説明

可溶性凝集体、免疫寛容誘導剤及びその製造方法

【課題】アレルゲンタンパク質の抗原性を低減させることができ、従来に無い全く新しい免疫寛容誘導剤を提供する。
【解決手段】複数のアレルゲンタンパク質を加熱し、それらアレルゲンタンパク質を凝集させることによって、アレルギー反応の原因となる抗原構造を内包させてなる、アレルゲンタンパク質の可溶性凝集体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アレルゲンタンパク質の抗原性を低減した可溶性凝集体、及びこの可溶性凝集体を用いた免疫寛容誘導剤及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば花粉症等のアレルギー疾患は、アレルゲンと総称されるタンパク質(以下、アレルゲンタンパク質)が体内に入り込み、これに体内の免疫系が過剰に反応することで全身又は局所的に障害を引き起こす疾患である。特に、日本人の20%以上がスギ花粉症を患っており、社会的に深刻な問題となっている。
【0003】
これらの疾患は人間が本体持っている免疫反応に起因するものであり、根本的な治療法は確立されていない。しかしながら、特許文献1に示すアレルゲンタンパク質の除去方法や抗炎症剤による対症療法、特許文献2に示すアレルゲンタンパク質をタンパク質変成剤で処理する低減化方法、特許文献3に示す微量のアレルゲンタンパク質を数回にわたり注射してアレルギー反応を低減化させる減感作療法など種々の治療法が考えられている。
【0004】
一方、本願発明者は、経口取得が可能な低減化アレルゲンという観点を導入し、特許文献4に示すように、乾燥条件下においてメイラード反応を利用して、アレルゲンタンパク質の抗原構造を多糖修飾して被覆してなる食品組成物を発明している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−34046号公報
【特許文献2】特開2005−104847号公報
【特許文献3】特開2002−249442号公報
【特許文献4】特開2006−340658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、卵白のタンパク質であるオボアルブミンは、熱変性過程において、分子間を架橋するβ構造を介して可溶性凝集体を形成することが知られている。このオボアルブミンは、Asn−292及びAsn−311においてN−グリコシド結合を有する糖タンパク質である。一方、スギ花粉タンパク質(以下、CryJ1とも言う。)は、Asn−137、Asn−170、Asn−273及びAsn−333においてN−グリコシド結合を有する糖タンパク質である。
【0007】
本発明は、上記オボアルブミンの構造とスギ花粉タンパク質の構造との類似性に基づいた鋭意検討の結果、アレルゲンタンパク質が、オボアルブミンの凝集体形成と同じように、熱変性過程において可溶性凝集体を形成するという見地に基づいてなされたものであり、アレルゲンタンパク質の抗原性を低減させることをその主たる所期課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明に係るアレルゲンタンパク質の可溶性凝集体は、複数のアレルゲンタンパク質を加熱し、それらアレルゲンタンパク質を凝集させることによってアレルギー反応の原因となる抗原構造(エピトープ)を内包させてなることを特徴とする。
【0009】
つまり、可溶性凝集体は、アミロイドを形成するタンパク質の結合と同様に、変性タンパク質分子(unfolded protein molecules)間を架橋するβ構造(cross-β-structure)を介して形成される。詳細には、アレルゲンタンパク質を加熱すると、内部に埋もれているβ構造が熱変性によって外部に露出される。このとき、アレルギーを誘発するエピトープも、変性タンパク質分子の表面に露出する。そして、露出したβ構造は、加熱後の冷却過程において、変性タンパク質分子間で再結合される。このとき、アレルゲンタンパク質のエピトープは、熱変性によって形成された可溶性凝集体によって被覆される。つまり、アレルゲンタンパク質のエピトープは可溶性凝集体に内包されることになる。
【0010】
このようなものであれば、アレルゲンタンパク質の抗原構造を多糖類等によって化学装飾させることなく、アレルゲンタンパク質の抗原性を低減させることができる。したがって、この可溶性凝集体を用いることによって、アレルギー反応を起こしうるアレルゲンタンパク質を、アナフェラキシーを起こすことなく、免疫系に導入して免疫寛容を誘導し、アレルギー疾患を予防することが可能となる。ここで、「免疫寛容」とは、M細胞が抗原となるアレルゲンタンパク質を取り込むことによって誘導される免疫反応の一種である。この系においては、抗原を継続して経口投与又は経粘膜投与すると、抗原となるアレルゲンタンパク質に対してサプレッサーT細胞が産生され、このアレルゲンタンパク質に対しては免疫反応が緩和されることが明らかになっている。
【0011】
本発明は、前記アレルゲンが、動物性アレルゲン又は植物性アレルゲンに適用することができ、特に、前記アレルゲンが、スギ花粉アレルゲンであることが考えられる。
【0012】
前記アレルゲンがスギ花粉アレルゲンである場合に、そのスギ花粉アレルゲンを凝固させることなく可溶性凝集体を形成するためには、前記アレルゲンタンパク質が加熱速度1℃/minで40℃から90℃まで加熱することによって凝集されていることが望ましい。
【0013】
また、本発明に係る免疫寛容誘導剤は、上述したアレルゲンタンパク質の可溶性凝集体を用いたものであって、経口投与又は経粘膜投与によって免疫寛容を誘導することを特徴とする。経粘膜投与としては舌下減感作療法が考えられる。従来の舌下減感作療法は、アレルゲンタンパク質を舌下粘膜に滴下して免疫系に取り込むものである。このとき、アレルゲンタンパク質を誤飲すると、食道の粘膜等でアナフェラキシーを起こす可能性がある。一方、本発明の免疫寛容誘導剤は、アレルゲンタンパク質を加熱することによって可溶性凝集体を形成し、抗原構造を内部に埋没させているので、抗原構造を粘膜に接触させることなく免疫系に導入することができる。また、誤認した場合であっても腸管免疫系によって取り込むことができる。
【0014】
さらに、本発明に係る免疫寛容誘導剤は、経口投与又は経粘膜投与によって免疫寛容を誘導する免疫寛容誘導剤の製造方法であって、複数のアレルゲンタンパク質を加熱し、それらアレルゲンタンパク質を凝集させることによって、アレルギー反応の原因となる抗原構造を内包させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
このように構成した本発明によれば、アレルゲンタンパク質の抗原性を低減させることができ、従来に無い全く新しい免疫寛容誘導剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】ドットブロット法により得られたIgE抗体との結合を濃淡によって示す図である。
【図2】IgE抗体との結合度を示す図である。
【図3】HPLCを用いて未加熱CryJ1及び可溶性凝集体を分析したゲルろ過パターンを示す図である。
【図4】未加熱CryJ1及び可溶性凝集体のSDS−PAGEの結果を示す図である。
【図5】可溶性凝集体及び2−メルカプトエタノール存在下の可溶性凝集体のSDS−PAGEの結果を示す図である。
【図6】加熱前後及び加熱中におけるCryJ1のCDスペクトルを示す図である。
【図7】90℃で加熱したCryJ1及び加熱後に塩酸グアニジンによって処理したCryJ1のCDスペクトルを示す図である。
【図8】218nmでのCDによる熱変性曲線及びCryJ1の熱変性過程におけるチオフラビンTの蛍光強度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明に係る免疫寛容誘導剤を製造方法とともに説明する。
本実施形態に係る免疫寛容誘導剤は、経口投与又は例えば舌下減感作療法等の経粘膜投与によって、スギ花粉アレルゲンに対して免疫寛容を誘導する免疫寛容誘導剤であって、複数のスギ花粉アレルゲン(CryJ1)を加熱し、それらCryJ1を凝集させることによって、アレルギー反応の原因となる抗原構造を内包させてなるものである。
【0018】
CryJ1は加熱されると、分子間で架橋したβ構造及び分子間でジスルフィド結合を形成する。このとき、分子表面に露出している抗原構造(IgEエピトープ)は、可溶性凝集体の内部に埋もれ、CryJ1の抗原性が低減されている。
【0019】
この免疫寛容誘導剤は、以下の手順によって製造される。
<CryJ1の精製>
0.1Mリン酸緩衝液(pH8.0、NaCl(0.14M)及びKCl(0.01M)を含む)2L中に、100gのスギ花粉を入れ、1時間緩やかに攪拌した。その後、遠心分離(15000×g、30min)によって上清を分離し、さらに花粉除去のためにフィルタにかけた。この抽出液に硫酸アンモニウムを80%飽和(561g/L)まで加え、4℃で一晩中攪拌した後、遠心分離(18500×g、40min)して沈殿物を回収した。その沈殿物を蒸留水に溶解し、これを透析した。このように処理した透析液を冷凍乾燥し、CryJ1の粗抽出物(crude extract、以下CEという。)として保管した。
【0020】
このCEを0.01M酢酸緩衝液(pH5.0)に溶解し、同様の酢酸緩衝液を用いて5倍に希釈した。そして、この5倍に希釈した溶液を、0.01M酢酸緩衝液(pH5.0)で平衡化した陽イオン交換カラムクロマトグラフィ(東レ社製、CM−Toyopearl)にかけた。その後、0.01M酢酸緩衝液(pH5.0)でカラムを洗い、吸着したタンパク質を0.05〜0.3Mの濃度勾配をつけたNaCl(in 0.01M酢酸緩衝液)で溶出した。280nmの吸光で得られたピークを回収し、蒸留水で透析した後、冷凍乾燥した。
【0021】
<可溶性凝集体の作製>
0.1%のCryJ1を溶解させた10mM酢酸緩衝液(pH5.0)を加熱速度1℃/minで40℃から90℃まで加熱させた。このように制御された条件下において、凝固を生じさせることなく、透明な可溶性凝集体を得ることができた。室温で冷却させた後、可溶性凝集体を以下の実験に用いた。
【実施例】
【0022】
熱変性させたCryJ1の可溶性凝集体とIgEとの結合について測定した。なお、用いるスギ花粉患者のヒト血清は、山口大学医学部付属病院皮膚科(Dr.M Muto)の協力により提供された。
【0023】
加熱されたCryJ1(以下、「加熱後CryJ1」と言う。)と患者のIgE抗体との結合をドットブロット法を用いて測定した。このドットブロット法は、ビオチン−アビチン法を用いて行った。自然のCryJ1(以下、「未加熱CryJ1」と言う。)、及び加熱速度1℃/minで40℃から90℃まで加熱されたCryJ1を、0.0005%に希釈し、10μLの未加熱CryJ1及び加熱後CryJ1をPVDF(ポリ塩化ビニリデン)膜上に滴下した。このPVDF膜はメタノールを用いて洗浄した。そして、CryJ1に結合するIgEの検出は、ビオチン−アビチン反応を用いて行った。PVDF膜の乾燥後、ブロッキング剤(0.5% BSA in PBS−Tween)を用いて1時間培養し、PVDF膜をPBS−Tweenで3回洗浄し、余分なBSAを除去した。このPVDF膜は、PBS−Tweenで20倍に希釈された患者のヒト血清とともに一晩培養した。そのPVDF膜をPBS−Tweenで4回洗浄した後、1/10000に希釈されたビオチン化抗ヒトIgE抗体をPVDF膜に添加し、1時間培養した。次にPBS−Tweenで4回洗浄し、結合したIgE抗体1/5000倍に希釈したHRP−ストレプトアビジン溶液及びECLを用いたウエスタンブロッティングを用いて検出した。
【0024】
図1はドットブロット法により得られたIgE抗体との結合を濃淡によって示す図であり、白色になるほどIgE抗体と結合していることを示している。なお図1中「Native」は、未加熱CryJ1であり、「Heated」は加熱後CryJ1である。また、図2は、図1に示す濃淡をデンシトメータによって測定したものであり、IgE抗体との結合度を示すグラフである。なお、加熱後CryJ1とIgE抗体との結合度は、未加熱CryJ1とIgE抗体との結合を100%とした場合の割合を示している。
【0025】
これら図1及び図2から明らかなように、未加熱CryJ1に対して加熱後CryJ1のIgE抗体との結合度が顕著に低減されていることが分かる。つまり、CryJ1は加熱によって分子間で架橋したβ構造及び分子間でジスルフィド結合を形成し、分子表面に露出している抗原構造は、可溶性凝集体の内部に埋もれ、抗原性が低減される。
【0026】
最後に、本実施形態の可溶性凝集体を液体クロマトグラフ(HPLC)、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(SDS−PAGE)、円偏光二色性(CD)分析法、及び蛍光分析法を用いた分析結果について説明する。
【0027】
図3は、HPLCを用いて未加熱CryJ1及び加熱後CryJ1を分析したゲルろ過パターンを示す。図3中、横軸は溶出時間、Aは未加熱CryJ1のパターン、Bは加熱後CryJ1のパターンである。なお、この分析には、TSKgel G−3000 SW(東ソー社製、カラム寸法0.75×30cm)を用いたHPLCにより行った。未加熱CryJ1及び加熱後CryJ1を100mMのリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)を用いて流速0.5mL/minでHPLCのカラムに流した。ゲルろ過パターンは波長280nmの吸光度を用いて測定した。
【0028】
図3から明らかなように、未加熱CryJ1のピークは、溶出時間24.5min及び25minにおいて重複ピークとして現れる。一方で、加熱後CryJ1のピークは溶出時間24.5min及び25minでは現れず、可溶性凝集体が形成されていることが分かる。
【0029】
図4及び図5は、未加熱CryJ1、加熱後CryJ1、及び2−メルカプトエタノール存在下における加熱後CryJ1のSDS−PAGEの結果を示す。図4中、左列は分子量マーカー、中列は未加熱CryJ1のSDS−PAGE、右列は加熱後CryJ1のSDS−PAGEである。また図5中、左列は分子量マーカー、中列は加熱後CryJ1のSDS−PAGE、右列は加熱後CryJ1に2−メルカプトエタノールを加えたSDS−PAGEである。なお、このSDS−PAGEには、0.1%SDSを含有する12.5%アクリルアミド分離ゲル及び5%アクリルアミド濃縮ゲルを用いた。電気泳動は、1%SDSを含む泳動用緩衝液(トリス−グリシン(pH8.0))内の濃縮ゲルに10mAの電流を30分間通電し、分離ゲルに20mAの電流を1時間通電することにより行った。電気泳動後、ゲルシートをタンパク質染色色素(0.2%Coomassie Brilliant Blue R-250(CBB-R250))を用いて染色し、20%メタノールを含有する10%酢酸を用いて脱色した。
【0030】
図4から明らかなように、未加熱CryJ1の分子量は、タンパク質のN−グリコシド結合を反映して42−45kDaであることが示されている。一方で、加熱後CryJ1は、分離ゲル及び凝縮ゲルの境界近傍に表れており、可溶性凝集体が形成されていることが分かる。さらに、図5から明らかなように、2−メルカプトエタノール存在下の加熱後CryJ1は、2−メルカプトエタノールの分離作用によって分離され、未加熱CryJ1と同様の分子量であることが示されている。したがって、加熱によるCryJ1の重合には、分子間のジスルフィド結合の形成が含まれていることが分かった。
【0031】
図6は、加熱前後及び加熱中におけるCryJ1のCDスペクトルを示す。図6中、「○−○」は室温におけるCryJ1におけるスペクトル、「□−□」は90℃に加熱しているCryJ1のスペクトル、「△−△」は加熱後冷却したCryJ1のスペクトルである。なお、CD測定装置は、25℃における測定波長200−260nmの楕円率を用いた分光偏光計(Jasco社製、J−600型)を用いた。また、1.0mm光路を有するセル内の10mM酢酸緩衝液(pH5.0)内におけるCryJ1の最終濃度が1mg/mLとなるようにした。1つの試料に対して、2回から4回の連続スキャンを行い、その平均値を算出した。それぞれのスペクトルは、タンパク質濃度を用いて規格化し、平均残基分子楕円率(deg cm/d mol)とした。タンパク質濃度は、波長280nmでの吸光度から算出した。熱変性曲線は、222nmでの楕円率によって40℃から90℃まで自動的に測定した。
【0032】
図6から明らかなように、加熱されたCryJ1は、通常のタンパク質のCD曲線と異なる特徴的なCD曲線を示している。ほとんどのタンパク質のCDスペクトルは通常、熱変性過程において、210nmよりも小さい波長域においてピークを有する。しかしながら、熱変性したCryJ1のCDスペクトルは、波長218nmにおいて吸光度が最小となり、これは、熱変性によってβ構造が増加していることを示している。さらに、熱変性したCryJ1の溶液を冷却することによって、その傾向が顕著になり、熱変性したCryJ1を冷却することによってβ構造がさらに増加することが分かった。このような結果は、分子間におけるβシート構造が増加していることを反映している。
【0033】
また図7は、未加熱CryJ1、90℃で加熱したCryJ1及び加熱後に変性剤(4M塩酸グアニジン)によって処理したCryJ1のCDスペクトルを示す図である。なお、図7中、「○−○」は未加熱CryJ1のスペクトル、「△−△」は90℃に加熱しているCryJ1のスペクトル、「×−×」は加熱後のCryJ1に変性剤を加えたスペクトルである。この図から明らかなように、変性剤を加えることによって、熱変性したCryJ1の波長218nmでの吸光度が大幅に減少していることが分かる。これによって、分子間で架橋するβ構造が破壊されていることが分かる。これらの結果から、CryJ1が、熱変性によって、分子間β構造を介して、規則的な集合構造を有する可溶性凝集体を形成することが示された。
【0034】
可溶性凝集体の分子間β構造の形成を分析するために、チオフラビンTを用いた蛍光強度分析を行った。なお、チオフラビンTはβ構造に対して作用することが知られており、チオフラビンTの蛍光強度がβ構造に比例することも知られている。図8は、218nmでのCDによる熱変性曲線及びCryJ1の熱変性過程におけるチオフラビンTの蛍光強度を示す。なお、図8中、「○」は波長218nmにおける楕円率、「△」は蛍光強度である。
【0035】
図8から明らかなように、CryJ1におけるチオフラビンTの蛍光強度は、加熱温度が上昇するに連れて減少していることが分かる。この結果は、CryJ1が熱変性過程において、分子間の相互作用によりβ構造を形成することを示している。つまり、加熱することによって得られるCryJ1の重合には、分子間ジスルフィド結合及び分子間β結合が含まれていることが分かる。
【0036】
<本実施形態の効果>
このように構成した本実施形態に係る免疫寛容誘導剤によれば、アレルゲンタンパク質の抗原構造を多糖類等によって化学装飾させることなく、アレルゲンタンパク質の抗原性を低減させることができる。したがって、この免疫寛容誘導剤を用いることによって、アレルギー反応を起こしうるアレルゲンタンパク質を、アナフェラキシーを起こすことなく、経口投与又は経粘膜投与によって免疫系に導入して免疫寛容を誘導し、アレルギー疾患を予防することが可能となる。
【0037】
<その他の変形実施形態>
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
例えば、前記実施形態では、スギ花粉アレルゲンの免疫寛容誘導剤について説明したが、その他、ヒノキ花粉アレルゲン等の植物性アレルゲン又は動物性アレルゲンにも適用することができる。
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアレルゲンタンパク質を加熱し、それらアレルゲンタンパク質を凝集させることによってアレルギー反応の原因となる抗原構造を内包させてなる、アレルゲンタンパク質の可溶性凝集体。
【請求項2】
前記アレルゲンが、動物性アレルゲン又は植物性アレルゲンである請求項1記載の可溶性凝集体。
【請求項3】
前記アレルゲンが、スギ花粉アレルゲンである請求項1記載のアレルゲンタンパク質の可溶性凝集体。
【請求項4】
前記アレルゲンタンパク質が加熱速度1℃/minで40℃から90℃まで加熱することによって凝集されている請求項3記載のアレルゲンタンパク質の可溶性凝集体。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載のアレルゲンタンパク質の可溶性凝集体を用いたものであって、経口投与又は経粘膜投与によって免疫寛容を誘導する免疫寛容誘導剤。
【請求項6】
経口投与又は経粘膜投与によって免疫寛容を誘導する免疫寛容誘導剤の製造方法であって、
複数のアレルゲンタンパク質を加熱し、それらアレルゲンタンパク質を凝集させることによって、アレルギー反応の原因となる抗原構造を内包させることを特徴とする免疫寛容誘導剤の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−6365(P2011−6365A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−152712(P2009−152712)
【出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り http://pubs.acs.org/toc/jafcau/57/11 http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/jf900168y 平成21年5月7日
【出願人】(000252252)和興フィルタテクノロジー株式会社 (41)
【出願人】(509138165)プロテック株式会社 (2)
【Fターム(参考)】