説明

可溶性多膜貫通型タンパク質の産生方法

天然の高次構造を有する、及び/又は可溶型の膜貫通型ポリペプチドを高収率で産生する方法には、非イオン性又は双性イオンの界面活性剤で可溶化すること、並びに細菌細胞内で高収率の膜貫通型ポリペプチドを発現するためのプロモーターと発現ベクターの使用を含む。変異させたプロモーターにより細菌細胞内での膜貫通型ポリペプチドを厳密に調整できる。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
(発明の背景)
複合の、膜貫通型タンパク質は、宿主細胞内で発現することが困難である。通常は、これらのタンパク質は宿主に有毒であり、様々な発現系では発現されるタンパク質の量が低い。加えて、これらの膜貫通型ポリペプチドは可溶化するのが困難であり、その結果凝集及び変性により有効利用のために十分な品質かつ十分な量を産生することが難しい。
膜貫通型タンパク質の一例は、CD20、高親和性IgEレセプターβ鎖、HTm4などを含む4-ドメインサブファミリA(MS4A)遺伝子ファミリーである。これらのタンパク質は、少なくとも細胞表面の4つの膜貫通ドメインに構造的に関連がある(Ishibashi 等, 2001, Gene 264:87-93)。全体のアミノ酸配列同一性がMS4Aファミリーのポリペプチドの25〜40%の範囲であるにもかかわらず、最初の3つの膜貫通ドメインのアミノ酸は全体のポリペプチドより高い同一性及び相同性を共有する(上掲のIshibashi 等, 2001、Liang 等, 2001 , Genomics 72: 119-127)。また、構造的に、MS4Aポリペプチドは細胞外ループの共通のモチーフを共有する。MS4AポリペプチドのN末端及びC末端は細胞膜の細胞質側にみられる(上掲のIshibashi 等, 2001)。N末端及びC末端は、MS4A遺伝子ファミリーのポリペプチドの中でも非常に大きな配列多様性を表出する(上掲Ishibashi 等, 2001)。
【0002】
多くの構造的類似点にもかかわらず、MS4A遺伝子ファミリのポリペプチドは個々の細胞型で不均一に発現される(上掲のLiang 等, 2001)。CD20は、B細胞において、のみ発現される(Stashenko 等, 1980, J. Immunol, 125: 1678-1685)。高親和性IgEレセプターβ鎖(FcεRIβ)は、肥満細胞及び好塩基球のみに発現される(Kinet, 1999, Annu. Rev. Immunol, 17: 931-972)。FcεRIβはIgEを結合して、抗原結合により誘発される細胞内シグナル伝達(すなわち脱顆粒)を媒介する(Dombrowicz 等, 1998, Immunity, 8: 517-529、Lin 等, 1996, Cell, 85: 985-995)。HTm4は、造血性組織において、発現され、造血性細胞周期調節因子として働く(Donato 等, 2002, J. Clin. Invest., 109: 51-58)。これらのタンパク質は、共通の特徴である膜貫通型ペプチドの複雑な構造を共有する。この特徴は本タンパク質が宿主細胞内で発現すること、及び「天然の」高次構造の細胞膜から可溶化することを非常に困難にしている。
【0003】
膜貫通型ポリペプチド、例えばCD20は、癌及び自己免疫性疾患などの疾患の治療法の標的となりうる。CD20は、20年以上前にB細胞のマーカーとして最初に同定され、現在では大半のB細胞リンパ腫に存在するマーカーとして確立されている。CD20は非ホジキン性リンパ腫(NHL)の治療のモノクローナル抗体治療法の標的であり、具体的には、NHLの治療のリード治療法であるキメラ抗体リツキシマブ(リツキサン(登録商標))の標的である。リツキシマブはB細胞に発現されるCD20を認識する。リツキシマブの結合は高次構造に依存しており、位置167と183にシステイン残基を含有する第3と第4の膜貫通らせん領域の間の従属したループ構造を有するCD20と結合する。
CD20などの膜貫通型ポリペプチドを標的とする治療法の開発における重大な障害は、宿主細胞、特に細菌細胞内でこれらポリペプチドが十分量産生できないこと、及び、精製した組換えないしは天然に生じる膜貫通型ポリペプチドを天然の高次構造で産生できないことである。天然に生じる及び/又は組換え膜貫通型ポリペプチドを天然の高次構造で生産して、可溶化する方法が必要とされる。
【0004】
(発明の概要)
現在、例えば単一又は複数の膜貫通ドメインからなる膜貫通型ポリペプチドは、良好な収率及び十分な天然の高次構造で、効率的に細菌細胞宿主内で産生して細菌細胞膜から可溶化することができ、例えば定量アッセイにおいて、免疫原及びリガンドとして利用可能であることが発見されている。膜貫通型ポリペプチドは、本明細書に記載の方法によって、有用な量及び有用な「天然の」高次構造で産生して、単離し、可溶化できる。
膜貫通型ポリペプチドを産生する方法は、強く、緊密に制御されるプロモーター、例えば大腸菌のphoAプロモーター下で、細胞、例えば細菌細胞での発現を含む。実施態様では、厳しく制御されるプロモーターは、ポジティブ調節成分及びネガティブ調節成分を含み、これらの複数を含有してもよい。例えば、異種性のポジティブ又はネガティブの調節成分が挿入される場合、プロモーターは変異体プロモーターであってもよい。さらに、プロモーターは、存在しうる上流プロモーターの読み過ごしの可能性を防ぐために配置される転写終結区、例えばλ転写終結区を含みうる。大腸菌内のタンパク質の発現のために、プロモーターは、付加したlacオペレーターを含有する以下の実施例に開示した変異体プロモーターであるphacやtphacなどの付加したネガティブ調節成分を含有する、例えばphoAないしはその変異体でもよい。
【0005】
膜貫通型ポリペプチドを発現するためのベクターは、緊密に制御されるプロモーターの制御下に膜貫通型ポリペプチドをコード化するポリヌクレオチド配列を含む。このようなポリペプチドは、例えば、少なくとも4つの膜貫通ドメインを有するもの、例えば下記の実施例に開示するCD20及びC2S-CD20変異体を含む。コードされるポリペプチドは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12ないし24以上の膜貫通ドメインを有しうる。さらに、例えば、7つの膜貫通ドメインを有するEG-VEGFレセプターであるGPR73、高親和性IgEレセプターβ鎖(FcεRIβ)、HTm4、MS4A4A、MS4A6、MS4A7及びRA1cを含む。また、ベクターは、宿主細菌細胞の稀なコドンtRNA遺伝子、及び/又は翻訳開始を亢進するためのリーダーペプチドをコードする、はじめのコドンに近接して位置するポリヌクレオチド配列を含みうる。リーダー配列は、一般に、強い翻訳開始配列(TIS)及び効率的な伸長のためのスペーサー配列を含有する。翻訳開始配列は、本出願ではTISと称するが、翻訳開始領域(TIR)とも称する。
ある実施態様では、リーダー配列は、tipリーダー配列の少なくとも一部、例えばおよそ6〜およそ12アミノ酸をコードする強いTISを含有する。スペーサー配列は、翻訳開始配列を第一膜貫通領域から切り離すものであって、一般に、宿主細胞内で頻繁に発現されることが知られているタンパク質の内部の小さい部分、例えば大腸菌の「E」タンパク質をコードする。スペーサ配列は、一般的に構造化されていない、主に親水性のものである。
【0006】
ある実施態様では、可溶性の多膜貫通型タンパク質は、緊密に制御されるプロモーター、例えばphoAプロモーターないしはその変異体、ネガティブ及び/又はポジティブ制御成分を含んでなり、TISとタンパク質の第一膜貫通領域の間に位置する翻訳伸長スペーサー配列と強力な翻訳開始配列を含有するリーダー配列をコードするポリヌクレオチド配列を含有してなる。
ベクターは、例えば、phoA、phac又はtphacプロモーター、ネガティブ調節成分、例えばlacオペレーター、翻訳開始配列をコードするリーダー配列、例えば9つのアミノ酸配列KAIFVLKGSなどのtrpリーダーの一部、及びtrpE遺伝子の一部などの翻訳伸長配列をコードするスペーサー配列、例えば本明細書に記載のLEリーダー(配列番号25)又はsLEリーダー(配列番号26)にみられるものを含みうる。
膜貫通型ポリペプチドは、収集されて、界面活性剤に可溶化することによって、宿主細胞膜から精製されてもよい。ある実施態様では、非イオン又は双性イオンの界面活性剤、例えばn-ドデシルホスホコリン、DDPCを用いて膜貫通型ポリペプチドを可溶化する。CD20などの単離された多膜貫通型ポリペプチドは、これらの界面活性剤に可溶性である。単離された、可溶性の多膜貫通型ポリペプチドは、細胞に発現される場合、ポリペプチドを認識する抗体により認識されるために十分な「天然の」構造を有しており、免疫原及びアッセイリガンドとして有用である。
【0007】
配列の一覧

【0008】
(詳細な説明)
I.定義
「親和性成熟」抗体は、標的抗原に対する抗体の結合親和性を亢進する1つ以上の高頻度可変領域に1つ以上の変更を有する抗体である。親和性成熟抗体は、標的抗原に対して、ナノモル単位の、さらにはピコモル単位の親和性を有する。親和成熟抗体は、当技術分野において既知の方法、例えばVHドメインとVLドメインのシャフリング(Marks等, Bio/Technology, 10:779-783, 1992)、CDRおよび/またはフレームワーク残基のランダムな突然変異誘発(Barbas等, Proc Nat. Acad. Sci, USA 91:3809-3813(1994);Schier等, Gene, 169:147-155 (1995);Yelton等, J. Immunol., 155:1994-2004 (1995);Jackson等, J. Immunol., 154(7):3310-9 (1995);及びHawkins他, J. Mol. Biol., 226:889-896 (1992))、及びファージディスプレイ(Lowman 等, 1991 , Biochemistry, 30: 10832-10838;Hawkins 等, 1992, J. MoI Biol, 226, 889-896;米国特許第6,172,213号)などにより生産できる。
「抗体」及び「免疫グロブリン」なる用語は互換性をもって広義な意味で使われ、モノクローナル抗体(例えば完全長又は無傷のモノクローナル抗体)、ポリクローナル抗体、ヒト化の、多価抗体、多特異性抗体(例えば所望の生物学的活性を示す限りの二重特異性抗体)及び抗体断片が含まれる。
【0009】
「抗体断片」は、完全な抗体の部分、一般的には完全な抗体の抗体結合又は可変領域を含有するものである。抗体断片の例には、限定するものではないが、Fab断片、Fab’断片、Fd’断片、Fv断片、Fd断片、F(ab‘)断片、dAb断片、ヒンジレス抗体、単鎖抗体、ダイアボディ、単一アーム抗原結合分子(軽鎖、重鎖及びN末端切断型重鎖定常領域を含むものであり、単一アーム抗原結合分子の半減期を増加することができるFc領域を形成するために十分なもの)、及び直鎖抗体などがある。
ここで使用される「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体を意味する、すなわち、集団に含まれる個々の抗体が抗体産生中に生じうる変異体を除いて基本的に同一である。
「モノクローナル抗体」なる用語は、重鎖及び/又は軽鎖の一部が、特定の種由来の抗体、あるいは特定の抗体クラス又はサブクラスに属する抗体の対応する配列と同一であるか又は相同性があり、鎖の残りの部分が他の種由来の抗体、あるいは他の抗体クラス又はサブクラスに属する抗体の対応する配列と同一であるか又は相同である「キメラ」抗体、並びにそれが所望の生物的活性を有する限りこのような抗体の断片を特に含む(米国特許第4,816,567号;及びMorrison等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81:6851-6855(1984))。
【0010】
「生物学的試料」という用語は、何れかの動物、好ましくは哺乳動物、例えばヒトからの身体試料を示す。この生物学的試料は、例えば血管性、糖尿病性、又は癌の患者に由来する。身体試料には、例えば、血清、血漿、ガラス体液、リンパ液、関節液、卵胞液、精液、羊膜液、ミルク、全血、尿、脊髄液、唾液、痰、涙、汗、粘液、及び組織培養液、並びにホモジナイズされた組織などの組織抽出物、細胞性抽出物、又は全細胞ないし組織を含む。生物学的試料は、例えば血清、血漿又は尿である。
「バッファー」は、酸−塩基結合成分の挙動によるpHの変化に耐える緩衝溶液である。
「CD20突然変異体」又は「CD20変異体」なる用語は、参照するCD20アミノ酸配列と異なるアミノ酸配列を含有するか、参照するCD20核酸配列と異なる核酸配列によってコードされるCD20ポリペプチドを指す。CD20変異体は、参照配列の一又は複数のアミノ酸の置換、欠損又は挿入によって生成されうるアミノ酸配列の変化を含む。
「捕捉試薬」という用語は、試料中の標的分子を結合して捕捉することができる試薬を指す。好適な条件化で、この捕捉試薬−標的分子の分子複合体が試料の残りの部分から分離される。捕捉試薬は固定化されているか又は固定化可能である。例えば、サンドイッチイムノアッセイにおいて、捕捉試薬は、標的抗原に対する抗体又は異なる抗体の混合物である。
【0011】
「界面活性剤」なる用語は、長鎖脂肪族塩基ないし酸の塩類又は糖などの親水性成分を含みうる薬剤、及び親水性性質と疎水性性質を保持する薬剤を指す。親水性と疎水性の性質を有すると、界面活性剤は特定の効果を及ぼしうる。本明細書中で用いる界面活性剤は、細胞性膜を崩壊して、ポリペプチドを可溶化する能力を有する。
「検出可能な抗体」なる用語は、検出手段によって増幅される標識によって直接的に、又は標識された他の抗体などによって間接的に検出することができる抗体を指す。直接的な標識のために、抗体は、典型的には、いくつかの手段によって検出可能な成分に結合される。典型的には、抗体は、限定するものではないが、蛍光標識、放射性同位体又は酵素基質標識を含む検出可能な標識にて標識してもよい。標識は、抗体と間接的にコンジュゲートされることがある。例えば、抗体は、ビオチンとコンジュゲートさせることができ、前述した大きな3つの分類のうちの何れかはアビジンとコンジュゲートさせることができ、その逆もまた可能である。ビオチンは選択的にアビジンと結合し、したがって、標識はこの間接的な方法で抗体にコンジュゲートさせることができる。あるいは、抗体と標識を間接的にコンジュゲートさせるために、抗体は小ハプテン(例えばジゴキシン)とコンジュゲートさせ、前述した標識の異なるタイプのうちの1つは抗ハプテン抗体(例えば抗ジゴキシン抗体)とコンジュゲートさせる。
【0012】
「検出用試薬」なる用語は、標識の存在を検出するために使用する分子又は薬剤を指し、マイクロタイタープレート上に捕捉される標識などの固定された標識を増幅する検出試薬を含む。検出手段は、例えば、蛍光又は色素産生成分により標識されるアビジンやストレプトアビジンなどの検出試薬でありうる。
「発現タグ」なる用語は、成熟ポリペプチドのN末端又はC末端に融合されるか、成熟ポリペプチドの特定の残基に結合されて、発現されるポリペプチドを同定する及び/又は単離するための一手段を提供する標識ないしペプチド配列を指す。発現タグは、ベクターの成分としてコードされるか、発現ベクター内に挿入されるポリペプチドコード配列の一部を含んでもよい。発現タグの例には、限定するものではないが、ポリHisタグ(米国特許第4,569,794号)、FLAG、myc、ビオチン、アビジンなどがある。このようなタグは公知であり、市販されている(例えば、Qiagen, Valencia, CAを参照のこと)。
「異種」という用語は、正常では見られない場合に生じる成分を指す。例えば、プロモーターは、異種性の核酸配列、例えば正常ではプロモーターに作用可能に結合して見られない配列に結合してもよい。本明細書中でプロモーター成分を表すために用いられる場合、異種は、正常では天然のプロモーターに作用可能に結合して見られるものと、配列、種又は数が異なるプロモーター成分を意味する。例えば、プロモーター配列における異種性の調節成分は、プロモーター調節を亢進するために付加された異なるプロモーターの調節/制御成分、又は同じプロモーターの付加的な調節成分でもよい。
【0013】
本明細書中で用いる「発現を誘導する」なる句は、特定の遺伝子を含有する細胞をエフェクター試薬ないしインデューサ試薬又は条件に曝すことによって特定の遺伝子からの転写及び/又は翻訳の量や速度を増加することを意味する。
「インデューサ」は、細胞集団に与えられたとき、特定遺伝子からの転写量を増大させる化学的又は物理的薬剤である。これらは通常小分子であり、その効果は特定のオペロン又は遺伝子群に特異的であり、糖、リン酸、アルコール、金属イオン、ホルモン、熱、冷却などを含む。例えば、イソプロピル(β)-D-チオガラクトピラノシド(IPTG)及びラクトースはtacIIプロモータのインデューサであり、L-アラビノースはアラビノースプロモータの好適なインデューサである。phoA(Chang 等, 1987, Gene, 55: 189-196)やpho5などのpho遺伝子プロモーターは、培地の低リン酸濃度によって誘導される。
試薬は、試薬の官能基と固相の表面上の反応基との間で共有結合を形成することによって、支持体中、又は、指示体上に「固定されて」もよい。他の実施態様では、試薬は、吸着及びイオン結合によって固相に「固定される」か、又は固相内に、例えば細胞又は格子型ポリマー又はマイクロカプセル内に内包されてもよい(Holenberg 等, in Enzymes as Drugs, John Wiley & Sons NY (1981), pages 396-411を参照)。試薬は、基本的に、固相に固定されると、対象のポリペプチドに結合する及び/又は修飾する能力を保持する。
【0014】
「単離された」とは、ここで開示された種々のポリペプチドを記述するために使用するときは、その自然環境の成分から同定され分離され及び/又は回収されたポリペプチドを意味する。単離されたポリペプチドは、天然で結合する少なくとも一つの成分と結合していない。その自然環境の汚染成分とは、そのポリペプチドの診断又は治療への使用を典型的には妨害する物質であり、酵素、及び他のタンパク質様又は非タンパク質様溶質が含まれる。単離されたポリペプチドは、組換え細胞内のインサイツのタンパク質が含まれる。しかしながら、通常は、単離されたポリペプチドは少なくとも一つの精製工程により調製される。
本明細書中で用いる「単離されたCD20」は、細胞又は膜から遊離しているCD20タンパク質であり、例えば、界面活性剤溶液中で可溶型となりうる。
「単離された」核酸分子又はポリヌクレオチドは、同定され、天然源に通常付随している少なくとも一つの汚染核酸分子から分離された核酸分子である。単離された核酸分子は、例えば、天然で結合するすべての成分と結合していない。単離された核酸分子は、天然に見出される形態或いは設定以外のものである。
【0015】
「IPTG」は、化合物「イソプロピル(β)-D-チオガラクトピラノシド」であり、lacオペロンのインデューサーとして本願明細書において、用いる。IPTGは、lacリプレッサーの高次構造変化に作用してその結果lacオペレーターからlacリプレッサーを解離するlacリプレッサーに結合する。lacリプレッサーが結合しなければ、作用可能に結合したプロモーターは活性化され、下流の遺伝子は転写される。
「lacオペレーター」なる用語は、例えばJacob 等, 1961, J. MoI. Biol., 3: 318-356に記載されるように、lacリプレッサーであるlacIに結合されうる核酸配列を指す。lacリプレッサーがlacオペレーターに結合する場合、プロモーターは活性化されない。lacリプレッサーが誘導されてオペレーターから解離する場合、プロモーターは活性化される。
「リーダー配列」なる用語は、対象のコード配列の上流に配置される核酸配列を指す。本願明細書に記載のリーダー配列は効率的にリボソームと結合することが知られている特定の配列を含有しており、したがっていくつかのポリヌクレオチドの翻訳開始の効率をより大きくする。本願明細書に記述されるように、リーダー配列は本明細書で定義される翻訳伸長を亢進するためのスペーサ配列及び翻訳開始配列を含有する。
【0016】
本明細書中で用いる「低リン酸培地」又は「リン酸制限培地」なる用語は、溶液のリン酸塩を低濃度で含有する培地を指す。例えば、リン酸培地濃度がおよそ4μM(マイクロモル)以下に低下すると、phoAプロモーターは作動する。しかしながら、リン酸制限培地が4μM(マイクロモル)以上のリン酸を含有するように設定されると、プロモーターが作動する前に細胞が成長しうる。リン酸制限培地の例は、限定するものではないが、Simmons 等, 2002, J. Immunol. Methods, 263: 133-147に記載のC.R.A.P.培地(微量の酵母抽出物及び他の供与源からの混入物のために、およそ1.9Mの初期リン酸濃度を含有する)及びChang 等, 1987, Gene 55: 189-196に記載の培地などである。
ここで用いる「哺乳動物」なる用語は、哺乳動物として分類される任意の動物、例えばヒト、家畜及び農場動物、及び動物園の動物、スポーツ用動物、又は愛玩用動物、例えばイヌ、ウマ、ネコ、ウシなどを指す。哺乳動物は、例えばヒトでもよい。
「MS4Aポリペプチド」なる用語は、膜貫通型4-ドメイン、サブファミリA(MS4A)遺伝子ファミリの遺伝子によって、コードされるポリペプチドを指す。Ishibashi 等, 2001 , Gene, 264:87-93を参照。MS4Aポリペプチドは、天然に生じるMS4Aポリペプチド又は天然に生じるMS4Aポリペプチドの変異体でありうる。MS4A遺伝子ファミリのメンバーは、構造的類似点を有するポリペプチドを有する。それぞれ、4回細胞膜を貫通し、N末端とC末端は細胞膜の細胞質側に位置し、ともにおよそ50アミノ酸長の細胞外ループを含有する。MS4Aポリペプチドは、CD20、高親和性IgEレセプターβ鎖、HTm4、MS4A4A、MS4A7などを含む。また、本用語は、MS4A遺伝子によって、コードされるポリペプチドの変異体及びアイソフォームを含む。この遺伝子ファミリは哺乳動物に保存されており、「MS4Aポリペプチド」はヒト、マウス、ラット及び同類ポリペプチドを含む。
【0017】
MS4Aポリペプチドの「変異体」は、参照配列と異なるアミノ酸配列を含有するか又は参照配列と異なる核酸配列によって、コードされるMS4Aポリペプチドを指す。参照配列は、完全長天然のMS4Aポリペプチド配列、MS4Aポリペプチドの細胞外ドメイン又は完全長MS4Aポリペプチド配列の他の任意の断片でありうる。いくつかの実施態様では、参照配列は、天然に生じるCD20の核酸配列又はアミノ酸配列、例えば配列番号1(アミノ酸配列)又は配列番号2(核酸配列)である。MS4Aポリペプチド変異体は、一般に参照配列と少なくともおよそ80%のアミノ酸配列同一性を有する。
MS4Aポリペプチド変異体は、対立遺伝子変異体、並びに一以上のヌクレオチド又はアミノ酸の変異により調製される変異体などの「天然に生じる」変異体を含む。変異体ポリペプチドは、MS4Aポリペプチドの核酸配列又はアミノ酸配列を修飾することにより調製されてもよい。例えば、変異体は、ヌクレオチド又はアミノ酸の付加、置換及び/又は欠失により調製されてもよい。本発明の方法で有用な変異体MS4Aポリペプチドは、MS4A参照配列、例えば、配列番号1などのヒトCD20の参照配列に、例えば、少なくとも80%、少なくともおよそ85%、少なくともおよそ90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%の配列同一性を有しうる。
【0018】
「膜貫通型タンパク質」又は「膜貫通タンパク質」なる用語は、細胞膜のリン脂質二重層に埋め込まれる一又は複数のセグメントを含んでなるポリペプチドを指す。膜貫通型タンパク質は、細胞内ドメイン、細胞外ドメイン又はその両方を更に含みうる。細胞膜は、細菌、酵母、哺乳動物細胞などの膜であってもよい。
「膜貫通型ドメイン」又は「膜貫通領域」なる用語は、細胞膜のリン脂質二重層に埋め込まれる膜貫通型タンパク質の一部を指す。
「天然の高次構造」なる用語は、その天然の状態のポリペプチドの三次元形状を指す。天然の高次構造は、ポリペプチドの三次又は四次構造を指しうる。ここで使用しているように、可溶化された膜貫通型ポリペプチドの「天然の高次構造」は、十分に可溶化されたポリペプチドであるため、細胞の膜貫通型ポリペプチドを認識する抗体を産生するための免疫原として、又は細胞の膜貫通型ポリペプチドを認識する抗体を結合する結合リガンドとして有用である。
「非イオン」なる用語は、溶液中でイオン化しない、すなわち、「イオン的に」不活発である分子を指す。
【0019】
核酸又はポリヌクレオチドは、他の核酸配列と機能的な関係にあるときに「作用可能に結合され」ている。例えば、プレ配列あるいは分泌リーダーのDNAは、ポリペプチドの分泌に寄与するプレタンパク質として発現されているならそのポリペプチドのDNAに作用可能に結合されている;プロモーター又はエンハンサーは、配列の転写に影響を及ぼすならばコード配列に作用可能に結合されている;又はリボソーム結合部位は、もしそれが翻訳を容易にするような位置にあるならコード配列と作用可能に結合されている。一般的に、「作用可能に結合される」とは、結合されたDNA配列が近接しており、分泌リーダーの場合には近接していて読み取り枠内にある。結合は簡便な制限部位でのライゲーションにより達成される。そのような部位が存在しない場合は、通常の手法にしたがって、合成されたオリゴヌクレオチドアダプターあるいはリンカーが使用される。
「プラスミド」は、小文字「p」とその前後に添えた大文字および/または数字によって指定される。本明細書に記載の出発プラスミドは市販されているか、公けに無制限に入手できるか、もしくはそれらの入手可能なプラスミドから公表された方法に従って構築することができる。また、他の等価なプラスミドも当技術分野で知られており、それらは通常の当業者には明らかだろう。
【0020】
ここで同定したポリペプチドに関する「パーセント(%)アミノ酸配列同一性」とは、配列を整列させ、最大のパーセント配列同一性を得るために必要ならば間隙を導入し、如何なる保存的置換も配列同一性の一部と考えないとした後の、参照配列のアミノ酸残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基のパーセントとして定義される。パーセントアミノ酸配列同一性を決定する目的のためのアラインメントは、当業者の技量の範囲にある種々の方法、例えばBLAST、BLAST-2、ALIGN、又はMegalign(DNASTAR)ソフトウエアのような公に入手可能なコンピュータソフトウエアを使用することにより達成可能である。当業者であれば、比較される配列の完全長に対して最大のアラインメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムを含む、アラインメントを測定するための適切なパラメータを決定することができる。ALIGN-2プログラムはジェネンテック社、サウス サン フランシスコ, カリフォルニアから公的に入手可能である。
ここでの目的のためには、与えられたアミノ酸配列Aの、与えられたアミノ酸配列Bへの、それとの、又はそれに対する%アミノ酸配列同一性(あるいは、与えられたアミノ酸配列Bへの、それとの、又はそれに対する或る程度の%アミノ酸配列同一性を持つ又は含む与えられたアミノ酸配列Aと言うこともできる)は次のように計算される:
分率X/Yの100倍
ここで、XはA及びBのプログラムアラインメントの配列アラインメントプログラムによって同一であると一致したスコアのアミノ酸残基の数であり、YはBの全アミノ酸残基数である。アミノ酸配列Aの長さがアミノ酸配列Bの長さと異なる場合、AのBに対する%アミノ酸配列同一性は、BのAに対する%アミノ酸配列同一性とは異なると認識されるであろう。
【0021】
「パーセント(%)核酸配列同一性」は、配列を整列させ、最大のパーセント配列同一性を得るために必要ならば間隙を導入し、参照ポリペプチドコード化核酸配列のヌクレオチドと同一である候補配列中のヌクレオチドのパーセントとして定義される。パーセント核酸配列同一性を決定する目的のためのアラインメントは、当業者の知る範囲にある種々の方法、例えばBLAST、BLAST-2、ALIGN、ALIGN-2又はMegalign(DNASTAR)ソフトウエアのような公に入手可能なコンピュータソフトウエアを使用することにより達成可能である。比較される配列の完全長に対して最大のアラインメントを達成するために必要な任意のアルゴニズムを含め、アラインメントを測定するための好適なパラメータは公知の方法によって決定することができる。
ここでの目的のためには、与えられた核酸配列Cの、与えられた核酸配列Dとの、又はそれに対する%核酸配列同一性(あるいは、与えられた核酸配列Dと、又はそれに対して或る程度の%核酸配列同一性を持つ又は含む与えられた核酸配列Cと言うこともできる)は次のように計算される:
分率W/Zの100倍
ここで、WはプログラムアラインメントのC及びDの配列アラインメントプログラムによって同一であると一致したスコアのヌクレオチドの数であり、ZはDの全ヌクレオチド数である。核酸配列Cの長さが核酸配列Dの長さと異なる場合、CのDに対する%核酸配列同一性は、DのCに対する%核酸配列同一性とは異なることは理解されるであろう。
【0022】
「phoAプロモーター」なる用語は、アルカリホスファターゼ(phoA)の構造遺伝子のプロモーターを指す。様々な細菌、特に腸内細菌科は、phoA遺伝子及びphoAプロモーターを保持する。大腸菌phoAプロモーターは、本願明細書において、例証されており、配列番号5の核酸配列を有する。
「突然変異体プロモーター」又は「変異体プロモーター」なる用語は、参照配列と異なる核酸配列を有するプロモーターを指す。例えば、表5に示すように、変異体phac及びtphacプロモーターは、phoA参照プロモーターと異なる。プロモーターの核酸配列の変化は、一又は複数の核酸の置換、欠失又は挿入から生じうる。
「phoA」なる用語は、アルカリホスファターゼ金属酵素をコードする遺伝子を指す。大腸菌において、phoA酵素は、phoA発現が無機リン酸塩が枯渇すると100倍以上に上方制御されるリン酸レギュロンの一部である(例えば、Kriakov 等, 2003, J. Bαcteriol., 185: 4983-4991を参照)。大腸菌以外の細菌種は、phoA相同性を有する(例えば、クレブシエラ菌種,赤痢菌種、マイコバクテリウム・スメグマチス)。
【0023】
「ポリ-His」なる用語は、一般に、複数のヒスチジン残基、一般に6〜10のヒスチジン残基を含有するアミノ酸残基を指す。発現タグとして複数のヒスチジン残基がしばしば使われる。したがって「ポリ-Hisタグ」と称される(米国特許第4,569,794号を参照)。ポリhisタグは、例えば、ニッケルカラムなどのアフィニティーカラムに試料を適用することによって、ポリペプチドを検出して及び/又は精製するために用いてもよい。
ここで用いられる「ポリペプチド」は、一般におよそ10以上のアミノ酸を有するペプチド及びタンパク質を指す。ポリペプチドは「異種性」であることを意味する「外因性」、すなわち、細菌細胞により産生されるヒトポリペプチドなどの利用されている宿主細胞に対して外来性のものでありうる。
「霊長類」は、ヒト、類人猿、サル及び関連した品種、例えばキツネザル及びメガネザルを含む任意の分類学上の哺乳動物を意味すると解釈される。
「精製する」とは、組成物から少なくとも一つの混入物を除去する(完全に又は部分的に)ことによって、例えば、組成物中の膜貫通型ポリペプチドの純度の程度を増やすことを意味する。「精製工程」は、「基本的に純粋な」組成物が生じる全体の精製方法の一部であってもよい。基本的に純粋な組成物は、組成物の総重量をもとにして、少なくともおよそ90重量%の対象のポリペプチドを含有しており、少なくともおよそ95重量%を含有してもよい。
【0024】
「稀なコドン」又は「微量なtRNA」なる用語は、特定の細胞型の発生量が低い特定のコドン又はtRNAを指す。例えば、大腸菌細胞におけるtRNAの発生量とコドン選択性について記載している、Dong 等, 1996, J. MoI. Biol., 260: 649-663を参照のこと。
「制御成分」又は「調節成分」なる用語は、転写の開始を制御しているDNA配列を指す。調節又は制御成分の例には、TATAボックス、オペレーター、エンハンサーなどが含まれるが、これに限定されるものではない。調節成分又制御成分は、ネガティブ調節成分とポジティブ調節成分とを含む。ネガティブ調節成分は、転写活性化のために取り除かれるものである。多くのこのようなネガティブ調節成分は公知であり、例えばオペレーター/リプレッサーシステムである。例えば、lacレプレッサーに対するIPTGの結合はlacオペレーターから解離して、活性化して転写が可能となる。他のネガティブ成分には大腸菌trpやλシステムが含まれる。ポジティブ調節成分は転写活性化のために付加されるものである。このような多くのポジティブ調節成分は公知であり、大腸菌phoボックス及びphoBを結合するphoボックスの変異体、MaIT DNA結合部位、AraC DNA結合部位などが含まれる。例えば、phoAプロモーターのphoボックスに対するphoBの結合はプロモーターの活性化を誘導する。
【0025】
天然ではポジティブ調節成分とネガティブ調節成分を含有するプロモーターは稀である。metEプロモーターは一つの例である。例えば、Neidhardt, Ed., 1996, Escherishia coli and Salmonella, Second Ed., pages 1300-1309を参照。公知のポジティブとネガティブの調節成分の記載は、例えば、この引用文献にみられる。いくつかの実施態様では、プロモーターは、基礎発現を直接的に調節するポジティブ及びネガティブの調節成分を有する。プロモーターの付加的な調節を達成するプロモーターの範囲内、又は、該プロモーターに近接したポジティブ又はネガティブの調節成分の配置は公知であり、例えば、Escherishia coli and Salmonella (Supra) 頁1232- 1245に記述される。
ここで言う「リツキシマブ」又は「リツキサン(登録商標)」なる用語は、一般的にCD20抗原に対する遺伝学的に操作したキメラのマウス/ヒトモノクローナル抗体を指し、米国特許第5,736,137号では「C2B8」と命名され、出典明記により特別にここに組み込まれる。抗体は、マウス軽鎖及び重鎖可変領域配列とヒト定常領域配列を含むIgGカッパイムノグロブリンである。リツキシマブはおよそ8.0nMのCD20抗原に対する結合親和性を有する。
【0026】
「可溶化する」なる用語は溶液中の分子を溶解することを指す。本発明の実施態様では、細菌宿主内で発現される組み換え膜貫通型ポリペプチドは非イオン又は双性イオンの界面活性剤中で可溶化される。
「スペーサー配列」なる用語は、翻訳開始配列と第一膜貫通領域の間に位置するアミノ酸配列をコードする一連のポリヌクレオチドを指す。
「緊密に調節されるプロモーター」又は「緊密に制御されるプロモーター」なる用語は、作用可能に結合された遺伝子をほとんど又は全く基礎発現しないプロモーターを指す。緊密な調節因子又は制御されたプロモーターは、特に定められた調節条件下で発現を活性化する。
「転写ターミネーター」なる用語は、転写を終了するようにRNAポリメラーゼをシグナル伝達する核酸配列を指す。転写ターミネーターは周知であり、限定するものではないが、ラムダλ0(taoゼロ)転写ターミネーター(配列番号17)、大腸菌rrnB1 T1及びrrnB2 T2転写終結区、強力なHisオペロンターミネーターなどがある。
【0027】
本明細書中で用いられる「翻訳開始エンハンサー配列」又は「翻訳開始配列」(TIS)なる用語は、遺伝子の翻訳の開始の部位と効率を決定しうる核酸配列を指す(例えば、McCarthy 等, 1990, Trends in Genetics, 6: 78-85を参照)。また、「翻訳開始配列」は翻訳開始領域(TIR)とも称されうる。
「双性イオン」又は「二極性」なる用語は、反対極性の荷電基を有する分子を指す。
【0028】
II. 本発明を実施するための態様
A.膜貫通型ポリペプチド
CD20、MS4A4A、RA1c、GPR73などの膜貫通型ポリペプチドは、癌などの疾患及び疾病の治療における治療法の標的となりうる。CD20は非ホジキン性リンパ腫の治療のリード治療法であるキメラ抗体リツキシマブ(リツキサン(登録商標))の標的である。リツキシマブはB細胞に発現される天然の高次構造のCD20を認識する。リツキシマブの結合は、位置167と183にシステイン残基を含有するCD20の第3と第4の膜貫通らせん領域の間のループ構造に依存する(図1参照)。
CD20などの膜貫通型ポリペプチドを標的とする治療法の開発における重大な障害は、有用な単離されて精製された組み換えないし天然に生じる膜貫通型ポリペプチドを産生することができないことである。例えば、免疫原ないし結合抗原として有用であるためには、単離されて精製されたポリペプチドが、結合パートナーによって認識されるために十分に「天然の」高次構造でなければならない。このポリペプチドは、その結合がポリペプチドの天然の高次構造に存在する構造的な特徴に依存しているリガンドによって認識される程度に十分に天然の高次構造を保持する。本発明は、細菌宿主内で膜貫通型ポリペプチドを産生するための新規のプロモーターを含むベクター、細菌宿主内で膜貫通型ポリペプチドを産生する方法、及び細菌宿主から膜貫通型ポリペプチドを単離する方法を提供する。本発明の方法は、例えば免疫原及び結合抗原として有用である程度に十分な「天然の」高次構造を有する、高収率の膜貫通型ポリペプチドを提供する。
【0029】
膜貫通型ポリペプチドは一又は複数の膜貫通ドメインを含んでなり、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12ないし24以上のこのようなドメインを含みうる。ある実施態様では、膜貫通型ポリペプチドは少なくとも4つの膜貫通ドメインを有する。他の実施態様では、膜貫通型ポリペプチドは7つの膜貫通ドメインを有しており、例えばEG-VEGFレセプター、GPR73及びRA1cレセプターである。4つの膜貫通ドメインを有する膜貫通型ポリペプチドは、例えばポリペプチドのMS4Aファミリーのメンバーを含む。他の実施態様では、膜貫通型ポリペプチドはCD20ポリペプチドないしその変異体である。
以下の記載は本発明に有用な膜貫通型ポリペプチドの一例としてCD20を用いる。以下の実施例に開示するポリペプチド並びに他の開示していない膜貫通型ポリペプチドを含む、更なるポリペプチドは本明細書中に記載の発現及び可溶化の方法に同様に有用である。
【0030】
1.CD20
CD20は、末梢血又はリンパ系器官に由来するB細胞の90%以上の表面にみられるおよそ35kDaのリンタンパク質である。CD20を意味する文献中での他の名称には、「Bリンパ球限定抗原(B-lymphocyte-restricted antigen)」及び「Bp35」などがある。CD20抗原は、例としてClark等 PNAS (USA) 82:1766-1770 (1985)に記載されている。CD20は初期のプレB細胞発生中に発現し、プラズマ細胞分化まで残る。B細胞が活性化されると、CD20の発現がさらに増加する(Valentine 等, 1987, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 84: 8085-8097)。CD20はプラズマ細胞には発現しない。CD20は正常B細胞だけでなく悪性のB細胞上にも存在する。
本発明は、細胞及び細胞膜から遊離しており、リツキシマブ又はその抗原結合断片を結合するために十分な天然の高次構造を保持する単離された哺乳類のCD20を提供する。哺乳類のCD20の例には、限定するものではないが、配列番号1及び3として以下の表2に示すヒトCD20及びマウスCD20が含まれる。ヒトCD20 (NCBI 登録番号 BC002807)及びマウスCD20 (NCBI 登録番号 NM_007641 )をコードする参照核酸配列は、NCBIデータベース(www. ncbi.gov)に示される。例えば、ヒトCD20はB細胞中で様々なリン酸化状態で存在するが、公知のスプライシング変異体はない。
【0031】
概略的に図1に示されるように、CD20は細胞膜の細胞質側に両末端を有する4膜貫通型ポリペプチドである。第一細胞外ループ(ループA)は第1と第2の膜貫通ドメインの間で形成され、第2細胞外ループ(ループB)は第3と第4の膜貫通ドメインの間で形成される。ループBはループAより大きい。ループAは膜貫通ドメインから大きく突出していない。ループBはおよそ46アミノ酸長であって、膜貫通ドメインから大きく突出している。ループBは、およそAsn140からおよそSer185に伸展しており、Cys167とCys183間にジスルフィド結合を含有する。リツキシマブによるCD20の結合はループBに依存している。例として、Polyak及びDeans, 2002, Blood 99:3256-3262を参照。
本発明のCD20ポリペプチドは非イオン又は双性イオンの界面活性剤に可溶性であり、リツキシマブ又は抗原結合リツキシマブ断片がポリペプチドを結合できる程度に十分、界面活性剤中で「天然の」ループB構造を保持する。ある実施態様では、第3と第4の膜貫通ドメイン間で形成されるループは、単離されるCD20に保持される。図1に示すように、ループは、Cys167とCys183の間にジスルフィド結合を含有し、例えば、CD20の残基I164からY184を含む。ループは、例えば、およそ40〜およそ60のアミノ酸を含有してもよく、およそ40〜およそ50のアミノ酸長、およそ45〜およそ50のアミノ酸長、又はおよそ46のアミノ酸長であってもよい。ある実施態様では、ループは、Asn140からSer185まで伸展しており、Cys167とCys183間にジスルフィド結合を含有する。一実施態様では、ループは、リツキシマブによって、又は、その抗原結合性断片によって結合しうる。
【0032】
2.変異体膜貫通型ポリペプチド
また、本発明は、天然に生じるないしは組み換え体であるCD20などの膜貫通型ポリペプチドの変異体を提供する。変異体は、例えば、哺乳類の参照配列のアミノ酸の欠失、挿入又は置換を含む。
変異体膜貫通型ポリペプチドは、哺乳類の参照配列と少なくともおよそ80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含んでなる。例えば、CD20参照配列はマウス又はヒトのCD20配列であってもよい。ある実施態様では、CD20参照配列は配列番号1のものである。他の実施態様では、CD20参照配列は配列番号3のものである。
第3と第4の膜貫通ドメイン及びこれらの間で形成されるループ(ループB)を含むCD20断片は例えば残基K116からN214を含む参照配列であってもよい。CD20参照配列は、例えば、ループBの残基I164からY184を含んでなる。CD20断片は、例えば、配列番号1の残基XからYを含んでもよく、ここでXは、図1に示すヒトCD20の配列に対応する配列T104〜I128の任意の残基であり、Yは、配列V196からP297の任意の残基であり、非還元条件下で残基C167からC183間のジスルフィド結合を有するものである。例えば、CD20断片は、図1の残基N140からS185を含み、非還元条件下で残基C167とC183の間にジスルフィド結合を有しうる。
【0033】
膜貫通型変異体、例えばCD20の変異体は、非イオン又は双性イオンの界面活性剤、例えばDDPCに可溶性であり、CD20変異体を結合する公知の検出用抗体、例えばリツキシマブ(例えばリツキサン(登録商標))又はその抗原結合断片を結合するために十分な「天然の」ループ構造を界面活性剤中で保持している。ある実施態様では、膜貫通型変異体は細胞外ドメインのループ、例えばCD20では、第3と第4の膜貫通ドメイン間で形成されるループを含む。ループは、およそ30〜およそ100のアミノ酸長、およそ40〜およそ60のアミノ酸長、およそ40〜およそ50のアミノ酸長、およそ45〜およそ50のアミノ酸長又はおよそ46のアミノ酸長であってもよい。ある実施態様では、ループは、ジスルフィド結合、例えばCD20では、配列番号1のCys167とCys183に対応する残基のジスルフィド結合を含有する。
膜貫通型変異体ポリペプチドは、アミノ酸置換、例えば、完全長CD20又は上記の切断型変異体では、ポリペプチドの発現を改善するアミノ酸置換を含みうる。例えば、CD20の一又は複数のCys111及びCys220を置換すると、ヒトCD20の発現が改善する(実施例1を参照)。したがって、有用なCD20変異体は、配列番号1のヒトCD20アミノ酸配列のCys111及びCys220に対応する一又は両システイン残基が置換されているアミノ酸配列を含んでなる。システイン残基は、起こりうるジスルフィド結合を妨げるように非保存的に置換されうる。下記の実施例において、CysはSerに置換される。CD20のC2S-CD20(「C2S」とも称する)変異体(配列番号6)(表2を参照)は、二重置換Cys111Ser及びCys220Serを含有する。
【0034】
CD20変異体は、例えばCD20をコードする核酸配列を変異させることによって、一又は複数のアミノ酸を置換させるか、欠失させるか又は、挿入する公知の方法によって生成できる。ある実施態様では、ループBに対する抗体結合を保持するために十分な「天然の」CD20構造が維持されている。アミノ酸挿入は、1残基からポリペプチド含有の百以上の残基にわたるアミノ及び/又はカルボキシル末端の融合、並びに単一又は複数のアミノ酸残基の配列内挿入を含む。配列内挿入(すなわちCD20配列内の挿入)は、例えば、およそ1〜10の残基、1〜5の残基又は1〜3の残基の範囲でありうる。アミノ酸配列欠失は、例えば、1〜30の残基又は1〜10の残基の範囲でよく、一般的に隣接しうる。
CD20の場合のリツキシマブなどの抗体ないし抗体断片の結合に反作用することのない、挿入されるか、置換されるか、又は欠失させるアミノ酸残基(一又は複数)を決定する際の指標は、膜貫通型ポリペプチド、例えばCD20の配列を公知の相同なタンパク質分子、例えば類似の構造及び/又は機能的なドメインを有するタンパク質分子と比較して、高い相同性領域、例えば50%、55%又は60%以上のアミノ酸同一性を有する領域内に作製されたアミノ酸配列変異の数を最小限にすることによって、見つけうる。例えば、ヒト及びマウスのCD20は、膜貫通ドメイン3と4の間の細胞外ループ(ループB)において、63%の同一性を有する72%のアミノ酸配列同一性を共有する。ヒトCD20(配列番号1)及びマウスCD20(配列番号3)などの参照配列を用いて、相同性の高い及び低い同一領域のアラインメントと比較を行う。
【0035】
また、機能的なドメインは、CD20などの膜貫通型ポリペプチドに相同性があることが知られているポリペプチドにおいて、同定できる。機能的なドメインの配列を、他の公知の配列、例えばCD20又はMS4Aファミリポリペプチドと比較して配列させることができる。CD20、IgEレセプターβ鎖、及びHTm4は、共通のN末端及びC末端のドメインを有する4つの膜貫通構造を有する。およそ50アミノ酸の細胞外ループは、MS4A遺伝子ファミリ内の他の共通したモチーフである。加えて、この構造は、異なる種、例えばヒト及びマウスの間で共通である。これら3つの遺伝子は、ヒトでは11q12−q13.1、マウスでは第19染色体に位置する(Adra 等, 1989, Proc. Natl. Acad. ScL USA, 91 : 10178-10182、Hupp 等, 1989, J. Immunol., 143: 3787-3791、Tedder 等, 1988, J. Immunol., 141 : 4388-4394、Tedder 等, 1989, J. Immunol, 142: 2555-2559)。3つの遺伝子は、共通の前駆体から進化したものと考えられる(上掲のLiang 等, 2001)。
アミノ酸置換の候補位置は、高いアミノ酸可変性を示す位置、すなわち、異なる配列を整列させて比較したときにある位置で少なくとも3つの異なるアミノ酸が見られるか、配列同一性が低いパーセント、すなわち90未満の配列同一性である位置として決定される。配列が整列配置される場合、可変性を示す位置は保存的又は非保存的ななアミノ酸置換を有しうる。保存的アミノ酸置換を有する位置は、天然に生じるタンパク質の同じ位置で観察される同じタイプの置換により置換されうる。このような置換の例を表1に示す。
【0036】
表1

【0037】
CD20などのポリペプチドの生物学的な性質の実質的な修飾は、(a)置換領域のポリペプチド骨格の構造、例えばシート高次構造、螺旋高次構造又はループ構造、(b)標的部位の分子の疎水性の電荷、又は(c)側鎖の嵩を維持しながら、それらの効果において有意に異なる置換を選択することにより達成される。天然に生じる残基は共通の側鎖特性に基づいてグループに分けることができる:
(1)疎水性:ノルロイシン, met, ala, val, leu, ile;
(2)中性の親水性:cys, ser, thr;
(3)酸性:asp, glu;
(4)塩基性:asn, gln, his, lys, arg;
(5)鎖配向に影響する残基:gly, Pro;及び
(6)芳香族:trp, tyr, phe。
非保存的置換は、これらの分類の一つのメンバーを他の分類に交換することを必要とするであろう。また、そのように置換された残基は、保存的置換部位、又は残された(非保存)部位に導入されうる。
CD20変異体などの膜貫通型ポリペプチド変異体は、オリゴヌクレオチド媒介(部位特異的)突然変異誘発、アラニンスキャンニング、PCR突然変異誘発、部位特異的突然変異誘発[Zoller等, Nucl. Acids Res., 10:6487-6500 (1987)]、カセット突然変異誘発[Wells等, Gene, 34:315 (1985)]、制限的選択突然変異誘発[Wells等, Philos. Trans. R. Soc. London SerA, 317:415 (1986)]などの公知の組み換え方法を用いて作製することができる。
【0038】
B.発現系
1.宿主細胞
本発明は、膜貫通型ポリペプチドを宿主細胞内、特に細菌細胞内で産生する方法を提供する。膜貫通型ポリペプチドを生産するために有用な細菌宿主は、エシェリヒア属、エンテロバクター属、バシラス属、シュードモナス属、クレブシエラ属、プロテウス属、サルモネラ属、霊菌属、赤痢菌属などを含む。適切な細菌宿主は、腸内細菌、例えば大腸菌、赤痢菌、肺炎桿菌などを含む。適切な大腸菌宿主は、株W3110 (ATCC 登録番号 27,325)、294(ATCC 登録番号31 ,446)、B、X1776 (ATCC 登録番号31 ,537)、58F3などを含む。上記の細菌の変異細胞も使用されうる。宿主細胞大腸菌株58F3 (W3110 - fhuAΔ (tonAΔ) phoAΔE15 lonΔ galE rpoHts(htpRts) ΔclpP laclq ΔompTΔ(nmpc-fepE) ΔslyD)を本願明細書において、例証する。ベクター、プロモーターなどが同様に利用されてもよく、他の細菌宿主の膜貫通型タンパク質、例えばCD20を効率的に産生できるようにするために修飾されうることが考えられる。
本発明の方法への使用のために細菌を選択する場合、細菌のレプリコンの複製能を考慮する。例えば、pBR322、pBR325、pACYC177、pKN410などのような周知のプラスミドがレプリコンを供給するために用いられる場合、大腸菌、霊菌属及びサルモネラ種が宿主として最適に使われうる。
【0039】
2. プロモーター
複合の膜貫通型ポリペプチドを細菌細胞などの宿主細胞内で効果的かつ効率的に産生するために、基礎活性の低さについてプロモーターを選択する。膜貫通型ポリペプチドは通常、宿主細胞に有毒であるので、プロモーターの基礎活性による低発現であっても宿主細胞の健康に影響を与え、細胞成長の低減、タンパク質産生の減少及び収率の減少が生じうる。宿主細胞が十分に成長してタンパク質を高く産生すると共に収率が良好となる一方で、プロモーターが短時間のみ作動することが望ましい。したがって、本明細書中では、プロモーターを最低の基礎活性について選択及び/又は操作する。
例えば細菌細胞において、強力で、緊密に調節されるといわれる2つの一般的に用いられるプロモーターは、天然のT7及びラムダPLプロモーターに基づく。
強力なT7プロモーターは、pETベクター(Novagen, Stratagene他)において、市販されており、染色体に組み込まれるT7 RNAポリメラーゼ遺伝子を有する株(ラムダDE3溶原株)で用いられる。T7 RNAポリメラーゼはlacプロモーター/オペレーターの調節下にあり、最終的に、対象の遺伝子に作用可能に結合されるT7プロモーターはIPTGにより誘導される。それ自体によるこのシステムはむしろ当てにならず、多膜貫通型タンパク質のような毒性タンパク質は誘導前の成長の不足などの問題を生じる。調節を強化して、基礎レベル発現を低減するために、T7 RNAポリメラーゼであるT7リゾチームのインヒビターを、同じ細胞の異なる適合性プラスミド(NovagenのpLysS及びpLysE)に、共発現させてもよい。結果として生じたシステム(pET/DE3株/pLys)はやはりIPTGの添加により誘導され、それによって、T7 RNAポリメラーゼの高レベルはT7リゾチームインヒビターの低レベルに勝り、T7プロモーターを作動する。
【0040】
ラムダPLプロモーターは、あまり一般的に用いられない他の強力なプロモーターである。市販のベクター、pLEX(Invitrogen)で利用可能である。対象の遺伝子に作用可能に結合されるPLプロモーターはpLEXプラスミド内に配置され、PLプロモーターを調節するcIリプレッサーは株染色体に組み込まれる。cIリプレッサーは、trpプロモーター/オペレーターの調節下である。
公知の誘導可能な細菌性プロモーターは本発明の方法に使用することができ、本明細書中に記載のように、用いたプロモーターは基礎活性が低いか、基礎活性を低減する用に操作されている。いくつかの例は、β‐ラクタマーゼ、ラクトース、及びトリプトファンプロモーターなどがある。特定の宿主細胞システムへの使用に適切な他のプロモーターは、一般に公知で利用可能であり、本願明細書に記載のように、基礎活性を低減するように操作されうる。
【0041】
3.調節成分
phoAプロモーターは、大腸菌における基礎活性が低い、緊密に調節されるプロモーターである。phoAプロモーターは、活性化因子phoBを結合するphoボックスを介してポジティブに制御される(表5を参照)。プロモーター活性は、培地中のリン酸枯渇、例えば制限されたリン酸培地に希釈することによって、作動する。その調節メカニズムにもかかわらず、phoAプロモーターはいくらかの基礎活性を示す。
プロモーターは、一又は複数のネガティブ調節成分と一又は複数のポジティブ調節成分を含有するように選択又は操作できる。例として、Neidhardt, Ed., 1996, Escherishia coli and Salmonella, Second Ed., ASM Press, Washington D.Cに記載のポジティブ及びネガティブの調節成分を参照のこと。
ポジティブ及びネガティブの調節成分を有するプロモーターは稀である。一例はmetEプロモーターである。例として、Neidhardt, Ed., 1996, Escherishia coli and Salmonella, Second Ed., pages 1300-1309を参照のこと。公知のポジティブ及びネガティブの調節成分は、例えばこの引用文献にみられる。いくつかの実施態様では、プロモーターは、基礎発現を直接的に調節する少なくとも一のポジティブ調節成分と少なくとも一のネガティブ調節成分を有する。プロモーターの付加した制御を達成するプロモーターの範囲内、又は、該プロモーターに隣接したポジティブ又はネガティブの調節成分の配置は公知であり、例えば、Escherishia coli and Salmonella (Supra) 頁1232- 1245に記載されている。
【0042】
ネガティブ調節成分は、例えば、lacリプレッサー/lacオペレーター、大腸菌trpリプレッサー/trpオペレーター、λリプレッサー/オペレーターなどを含む。ポジティブ調節成分は、例えば、phoAプロモーターのphoボックス及びphoBを結合する変異体、マルトースオペロンプロモーターのMaIT DNA結合部位、アラビノースオペロンプロモーターのAraC DNA結合部位などを含む。例えば、ポジティブ調節成分としてphoボックスを有するphoAプロモーターは、異種性のネガティブ調節成分、例えばラックオペレーターを含むように操作されうる。lacオペレーターはIPTGの添加により誘導される。
プロモーターのための2つの一般的に用いられるポジティブ調節成分は、PhoB/phoボックスとAraC/araI DNA結合部位である。これら及び多数の他のポジティブ及びネガティブの転写制御配列は、例えば上掲のNeidhardtに記述される。一般的に用いられるネガティブ調節成分は、lacリプレッサー/lacオペレーター、trpリプレッサー/trpオペレーター、及びλリプレッサー/オペレーターなどを含む。
【0043】
4.転写ターミネーター
異なるプロモーターシステムからの読み過ごしを防ぐために、発現される核酸配列に作用可能に結合されるプロモーターに達する前に転写の読み過ごしを止めるために、一又は複数の転写ターミネーターを配置できる。例えば、ラムダ転写ターミネーター配列AACG CTCGGTTGCC GCCGGGCGTT TTTTATT (配列番号17)をphoAプロモーターの上流に挿入できる。更なる転写ターミネーター配列は公知であり、Hisオペロンターミネーターなどが使用可能である。膜貫通型ポリペプチドの発現調節のための他のプロモーター成分と作用可能に結合するように、挿入された調節成分を配置する。
また、迅速に作用し、緊密に調節して(「オン」)、宿主細胞を害さない試薬によって、プロモーターを導入することがプロモーターシステムの望ましい特徴である。大腸菌及び関連した細菌内での発現のために、phoAプロモーターは、発現を緊密に調節する。ネガティブ調節成分、例えばlacオペレーター及び上流のラムダ転写ターミネーターを加えるように変異させた場合、下記の実施例に示すように、プロモーターからの基礎発現は実質的に取り除かれていた。
【0044】
有用なphoAプロモーターは、天然のphoAプロモーター(配列番号5)と、一又は複数のネガティブ調節成分を含有する変異したphoA、例えば変異したプロモーターphac(配列番号15)及び/又は一又は複数の上流の転写ターミネーター、例えば変異体プロモーターtphac(配列番号16)を含む。基礎プロモーター活性を低減するように操作された変異したプロモーターを使うことができる。
大腸菌以外の細菌宿主では、基礎活性の低さについて選択又は操作された、選択した細菌宿主に適合性のあることが公知である、機能的に等価な誘導性プロモーターにphoAプロモーターを置換することが有用でありうる。適切なプロモーターは、限定するものではないが、β‐ラクタマーゼ及びラクトースプロモーターシステム、トリプトファンプロモーターシステム又はハイブリドプロモーター、例えばtac又はtrcプロモーターであり基礎プロモーター活性を低減するように変異されうるものを含む。また、選択されたプロモーターは、ポジティブ及びネガティブの調節成分を含有するように変異されてもよい。例えば、天然でネガティブ制御されるプロモーターは、−35ボックス配列を非−35コンセンサス配列と置換して、phoボックスなどのポジティブ制御配列成分を付加することによって、ポジティブ制御を付加するように操作できる。任意の稀なコドンtRNA遺伝子を、選択された細菌宿主に適合性を有することが知られている稀なコドンtRNA遺伝子に置換することが有用でありうる。
【0045】
5.ベクター
一般に膜貫通型ポリペプチドを発現するために有用なベクターは、膜貫通型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに作用可能に結合された緊密に調節されるプロモーターを含有する。例えばpBR322、pBR325、pACYC177又はpKN410などのプラスミドがベクターの主鎖(バックボーン)として使われうる。ある実施態様では、プラスミドpBR322は主鎖を形成する。
一般に膜貫通型ポリペプチドを発現するためのベクターは、強力なプロモーター、ネガティブ及びポジティブの調節成分、転写ターミネーター、及び緊密な調節と効率的な発現及び翻訳のための付加的な成分を含む。
ベクターは、コードされるポリペプチドのはじめのコドンの直前に位置するアミノ酸リーダーをコードする短い配列を含みうる。リーダー配列は適当な翻訳開始を促進し、一般におよそ6〜12のアミノ酸を含有する。そして、例えば6、7、8、9、10、11、又は12のアミノ酸、あるいはそれ以上を含有しうる。一例は、図21に示すように、例えば核酸配列:(ATG)AAACACCAACACCAACAA (配列番号28)によって、コードされる配列MKHQHQQ (配列番号7)である。より長いリーダー配列、例えば30〜50以上のアミノ酸は、膜貫通型ポリペプチドの翻訳伸長を促すために有用である。例として、翻訳伸長を促すために翻訳開始配列(TIS)とスペーサー配列を含有する、図22に示すtrpLEリーダーLE及びsLEを参照のこと。
また、ベクターは、宿主細胞の稀なコドンtRNA遺伝子を含みうる。大腸菌の稀なコドンtRNA遺伝子の例には、argU、glyT及びpro2が含まれるが、これに限定されるものではない。
【0046】
6.リーダー配列
膜貫通型ポリペプチドを発現するための好ましい実施態様では、リーダー配列は、翻訳開始配列(TIS)と第一膜貫通セグメント(TM-I)の間に位置する強い翻訳開始配列(TIS)及びスペーサー配列を含有する。大腸菌内での多膜貫通型ポリペプチドの発現のために有用なリーダーはtrpLEリーダーの一部を含有する。下記の実施例に開示される大腸菌trpEタンパク質のN末端領域の一部をコードするLE及びsLEリーダーを参照のこと。
【0047】
7.翻訳開始配列
公知の翻訳開始配列を用いて、遺伝子の翻訳の開始の効率を亢進できる。翻訳開始エンハンサー配列は、配列5'と3'をリボソーム結合部位まで含むように伸長しうる。リボソーム結合部位は、最小では、シャイン-ダルガノ領域と開始コドンに加えてその間の任意の塩基を含むことで定義される。さらに、翻訳開始エンハンサー配列は、上流のシストロンの末端又は非翻訳リーダー、したがって翻訳停止コドンを含みうる。例として、米国特許第5,840,523号を参照。
宿主細胞内で高度に発現されるタンパク質のおよそはじめの6〜12コドンの使用を含む、高いレベルの翻訳開始速度を得るための多くの方法がある。例えば、大腸菌では、コード配列のはじめの良好な翻訳開始領域を有するいくつかのタンパク質リーダーには、β-ガラクトシダーゼ(Ruther 等, 1983, EMBO J., 2: 1791-1794)、プロテインA (Nilsson 等, 1990, Methods Enzymol, 185:144-161 )、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(Smith 等, 1988, Gene, 67:31-40)などがある。他の例は、例えば核酸配列:ATGGGCAGCAGCCATCATCATCATCATCAT (配列番号34)によりコードされる配列MGSSHHHHHH(配列番号33)である。また、このようなリーダーの概要についてはLavallie 等, 1995, Current Biology, 6:501-506を参照のこと。
【0048】
あるいは、強力なTISは、例えば、1990, Methods in Enzymol, 185:89-119に記載のように設定できる。また、強力なTISは、例えば、Yansura 等, 1992, Methods: A companion to Methods in Enzymology, 4: 151-158に記載のように選択できる
「強力な翻訳開始配列」は、通常、およそ6〜およそ12のアミノ酸(例えば6、7、8、9、10、11又は12アミノ酸をコードする一連のコドンである。配列は、天然のもの又は操作されるものであり、翻訳開始の速度を高くしうる。
一実施態様では、強力な翻訳開始配列は、核酸配列:ATGAAAGCAATTTTCGTACTGAAAGGTTCA (配列番号35)によって、コードされるtrpリーダー(M)KAIFVLKGS (配列番号27)のはじめの9アミノ酸を含有する。他には、β-ガラクトシダーゼのはじめの6〜12アミノ酸をコードするヌクレオチド配列などがある。
【0049】
8.スペーサー配列
TISを翻訳タンパク質のTM-Iから分離するスペーサー配列は、膜貫通型ポリペプチドの翻訳伸長を促すために有用である。有用なスペーサー配列は、伸長にとってのわずかな障害を含有する。例えば、ごく小さいアミノ酸はリボソームと十分に結合せず、一般的に構造化されない、例えば、必要に応じて膜を通して転位置ができるようにフォールドされないために翻訳伸長の速度を速くすることができる。「スペーサー配列」は、TISでリボソームローディングを欠失することなしに第一膜貫通セグメントでの翻訳の緩徐化に適応するために緩衝スペースとして機能すると仮定される。スペーサーは、TM-1からTISを効率的に分離できる程度に長いが、翻訳されたポリペプチドがフォールディングできるほど長くはない。スペーサー配列は、膜内への正常なタンパク質挿入を中断することなく、効率的かつ迅速な翻訳伸長を可能とする。
スペーサー配列は、例えば、一連の50以上のアミノ酸、例えば60以上、70以上、80以上のアミノ酸を含んでもよく、好ましくは120足らずのアミノ酸である。一実施態様では、「スペーサー配列」は親水性であり、およそ20%〜およそ50%の荷電アミノ酸、例えばおよそ30%〜およそ40%の荷電アミノ酸を含有してもよい。
他の実施態様では、スペーサー配列は、細菌遺伝子の少なくとも一部を含んでなり、宿主細胞において、天然にみられる配列、例えば大腸菌細胞内でのポリペプチドの発現のための大腸菌trpオペロンのE遺伝子に由来してもよい。下記の実施例に記載のように、LE及びsLEリーダーはtrpE遺伝子の一部を含有する。
【0050】
9.発現タグ
通常、発現タグは、ベクターの成分であるか、又は、ベクターに挿入されるポリペプチドDNAの一部であってもよい。発現タグは、発現したタンパク質を識別して、単離させるのに役立つ。例として、限定するものではないが、ポリ-Hisタグ(米国特許第4,569,794号)、HisGlnタグ、ビオチン、アビジンなどがある。このようなタグは周知であり、市販のされている(例として、Qiagen, Valencia, CAを参照)。ポリ-Hisタグは、複数のヒスチジン残基、一般に6〜10のヒスチジン残基を含んでなる。Hisタグ付加ポリペプチドは、抗Hisタグ抗体に結合したカラム、又は、ニッケルカラムに試料を適用することによって、検出できる。
図8、21及び22は、膜貫通型ポリペプチドを発現するための本発明の方法に有用な配列を含んでなる例示的な発現コンストラクトを概略的に表す。例えば、図8には、プロモーター、リーダー配列、膜貫通型タンパク質遺伝子、発現タグ、転写ターミネーター(ラムダt0)及びtRNA遺伝子の作用可能な結合配列を示す。下記の実施例は、CD20、RA1c、GPR73及びMS4A4Aの発現のためのこのような発現コンストラクトの使用を示す。
【0051】
C.細菌細胞内での膜貫通型ポリペプチドの発現
発現された膜貫通型ポリペプチドは、天然の高次構造の細菌細胞膜に作用する。細菌細胞膜への膜貫通型ポリペプチドの局在は、例えば、密度勾配遠心分離又は他の公知の方法によって、測定できる。
細菌宿主は公知の好適な培地にて培養される。炭素、窒素及び無機リン酸塩供与源の他の任意の培地添加物は、適当な濃度で単独で導入される、又は、複合の窒素源などの培地ないしは他の添加物との混合物として含まれる。宿主細胞は好適な温度で培養される。例えば、大腸菌は、およそ20℃からおよそ39℃、例えば25℃〜37℃又はおよそ30℃で生育できる。宿主生物に応じて、培養液のpHはおよそ5〜9までの任意のpHとしてもよい。大腸菌の培養液は、およそ6.8〜およそ7.4、例えばおよそ7.0のpHを有しうる。
膜貫通型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、公知の組換え体方法により調製される。これらの方法は、限定するものではないが、天然の供与源からの単離、PCR、オリゴヌクレオチド媒介(部位特異的)突然変異誘発、アラニンスキャンニング、PCR突然変異誘発、部位特異的突然変異誘発[Zoller等, Nucl. Acids Res., 10:6487-6500 (1987)]、カセット突然変異誘発[Wells等, Gene, 34:315 (1985)]、制限的選択突然変異誘発[Wells等, Philos. Trans. R. Soc. London SerA, 317:415 (1986)]などが含まれる。
【0052】
膜貫通型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、例えば、直接、又は、他のポリペプチドとの融合体として、又は、成熟ポリペプチドのC末端に特定の切断部位を有するポリペプチドとして発現されてもよい。
本発明の方法は、膜貫通型ポリペプチドを産生するために、標準的な組換え手順を利用する。膜貫通型ポリペプチドをコードする異種性のポリヌクレオチド(例えばcDNA又はゲノムDNA)は、細菌内での発現のために複製可能なベクターに挿入する。このためには多くのベクターが利用可能であり、適当なベクターの選別は主にベクターに挿入される核酸の大きさとベクターにより形質転換される特定の宿主細胞に依存する。各ベクターは、その機能(DNAの増幅又はDNAの発現)及び適合性がある特定の宿主細胞に応じて様々な成分を含有する。一般に、細菌性形質転換のためのベクター成分は、以下の一又は複数を含むが、これに限定されるものではない:複製開始点、一又は複数のマーカー遺伝子及び誘導性プロモーター。適切なベクターの例は本明細書に記載される。本発明の実施形態では、ベクターは、膜貫通型ポリペプチドをコードする遺伝子に作用可能に結合される高い調節機能の下にプロモーターを含有する。適切なプロモーターの例は本明細書に記載されており、phoAphac、及びtphacプロモーター、及び、例えばポジティブ及びネガティブの調節成分によって、緊密に調節されるこのようなプロモーターが含まれる。本明細書に記述されるように、ベクターはまた、多膜貫通型ポリペプチドの伸長を亢進するために強力な翻訳開始配列及びスペーサー配列を含有してもよい。
【0053】
通常、細菌性宿主細胞と適合性を持つ種由来の調節配列及びレプリコンを含有するプラスミドベクターが使われる。通常、ベクターは複製部位、並びに、形質転換した細胞の表現型選択を可能とするマーキング配列を有する。例えば、大腸菌は一般的に、大腸菌種由来のプラスミドであるpBR322を用いて形質転換される(例として、Bolivar 等, 1977, Gene, 2: 95を参照)。プラスミドpBR322は、アンピシリン及びテトラサイクリン耐性のための遺伝子を含有しているため、形質転換細胞を識別することが容易である。また、pBR322プラスミド、又は他の微生物プラスミドないしファージは、一般に、選択可能なマーカー遺伝子の発現のために微生物により使用されうるプロモーターを含有するか、含有するように修飾される。
発現及びクローニングベクターは、一又は複数の選択された宿主細胞内でのベクターの複製を可能にする核酸配列を含有する。通常、クローニングベクターでは、この配列は、宿主の染色体DNAと独立してベクターの複製を可能にするものであって、複製開始点又は自己複製配列を含む。このような配列は様々な細菌について周知である。プラスミドpBR322からの複製開始点は、ほとんどのグラム陰性菌に好適である。
【0054】
また、発現及びクローニングベクターは、一般に、選択可能なマーカーとも称される選別遺伝子を含有する。この遺伝子は、選択培養液中で形質転換した宿主細胞が生存又は生育するために必要なタンパク質をコードする。選別遺伝子を含有するベクターによって、形質転換していない宿主細胞はこの培養液中で生存しない。典型的な選択遺伝子は、(a)抗生物質又は他の毒素、例えばアンピシリン、ネオマイシン、メトトレキセート又はテトラサイクリンに耐性を与える、(b)栄養要求性欠損を補完する、(c)複合培地から得られない重要な栄養分を供給する、タンパク質をコードする。例えば、バシラス種ではD-アラニンラセマーゼをコードする遺伝子である。選択方法の一例では宿主細胞の成長を止める薬剤を利用する。異種性の遺伝子によって、成功裏に形質転換された細胞は、薬剤耐性を与えるタンパク質を産生するために選択工程で生存する。
プロモーターは標準的な方法を利用して誘導できる。例としてSambrook 等, Molecular Cloning: A Laboratory Manual (New York: Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989)を参照のこと。一般に細菌細胞は、特定の光学濃度に達するまで、つまり、インデューサーの添加、選択したプロモーターが必要とする培地成分の枯渇又はその両方によって、誘導が開始される時点まで培養される。例えば、Chang 等 , 1987, Gene, 55: 189-196、Simmons 等, 2002, J. Immunol. Methods, 263: 133-147、及び/又は米国特許第5,304,472号及び同第5,342,763号に記述されるように、phoAプロモーターはリン酸欠乏により誘導される。
【0055】
プロモーターがポジティブ及びネガティブの調節成分、例えば変異体プロモーターphac及びtphacに含有されるphoボックス及びlacオペレーターを含有する場合、両調節成分を介するプロモーターの誘導を調整することが望ましい。例えば、IPTGの添加によるlacオペレーターのネガティブ調節成分の除去による誘導を培地のリン酸欠乏の低点に調整して、両調節成分が同時又はできる限り遅れずにプロモーター活性を「作動する(オンにする)」。一般に、プロモーター特異的な発現の継続期間は、発現している細胞の健康を維持する時間、例えば3時間未満、2時間未満又は1〜2時間の範囲のいずれかの時間に制限される。発現の継続期間は、宿主細胞によって、そして、発現される特定のポリペプチドによって、様々であるといえる。
細胞が溶解し、可溶性分画と不溶性分画を分離し、膜貫通型ポリペプチドを不溶性膜分画から抽出する。例示的な可溶化方法を後述する。
遺伝子発現は、例えば、mRNAの転写を数量化するための従来のノーザンブロット法によって、間接的に試料において、測定できる(Thomas, 1980, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 11: 5201-5205)。様々な標識、最も一般的には放射性同位体、特に32Pが使用されうる。ビオチン標識などの他の技術もまた使用されうる。ポリヌクレオチドに導入されるビオチン修飾ヌクレオチドは、多種多様な標識、例えば放射性ヌクレオチド、蛍光剤、酵素などによって、標識できるアビジン又は抗体へ結合するための部位として機能しうる。また、遺伝子発現は、例えばウェスタンブロットによって、発現されたポリペプチドを分析することによって、直接測定できる。
【0056】
D.膜貫通型ポリペプチドの単離と精製
膜貫通型ポリペプチドは、細胞ないし細胞膜から遊離した細菌細胞などの宿主細胞から、本明細書に記載の方法によって、単離することができ、界面活性剤に可溶性であり、ポリペプチドが免疫原として認識される、ないしはリガンドにより結合されうる程度に十分「天然の」高次構造を保持している。単離されたポリペプチドは、ポリペプチドの天然の高次構造に存在する構造的特徴に結合が依存しているリガンドを結合するために十分な程度の「天然の」高次構造を保持する。例えば、CD20のリツキシマブ結合は、CD20の天然の高次構造の細胞外ループBに依存している(例えばCD20が細胞膜上に発現される場合)。本明細書に記載の非イオン又は双性イオンの界面活性剤に可溶化されたCD20は、リツキシマブ又はその抗原結合断片、例えばFab断片を結合するために界面活性剤中で十分な「天然の」ループB構造を含有する。
【0057】
1.宿主細胞破壊
発現した膜貫通型ポリペプチドを有する宿主細胞を、凍結-融解サイクル、超音波処理、物理的な破壊、細胞溶解剤などを含むがこれに限らず様々な理学的又は化学的な方法によって、破壊できる。膜貫通型ポリペプチドは、適切な界面活性剤を用いて又は酵素的な切断によって、細胞ないし細胞膜から遊離させることができる。膜貫通型ポリペプチドは、界面活性剤に可溶化することによって、破壊した細胞から取り戻される。
【0058】
2.軽度の非変性界面活性剤
膜タンパク質を可溶化する一般的な方法は、軽度の非変性界面活性剤、例えばドデシル-マルトシド、n-ドデシル-N,N-ジメチルアミン-N-オキシド、n-ドデシルホスホコリン(FOS-コリン-12)、及びトリトンX-100の使用によるものである。この方法の変法は界面活性剤と脂質(一般的に10:1の比率)を含んでなる混合ミセルの使用である。近年、このような方法論は、KvI .2カリウムチャネルの単離及び結晶化に応用された。(Long 等, 2005, Science 309(5736): 897-903及びLong 等, 2005, Science 309(5736): 903-8)。好まれないが、SDSのような強力な変性界面活性剤を用いてポリペプチドを可溶化して、変性できる。次いで、典型的には、生化学的研究の前に、より緩やかな界面活性剤又はリポソームないしその他の非界面活性剤の環境に、タンパク質を再構成する。しかしながら、タンパク質を変性界面活性剤にさらした後に正常な機能を回復することは困難である。
【0059】
3.非イオン及び双性イオンの界面活性剤
一実施態様では、膜貫通型ポリペプチドは、非イオン又は双性イオンの界面活性剤に可溶化される。CD20などの複合の膜貫通型ポリペプチドを可溶化するために有用な非イオン性界面活性剤の例は、TRITON(登録商標)及びドデシルマルトシドなどであるが、これに限定されるものではない。CD20などの複合の膜貫通型タンパク質を可溶化するために有用な双性イオン性界面活性剤の例は、zwittergent 3-08、3-10、3-12、3-16(CaI Bio Chem)、ASB-14、ASB-16、又はASBC80(Anatrace)、PMAL-B 100及びホスホコリン誘導体、例えばドデシルホスホコリン(DDPC)などであるが、これに限定されるものではない。ホスホコリン界面活性剤は、コリンを含有し、イオン性及び極性であるリン酸に結合した正電荷を有する第四級アミンを有する。誘導体は、リン酸、例えばDDPCではドデシルに付着される無極性炭化水素鎖を含有する。有用なホスホコリン誘導体は、例えば、リゾリン脂質 DDM、DM、LADO、DDPC、DHPC、LOPC、LMPC、DLPC、LLPG(Avanti Polar Lipids (Alabaster, AL)及び、又はAnatrace Inc. (Maumee, OH)から市販)、及びn-デシル-N,N-ジメチルアミン-N-オキシドを含む。
【0060】
4.イオン性又は変性の界面活性剤
イオン性又は変性の界面活性剤による抽出では、十分有用な「天然の」高次構造を保持する単離された膜貫通型ポリペプチドは回収されないであろう。単離されたポリペプチドを非イオン又は双性イオンの界面活性剤に再懸濁すると、ポリペプチドの再構築と有用な「天然の」高次構造を有する膜貫通型ポリペプチドの回収が可能となる。例えば、膜貫通型ポリペプチドは、イオン性界面活性剤を用いて細胞膜から抽出できる。有用なことに、例えばイムノアッセイでは、イオン性界面活性剤は非イオン又は双性イオンの界面活性剤に交換できる。
【0061】
5.小規模精製
可溶化及び精製の方法は、抽出と精製の規模に依存して異なりうる。小規模抽出及び精製の場合、例えば、およそ1g以下の細胞では、細胞ペレットを界面活性剤中でインキュベートして、界面活性剤可溶性分画と不溶性分画は更に精製しないで回収できる。
【0062】
6.大規模精製
大規模な抽出及び精製の場合、例えば、およそ100g以上の細胞では、細胞を界面活性剤と混合して、遠心分離できる。生じた上清を公知の方法を用いて精製できる。この方法には、限定するものではないが、イオン交換カラムによる分画化、親和性クロマトグラフィ、例えば抗His-Tag又は抗CD20抗体、エタノール沈殿、逆相HPLC、二酸化ケイ素樹脂、又は、カチオン交換樹脂、例えばDEAEによるクロマトグラフィ、等電点電気泳動、SDS-PAGE、硫安沈殿、例えば、Sephadex(登録商標) G-75を用いたゲル濾過、IgGなどの混入物を除去するプロテインA Sepharose(登録商標)カラム、ポリペプチドのエピトープタグ付加型を結合する金属キレート化カラム、疎水親和性樹脂、基質に固定された好適なリガンドを用いたリガンド親和性、ショ糖密度勾配遠心分離などがある。タンパク質精製の様々な方法は公知であり、利用されうる。例として、Deutscher, 1990, Methods in Enzymology, 182、 Scopes, 1982, : Protein Purification: Principles and Practice, Springer-Verlag, New York、 Ausubel 等 (編集), 1998, : Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sonsを参照のこと。
【0063】
7.His-Tag
ある実施態様では、膜貫通型ポリペプチドはHisタグ付加される。Hisタグ付加ポリペプチドの精製は、例えば、可溶化された界面活性剤分画を金属キレ-トカラム、例えば金属キレ-トNi-NTAカラム又は固定された抗His抗体を含有するカラムに通すことによって達成されうる。捕捉後、Hisタグ付加ポリペプチドは適当なバッファによって溶出される。ある実施態様では、バッファは、0.1% n-ドデシル-β-D-マルトシド、150mM NaCl及び20mM クエン酸ナトリウム, pH3.5を含有する。
【0064】
8.親和性精製
他の実施態様では、膜貫通型ポリペプチドは、「天然の」構造のポリペプチドを結合する固定されたリガンドを有するカラムに分画を通すことによって可溶化された界面活性剤分画から親和性精製される。例えば、CD20は、リツキシマブを用いて界面活性剤から精製されうる。膜貫通型ポリペプチドを含有する溶出された分画をさらに濃縮して、ゲル濾過、親和性精製などによって精製することもできる。タンパク質濃度は、例えばBCA測定などの様々な公知の方法によって測定することができる(Smith 等, 1985, Anal. Biochem., 150: 76-85)。
【0065】
9.非界面活性剤処置
タンパク質が精製されると、必要に応じて非界面活性剤の環境において操作してもよい。最も一般的な非界面活性剤の環境はリポソ-ムであり、そのリポソームは界面活性剤ミセルより密接に天然の細胞の環境を模倣する。リポソ-ムは主に長鎖脂質から成る。例として、Rigaud 等, 1995, Biochim Biophys Acta. 1231 (3): 223-46 and Ollivon 等, 2000, Biochim Biophys Acta. 1508(1- 2): 34-50を参照のこと。バイセル(bicelle)は、短鎖脂質と混合した二重層形成脂質から主に形成されるリポソ-ムの変異体である。例として、Czerski and Sanders, 2000, Anal Biochem. 284(2): 327-33を参照のこと。
【0066】
E.単離されたタンパク質の使用方法
1.親和性成熟/抗体選別
有用な「天然の」高次構造を有する、本明細書に記載のように、発現、単離及び/又は精製された膜貫通型ポリペプチドを、ファージディスプレイを用いた抗体可変ドメインの選別及び、抗体の親和性成熟のための標的抗原として用いられてもよい。抗体可変ドメインのファージディスプレイ及び抗原の特定の結合物質の選別のための方法が知られている。「親和性成熟した」抗体は、変異(一又は複数)を有さない親抗体と比較して、抗原に対する抗体の親和性が改善される一又は複数の高頻度可変領域中に一又は複数の変異を含有する。親和性成熟された抗体は標的抗原に対してナノモル又はさらにピコモルの親和性を有しうる。
【0067】
ファージディスプレイは、変異体ポリペプチドが、ファージ、例えば繊維状ファージ、粒子の表面上のコートタンパク質の少なくとも一部への融合タンパク質として表出される技術である。ファージディスプレイの有用性は、ランダム化されたタンパク質変異体の大きなライブラリが、高い親和性で標的抗原に結合する配列について迅速かつ効率的に分類される点にある。ファージ上のペプチド及びタンパク質ライブラリのディスプレイは、特定の結合性質を有するものについて数百万ものポリペプチドをスクリ-ニングするために用いられている。多価のファージディスプレイ方法は、繊維状ファージの遺伝子III又は遺伝子VIIIへの融合により小さいランダムペプチド及び小タンパク質を表出するために用いられている。Wells及びLowman, Curr. Opin. Struct. Biol., 3:355-362 (1992)及び本明細書中で引用する文献。一価性ファージディスプレイでは、タンパク質又はペプチドライブラリが、遺伝子III又はその一部に融合して、野生型遺伝子IIIタンパク質の存在下で低レベルに発現されるので、ファージ粒子が融合タンパク質を1コピー表出するか全く表出しないものである。活性効果が多価のファージと比較して減弱しているので、分類は内因性のリガンド親和性に基づいてなされ、DNA操作を簡素化するファジミドベクターが用いられる。Lowman及びWells, Methods: A companion to Methods in Enzymology, 3:205-0216(1991)。抗体可変ドメインのファージディスプレイの例示的な方法は、米国出願公開番号2005-0119455-A1に見られ、それは出典明記によって本明細書中に組み込まれる。
【0068】
Marks 等, 1992, Bio/Technology, 10:779-783は、VH及びVLのドメインシャフリングによる親和性成熟を記述する。CDR及び/又はフレームワーク残基のランダムな突然変異誘発は、Barbas 等, 1994, Proc. Nat. Acad. Sci. USA, 91 : 3809-3813、Scier 等, 1995, Gene, 169: 147-155、Yelton 等, 1995, J. Immunol, 155: 1994-2004、Jackson 等, 1995, J. Immunol., 154: 3310-3319、及び Hawkins 等 , 1992, J. MoI. Biol., 226: 889-896に記載される。
「ファージディスプレイを用いた親和性成熟」(AMPD)は、Lowman 等, 1991 , Biochemistry 30(45): 10832-10838に記載の方法を指す。また、Hawkins 等, 1992, J. MoI. Biol. 226, 889-896及び米国特許第6,172,213号を参照のこと。以下の記載に厳密に限定されるものではないが、この方法は以下の通りに簡潔に記載されうる:幾つかの高頻度可変領域部位(例えば6−7部位)を突然変異させて各部位における全ての可能なアミノ酸置換を生成させる。このように生成された抗体は、繊維状ファージ粒子から、各粒子内にパッケージされたM13の遺伝子III産物への融合物として一価様式でディスプレイされる。様々な変異体を発現するファージは、数回の結合選別を経て、その後高親和性をディスプレイする変異体の単離及び配列決定を行う。また、この方法は国際公開公報92/09690に記述される。プールされた親和性ディスプレイを伴う変法は、Cunningham, 等, 1994, EMBOJ. 13(1 1), 2508-2515に記述される。
【0069】
例えば、以下の工程を用いたファージディスプレイによる親和性成熟により、新規の結合ポリペプチドを選択する:
a) ポリペプチドをコードする第一遺伝子、第一及び第二の遺伝子が異種性である天然又は野生型のファージコートタンパク質の少なくとも一部をコードする第二遺伝子、及び作用可能な状態で第一及び第二の遺伝子に結合される転写制御成分を含んでなる複製可能な発現ベクターを構築して、その結果、融合タンパク質をコードする遺伝子融合を形成する、
b) 第一遺伝子内の一又は複数の選択した位置でベクターを変異させ、その結果、関連のプラスミドのファミリーを形成する、
c) プラスミドによって、適切な宿主細胞を形質転換する、
d) 形質転換した宿主細胞をファージコートタンパク質をコードする遺伝子を有するヘルパーファージに感染させる、
e) プラスミドの少なくとも一部を含有し、宿主を形質転換できる組み換えファジミド粒子を形成するために好適な条件であって、微量のファジミド粒子が粒子の表面上に1コピー以上の融合タンパク質をディスプレイするように調節した条件下で形質転換して感染した宿主細胞を培養する、
f) 少なくとも一部のファジミド分子が標的分子と結合するように標的分子をファジミド分子と接触させる。そして、
g) 結合しなかったファジミド粒子から結合したファジミド粒子を分離する。
【0070】
さらに、親和性成熟方法は、標的分子に結合する組み換えファジミド粒子により好適な宿主細胞を形質転換することと、d)からg)の工程を一又は複数回繰り返すことを含む。
あるいは、本方法は、複数のサブユニットから成るポリペプチドを含み、このとき、対象のサブユニットをコードするDNAに作用可能に結合された転写制御成分を含む複製可能な発現ベクターはファージコートタンパク質に融合する。
あるいは、多価ファージ(McCafferty 等 ,1990, Nature 348, 552-554、Clackson 等,1991 , Nature 352, 624-628)を用いて、例えば誤差傾向があるDNAポリメラーゼを用いて生成されたランダムな点突然変異体を発現させて、抗原に対する親和性によって、スクリーニングされたファージ抗体断片のライブラリを生成できる(Hawkins 等, 1992, J. MoI. Biol. 226: 889-896)。
【0071】
2.スクリーニングアッセイ
ヒト抗体、ヒト-キメラ抗体又はヒト化抗体、ないしはこれらの抗体の断片などの対象の標的分子を識別及び/又は定量化するために、正確で非常に感度が高いスクリーニングを行うことができる。膜貫通型ポリペプチドは、例えば標的特異的な捕捉試薬として、本明細書に記述されるように調製される。
一般的に、ある有用なアッセイ方法は以下の工程を含む:(1) 試料中に存在する標的分子に膜貫通型ポリペプチドを反応させる。そして、(2) 結合した標的分子を数量化する。膜貫通型ポリペプチドは捕捉試薬として表面に固定されてもよい。
【0072】
3.ELISA
イムノアッセイシステムは、例えば固相ELISA又は捕捉ELISAである。捕捉ELISAでは、固相への膜貫通型ポリペプチドの固定化は公知の方法によって達成される。ポリペプチドはアッセイ表面又はマトリックスを含む固相へ吸着されうる(例として米国特許第3,720,760号を参照)。ポリペプチドは、支持体の事前活性化の有無にかかわらず、アッセイ表面に非共有結合的に又は共有結合的にカップリングすることができる。例えば試料抗体を結合させた後に、免疫沈降法を行うことによって膜貫通型ポリペプチドを捕捉試薬として沈着することもできる。ある実施態様では、膜貫通型ポリペプチドは、臨界ミセル値以下にポリペプチド溶液を希釈することによって固定化される。アッセイ表面への可溶性タンパク質の沈着は、わずかな変性条件、例えば低度の塩基性又は酸性条件にて達成される。あるいは、タンパク質はアッセイ表面に共有結合することによって捕捉されるか、アッセイ表面上に配置された抗体などのタンパク質によって結合されうる。
ある実施態様では、捕捉試料は、本発明の方法によって産生された単離されて天然の高次構造をとるCD20などの膜貫通型ポリペプチドである。また、本ポリペプチドの断片も使用できる。膜貫通型ポリペプチドは試料からの抗体を結合する。
【0073】
固定化のために用いられる固相は、基本的に不溶性でイムノアッセイに有用な不活性支持体又は担体であってもよく、例えば、表面、粒子、多孔性基質などの形態の支持体が含まれる。一般的に用いられる支持体の例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンなどから製造される試験管、アッセイプレート、微小粒子、プラスチックビーズ、ポリ塩化ビニル、セファデックス又は小シートなどが含まれる。このような支持体には、96ウェルマイクロタイタープレート、並びに微粒子素材、例として濾紙、アガロース、架橋デキストラン及び他の多糖が含まれる。あるいは、反応性の水不溶性基質、例えば米国特許第3,969,287号;同第3,691,016号;同第4,195,128号;同第4,247,642号;同第4,229,537号;及び、同第4,330,440号において記述される反応性基質及び臭化シアン活性化炭水化物は、捕捉試薬固定化に好適に用いられる。固定された捕捉試薬はマイクロタイタープレート上にコートされうる。固相は、一度にいくつもの試料を分析するために用いることができるマルチウェルマイクロタイタープレートである。
【0074】
固相は、所望のように、非共有的又は共有的な相互作用ないしは物理的な結合によって結合されうる捕捉試薬でコートされる。接着技術は、米国特許第4,376,110号及びこれに引用される文献において記述されるものが含まれる。
ポリスチレン又はポリプロピレンプレートが用いられる場合、プレートのウェルは、少なくともおよそ10時間、例えば終夜で、およそ4〜20℃、例えば4〜8℃の温度で、およそ8〜12、例えば9〜10、又はおよそ9.6のpHで、捕捉試薬(一般的に、0.05M 炭酸ナトリウムなどの緩衝液で希釈される)にてコートされる。より短い被膜形成(コーティング)時間(1〜2時間)が望ましい場合には、プレートを37℃でコートするか、ニトロセルロースフィルタ底を有するプレート、例えばミリポア MULTISCREENTM (Billerica, MA)を用いることができる。膜貫通型タンパク質を界面活性剤中で可溶性タンパク質としてアッセイ表面に適応してもよい。臨界ミセル値以下に界面活性剤を希釈すると、ポリペプチドがアッセイ表面に沈殿するであろう。
コートプレートは、一般的に、非特異的に結合して、プレートのウェル上の過剰な結合部位への自由リガンドの望ましくない結合を阻害するための結合部位を飽和する遮断剤(ブロッキング剤)にて処理する。一般的にブロッキング処理は、およそ1〜4時間、例えば1.5〜3時間、室温の条件下で行う。
【0075】
コーティングおよびブロッキングの後、分析される血清試料は、必要に応じて希釈し、固定化プレートに加える。一般的に、希釈率は、容量にしておよそ5〜15%、例えば10%である。十分な感度を得るために、固定された捕捉試薬は適度に希釈した後に試料中の予想される分析物の最大モル濃度を超えるモル濃度にすることができる。試料および捕捉試薬のインキュベーションの条件はアッセイの感受性を最大にして、解離を最小にするように選択する。インキュベーション時間は主に温度に依存する。
試料は、システムから捕捉されなかった分析物を取り除くために、洗浄溶液にて固定された捕捉試薬から切り離す。通常、洗浄溶液は緩衝液である。
一般に、システムは3回洗浄しうる。一般的に、洗浄溶液の温度はおよそ0〜40℃、例えば4〜30℃の範囲である。自動プレート洗浄機が利用されてもよい。架橋剤又は他の好適な試薬を洗浄溶液に加え、捕捉された分析物を捕捉試薬に共有結合的に接着してもよい。
システムから捕捉されていない分析物分子を除去した後、例えば室温で、捕捉された分析物分子が抗体などの検出用試薬と接触する。
【0076】
分析物と検出用試薬との接触時間と温度は主に用いる検出手段に依存している。例えば、ヒツジ抗マウスIgGにコンジュゲートした西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)が検出手段として用いられる場合には、検出用試薬は、およそ0.5〜2時間、例えばおよそ1時間、捕捉された分析物とインキュベートすることができる。システムから結合しない検出用試薬を除去するために上記の通りにシステムを洗浄し、ペルオキシダーゼ基質を加えて反応させ、室温でおよそ5分間、又は色が十分に可視化されるまでプレートをインキュベートする。
結合していない分析物がシステムから洗浄された後に、過剰モルの検出用試薬がシステムに加えられる。検出用試薬はポリクローナル又はモノクローナル抗体又はその混合であってもよい。検出用試薬は、直接又は間接的に検出されうる。
少量の分析物が検出されうるように、検出用試薬の親和性は十分に高い。蛍光定量的ないしは化学発光的な標識成分は、従来の比色標識と比較してイムノアッセイの感度がより高い。選択された検出用試薬の結合親和性は、捕捉試薬の結合親和性を考慮して、検出用試薬が分析物を捕捉試薬から剥ぎ取られないようにすべきである。
【0077】
標識成分は、検出用試薬への捕捉された分析物の結合を妨げない任意の検出可能な機能を有する。好適な標識成分の例としては、直接検出されうる成分、例えば蛍光色素、化学発光物質及び放射性標識物質、並びに、検出されるために反応するか誘導される酵素などの成分が含まれる。そのような標識物質の例として、放射性同位体32P、14C、125I、Hおよび131I、希有土類キレート又はフルオレセインのような蛍光体およびその誘導体、ロダイニン(Rhodainine)およびその誘導体、ルセリフェラーゼ(luceriferase)、例えば、ホタルルシフェラーゼおよび細菌性ルシフェラーゼ(米国特許第4,737,456号)、西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリフォスファターゼ、染料前駆体を酸化するために過酸化水素を利用する酵素、例えばHPP、ビオチン/アビジン、ビオチン/ストレプトアビジンなどが含まれる。
例えば抗体などの検出用試薬への標識成分のコンジュゲートは、イムノアッセイ技術の標準的操作手順である。例えば、O'Sullivan 等, 1981, Methods in Enzymology, 73: 147-166を参照のこと。従来法を利用して、タンパク質又はポリペプチドに対して標識成分を共有的に結合する。
捕捉試薬に結合した分析物の量は、固定相から結合していない検出用試薬を洗い流して、標識にふさわしい検出法を用いて分析物に結合した検出用試薬の量を計量することによって決定される。一実施態様では、標識成分は酵素である。酵素成分の場合、発色色素の量は、捕捉された分析物の量の直接の測定値である。例えば、HRPが標識成分である場合、色素は650nmの吸光度で光学密度(O.D.)を定量化することによって検出される。他の実施態様では、捕捉試薬に結合した分析物の量は、間接的に測定される。
【0078】
4.抗体調製
界面活性剤中に可溶化されたCD20などの膜貫通型ポリペプチドを、抗膜貫通型抗体を生成するための免疫原として直接使用することができる。また、抗体を生成するための他の方法は、本明細書中に記載のファージディスプレイ方法論を利用することができる。
抗体は第一の哺乳動物種由来の抗原に対して生じる。例えば第一の哺乳動物種はヒトでありうる。しかしながら、家畜、愛玩動物又は動物園動物など、例えば哺乳動物を治療するために抗体を用いることを意図する他の哺乳動物も考慮される。
抗体変異体を生成するために、一又は複数のアミノ酸変異(例えば、置換、欠失、付加)を公知のようにアミノ酸に加える。
【0079】
(i) 抗原調製
抗体の産生に用いる膜貫通型抗原は、例えば、完全長ポリペプチドの可溶型ないしはその断片、例えば膜貫通型ポリペプチドの細胞外ドメインなどの可溶化完全長分子ないしその断片でありうる。
(ii) ポリクローナル抗体
一般的に、ポリクローナル抗体は、関連する抗原とアジュバントを複数回皮下(sc)又は腹腔内(ip)注射することにより動物に産生される。免疫化される種において免疫原性であるタンパク質、例えばキーホールリンペットヘモシアニン、血清アルブミンなどに関連抗原をコンジュゲートさせることが有用である。
動物を、例えばタンパク質又はコンジュゲート100μg又は5μg(それぞれウサギ又はマウスの場合)を完全フロイントアジュバント3容量と併せ、この溶液を複数部位に皮内注射することによって、抗原、免疫原性コンジュゲート、又は誘導体に対して免疫化する。1ヶ月後、完全フロイントアジュバントに入れた初回量の1/5ないし1/10のペプチド又はコンジュゲートを該動物の複数部位に皮下注射することにより、追加免疫する。7ないし14日後に動物を採血し、抗体価について血清を検定する。動物は、力価がプラトーに達するまで追加免疫する。例えば、動物は、同じ抗原のコンジュゲートであるが、異なったタンパク質にコンジュゲートさせた、及び/又は異なる架橋剤によってコンジュゲートさせたコンジュゲートで追加免疫する。コンジュゲートはまたタンパク融合として組換え細胞培養中で調製することもできる。また、ミョウバンのような凝集化剤が、免疫反応の増強のために好適に使用される。
【0080】
(iii) モノクローナル抗体
モノクローナル抗体は、Kohlerら, Nature, 256:495 (1975)により最初に記載されたハイブリドーマ法を用いて作製するか、又は例えば米国特許第4,816,567号に記載の組換えDNA法や他の公知の方法によって作製することができる。
ハイブリドーマ法においては、マウス又はその他の適当な宿主動物、例えばハムスターやマカクザルを上記したようにして免疫し、免疫化に用いられるタンパク質と特異的に結合する抗体を生産するか又は生産することのできるリンパ球を導き出す。次に、リンパ球を、ポリエチレングリコールのような適当な融合剤を用いて骨髄腫細胞と融合させ、ハイブリドーマ細胞を形成する(Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice,59-103頁, Academic Press, 1986)。このようにして調製されたハイブリドーマ細胞を、例えば、融合していない親の骨髄腫細胞の増殖または生存を阻害する一又は複数の物質を含む適当な培地に蒔き、増殖させる。
【0081】
所望の特異性、親和性、及び/又は活性の抗体を産生するハイブリドーマ細胞が確定された後、該クローンを限界希釈法によりサブクローニングし、標準的な方法により増殖させることができる(上掲のGoding, 1986)。サブクローンにより分泌されたモノクローナル抗体は、例えばプロテインA-セファロース(登録商標)、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、アフィニティークロマトグラフィーなどの常套的な免疫グロブリン精製法により、培地、腹水、又は血清から好適に分離される。
モノクローナル抗体をコードするDNAは、常法を用いて即座に単離され配列決定される。一例では、モノクローナル抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合できるオリゴヌクレオチドプローブを用いる。ハイブリドーマ細胞は、このようなDNAの好ましい供給源となる。
モノクローナル抗体の結合親和性は、例えばMunson 等, 1980, Anal. Biochem., 107: 220に記載のようなスキャッチャード分析によって決定することができる。
【0082】
(iv) ヒト化及びアミノ酸配列変異体
抗体のヒト化のための方法の例は、米国特許第6,037,454号 (抗CD11a抗体)、米国特許第6,329,509号 (抗IgE抗体)、米国特許第5,821,337号 (抗p185HER2抗体)、及び国際公開公報98/45331 (抗VEGF抗体)に記載されており、出典明記によって組み込まれる。
既に記載したように、ファージディスプレイ、従来の免疫化、親和性成熟及び他の方法など、本明細書中に記載の膜貫通型タンパク質に特異的な抗体を選択するために多くの方法が利用されうる。
【0083】
すべての文献、特許及び特許文書は、出典明記によって個々に組み込まれるのと同じように、出典明記により本明細書中に組み込まれる。開示内容は様々な具体的で好適な実施態様及び技術に関して記載されている。しかしながら、本開示内容の主旨と範囲内で多くの変更や修飾が加えられうることは理解されるであろう。
【実施例】
【0084】
本発明は、例示的であり、いかなる場合においても本発明を限定するものではない以下の実施例を参照することによって、より理解されるであろう。
【0085】
実施例1
phoAプロモーターによるCD20のクローニング及び発現
材料
すべての界面活性剤はAnatrace Inc., Maumee, OHから入手した。特に言及しない限り、すべての化学製品はSigma-Aldrich, St. Louis, MOから入手した。完全長リツキシマブ抗体は、Genentech Manufacturingから入手した。リツキシマブFabは、大腸菌において、発現されて、プロテインA及び陽イオン交換クロマトグラフィによって、精製した。下記の実施例において、使用する発現コンストラクトを図8及び21に概略的に示し、有効なリーダー配列を図22に示す。特に明記しない限り、大腸菌細胞は58F3株とした。
【0086】
クローニング及び発現
ヒト及びマウスのCD20のcDNAを、βラクタマーゼ遺伝子及び3つの稀な大腸菌コドン(argU、glyT及びpro2)のためのtRNA遺伝子を含有するBR322由来のプラスミド内に、標準的な分子生物学的技術(Ausubel 等 編集, 2003, Current Protocols in Molecular Biology, 4 VoIs., John Wiley & Sons)を用いてサブクローニングした。短いポリヌクレオチドは、高度な翻訳開始を確認するためのCD20のN末端のリーダー配列であるMKHQHQQ(配列番号7)をコードするように、そして、発現されたタンパク質の検出と精製を目的としたC末端のタグ配列であるオクタ-His(配列番号8)をコードするように付加した。遺伝子転写はphoAプロモーターの制御下であり、発現はリン酸塩を制限することによって、誘導した。飽和したLBカルベニシリン培養物は、C. R. A. P.リン酸制限培地(Simmons 等, 2002, J. Immunol. Methods, 263: 133-147)にて希釈した。次いで、培養物を30℃で24時間生育した。
C2S変異体を形成するために部位特異的突然変異によって、残基Cys111とCys220がセリンに置換している、変異体CD20を産生した。変異していないCD20と比較して、凝集、発現、溶解性及び天然の(未変性の)立体構造の保持を含めて、改善されたタンパク質性質について変異体を試験した。上掲のSimmons 等, 2002に記載のようにCD20の発酵槽発現を行った。
【0087】
タンパク質単離
様々な界面活性剤の大腸菌内で発現されるHis-タグ付加ヒトCD20を可溶化する能力を分析するために、5gの細胞を、ポリトロン(Brinkmann, Westbury, NY )を含む50mLのバッファA (20 mM Tris, pH 8.0, 5 mM EDTA)を用いて再懸濁し、125,000×gで1時間遠心分離した。次いで、細胞ペレットをバッファAに再懸濁して、ミクロフルイダイザー(Microfluidics Corp, Newton, MA)を用いて細胞破壊することによって、溶解して、125,000×gで1時間遠心分離した。ペレットをEDTAを含まない同じバッファで1度洗浄して、前述の通りにペレット化した。ペレットを20mLのバッファB(20 mM Tris, pH 8.0, 300 mM NaCl)に再懸濁して、等分し、試験界面活性剤を以下の濃度で個々の分割量に添加した:
1% SDS、
1% n-ラウリルサルコシン
1% n-ドデシル-N,N-ジメチルアミン-N-オキシド(LADO)、
1% ドデシルホスホコリン(DDPC、Fos-Choline(登録商標) 12)、
1% n-ドデシル-β-D-マルトシド(DDM)、
1% Triton(登録商標) X-100、
2.5% CHAPS。
室温で抽出されたSDS試料を除いて、ペレットを40℃で終夜抽出した。次の日、試料を遠心分離して、上清を除去した。ペレット及び上清を、等しい容量に還元SDSローディングバッファに再懸濁して、西洋わさびペルオキシダーゼコンジュゲート抗His抗体(Roche Applied Science, Indianapolis, IN)によって、プローブされたニトロセルロース膜上の免疫ブロット及びSDS-PAGEによって、分析した。
【0088】
大規模な抽出のために、過去に記載があるように100〜200gの細胞を溶解して、不溶性分画を調製した。不溶性分画からCD20を抽出するために、はじめの湿細胞重量からおよそ1:2.5wt/volで最終のペレットをバッファBに再懸濁し、DDPCを1%添加して、溶液を4℃で終夜撹拌した。その翌日、界面活性剤不溶性分画を、125,00×gで1時間超遠心することによってペレット化した。上清を、バッファB及び5mM DDPCで予め平衡化したNi-NTA Superflowカラム(Qiagen Inc. Valencia, CA)に流した。カラムを20mM イミダゾールを含有する10カラム容量のバッファAで洗浄し、結合したタンパク質を250mM イミダゾールを含有するバッファAにて溶出した。カラム負荷(ローディング)による精製の全工程は4℃で行った。
CD20を含有する溶出液分画を濃縮して、5mM DDPCでバッファA中で予め平衡化したSuperdex(登録商標) 200カラム(Amersham Biosciences, Piscataway, NJ)に流した。His-タグ付加ヒトCD20及びマウスCD20は、5mLのHiTrap HP Qカラム(Amersham Biosciences, Piscataway, NJ)の後にゲル濾過を行ってさらに精製した。界面活性剤交換のために、試料を、バッファC(0.1% DDM, 150 mM NaCl, 20 mM HEPES, pH 7.2.))のSuperdex 200カラムに通した。あるいは、試料を小さいNi-NTAカラムに結合して、バッファCで洗浄し、300mM イミダゾールを含有するバッファCにて溶出した。次いで、これらの試料を、イミダゾールを取り除くためにバッファCにて透析した。
【0089】
ヒトCD20の親和性精製のために、リツキシマブを、10mLのActigel ALD Superflow樹脂(Sterogene, Carlsbad, CA.)に6mg/mlで固定した。この樹脂はカラムに配置して、バッファ(0.1% DDM, 150 mM NaCl, 20 mM HEPES, pH 7.2)中で平衡化した。ヒト変異体CD20であるC2Sを発現させて、上記のように天然のヒトCD20について精製した。精製されたC2S変異体をカラムに通し、バッファBでしっかり洗浄することによって、結合していないタンパク質を除去した。タンパク質は、0.1% DDM, 150 mM NaCl及び20 mM クエン酸ナトリウム, pH 3.5にて溶出した。溶出された試料を直ちに中和して、濃縮して、バッファCにて透析した。Smith 等, 1985, Anal. Biochem., 150:76-85 (Pierce Biotechnology, Rockford, IL 61 101)に記載されるように、タンパク質濃度をBCAで測定した。試料は使用するまで−80℃に保存した。
【0090】
密度勾配遠心分離
遠心チューブにおいて、150 mM NaCl及び20 mM HEPES, pH 7.2により緩衝した1.9M、1.4M及び0.8Mのショ糖溶液を重ねることによって、不連続なショ糖勾配を生成した。CD20タンパク質を発現する細胞を、1mM EDTAを含有するバッファA中で細胞破壊によって溶解した。不溶性分画を38,000×gで1時間遠心することによって単離した。上清を廃棄して、ペレットを、1 : 5 wt/volで0.25M ショ糖を添加した溶解バッファに再懸濁し、100μL(マイクロリットル)のこの再懸濁液を0.9mLの1.9M ショ糖溶液と混合した。その結果生じた混合物は1.75M ショ糖の終濃度であった。次いで、この混合物を遠心チューブの底に置き、残りの1mLの2つのショ糖溶液を上に重ねた。次いで、0.25M ショ糖溶液の最後の200μL(マイクロリットル)層をチューブの上部に加えた。試料をSW55ローターにかけ、100,000×gで1時間回転した。次いで、チューブの上部から200μL(マイクロリットル)ずつ試料を慎重に取り分け(unload)て、ニトロセルロースに転写して、西洋ワサビペルオキシダーゼコンジュゲート抗His抗体でプローブしたSDS-PAGEによって分析した。
【0091】
ELISAアッセイ
CD20タンパク質は、1μg/mLでCD20を含有するPBS(臨界ミセル濃度以下に希釈された可溶化界面活性剤を含有する)100μL(マイクロリットル)を用いて、96ウェルプレート上に終夜4℃でコートした。次いで、プレートを0.05% Tween-20を含有するPBS(PBST)にて3回洗浄し、200μLの0.5% BSAを含有するPBST(ブロッキングバッファ及びアッセイバッファ)にて室温で45分間ブロックした。プレートを再度PBSTにて3回洗浄した後、一次抗体でプローブした。アッセイバッファに60μg/mL(マイクログラム/mL)のリツキシマブを150μL(マイクロリットル)の容量で、適当なウェルに加え、第一のウェルから50μLを取り出し、次のウェルと第三のウェルに100μL(マイクロリットル)のアッセイバッファとともに混合して、およそ2ng/mLの終濃度とすることによって、第三のウェルに3倍の段階希釈液を作成した。
室温で90分間インキュベートした後、プレートをPBSTで洗浄して、結合したリツキシマブを、アッセイバッファで1:2000に希釈した100μLの西洋ワサビペルオキシダーゼコンジュゲートヤギ抗ヒトF(ab')2(Jackson ImmunoResearch Laboratories Inc, West Grove,n PA)で検出して、PBSTにて6回洗浄して、製造者の指示に従って混合した100μL/ウェルのTMB Microwell Peroxidase Substrate System (KPL, Gaithersburg, MD)にて反応させた。100μL/ウェルの1.0M リン酸を添加して反応を止め、450nmの吸光度をプレート読み取り機を用いて測定した。
25mM ヨードアセトアミドの添加によるアルキル化と、10mM DTTによる還元によって、還元とアルキル化されたCD20試料を調製した。さらに100mM DTTを添加することによって、反応を止めた。各処置後に、pH8.0で室温で、30〜60分置いて反応の進行を促した。還元及び再酸化のために、CD20試料を10mM DTTにて還元した後、プレートに広げ、抗体結合の前に、DTTの存在下にて数時間プレート上に置いて再酸化させた。
【0092】
表面プラスモン共鳴
単離されたヒトのCD20タンパク質のリツキシマブ親和性及び結合動態を、BIAcoreTM -3000 計器(BIAcore, Inc. Piscataway, NJ)を用いて測定した。供給者の指示に従って、N-ヒドロキシスクシンイミドとN-エチル-N'-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミドハイドロクロライドを用いてリツキシマブ又はリツキシマブ-Fabの共有的なカップリングのためにCM5センサーチップを活性化した。リツキシマブ又はリツキシマブ-Fabを、10 mM sodium acetate, pH 5.0にて100μg/mLの濃度に5〜10倍希釈して、活性化したチップ上に注入した。残りの活性なカップリング部位を1M エタノールアミンによって、ブロックした。完全なリツキシマブを8000-12000RUで沈着させ、リツキシマブ-Fabを4000-7000RUで沈着した。
動態学的な測定のために、25℃の0.1% DDM, 150 mM NaCl, 及び20 mM HEPES, pH 7.2に5μMの開始濃度からのヒトCD20の7つの倍数希釈物(合計8試料)を、30μL/分の流速で100秒間注入した。結合したタンパク質を720秒間解離させた。各試料測定の終了後、センサー表面を、20μLの10mM HClを注入することによって、再生した。センサーグラムを参照流量からシグナルについて補正した後、BIAevaluation 3.0 (BIAcore)による単一1:1モデルを用いて動態を算出した。
【0093】
円二色性分析法(CD)
0.1% DDPC又は0.1% DDM中のCD20の界面活性剤溶液を、100 mM リン酸ナトリウム, pH 7.2及び0.1% DDPC又は0.1% DDMのいずれかに対して透析することによって、調製した。1mmの石英キュベット内に2〜5μMのタンパク質試料によるAVIV202計器を用いて円二色性のデータを収集した、10秒の平均時間につき2nm増大で、示した領域について25℃で波長スキャンを行った。データは、β-メルカプトエタノールを含有する試料を除いて185から285nmの範囲についてプロットした。β-メルカプトエタノールはより低波長でデータ収集を妨げるので、これらのデータは200nmで切り捨てた。
【0094】
正常なヒトB細胞へのリツキシマブIgG及びFab結合のスキャッチャード分析
放射性標識したタンパク質を用いてB細胞へのリツキシマブIgG及びリツキシマブFab断片結合について平衡解離定数(K)を測定した。結合アッセイバッファ(0.5% bovine serum albumin, 25 mM HEPES, pH 7.2, 及び0.01 % sodium azideを含有するDMEM培地)にてすべて希釈した。Iodogenでヨウ素化したリツキシマブ125I-IgG又はIodogen又はラクトペルオキシダーゼでヨウ素化した125I-Fabの分割量(0.05mL)を、それぞれ0.005又は0.05nMの濃度でV底96ウェルマイクロアッセイプレートの試験ウェルに分配した。コールド抗体の階段希釈物(0.05mL)を加えて、混合した。次いで、精製されたヒトB細胞(0.05mL中に125000)をウェルに添加した。プレートを密封して、室温で24時間インキュベートし、2500RPMで15分間遠心分離した。上清を吸引して、細胞ペレットを洗浄し、遠心分離した。上清を再度吸引して、ペレットを1N NaOHに溶解して、γ計測のためにチューブに移した。McPherson, 1983, Comput. Programs. Biomed., 17:107-113に記載のように、プログラムLigandを用いてMunson 等, 1980, Anal. Biochem., 107:220-239にて説明したように、スキャッチャード分析にデータを用いた。
製造者のプロトコールにしたがって、RosetteSepTM B細胞濃縮混合物(Stemcell Technologies, Vancouver, Cananda)を用いてネガティブ選別することによって、100mLのヘパリン処理した正常ヒト血液から正常なヒトB細胞を単離した。さらに、B細胞をFicoll-Paque (Amersham Biosciences, Peapack, NJ)により分離した後単離して、リン酸緩衝食塩水で洗浄した。任意の残りの赤血球は、低張液に30秒間曝すことによって、溶解した。次いで、精製したB細胞を結合バッファミリリットル当たり1〜2百万細胞の濃度に調製した。
【0095】
大腸菌における膜結合ヒトCD20の発現
ヒトCD20の一次構造を図1に示す。CD20の提唱された位相幾何学は、細胞質に両末端を有するテトラ貫通型の膜タンパク質のものである。CD20の2つの細胞外ループは、大きさが著しく異なる。ヘリックス1とヘリックス2の間の第一ループは非常に小さく、膜から広範囲に突き出ているようではない。MS4Aファミリーの他のメンバーでは、このループの大きさは非常に保存されている(例えばIshibashi 等, 2001 , Gene, 264:87-93及びLiang 等, 2001 , Genomics, 72: 119-127を参照)。
ヘリックス3とヘリックス4の間の第二ループは、残基140の領域から残基185の領域におよぶおよそ46アミノ酸長であって、残基167と183の間に1つの起こりうるジスルフィド結合を含有する。これらの多くの配列が細胞外ジスルフィド結合形成能を有するにもかかわらず、このループのサイズは、MS4Aファミリーの遺伝子のアミノ酸配列の中で非常に異なる(上掲のIshibashi 等, 2001 及び上掲のLiang 等, 2001)。静止B細胞の膜の細胞質側にあるCD20はリン酸化される(Valentine 等, 1989, 1989, J. Biol. Chem., 264:11282-11287)。リン酸化は、抗体架橋に反応して増加する(Tedder 等, 1988, J. Biol. Chem., 263: 10009-10015)。CD20に翻訳後修飾は認められておらず、ヒトタンパク質は細胞外領域に任意のコンセンサスN-グリコシル化部位を欠いている。
【0096】
CD20の構造及び抗体結合のジスルフィド結合形成の持ちうる役割を確認するために、上記のように、Hisタグ付加ヒトCD20タンパク質を大腸菌内で発現させた。大腸菌におけるタンパク質の天然の発現についての能力は、密度勾配遠心分離及び天然の界面活性剤において、タンパク質溶解性を試験することによって、膜にCD20の細胞性発現を局所化させることによって評価した。
図2は、ショ糖勾配における単離されたCD20の局在を示す。分画番号1−16はパネルaのゲル上に示す。ショ糖勾配の分画からの分割量を、SDS-PAGEゲルにて電気泳動した。ゲルをブロットして、抗Hisタグ抗体にてプローブした。分画は、最も低いショ糖密度(1)から最も高いもの(14)から得た。図2のパネルaに示されるように、細菌内で発現された総タンパク質のおよそ半分は、1.28g/cm未満の密度を有するショ糖分画(12)(1.75M ショ糖)に局在しており、残りはペレット上で観察された(分画16)。
典型的な可溶性タンパク質は1.33〜1.42g/cmの密度であり (Creighton, 1993, Proteins Structures and Molecular Properties, 2 Ed., W. H. Freeman and Company, New York, USA)、ショ糖の底の層の密度以上である(1.28g/cm2、1.75M)。可溶性タンパク質は勾配のそこで観察される一方で、膜結合タンパク質はタンパク質周辺の脂質の存在によりより低い密度に浮遊する。大腸菌膜の密度が1.15〜1.25g/cmであると報告されているので(Ishidate 等, 1986, 7. Biol Chem., 261 : 428-443)、図2のパネルaに示されるデータは、細菌の細胞性膜分画へのヒトCD20の局在と一致している。また、これらの所見は、細菌の細胞性膜における天然の立体構造の他の真核生物の膜タンパク質の発現を示す近年の報告と一致している(Bertin 等, 1992, J. Biol. Chem., 267:8200-8206、Grisshammer 等, 1993, Biochem J., 295(Pt2): 571-576)。
【0097】
界面活性剤−CD20の可溶化
CD20の可溶化に有用な界面活性剤は、上記の方法を用いて、非変性及び変性の界面活性剤のアレイをスクリーニングすることによって、決定した。界面活性剤抽出の後の大腸菌細胞膜からのペレットと上清を抗His抗体でプローブした。図2のパネルbはスクリーニングの結果を示す。ヒトCD20のウェスタンブロットでは、異なる界面活性剤による上清を(S)とラベルし、ペレットを(P)とラベルした。(WC)は全細胞抽出物(コントロール)を意味する。
膜からのタンパク質の抽出に用いた多種の界面活性剤は、SDS (1)、n-ラウリルサルコシン(2)、n-ドデシル-N,N-ジメチルアミン-N-オキシド(LADO) (3)、n-ドデシルホスホコリン(DDPC) (4)、n-ドデシル-D-D-マルトシド(DDM) (5)、Triton-X 100 (6)、及びCHAPS (7)である。ウェスタンブロットに示されるように、多種の界面活性剤を用いて可溶性タンパク質を得た。実質的なCD20の分画は、非変性の双性イオンの界面活性剤であるドデシルホスホコリン(DDPC)(4)に溶解性である。この界面活性剤は、CD20の抽出及び精製の更なる研究のために選択した。
【0098】
Hisタグ付加ヒトCD20は、DDPCにより大腸菌膜から抽出され、上記の通りに金属キレート剤、サイズ排除及び陰イオン交換クロマトグラフィによって、精製した。1グラムの細菌細胞からおよそ10〜20μgの精製したHisタグ付加CD20タンパク質を得た。
図3は、抽出して精製したヒトHisタグ付加ヒトCD20、C2S変異体及びマウスCD20のクーマシー染色したSDSゲルレーンを示す。レーン1、2及び3は非還元タンパク質である、ヒトCD20(レーン1)、C2S変異体(レーン2)及びマウスCD20(レーン3)を示す。レーン4は、分子量マーカー(Mark 12, Invitrogen)を含有する。レーン5、6及び7は、還元タンパク質である:ヒトCD20(レーン5)、C2S変異体(レーン6)及びマウスCD20(レーン7)を示す。レーン8と10は、分子量マーカー(レーン9)に隣接する非還元(レーン8)と還元(レーン10)のマウスCD20を示す。各レーンは、2μg(マイクログラム)のタンパク質を含有する。タンパク質マーカーの分子量は、200、116、97、66、55、36、30、22、14及び6kDaである。精製されたHisタグ付加ヒトCD20の代表的なSDS-PAGEを図3(レーン1と5)に示す。タンパク質は、還元条件下でおよそ38kDaの見かけの分子量に移動する。これは算出した分子量35kDaとの妥当な一致である。
また、精製したCD20は、SDS-PAGE上で非還元及び還元の条件下での移動度において、適度な変化を示した。注目すべきことに、還元(レーン10)及び非還元(レーン8)のマウスCD20が隣接するレーンに走行(run)したことが図3に明らかに観察された。この変化から、非還元CD20が、大きな細胞外ループに配位するジスルフィド結合のために、還元型のものよりより集約的に、より速く移動する構造で存在することが示唆される。このジスルフィド結合は還元剤の添加により破壊する。
【0099】
界面活性剤であるドデシルマルトシド(DDM)とLADOが限定したCD20可溶化能のみを示すにもかかわらず、上記及び図2のパネルbに示す条件を用いたウェスタンブロットにより大腸菌からの界面活性剤可溶化が実に正確に定量化されるかどうかを評価するために、ラージスケールの精製もこれらの界面活性剤により行った。簡潔に言えば、発現される大腸菌の不溶性分画であるHisタグ付加ヒトCD20を、1%の示した界面活性剤によって、抽出した。試料を遠心分離して、ペレット及び上清を等量のSDSバッファに懸濁した。等量の各試料を還元条件下でSDS-PAGE上で電気泳動した。比較するために、いかなる操作も必要としないで、溶解の後に等量の全細胞分画(WC)をSDSバッファに懸濁した。
DDM又はLADOのいずれかを用いて精製したタンパク質は著しく純度が低く、該手順はDDPCにより行った精製よりも著しくタンパク質収率が低い。しかしながら、精製後にCD20を非イオン性界面活性剤に成功裏に交換できることから、DDPCは特有のCD20可溶化能を有していないことが示される。
【0100】
マウスCD20の発現
マウスCD20を発現させて、ヒトCD20の精製に用いたのと同様の条件下で精製した。この精製の結果を図3(レーン3及び7)に示す。マウスタンパク質物質はヒトCD20よりも有意に良好に移動した。これは、非還元SDSゲル上での移動が小さく(レーン1と3を比較、図3)、最終的なタンパク質収率が高いことを示す。マウス及びヒトのCD20の一次配列の観察から、ヒト配列のシステイン残基111(図1)がマウスタンパク質ではセリンに置換されていることが示された。この置換は、Cys111がCD20の活性に必須ではないことを示唆する。さらに、Cys220のアラニンへの置換により、真核細胞で発現される場合の野生型タンパク質と同様に、発現と抗体依存性の脂質ラフト結合が起こるので、システイン220はCD20に活性に必須ではない。Polyak 等, 1998, J. Immunol., 161 : 3242- 3248を参照。
【0101】
表2 ヒト及びマウスのCD20

【0102】
C2S突然変異
CD20の発現及び抗体結合を評価するために、残基Cys111及びCys220の両方を変異してこれらの位置のセリンを置換し、C2S変異体を形成した。C2S変異体を発現させ、Hisタグ付加ヒトCD20について上記の通りに精製した。C2S変異体は、凝集の減少及び収率の増加などの天然のタンパク質よりも向上したタンパク質行動を示した。
Hisタグ付加ヒトCD20の発現を示す大腸菌細胞抽出物の試料と、C2S変異体CD20の試料を、図2のパネルcに示す。レーン1及び4は、コントロール(空のベクター)を含有する;レーン2及び5は、ヒトのCD20を含有する;そして、レーン3及び6は、C2S変異体CD20を含有する。レーン1、2及び3の試料は、非還元条件で行った;レーン4、5及び6の試料は、100mM DTTで還元した。各レーンは、光学濃度で標準化した等量の細胞を含有する。
C2S変異体(レーン3及び6)は、大腸菌内でより高いレベルで発現され、天然のヒトCD20(レーン2及び5)より低いジスルフィド依存性凝集を示した。また、C2S変異体の低い凝集とおよそ2倍高いタンパク質収率を図3のパネルcに示される。このパネルcでは、C2Sを含有するレーン2及び6を天然のヒトCD20(レーン1及び5)及びマウスCD20(レーン3及び7)と比較した。
【0103】
リツキシマブを結合する発現されたrCD20
精製された組換えCD20が天然の立体構造をとっているかどうかを評価するために、キメラ抗CD20抗体であるリツキシマブを結合する精製タンパク質の能力を分析した。この抗体は、B細胞の表面に発現されるヒトCD20の構造的に制約を受ける細胞外ループと結合することが知られている(Polyak 等, 2002, Blood, 99:3256- 3262)。ELlSAアッセイは、精製したヒトCD20へのリツキシマブの結合に基づいて行った。結果を図4のグラフに示す。このグラフでは、Hisタグ付加ヒトCD20(■)、還元してアルキル化したhCD20(●)、還元して再酸化したhCD20(□)及びPBSコントロール(○)へのジスルフィド依存性のリツキシマブ抗体結合を示す。4-パラメーターフィット分析により、リツキシマブ結合についてのポイントによる曲線を決定した。
図4に示すように、このアッセイでは、ナノモル親和性でリツキシマブはHisタグ付加ヒトCD20を結合する。データを4-パラメーターフィッティングして9.4nMのEC50を測定した。
【0104】
ELISAにおいてリツキシマブに結合しない還元型rCD20
リツキシマブ結合は、残基K142とY184との 間のCD20の細胞外ループに局所化された(上掲のPolyak 等, 2002)。この領域の2つの残基であるC167及びC183はジスルフィド結合を形成すると考えられている(Einfeld 等, 1988, EMBO J., 7:71 1 -717)。次に、リツキシマブ結合は、このジスルフィド結合の存在にきわめて依存すると思われる。リツキシマブの結合のためのCD20の任意のジスルフィド結合の重要性を評価するために、CD20を還元し、アルキル化して、リツキシマブ結合についてアッセイした。この手順により、CD20を結合するためのリツキシマブの能力は実質的に減少した。更なるコントロールとして、CD20を還元し、DTTを除去して、タンパク質を再酸化した。リツキシマブ結合は、CD20におけるジスルフィド結合の再形成に関係する、この手順において部分的に回復したことから、その抗体結合がジスルフィド結合形成に依存していることが示される。現在のところマウスCD20の細胞外領域のための抗体が利用できないので、マウスCD20について類似のアッセイを行うことができなかった。
【0105】
rhCD20及びC2S変異体のBIAcoreアッセイ
上記のCD20のELISAアッセイにより、抗体結合における結合活性効果考慮することができた。このような効果に非依存的なヒトCD20へのリツキシマブの結合を評価するために、表面プラスモン共鳴アッセイを行った。この技術は、動態学的な結合情報及び平衡結合定数を求める付加的な効果がある。これらの実験では、リツキシマブ又はリツキシマブFabをBIAcoreセンサーチップに堆積して、様々な濃度の可溶性ヒトCD20をチップに通した。完全長リツキシマブを10,000のRUで堆積して、示した濃度のヒトCD20を150mM NaCl、20 mM HEPES (pH 7.2)及び0.1% DDM中に20μL/分の流速でセンサーチップに堆積した。
興味深いことに、CD20がDDPCにて単離することができたにもかかわらず、固定されたリツキシマブへのCD20の結合はこの界面活性剤がある場合に有意に減少した(データは示さない)。したがって、表面プラスモン共鳴実験の親和性は、DDM存在下で測定した。
【0106】
これらの実験から得た代表的なデータを図5に示す。このBIAcoreセンサーグラムはリツキシマブとヒトHisタグ付加CD20との間の結合を示す。固定したリツキシマブへのヒトCD20の結合は、5μM、2.5μM、1.25μM、0.63μM、0.31μM、0.16μM、0.08μM、及び0.04μMを含む、0.04μMから5.0μMの範囲のCD20濃度で生じる。初めの4つの試料の濃度をセンサーグラムに標識した。非還元型CD20(■)、還元してアルキル化したCD20(●)、再酸化させた還元型CD20(□)及びコントロールPBS(○)についてのリツキシマブの結合を示す。4パラメーターフィッティング分析により結合曲線を求めた。各濃度での非共作用可能のモデルへの算出した理論的なフィットを示す。
表3では、ヒトCD20、C2S変異体及び親和性成熟したC2S変異体とのリツキシマブIgG又はFabの結合パラメーターを示す。データは、複数の実験で代表的なものであり、単一の結合部位モデルにフィットさせた。Kd値及びKa値は、結合速度と解離速度から算出した。この表から、Hisタグ付加ヒトCD20とヒトCD20のC2S変異体が、完全長リツキシマブ抗体とFab断片の両方と同じ結合特性をおよそ表すことが示された。データから、CD20のCysのSerへの突然変異は抗体結合を変えなかった、例えば、抗体結合に必要とされる「天然の」高次構造を変えなかったことが示唆された。
【0107】
表3

【0108】
大腸菌内で発現されるhCD20は「天然の」高次構造をとる。
我々の製剤中に存在する、抗体結合に適切な高次構造を有するCD20の割合を決定するために、さらに我々はリツキシマブ親和性カラムによりヒトCD20のC2S変異体を精製した。収率が低かったにもかかわらず、親和性精製の前後の結合データは全体的に一致しており、多くの精製したヒトCD20がリツキシマブを結合することができる高次構造をとっていることを示した。抗体結合の適度な改善は、固定したリツキシマブによる親和性精製の後に示された。この向上した親和性は、CD20の純度の向上又は不活性CD20分子の除去のいずれかによるものでありうる。Fabと比較して、完全長抗体のCD20の親和性にわずかな違いが観察された。このわずかな相違は、センサーチップへの小Fab断片のカップリング又はFc領域の除去の後のFabの構造のわずかな変化による表面効果によるものであると思われる。
【0109】
界面活性剤ミセルに凝集される任意のCD20はIgGとFab結合の親和性に結合活性効果を寄与する可能性がある。結合活性効果の影響を除去することは難しいが、2つの理由のために、このアッセイで観察される結合に有意に寄与すると思わない。第一に、完全なリツキシマブ IgG又はFab断片の可溶性CD20の親和性は、2倍未満の相違を示す。たとえFab結合が、センサーチップ上でFab断片に近接していることによって、いくらかの結合活性効果を許容したとしても、Fab断片の配向性及びランダムなカップリングが測定上近いとは考えにくい。加えて、IgGデータとFabデータは、一価性結合に予測される理論上のフィットと著しく近い。理論上の一価性結合との相違は、特にIgG BIAcore実験で明らかであるが、図5に示すように、リツキシマブIgGへのCD20結合についての実際の実験データと理論上の一価性フィットは非常に近い。したがって、実験データを説明するために更なる結合モデルを必要としない。
第二に、BIAcoreによって、測定した、リツキシマブIgGとFab断片との親和性測定値は、正常ヒトB細胞上での結合のスキャッチャード分析から測定したリツキシマブFab断片の親和性測定値と近い。正常ヒトB細胞へのリツキシマブIgG又はFabの結合を、125I-IgG又は125I-Fabに対して非標識リツキシマブIgG又はFabを競合させて決定した。示したデータは2つのドナーからの正常細胞による分析の平均である。リツキシマブ IgG及びFabの結合実験の典型的な置換プロットを図7に示す。ドナー1については125I-IgGに対する非標識リツキシマブIgGの競合(上方パネル)又はドナー4については125I-Fabに対する非標識リツキシマブFabの競合によって、結合を測定した。各測定値は単一のドナーから得た細胞にて3通り行ったものである。表4は各ドナーからのレセプターの数と親和性を示す。このアッセイにおいて、天然のCD20のEC50は9.5nMであった。
【0110】
表4

【0111】
このデータから、BIAcoreによって、決定した単離したヒトCD20についてのリツキシマブFabの一価性親和性と、単離したヒトB細胞上に発現されるCD20についてのリツキシマブFabの一価性親和性とではわずかに3〜4倍の相違があったことが示された(スキャッチャード分析では50〜60nMに対してBIAcore実験では190〜280nM)。このわずかな相違は、とりわけ、アッセイ方法に本来生じうる相違、タンパク質環境の物理学的な相違、界面活性剤の存在、又は単離された材料中のCD20結合パートナーの欠如を表しうる。興味深いことに、B細胞に対するリツキシマブIgGとFab結合との大きな相違を注記する。これは、結合活性効果がB細胞へのリツキシマブの結合に作用しうることを示唆する。
ヒトCD20についてリツキシマブのKを予測したところ(84〜170nM)、結合及び解離の結合速度は、特に25℃で0.15nM未満のK、3.6×10(M−1−1)のkon及び0.05×10−4(s−1)以下のkoffを有する親和性成熟抗VEGF抗体(Chen 等, 1999, J. MoI. Biol., 293:865-881)などの高親和性抗体と比較して、相対的に速い。しかしながら、単離したCD20についてのBIAcoreにより決定したリツキシマブFab断片又はリツキシマブIgGの親和性が正常B細胞のスキャッチャード分析から測定したリツキシマブFab親和性と近いので、低い一価性親和性値は現実的であり、単離したhCD20調製物中に微量に存在するフォールド不全ないしは非天然の高次構造によるものではない。
【0112】
円二色性による二次構造の分析
さらに、ヒトC2S及びマウスCD20の円二色性分光法(CD)によって、CD20の二次構造について分析した。この分析の試料スペクトルを図6に示す。
上方のパネルは、0.1% DDPC存在下でのヒトCD20変異体C2S(黒色線)、0.1% DDPC及び10mM β-メルカプトエタノール存在下でのヒトCD20変異体C2S(波線)、そして1% SDS存在下で95℃にサーマルスキャンした後のヒトCD20変異体C2S(点線)のスペクトルを示す。下方のパネルは、0.1% DDPCの存在下でのマウスCD20(波線)、0.1% ドデシル-マルトシド(DDM)の存在下でのマウスCD20(点線)、及び、1% SDS及びβ-メルカプトエタノールを添加した0.1% DDM中で95℃で2分間熱した後のマウスCD20(黒色線)のスペクトルを示す。データをモル楕円率として表す。
テトラ貫通型膜タンパク質としてCD20の予測されるトポロジーに基づくと、CD20はおよそ35%のヘリックス含有量である。ヒトCD20(図6上方パネル)とマウスCD20(図6下方パネル)のC2S変異体の両方は222nm領域のスペクトルに有意なシグナルを示す。これから有意なヘリックス含有量を有するタンパク質が予測される。還元剤の添加により、DDPC(上方パネル、波線)又はSDS(上方パネル、細線)のいずれかの存在下において、マウス(下方パネルb、黒色線)又はヒトCD20のC2S変異体の二次構造が有意に変化しなかった。さらに、CD20の二次構造は、多様な界面活性剤及び温度下で非常に安定であるようである。SDS存在下のヒトCD20のC2S変異体(上方パネル、細線)、又はSDS及び還元剤存在下のマウスCD20(下方パネル、黒色線)のCDスペクトルは、短時間の加熱サーマルスキャン後に、天然のタンパク質のスペクトルとほぼ同じである(図6参照)。データをモル楕円率として表す。
【0113】
25℃から95℃への温度スキャンにより、ヒトCD20が95℃で、およそ35%の222nmヘリックスシグナルを喪失することが示された(データは示さない)。共同性の非フォールディング又は共同性の再フォールディングの形跡がないにもかかわらず、少なくとも短時間熱した後に、試料を低温度に戻すと、ほとんどのシグナルは回復する(図6)。加熱及び非加熱のヒトCD20試料のわずかな相違は、いくつかの構造が永久に失われ、より長く熱に曝すと永久に変性したタンパク質の量が潜在的に増加することを示しうる。マウスCD20への還元剤の添加は、SDSのタンパク質の熱安定性に有意に影響しなかった(パネルb、黒色線)。αヘリックス構造を有することが予測されるCD20の領域の外に位置するジスルフィド結合は、CD20の全体にわたる構造的安定性にほとんど寄与しないであろう。また、ジスルフィド結合の減少により生じるCD20の構造への変化はCDにより単純に観察されるものではないようである。また、CDにより測定されるように、β2アドレナリンレセプターのジスルフィド結合の減少は二次構造への影響を制限していたことが既に報告されている(Lin 等, 1996, Biochemistry, 35: 14445-14441)。同様に、ジアシルグリセロールキナーゼの二次構造は、ここで使用するものと同じ条件下のSDSによって、影響を受けない(Lau 等, 1997, Biochemistry, 36:5884-5892)。
【0114】
実施例2
phoAプロモーターによるMS4Aタンパク質の発現
テトラ膜貫通型ポリペプチドのMS4Aファミリーの更なるメンバーを、上記の実施例1の方法によりphoAプロモーターの調節下で大腸菌内で発現させた。実施例1に記載の方法によって、遺伝子産物MS4A4A (配列番号10)、MS4A6A (配列番号12)及びMS4A7 (配列番号14)を大腸菌内で発現させた。抗Hisイムノブロットを用いて検出したところ、細胞から大量のタンパク質が得られた。図8に示すように、検出されたMS4Aポリペプチドは、Liang及びTedder (2001, Genomics 72: 1 19-127)により仮定された予測分子量に近い分子量であった:
MS4A4A MS4A6A MS4A7
27kDa 29kDa 23kDa
【0115】
実施例3
phoAプロモーターの突然変異
大腸菌プロモーターであるphoAは、CD20などのテトラ膜貫通型タンパク質のMS4Aファミリーを含む複合体膜貫通型タンパク質を発現する際の使用のために選択した。以下の表5に示すように、phoAプロモーターは、代表的なプロモーター要素、例えば翻訳開始部位 ATG、−10のTATAボックス TATAGT、及びphoボックス GCTGTCATAAAGTTGTCAC(配列番号20)を含む。
通常、大腸菌の哺乳類の多貫通型膜タンパク質の発現は、通常、抗原曝露と考えられる(例として、Grisshammer, R., 1998, Identification and Expression of G Protein-Coupled Receptors, ppl33-150, Ed. K.R.Lynch, Wiley-Liss Inc.、Laage 等, 2001, Traffic 2:99-104を参照)。いくつかのタンパク質は非常に低レベルで発現されても細菌細胞には非常に毒性を示し、これによりその産生及び単離がより複雑になる。適切な発現株へこれらのタンパク質の発現コンストラクトを単純に形質転換することによって、異常に小さいないしは大きさの異なるコロニーが生じることがある。これはプロモーターが機能していなくても細胞に毒性があることを示唆する。また、転写レベルが低いことによるこれらのタンパク質の基礎レベル発現は、リッチ培地での細菌生育不全となり、その結果、プロモーター上で完全に変化する前に細胞の生理機能が貧弱となる。最後の結果は、一実験から次の実験まで様々な発現、並びに低タンパク質収率であることがある。以下に示すように、宿主細胞のこのようなタンパク質の産生は、細胞内の基礎タンパク質発現の程度を制限するために厳密に調節されたプロモータが必要である。
【0116】
基礎レベルの転写を排除するために、大腸菌のphoAプロモーターの制御要素と基本配列から2つの新規な制御可能なプロモーターを作製した(Kikuchi, 等, 1981 , Nucl. Acids Res. 9: 5671-5678)。野生型phoAプロモーターは、リン酸化型のプロテインphoBの、−10又はPribnowボックスのすぐ上流のphoボックスへの結合によって、正常に調節される。結合により、RNAポリメラーゼが結合して、このプロモーターから転写工程が開始する。次に、PhoBは、周辺質及び培地の低リン酸濃度に応答して、細胞質膜でリン酸化される(Wanner, 1996, Escherichia coli and Salmonella, Neidhardt (ed.), p.1357-1381 )。培地中の低レベルのリン酸に応答したプロモーターへのリン酸化phoBの結合は、phoAプロモーターのポジティブ調節を表す。リン酸化されたphoBの非存在下で、RNAポリメラーゼは、代わりに接触のために−10の配列といくらか弱い−35の配列を用いてphoAプロモーターにやはり弱く結合しうる。この結果、転写の基礎レベルが低くなる。
リン酸化されたphoBの非存在下でRNAポリメラーゼがphoAプロモーターに結合するのを阻害するために、ネガティブ制御成分、ここではlacオペレーター配列 AATTGTGAG CGGAT AACAA (配列番号18) (Gilbert 等, 1973, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 70:3581-3584)を、表5に示すように、+1転写開始位置の上流に挿入した。リン酸が培地中に有意な濃度で存在する(又は存在しない)場合、この付加によりphoAプロモーターからの転写が減弱した。
【0117】
新規に作製したプロモーターであるphacは、ポジティブ調節成分(phoB結合phoボックス)と付加したネガティブ調節成分であるlacオペレーターを介してポジティブ及びネガティブの調節を有する。phacプロモーターは、リン酸枯渇により誘導されると同時に、イソプロピルβ-D-チオガラクトシド(IPTG)などのインデューサの添加によって、lacレプレッサ調節から解放されるものである。他のプロモーターへのlacオペレーター調節配列の付加は報告されているが(De Boer 等 1983, Proc. Natl. Acad. Sci, USA, 80:21 -25、Yansura 等, 1984, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81 : 439-443)、これらのプロモーターでは、lacオペレーター配列は、操作が困難なネガティブ調節成分を置き換えるために用いられるか、新しく調節するために構成プロモーターに付加した。
制御されるべき基礎転写の第二の有効な供与源は、対象の膜タンパク質の発現を操作するために用いたプロモーターの上流のプロモーターに由来する。このようなプロモーターは、例えばプラスミドpBR322上にマッピングされており、大腸菌ベクターの構築に用いられることが多い。phoAの上流のプロモーターにより、「リードスルー(読み過ごし)」による転写の基礎レベルが潜在的に生じうる。phacプロモーターといくつかの膜タンパク質のコード配列による上流の転写の進行を阻害するために、転写ターミネーター、ここではλt0転写ターミネーター:AACG CTCGGTTGCC GCCGGGCGTT TTTTATT (配列番号17) (Scholtissek 等, 1987, Nucl. Acids Res., 15: 3185)を、付加した上流配列:AGGCCTAACG CTCGGTTGCC GCCGGGCGTT TTTTATTGTT AACCATGGA (配列番号19)内のphoボックスの上流に正方向で挿入した。新規のプロモーターであるtphacは、phacプロモーターと同じ方法で、例えばリン酸制限培地への希釈や、IPTGの添加により誘導される(データは示さない)。基礎レベルの転写は、phacと比較してtphacを用いるとさらに減少した。
【0118】
表5

【0119】
実施例4
RA1cの発現のためのphoAとphac
細菌宿主細胞における複合体膜貫通型ポリペプチドの発現と収率に対するphoA変異体プロモーターphacの影響を試験するために、有効な翻訳開始のためのN末端リーダーMKHQHQQ (配列番号7)を有する組み換えRA1cと、Flagと6-Hisの2つのC末端タグを発現ベクター内に遺伝子操作し、phoAプロモーター(ベクターpEfRA1c)とphacプロモーター(ベクターpEfRA1cr)に操作可能に結合させた。RA1cは、7つの膜貫通部分を有する膜貫通型ポリペプチドである。
【0120】
形質転換
両プラスミドはヒトのRA1cを発現した (Kretschmer 等, 2001 , Gene 278.41 -51 )。プラスミドを、大腸菌株58F3(W3110 - fhuAΔ(tonAΔ) phoAΔE15 lonΔ galE rpoHts(htpRts) ΔclpP lacIq ΔompTΔ(nmpc-fepE) ΔslyD)に形質転換して、選択した形質転換体をカルベニシリン(50μg/mL)を添加した5mLのLuria-Bertani培地に接種し、30℃でおよそ14〜16時間、培養ホイール上で生育させた。pEfRA1c(phoAプロモーター)による培養物のOD600は1.55であり、pEfRA1cr(phacプロモーター)による培養物のOD600は3.57であった。LB接種の1OD600-mL試料を回収した。
振とうフラスコ誘導(Shake flask induction)を行った。次いで、各培養物を、50μg/mLのカルベニシリンを含有するC.R.A.P.リン酸制限培地(Simmons 等, 2002, J. Immunol. Methods 263: 133- 147)に希釈した(1:100)。すべての培養物を2リットルの整流フラスコ中に、500mLの最終誘導容量にして、およそ200rpmの速度のシェイカー上で30℃で生育させた。播種の10、12、14、16、18、22及び24時間後に1OD600-mLの試料を、pEfRA1c培養物(phoAプロモーター)用のC.R.A.P.培地に回収した。pEfRA1cr(phacプロモーター)を発現する培養物については、播種の10及び12時間後にC.R.A.P.培地に1mM IPTGを添加してlacリプレッサー制御を解放した。IPTG誘導時の培養物の各々のOD600は2.79及び2.97であった。すべてのIPTG誘導培養物について、IPTG添加前及びIPTG添加後24時間まで2時間ごとに1OD600-mL試料を回収した。
【0121】
ウェスタンブロット分析のために、1OD600-mL試料の還元した全細胞溶解物を以下のように調整した:
(1) マイクロチューブにて1OD600-mL試料を遠心分離した。
(2) 各ペレットを100μLのTE (10mM Tris pH 7.6, 1 mM EDTA)に再懸濁した。
(3) ジスルフィド結合を減少するために、10μLの1M ジチオトレイトール(Sigma D-5545)を各試料に添加した。
(4) 20μLの20% SDSを各試料に添加した。
試料をボルテックスにかけて、90℃で5分間熱した後に、再びボルテックスにかけた。試料を室温にまで冷ました後に、800μLのアセトンを添加してタンパク質を沈殿した。試料をボルテックスにかけて、室温に15分間置いた。微量遠心機にて5分間遠心分離した後、各試料の上清を吸引除去し、各タンパク質ペレットを10μLの1M ジチオトレイトールと40μLのdHO及び50μLの2×NOVEX SDS試料バッファに再懸濁した。次いで、試料を90℃で5分間熱し、十分にボルテックスにかけて、室温にまで冷ました。次いで、最後に5分間遠心分離して、上清をきれいなチューブに移した。
SDS試料調製の後、8μLの誘導前の試料の培養物試料を10ウェルの1.0 mm NOVEX 16% トリス-グリシン SDS-PAGEに流し、およそ120ボルトで約1.5時間遠心分離した。C.R.A.P.培地(pEfRA1c)にて誘導した試料を同じ方法で調製した。C.R.A.P.培地とIPTG(pEfRA1cr試料)にて誘導した試料では、15ウェルのゲルに5.3μLを流した。次いで、結果として生じたゲルをウエスタンブロット分析に用いた。
【0122】
ウエスタンブロット分析
SDS-PAGEゲルを20mM リン酸ナトリウムバッファ, pH6.5中でニトロセルロースメンブラン(NOVEX)に電気的にブロットした。次いで、1×NET(150 mM NaCl, 5 mM EDTA, 5OmM Tris, pH 7.4, 0.05% Triton X- 100)と0.5% ゼラチン溶液を用いて、振とう器上でおよそ30分〜1時間かけて室温でメンブランをブロックした。ブロッキング工程後、抗Hisウェスタンブロット分析のために、メンブランを、1×NET+0.5% ゼラチン+抗His抗体(Roche Diagnosticsの抗his6ペルオキシダーゼコンジュゲートマウスモノクローナル抗体)の溶液に置いた。抗His抗体を1:5000に希釈して、メンブランを抗体溶液中に、振とうさせながら室温で終夜置いた。翌朝、メンブランを1×NETにて10分間、最低3回洗浄して、TBS(20 mM Tris pH 7.5, 500 mM NaCl)にて15分間、1回洗浄した。抗His抗体に結合したタンパク質バンドを、Amersham Pharmacia Biotech ECL検出機を用いて、メンブランをX線フィルムに曝して可視化した。
【0123】
phacプロモーターの効果は、プラスミド形質転換工程と同時期に示された。pEfRAlc (phoA)及びpEfRAlcr (phac)による形質転換体をLBプレートにて終夜生育させた後に比較した。pEfRAlcr (phac)で形質転換した細胞は、pEfRAlcで形質転換した細胞より有意に大きかった(データは示さない)。図9は、プレートに画線培養しておよそ14〜16時間LB/Carbに播種したコロニーの試料についての抗Hisウエスタンブロット分析を示す。真ん中のレーンのブロットに示されるように、非誘導型phoAプロモーターからのRA1cの発現(pEfRAlc)は、リン酸を制限しなかった場合のphoAプロモーターからの漏出量を示す。それに対して、緊密に調節されたphacプロモーターからはRA1cの発現(pEfRAlcr)は検出されなかった。
phoAプロモーターからの多膜貫通型タンパク質RA1cの基礎レベルの発現は細胞に毒性があるため、LB中での成長が乏しく、その結果、細胞密度が低くなる。終夜LB培養物のOD600読み取り値はpEfRAl cでは1.55に、pEfRAlcrでは3.57に改善した。これはphacプロモーターにより細胞の状態がより良好であることを示す。
pEfRAlc (phoAプロモーター)についての発現結果の時間的経過を図10に示す。培養物中のリン酸は、およそ2.0OD600が枯渇したと予測された。およそ10時間目に発現が検出され、OD600読み取り値が1.73であった。誘導後12時間目〜14時間目のおよそ2時間、非常に産生が減少しはじめ、その後産生はゆっくりと消失した。誘導の24時間後までに、発現したタンパク質の単量体バンドは完全に消失した。さらに、単量体のバンドが時間につれて消失するにつれて、非還元型の凝集物はスメアとなった。単量体のバンド中に最も多くのタンパク質を有するときの最も高い細胞密度は、14時間目の2.51OD600であった(図10中の*)。
【0124】
好ましくは、phacプロモーターは、C.R.A.P.培地のリン酸枯渇により誘導されるまで完全に遮断される。IPTG-誘導phacプロモーター(pEfRAlCr)培養物から生じるRA1c発現の時間的経過を図11に示す。IPTG添加後2時間以内に最大タンパク質産生に達し、単量体のバンドとスメアの同様な発現パターンが観察された。12時間目の誘導培養物は、10時間目の誘導培養物よりも良好な発現を示した。これは誘導時間が重要であることを表す。最も重要なことは、phacプロモーターが、必要となるまで全体的にプロモーターを保持することによって、高密度にまで生育するように、細胞を良好な状態にするという利点があったことである。誘導の際に、細胞はストレスを受け、生育を止め最終的に細胞密度が低下した。IPTG添加前12時間目の培養物は、おそらくリン酸枯渇によるphacプロモーターの部分的な誘導によって、既にRA1cを発現させていた。IPTGが12時間目以降に添加される場合、phacプロモーターの有効性が減少しうる。したがって、これらの培養条件下では、IPTG添加12時間が、phacプロモーターを利用するには最終時点であるようである。14時間目のIPTG誘導(12時間目)後2時間に最大のタンパク質産生に達した。第14時間目のOD600はphacプロモーターでは2.97であり、これはphoAプロモーターによる2.51よりも大きい値である。
phoAプロモーターとphacプロモーターによるRA1cの全体にわたる発現の比較を図12に示す。phoA及びphacプロモーターからの最も良い発現結果を同じブロット上に示し、直接比較した。12時間目のphacプロモーターによるRA1cの2時間の誘導(右側のレーン)は、14時間目のphoAプロモーターによる最も高い発現(左側のレーン)よりも細胞密度及びタンパク質発現がともに高かったことが明らかとなった。
【0125】
実施例5
ヒトGプロテインカップリングレセプター73(GPR73)を発現するphoAとphac
さらにphoA変異体プロモーターphacのEG-VEGFレセプター(GPR73)の発現と収率に対する影響を分析するために、プラスミドpST239. EGVEGFrI .Flag.H8.1270(phoAプロモーター)及びpRIFHr(phacプロモーター)を用いて振とうフラスコ誘導を行った。両プラスミドは、有効な翻訳開始のためのN末端リーダー配列(MKHQHQQ, 配列番号7)と、Flagとオクタ-Hisである2つのC末端タグを有するヒトGプロテインカップリングレセプター73タンパク質(hGPR73) (Lin, 等, 2002, J. Biol. Chem. 277 : 19276-19280)を発現する。プラスミドを、大腸菌株58F3 (W3110 - fhuAΔ (tonAΔ)phoAΔE15 lonΔ galE rpoHts (htpRts) ΔclpP lacIq ΔompTΔ (nmpc-fepE) ΔslyD)に形質転換した。選択した形質転換体をカルベニシリン(50μg/mL)を添加した5mLのLuria-Bertani培地に接種し、30℃でおよそ14〜16時間、培養ホイール上で生育させた。phoAプロモーターを含有するpST239. EGVEGFrI .Flag.H8.1270による終夜培養物の光学濃度(OD600)は0.84であり、phacプロモーターを含有するpRIFHrによる培養物は3.19であった。
【0126】
終夜LB培養物から1OD600-mL試料を回収した。次いで、各培養物を、50μg/mLのカルベニシリンを含有するC.R.A.P.リン酸制限培地(Simmons 等, 2002, J. Immunol. Methods 263: 133-147)に希釈した(1:100)。すべての培養物を2リットルの整流フラスコ中に、500mLの最終誘導容量にして、およそ200rpmの速度のシェイカー上で25℃で生育させた。播種の14、15、16、17及び24時間後に1OD600-mLの試料を、pST239.EGVEGFrl .Flag.H8.1270 (phoA)培養物についてはC.R.A.P.培地に回収した。pRIFHr (phac)を発現する培養物については、播種の14及び15時間後にC.R.A.P.培地に1mM IPTGを添加した。IPTG誘導時の各々の培養物のOD600は、2.37(14時間)及び3.21(15時間)であった。
14時間目の誘導のために、IPTG添加前、IPTG添加の2、3及び10時間後に、1OD600-mLの試料を回収した。15時間目の誘導のために、IPTG添加前、IPTG添加の2時間及び9時間後に1OD600-mLの試料を回収した。
実施例4のRA1cに関する記載の通りに、1OD600-mLの試料の還元した全細胞溶解物を調製した。SDS試料調製の後、8μLの還元した全細胞溶解物のすべての試料を10ウェルの1.0 mm NOVEX製 16% トリス-グリシン SDS-PAGEに流し、およそ120ボルトで約1.5時間電気泳動した。次いで、実施例3のRA1cに関する記載の通りに、結果として生じたゲルをウエスタンブロット分析に用いた。
【0127】
phoAプロモーター及び、phacプロモーターによるGPR73の発現についての抗Hisウエスタンブロットの結果を図13に示す。ヒトGPR73は誘導の前(真ん中のレーン)にphoAプロモーター(pST239.EGVEGFrl .Flag.H8.1270)から発現された。これは、リン酸を制限しない場合のphoAプロモーターの漏出量を表す。それに対して、緊密に調節されたphacプロモーターによって、hGPR73の発現は検出されなかった(右側のレーン)。実施例3のRA1c発現を記載したように、phoAプロモーターによる多膜貫通型タンパク質の基礎レベルの発現は細胞に毒性があるため、LB中での成長が乏しく、その結果、細胞密度が低くなる。終夜LB培養物のOD600読み取り値は、pST239. EGVEGFrI . Flag.Hδ.1270(phoAプロモーター)の0.84からpRIFHr(phacプロモーター)の3.19に改善した。これはphacプロモーターを含有する細胞の成長と細胞の状態がより良好であることを示す。
phoAプロモーターからのGPR73についての発現結果の時間経過を図14に示す。15時間目に存在する二量体のバンドにより発現を検出し、そのOD600読み取り値は3.14であった。このタンパク質は24時間までに完全に消失した。それに対して、OD600読み取り値の増加に示されるように、細胞は成長し続けた。この継続的な成長は、phoAプロモーターを用いたいくつかの多膜貫通型タンパク質の発現により観察される多様な結果の一例であって、これから、細胞の中にはある様式によって、発現が下方制御されるものがあることが示唆される。いずれにしても、GPR73の発現パターンは、RA1c又は、他の多膜貫通型タンパク質についての実施例3にみられたものと類似していた。発現は16時間目にピークに達し、そのOD600は3.46であった。
【0128】
好ましくは、phacプロモーターは、C.R.A.P.培地のリン酸枯渇により誘導されるまで完全に遮断される。GPR73のIPTG誘導発現を図15に示す。hGPR73の発現はIPTG誘導なしの場合に検出されなかった。これは、phacプロモーターの堅固さ(tightness)を示唆する。IPTG添加後2時間以内に最大タンパク質産生に達した。早期に現れる二量体バンド及び単量体バンドにより類似の発現パターンが観察されたのに対して、誘導の後期ではスメアとなった。誘導の際に、細胞はストレスを受けて、生育を止め最終的に細胞密度が低下した。15時間目の誘導された培養物は、14時間目の誘導された培養物より良好な発現を示した。IPTG誘導後2時間(15時間)で最大の産生に達し、そのOD600は2.41であった。
phoA及びphacのプロモーターによるhGPR73の全体にわたる発現を図16において、比較する。直接比較するために、各プロモーターからの最も良好な発現結果を同じブロットに示した。より長時間曝露した場合を除き、phacプロモーター(右側のレーン)と比較して、phoAプロモーター(真ん中のレーン)によるhGPR73の発現は検出されなかった。15時間目のphacプロモーターによるhGPR73の2時間の誘導により非常に高いタンパク質発現が生じることが明らかとなった。また、phoAプロモーターを用いた発現結果は可変的な傾向があったのに対して、phacプロモーターを用いた発現結果は相対的に一定であった。
【0129】
実施例6
膜タンパク質MS4A4AについてのphoAとtphac
変異体phoAプロモーターであるtphacのMS4Aファミリーポリペプチドの発現と収率に対する影響を分析するために、phoAプロモーターとプラスミドpMS4A4A.8His.32及びtphacプロモーターとプラスミドpMS4A4ArTを用いて振とうフラスコ誘導を行った。両プラスミドは、有効な翻訳開始のためのN末端リーダーMKHQHQQと、C末端の8×-Hisタグを有するヒト免疫グロブリンEレセプター様タンパク質(hIGERB) (Lin, 等, 2002, J. Biol. Chem. 277 : 19276-19280)を発現する。プラスミドを、大腸菌株58F3 (W3110 - fhuAΔ (tonAΔ)phoAΔE15 lonΔ galE rpoHts (htpRts) ΔclpP lacIq ΔompTΔ (nmpc-fepE) ΔslyD)に形質転換して、選択した形質転換体をカルベニシリン(50μg/mL)を添加した5mLのLuria-Bertani培地に接種し、30℃でおよそ14〜16時間、培養ホイール上で生育させた。pMS4A4A.8His.32 (phoA)による培養物のOD600は2.4であり、pMS4A4ArT (tphac)による培養物は2.5であった。終夜LB培養物から1OD600-mL試料を回収した。
次いで、各培養物を、50μg/mLのカルベニシリンを含有するC.R.A.P.リン酸制限培地(上掲のSimmons 等, 2002)に希釈した(1:100)。すべての培養物を2リットルの整流フラスコ中に、500mLの最終誘導容量にして、およそ200rpmの速度のシェイカー上で30℃で生育させた。pMS4A4A.8His.32培養物 (phoA)については、播種の10、11、12、14及び15時間後に1OD600-mLの試料をC.R.A.P.培地に回収した。pMS4A4ArT (tphac)を発現する培養物については、播種の10及び10.5時間後にC.R.A.P.培地に1mM IPTGを添加した。IPTG誘導時の各々の培養物のOD600は、それぞれ2.1及び2.6であった。
【0130】
pMS4A4ArT培養物(10時間目のIPTG添加)について、IPTG添加前、IPTG添加の1時間、2時間、4時間及び5時間後に1OD600-mLの試料を回収した。pMS4A4ArT10.5時間目のIPTG添加培養物については、IPTG添加前、IPTG添加の1時間及び4時間後に1OD600-mLの試料を回収した。
実施例4の記載の通りに、1OD600-mLの試料の還元した全細胞溶解物を調製した。SDS試料調製の後、8μLのpMS4A4A.8His.32 (phoA)及びpMS4A4ArT (tphac)の試料を10ウェルの1.0 mm NOVEX製 16% トリス-グリシン SDS-PAGEに流し、およそ120ボルトで約1.5時間電気泳動した。C.R.A.P培地中の誘導した試料を15ウェルのゲルに流した。次いで、実施例3の記載のように、結果として生じたゲルをウエスタンブロット分析に用いた。
液体LB培地におけるpMS4A4ArT(tphac)ベクター及びpMS4A4A.8His.32(phoA)によるMS4A4Aの発現を示す抗Hisウェスタンブロットの結果を図17に示す。ヒト免疫グロブリンEレセプター様タンパク質(hIGERB)は、誘導していないphoAプロモーター(pMS4A4A.8His.32)から発現された。これは、リン酸を制限しない場合のphoAプロモーターの漏出量を示す。それに対して、緊密に調節されたtphacプロモーターによるhMS4A4Aの誘導の前には、タンパク質の発現は検出されなかった。終夜LB培養物のOD600読み取り値は、pMS4A4A.8His.32 (phoA)の2.4からpMS4A4ArT (tphac)の2.5にわずかに改善した。
【0131】
phoAプロモーターからのMS4A4A発現の時間経過を図18に示す。11時間目に発現が検出され、そのOD600読み取り値は2.24であった。タンパク質は時間に対して相対的に安定していた、しかしながら、タンパク質発現は時間につれて改善しなかった。11時間目の1時間以内に最大の産生に達した。その後細胞密度は低下した。
pMS4A4ArT (tphac)培養物からのIPTG誘導MS4A4A発現の結果を図19に示す。hIGERBのタンパク質発現はIPTG誘導なしの場合に検出されなかった。これは、tphacプロモーターの堅固さ(tightness)を示唆する。IPTG誘導後1時間以内に発現が検出された。OD600が2.1である10時間目に誘導した培養物はOD600が2.6である10.5時間目に誘導した培養物よりもわずかに良好な発現を示した。IPTG誘導後2時間の12時間目(10時間目にIPTGを添加)に最大の産生に達し、そのOD600は2.36であった。
図20において、hMS4A4Aの全体的な発現を、phoAプロモーターとtphacプロモーターの場合について比較する。phoA及びtphacプロモーターによる最も良好な発現結果を、直接比較するために同じブロット上に示した。IPTG誘導pMS4A4ArT(10時間目にIPTGを添加)の12時間目の試料は、phoAプロモーターを有するpMS4A4A.8His.32の11時間目の試料よりも発現が有意に改善していた。tphac制御培養物のOD600が2.19であるのに対して、phoAプロモーターによるピークの発現のOD600は2.24であった。
【0132】
実施例7
trpLEリーダーによるCD20発現の増加
trpLE配列は、特に十分に蓄積しない問題のタンパク質を発現するためにN末端融合パートナーとして何年も用いられている(例として、Yansura, 1990, Methods in Enzymology, Vol. 185: 161-166, Academic Press Inc., San Diego, CAを参照)。一般に、trpLEタンパク質は、trpリーダーの一端及びtrpE遺伝子の両末端部にインフレーム欠失を表す。ΔtrpLE1417及びΔtrpLE1413の2つの変異体が報告されている(例えば、Bertrand 等, 1976, J. MoI. Biol. 103:319-337及びMiozzari 等, 1978, J. Bacteriol. 133:1457-1466を参照)。ΔtrpLEJ413は、いくつかのヒトタンパク質の発現のためのベクターの構築に用いられている(米国特許第5,888,808号参照)。しかしながら、類似のベクターpHS94によって、膜貫通型タンパク質B型肝炎表面抗原を発現する試みは、否定的な結果が報告されている(例として、米国特許第4,803,164号及び同第4,741,901)。
【0133】
trpLEに融合したタンパク質の高レベルの発現は、通常、強いtrpプロモーター、trpリーダーのはじめのいくつかのコドンを含む強い翻訳開始領域、及びタンパク分解性の安定な屈折小体(refractile bodies)内への異種性タンパク質の結果として生じるプッシュ(push)に貢献する。trpLEリーダーが多膜貫通型タンパク質を屈折小体に押し込む、及び/又はその一方で大腸菌において、異種性の多膜貫通型膜タンパク質の発現及び収率を増やすことができるかどうかを決定するために、trpLE配列リーダー、指定のLE(配列番号25)及びsLE(配列番号26)の2つの変異体を用いて様々なコンストラクトを用いた。上の実施例に記載のように、これらのコンストラクトは、より緊密に調節されるphoA及びphac/tphacプロモーターによって、作製した。
より長い2つのリーダーであるLEは、まさに、図22に示すように、例えば発現ベクターpNCV (AtrpLE1413)内に、記載した大腸菌trpEタンパク質のはじめの9アミノ酸((M)KAn7VLKGS, 配列番号27) (Maniatis 等, In Molecular Cloning: A Laboratory Manual, p 426, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, New York, 1982.)の後に、trpEポリペプチドのアミノ酸339−408(配列番号25)を含有する。trpリーダーの同じはじめの9アミノ酸の後にtrpEポリペプチドからの非連続的なアミノ酸の配列(配列番号26)を含有するより小さいtrpLE配列リーダー(sLE)を図22に示す。発現レベルはより長いLEリーダーによるとおよそ2倍の高さになるが、これら2つのtrpLEリーダーは膜内挿入に関して同じように作用する。
【0134】
LE CD20のクローニング及び発現
各々セリンに置換されるCys111及びCys220と、アラニンに置換されるCys81を有する変異体CD20を、標準的な分子生物学技術(Ausubel 等 (eds.), 2003, Current Protocols in Molecular Biology, 4 VoIs., John Wiley & Sons)を用いて、β-ラクタマーゼ遺伝子及び3つの稀な大腸菌コドン(argU、glyT及びpro2)のtRNA遺伝子を含有するpBR322由来のプラスミド内にサブクローニングした。79のアミノ酸trpLEスペーサー配列(配列番号25)及びGSリンカー配列をN末端に付加した。トロンビン切断認識部位を、trpLEリーダーを切断するためにCD20の第9アミノ酸の後と、細胞内親水性尾部を切断するためにCD20の第236アミノ酸の後に付加した。C末端のタグ配列をコード化するために、発現したタンパク質の検出及び精製を促すオクタ-His(配列番号:8)を付加した。結果として生じるプラスミドをpLEfGKiSArTと称した。遺伝子転写はphoAプロモーターの制御下とし、上記の実施例4の記載のように、大腸菌株58F3のリン酸を制限することによって、発現を誘導した。飽和したLBカルベニシリン培養物を、C.R.A.P.リン酸制限培地にて希釈した(Simmons 等, 2002, J. Immunol. Methods, 263: 133- 147)。次いで、培養物を30℃で24時間生育した。
発現分析のために、1OD600-mL試料の還元した全細胞溶解物を以下のように調整した:
(5) マイクロチューブにて1OD600-mL試料を遠心分離した。
(6) 各ペレットを70μLのTE (10mM Tris pH 7.6, 1 mM EDTA)に再懸濁した。
(7) ジスルフィド結合を減少するために、10μLの1M ジチオトレイトール(Sigma D-5545)を各試料に添加した。
(8) 20μLの20% SDSを各試料に添加した。
試料をボルテックスにかけて、90℃で5分間熱した後に、再びボルテックスにかけた。試料を室温にまで冷ました後に、100μLの2×NOVEX SDS試料バッファを添加した。次いで、試料を90℃で5分間熱し、十分にボルテックスにかけて、室温にまで冷ました。次いで、最後に5分間遠心分離して、上清をきれいなチューブに移した。
【0135】
SDS試料調製の後、16μLの誘導試料を10ウェルの1.0 mm NOVEX 16% トリス-グリシン SDS-PAGEに流し、およそ120ボルトで約1.5時間電気泳動した。結果として生じたゲルを10%の酢酸を添加したクーマシーブルーで染色した。ウエスタンブロット分析のために、1μLの全細胞溶解物を流し(load)、結果として生じたゲルを、1×トリス-グリシンバッファ(Invitrogen, CA)、0.01% SDS、5% メタノール中でニトロセルロースメンブラン(NOVEX)上に電気的にブロットした。次いで、1×NET(150 mM NaCl, 5 mM EDTA, 5OmM Tris, pH 7.4, 0.05% Triton X-100)と0.5% ゼラチン溶液を用いて、振とう器上でおよそ30分〜1時間かけて室温でメンブランをブロックした。ブロッキング工程後、抗Hisウェスタンブロット分析のために、メンブランを、1×NET、0.5% ゼラチン、抗His抗体(Roche Diagnosticsの抗his6ペルオキシダーゼコンジュゲートマウスモノクローナル抗体)を含む溶液に置いた。抗His抗体を1:5000に希釈して、メンブランを1×NETにて10分間、最低3回洗浄して、TBS(20 mM Tris pH 7.5, 500 mM NaCl)にて15分間、1回洗浄した。抗His抗体に結合したタンパク質バンドを、Amersham Pharmacia Biotech ECL検出機を用いて、メンブランをX線フィルムに曝して可視化した。
図23は、実施例1に記載のように、リーダー配列MKHQHQQ (配列番号7)を有するphoAプロモーターの制御下にあるが、trpLEリーダーを有さないPhoAプロモーターからの発現と比較した、LE.CD20からのLE.CD20及びCD20発現結果についてのコンストラクト線図を示す。trpLEを用いた大腸菌細胞におけるCD20タンパク質の発現及び産生は、クーマシーブルー染色ゲルで検出されるレベルにまで大いに亢進した。ウエスタンブロット分析により、trpLEリーダーのないCD20よりもtrpLEリーダーを有するCD20の発現収率がおよそ10倍良好であったことが示された(データは示さない)。推定される発現レベルは、1リットルの培養物につきおよそ30ミリグラムのtrpLE融合CD20であった。
【0136】
LE CD20膜タンパク質抽出
trpLE融合CD20の溶解性を分析するために、細胞ペレットを、ポリトロン(Brinkmann, Westbury, NY)を用いて、各1gのペーストにつき10mLの未変性の溶解バッファ(20 mM Tris pH 7.5, 300 mM NaCl)に再懸濁し、マイクロフルイダイザー(Microfluidics Corp, Newton, MA)を用いた細胞破壊によって、溶解して、超遠心分離ローターTLA-100.3(Beckman, Fullerton, CA)を用いて391000×gで1時間遠心分離した。可溶タンパク質を含有する上清(上清1)を、膜タンパク質と不溶性タンパク質を含むペレット(ペレット1)から分離した。次いで、ペレット1を、ポリトロンを用いて非変性中性界面活性剤、1% Fos-Choline 12を含む未変性の溶解バッファに再懸濁して、4℃で終夜抽出した。翌日、試料を再度超遠心分離して、ミセルの形態で膜結合型タンパク質を含有する上清(上清2)を不溶性タンパク質(ペレット2)から単離した。ペレット及び上清は還元型SDSローディングバッファにて等量に再懸濁して、西洋ワサビペルオキシダーゼコンジュゲート抗His抗体(Roche Applied Science, Indianapolis, IN)でプローブしたニトロセルロース膜によるイムノブロット及びSDS-PAGEによって、分析した。
クーマシーブルーで染色したゲル及び免疫ブロットに示されるように、膜からほぼ完全にtrpLE.CD20が抽出されたことが結果から示される(図24)。
【0137】
LE CD20密度勾配遠心分離
遠心チューブにおいて、150 mM NaCl及び20 mM HEPES, pH 7.2により緩衝した1.9M及び1.4Mのショ糖溶液を重ねることによって、不連続なショ糖勾配を生成した。LE CD20タンパク質を発現する細胞を未変性の溶解バッファ中で溶解した。膜及び不溶性の分画を、超遠心分離ローターTLA100.3 (Beckman, Fullerton, CA)を用いて391000×g(85Krpm)にて1時間超遠心分離することによって、単離した。上清を廃棄して、ペレットを1.9Mのショ糖溶液に再懸濁した。100μLの分割量の再懸濁液を0.9mLの1.9M ショ糖溶液と再び混合した。次いで、この混合物を遠心チューブの底に置き、1mLの1.4M ショ糖溶液を上に重ねた。試料をSWTi55ローターに詰めて、128356×g(32.5Krpm)で1時間回転させた。次いで、分画化した試料を、チューブの上部から200μLずつ慎重に取り分け(unload)て、各分画(10上部、1下部)をニトロセルロースメンブランに転写して、西洋ワサビペルオキシダーゼコンジュゲート抗His抗体でプローブしたSDS-PAGEによって分析した。ウェスタンブロット分析によって、trpLE融合CD20ポリペプチドは、1.4M及び1.9Mのショ糖溶液(分画5及び6)の作用領域に位置する膜層にみられ、そのポリペプチドの大部分は分画5にみられた(データは示さない)ことが示された。これは、ほとんどのtrpLE融合CD20ポリペプチドは大腸菌膜に挿入されることを示唆する。
【0138】
LE CD20トロンビン切断
トロンビンを1mM 塩化カルシウムとともに、溶解性分析からの1% Fos-Choline 12可溶性膜抽出物に1:1000の希釈で添加し、室温に終夜置いた。還元したSDS調製試料をSDS-PAGEにて分析した。クーマシーブルーで染色したゲルは、融合タンパク質に設定した2つのトロンビン切断部位で良好に切断された結果生じた、切断型CD20膜貫通ドメイン(26kDa)、trpLE(11kDa)及びCD20の親水性のC末端尾部(8kDa)を含む3つのタンパク質バンドを示した(データは示さない)。各々の3つのバンドからのペプチドのN末端を配列決定して、相同性を確認した。
【0139】
実施例8
trpLEリーダーによるRA1cの発現増加
LE RA1cのクローニング及び発現
RA1cをコードするDNAを、前述の標準的な分子生物学技術を用いて、β-ラクタマーゼ遺伝子及び3つの稀な大腸菌コドン(argU、glyT及びpro2)のtRNA遺伝子を含有するpBR322由来のプラスミド内にサブクローニングした。trpLEリーダーの後にフラッグタグ(DYKDDDDK, 配列番号32)を付加し、トロンビン認識部位(thrX) (LVPRGS, 配列番号31)をRA1cのN末端に付加して、高い翻訳開始、検出及び切断のそれぞれを確認した。10のヒスチジン残基をC末端に付加して、発現したタンパク質の検出と精製を促した。結果として生じたプラスミドをpLEfRA1CnFcHrTと称した。上記の実施例の記載のように、遺伝子転写はtphacプロモーターの制御下とし、リン酸の制限と、およそ2〜3OD600の細胞密度で1mM IPTGを添加することによって発現を誘導した。飽和したLBカルベニシリン培養物を、C.R.A.P.リン酸制限培地にて希釈した(Simmons 等, 2002, J. Immunol. Methods, 263: 133-147)。次いで、培養物をIPTG添加後6時間、30℃で生育した。
【0140】
発現分析のために、1OD600-mL試料の還元した全細胞溶解物を実施例7に記載のように調整した。SDS試料調製の後、5μLの誘導試料を10ウェルの1.0 mm NOVEX 16% トリス-グリシン SDS-PAGEに流し、およそ120ボルトで約1.5時間電気泳動した。ウェスタンブロット分析のために、結果として生じたゲルを、1×トリス-グリシンバッファ(Invitrogen, CA)、0.01% SDS、5% メタノール中でニトロセルロースメンブラン(NOVEX)上に電気的にブロットした。次いで、1×NET(150 mM NaCl, 5 mM EDTA, 5OmM Tris, pH 7.4, 0.05% Triton X-100)と0.5% ゼラチン溶液を用いて、振とう器上でおよそ30分〜1時間かけて室温でメンブランをブロックした。ブロッキング工程後、抗Hisウェスタンブロット分析のために、メンブランを、1×NET、0.5% ゼラチン、抗His抗体(Roche Diagnosticsの抗his6ペルオキシダーゼコンジュゲートマウスモノクローナル抗体)を含む溶液に置いた。抗His抗体を1:5000に希釈して、メンブランを1×NETにて10分間、最低3回洗浄して、TBS(20 mM Tris pH 7.5, 500 mM NaCl)にて15分間、1回洗浄した。抗His抗体に結合したタンパク質バンドを、Amersham Pharmacia Biotech ECL検出機を用いて、メンブランをX線フィルムに曝して可視化した。
図25はLE.RA1c(47.6kDa)のコンストラクト線図を示し、LE.RA1cによるRA1c発現結果をtrpLEリーダーを欠くコンストラクトから発現したRA1cの結果と比較するものであり、実施例4に記載のように、tPhacプロモーターの制御下にリーダー配列MKHQHQQ (配列番号7)を含有する。抗HIS抗体を用いたウェスタンブロット分析により、trpLEリーダーを含まないRA1cの発現レベルよりもLEリーダー配列を含有するLE.RA1cの発現レベルが非常に改善したことが示された(図25を参照)。
【0141】
RA1c膜タンパク質抽出
trpLE融合RA1cの溶解性を分析するために、細胞ペレットを、ポリトロン(Brinkmann, Westbury, NY)を用いて、各1gのペーストにつき10mLの未変性の溶解バッファ(20 mM Tris pH 7.5, 300 mM NaCl)に再懸濁し、マイクロフルイダイザー(Microfluidics Corp, Newton, MA)を用いた細胞破壊によって溶解して、超遠心分離ローターTLA-100.3(Beckman, Fullerton, CA)を用いて391000×gで1時間遠心分離した。可溶タンパク質を含有する上清(上清1)を、膜タンパク質と不溶性タンパク質を含むペレット(ペレット1)から分離した。次いで、ペレット1を、ポリトロンを用いて非変性界面活性剤、1% Fos-Choline 12を含む未変性の溶解バッファに再懸濁して、4℃で終夜抽出した。翌日、試料を再度超遠心分離して、ミセルの形態で膜結合型タンパク質を含有する上清(上清2)を不溶性タンパク質(ペレット2)から単離した。ペレット及び上清は還元型SDSローディングバッファにて等量に再懸濁して、西洋ワサビペルオキシダーゼコンジュゲート抗His抗体(Roche Applied Science, Indianapolis, IN)でプローブしたニトロセルロース膜によるイムノブロット及びSDS-PAGEによって分析した。図26に示すように、クーマシーブルーで染色したゲル及び免疫ブロットでは、膜からほぼ完全にLE.RA1cが抽出されたことが観察された。RA1cタンパク質の収率は、1% Fos-Choline 12抽出の後にクーマシーブルーで染色したゲルで観察できる程度に十分であった。
【0142】
LE RA1c密度勾配遠心分離
実施例7のCD20の記載の方法を用いて、LE RA1cを密度勾配遠心分離を行った。簡単に言えば、上記のような1.9M及び1.4Mのショ糖溶液を重ねることによって、不連続なショ糖勾配を生成した。実施例7と同じ方法において、ウェスタンブロット分析の結果は、ほとんどのLE.RA1cポリペプチドが大腸菌膜に挿入されていることを示した(データは示さない)。
【0143】
LE RA1cのタンパク質単離
LE.RA1cタンパク質を単離するために、溶解性分析における上記の1% Fos-Choline 12可溶性膜抽出物を、Ni-NTA PhyTipカラム(Phynexus, San Jose, CA)に流し、50mM イミダゾールと0.5% Fos-Choline 12を含む未変性の溶解バッファにて洗浄して、250mM イミダゾール及び0.75% Fos-Choline 12を含む溶解バッファにて溶出した。溶出液分画を、還元SDSローディングバッファに再懸濁して、SDS-PAGEにて分析した。SDS PAGEゲルは、分子量47.6kDaの精製したLE.RA1cを示した(データは示さない)。
還元剤及びSDSが存在する場合でも、Gタンパク質カップリングレセプターがオリゴマー形成する、例えば二量体化することが知られている (Bouvier, 2001 , Nature Reviews Neuroscience, 2: 274-286)。ゲルに示される上部バンドは、分子量から判断すると、RA1cの二量体及びオリゴマーであるようである(データは示さない)。N末端タンパク質アミノ酸配列決定によって、精製したタンパク質をLE.RA1cと確認した。
クーマシーブルー染色の後のタンパク質バンドの強度から算出すると、1リットルの振とうフラスコ培養物の全細胞抽出物からおよそ10ミリグラムのtrpLE RA1を単離することができた。
【0144】
LE RA1cのトロンビン切断
RA1cポリペプチドを単離するために、トロンビンを1mM 塩化カルシウムとともに、1:1000の希釈で精製されたRA1c溶出液に加えて、トロンビン酵素活性をもたらすめに、室温に終夜置いた。試料を還元して、調製して、SDS-PAGEによって、分析した。結果として生じたクーマシーブルー染色ゲルにより、挿入したトロンビン切断部位で融合タンパク質が良好に切断され、切断型RA1c融合(37kDa)及びフラッグタグを有するtrpLE(10.6kDa)を含む2つのタンパク質バンドが示された(データは示さない)。切断されたポリペプチドバンドの相同性は、N末端配列決定によって、確認した。
【0145】
実施例9
trpLEリーダーによるGPR73の発現増加
LEヒトGプロテインカップリングレセプター73(hGPR73)のクローニング及び発現
ヒトGプロテインカップリングレセプター73(GPR73)をコードするDNAを、標準的な分子生物学的技術(Ausubel 等 (eds.), 2003, Current Protocols in Molecular Biology, 4 VoIs., John Wiley & Sons)を用いて、β-ラクタマーゼ遺伝子及び3つの稀な大腸菌コドン(argU、glyT及びpro2)のtRNA遺伝子を含有するpBR322由来のプラスミド内にサブクローニングした。図25に示すように、trpLEリーダーの後にフラッグタグ(DYKDDDDK, 配列番号32)を付加し、トロンビン認識部位(ThrX) (LVPRGS, 配列番号31)をGPR73のN末端に付加して、高い翻訳開始、検出及び切断のそれぞれを確認した。オクタ-Hisタグ(配列番号8)をC末端に付加して、発現したタンパク質の検出と精製を促した。結果として生じたプラスミドをpLEfR InFcHrTと称した。実施例8に記載のように、遺伝子転写はtphacプロモーターの制御下とし、リン酸の制限と、およそ2〜3OD600の細胞密度で1mM IPTGを添加することによって、発現を誘導した。飽和したLBカルベニシリン培養物を、C. R. A. P.リン酸制限培地にて希釈した(Simmons 等, 2002, J. Immunol. Methods, 263: 133-147)。次いで、培養物をIPTG添加後6時間、30℃で生育した。
【0146】
発現分析のために、1OD600-mL試料の還元した全細胞溶解物を実施例7に記載のように調整した。5μLのSDS誘導試料を10ウェルの1.0 mm NOVEX 16% トリス-グリシン SDS-PAGEに流し、およそ120ボルトで約1.5時間電気泳動した。ウェスタンブロット分析のために、結果として生じたゲルを、1×トランスファバッファ(Invitrogen, CA)、0.01% SDS、5% メタノール中でニトロセルロースメンブラン(NOVEX)上に電気的にブロットした。次いで、1×NET(150 mM NaCl, 5 mM EDTA, 50mM Tris, pH 7.4, 0.05% Triton X-100)と0.5% ゼラチン溶液を用いて、振とう器上でおよそ30分〜1時間かけて室温でメンブランをブロックした。ブロッキング工程後、抗Hisウェスタンブロット分析のために、メンブランを、1×NET、0.5% ゼラチン、抗His抗体(Roche Diagnosticsの抗his6ペルオキシダーゼコンジュゲートマウスモノクローナル抗体)を含む溶液に置いた。抗His抗体を1:5000に希釈して、メンブランを1×NETにて10分間、最低3回洗浄して、TBS(20 mM Tris pH 7.5, 500 mM NaCl)にて15分間、1回洗浄した。抗His抗体に結合したタンパク質バンドを、Amersham Pharmacia Biotech ECL検出機を用いて、メンブランをX線フィルムに曝して可視化した。
図25は、コンストラクト線図とtrpLEリーダーを含まないGPR73の発現結果と比較したときの発現結果を示す。ウエスタンブロットは、trpLEリーダーのないものよりもLE.GPR73レベルの発現及び収率の大幅な改善を示した。
【0147】
LEヒトGプロテインカップリングレセプター73の膜タンパク質の抽出
trpLE融合GPR73の溶解性を分析するために、細胞性の膜からタンパク質を抽出して、実施例7及び8のLE.CD20及びLE.RA1cの類似の分析のために上記のように分析した。可溶タンパク質を含有する上清(上清1)から、膜タンパク質(ペレット1)を分離した。次いで、ペレット1をFos- choline 12で抽出して、ミセルの膜タンパク質(上清2)を不溶性タンパク質(ペレット2)から分離した。
ペレット及び上清は還元型SDSローディングバッファにて等量に再懸濁して、西洋ワサビペルオキシダーゼコンジュゲート抗His抗体(Roche Applied Science, Indianapolis, IN)でプローブしたニトロセルロース膜によるイムノブロット及びSDS-PAGEによって、分析した。免疫ブロット(図27)に示されるように、大腸菌細胞膜からほぼ完全にGPR73タンパク質が抽出されたことが観察された。
【0148】
LEヒトGプロテインカップリングレセプター73の密度勾配遠心分離
実施例7及び8の記載のように、遠心チューブにおいて、150 mM NaCl及び20 mM HEPES, pH 7.2により緩衝した1.9M及び1.4Mのショ糖溶液を重ねることによって、不連続なショ糖勾配を生成し、大腸菌膜分画の分離に用いた。LE.GPR73タンパク質を発現する細胞を未変性の溶解バッファに溶解した。膜及び不溶性の分画を、超遠心分離ローターTLA100.3 (Beckman, Fullerton, CA)を用いて391000×gにて1時間超遠心分離することによって、単離した。上清を廃棄して、ペレットを1.9Mのショ糖溶液に再懸濁した。100μLの分割量の再懸濁液を0.9mLの1.9M ショ糖溶液と再び混合した。次いで、この混合物を遠心チューブの底に置き、1mLの1.4M ショ糖溶液を上に重ねた。試料をSWTi55ローターに詰めて、128356×gで1時間回転させた。次いで、分画化した試料を、チューブの上部から200μLずつ慎重に取り分け(unload)て、ニトロセルロースメンブランに転写して、西洋ワサビペルオキシダーゼコンジュゲート抗His抗体でプローブしたSDS-PAGEによって、分析した。結果から、大部分のtrpLE融合GPR73タンパク質が大腸菌膜に挿入されていることが示された(データは示さない)。
【0149】
LEヒトGプロテインカップリングレセプター73のタンパク質単離
LE.GPR73タンパク質を単離するために、上記の溶解性分析の1% Fos-Choline 12可溶性膜抽出物を、Ni-NTA PhyTipカラム(Phynexus, CA)に流し、50mM イミダゾールと0.5% Fos-Choline 12を含む未変性の溶解バッファにて洗浄して、250mM イミダゾール及び0.75% Fos-Choline 12を含む溶解バッファにて溶出した。溶出液分画の試料を、還元SDSローディングバッファに再懸濁して、SDS-PAGEにて分析した。結果として生じたゲルは、分子量56.5kDaの精製したGPR73を示した(データは示さない)。N末端配列決定によって、精製したタンパク質の相同性を確認した。タンパク質収率の算出から、1リットルの振とうフラスコ培養物の全細胞抽出物からおよそ2〜3ミリグラムのtrpLE GPR73を単離することができたことが示された。
【0150】
LEヒトGプロテインカップリングレセプター73のトロンビン切断
GPR73タンパク質は、挿入されたトロンビン切断部位で融合タンパク質から切断された。トロンビンを1mM 塩化カルシウムとともに、1:1000の希釈で精製されたGPR73溶出液に加えて、酵素活性をもたらすめに、室温に終夜置いた。切断されたタンパク質の試料をSDSで還元して、SDS-PAGEにて分析したクーマシーブルーで染色したゲルにより、挿入した部位で融合タンパク質が良好に切断された結果生じた、切断型GPR73(45.9kDa)とフラッグタグを有するtrpLE(10.6kDa)を含む2つのタンパク質バンドが示された(データは示さない)。切断されたタンパク質の相同性をN末端配列決定によって確認した。
【0151】
実施例10
膜タンパク質の精製
LE及びsLEタグ付加ヒトCD20の精製:
実施例7、8及び9に記載のように大腸菌内で産生されるLE及びsLEタンパク質を単離するために、ポリトロン(Brinkmann, Westbury, NY )を用いて全細胞を1:10wt/volで溶解バッファ(20 mM Tris, pH 7.5, 300 mM NaCl and 1 mM EDTA)に再懸濁することによって、膜分画を調製した。次いで、マイクロフルイダイザー(Microfluidics Corp., Newton, MA)を用いて細胞破壊することによって、細胞を溶解し、混合物を12,000×gで1時間遠心分離した。次いで、細胞ペレット(P1)を、ポリトロンを用いて、β-メルカプトエタノールの存在下又は非存在下にて、EDTAを含まない溶解バッファに再懸濁した。ドデシルホスホコリン(DDPC, Fos-CholineR 12)を1%の濃度で添加して、試料をマイクロフルイダイザーに1〜3回通した。溶液を125000×gでおよそ45分〜1時間、遠心分離した。上清を、バッファ(20 mM Tris, pH 7.5, 250-300 mM NaCl及び5 mM DDPCないし0.1 % n-ドデシル-N,N-ジメチルアミン- N-オキシド(LDAO))中で予め平衡化したNi-NTA Superflow (Qiagen Inc. Valencia, CA)カラムに流した。50mM イミダゾールを含む10CVの同バッファにてカラムを洗浄して、250〜300mM イミダゾールを含む同バッファにて溶出した。カラム負荷によるすべての精製工程は4℃で行った。
還元剤の存在下にて精製したタンパク質は単量体として膜のみから単離された(データは示さない)。還元剤の非存在下で単離したタンパク質は、単量体型及びジスルフィド結合した二量体型の両方で存在した。
【0152】
二量体タンパク質を単量体型に変換するために、CD20を、β-メルカプトエタノール又はDTTの添加によって還元した。還元剤は、還元剤を含まない界面活性剤、20 mM Tris pH 8.0, 300 mM NaClを含有するバッファによって、複数回透析することによって、除去するか、酸化型DTT又は酸化型グルタチオンなどの酸化型還元剤の添加によって、中和した。
Hisタグ及びLEないしsLEリーダーをウシのトロンビンとともにインキュベートすることによって、タンパク質から切断した。任意の残存する二量体、リーダー(LEないしsLE)及びHisタグから単量体のCD20を単離するために、20 mM Tris, pH 7.5, 300 mM NaCl, 及び5 mM DDPCないし0.1 % n-ドデシル-N,N-ジメチルアミン-N-オキシド(LDAO)にて予め平衡化したSuperdex 200 カラム(Amersham Biosciences, Piscataway, NJ)に切断したタンパク質を流した。サイズ排除カラムからの分画を回収し、ゲルクロマトグラフィによって、分析して、精製したタンパク質の位置を示した。精製したタンパク質を後述する結合アッセイに用いた。
【0153】
ELISAによる活性アッセイ:
LE及びsLE配列の存在下及び非存在下で発現されたヒトCD20ポリペプチドの抗体リツキシマブ結合能によって、発現されたCD20タンパク質の機能的な完全性を評価した。リツキシマブは、システイン残基167と183との間の天然のジスルフィド結合が形成されているヒトCD20の折り畳まれた(フォールドされた)高次構造のみを認識する。リツキシマブに対するヒトCD20結合のELISAアッセイを用いてCD20の天然の再折り畳み(リフォールディング)をアッセイした。
精製したCD20タンパク質をELISAによって、アッセイした。1μg/mLのCD20を含有するPBS(臨界ミセル濃度以下に希釈された可溶化界面活性剤を含有する)100μL(マイクロリットル)を用いて、96ウェルプレートを終夜4℃でコートした。次いで、プレートを0.05% Tween-20を含有するPBS(PBST)にて3回洗浄し、200μLの0.5% BSAを含有するPBST(ブロッキングバッファ及びアッセイバッファ)にて室温で45分間ブロックした。プレートを再度PBSTにて3回洗浄した後、一次抗体でプローブした。60μg/mLのリツキシマブを含むアッセイバッファ150μLを適当なウェルに添加し、第一のウェルから50μLを取り出し、次のウェルと第三のウェルに100μLのアッセイバッファとともに混合して、およそ2ng/mLの終濃度とすることによって、第三のウェルに3倍の段階希釈液を作成した。室温で90分間インキュベートした後、プレートをPBSTで洗浄して、結合したリツキシマブを、アッセイバッファで1:2000に希釈した100μLの西洋ワサビペルオキシダーゼコンジュゲートヤギ抗ヒトF(ab')2(Jackson ImmunoResearch Laboratories Inc, West Grove,n PA)で検出して、PBSTにて6回洗浄して、製造者の指示に従って混合した100μL/ウェルのTMB Microwell Peroxidase Substrate System (KPL, Gaithersburg, MD)にて反応させた。100μL/ウェルの1.0M リン酸を添加して反応を止め、450nmの吸光度をプレート読み取り機を用いて測定した。
図28は結合アッセイの結果を示す。この図では、LEないしsLE配列の非存在下で発現したヒトCD20へのリツキシマブ結合の反応を、LEないしsLEリーダーの存在下で発現したヒトCD20及び様々な条件下で単離されたCD20と比較した。各々のヒトLE.CD20及びsLE.CD20ポリペプチドは、コントロールであるヒトCD20と類似の、高次構造-特異的な抗体であるリツキシマブへの結合を示した。
【図面の簡単な説明】
【0154】
【図1】B細胞膜に存在するCD20の略図。細胞表面膜との関係で、CD20の予測される全体のトポロジー及び配列を表す。
【図2】Hisタグ付加CD20の抗Hisタグウェスタンブロット分析。パネルaは大腸菌細胞膜のショ糖勾配浮遊液に従ったCD20含有分画を示す。ショ糖勾配からの分画(上の番号で表す)の分割量をSDS-PAGEゲルに電気泳動した。ゲルはブロットして抗His抗体でプローブした。分画は最も低いショ糖密度から最も高いショ糖密度までである。パネルbは、異なる界面活性剤によって大腸菌膜を抽出した後のウェスタンブロットによるHisタグ付加CD20のレベルを示す。異なる界面活性剤抽出物の上清を(S)とラベルし、ペレットを(P)とラベルした。(WC)は全細胞抽出物(コントロール)を意味する。番号1−7は試験した異なる界面活性剤を意味し、SDS (1)、n-ラウリルサルコシン(2)、n-ドデシル-N,N-ジメチルアミン-N-オキシド(LADO) (3)、n-ドデシルホスホコリン(DDPC) (4)、n-ドデシル-D-D-マルトシド(DDM) (5)、Triton-X 100 (6)、及びCHAPS (7)である。パネルcは、Hisタグ付加天然のヒトCD20とC2S変異体CD20を発現する大腸菌細胞について、抗Hisタグ抗体を用いたウェスタンブロットから検出されるHisタグ付加CD20ポリペプチドのレベルを示す。レーン1及び4は、コントロール(空のベクター)を含有する;レーン2及び5は、Hisタグ付加ヒトCD20を含有する;そして、レーン3及び6はC2S変異体CD20を含有する。レーン1、2及び3の試料は、非還元条件で行った;レーン4、5及び6の試料は、100mM DTTで還元した。各レーンは、光学濃度で標準化した等量の細胞を含有する。
【図3】精製したヒトHisタグ付加ヒトCD20、C2S変異体及びマウスCD20のクーマシー染色したSDSゲルレーンを示す。パネルaのレーン1、2及び3は非還元タンパク質である:ヒトCD20(レーン1)、C2S変異体(レーン2)及びマウスCD20(レーン3)。レーン4は、分子量マーカー(Mark 12, Invitrogen)を含有する。レーン5、6及び7は還元タンパク質である:ヒトCD20(レーン5)、C2S変異体(レーン6)及びマウスCD20(レーン7)。レーン8と10は、それぞれ非還元型と還元型のマウスCD20を示す。レーン9は分子量マーカーを含有する。各レーンは、2μg(マイクログラム)のタンパク質を含有する。タンパク質マーカーの分子量は、200、116、97、66、55、36、30、22、14及び6kDaである。
【図4】Hisタグ付加ヒトCD20(■)、還元してアルキル化したhCD20(●)、還元して再酸化したhCD20(□)及びPBSコントロール(○)へのジスルフィド依存性のリツキシマブ抗体結合を示すグラフ。
【図5】リツキシマブとヒトHisタグ付加CD20との間の結合を示すBIAcoreセンサーグラム。固定したリツキシマブへのヒトCD20の結合は、5μM、2.5μM、1.25μM、0.63μM、0.31μM、0.16μM、0.08μM、及び0.04μMのCD20濃度で生じる。初めの4つの試料の濃度をセンサーグラムにラベルした。各濃度での非共作用可能のモデルへの算出した理論的なフィットを示す。
【図6】CD20タンパク質の遠紫外線の円二色性スペクトルを示す。上方のパネルは、0.1% DDPC存在下でのヒトCD20変異体C2S(黒色線);0.1% DDPC及び10mM β-メルカプトエタノール存在下でのヒトCD20変異体C2S(波線)、そして1% SDS存在下で95℃にサーマルスキャンした後のヒトCD20変異体C2S(点線)のスペクトルを示す。下方のパネルは、0.1% DDPCの存在下でのマウスCD20(波線)、0.1% ドデシル-マルトシド(DDM)の存在下でのマウスCD20(点線);及び、1% SDS及びβ-メルカプトエタノールを添加した0.1% DDM中で95℃で2分間熱した後のマウスCD20(黒色線)のスペクトルを示す。データをモル楕円率として表す。
【図7】単離した正常ヒトB細胞へのリツキシマブ IgG及びFabの結合の典型的な置換ブロットを示す。本アッセイでの天然のCD20のEC50は9.5nMであった。ドナー1については125I-IgGに対する非標識リツキシマブIgGの競合(上方パネル)又はドナー4については125I-Fabに対する非標識リツキシマブFabの競合によって、結合を測定した。各ドナーからのレセプターの数と親和性については表4を参照のこと。
【図8】発現ベクターコンストラクトと、MS4A6A、MS4A7及びMS4A4Aのポリペプチドを含む、大腸菌のMS4Aファミリーポリペプチドの発現を示すウェスタンブロットを示す。
【図9】抗Hisタグ抗体により検出されるように、非誘導型phoAプロモーター(pEfRA1C)と変異体プロモーターであるphac(pEfRA1Cr)からの漏出量により表されるRA1cポリペプチドを示すウェスタンブロット。
【図10】リン酸制限培地に希釈することによって誘導されるphoAプロモーター(pEfRA1C)からのRA1cポリペプチド発現の時間的経過を示すウェスタンブロット。
【図11】リン酸制限培地への希釈及びIPTG添加によって誘導されるphacプロモーター(pEfRA1Cr)からのRA1cポリペプチド発現の時間的経過を示すウェスタンブロット。
【図12】誘導型phoA及びphacプロモーターからのRA1cの最大の発現を比較するウェスタンブロット。
【図13】非誘導型phoAプロモーター(真ん中のレーン)と変異体プロモーターであるphac(右側のレーン)からの漏出量により表される、大腸菌内で発現されたEG-VEGFレセプターであるGPR73ポリペプチドを示すウェスタンブロット。
【図14】リン酸制限培地に希釈することによって誘導されるphoAプロモーターからのGPR73ポリペプチド発現の時間的経過を示すウェスタンブロット。
【図15】リン酸制限培地への希釈及びIPTG添加によって誘導されるphacプロモーターからのGPR73ポリペプチド発現の時間的経過を示すウェスタンブロット。
【図16】誘導型phoA及びphacプロモーターからのGPR73の最大の発現を比較するウェスタンブロット。
【図17】非誘導型phoAプロモーター(真ん中のレーン)と変異体プロモーターであるphac(右側のレーン)からの漏出量により表される、MS4A4Aポリペプチドを示すウェスタンブロット。
【図18】リン酸制限培地に希釈することによって誘導されるphoAプロモーターからのMS4A4Aポリペプチド発現の時間的経過を示すウェスタンブロット。
【図19】リン酸制限培地への希釈及びIPTG添加によって誘導されるtphacプロモーターからのMS4A4Aポリペプチド発現の時間的経過を示すウェスタンブロット。
【図20】誘導型phoA及びtphacプロモーターからのMS4A4Aの最大の発現を比較するウェスタンブロット。
【図21】多膜貫通型ポリペプチドを発現するための発現コンストラクトの略図。発現ベクターの例示的成分を示す。
【図22】trpLE及びsLEリーダーのアミノ酸配列。
【図23】CD20の発現のための発現ベクターの線図と、大腸菌細胞におけるCD20とLE.CD20の発現と産生を示すクーマシーブルー染色ゲル。
【図24】大腸菌細胞内で発現されるLE.CD20の抽出を示すウェスタンブロットとクーマシーブルー染色ゲル。
【図25】RA1c又はGPR73を発現するための発現ベクターの線図と、コントロールタンパク質と比較したときのLE.RA1cとLE.GPR73の発現を示すウェスタンブロット。
【図26】大腸菌細胞膜で発現し抽出されたLE.RA1cタンパク質を示すクーマシーブルー染色ゲル。
【図27】大腸菌細胞膜から抽出されたLE.GPR73を示すウェスタンブロット。
【図28】実施例10に記載のように大腸菌内で発現して抽出されたLE.CD20及びsLE.CD20へのCD20高次構造特異的抗体であるリツキシマブの結合を示すグラフ。sLEとLEの試料については、トロンビンによる消化によってLEタグを除去し、透析によって試料を酸化した。□;LEタグにより発現されたhCD20、△;sLEタグにより発現されたhCD20、●;HQタグ(LEリーダー上)により発現されたhCD20、×;PBSコントロール。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a) 単一又は多膜貫通型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
b) 宿主細胞内で基礎活性が低い、厳密に調節されるプロモーター;
c) 翻訳開始エンハンサーを含有するリーダー配列
を含んでなる、宿主細胞内で単一又は多膜貫通型ポリペプチドを発現するための発現コンストラクト。
【請求項2】
前記プロモーターは、
a) 少なくとも一のポジティブ制御調節成分;
b) 少なくとも一のネガティブ制御調節成分;又は
c) 少なくとも一のポジティブ制御調節成分と少なくとも一のネガティブ制御調節成分
を含んでなり、一又は複数のポジティブ又はネガティブの制御調節成分が異種性の制御調節成分である、請求項1に記載の発現コンストラクト。
【請求項3】
前記ポジティブ調節成分がphoボックス、MalT DNA結合部位、又はAraC DNA結合部位である、請求項2に記載の発現コンストラクト。
【請求項4】
前記ネガティブ調節成分がオペレーター/レプレッサー系の細菌のオペレーターを含む、請求項2又は3に記載の発現コンストラクト。
【請求項5】
前記ネガティブ調節成分がlacオペレーター、trpオペレーター、又はλオペレーターを含んでなる、請求項2ないし4の何れか一に記載の発現コンストラクト。
【請求項6】
前記ポジティブ調節成分がphoボックスを含み、前記ネガティブ調節成分がlacオペレーターを含む、請求項2に記載の発現コンストラクト。
【請求項7】
さらに、上流プロモーターからの読み過ごしを防ぐために配位する一又は複数の転写ターミネーターを含んでなる、請求項1ないし6の何れか一に記載の発現コンストラクト。
【請求項8】
前記転写ターミネーターがλ配列:AACG CTCGGTTGCC GCCGGGCGTT TTTTATT (配列番号17)、又はHisオペロンターミネーターを含んでなる、請求項7に記載の発現コンストラクト。
【請求項9】
前記プロモーターが、
a) phoA、phac、又はtphacプロモーター;
b) T7、metE、又はλPLプロモーター;又は
c) β-ラクタマーゼ、ラクトース、又はトリプトファンプロモーター
を含んでなり、少なくとも一の異種性制御調節成分を含有するように操作して、基礎活性を低減したものである、請求項1ないし8の何れか一に記載の発現コンストラクト。
【請求項10】
前記プロモーターがphoAプロモーターないしはその変異体であり、このとき、リン酸制限培地に曝すことによって発現が誘導される、請求項9に記載の発現コンストラクト。
【請求項11】
前記プロモーターが配列番号15(phac)又は配列番号16(tphac)のアミノ酸配列を含んでなる、請求項9に記載の発現コンストラクト。
【請求項12】
前記翻訳開始エンハンサーが、宿主細胞内で高く発現される遺伝子のおよそはじめの6からおよそ12コドンを含んでなるものである、請求項1ないし11の何れか一に記載の発現コンストラクト。
【請求項13】
前記翻訳開始エンハンサーが、βガラクトシダーゼ、プロテインA、又はグルタチオン-S-トランスフェラーゼをコードする遺伝子のおよそはじめの6からおよそ12コドンを含んでなるものである、請求項1ないし12の何れか一に記載の発現コンストラクト。
【請求項14】
前記翻訳開始エンハンサーが、ATGGGCAGCAGCCATCATCATCATCATCAT(配列番号34)、ATGAAAGCAATTTTCGTACTGAAAGGTTCA(配列番号35)及びATG AAACAC CAACACCAACAA(配列番号28)からなる群から選択されるヌクレオチド配列を含んでなる、請求項1ないし13の何れか一に記載の発現コンストラクト。
【請求項15】
前記リーダー配列がアミノ酸配列MKHQHQQ (配列番号7)をコードする、請求項16に記載の発現コンストラクト。
【請求項16】
前記翻訳開始エンハンサーが、単一又は多膜貫通型ポリペプチドの第一アミノ酸をコードするコドンの上流に位置する、請求項12ないし15の何れか一に記載の発現コンストラクト。
【請求項17】
さらに、前記リーダー配列が翻訳伸長スペーサー配列を含んでなる、請求項1ないし16の何れか一に記載の発現コンストラクト。
【請求項18】
前記翻訳伸長スペーサー配列が、宿主細胞内で高度に発現されることが公知である遺伝子の少なくとも一部を含んでなる、請求項17に記載の発現コンストラクト。
【請求項19】
前記宿主細胞が細菌細胞であり、前記翻訳伸長スペーサー配列が、高度に発現される細菌遺伝子のおよそ50からおよそ120のコドンを含有するものである、請求項17に記載の発現コンストラクト。
【請求項20】
前記宿主細胞が細菌細胞であり、前記翻訳伸長スペーサー配列が、trpオペロンのE遺伝子のおよそ50からおよそ120のコドンを含有するものである、請求項17に記載の発現コンストラクト。
【請求項21】
前記宿主細胞が細菌細胞であり、前記翻訳伸長スペーサー配列が、配列番号29又は30のアミノ酸配列をコードする、請求項17に記載の発現コンストラクト。
【請求項22】
前記膜貫通型ポリペプチドが1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、又は24の膜貫通領域を含有する、請求項1ないし21の何れか一に記載の発現コンストラクト。
【請求項23】
前記膜貫通型ポリペプチドが4つの膜貫通領域を有するMS4A遺伝子ファミリーのメンバーである、請求項1ないし22の何れか一に記載の発現コンストラクト。
【請求項24】
前記膜貫通型ポリペプチドが、CD20、高親和性IgEレセプターβ鎖(FcεRIβ)、HTm4、MS4A4A、MS4A6、MS4A7、GPR73、又はRA1cを含んでなる、請求項1ないし22の何れか一に記載の発現コンストラクト。
【請求項25】
前記膜貫通型ポリペプチドが、配列番号1に少なくとも80%同一性を含むアミノ酸配列を有するCD20である、請求項1ないし22の何れか一に記載の発現コンストラクト。
【請求項26】
前記CD20が残基Cys111、Cys220、又はその両方にアミノ酸置換を含有する、請求項25に記載の発現コンストラクト。
【請求項27】
アミノ酸置換が残基Cys111Ser、Cys220Ser、又はその両方を含む、請求項26に記載の発現コンストラクト。
【請求項28】
前記CD20がアミノ酸置換Cys81Ala、Cys111Ser及びCys220Serを含有する、請求項25に記載の発現コンストラクト。
【請求項29】
前記ポリヌクレオチドが配列番号6のアミノ酸配列をコードする、請求項25に記載の発現コンストラクト。
【請求項30】
配列番号1の残基K116からN214を含有するCD20の断片をコードする、請求項1ないし22の何れか一に記載の発現コンストラクト。
【請求項31】
さらに、発現タグをコードする核酸配列を含んでなる、請求項1ないし30の何れか一に記載の発現コンストラクト。
【請求項32】
前記発現タグがポリHisタグ又はHisGlnタグを含む、請求項31に記載の発現コンストラクト。
【請求項33】
前記宿主細胞が細菌細胞であり、前記発現コンストラクトが細菌細胞の稀なコドンをコードする一又は複数のtRNA遺伝子をさらに含有してなる、請求項1ないし22の何れか一に記載の発現コンストラクト。
【請求項34】
前記細胞が大腸菌細胞であり、稀なコドンのための前記tRNA遺伝子が一又は複数のargU、glyT及びpro2を含む、請求項33に記載の発現コンストラクト。
【請求項35】
a) 宿主細胞に請求項1ないし34の何れか一に記載の発現コンストラクトを導入する;そして
b) 該宿主細胞内でコンストラクトを発現させて、膜貫通型ポリペプチドを産生する
ことを含む、膜貫通型ポリペプチドの産生方法。
【請求項36】
a) 前記ポリペプチドを発現する宿主細胞を破壊する;
b) 該破壊細胞の可溶性分画と不溶性分画を分離する;そして
c) 非イオン又は双性イオンの界面活性剤に不溶性分画を懸濁して可溶化し、該宿主細胞から前記ポリペプチドを単離する
ことをさらに含む、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
a) 膜貫通型ポリペプチドを発現する宿主細胞を破壊する;
b) 該破壊細胞の可溶性分画と不溶性分画を分離する;そして
c) 非イオン又は双性イオンの界面活性剤に不溶性分画を懸濁して可溶化し、該宿主細胞から該ポリペプチドを単離する
ことを含む、宿主細胞からの発現された膜貫通型ポリペプチドの単離方法。
【請求項38】
前記膜貫通型ポリペプチドが、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、又は24の膜貫通領域を含有する、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記宿主細胞が請求項1ないし38の何れか一に記載の発現コンストラクトを含んでなる、請求項37又は38に記載の方法。
【請求項40】
前記単離されたポリペプチドが天然の高次構造である、請求項36ないし39の何れか一に記載の方法。
【請求項41】
前記界面活性剤が、
a) zwittergent(登録商標) 3-08、3-10、3-12、3-16、ASB-14、ASB-16、又はASBC80;
b) ホスホコリンの誘導体;
c) ドデシルホスホコリン(DDPC)、デシルマルトシド(decylmaltoside)(DDM)、デシルマルトシド(decyl maltoside)(DM)、n-ドデシル-N,N―ジメチルアミンN-オキシド(LADO)、n-デシル-N,N-ジメチルアミン-N-オキシド、DHPC、DLPC、MPC、LOPC、LLPG;
d) NP40
を含む、請求項36ないし40の何れか一に記載の方法。
【請求項42】
前記ポリペプチドがショ糖密度勾配遠心分離によって単離される、請求項36ないし41の何れか一に記載の方法。
【請求項43】
さらに、クロマトグラフィ、ゲル濾過又は沈殿法によって可溶化されたポリペプチドを精製することを含む、請求項36ないし42の何れか一に記載の方法。
【請求項44】
前記クロマトグラフィが、カラムクロマトグラフィ、親和性クロマトグラフィ、金属キレート化クロマトグラフィ、HPLC、陽イオン交換クロマトグラフィ又はクロマトフォーカシングを含む、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記宿主細胞が細菌細胞を含む、請求項35ないし44の何れか一に記載の方法。
【請求項46】
前記細菌細胞がグラム陰性細菌を含む、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記宿主細胞が、大腸菌属、サルモネラ属、赤痢菌属、セラチア属、クレブシエラ属、又はエンテロバクター属の細胞を含む、請求項35ないし46の何れか一に記載の方法。
【請求項48】
一又は複数の異種性ネガティブ調節成分を含んでなる、変異体phoAプロモーター。
【請求項49】
前記異種性ネガティブ制御調節成分がlacオペレーターを含む、請求項48に記載の変異体phoAプロモーター。
【請求項50】
さらに、上流プロモーターからの読み過ごしを防ぐために配位する一又は複数の異種性の転写ターミネーターを含んでなる、請求項48又は49に記載の変異体phoAプロモーター。
【請求項51】
配列番号15(phac)又は配列番号16(tphac)の核酸配列を含んでなる変異体phoAプロモーター。
【請求項52】
請求項1ないし34の何れか一に記載の発現コンストラクトを含んでなる細菌細胞。
【請求項53】
請求項35ないし47の何れか一に記載の方法によって産生されたか単離されたポリペプチド。
【請求項54】
請求項1ないし34の何れか一に記載の発現コンストラクトから発現されたポリペプチド。
【請求項55】
配列番号1に少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列を含んでなり、一又は複数の残基Cys81、Cys111及びCys220が置換される、ポリペプチド。
【請求項56】
Cys111、Cys220又はその両方がセリンに置換される、請求項55に記載のポリペプチド。
【請求項57】
Cys81がアラニンに置換される、請求項55又は56に記載のポリペプチド。
【請求項58】
配列番号6のアミノ酸配列を含んでなる、請求項55に記載のポリペプチド。
【請求項59】
天然の高次構造を有する、単離された可溶性の組み換えCD20ポリペプチド。
【請求項60】
請求項55ないし58の何れか一に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列。
【請求項61】
a) 請求項53ないし59の何れか一に記載のポリペプチドを宿主動物に接種する;そして
b) 該宿主動物から該ポリペプチドを結合する抗体を回収する
ことを含む、単一又は多膜貫通型ポリペプチドを結合する抗体の産生方法。
【請求項62】
a) 請求項55ないし59の何れか一に記載のポリペプチドを宿主動物に接種する;そして
b) 該宿主動物からB細胞上で発現されるCD20を結合する抗体を回収する
ことを含む、抗CD20抗体の産生方法。
【請求項63】
a) 請求項53ないし59の何れか一に記載のポリペプチドに結合する抗体を分析する;そして
b) ポリペプチドへの結合が膜ポリペプチド-結合抗体の検出と相関する
ことを含む、少なくとも4つの膜貫通型セグメントを含有する膜ポリペプチドへの抗体の結合を検出する方法。
【請求項64】
a) 請求項55ないし59の何れか一に記載のポリペプチドに結合するリガンドを分析する;そして
b) ポリペプチドへの結合がCD20結合リガンドの検出と相関する
ことを含む、CD20へのリガンドの結合を検出する方法。
【請求項65】
前記リガンドが抗体ないし抗体断片を含む、請求項64に記載の方法。
【請求項66】
前記リガンドが親和性成熟抗体を含む、請求項64に記載の方法。
【請求項67】
分析する抗体結合ないしリガンド結合がELISAアッセイを含む、請求項63ないし66の何れか一に記載の方法。
【請求項68】
請求項53ないし59の何れか一に記載の固定化されたポリペプチドを含んでなるアッセイ表面。
【請求項69】
前記表面が、マイクロタイタープレート、クロマトグラフィ樹脂、バイオセンサーチップ、又は流動化されたアッセイカードを含む、請求項68に記載のアッセイ表面。
【請求項70】
膜貫通型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを細菌細胞内で発現させることを含み、該発現が請求項48ないし51の何れか一に記載のプロモーターの調節下にある、細菌細胞内で膜貫通型ポリペプチドを発現する方法。
【請求項71】
前記プロモーターが活性化されて、3時間未満の持続時間の間、2時間未満の持続時間の間、又は1から2時間の範囲の持続時間の間、前記ポリペプチドを発現する、請求項70に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【公表番号】特表2008−525041(P2008−525041A)
【公表日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−548623(P2007−548623)
【出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【国際出願番号】PCT/US2005/047653
【国際公開番号】WO2006/069403
【国際公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(596168317)ジェネンテック・インコーポレーテッド (372)
【氏名又は名称原語表記】GENENTECH,INC.
【Fターム(参考)】