説明

可溶化コラーゲン繊維及びその製造方法

【課題】コラーゲンと他の成分とを含む化粧水を水で調製可能な可溶化コラーゲン繊維を提供する。
【解決手段】可溶化コラーゲン繊維は、常温で固体の保湿剤を内包する。等イオン点がpH5.0以下である可溶化コラーゲンと保湿剤とを含有し、可溶化コラーゲンの等イオン点よりpHが大きい可溶化コラーゲン水溶液Aを調製し、これを有機溶媒S1中に糸状に吐出し可溶化コラーゲンを凝固させて繊維状に紡糸し、乾燥することにより製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性溶液状態において変性し易いコラーゲンの変性を抑制して良好な状態で使用可能な可溶化コラーゲン繊維及びその製造方法に関し、特に、化粧料として簡単に使用でき、保湿機能が向上した可溶化コラーゲン繊維及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
動物の生皮、腱、骨等を形成する主要タンパク質はコラーゲンであり、コラーゲンは、3本のポリペプチド鎖がヘリックス状になった物質で、通常、水、希酸、希アルカリ、有機溶媒などに対して不溶性である。一般的に、牛や豚等の動物の皮から得られる。
【0003】
近年、コラーゲンが有する保湿性を利用して、皮膚の保湿性を高めるための成分としてコラーゲンを配合したメークアップ用品やスキンケア用品等が提供されている。このような用途において、コラーゲンは水性溶液の状態で利用されるが、生体材料に含まれるコラーゲンの大部分は分子間に架橋が形成されており水に不溶性であるため、可溶化処理を施して架橋を切断することによって得られる可溶化コラーゲンが使用される。
【0004】
可溶化処理は、不溶性コラーゲンに対してアルカリや酵素等を作用させるもので(下記特許文献1、2参照)、不溶性コラーゲンのポリペプチド鎖末端のテロペプチドにおける分子間または分子内架橋あるいはテロペプチド自体が切断される等によりペプチド鎖間の束縛が解消されて可溶化されると考えられており、粘稠質の可溶化コラーゲン水溶液が得られる。
【0005】
可溶化コラーゲン水性溶液は、常温において変性や腐敗を生じ易く、保管には温度管理や品質を安定化させるための成分添加が必要となるため、本願発明者は、下記特許文献3において、可溶化コラーゲンを繊維化することによって品質を安定化させて、使用時に水性液に溶解して使用する可溶化コラーゲン繊維の化粧料を提案している。この提案においては、コラーゲン繊維を迅速に水性液に溶解させるために、紡糸される繊維を細くする技術が開示されており、これによって数十秒以内でコラーゲン繊維を溶解することが可能になり、スポンジ状コラーゲンの溶解に3〜5分程度要することと比較すると、格段に使用し易いコラーゲン化粧料が提供される。
【特許文献1】特公昭44−1175号公報
【特許文献2】特公昭46−15033号公報
【特許文献3】特開2006−342472号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記可溶化コラーゲン繊維は、溶解する水性液に他の化粧料用成分を配合することによって、様々な機能を付加することができるので、化粧料として必要な成分を調合した水性液と可溶化コラーゲン繊維とを組み合わせて用いることによって、非常に優れた化粧料となる。
【0007】
しかし、コラーゲン繊維を溶解する際に、特定の水性液を必要せずに水だけを用いてコラーゲンに他の成分を付加した化粧水が調製できるならば、より便利な化粧料となる。
【0008】
本発明は、上述の点を実現し、水を用いて、コラーゲンに他の成分を付加した化粧水を調製可能な可溶化コラーゲン繊維及びその製造方法を提供することを課題とする。
【0009】
又、本発明は、使用時に簡便且つ素早く水溶液状態のコラーゲン化粧料に調合可能で、特別な水性液を用いずに、コラーゲン以外の付加成分の機能によって有効性が更に向上した化粧料が得られる可溶化コラーゲン繊維及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、添加成分の検討及び製造工程における工夫によって、可溶化コラーゲン繊維に他の成分を配合可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明の一態様によれば、可溶化コラーゲン繊維は、常温で固体の保湿剤を内包することを要旨とする。
【0012】
又、本発明の一態様によれば、可溶化コラーゲン繊維の製造方法は、等イオン点がpH5.0以下である可溶化コラーゲンと保湿剤とを含有し、前記可溶化コラーゲンの等イオン点よりpHが大きい可溶化コラーゲン水溶液を調製する工程と、前記可溶化コラーゲン水溶液を有機溶媒中に糸状に吐出し可溶化コラーゲンを凝固させて繊維化する紡糸工程と、紡糸された可溶化コラーゲン繊維を乾燥する乾燥工程とを有することを要旨とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、使用時に素早く簡便に水溶液状のコラーゲン化粧料に調合でき、常温管理であっても使用前におけるコラーゲンの変性及び腐敗のおそれがない、常に高品質のコラーゲン化粧料を使用者に提供できる。水や市販の化粧水等を利用して、使用者各人の要望に合った最適のコラーゲン化粧料を調合することが可能であり、製品仕様を細分化することなく様々な使用者に幅広く提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
動物の皮膚から得た不溶性コラーゲンの可溶化処理によって調製される可溶化コラーゲン水溶液は、水を除去すれば固形の乾燥物となる。水溶液状態での可溶化コラーゲンの変性開始温度は非常に低く、牛、豚由来の場合で30℃前後、フグ、タイ等の場合で20℃前後であるので室温でも変性し得るが、乾燥状態では100℃前後であり、通常の取り扱いにおいて変性する恐れがない。また、乾燥状態のコラーゲンは、水溶液と異なり水分活性が低いため、腐敗の恐れがない。従って、化粧料の水性媒体と可溶化コラーゲン乾燥物とを別体として化粧料を構成し、使用時に可溶化コラーゲンを水性媒体に混合・溶解すれば、変性や腐敗を受けていないコラーゲンを含有する化粧料として使用可能である。この点において、可溶化コラーゲン繊維は好適な化粧料であり、又、繊維状であることによって、水性媒体への溶解速度が格段に向上するので、使用時に素早く化粧料に調製できる。
【0015】
コラーゲン以外の機能性成分、例えば、化粧水に通常配合される保湿剤や美白成分、アンチエージング成分等を付加成分として可溶化コラーゲン繊維中に組み込むことができれば、コラーゲン繊維を水性媒体に溶解すると同時に付加成分も溶解するので、より優れた化粧水が構成できる。このような付加成分を内包する可溶化コラーゲン繊維の製造可能性を検討したところ、可溶化コラーゲン水溶液に付加成分を混合して紡糸することによって、付加成分を内包する可溶化コラーゲン繊維を紡糸可能であることを見出した。
【0016】
以下、付加成分を内包する可溶化コラーゲン繊維の製造について、詳細に説明する。
【0017】
不溶性コラーゲンは、牛、豚、鳥等の動物の皮膚やその他のコラーゲンを含む組織を利用して、従来の方法によって好適に調製することができ、原料を特に限定する必要はない。魚皮や魚鱗等の水性生物材料から不溶性コラーゲンを得てもよい。コラーゲンを得る原料によって、コラーゲンの変性温度には差が見られるが、乾燥状態では、何れの原料由来の可溶化コラーゲンであっても通常の取り扱いにおいて問題はない。需要においては、BSE対策に関連して豚由来または魚などの水生生物由来のコラーゲンを原料とすることが好ましいとされる。
【0018】
牛皮、豚皮等のコラーゲン原料は、必要に応じて、石灰漬け等による脱毛、水洗、チョッパー等を用いた細切などの処理を施して適切な寸法の原料片に調製して、不溶性コラーゲンの可溶化処理に供する。
【0019】
不溶性コラーゲンの可溶化処理は、タンパク質分解酵素を用いた方法(例えば特公昭44−1175号公報参照。以下、酵素処理法と称する)と、苛性アルカリ及び硫酸ナトリウムが共存する水溶液中に少量のアミン類又はその類似物を添加したもので処理する方法(例えば特公昭46−15033号公報参照。以下、アルカリ処理法と称する)に大別することができる。本発明においては、何れの可溶化処理方法を用いても良いが、得られる可溶化コラーゲンの等イオン点(水に対する溶解性が最も小さくなるpH域)が可溶化処理方法によって異なり、アルカリ処理法で得られる可溶化コラーゲンの等イオン点は、アスパラギン残基及びグルタミン残基が脱アミノ反応によって各々アスパラギン酸残基及びグルタミン酸残基に変化することにより、概して、約4.8〜5.0となり、酵素処理法によるものでは概してpH7前後となる。化粧料は、弱酸性から中性であることが好ましく、このpH領域においてコラーゲンが速やかに溶解することが必要であるので、酵素処理法によって可溶化する場合は、得られるコラーゲンの等イオン点を中性付近からpH5.0以下へ移行させる必要がある。一般的な酵素処理法による可溶化コラーゲン製品では、サクシニル化を施して等イオン点を下げて中性での溶解性を高めているので、このような方法によって得られる可溶化コラーゲンは好適に利用することができる。可溶化コラーゲンの等イオン点が低い方が弱酸性から中性の水性溶媒に対する溶解性が高くなるので、化粧料として使用するコラーゲン繊維の溶解速度を速めるためには、可溶化コラーゲンの等イオン点がpH4.8程度以下となることが好ましい。
【0020】
可溶化処理を施したコラーゲンは、可溶化やサクシニル化に使用したアルカリの中和、脱塩処理(例えば、遠心分離、透析、水洗等)を経て、粘稠質の水溶液の状態で得られる。これから水を除去すれば、可溶化コラーゲン乾燥物が得られる。コラーゲン水溶液から水を除去する方法として、液体窒素等を用いる凍結乾燥法、噴霧乾燥法、及び、塩水又は有機溶媒中で凝固させる方法がある。凍結乾燥法では製造コストがかかり、噴霧乾燥法では安価に好適な可溶化コラーゲン粉末が得られるが、製造効率が低い。有機溶媒中で可溶化コラーゲン水溶液を凝固させる方法は、水溶液中のコラーゲンが有機溶媒に接触すると凝固することを利用するもので、凝固したコラーゲンから溶媒を容易且つ効率よくに除去でき、製造コストが安価である。本願出願人は、先の提案(特開2005−306736号公報)において、特開平6−228505号公報の可溶化コラーゲン乾燥物の製造方法を参照して、ノズル等を用いて可溶化コラーゲン水溶液を有機溶媒中に糸状に吐出し凝固させてコラーゲン繊維を調製することを提案している。この方法は、イソプロパノール中での繊維化によって、多量の脂質を含む可溶化コラーゲン(例えばブタ皮由来コラーゲンは固形分当たり23.1質量%の脂質を含む)から脂質が溶出して凝固コラーゲン中の脂質量を0.1%未満に減らせる点で優れており、塩析凝固を利用して塩水中で繊維化すると脂質を除去できないことと比較すると、極めて有用である。より細いコラーゲン繊維を形成する場合には、特開2006−342472号に従って、紡糸される可溶化コラーゲン繊維を凝固中に延伸することによって、繊度が10dtx以下の細いコラーゲン繊維の製造が可能となる。更に、紡糸したコラーゲン繊維を乾燥する前に親水性有機溶媒に浸漬する工程を加えることによって、乾燥中のコラーゲン繊維の付着を防止しつつコラーゲン繊維中の残留水を除去することができるので、乾燥時に繊維どうしが付着・融合して塊状になるのを防止できる。
【0021】
付加成分を可溶化コラーゲン繊維に内包する場合も、上記製造方法に従って製造可能であり、可溶化コラーゲン水溶液に付加成分を配合して紡糸する。付加成分は、化粧料に配合することから水溶性であることは共通であるが、その性質によって凝固性が異なり、有機溶剤による凝固析出の可否も様々である。本発明において付加成分として使用可能な物質は、コラーゲンと相溶性があり(特に弱酸性〜中性において)、常温で固体の水溶性の物質であり、その溶解性が電荷に起因してpHに依存する物質の導入については、可溶化コラーゲンの等イオン点を調節することによって対応可能である。付加成分として使用可能な物質として、具体的には、多糖類やタンパク質・ペプチド等の水溶性高分子化合物、水溶性ビタミンや植物エキス成分、発酵生成物等の生態関連物質が挙げられ、グルカン、フルクタン、ガラクタン、マンナン、ペントザン、グリクロナン、ポリグルコサミン等の単純多糖、ヘミセルロース、ペクチン、アガロース、アガロペクチン、ポルフィラン、カラゲナン、フコイダン、アスコフィラン、ムコ多糖類、ペプチドグリカン、テイコ酸、テイクロン酸、リポ多糖、莢膜多糖、糖蛋白質等の複合多糖などが例示される。キチン類の場合は、水溶性キトサン誘導体又は水溶性キチン誘導体が使用可能である。可溶化コラーゲンと共に紡糸する点で、有機溶剤(特に親水性溶剤)との接触によって凝固し易い物質が好ましく、凝固性の良いものとしては、グリクロナン、ポリグルコサミン及びムコ多糖が挙げられ、特にグルクロナンの1種であるアルギン酸及びムコ多糖に属するヒアルロン酸は、凝固性の高い保湿剤であり、可溶化コラーゲン繊維内に包含する固形成分として好適である。これらは、可溶化コラーゲン水溶液中で塩基成分との塩の形態で存在するとコラーゲン水溶液への溶解性が向上するので、アルカリ金属、アルカリ土類金属、貴金属等との強塩基との塩として用いるのが好ましく、特にナトリウム塩が好適である。付加成分は複数組み合わせて用いても良い。有機溶剤との接触によって凝固する成分であっても可溶化コラーゲンに比べて凝固性が悪い場合もあるが、凝固した可溶化コラーゲンに保持された状態で水分減少及び乾燥に伴って凝固し得ればよい。従って、有機溶剤との接触による凝固が困難であっても常温で固体の水溶性物質をコラーゲン繊維に導入することは可能である。
【0022】
可溶化コラーゲンの凝固は、親水性有機溶媒及び疎水性有機溶媒の何れでも可能であるが、凝固するコラーゲンが内包する水を効率よく外部へ放散させる点で親水性有機溶媒が好適であり、凝固した繊維を効率よく乾燥するには、揮発性の溶媒が可溶化コラーゲンを凝固させる有機溶媒として好ましい。例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類やアセトンなどが挙げられ、このような溶媒を複数種組み合わせた混合溶媒であってもよい。実用上、少量の水を含んだ有機溶媒も使用可能であり、その場合、含水率は約15質量%以下、好ましくは10質量%以下であり、含水率が高いとコラーゲンが好適に凝固しない。
【0023】
可溶化コラーゲン水溶液をノズル等の紡糸手段を用いて有機溶媒中に糸状に吐出すると、溶媒に接触する外側から可溶化コラーゲンが凝固して、コラーゲンが繊維状に成形(つまり紡糸)される。可溶化コラーゲン水溶液に配合されている付加成分は、凝固した可溶化コラーゲン繊維の内部に保持された状態で凝固する。紡糸手段として、ノズルやシャワーヘッド等のような流体を糸状に吐出できる吐出孔を有するものを必要に応じて選択して使用できる。
【0024】
可溶化コラーゲン繊維の紡糸に用いる可溶化コラーゲン水溶液は、概して、コラーゲン濃度が2〜10質量%、好ましくは3〜7質量%の可溶化コラーゲン水溶液であり、可溶化コラーゲン水溶液に配合される付加成分量が多いと凝固性が低下するので、付加成分の量は、可溶化コラーゲンの質量に対して10質量%未満、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下とする。複数種の付加成分を用いる場合は、その合計量を可溶化コラーゲンに対して10質量%未満とする。付加成分が存在する場合の可溶化コラーゲンは、単独の場合より凝固速度が若干遅く、上記のような濃度に調製された可溶化コラーゲン水溶液は、5〜300g/分、好ましくは10〜90g/分の吐出速度で、孔径が0.05〜1mm程度、好ましくは0.05〜0.3mm程度の孔から有機溶媒中に吐出し、これにより平均繊度が5〜100dtx程度(繊度計を用いて20℃、65%RHで測定される値)の可溶化コラーゲン繊維が形成される。コラーゲン繊維の太さは、吐出する可溶化コラーゲン水溶液の濃度を低くしたり、吐出するノズルの孔径を小さくすることによっても細くなるが、可溶化コラーゲン水溶液の濃度が低過ぎると、紡糸される繊維が切れ易くなったり粉末状の凝固物が生じ易くなり、ノズル孔径が小さ過ぎると、通液抵抗が大きくなってノズルに過大な吐出圧力がかかる。しかも、ノズルから自由な状態で紡出させたコラーゲン繊維は、凝固中に繊維の長さ方向に収縮して長さが約0.6倍未満になって吐出時よりも繊度が高くなるので、ノズル孔径を小さくしたりコラーゲン水溶液の濃度を低下させる方法では繊度の低下に限界がある。これを解決する方法として、溶媒中で紡糸されるコラーゲン繊維を、吐出速度の約0.6倍以上の速度で巻き取る方法がある。これにより、紡糸中のコラーゲン繊維にかかる引っ張り力によって繊維方向の収縮に抗して繊維が延伸されて15dtx程度以下の細い繊維の調製が可能になる。但し、巻き取り速度が速すぎると繊維が切断されるので、吐出速度に対する巻き取り速度の比(ドラフト)は1.5以下となるように調節して延伸する。これらを勘案すると、平均繊度が15dtx以下のコラーゲン繊維を紡糸する好適な条件としては、コラーゲン水溶液の濃度は3〜7質量%、好ましくは3.5〜5質量%、ノズル孔径は0.05〜0.18mm、好ましくは0.09〜0.11mm程度であり、ドラフトは0.6以上且つ1.5以下、好ましくは1.0〜1.2とすることができる。このような範囲で、式:T=100・rCd/D(式中、Tは繊度(dtx)、rはノズル孔半径(mm)、Cはコラーゲン水溶液のコラーゲン濃度(質量%)、dはコラーゲン比重(g/ml)、Dはドラフトを示す。)を目安として各条件を設定できる。実施の点からは、吐出速度を2〜7m/分程度、巻き取り速度を2〜10m/分程度の範囲で設定すると実用的である。
【0025】
紡糸した可溶化コラーゲン繊維は、無菌空気を用いた空気乾燥や減圧留去によって無菌的に乾燥することにより残留水が除去され、化粧料用として好適に使用できる可溶化コラーゲン繊維が得られるが、細い繊維の場合、繊維どうしが接触した状態で乾燥すると互いに付着・結合し、実際には繊維塊になる。この原因は、乾燥中に有機溶媒が先に留去することによってコラーゲン繊維中の残留水分が凝固コラーゲンを再溶解するためであり、繊維が細いほど付着は顕著である。これを防止するためには、乾燥前の可溶化コラーゲン繊維を親水性有機溶媒に浸漬するとよい。親水性有機溶媒と接触することにより、コラーゲン繊維中の水分は有機溶媒中に放散して有機溶媒と置換されるので、含水量が低下して有機溶媒量が増加する。従って、乾燥中の繊維の付着は減少する。但し、浸漬する親水性有機溶媒の含水率が低いことが必要であり、具体的には、含水率が5質量%以下の有機溶媒を使用する。使用する有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類やアセトンなどの親水性有機溶媒が挙げられ、このような溶媒を複数種組み合わせた混合溶媒であってもよい。コラーゲン繊維の乾燥中に水のみが残留するのを避けるためには、水と沸点が近い溶媒、あるいは、水と共沸する溶媒を用いることが有効であり、この点で好ましいものとしてはエタノールやイソプロパノール等が挙げられる。親水性有機溶媒を穏やかに流動させたり、浸漬した可溶化コラーゲン繊維を揺動して水分の放散を促進してもよい。
【0026】
紡糸した可溶化コラーゲン繊維を親水性有機溶媒に浸漬すると、親水性有機溶媒の含水率は上昇するので、浸漬処理を繰り返して含水率が過大になった有機溶媒は交換する必要がある。この点に関し、有機溶媒に浸漬する直前の可溶化コラーゲン繊維を軽く圧搾又は遠心脱水して繊維に含まれる液体量を減少させると、浸漬する有機溶媒の交換頻度を減らす上で有効である。
【0027】
有機溶媒に浸漬した後に乾燥して得られる可溶化コラーゲン繊維は、標準状態(20±2℃、湿度65±2%)でも水分を10〜20質量%程度含有するが、変性温度は高く、牛、豚由来のコラーゲンでは100℃前後となる。紡糸に使用した可溶化コラーゲン水溶液に配合される付加成分のほぼ全量を可溶化コラーゲン繊維に内包することができる。可溶化コラーゲン水溶液に含まれる付加成分が複数種であると凝固性が低下して良好な繊維が得られ難い場合もあるので、複数種の付加成分を可溶化コラーゲン繊維に配合する場合は、各成分を内包する複数種の可溶化コラーゲン繊維を紡糸した後にこれらの繊維を所望の割合で混合すれば、実質的に同等のものが得られ、容易に調製できる。又、付加成分を含まないコラーゲン単独繊維を適宜加えることによって、繊維全体として付加成分の割合を調整することもできる。
【0028】
可溶化コラーゲン繊維のpHが化粧料を調合する水性液のpHに近いほど、水性液へ溶け易くなる。故に、紡糸に用いる可溶化コラーゲン水溶液のpHは、化粧料用水性液のpHに近いことが望ましい。概して、化粧料は弱酸性〜中性であるので、これを考慮すると、可溶化コラーゲン水溶液のpHが等イオン点より大きいことが好ましく、pH5.5以上の範囲に調整すると、紡糸したコラーゲン繊維は市販の化粧水や美容液に素早く溶解するので、使用者が任意に使用している化粧料にコラーゲンを簡単に配合することができる。逆にコラーゲン繊維のpHが等イオン点よりも小さい場合には、弱酸性〜中性に移行する途中で等イオン点を通過するため、コラーゲンが等イオン点付近で沈殿をおこすので、溶解時間が著しく長くなってしまう。従って、可溶化コラーゲン水溶液のpHを適正に調節し、pH5.5以上、好ましくはpH5.5〜10.0程度、より好ましくはpH6.0〜8.0程度のコラーゲン水溶液を紡糸するのがよい。pHが5.5以上の可溶化コラーゲン水溶液から紡糸した可溶化コラーゲン繊維は、脱イオン水にコラーゲン繊維を0.5質量%(無水量換算)の割合で溶解した時のpHが5.5以上となり、可溶化コラーゲンの等イオン点より低いpHのコラーゲン水溶液から紡糸した場合と異なる(繊維を溶解した時pH4.0〜4.5になる)ので、中性付近の水への溶解速度だけでなく、溶解した時のpHによっても容易に区別できる。
【0029】
可溶化コラーゲン水溶液のpH上限については、最終的にコラーゲン繊維を水性溶媒に溶解して化粧料としたときにこの化粧料のpHが9.0を超えない範囲であればよいので、pH10程度以下であればよいが、コラーゲン繊維を添加したことによる化粧料のpH変動を小さくするためには、pH8.0以下とするのが好ましい。紡糸用コラーゲン水溶液のpHの調整に使用するアルカリがNaOHのみであると、可溶化コラーゲン水溶液の粘度が高くなり易い。粘度の上昇は、コラーゲン水溶液を入れたタンクからノズルへの送液や、前述のような小径の孔からコラーゲン水溶液を吐出する際のノズルの通液を困難にする。この点に関し、pH調整において硫酸ナトリウム等の無機塩や乳酸ナトリウム等の有機酸塩を添加すると、粘度上昇が抑制されるので好ましい。有機酸塩には有機溶媒に溶解性のあるものと難溶又は不溶性のものとがあり、難溶又は不溶性の塩を使用すると、可溶化コラーゲン水溶液を有機溶媒中に吐出した際に析出するので、繊維内部に残存したりコラーゲン繊維の乾燥時に粉末状に付着しないように、有機溶媒に溶解性のある塩を使用する。具体的には、紡糸用の有機溶媒としてアルコールを用い、乳酸ナトリウム等のアルコールに溶解する塩をpH調整に使用することによって、塩を溶媒と共にコラーゲン繊維から除去できる。又、乾燥前のコラーゲン繊維を親水性有機溶媒に浸漬する際にもアルコールを用いることによりpH調整用の有機酸塩は除去できる。紡糸及び浸漬時の有機溶媒は、原料コラーゲンに由来する有機性不純物を除去する機能も有するので有益である。
【0030】
尚、付加成分の配合量は水溶液のpHを変動させるほど多くはないので、付加成分の添加は、可溶化コラーゲン水溶液のpH調整の前後何れでもよいが、可溶化コラーゲンの溶解安定性の観点から、pHを調整した可溶化コラーゲン水溶液に付加成分を添加するのが好ましい。
【0031】
上述において、吐出孔の形状及びコラーゲン繊維の断面は円形として説明しているが、繊維の表面積を増加させることによって水性溶媒への溶解性が改善されるので、繊維の断面形状を規定する吐出孔の形状は円形に限らず、楕円、多角形や星形等のような複雑な断面形状を有する可溶化コラーゲン繊維が形成されるように吐出孔を変形したり、コラーゲン繊維表面に凹凸、切欠き、溝等を設けることも可能である。但し、延伸において切断され易くなることを考慮する必要がある。
【0032】
上述の製造方法に従って製造される可溶化コラーゲン繊維は細いので、水への溶解性が極めて良好であり、化粧料として使用する際の水性液への溶解速度が飛躍的に向上する。平均繊度が約10dtx以下の範囲では、30秒以内で溶解(均一分散)可能である。紡糸に用いた可溶化コラーゲン水溶液に含まれる付加成分は、有機溶媒に溶解せず、ほぼ全量が可溶化コラーゲン繊維内に取り込まれた状態で固化し、繊維内部に付加成分が包含された可溶化コラーゲン繊維は、コラーゲン単独の繊維と同様に迅速に水に溶解する。
【0033】
平均繊度が約15dtx以下の細いコラーゲン繊維は、バラバラの短繊維状態であると、こぼれた繊維の回収が煩わしい等の取り扱い上の難点があるが、綿状の塊であると取り扱いが容易であり、取分け等も簡便に行える。コラーゲン繊維が綿状になるためには、繊維がある程度以上の長さを有するか、あるいは、捲縮によって絡合性を付与することが要点となる。コラーゲン綿を形成可能な非捲縮コラーゲン繊維の長さは約2.5cm以上である。但し、取り分け時の計量精度を考慮すると、10cm以下、好ましくは3.5cm以下が良い。捲縮した繊維の場合はかなり短くても綿状になり、少なくとも10mm以上の長さがあればよい。取り扱い易いコラーゲン綿を形成するには、コラーゲン繊維に自然な縮れがあればよく、捲縮率が5〜20%程度であると好ましい。紡糸した可溶化コラーゲン繊維に引っ張り負荷をかけずに緊張のない状態で乾燥すると、自然な縮れによる捲縮がコラーゲン繊維にかかり、好適に捲縮できる。
【0034】
平均繊度が約15dtx以下の細いコラーゲン繊維が緩く絡み合ったコラーゲン綿は、摩擦が少なく滑らかで、柔軟性が高く、圧縮に対する回復力が大きいので、極めて触感が良い。5質量%程度以下の付加成分が内包されていても、繊維の触感等は殆ど影響を受けない。綿を構成する繊維の繊度が大きくなると、摩擦が大きくなり、柔軟性及び圧縮に対する回復力も低下する。
【0035】
コラーゲン綿を簡便に製造できる製造方法の一実施形態を以下に説明する。
【0036】
先ず、前述に従って、可溶化コラーゲンに対して5質量%以下の割合で付加成分を含有する可溶化コラーゲン水溶液を調製し、紡糸においては多数の吐出孔を有するシャワーヘッド様のノズルを用いて、有機溶媒中に吐出しながら吐出速度以上の巻き取り速度で巻き取ることにより、30dtx程度以下の多数の可溶化コラーゲン繊維の束を形成する。これを親水性有機溶媒に浸漬して繊維の含水量を低下させた後に、繊維束に引っ張り負荷をかけずに乾燥することによって、捲縮した可溶化コラーゲン繊維の束が得られる。この繊維束を適度な長さに切断しながら解繊することにより可溶化コラーゲン綿が得られる。
【0037】
あるいは、上述の可溶化コラーゲン綿の製造における乾燥を、引っ張り負荷をかけながら行って直繊維の束を得て、繊維長が約2.5cm以上となるように切断しながら繊維束を解繊してもよい。同じ太さのコラーゲン繊維であっても、綿状に解繊したものの方が繊維束状のものよりも速く水性溶媒に溶解する。
【0038】
得られた可溶化コラーゲン綿は、必要に応じて取り分けることが容易であるので、綿塊のまま製品として提供しても良いが、1回の使用量として10mg程度づつ個別包装すると、簡便且つ清潔に使用でき、携帯性もよい。
【0039】
図1は、上述のような可溶化コラーゲン繊維を製造する製造装置の一例を示す。この製造装置1は、有機溶媒S1としてイソプロパノールを収容する第1溶媒槽3と、付加成分を含有する可溶化コラーゲン水溶液Aを収容するピストンタンク5と、可溶化コラーゲン水溶液Aを有機溶媒S1中に吐出するための複数の吐出孔を有するノズル7と、ピストンタンク5からノズル7ヘ可溶化コラーゲン水溶液Aを供給するためのギアポンプ9と、紡糸された可溶化コラーゲン繊維を所定の巻き取り速度で巻き取る巻き取りロール11と、親水性有機溶媒S2としてイソプロパノールを収容する第2溶媒槽13とを有する。ピストンタンク5とノズル7とは、ギアポンプ9を介してプラスチック製導管によって接続される。この例では、第1溶媒槽3は、所定の長さを有する細長い形状を有し、ノズル7は、吐出孔を水平方向に向けて第1溶媒槽3内の一端側に設置され、ノズル7から吐出されるコラーゲン水溶液が有機溶媒S1中を第1溶媒槽3の長さ方向に沿って他端側へ水平に移動可能なように構成される。
【0040】
図1の製造装置1において、ピストンタンク5のピストンを圧搾空気によって押圧しギアポンプ9を作動させると、可溶化コラーゲン水溶液Aはピストンタンク5からノズル7へ供給され、ノズル7の複数の円形の吐出孔から第1溶媒槽3内の有機溶媒S1中に吐出される。有機溶媒S1との接触によって、吐出される可溶化コラーゲンの外周面から内部へ向かって凝固が進行して繊維化しつつ水平方向に伸長することによって、ノズル7から複数の可溶化コラーゲン繊維が束状に紡糸され、付加成分は繊維内に保持される。伸長する可溶化コラーゲン繊維Fの束は、第1溶媒槽3の他端側のプーリーを介して有機溶媒S1から引き上げられて、巻き取りロール11によって巻き取られる。この際、巻き取りロール11の巻き取り速度がノズル7の吐出速度以上になるように設定することによって、紡糸される可溶化コラーゲン繊維Fは凝固中に延伸されて平均繊度が30dtx以下の細い繊維となる。コラーゲンの凝固にはある程度の時間を要し、少なくとも外周部が凝固する間、つまり、紡糸及び延伸がなされる間は、有機溶媒との接触が維持されることが望ましい。凝固に要する時間は紡糸される繊維の繊度等によっても変わるが、本発明の付加成分を内包する可溶化コラーゲン繊維の場合は概して10〜15秒程度であり、紡糸中のコラーゲン繊維と有機溶媒S1との接触がこの間維持されるように第一溶媒槽3の寸法が設定される。例えば、巻き取り速度が3m/分程度の場合、第一溶媒槽の長さは70cm程度以上となる。
【0041】
紡糸された可溶化コラーゲン繊維Fの束は、巻き取りロール11から第2溶媒槽13に投入されて親水性有機溶媒S2に浸漬され、可溶化コラーゲン繊維F中に残存する水分の大半が溶媒中に浸出し、繊維内部の凝固も完了する。
【0042】
含水量が減少した可溶化コラーゲン繊維Fは、第2溶媒槽13から取り出して、無菌空気を用いた空気乾燥や減圧留去によって乾燥すれば、繊維どうしが付着することなく、化粧料の調合に好適に使用できる可溶化コラーゲン繊維が得られる。この際、可溶化コラーゲン繊維Fの束に引っ張り負荷をかけずに乾燥すると、捲縮した可溶化コラーゲン繊維が得られ、乾燥後に適度に解繊することによって可溶化コラーゲン綿が得られる。引っ張り負荷によって捲縮しない場合においても、繊維の長さが2.5cm以上であれば絡合性があり、適正な長さの繊維束を解繊することにより可溶化コラーゲン綿が得られる。
【0043】
可溶化コラーゲン繊維を紡糸するにつれて、有機溶媒S1及び親水性有機溶媒S2の含水率が上昇するので、有機溶媒S1及び親水性有機溶媒S2を新しい溶媒に交換して含水率を所定値以下に維持する必要がある。溶媒交換は、ポンプ等を用いて行えばよいが、溶媒の含水率を検出する測定装置及び駆動制御装置を用いて溶媒の溶媒槽への供給及び排出を制御することによって自動化できる。又、第1溶媒槽3から引き上げられる可溶化コラーゲン繊維F中の水は、延伸に伴って巻き取りロール11に圧接する際に繊維外に若干排出されるが、巻き取りロール11と第2溶媒槽13との間にローラー等の押圧手段を設けて可溶化コラーゲン繊維Fを軽く圧搾すると更に除去できるので、第2溶媒槽13における親水性有機溶媒S2の水分増加が緩和され、溶媒交換の頻度を減らすことが可能である。
【0044】
また、第1溶媒槽3中の有機溶媒S1を一定速度で緩やかに流動させると、コラーゲン水溶液からの水の拡散が安定化し、紡糸される繊維の均質性が向上する。例えば、コラーゲン水溶液の吐出方向と順方向又は逆方向に一定速度で有機溶媒S1が流れるようにポンプ等を用いて有機溶媒の供給/排出を行って、第1溶媒槽3から排出される有機溶媒中の水を濾過膜等で除去した後に第1溶媒槽3に還流するように構成すると、安定した紡糸を連続して行うことができる。更に、上述の実施形態の変形として、溶媒槽中での紡糸に代えて、ノズルから吐出する可溶化コラーゲン水溶液に有機溶媒を噴霧して凝固させるような紡糸を行うことも可能である。但し、吐出方向と交差する方向の力がコラーゲン水溶液に加わると紡糸中のコラーゲン繊維が切断されるので、繊維を切断しないように有機溶媒の噴霧方向や噴霧形態について留意することが望ましい。
【0045】
上述の方法により得られる可溶化コラーゲン綿は、コラーゲンを溶解した状態でのpHがコラーゲンの等イオン点から外れるような水を主体とする液体に接触・混合すれば、素早く溶解してコラーゲン及び付加成分を含有する化粧料となる。従って、基本的に水のみであってよい。その他の機能性成分を含有する化粧料用の水性液を用いれば、多数の成分を含んだコラーゲン化粧料となる。純水に対する溶解性はコラーゲン自体の緩衝作用によって低下するが、この点は、電解質の存在によって解消され、電解質は、コラーゲン繊維に含まれていても良くいので、電解質を含む可溶化コラーゲン水溶液を用いてコラーゲン繊維を調製すると、電解質を含有する可溶化コラーゲン繊維が得られる。この点に関して、可溶化処理後の脱塩が完全でないために塩が残存する可溶化コラーゲンを原料として使用することは、本発明においては許容される。また、化粧料を調製するための水性液に、酸、塩基、中和塩、緩衝塩等の電解質を少量添加することにより水性液への溶解性が向上する。特に、クエン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、燐酸ナトリウム等の弱酸性〜中性にpHを安定させる緩衝塩(つまり弱酸と強塩基との塩)を水性液に添加して水性液のpHを約5.5〜9.0にすると、コラーゲン繊維の溶解を安定化でき、平均繊度が10dtx程度以下のコラーゲン繊維は30秒以内で容易に溶解することができる。但し、過剰の塩は、塩析作用によりコラーゲンを水性液に溶け難くする。
【0046】
又、水性液へのコラーゲンの溶解を妨げない範囲で、必要に応じて、化粧料に一般的に添加される種々の成分を水性液へ添加でき、例えば、ブタンジオール、ペンタンジオール、グリセロール、尿素等の保湿剤、p−ヒドロキシ安息香酸メチル、フェノキシエタノール等の保存料(防腐剤)、アロエエキス等の植物抽出物、エタノール等のアルコール系溶剤、紫外線吸収剤、ビタミン類、抗炎症剤、オリーブ油等の油脂類、脂肪酸類などや、美白成分、アンチエージング成分等の美容上の効能を有する各種機能成分が挙げられる。得られる化粧料のコラーゲン含有量が0.01〜10質量%程度、特に0.1〜3質量%程度となるようにコラーゲン繊維と水性液とを組み合わる割合を設定すると、均一に溶解した化粧料が迅速に得られ、化粧料として好適に作用するので好ましい。
【0047】
上述の水性液の要件によれば、市販の化粧水や化粧液なども水性液に包含され、本願における可溶化コラーゲン繊維及び綿は、市販の化粧水や化粧液にも素早く溶解する。従って、使用者は、好みに応じて水、化粧水、化粧液等から選択し、これとコラーゲン繊維又は綿とを合わせることによって簡単にコラーゲン化粧料を調製できる。つまり、使用者の要望を満足するコラーゲン化粧料を新鮮な状態で使用者に随時提供することが可能であり、使用者の肌質に応じて好適な化粧料に調合できる。従来のコラーゲン化粧料のような冷温保存も不要であり、化粧料の調合に要する時間が短かいので、使用に際して時間的な制限がなく、使用者のニーズに従って適時使用することができる。
【0048】
溶解した後のコラーゲン化粧料は通常の水溶液状態のコラーゲン化粧料と同様に変性し易い。しかし、前述の可溶化コラーゲン繊維の調製において有機溶媒としてアルコールを用いた処理はコラーゲンの殺菌効果があるので、無菌空気での乾燥を経て得られる可溶化コラーゲン繊維は雑菌に汚染されていない。しかも、乾燥状態の可溶化コラーゲンは、溶液状態のものに比べて細菌やカビの繁殖が著しく抑制されるので、流通時の防腐のための処置を軽減できる。故に、保存料などを実質的に含まないコラーゲン化粧料の使用が可能である。
【0049】
更に、化粧料用の水性液についても、栄養価の高いコラーゲンから分離されているので保存料の添加量を少なくでき、防腐処置を軽減することができる。又、水性液は、コラーゲンに比べて滅菌が容易であるので、水性液を滅菌して無菌充填することにより防腐剤の添加が不要になる。
【0050】
本発明の可溶化コラーゲン繊維又は綿は、単独で販売したり、化粧料用の水性液と共に、個別の容器に各々封入して組み合わせて提供することができる。1回の使用量づつ分包することにより使用時の計量の手間が省略されるので、水性液の必要量を示す目盛りを付した容器に1回分の可溶化コラーゲン繊維又は綿を封入して提供すれば、使用者が化粧水等を用いて化粧料を調合する際の計量が簡単であり、常に好適な化粧料が得られる。本発明の可溶化コラーゲン繊維は、保湿剤等の付加成分を含んでいるので、コラーゲン繊維又は綿が収容された容器に水を加えるだけで、コラーゲンと保湿剤とを含んだ化粧料が簡単且つ迅速に得られる。従って、1回分の可溶化コラーゲン繊維又は綿を、コラーゲン含有量が0.01〜10質量%の可溶化コラーゲン水溶液の調製に必要な量の水を収容可能な容量の容器に封入すると、使用時に開封して容器の目盛りに従って水を加えるだけで、使い切り量の新鮮且つ保湿機能の高いコラーゲン化粧料が得られ、携帯用コラーゲン化粧料として非常に利便性が高い。また、軽く力を加えることによって破断可能な仕切り片で遮断された2つの収容区画を有する軟質容器に、化粧料用水性液と可溶化コラーゲン繊維又は綿とを個別に封入し、仕切り片を破断してこれらを接触・混合するように構成してもよく、簡単に使用でき、混合割合を調節する必要もない。
【0051】
ヒアルロン酸やアルギン酸等の保湿成分を内包する可溶化コラーゲン繊維は、水に溶解して化粧料に調製した時の触感が向上し、可溶化コラーゲン単独繊維の場合に比べて、滑らか、馴染みが良い、濃厚、リッチな感じ、コクがある、しっとり感がある等の感触が得られ、保湿性も高くなる。
【0052】
以下に、本発明の化粧料及びその製造について、実施例を参照して更に詳細に説明する。
【実施例1】
【0053】
下記に従って可溶化コラーゲン繊維の試料を作成し、溶解に要する時間を測定した。尚、可溶化コラーゲン繊維の等イオン点は次のように確認した。
【0054】
(等イオン点の測定)
予め活性化及び洗浄した陽イオン交換樹脂(アンバーライトIPR−120B、オルガノ(株)社製)と陰イオン交換樹脂(アンバーライトIPA−400、オルガノ(株)社製)とを2:5の割合で混合して混床イオン交換体を調製した。混床イオン交換体100mlを脱イオン水で平衡化させた後、タンパク質濃度が5%になるように調製した試料溶液を50ml加えて、40℃の水浴中に保持して30分間穏やかに攪拌して混合し、混合液から上澄みを分離して上澄みのpHを測定して、その値を等イオン点とした(J.W.Janus, A.W.Kenchington and A.G. Ward, Research, 4247(1951)に記載される方法を参考とした)。
【0055】
(試料1)
<可溶化コラーゲン水溶液の調製>
ブタの塩蔵皮を原料として、石灰漬けを行った。詳細には、半裁したブタの塩蔵皮1枚(約4kg)を3cm角程度の皮片に裁断し、その質量に対して300%の水及び0.6%の非イオン性界面活性剤を加えて攪拌することによって皮片を洗浄し、皮片を回収した。次いで、皮片質量に対して300%の水、0.6%の非イオン性界面活性剤及び0.75%の炭酸ナトリウムを加えて2時間攪拌して皮片を回収した。更に、皮片質量に対して700%の水を用いた洗浄を、回収した皮片に対して2回行った後、皮片質量に対して300%の水、0.15%の非イオン性界面活性剤、3.6%の水硫化ナトリウム、0.84%の硫化ナトリウム及び2.4%の水酸化カルシウムを加えて16時間攪拌し、皮片を回収して、皮片質量に対して700%の水を用いた洗浄を3回行った。
【0056】
水酸化ナトリウム6質量%、硫酸ナトリウム15質量%及びモノメチルアミン1.25質量%を含有する水溶液8000gを調製し、上記皮片2000g(乾燥質量として約500g)を投入してよく攪拌混合した。これを密閉容器中で25℃に保持して5日間イキュベートすることによりコラーゲンを可溶化した。水溶液を穏やかに攪拌しながら水溶液中のアルカリと等量の硫酸を少量ずつ滴下して中和し、pHを4.8に調整した。中和後の皮片を取り出し、圧搾して液を除去し、pH5.0の乳酸水溶液約8000gを用いて30分間攪拌した後、皮片を圧搾して脱水した。この操作をさらに4回繰り返して行い、十分に脱塩した。中和の段階で皮片は可溶化コラーゲンの等イオン点付近のpHに調整されているため、コラーゲンは可溶化されているが、脱塩操作の後もほとんど水に溶解せず皮片の形状を保持していた。
【0057】
脱塩後の皮片のコラーゲン含有量をキエルダール法による総窒素測定の結果から算出し、このコラーゲン含有量に基づいて、脱塩後の皮片からコラーゲン質量200gに相当する分量を取分け、コラーゲン濃度が5.0質量%、乳酸ナトリウム濃度が1.2質量%となるように水及び乳酸ナトリウムを加えてよく混練し、可溶化コラーゲン水溶液4000gを得た。次いで、少量の20%水酸化ナトリウム水溶液を加えて混練することによりpHを6.9に調整した。
【0058】
<可溶化コラーゲン繊維の製造>
図1に示す構造の製造装置1のタンク5に、上述で得た可溶化コラーゲン水溶液4000gを収容し、長さが3m、幅10cmの第1溶媒槽3に有機溶媒としてイソプロパノール18Lを収容した。ギアポンプ9を作動させて、水平方向に向けられたノズル7の吐出孔(孔径:0.10mm、孔数:1000)から可溶化コラーゲン水溶液を23g/分の割合(吐出速度:2.9m/分)で有機溶媒に吐出させた。イソプロパノール中で紡糸された可溶化コラーゲン繊維の束は、巻き取りロール11によって2.5m/分の巻き取り速度(ドラフト:0.86)で巻き上げ、イソプロパノール5.0Lを収容した第2溶媒槽13に浸漬した。
【0059】
第2溶媒槽13中の可溶化コラーゲン繊維の束を引き上げ、90cm程度に切断して水平な棒にかけて、無荷重で緊張がかからない状態で無菌空気を送風して十分乾燥することにより、平均繊度が7.0dtx(但し、繊維の両端10mを除く)で自然な捲縮がある可溶化コラーゲン繊維の束50g(等イオン点:pH4.9)を得た。尚、繊度は、繊度計(DENIEL COMPUTER DC-11A、SEARCH CO. LTD社製)を用いて、20℃、65%RHの環境下で1サンプル当たり20本測定し、平均値を算出した。この可溶化コラーゲン繊維を脱イオン水に溶解した0.5質量%溶液のpHは7.0であった。又、可溶化コラーゲン繊維中の脂質量をJIS K6503:(2001)5.6「油脂分」のヘキサン抽出法に従って測定したところ、0.1質量%未満であった。
【0060】
<化粧料の調合>
前述の可溶化コラーゲン繊維の束を35mmの長さに切断して、ドラムカード機を用いて解繊してコラーゲン綿を調製し、以下の化粧料の調合に用いた。
【0061】
手のひら上でコラーゲン綿サンプル10mgに局方精製水1gを加えて指先で馴染ませて溶かし、コラーゲンサンプルが完全に溶解するまでの時間を計測した。各サンプルについて、計測は5回繰り返し、得られた計測値から平均値を求めた。結果を表1に示す。
【0062】
(試料2)
<可溶化コラーゲン水溶液の調製>
試料1の可溶化コラーゲン水溶液の調製において、脱塩後の皮片から可溶化コラーゲン水溶液を調製する際に使用する水量を減らして総量を3994gとし、20%水酸化ナトリウム水溶液を用いたpH調整後にヒアルロン酸ナトリウム(キューピー株式会社製ヒアルロンサンHA-LQ)6g(コラーゲンに対して3質量%)を配合したこと以外は試料1と同じ操作を繰り返して可溶化コラーゲン水溶液約4000g(pH6.9)を得た。
【0063】
<可溶化コラーゲン繊維の製造>
上記可溶化コラーゲン水溶液を用いて、試料1と同じ操作によって可溶化コラーゲン繊維の束を製造したところ、得られた繊維の収量はほぼ同じで、平均繊度は8dtxであった。この可溶化コラーゲン繊維を脱イオン水に溶解した0.5質量%溶液のpHは6.8であった。この可溶化コラーゲン繊維のヒアルロン酸含有量をカルバゾール−硫酸法(ウロン酸定量法、参考:Bitter T. and Muir H.M.(1962), Anal. Biochem., 4, 330)に従って定量したところ、2.9質量%であった。
【0064】
尚、紡糸及び洗浄に用いた第1及び第2溶媒槽のイソプロパノールを目視により確認したところ、ヒアルロン酸の沈澱は認められなかった。
【0065】
<化粧料の調合>
得られた可溶化コラーゲン繊維の束を35mmの長さに切断して、ドラムカード機を用いて解繊してコラーゲン綿を調製し、コラーゲンサンプルとして、試料1と同様に化粧料の調合に用いてコラーゲンサンプルが完全に溶解するまでの時間を計測した。結果を表1に示す。
【0066】
(試料3)
<可溶化コラーゲン水溶液の調製>
試料1の可溶化コラーゲン水溶液の調製において、脱塩後の皮片から可溶化コラーゲン水溶液を調製する際に使用する水量を減らして総量を3998gとし、20%水酸化ナトリウム水溶液を用いたpH調整後にアルギン酸ナトリウム(キミカ株式会社製キミカアルギンI−1)2g(コラーゲンに対して1質量%)を配合したこと以外は試料1と同じ操作を繰り返して可溶化コラーゲン水溶液約4000g(pH6.9)を得た。
【0067】
<可溶化コラーゲン繊維の製造>
上記可溶化コラーゲン水溶液を用いて、試料1と同じ操作によって可溶化コラーゲン繊維の束を製造したところ、得られた繊維の収量はほぼ同じで、平均繊度は7.1dtxであった。この可溶化コラーゲン繊維を脱イオン水に溶解した0.5質量%溶液のpHは6.9であった。この可溶化コラーゲン繊維のアルギン酸含有量を、繊維の調製に用いたアルギン酸ナトリウムを標準物質として用いてカルバゾール−硫酸法(ウロン酸定量法、参考:Bitter T. and Muir H.M.(1962), Anal. Biochem., 4, 330)に従って定量したところ、1.0質量%であった。
【0068】
尚、紡糸及び洗浄に用いた第1及び第2溶媒槽のイソプロパノールを目視により確認したところ、アルギン酸の沈澱は認められなかった。
【0069】
<化粧料の調合>
得られた可溶化コラーゲン繊維の束を35mmの長さに切断して、ドラムカード機を用いて解繊してコラーゲン綿を調製し、コラーゲンサンプルとして、試料1と同様に化粧料の調合に用いてコラーゲンサンプルが完全に溶解するまでの時間を計測した。結果を表1に示す。
【0070】
(試料4)
<可溶化コラーゲン水溶液の調製>
試料1の可溶化コラーゲン水溶液の調製において、脱塩後の皮片から可溶化コラーゲン水溶液を調製する際に使用する水量を減らして総量を3996gとし、20%水酸化ナトリウム水溶液を用いたpH調整後にヒアルロン酸ナトリウム2g及びアルギン酸ナトリウム2g(各々、コラーゲンに対して1質量%)を配合したこと以外は試料1と同じ操作を繰り返して可溶化コラーゲン水溶液約4000g(pH7.0)を得た。
【0071】
<可溶化コラーゲン繊維の製造>
上記可溶化コラーゲン水溶液を用いて、試料1と同じ操作によって可溶化コラーゲン繊維の束を製造したところ、得られた繊維の収量はほぼ同じで、平均繊度は6.8dtxであった。この可溶化コラーゲン繊維を脱イオン水に溶解した0.5質量%溶液のpHは7.3であった。
【0072】
尚、紡糸及び洗浄に用いた第1及び第2溶媒槽のイソプロパノールを目視により確認したところ、ヒアルロン酸及びアルギン酸の沈澱は認められなかった。
【0073】
<化粧料の調合>
得られた可溶化コラーゲン繊維の束を35mmの長さに切断して、ドラムカード機を用いて解繊してコラーゲン綿を調製し、繊維束及び綿の各々をコラーゲンサンプルとして、試料1と同様に化粧料の調合に用いてコラーゲンサンプルが完全に溶解するまでの時間を計測した。結果を表1に示す。
【0074】
(試料5)
<可溶化コラーゲン水溶液の調製>
試料1の可溶化コラーゲン水溶液の調製において、脱塩後の皮片から可溶化コラーゲン水溶液を調製する際に使用する水量を減らして総量を3986gとし、20%水酸化ナトリウム水溶液を用いたpH調整後にヒアルロン酸ナトリウム(キューピー株式会社製ヒアルロンサンHA-LQ)14g(コラーゲンに対して7質量%)を配合したこと以外は試料1と同じ操作を繰り返して可溶化コラーゲン水溶液約4000g(pH6.9)を得た。
【0075】
<可溶化コラーゲン繊維の製造>
上記可溶化コラーゲン水溶液を用いて、紡糸時の吐出速度を17.5g/分(2.2m/分)、巻き取り速度を2m/分(ドラフト:0.91)とした以外は試料1と同じ操作によって可溶化コラーゲン繊維の束を製造したところ、得られた繊維の収量はほぼ同じで、平均繊度は11.4dtxであった。この可溶化コラーゲン繊維を脱イオン水に溶解した0.5質量%溶液のpHは6.8であった。この可溶化コラーゲン繊維のヒアルロン酸含有量を試料2と同様にカルバゾール−硫酸法に従って定量したところ、6.8質量%であった。
【0076】
尚、紡糸及び洗浄に用いた第1及び第2溶媒槽のイソプロパノールを目視により確認したところ、ヒアルロン酸の沈澱は認められなかった。
【0077】
<化粧料の調合>
得られた可溶化コラーゲン繊維の束を35mmの長さに切断して、ドラムカード機を用いて解繊してコラーゲン綿を調製し、コラーゲンサンプルとして、試料1と同様に化粧料の調合に用いてコラーゲンサンプルが完全に溶解するまでの時間を計測した。結果を表1に示す。
【0078】
(試料6)
<可溶化コラーゲン水溶液の調製>
試料1の可溶化コラーゲン水溶液の調製において、脱塩後の皮片から可溶化コラーゲン水溶液を調製する際に使用する水量を減らして総量を3986gとし、20%水酸化ナトリウム水溶液を用いたpH調整後にアルギン酸ナトリウム(キミカ株式会社製キミカアルギンI−1)14g(コラーゲンに対して7質量%)を配合したこと以外は試料1と同じ操作を繰り返して可溶化コラーゲン水溶液約4000g(pH6.8)を得た。
【0079】
<可溶化コラーゲン繊維の製造>
上記可溶化コラーゲン水溶液を用いて、試料1と同じ操作によって可溶化コラーゲン繊維の束を製造したところ、得られた繊維の収量はほぼ同じで、平均繊度は7.5dtxであった。この可溶化コラーゲン繊維を脱イオン水に溶解した0.5質量%溶液のpHは6.9であった。この可溶化コラーゲン繊維のアルギン酸含有量を、試料3と同様にしてカルバゾール−硫酸法に従って定量したところ、6.9質量%であった。
【0080】
尚、紡糸及び洗浄に用いた第1及び第2溶媒槽のイソプロパノールを目視により確認したところ、アルギン酸の沈澱は認められなかった。
【0081】
<化粧料の調合>
得られた可溶化コラーゲン繊維の束を35mmの長さに切断して、ドラムカード機を用いて解繊してコラーゲン綿を調製し、コラーゲンサンプルとして、試料1と同様に化粧料の調合に用いてコラーゲンサンプルが完全に溶解するまでの時間を計測した。結果を表1に示す。
【0082】
(試料7)
<化粧料の調合>
試料5の可溶化コラーゲン繊維の束20gと、試料6の可溶化コラーゲン繊維の束20gとを各々35mmの長さに切断した後よく混ぜ合わせ、ドラムカード機を用いて解繊してコラーゲン綿を調製し、コラーゲンサンプルとして、試料1と同様に化粧料の調合に用いてコラーゲンサンプルが完全に溶解するまでの時間を計測した。結果を表1に示す。
【0083】
(コラーゲン繊維の評価)
表1によれば、試料2〜6の付加成分を内包する可溶化コラーゲン繊維は、試料1の付加成分を含まない可溶化コラーゲン繊維と比べても、溶解に要する時間はさほど変わらず、30秒以内で簡単に溶解する。付加成分の存在がコラーゲンの溶解に与える影響はさほど大きくないと考えられ、むしろ溶解を促進する場合も有り得る。
【0084】
又、試料7のようにヒアルロン酸のみを添加した繊維と、アルギン酸のみを添加した繊維とを混合すると、試料4の両成分を添加した繊維と実質的に同等のものが得られる。この形態は、目的に応じて任意の成分の組み合わせを任意の割合で容易に配合することが出きるので極めて有利である。更に、内包成分を含まないコラーゲン単独の繊維を混合することによって、コラーゲン綿全体における内包成分の配合量を調整することも可能である。
【0085】
(表1)
溶解に要する時間(秒)
平均値
試料1(7.0dtx) 18
試料2(8.0dtx) 16
試料3(7.1dtx) 15
試料4(6.8dtx) 18
試料5(11.4dtx) 19
試料6(7.5dtx) 20
試料7(9.5dtx) 20
【実施例2】
【0086】
実施例1で調製した試料1の化粧料を対照品として、試料2〜7の化粧料の使用感触をパネラー10名による官能評価によって調べた。評価項目は、「馴染み」、「しっとり感」及び「使用満足度」の3項目とし、対照品と比較して、10名中8名以上が対照品より良好とした場合を「A」、10名中6〜7名が対照品より良好とした場合を「B」、10名中4〜5名が対照品より良好とした場合を「C」、10名中3名以下が対照品より良好とした場合を「D」と評価した。各項目の評価結果を表2に示す
表2によれば、ヒアルロン酸及びアルギン酸の何れを配合した場合も、化粧料の使用感触が向上し、これらの配合が有効であることがわかる。パネラーの聞き取り調査では、試料1と比べた感触として、滑らか、馴染みが良い、濃厚な感じ、リッチな感じ、コクがある、しっとり感がある、もったり感があるといった感想が得られている。
【0087】
(表2)
可溶化コラーゲンの使用感触
馴染み しっとり感 使用満足度
試料2 B B C
試料3 C B C
試料4 A B B
試料5 C B A
試料6 C B B
試料7 B B A
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明における可溶化コラーゲン繊維を製造するための装置の一例を示す概略構成図。
【符号の説明】
【0089】
1 製造装置、3 第1溶媒槽、5 ピストンタンク、7 ノズル、
9 ギアポンプ、11 巻き取りロール、13 第2溶媒槽、
S1 有機溶媒、S2 親水性有機溶媒、A 可溶化コラーゲン水溶液、
F 可溶化コラーゲン繊維

【特許請求の範囲】
【請求項1】
常温で固体の保湿剤を内包する可溶化コラーゲン繊維。
【請求項2】
前記保湿剤は、可溶化コラーゲンに対して10質量%未満の割合で内包され、前記保湿剤は、ヒアルロン酸及びアルギン酸からなる群より選択される酸又はその塩である請求項1記載の可溶化コラーゲン繊維。
【請求項3】
可溶化コラーゲンの等イオン点がpH5.0以下であり、平均繊度が30dtx以下である請求項1又は2記載の可溶化コラーゲン繊維。
【請求項4】
平均繊維長が2.5cm以上で、綿状に絡み合い、脱イオン水に0.5質量%の割合で溶解した時のpHが5.5以上を示すことを特徴とする、水性液に溶解してコラーゲン化粧料を調製するための請求項1〜3の何れかに記載の可溶化コラーゲン繊維。
【請求項5】
等イオン点がpH5.0以下である可溶化コラーゲンと保湿剤とを含有し、前記可溶化コラーゲンの等イオン点よりpHが大きい可溶化コラーゲン水溶液を調製する工程と、
前記可溶化コラーゲン水溶液を有機溶媒中に糸状に吐出し可溶化コラーゲンを凝固させて繊維化する紡糸工程と、
紡糸された可溶化コラーゲン繊維を乾燥する乾燥工程と
を有することを特徴とする可溶化コラーゲン繊維の製造方法。
【請求項6】
前記紡糸工程において、複数の前記可溶化コラーゲン繊維が束状に紡糸され、更に、前記乾燥工程の後に、束状の前記可溶化コラーゲン繊維を所定の長さに切断する工程と、束状の前記可溶化コラーゲン繊維を綿状に解繊する工程とを有する請求項5に記載の可溶化コラーゲン繊維の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−214226(P2008−214226A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−51906(P2007−51906)
【出願日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【出願人】(591189535)ミドリホクヨー株式会社 (37)
【Fターム(参考)】