説明

可溶性多糖の製造方法

【課題】本発明は、水可溶性β−1,3グルクロン酸含有多糖の製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】β−1,3グルカン1gに対し、ニトロキシラジカル誘導体0.00125〜0.125g、臭化アルカリ0.0125〜1.25gおよび酸化剤5〜100mmolを含む水系媒体中でβ−1,3グルカンを処理してβ−1,3グルクロン酸含有多糖を得ることを含む、β−1,3グルクロン酸含有多糖の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、β−1,3グルクロン酸含有多糖の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、多糖類をN−オキシル化合物の触媒存在下で酸化反応を行い、水溶性のポリウロン酸を得る手法が発明された。この酸化方法は、多糖類の水分散または溶解系で2、2、6、6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシラジカル(TEMPO)などのN−オキシル化合物と次亜塩素酸ナトリウムなどの共酸化剤を用いて系内でオキソアンモニウム塩を順次生成しながら多糖類を酸化するというものである(特許文献1〜3)。
【0003】
上記方法は、デンプン、プルランなどの水溶性多糖類のほか、セルロース、キチンなどの難溶性多糖類にも適用されている。こうして酸化された多糖類は、その一級水酸基のみが高い選択性で酸化され、カルボキシル基またはその塩に変換されたポリウロン酸型の構造を有する。この合成ポリウロン酸は、天然に存在する糖類からなる均一な構造を有し、高い水溶性を有するため、その有効性について様々な報告がなされている。
【0004】
前記のN−オキシル化合物を触媒に用いた多糖類の酸化は、水系の反応液中、TEMPOなどのN−オキシル化合物のほかに臭化ナトリウムなどの触媒を用いて、次亜塩素酸ナトリウムなどの共酸化剤により酸化が進行する。酸化が進行してカルボキシル基(ナトリウム塩)が増加するに従い、澱粉などの水溶性多糖類はもちろん、セルロースやキチンなどの難溶性の多糖類も親水性が付与され、水に可溶化する。
【0005】
反応終了後は、一般的に反応水溶液をエタノールなどの貧溶媒に滴下し、水溶化した酸化多糖類を析出させる。単離後は、反応の過程で生成する食塩やその他の試薬を除去するために、水を含む有機溶媒で洗浄を繰り返し、最後はアセトンで脱水した後、乾燥させる方法が一般的である。
【0006】
この場合、反応自体は水系の反応であるが、単離精製に多量の有機溶媒を使用することになる。また、反応水溶液を透析にかけ、透析後の水溶液を凍結乾燥させる方法も採用されるが、処理が大掛かりとなり、用途が限られるため、大量生産のためには更なる改良が必要である。
【0007】
ところで、β−1,3グルカンは、アガリクスなどのキノコ類やパン酵母などから抽出された多糖類であり、抗炎症作用や抗腫瘍効果などの機能を発揮する。このため、各種食品メーカーから健康食品として供給されている。しかしながら、β−1,3グルカンの分子量が大きく、その構造に特異性を有することから水に難溶であり、固体粉末以外の用途を開発することが困難であった。また、体内に吸収しやすく生理活性効果を発揮しにくいため、さらなる用途を開発することが困難である。
【特許文献1】特開2006-124598号公報
【特許文献2】特開2006-282926号公報
【特許文献3】特開2004-189924号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような背景のもと、可溶性β−1,3グルカンの製造方法の提供が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特殊な酸化条件を用いることにより、β−1,3グルカンからβ−1,3グルクロン酸を含有する可溶性多糖を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] ニトロキシラジカル誘導体および酸化剤を含む水系媒体中でβ−1,3グルカンを処理してβ−1,3グルクロン酸含有多糖を得ることを含む、β−1,3グルクロン酸含有多糖の製造方法。
[2] 前記ニトロキシルラジカル誘導体が4−アセトアミド−2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシラジカルである、[1]に記載の製造方法。
[3] 前記酸化剤が亜塩素酸ナトリウムおよび次亜塩素酸ナトリウムである、[1]または[2]に記載の製造方法。
[4] ニトロキシラジカル誘導体、酸化剤およびハロゲン化アルカリ(例えば臭化アルカリ)を含む水系媒体中でβ−1,3グルカンを処理してβ−1,3グルクロン酸含有多糖を得ることを含む、β−1,3グルクロン酸含有多糖の製造方法。
[5] 前記ニトロキシルラジカル誘導体が2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシラジカルである、[4]に記載の製造方法。
[6] 前記酸化剤が次亜塩素酸ナトリウムである、[4]または[5]に記載の製造方法。
[7] 前記ハロゲン化アルカリが臭化ナトリウムである、[4]〜[6]のいずれか1項に記載の製造方法。
[8] β−1,3グルカン1gに対し、ニトロキシラジカル誘導体0.00125〜0.125gおよび酸化剤5〜100mmolを含む水系媒体中でβ−1,3グルカンを処理してβ−1,3グルクロン酸含有多糖を得ることを含む、β−1,3グルクロン酸含有多糖の製造方法。
[9] 前記ニトロキシルラジカル誘導体が4−アセトアミド−2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシラジカルである、[8]に記載の製造方法。
[10] 前記酸化剤が亜塩素酸ナトリウムおよび次亜塩素酸ナトリウムである、[8]または[9]に記載の製造方法。
[11] β−1,3グルカン1gに対し、ニトロキシラジカル誘導体0.00125〜0.125g、酸化剤5〜100mmolおよびハロゲン化アルカリ(例えば臭化アルカリ)0.0125〜1.25gを含む水系媒体中でβ−1,3グルカンを処理してβ−1,3グルクロン酸含有多糖を得ることを含む、β−1,3グルクロン酸含有多糖の製造方法。
[12]
前記ニトロキシルラジカル誘導体が2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシラジカルである、[11]に記載の製造方法。
[13] 前記酸化剤が次亜塩素酸ナトリウムである、[11]または[12]に記載の製造方法。
[14] 前記ハロゲン化アルカリが臭化ナトリウムである、[11]〜[13]のいずれか1項に記載の製造方法。
[15] [1]〜[14]のいずれか1項に記載の方法で製造しうるβ−1,3グルクロン酸含有多糖。
[16] [15]に記載のβ−1,3グルクロン酸含有多糖が水系媒体中に分散してなる水溶液。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、効率よく水可溶性β−1,3グルクロン酸含有多糖(特にβ−1,3ポリグルクロン酸)を得ることができる。また、本発明によれば、水可溶性β−1,3グルクロン酸含有量を広範囲にコントロールすることができるため、用途に応じて最適なβ−1,3グルクロン酸量を選択することが可能であり、目的に適したβ−1,3グルクロン酸含有多糖を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0013】
本発明は、β−1,3グルカンを、β−1,3グルクロン酸を含む多糖(たとえばβ−1,3ポリグルクロン酸)に改質させ、それらを高収率で製造する方法に関する。
本発明の多糖は、ニトロキシラジカル誘導体および酸化剤を含む水系媒体中でβ−1,3グルカンを処理してβ−1,3グルクロン酸含有多糖を得ることを含む、β−1,3グルクロン酸含有多糖の製造方法である。また、本発明においては、上記水系媒体にハロゲン化アルカリを含めることができる。
また、本発明の多糖は、水可溶性のβ−1,3グルクロン酸を含有するものであり、その製造方法は、β−1,3グルカン1gに対し、ニトロキシラジカル誘導体0.00125〜0.125g、酸化剤5〜100mmolおよびハロゲン化アルカリ(例えば臭化アルカリ)0.0125〜1.25gを含む水系媒体中でβ−1,3グルカンを処理してβ−1,3グルクロン酸含有多糖を得る工程を含む。また本発明は、ハロゲン化アルカリの不在下で、β−1,3グルカン1gに対し、ニトロキシラジカル誘導体0.00125〜0.125gおよび酸化剤5〜100mmolを含む水系媒体中でβ−1,3グルカンを処理してβ−1,3グルクロン酸含有多糖を得る工程を含む。
【0014】
本発明において、出発原料となるβ−1,3グルカンの由来は特に制限されるものではなく、木材や草本類由来(例えばセルロース由来)のもののほか、微生物生産由来などであってもよい。パン酵母由来のβ−1,3グルカンも利用可能である。本発明に用いられるβ−1,3グルカンは、乾燥したものであってもよいし、未乾燥のものであってもよい。また、市販のもの、例えばパラミロン(Wako)又はカードラン(Wako)を使用することもできる。ここで、本明細書においてβ−1,3グルカンの重量を論じるときは、絶乾重量を基準とする。すなわち、「β−1,3グルカン1g」は、β−1,3グルカンの絶乾重量1gを意味する。
【0015】
本発明に用いられるニトロキシラジカル誘導体は、一般に酸化触媒として用いられるニトロキシラジカルを有する化合物であれば特に制限されない。本発明において用いられるニトロキシラジカル誘導体は水溶性の化合物であることが好ましい。このようなニトロキシラジカル誘導体の具体例としては、次式で表されるピペリジンニトロキシラジカル化合物およびピロリジンニトロキシラジカル化合物などが挙げられる。
【化1】

【0016】
これらのニトロキシラジカル誘導体の中でも、本発明において反応液のpHが弱アルカリ性(例えばpH8〜11)のTEMPO触媒酸化にはTEMPO(2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシラジカル)が、反応液のpHが弱酸性(例えばpH4〜7)のTEMPO触媒酸化には4−アセトアミド−TEMPOが好ましく用いられる。
ニトロキシラジカル誘導体の使用量は、β−1,3グルカン1gに対し、0.00125〜0.125gであり、好ましくは0.005〜0.025g、より好ましくは0.008〜0.015gである。
【0017】
本発明で反応液のpHが弱アルカリ性のTEMPO触媒酸化に用いられるハロゲン化アルカリとしては、特に限定されるものではなく、フッ化アルカリ、臭化アルカリ、塩化アルカリ、ヨウ化アルカリなどが挙げられる。中でも臭化アルカリ、例えば臭化カリウム、臭化ナトリウムが好ましく、臭化ナトリウムを用いることがより好ましい。一方、反応液のpHが弱酸性のTEMPO触媒酸化にはハロゲン化アルカリを添加する必要がない。
ハロゲン化アルカリの使用量は、例えば臭化アルカリの場合はリグノセルロース1gに対し、0.0125〜1.25gであり、好ましくは0.05〜0.25g、より好ましくは0.07〜0.15gである。
【0018】
本発明に用いられる酸化剤としては、次亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸ナトリウム、次亜臭素酸ナトリウム、亜臭素酸ナトリウムなどが挙げられる。これらの中でも、次塩素酸ナトリウムおよび亜塩素酸ナトリウムが好ましく、次亜塩素酸ナトリウムが特に好ましい。
酸化剤の使用量は、β−1,3グルカン1gに対し、5〜100mmolであり、好ましくは15〜40mmol、より好ましくは19〜26mmolである。
反応液のpHが弱酸性(例えばpH4〜7)のTEMPO触媒酸化の場合は、主酸化剤として亜塩素酸ナトリウムを用い、これに少量の次亜塩素酸ナトリウムを含めることが好ましい。ここで使用される次亜塩素酸ナトリウムの含有量は、例えば0.01〜1.0mmolである。
【0019】
本発明において、β−1,3グルカンを処理する間、水系媒体のpHを酸化剤が作用するのに適した範囲に保持することが好ましい。例えば、酸化剤として次亜塩素酸ナトリウムを用いるときは、処理中の水系媒体のpHを弱アルカリ(pH8〜11)に保持することが好ましい。また例えば、酸化剤として亜塩素酸ナトリウムを用いるときは、処理中の水系媒体のpHを弱酸性(pH4〜7)に保持することが好ましい。水系媒体のpHは使用する酸化剤の種類によって適宜選択すればよい。水系媒体のpHの調整は、アンモニア、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどの塩基性物質、あるいは酢酸、シュウ酸、コハク酸、リンゴ酸、クエン酸、安息香酸等の有機酸及び、硝酸、塩酸、硫酸、リン酸等の無機酸等の酸性物質を適宜添加して行うことができる。
【0020】
本発明において、β−1,3グルカンの処理は水系媒体中で行う。ここで、水系媒体とは、水を50重量%以上含む媒体を意味する。例えば、水系媒体としては、水、または水と水に溶解する有機溶媒との混合媒体が挙げられる。水に溶解する有機溶媒としては、酢酸、ギ酸、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフランなどが挙げられる。中でも、TEMPO酸化に安定な酢酸、ギ酸が好ましい。これらの中でも、本発明に用いられる水系媒体としては、水が好ましい。
【0021】
本発明において、水系媒体の使用量は特に制限されないが、反応の効率化および均一化の観点から、β−1,3グルカン1gに対し、20〜200ml程度であることが好ましく、35〜175mlがより好ましく、50〜150mlがさらに好ましい。
下さい。]
【0022】
本発明によれば、pHが弱アルカリ性のTEMPO触媒酸化反応では、ニトロキシラジカル誘導体、ハロゲン化アルカリおよび酸化剤を所定の割合で含む水系媒体中でβ−1,3グルカンを処理することにより、β−1,3グルカン中にβ−1,3グルクロン酸を含有させることができる。一方、pHが弱酸性のTEMPO触媒酸化反応では、ハロゲン化アルカリは不要である。
【0023】
本発明の一実施態様においては、上記のとおり、β−1,3グルカンをニトロキシラジカル誘導体、酸化剤および臭化アルカリの存在下で(場合により臭化アルカリの不在下で)処理することにより、グルコピラノース環の炭素6位を選択的にカルボキシル基に変換する。これによりβ−1,3グルカンを構成する単糖は、グルコピラノース環の1級水酸基がカルボキシル基に酸化されて水溶性のβ−1,3グルクロン酸となり、水溶性に優れた多糖を得ることができる。本発明においては、酸化剤の量を調整することにより、カルボキシル基への酸化度を任意に制御することが可能である。例えば、β−1,3グルカン1gに対して酸化剤を2〜8mmol添加して処理すると、20〜100%がカルボキシル基に変換され、β−1,3グルカン1gに対して酸化剤を7〜8mmol添加して処理すると、ほぼすべてのピラノース環6位の1級水酸基がカルボキシル基に酸化され、水溶性のポリウロン酸(β−1,3ポリグルクロン酸)が得られる。したがって、本発明の多糖は、β−1,3グルクロン酸を含むものであり、ほぼすべてのピラノース環6位の1級水酸基がカルボキシル基に酸化されたβ−1,3ポリグルクロン酸である必要はない。しかし、β−1,3グルカンが水溶性となるためには30%以上のピラノース環6位の1級水酸基がカルボキシル基に酸化されることが好ましい。
【0024】
得られた多糖を構成するβ−1,3ポリグルクロン酸には水溶解に十分な量のカルボキシル基が導入されているため、本発明の多糖は容易に水に溶解することができる。
【0025】
本発明において、上記処理は温和な反応条件下で行うことができる。反応温度は通常4〜100℃の範囲であり、好ましくは常温で行う。また、反応時間は、β−1,3グルカンの種類や反応条件によっても異なるが、pHが弱アルカリ性の反応では通常0.5〜3時間であり、1〜2時間であることが好ましい。pHが弱酸性の反応では通常0.5〜5日を要するが、2日以内であることが望ましい。また、反応は加熱加圧条件下(例えば30℃〜100℃)で行うこともできるが、常圧(大気圧)であることが好ましい。さらに、反応を均一に行うため、スターラー、超音波ホモジナイザー、攪拌機、ニーダー、混練機などの攪拌装置を用いて攪拌しながら反応させることが好ましい。
【0026】
本発明の好ましい態様によれば、本発明の方法は、このように温和な反応条件で処理することができるためβ−1,3グルカンおよびβ−1,3グルクロン酸の損傷が少ない。
本発明によれば、β−1,3グルクロン酸含有多糖を水溶液の状態で得ることができる。また、上記のようにして得られた多糖の乾燥体(例えば粉末等)を水系媒体に溶解することにより、水溶液を得ることもできる。溶解に使用される水系媒体は前記と同様である。水溶液は無色透明で高粘度の液体である。β−1,3ポリグルクロン酸含有多糖は、水溶液から凍結乾燥、スプレー乾燥、オーブン乾燥などの方法で単離して用いることもできるし、水溶液の状態で種々の用途の塗布剤などして使用することができる。
【0027】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0028】
<β−1,3グルカンのTEMPO触媒酸化物調製>
出発物質として、試薬として販売されているパラミロン(Wako)とカードラン(Wako)を用いた。各試料を2.0(g)精秤し、TEMPO 0.0312(g)、臭化ナトリウム 0.2058(g)、脱イオン水 200(ml)を加え、よく攪拌した。次に次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、15(mmol/g)となるように加えた。15(mmol/g)の添加量は理論上、すべてのC6位の水酸基をカルボキシル基へ酸化するのに必要な次亜塩素酸ナトリウムの量である。それぞれの反応液をpH10±0.02で維持するように0.5N 水酸化ナトリウム水溶液を最小滴下量0.050(ml)、最大滴下量0.350(ml)として滴定装置(AUT-501;東亜ディーケーケー)を用いて自動で加えた。水酸化ナトリウム水溶液の消費が無くなった時を反応終点とし、液性を中性に戻してから、透析チューブ(分画子量:1000)を用いて透析により塩を除去した。透析の終点は、1日放置した後の伝導度が、0.1(mS/m)程度となった時点とした。
透析終了後、凍結乾燥を行い乾燥試料とした。乾燥後、重量を測定し、収率を計算したところ約90%の収率であることが分かった。
【0029】
13C-NMR分析結果>
溶媒として、TEMPO触媒酸化前の試料には重ジメチルスルホオキシド(DMSO)を用い、TEMPO触媒酸化後の試料には重水を用いた。試料はすべて、1 wt%となるように調整した。
13C-NMR分析結果を図1および2に示す。図1および図2は、TEMPO酸化前後の13C−NMRスペクトルを示す図である。図1において、上段はパラミロンのピーク、下段はTEMPO酸化パラミロンのピークを示す。また図2において、上段はカードランのピーク、下段はTEMPO酸化カードランのピークを示す。文献の記載に基づいて、得られた各ピーク(図1および2)の帰属を行ったところ、TEMPO触媒酸化によりC6位の水酸基がすべてカルボキシル基に酸化されたポリウロン酸(β−1,3ポリグルクロン酸)が得られたことがわかった。
【0030】
<サイズ排除クロマトグラフィー・多角度光散乱(SEC-MALLS)>
サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)に多角度光散乱測定器を併用することで、分子の絶対分子量を測定できる。溶媒として、TEMPO触媒酸化前の試料には8% LiCl/DMI溶液を用い、TEMPO触媒酸化後の試料には0.1% NaCl水溶液を用いた。試料はすべて、0.1 wt%に調整し、測定を行った。
結果を図3および4に示す。図3はパラミロンおよびカードランについてのTEMPO触媒酸化前のSEC溶出パターン、図4はTEMPO触媒酸化後のSEC溶出パターンを示す図である。得られたスペクトル(図3および4)から、重量平均分子量(Mw)及び、重合度(DPw)を算出し、表1にまとめた。この結果から、TEMPO触媒酸化後では酸化前の試料と比べて、低分子化が顕著であることが分かった。また、TEMPO触媒酸化後では出発物質によらずほぼ同程度の分子量を持つ酸化物ができたことが分かった。
【表1】

【実施例2】
【0031】
<亜塩素酸ナトリウムを用いたβ-1,3グルカンのTEMPO触媒酸化>
出発物質として、市販のカードラン(Wako)1.0 (g)を用いた。脱イオン水 100 (ml)中にカードランを分散させ、4-アセトアミド-TEMPO 0.1(g)を加えた。反応液を35℃に保ち、次亜塩素酸ナトリウム 0.05(mmol)を加え攪拌した後、亜塩素酸ナトリウム 6 (mmol)を加え、pHを6.7にして反応を開始した。ただし、亜塩素酸ナトリウムは水溶液にしてから加えた。また、反応中はpH6.7±0.02で維持するように0.01 N 水酸化ナトリウム水溶液を最小滴下量0.050(ml)、最大滴下量0.350(ml)として滴定装置(AUT-501;東亜ディーケーケー)を用いて自動で加えた。
反応開始後、10時間後に次亜塩素酸ナトリウム 0.05(mmol)と、亜塩素酸ナトリウム 6 (mmol)を加えた。次亜塩素酸ナトリウムは更に10時間おきに0.05 (mmol)づつ計9回加えた。したがって、亜塩素酸ナトリウムの総添加量は12 (mmol)、次亜塩素酸ナトリウムの総添加量は0.5 (mmol)である。
反応は5日間行った。反応後の溶液に同量のエタノールを加え、析出したものを遠心分離により回収した。回収した反応生成物は脱イオン水とエタノールを同量混合した溶液に分散させ、遠心分離を行い、生成物の精製を行った。精製後、少量の脱イオン水に溶かした後、凍結乾燥により乾燥試料を得た。
【0032】
<サイズ排除クロマトグラフィー・多角度光散乱(SEC-MALLS)>
亜塩素酸ナトリウムを用いてTEMPO触媒酸化した試料を用いた。溶媒として0.1% NaCl水溶液を用い、0.1 wt%溶液を調整した。得られた溶出パターン(図5)から、重量平均分子量(Mw)及び、重合度(DPw)を算出し、酸化前のカードラン及び、通常のTEMPO酸化物との比較を表2にまとめた。図5は、亜塩素酸ナトリウムを用いたTEMPO触媒酸化物のSEC溶出パターンを示す図である。
このことから、亜塩素酸ナトリウムを用いたTEMPO酸化物は通常のTEMPO酸化物よりも低分子化の程度が小さいことがわかった。したがって、亜塩素酸ナトリウムを用いることによって、TEMPO触媒酸化物の分子量制御が可能になることが示唆される。
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明により、β−1,3グルクロン酸含有多糖の製造方法が提供される。本発明により、ピラノース環の炭素6位に効率よくカルボキシル基を導入することができるため、得られたβ−1,3グルクロン酸含有多糖(例えばβ−1,3ポリグルクロン酸)は、容易に水に溶解することができる。その結果、本発明の多糖は健康食品、化粧品、増粘剤などに利用することが可能であり、産業上極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】TEMPO酸化前後の13C−NMRスペクトルを示す図である。
【図2】TEMPO酸化前後の13C−NMRスペクトルを示す図である。
【図3】TEMPO触媒酸化前のSEC溶出パターンを示す図である。
【図4】TEMPO触媒酸化後のSEC溶出パターンを示す図である。
【図5】亜塩素酸ナトリウムを用いたTEMPO触媒酸化物のSEC溶出パターンを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニトロキシラジカル誘導体および酸化剤を含む水系媒体中でβ−1,3グルカンを処理してβ−1,3グルクロン酸含有多糖を得ることを含む、β−1,3グルクロン酸含有多糖の製造方法。
【請求項2】
前記ニトロキシルラジカル誘導体が4−アセトアミド−2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシラジカルである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記酸化剤が亜塩素酸ナトリウムおよび次亜塩素酸ナトリウムである、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
ニトロキシラジカル誘導体、酸化剤および臭化アルカリを含む水系媒体中でβ−1,3グルカンを処理してβ−1,3グルクロン酸含有多糖を得ることを含む、β−1,3グルクロン酸含有多糖の製造方法。
【請求項5】
前記ニトロキシルラジカル誘導体が2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシラジカルである、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記酸化剤が次亜塩素酸ナトリウムである、請求項4または5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記臭化アルカリが臭化ナトリウムである、請求項4〜6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
β−1,3グルカン1gに対し、ニトロキシラジカル誘導体0.00125〜0.125gおよび酸化剤5〜100mmolを含む水系媒体中でβ−1,3グルカンを処理してβ−1,3グルクロン酸含有多糖を得ることを含む、β−1,3グルクロン酸含有多糖の製造方法。
【請求項9】
前記ニトロキシルラジカル誘導体が4−アセトアミド−2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシラジカルである、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記酸化剤が亜塩素酸ナトリウムおよび次亜塩素酸ナトリウムである、請求項8または9に記載の製造方法。
【請求項11】
β−1,3グルカン1gに対し、ニトロキシラジカル誘導体0.00125〜0.125g、酸化剤5〜100mmolおよび臭化アルカリ0.0125〜1.25gを含む水系媒体中でβ−1,3グルカンを処理してβ−1,3グルクロン酸含有多糖を得ることを含む、β−1,3グルクロン酸含有多糖の製造方法。
【請求項12】
前記ニトロキシルラジカル誘導体が2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシラジカルである、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記酸化剤が次亜塩素酸ナトリウムである、請求項11または12に記載の製造方法。
【請求項14】
前記臭化アルカリが臭化ナトリウムである、請求項11〜13のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法で製造しうるβ−1,3グルクロン酸含有多糖。
【請求項16】
請求項15に記載のβ−1,3グルクロン酸含有多糖が水系媒体中に分散してなる水溶液。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−308650(P2008−308650A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−160608(P2007−160608)
【出願日】平成19年6月18日(2007.6.18)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】