説明

可変速動力伝達機構

【課題】ねじ軸を用いることなく簡素な機構で駆動案内部材の回転運動を駆動案内部材の長手方向に沿った従動円筒部材の直線移動に転換させるとともに、サーボ、インバータ等の高価な制御機器を用いることなく従動円筒部材の直線移動を可変速させる可変速動力伝達機構を提供すること。
【解決手段】駆動シャフト111と不等ピッチ円筒状コイル体112とを備えた駆動案内部材110と、この不等ピッチ円筒状コイル体112のコイル線に対して挟持状態で転動する2個のボール132を保持してなるボール保持手段130を介在させた状態で駆動案内部材110の外周面に嵌挿してなる従動円筒部材120とを備えた可変速動力伝達機構100。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動案内部材の回転運動を駆動案内部材の長手方向に沿った従動円筒部材の可変速直線移動に転換する可変速動力伝達機構であり、特に、駆動源から動力伝達された駆動案内部材の回転運動を従動円筒部材の可変速直線移動に転換することによって従動円筒部材を可変速進退自在に作動させる可変速直線作動機に用いるものである。
【背景技術】
【0002】
従来の直線作動機に用いる動力伝達機構として、外周面に多条の螺旋状ボール転動溝が形成されたねじ軸と、内周面に環状凸部を備えるとともにこの環状凸部の長手方向両側に螺旋状ボール転動溝に対向するように形成された略4分の1円弧の環状ボール転動溝を備えたナットと、螺旋状ボール転動溝と環状ボール転動溝との間に介装されたボールと、このボールを転動自在に保持するために環状凸部の両側においてナット内に保持された保持器とを有してなるボール非循環型ボールねじが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−77260号公報(特許請求の範囲、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のボール非循環型ボールねじからなる動力伝達機構では、多数のボールと凹凸嵌合する多条の螺旋状ボール転動溝を備えたねじ軸を必要とし、このねじ軸の外周面には通常のねじ溝と全く異なる多条の螺旋状ボール転動溝を形成しなければならず、しかも、このような多条の螺旋状ボール転動溝を精密に形成するための高い加工精度が要求され、ねじ軸の製作に多大な加工負担が強いられるという問題があった。
【0005】
また、従来のボール非循環型ボールねじからなる動力伝達機構では、多数のボールを転動自在に保持するためのナットに、前述したねじ軸の螺旋状ボール転動溝に対向して適合するような環状ボール転動溝を形成しなければならず、その転動溝に高い加工精度が要求され、ナットの製作にも多大な加工負担が強いられるという問題があり、しかも、このナット内に止め輪、保持器などをナット嵌合方向、すなわち、ねじ軸の長手方向から装着して多数のボールを封止保持しているが、それぞれのボールの転動状態を個別に調整することができず、特定のボールに偏荷重が生じてボールの早期磨損を惹起したりナットやねじ軸を過度に磨損してボールの転動による動力伝達に支障を来すという問題があった。
【0006】
さらに、従来のボール非循環型ボールねじからなる動力伝達機構では、等速にしか直線移動ができず、可変速に直線移動するにはモータの回転を制御するためのサーボ、インバータ等の高価な制御機器が別途必要となり動力伝達機構の製造コストが高くなるという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、従来の問題を解決するものであって、すなわち、本発明の目的は、
ねじ軸を用いることなく簡素な機構で駆動案内部材の回転運動を駆動案内部材の長手方向に沿った従動円筒部材の直線移動に転換させるとともに、サーボ、インバータ等の高価な制御機器を用いることなく従動円筒部材の直線移動を可変速させる可変速動力伝達機構を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る本発明は、コイル線のコイルピッチを徐々に変化させた不等ピッチ円筒状コイル体を備えた駆動案内部材と、前記不等ピッチ円筒状コイル体のコイル線に対して挟持状態で転動する複数のボールを保持してなるボール保持手段を介在させた状態で前記駆動案内部材の外周面に嵌挿してなる従動円筒部材とを備え、前記駆動案内部材の回転運動を駆動案内部材の長手方向に沿った従動円筒部材の可変速直線移動に転換する可変速動力伝達機構であって、前記ボール保持手段が、前記従動円筒部材の円周面の少なくとも3カ所に等間隔で母線に沿って設けたスライド長孔にそれぞれ少なくとも2つ収容されているとともに、前記スライド長孔に収容されたボール保持手段の1つが、前記スライド長孔内でボールの動きに応じた方向転換を許容しつつ前記スライド長孔の一端に固定された位置規制手段内に位置決め規制され、前記スライド長孔に収容されたボール保持手段の残りが、前記スライド長孔内でボールの動きに応じた方向転換を許容しつつ前記スライド長孔に沿って移動自在に設けられていることにより、前述した課題を解決したものである。
【0009】
請求項2に係る本発明は、請求項1に記載の構成に加えて、前記ボール保持手段が、前記スライド長孔内の両側に沿って設けたガイド溝に係合して転動するフランジ状ロール部を備えていることにより、前述した課題を解決したものである。
【0010】
請求項3に係る本発明は、請求項1または請求項2に記載の構成に加えて、前記ボールの径が、前記円筒形コイル体を構成しているコイル線の線径に略等しく設定されていることにより、前述した課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0011】
そこで、請求項1に係る本発明の動力伝達機構は、コイル線のコイルピッチを徐々に変化させた不等ピッチ円筒状コイル体を備えた駆動案内部材と、不等ピッチ円筒状コイル体のコイル線に対して挟持状態で転動する複数のボールを保持してなるボール保持手段を介在させた状態で駆動案内部材の外周面に嵌挿してなる従動円筒部材とを備えていることにより、ボールが従来のようなねじ軸を用いることなく簡素なボール保持形態で確実に転動するため、従動円筒部材を駆動案内部材の長手方向に沿って可変速する直線移動を達成することができる。
【0012】
また、ボール保持手段が従動円筒部材の円周面の少なくとも3カ所に等間隔で母線に沿って設けたスライド長孔にそれぞれ少なくとも2つ収容されているとともに、スライド長孔に収容されたボール保持手段の1つがスライド長孔内でボールの動きに応じた方向転換を許容しつつスライド長孔の一端に固定された位置規制手段内に位置決め規制され、スライド長孔に収容されたボール保持手段の残りがスライド長孔内でボールの動きに応じた方向転換を許容しつつスライド長孔に沿って移動自在に設けられていることにより、不等ピッチ円筒状コイル体を構成するコイル線のコイルピッチが変化してコイル線の傾斜角度が変動してもそれに追随してボール保持手段が回転して方向転換するため、コイル線を複数のボールが確実に挟持することができるとともに、コイルピッチの変化に追随してボール保持手段が不等ピッチ円筒状コイル体の長手方向に移動してコイル線を複数のボールが確実に挟持することができるため、従動円筒部材を不等ピッチ円筒状コイル体を備えた駆動案内部材の長手方向に沿って円滑に可変速する直線移動を達成することができ、従動円筒部材を移動させるための動力負担を著しく軽減することができる。
【0013】
ここで、前述した不等ピッチ円筒状コイル体が全長に亙って駆動シャフトに固定されている場合には、不等ピッチ円筒状コイル体の全長に亙ってコイルピッチが確実に位置決めされるため、ボールが不等ピッチ円筒状コイル体の全長に亙って安定して転動し、従動円筒部材を駆動案内部材の長手方向に沿って安定かつ円滑に可変速する直線移動を達成することができる。
また、不等ピッチ円筒状コイル体の両端のみが駆動シャフトに固定されている場合には、従動円筒部材が駆動案内部材に沿って移動する際に駆動案内部材もしくは従動円筒部材に何らかの衝撃が加わっても不等ピッチ円筒状コイル体におけるコイルピッチ間の弾性変形により衝撃を吸収し、従動円筒部材を駆動案内部材の長手方向に沿って弾力的かつ円滑に可変速する直線移動を達成することができる。
【0014】
そして、請求項2に係る本発明の可変速動力伝達機構によれば、請求項1に記載された可変速動力伝達機構が奏する効果に加えて、ボール保持手段がスライド長孔内の両側に沿って設けたガイド溝に係合して転動するフランジ状ロール部を備えていることにより、フランジ状ロール部とガイド溝とによる係合が安定するため、ボール保持手段をスライド長孔に沿って確実かつ円滑に回転させることができる。
【0015】
さらに、請求項3に係る本発明の可変速動力伝達機構によれば、請求項1または請求項2に記載された可変速動力伝達機構が奏する効果に加えて、ボールの径が不等ピッチ円筒状コイル体を構成しているコイル線の線径に略等しくなっていることにより、ボールの発生応力が低減するため、ボールの磨損を抑制して従動円筒部材を駆動案内部材の長手方向に沿って長期に亙って円滑に可変速する直線移動を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施例である可変速動力伝達機構の概要図。
【図2】図1に示す可変速動力伝達機構の組み立て分解図。
【図3】図1のボール保持手段とコイル線との配置関係を拡大して示す断面図。
【図4】短コイルピッチ部分のコイル線に対するボールの挟持状態を示す説明図。
【図5】長コイルピッチ部分のコイル線に対するボールの挟持状態を示す説明図。
【図6】本発明の可変速動力伝達機構を用いた可変速直線作動機の概要図。
【図7】図6の可変速直線作動機が伸長した状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の動力伝達機構は、コイル線のコイルピッチを徐々に変化させた不等ピッチ円筒状コイル体を備えた駆動案内部材と、不等ピッチ円筒状コイル体のコイル線に対して挟持状態で転動する複数のボールを保持してなるボール保持手段を介在させた状態で駆動案内部材の外周面に嵌挿してなる従動円筒部材とを備え、駆動案内部材の回転運動を駆動案内部材の長手方向に沿った従動円筒部材の可変速直線移動に転換する可変速動力伝達機構であって、ボール保持手段が従動円筒部材の円周面の少なくとも3カ所に等間隔で母線に沿って設けたスライド長孔にそれぞれ少なくとも2つ収容されているとともに、スライド長孔に収容されたボール保持手段の1つがスライド長孔内でボールの動きに応じた方向転換を許容しつつスライド長孔の一端に固定された位置規制手段内に位置決め規制され、スライド長孔に収容されたボール保持手段の残りがスライド長孔内でボールの動きに応じた方向転換を許容しつつスライド長孔に沿って移動自在に設けられ、ねじ軸を用いることなく簡素な機構で駆動案内部材の回転運動を駆動案内部材の長手方向に沿った従動円筒部材の直線移動に転換させるとともに、サーボ、インバータ等の高価な制御機器を用いることなく従動円筒部材の直線移動を可変速させるものであれば、その具体的な実施の形態は、如何なるものであっても何ら構わない。
【0018】
例えば、本発明の動力伝達機構で用いる駆動案内部材の具体的な形態については、コイル線のコイルピッチを徐々に変化させた不等ピッチ円筒状コイル体を備えたものであれば良く、たとえば、不等ピッチ円筒状コイル体のみを備えたもの、あるいは、不等ピッチ円筒状コイル体を円形断面を有する駆動シャフトに嵌合装着したものがあり、前者であれば、駆動案内部材の部品点数が少なく製造コストを安価に抑えることができ、後者であれば、不等ピッチ円筒状コイル体の座屈を駆動シャフトにより規制することができる。
【0019】
そして、駆動案内部材に用いる不等ピッチ円筒状コイル体の具体的な材質については、高剛性のコイルバネなどの金属製線材やエンジニアリングプラスチックからなるプラスチック製線材のいずれであっても差し支えないが、前者であれば、市販のバネ鋼材をそのまま採用することが可能になるため、ボールの安定した転動が簡便に得ることができ、後者であれば、自己潤滑性を発揮して潤滑油を用いることなくボールが円滑に転動して駆動案内部材の回転運動を従動円筒部材の可変速直線移動に何ら抵抗なく転換することができる。
【0020】
そして、不等ピッチ円筒状コイル体を構成するコイル線の断面形態については、コイルピッチ間においてボールの球面とコイル線のコイル表面とが点接触してボールを転動自在にするものであれば、円形断面を備えたもの、あるいは、楕円断面を備えたもののいずれであっても何ら差し支えない。
【0021】
本発明の動力伝達機構におけるボール保持手段の具体的構成については、不等ピッチ円筒状コイル体を構成するコイル線を挟持するために複数のボールを保持するものであれば良く、例えば、ボール保持手段に保持するボールの個数を2個、4個等の偶数にして、コイル線の上下に同数配置すればコイル線を挟持する応力がコイル線の上下で等しくなるため、従動円筒部材を不等ピッチ円筒状コイル体からなる駆動案内部材の長手方向に沿って安定かつ円滑に可変速直線移動させることができる。
また、ボール保持手段の従動円筒部材における具体的な配置形態については、従動円筒部材の円周面の少なくとも3カ所に等間隔で母線に沿って設けたスライド長孔にそれぞれ少なくとも2つ収容されていれば良く、たとえば、スライド長孔は、従動円筒部材の円周上で120°の間隔を開けて3カ所に等間隔で配置しても、90°の間隔を開けて4カ所に等間隔で配置しても何ら差し支えない。
また、スライド長孔に配置されるボール保持手段は、スライド長孔に収容されたボール保持手段の1つがスライド長孔内でボールの動きに応じた方向転換を許容しつつスライド長孔の一端に固定された位置規制手段内に位置決め規制され、スライド長孔に収容されたボール保持手段の残りがスライド長孔内でボールの動きに応じた方向転換を許容しつつスライド長孔に沿って移動自在に設けられていれば良い。
【実施例】
【0022】
以下、本発明の実施例である可変速動力伝達機構を図面に基づいて説明する。
ここで、図1は、本発明の一実施例である可変速動力伝達機構の概要図であり、図2は、図1に示す可変速動力伝達機構の組み立て分解図であり、図3は、図1のボール保持手段とコイル線との配置関係を拡大して示す断面図であり、図4は、短コイルピッチ部分のコイル線に対するボールの挟持状態を示す説明図であり、図5は、長コイルピッチ部分のコイル線に対するボールの挟持状態を示す説明図であり、図6は、本発明の可変速動力伝達機構を用いた可変速直線作動機の概要図であり、図7は、図6の可変速直線作動機が伸長した状態を示す図である。
【0023】
まず、本発明の実施例である可変速動力伝達機構100は、図1乃至図2に示すように、円形断面を有する円柱状の駆動シャフト111とこの駆動シャフト111に嵌合装着する高剛性のバネ鋼材からなるコイル線112aのコイルピッチCPを徐々に変化させた不等ピッチ円筒状コイル体112とで構成され、この不等ピッチ円筒状コイル体112の両端を駆動シャフト111に固定してなる駆動案内部材110を備えている。
そして、不等ピッチ円筒状コイル体112のコイル線112aに対して挟持状態で転動する2個のボール131を保持してなるボール保持手段130を介在させた状態で駆動案内部材110の外周面に嵌挿してなる従動円筒部材120を備えている。
これにより、駆動案内部材110の不等ピッチ円筒状コイル体112として市販のバネ鋼材をそのまま採用することが可能にするとともに、従動円筒部材120が駆動案内部材110に沿って移動する際に、駆動案内部材110もしくは従動円筒部材120に何らかの衝撃が加わっても不等ピッチ円筒状コイル体112におけるコイルピッチCP間の弾性変形により衝撃を吸収し、従動円筒部材120を駆動案内部材110の長手方向に沿って弾力的かつ円滑に可変速する直線移動を実現している。
【0024】
図1乃至図2に示すように、ボール保持手段130は、上方のボール保持手段130Aと下方のボール保持手段130Bとからなり、従動円筒部材120の円周上で120°間隔を開けて3カ所に従動円筒部材120の上方から外周面上の母線に沿って設けられたU字状のスライド長孔121にそれぞれ配置されている。
そして、ボール保持手段130は、フランジ状ロール部131を円周上に有する円柱体で構成されていて、このフランジ状ロール部131がスライド長孔121の長手方向側壁122に設けられたガイド溝123に配置されている。
そして、上方のボール保持手段130Aは、スライド長孔121に固定された下方の位置規制手段124B上に載置され上方の位置規制手段124Aにより挟持されてスライド長孔121に回転可能で長手方向移動が規制され、駆動部材110の回転運動を確実に従動円筒体120の可変速直線運動に転換するようになっている。
これに対して、下方のボール保持手段130Bは、スライド長孔121に設けられたガイド溝123に沿って回転および長手方向移動可能になっている。
なお、図1および図2に示す符号125は、U字状のスライド長孔121を封止するスライド長孔封止部材であり、図1に示す符号113は、駆動シャフト111の突出先端部側に固設して従動円筒部材120を駆動案内部材110から抜け止めするためのフランジ部材であり、符号114は、駆動シャフト111の基端部側に固設して図示していない駆動源から伝動されるシャフト側ギヤである。
【0025】
そして、前述したボール保持手段130には、図3に示すように、ボール132にそれぞれ対応して位置決めされるボール保持穴132aがそれぞれ設けられていて、ボール132を不等ピッチ円筒状コイル体112に向けて押圧付勢するボール押圧用バネ133と、このボール押圧用バネ133をボール保持穴132a内に位置決め封止するボール封止板134が設けられている。
これにより、ボール132は、コイル線112aに押しつけられるようになっている。
【0026】
さらに、ボール132のボール径Dbは、図3に示すように、不等ピッチ円筒状コイル体112を構成しているコイル線112aの線径Dcに略等しくなっている。
これにより、それぞれのボール132に負荷される発生応力を低減して、ボール132の磨損を抑制して従動円筒部材120を駆動案内部材110の長手方向に沿って長期に亙って円滑に直線移動させるようになっている。
【0027】
次ぎに、本発明の可変速動力伝達機構100の動作を、図4乃至図5に基づいて詳細に説明する。
まず、図4に示すように、不等ピッチ円筒状コイル体112の短コイルピッチCP1間では、コイル線112aの傾斜が小さくなるためコイル線112aを挟持する2個のボール132、132の中心を結ぶ線が長手方向からθ1だけ傾斜する位置にボール保持手段130が回転する。
そして、図5に示すように、不等ピッチ円筒状コイル体112の長コイルピッチCP2間では、コイル線112aの傾斜が大きくなるため、コイル線112aを挟持する2個のボール132、132の中心を結ぶ線が長手方向からθ2となる位置に回転移動する、すなわち、ボール保持手段130は(θ2−θ1)分回転するとともに、不等ピッチ円筒状コイル体112のコイルピッチがCP1からCP2に長くなった(CP2−CP1)分下方に移動して、コイル線112aをボール132、132が確実に挟持して駆動案内部材110の回転運動を従動円筒部材120の安定した可変速直線運動に転換することができる。
なお、本実施例では、ボール保持手段130が配置されるスライド長孔121を従動円筒部材120の円周上で120°間隔を開けて従動円筒部材120の長手方向に沿って設けられたものを示したが、ボール保持手段130が配置されるスライド長孔121を従動円筒部材120の円周上で90°、180°等の適宜の角度で間隔を開けて設けても構わない。
【0028】
以上のようにして得られた本発明の可変速動力伝達機構100は、上述したような駆動案内部材110と従動円筒部材120とを備えていることにより、ボール132が従来のようなねじ軸を用いることなく簡素なボール保持形態で確実に転動するため、駆動案内部材110の回転運動を駆動案内部材110の長手方向に沿った従動円筒部材120の直線移動に転換することができるばかりでなく、不等円筒形コイル体112を構成するコイル線112aのコイルピッチCP間で転動する2個のボール132を保持するボール保持手段130が、従動円筒部材120の円周上で3カ所に等間隔で従動円筒部材120の母線に沿って設けられたスライド長孔121にそれぞれ2つ配置されていて、その中の1つのボール保持手段130Aがスライド長孔121に回転可能で長手方向移動を規制する位置規制手段124内に配置されるとともに残りのボール保持手段130Bがスライド長孔121に回転およびスライド可能に配置されていることにより、コイルピッチCPの変化に追随してボール保持手段130Bを回転および長手方向に移動してボール保持手段130Aとボール保持手段130Bとがコイル線112aを確実に挟持し従動円筒部材120を不等ピッチ円筒状コイル体112からなる駆動案内部材110の長手方向に沿って安定かつ円滑に可変速する直線移動を達成し、しかも、従動円筒部材120を移動させるための動力負担を著しく軽減することができるなど、その効果は甚大である。
【0029】
つぎに、本発明の可変速動力伝達機構100を用いた可変速直線作動機SAMについて、図6乃至図7に基づいて以下に説明する。
すなわち、本発明の可変速動力伝達機構100を用いた可変速直線作動機SAMは、駆動源を構成する電動モータMの回転軸に軸着した駆動ギヤDGの回転力を中間ギヤMGを介して上述した可変速動力伝達機構100の一部を構成する駆動シャフト111の基端部側に固設したシャフト側ギヤ114に動力伝達し、次いで、このシャフト側ギヤ114に軸着した動力伝達機構100の駆動案内部材110に動力伝達された回転力をボール132を複数保持するボール保持手段130を介して従動円筒部材120の可変速直線移動に転換すると同時に、従動円筒部材120に固着したピストンPの直線的な進退動作に転換するものである。
なお、図6乃至図7における符号Hは、上述した駆動ギヤDG、中間ギヤMG、シャフト側ギヤ114、可変速動力伝達機構100を収容するとともに、上述したピストンPが突出自在に進退することが可能なハウジングである。
【0030】
したがって、上述したような可変速直線作動機SAMは、本発明の可変速動力伝達機構100を用いていることにより、従来のようなねじ軸を用いることなく簡素なボール保持形態で確実に転動するため、駆動源Mを用いて回転させた駆動案内部材110の回転運動が駆動案内部材110の長手方向に沿った従動円筒部材120の直線移動に転換され、この従動円筒部材120に固着したピストンPをハウジングHの長手方向に沿って確実かつ円滑に安定して可変速しつつ直線移動させることができるなど、その効果は甚大である。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の可変速動力伝達機構100は、電動モータMの回転力を可変速直線的な進退動作に転換するための可変速直線作動機SAMなどとして用いることができる。
【符号の説明】
【0032】
100 ・・・ 動力伝達機構
110 ・・・ 駆動案内部材
111 ・・・ 駆動シャフト
112 ・・・ 不等ピッチ円筒状コイル体
112a・・・ コイル線
113 ・・・ フランジ部材
114 ・・・ シャフト側ギヤ
120 ・・・ 従動円筒部材
121 ・・・ スライド長孔
122 ・・・ スライド長孔の側壁
123 ・・・ ガイド溝
124 ・・・ 位置規制手段
124A・・・ 上方の位置規制手段
124B・・・ 下方の位置規制手段
125 ・・・ スライド長孔封止部材
130 ・・・ ボール保持手段
130A・・・ 上方のボール保持手段
130B・・・ 下方のボール保持手段
131 ・・・ フランジ状ロール部
132 ・・・ ボール
132a・・・ ボール保持穴
133 ・・・ ボール押圧用バネ
134 ・・・ ボール封止板
CP ・・・ コイルピッチ
CP1・・・ 短コイルピッチ
CP2・・・ 長コイルピッチ
SAM ・・・ 可変速直線作動機
M ・・・ 電動モータ(駆動源)
DG ・・・ 駆動ギヤ
MG ・・・ 中間ギヤ
H ・・・ ハウジング
P ・・・ ピストン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイル線のコイルピッチを徐々に変化させた不等ピッチ円筒状コイル体を備えた駆動案内部材と、前記不等ピッチ円筒状コイル体のコイル線に対して挟持状態で転動する複数のボールを保持してなるボール保持手段を介在させた状態で前記駆動案内部材の外周面に嵌挿してなる従動円筒部材とを備え、前記駆動案内部材の回転運動を駆動案内部材の長手方向に沿った従動円筒部材の可変速直線移動に転換する可変速動力伝達機構であって、
前記ボール保持手段が、前記従動円筒部材の円周面の少なくとも3カ所に等間隔で母線に沿って設けたスライド長孔にそれぞれ少なくとも2つ収容されているとともに、
前記スライド長孔に収容されたボール保持手段の1つが、前記スライド長孔内でボールの動きに応じた方向転換を許容しつつ前記スライド長孔の一端に固定された位置規制手段内に位置決め規制され、
前記スライド長孔に収容されたボール保持手段の残りが、前記スライド長孔内でボールの動きに応じた方向転換を許容しつつ前記スライド長孔に沿って移動自在に設けられていることを特徴とする可変速動力伝達機構。
【請求項2】
前記ボール保持手段が、前記スライド長孔内の両側に沿って設けたガイド溝に係合して転動するフランジ状ロール部を備えていることを特徴とする請求項1に記載の可変速動力伝達機構。
【請求項3】
前記ボールの径が、前記不等ピッチ円筒状コイル体を構成しているコイル線の線径に略等しく設定されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の可変速動力伝達機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−196440(P2011−196440A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−62790(P2010−62790)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(000003355)株式会社椿本チエイン (861)
【Fターム(参考)】