説明

可変圧縮比内燃機関

【課題】吸気マニホールド内の圧力変化に応じてシリンダヘッドを作動させ、燃焼室容積の増減を制御することにより、構造が簡単で作製容易、軽量、且つ信頼性が大きい可変圧縮比内燃機関を提供する。
【解決手段】本願可変圧縮比内燃機関1は、凹部16を有する筒体15を備えるシリンダヘッド10とシリンダブロック20からなり、シリンダヘッド10は支軸24に枢着される。雄螺子52を備えるタイボルト51をこの雄螺子に螺合する雌螺子を有するピニオンギヤ50を回転させることにより上下動させて、シリンダヘッドを支軸の中心24bを支点として回動させる。この回動により燃焼室30の容積が増減して圧縮比が変化する。ピニオンギヤ50の回転量は吸気マニホールド61の圧力を感知してピニオンラック57を介してサーボモータ等で制御される。また、シリンダヘッドはバネ14により上向きに付勢され、燃焼室の容積を可及的に増大させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は可変圧縮比内燃機関に関する。詳しくは凹部を有する筒体を備えるシリンダヘッドを作動させることにより圧縮比を変化可能とする可変圧縮比内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関がより高い熱効率を発揮して、同じ量の混合気からより大きな運動エネルギーを取り出すためには、圧縮比が高い方が有利である。圧縮比が高ければ高いほど、排気量と投入熱量が同じでもピストンを押し下げる圧力が大きくなるためである。しかし、高い圧縮比を持つガソリンエンジンは、ノッキングを起こしやすくなる。これがあまりにも酷くなると異常燃焼を起こすことにより、最終的にはピストン溶損などのエンジン破損に至る。
【0003】
このノッキングを防ぐために、点火時期を遅らせることも行われたが、点火時期を遅らせると混合気の膨張エネルギーの損失が大きくなり出力及びトルクの低下が避けられない。しかし、実際にはノッキングが起こりやすいのは高負荷、高トルクの運転時であり、負荷が大きくない運転時にはノッキングは起こらないので可能な限り高い圧縮比にすることが望ましい。圧縮比を可変制御することにより性能向上を図る可変圧縮比内燃機関の発明が種々開示されている。 しかし、これらの従来技術の可変圧縮比内燃機関は構造が複雑であり、重く、大きく、信頼性に欠ける等の欠点があり、汎用内燃機関となるに至っていない。
【0004】
例えば、下記文献に種々の可変圧縮比内燃機関が開示されている。公開特許公報昭52−125927にはエンジンの駆動ピストンの上に対向ピストンを設けて燃焼室容積を増減させて圧縮比を変化させる内燃機関が公開されている。しかし、この可変圧縮比内燃機関は、開示事項の詳細性に欠けて実施困難である。
【0005】
又、特開2003−206771にはシリンダブロックがカム機構を用いて作動し、燃焼室容積を増減させて圧縮比を変化させる内燃機関が公開されている。しかし、この発明は重いシリンダブロックを作動させるため、作動機構に大きな負荷がかかる上に、エンジン自体が重く、大きくなるおそれがある。
【0006】
更には、特開2001−317383号広報にはクランク軸とコンロッドを直接つなぐことなく、リンクを介してつなぎ燃焼室容積を増減させて圧縮比を変化させる内燃機関が公開されている。しかし、このリンク機構は複雑であり、エンジンが大きくなり且つリンク機構の振動及び騒音が大きくなることが懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】公開特許公報昭52−125927号
【特許文献2】特開2003−206771号
【特許文献3】特開2001−317383号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
可変圧縮比内燃機関は、燃焼効率を高めて燃費の向上を図るものであるため圧縮比の制御に大きなエネルギーを必要とするのであれば意味の無いエンジンとなる。
本願発明は吸気マニホールド内の圧力変化に応じてシリンダヘッドを作動させ、燃焼室容積の増減を制御することにより、構造が簡単で作製容易、軽量、且つ信頼性が大きい可変圧縮比内燃機関を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明は吸気マニホールドの圧力変化を感知してシリンダヘッドを作動させて、燃焼室容積を制御して圧縮比を変化させる。このシリンダヘッドは、凹部を有する筒体を備え、この筒体とピストンで燃焼室を構成する。このシリンダヘッドは、シリンダヘッドとシリンダブロックとの間に設けられたバネ、油圧シリンダ及びエアシリンダから選ばれる少なくとも一つ(以下「バネ等」ともいう。)を用いて上向きに付勢されている。このシリンダヘッドは、シリンダヘッドの備える軸孔とシリンダブロックの備える軸孔とに挿通された支軸に枢着され、シリンダヘッドは、支軸の中心を支点として回動自在とされている。
【0010】
このシリンダヘッド及びシリンダブロックに連通して穿設されたタイボルト孔内に上端部に雄螺子を備えるタイボルトを挿入し、上記タイボルトはシリンダブロックの下面で供回り防止部材に固着する。この供回り防止部材は他のタイボルトと連結して供回りを防止する連結バー又は2面幅ガイド装置を使用する。
【0011】
このシリンダヘッドの上面において、上記シリンダヘッドを上記タイボルトの雄螺子に螺合する雌螺子を備える回転子で締め付けて上記シリンダヘッドの下面と上記シリンダブロックの上面のあいだに間隙を設け(通常はシリンダヘッドとシリンダブロックを平行にして中心線を挟んで間隙を設け、)、回転子を右回り又は左回りに回転させ、このシリンダヘッドを上向き又は下向きに、回動させる。このシリンダヘッドの回動によりシリンダヘッドの備える筒体とピストンとの距離が変化して燃焼室が増減する。この回転子の回転量はアクセルの踏込み量と吸気マニホールの圧力を感知するセンサを用いてサーボモータ等を使用して制御する。
【0012】
このシリンダヘッドは上述の支軸の中心を支点として回動するためシリンダヘッドはシリンダブロックに対して横ズレをする。この横ズレを少なくするために上述の支軸をクランク形状に偏心させて、シリンダブロックの軸孔にこの偏心支軸の両端部を取付け、中央部をシリンダヘッドの軸孔に取付ける。
【0013】
タイボルトはシリンダヘッドと垂直に取付けられるため、シリンダブロックの下面で固着された連結バーはタイボルトの動きにしたがって移動する。この移動をスムーズにするために凸面座金と凹面座金とを設け、凸面座金の凸面と凹面座金の凹面を摺動させて上述のタイボルトの移動をスムーズに安定して行わせる。
【0014】
シリンダヘッドとシリンダブロックの間から、塵芥が侵入してシリンダ壁を損傷するおそれがある。これを防止するために弾性体からなる蛇腹状の防塵カバーを設ける。この防塵カバーの両端のうちの1端は固定バネによりシリンダヘッドに固定され、他の1端はシリンダブロックに固定する。この防塵カバー内の気体はシリンダヘッドカバー内に開放されている。
【0015】
シリンダヘッドが移動することによりカムシャフトスプロケットが動くため、タイミングチェーンは緩みと引張りを繰り返す。テンショナを設けて常にタイミングチェーンの張りを適正に保持しているがシリンダヘッドの上下動に伴い各シャフトの回転ズレが起こる。このため、バルブの開閉に微妙にタイミングのずれが起こりうる。このずれを調整するために、アイドラの少なくとも1個をシリンダブロックの支軸近傍に配設する。
【0016】
また、シリンダヘッド中心調整器を設け、このシリンダヘッド中心調整器の水平保持部材はシリンダブロックの横軸と常に平行を保ち、垂直保持部材は水平保持部材の貫通孔に密接して挿入され、この貫通孔の内を上下にシリンダ中心線にそって摺動する。この垂直保持部材の中心線と横軸保持部材の中心線の交点は常にシリンダの中心線上に存在する。
【0017】
他の本願発明の可変圧縮比内燃機関は、凹部を有する筒体を備えるシリンダヘッドの作動により圧縮比を変化させる。このシリンダヘッドは、シリンダヘッドとシリンダブロックとの間に設けられた複数のバネ、油圧シリンダ及びエアシリンダから選ばれる少なくとも一つ(以下「バネ等」ともいう。)により上向きに付勢されている。
上記シリンダヘッド及び上記シリンダブロックに連通して穿設されたタイボルト孔内に上端部に雄螺子を備えるタイボルトを挿入し、上記タイボルトはシリンダブロックの下面で供回り防止部材に固着し、上記シリンダヘッドの上面において、上記シリンダヘッドを上記タイボルトの雄螺子に螺合する雌螺子を備える回転子で締め付ける。上記回転子を回転することにより上記シリンダヘッドを上下動させて燃焼室の増減を行う。この回転子の回転量は吸気マニホールドの圧力とアクセルの踏込み量により制御される。また、防塵カバーについては上述のものがそのまま使用できる。
【発明の効果】
【0018】
本願発明の可変圧縮比内燃機関は、構造が簡単で作製が容易であり、且つ圧縮比を変化させるために使用する(シリンダヘッドを回動させる)動力が小さく、燃料消費が少なく経済的である。
【0019】
シリンダヘッドを回動させる支軸にクランク形状の偏心軸を使用した場合は、シリンダヘッドの横軸偏量が小さくなるため気密性とシリンダ壁の耐久性に優れる。
【0020】
タイボルトが、上記シリンダブロックの下面に凸面座金及び凹面座金を備え、凸面座金の凸面と凹面座金の凹面は摺動自在である場合は、タイボルトの動きがスムーズであり安定する。このため、タイボルトの損傷が少なく騒音の発生も抑えられる。
【0021】
シリンダヘッドとシリンダブロックの間に弾性体からなる蛇腹筒状の防塵カバーを備えている場合は、シリンダ壁とシリンダヘッドの間に塵等が入り込まないためシリンダ壁の耐久性に優れる、また、この防塵カバーの両端のうちの1端は固定バネによりシリンダヘッドに固定され、他の1端はシリンダブロックに固定されている場合は、構造が簡単であり、確実に固定されるため取り扱いが容易である。また、防塵カバー内の気体は上記シリンダヘッドのカバー内に解放されている。このシリンダヘッドのカバー内のオイルミストを防塵カバーの呼吸作用により防塵カバー内に取入れるため、オーリング及び金属リングの潤滑油として使用できる。
【0022】
更に、複数のアイドラとシリンダヘッド中心調整器を備え、これら複数のアイドラのうちのすくなくとも1個はシリンダブロックに配設され、上述の支点近傍に配設する場合は、バルブタイミングの変動を少なくし、バルブタイミングを安定化させることができる。
更にまた、シリンダヘッド中心調整器の垂直保持部材の中心線と水平保持部材中心線の交点が、シリンダの中心線上に存在する場合は、巻回されたタイミングチェーンの安定した張りが保たれてバルブタイミングを安定化させることができる。また、シリンダヘッド筒体の中心軸とシリンダの中心軸の同一性を保つことができる。
【0023】
他の本願発明の内燃機関は、シリンダヘッドの動きは上下動であり、構造が簡単で製作が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本願可変圧縮比内燃機関の1部を端面で表す正面図である。
【図2】シリンダヘッドの動きとタイボルトの関係を示す説明図である。
【図3】タイボルト分解組立て説明図である。
【図4】タイボルトの作動方法を示した説明図である。
【図5】偏心支軸を用いたときの本願可変圧縮比内燃機関の1部を端面で表す正面図である。
【図6】偏心支軸の説明図である。
【図7】防塵カバーを説明する拡大図である。
【図8】タイミングチェーンの回卷説明図である。
【図9】他の態様の本願可変圧縮比内燃機関の1部を端面で表す正面図である。
【図10】他の態様の本願可変圧縮比内燃機関のタイボルトの作動方法を説明する模式平面図である。
【図11】2面幅ガイド装置の説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本願発明を実施するための最良の形態を図に基づいて詳細に説明する。これらの図中の記号(または番号)は、共通する部材の場合は省略している。また、図中において部材が明瞭である場合も省略している。これらの図は本願発明を説明するために模式的に描かれたものであり、本願発明がこれらの図に拘束されるものではない。
【0026】
本願発明の可変圧縮比内燃機関1(以下単に「本内燃機関」ともいう。)は、構造が簡単で作製容易、軽量、且つ信頼性が大きい。可変圧縮比内燃機関は熱効率を高めて燃費の向上を図るものである。圧縮比を制御するために大きなエネルギー(例えば動力源としての石油エネルギー、設計・組立て等に要する人的エネルギー)を必要としたのでは可変圧縮比内燃機関の存在する意義はないといえる。本内燃機関1はこれらの問題点を解決するものであって、圧縮比の制御を少ないエネルギーで行う。
【0027】
図1は本内燃機関1を切断して一部を端面で表している正面図である。この図に示すように、このシリンダヘッド10は凹部16を有する筒体15を備える。この凹部16とシリンダ内のピストン40で構成される空間が燃焼室30である。この凹部16の形状は特に制限されることなく従来技術の形状をそのまま適用できる。
【0028】
この筒体15はオーリング21及び金属リング22を備え、シリンダ壁との間を密封している。このオーリング21の材質は耐油性、耐熱性のゴム又は樹脂等である。またこの金属リング22はピストンリングに使用されるものと同じである。この金属リング22はピストンリングと同様に厳密な密封はしない。図1中のオーリング21及び金属リング22の取付け拡大図に示すようにオーリング21の逃げ代28及び金属リング22の逃げ代29は適宜設けることが好ましい。以下においてオーリング21及び金属リング22の取付けにおいては上述の逃げ代がそのまま適用される。
【0029】
このオーリング21及び金属リング22の使用数及び形状は特に制限されない。必要に応じて適宜の数を使用することができる。この金属リング22は合い口が切ってあり、バネ性がある。このため、筒体15の中心線がシリンダの中心線に対して角度をなす場合、或いは、筒体15の中心線がシリンダの中心線と一致しない場合にもこの筒体15はシリンダ内を支障なく往復動できる。
【0030】
この図においては、このシリンダヘッド10には、支軸取付け部材11がボルト等により装着される。この支軸取付け部材11には支軸24を取付けるための軸孔11aが設けられている。この支軸取付け部材11は省略してシリンダヘッド10の一体として軸孔11aを設けることもできる。
【0031】
シリンダブロック20にも同様に支軸取付け部材23が装着されている。この支軸取付け部材23には支軸24を取付けるための軸孔23aが設けられている。この支軸取付け部材23は省略して、シリンダブロック20の一体として軸孔23aを設けることもできる。
【0032】
支軸取付け部材11の軸孔11a及び支軸取付け部材23の軸孔23aがこの支軸24に枢着されて、シリンダヘッド10はこの支軸24の中心24b(以下「軸孔23aに枢着された支軸の中心を24a」、「軸孔11aに枢着された支軸の中心を24b」という。支軸が直心軸の場合は24aと24bは一致する。)を支点として回動する。シリンダヘッド10は、シリンダヘッド10とシリンダブロック20との間に設けられたバネ14により上向きに付勢されている。このバネ14を用いない場合は、油圧シリンダ(図示しない)又はエアシリンダ(図示しない)を用いる。バネ14と油圧シリンダ又はエアシリンダを組合わせて用いることもできる。
【0033】
シリンダヘッド10及びシリンダブロック20に連通して穿設されたタイボルト孔10b、20b内に上端部に雄螺子52を備えるタイボルト51を挿入し、上記タイボルト51はシリンダブロック20の下面で供回り防止部材(図1においては連結バー55A)に固着される。
この供回り防止部材の構造は限定されないが、連結バー55A又は2面幅ガイド装置が好ましく使用される。
図3は供回り防止部材として連結バー55Aを用いた場合の分解組立て図である。この固着は図3に示すセレション51bを連結バー55Aのセレション55aに嵌めあいで固着することができる。この連結バー55Aは他のタイボルト(多気筒のエンジンである場合は図10に示されるように一連のシリンダが備えるタイボルト)のセレションに嵌めあいで固着されタイボルトの供回りを防ぐ。単気筒エンジンのように他のタイボルトが存在しない場合は後述する2面幅ガイド装置を使用する。この2面幅ガイド装置は2面幅ガイド90と回り止め板55Bとから構成される。
【0034】
図11は供回り防止部材として2面幅ガイド装置を用いた場合の供回り防止の説明図である。後述する凸面座金53、凹面座金54及び上述の連結バー55Aの備えるセレション55aはこの2面幅ガイド装置を構成する回り止め板55Bを使用するときにそのまま適用される。図11(a)は、2面幅ガイド装置を説明するための正面図である。図11(b)は、図11(a)に係るA−A切断断面図である。回り止め板55Bは上述のセレションにタイボルト51が嵌挿される。この回り止め板55Bは2面幅ガイド90に密接して配設され、2面幅ガイド90の接触面90aは回り止め板55Bの接触面55bと摺動可能である。これらの図は回転子が回転してもタイボルト51は2面幅ガイド90及び回り止め板55Bにより供回りが防止されることを示す。
【0035】
このシリンダヘッド10の上面において、シリンダヘッド10をタイボルト51の雄螺子52に螺合する雌螺子50aを備える回転子50で締め付けて上記シリンダヘッド10の下面と上記シリンダブロック20の上面とを所望の間隙とする。この間隙は所望の圧縮比との関係で調整される。支軸24の中心24bを通るシリンダヘッッド10の横軸(図中においては略水平)は上述の金属リング22の近傍をとおる。
【0036】
図2はシリンダヘッド10の動きとタイボルト51の関係を示す説明図である。このタイボルト51はシリンダヘッド10に穿設されたタイボルト孔10bにメタル56を嵌挿してこのメタル56と摺動するため、このタイボルト51はシリンダヘッドの横軸と常に直角となる。支軸の中心24bを支点としてシリンダブロック20の横軸X1に対して角度θ度だけ上向きに回動したとき、タイボルト51の中心線Y1は垂直線Yに対してθ度傾斜する(図2(a)を参照)。また、支軸の中心24bを支点としてシリンダブロック20の横軸X1に対して角度θ度だけ下向けに回動したとき、タイボルト51の中心線Y2は垂直線Yに対してθ度傾斜する(図2(b)を参照)。このため、シリンダブロック20に穿設したタイボルト孔20bはタイボルト51の傾きを制限しないように充分な直径をとる。
【0037】
シリンダブロック20の下面に始末をしない場合はシリンダブロック20の下面に損傷をおよぼすおそれがある。本内燃機関1は図2に示されるようにタイボルト51の末端処理として、シリンダブロックの下端部に凸面座金53及び凹面座金54を設けて、凸面座金53の凸面53aと凹面座金54の凹面54aは密着して摺動可能とする。また、凸面座金53の上面53bもシリンダブロック20の下面20aと摺動自在とする。
【0038】
このシリンダヘッド10とシリンダブロック20はタイボルト51で連結されている。タイボルト51は上端に雄螺子52を備えている。この雄螺子52に螺合する雌螺子50aを備える回転子50を右廻り又は左回りに回転させることにより、タイボルト51はシリンダヘッド10の貫通孔に設けられたメタルに案内されてシリンダヘッド10の横軸に対して上下自在に移動する。
【0039】
回転子50はピニオンギヤ等を用いて、ピニオンラック57を移動させて回転させる。この1図には回転子50としてピニオンギヤが描かれているが、これに限定されるものではない。このピニオンラック57はピニオンギヤラックガイド58でガイドされ、ピニオンギヤを備えたサーボモータMを用いて移動させる。このサーボモータMは必要に応じて減速機により回転を減速される(図4(1)参照)。また、他の回転子の例としては図4(2)に挙げるようにリンク機構とアクチュエータを示す。アクチュエータAを用いて回転子50を回転させシリンダヘッド10を上下動させる。
【0040】
この回転子50の回転量は吸気マニホールド61に取付けられた圧力センサによりマイコンを介してサーボモータMの回転を制御する。即ち、吸気マニホールド61の圧力によりシリンダヘッド10の回動量を制御して、燃焼室30の容積を制御する。負荷の軽いときは圧縮比を大きくして熱効率を上げる。一方、負荷が大きくアクセルを踏込んだときは吸気マニホールド61の圧力が急激に変化する。アクセル踏込み量増加を感知したセンサはサーボモータMに回転を指示して燃焼室30の容積を大きくした後に吸気制御弁を開いてノッキング等の燃焼異状を防止する。
【0041】
シリンダヘッド10とシリンダブロック20の間にはバネ14等が付設され、このバネ14等はシリンダヘッド10を常に上向きに付勢している。このバネ14等の作用によりエンジンの負荷が大きくなったときには可及的に燃焼室容積を大きくすることができ、ノッキング等の燃料の異状燃焼を防止する。
【0042】
図3はタイボルト51の分解・組み立て図である。連結バー55Aの貫通孔にはタイボルト51のセレション51b部を嵌挿してタイボルト51の供回りを防ぐ。この連結バー55Aは他のタイボルト(多気筒エンジンでは気筒ごとに少なくとも1個のタイボルトを備える。)と連結して用いられる。上述の連結バー55Aに設けられる貫通孔にはタイボルト51のセレション51bと嵌合い可能なセレション55aを設けることもできる。図中の現合シム59は複数の回転子の高さを正確に調整するためのものである。
【0043】
上記支軸24は、クランク形状の偏心軸であることが好ましい。図5は偏心軸を用いた時の内燃機関の1部を端面で表す図である。クランク形状とは図6の(a)に示す形状をいう。上述したシリンダヘッド10の筒体15に使用する金属リング22は合い口が切ってあり、バネ性があり、筒体15の中心線がシリンダの中心線に対して角度がある場合、或いは筒体15の中心線がシリンダの中心線と一致しない場合にもこの筒体15はシリンダ内を支障なく往復動できるが、シリンダヘッド10の傾斜角θが大きいとシリンダ壁に負担をかけ、損傷を与えやすい。クランク形状の偏心支軸を使用するとシリンダヘッド10の横軸方向への偏心が小さくなりシリンダヘッド10はよりスムーズに無理なく回動する。
【0044】
図6(a)示すようにこの偏心支軸の両端部はシリンダブロック20(装着された支軸取付け部材23)の備える軸孔23aに取付けられ、この偏心支軸の中央部はシリンダヘッド10(に装着された支軸取付け部材11の備える)軸孔11aに取付けられる。図6の(b)に示すように偏心支軸の両端部の中心24a(シリンダブロックに取付けた支軸の中心)は不動であるが、軸孔11aに取付けられた偏心支軸の中央部の中心24bは、シリンダヘッドの回動にともなって移動する。このため、シリンダヘッド10の横軸方向の偏心は小さくなりシリンダ壁に負担をかけることなく、損傷を与える恐れは少なくなる。上述の図5に示すように支軸の中心24bを通るシリンダヘッッド10の横軸(図中においては略水平)は上述の金属リング22の近傍をとおる。
【0045】
本内燃機関1はシリンダヘッド10とシリンダブロック20との間に間隙があるため、外部から塵芥が侵入してシリンダ壁を損傷するおそれがある。この塵芥の侵入を防止するために防塵カバー12を取付けることが好ましい。
図7はこの防塵カバー12の取付け説明図である。この防塵カバー12の材質はゴム、樹脂又はエラストマ等の弾性体からなり、蛇腹のある筒状である。この防塵カバー12の両端のうちの1端は固定バネ13によりシリンダヘッド10に押圧して固定され、他の1端はシリンダブロック20に押圧して固定される。
【0046】
更に、この防塵カバー12内からシリンダヘッドのカバーない(図示せず)と貫通穴19を設けることが必要である。シリンダヘッド10の筒体15が備える金属メタル22は合い口が切ってあるため、少量の気体がこの防塵カバー12内に侵入する。この防塵カバー12の内圧を高めないためである。この気体は回収して再度燃焼室に送り込むことができる。貫通孔19は防塵カバー12の呼吸気孔であり、シリンダカバー内のオイルミストの吸込みがあるため、こオイルミストをシリンダ壁と金属リング22及びオーリング21との潤滑に供するができる。
【0047】
図8はタイミングチェーン70の回巻説明図である。このタイミングチェーン70は複
数のアイドラを備える。図8に示すようにこれらの複数のアイドラの少なくとも一つは、
シリンダブロック20(に装着された支軸取付け部材23)に配設される。この好まし
くは他のアイドラの少なくとも1個は、シリンダヘッド10に配設される。
【0048】
タイミングチェーン70は、カムタイミングスプロケット71、クランクタイミングス
プロケット74、テンショナスプロケット72、アイドラスプロケット75、76を介
して掛けられる。このテンショナスプロケット72は、テンショナ73によりタイミン
グチェーン70の緩みを防止して適正な張力を保持する。
【0049】
本内燃機関1は、カムタイミングスプロケット71が上下動するために、タイミングスプロケット71が回転しタイミングが狂うおそれがあるため、常にタイミングを適正に保持しないとバルブタイミングに狂いが生じる。タイミングチェーン70の張力の適正はテンショナ73で図っているが、バルブタイミングは微妙であり正確性が要求される。カムタイミングスプロケット71の上下動に関せず適正なタイミングを保つために、アイドラ76は引っ張り側(図中の矢印は引っ張り方向を示す)のタイミングチェーン70の中心線ができるだけ支軸24の中心24bを通るようにし、且つ中心24b近傍に敷設する。好ましくはカムタイミングスプロケット71とスプロケット76の共通の接線77がスプロケット76と接する接点近傍に中心24bを配設する。バルブタイミングの変動を少なくして安定化を図るためである。
【0050】
シリンダヘッド中心調整器80は後述するようにシリンダヘッド10の横軸とシリンダの縦中心線の交点を常にシリンダの縦中心線上に位置せしめる効果を有する。
シリンダヘッド中心調整器80は垂直保持部材81と水平保持部材82とからなり、水平保持部材82に貫通孔を穿設し、この貫通孔に垂直保持部材81が密接挿入される。この垂直保持部材81の中心線T1はシリンダの中心線と一致する。この垂直保持部材81は水平保持部材82の貫通孔に接して中心線T1に沿って上下動をする。シリンダヘッド10の横軸が水平のとき、水平保持部材82の中心線T2上には、支軸24の中心点24bがある。また、この水平保持部材82は両端が凸面83をなし、受け部84の備える凹面85と接して摺動する。
【0051】
垂直保持部材81はボルト87でシリンダブロック20に固着され、垂直保持部材81の中心線T1は常にシリンダの中心線と一致する(図中においては略垂直)。水平保持部材82は受け部84を介してボルト86でシリンダヘッド10に定着される。シリンダヘッド10が傾斜したとき(シリンダヘッド10の上下動により、24bが左右に動く。中心線T1は水平を維持したまま傾斜する。このとき、受け部84は水平部材82の凸面を摺動して傾斜する。)でも、中心線T2は上記シリンダの中心線と直角であり、上記垂直保持部材の中心線と上記水平保持部材の中心線の交点は上記シリンダの中心線上にある。
【0052】
図9は、他の態様の本願可変圧縮比内燃機関100(以下「本内燃機関100」ともいう。)の1部を端面で表す正面図である。本内燃機関100のシリンダヘッド110は凹部116を有する筒体115を備える。この凹部116とピストン140で燃焼室130を構成し、シリンダヘッド110の上下作動により燃焼室130の容積を増減させて圧縮比を変化させる。
【0053】
シリンダヘッド110は、シリンダヘッド110とシリンダブロック120との間に設けられた複数のバネ114により上向きに付勢される。このバネ114を用いない場合は、油圧シリンダ(図示しない)、又はエアシリンダ(図示しない)を用いる。バネ114と油圧シリンダ又はエアシリンダを組合わせて用いることもできる。シリンダヘッド110はシリンダブロック120を連結するタイボルト151を備える。このタイボルト151は、雄螺子152を有し、この雄螺子152に螺合する雌螺子を有する回転子150を回転させることにシリンダヘッド110を上下自在に作動される。この回転子の回転は、吸気マニホールドの圧力により制御され、燃焼室130の容積を増減させて圧縮比を変化させる。タイボルト151は供回り防止部材155により供回りが防止されている。
【0054】
図10は本願発明の可変圧縮比内燃機関100の模式平面図である。図10においては回転子としてピニオンギヤ150を使用し、サーボモータMのピニオンギヤを回転させてピニオンラック157を所望の方向に作動させ回転子(ピニオンギヤ150)を回転させてシリンダヘッド110を上下動させる。このピニオンラック157はピニオンラックガイド158で案内されている。この図10ではピニオンギヤ150、ピニオンラック157、サーボモータMを使用してシリンダヘッド110を作動させているが、図4(2)に示すようにアクチュエータAを使用して腕木式リンク機構等を用いることもできる。また、サーボモータMは必要に応じて減速機付きのものを使用する。この回転子150の回転量は吸気マニホールドに取付けられた圧力センサによりマイコンを介してサーボモータMの回転を制御する。即ち、吸気マニホールドの圧力によりシリンダヘッド110の上下量を制御して、燃焼室130の容積を制御する。負荷の軽いときは圧縮比を大きくして熱効率を上げる。一方、負荷が大きくアクセルを踏込んだときは吸気マニホールドの圧力が急激に変化する。アクセル踏込み量増加を感知したセンサはサーボモータMに回転を指示して燃焼室130の容積を大きくした後に吸気制御弁を開いてノッキング等の燃焼異状を防止する。防塵カバー112は、固定スプリング113、この防塵カバー112内からシリンダヘッドカバー内と貫通孔19を設ける等は上述の内燃機関1のものがそのまま適用される。
【0055】
本内燃機関100は上述の本内燃機関1に比較して、シリンダヘッド110の上下動に使用する動力の負荷は大きい。しかし、構造は簡単であり作製が容易である。また、従来技術のように重量の大きいシリンダブロックを作動させるのではなく、軽量のシリンダヘッド110を作動させて圧縮比を変化させるのであるから、圧縮比を可変させるための動力負荷は小さい。
【符号の説明】
【0056】
1 可変圧縮比内燃機関
10 シリンダヘッド
10b タイボルト孔
11 支軸取付け部材
12 防塵カバー
13 固定バネ
14 バネ
15 筒体
16 凹部
20 シリンダブロック
20b タイボルト孔
21 オーリング
22 金属リング
23 支軸取付け部材
24 支軸
30 燃焼室
40 ピストン
41 ピストンリング
50 回転子
51 タイボルト
51b セレション
52 タイボルトの螺子
53 凸面座金
54 凹面座金
55A 連結バー
55B 回り止め板
56 メタル
57 ピニオンラック
58 ピニオンラックガイド
59 現合シム
60 吸気管
61 吸気マニホールド
70 タイミングチェーン
71 カムシャフトスプロケット
72 テンショナスプロケット
73 テンショナ
74 クランクシャフトスプロケット
75 アイドラ
76 アイドラ
77 接線
90 2面幅ガイド
100 可変圧縮比内燃機関
110 シリンダヘッド
114 バネ
120 シリンダブロック
130 燃焼室
140 ピストン
151 タイボルト



























【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹部を有する筒体を備えるシリンダヘッドの作動により圧縮比を変化させる可変圧縮比内燃機関において、
上記シリンダヘッドは、上記シリンダヘッドとシリンダブロックとの間に設けられたバネ、油圧シリンダ及びエアシリンダから選ばれる少なくとも一つにより上向きに付勢され、
上記シリンダヘッドは、上記シリンダヘッドの備える軸孔と上記シリンダブロックの備える軸孔とに挿通された支軸に枢着され、上記シリンダヘッドは、上記支軸の中心を支点として回動自在であり、
上記シリンダヘッド及び上記シリンダブロックに連通して穿設されたタイボルト孔内に上端部に雄螺子を備えるタイボルトを挿入し、上記タイボルトは上記シリンダブロックの下面で供回り防止部材に固着され、
上記タイボルトは、上記シリンダブロックの下端部と上記供回り防止部材の間に凸面座金及び凹面座金を設け、上記シリンダブロックの下端部と上記凸面座金の上端部、及び上記凸面座金の凸面と上記凹面座金の凹面は密着して摺動可能であり、
上記シリンダヘッドの上面において、上記シリンダヘッドを上記タイボルトの雄螺子に螺合する雌螺子を備える回転子で締め付けて上記シリンダヘッドの下面と上記シリンダブロックの上面との間に間隙を設け、
上記回転子を回転することにより上記シリンダヘッドを回動させ、上記回転子の回転量は吸気マニホールドの圧力とアクセルの踏込み量により制御されることを特徴とする可変圧縮比内燃機関。
【請求項2】
上記供回り防止部材は連結バー及び2面幅ガイド装置から選ばれるいずれか一方である請求項1に記載の可変圧縮比内燃機関。
【請求項3】
上記シリンダヘッドと上記シリンダブロックの間に弾性体からなる蛇腹筒状の防塵カバーを備え、上記防塵カバーの両端のうちの1端は固定バネにより上記シリンダヘッドに固定され、他の1端は上記固定バネにより上記シリンダブロックに固定され、
上記防塵カバー内の気体は上記シリンダヘッドのカバー内に解放されている請求項1又は請求項2に記載の可変圧縮比内燃機関。
【請求項4】
上記支軸は、クランク形状であって上記クランク形状の支軸の両端部は上記シリンダブロックが備える軸孔に取付けられ、上記支軸の中央部は上記シリンダヘッドの備える軸孔に取付けられた請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載する可変圧縮比内燃機関。
【請求項5】
更に、複数のアイドラとシリンダヘッド中心調整器を備え、上記複数のアイドラのうちのすくなくとも1個は上記シリンダブロックに配設され、
上記シリンダヘッド中心調整器は垂直保持部材と水平保持部材とからなり、上記垂直保持部材の中心線はシリンダの中心線に一致し、且つ上記水平保持部材を貫通して上記シリンダブロックに配設され、
上記水平保持部材は両端が凸面をなし、受け部の備える凹面と接して摺動し、中心線は上記シリンダの中心線と直角であり、且つ受け部を介して上記シリンダヘッドに配設され、
上記垂直保持部材の中心線と上記水平保持部材の中心線の交点は上記シリンダの中心線上にある請求項4に記載の可変圧縮比内燃機関。
【請求項6】
凹部を有する筒体を備えるシリンダヘッドの作動により圧縮比を変化させる可変圧縮比内燃機関において、
上記シリンダヘッドは、上記シリンダヘッドとシリンダブロックとの間に設けられた複数のバネ、油圧シリンダ及びエアシリンダから選ばれる少なくとも一つにより上向きに付勢され、
上記シリンダヘッド及び上記シリンダブロックに連通して穿設されたタイボルト孔内に上端部に雄螺子を備えるタイボルトを挿入し、上記タイボルトは上記シリンダブロックの下面で供回り防止部材に固着し、
上記シリンダヘッドの上面において、上記シリンダヘッドを上記タイボルトの雄螺子に螺合する雌螺子を備える回転子で締め付け、
上記回転子を回転することにより上記シリンダヘッドを上下動させ、上記回転子の回転量は吸気マニホールドの圧力とアクセルの踏込み量により制御されることを特徴とする可変圧縮比内燃機関。
【請求項7】
上記シリンダヘッドと上記シリンダブロックの間に弾性体からなる蛇腹筒状の防塵カバーを備え、上記防塵カバーの両端のうちの1端は固定バネにより上記シリンダヘッドに固定され、他の1端は上記固定バネにより上記シリンダブロックに固定され、
上記防塵カバー内の気体は上記シリンダヘッドのカバー内に解放されている請求項6に記載の可変圧縮比内燃機関。






















【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−251450(P2012−251450A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−123087(P2011−123087)
【出願日】平成23年6月1日(2011.6.1)
【出願人】(511133370)
【Fターム(参考)】