
【0035】
また、上記請求項11に係る発明によれば、前記複数色のうちの少なくとも1色を、特殊インキとする製造方法とすることによって、より偽造防止効果の高い可変パターンを有する凹版印刷物を得ることができる。
【0036】
また、上記請求項12に係る発明によれば、上記請求項11の特殊インキを、蛍光凹版インキもしくは赤外線吸収凹版インキとする製造方法とすることによって、目視では視認不可能で、ブラックランプもしくは赤外線モニターを使用することにより可変パターンを視認できるようになるので、より偽造防止性を高めた可変パターンを有する凹版印刷物を得ることができる。
【0037】
また、上記請求項13に係る発明によれば、前記版胴の版面を形成する凹部パターンを格子状もしくは変形格子状様のデザインとする製造方法とすることによって、版胴の版面に凹部パターン以外の部分、すなわち非画線部分がほぼ無くなるので、凸部パターンとの組合せによる可変パターンをより多く(無数に近い)することができ、よってより偽造防止性を高めた可変パターンを有する凹版印刷物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下本発明を実施するための最良の形態を図面を用いて詳細に説明する。
【0039】
本発明は、例えば、図2(a)に示すような、版胴あるいはインキ着肉ローラーの1回転目の凹版印刷物(1−1)と、図2(b)に示すような、2回転目の凹版印刷物(1−2)と、図2(c)に示すような、3回転目の凹版印刷物(1−3)のように、A色インキパターン(A)とB色インキパターン(B)とC色インキパターン(C)の形状と位置が次々に変化するパターンとし、より偽造防止性を高めた可変パターンを有する凹版印刷物およびその製造方法である。
【0040】
まず、上記請求項1に係る発明では、例えば、図3の側面図に示すように、周長方向(P)に回転し、インキを着ける部分が凸部パターンでなるインキ着肉ローラー(33)を周設して、凹部パターンを有する版胴(30)の版面(30a)にインキを着肉し、このインキが着肉された版面(30a)を逆回転するワイピングローラー(34)で拭き取って、版面(30a)の凹部パターン内に着肉された凸部パターンのインキを、インキ着肉ローラー(33)の1回転で圧胴(32)と版胴(30)の間の基材(10)に転移された凹版印刷物であり、例えば、図4(a)に示すような縦細長の▽と▽が連結した凹部パターン(20)を有する版胴の版面(30a)に、例えば、図4(b)に示すように、凸部パターン(21)が周長方向(P)に所定の幅(W)を有し、一定のピッチ(T)で配列されているインキ着肉ローラー(33)を用いてインキを着肉させると、例えば、図5(a)に示すように、インキ着肉ローラーの1回転目の凸部インキパターン(21−1)に対し、図5(b)に示すように、2回転目の凸部インキパターン(21−2)は、周長方向(P)に凸部インキパターン(21−1)の1ピッチ(T)の距離に満たない1幅(W)分だけずれて形成されている。さらにこの2回転目の凸部インキパターン(21−2)に対し、図6(c)に示すように、3回転目の凸部インキパターン(21−3)は、周長方向(P)にさらに凸部インキパターン(21−2)の1幅(W)分だけずれて形成さ
れている。
【0041】
このように版面(30a)に形成された凸部インキパターン(21−1、21−2、21−3)をワイピングローラー(34)で凹部パターン(20)以外のインキを拭き取り、それを用紙等基材(10)に転移すると、例えば、図6(a)に示すように、インキ着肉ローラーの1回転目の印刷で得られた単色の画線(22)に対し、図6(b)に示すように、2回転目の印刷で得られた単色の画線(22)が、この画線(22)を形成する凸部パターンの1幅(W)分、基材(10)の送行方向(Q)にずれている可変パターンを有する凹版印刷物(1)とするものである。
【0042】
さらに、図6(b)に示す2回転目の印刷で得られた単色の画線(22)に対し、図6(c)に示すように、3回転目の印刷で得られた単色の画線(22)が、この画線(22)を形成する凸部パターンの1ピッチ(T)の距離に満たない1幅(W)分だけ、基材(10)の送行方向(Q)にずれている可変パターンを有する凹版印刷物(1)とするものである。
【0043】
上記でインキ着肉ローラー(33)の回転ごとに、得られる画線(22)が凸部パターンの1ピッチ(T)の距離に満たない1幅(W)分だけとしたのは、例えば、1ピッチ(T)分づつずらすと、回転ごとに同じパターンとなるので好ましくないためである。
【0044】
また、上記請求項2および請求項3に係る発明は、図6(a)、(b)、(c)に示す可変パターンを有する凹版印刷物(1)を多色化したもので、例えば、図1の側面図に示すように、周長方向(P)に回転し、インキを着ける部分が凸部パターンでなるA色インキ着肉ローラー(33A)と、B色インキ着肉ローラー(33B)と、C色インキ着肉ローラー(33C)とを順にを周設して、凹部パターンを有する版胴(30)の版面(30a)に各(A、B、C)色インキを着肉し、この各色インキが着肉された版面(30a)を逆回転するワイピングローラー(34)で拭き取って、版面(30a)の凹部パターン内に着肉された凸部パターンの各インキを、各インキ着肉ローラー(33A、33B、33C)の1回転で圧胴(32)と版胴(30)の間の基材(10)に転移された多色(3色)の凹版印刷物である。
【0045】
上記多色(3色)の凹版印刷物は、例えば、図7(a)に示すような△▽の凹部パターン(20)が周長方向(P)に配列された版胴(30)の版面(30a)に、例えば、図7(b)に示すように、A色のインキが着く所定の幅(W)とピッチ(P)でなる凸部パターン(21A)を有するA色インキ着肉ローラー(33A)と、このA色インキ着肉ローラー(33A)に対し、図7(c)に示すように、1幅(W)分周長方向(P)にずれているB色のインキが着く凸部パターン(21B)を有するB色インキ着肉ローラー(33B)と、さらに図7(d)に示すように、C色インキが着く凸部パターン(21C)が全ベタでなるC色インキ着肉ローラー(33C)にて、各(A、B、C)色インキを、各色インキ着肉ローラー(33A、33B、33C)の1回転目では、図8(a)に示すように、A色インキパターン(A)と、それより1幅(W)分周長方向(P)にずれているB色インキパターン(B)と、全面にC色インキパターン(C)が形成される。
【0046】
上記図8(a)に示す版面(30a)を、ワイピングローラーで拭き取り、用紙等基材に各色インキパターン(A、B)(Cインキパターン(C)は拭き取られて無くなり)のみを転移(印刷)すると、例えば、図9(a)に示すように、基材(10)上にAインキパターン(A)とBインキパターン(B)が互いに1幅(W)づつずれて形成された可変パターンを有する多色凹版印刷物(2)とするものである。
【0047】
続いて、各色インキ着肉ローラー(33A、33B、33C)の2回転目では、図8(
b)に示すように、版面(30a)にA色インキパターン(A)と、それより1幅(W)分周長方向(P)にずれているB色インキパターン(B)と、全面にC色インキパターン(C)が形成され、このA色インキパターン(A)とB色インキパターン(B)は、1回転目のA色インキパターン(A)とB色インキパターン(B)より周長方向(P)に1幅(W)分ずれて形成されている。
【0048】
上記図8(b)に示す版面(30a)を、ワイピングローラーで拭き取り、用紙等基材に各色インキパターン(A、B)(但し、Cインキパターン(C)は拭き取られて無くなり)のみを転移(印刷)すると、例えば、図9(b)に示すように、基材(10)上にAインキパターン(A)とBインキパターン(B)が互いに1幅(W)づつずれて形成された可変パターンを有する多色凹版印刷物(2)とするものである。
【0049】
さらに、各色インキ着肉ローラー(33A、33B、33C)の3回転目では、図8(c)に示すように、版面(30a)にA色インキパターン(A)と、それより1幅(W)分周長方向(P)にずれているB色インキパターン(B)と、全面にC色インキパターン(C)が形成され、このA色インキパターン(A)とB色インキパターン(B)は、2回転目のA色インキパターン(A)とB色インキパターン(B)より周長方向(P)に1幅(W)分ずれて形成されている。
【0050】
上記図8(c)に示す版面(30a)を、ワイピングローラーで拭き取り、用紙等基材に各色インキパターン(B、C)(但し、A色インキパターン(A)は拭き取られて無くなり)のみを転移(印刷)すると、例えば、図9(c)に示すように、基材(10)上にBインキパターン(B)とCインキパターン(C)が互いに1幅(W)づつずれて形成された可変パターンを有する多色凹版印刷物(2)とするものである。
【0051】
また、上記請求項4および請求項5に係る発明では、例えば、図9(a)、(b)、(c)に示す各色インキパターン(A、B、C)のいずれかを、蛍光凹版インキあるいは赤外線吸収凹版インキで形成した可変パターンを有する多色凹版印刷物(2)とするものである。
【0052】
このように、各色インキパターン(A、B、C)のいずれかを、蛍光凹版インキもしくは赤外線吸収凹版インキとすることによって、目視では視認が不可能で、ブラックランプあるいは赤外線モニターを使用することにより可変する各色インキパターン(A、B、C)
を浮かび上がらせて視認できるので、より偽造防止性を高めた可変パターンを有する多色凹版印刷物(2)とすることができる。
【0053】
上記赤外線吸収物質を含む赤外線吸収凹版インキとしては、赤外光波長領域のみ吸収する赤外線吸収材料をバインダー樹脂と溶媒等で溶解、分散させて印刷方式に合わせたインキとするもので、このインキとしては、カーボンブラックを顔料とする墨インキが最も汎用性のあるものとして挙げられるが、有色のインキとするには、例えば五二酸化リンを主成分とし酸化鉄或いは酸化銅或いは両者を含むリン酸結晶粉末、五二酸化リンを主成分としFe2+またはCu2+イオンを含むガラス系粉末、金属錯体の赤外線吸収材、シアニン系、フタロシアニン系、ナフタロシアニン系、アントラキノン系、コロニックメチン系、アズレオニオム系、ピリリウム系等の赤外線吸収染料が挙げられ、またそのバインダーとしては、凹版インキ用のビヒクルが挙げられる。
【0054】
また、蛍光凹版インキとしては、例えば、チオフラビン等蛍光染料をポリメタアクリル酸エステル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体に溶解し微粉化した有機系の蛍光顔料や200〜300nmの波長域の光にのみ発光するZn2 SiO4 /Mn、CaW04
等でなる耐熱性のある無機系の蛍光顔料を凹版インキ用のビヒクルに分散させたものが挙げられる。
【0055】
さらにまた、上記請求項6に係る発明では、例えば、図10(a)に示すように、版胴(30)の版面(30a)を形成する凹部パターン(20)が周長方向(P)に25マス、横方向に3マスの格子状のデザインとしたもので、これに対し、図10(b)に示すように、A色インキ着肉ローラー(33A)はA色の凸部パターン(21A)が周長方向(P)に24マス(凹部パターン(20)より周長方向(P)に1マス少ない)で形成され、図10(c)に示すように、B色インキ着肉ローラー(33B)はB色の凸部パターン(21B)が23マス(A色の凸部パターン(21A)より1マス少ない)で形成され、さらに、図10(d)に示すように、最後のB色インキ着肉ローラー(33C)はC色の凸部パターン(21C)が版面を形成している凹部パターン(20)を全部カバーする全ベタで形成されている。
【0056】
上記版胴(30)に対し各色インキ着肉ローラー(33A、33B、33C)を用いた凹版印刷物として、図11(a)に示すように、各色インキパターン(A、B、C)でなる1回転目の多色凹版印刷物(2−1)、図11(b)に示すように、2回転目の多色凹版印刷物(2−2)、図11(c)に示すように、3回転目の多色凹版印刷物(2−3)、図11(d)に示すように、10回転目の多色凹版印刷物(2−10)、図11(e)に示すように、23回転目の多色凹版印刷物(2−23)となり、版胴(30)に対するA色インキ着肉ローラー(33A)の1周期は、24回転で、B色インキ着肉ローラー(33B)の1周期は、23回転であり、よって上記の例では、24×24=552パターンの可変パターンでなる多色凹版印刷物とすることができる。
【0057】
さらに周期を変更したり、あるいは凹部パターンを斜め上に延びる変形格子状等とすることによって無数の可変パターンとすることができる。
【0058】
また、上記請求項7および請求項8に係る発明は、可変パターンを有する凹版印刷物の製造方法で、例えば、図5(a)に示すように、インキ着肉ローラーの1回転目の凸部インキパターン(21−1)に対し、図5(b)に示すように、2回転目の凸部インキパターン(21−2)を、周長方向(P)に凸部インキパターン(21−1)の1ピッチ(T)の距離に満たない1幅(W)分だけずらして形成し、さらにこの2回転目の凸部インキパターン(21−2)に対し、図5(c)に示すように、3回転目の凸部インキパターン(21−3)を、周長方向(P)にさらに凸部インキパターン(21−2)の1幅(W)分だけずらして形成するもので、そのずらし方は、例えば図4(a)に示す版胴(30)の周長(30L)に対し、インキ着肉ローラー(33)の周長(33L)を凸部パターン(21)の1幅(W)分だけ小さくする可変パターンを有する凹版印刷物の製造方法とするものである。
【0059】
あるいは、図示しないが、版胴の周速に対し、この版胴と同じ周長でなるインキ着肉ローラーの周速を、凸部パターンの1ピッチに満たない距離分、例えば1幅分だけ速くする可変パターンを有する凹版印刷物の製造方法とすることもできる。
【0060】
以上のような可変パターンを有する単色あるいは多色の凹版印刷物とすることによって、一般的なプレス機などでは再現(複製)が不可能で、かつ印刷ごとに多数(場合によっては無数)の可変パターンを形成して偽造防止性をより高めた可変パターンを有する凹版印刷物およびその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の可変パターンを有する凹版印刷物を作製する多色凹版印刷機の一事例を説明する側面図である。
【図2】本発明の可変パターンを有する凹版印刷物の一事例を示すもので、(a)は、1回転目の可変パターンを有する凹版印刷物の平面図であり、(b)は、2回転目の可変パターンを有する凹版印刷物の平面図であり、(c)は、3回転目の可変パターンを有する凹版印刷物の平面図である。
【図3】本発明の可変パターンを有する凹版印刷物を作製する凹版印刷機の一事例を説明する側面図である。
【図4】本発明の可変パターンを有する凹版印刷物の一事例を作製するに際し、(a)は、その版胴の表面の平面図であり、(b)は、そのインキ着肉ローラーの表面の平面図である。
【図5】本発明の可変パターンを有する凹版印刷物の一事例を作製するための版面の状態を示すもので、(a)は、1回転目の版面の平面図であり、(b)は、2回転目の版面の平面図であり、(c)は、3回転目の版面の平面図である。
【図6】図5の版面を基材に転移した可変パターンを有する凹版印刷物の一事例を示す平面図であり、(a)は、1回転目の可変パターンを有する凹版印刷物の平面図であり、(b)は、2回転目の可変パターンを有する凹版印刷物の平面図であり、(c)は、3回転目の可変パターンを有する凹版印刷物の平面図である。
【図7】本発明の可変パターンを有する多色の凹版印刷物の一事例を作製するに際し、(a)は、その版胴の表面の平面図であり、(b)は、そのA色インキ着肉ローラーの表面の平面図であり、(c)は、そのB色インキ着肉ローラーの表面の平面図であり、(d)は、そのC色インキ着肉ローラーの表面の平面図である。
【図8】本発明の可変パターンを有する多色の凹版印刷物の一事例を作製するための版面の状態を示すもので、(a)は、1回転目の版面の平面図であり、(b)は、2回転目の版面の平面図であり、(c)は、3回転目の版面の平面図である。
【図9】図8の版面を基材に転移した可変パターンを有する多色凹版印刷物の一事例を示す平面図であり、(a)は、1回転目の可変パターンを有する多色凹版印刷物の平面図であり、(b)は、2回転目の可変パターンを有する多色凹版印刷物の平面図であり、(c)は、3回転目の可変パターンを有する多色凹版印刷物の平面図である。
【図10】本発明の可変パターンを有する多色の凹版印刷物の他の一事例を作製するに際し、(a)は、その版胴の表面の平面図であり、(b)は、そのA色インキ着肉ローラーの表面の平面図であり、(c)は、そのB色インキ着肉ローラーの表面の平面図であり、(d)は、そのC色インキ着肉ローラーの表面の平面図である。
【図11】本発明の可変パターンを有する多色の凹版印刷物の他の一事例を作製するための版面を基材に転移した可変パターンを有する多色凹版印刷物の一事例を示すもので、(a)は、1回転目の可変パターンを有する多色凹版印刷物の平面図であり、(b)は、2回転目の可変パターンを有する多色凹版印刷物の平面図であり、(c)は、3回転目の可変パターンを有する多色凹版印刷物の平面図であり、(d)は、10回転目の可変パターンを有する多色凹版印刷物の平面図であり、(c)は、23回転目の可変パターンを有する多色凹版印刷物の平面図である。
【図12】従来の凹版印刷物の一事例を示すもので、(a)は、単色の凹版印刷物の側断面図であり、(b)は、多色の凹版印刷物の側断面図である。
【図13】従来の多色の凹版印刷物を作製する工程を説明するもので、(a)、(b)、(c)、(d)、(e)は、版胴の版面の状態の一事例を示す説明図であり、(f)は、それによる凹版印刷物の説明図である。
【符号の説明】
【0062】
1‥‥可変パターンを有する凹版印刷物
2‥‥可変パターンを有する多色の凹版印刷物
3‥‥従来の単色の凹版印刷物
4‥‥従来の多色の凹版印刷物
10‥‥基材
20‥‥凹部パターン
21‥‥凸部パターン
22‥‥単色の凹版インキでなる画線
24‥‥多色の凹版インキでなる画線
30‥‥版胴
30a‥‥版面
32‥‥圧胴
33‥‥インキ着肉ローラー
34‥‥ワイピングローラー
100‥‥凹版印刷機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周長方向に回転し、インキを着ける部分が凸部パターンでなるインキ着肉ローラーの周設で、凹部パターンを有する版胴の版面にインキが着肉され、該版面がワイピングローラーで拭き取られ、該凹部パターン内に着肉された凸部パターンのインキが、該インキ着肉ローラーの1回転で基材に転移された凹版印刷物であって、前記凸部パターンは、周長方向に所定の幅を有し、一定のピッチで配列されていて、前記1回転目の凸部パターンに対し、2回転目以降の凸部パターンは、周長方向に該凸部パターンの1ピッチに満たない距離分づつずれて形成されていることを特徴とする可変パターンを有する凹版印刷物。
【請求項2】
前記凸部パターンは、複数色でなり、各色が該凸部パターンの一幅分づつ互いにずれていることを特徴とする請求項1記載の可変パターンを有する凹版印刷物。
【請求項3】
前記複数色のうちの最終色目の凸部パターンは、全ベタで形成されていることを特徴とする請求項2記載の可変パターンを有する凹版印刷物。
【請求項4】
前記複数色のうちの少なくとも1色が、特殊インキでなることを特徴とする請求項2乃至3のいずれか1項記載の可変パターンを有する凹版印刷物。
【請求項5】
前記特殊インキが、蛍光凹版インキもしくは赤外線吸収凹版インキであることを特徴とする請求項4記載の可変パターンを有する凹版印刷物。
【請求項6】
前記版胴の版面を形成する凹部パターンが格子状もしくは変形格子状様のデザインであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の可変パターンを有する凹版印刷物。
【請求項7】
周長方向に回転し、インキを着ける部分が凸部パターンでなるインキ着肉ローラーを周設して、凹部パターンを有する版胴の版面にインキを着肉せしめ、該版面をワイピングローラーで拭き取って、該凹部パターン内に着肉された凸部パターンのインキを、該インキ着肉ローラーの1回転で基材に転移せしめる凹版印刷物の製造方法であって、前記凸部パターンを、周長方向に所定の幅と一定のピッチで配列せしめ、前記1回転目の凸部パターンに対し、2回転目以降の凸部パターンを、周長方向に該凸部パターンの1ピッチに満たない距離分づつずらすことを特徴とする可変パターンを有する凹版印刷物の製造方法。
【請求項8】
前記1回転目の凸部パターンに対し、2回転目以降の凸部パターンを、周長方向への該凸部パターンの1ピッチに満たない距離分づつのずらしは、版胴の周長に対し、インキ着肉ローラーの周長を凸部パターンの1ピッチに満たない距離分だけ小さくするか、もしくは版胴の周速に対し、インキ着肉ローラーの周速を凸部パターンの1ピッチに満たない距離分だけ速くすることを特徴とする請求項7記載の可変パターンを有する凹版印刷物の製造方法。
【請求項9】
前記凸部パターンを、複数色で形成し、各複数色を該凸部パターンの一幅分づつ互いにずらすことを特徴とする請求項7乃至8のいずれか1項記載の可変パターンを有する凹版印刷物の製造方法。
【請求項10】
前記複数色のうちの最終色目の凸部パターンを、全ベタで形成することを特徴とする請求項9記載の可変パターンを有する凹版印刷物の製造方法。
【請求項11】
前記複数色のうちの少なくとも1色を、特殊インキとすることを特徴とする請求項9乃至10のいずれか1項記載の可変パターンを有する凹版印刷物の製造方法。
【請求項12】
前記特殊インキを、蛍光凹版インキもしくは赤外線吸収凹版インキとすることを特徴とする請求項11記載の可変パターンを有する凹版印刷物の製造方法。
【請求項13】
前記版胴の版面を形成する凹部パターンを格子状もしくは変形格子状様のデザインとすることを特徴とする請求項7乃至12のいずれか1項記載の可変パターンを有する凹版印刷物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−175693(P2006−175693A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−370621(P2004−370621)
【出願日】平成16年12月22日(2004.12.22)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】