説明

可撓性被膜を形成する水性組成物

【課題】水酸化カルシウムを被膜形成成分として含み、可撓性被膜を形成する水性組成物、特に可撓性とともに延伸性を有する被膜を形成する水性組成物、およびこれを用いて調製されるシートまたはボード、並びにその製造方法を提供する。
【解決手段】無機材料、有機材料および水を含む水性の可撓性被膜を形成する水性組成物であって、上記無機材料が水酸化カルシウムを含有する非水硬性の無機組成物、上記有機材料が接着性樹脂であり、さらにシランカップリング剤を含有することを特徴とする水性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水酸化カルシウムを被膜形成成分として含み、可撓性被膜を形成する水性組成物、特に可撓性とともに延伸性を有する被膜を形成する水性組成物に関する。また本発明は、シート状またはボード状の基材表面に上記水性組成物を塗布して調製されるシートまたはボード、並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石灰を主成分とする気硬性の被覆材料として、古くから漆喰およびドロマイトプラスターが知られている。これらの被覆材料は、落ち着きのある重厚な仕上がり感に加えて、調湿性(吸湿性及び放湿性)、防カビ性、抗菌性、消臭性、および防火性といった機能に優れているため、シックハウス症候群やインフルエンザが問題となっている今、再び環境改善用塗材として見直されている。
【0003】
しかしながら、漆喰やドロマイトプラスターは、乾燥硬化時の収縮が大きく、また可撓性がないため、乾燥塗膜がひび割れしし易く脆いという欠点がある。このため、従来の漆喰やドロマイトプラスターは、割れ防止のためにスサ(麻、藁、紙などを短く裁断したもの)等の繊維材料を配合した材料を用いて、1〜2mm以下の厚さに薄塗りし、一旦乾燥硬化させた後に、上から上塗りすることを繰り返して所望の厚さに仕上げる施工方法が採用されている。さらに、割れを防止するためには、重ね塗り時にコテの押さえ具合を調整しながら被膜の乾燥収縮を平均にならすという高度な職人技が要求される。このため、漆喰やドロマイトプラスターの施工には、熟練した技術と長い工期が必要とされ、その結果、費用が多大になるという問題があった。
【0004】
漆喰やドロマイトプラスターのひび割れを防止する方法として従来から提案されているものとして、例えば、被覆組成物として、消石灰及び/又はドロマイトプラスター、スチレンブタジエンゴムラテックス、ウェランガム及び界面活性剤を含む石灰系プラスター組成物を使用する方法(特許文献1)、消石灰に特定の割合で珪砂、合成樹脂、スサ、クレイ成分、分散剤、セルロース系増粘剤及び消泡剤を含む組成物を使用する方法(特許文献2)、消石灰に特定の割合で骨材、合成樹脂バインダー、及び小麦ファイバーを含む組成物を使用する方法(特許文献3)、石灰系プラスターに、エチレン性不飽和ジカルボン酸単量体とビニル単量体を乳化重合して得られるラテックスを含む石灰系プラスター改質剤を配合した石灰系プラスター組成物を使用する方法(特許文献4)、ならびに石灰を被膜成分とするコーティング組成物に、カルシウムイオンに対してキレート作用を有する化合物(キレート化合物)を配合する方法(特許文献5)を挙げることができる。なかでも、特許文献5に記載された方法は、漆喰やドロマイトプラスターを始め、石灰系仕上げ塗材や石灰系塗料などの、石灰を含むコーティング組成物から形成される被膜のひび割れを防止する効果に優れているとともに、石灰のチクソトロピックな流動特性を低減する方法として有用である。また、石灰を被膜成分とするコーティング組成物に工業ラインでの強制乾燥にも耐えうるひび割れ抵抗性(耐ひび割れ性)を付与する方法として極性アミノ酸を配合する方法も提案されている(特許文献6〜7)。
【0005】
また、漆喰やドロマイトプラスターは、耐水性・防水性に弱いため、通常、外壁や浴室等の水が触れる箇所での使用には適していない。漆喰やドロマイトプラスターの耐水性・防水性を高める方法として、従来は、材料に菜種油や大豆油などの植物油または鯨油やイワシ油などの魚油を混ぜるか、または漆喰やドロマイトプラスターを塗布した表面に油または撥水剤を塗布することが行われている。しかし、こうした場合、表面に油浮きやテカリが生じ、漆喰特有の質感が損なわれるという問題がある。
【0006】
さらに、漆喰やドロマイトプラスターで形成された塗膜表面は、大気中の二酸化炭素を吸収して自己硬化するため硬度は比較的高いものの、摩擦に対する耐久性(耐摩擦性)はあまりよくなく、擦るとその部分が摩耗してテカリが生じてムラになるという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−171167号公報
【特許文献2】特開2001−192255号公報
【特許文献3】特開2003−306614号公報
【特許文献4】特開2002−12460号公報
【特許文献5】特開2006−240981号公報
【特許文献6】特開2008−115375号公報
【特許文献7】特開2008−115376号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、漆喰やドロマイトプラスターに関する上記従来の問題を解消した、水酸化カルシウムを被膜形成成分として含む水性組成物を提供することを目的とする。より具体的には、本発明は、下地基材の曲げや変形によっても被膜に亀裂が生じないように、可撓性および延伸性が向上した被膜を形成する水性組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、耐水性および耐摩擦性に優れた被膜を形成する上記水性組成物を提供することを目的とする。
【0009】
さらに、本発明は、かかる水性組成物を塗布して調製される各種シートまたはボード、並びに当該シートまたはボートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記目的を達成すべく日夜鋭意研究を重ねていたところ、水、無機材料として水酸化カルシウムを含む非水硬性組成物、および有機材料として接着性樹脂を含む組成物に、特定の官能基を有するシランカップリング剤を併用した水性組成物を塗布して形成した乾燥被膜が、可撓性および延伸性に優れており、下地基材の曲げや変形等の動きに追随することで亀裂やひび割れの発生が有意に抑制されていることを見出した。また、かかる被膜は、耐水性および耐摩耗性にも優れており、水に浸漬しても被膜の剥がれが抑制され、しかも浸漬後も上記可撓性や延伸性に悪影響がないこと、また被膜表面を布(乾燥布または湿潤布)で擦っても、被膜表面の摩耗やそれによる艶の発生が有意に抑制されていることを見出した。
【0011】
こうしたことから、上記成分を含む水性組成物によれば、可撓性がなくひび割れしやすい、耐水性・防水性が乏しい、また耐摩耗性に乏しいという、従来の漆喰やドロマイトの弱点を解消することができ、漆喰やドロマイト素材を、可撓性および延伸性、すなわち下地追随性が要求される壁紙や各種のシートのコーティング剤として応用できること、また耐水性・防水性が要求される外壁や水周りの塗料として応用できることを確認した。
【0012】
本発明はかかる知見に基づいて開発されたものであり、下記I〜VIIIに掲げる態様を含む:
I.可撓性被膜を形成する水性組成物
(I-1)無機材料、有機材料および水を含む可撓性被膜を形成する水性組成物であって、
上記無機材料が水酸化カルシウムを含有する非水硬性の無機組成物、上記有機材料が接着性樹脂であり、
さらにシランカップリング剤を含有することを特徴とする水性組成物。
(I-2)上記シランカップリング剤が、反応性官能基としてエポキシ基、メタクリロキシ基、アクロキシ基、およびアミノ基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有するものである、(I-1)に記載する水性組成物。
(I-3)上記水酸化カルシウムを含有する非水硬性の無機組成物が石灰またはドロマイトである、(I-1)または(I-2)記載の水性組成物。
(I-4)上記接着性樹脂が官能基として、エステル基、ケトン基、カルボキシル基および水酸基からなる群から選択される少なくとも1種を含有する樹脂である、(I-1)乃至(I-3)のいずれかに記載の水性組成物。
【0013】
(I-5)上記接着性樹脂がアクリル系またはポリビニルアルコール系の熱可塑性樹脂である、(I-1)乃至(I-4)のいずれかに記載の水性組成物。
(I-6)上記熱可塑性樹脂が官能基として水酸基を有する樹脂である(I-5)に記載する水性組成物。
(I-7)さらにキレート化合物を含有することを特徴とする、(I-1)乃至(I-6)のいずれかに記載する水性組成物。
(I-8)キレート化合物が、分子量1000以下の有機系キレート化合物または無機系キレート化合物である、(I-7)に記載する水性組成物。
(I-9)有機系キレート化合物が、カルボン酸系キレート化合物、ホスホン酸系キレート化合物、燐酸系キレート化合物、スルホン酸系キレート化合物および還元性有機酸系キレート化合物からなる群から選択される少なくとも1種である、(I-8)に記載する水性組成物。(I-10)キレート化合物が、分子量600以下のキレート化合物である(I-7)乃至(I-9)のいずれかに記載する水性組成物。
(I-11)さらにアミノ酸またはその重合物を含有することを特徴とする、(I-1)乃至(I-10)のいずれかに記載する水性組成物。(I-12)さらに白色顔料を含むことを特徴とする(I-1)乃至(I-11)のいずれかに記載する水性組成物。
(I-13)可撓性の被膜を形成する水性組成物が、塗料、塗材、コーティング剤、シーラー、またはプライマーである(I-1)乃至(I-12)のいずれかに記載する水性組成物。
(I-14)フローコーターによる塗装またはコーティングに用いられる水性組成物である、(I-1)乃至(I-13)のいずれかに記載する水性組成物。
II.可撓性の被膜を形成する水性組成物の製造方法
(II-1)水酸化カルシウムを含有する非水硬性の無機組成物、接着性樹脂、およびシランカップリング剤を水とともに混合して液状またはペースト状に調製する工程を有する、可撓性被膜を形成する水性組成物の製造方法。
(II-2)上記シランカップリング剤が、反応性官能基としてエポキシ基、メタクリロキシ基、アクロキシ基、およびアミノ基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有するものである、(II-1)に記載する製造方法。
(II-3)上記水酸化カルシウムを含有する非水硬性の無機組成物が石灰またはドロマイトである、(II-1)または(II-2)記載の製造方法。
(II-4)上記接着性樹脂が官能基として、エステル基、ケトン基、カルボキシル基および水酸基からなる群から選択される少なくとも1種を含有する樹脂である、(II-1)乃至(II-3)のいずれかに記載の製造方法。
【0014】
(II-5)上記接着性樹脂がアクリル系またはポリビニルアルコール系の熱可塑性樹脂である、(II-1)乃至(II-4)のいずれかに記載の製造方法。
(II-6)上記熱可塑性樹脂が官能基として水酸基を有する樹脂である(II-5)に記載する製造方法。
(II-7)さらにキレート化合物を配合し水とともに混合することを特徴とする、(II-1)乃至(II-6)のいずれかに記載する製造方法。
(II-8)キレート化合物が、分子量1000以下の有機系キレート化合物または無機系キレート化合物である、(II-7)に記載する製造方法。
(II-9)有機系キレート化合物が、カルボン酸系キレート化合物、ホスホン酸系キレート化合物、燐酸系キレート化合物、スルホン酸系キレート化合物および還元性有機酸系キレート化合物からなる群から選択される少なくとも1種である、(II-8)に記載する製造方法。(II-10)キレート化合物が、分子量600以下のキレート化合物である(II-7)乃至(II-9)のいずれかに記載する製造方法。
(II-11)さらにアミノ酸またはその重合物を配合し水とともに混合することを特徴とする、(II-1)乃至(II-10)のいずれかに記載する製造方法。(II-12)さらに白色顔料を配合し水とともに混合することを特徴とする(II-1)乃至(II-11)のいずれかに記載する製造方法。
【0015】
III.シートまたはボード、およびこれらの製造方法
(III-1)シート状またはボード状の基材表面に、(I-1)乃至(I-14)のいずれかに記載する水性組成物を塗布して調製されるシートまたはボード。
(III-2)上記シートまたはボードの水性組成物による塗布面が、さらに防汚処理されてなることを特徴とする、(III-1)記載のシートまたはボード。
(III-3)上記シートが、壁紙、障子紙、襖紙、パーティション用クロス、照明カバー、カーテン、椅子張地、カーシートカバー、靴内貼り地、インソール、衛生用品およびエアコンや空気清浄機のフィルターからなる群から選択されるいずれかである、(III-1)または(III-2)に記載のシートまたはボード。
(III-4)シート状またはボード状の基材表面に、(1) (I-1)乃至(I-14)のいずれかに記載する水性組成物を塗布する工程、(2) 基材表面上の水性組成物塗布面を乾燥固化する工程を有する(III-1)乃至(III-3)のいずれかに記載するシートまたはボードの製造方法。
(III-5)上記乾燥固化工程を、室温での自然乾燥、または室温以上の温度で加熱しながら行うことを特徴とする(III-4)に記載する製造方法。
(III-6)更に 、(3) 乾燥固化した水性組成物塗布面を防汚処理する工程を有する、(III-2)または(III-3)に記載するシートまたはボードの製造方法。
【0016】
IV.水酸化カルシウムを含む水性組成物から形成された被膜の可撓性、延伸性、耐水性または耐摩耗性の向上方法
(IV-1)水、水酸化カルシウムを含有する非水硬性の無機組成物、および接着性樹脂に加えてシランカップリング剤を含有する水性組成物を用いて被膜を形成することを特徴とする、被膜の可撓性、延伸性、耐水性または耐摩耗性を向上させる方法。なお、ここで「向上」とは、シランカップリング剤を配合せず、水、水酸化カルシウムを含有する無機組成物、および接着性樹脂を含有する水性組成物を用いて形成した被膜を基準とし、当該基準被膜と比べて被膜の可撓性、耐水性または耐摩耗性が向上していることを意味する。
(IV-2)上記シランカップリング剤が、反応性官能基としてエポキシ基、メタクリロキシ基、アクリロキシおよびアミノ基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有するものである、(IV-1)に記載する方法。
(IV-3)上記水酸化カルシウムを含有する非水硬性の無機組成物が石灰またはドロマイトである、(IV-1)または(IV-2)記載の方法。
(IV-4)上記接着性樹脂が官能基として、エステル基、ケトン基、カルボキシル基および水酸基からなる群から選択される少なくとも1種を含有する樹脂である、(IV-1)乃至(IV-3)のいずれかに記載の方法。
【0017】
(IV-5)上記接着性樹脂がアクリル系またはポリビニルアルコール系の熱可塑性樹脂である、(IV-1)乃至(IV-4)のいずれかに記載の方法。
(IV-6)上記熱可塑性樹脂が官能基として水酸基を有する樹脂である(IV-5)に記載する方法。
(IV-7)上記水性組成物がさらにキレート化合物を含有するものである(IV-1)乃至(IV-6)のいずれかに記載する方法。
(IV-8)キレート化合物が、分子量1000以下の有機系キレート化合物または無機系キレート化合物である、(IV-7)に記載する方法。
(IV-9)有機系キレート化合物が、カルボン酸系キレート化合物、ホスホン酸系キレート化合物、燐酸系キレート化合物、スルホン酸系キレート化合物および還元性有機酸系キレート化合物からなる群から選択される少なくとも1種である、(IV-8)に記載する方法。(IV-10)キレート化合物が、分子量600以下のキレート化合物である(IV-7)乃至(IV-9)のいずれかに記載する方法。
(IV-11)上記皮膜形成組成物がさらに白色顔料を含むものである(IV-1)乃至(IV-10)のいずれかに記載する方法。
【0018】
V.シランカップリング剤の使用
(V-1)水、水酸化カルシウムを含有する非水硬性の無機組成物、および接着性樹脂を含有する水性組成物から形成される被膜の可撓性、延伸性、耐水性、および耐摩耗性からなる群から選択される少なくとも1つの特性を向上させるための、シランカップリング剤の使用。
(V-2)上記シランカップリング剤が、反応性官能基としてエポキシ基、メタクリロキシ基、アクリロキシおよびアミノ基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有するものである、(V-1)に記載する使用。
(V-3)上記水酸化カルシウムを含有する非水硬性の無機組成物が石灰またはドロマイトである、(V-1)または(V-2)記載の使用。
(V-4)上記接着性樹脂が官能基として、エステル基、ケトン基、カルボキシル基および水酸基からなる群から選択される少なくとも1種を含有する樹脂である、(V-1)乃至(V-3)のいずれかに記載する使用。
【0019】
(V-5)上記接着性樹脂がアクリル系またはポリビニルアルコール系の熱可塑性樹脂である、(V-1)乃至(V-4)のいずれかに記載する使用。
(V-6)上記熱可塑性樹脂が官能基として水酸基を有する樹脂である(V-5)に記載する使用。
(V-7)上記皮膜形成組成物がさらにキレート化合物を含有するものである(V-1)乃至(V-6)のいずれかに記載する使用。
(V-8)キレート化合物が、分子量1000以下の有機系キレート化合物または無機系キレート化合物である、(V-7)に記載する使用。
(V-9)有機系キレート化合物が、カルボン酸系キレート化合物、ホスホン酸系キレート化合物、燐酸系キレート化合物、スルホン酸系キレート化合物および還元性有機酸系キレート化合物からなる群から選択される少なくとも1種である、(V-8)に記載する使用。(V-10)キレート化合物が、分子量600以下のキレート化合物である(V-7)乃至(V-9)のいずれかに記載する使用。
(V-11)上記水性組成物がさらに白色顔料を含むものである(V-1)乃至(VI-10)のいずれかに記載する使用。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、水、水酸化カルシウムを含有する非水硬化性の無機組成物、および接着性樹脂を含有する水性組成物に、シランカップリング剤を配合することによって、乾燥固化して形成された被膜に可撓性、延伸性、耐水性および耐摩耗性からなる群から選択される少なくとも1つの被膜特性を向上することができる。
【0021】
これらのことから、本発明の効果として具体的には下記のことを挙げることができる。
(1)被膜の可撓性および延伸性が向上することにより、下地基材の曲げや変形に追随することができる。すなわち、本発明の水性組成物によれば、下地基材が曲がったり変形してもそれに追随し、亀裂(ひび割れ)や剥がれを生じ難い被膜を形成することができる。また、本発明の水性組成物を用いて作成したシートは、石灰やドロマイトの機能(抗菌性、防かび性、抗ウイルス性、消臭性、調湿性など)とともに可撓性や延伸性が要求される壁紙、障子紙、襖紙、パーティション用クロス、カーテン、ロールスクリーン、椅子や靴内等の貼地、マスクや医療用衣服などの衛生用品等の各種のシートとして使用することができる。
【0022】
(2)被膜の表面強度が向上するとともに耐摩耗性も向上することにより、被膜表面を複数回擦っても表面が摩耗しにくく、艶も生じにくい。
(3)被膜の耐水性が向上することにより、被膜が水に濡れても、乾燥時の上記被膜特性(可撓性、延伸性、被膜強度および耐摩耗性)がほぼ維持されている。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】(A)実施例4の水性組成物を用いて調製したシート(実施例シート1)の表面の被膜構造を走査型電子顕微鏡で観察した結果の画像を示す。左から、倍率500倍、2000倍、および5000倍の画像を示す。(B)比較例4の水性組成物を用いて調製したシート(比較例シート1)の表面の被膜構造を走査型電子顕微鏡(倍率2000倍)で観察した結果の画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
I.可撓性の被膜を形成する機能を有する水性組成物
本発明が対象とする水性組成物は、可撓性の被膜を形成する機能を有するものである(可撓性被膜形成性組成物)。当該水性組成物は、水酸化カルシウムを含有する非水硬化性の無機組成物、接着性樹脂、および水を含む水性組成物であって、これにさらにシランカップリング剤を含有することを特徴とするものである。
【0025】
ここで「可撓性被膜形成性組成物」とは、対象物に塗布、塗工または吹き付けした場合に当該対象物に可撓性を備えた被膜を形成することのできるものである。但し、本発明が対象とする水性組成物は、潜在的に被膜形成能を備えていればよく、その使用方法や使用形態はこれに限定されない。かかる可撓性被膜形成性組成物(水性組成物)は、具体的には塗料、塗材、シーラー、プライマーなどを制限なく挙げることができる。好ましくは仕上げ材または化粧材として使用される塗料や塗材である。なかでも好適には、建築物の天井や内外壁面;クロスやボード・パネルなどの建築部材;建具や家具またはそれら部材;トンネル壁面、ガードレール材、遮音壁材、防護壁材、橋梁構造物などの土木用部材;などの仕上げに使用される塗料や塗材を挙げることができる。また、これ以外に、マスク等の衛生用品、エアコンや空気清浄機のフィルター、カーテン、椅子張地、シートカバー、パーティションクロス、靴内貼り地、インソールなどの各種シート状の繊維や不織布に塗布されるコーティング剤を挙げることができる。
【0026】
(a)水酸化カルシウムを含む非水硬性の無機組成物
本発明が対象とする「水酸化カルシウムを含む非水硬性の無機組成物」は、気硬性で非水硬性の無機組成物であり、具体的には水酸化カルシウムを主成分とする石灰、特に消石灰、並びにドロマイトを挙げることができる。「非水硬化性」とは、水存在下で凝結固化しないことを意味し、この意味で、「水酸化カルシウムを含む非水硬性の無機組成物」はセメントや石膏などの水存在下で凝結固化する性質を有する水硬性無機組成物とは区別される。
【0027】
なお、石灰としては、工業用石灰、塩焼き石灰、貝灰(貝焼灰)、建築・土木部材などの廃材から再生された再生石灰を使用することもできる。これらの石灰は1種単独で使用してもよいし、また2種以上を任意に組み合わせて使用することもできる。好ましくは、気硬性材料でしかも漆喰やドロマイトプラスターの主原料となる消石灰である。なお、酸化カルシウムを主成分とする生石灰も、酸化カルシウムが水中で水酸化カルシウムになることから、本発明でいう「水酸化カルシウムを含む非水硬性の無機組成物」に該当する。なお、本発明が対象とする「水酸化カルシウムを含む非水硬性の無機組成物」は、非水硬性でしかも本発明の効果や機能を妨げることがない限り、他成分として、炭酸カルシウム(カルサイト,アラゴナイト,バテライト,塩基性炭酸カルシウム及び非晶質炭酸カルシウムなどの沈降炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム)などを含有していてもよい。好ましくは、消石灰を主成分として水で練り上げた漆喰、白雲石を焼成し水を作用して生成する水酸化マグネシウムと水酸化カルシウム(消石灰)を主成分として水で練り上げたドロマイトプラスターを含むものが含まれる。
【0028】
なお、水性組成物に配合する水酸化カルシウムの割合は、特に制限されないが、水性組成物の固形分100重量%あたりの配合割合として通常3〜95重量%の範囲から適宜選択することができる。水酸化カルシウムの優れた機能(防かび性、抗菌性、抗ウイルス性、消臭性、調湿性)を活かしたコーティング組成物を調製するためには、ある程度の量が必要であり、この場合の好適な下限値としては5重量%、好ましくは10重量%、より好ましくは15重量%を挙げることができる。また上限値としては80重量%、好ましくは70重量%、より好ましくは65重量%を挙げることができる。より具体的な配合割合として、制限されないが、15〜75重量%、好ましくは20〜70重量%、より好ましくは25〜70重量%、さらに好ましくは30〜65重量%、さらにまた好ましくは30〜60重量%を例示することができる。
【0029】
(b)接着性樹脂
また本発明で使用する接着性樹脂は、好ましくは接着性を有する熱可塑性樹脂である。当該樹脂はそれ単独または後述するシランカップリング剤と協働して上記無機組成物同士の初期接着を高めたり、また水性組成物の施工面に対する付着力を高める性質を有し、且つシランカップリング剤と反応性を有するものである。
【0030】
好ましくは、官能基としてエステル基、ケトン基、カルボキシル基および水酸基からなる群から選択される少なくとも1種を含有する接着性樹脂であり、かかる樹脂として好ましくはアクリル系またはポリビニルアルコール系の熱可塑性樹脂を挙げることができる。
【0031】
ここでアクリル系樹脂としては水溶性又は水分散性樹脂が好ましく、具体的にはスチレン−アクリルエステル,スチレン−アクリロニトリル及びスチレン−アクリルアミド−アクリル酸エチルなどのスチレン/アクリル共重合体;酢酸ビニル−アクリル酸エステルや酢酸ビニル−メタクリル酸エステル等の酢酸ビニル/アクリル共重合体;ブタジエン−アクリロニトリル等のブタジエン/アクリル共重合体;塩化ビニル/アクリル共重合体、塩化ビニリデン/アクリル共重合体、ベオバ/アクリル共重合体、アクリル共重合体、アクリル変性・酢酸ビニル/塩化ビニル共重合体樹脂、フッ素変性アクリル樹脂、シリコン変性アクリル樹脂等のアクリル系の樹脂である。アクリル系の樹脂としてより好適には、特許第3094227号公報に記載される(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド類、または(メタ)アクリロニトリルの少なくとも1つをモノマー成分として構成される重合体(ホモポリマー、コポリマー)を例示することができる(特許第3094227号公報、段落[0015]〜[0017]参照。当該特許公報の記載は本発明の明細書の記載として援用される)。さらに、アクリル系樹脂は、後述する実験例に示すように、官能基として水酸基を少なくとも1部に有するものを好適に使用することができる。かかる水酸基を有するアクリル系樹脂としては、「アクリル系ラテックス『ポリトロンZ871』」(旭化成ケミカルズ(株))、「トークリルX-4403」、「トークリルS-743」および「トークリルW-162」(以上、トウヨウ近畿化学工業(株))などを制限なく例示することができる。
【0032】
またポリビニルアルコール系樹脂としては、ポリビニルアルコールやポリビニルアセタールを挙げることができるが、好ましくは水酸基を有するポリビニルアルコールである。
【0033】
水性組成物に配合する接着性樹脂の割合は、本発明の効果を発揮するものであれば特に制限されないが、例えば水性組成物の固形分100重量%あたりに含まれる割合として、固形換算(総量)で通常1〜50重量%の範囲から適宜選択することができる。好ましくは1〜40重量%、より好ましくは5〜30重量%である。
【0034】
(c)シランカップリング剤
本発明で使用されるシランカップリング剤は、一方の末端にアルコキシ基等の加水分解性基を有するシリル基(アルコキシシリル基)を有し、他方末端にエポキシ基、メタクリロキシ基、アクロキシ基、またはアミノ基を有するものである。他方末端にエポキシ基を有するシランカップリング剤としては、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、および3-グリシドキシプロピルトリエトキシシランなどを例示することができる。また他方末端にメタクリロキシ基を有するシランカップリング剤としては、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシランを、また他方末端にアクリロキシ基を有するシランカップリング剤としては、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシランをそれぞれ例示することができる。
【0035】
さらに、他方末端にアミノ基を有するシランカップリング剤としては、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジアルコキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルトリアルコキシシラン、3-アミノプロピルトリアルコキシラン、3-トリアルコキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリアルコキシシラン、およびN-(ビニルベンゼン)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリアルコキシシラン(またはこの塩酸塩)などを例示することができる。なお、ここでいう「アルコキシ」には、炭素数が1〜3、好ましくは炭素数1〜2のメトキシ基やエトキシ基が含まれる。
【0036】
これら各種のシランカップリング剤は、1種単独で使用してもよいし、また2種以上を任意に組み合わせて使用することもできる。
【0037】
本発明の水性組成物に配合されるシランカップリング剤の割合は、本発明の効果を奏する限りにおいて特に制限されず、水性組成物中に含まれる水酸化カルシウムを含有する無機組成物の種類やその配合量、並びに接着性樹脂の種類やその配合量などに応じて、水性組成物100重量%あたり通常0.05〜2重量%の範囲から適宜選択することができる。好ましくは0.1〜1重量%、より好ましくは0.1〜0.8重量%、さらに好ましくは0.1〜0.5重量%の割合を例示することができる。
【0038】
(d)水
本発明の水性組成物に配合される水の割合は特に制限されない。好ましくは水性組成物100重量%あたり水が10〜70重量%の割合で含まれるような範囲から適宜選択することができる。この場合、水性組成物は固形分が30〜90重量%の割合になるように調製される。より具体的には、例えば水性組成物をスプレー、ローラー若しくは刷毛塗り、または工業的塗装機(フローコーター、ロールコーター、バキュームコーターなど)に適した液状形態(所謂、塗料形態)に調製する場合には、水が通常30〜60重量%、好ましくは35〜50重量%の割合で含まれるように調製することができる。また水性組成物を鏝塗りに適したペースト状形態(所謂、塗材形態)に調製する場合には、制限されないが、水が通常10〜40重量%、好ましくは20〜35重量%の割合で含まれるように調製することができる。
【0039】
(e)キレート化合物
本発明の水性組成物には、上記成分に加えて、キレート化合物を配合することができる。
【0040】
ここで使用するキレート化合物は、キレート作用に基づいてカルシウムイオンなどの金属イオンを捕捉ないしは封鎖するイオン封鎖能を有する化合物(イオン封鎖剤)であり、かかる作用を有するものであれば、特にその種類を制限するものではない。通常分子量が2000以下、好ましくは1000以下、より好ましくは700以下、さらに好ましくは600以下、さらにまた好ましくは500以下、特に好ましくは50〜450程度の分子量を有する低分子量のキレート化合物である。
【0041】
かかるキレート化合物として、カルボン酸系キレート化合物、ホスホン酸系キレート化合物、燐酸系キレート化合物、スルホン酸系キレート化合物、および還元性有機酸系キレート化合物などの有機系キレート化合物;ケイ酸塩、リン酸塩及び硫酸塩といった無機系キレート化合物を挙げることができる。これらのキレート化合物は、いずれも当業者で周知である。
【0042】
制限はされないが、カルボン酸系キレート化合物としては、シュウ酸、プロピオン酸、スピクルスポール酸(spiculisporic acid)、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、フタル酸、マロン酸、イタコン酸、アクリル酸、メタクリル酸、アミノ酢酸およびこれらの異性体等のカルボン酸またはその塩;クエン酸、イソクエン酸、酒石酸、グルコン酸、ヘプトグルコン酸、ヒドロキシマロン酸、乳酸、リンゴ酸、グリコール酸、グルクロン酸、β-D-グルコピラヌロン酸、サリチル酸、マンデル酸、グルコヘプタン酸、アラボン酸、およびこれらの異性体等のヒドロキシカルボン酸またはその塩;ニトリル三酢酸(NTA)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレンジアミンコハク酸、ジエチレントリアミノ五酢酸(DTPA)、トリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)、L-グルタミン酸二酢酸(GLDA)、L-アスパラギン酸二酢酸(ASDA)、1,3-プロパンジアミン四酢酸(PDTA)、ジメルカプトールコハク酸(DMSA)、及びメチルグリシン二酢酸(MGDA)などのアミノカルボン酸またはその塩;ジヒドロキシエチルグリシン(DEG)、トリエタノールアミン(TEA)、N-(2-ヒドロキシエチル)イミノ二酢酸(HEIDA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、ジヒドロキシエチルエチレンジアミン二酢酸(DHEDDA)、及び1,3-ジアミノ-2-ヒドロキシプロパン四酢酸(DPTA-OH)等のヒドロキシアミノカルボン酸またはその塩;カルボキシメチルタルトロン酸(CMT)、及びカルボキシメチルオキシ琥珀酸(CMOS)等のエーテルカルボン酸またはその塩;などを挙げることができる。なお、水中で遊離して上記のカルボン酸となる化合物、例えば水中で遊離してグルコン酸となるグルコノデルタラクトンまたはその塩も本発明でいうカルボン酸系キレート化合物に含まれる。
【0043】
ホスホン酸系キレート化合物としては、フィチン酸、アミノメチレンホスホン酸(NMP)、アミノトリメチルホスホン酸(NTMP)、メチレンホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸等のヒドロキシエタンジホスホン酸(HEDP)、ホスホノブタントリカルボン酸(PBTC)等のホスホノカルボン酸誘導体、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)(EDTMP)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、ヘキサメチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)(NTMP)、並びにこれらの塩を挙げることができる。
【0044】
スルホン酸系キレート化合物としては、ジメルカプトプロパノールスルホン酸(DMPS)またはこの塩を挙げることができる。
【0045】
還元性有機酸系キレート化合物としては、クエン酸、イソクエン酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、エリソルビン酸などの還元性(抗酸化作用)を有する有機酸ならびにこれらの塩を挙げることができる。
【0046】
無機系キレート化合物としては、メタケイ酸ナトリウム、セスキケイ酸ナトリウムおよびオルソケイ酸ナトリウム等のケイ酸塩;オルソ燐酸ナトリウム、リンピロ燐酸ナトリウム、トリポリ燐酸ナトリウム、テトラ燐酸ナトリウム、ヘキサメタ燐酸ナトリウム等の燐酸塩;硫酸ナトリウムおよびスルファミン酸等の硫酸塩を挙げることができる。好ましくは燐酸塩である。ケイ酸塩は、他の無機系キレート化合物または有機系キレート化合物と組み合わせて使用することが好ましい。
【0047】
上記に掲げる各種化合物の塩としては、ナトリウム塩やカリウム塩などのアルカリ金属塩;マグネシウム塩、カルシウム塩、またはストロンチウム塩などのアルカリ土類金属塩;アンモニウム塩;プロトン化されたアミンまたはプロトン化されたアルカノールアミンの塩;亜鉛や鉄などの金属塩を例示することができる。好ましくはナトリウム塩である。なお、これらの各種キレート化合物は水和物であってもよい。
【0048】
これらのキレート化合物は1種単独で使用することもできるが、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
本発明の水性組成物に配合されるキレート化合物の割合は、本発明の効果を奏する限りにおいて特に制限されず、そのカルシウムイオン封鎖力(捕捉力)に応じて、また水性組成物中に含まれる無機組成物やシランカップリング剤の種類や量などに応じて、水性組成物100重量%あたり通常0.01〜5重量%の範囲から適宜選択することができる。好ましくは0.02〜3重量%、より好ましくは0.05〜2重量%、さらに好ましくは0.05〜1重量%、特に好ましくは0.05〜0.5重量%の割合を例示することができる。キレート化合物の配合により、石灰やドロマイト中の水酸化カルシウムがシランカップリング剤のシリル基と反応してポゾラン反応を生起することを抑制することができ、その結果、保存安定性に優れた水性組成物を調製することができる。
【0049】
(f)他の成分
前述するように本発明の水性組成物は、水酸化カルシウムを含有する非水硬性の無機組成物、接着性樹脂、シランカップリング剤および水を基本成分とし、さらに必要に応じてキレート化合物を含有するものであるが、本発明の効果を奏することを限度として、他の成分を含有することができる。かかる成分としては好適には、顔料、特に白色顔料、増粘剤、およびアミノ酸またはアミノ酸重合物などを挙げることができる。
【0050】
(f-1)顔料
本発明に用いられる白色顔料としては、有機顔料及び無機顔料の別を問わないが、好ましくは無機の白色顔料である。具体的には酸化チタン、亜鉛華、硫化亜鉛、リトポン、鉛白、アンチモン白及びジルコニアよりなる群から選択される少なくとも1種の無機白色顔料を挙げることができる。これらは1種単独で使用しても、2種以上を組み合わせて用いることもできる。好ましくは酸化チタン、または酸化チタンと他の白色顔料との組み合わせである。酸化チタンは、白色顔料としての使用態様を備えるものであれば、ルチル形、アナタース形及びブルッカイト形のいずれも使用することができる。好ましくはルチル形である。なお、酸化チタンは分散性や耐久性などの性能の向上を目的としてAl23・nH2OやSiO2・nH2O等の含水金属酸化物などで表面処理されていてもよい。
【0051】
白色顔料の配合割合は、本発明の効果を妨げるものでなければよく、特に制限されない。例えば、可撓性皮膜形成組成物の固形分100重量%あたりの配合割合として、固形換算で例えば0.05〜40重量%、好ましくは0.25〜30重量%、より好ましくは0.5〜25重量%を例示することができる。なお、白色顔料の配合割合を多くするほど、塗り継ぎむらが抑制でき、また可撓性皮膜形成組成物を着色した場合の発色や着色安定性がよく、さらに被膜の色むら、色褪せ(色飛び)および色差が抑制できるという効果が高まる傾向にあるが、可撓性皮膜形成組成物の分散性および保存安定性を考慮して、通常は上記範囲から適宜調整することができる。
【0052】
また顔料として着色顔料(有色顔料)を配合することができる。なお、着色顔料(有色顔料)は上記白色顔料と組み合わせて配合することにより、良好かつ均一に発色し、色むら(塗り継ぎむらを含む)、色飛びおよび色差が有意に抑制された被膜を形成することができる。
【0053】
着色顔料としては、白以外の有色顔料であれば、特に制限されない。また、有機顔料及び無機顔料の別を問わない。具体的にはカーボンブラックや酸化鉄(鉄黒)等の黒色顔料:カドミウムレッド,べんがら(赤色酸化鉄),モリブデンレッド、鉛丹等の赤色顔料:黄鉛(クロムイエロー),チタンイエロー,カドミウムイエロー,黄色酸化鉄(黄鉄),タン,アンチモンイエロー,バナジウムスズイエロー,バナジウムジルコニウムイエローの黄色顔料:酸化クロム,ビリジアン,チタンコバルトグリーン,コバルトグリーン,コバルトクロムグリーン,ビクトリアグリーン、フタロシアニングリーン等の緑色顔料:または群青,紺青,コバルトブルー,セルリアンブルー,コバルトシリカブルー,コバルト亜鉛シリカブルー等の青色顔料などを例示することができる。好ましくは、耐アルカリ性の着色顔料であり、より好ましくは、黒色酸化鉄(鉄黒)、べんがら(赤色酸化鉄)、または黄色酸化鉄(黄鉄)などの酸化鉄や群青等の酸化金属、またはカーボンブラックを主成分とする着色顔料である。なお、これらは1種単独で使用されても、また2種以上を任意に組み合わせてもよく、所望の色になるように組み合わせや配合割合を適宜調整することができる。また色土を使用することもできる。 着色顔料の配合割合は、使用する着色顔料の種類や希望する着色の色によって適宜調整することができ、特に制限はされない。
【0054】
(f-2)増粘剤
ここで増粘剤は、水との相溶性がよく水溶性または水分散性を有し、さらに水性組成物の成分と相溶性のあるものが好適に使用される。具体的には親水性高分子化合物を例示することができる。
【0055】
親水性高分子化合物としては、第4級アンモニウム塩基やアミノ基等のカチオン性の親水性基を有するカチオン性の親水性高分子化合物を例示することができる。かかる親水性高分子化合物として、具体的にはアミノアルキル(メタ)アクリレート4級塩(共)重合体、ポリアミノメチルアクリルアミドの塩若しくは第4級アンモニウム塩、アクリルアミド/アミノメチルアクリルアミド共重合体の塩もしくは第4級アンモニウム塩、ポリアミノメチルアクリルアミドの塩若しくは4級塩、キトサンの塩酸塩,硫酸塩若しくは酢酸塩、カチオン化デンプン、ポリエチレンイミン、ビニルピロリドン/ジメチルアミノエチルメタクリレート4級化物の共重合物、ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド化グアガム、ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド化デンプンなどが例示される。
【0056】
また親水性高分子化合物として、水酸基、エーテル基、アミド基等の非イオン性の親水性基を有するノニオン性の親水性高分子化合物を例示することができる。かかる親水性高分子化合物として、具体的にはポリビニルアルコール、アルキルフェノールアルキレンオキサイド付加物のホルマリン縮合物、ポリエチレンポリアミンプロピレンオキサイド・エチレンオキサイド付加物、アルキルアミンのアルキレンオキサイド付加物、ポリアルキレングリコール共重合物、ポリグリコールエステル、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピロリドン/酢酸ビニル共重合物;グアガム、ローカストビーンガム、トラガカントガム、カラヤガム、クリスタルガム、プルラン、キサンタンガムの天然のガム剤;メチルセルロース,エチルセルロース,ヒドロキシメチルセルロース,ヒドロキシエチルセルロース,ヒドロキシプロピルセルロース,ヒドロキシプロピルメチルセルロース,ヒドロキシエチルメチルセルロースなどのセルロース誘導体が例示される。
【0057】
好ましくは、水性組成物中に存在し得る例えば水酸化カルシウムなどの電解性物質の挙動に影響を与えず、その存在に関わらず使用できる点から、ノニオン性の親水性高分子化合物である。中でも好ましくは天然のガム質、およびセルロース誘導体である。
【0058】
また、増粘剤として水酸基を有する親水性高分子化合物を用いることもできる。ここで水酸基を有する親水性高分子化合物として、具体的には燐酸デンプン、カチオン化デンプン、デンプン/アクリル酸/アクリル酸ナトリウム、ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド化デンプンなどのデンプン類;メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース,ヒドロキシエチルセルロース,ヒドロキシプロピルセルロース,ヒドロキシプロピルメチルセルロース,ヒドロキシエチルメチルセルロースなどのセルロース誘導体;キサンタンガム、ジェランガム、アラビアガム、カラギーナン、アルギン酸またはその塩、キトサンまたはその塩、ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド化グアガム、グアガム、ローカストビーンガム、タラガム、カードラン、プルラン、キチン、タマリンドシードガム、デキストラン、デキストリンなどの多糖類;ポリビニルアルコール;グリセリンやポリエチレングリコールなどの多価アルコールなどを例示することができる。
【0059】
好ましくは、水酸基を有するノニオン性の親水性高分子化合物である。かかるものとして、具体的には、ポリビニルアルコール、アルキルフェノールアルキレンオキサイド付加物のホルマリン縮合物、ポリエチレンポリアミンプロピレンオキサイド・エチレンオキサイド付加物、アルキルアミンのアルキレンオキサイド付加物、ポリアルキレングリコール共重合物、ポリグリコールエステル、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピロリドン/酢酸ビニル共重合物;グアガム、ローカストビーンガム、トラガカントガム、カラヤガム、クリスタルガム、プルラン、キサンタンガム等のガム剤;メチルセルロース,エチルセルロース,ヒドロキシメチルセルロース,ヒドロキシエチルセルロース,ヒドロキシプロピルセルロース,ヒドロキシプロピルメチルセルロース,ヒドロキシエチルメチルセルロースなどのセルロース誘導体が例示される。好ましくは、メチルセルロース,エチルセルロース,ヒドロキシメチルセルロース,ヒドロキシエチルセルロース,ヒドロキシプロピルセルロース,ヒドロキシプロピルメチルセルロース,ヒドロキシエチルメチルセルロースなどのセルロース誘導体である。
【0060】
また親水性化合物として、糖類を配合することもできる。例えば、グルコース、フラクトース、ガラクトース、マンノース、キシロース、アラビノース、リボース等の単糖類:マルトース、シュークロース、ラクトース、トレハロース等の二糖類:マルトトリオース、ラフィノース等の三糖類:オリゴ糖:及びソルビトールなどの糖アルコース等の糖類を挙げることができる。
【0061】
水性組成物に配合する上記各種の増粘剤の割合は、特に制限されず、水性組成物の固形分100重量%あたりに含まれる割合として固形換算(総量)で通常0.01〜5重量%の範囲から適宜選択することができる。好ましくは0.03〜3重量%、より好ましくは0.05〜2重量%、さらに好ましくは0.1〜1重量%である。
【0062】
(f-3)アミノ酸またはアミノ酸重合物 本発明が対象とするアミノ酸には、例えばグリシン(HI:-0.4)、スレオニン(HI:-0.7)、セリン(HI:-0.8)、トリプトファン(HI:-0.9)、チロシン(HI:-1.3)、プロリン(HI:-1.6)、グルタミン酸(HI:-3.5)、アスパラギン酸(HI:-3.5)、グルタミン(HI:-3.5)、アスパラギン(HI:-3.5)、ヒスチジン(HI:-3.2)、リジン(HI:-3.9)、およびアルギニン(HI:-4.5)、アラニン(HI:1.8)、メチオニン(HI:1.9)、システイン(HI:2.5)、フェニルアラニン(HI:2.8)、ロイシン(HI:3.8)、バリン(HI:4.2)およびイソロイシン(HI:4.5)などのタンパク質構成アミノ酸に限らず、それ以外のアミノ酸も含まれる。なお、ここでHIは、アミノ酸の極性を示す疎水性インデックス(Kyte and Doolittle, J. Mol. Biol., 157, 105-132 (1982))を意味する。具体的には、疎水性インデックスが0未満(即ち、負の値)であれば、極性を有するアミノ酸に分類することができ、0未満の疎水性インデックスの絶対値が大きくなるほど、極性の程度も大きくなる。一方、疎水性インデックスが0より大きい場合(即ち、正の値)であれば、疎水性のアミノ酸と規定することができ、疎水性インデックスの絶対値が大きくなるほど、疎水性の程度も大きくなる。
【0063】
これらのアミノ酸はフリーの状態でも塩の形態でも使用することができるが、アスパラギン酸、グルタミン酸、ヒスチジン、アルギニン、およびリジンなどの酸性または塩基性のアミノ酸は塩の形態で用いることが好ましい。かかる塩としては、アスパラギン酸およびグルタミン酸については、カリウムやナトリウム等のアルカリ金属との塩、マグネシウムやカルシウムなどのアルカリ土類金属との塩を挙げることができる。またヒスチジン、アルギニンおよびリジンについては、塩酸、硝酸、硫酸およびリン酸などの無機酸との塩;酒石酸、リンゴ酸、クエン酸、アスコルビン酸などの有機酸との塩を挙げることができる。
【0064】
本発明が対象とするアミノ酸重合物は、同一のアミノ酸からなる重合物であっても、2以上の異なるアミノ酸からなる重合物のいずれであってもよい。好ましくは上記アミノ酸からなる重合物であり、一例を挙げればポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、ポリリジン、ポリアルギニンなどの同一極性アミノ酸からなる重合物を挙げることができる。これらの重合物は、制限されないが、分子量が5万以下、好ましくは2万以下、より好ましくは1万以下、特に好ましくは5000以下、さらに好ましくは2000以下であるものが好ましい。これらの重合物も塩の態様で使用することができ、例えばポリアスパラギン酸やポリグルタミン酸は、カリウムやナトリウム等のアルカリ金属との塩、またはマグネシウムやカルシウムなどのアルカリ土類金属との塩の態様で、またポリリジンやポリアルギニンは上記の例えば塩酸などの無機酸との塩、またはクエン酸やアスコルビン酸などの有機酸との塩の態様で用いることができる。
【0065】
これらのアミノ酸、アミノ酸重合物またはそれらの塩(アミノ酸類)は1種単独で使用することもできるが、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
本発明の水性組成物に配合されるアミノ酸類の割合は、本発明の効果を奏する限りにおいて特に制限されず、水性組成物中に含まれる各成分の種類や配合量の種類に応じて、水性組成物100重量%あたり通常0.001〜10重量%の範囲から適宜選択することができる。好ましくは0.01重量%以上、より好ましくは0.05重量%以上である。上限は特に制限されないが、他成分とのバランスを考慮して10重量%を限度として、好ましくは8重量%以下、より好ましくは5重量%以下、さらに好ましくは3重量%以下の割合を例示することができる。
【0066】
(f-4)その他の添加剤
さらに本発明の水性組成物には、その他の任意成分として、本発明の効果を妨げない範囲で、体質顔料、骨材、油、光触媒、分散剤、湿潤剤、減水剤、流動化剤、消泡剤、pH調整剤、界面活性剤、防水剤等を配合することもできる。
【0067】
ここで体質顔料としては、タルク,カオリンクレー,水酸化アルミニウム,炭酸カルシウム(重質炭酸カルシウム、軽質(沈降性)炭酸カルシウム),ベントナイト,硫酸バリウム(沈降性硫酸バリウム、バライト粉)、ホワイトカーボン、シリカなどを例示することができる。
【0068】
骨材としては、例えば珪砂、寒水砂、パーライト,バーミキュライト,シラス球及び汚泥焼成骨材などの再生骨材等の無機質骨材(細骨材)の他、カオリン、ハロイサイト、モンモリロナイト、ベントナイト、ギブサイト、マイカ、セラミックサンド、ガラスビーズ、パーライト、酸性白土、陶石、ロウ石、長石、石灰石、石膏、ドロマイト、マグネサイト、滑石、トルマリン、珪藻土、鉄粉、フライアッシュなどの天然無機質材料;水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、天然カルシウム等の水不溶性金属水酸化物;トベルモナイトやゾノトライト等のケイ酸カルシウム系水和物;カルシウムアルミネート水和物、カルシウムスルホアルミネート水和物等の各種酸化物の水和物;アルミナ、シリカ、含水ケイ酸、マグネシア、酸化亜鉛、スピネル、合成炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、チタン酸カリウムなどの合成無機質などの粉末状、繊維状もしくは粒状の無機材料を挙げることができる。またかかる骨材とともに、または骨材に代えて、繊維や繊維粉を配合することもできる。かかる繊維としては、従来漆喰材料に使用されている天然繊維やポリエチレンやテトロンなどの化学繊維や小麦ファイバーなどを挙げることができる。天然繊維としては、はますさ、白毛すさ、南京すさ、さらしすさ、油すさ、および紙すさなどを挙げることができる。
【0069】
油としては、従来漆喰材料に使用されている油を広く使用することができ、例えば菜種油、亜麻仁油、サフラワー油、ヒマワリ油、アボガド油、月見草油、大豆油、トウモロコシ油、落花生油、綿実油、胡麻油、コメ油、ナタネ油、オリーブ油、ヒマシ油、エマ油、キリ油、ニガー種子油、カポック油、紅花油、むらさき種子油、サクラソウ種子油、ツバキ油等の各種の植物油を挙げることができる。
【0070】
光触媒としては光触媒活性を有する酸化物を例示することができる。かかる光触媒活性を有する酸化物としては、酸化チタン、酸化ルビジウム、酸化コバルト、酸化セシウム、酸化クロム、酸化ロジウム、酸化バナジウム、酸化亜鉛、酸化マンガン、酸化レニウム、酸化第二鉄、三酸化タングステン、酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化ビスマス、酸化ルテニウム、チタン酸ストロンチウム、酸化モリブデン、酸化ゲルマニウム、酸化鉛、酸化カドミウム、酸化銅、酸化ニオブ及び酸化タンタルなどの無機酸化物が例示できる。
【0071】
分散剤及び湿潤剤としては、いずれも通常塗料や塗材に配合して用いられるものの中から適宜選択することができ、例えばアルキルナフタレンスルホン酸ソーダのホルマリン縮合物、ポリアクリル酸共重合体、アクリル酸−マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、ポリオキシエチレンの脂肪酸エステルやアルキルフェノールエーテル、スルホコハク酸誘導体、ポリエチレンオキサイドとポリプロピレンオキサイドとのブロックポリマーなどを例示することができる。
【0072】
減水剤または流動化剤としては、リグニンスルホン酸系、ナフタレンスルホン酸系、メラミンスルホン酸系、ポリスチレンスルホン酸系、ポリカルボン酸系などの界面活性剤を例示することができる。
【0073】
消泡剤としては、通常塗料、塗材や建築用吹き付け材に配合して用いられるものの中から適宜選択することができる。例えば、オクチルアルコール、グリコール誘導体、シクロヘキサン、シリコン、プルロニック系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等の各種の抑泡剤及び破泡剤を挙げることができる。
【0074】
防水剤としては、特に制限されないが、シリコーンオイル、シリコーン樹脂、オルガノアルコキシシラン等を例示することができる。
【0075】
本発明の水性組成物は、基本的に上記の各成分を混合して塗材または塗料の常套方法、例えば調合用機器(ミキサー、シェーカー、ミル、ニーダーなど)等を用いて混合し、液状またはペースト状にすることで調製することができる。このとき、シランカップリング剤は予め水、好ましくは酸性に調整した水に溶解させた状態で用いることが好ましい。
【0076】
斯くして調製される本発明の水性組成物は流動性に優れており、ローラー塗装や刷毛塗りはもとより、スプレー(エアースプレー、エアレススプレー、低気圧霧化スプレーなど)を用いた塗装や、フローコーター、ロールコーター、バキュームコーターなどの工業用塗装機(自動塗装機)を用いた塗装に好適に用いることができる。また本発明の水性組成物は、被塗物(基材)に対する付着力が強く、しかも分散性がよいため付着強度が均一かつ安定してなる被膜(耐久性に優れた被膜)を形成することができる。さらに本発明の水性組成物によれば、可撓性と延伸性を備え下地追随性に優れ、下地の曲げや変形によっても亀裂(ひび割れ)や剥がれが生じ難い被膜を形成することができる。また本発明の水性組成物によれば、耐水性・防水性および耐摩耗性に優れた被膜を形成することができる。
【0077】
このため、本発明の水性組成物は、建築用および土木用の塗材または塗料として、また家具や建具等の化粧用塗材または塗料として広く用いることができる。具体的には例えば各種建築物の天井面や壁(内・外壁)面等の内装面及び外装面の塗装(塗工);建築物の天井や壁(内・外壁)の下地材や化粧材として用いられる各種の建築用部材(クロス、パネル、ボード)の塗装(塗工);またトンネル壁面、ガードレール、遮音壁及び防護壁などの道路構造物の表面、及び橋梁構造物の表面等の塗装(塗工);並びにトンネル壁、遮音壁、防護壁などの各種壁材や橋梁構造物の各種部材等の土木用部材(パネル、ボード、柱)の塗装(塗工)に使用することができる。また、後述するシートやボードの調製に使用することができる。
【0078】
II.シートまたはボード、およびこれらの製造方法
上記本発明の水性組成物によれば、前述するように可撓性および延伸性を備え、優れた下地追随性を発揮する被膜を形成することができるため、曲がったり変形しやすいシートやボードの製造に好適に用いることができる。ゆえに本発明は、上記水性組成物から形成される被膜をシート状またはボード状の基材(被塗物)表面に有するシートまたはボードを提供する。
【0079】
ボード(パネルを含む)状の基材は、その表面に上記本発明の水性組成物を塗布することができる板状物であればよく、この限りにおいて特に制限するものではない。例えば、建築用の内装(室内の壁や天井等)や外装に用いられるボード材料及びパネル材料を広く挙げることができる。具体的には、木質板(無垢材を含む)、合板、中密度繊維板、プラスチック板、セメントモルタル、石綿セメント珪酸カルシウムボード、中空セメント板、木質セメント板、パネルセメント板、ロックウール板、木毛セメント板、鋼板パネル、コンクリート板、PCパネル、ALCパネル、石綿スレート、石膏ボード、パーティクルボード、発泡セメントボード、木片セメント板、ケイ酸カルシウムボード、スラグセメントボード、ウッド・プラスチックコンビネーション、サイディングボード(金属系、窯業系を含む)、インシュレーションボード、火山性ガラス質複層板、ステンレス、鉄、銅またはアルミニウム等の金属製のパネルなどを例示することができる。
【0080】
ボードはその表面(印刷表面)があらかじめ塗装やコーティング処理などの下地処理、またはシートが貼付されるなど、前処理されていてもよい。またボードが木質材などのように可燃性材料からなるものである場合、あらかじめ難燃処理(準不燃処理、不燃処理または耐火処理)されていてもよい。
【0081】
またシート(クロスを含む)状の基材は、その表面に上記本発明の水性組成物を塗布することができるシート状物であればよく、この限りにおいて特に制限するものではない。ボードと同様、シート表面を下地処理剤(シーラー)等で処理した後、その上から塗布することもできる。シートとしては、例えば建築用の内装(室内の壁や天井等)に用いられるシート材料を広く挙げることができる。例えば、シート材料としては紙や各種繊維からなる不織布または織布等の繊維質シートを挙げることができる。具体的には、紙としては和紙、障子紙、襖紙、洋紙(上質紙、中質紙)、クラフト紙、薄葉紙、裏打紙、樹脂含浸紙等、ボール紙、厚紙、コート紙・アート紙、キャストコート紙、金属箔(例えば、アルミ箔や銅箔など)をラミネートして難燃紙(準不燃紙および不燃紙を含む)、再生紙、高分子樹脂を含浸させて強度や耐水性を高めた含浸紙、発塵を抑えた無塵紙、無機粉体(水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、活性炭等の多孔質粉体、耐熱粉体など)を内填した機能性紙、および特殊紙(耐水紙、抗菌紙、蛍光紙、難燃性裏打紙、準不燃紙、不燃紙、耐熱紙)などの各種の紙基材;PTセロファン、MSTセロファン、Kセロファン、LDPE、MDPE、HDPE、アイオノマー、EVA、CPP、OPP、KOP、PET、KPET、CN、ON、Kナイロン、ビニロン、エチレン酢ビコポリマーケン化物、PDVC、硬化PVC、軟化PVC、アセテート、ポリカーボネート、HIPS、OPS、ポリブタジエン、収縮PVC、収縮PP、収縮PE、発泡PE、発泡PSなどの紙以外のシート基材;各種天然繊維や人工繊維からなる不織布または織布等の繊維質シート;ステンレス、鉄、銅またはアルミニウム等の金属製のシートを挙げることができる。
【0082】
なお、繊維質シートとしては、例えば天然繊維;ガラス繊維;またはポリプロピレン、アクリル、ナイロン、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ビニロン等の合成繊維などを構成素材として得られる多孔性の織布や不織布、編み物等を挙げることができる。なお、上記素材は、1種単独で用いられても、また2種以上を任意で組み合わせて用いることもできる。なお、シートはメッシュシートであってもよい。
【0083】
これらのシート状の基剤には、例えば建築用の内装(室内の壁や天井等)や内装用建材(例えば内装パネル等)の製造に用いられるシート材料(壁紙など);建具(例えば、板戸、格子戸、障子、襖、欄間、フラッシュ戸、桟戸、框戸など)、家具〔例えば、洋服入れ,タンス,机,書棚および下駄箱など〕、水周り家具(例えば、流し台や洗面台など)、オフィス用具(例えば、パーティション,書棚および机など)、ならびにそれらの部材の化粧仕上げに用いるシート材料;照明カバーとして使用されるシート材料;カーテン、ロールスクリーン、カーペット、椅子張地、カーシートカバー、靴内貼り地、インソール、マスクや医療用衣料品(白衣やエプロン)などの衛生用品などの繊維製品として使用されるシートが含まれる。さらに、エアコンや空気清浄機のフィルターも含まれる。
【0084】
このため、本発明のシートには、上記シート状基材を用いて製造される壁紙(難燃壁紙、準不燃壁紙および不燃壁紙を含む)、内装建材用化粧シート、障子紙、襖紙、建具/家具/水周り家具/オフィス用具の化粧シート、パーティション用クロス、照明カバー、カーテン、カーペット、椅子張地、カーシートカバー、靴内貼り地、インソール、マスクなどの衛生用品、およびエアコンや空気清浄機のフィルターなどが含まれる。
【0085】
フィルム基材としては、ポリエステルフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリスチレンフィルム、プラスチックを主原料とする合成紙、塩化ビニルフィルム、ポリイミドフィルムなどを挙げることができる。
【0086】
本発明のシートまたはボートは、前述する本発明の水性組成物を、上記のシートまたはボード等の基材表面(下地処理を施していても良い)に塗布(スプレー塗布および浸漬塗布を含む)し、乾燥することによって製造することができる。塗布の方法は特に制限されず、ローラー塗装、刷毛塗りおよびコテ塗りを始め、スプレーやガン(エアースプレー、エアレススプレー、低気圧霧化スプレーなど)を用いた塗装や、フローコーター、ロールコーター、バキュームコーターなどの工業用塗装機(自動塗装機)を用いた塗装のいずれであってもよい。シートまたはボートを工業的に大量に製造する目的からは、上記工業用塗装機(自動塗装機)を用いた塗装方法を好適に用いることができる。
【0087】
斯くして基材表面に形成される被膜の厚みは特に制限されず、希望に応じて任意に設定することができるが、通常0.05〜15mm厚の範囲から適宜選択することができる。
【0088】
被塗物(基材)表面に塗装された水性組成物の乾燥には、自然乾燥法、通風乾燥法、強制乾燥法または加熱乾燥法のいずれもが使用できる。この際、水性組成物に含まれる水酸化カルシウムと接着性樹脂は、シランカップリング剤と反応し、シランカップリング剤を介して結合硬化し、基材表面に付着して被膜を形成する。乾燥に使用する温度は、特に制限されないが、好ましくは室温〜100℃、より好ましくは室温〜90℃、さらに好ましくは室温〜80℃である。
【0089】
本発明のシートまたはボードは、さらに水性組成物から形成された被膜の表面が防汚処理または保護処理されてなるものであってもよい。
【0090】
ここで、防汚処理は、本発明のシートまたはボードの上記水性組成物による塗布面を、シミの原因となる物質(例えば、醤油、コーヒー、ヤニ、水性ペン等)に対して汚染防止機能を有するコーティング材でコーティングすることによって行うことができる。かかるコーティング材としては、シリコン樹脂を含むシリコンコーティング材、およびフッ素樹脂を含むフッ素コーティング材を挙げることができる。かかるコーティング材には酸化チタンなどの光触媒や艶消し材が含まれていてもよい。
【0091】
また保護処理は、本発明のシートまたはボードの上記水性組成物による塗布面を保護シートまたは保護フィルムで積層することによって行うことができる。特に化粧ボートまたはシートを工場で製造する場合、その後の運搬や二次加工時、または施工時において生じ得る印刷表面の汚損、傷およびクラックによって、商品価値が著しく低下してしまう。保護シートまたは保護フィルムはこうした運搬時、二次加工時、または施工時における汚損、傷およびクラックから印刷表面(化粧層)を保護するために、印刷表面に積層されるものであって、施工後には適度な力で印刷表面を破損させることなく容易にとり剥がすことができるものである。
【0092】
III.水性組成物から形成される被膜の可撓性、延伸性、耐水性および耐摩耗性向上方法
上記で述べるように、水酸化カルシウムを含む無機組成物と接着性樹脂を含む水性組成物において、シランカップリング剤を用いることによって、塗布して形成される被膜の可撓性および延伸性が顕著に向上する(実験例1〜3)。その結果、被膜が下地の曲げや変形に追随して延伸するため、亀裂(ひび割れ)や剥がれといった問題の発生を有意に防止することができる。このため、本発明は、石灰やドロマイトなどの水酸化カルシウムを含む非水硬性の無機組成物を含む被膜について、ひび割れを抑制する方法を提供するものでもある。
【0093】
また後述する実験例1〜3に示すように、かかる被膜の可撓性および延伸性、ならびに下地追随性は、被膜が水を触れて湿潤した状態でも維持されていることから、シランカップリング剤を用いることによって塗布して形成される被膜に耐水性・防水性が付与されているものと認められる(実験例1〜3)。このため、本発明は、石灰やドロマイトなどの水酸化カルシウムを含む非水硬性の無機組成物を含む被膜について、耐水性・防水性を付与する方法を提供するものでもある。
【0094】
さらに、実験例5に示すように、水酸化カルシウムを含む無機組成物と接着性樹脂を含む水性組成物において、シランカップリング剤を用いることによって、塗布して形成される被膜表面がより強固になり、耐摩耗性が向上する。その結果、被膜表面を擦っても表面が摩耗しにくく、摩耗による艶が発生しにくい。またこの耐摩耗性は、前述するように被膜に耐水性・防水性が付与される結果、被膜が水を触れて湿潤した状態でも維持されている(湿潤耐摩耗性)。かかる耐摩耗性は、塗布面についた汚れを布等で擦った場合でも艶やムラが生じにくいという点で有用である。
【0095】
これらの方法は、使用する水性組成物として、水酸化カルシウムを含む無機組成物と接着性樹脂と水に加えて、シランカップリング剤を含む水性組成物を用いることを特徴とする。ここで水性組成物の調製に使用される水酸化カルシウムを含む無機組成物や接着性樹脂の種類や配合量、および水の配合量は、前記Iの項に記載した通りであり、これを援用することができる。
【0096】
かかる水性組成物は、さらに必要に応じてキレート化合物を含有していてもよいが、上記効果を妨げないことを限度として、他の成分を含有することができる。かかる成分としては、白色顔料、着色顔料(有色顔料)、増粘剤、アミノ酸またはその重合物、体質顔料、骨材、すさなどの繊維、油、光触媒、分散剤、湿潤剤、消泡剤、pH調整剤、界面活性剤、減水材、流動化剤、防水剤などを配合することもできる。これらの成分の種類などは、前記Iの項に記載の通りであり、ここでもこの記載を援用することができる。
【0097】
かかる水性組成物を被膜形成に使用することで、被膜の可撓性や延伸性が向上し、下地基材の曲げや変形に追随しても亀裂(ひび割れ)または剥がれなどを生じ難い被膜を形成することができる。また、耐水性・防水性および耐摩耗性(湿潤耐摩耗性を含む)が向上した被膜を形成することができる。被膜の施工方法や水性組成物を塗布する対象物(被塗物)は特に制限されず、前述のものをいずれも用いることができる。
【実施例】
【0098】
以下、本発明の内容を以下の実験例及び実施例を用いて具体的に説明する。ただし、これらの実施例等は本発明の一態様にすぎず、本発明はこれらの例に何ら限定されるものではない。
【0099】
実施例1〜8、比較例1〜4
後述する実験例1〜4に供するため、表1に記載する処方に基づいて、コーティング用の水性組成物(実施例1〜8、比較例1〜4)を調製した。具体的には、表1に記載する成分を塗材調合用ミキサーに入れて撹拌することにより固形分を水に分散させて、水性組成物(実施例1〜8、比較例1〜4)を調製した。なお、シランカップリング剤は予め酸性に調整した水に溶解して使用した。
【0100】
これを80メッシュのフィルターで漉した後、自動塗装機ロールコーターに供して、シート状の下地基材(合成紙:ユポタック原紙SGS80、(株)ユポ・コーポレーション製)(厚み80μm)に、厚さがウエットで150μmになるように均一に塗布した。次いでこれを接触温度が60〜70℃になるように設定した乾燥炉(雰囲気温度:80〜100℃)に入れて120秒間加熱乾燥し、上記基材表面上に被膜を形成した(実施例シート1〜8,比較例シート1〜4)。
【0101】
【表1】

実施例シート4および比較例シート1の表面の被膜構造を走査型電子顕微鏡で観察した結果を図1に示す。これからわかるように、実施例シート4表面の被膜構造は、比較例シート1表面の被膜構造と比べて、全体的に均質で、しかもより密な状態で多孔構造が形成されていることが確認された。また実施例シート4は比較例シート1に比べて、被膜の吸調湿機能、消臭機能(ホルムアルデヒド、アンモニア、硫化水素)に優れていた。このように被膜の機能が向上する理由の一つとして、水性組成物の成分としてシランカップリング剤を用いることで、上記に示すように、全体的に均質で、しかもより密な多孔構造を備えた被膜が形成されることが挙げられる。
【0102】
実験例1 折り曲げ耐ひび割れ性試験(水浸漬なし/あり)
上記で作成した水性組成物(実施例1〜8および比較例1〜4)塗布シート(実施例シート1〜8,比較例シート1〜4)を用いて、下記の方法に従って、折り曲げ耐ひび割れ性試験を行った。
【0103】
(1)試験方法
各被験シートを8cm角に調製し、下記条件で処理した後、縦方向と横方向の2方向で、それぞれ180度の谷折り(皮膜を内側にして折り曲げる)および180度の山折り(皮膜を内側にして折り曲げる)を行い、被膜表面のひび割れの発生状況を観察した。なお、試験は各被験シートについて2回ずつ実施した。
【0104】
<処理条件>
A:そのまま(水浸漬なし):乾燥状態
B:水浸漬30分間、未乾燥:湿潤状態
(2)試験結果
シランカップリング剤を使用しないで調製した水性組成物(比較例1および2)で作成した被験シート(比較例シート1および2)はいずれも、乾燥状態(処理条件Aでの処理後)での試験で、谷折りの場合も山折りの場合も被膜にひび割れが生じていることを確認した(評価:×)。湿潤状態(処理条件Bでの処理後)での試験では、谷折りの場合も山折りの場合も被膜にひび割れが生じており、特に山折りの場合、被膜に欠損が生じ、下地基材が露出している箇所が存在した(評価:×)。
【0105】
これに対して、シランカップリング剤(エポキシ基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、アミノ基)を用いて調製した水性組成物(実施例1〜8)で作成した実施例シート1〜8はいずれも、乾燥状態での試験でも、湿潤状態での試験でも、目視で被膜にひび割れや欠損は認められなかった(評価:○)。特に、接着性樹脂として水酸基を有するアクリル樹脂(接着性樹脂2)を用いて調製した水性組成物(実施例5〜8)で作成した実施例シート5〜8は、顕微鏡観察でも被膜にひび割れはほぼ認められず、優れた耐ひび割れ性を備えていることが確認された(評価:◎)。またその中でもアミノ基を有するシランカップリング剤を用いて調製した水性組成物(実施例8)で作成した実施例シート8は、優れた耐ひび割れ性を備えていた。
【0106】
一方、メルカプト基を有するシランカップリング剤を用いて調製した水性組成物(比較例3、4)で作成した比較例シート3および4はいずれも、乾燥状態の試験でも、湿潤状態の試験でも、比較例シート1および2よりも被膜のひび割れの程度は抑えられていたが、実施例シートと比較するとひび割れの程度は大きく、製品として使用するには充分でないと認められた(評価:△)。
【0107】
以上のことから、水酸化カルシウムを含む非水硬性の無機組成物と接着性樹脂に、エポキシ基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基またはアミノ基を有するシランカップリング剤を併用して調製した水性組成物から形成された被膜は、柔軟性(可撓性)があり、折り曲げ時にひび割れや剥がれの発生が顕著に抑制されていることが確認された。さらに当該被膜は、耐水性も向上しており、水浸漬後でも乾燥時と同様に、被膜は柔軟性(可撓性)を保持しており、折り曲げ時にひび割れや剥がれの発生が顕著に抑制されていることが確認された。
【0108】
実験例2 延伸追随性試験(水浸漬なし/あり)
上記で作成した水性組成物(実施例1〜8および比較例1〜4)塗布シート(実施例シート1〜8,比較例シート1〜4)を用いて、下記の方法に従って、延伸追随性試験を行った。
【0109】
(1)試験方法
各被験シートを22cm(縦)×1cm(横)に調製し、下記条件で処理した後、ショッパー型引張試験機(スガ試験機(株)製)を用いて、延伸率30%になるまで縦方向に引っ張り、被験シートを延伸した。延伸後、各被験シートの被膜の状態を目視および顕微鏡で観察した。なお、試験は各被験シートについて3回ずつ実施した。
【0110】
<処理条件>
A:そのまま(水浸漬なし):乾燥状態
B:水浸漬30分間、未乾燥:湿潤状態
(2)試験結果
シランカップリング剤を使用しないで調製した水性組成物(比較例1および2)で作成した被験シート(比較例シート1および2)はいずれも、乾燥状態での試験でも、湿潤状態での試験でも、目視で明らかに被膜表面に膨れやひび割れ(被膜の破断)が生じていることが観察された(評価:×)。
【0111】
これに対して、シランカップリング剤(エポキシ基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、アミノ基)を用いて調製した水性組成物(実施例1〜8)で作成した実施例シート1〜8はいずれも、乾燥状態の試験でも、湿潤状態の試験でも、目視および顕微鏡観察で被膜に膨れやひび割れはほぼ認められなかった(評価:○)。特に、接着性樹脂として水酸基を有するアクリル樹脂(接着性樹脂2)を用いて調製した水性組成物(実施例5〜8)で作成した実施例シート5〜8は、顕微鏡観察でも被膜にひび割れは認められず、優れた延伸性(下地追随性)を備えていることが確認された(評価:◎)。またその中でもアミノ基を有するシランカップリング剤を用いて調製した水性組成物(実施例8)で作成した実施例シート8は、優れた延伸性(下地追随性)を備えていた。
【0112】
一方、メルカプト基を有するシランカップリング剤を用いて調製した水性組成物(比較例3、4)で作成した比較例シート3および4はいずれも、乾燥状態の試験も、湿潤状態の試験も、目視で被膜表面にひび割れの発生はほぼ認められず、比較例シート1および2よりも延伸性(下地追随性)は向上していたが、顕微鏡観察の結果を、実施例シートと比較すると若干ひび割れの程度は大きく、製品として使用するには充分でないと認められた(評価:△)。
【0113】
以上のことから、水酸化カルシウムを含む非水硬性無機組成物と接着性樹脂に、エポキシ基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基またはアミノ基を有するシランカップリング剤を併用して調製した水性組成物から形成された被膜は、延伸性および下地への追随性があり、延伸引っ張り時にひび割れ(被膜の破断)の発生が顕著に抑制されていることが確認された。さらに当該被膜は、耐水性も向上しており、水浸漬後でも乾燥時と同様に、被膜は延伸性および下地への追随性を保持しており、延伸引っ張り時にひび割れ(被膜の破断)の発生が顕著に抑制されていることが確認された。
【0114】
実験例3 施工試験:入隅と出隅のヒビ割れおよび欠損の有無の確認(水浸漬なし/あり)
上記の実験例1と2の結果から、実際に壁紙として使用する場合を想定して、下記方法に従って施工試験を行った。
【0115】
(1)試験方法
各被験シートを6cm(縦)×21cm(横)に調製し、被膜面の反対側(ユポタック原紙面)に両面テープ(離型紙付き)を貼り、下記条件で処理した。次いで両面テープの離型紙を剥がして、階段状の形状を有する壁紙施工台(試験台)に専用ヘラで撫で押さえながら貼付した(出隅:被験シートを引っ張りながら出隅で折り曲げて施工。入隅:被験シートの上から入隅をヘラで押さえ、被験シートを引っ張りながら施工)。施工後、出隅と入隅の被膜状態を目視で観察した。
【0116】
<処理条件>
A:そのまま(水浸漬なし):乾燥状態
B:水浸漬30分間、未乾燥:湿潤状態
(2)試験結果
シランカップリング剤を使用しないで調製した水性組成物(比較例1および2)で作成した被験シート(比較例シート1および2)はいずれも、乾燥状態での試験でも、湿潤状態での試験でも、出隅において被膜表面にひび割れが発生していることが確認された(評価:×)。
【0117】
これに対して、シランカップリング剤(エポキシ基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、アミノ基)を用いて調製した水性組成物(実施例1〜8)で作成した実施例シート1〜8はいずれも、乾燥状態の試験でも、また湿潤状態の試験でも、入隅出隅ともに被膜表面にひび割れや欠損はほぼ認められなかった(評価:○)。特に、接着性樹脂として水酸基を有するアクリル樹脂(接着性樹脂2)を用いて調製したコーティング剤(実施例5〜8)で作成した実施例シート5〜8は、拡大鏡で観察した場合でも入隅出隅ともに被膜表面にひび割れは認められなかった。中でもアミノ基を有するシランカップリング剤を用いて調製したコーティング剤(実施例8)で作成した実施例シート8で施工した被膜表面は、入隅出隅ともに極めて良好であった。
【0118】
一方、メルカプト基を有するシランカップリング剤を用いて調製したコーティング剤(比較例3、4)で作成した比較例シート3および4はいずれも、乾燥状態の試験も、湿潤状態の試験も、比較例シート1および2よりも出隅での被膜表面のひび割れの程度は少なく、ひび割れが抑えられていたが、実施例シートと比較すると製品として使用するには充分でないと認められた(評価:△)。
【0119】
以上に示すように、上記施工試験は、実験例1と2の結果をよく反映しており、水酸化カルシウムを含む非水硬性の無機組成物と接着性樹脂に、エポキシ基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基またはアミノ基を有するシランカップリング剤を併用して調製した水性組成物を塗布して作成したシートは、壁紙として極めて有効であることが確認された。またこのシートは耐水性に優れており水湿潤状態でも耐ひび割れ性に優れていることから、壁紙施工時に、水性の糊剤をシート裏面に塗ったり、また予め乾燥糊をシート裏面に塗布しておき、壁紙施工時にシートを水に浸潤させて使用することも可能であることが確認された。
【0120】
実験例4 耐カール性試験
上記の実験例1〜3の結果から、壁紙として有用な実施例シート1〜8について、下記方法に従って耐カール性試験(吸湿乾燥後の耐カール性、耐巻癖カール性)を行った。また比較として比較例1と2についても同様に試験を行った。
【0121】
(1)試験方法
(a) 吸湿乾燥後の耐カール性
各被験シートの被膜表面に、霧吹きにて水を噴霧し、吸湿後、室温で自然乾燥させて、吸湿前と乾燥後でシートのカールの程度を目視で評価した。
【0122】
(b) 耐巻癖カール性
直径約4cmの紙管に、各被験シートを、被膜表面を内側にして巻き付け、5日間室温で放置した後にこれをほどき、カールの状態を観察した。
【0123】
(2)試験結果
シランカップリング剤を使用しないで調製した水性組成物(比較例1および2)で作成した被験シート(比較例シート1および2)は、吸湿前も若干端部がカールしており、吸湿乾燥後はそのカールがより強くなること(評価:×)、また紙管からほどいた後も円筒状を保っており巻癖カールも強いことが観察された(評価:×)。これに対して、シランカップリング剤(エポキシ基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、アミノ基)を用いて調製したコーティング剤(実施例1〜8)で作成した実施例シート1〜8はいずれも、吸湿前も吸湿乾燥後もいずれもカールしておらず(評価:◎)、また巻癖カールもほぼ発生しないことが観察された(評価:◎)。
【0124】
このことから、水酸化カルシウムと接着性樹脂に、エポキシ基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基またはアミノ基を有するシランカップリング剤を併用して調製した水性コーティング剤(水性組成物)を塗布して作成したシートは、紙管に巻き取った状態で流通乃至保存しておいてもカールが残らないため、使用時の取り扱い性に優れていること、また端部に生じ易いカールも有意に抑制されているため、印刷機などの機械に供しても詰まりが発生せず、作業性に優れていることが確認された。
【0125】
実験例5 耐摩擦性試験
上記で作成した水性組成物(実施例1〜8および比較例1〜4)塗布シート(実施例シート1〜8,比較例シート1〜4)を用いて、下記の方法に従って、耐摩擦性試験を行った。
【0126】
具体的には、JIS A 6921 6.3.2に準じて、JIS L 0849に規定の摩擦試験機II型を用いて、(a)乾燥摩擦試験(荷重200g、往復回数25回)および(b)湿潤摩擦試験(荷重200g、往復回数5回)を行った。なお、乾燥摩擦試験は乾燥布で被覆した摩擦子を用いて、また湿潤摩擦試験は水で浸潤させた布で被覆した摩擦子を用いて実施した。摩擦後、摩擦部位と非摩擦部位との色差を目視で観察するとともに、摩擦した布側への塗膜片の付着の有無および程度を確認した。
【0127】
その結果、シランカップリング剤を使用して調製した水性組成物(実施例1〜8)で作成した被験シート(実施例シート1〜8)は、乾燥摩擦試験のみならず、湿潤摩擦試験でも、摩擦部位と非摩擦部位との間に色差はほとんどなく、また摩擦した布側への塗膜片の付着も殆ど認められなかった。これに対して、シランカップリング剤を使用しないで調製した水性組成物(比較例1および2)で作成した被験シート(比較例シート1および2)は、乾燥摩擦試験と湿潤摩擦試験の両方で、摩擦部位と非摩擦部位との間に色差が有意に発生しており、また摩擦した布側に明らかに塗膜片の付着が認められた。特にこの傾向は、湿潤摩擦試験で顕著であった。
【0128】
この結果から、シランカップリング剤を使用して調製した本発明の水性組成物を用いることにより、耐摩擦性および耐水性()に優れた被膜が形成できることが判明した。
【0129】
(2)試験結果
シランカップリング剤を使用しないで調製した水性組成物(比較例1および2)で作成した被験シート(比較例シート1および3)は、(a)乾燥摩擦試験は「等級4」でやや耐摩耗性はみられたが(評価:△)、(b)湿潤摩擦試験の結果から、水に再溶解し、水存在下で塗膜の摩耗が激しいことが確認された(評価:×)。これに対して、シランカップリング剤(エポキシ基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、アミノ基、メルカプト基)を用いて調製した水性組成物(実施例1〜8、比較例3および4)で作成した実施例シート1〜8および比較例3および4はいずれも、(a)乾燥摩擦試験でも、また(b)湿潤摩擦試験でも「等級5」の結果が得られ、耐摩耗性が格段に向上していることが確認された(評価:◎)。このことから、シランカップリング剤を用いて調製した水性組成物から形成される被膜は、耐摩耗性が向上しているだけでなく、水浸潤による無機組成物の再溶解が抑制され、耐水性までもが向上(再溶解性の抑制)していることが確認された。
【0130】
実施例9〜15
熱可塑性の接着性樹脂として水酸基を有するアクリル樹脂およびポリビニルアルコールを用いて、表2に記載する処方に従って、可撓性被膜を形成する本発明の水性組成物を調製した。これらの水性組成物は、保存安定性も良好であり、また当該組成物から形成された被膜は、シランカップリング剤を用いないで調製した水性組成物から形成した被膜に比して、実験例1〜5に示すように、可撓性、延伸性、耐水性および耐摩耗性(乾燥耐摩擦性、湿潤耐摩擦性)が向上している。
【表2】





【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機材料、有機材料および水を含む水性の可撓性被膜を形成する水性組成物であって、
上記無機材料が水酸化カルシウムを含有する非水硬性の無機組成物、上記有機材料が接着性樹脂であり、
さらにシランカップリング剤を含有することを特徴とする水性組成物。
【請求項2】
上記シランカップリング剤が、反応性官能基としてエポキシ基、メタクリロキシ基、アクロキシ基、およびアミノ基からなる群から選択されるいずれか少なくとも1種の官能基を有するものである、請求項1に記載する水性組成物。
【請求項3】
上記水酸化カルシウムを含有する非水硬性の無機組成物が石灰またはドロマイトである、請求項1または2に記載する水性組成物。
【請求項4】
上記接着性樹脂がアクリル樹脂またはポリビニルアルコール系樹脂である、請求項1乃至3のいずれかに記載する水性組成物。
【請求項5】
さらにキレート化合物を含有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載する水性組成物。
【請求項6】
シート状またはボード状の基材表面に、請求項1乃至5のいずれかに記載する水性組成物を塗布して調製されるシートまたはボード。
【請求項7】
上記シートまたはボードの水性組成物による塗布面が、さらに防汚処理されてなることを特徴とする、請求項6記載のシートまたはボード。
【請求項8】
上記シートが、壁紙、障子紙、襖紙、パーティション用クロス、照明カバー、カーテン、椅子張地、カーシートカバー、靴内貼り地、インソール、衛生用品およびエアコンや空気清浄機のフィルターからなる群から選択されるいずれかである、請求項6または7に記載のシートまたはボード。
【請求項9】
シート状またはボード状の基材表面に、請求項1乃至5のいずれかに記載する水性組成物を塗布する工程を有する、請求項6または8記載のシートまたはボードを製造する方法。
【請求項10】
シート状またはボード状の基材表面に、請求項1乃至5のいずれかに記載する水性組成物を塗布する工程、および当該組成物の塗布面を防汚処理する工程を有する、請求項7または8に記載するシートまたはボードを製造する方法。



【図1】
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【公開番号】特開2011−57844(P2011−57844A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−208800(P2009−208800)
【出願日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【出願人】(599085541)ヒメノイノベック株式会社 (10)
【Fターム(参考)】