説明

可搬型ATS地上子

【課題】 線路の任意箇所において着脱自在に設置でき、設置間違いを起こすおそれのないATS地上子を提供する。
【解決手段】地上子1は地上子本体10と基板20とから成り、基板20両端部に支え金具と弾性片とから成るクリップ形状の取付部材26を設け、基板20をヒンジにより折り曲げ可能に連結した二つの分割部分21a,21bで構成する。幅寸法は建築限界を超えないようにし、地上子本体10は左右のレールRいずれの側においても車上子との電磁的結合が可能なように設定される。地上子本体には内部回路を可動作状態と非動作状態とに切り替える操作スイッチをケーブルで接続する。線路の任意箇所において簡単に設置でき不要時には容易に取り外せる。列車の進行方向が上り・下りのいずれであっても停止信号を発振できるから、取付方向を意識する必要がなく動作不良の問題を招くことがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動列車停止装置(Automatic Train Stop:以下、本明細書中では「ATS」と言う)の地上子を、線路の任意箇所において着脱自在に設置できるようにしたものに関する。なお原則として、本明細書中で幅方向・幅寸法とは、レールに対し直交する方向・寸法を指し、長さ方向・寸法とは、レールの長手方向に沿う方向・寸法を指すものとする。
【背景技術】
【0002】
ATSは、列車が制限速度又は信号機の指示速度を超過した場合や信号の停止現示を越えて進行しようとした場合に、列車に自動的に制動を与えて減速又は停止させるための装置であり、一般に、線路内に設置される地上子と列車内に設置される車上子との組み合わせから成っている。現在、主として採用されているATSの制御方式には、大別すると、列車が地上子上を通過する際に車上子と地上子との電磁的結合により車上子周波数を所定の周波数に変周させ、これを車上側で検出する方式(変周式)のS形(ATS−S)と、地上子に組み込んだトランスポンダからディジタル伝送される距離情報に基づき車上で発生させた速度照査パターンと列車速度とを比較して列車を制御する方式(パターン式)のP形(ATS−P)とがある。
【0003】
図6に示すように、一般にATS−Sの地上子Tは、レールR,R間において、列車進行方向に対し左側のレールR側に近づけて設置される。これに対し、ATS−Pの地上子は、ほぼ軌道中心上に設置される。これら地上子Tは、以前はレールに固定したブラケットに設置する取付方式が採用されていたが、現在では、例えば特許文献1に記載されるような、地上子設置用に製作した専用のまくらぎMに固定するのが一般的である。また、従来のATS地上子は、線路における設置箇所が決定されれば原則として当該位置から変更されることはないので、容易には移動させたり取り外したりすることのできない固定構造が採用されている。
【特許文献1】特開2002−331935号公報(図24参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
線路閉鎖を行わずに保守作業や線路工事を実施する場合、列車運行の合間を縫って所定の作業を行うことになるが、万一、作業中に列車が作業区間に接近したときには、列車を作業区間前で強制的に停車させる手段が必要である。そのような非常停止手段としては、即時停止信号を発振するS形のATS地上子を、作業区間の手前へ臨時に設置することが考えられる。しかるに従来のATS地上子は、線路へ恒久的に設置するものであるため、容易に着脱できる取付構造とはなっていなかった。また、列車に即時停止信号を与えるATS−S形の地上子は、列車進行方向に対しレールの左側に寄せて設置する必要があるが(図6参照)、この配置を誤るとATSとして動作しなくなるという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、線路の任意箇所においてレール間へ着脱可能に設置できる可搬型ATS地上子を提供するものであって、その特徴とするところは、請求項1に記載する如く、基板と該基板の上面に配置される地上子本体とから成り、基板の両端部に、左右レールそれぞれの内側底部へ着脱可能に装着されて当該基板をレール間に保持する取付部材が設けられ、基板の幅寸法は建築限界を超えない範囲に設定され、地上子本体は、幅寸法が、建築限界を超えず且つ左右のレールいずれの側においても車上子との電磁的結合が可能な範囲に設定されると共に、列車の進行方向がいずれであっても車上子に対し同等の動作をすることである。
【0006】
前記可搬型ATS地上子において、請求項2に記載の如く、地上子本体の内部回路を、車上子との電磁的結合が可能な可動作状態と、電磁的結合を生じない非動作状態とに切り替える操作スイッチを、地上子本体にケーブルを介して接続する構成を採用してもよい。
【0007】
さらに請求項3に記載する如く、地上子本体と操作スイッチとを接続するケーブルの途中に分離可能なコネクタから成る連結部を設け、前記連結部のコネクタを分離したときには、地上子本体の内部回路が可動作状態となるように設定してもよい。
【0008】
なお前記基板については、請求項4に記載の如く、幅方向に途中で二つに分割し、各分割部分をヒンジにより折り曲げ可能に連結する構成とするとよい。
【0009】
また前記取付部材については、請求項5に記載の如く、上側の支え金具と下側の弾性片との間にレール底部を挟持するクリップ形状に構成することが考えられる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る可搬型ATS地上子(以下、本発明地上子と言う)は、基板の両端部に左右レールそれぞれの内側底部へ着脱可能に装着される取付部材を設けたので、線路の任意箇所においてレール間へ簡単に設置でき、また不要時には容易に取り外せる。すなわち鉄道線路の所望箇所において、必要時だけATSシステムを導入することが可能である。
【0011】
基板の幅寸法を、建築限界を超えない範囲に設定したので、列車運行の安全性が確保される。そして、地上子本体について、その幅寸法を、建築限界を超えず且つ左右のレールいずれの側においても車上子との電磁的結合が可能である範囲に設定すると共に、列車の進行方向がいずれであっても車上子に対し同等の動作をするように構成したので、列車の進行方向が上り・下りのいずれであっても、車上子に停止信号を発振することができる。従って本発明に係るATS地上子は、設置に際し取り付ける向きを意識する必要がなく、取付方向がいずれであっても確実にATSとして動作するから、取付位置の間違いによる動作不良の問題を招くことがない。さらに、上り方向・下り方向の列車に対し同等の動作をするから、単線区間にも複線区間にも一種類の地上子で対応できる。
【0012】
請求項2に記載するように、地上子本体の内部回路を可動作状態と非動作状態とに切り替える操作スイッチをケーブル接続した場合は、本発明地上子を設置した後、必要に応じて、線路を列車の通行可能な状態と通行不可の状態とに切り替えることが出来るようになる。従って、所要作業の完了前でも、作業員を作業区間から待避させれば、列車を通過させることが可能になるから、列車を通行させるたびごとに、本発明地上子を撤去し、しかるのち再設置するという手間をなくせる。その結果、保守作業や線路工事が長時間に及ぶ場合でも、線路閉鎖を実施せずに済ませられるという、列車の運行管理上きわめて有利な効果が得られる。
【0013】
請求項3に記載する如く、地上子本体と操作スイッチとを接続するケーブルの途中にコネクタから成る連結部を設け、コネクタを分離したときには地上子本体の内部回路が可動作状態となるよう設定した場合は、何らかの事情により地上子本体と操作スイッチとの接続が外れたときには、地上子は列車に対し必ず停止命令を発振するので、安全性の向上がもたらされる。例えば、地上子本体を非動作状態としたのち、万一、操作スイッチが故障して、地上子本体の内部回路を可動作状態へ移行させることができなくなった場合でも、連結部のコネクタを分離するだけで地上子本体を可動作状態へ復帰させることができるから、列車が作業区間へ進入するのを確実に防止できる。
【0014】
請求項4に記載の如く、基板を幅方向に途中で二つに分割し、各分割部分をヒンジにより折り曲げ可能に連結する構成とした場合は、本発明に係る地上子をレール間に設置するのが容易になる。すなわち、まず基板をヒンジ部分で適当に折り曲げた状態とし、基板の一端部側に設けた取付部材を一方のレール底部へ装着したのち、次いでヒンジの折り曲げ部分を開きながら、他端部側の取付部材を他方のレール底部へ装着すればよいから、簡単な作業で地上子の取り付けを完了できる。
【0015】
さらに請求項5に記載の如く、取付部材を上側の支え金具と下側の弾性片とから成るクリップ形状に構成した場合は、クリップ間にレール底部を挟持させるだけでよいから、地上子の設置作業が一層容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1に、本発明地上子1の一例を示す。本発明地上子1は、地上子本体10と基板20とから成り、基板20の上面に配置した地上子本体10をボルト・ナット40、41で締結することにより、両者を一体化したものである。
【0017】
地上子本体10は、図2に示すように、平面視するとほぼ長方形でありコイル14を内蔵したリム部13を主体とし、内側の大部分が軽量化のため切欠部12となされ、適所に補強のため又は締結用ボルト40(図1参照)を固定するためのリブ11を設けた部材であって、エポキシ樹脂等のプラスチックで製作される。あるいは強度向上のためFRPやGRPを用いてもよい。中央領域の適所には、内部回路の一部を構成するコンデンサ(図示せず)を内蔵すると共にケーブル接続口15aを有する箱状の機能部15が設けられている。また一端部には、係合溝16aを有する係合部16が設けられている。コイル14は、車上子が地上子本体10の左右どちら側を通過しても同等の動作をするよう左右対称の形態になされている。本発明地上子1は、列車に対し即時停止信号を与えるものであるから、共振周波数は123kHzに設定される。なお図示する例では、地上子本体10の各隅部を円弧状に面取りして丸め長方形の形態としたが、これにより、リム部13の形状が、内蔵されるコイル14の形態に適するようになると共に、地上子本体10を取り扱い易くなるという利点が得られる。前記機能部15の接続口15aには、後述する操作スイッチを接続するためのケーブル30(図1参照)が接続される。また、リム部13の上面における各四辺中央部に設けた突起17は、地上子本体10の中心位置を示して、位置決めに用いるための目印である。
【0018】
基板20は、図3に示すようにほぼ長方形の板状体から成る本体部21と、本体部21の両端部に突出するように設けた取付部材26とから構成される。本体部21は、木材・プラスチック・FPP・GRP(特にFFU:繊維強化発泡ウレタンなど)等の非金属素材で製作され、取付部材26は、強度を考慮してステンレス鋼等の金属で製作される。本体部21は、適所で幅方向に二つの部分21a,21bに分割され、各分割部分21a,21bはヒンジ23により揺動して折り曲げ可能に連結される。本体部21の裏面側におけるヒンジ23の近傍には、取り扱い時に分割部分21a,21bのヒンジ23部分で手を挟まないよう、揺動角度を規制するストッパ24が取着されている。本体部21の分割箇所は中央位置でもよいが、中央より何れか一方の端部側へずらした位置とする方が、後述する本発明地上子1の設置作業が容易になる。また本体部21の中央領域には、前述した地上子本体10の機能部15を収納するための切欠21cが形成される。なお、地上子本体10を基板20に固定するボルト・ナット40,41、取付部材26を本体部21に固定するボルト・ナット40,41、ヒンジ23自体、ヒンジ23を本体部に固定するためのボルト・ナット、及び、ストッパ24はいずれも、ATS機能への影響を考慮して、プラスチックやセラミック等の非金属材料で製作したものを用いるのが好ましい。
【0019】
基板本体部21における寸法の大きい方の分割部分21aにのみ、地上子本体10を上面に固定するためのボルト40(図1参照)を挿通させるための貫通孔21dが形成される。他方の分割部分21bには、係止突起25が設けられる。地上子本体10は、非金属質のボルト・ナット40,41により、一方の分割部分21aにのみ固定されるが、他方の分割部分21bに対しては固定されない。従って、他方の分割部分21bは、地上子本体10に対して揺動可能である。
【0020】
本例の取付部材26は、図3(C)に示す如く、ステンレス鋼製の支え金具27と同じくステンレス鋼製の弾性片28とを上下に配置してリベット42等の締結部材で締結し、両者間の隙間29にレールRの底部を弾性的に挟持できるように構成したものを用いた。上側の支え金具27は、先端部27aと、階段状に屈曲形成した基部27bとを有し、この基部27bは基板本体部21へボルト40・ナット41により固定される。支え金具先端部27aは、各種レール(37kg,40N,50N,60kg等)の底部上面形状に添うことができ、且つ、取付け・取外し時に斜め方向から摺動させてレール底部を挟み込み易いよう、先端側へ向かい上方へ湾曲するように形成される。支え金具基部27bは、垂直部分の高さS(図3(B)参照)を選ぶことで、他の部分には関係なく、地上子の取り付け高さを決めることができる。本例では、各種レール(37kg,40N,50N,60kg等)の何れに対しても、ATS地上子1の取り付け高さが基準値内に収まり、且つ、車上子との応動時間を確保できるよう、基部27bの垂直部分の高さSを55mmに設定した。
支え金具27の材質には、地上子本体10の荷重を支えることができる強度と、防錆性及び重量とを考慮して、ステンレス鋼板(SUS304)を採用している。塗装鋼板を使用することも考えられるが、塗料分の重量増加を招くことと、使用中に傷を受けるとその個所から発錆するという点に留意する必要がある。
弾性片28はS字形に湾曲形成されるが、その形態及び可撓性の程度は、レールR底部への装着が容易であると同時に、支え金具27と共にレール底部を挟み込んだ際の反力によって、列車通過時の上下振動に対し、地上子本体10及び基板20が簡単には移動したり姿勢を変えたりすることのないよう設定される。このため弾性片28は、取付け・取外し時にほどよく柔軟に開くと共に、十分な反力を保つことができ、さらに防錆性を考慮して、ステンレス製バネ材が使用される。
【0021】
本発明地上子1の設置作業は、図4に示す如く簡単に行える。まず始めに、図(A)に示すように、分割部分21a,21bをヒンジ23で揺動させ90度に折り曲げた状態とし、次いで図(B)に示す如く、一方の(大きい方の)分割部分21aの取付部材26をレールRの内側底部へ、支え金具27,弾性片28の間に挟持させて装着する。引き続き図(C)に示す如く、他方の分割部分21bを広げながら、当該他方の分割部分21bの取付部材26を、もう一方のレールRの内側底部へ挟持するように装着する。しかるのち、ヒンジ23部分に上方から矢印で示す如き押圧力を加えて基板本体部21を平らにすれば、軌道中心に対しほぼ左右対称な状態に本発明地上子1を設置できる。最後に、基板本体部21が平らになると、小さい方の分割部分21bに設けた係止突起25が、地上子本体10の係合溝16a内へ挿入され上方へ突き出るので、この突出部分に例えば環状の抜け止め部材29を装着し、基板本体部21がヒンジ23で折れ曲がるのを阻止する(図1参照)。
【0022】
本発明地上子1は、上に述べたような一連の単純な工程により、工具を何ら用いることなく、レールR,R間へ短時間で設置することができる。しかも、設置箇所に制限はないから、線路の任意箇所にATSシステムの構築が可能である。また本発明地上子1は、不要になった際には、抜け止め部材29を取り外してから、基板本体部21のヒンジ23付近を持ち上げるだけで即座にレールRから分離できるので、撤去作業もきわめて簡単である。
【0023】
本発明地上子1の寸法は、レール間へ設置したときに建築限界を侵さないことが必要である。また地上子本体10は、直上を通過する列車が上り・下りのいずれの方向であっても、車上子との電磁的結合が確実にできることが必要である。このような条件を満たすように、地上子本体10及び基板20の各部寸法が設定される。なお、以下に掲げる寸法関係は、在来線の軌間寸法1067mmに対するものとして説明した。
【0024】
本発明地上子1が軌道中心に対し左右対称に設置されていると仮定し、建築限界を侵さないようにするには、図1(B)に示すレールRの頭部内側から基板本体部21までの距離Gを101mm以上とする。これは、建築限界図では水平方向の建築限界が76mm+スラックと規定され、スラックの最大値が25mmとされるからである。従って、基板本体部21の幅寸法W2(図3参照)は865mm未満に設定すればよい。但し、幅寸法W2を小さくすれば軽量化には有利であるが、ATS機能に影響を与えるおそれのある金属製の取付部材26は出来るだけ短くしたいという要請がある。そこで本例では幅寸法W2=850mmを採用した。一方、長さ寸法L2については、後述する地上子本体10の長さ寸法L1(274mm)と同等に設定すればよいが、地上子本体10と基板20とを組み付ける際に生じる誤差を吸収するため、及び、何らかの衝撃を受けたときに地上子本体10の底面角を防護する役目を持たせるため、地上子本体10の長さ寸法L1よりも両側へそれぞれ5mmずつ拡幅した寸法を採用した(本例ではL2=L1+5×2=284mm)。なお、基板本体部21の分割位置は特に限定されない。本例では、大きい方の分割部分21aの幅寸法を635mm、小さい方の分割部分21bの幅寸法を215mmとしたが、これは一例に過ぎないものであり、適宜変更することが可能である。
【0025】
取付部材26については、レールR底部に装着されるので、レールR上面から下方37mmに設定される建築限界を侵すことはない。従って、基板本体部21を建築限界の外側に支持できる外形寸法であればよい。また取付部材26の垂直部分高さは、本発明地上子1の高さレベルをレールRの上面レベル以下、望ましくは図1(B)に示す距離Dが20mm以上となるように設定される。但し距離Dの値はレール種別によって変化し、レール高さが大きくなるほど距離Dも増大する。最小の37kgレールの場合、高さが122.24mmなので、距離Dを20mm以上とするには、本発明地上子1の上面からレールR底面までの高さ寸法H+h(H:本発明地上子1における固定部分の高さ寸法、h:取付部材26の支え金具27からレールR底面までの高さ寸法)を102.24mm以下とすればよい。しかし実際には、取付部材26の弾性片28が弾性変形可能であり、設置環境による取付誤差を生じ易いので、上記より低く設定することが好ましい。本例では、地上子本体10の高さ(=厚みT1:図2(B)参照)を30mm、基板本体部21の高さ(=厚みT2:図3(B)参照)を10mm、取付部材26の垂直部分高さS(図3(B)参照)を55mmに設定して、本発明地上子1における固定部分の高さ寸法H=95mmとすることにより、本発明地上子1の上面からレールR底面までの高さ寸法H+hが102.24mmを超えないように設定した。
【0026】
地上子本体10の幅寸法W1(図2参照)は、建築限界を侵さないようにするため、基板本体部21より短く設定される。またレールからの距離によっては、金属製であるレールの影響を受けて、地上子本体10が性能低下を起こすおそれがある。しかしレールから離し過ぎると、普通、軌道中心から進行方向左側に配置されている車上子との電磁的結合が生じなくなる可能性がある。しかも列車の振動等により、車上子の位置が左右方向に変移する(約80mm程度)ことも考慮しなくてはならない。これらの条件を勘案すると、地上子本体10の採用可能な幅寸法W1は約700〜800mmの範囲となり、本例では714mmに設定した。
【0027】
地上子本体10の長さ寸法L1(レールの長手方向)については、少なくとも、車上子と地上子との間にATS機能を発現させるのに必要な電磁的結合時間(8m秒)を確保できる長さであることが必要である。但し、所定の電磁的結合時間(8m秒)を与えるのに必要とされる長さ寸法は、列車速度、及び、地上子本体10から車上子までの距離によって変化する。列車速度については、在来線特急の最高速度である時速130kmを想定する。地上子本体10と車上子との距離については状況により変動する。車上子のレールからの高さレベルは車両によって異なる(約100〜180mm)。地上子本体10の設置高さレベルはレール種別により変動し、前述の例に従って本発明地上子1の高さHを、最小の37kgレールのときに地上子本体10のレールR上面からの距離Dが20mmとなるように設定した場合、最大の60kgレールに設置したときの距離Dは約65mmとなる。よって地上子本体10と車上子との距離は約120〜245mmの範囲で変動することになるが、これらの条件に対し、ATSが有効に動作する応動距離を確保するには、地上子本体10の長さ寸法L1は少なくとも260mm以上が必要となる。本例では、余裕を見て、L1=277.5mmを採用した。
【0028】
このように構成された本発明地上子1は、単線区間で保守作業・線路工事を実施する場合、作業区間の前後約800mに配置し、複線区間の場合、列車接近方向の800m手前の位置に配置する。これは時速130kmの列車をATSにより即時停止させる場合、約600mの距離を必要とするところから、安全性を見込んで設定された距離であり、列車の最高速度が増大すれば、設置位置はより長い距離に変更される。このように所定箇所に設置した本発明地上子1には、図5(A)に示す如く、ケーブル30,32どうしをコネクタ31で連結することにより、操作スイッチ50が接続される。コネクタ31は防水仕様とすることが望ましい。
【0029】
操作スイッチ50は、本発明地上子1を可動作状態と非動作状態とに切り替えるものである。すなわち、作業区間で作業が行われている場合には、本発明地上子1を可動作状態とし、万一、列車が作業区間へ接近したときには、列車に即時停止信号を発振する。そして作業区間から人員が待避して列車の通行が可能になったときには、本発明地上子1を非動作状態として、列車に対しATS機能を発現しないようにする。なお操作スイッチ50には、操作レバー51と、切替位置が可動作状態(作業中)か非動作状態(待避完了)かを発色によって表示するインジケータ用LED52,53を設けてもよい。インジケータ用LEDを設ければ、夜間での確認が容易となる。
【0030】
本発明地上子1と操作スイッチ50の内部回路の一例を図5(B)に示す。本例では、操作スイッチボックスに内蔵した電池BTによりLED52,53を発光させるものとしたが、外部電源を利用する構成とすることも妨げない。またコネクタ31を分離したときには、本発明地上子1側の内部回路が可動作状態となるように構成されている。なお、地上子本体10内部の回路に設けたリレーを、操作スイッチ50の電源で制御することにより、本発明地上子1の動作状態を切り替えるように構成することも考えられる。また、スイッチ回路に外部メモリー装置60を接続するための接続用ポート61を設け、操作スイッチ50の動作状態を記録できるように構成してもよい。本例では、操作スイッチ50のON・OFF操作時刻を記憶するものとしてあるが、記憶対象項目に応じ、回路構成を適宜変更することは妨げない。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明地上子の一実施形態を示すものであって、図(A)は平面図、図(B)は正面図である(レールを仮想線で示した)。
【図2】本発明の一実施形態に係るものであって、図(A)は地上子本体の平面図、図(B)は図(A)のb−b線における正面断面図、図(C)は図(A)のc−c線における側面断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るものであって、図(A)は基板の平面図、図(B)は正面図、図(C)は取付部材の拡大図である。
【図4】本発明地上子の設置手順を示すものであって、図(A)は基板をヒンジ箇所で折り曲げた状態の正面図、図(B)は一方の取付部材をレール底部に装着した状態の正面図、図(C)はもう一方の取付部材をレール底部に装着した状態の正面図である。
【図5】図(A)は本発明地上子の設置状況を示す平面図、図(B)は地上子本体内部の回路と操作スイッチの回路とを示す図面である。
【図6】従来のATS−S形地上子の設置状況を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0032】
1…本発明地上子 10…地上子本体 20…基板 21…基板本体部 21a,21b…基板本体部の分割部分 23…ヒンジ 26…取付部材 30…ケーブル 31…コネクタ R…レール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
線路のレール間へ設置されるATSの地上子であって、基板と該基板の上面に配置される地上子本体とから成り、基板の両端部に、左右レールそれぞれの内側底部へ着脱可能に装着され当該基板をレール間に保持する取付部材が設けられ、基板の幅寸法は建築限界を超えない範囲に設定され、地上子本体は、幅寸法が、建築限界を超えず且つ左右のレールいずれの側においても車上子との電磁的結合が可能な範囲に設定されると共に、列車の進行方向がいずれであっても車上子に対し同等の動作をすることを特徴とする可搬型ATS地上子。
【請求項2】
地上子本体の内部回路を、車上子との電磁的結合が可能な可動作状態と、電磁的結合を生じない非動作状態とに切り替える操作スイッチが、当該地上子本体にケーブルを介して接続されている請求項1に記載の可搬型ATS地上子。
【請求項3】
地上子本体と操作スイッチとを接続するケーブルの途中に分離可能なコネクタから成る連結部が設けられ、前記連結部のコネクタを分離したときには、地上子本体の内部回路が可動作状態となるように設定されている請求項2に記載の可搬型ATS地上子。
【請求項4】
前記基板は、幅方向に途中で二つに分割され、各分割部分がヒンジにより折り曲げ可能に連結されている請求項1乃至3のいずれかに記載の可搬型ATS地上子。
【請求項5】
前記取付部材は、上側の支え金具と下側の弾性片との間にレール底部を挟持するクリップ形状に構成されている請求項1乃至4のいずれかに記載の可搬型ATS地上子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−1259(P2008−1259A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−173597(P2006−173597)
【出願日】平成18年6月23日(2006.6.23)
【出願人】(000196587)西日本旅客鉄道株式会社 (202)
【出願人】(000144348)株式会社三工社 (48)
【出願人】(391054464)株式会社てつでん (6)
【Fターム(参考)】