説明

可溶成分含有シリカ、可溶成分含有ケイ酸塩、及び多孔性シリカの製造方法

【課題】 多孔性シリカの細孔構造を、ミクロからマクロ孔までの幅広い範囲で、簡単に、短時間で制御することができる製造方法を提供すること。
【解決手段】 3N酢酸水溶液150gに、シリカ濃度10wt%に希釈した市販の3号ケイ酸ナトリウム水溶液を、20℃の下で徐々に滴下してケイ酸ゾルを得た。次に、このケイ酸ゾルを瞬時に乾燥させ、乾燥品を15g回収した。そして、噴霧乾燥品を水洗乾燥し、酢酸ナトリウムを除くことで、多孔性シリカを製造した。この多孔性シリカの窒素吸着測定による比表面積は721m2/g、ミクロ孔容積0.30ml/g、メソ孔容量0.12ml/gであった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、クロマト機器、医薬品の精製、触媒の担体等に用いられる多孔性シリカの製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでは、多孔性シリカの代表であるシリカゲルは,通常、ケイ酸ナトリウムと酸とによりシリカヒドロゲルを生成し,水洗後乾燥して製造されてきた。このとき、反応温度、ケイ酸ナトリウム及び酸の濃度、反応後の熟成条件、乾燥条件等を制御することにより、シリカ一次粒子の粒径と集合状態を制御して細孔径をコントロールすることができる。
【0003】
また、メソ孔を有する多孔性シリカの製造については、セチルトリメチルアンモニウムブロマイドなどのカチオン系界面活性剤の存在下でシリカを生成させ、界面活性剤分子の集合体をテンプレートとして多孔性シリカを製造する方法が考案されている。この場合、細孔径は用いる界面活性剤分子のサイズによって異なり、メソ孔領域で細孔径の揃ったシリカを調製することができる(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−321219号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし,これまでの技術では、多孔性シリカの、ミクロからマクロ孔までの広範囲にわたる細孔構造を簡便な方法で制御することは難しかった。
本発明は以上の点に鑑みなされたものであり、多孔性シリカの細孔構造を、ミクロからマクロ孔までの幅広い範囲で、簡単に、短時間で制御することができる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、凝集抑制剤を含むケイ酸ゾルを瞬時に乾燥させることによる可溶成分含有シリカの製造方法を要旨とする。
本発明では、凝集抑制剤を含むケイ酸ゾルを瞬時に乾燥させることにより、可溶成分含有シリカを製造する。本発明では、ケイ酸ゾルに含まれる凝集抑制剤が、ケイ酸ゾルを瞬時に乾燥させてシリカを形成するときに、シリカゾル一次粒子の凝集を抑える。つまり、シリカゾル生成初期におけるシリカ粒子は粒径数nm程度であるが、凝集抑制剤が、乾燥時のシリカ一次粒子同士の間に入り込み、強く凝集することを防ぐ。そのため、本発明で製造された可溶成分含有シリカは、シリカ粒子の間に、凝集抑制剤が入り込み、可溶成分として存在する構造を有している。
【0006】
凝集抑制剤としては、ケイ酸ゾルに可溶でかつ、直ちにゲル化あるいは白濁させない濃度範囲であり,かつ乾燥条件下でシリカ粒子中に固体として残留する融点あるいは分解点を有するものが好ましい。そのような凝集抑制剤として、例えば、塩、可溶性有機化合物が挙げられる。塩としては、例えば、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の塩化物、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム等の硫酸塩、硝酸リチウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム等の硝酸塩、燐酸リチウム、燐酸ナトリウム、燐酸カリウム等のリン酸塩等が使用できる。また、可溶性有機化合物としては、例えば、例えば、リンゴ酸、クエン酸、トリカルバリン酸等が使用できる。
【0007】
本発明で製造した可溶成分含有シリカから、凝集抑制剤を除けば、凝集抑制剤の抜けた後に、ミクロ〜メソ孔が生じる。従って、本発明によれば、ミクロ〜メソ孔構造を有する多孔性シリカを容易に製造することができる。また、凝集抑制剤の種類、濃度などの条件を設定することにより、多孔性シリカの細孔構造を、ミクロからマクロ孔までの幅広い範囲で、簡単に、短時間で制御することができる。
【0008】
本発明で製造した可溶成分含有シリカから、凝集抑制剤を除く方法としては、例えば、水洗、又は焼成の方法がある。水洗の場合、多孔性シリカを再度乾燥する方法は特に限定されないが,凝集を抑制するためには超臨界乾燥が有効である。凝集抑制剤が有機化合物の場合は,600℃程度の焼成により除去することができる。
【0009】
本発明において、瞬時に乾燥させる前のケイ酸ゾルにおけるシリカ濃度は、10wt%以下、好ましくは3〜8wt%程度が、ゲル化しにくいので好ましい。
凝集抑制剤を含むケイ酸ゾルを製造する方法としては、凝集抑制剤が塩及び/又は可溶性有機化合物である場合は、ケイ酸アルカリ水溶液と酸とを混合する方法がある。この方法によれば、ケイ酸アルカリと酸との中和反応により、塩を生じさせることができる。生じた塩は、ケイ酸ゾルに溶解している。
【0010】
ケイ酸アルカリ水溶液としては、例えば、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸リチウム、ケイ酸アンモニウム等が挙げられる。ケイ酸アルカリ水溶液の濃度は、SiO2に換算した濃度で5〜25wt%の範囲が好ましく、特に7〜18wt%の範囲が好ましい。
【0011】
また、上記の方法に用いる酸は、有機酸であっても無機酸であってもよい。有機酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸等のモノカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、リンゴ酸等のジカルボン酸、トリカルバリン酸、クエン酸等のトリカルボン酸等を用いることができる。特に、ギ酸,酢酸等の低融点の有機酸は、ケイ酸アルカリ中のアルカリと反応してカルボン酸塩を生成するため、乾燥条件下でもシリカ中に残存し,凝集抑制剤として機能するので好ましい。無機酸としては、塩酸,硫酸,硝酸,燐酸等を用いることができ、これらもケイ酸アルカリ中のアルカリと反応して中和塩を生成し、その中和塩は凝集抑制剤として機能する。酸の濃度は、次のような条件を満たす範囲が好ましい。すなわち、ケイ酸アルカリ中のアルカリ含有量(規定度)をXとし、混合する酸の規定度をYとしたとき、Y/Xの比率が0.5〜5(好ましくは1〜2)となるような濃度が好ましい。
【0012】
上記のケイ酸アルカリ水溶液と酸とを混合する方法において、ケイ酸アルカリ水溶液及び/又は酸に予め塩を加えておくことができる。この場合、予め加えておいた塩は、ケイ酸ゾルが瞬時に乾燥するとき、微結晶となってシリカ粒子間に入り込み、テンプレートとして作用する。塩が入り込んだ可溶物含有シリカを、例えば、水洗、又は焼成することで塩を除けば、塩の抜けた後に、マクロ孔が生じる。従って、この方法によれば、ミクロ〜メソ孔構造に加えて、マクロ孔を有する多孔性シリカを容易に製造することができる。
【0013】
予め加えておく塩としては、例えば、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の塩化物、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム等の硫酸塩、硝酸リチウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム等の硝酸塩、燐酸リチウム、燐酸ナトリウム、燐酸カリウム等のリン酸塩等が使用できる。
【0014】
予め加えておいた塩がテンプレートとして機能し、マクロ孔を生成させるためには、生成塩微結晶がテンプレートとして機能し易いように、塩の濃度を上げるおくことが好ましい。その塩の濃度は、2wt%を下限とし、その塩の溶解度を上限とする範囲が好ましく、その中でも、5wt%以上の範囲が好ましい。尚、アルカリ含有率の高いケイ酸アルカリ水溶液を用いることでも、塩をテンプレートして作用させ、マクロ孔を生成させることができる。
【0015】
凝集抑制剤である塩及び/又は可溶性有機化合物を含むケイ酸ゾルを製造する他の方法としては、ケイ酸アルカリ水溶液を陽イオン交換樹脂又はイオン交換膜により脱アルカリし、塩及び/又は可溶性有機化合物を加えることにより、塩及び/又は可溶性有機化合物を溶解させたケイ酸ゾルを製造する方法がある。
【0016】
この方法で、加える塩及び/又は可溶性有機化合物の融点は、乾燥温度以上であることが好ましい。加える塩としては、例えば、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の塩化物、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム等の硫酸塩、硝酸リチウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム等の硝酸塩、燐酸リチウム、燐酸ナトリウム、燐酸カリウム等のリン酸塩等が使用できる。また、加える有機化合物としては、例えば、リンゴ酸、クエン酸、トリカルバリン酸等が有効である。加える塩及び/又は可溶性有機化合物の濃度は、2wt%を下限とし、その塩及び/又は可溶性有機化合物の溶解度を上限とする範囲が好ましく、その中でも、5wt%以上の範囲が好ましい。
【0017】
本発明において、凝集抑制剤を溶解させたケイ酸ゾルを瞬時に乾燥させる方法としては、凝集抑制剤がシリカ一次粒子同士の間に入り込んだ状態でケイ酸ゾルが乾燥するように、液体を短時間で乾燥できる手法であれば制限なく用いることができる。乾燥方法の例としては、工業的に汎用されている噴霧乾燥法が挙げられる。噴霧乾燥法は各種粉体の造粒法の一つとして利用されている手法である。
【0018】
また、本発明は、凝集抑制剤を含むケイ酸アルカリ水溶液を瞬時に乾燥させることによる可溶成分含有ケイ酸塩の製造方法を要旨とする。
本発明では、凝集抑制剤を含むケイ酸アルカリ水溶液を瞬時に乾燥させることにより、可溶成分含有ケイ酸塩を製造する。本発明では、ケイ酸アルカリ水溶液に含まれる凝集抑制剤が、ケイ酸アルカリ水溶液を瞬時に乾燥させてガラス状ケイ酸塩を形成するときに、ケイ酸塩構造単位の凝集を抑える。つまり、凝集抑制剤が、乾燥時のケイ酸塩構造単位同士の間に入り込み、ガラス構造単位を小さくする作用がある.そのため、本発明で製造された可溶成分含有ケイ酸塩は、ケイ酸塩構造の間に、凝集抑制剤が入り込み、可溶成分として存在する構造を有している。
【0019】
凝集抑制剤としては、ケイ酸アルカリ水溶液に可溶でかつ、直ちにゲル化あるいは白濁させない濃度範囲であり、かつ乾燥条件下でケイ酸塩構造単位の間に固体として残留する融点あるいは分解点を有するものが好ましい。そのような凝集抑制剤として、例えば、塩、可溶性有機化合物が挙げられる。
【0020】
塩としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、カルボン酸ナトリウム、カルボン酸カリウム等が挙げられる。
【0021】
ケイ酸アルカリ水溶液中での塩の濃度は、例えば、下限を1wt%とし、上限を塩の溶解度、またはケイ酸の白濁が発生する濃度とする範囲が好ましい。この上限値の具体的な数値は、ケイ酸アルカリ水溶液中のシリカ濃度や、塩の種類で変化するが、ケイ酸アルカリ水溶液中のシリカ濃度が10wt%の場合、溶解性の良い塩では30wt%以上となる。
【0022】
ケイ酸アルカリとしては、例えば、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸リチウム等がある。ケイ酸アルカリ水溶液の濃度は、例えば、シリカ濃度として1wt%以上が好ましく、5〜25wt%の範囲がより好ましい。
【0023】
本発明で製造した可溶成分含有ケイ酸塩を酸性水溶液により処理すれば、凝集剤が除かれ、その抜けた後にミクロ〜メソ孔が生じる。また、ケイ酸塩のアルカリが除かれることで、シリカが生成する。つまり、可溶成分含有ケイ酸塩を酸性水溶液により処理すれば、ミクロ〜メソ孔構造を有する多孔性シリカを容易に製造することができる。また、凝集抑制剤の種類、濃度などの条件を設定することにより、多孔性シリカの細孔構造を、ミクロからマクロ孔までの幅広い範囲で、簡単に、短時間で制御することができる。
【0024】
酸性水溶液処理に用いる酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸、カルボン酸等の有機酸が挙げられる。酸の濃度は、例えば、1wt%以上 好ましくは5〜20wt%の範囲である。酸性水溶液の温度は、例えば、0〜100℃(より好ましくは10〜50℃)の範囲が好適である。酸性水溶液処理の方法としては、例えば、粉体とした可溶成分含有ケイ酸塩を酸性水溶液中に分散させて処理を行う方法がある。このとき、酸性水溶液を攪拌することが好ましい。処理時間としては、例えば、1分以上(より好ましくは10〜60分)が好適である。
【0025】
凝集抑制剤を含むケイ酸アルカリ水溶液を製造する方法としては、凝集抑制剤が塩である場合は、ケイ酸アルカリ水溶液と塩とを混合する方法がある。
本発明において、凝集抑制剤を含むケイ酸アルカリ水溶液を瞬時に乾燥させる方法としては、凝集抑制剤がケイ酸塩構造単位の間に入り込んだ状態でケイ酸塩が乾燥するように、液体を短時間で乾燥できる手法であれば制限なく用いることができる。乾燥方法の例としては、工業的に汎用されている噴霧乾燥法が挙げられる。噴霧乾燥法は各種粉体の造粒法の一つとして利用されている手法である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、多孔性シリカの細孔構造を、ミクロからマクロ孔までの幅広い範囲で、簡単に、短時間で制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、具体的な実施例を示して本発明の有用性を説明する。
【実施例1】
【0028】
3N酢酸水溶液150gに、シリカ濃度10wt%に希釈した市販の3号ケイ酸ナトリウム水溶液を、20℃の下で徐々に滴下してケイ酸ゾルを得た。次に、東京理化器械(株)製卓上型スプレードライヤーSD−1を使用して,このケイ酸ゾルを入口温度140℃,出口温度90℃の条件で噴霧して瞬時に乾燥させた。そして、サイクロンで乾燥品を15g回収した。
【0029】
この乾燥品は、酢酸とケイ酸ナトリウムとの中和により生じる酢酸ナトリウムを凝集抑制剤(可溶成分)として含む可溶成分含有シリカである。尚、粉末X線回折測定により、噴霧乾燥品中に、酢酸ナトリウム3水塩結晶が確認された。
【0030】
次に、噴霧乾燥品を水洗乾燥し、酢酸ナトリウムを除くことで、多孔性シリカを製造した。この多孔性シリカの窒素吸着測定による比表面積は721m2/g、ミクロ孔容積0.30ml/g、メソ孔容量0.12ml/gであった。
【0031】
以上のように、本実施例1では、中和反応による生成塩(酢酸ナトリウム)によるシリカ一次粒子の凝集抑制作用により,多孔性シリカが得られた。
【実施例2】
【0032】
3Nクエン酸水溶液150gに、シリカ濃度15wt%に希釈した市販の3号ケイ酸ナトリウム水溶液を、20℃の下で徐々に滴下してケイ酸ゾルを得た。次に、東京理化器械(株)製卓上型スプレードライヤーSD−1を使用して,このケイ酸ゾルを入口温度140℃,出口温度90℃の条件で噴霧して瞬時に乾燥させた。そして,サイクロンで乾燥品を30g回収した。
【0033】
この乾燥品は、クエン酸とケイ酸ナトリウムとの中和により生じるクエン酸ナトリウムを凝集抑制剤として含む可溶成分含有シリカである。尚、粉末X線回折測定により、噴霧乾燥品中に、結晶性物質は含まれていなかった。
【0034】
次に、噴霧乾燥品を水洗乾燥し、クエン酸ナトリウムを除くことで、多孔性シリカを製造した。この多孔性シリカの窒素吸着測定による比表面積は840m2/g、ミクロ孔容積0.33ml/g、メソ孔容量0.15ml/gであった。
【0035】
以上のように、本実施例2では、クエン酸とケイ酸ナトリウムとの中和により生じる生成塩(クエン酸ナトリウム)による一次粒子の凝集抑制作用により,多孔性シリカが得られた。
【実施例3】
【0036】
2N硫酸水溶液150gに、シリカ濃度10wt%に希釈した市販の3号ケイ酸ナトリウム水溶液を、20℃の下で徐々に滴下してケイ酸ゾルを得た。次に、東京理化器械(株)製卓上型スプレードライヤーSD−1を使用して、このケイ酸ゾルを入口温度140℃,出口温度90℃の条件で噴霧して瞬時に乾燥させた。そして,サイクロンで乾燥品を15g回収した。
【0037】
この乾燥品は、硫酸とケイ酸ナトリウムとの中和により生じる塩を凝集抑制剤として含む可溶成分含有シリカである。尚、粉末X線回折測定により、噴霧乾燥品中に、硫酸水素ナトリウム水和物NaHSO4・H2O結晶が確認された。
【0038】
次に、噴霧乾燥品を水洗乾燥し、塩を除くことで、多孔性シリカを製造した。多孔性シリカの窒素吸着測定による比表面積は265m2/g、ミクロ孔容積は0.13ml/g、メソ孔容量は0.27ml/g、水銀ポロシメーターによる細孔容積は0.97ml/gであった。
【0039】
水洗乾燥する前の可溶成分含有シリカを電子顕微鏡(SEM)で観察した結果を図1(a)に示し、水洗乾燥後の多孔性シリカを観察した結果を図1(b)に示す。これらの結果から、本実施例3で製造した多孔性シリカは、マクロ孔は形成されていないことが確認できた。
【0040】
以上のように、本実施例3では硫酸とケイ酸ナトリウムとの中和で生じる生成塩によるシリカ一次粒子の凝集抑制作用により、多孔性シリカが得られた。
【実施例4】
【0041】
予め硫酸ナトリウム30gを溶解した2N硫酸水溶液150gに、シリカ濃度10wt%に希釈した市販の3号ケイ酸ナトリウム水溶液を、20℃の下で徐々に滴下してケイ酸ゾルを得た。次に、東京理化器械(株)製卓上型スプレードライヤーSD−1を使用して、このケイ酸ゾルを入口温度140℃,出口温度90℃の条件で噴霧して瞬時に乾燥させた。そして、サイクロンで乾燥品を25g回収した。
【0042】
この乾燥品は、予め2N硫酸水溶液に加えておいた塩を含むと共に、硫酸とケイ酸ナトリウムとの中和により生じる塩を凝集抑制剤として含む可溶成分含有シリカである。尚、粉末X線回折測定により、噴霧乾燥品中に、硫酸水素ナトリウムNa3H(SO4)2結晶が確認された。
【0043】
次に、噴霧乾燥品を水洗乾燥し、塩を除くことで、多孔性シリカを製造した。この多孔性シリカの窒素吸着測定による比表面積は100m2/g、ミクロ孔容積は0.14ml/g、メソ孔容量は0.05ml/g、水銀ポロシメーターによる細孔容積は2.89であった。
【0044】
以上のように、本実施例4では、予め2N硫酸水溶液に加えられていた塩によるテンプレート作用により、マクロ孔を有する多孔性シリカが得られた。
【実施例5】
【0045】
予め塩化ナトリウム15gを溶解した2Nクエン酸水溶液150gに、シリカ濃度10wt%に希釈した市販の3号ケイ酸ナトリウム水溶液を、20℃の下で徐々に滴下してケイ酸ゾルを得た。次に、東京理化器械(株)製卓上型スプレードライヤーSD−1を使用して,このケイ酸ゾルを入口温度140℃,出口温度90℃の条件で噴霧して瞬時に乾燥させた。そして、サイクロンで乾燥品を20g回収した。
【0046】
この乾燥品は、予め2Nクエン酸水溶液に加えておいた塩を含むとともに、クエン酸とケイ酸ナトリウムとの中和により生じる塩を凝集抑制剤として含む可溶成分含有シリカである。尚、粉末X線回折測定により、噴霧乾燥品中には塩化ナトリウムNaCl結晶が確認された。
【0047】
次に、噴霧乾燥品を水洗乾燥し、塩を除くことで、多孔性シリカを製造した。この多孔性シリカの窒素吸着測定による比表面積は860m2/g、ミクロ孔容積は0.29ml/g、メソ孔容量は0.42ml/gであった。
【0048】
以上のように、本実施例5では、予め2Nクエン酸水溶液に加えられていた塩化ナトリウム、及び中和反応により生じる塩の作用により、多孔性シリカが得られた。
【実施例6】
【0049】
シリカ濃度5wt%に希釈した市販の3号ケイ酸ナトリウム水溶液200gを、陽イオン交換樹脂を通すことで脱アルカリしてケイ酸ゾルを得た。このケイ酸ゾルに、DLリンゴ酸31gを溶解後,東京理化器械(株)製卓上型スプレードライヤーSD−1を使用して,入口温度140℃,出口温度90℃の条件で噴霧して瞬時に乾燥させた。そして,サイクロンで乾燥品を25g回収した。この乾燥品は、DLリンゴ酸を凝集抑制剤として含む可溶成分含有シリカである。
【0050】
次に、噴霧乾燥品を水洗乾燥し、塩を除くことで、多孔性シリカを製造した。この多孔性シリカの窒素吸着測定による比表面積は680m2/g、ミクロ孔容積は0.31ml/g、メソ孔容量は0.20ml/gであった。
【0051】
以上のように、本実施例6では、DLリンゴ酸によるシリカ一次粒子の凝集抑制作用により,多孔性孔シリカが得られた。
【実施例7】
【0052】
シリカ濃度5wt%に希釈した市販の3号ケイ酸ナトリウム水溶液200gを、陽イオン交換樹脂を通すことで脱アルカリしてケイ酸ゾルを得た。このケイ酸ゾルに、クエン酸69gを溶解後,東京理化器械(株)製卓上型スプレードライヤーSD−1を使用して,入口温度140℃,出口温度90℃の条件で噴霧して瞬時に乾燥させた。そして,サイクロンで乾燥品を60g回収した。この乾燥品は、クエン酸を凝集抑制剤として含む可溶成分含有シリカである。
【0053】
次に、噴霧乾燥品を600℃で焼成し、可溶成分を除くことで、多孔性シリカを製造した。この多孔性シリカの窒素吸着測定による比表面積は570m2/g、ミクロ孔容積は0.22ml/g、メソ孔容量は0.94ml/gであった。
【0054】
以上のように、本実施例7では、クエン酸によるシリカ一次粒子の凝集抑制作用により多孔性シリカが得られた。
【実施例8】
【0055】
予め加えておく硫酸ナトリウムの量を20gとした以外は、前記実施例4と同様にして、多孔性シリカを製造した。
水洗乾燥する前の可溶成分含有シリカを電子顕微鏡(SEM)で観察した結果を図1(c)に示し、水洗乾燥後の多孔性シリカを観察した結果を図1(d)に示す。水洗乾燥前にはマクロ孔は無かったが、水洗乾燥後には、シリカの表面にマクロ孔が生じていた。これは、予め加えておいた硫酸ナトリウムが、ケイ酸ゾルが瞬時に乾燥するとき、微結晶となってシリカ粒子間に入り込んで、テンプレートとして作用し、水洗により除かれることで、マクロ孔が生じたものである。
【0056】
以上の結果から、本実施例8で製造した多孔性シリカは、ミクロ孔だけではなく、マクロ孔も形成されていることが確認できた。
【実施例9】
【0057】
基本的には前記実施例3と同様にして多孔性シリカを製造した。但し、本実施例9では、硫酸水溶液の代わりに、2N塩酸を用いた。
水洗乾燥する前の可溶成分含有シリカを電子顕微鏡(SEM)で観察した結果を図2(a)に示し、水洗乾燥後の多孔性シリカを観察した結果を図2(b)に示す。水洗乾燥後でも、シリカの表面にマクロ孔は生じていない。これらの結果から、本実施例9で製造した多孔性シリカは、マクロ孔は形成されておらず、ミクロ孔のみを備えていることが確認できた。
【実施例10】
【0058】
基本的には前記実施例4と同様にして多孔性シリカを製造した。但し本実施例10では、硫酸水溶液の代わりに、2N塩酸を用いた。また、予め酸に加えておく塩は、塩化ナトリウム20gとした。
【0059】
水洗乾燥する前の可溶成分含有シリカを電子顕微鏡(SEM)で観察した結果を図2(c)に示し、水洗乾燥後の多孔性シリカを観察した結果を図2(d)に示す。水洗乾燥前にはマクロ孔は無かったが、水洗乾燥後には、シリカの表面にマクロ孔が生じていた。これは、予め加えておいた塩化ナトリウムが、ケイ酸ゾルが瞬時に乾燥するとき、微結晶となってシリカ粒子間に入り込んで、テンプレートとして作用し、水洗により除かれることで、マクロ孔が生じたものである。
【0060】
以上の結果から、本実施例10で製造した多孔性シリカは、ミクロ孔だけではなく、マクロ孔も形成されていることが確認できた。
【実施例11】
【0061】
シリカ濃度20wt%に希釈した市販の2号ケイ酸ナトリウム水溶液300gに塩化ナトリウム45gを溶解させた。次に、東京理化器械(株)製卓上型スプレードライヤーSD−1を使用して、この塩含有ケイ酸ナトリウム水溶液を入口温度140℃、出口温度90℃の条件で噴霧して瞬時に乾燥させた。そして、サイクロンで乾燥品を30g回収した。噴霧乾燥品に対し粉末X線回折測定を行ったところ、塩化ナトリウム結晶が確認された。
【0062】
次に、噴霧乾燥品を温度20℃の10%硫酸に分散し、10分間攪拌してアルカリ分の中和と塩化ナトリウムの溶解を行った。その後ろ過・水洗・乾燥し、多孔性シリカを製造した。この多孔性シリカの窒素吸着測定による比表面積は310m2/g、ミクロ孔容積は0.17ml/g、メソ孔容量は0.07ml/gであった。
【0063】
以上のように、本実施例11では、予め希釈2号ケイ酸ソーダ水溶液に加えられていた塩化ナトリウムの作用により、多孔性シリカが得られた。
【実施例12】
【0064】
シリカ濃度20wt%に希釈した市販の2号ケイ酸ナトリウム水溶液450gに無水炭酸ナトリウム45gを溶解させた。次に、東京理化器械(株)製卓上型スプレードライヤーSD−1を使用して、この塩含有ケイ酸ナトリウム水溶液を入口温度140℃,出口温度90℃の条件で噴霧して瞬時に乾燥させた。そして、サイクロンで乾燥品を60g回収した。噴霧乾燥品に対し粉末X線回折測定を行ったところ、無水炭酸ナトリウム結晶が確認された。
【0065】
次に、噴霧乾燥品を温度20℃の10%硫酸に分散し,10分間攪拌してアルカリ分の中和と炭酸ナトリウムの溶解を行った。その後ろ過・水洗・乾燥し、多孔性シリカを製造した。この多孔性シリカの窒素吸着測定による比表面積は390m2/g、ミクロ孔容積は0.19ml/g、メソ孔容量は0.17ml/gであった。
【0066】
以上のように、本実施例12では、予め希釈2号ケイ酸ソーダ水溶液に加えられていた炭酸ナトリウムの作用により、多孔性シリカが得られた。
【実施例13】
【0067】
シリカ濃度7.5wt%に希釈した市販の2号ケイ酸ナトリウム水溶液400gに塩化ナトリウム90gを溶解させた。次に、東京理化器械(株)製卓上型スプレードライヤーSD−1を使用して、この塩含有ケイ酸ナトリウム水溶液を入口温度140℃、出口温度90℃の条件で噴霧して瞬時に乾燥させた。そして、サイクロンで乾燥品を65g回収した。噴霧乾燥品に対し粉末X線回折測定を行ったところ、塩化ナトリウム結晶が確認された。
【0068】
次に、噴霧乾燥品を温度20℃の8%塩酸に分散し、10分間攪拌してアルカリ分の中和と塩化ナトリウムの溶解を行った。その後ろ過・水洗・乾燥し、多孔性シリカを製造した。
【0069】
酸処理乾燥する前の可溶成分含有シリカを電子顕微鏡(SEM)で観察した結果を図3(a)に示し、酸処理乾燥後の多孔性シリカを観察した結果を図3(b)に示す。酸処理乾燥前にはマクロ孔は無かったが、酸処理乾燥後には、シリカの表面にマクロ孔が生じていた。これは、予め加えておいた塩化ナトリウムが、ケイ酸ナトリウム水溶液が瞬時に乾燥するとき、微結晶となってシリカ粒子間に入り込んで、テンプレートとして作用し、酸処理により除かれることで、マクロ孔が生じたものである。
【0070】
以上のように、本実施例13では、予め希釈2号ケイ酸ソーダ水溶液に加えられていた塩化ナトリウムの作用により、多孔性シリカが得られた。
(比較例1)
水150gに、シリカ濃度10wt%に希釈した市販の3号ケイ酸ナトリウム水溶液を、20℃の下で徐々に滴下して希釈ケイ酸ナトリウムを得た。次に、東京理化器械(株)製卓上型スプレードライヤーSD−1を使用して、この液を入口温度140℃,出口温度90℃の条件で噴霧乾燥し、サイクロンで乾燥品を10g回収した。噴霧乾燥品を粉末X線回折測定したところ、結晶性物質(可溶性成分)は含まれていなかった。
【0071】
噴霧乾燥品を硫酸処理することにより含有ナトリウムを除いた試料の窒素吸着測定による比表面積は44m2/g、ミクロ孔容積は0.04ml/g、メソ孔容量は0.01ml/gであり,細孔性の低い試料であった。
(比較例2)
シリカ濃度5wt%に希釈した市販の3号ケイ酸ナトリウム水溶液150gを、陽イオン交換樹脂を通して脱アルカリし、ケイ酸ゾルを得た。このケイ酸ゾルを入口温度140℃,出口温度90℃の条件で噴霧乾燥し,サイクロンで乾燥品を8g回収した。乾燥品を粉末X線回折測定したところ、結晶性物質(可溶性成分)が含まれていないことが確認された。
【0072】
噴霧乾燥品を水洗乾燥した試料の窒素吸着測定による比表面積は0.6m2/g、ミクロ孔容積は0.0004ml/g、メソ孔容量は0.0004ml/gであり、ほぼ無孔性の試料であった。
(比較例3)
シリカ濃度20wt%に希釈した市販の2号ケイ酸ナトリウム水溶液300gを、東京理化器械(株)製卓上型スプレードライヤーSD−1を使用して、入口温度140℃、出口温度90℃の条件で噴霧乾燥し、サイクロンで乾燥品を30g回収した。噴霧乾燥品を粉末X線回折測定したところ、結晶性物質(可溶性成分)は含まれていなかった。
【0073】
噴霧乾燥品を硫酸処理することにより含有ナトリウムを除いた試料の窒素吸着測定による比表面積は120m2/g、ミクロ孔容積は0.06ml/g、メソ孔容量は0.02ml/gであり,細孔性の低い試料であった。
【0074】
尚、本発明は前記実施例になんら限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲において種々の態様で実施しうることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】多孔性シリカの表面を電子顕微鏡を用いて撮影した写真である。
【図2】多孔性シリカの表面を電子顕微鏡を用いて撮影した写真である。
【図3】(a)は酸処理乾燥する前の可溶成分含有シリカを電子顕微鏡を用いて撮影した写真であり、(b)は酸処理乾燥後の多孔性シリカを電子顕微鏡を用いて撮影した写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凝集抑制剤を含むケイ酸ゾルを瞬時に乾燥させることによる可溶成分含有シリカの製造方法。
【請求項2】
前記凝集抑制剤が、塩及び/又は可溶性有機化合物であることを特徴とする請求項1記載の可溶成分含有シリカの製造方法。
【請求項3】
ケイ酸アルカリ水溶液と酸とを混合して、前記塩及び/又は可溶性有機化合物を含むケイ酸ゾルを製造することを特徴とする請求項2記載の可溶成分含有シリカの製造方法。
【請求項4】
前記ケイ酸アルカリ水溶液及び/又は酸に予め塩を加えておくことを特徴とする請求項3記載の可溶成分含有シリカの製造方法。
【請求項5】
ケイ酸アルカリ水溶液を陽イオン交換樹脂又はイオン交換膜により脱アルカリし、塩及び/又は可溶性有機化合物を加えることにより、前記塩及び/又は可溶性有機化合物を含むケイ酸ゾルを製造することを特徴とする請求項2記載の可溶成分含有シリカの製造方法。
【請求項6】
前記ケイ酸ゾルの乾燥は、噴霧乾燥法により行うことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の可溶成分含有シリカの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の方法で製造した可溶成分含有シリカから、溶媒を用いた洗浄、又は焼成により、前記塩又は可溶性有機化合物を除去することを特徴とする多孔性シリカの製造方法。
【請求項8】
凝集抑制剤を含むケイ酸アルカリ水溶液を瞬時に乾燥させることによる可溶成分含有ケイ酸塩の製造方法。
【請求項9】
前記凝集抑制剤が、塩であることを特徴とする請求項8記載の可溶成分含有ケイ酸塩の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法で製造した可溶成分含有ケイ酸塩から、酸性水溶液処理により塩及びアルカリ成分を除去することを特徴とする多孔性シリカの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−199566(P2006−199566A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−171190(P2005−171190)
【出願日】平成17年6月10日(2005.6.10)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年8月25日 社団法人日本化学会コロイドおよび界面化学部会発行の「第57回 コロイドおよび界面化学討論会 講演要旨集」に発表
【出願人】(391003598)富士化学株式会社 (40)
【Fターム(参考)】