説明

可溶化型印刷インキ用洗浄剤組成物

【課題】印刷用インキの洗浄性に優れると共に、社会的な環境問題や労働衛生問題を解消し、非引火性で安全性を向上し取り扱いやすく、またゴム、樹脂などの耐溶剤性に優れる、可溶化型で容易に水すすぎが可能な印刷インキ用洗浄剤組成物を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表される非イオン性界面活性剤40〜90重量%、植物油1〜15重量%、及び水を含有してなることを特徴とする可溶化型印刷インキ用洗浄剤組成物である。
R−O−(AO)n−H ・・・(1)
(式中、Rは炭素数8〜20の炭化水素基、(AO)は炭素数2〜4のオキシアルキレン基を示す。nはアルキレンオキサイドの平均付加モル数を示し、4〜20である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可溶化型印刷インキ用洗浄剤組成物に関し、特にオフセット印刷機のローラーなどに付着した印刷用インキの洗浄に好適である可溶化型で、容易に水すすぎが可能な印刷インキ用洗浄剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
オフセット印刷機のローラーやブランケットなどに付着したインキや紙粉は、印刷の色替え、定期的なメンテナンス時に洗浄し除去する必要がある。
【0003】
従来、オフセット印刷機の洗浄剤組成物としては、トリクロロエチレンなどに代表される塩素系溶剤類、ガソリン、灯油などに代表される石油系炭化水素類、イソプロピルアルコールなどに代表されるアルコール類、その他にテルペン系炭化水素、グリコールエーテル類、酢酸ブチルなどの有機溶剤などが用いられている。また、アルコール類、グリセリン、水などから構成される水系洗浄剤や、有機アミン、界面活性剤、水などから構成されるアルカリ系洗浄剤、石油系炭化水素、非イオン性界面活性剤、水などから構成されるエマルション系の水系洗浄剤も用いられている。さらに、非イオン性界面活性剤と植物油とからなる洗浄剤も一部で使用されている(例えば、特許文献1〜7参照)。
【0004】
オフセット印刷機のローラーに付着するインキの洗浄除去は、ローラーを回転させながら上記の洗浄剤を滴下しながら直接塗布し、ローラー上のインキと洗浄剤とが一体に混ざり合った状態の洗浄剤をブレード状の板を当てて掻き落として除去し、さらに洗浄剤を数回滴下しローラー表面に残るインキを拭き取り清浄する方法、あるいはウエスに洗浄剤を浸して手で拭き取る方法などが行われていた。また、洗浄後のローラーは洗浄剤単独や溶剤で希釈された洗浄剤ですすぎ洗いされていた。
【特許文献1】特開平8−283629号公報
【特許文献2】特開平8−283790号公報
【特許文献3】特開平9−59695号公報
【特許文献4】特開2003−64284号公報
【特許文献5】特開2005−187673号公報
【特許文献6】特開2005−23196号公報
【特許文献7】特開2005−75926号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、近年、様々な環境問題が発生することから、各種の化学物質に対する規制が強化される中で、揮発性有機化合物に関する規制も強化される方向にあり、2006年以降は揮発性有機化合物の排出が大幅に抑制されるようになり、この規制強化に対する対策が必要とされ、印刷関連設備も例外ではない。
【0006】
オフセット印刷機の洗浄に用いられる上記洗浄剤組成物の殆どは規制対象の揮発性有機化合物に該当し、さらに引火性を有するものや、一部にはオゾン層破壊物質に相当するものがあり、将来的にその使用や扱いが困難になると予測されている。
【0007】
一方、水系洗浄剤であっても、アルコールなどの有機溶剤を含むものは環境安全上好ましくなく、また有機系アルカリ水系洗浄剤は、引火性はないものの、アルカリ性であることから労働衛生上好ましくない。さらに、エマルション系洗浄剤は、洗浄性能を発揮させるために有機溶剤成分を多く配合する必要があり、またその一部では消防法上の指定可燃物(可燃性液体類)に該当し、取り扱いに多大な配慮が必要となる。また界面活性剤と植物油のみからなる洗浄剤は、引火性を有するためやはり取り扱いに十分な配慮が必要となる。
【0008】
また、従来の洗浄剤は有機溶剤を多く含むことから、オフセット印刷機のゴム製ローラーや樹脂部品を膨潤、溶解、収縮させる可能性があり、印刷機の連続操業に支障を来すという問題もある。
【0009】
すすぎについても、有機溶剤や溶剤を多く含む洗浄溶液を使うことから、環境問題や労働衛生面に配慮し、引火性にも十分注意する必要がある。
【0010】
本発明は、上記の諸問題に鑑み、印刷用インキの洗浄性に優れると共に、上記社会的な環境問題や労働衛生問題を解消し、非引火性で安全性を向上し取り扱いやすく、またゴム、樹脂などの耐溶剤性に優れる、可溶化型で容易に水すすぎが可能な印刷インキ用洗浄剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の問題を解決するため鋭意検討した結果、オフセット印刷機などの印刷インキ用洗浄剤組成物として、非イオン性界面活性剤を主成分として相溶性を得、植物油を含むことで印刷インキの溶解性を高めてインキの洗浄性能を向上させることができ、また水を配合することで引火性の問題を解決するとともに、洗浄後は水で洗浄剤を容易にすすぎ落とすことが可能であることを見出した。
【0012】
すなわち、上記知見に基づく本発明は、下記一般式(1)で表される非イオン性界面活性剤40〜90重量%、植物油1〜15重量%、及び水を含有してなることを特徴とする可溶化型で容易に水すすぎが可能な印刷インキ用洗浄剤組成物である。なお、可溶化型とは、溶液の外観が白濁や分離せず、互いに相溶化していることを指す。
【0013】
R−O−(AO)n−H ・・・(1)
(式中、Rは炭素数8〜20の炭化水素基、(AO)は炭素数2〜4のオキシアルキレン基を示す。nはアルキレンオキサイドの平均付加モル数を示し、4〜20である。)
【発明の効果】
【0014】
本発明の可溶化型印刷インキ用洗浄剤組成物によれば、非イオン性界面活性剤に植物油を加えることで、植物油成分が印刷インキに対して溶解度を高め、優れた洗浄性能を発揮する。また、水を配合することで非引火性であって安全性を向上し、また相溶しエマルション化することがなく溶液の白濁や成分の分離を生じることのない均一かつ安定性のよい水溶性の洗浄剤組成物である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明の実施の形態を説明する。
【0016】
本発明の可溶化型印刷インキ用洗浄剤組成物は、下記一般式(1)で表されるアルキレンオキサイド系化合物からなる非イオン性界面活性剤、植物油、及び水を含有してなる洗浄剤組成物である。
【0017】
R−O−(AO)n−H ・・・(1)
式(1)において、Rは炭素数8〜20の炭化水素基であり、より好ましくは炭素数8〜11の炭化水素基である。(AO)は炭素数2〜4のオキシアルキレン基を示す。nはアルキレンオキサイドの平均付加モル数を示し、4〜20である。
【0018】
上記式(1)において、Rは、例えば、炭素数8〜20のアルキル基、アルケニル基、アリール基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基等の炭化水素基が挙げられる。中でも、炭素数が8〜11であるものが好ましい。
【0019】
通常、Rはアルコールに由来する炭化水素基であり、天然アルコール由来であっても、合成アルコールであってもよく、また直鎖型であっても分岐型でもよく、また一級アルコールであっても二級アルコールであってもよい。
【0020】
天然アルコールとしては、例えば、オクチルアルコール、デシルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール等が挙げられる。
【0021】
合成アルコールとしては、直鎖型では、例えば、n−オクタノール、n−ノナノール、n−デカノール、n−ウンデカノール、n−ドデカノール、n−トリデカノール、n−テトラデカノール、n−ペンタデカノール、n−ヘキサデカノール、n−ヘプタデカノール、n−オクタデカノール等が挙げられる。分岐型では、例えば、オキソアルコールとしては、イソオクタノール、イソノナノール、イソデカノール、イソウンデカノール、イソドデカノール、イソトリデカノール、イソテトラデカノール、イソペンタデカノール、イソヘプタデカノール等があり、ゲルベアルコールとしては、2−エチル−ヘキサノール、2−プロピル−ヘプタノール等が挙げられ、これらは単一でも複数の異性体であってもよい。また、種々のアルコールを混合して使用することもできる。
【0022】
また、商業生産されている混合アルコールとしては、シェルケミカルズ社製のネオドールシリーズ、エクソンケミカルズ社製のEXXALシリーズが適している。
【0023】
これらのアルコールは、2種類以上配合して使用してもよい。
【0024】
式(1)において、(AO)は炭素数2〜4のオキシアルキレン基を示し、アルキレンオキサイドは、すなわちエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドである。
【0025】
上記アルキレンオキサイドの付加形態は、ブロック付加体であってもランダム付加体であってもよく、またブロック付加部分とランダム付加部分との両方を任意に有するものでもよい。
【0026】
アルキレンオキサイドの平均付加モル数nは4〜20であり、nが20を超える場合は洗浄力の低下が生じるようになり、nが4未満であると水と植物油との可溶化力が低下する。
【0027】
本発明の可溶化型印刷インキ用洗浄剤組成物では、上記非イオン性界面活性剤を単独で含むものでも、それらの複数を含むものでもよい。
【0028】
本発明で用いられる植物油としては、具体的には、大豆油、菜種油、綿実油、とうもろこし油、ひまし油、ひまわり油、サフラワー油、ごま油、オリーブ油、パーム油、ヤシ油、パーム核油等が挙げられる。これらの植物油は単独でも、複数を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
これらの中でも、大豆油、菜種油、ヤシ油、が印刷インキに対する洗浄性が優れ好ましい。
【0030】
本発明の可溶化型印刷インキ用洗浄剤組成物は、上記非イオン性界面活性剤40〜90重量%、植物油1〜15重量%、及び水を含有する洗浄剤組成物であり、これによりオフセット印刷機上のインキを効果的かつ安全に洗浄、除去することができる。
【0031】
非イオン性界面活性剤の配合量が40重量%未満であると、十分な洗浄性能が得られなくなり、また植物油を可溶化することが困難となり水を含む組成物の白濁化や成分の分離を生じやすくし洗浄剤の安定性に問題を生じ、また90重量%を超えると引火性が発現する可能性があり安全上好ましくない。
【0032】
また、植物油の配合量が1重量%未満であると印刷インキの溶解性が低くなり十分な洗浄性能が得られず、15重量%を超えると引火性の発現や、印刷機で用いられるNBR、ウレタンゴムなどのゴム材や樹脂を膨潤、溶解するなどの悪影響を生じる可能性がある。
【0033】
本発明の可溶化型印刷インキ用洗浄剤組成物は、必要に応じて上記非イオン性界面活性剤以外の公知の非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤、フッ素系界面活性剤、シリコン系界面活性剤、ポリエチレングリコール、プロピレングリコールなどを添加してもよい。
【0034】
例えば、非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリオキシアルキレングリセリルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリル脂肪酸エステル、アルキルグルコシド等が挙げられる。
【0035】
また、アニオン性界面活性剤としては、脂肪酸セッケン、ロジン酸セッケン、アルキルスルホン酸塩、アルキルアリールスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、ポオキシアルキレンアルキル硫酸塩、ポリオキシアルキレンアリール硫酸塩等が挙げられる。
【0036】
本発明の可溶化型印刷インキ用洗浄剤組成物は、原液のままで印刷インキの洗浄に使用することができるが、水で任意の濃度に希釈し使用することもできる。
【0037】
また、水で希釈した洗浄剤組成物は、洗浄後のローラー上などに残るインキのすすぎ洗いにも使用することができる。さらに、水ですすぎ洗いを行うことで、ローラーなどに付着した洗浄剤組成物を洗い落とすこともできる。
【0038】
本発明の可溶化型印刷インキ用洗浄剤組成物の製造は、特に限定がなく公知の製造方法を適用することができる。例えば、非イオン性界面活性剤と植物油及び水を常法に従い混合すればよい。
【0039】
また、本発明の可溶化型印刷インキ用洗浄剤組成物の使用方法は、従来のインキ用洗浄剤組成物と同様に使用することができ、特に水なしオフセット印刷機に好適である。
【実施例】
【0040】
以下に、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの例により限定されることはない。
【0041】
表1〜表3に記載の各実施例、比較例の配合処方(重量%)に従い、非イオン性界面活性剤、植物油及び水(イオン交換水)を混合し、各印刷インキ用洗浄剤組成物を調製した。得られた各洗浄液組成物について、相溶性(可溶性)、洗浄性能(インキ洗浄性)、安全性(引火性)、膨潤性(耐溶剤性)を下記の試験方法及び判定基準により評価した。表1に実施例1〜15、表2に実施例16〜27、表3に比較例1〜14の結果を示す。
【0042】
なお、用いた植物油は下記のものである。
・大豆油:昭和産業株式会社製、大豆白絞油
・菜種油:日清製油株式会社製、菜種白絞油
・ヤシ油:不二製油株式会社製、ヤシ油
【0043】
[相溶性]
非イオン性界面活性剤、植物油、水を配合し混合した後、1時間室温に放置し、混合溶液の外観を目視で観察し、下記基準で評価した。
○:均一に可溶化している。
×:溶液が白濁している、あるいは成分が分離している。
【0044】
[洗浄性能]
ニトリルゴム(NBR)の加硫ゴムテストピース(25mm×70mm×2mm)にオフセット印刷用インキを付着させた後、2分間放置し乾燥する。各洗浄剤組成物をウエスに染みこませた後、NBRに付着したインキを拭き取り、インキが完全に拭き取れる回数で洗浄性能を評価した。
◎:1〜15回
○:16〜30回
△:31〜50回
×:51回以上拭き取りしてもインキが除去できない。
【0045】
[安全性]
各洗浄剤組成物の引火性について確認した。なお、引火点が80℃未満のものは粘度に応じて、タグ密閉式又はセタ密閉式で測定を行い、引火点が80℃以上のものはクリーブランド開放式にて引火点を測定した。
○:引火点が発現せず。
×:引火点が発現する。
【0046】
[膨潤性]
100mlスクリュー管に各洗浄剤組成物を入れ40℃に保ち、NBRの加硫ゴムテストピース(25mm×70mm×2mm)を24時間浸漬した。浸漬後の重量変化と体積変化を測定した。浸漬前と比較し、下記基準で評価した。
◎:変化なし〜重量、体積共に変化率が0.5%未満
○:重量、体積共に変化率が0.5〜1%未満
△:重量或いは体積の変化率が1〜5%未満
×:重量或いは体積の変化率が5%以上
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

【0050】
表1〜3において、(1)AOの表記については、(EO)はエチレンオキサイド、(PO)はプロピレンオキサイド、(BO)はブチレンオキサイドを、添付の数値は重合付加モル数を示す。(2)−(AO)x−(AO)y−は、アルキレンオキサイド種AOとAOのブロック共重合(付加)体を示し、n=x+yである。また、付加順序はAO、AOの順であることを示す。(3)−(AO)x/(AO)y−は、アルキレンオキサイド種AOとAOのランダム共重合(付加)体を示す。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の印刷インキ用洗浄液組成物は、各種印刷インキの洗浄、除去に使用することができるが、特にオフセット印刷機のインキの洗浄に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される非イオン性界面活性剤40〜90重量%、植物油1〜15重量%、及び水を含有してなることを特徴とする可溶化型印刷インキ用洗浄剤組成物。
R−O−(AO)n−H ・・・(1)
(式中、Rは炭素数8〜20の炭化水素基、(AO)は炭素数2〜4のオキシアルキレン基を示す。nはアルキレンオキサイドの平均付加モル数を示し、4〜20である。)

【公開番号】特開2009−62432(P2009−62432A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−230311(P2007−230311)
【出願日】平成19年9月5日(2007.9.5)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【出願人】(000003506)第一工業製薬株式会社 (491)
【Fターム(参考)】