説明

可溶性タンパク質の生産方法

【課題】大腸菌で目的タンパク質を生産させる際に、不溶性画分(インクルージョンボディー)の形成を抑え、可溶性タンパク質として目的タンパク質を大量に生産する方法を提供する。
【解決手段】目的タンパク質をコードする遺伝子を保持する大腸菌を増殖培養する第1工程と、前記増殖培養後、培地を交換し、前記目的タンパク質発現誘導下で前記大腸菌を培養する第2工程とを含み、第2工程の培養における培地中の大腸菌の菌体湿重量を2.5〜5.0g/100mlとする、可溶性タンパク質として目的タンパク質を生産する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば大腸菌における可溶性タンパク質の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来において、大腸菌で組換え体タンパク質を産生させる場合、多くのタンパク質はインクルージョンボディー(封入体)と呼ばれる不溶性画分となり、活性型の可溶性タンパク質としては取得できない。
【0003】
上記不溶化を回避する方法として最小培地等の低栄養培地や低温下(例えば20℃以下)での培養条件が知られている。しかしながら、当該方法はインクルージョンボディーの形成を抑制するためにタンパク質発現量そのものを減らすことを前提にしているため、得られる可溶性タンパク質が非常に少ない。
【0004】
また、上記不溶化を回避する方法として宿主細胞、発現ベクター、遺伝子配列等を改変する例が知られている。例えば、特許文献1は、分泌シグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドと、塩基性アミノ酸に富むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドと、目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドとを、この順に含有するポリヌクレオチドを用いてタンパク質を大腸菌等の宿主細胞内で発現させることで、目的タンパク質を可溶性タンパク質として製造する方法を開示する。特許文献2は、リボソーム変異型大腸菌株を用いてタンパク質を合成することにより、可溶性で機能を保持したタンパク質を合成する方法を開示する。しかしながら、これら方法により生産されるタンパク質量は必ずしも多くなく、また発現させるタンパク質ごとに最適化が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-325521号公報
【特許文献2】特開2007-300858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、上述した実情に鑑み、大腸菌で目的タンパク質を生産させる際に、不溶性画分(インクルージョンボディー)の形成を抑え、可溶性タンパク質として目的タンパク質を大量に生産する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、大腸菌における目的タンパク質の生産において、大腸菌の培養期間を大腸菌増殖期間と目的タンパク質発現誘導期間の2つの期間に分割し、各期間において所定の条件下で培養することで、不溶性画分(インクルージョンボディー)の形成を抑え、可溶性タンパク質として目的タンパク質を大量に生産できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、目的タンパク質をコードする遺伝子を保持する大腸菌を増殖培養する第1工程と、増殖培養後、培地を交換し、目的タンパク質発現誘導下で当該大腸菌を培養する第2工程とを含み、当該第2工程の培養における培地中の大腸菌の菌体湿重量を2.5〜5.0g/100mlとする、可溶性タンパク質として目的タンパク質を生産する方法である。
【0009】
第1工程における培養条件としては、温度16〜40℃下で16〜24時間が挙げられる。また、第2工程における培養条件としては、温度16〜37℃下で16〜24時間が挙げられる。
【0010】
培養に使用する培地としては、培地1L当たり酵母エキス(Yeast extract)10〜30g、トリプトン(Trypton)10g〜30g及びグリセロール0ml〜4mLを含む培地が挙げられる。
【0011】
さらに、目的タンパク質発現の誘導としては、培地へのイソプロピル-1-チオ-β-D-ガラクトシド(IPTG)の添加により行うことが挙げられる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、大腸菌において、不溶性画分(インクルージョンボディー)の形成を抑え、可溶性タンパク質として目的タンパク質を大量に生産することができ、従来において可溶性画分として得られなかったタンパク質を含む多くのタンパク質の工業的生産化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】比較例1及び2並びに実施例1に示す培養方法により産生された培養体積当たりのギ酸脱水素酵素(FDH)可溶性タンパク質量(mg/L)を示すグラフである。
【図2】実施例1において、本培養の前半をTB培地で行い、本培養の後半を示される培地で行った場合における、本培養終了後の菌体湿重量(g/100mL)と可溶性FDHタンパク質量(FDH活性に基づく黄色ホルマザン量を示すOD438nmにおける吸光度(A438)で表示)との関係を示すグラフである。
【図3】実施例1において、本培養の前半及び後半をそれぞれ示される濃度のLB又はTB培地で行った場合における本培養終了後の菌体湿重量(g/100mL)と可溶性FDHタンパク質量(FDH活性に基づく黄色ホルマザン量を示すOD438nmにおける吸光度(A438)で表示)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
本発明は、目的タンパク質をコードする遺伝子を保持する大腸菌を増殖培養する第1工程と、増殖培養後、培地を交換し、目的タンパク質発現誘導下で当該大腸菌を培養する第2工程とを含む、可溶性タンパク質として目的タンパク質を生産する方法である(以下、「本方法」という)。本方法では、第2工程の培養において、培地中の大腸菌の菌体湿重量を2.5〜5.0g/100ml(好ましくは、3.0〜4.0g/100ml)に制御する。本発明によれば、インクルージョンボディーの形成を抑え、目的タンパク質を可溶化された状態で大量に(例えば、培養体積1L当たり400mg以上)生産することができる。
【0016】
本方法では、先ず目的タンパク質をコードする遺伝子を保持する大腸菌を準備する。目的タンパク質としては、いずれのタンパク質であってもよく限定されるものではないが、例えば構造に関わるタンパク質(ケラチン、コラーゲン等)、酵素(酸化還元酵素、転移酵素、加水分解酵素、異性化酵素、リアーゼ、リガーゼ等)、情報伝達に関わるタンパク質(ペプチドホルモン、受容体等)、抗体、蛍光タンパク質(GFP等)等が挙げられる。
【0017】
例えば、目的タンパク質をコードする遺伝子を誘導型プロモーターの制御下に配置したベクターを用意し、当該ベクターを大腸菌に導入することで、目的タンパク質をコードする遺伝子を保持する大腸菌を調製することができる。このような誘導型プロモーターとしては、特に限定されず、従来公知のものを使用することができる。例えば、イソプロピル-1-チオ-β-D-ガラクトシド(IPTG)の存在下に転写活性を示す誘導型プロモーターを使用することができる。このようなプロモーターの例としては、Trpプロモーター、Lacプロモーター、Trcプロモーター、Tacプロモーター、T7プロモーター等を挙げることができる。また、IPTG以外の誘導物質の存在下に転写活性を示す他のプロモーターや、培地成分及び温度(例えば、低温)等の培養条件に応じて転写活性を示す他のプロモーターも、誘導型プロモーターとして使用することができる。
【0018】
ベクターとしては、大腸菌内で複製可能なものであれば特に限定されず、プラスミドベクター、ファージベクター等のいずれであっても良い。具体的なベクターとしては、pCDFシリーズ、pRSFシリーズ、pETシリーズ等を例示列挙することができる。例えば、発現ベクターがpET(T7プロモーターを有する)系の場合には大腸菌BL21(DE3)を使用することができる。上述したベクターを大腸菌に導入する手法としては、一般的に形質転換法として知られる各種の手法を適用することができる。具体的な手法としては、例えば、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法等を適用することができる。なお、形質転換は、一過性であっても安定的なものであってもいずれであってもよい。
【0019】
また、大腸菌としてプラスミドpLysSを保持する大腸菌(BL21(DE3)pLysS:Invitrogen社製)を使用してもよい。プラスミドpLysSは、T7リボザイムを低レベルで発現する。T7リボザイムは、T7 RNAポリメラーゼを阻害するので、IPTGによる発現誘導前における目的タンパク質の発現を抑制することができる。
【0020】
さらに、大腸菌において、目的タンパク質の正しいフォールディング(折り畳み)を支援するために、シャペロン等を共発現させてもよい。
【0021】
次いで、本方法においては、準備した目的タンパク質をコードする遺伝子を保持する大腸菌を前培養に供し、上述の第1工程及び第2工程の本培養用の菌体を準備する。前培養は、例えばアンピシリン含有LB培地(Difco社製)(1×の組成(1L当たり):Yeast extract 5.0g、NaCl 5.0g、Tryptone 10.0g、アンピシリン50mg)において行われる。
【0022】
本方法では、前培養で得られた培養液(前培養液)を使用し、上述の第1工程及び第2工程の本培養を行う。本培養は、バッチ培養及び連続培養等のいずれであってもよい。また、本培養は、静置培養又は振盪培養のいずれであってもよいが、振盪培養が好ましい。本培養で使用する培地は、栄養価の高い培地を使用することができる。このような栄養価の高い培地としては、例えば培地1L当たり酵母エキス5〜50g、好ましくは10〜30g、トリプトン5〜50g、好ましくは10g〜30g及びグリセロール0〜10ml、好ましくは0〜4mlを含む培地が挙げられる。なお、炭素源として、グリセロール以外にグルコース等の糖を使用してもよい。また、市販の培地であるLB培地(Difco社製)(1×の組成(1L当たり):Yeast extract 5.0g、NaCl 5.0g、Tryptone 10.0g)やTB培地(Difco社製)(1×の組成(1L当たり):トリプトン12g、イーストエクストラクト24g、K2HPO4 9.4g、KH2PO4 2.2g、グリセロール4ml)等を使用することができる。LB培地は×1〜5、TB培地は×0.5〜1.5の濃度で使用する。
【0023】
本培養では、目的タンパク質をコードする遺伝子を保持する大腸菌を、先ず目的タンパク質の発現誘導を伴わず、増殖のみを行う増殖培養に供する(第1工程)。第1工程における培養条件としては、例えば温度16〜40℃(例えば37℃)下で16〜24時間が挙げられる。
【0024】
次いで、第1工程終了後、培養液を遠心分離又はフィルター濾過等の方法により上清を除き、上清を除いた培養物に、本培養の後半(第2工程)に使用する所定の培地を加え懸濁する。当該操作により、培地交換が行われる。培地交換した後、目的タンパク質発現誘導下で、目的タンパク質をコードする遺伝子を保持する大腸菌を培養する(第2工程)。目的タンパク質の発現誘導は、上述のように所定の誘導型プロモーターの制御下に目的タンパク質をコードする遺伝子が配置されている場合には、当該誘導型プロモーターからの転写活性を誘導する誘導物質の添加により開始される。例えば、IPTGの存在下に転写活性を示す誘導型プロモーターを使用している場合には、IPTGの培地への添加により目的タンパク質の発現が開始される。培地成分及び温度等の培養条件に応じて転写活性を示す他のプロモーターを使用した場合には、当該培養条件に目的タンパク質をコードする遺伝子を保持する大腸菌を供することで、目的タンパク質の発現が開始されることとなる。
【0025】
第2工程における培養条件としては、温度16〜37℃下で16〜24時間が挙げられる。ただし、第2工程においては、培地中の大腸菌の菌体湿重量を2.5〜5.0g/100ml(好ましくは、3.0〜4.0g/100ml)に制御する。菌体湿重量は、培養液を遠心分離に供し、上清を除去した菌体重量を測定することにより決定することができる。
【0026】
本培養後、大腸菌の菌体を破砕し、粗目的タンパク質懸濁液を調製することができる。本方法では、インクルージョンボディーの形成が抑えられ、得られた目的タンパク質が可溶性であるため、この粗目的タンパク質懸濁液には所定の活性や機能を有する目的タンパク質が含まれる。従って、得られた粗目的タンパク質懸濁液を目的タンパク質としてそのまま利用することができる。なお、得られた粗目的タンパク質懸濁液から目的タンパク質を単離精製することもできる。この場合、タンパク質の単離精製に用いられる一般的な生化学的方法(例えば硫酸アンモニウム沈殿、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等)を単独で又は適宜組み合わせて用いることができる。単離精製された目的タンパク質は、例えば所定のpHの緩衝液等に懸濁された状態等で利用することができる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0028】
1.試薬(培地を含む)
以下の実施例及び比較例において使用する培地を含む試薬は以下の通りである。
試薬は、特に記載の無い場合、ナカライテスク社製を使用した。
(1)TALON Buffer Kit(CLONTECH社製)
5×Equilibration/Wash Buffer:5倍希釈して使用した(「1×E/W Buffer」と表記する)。
10×Elution Buffer:10倍希釈して使用した。
(2)TALON CellThru Resin及びTALON CellThru 10-ml Disposable Columns(CLONTECH社製)
(3)アンピシリン(Amp)(SIGMA社製)
最終濃度50μg/mlで使用した。
(4)LB培地(Difco社製)
20g/Lに調製した後、オートクレーブして使用した。
アンピシリンを添加した場合は「LB-Amp」と表記する。
1×LB(通常濃度:下記において、単に「LB」と称する場合には、「1×LB」を示す)
(1×の組成(1L当たり):Yeast extract 5.0g、NaCl 5.0g、Tryptone 10.0g)
0.5×LB(通常の1/2濃度に希釈)
2×LB(通常の2倍濃度)。
【0029】
(5)TB培地(Difco社製)
47.6g/Lに調製し、4mlのグリセロールを添加した後、オートクレーブして使用した。
アンピシリンを添加した場合は「TB-Amp」と表記する。
1×TB(通常濃度:下記において、単に「TB」と称する場合には、「1×TB」を示す)
(1×の組成(1L当たり):トリプトン12g、イーストエクストラクト24g、K2HPO4 9.4g、KH2PO4 2.2g、グリセロール4ml)
0.5×TB(通常の1/2濃度に希釈)
2×TB(通常の2倍濃度)。
【0030】
(6)M9YE培地
M9YE培地組成:
M9 Min medium salts(MP Biomedicals) 11.2g/L
MgSO4 2mM
CaCl2 0.1mM
Yeast extract(Difco社製) 1g/L
ラクトース 4g/L
【0031】
(7)IPTG(タカラバイオ社製)
滅菌水に1Mで溶解した後、0.22μmフィルターで滅菌した。
(8)リン酸カリウム緩衝液(KPB)pH 7.5(100mM)
Solution A(0.2M KH2PO4 5.4g/200ml)16ml及びSolution B(0.2M K2HPO4 7.0g/200ml)84mlを混合し、KPB(100ml)を作製した。
(9)ギ酸ナトリウム1.62M(100mM KPB pH7.5で調製)
(10)NAD16.2mM(100mM KPB pH7.5で調製)
(11)methoxy PMS(mPMS)(DOJINDO社製)
0.5mg/mlとなるようにH2Oで調製した。
(12)WST1(DOJINDO社製)
8mg/mlとなるようにH2Oで調製した。
(13)Protein Assay(BIORAD社製)
(14)MinElute PCR Purification Kit(QIAGEN社製)
(15)QIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN社製)
(16)Ligation-Convenience Kit(ニッポンジーン社製)
(17)QIAprep Spin Miniprep Kit(QIAGEN社製)
【0032】
(18)YPD培地
YPD培地組成:
Yeast extract 10g
Bacto pepton 20g
Glucose 20g
水を加えて1Lとし、pH7に調整した後、オートクレーブして使用した。
【0033】
(19)YP-Methanol培地
YP-Methanol培地組成:
Yeast extract 10g
Bacto pepton 20g
水を加えて1Lとし、pH7に調整した後、オートクレーブした。オートクレーブ後、20ml Methanolを加えて使用した。
【0034】
2.Gibberella zeae(G. zeae)由来ギ酸脱水素酵素(FDH)遺伝子の発現ベクターの作製
以下の実施例及び比較例において使用するG. zeae由来FDH遺伝子の発現ベクターは、以下の通りに作製した。
【0035】
独立行政法人製品評価技術基盤機構生物遺伝資源部門(NBRC)より購入したG. zeae(NBRC4474)をYPD培地で一晩培養した後、メタノールを単一炭素源とするYP-Methanol培地5mlに植菌し、25℃で好気的に振盪培養した。
【0036】
培養後、得られた菌体からRNeasy Plant Mini Kit(QIAGEN社製)を用いてTotal RNAを調製した。さらに得られたTotal RNAからRNA PCR Kit(TaKaRa社製)を用いてcDNAを合成した。反応液組成及び反応サイクルは、以下の通りである。
【0037】
反応液組成:
最終濃度
MgCl2 5mM
RT buffer 1×
dNTP mixture 1mM
RNase Inhibitor 0.5U
AMV Reverse Transcriptase XL 0.25U
Oligo dT-Adapter primer 0.13μM
Total RNA 5μg
RNase free H2Oを加え、液量が10μlとなるようにした。
反応サイクル:
50℃(2時間)→99℃(5分間)→4℃
【0038】
合成されたcDNAを鋳型として以下のプライマー、反応液組成及び反応条件を使用してPCRを行った。
【0039】
プライマー:
pET14b-F primer:5'-TAT ACA TAT GGT CAA GGT TCT TGC AGT-3'(配列番号1)
pET23b-R primer:5'-CCG CAA GCT TTT TCT TCT CAC GCT GAC CAT-3'(配列番号2)
反応液組成:
10XBuffer 5μl
dNTP(2mM each) 5μl
MgSO4(25mM) 2μl
pET14b-F primer(10pmol/μl) 1.5μl
pET23b-R primer(10pmol/μl) 1.5μl
KOD-Plus-DNA Polymerase(1U/μl) 1μl
テンプレート(cDNA) 0.5μl
滅菌水 33.5μl
50μl
反応サイクル:
94℃:2分→(94℃:15秒→68℃:1分30秒)×30→68℃:2分→4℃
【0040】
増幅された約1.1kbの断片(PCR産物)をMinElute PCR Purification Kitで精製した。次いで、精製物とベクターpET23bをNdeI/HindIIIで消化し、QIAquick PCR Purification Kitを用いて精製した。
【0041】
さらに、Ligation-Convenience Kitを用いて精製したDNA断片とベクターとをライゲーションに供した後、得られた組換えベクターを使用して、プロトコールに従い大腸菌JM109株を形質転換した。得られた組換え体を4ml LB培地+Ampで培養した後、QIAprep Spin Miniprep Kitを用いてプラスミドを抽出した。抽出したプラスミドをFDH遺伝子発現ベクターとして使用した。なお、当該FDH遺伝子発現ベクターでは、発現されるFDHタンパク質がHisタグをC末端に有するようにFDH遺伝子が配置されている。また、当該FDH遺伝子発現ベクターにおいて、FDH遺伝子はT7プロモーターの制御下に配置されている。
【0042】
〔比較例1〕培地交換を行わない培養方法1
FDH遺伝子発現ベクターを含む大腸菌(BL21(DE3))形質転換体を5mlのLB-Amp培地で一晩培養した後、100mlの同組成培地に1%植菌し、OD600が約0.5となるまで37℃で培養した。
【0043】
培養後、培地にIPTG(イソプロピル-1-チオ-β-D-ガラクトシド)を終濃度1mMになるように添加し、さらに4時間培養することでFDH遺伝子発現ベクターに導入されているFDH遺伝子からのFDHタンパク質の発現誘導を行った。
【0044】
発現したFDHの精製及び評価は、実施例1で説明する方法により行った。
当該従来法で得られた培養体積当たりのFDHタンパク質量(mg/L)を図1に示す。図1において、「従来法1」の棒グラフが当該従来法で得られたFDHタンパク質量を示す。
【0045】
〔比較例2〕培地交換を行わない培養方法2
FDH遺伝子発現ベクターを含む大腸菌(BL21(DE3))形質転換体を5mlのLB-Amp培地で一晩培養した後、100mlの同組成培地に1%植菌し、37℃で10時間振盪培養した。
【0046】
培養後、培地にIPTGを終濃度1mMとなるように添加し、20℃でさらに16時間培養することで、FDH遺伝子発現ベクターに導入されているFDH遺伝子からのFDHタンパク質の発現誘導を行った。
【0047】
発現したFDHの精製及び評価は実施例1で説明する方法により行った。
当該従来法で得られた培養体積当たりのFDHタンパク質量(mg/L)を図1に示す。図1において、「従来法2」の棒グラフが当該従来法で得られたFDHタンパク質量を示す。
【0048】
〔実施例1〕培地交換を行う培養(本発明に係る方法)
前培養として、FDH遺伝子発現ベクターを含む大腸菌(BL21(DE3))形質転換体を、5mlのLB-Amp培地で37℃の温度下、17時間振盪(130rpm)培養した。
【0049】
次いで、本培養の前半として、各培地に前培養液を1.5%植菌し、37℃で16時間振盪培養(130rpm)した。
【0050】
さらに、本培養の前半の終了後、培養液をオートクレーブ滅菌した300ml遠心管に移し、2500×gで10分間遠心分離(20℃、Avanti HP-26 XPI/ベックマン社製)に供することで、上清を除いた。上清を除いた培養物に、本培養の後半に使用する各培地を加えボルテックスで懸濁した。次いで、本培養の後半として、当該懸濁液にIPTGを終濃度1mMとなるように添加し、20℃で24時間振盪培養(130rpm)した。当該IPTGの添加によりFDH遺伝子発現ベクターに導入されているFDH遺伝子からのFDHタンパク質の発現誘導を行った。
【0051】
本培養の後半の終了後、培養液を氷上で冷却し、300ml遠心管において4000×gで10分間遠心分離(4℃、Avanti HP-26 XPI/ベックマン社製)に供することで、上清を除去し、得られた菌体の菌体湿重量を測定した。
【0052】
また、このようにして得られた菌体から粗抽出液を調製し、FDH活性を測定することで可溶性FDH量を推定した。手順を以下に示す。
【0053】
1. 粗抽出液調製及びFDH活性測定手順
(1)菌体に破砕用ガラスビーズ(0.1mm)を23g添加する。
(2)1×E/W B(0.024%PEG)23mlを添加する(最初に5ml程度を加えて菌体を懸濁した)。
(3)マルチビーズショッカー(YASUI KIKAI社製)によって菌体を破砕する。
1)6000rpm振盪:90秒
2)インターバル:60秒
1)及び2)を6回繰り返す。
(4)7000×gで20分間遠心分離(4℃、ベックマン社製Avanti HP-26XPI、JA-12ローター)に供し、上清を回収する。
(5)活性測定
【0054】
以下に示す反応液で、37℃で1.5分間の反応を行い、OD438nmで吸光度(黄色ホルマザン量)を測定した(Nunc社製96穴平底プレート及びテカン社製InfiniteM200を使用)。なお、テトラゾリウム塩WST1は、1-Methoxy PMSを電子キャリヤーとして用いると、脱水素酵素の還元反応により黄色ホルマザンを生じる。
【0055】
反応液組成:
1.62Mギ酸ナトリウム 15μl
16.2mM NAD 15μl
100mM KPB(pH7.5) 113μl
0.5mg/ml mPMS 1μl
8mg/ml WST1 5μl
粗抽出液 1μl
150μl
【0056】
さらに、上記粗抽出液からTALONカラム(Clontech社製)を用いて、可溶性FDHの精製とタンパク質定量を行った。手順を以下に示す。
【0057】
2. TALONカラムによる精製
以下の手順に従い、TALON CellThru Resin(CLONTECH社製)とTALON CellThru 10-ml Disposable Columns(CLONTECH社製)を用いて、粗酵素液15.5ml(菌体湿重量3.6g分)を精製した。
【0058】
(1)Resin保存液を懸濁する。
(2)懸濁後、直ちに20mlのResin懸濁液をプラスチック製250mlV底遠沈菅に移す。
(3)2分間静置し、Resinの沈殿を確認した後、上清を除去する。
(4)100mlの1×E/W Bufferを加えて混和する。
(5)1〜2分間静置し、Resinの沈殿を確認した後、上清を除去する。
(4)及び(5)の工程を繰り返す。
(6)Resinに粗抽出液を添加して、室温で20分間撹拌する(TAITECH社製シェーカーNR-3)。
(7)1〜2分間静置し、Resinの沈殿を確認した後、上清をパス画分として保存する。
(8)100mlの1×E/W Bufferを加えて、10分間、室温で撹拌する(TAITECH社製シェーカーNR-3)。
(9)1〜2分間静置し、Resinの沈殿を確認した後、上清を除去する。
(8)及び(9)の工程を繰り返す。
(10)10mlの1×E/W Bufferを加えて撹拌する。
(11)懸濁したResinをColumnに移す(Bufferはフロースルーとして廃棄する)。
(12)50mlの1×E/W Bufferで洗浄する。
(13)15mlの1×Elution Bufferを添加して、FDHタンパク質を溶出する(2回溶出)。
【0059】
3.脱塩及び濃縮
上記で得られた溶出サンプルをAmicon Ultra15 30000NMWL(ミリポア社製)に移し、4500×gで20分間遠心分離に供することで、脱塩すると共に液量を1.1mlまで濃縮した。
【0060】
4.FDHタンパク質濃度の測定
上記で得られた濃縮サンプル中のFDHタンパク質濃度をBIORAD社製Protein Assay試薬の手順に従って測定した。FDHタンパク質濃度は、標準となるBSAの吸光度とタンパク濃度の関係式から算出した。
【0061】
本方法で得られた培養体積当たりのFDHタンパク質量(mg/L)を図1に示す。図1において、「本方法」の棒グラフが本方法で得られたFDHタンパク質量を示す。本実施例に示す方法によれば、濃縮サンプル中の精製FDHタンパク質の濃度は39.3mg/mlであった。図1に示すように、溶液量が1.1mlであることから、100ml培養(菌体湿重量3.6g)から可溶性FDHタンパク質が約43mg(培養体積当たりのFDHタンパク質量:約430mg/L)取得されたこととなる。
【0062】
また、図2には、本培養の前半をTB培地で行い、本培養の後半を示される培地で行った場合における、本培養終了後の菌体湿重量(g/100mL)と可溶性FDHタンパク質量(FDH活性に基づく黄色ホルマザン量を示すOD438nmにおける吸光度(A438)で表示)との関係を示す。
【0063】
さらに、図3には、本培養の前半及び後半をそれぞれ示される濃度のLB又はTB培地で行った場合における本培養終了後の菌体湿重量(g/100mL)と可溶性FDHタンパク質量(FDH活性に基づく黄色ホルマザン量を示すOD438nmにおける吸光度(A438)で表示)との関係を示す。図3において、「XX-YY」は、XXが本培養の前半の培地を示し、YYが本培養の後半の培地を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的タンパク質をコードする遺伝子を保持する大腸菌を増殖培養する第1工程と、
前記増殖培養後、培地を交換し、前記目的タンパク質発現誘導下で前記大腸菌を培養する第2工程と、
を含み、第2工程の培養における培地中の大腸菌の菌体湿重量を2.5〜5.0g/100mlとする、可溶性タンパク質として目的タンパク質を生産する方法。
【請求項2】
培養に使用する培地が、培地1L当たり酵母エキス10〜30g、トリプトン10g〜30g及びグリセロール0ml〜4mLを含む、請求項1記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−44888(P2012−44888A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−188011(P2010−188011)
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】