説明

可撓性中性子遮蔽材

【課題】可撓性のある中性子遮蔽材を提供する。
【解決手段】(A成分)ダイマー酸ジグリシジルエステル系エポキシ樹脂と変性グリシジルエステル系エポキシ樹脂とを混合したエポキシ樹脂混合物100質量部と、
(B成分) A成分100質量部に対してアミノポリアミド硬化材10〜50質量部と、
前記A成分とB成分との混合物100質量部に対して
(C成分)リチウム含有化合物をリチウム元素として1〜5質量部と、
(D成分)ホウ素含有化合物をホウ素元素として0.1〜3質量部と、
(E成分)水素含有化合物を水素元素として0.2〜6質量部と、
を少なくとも含む組成物を硬化させてなる可撓性中性子遮蔽材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は可撓性中性子遮蔽材に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電施設及び素粒子物理学研究から発生して来た高エネルギー加速器施設が今日多くの応用分野に広く利用される様になり、特に医療関係ではPET診断に必要なFDG診断薬製造装置や、直接ガン患者の治療に利用するDT反応中性子発生装置やサイクロトロン等が盛んに利用される様になっている。これらの医療用の器械、装置は、種類、性能に応じてそれぞれ厳格に放射線遮蔽が施されており、又これらの装置を収容する管理区域構造体もそれぞれ性能に応じて中性子の遮蔽が施されている。
【0003】
この管理区域構造体の設計にあたり、中性子遮蔽に関しては遮蔽厚、遮蔽材の放射化、スカイシャイン、ダクトストリーミング、迷路・遮蔽扉の検討が重要な条件となっている。
【0004】
上記条件の内、遮蔽厚、遮蔽材の放射化、スカイシャインの条件に関しては一般にポリエチレンや蛇丈岩コンクリート等の十分な設計資料とその資材が有り、ほぼ満足すべき状態であるが、ダクトストリーミング及び迷路・遮蔽扉の2条件については現在十分な設計資料及びその資材が乏しく、特に開閉部ストリーミングは避けられず、高価な2次、3次遮蔽を余儀なくされている状態である。
【0005】
従来、エポキシ樹脂をマトリックスとする中性子遮蔽材は提案されている(特許文献1−3)。しかし、これら中性子遮蔽材は可撓性が無い。このため、これらの遮蔽材を集合して遮蔽構造物を形成する場合、遮蔽材同士の継目は十分に密着しておらず、微細な隙間が存在する。その結果、隙間から中性子が漏れ出、この漏れ出を完全に防止することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−310929号公報
【特許文献2】特開2003−50294号公報
【特許文献3】特開2003−50295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、製造加工が容易で、目的に応じて成型の自由度が大きく、かつ安価に提供出来る可撓性中性子遮蔽材であって、上記中性子遮蔽に必要な諸条件中、特に現在困難とされているダクトストリーミング、及び迷路・遮蔽扉の条件を比較的容易にかつ確実に満足せしめ、中性子ストリーミングを防止することが出来るシール材としての遮蔽材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する本発明は、以下に記載するものである。
【0009】
〔1〕
(成分A)
下記式(1)
【0010】
【化1】

【0011】
で示されるダイマー酸ジグリシジルエステル系エポキシ樹脂(1)を10〜50質量部(但し,nは1〜50の整数である。)と、
下記式(2)
【0012】
【化2】

【0013】
で示される変性グリシジルエステル系エポキシ樹脂(2)90〜50質量部とを混合したエポキシ樹脂混合物100質量部と、
(B成分) 前記エポキシ樹脂混合物100質量部に対して、アミノポリアミド硬化剤10〜50質量部と、
前記A成分とB成分との混合物100質量部に対して
(C成分)リチウム含有化合物をリチウム元素として1〜5質量部と、
(D成分)ホウ素含有化合物をホウ素元素として0.1〜3質量部と、
(E成分)水素含有化合物を水素元素として0.2〜6質量部と、
を少なくとも含む組成物を硬化させてなる可撓性中性子遮蔽材。
【0014】
〔2〕
(成分A)
下記式(1)
【0015】
【化3】

【0016】
で示されるダイマー酸ジグリシジルエステル系エポキシ樹脂(1)を10〜50質量部と(但し,nは1〜50の整数である。)、
下記式(2)
【0017】
【化4】

【0018】
で示される変性グリシジルエステル系エポキシ樹脂(2)90〜50質量部とを混合したエポキシ樹脂混合物100質量部からなる第1ストックと、
(B成分) 前記エポキシ樹脂混合物100質量部に対して、アミノポリアミド硬化剤10〜50質量部からなる第2ストックと、
前記A成分とB成分との混合物100質量部に対して
(C成分)リチウム含有化合物をリチウム元素として1〜5質量部と、
(D成分)ホウ素含有化合物をホウ素元素として0.1〜3質量部と、
(E成分)水素含有化合物を水素元素として0.2〜6質量部と、
を少なくとも前記第1ストック及び/又は第2ストックに含む可撓性中性子遮蔽材製造用ストック。
〔3〕 〔1〕に記載の可撓性中性子遮蔽材を含む中性子遮蔽用テープ。
〔4〕 〔1〕に記載の可撓性中性子遮蔽材含む中性子遮蔽用パッキング。
〔5〕 〔1〕に記載の可撓性中性子遮蔽材含む中性子遮蔽用充填材。
【発明の効果】
【0019】
本発明の可撓性中性子遮蔽材は各種の型枠を用いて成形することにより、容易に目的とする形状に成型することが出来る。この可撓性中性子遮蔽材は、例えば、遮蔽ブロックや各種の平板等に製造することが容易であり、形状の自由度が大きい。
【0020】
本発明の可撓性中性子遮蔽材は、遮蔽材の水素原子密度を調整し、ボロン及びリチウム等を配合することにより、大きな熱中性子吸収断面積を与えると共に、2次γ線の発生を抑制して多種エネルギーの中性子の遮蔽効果を大きくできる。
【0021】
更に本遮蔽材は、可撓性があるので、遮蔽箇所の形状に倣って遮蔽材を変形できる。即ち、製造された各種の製品を接合剤で接着しなくても、可撓性が高いので、物理的に組み合わせるだけで遮蔽材同士を密着させることが出来る。このため、接合剤や溶着作業を施行せずに中性子遮蔽の際に生じやすい中性子ストリーミングを確実に防止することが可能となる。従って、原子力関係施設、放射線医療施設及びエネルギー加速器等の施設に於いて広範囲の中性子遮蔽材として有効に利用することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施例1で製造した遮蔽材の252Cf中性子1cm線量当量透過率の試験結果を表すグラフである。
【図2】図2(A)は本発明の遮蔽材のストリーミング試験を示す説明図である。図2(B)は、本発明の遮蔽材を積重した状態を示す正面図である。
【図3】遮蔽材の断面突き合わせの一例を示す正面図で、(A)は段付き突き合せ、(B)は切り込み突き合せを示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0024】
可撓性中性子遮蔽材
本発明の可撓性中性子遮蔽材は、下記の各成分を原料とし、これを硬化してなる可撓性樹脂組成物である。下記A成分と、B成分とは、反応して硬化する。
【0025】
(A成分)
本可撓性中性子遮蔽材の基材マトリックスを構成するエポキシ基材(A成分)は、下記式(1)で示されるダイマー酸ジグリシジルエステル系エポキシ樹脂と、下記式(2)で示される変性グリシジルエステル系エポキシ樹脂との混合物を主材とする。
【0026】
【化5】

【0027】
【化6】

【0028】
式(1)のダイマー酸グリシジルエステル系エポキシ樹脂は、BPAA−ECH型エポキシ骨格中にダイマー酸構造を持つと共に、分子内にブロム原子を持ち、6.9バーンの中性子吸収断面積を持つ。nは、1〜50の整数で、2〜30が好ましく、3〜20がより好ましい。
【0029】
式(1)のダイマー酸ジグリシジルエステル系エポキシ樹脂と、式(2)の変性グリシジルエステル系エポキシ樹脂との混合割合は、質量基準で以下の割合である。即ち、混合割合は、式(1)のエポキシ樹脂10〜50質量部に対して、式(2)のエポキシ樹脂は90〜50質量部が好ましく、式(1)のエポキシ樹脂20〜40質量部に対して、式(2)のエポキシ樹脂は80〜60質量部がより好ましい。
【0030】
本発明においては、上記式(1)、式(2)の2種類のエポキシ樹脂を組合わせることにより、可撓性のある遮蔽材のマトリクス樹脂が得られる。
【0031】
(B成分)
前記エポキシ樹脂の混合物には、B成分として、エポキシ樹脂混合物を硬化させる硬化剤が配合される。硬化剤としては、下記式(3)で示されるアミノポリアミドが好ましい。このアミノポリアミドは、得られる中性子遮蔽材に可撓性を与えるうえで、好ましい硬化剤である。
【0032】
【化7】

【0033】
硬化剤の配合量は、上記式(1)と式(2)とのエポキシ樹脂の混合物100質量部に対して、10〜50質量部が好ましく、15〜30質量部がより好ましい。
【0034】
(C成分)
本中性子遮蔽剤は、リチウム含有化合物を、リチウム元素として、A成分とB成分との混合物100質量部に対して1〜5質量部、好ましくは2〜4質量部含有する。リチウム含有化合物を5部を超えて配合しても良いが、高価な為コスト面で不利となる。
【0035】
リチウム含有化合物としては、特に制限がないが、水酸化リチウム、水素化リチウム等が例示される。
【0036】
一般的に、炉芯から照射される放射線は高エネルギーのγ線及び速中性子群である。これらの放射線は、先ずSUS、鉛、高密度コンクリート等の非弾性散乱断面積の大きい物質により遮蔽され、中性子は中速中性子に減速される。
【0037】
C成分のリチウム含有化合物は、中性子の吸収断面積が比較的大きいので、この中速中性子を遅い中性子までに減速させる為に配合する。
【0038】
(D成分)
本中性子遮蔽材には、ホウ素含有化合物を、A成分とB成分との混合物100質量部に対して、ホウ素元素として0.1〜3質量部、好ましくは0.1〜2質量部、より好ましくは0.1〜1.5質量部含有する。3部質量部を超える配合も可能であるが、有効断面積に効果のあるホウ素含有化合物の割合が実質的に30質量部を超えて配合しても効力は平衡状態に達し、コスト的にも無意味である。
【0039】
中速中性子を減速させて発生する熱中性子を吸収するために、放射捕獲断面積が大きく、かつ2次γ線を出さないか、又は出してもエネルギーの低いホウ素含有化合物を添加する。ホウ素含有化合物としては、ボロンカーバイト(B4C)、コレマナイト(Ca2B6O11・5H2O)、酸化ボロン、珊砂、BORAX(Na2B4O7・10H2Oの化学式を主成分とする鉱物)等が好ましく、これらを混合し又は単独で配合する。
【0040】
(E成分)
本中性子遮蔽剤には、水素含有化合物を、A成分とB成分との混合物100質量部に対して、水素元素として0.2〜6質量部含有することが好ましく、0.4〜3質量部がより好ましく、1〜2質量部が特に好ましい。6質量%を超えて添加すると、遮蔽材の接着性が劣化するおそれがあり、得られる遮蔽材の加工、取扱い性が悪くなるので望ましくない。
【0041】
水素原子は、減速された中性子の中に若干混在する速中性子と、大部分の0.5MeV以下の中、低速中性子を、水素を含む物質中を拡散して行く間に弾性散乱により減速させ、遅い中性子にすると共に、水素原子及びその他の元素により中性子を捕獲吸収させる。
【0042】
遮蔽材全体としては、出来るだけ水素元素を多く含有することが望ましいので、基材マトリックスの含む水素含有量を補足する為に、水添脂環族系炭化水素樹脂を配合する。
【0043】
水添脂環族系炭化水素としては、炭素数が2〜10のアルキレングリコール、分子量が2000以下のポリアルキレングリコール等が例示される。
【0044】
特に好ましい化合物は、下記式(4)で示されるペンテングリコールである。
【0045】
【化8】

【0046】
(その他の成分)
以上の必須成分以外に、金属水酸物として、水酸化アルミニウムや水酸化リチウムを適宜配合することができる。これらの粒度は50μm以下であることが好ましい。
【0047】
水素元素を補足するものとして水酸化アルミニウムAl(OH)3を加える事も有効である。配合量は、A成分とB成分との混合物100質量部に対し水素元素として0.1〜5質量部が好ましく、0.5〜2質量部がより好ましい。
【0048】
尚、水酸化アルミニウムは中性子に対して比較的安定であることから利用効果が高い。但し、添加量が5質量部を超える場合、硬化前の遮蔽剤製造原料の粘度が高くなり、成形が難しくなるため5質量部を限度とすることが好ましい。
【0049】
前記エポキシ系マトリックス基材の水素原子等と、放射された中性子との反応により発生する2次γ線の大部分は添加されるボロンにより吸収されるが、統計学的には、一部は発生する。これを吸収するために、密度の大きい重金属酸化物、例えば酸化タングステンや酸化鉛等の粉体を配合することは有効である。
【0050】
本発明の可撓性中性子遮蔽材は、上記各成分を混合し、硬化させることにより製造される。
【0051】
具体的には、上記各成分は攪拌混合され、必要により用意された型枠に充填された後、硬化剤の作用で重合反応が開始され、自然に硬化反応が進む。
【0052】
通常20℃の常温で20〜30時間、30℃の下で10〜20時間で硬化する。その後、型枠から離型することにより、製品が得られる。
【0053】
上記工程において、基材マトリックス調製時や、型枠に充填時等に、常法による真空脱泡を行うことが好ましい。
【0054】
離型された製品は必要に応じて切断、開孔、接合等の仕上加工を施し、目的に応じた形状の可撓性中性子遮蔽材が得られる。
【0055】
本発明の可撓性中性子遮蔽材の具体的製品形態としては、中性子遮蔽用テープ、中性子遮蔽用パッキング、中性子遮蔽用充填材、中性子遮蔽用ブロック等が例示される。
【0056】
可撓性中性子遮蔽材製造用ストック
本発明の、可撓性中性子遮蔽材製造用ストックは、
(成分A)
式(1)で示されるエポキシ樹脂(1)を10〜50質量部、好ましくは20〜40質量部と、
式(2)で示されるエポキシ樹脂(2)90〜50質量部、好ましくは80〜60質量部とを混合したエポキシ樹脂混合物からなる第1ストックと、
(B成分) 上記式(1)と式(2)とのエポキシ樹脂混合物100質量部に対して、アミノポリアミド硬化剤10〜50質量部、好ましくは15〜30質量部からなる第2ストックと、
前記A成分とB成分との混合物100質量部に対して
(C成分)リチウム含有化合物を、リチウム元素として1〜5質量部、好ましくは2〜4質量部と、
(D成分)ホウ素化合物を、ホウ素元素として0.1〜3質量部、好ましくは0.1〜2質量部、より好ましくは0.1〜1.5質量部と、
(E成分)水素含有化合物を、水素元素として0.2〜6質量部、好ましくは0.4〜3質量部、より好ましくは1〜2質量部と、
を少なくとも前記第1ストック及び/又は第2ストックに含む可撓性中性子遮蔽材製造用ストックである。
【0057】
更に、本ストックは、前記その他の成分を適宜含有していても良い。
【0058】
A〜E成分は、上述した可撓性中性子遮蔽材のA〜E成分と同じ成分、配合量であるので、その説明を省略する。C〜E成分は、第1ストック、又は第2ストックの何れかに配合されていればよい。又は、C〜E成分のそれぞれが第1ストックと第2ストックとの両方に配合されていても良い。
【0059】
これらのストックは、可撓性中性子遮蔽材の製造原料である。A成分とB成分とは、混合すると硬化を開始する。従って、本ストックは、可撓性中性子遮蔽材を製造するときまで、原材料を保存しておく場合に有効である。
【0060】
本ストックを用いて可撓性中性子遮蔽材を製造する工程は、上記製造方法と同様である。
【実施例】
【0061】
実施例1
下記配合表1に従って、可撓性中性子遮蔽剤製造用原料組成物を製造した。
【0062】
【表1】

【0063】
A成分は、式(1)のダイマー酸ジグリシジルエステル系エポキシ樹脂(東都化成工業(株)製、商品名YDB-500)を30質量部と、式(2)で示される変性グリシジルエステル系エポキシ樹脂(東都化成工業(株)製、商品名YD-171)を70質量部とを混合したエポキシ樹脂混合物を用いた。
【0064】
B成分は、式(3)で示されるアミノポリアミド(東都化成工業(株)製、商品名G-625)を用いた。
【0065】
水添脂環族炭化水素としては、ペンテングリコール(丸善石油化学(株)製 水添マルカレッツ)を用いた。
【0066】
表1の配合量は、A成分とB成分との合計量を100質量部とする場合、C成分のリチウム元素としての配合量は4.52質量部に相当する。同様に、D成分のホウ素元素としての配合量は0.62質量部で、E成分の水素元素としての配合量は3.5質量部に相当する。
【0067】
上記表1の配合組成物を、型に充填し、室温で12時間放置し、硬化させることにより、50×50×10mmの平板状の可撓性中性子遮蔽材を得た。この可撓性中性子遮蔽材を用いて、以下の評価試験を行った。
【0068】
物性試験
上記製造した可撓性中性子遮蔽材に、10mmφの鋼球を介し10kg/cm2の圧力を10秒掛け、その後圧力を10秒間開放することを1cycleとして、合計20,000cycleの試験を行った。厚さの回復度を測定した結果、歪み度は0.5mmで、回復率は95%であった。この結果から、十分シール材としての性能を有している事が判明した。
【0069】
更に、JIS K-6850、JIS K-6911に従って、可撓性中性子遮蔽材の物理特性試験を行った。
【0070】
測定の結果を以下に示す。
・破断力(N)470
・破断応力(N/mm) 9.5
・伸び(mm) 20.6
・弾性係数(N/mm) 5.9
耐放射線特性試験
上記製造した可撓性中性子遮蔽材を用いて、日本原子力研究所JRR-3の試験法に従って放射線照射試験を行った。結果は、下記の通りであった。
・中性子に対して:1015n/cm2 変化無し
・γ線に対して :10R 変化無し
252Cfを線源とした照射試験結果を図1に示す。
【0071】
中性子ストリーミング試験
本発明遮蔽材の大きな特長である可撓性を実用上効果的に発揮できる理由は、剛性のある遮蔽材と組み合わせたときの両者間の密着性に有る。その応用例は、例えばパッキングやガスケット等のシール材である。その性能を確認する為に以下に記載する中性子ストリーミング試験を行った。
【0072】
試験は、実施例1において製造した平板(300×300×25mm)状の遮蔽材1a〜1gを図2に示すように上下左右に積重ねた。この場合、接合部には接着剤は使用しておらず、単に積層していた。
【0073】
252Cfを線源として上下板の接合部の遮蔽性能を測定した結果を表2に示す。図2において、1は平板、3は線源、5は中性子測定器、A〜Fは測定点を示す。なお、遮蔽材は、線源から20cm離した。
【0074】
【表2】

【0075】
表2の結果により、本発明の遮蔽材は、有する可撓性の為に、単純に平板を突き合わせただけで中性子ストリーミングが十分防止される事が確認された。
【0076】
尚、実施設計に当たっては断面突き合わせ部分は、図3(A)の如く段付きや、図3(B)のごとく切り込みを行うので、中性子ストリーミングの防止はより完全となる。なお、図中、1p〜1sは遮蔽板である。
【0077】
比較例1
実施例1のA成分と、B成分とのみを硬化させた。得られた可撓性エポキシ樹脂は、中性子の影響により103n/mm3あたりから硬化反応が進み可撓性を失なった。
【0078】
比較例2
式(2)のエポキシ樹脂を配合せずに、式(1)のエポキシ樹脂のみでA成分を構成した以外は、実施例1と同様にして、遮蔽財を得た。この遮蔽剤は硬いものであった。実施例1と同様にこの遮蔽材を積層したが、ストリ−ミングが観察された。
【0079】
比較例3
式(1)のエポキシ樹脂を配合せずに、式(2)のエポキシ樹脂のみでA成分を構成した以外は、実施例1と同様にして、遮蔽財を得た。この遮蔽剤は硬いものであった。実施例1と同様にこの遮蔽材を積層したが、ストリ−ミングが観察された。
【0080】
比較例4
硬化剤としてHN−2200(油化シェルエポキシ(株)製、硬化剤)を使用した以外は、実施例1と同様にして、遮蔽材を得た。この硬化剤を用いて製造した遮蔽材は過度に柔らかく、変形しやすいものであった。実施例1と同様にしてストリーミング試験を行った。ストリ−ミングが観察された。
【0081】
HN−2200の化学構造を式(5)に示す。
【0082】
【化9】

【0083】
実施例2
下記配合表3に従って、可撓性中性子遮蔽剤製造用原料組成物を製造した。
【0084】
【表3】

【0085】
A成分は、式(1)のダイマー酸ジグリシジルエステル系エポキシ樹脂(東都化成工業(株)製、商品名YDB-500)を20質量部と、式(2)で示される変性グリシジルエステル系エポキシ樹脂(東都化成工業(株)製、商品名YD-171)を80質量部とを混合したエポキシ樹脂混合物を用いた。
【0086】
B〜E成分及びその他の成分は、実施例1と同じ化合物を用いた。
【0087】
得られた遮蔽材は、実施例1の遮蔽材と同様に可撓性に富み、中性子遮蔽効果は実施例1の遮蔽材と同等のものであった。
【符号の説明】
【0088】
1 遮蔽材
3 線源
5 中性子測定器
A〜F 測定点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(成分A)
下記式(1)
【化1】

で示されるダイマー酸ジグリシジルエステル系エポキシ樹脂(1)を10〜50質量部(但し,nは1〜50の整数である。)と、
下記式(2)
【化2】

で示される変性グリシジルエステル系エポキシ樹脂(2)90〜50質量部とを混合したエポキシ樹脂混合物100質量部と、
(B成分) 前記エポキシ樹脂混合物100質量部に対してアミノポリアミド硬化剤10〜50質量部と、
前記A成分とB成分との混合物100質量部に対して
(C成分)リチウム含有化合物をリチウム元素として1〜5質量部と、
(D成分)ホウ素含有化合物をホウ素元素として0.1〜3質量部と、
(E成分)水素含有化合物を水素元素として0.2〜6質量部と、
を少なくとも含む組成物を硬化させてなる可撓性中性子遮蔽材。
【請求項2】
(成分A)
下記式(1)
【化3】




で示されるダイマー酸ジグリシジルエステル系エポキシ樹脂(1)を10〜50質量部と(但し,nは1〜50の整数である。)、
下記式(2)
【化4】

で示される変性グリシジルエステル系エポキシ樹脂(2)90〜50質量部とを混合したエポキシ樹脂混合物100質量部からなる第1ストックと、

(B成分) 前記エポキシ樹脂混合物100質量部に対して、アミノポリアミド硬化剤10〜50質量部からなる第2ストックと、
前記A成分とB成分との混合物100質量部に対して
(C成分)リチウム含有化合物をリチウム元素として1〜5質量部と、
(D成分)ホウ素含有化合物をホウ素元素として0.1〜3質量部と、
(E成分)水素含有化合物を水素元素として0.2〜6質量部と、
を少なくとも前記第1ストック及び/又は第2ストックに含む可撓性中性子遮蔽材製造用ストック。
【請求項3】
請求項1に記載の可撓性中性子遮蔽材を含む中性子遮蔽用テープ。
【請求項4】
請求項1に記載の可撓性中性子遮蔽材を含む中性子遮蔽用パッキング。
【請求項5】
請求項1に記載の可撓性中性子遮蔽材を含む中性子遮蔽用充填材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−230411(P2010−230411A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−76835(P2009−76835)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(504176139)
【Fターム(参考)】