可変光減衰器、可変光減衰器内蔵受信器および光減衰方法
【課題】偏波依存性のある液晶光学素子を用いた、小型で低消費電力、簡易かつ安価な可変光減衰器および該可変光減衰器を備えた受信器を提供する。
【解決手段】可変光減衰器は、入射光の光路を当該入射光の偏波状態に応じた異なる光路を有する偏光(S偏光,P偏光)に分離する偏光ビームスプリッター(3)と、当該偏光ビームスプリッターにより分離された偏光毎に配される、印加される電界に応じて入射される偏光の偏波状態を変化させ反射する偏波依存性のある反射液晶素子(4,5)とを備え、反射液晶素子により偏波状態が変化した各偏光を偏光ビームスプリッター(3)で合波する。
【解決手段】可変光減衰器は、入射光の光路を当該入射光の偏波状態に応じた異なる光路を有する偏光(S偏光,P偏光)に分離する偏光ビームスプリッター(3)と、当該偏光ビームスプリッターにより分離された偏光毎に配される、印加される電界に応じて入射される偏光の偏波状態を変化させ反射する偏波依存性のある反射液晶素子(4,5)とを備え、反射液晶素子により偏波状態が変化した各偏光を偏光ビームスプリッター(3)で合波する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光減衰方法、可変光減衰器および可変光減衰器内蔵受信器に関し、より詳細には、光通信網に適した光減衰方法、可変光減衰器および可変光減衰器内蔵受信器に関する。
【背景技術】
【0002】
光技術および情報処理技術が発展を遂げ、日常生活に不可欠な要素となりつつある。インターネットや企業内通信網に代表される通信網は、多くの部分が最先端の光技術を用いた光通信網により構築されている。
【0003】
光技術は、波長の異なる光信号の多重と分離を容易にした。これにより、近年の光通信網では、波長の異なる光信号を多重分離するWDM(Wavelength Division Multiplexing)と呼ばれる波長多重伝送方式により、光ファイバ1本当たりの伝送容量を拡大し、経済的なネットワークを構成している。
【0004】
このWDM方式では、波長の差を利用して回線の切り替えを行うが、これにより光信号の経路も変わるため、受信光強度の変動が伴う問題があった。この問題を解決するため、光信号受信器の直前に可変光減衰器を挿入し、受信器に入射する光信号強度が一定になるように制御する試みが為されている。
【0005】
これまでに用いられてきた可変光減衰器は、その可変減衰機構により以下の2つに大別される。1つは、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)と呼ばれるマイクロマシンを応用した減衰器で、もう一つは誘電体光学素子を応用した減衰器である。前者の代表例としては、Siミラーの回転角を制御する減衰器が知られている(例えば、非特許文献1,2参照)。また、後者の代表例としては、光の偏波面を回転する磁気光学素子と偏光子を組み合わせた減衰器が知られている(例えば、非特許文献3参照)。
【0006】
【非特許文献1】古河電工時報第111号,pp 25-30,2003年
【非特許文献2】エレクトロニクス実装学会誌,vol.9,No. 4,2006年
【非特許文献3】“Variable Optical Attenuator C-band : YS-5010-155”, http://www.fdk.co.jp/cyber-j/opt/YDE101.htm,2007年4月検索
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のMEMS型光減衰器は、全反射型の平面ミラーによる反射という単純な現象を用いているため、挿入損失も小さく、入射光の偏波が光減衰量に依存しないなど利点がある。反面、MEMS型光減衰器では振動により減衰量が揺らいだり、ミラーの駆動電圧と減衰量との関係が再現できなかったり、ミラーの角度を長期的に一定に保持するのが困難であるなどの問題があった。
【0008】
また、上記磁気光学素子と偏光子を組み合わせた可変光減衰器(VOA:Variable Optical Attenuator)は、可動部による動的な制御を用いていないため、耐振動性と減衰量の保持性に優れている。反面、偏光状態制御のために磁界を変調する必要があり、減衰器のサイズや消費電力が大きくなる問題があった。
【0009】
一方、磁気光学素子と同様に偏波面を回転する機能を持ち、かつ小型・低消費電力なデバイスとして液晶光学素子がある。ツイストネマティック液晶等に代表される液晶光学素子は、安価で低消費電力、かつ小型化容易なため、ディスプレー等の表示器に広く応用されている。この液晶光学素子を光減衰器の構成に適用する際の障害となるのが、光学特性の偏光依存性である。例えば、光ファイバ通信では、円形断面を持つ光ファイバを伝播する光信号を扱うため、信号光の偏光状態が経時変化しており、偏波依存性のある光学素子を用いると光減衰量の経時変化が誘発される。そのため、液晶光学素子の光通信用可変減衰器への応用では、液晶光学素子の偏光依存性を除去する工夫が必要である。
【0010】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、偏波依存性のある液晶光学素子を用いた、小型で低消費電力、簡易かつ安価な可変光減衰器および該可変光減衰器を備えた受信器を提供することにある。
【0011】
また、本発明は、液晶光学素子の偏波依存性を抑制した可変光減衰器および該可変光減衰器を備えた受信器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、このような目的を達成するために、本発明に係る可変光減衰器は、入射光の光路を当該入射光の偏波状態に応じた異なる光路を有する偏光に分離する偏光分離手段と、当該偏光分離素子により分離された偏光毎に配される、印加される電界に応じて入射される偏光の偏波状態を変化させ反射する偏波依存性のある少なくとも1つの液晶光学素子と、液晶光学素子により偏波状態が変化した各偏光を合波する偏光合波手段とを備える。
【0013】
この構成により、液晶光学素子へ印加される電界を制御して偏光に対する変化量を制御することにより、減衰量を変化させることができる。
【0014】
本発明の一実施形態では、可変光減衰器の偏光分離手段および偏光合波手段は1つの偏光ビームスプリッター素子(PBS素子)によって構成され、偏光ビームスプリッター素子により分離された各偏光が、少なくとも1つの液晶光学素子により反射され再び偏光ビームスプリッター素子へ入射され合波される。偏光ビームスプリッター素子は、入射光を互いに直交する光路を有する2つの直線偏光(本明細書において、S偏光およびP偏光とも称する。)に分離する。
【0015】
また、本発明の一実施形態では、可変光減衰器の液晶光学素子は、偏光ビームスプリッター素子により分離された各偏光が当該液晶光学素子の反射面に対して垂直に入射するように、または反射面に対して垂直から3〜8°程度の角度を持って入射するように配される。
【0016】
また、本発明の一実施形態では、液晶光学素子により反射された偏光の入射光の光路への入射を阻止する光アイソレータを偏光ビームスプリッター素子の前段にさらに備える。
【0017】
さらに、本発明に係る可変光減衰器の一実施形態では、偏光分離手段により分離された各偏光の少なくとも1つの偏光を複数に分岐して、分岐された偏光をそれぞれ1つの液晶光学素子へ入射させる分岐手段を有する。
【0018】
さらにまた、本発明は、少なくとも1つの上記可変光減衰器を内蔵した可変光減衰器内蔵受信器として実施することができることは言うまでもない。
【0019】
また、本発明に係る可変光減衰方法は、上記可変光減衰器において、偏光合波手段からの出射光をモニタするステップと、モニタ値が所望の値になるように液晶光学素子へ印加される電界を制御するステップとを含む。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明によれば、偏波依存性のある液晶光学素子を用いた、小型で低消費電力、簡易かつ安価な可変光減衰器および該可変光減衰器を備えた受信器を提供することができる。また、本発明によれば、液晶光学素子の偏波依存性を抑制した可変光減衰器および該可変光減衰器を備えた受信器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。以下の詳細な説明は、本発明の具体的な実施例およびその効果を例示することを意図するものであり、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々の変更を行い得ることは言うまでもない。
【0022】
図1および2は、本発明が提供する可変光減衰器(VOA)の構成例を示す図である。図1および2に示すVOAは、入射光の光路を当該入射光の偏波状態(偏波成分)に応じた異なる光路に分離する偏光分離素子3と、印加される電界(電圧)に応じて入射光の偏波状態を変化させ反射する偏波依存性のある2個の液晶光学素子4および5とを備え、偏波依存性を打ち消す。
【0023】
なお、図1および2においては、偏光分離素子3は、本発明の偏光分離手段および偏光合波手段を兼ねている。また、図1および2においては、偏波依存性のある2個の反射型回転子を液晶光学素子4および5として、偏光ビームスプリッター素子(PBS素子)を偏光分離素子3として用いた例を示している。
【0024】
PBS素子3によって入射光から分離されたS偏光およびP偏光は、それぞれ異なる反射型回転子4および5へ入射する。
【0025】
反射型回転子4および5は、閾値を越えた電界が印加されると入射光の偏波状態に何らの影響も及ぼさずに、そのまま反射する特性を有している。
【0026】
この時、PBS素子3で光路分離されたS偏光とP偏光が反射型回転子の反射面に対して垂直入射する場合と垂直から3〜8°程度の角度を持って入射する場合で可変光減衰器の構成は異なる。
【0027】
図1は、S偏光とP偏光が反射型回転子に垂直入射する場合の可変光減衰器の構成を示す。図1(a)に示すように、垂直入射の場合は、反射型回転子で反射された光は入射光路をそのまま遡るため、PBS素子3の前段、すなわちPBS素子3と光ファイバ間に光アイソレータ2を挿入し、反射光を消光する。この構成で反射型回転子への印加電界を無電界にすると、反射型回転子4はS偏光をP偏光に、反射型回転子5はP偏光をS偏光に変換した後に反射する。これらの反射光は図1(b)に示すようにPBS素子3で合波され、出力側光ファイバに結合する。
【0028】
図2は、反射型回転子の反射面に対して垂直から3〜8°程度の角度を持って入射する場合の可変光減衰器の構成を示す。この場合、図1に示した光アイソレータ2は不要となる。この場合、反射型回転子に閾値を越えた電界が印加されると入射光の偏波状態に何らの影響も及ぼさずに、図2(a)に示すように入射角度に応じた傾きを持って反射する。そのため、反射光は入射光と異なる経路を通り、入射側および出射側のどちらの光ファイバにも結像せず、消光状態となる。この構成で反射型回転子への印加電界を無電界にすると反射型回転子4はS偏光をP偏光に、反射型回転子5はP偏光をS偏光に変換した後に反射する。これらの反射光は図2(b)に示すようにPBS素子3で合波され、出力側光ファイバに結合し、無減衰状態(0.5〜1dBの挿入損失は残る)となる。
【0029】
上述した2つの構成では、PBS3によって入射光から分離されたS偏光およびP偏光はともに出力側ファイバに結合するため、入射光の偏光状態が変化しても減衰量に差がでない。また、液晶反射型回転子に閾値以下の電界を印加した場合には、無電界時と閾値以上の電界印加時のアナログ的な中間状態となり、電界強度により出力側光ファイバに結合する光量が制御できる。
【0030】
このように、本発明の可変光減衰器では、偏波依存性のある液晶光学素子(液晶反射型回転子)と偏光分離素子(PBS素子)を組み合わせることで、液晶光学素子の持つ偏波依存性を打ち消している。
【0031】
図1および2では、偏光分離素子によって入射光を分離された光を各々1個の液晶光学素子でその偏波状態を変化させ反射させる例を示したが、図9を参照して以下に説明するように、分離された光の一部またはすべてをさらに合分波素子で分岐して複数の液晶光学素子で偏波状態を変化させ反射させるように構成することができる。
【0032】
あるいは、図10を参照して以下に説明するように、2個の液晶光学素子を用いた可変光減衰器を複数並列に配し、入射光を分波して各可変光減衰器へ供給し、各可変光減衰器からの出力光を合波する合分波素子を備えた可変光減衰器を提供することもできる。
【0033】
(実施例1)
図3から6を参照して第1の実施例を説明する。本実施例では、2個の偏波依存性のある液晶反射型回転子と1個の偏光ビームスプリッターを組み合わせて偏波依存性を打ち消すタイプの可変光減衰器の構成について明らかにし、本発明の効果を具体的に説明する。
【0034】
図3(a)から(d)に、本実施例で説明する可変光減衰器の組立工程の概要を示す。まず始めに、筐体1の入射ポート6から入射される入射光が偏波無依存光アイソレータ2を透過してPBS素子3へ入射するように、偏波無依存光アイソレータ2およびPBS素子3を筐体1へハンダにより固定する(図3(a))。
【0035】
図4に示すように、本実施例で用いるPBS素子3は、入射面に垂直に入射した入射光をS偏光とP偏光に分離し、反射面でS偏光の光路を90°曲げ、P偏光の光路をそのまま透過させる光学特性を有している。
【0036】
本実施例では、PBS素子3は、偏波無依存光アイソレータ2側の入射面から入射するS偏光の光路を90°曲げS偏光を入射面に垂直な面(A面)へ出射する光学特性を有している。また、PBS素子3は、入射面から入射するP偏光の光路を曲げることなくそのままP偏光を入射面と平行に対向する面(B面)へ通過させる光学特性を有している。
【0037】
次に、液晶反射型回転子4および液晶反射型回転子5を、それぞれの反射面がPBS素子3のA面およびB面と対向し、偏光が垂直入射あるいは垂直から3〜8°程度の角度を持って入射するように、PBS素子3に固定する(図3(b))。例えば光学接着剤を用いて、液晶反射型回転子4および液晶反射型回転子5をそれぞれPBS素子3のA面およびB面に固定することができる。
【0038】
本実施例では、PBS素子上に液晶反射型回転子を固定する構成を採用したが、筐体1内の適切な位置、すなわちPBS素子3のA面およびB面からの光が各々、液晶反射型回転子4および液晶反射型回転子5の反射面へ垂直入射あるいは垂直から3〜8°程度の角度を持って入射され、反射されてPBS素子3へ再び入射される位置に、液晶反射型回転子を固定しても良い。
【0039】
液晶反射型回転子4と液晶反射型回転子5を固定した後、液晶反射型回転子4と液晶反射型回転子5の電極と筐体1のピン18とをワイヤポンティングにより接続する。ピン18には液晶反射型回転子4と液晶反射型回転子5に印加する電界(電圧)を制御するための電界制御装置(図示しない)が接続される。
【0040】
液晶反射型回転子4には、PBS素子3により光路を90°曲げられたS偏光の偏光面を図3(b)中の点線の方向(PBS素子3から液晶反射型回転子4の方向を軸として右回り)に回転した後に反射する機能があり、その回転角は液晶反射型回転子4に印加する電界によって制御することができる。
【0041】
同様に液晶反射型回転子5はPBS素子3を通過したP偏光の偏光面を図3(b)中の点線の方向(PBS素子3から液晶反射型回転子Bの方向を軸として右回り)に回転した後に反射する機能がある。また、その回転角も液晶反射型回転子5に印加する電界によって制御することができる。
【0042】
続いて、乾燥窒素雰囲気中で筐体1にフタ10をシーム溶接し、気密封止する。その後、筐体1光信号の入射ポート6側に入射側ファイバコリメータ7を調芯固定する。本実施例で用いた液晶反射型回転子4および5は、図1および2に関連して説明した特性を有するため、電界印加せずに出射ポート8に出力される入射光を観察して調芯できる。
【0043】
具体的には、出射ポート8からIR(infrared camera)カメラで観察した液晶反射型回転子4からの反射光と液晶反射型回転子5からの反射光が重ね合わされる位置でファイバコリメータ7を筐体1にYAG(Yittrium Aluminium Garnet)レーザー溶接する(図3(c))。
【0044】
最後に、出射ポート8に出射側ファイバコリメータ9を調芯固定する。調芯時には、入射側ファイバコリメータ7より、光信号を入射し、液晶反射型回転子4と液晶反射型回転子5に減衰量が最低になるよう電界印加する。この状態で、出射側ファイバコリメータ9に結合する光信号強度が最大になるよう調芯し、YAGレーザーにより出射側ファイバコリメータ9を筐体1に溶接する(図3(d))。
【0045】
図5は、以上の工程により完成した可変光減衰器の光減衰量と液晶反射型回転子への印加電圧との関係を示す図である。減衰量は、無電圧時の0.8dBから印加電圧とともに減少し、5V付近で36dBまで低下した後、飽和する。このように、0〜5V程度の扱い易い電圧値で30dBを越すダイナミックレンジが取れており、極めて良好な性能となっている。
【0046】
さらに、入射側ファイバコリメータ7を外し、空間光学系を用いてコリメート光を入射し、その偏波面を回転子により回転させて光減衰量の偏波依存性を測定した。
【0047】
図6は、その結果を示す図である。入射光の偏光状態をS偏光からP偏光まで偏波面を変えても出射光における減衰量のバラツキは±0.1dB以内に収まっており、本発明の構成により個々の液晶回転子の偏波依存性がキャンセルできていることが確認できた。また、光減衰量は波長1500〜1600nmの広い範囲で入射光の波長に依存せず一定であった。
【0048】
本実施例では、反射型液晶回転素子として平行配向ネマチック液晶を用いたが、垂直配向ネマチック液晶を用いれば電界の大きさに対する光学特性の変化を逆にすることができ、ノーマリークローズタイプの可変光減衰器として機能する。
【0049】
(実施例2)
図7を参照して第2の実施例を説明する。本実施例では、2個の液晶反射型回転子と1個の偏光ビームスプリッターを組み合わせて偏波依存性を打ち消すタイプの可変光減衰器の出力側ファイバコリメータに変わり光受信素子を固定して構成されるVOA付き光受信素子について説明する。
【0050】
本実施例で説明する光可変減衰器内蔵光受信素子の組立工程は、図3(a)から(c)で示した入射側ファイバコリメータのYAGレーザー溶接工程までは、実施例1と同様であるため、詳細な説明は省略する。実施例1と同様にして、筐体1内に偏波無依存性光アイソレータ2、PBS素子3、液晶反射型回転子4と液晶反射型回転子5を固定し、気密封止した後に入力側ファイバコリメータ7を実施例1と同様に調芯固定する。
【0051】
その後、図7に示すように、筐体1の出射ポート8に円筒型の筐体に封止されたレンズ付きの光受信素子を調芯固定用のカラー11を介して挿入し、受光電流が最大となるよう調芯した後に光受信素子12をYAG溶接固定する。
【0052】
以上の工程により完成したVOA付き受信器では、電源投入後に受信光電流値をモニタしながら徐々に光減衰量を低下させるよう制御することで、電源投入直後の不安定時における過大光入力から受信素子を保護できる。
【0053】
また、電界制御装置のメモリに、受信光電流値と液晶反射型回転子4および5の電界との対応関係を予め記憶させておき、受信光電流値のモニタ値をピン18に接続された電界制御装置(図示しない)に供給し、電界制御装置が、モニタ値に基づいて液晶反射型回転子4および5の電界を制御することで、受信光の電流値が所望の値になるように減衰量を調整することができる。
【0054】
(実施例3)
図8を参照して第3の実施例を説明する。本実施例では、同一筐体内になだれ増倍型光受信素子(以下、APD:Avalanche Photodiode)14、受信信号増幅回路(以下、TIA:transimpedance amplifier)15、2個の液晶反射型回転子4および5、1個の偏光ビームスプリッター3、1個の偏波無依存光アイソレータ2を搭載した可変光減衰器内蔵受信器の構成について説明する。また、本実施例では可変光減衰器がノーマリオープンとなる場合を例として説明する。
【0055】
本実施例で説明する可変光減衰器の組立工程の概要を図8(a)から(c)に示す。まず始めに、筐体1の所定の位置に、セラミックキャリア13を介してAPDチップ14をハンダ固定し、TIAチップ15を導電性接着剤で固定する(図8(a))。その後、APDチップ14、TIAチップ15、筐体端子1のピン18の必要な場所をワイヤボンディングで接続する。さらに、APDチップ14の受光面の垂直方向からコリメート光を照射し、受光電流が最大となる位置にボールレンズ16を調芯し、YAGレーザーにより溶接固定する(図8(b))。
【0056】
続いて、偏波無依存光アイソレータ2を筐体1内の所定の位置にハンダにより固定する。本実施例ではVOAをノーマリオープンとするためPBS素子3には、P偏光の光路を直角に曲げ、S偏光が透過するタイプを用いる。このPBS素子3には、実施例1、2と同等な液晶反射型回転子4と5があらかじめ接着固定されている。この反射型液晶素子付きPBS素子17をボールレンズ16の筐体上に載せ、入射側ファイバコリメータ7と合わせてAPDの受光電流が最大となるよう調芯する。調芯後、反射型液晶素子付きPBS素子17はボールレンズ筐体16に接着剤で固定し、ファイバコリメータ7は筐体1にYAGレーザー溶接固定される。次いで、液晶反射型回転子4と5の電極と筐体1のピン18とをワイヤポンティングにより接続する。最後に、フタ10をシーム溶接して完成する(図8(c))。
【0057】
以上の工程により完成した可変光減衰器内蔵受信器では、受信光電流値をモニタしながら光減衰量とAPD14のM値の制御が可能となり、受信器の最も特性の良い受光レベルでの受信が可能となる。
【0058】
また、TIA15で増幅された受信光電流値のモニタ値をピン18に接続された電界制御装置(図示しない)に供給し、電界制御装置が、モニタ値に基づいて液晶反射型回転子4および5の電界を制御することで、受信光の電流値が所望の値になるように減衰量を調整することができる。
【0059】
(変形例)
図9および10を参照して、本発明のVOAの変形構成例を説明する。
【0060】
図9は、VOA全体で液晶光学素子として3個の反射型液晶光学素子を用いる構成例、すなわち、PBS素子3によって分離されたS偏光については、反射型液晶光学素子4が偏波状態を変化して反射し、PBS素子3によって分離されたP偏光については、光カプラ19(合分波素子)が2分岐し反射型液晶光学素子5−1および5−2へ入射し、反射型液晶光学素子5−1および5−2がそれぞれの偏波状態を変化して反射する構成を示す。反射型液晶光学素子5−1および5−2で反射した各偏光は光カプラ19で合波され再びPBS素子3へ入射される。
【0061】
同様に、S偏光についても複数の反射型液晶光学素子で偏波状態を変化させ反射させるように構成することもできる。
【0062】
このように、偏光毎に配される反射型液晶光学素子を複数用いることで、きめ細かな減衰量の制御が可能で、応答速度が早く、低消費電力の光減衰器を提供することが可能となる。
【0063】
図10は、図1に示す構成を並列に使用するVOAの構成例を示す。図10に示すVOAは、入射光を分波してアイソレータ2−1および2−2へ供給する光カプラ(合分波素子)20−1と、PBS素子3−1および3−2からの出力光を合波する光カプラ(合分波素子)20−2を備える。
【0064】
この構成により、図9に示すVOAと同様に、きめ細かな減衰量の制御が可能で、応答速度が早く、低消費電力の光減衰器を提供することが可能となる。
【0065】
以上、詳細に説明したように、本発明の減衰器が小型・低消費電力である点を生かして、既存の光通信用の光受信器の筐体内への集積化が容易な光減衰器を提供することができる。さらに、MEMS(マクロマシン)タイプのような可動部分を持たないため、耐振動にすぐれ、ディスプレーデバイスの実績が示すように長期的に安定した光減衰器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明のVOAの構成例を示す図であり、(a)は電界印加時の状態を、(b)は無電界時の状態をそれぞれ示す図である。
【図2】本発明のVOAの構成例を示す図であり、(a)は電界印加時の状態を、(b)は無電界時の状態をそれぞれ示す図である。
【図3】本発明の実施例1のVOA素子の組立工程を説明するための図である。
【図4】本発明の実施例1で用いるPBS素子の光学特性を示す図である。
【図5】本発明の実施例1で作製したVOA素子の光減衰量と印加電圧の関係を示す図である。
【図6】本発明の実施例1で作製したVOA素子の光減衰量の偏波依存性を示す図である。
【図7】本発明の実施例2のVOA付き光受信器の構成を示す図である。
【図8】本発明の実施例3で説明したVOA内蔵光受信器の構成を示す図である。
【図9】本発明のVOAの構成例を示す図である。
【図10】本発明のVOAの構成例を示す図である。
【符号の説明】
【0067】
1 筐体
2 偏波無依存光アイソレータ
3 PBS素子
4 反射型液晶光学素子
5 反射型液晶光学素子
6 入射ポート
7 入射側ファイバコリメータ
8 出射ポート
9 出射側ファイバコリメータ
10 フタ(リッド)
11 カラー
12 受信素子
13 セラミックキャリア
14 なだれ増倍型光受信素子APD
15 受信信号増幅回路TIA
16 ボールレンズ
17 反射型液晶光学素子付きPBS素子
18 ピン
19,20 光カプラ
【技術分野】
【0001】
本発明は、光減衰方法、可変光減衰器および可変光減衰器内蔵受信器に関し、より詳細には、光通信網に適した光減衰方法、可変光減衰器および可変光減衰器内蔵受信器に関する。
【背景技術】
【0002】
光技術および情報処理技術が発展を遂げ、日常生活に不可欠な要素となりつつある。インターネットや企業内通信網に代表される通信網は、多くの部分が最先端の光技術を用いた光通信網により構築されている。
【0003】
光技術は、波長の異なる光信号の多重と分離を容易にした。これにより、近年の光通信網では、波長の異なる光信号を多重分離するWDM(Wavelength Division Multiplexing)と呼ばれる波長多重伝送方式により、光ファイバ1本当たりの伝送容量を拡大し、経済的なネットワークを構成している。
【0004】
このWDM方式では、波長の差を利用して回線の切り替えを行うが、これにより光信号の経路も変わるため、受信光強度の変動が伴う問題があった。この問題を解決するため、光信号受信器の直前に可変光減衰器を挿入し、受信器に入射する光信号強度が一定になるように制御する試みが為されている。
【0005】
これまでに用いられてきた可変光減衰器は、その可変減衰機構により以下の2つに大別される。1つは、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)と呼ばれるマイクロマシンを応用した減衰器で、もう一つは誘電体光学素子を応用した減衰器である。前者の代表例としては、Siミラーの回転角を制御する減衰器が知られている(例えば、非特許文献1,2参照)。また、後者の代表例としては、光の偏波面を回転する磁気光学素子と偏光子を組み合わせた減衰器が知られている(例えば、非特許文献3参照)。
【0006】
【非特許文献1】古河電工時報第111号,pp 25-30,2003年
【非特許文献2】エレクトロニクス実装学会誌,vol.9,No. 4,2006年
【非特許文献3】“Variable Optical Attenuator C-band : YS-5010-155”, http://www.fdk.co.jp/cyber-j/opt/YDE101.htm,2007年4月検索
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のMEMS型光減衰器は、全反射型の平面ミラーによる反射という単純な現象を用いているため、挿入損失も小さく、入射光の偏波が光減衰量に依存しないなど利点がある。反面、MEMS型光減衰器では振動により減衰量が揺らいだり、ミラーの駆動電圧と減衰量との関係が再現できなかったり、ミラーの角度を長期的に一定に保持するのが困難であるなどの問題があった。
【0008】
また、上記磁気光学素子と偏光子を組み合わせた可変光減衰器(VOA:Variable Optical Attenuator)は、可動部による動的な制御を用いていないため、耐振動性と減衰量の保持性に優れている。反面、偏光状態制御のために磁界を変調する必要があり、減衰器のサイズや消費電力が大きくなる問題があった。
【0009】
一方、磁気光学素子と同様に偏波面を回転する機能を持ち、かつ小型・低消費電力なデバイスとして液晶光学素子がある。ツイストネマティック液晶等に代表される液晶光学素子は、安価で低消費電力、かつ小型化容易なため、ディスプレー等の表示器に広く応用されている。この液晶光学素子を光減衰器の構成に適用する際の障害となるのが、光学特性の偏光依存性である。例えば、光ファイバ通信では、円形断面を持つ光ファイバを伝播する光信号を扱うため、信号光の偏光状態が経時変化しており、偏波依存性のある光学素子を用いると光減衰量の経時変化が誘発される。そのため、液晶光学素子の光通信用可変減衰器への応用では、液晶光学素子の偏光依存性を除去する工夫が必要である。
【0010】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、偏波依存性のある液晶光学素子を用いた、小型で低消費電力、簡易かつ安価な可変光減衰器および該可変光減衰器を備えた受信器を提供することにある。
【0011】
また、本発明は、液晶光学素子の偏波依存性を抑制した可変光減衰器および該可変光減衰器を備えた受信器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、このような目的を達成するために、本発明に係る可変光減衰器は、入射光の光路を当該入射光の偏波状態に応じた異なる光路を有する偏光に分離する偏光分離手段と、当該偏光分離素子により分離された偏光毎に配される、印加される電界に応じて入射される偏光の偏波状態を変化させ反射する偏波依存性のある少なくとも1つの液晶光学素子と、液晶光学素子により偏波状態が変化した各偏光を合波する偏光合波手段とを備える。
【0013】
この構成により、液晶光学素子へ印加される電界を制御して偏光に対する変化量を制御することにより、減衰量を変化させることができる。
【0014】
本発明の一実施形態では、可変光減衰器の偏光分離手段および偏光合波手段は1つの偏光ビームスプリッター素子(PBS素子)によって構成され、偏光ビームスプリッター素子により分離された各偏光が、少なくとも1つの液晶光学素子により反射され再び偏光ビームスプリッター素子へ入射され合波される。偏光ビームスプリッター素子は、入射光を互いに直交する光路を有する2つの直線偏光(本明細書において、S偏光およびP偏光とも称する。)に分離する。
【0015】
また、本発明の一実施形態では、可変光減衰器の液晶光学素子は、偏光ビームスプリッター素子により分離された各偏光が当該液晶光学素子の反射面に対して垂直に入射するように、または反射面に対して垂直から3〜8°程度の角度を持って入射するように配される。
【0016】
また、本発明の一実施形態では、液晶光学素子により反射された偏光の入射光の光路への入射を阻止する光アイソレータを偏光ビームスプリッター素子の前段にさらに備える。
【0017】
さらに、本発明に係る可変光減衰器の一実施形態では、偏光分離手段により分離された各偏光の少なくとも1つの偏光を複数に分岐して、分岐された偏光をそれぞれ1つの液晶光学素子へ入射させる分岐手段を有する。
【0018】
さらにまた、本発明は、少なくとも1つの上記可変光減衰器を内蔵した可変光減衰器内蔵受信器として実施することができることは言うまでもない。
【0019】
また、本発明に係る可変光減衰方法は、上記可変光減衰器において、偏光合波手段からの出射光をモニタするステップと、モニタ値が所望の値になるように液晶光学素子へ印加される電界を制御するステップとを含む。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明によれば、偏波依存性のある液晶光学素子を用いた、小型で低消費電力、簡易かつ安価な可変光減衰器および該可変光減衰器を備えた受信器を提供することができる。また、本発明によれば、液晶光学素子の偏波依存性を抑制した可変光減衰器および該可変光減衰器を備えた受信器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。以下の詳細な説明は、本発明の具体的な実施例およびその効果を例示することを意図するものであり、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々の変更を行い得ることは言うまでもない。
【0022】
図1および2は、本発明が提供する可変光減衰器(VOA)の構成例を示す図である。図1および2に示すVOAは、入射光の光路を当該入射光の偏波状態(偏波成分)に応じた異なる光路に分離する偏光分離素子3と、印加される電界(電圧)に応じて入射光の偏波状態を変化させ反射する偏波依存性のある2個の液晶光学素子4および5とを備え、偏波依存性を打ち消す。
【0023】
なお、図1および2においては、偏光分離素子3は、本発明の偏光分離手段および偏光合波手段を兼ねている。また、図1および2においては、偏波依存性のある2個の反射型回転子を液晶光学素子4および5として、偏光ビームスプリッター素子(PBS素子)を偏光分離素子3として用いた例を示している。
【0024】
PBS素子3によって入射光から分離されたS偏光およびP偏光は、それぞれ異なる反射型回転子4および5へ入射する。
【0025】
反射型回転子4および5は、閾値を越えた電界が印加されると入射光の偏波状態に何らの影響も及ぼさずに、そのまま反射する特性を有している。
【0026】
この時、PBS素子3で光路分離されたS偏光とP偏光が反射型回転子の反射面に対して垂直入射する場合と垂直から3〜8°程度の角度を持って入射する場合で可変光減衰器の構成は異なる。
【0027】
図1は、S偏光とP偏光が反射型回転子に垂直入射する場合の可変光減衰器の構成を示す。図1(a)に示すように、垂直入射の場合は、反射型回転子で反射された光は入射光路をそのまま遡るため、PBS素子3の前段、すなわちPBS素子3と光ファイバ間に光アイソレータ2を挿入し、反射光を消光する。この構成で反射型回転子への印加電界を無電界にすると、反射型回転子4はS偏光をP偏光に、反射型回転子5はP偏光をS偏光に変換した後に反射する。これらの反射光は図1(b)に示すようにPBS素子3で合波され、出力側光ファイバに結合する。
【0028】
図2は、反射型回転子の反射面に対して垂直から3〜8°程度の角度を持って入射する場合の可変光減衰器の構成を示す。この場合、図1に示した光アイソレータ2は不要となる。この場合、反射型回転子に閾値を越えた電界が印加されると入射光の偏波状態に何らの影響も及ぼさずに、図2(a)に示すように入射角度に応じた傾きを持って反射する。そのため、反射光は入射光と異なる経路を通り、入射側および出射側のどちらの光ファイバにも結像せず、消光状態となる。この構成で反射型回転子への印加電界を無電界にすると反射型回転子4はS偏光をP偏光に、反射型回転子5はP偏光をS偏光に変換した後に反射する。これらの反射光は図2(b)に示すようにPBS素子3で合波され、出力側光ファイバに結合し、無減衰状態(0.5〜1dBの挿入損失は残る)となる。
【0029】
上述した2つの構成では、PBS3によって入射光から分離されたS偏光およびP偏光はともに出力側ファイバに結合するため、入射光の偏光状態が変化しても減衰量に差がでない。また、液晶反射型回転子に閾値以下の電界を印加した場合には、無電界時と閾値以上の電界印加時のアナログ的な中間状態となり、電界強度により出力側光ファイバに結合する光量が制御できる。
【0030】
このように、本発明の可変光減衰器では、偏波依存性のある液晶光学素子(液晶反射型回転子)と偏光分離素子(PBS素子)を組み合わせることで、液晶光学素子の持つ偏波依存性を打ち消している。
【0031】
図1および2では、偏光分離素子によって入射光を分離された光を各々1個の液晶光学素子でその偏波状態を変化させ反射させる例を示したが、図9を参照して以下に説明するように、分離された光の一部またはすべてをさらに合分波素子で分岐して複数の液晶光学素子で偏波状態を変化させ反射させるように構成することができる。
【0032】
あるいは、図10を参照して以下に説明するように、2個の液晶光学素子を用いた可変光減衰器を複数並列に配し、入射光を分波して各可変光減衰器へ供給し、各可変光減衰器からの出力光を合波する合分波素子を備えた可変光減衰器を提供することもできる。
【0033】
(実施例1)
図3から6を参照して第1の実施例を説明する。本実施例では、2個の偏波依存性のある液晶反射型回転子と1個の偏光ビームスプリッターを組み合わせて偏波依存性を打ち消すタイプの可変光減衰器の構成について明らかにし、本発明の効果を具体的に説明する。
【0034】
図3(a)から(d)に、本実施例で説明する可変光減衰器の組立工程の概要を示す。まず始めに、筐体1の入射ポート6から入射される入射光が偏波無依存光アイソレータ2を透過してPBS素子3へ入射するように、偏波無依存光アイソレータ2およびPBS素子3を筐体1へハンダにより固定する(図3(a))。
【0035】
図4に示すように、本実施例で用いるPBS素子3は、入射面に垂直に入射した入射光をS偏光とP偏光に分離し、反射面でS偏光の光路を90°曲げ、P偏光の光路をそのまま透過させる光学特性を有している。
【0036】
本実施例では、PBS素子3は、偏波無依存光アイソレータ2側の入射面から入射するS偏光の光路を90°曲げS偏光を入射面に垂直な面(A面)へ出射する光学特性を有している。また、PBS素子3は、入射面から入射するP偏光の光路を曲げることなくそのままP偏光を入射面と平行に対向する面(B面)へ通過させる光学特性を有している。
【0037】
次に、液晶反射型回転子4および液晶反射型回転子5を、それぞれの反射面がPBS素子3のA面およびB面と対向し、偏光が垂直入射あるいは垂直から3〜8°程度の角度を持って入射するように、PBS素子3に固定する(図3(b))。例えば光学接着剤を用いて、液晶反射型回転子4および液晶反射型回転子5をそれぞれPBS素子3のA面およびB面に固定することができる。
【0038】
本実施例では、PBS素子上に液晶反射型回転子を固定する構成を採用したが、筐体1内の適切な位置、すなわちPBS素子3のA面およびB面からの光が各々、液晶反射型回転子4および液晶反射型回転子5の反射面へ垂直入射あるいは垂直から3〜8°程度の角度を持って入射され、反射されてPBS素子3へ再び入射される位置に、液晶反射型回転子を固定しても良い。
【0039】
液晶反射型回転子4と液晶反射型回転子5を固定した後、液晶反射型回転子4と液晶反射型回転子5の電極と筐体1のピン18とをワイヤポンティングにより接続する。ピン18には液晶反射型回転子4と液晶反射型回転子5に印加する電界(電圧)を制御するための電界制御装置(図示しない)が接続される。
【0040】
液晶反射型回転子4には、PBS素子3により光路を90°曲げられたS偏光の偏光面を図3(b)中の点線の方向(PBS素子3から液晶反射型回転子4の方向を軸として右回り)に回転した後に反射する機能があり、その回転角は液晶反射型回転子4に印加する電界によって制御することができる。
【0041】
同様に液晶反射型回転子5はPBS素子3を通過したP偏光の偏光面を図3(b)中の点線の方向(PBS素子3から液晶反射型回転子Bの方向を軸として右回り)に回転した後に反射する機能がある。また、その回転角も液晶反射型回転子5に印加する電界によって制御することができる。
【0042】
続いて、乾燥窒素雰囲気中で筐体1にフタ10をシーム溶接し、気密封止する。その後、筐体1光信号の入射ポート6側に入射側ファイバコリメータ7を調芯固定する。本実施例で用いた液晶反射型回転子4および5は、図1および2に関連して説明した特性を有するため、電界印加せずに出射ポート8に出力される入射光を観察して調芯できる。
【0043】
具体的には、出射ポート8からIR(infrared camera)カメラで観察した液晶反射型回転子4からの反射光と液晶反射型回転子5からの反射光が重ね合わされる位置でファイバコリメータ7を筐体1にYAG(Yittrium Aluminium Garnet)レーザー溶接する(図3(c))。
【0044】
最後に、出射ポート8に出射側ファイバコリメータ9を調芯固定する。調芯時には、入射側ファイバコリメータ7より、光信号を入射し、液晶反射型回転子4と液晶反射型回転子5に減衰量が最低になるよう電界印加する。この状態で、出射側ファイバコリメータ9に結合する光信号強度が最大になるよう調芯し、YAGレーザーにより出射側ファイバコリメータ9を筐体1に溶接する(図3(d))。
【0045】
図5は、以上の工程により完成した可変光減衰器の光減衰量と液晶反射型回転子への印加電圧との関係を示す図である。減衰量は、無電圧時の0.8dBから印加電圧とともに減少し、5V付近で36dBまで低下した後、飽和する。このように、0〜5V程度の扱い易い電圧値で30dBを越すダイナミックレンジが取れており、極めて良好な性能となっている。
【0046】
さらに、入射側ファイバコリメータ7を外し、空間光学系を用いてコリメート光を入射し、その偏波面を回転子により回転させて光減衰量の偏波依存性を測定した。
【0047】
図6は、その結果を示す図である。入射光の偏光状態をS偏光からP偏光まで偏波面を変えても出射光における減衰量のバラツキは±0.1dB以内に収まっており、本発明の構成により個々の液晶回転子の偏波依存性がキャンセルできていることが確認できた。また、光減衰量は波長1500〜1600nmの広い範囲で入射光の波長に依存せず一定であった。
【0048】
本実施例では、反射型液晶回転素子として平行配向ネマチック液晶を用いたが、垂直配向ネマチック液晶を用いれば電界の大きさに対する光学特性の変化を逆にすることができ、ノーマリークローズタイプの可変光減衰器として機能する。
【0049】
(実施例2)
図7を参照して第2の実施例を説明する。本実施例では、2個の液晶反射型回転子と1個の偏光ビームスプリッターを組み合わせて偏波依存性を打ち消すタイプの可変光減衰器の出力側ファイバコリメータに変わり光受信素子を固定して構成されるVOA付き光受信素子について説明する。
【0050】
本実施例で説明する光可変減衰器内蔵光受信素子の組立工程は、図3(a)から(c)で示した入射側ファイバコリメータのYAGレーザー溶接工程までは、実施例1と同様であるため、詳細な説明は省略する。実施例1と同様にして、筐体1内に偏波無依存性光アイソレータ2、PBS素子3、液晶反射型回転子4と液晶反射型回転子5を固定し、気密封止した後に入力側ファイバコリメータ7を実施例1と同様に調芯固定する。
【0051】
その後、図7に示すように、筐体1の出射ポート8に円筒型の筐体に封止されたレンズ付きの光受信素子を調芯固定用のカラー11を介して挿入し、受光電流が最大となるよう調芯した後に光受信素子12をYAG溶接固定する。
【0052】
以上の工程により完成したVOA付き受信器では、電源投入後に受信光電流値をモニタしながら徐々に光減衰量を低下させるよう制御することで、電源投入直後の不安定時における過大光入力から受信素子を保護できる。
【0053】
また、電界制御装置のメモリに、受信光電流値と液晶反射型回転子4および5の電界との対応関係を予め記憶させておき、受信光電流値のモニタ値をピン18に接続された電界制御装置(図示しない)に供給し、電界制御装置が、モニタ値に基づいて液晶反射型回転子4および5の電界を制御することで、受信光の電流値が所望の値になるように減衰量を調整することができる。
【0054】
(実施例3)
図8を参照して第3の実施例を説明する。本実施例では、同一筐体内になだれ増倍型光受信素子(以下、APD:Avalanche Photodiode)14、受信信号増幅回路(以下、TIA:transimpedance amplifier)15、2個の液晶反射型回転子4および5、1個の偏光ビームスプリッター3、1個の偏波無依存光アイソレータ2を搭載した可変光減衰器内蔵受信器の構成について説明する。また、本実施例では可変光減衰器がノーマリオープンとなる場合を例として説明する。
【0055】
本実施例で説明する可変光減衰器の組立工程の概要を図8(a)から(c)に示す。まず始めに、筐体1の所定の位置に、セラミックキャリア13を介してAPDチップ14をハンダ固定し、TIAチップ15を導電性接着剤で固定する(図8(a))。その後、APDチップ14、TIAチップ15、筐体端子1のピン18の必要な場所をワイヤボンディングで接続する。さらに、APDチップ14の受光面の垂直方向からコリメート光を照射し、受光電流が最大となる位置にボールレンズ16を調芯し、YAGレーザーにより溶接固定する(図8(b))。
【0056】
続いて、偏波無依存光アイソレータ2を筐体1内の所定の位置にハンダにより固定する。本実施例ではVOAをノーマリオープンとするためPBS素子3には、P偏光の光路を直角に曲げ、S偏光が透過するタイプを用いる。このPBS素子3には、実施例1、2と同等な液晶反射型回転子4と5があらかじめ接着固定されている。この反射型液晶素子付きPBS素子17をボールレンズ16の筐体上に載せ、入射側ファイバコリメータ7と合わせてAPDの受光電流が最大となるよう調芯する。調芯後、反射型液晶素子付きPBS素子17はボールレンズ筐体16に接着剤で固定し、ファイバコリメータ7は筐体1にYAGレーザー溶接固定される。次いで、液晶反射型回転子4と5の電極と筐体1のピン18とをワイヤポンティングにより接続する。最後に、フタ10をシーム溶接して完成する(図8(c))。
【0057】
以上の工程により完成した可変光減衰器内蔵受信器では、受信光電流値をモニタしながら光減衰量とAPD14のM値の制御が可能となり、受信器の最も特性の良い受光レベルでの受信が可能となる。
【0058】
また、TIA15で増幅された受信光電流値のモニタ値をピン18に接続された電界制御装置(図示しない)に供給し、電界制御装置が、モニタ値に基づいて液晶反射型回転子4および5の電界を制御することで、受信光の電流値が所望の値になるように減衰量を調整することができる。
【0059】
(変形例)
図9および10を参照して、本発明のVOAの変形構成例を説明する。
【0060】
図9は、VOA全体で液晶光学素子として3個の反射型液晶光学素子を用いる構成例、すなわち、PBS素子3によって分離されたS偏光については、反射型液晶光学素子4が偏波状態を変化して反射し、PBS素子3によって分離されたP偏光については、光カプラ19(合分波素子)が2分岐し反射型液晶光学素子5−1および5−2へ入射し、反射型液晶光学素子5−1および5−2がそれぞれの偏波状態を変化して反射する構成を示す。反射型液晶光学素子5−1および5−2で反射した各偏光は光カプラ19で合波され再びPBS素子3へ入射される。
【0061】
同様に、S偏光についても複数の反射型液晶光学素子で偏波状態を変化させ反射させるように構成することもできる。
【0062】
このように、偏光毎に配される反射型液晶光学素子を複数用いることで、きめ細かな減衰量の制御が可能で、応答速度が早く、低消費電力の光減衰器を提供することが可能となる。
【0063】
図10は、図1に示す構成を並列に使用するVOAの構成例を示す。図10に示すVOAは、入射光を分波してアイソレータ2−1および2−2へ供給する光カプラ(合分波素子)20−1と、PBS素子3−1および3−2からの出力光を合波する光カプラ(合分波素子)20−2を備える。
【0064】
この構成により、図9に示すVOAと同様に、きめ細かな減衰量の制御が可能で、応答速度が早く、低消費電力の光減衰器を提供することが可能となる。
【0065】
以上、詳細に説明したように、本発明の減衰器が小型・低消費電力である点を生かして、既存の光通信用の光受信器の筐体内への集積化が容易な光減衰器を提供することができる。さらに、MEMS(マクロマシン)タイプのような可動部分を持たないため、耐振動にすぐれ、ディスプレーデバイスの実績が示すように長期的に安定した光減衰器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明のVOAの構成例を示す図であり、(a)は電界印加時の状態を、(b)は無電界時の状態をそれぞれ示す図である。
【図2】本発明のVOAの構成例を示す図であり、(a)は電界印加時の状態を、(b)は無電界時の状態をそれぞれ示す図である。
【図3】本発明の実施例1のVOA素子の組立工程を説明するための図である。
【図4】本発明の実施例1で用いるPBS素子の光学特性を示す図である。
【図5】本発明の実施例1で作製したVOA素子の光減衰量と印加電圧の関係を示す図である。
【図6】本発明の実施例1で作製したVOA素子の光減衰量の偏波依存性を示す図である。
【図7】本発明の実施例2のVOA付き光受信器の構成を示す図である。
【図8】本発明の実施例3で説明したVOA内蔵光受信器の構成を示す図である。
【図9】本発明のVOAの構成例を示す図である。
【図10】本発明のVOAの構成例を示す図である。
【符号の説明】
【0067】
1 筐体
2 偏波無依存光アイソレータ
3 PBS素子
4 反射型液晶光学素子
5 反射型液晶光学素子
6 入射ポート
7 入射側ファイバコリメータ
8 出射ポート
9 出射側ファイバコリメータ
10 フタ(リッド)
11 カラー
12 受信素子
13 セラミックキャリア
14 なだれ増倍型光受信素子APD
15 受信信号増幅回路TIA
16 ボールレンズ
17 反射型液晶光学素子付きPBS素子
18 ピン
19,20 光カプラ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射光の光路を当該入射光の偏波状態に応じた異なる光路を有する偏光に分離する偏光分離手段と、
前記偏光分離素子により分離された偏光毎に配される、印加される電界に応じて入射される偏光の偏波状態を変化させ反射する偏波依存性のある少なくとも1つの液晶光学素子と、
前記液晶光学素子により偏波状態が変化した各偏光を合波する偏光合波手段と
を備えたことを特徴とする可変光減衰器。
【請求項2】
前記偏光分離手段および前記偏光合波手段は1つの偏光ビームスプリッター素子であって、前記入射光を直交する光路を有する2つの直線偏光に分離し、前記少なくとも1つの液晶光学素子により反射された各偏光を再び入射して合波することを特徴とする請求項1に記載の可変光減衰器。
【請求項3】
前記液晶光学素子は、前記偏光ビームスプリッター素子により分離された各偏光が当該液晶光学素子の反射面に対して垂直に入射するように配されたことを特徴とする請求項2に記載の可変光減衰器。
【請求項4】
前記液晶光学素子により反射された偏光が前記入射光の光路へ入射することを阻止する光アイソレータを前記偏光ビームスプリッター素子の前段にさらに備えたことを特徴とする請求項3に記載の可変光減衰器。
【請求項5】
前記液晶光学素子は、前記偏光ビームスプリッター素子により分離された各偏光が当該液晶光学素子の反射面に対して垂直から3〜8°の角度を持って入射するように配されたことを特徴とする請求項2に記載の可変光減衰器。
【請求項6】
前記偏光分離手段により分離された偏光の少なくとも1つを複数に分岐し、分岐した偏光をそれぞれ1つの前記液晶光学素子へ入射させる分岐手段を有することを特徴とする請求項1または2に記載の可変光減衰器。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載の可変光減衰器と、受信素子とを内蔵した可変光減衰器内蔵受信器。
【請求項8】
請求項1ないし6のいずれかに記載の可変光減衰器と、なだれ増倍型光受信素子と、受信信号増幅回路を内蔵した可変光減衰器内蔵受信器。
【請求項9】
入射光の光路を当該入射光の偏波状態に応じた異なる光路を有する偏光に分離する偏光分離手段と、前記偏光分離素子により分離された偏光毎に配される、印加される電界に応じて入射される偏光の偏波状態を変化させ反射する偏波依存性のある少なくとも1つの液晶光学素子と、前記液晶光学素子により偏波状態が変化した各偏光を合波する偏光合波手段とを備えたこと可変光減衰器における光減衰方法であって、
前記偏光合波手段からの光をモニタするステップと、
モニタ値が所望の値になるように液晶光学素子へ印加される電界を制御するステップと
を含むことを特徴とする光減衰方法。
【請求項1】
入射光の光路を当該入射光の偏波状態に応じた異なる光路を有する偏光に分離する偏光分離手段と、
前記偏光分離素子により分離された偏光毎に配される、印加される電界に応じて入射される偏光の偏波状態を変化させ反射する偏波依存性のある少なくとも1つの液晶光学素子と、
前記液晶光学素子により偏波状態が変化した各偏光を合波する偏光合波手段と
を備えたことを特徴とする可変光減衰器。
【請求項2】
前記偏光分離手段および前記偏光合波手段は1つの偏光ビームスプリッター素子であって、前記入射光を直交する光路を有する2つの直線偏光に分離し、前記少なくとも1つの液晶光学素子により反射された各偏光を再び入射して合波することを特徴とする請求項1に記載の可変光減衰器。
【請求項3】
前記液晶光学素子は、前記偏光ビームスプリッター素子により分離された各偏光が当該液晶光学素子の反射面に対して垂直に入射するように配されたことを特徴とする請求項2に記載の可変光減衰器。
【請求項4】
前記液晶光学素子により反射された偏光が前記入射光の光路へ入射することを阻止する光アイソレータを前記偏光ビームスプリッター素子の前段にさらに備えたことを特徴とする請求項3に記載の可変光減衰器。
【請求項5】
前記液晶光学素子は、前記偏光ビームスプリッター素子により分離された各偏光が当該液晶光学素子の反射面に対して垂直から3〜8°の角度を持って入射するように配されたことを特徴とする請求項2に記載の可変光減衰器。
【請求項6】
前記偏光分離手段により分離された偏光の少なくとも1つを複数に分岐し、分岐した偏光をそれぞれ1つの前記液晶光学素子へ入射させる分岐手段を有することを特徴とする請求項1または2に記載の可変光減衰器。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載の可変光減衰器と、受信素子とを内蔵した可変光減衰器内蔵受信器。
【請求項8】
請求項1ないし6のいずれかに記載の可変光減衰器と、なだれ増倍型光受信素子と、受信信号増幅回路を内蔵した可変光減衰器内蔵受信器。
【請求項9】
入射光の光路を当該入射光の偏波状態に応じた異なる光路を有する偏光に分離する偏光分離手段と、前記偏光分離素子により分離された偏光毎に配される、印加される電界に応じて入射される偏光の偏波状態を変化させ反射する偏波依存性のある少なくとも1つの液晶光学素子と、前記液晶光学素子により偏波状態が変化した各偏光を合波する偏光合波手段とを備えたこと可変光減衰器における光減衰方法であって、
前記偏光合波手段からの光をモニタするステップと、
モニタ値が所望の値になるように液晶光学素子へ印加される電界を制御するステップと
を含むことを特徴とする光減衰方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
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【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2008−276043(P2008−276043A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−121509(P2007−121509)
【出願日】平成19年5月2日(2007.5.2)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年5月2日(2007.5.2)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】
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