説明

可変分散補償器

【課題】光通信における波長パスの分散補償にも適応性が求められている。従来のLCOS構造の空間位相変調器を使用した従来技術の可変分散補償器において生じる分散特性にリップルが生じる問題があった。位相差付与機能部で反射する光信号と、位相差付与機能部に隣接する2つのギャップ部で0の位相シフトで反射するギャップ部反射光とは、お互いに干渉する。
【解決手段】位相差付与機能部間のギャップ部における反射光を低減させるために、後面基板に透明なガラス基板等を使用して、反射光を消失させる。位相差付与機能部における光信号は、後面ガラス基板の最背面に形成したミラーアレイにより反射させる。後面ガラス基板の共通透明電極に対向する面側に、電極機能を持つミラーアレイを形成することもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ通信において利用される分散補償器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の急速な発展を見せる大容量の光通信ネットワークシステムは、従来主流であったポイントツーポイント型のシステムからリング・メッシュ型の構成のシステムへ移りつつある。リング・メッシュ型構成のシステムは、光信号を光の状態のままで処理するトランスペアレントな波長選択スイッチ等を用いることにより、ノード間の通信需要の変化に柔軟に対応ができるためである。具体的には、波長パスの動的切替によって、新規のパスの開通ならびに廃止に伴なう現地作業量を大幅に減らすことができる利点を持つ。しかしながら、リング・メッシュ型のネットワークにおいては、波長パスの切り替えに伴って、パスの長さも変化してしまうため、そのパスの波長分散値も動的に変化してしまう。
【0003】
従来の分散補償器は、分散補償ファイバや分散補償量が固定されたタイプのものであり、上述のようなリング・メッシュ型構成のネットワークで波長パスの距離が異なる場合に、WDM波長ごとに異なる分散値を設定することはできなかった。このため、光通信における波長パスの分散補償にも適応性が求められている。
【0004】
一方、信号処理装置の小型化・集積化の点から、導波路型光回路(PLC:Planar Lightwave Circuit)の開発研究が進められている。PLCでは、例えばシリコン基板上に石英系ガラスを材料としたコアを形成して1つのチップに多様な機能を集積し、低損失で信頼性の高い光機能デバイスが実現されている。さらには、複数のPLCチップと他の光機能部品を組み合わせた複合的な光信号処理部品(装置)も登場している。
【0005】
例えば、特許文献1には、アレイ導波路格子(以下、AWGという)などを含む導波路型光回路(PLC)と液晶素子などの空間変調素子を組み合わせた、光信号処理装置が開示されている。より具体的には、液晶素子を中心として対称に配置されたPLC、コリメートレンズからなる波長ブロッカをはじめ、波長イコライザ、分散補償器などの検討が進められている。これらの光信号処理装置では、異なる波長を持つ複数の光信号に対して、波長毎に独立して光信号処理を行う。
【0006】
図1は、PLCと空間変調素子を組み合わせた可変分散補償器の一例を示す構成図である。より具体的には、AWGとLCOS(Liquid crystal on silicon)を組み合わせた可変分散補償器を示す。この可変分散補償器では、外部の光信号がAWG1を経由して入出力される。より具体的な動作を、AWGの基板面に垂直な方向から見た図1の(A)を参照しながら説明する。
【0007】
AWG1は、異なる波長を持つ複数の光信号を、その波長に応じた出射角度θで分波する。分波された光信号は、集光レンズ3へ向かってz軸方向に出射する。集光レンズ3によって集光された光信号は、出射角度θに対応して、位相変調機能を持つ空間位相変調器4のx軸上の所定の各位置に集光される。すなわち、入力光信号の波長に応じて、空間位相変調器4のx軸上の異なる位置に光信号が集光されることに留意されたい。空間位相変調器4は、例えば複数の要素素子(ピクセル)からなる液晶素子などである。各要素素子の屈折率などの制御によって、各波長の光信号は所定の位相量が与えられて位相変調を受け、波長毎に所定の分散値が与えられる。分散補償された光信号は、空間位相変調器4で反射されて進行方向を反転し、再び集光レンズ3を通って、AWG1において合波される。合波された各波長の光信号は、出力光として、再びAWG1外へ出力される。尚、AWG1の基板断面を見た図1の(B)を参照すればわかるように、y軸方向にのみレンズ作用を持つシリンドリカルレンズ2が、AWG1の出射端面の近傍に配置される。
【0008】
AWG1は、良く知られているように、入力導波路1、スラブ導波路11および導波路アレイ12が、順次接続された構成を持つ。図1Aに示したAWG構成では、入力導波路1は、分散補償された光信号を出力する出力導波路も兼ねているが、この構成に限られない。分散補償の対象となる光信号は、入力光ファイバ6へ入力され、サーキュレータ9および接続光ファイバ8を経由して、AWGの入力導波路10へ入力される。分散補償された光信号は、入力導波路10から接続導波路8およびサーキュレータ9を経由して、さらに出力光ファイバ7から外部へ出力される。
【0009】
図1の(A)に示した分散補償器は、ミラーを使用して光信号を折り返すことで、1つのAWGによって光信号の分波および合波の両方を行なう構成であり、一般に反射型と呼ばれている。分散補償器の光信号処理は、この構成だけに限られない。図1の(A)に示した装置構成において、空間位相変調器4による反射の向きを変えることによって、任意の位置に配置した、もう一つのレンズおよびAWGからなる出射系によって光信号の合波を行う構成も可能である。また、図1のy方向に入射系AWGと出射系AWGとを重ねて配置する構成とすることもできる。
【0010】
図1の(A)に示した可変分散補償器は、高い分散補償特性を持ち、さらにLCOSの微細なセル構造に由来する自由度の高い位相設定が可能である。さらに、多チャンネルを一括して補償することも可能である特徴も持つ。
【0011】
【特許文献1】特開2002−250828号公報(第16頁、19頁、第20図、第27図、第29D図など)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
図2は、従来の可変分散補償器に使用されるLCOS構造を持つ空間位相変調器の構成を説明する概念図である。図2においては、光信号の進行方向は図1に表記された方向と異なっており、図2の下方に集光レンズがあるものとして表記されていることに注意されたい。LCOS構造を持つ空間位相変調器4は、後面シリコン基板21と前面ガラス基板24との間の空間に液晶材料25が充填された構造を持つ。前面ガラス基板24上に共通透明電極23が形成され、後面シリコン基板21上にはN個の電極アレイ22a・・22nが形成される。電極アレイ22a・・22nは、通信波長帯域において反射機能を持つ電極であり、例えば、金、アルミニウムまたはクロームなどが利用される。
【0013】
電極アレイ22a・・22nと、対向する共通透明電極23との間の各領域おいて、位相付与機能部26a・・26nが形成される。各電極アレイ22a・・22nと共通透明電極23との間に独立して電界を印加することによって、位相付与機能部26a・・26nに与えられる位相量が独立に設定される。各位相付与機能部26a・・26nには、離散的に位相量が設定されるが、N個の位相付与機能部全体で、任意の所望の位相プロファイルを設定可能である。リング・メッシュ型のネットワークにおける、波長パスの切り替えに伴う可変分散補償を実現する。
【0014】
上述のようなLCOS構造を持つ空間位相変調器を使用した可変分散補償器において付与される分散特性にリップルが生じるという問題があった。以下、LCOSによって与えられる位相量のプロファイルが2次関数の場合を例として説明する。
【0015】
図3は、従来技術のLCOS構造の空間位相変調器を使用した可変分散補償器の分散補償特性を示した図である。(a)と表示されたグラフは、横軸に光周波数(THz)を、ならびに縦軸に可変分散補償器の透過特性(dB)および群遅延(ps)を示したものである。透過特性および群遅延のいずれにおいても、中心周波数から離れるにしたがって著しいリップルが生じている。(b)と表示されたグラフは、縦軸に分散補償器により与えられる位相シフト量(ラジアン)を、および横軸に(a)のグラフの横軸と合わせて光周波数(THz)を示している。
【0016】
分散補償器は、通常、中心光周波数から光透過率が1dB以内の光周波数範囲(1dB透過帯域幅と呼ぶ)において使用される。図3の(a)のグラフにおける透過特性に着目すれば、中心光周波数188.90THzから上下へ14.8GHz離れた最初にディップが表れる周波数(188.8852THzおよび188.9149THz)においては、リップルがないと想定した場合と比べて2.13dB以上の透過率低下が見られる。したがって、リップルは、分散補償器として使用される場合の中心光周波数を含む1dB透過帯域幅を狭める影響を与えている。尚、図3の透過特性における1dB透過帯域幅は、おおよそ15.4GHz(±7.7GHz)である。
【0017】
また分散補償器の特性には、1dB透過帯域内における群遅延特性のリップルができるかぎり小さいことが求められている。例えば、40Gbps級の高速光通信においては、一般的におよそ±5ps以内であることが必要とされる。これ以上の群遅延リップルを有する分散補償器では、伝送波形の歪みを誘発するおそれがある。
【0018】
また、通常の分散補償器に限らず、空間位相変調器を1dB透過帯域幅をさらに越えた光周波数範囲で使用するような応用に対しても、上述のリップルは好ましくない特性上の制限および機能上の制限を与えてしまう。このため、これらリップルを除去することが求められていた。
【0019】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、LCOS構造の空間位相変調器を使用した従来技術の可変分散補償器において生じる分散特性のリップルの問題を解決することにある。より使用可能な帯域幅の広い分散補償器を提供し、さらには、分散特性のリップル除去によって、分散補償器以外の応用可能性を広げる。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、このような目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、入力光信号の波長に応じた出射角度で光信号を分光する分光手段と、前記分光手段から出射された光信号を集光させる集光レンズと、前記分光手段による分光面との交線方向に配列された複数の位相付与セルを有し、前記複数の位相付与セルによって前記集光された光信号に所定の位相量を付与して前記分光手段へ反射する空間位相変調器であって、前記交線方向において前記複数の位相付与セルを区画するギャップ領域において前記集光された光信号の反射光が生じないこととを備えたことを特徴とする分散補償器である。
【0021】
請求項2の発明は、請求項1に記載の可変分散補償器であって、前記空間位相変調器は、前記集光レンズ側にある前面透明基板および後面透明基板により規定される空間内に充填された液晶から構成された液晶素子であり、前記位相付与セルは、前記前面透明電極の前記変調器内部面上で前記複数の位相付与セルの全領域に渡って形成され、共通電位を持つ共通透明電極と、前記共通透明電極に対向し、前記後面透明電極の前記変調器内部面上に形成され、前記複数の位相付与セルの各々を区画する複数の透明電極アレイであって、前記複数の透明電極アレイ各々の電極は前記位相付与セルの設定位相量を決定する制御電圧を印加されることと、前記後面透明電極の前記変調器外部面上に形成され、前記複数の透明電極アレイを透過する光信号を反射させる複数のミラーからなるミラーアレイと、を含むことを特徴とする。
【0022】
請求項3の発明は、請求項1に記載の可変分散補償器であって、前記空間位相変調器は、前記集光レンズ側にある前面透明基板および後面透明基板により規定される空間内に充填された液晶で構成された液晶素子であり、前記位相付与セルは、前記前面透明電極の前記変調器内部面上で前記複数の位相付与セルの全領域に渡って形成され、共通電位を持つ共通透明電極と、前記共通透明電極に対向して、前記後面透明電極の前記変調器内部面上に形成され、前記複数の位相付与セルの各々を区画する複数のミラーから成るミラーアレイであって、前記ミラーアレイの各々のミラーは前記位相付与セルの設定位相量を決定する制御電圧を印加可能な電極として作用することと、を含むことを特徴とする。
【0023】
請求項4の発明は、請求項1乃至3いずれかに記載の可変分散補償器であって、前記分光手段は、AWGであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように、本発明によれば、LCOS構造の空間位相変調器を使用した従来技術の可変分散補償器の分散特性おいて生じるリップルを大幅に低減し、動作可能な帯域幅のより広い分散補償器を提供する。さらには、分散特性のリップル除去によって、分散補償器以外の応用可能性を広げる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の可変分散補償器は、位相差付与機能部を形成し区画するために生じるギャップ部における光信号の反射を防止する構成を有するところに特徴を持つ。ギャップ部における反射光を低減させることにより、位相差付与機能部の信号光とギャップ部からの反射光との干渉を抑えて、補償分散特性に生じるリップルを大幅に減らす。
【0026】
発明者らは、図3における透過特性および群遅延特性において生じるリップルと、空間位相変調器に設定される位相シフト量との間に、一定の関係があることに着目した。再び図3を参照すれば、透過特性等にリップルが生じているのは、空間位相変調器によって与えられる位相シフト量がπの時に生じていることがわかる。そこで、LCOS構造の空間位相変調器における位相付与についてさらに検討する。
【0027】
図4は、LCOS構造の空間位相変調器における位相付与の動作を説明する概念図である。図4では、空間位相変調器における位相差付与機能部26a、26bを概念的に示している。図2に示したLCOSの実際の構成とを対比して、図4の概念図を参照されたい。LCOS構造の空間位相変調器では、位相付与部26a、26bに入射される光信号は、電極アレイ22a・・22nにおいて反射される。位相差付与機能部26a、26bにおいては、位相差付与機能部を挟む電極間に印加される制御電圧によって、所望の位相シフト量が光信号に与えられる。ここで、位相差付与機能部26a、26bは、分離して形成された電極アレイ22a・・22nにより区画されるので、位相差付与機能部の各々の間にはギャップ部40a、40b、40c、40dが存在する。図2を参照すればわかるように、このギャップ部にも光信号が入射するので、ギャップ部に到達した光信号は、シリコン基板21の表面において反射する。
【0028】
ここで、位相差付与機能部において所定の位相シフト量を与えられる光信号と、ギャップ部において反射される光信号とを考える。位相差付与機能部26aにおいて、2πの位相差φが与えられるものとすれば、位相差付与機能部26aで反射する光信号と、隣接する2つのギャップ部40a、40bで0の位相シフトφGで反射するギャップ部反射光とは、互いに強め合うように干渉する。他方で、位相差付与機能部26bにおいて、πの位相差φが与えられるものとすれば、位相差付与機能部26bで反射する光信号と、隣接する2つのギャップ部40c、40dで0の位相シフトφGで反射するギャップ部反射光とは、お互いに弱め合うように干渉する。したがって、位相差付与機能部26bから出射する分散補償された光信号の強度は低下する。
【0029】
発明者らは、上述したように、ギャップ部における反射光が分散補償特性のリップルに影響を与えているとの結論に至った。そこで、本発明の空間位相変調器では、各位相差付与機能部に隣接するギャップ部における光信号の反射を減らす構成とすることにより、リップルを低減する。
【0030】
図5は、本発明の第1の実施例に係る可変分散補償器における空間位相変調器の構成を示す図である。図5の(A)は、空間位相変調器4を光信号の進行方向から見た図であり、x軸方向に繰返し周期Pで配列されたN個の位相付与セル35a、35b、・・35nが形成されている。分散補償器の全体構成は、図1に示したものと同一であり、図1の各軸と図5の(A)および(B)を対比して参照されたい。隣り合う位相付与セルの間の間隙距離はGである。各位相付与セルによって、入射する光信号に対して離散的な位相量が設定され、分散補償されて出力される。
【0031】
図5の(B)は、空間位相変調器4の断面の構成を示す図である。図5の(B)の下方に集光レンズがあるものとして表記されている。本実施例の空間位相変調器4は、後面ガラス基板31と前面ガラス基板24との間の空間に液晶材料25が充填された構造を持つ。前面ガラス基板24上に共通透明電極23が形成され、共通透明電極23に対向して、後面ガラス基板31上にはN個の透明電極アレイ32a・・32nが形成される。透明電極アレイ32a・・32nの材料としては、例えば、酸化インジウムスズなどが利用される。後面ガラス基板31のN個の透明電極アレイ32a・・32nとは反対側の面には、N個のミラーアレイ30a・・30nが、透明電極アレイ32a・・32nと対応する位置に設けられている。ミラーアレイ30a・・30nは、例えば、金やクロームなどが利用される。
【0032】
透明電極アレイ32a・・32nおよび対向する共通透明電極23の間の各領域おいて、位相付与機能部26a・・26nが形成される。各透明電極アレイ32a・・32nと共通透明電極23との間に独立して電界を印加することによって、位相付与機能部26a・・26nに与えられる位相量が独立に設定される。各位相付与機能部26a・・26nには、離散的に位相量が設定されるが、N個の位相付与機能部全体で、任意の所望の位相プロファイルを設定可能である。
【0033】
本構成の空間位相変調器では、LCOS構造と異なり、後面基板に光信号を透過させる透明なガラス基板31を使用している点に特徴がある。隣り合う位相付与機能部の間は、位相付与機能部を区画するギャップ部が形成されるが、集光レンズからギャップ部へ入射する光信号は、反射されることなく、ガラス基板31をそのまま透過する。一方、光信号は、各透明電極アレイ32a・・32nを透過して、さらに後面ガラス基板31を経由してミラーアレイ30a・・30nで反射される。位相付与機能部に入射する光信号のみに所定の位相量が付与され、ギャップ部に入射する光信号は反射することなく消失する。したがって、位相付与機能部に入射しその後反射する光信号と、各位相差付与機能部に隣接するギャップ部に入射する光信号は干渉することがない。ギャップ部おける反射光によって、分散補償特性にリップルを生じることはない。ギャップ部における反射光を減らすことができる他の構成をとることもできる。
【0034】
図6は、本発明の第2の実施例に係る可変分散補償器における空間位相変調器の構成を示す図である。図6の(A)は、空間位相変調器4を光信号の進行方向から見た図であり、x軸方向に繰返し距離Pで配列されたN個の位相付与セル35a、35b、・・35nが形成されている。分散補償器の全体構成は、第1の実施例と同じく、図1に示したものと同様であり、図1の各軸と図6の(A)および(B)を対比させて参照されたい。隣り合う位相付与セルの間の間隙距離はGである。各位相付与セルによって、入射する光信号に対して離散的な位相量が設定され、分散補償されて出力される。
【0035】
図6の(B)は、空間位相変調器4の断面の構成を示す図である。図6の(B)の下方に集光レンズがあるものとして表記されている。本実施例の空間位相変調器4は、後面ガラス基板31と前面ガラス基板24との間の空間に液晶材料25が充填された構造を持つ。前面ガラス基板24上に共通透明電極23が形成され、後面ガラス基板31上にはN個の電極機能付きのミラーアレイ33a・・33nが形成される。ミラーアレイ33a・・33nの材料としては、例えば、金、クロームなどが利用される。
【0036】
ミラーアレイ33a・・33nと、対向する共通透明電極23との間の各領域おいて、位相付与機能部26a・・26nが形成される。各ミラーアレイ33a・・33nと共通透明電極23との間に独立して電界を印加することによって、位相付与機能部26a・・26nに与えられる位相量が独立に設定される。各位相付与機能部26a・・26nには、離散的に位相量が設定されるが、N個の位相付与機能部全体で、任意の所望の位相プロファイルを設定可能である。
【0037】
本構成の空間位相変調器では、LCOS構造とは異なり、後面基板として光信号を透過させる透明なガラス基板31を使用している点に特徴がある。液晶が充填される領域内で隣り合う位相付与機能部を区画するためのミラーアレイ33a・・33nに電極機能を併せ持たせた点で、第1の実施例と異なる。隣り合う位相付与機能部間には、位相付与機能部を区画するギャップ部が形成されるが、集光レンズからギャップ部へ入射する光信号は、反射されることなくガラス基板31をそのまま透過する。一方、位相付与機能部へ入射する光信号は、ミラーアレイ33a・・33nで反射される。位相付与機能部に入射する光信号のみに所定の位相が付与され、ギャップ部に入射する光信号は反射することなく消失する。したがって、位相付与機能部に入射しその後反射する光信号と、各位相差付与機能部に隣接するギャップ部に入射する光信号とは、干渉することがない。ギャップ部おける反射光によって、分散補償特性にリップルを生じることはない。
【0038】
第1の実施例および第2の実施例ともに、後面基板は、例えば、ガラスなどを用いる。
【0039】
図7は、本発明の空間位相変調器を使用した可変分散補償器の分散補償特性を示す図である。具体的な位相付与セルの構成は、セル総数Nを256、セルの繰返し距離Pを10μ、セル間の間隙距離Gを1.0μmとした。共通透明電極と、対向する電極との間の距離は5μmとした。横軸に光周波数(THz)を、ならびに縦軸に可変分散補償器の透過特性(dB)および群遅延(ps)を示したものである。図7では、同一の位相差付セルを持つ従来技術のLCOS構成による空間位相変調器の特性も、同時に点線で示した。
【0040】
図7から明らかなように、光透過率および群遅延のいずれにおいても、リップルはほとんど除去されている。本発明の空間位相変調器では、一部の信号光は消失するため、0.9dB程度の損失が発生するが、可変分散補償器としての機能上は、何ら問題のないレベルである。光透過率が中心周波数における光透過率より1dB低下する1dB透過帯域幅は、おおよそ18.8GHzとなり、従来のLCOS構造による空間位相変調器の15.4GHzと比較して、22%も帯域幅を拡大することができた。1dB透過帯域幅内の群遅延リップルは1ps以下となり、リップルを1/10程度に減らすことができた。
【0041】
以上詳細に説明したように、本発明によれば、LCOS構造の空間位相変調器を使用した従来技術の可変分散補償器において生じる分散補償特性のリップルを大幅に低減し、動作可能帯域幅のより広い分散補償器を提供する。さらには、分散特性のリップルをほとんど除去することによって、分散補償器以外の応用可能性を広げる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、光通信に適用できる。特に、波長選択スイッチを用いるようなリング・メッシュ型構成のネットワークでの利用に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】PLCと空間変調素子を組み合わせた可変分散補償器の構成図である。
【図2】従来の可変分散補償器に使用されるLCOS構造を持つ空間位相変調器の構成図である。
【図3】従来技術のLCOS構造の空間位相変調器を使用した可変分散補償器の分散補償特性を示した図である。
【図4】LCOS構造の空間位相変調器における位相付与の動作を説明する概念図である。
【図5】本発明の第1の実施例の空間位相変調器の構成を示す図である。
【図6】本発明の第2の実施例の空間位相変調器の構成を示す図である。
【図7】本発明の空間位相変調器を使用した可変分散補償器の分散補償特性を示す図である。
【符号の説明】
【0044】
1 AWG
2 シリンドリカルレンズ
3 集光レンズ
4 空間位相変調器
21 シリコン基板
22a、22b、22n 電極アレイ
23 透明共通電極
24 ガラス基板
25 液晶
26a、26b、26n 位相付与機能部
30a、30b、30n ミラーアレイ
31 透明ガラス基板
32a、32b、32n 透明電極アレイ
33a、33b、33n 電極機能付きミラーアレイ
35a、35b、35n 位相付与セル
40a、40b、40c、40d ギャップ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力光信号の波長に応じた出射角度で光信号を分光する分光手段と、
前記分光手段から出射された光信号を集光させる集光レンズと、
前記分光手段による分光面との交線方向に配列された複数の位相付与セルを有し、前記複数の位相付与セルによって前記集光された光信号に所定の位相量を付与して前記分光手段へ反射する空間位相変調器であって、前記交線方向において前記複数の位相付与セルを区画するギャップ領域において前記集光された光信号の反射光が生じないことと
を備えたことを特徴とする分散補償器。
【請求項2】
前記空間位相変調器は、前記集光レンズ側にある前面透明基板および後面透明基板により規定される空間内に充填された液晶から構成された液晶素子であり、
前記位相付与セルは、
前記前面透明電極の前記変調器内部面上で前記複数の位相付与セルの全領域に渡って形成され、共通電位を持つ共通透明電極と、
前記共通透明電極に対向し、前記後面透明電極の前記変調器内部面上に形成され、前記複数の位相付与セルの各々を区画する複数の透明電極アレイであって、前記複数の透明電極アレイ各々の電極は前記位相付与セルの設定位相量を決定する制御電圧を印加されることと、
前記後面透明電極の前記変調器外部面上に形成され、前記複数の透明電極アレイを透過する光信号を反射させる複数のミラーからなるミラーアレイと、を含むこと
を特徴とする請求項1に記載の分散補償器。
【請求項3】
前記空間位相変調器は、前記集光レンズ側にある前面透明基板および後面透明基板により規定される空間内に充填された液晶で構成された液晶素子であり、
前記位相付与セルは、
前記前面透明電極の前記変調器内部面上で前記複数の位相付与セルの全領域に渡って形成され、共通電位を持つ共通透明電極と、
前記共通透明電極に対向して、前記後面透明電極の前記変調器内部面上に形成され、前記複数の位相付与セルの各々を区画する複数のミラーから成るミラーアレイであって、前記ミラーアレイの各々のミラーは前記位相付与セルの設定位相量を決定する制御電圧を印加可能な電極として作用することと、を含むこと
を特徴とする請求項1に記載の分散補償器。
【請求項4】
前記分光手段は、AWGであることを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載の分散補償器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−198592(P2009−198592A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−37798(P2008−37798)
【出願日】平成20年2月19日(2008.2.19)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】