説明

可溶栓用合金および可溶栓

【課題】従来の可溶栓用合金は、CdやPbなどの有害元素が含まれていたため、有害元素による汚染の懸念があった。本発明は有害成分であるCdやPbを含有せず、冷凍装置の安全装置として長時間の使用でも、可溶栓から合金が押し出されてしまうことのない、クリープ特性など機械的な強度の強い可溶栓を提供することにある。
【解決手段】約90〜95℃にて溶融する合金が、Zn0.05〜0.4質量%、Bi47〜55質量%、残部Inの可溶栓用合金を用いた可溶栓を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍装置の保護機構として作動する可溶栓用合金、特に70〜75℃および95〜100℃で作動する可溶栓用合金および、その可溶栓合金を使用した可溶栓に関する。
【背景技術】
【0002】
大型の冷凍装置は、冷凍装置内部の圧力が異常に上昇したり、冷媒の温度が上がったりすると冷凍機自体が破損するだけでなく、高圧のガスが噴出して周囲も破壊することがある。大型の冷凍装置は、冷凍機の破損や破壊を未然に防ぐ機構として冷凍設備の冷媒ガスの圧力が安全装置が義務づけられており(経済産業省冷凍保安規則第7条1項8号)、可溶栓などの安全装置を備えているのが一般的である。冷凍装置の安全装置は、その使用する冷媒によって各社各様の動作設計が行われている。また、冷凍装置に用いられる冷媒は、従来はフロン、CFC(Chloro Fluoro−Carbons)系冷媒が最もよく使われてきた。ところが、このCFC系冷媒は、成層圏において太陽光の紫外線により光分解して活性塩素を生成し、この活性塩素によりオゾン層を破壊するという問題があり、地球レベルでその使用に対する規制が厳しくなってきた。このため、現在では、代替フロンであるHCFC(Hydro、Chloro、Fluoro−Carbons)系冷媒に代換されており、さらにオゾン層の破壊係数の小さいHFC(Hydro、Fluoro−Carbons)系冷媒も現れて、冷凍機に使用される冷媒も変わってきている。
【0003】
冷凍装置に用いられる可溶栓は使用される冷媒に合わせて設計する必要がある。つまり冷凍装置では、ボイルシャルルの法則により冷凍装置に使用される冷媒の圧力が上昇すると使用される冷媒の温度が上昇するので、使用される冷媒の凝縮圧力に従って使用する可溶栓の動作温度が決定される。例えば、現在HCFC系冷媒として最も需要の多いR22(HCFC22)を冷凍装置用冷媒として選定した空気調和用冷凍装置の場合は、凝縮圧力が1.94MPaであるのでR22の臨界温度は96.2℃となり、可溶栓の作動温度は約95〜100℃として設計されている。
【0004】
また冷凍装置に用いられる可溶栓は、冷媒により臨界温度が変るため、冷媒が切り換わった場合はその動作温度を再設計する必要がある。オゾン層の破壊係数の小さい代替冷媒として使用されているHFC系冷媒のR407Cを用いた場合は、凝縮圧が2.11MPa、臨界温度は85.6℃でのため、設計温度の約90〜95℃の可溶栓を使用されており、さらに圧縮効率の良いHCFC系冷媒のR410aを冷凍装置用冷媒として選定した可溶栓では凝縮圧が3.06MPaで、臨界温度が71.5℃であり、冷媒の臨界温度が上昇するために可溶栓の設計温度を約70〜75℃として冷凍装置が設計されなければならない。
【0005】
ところで、冷凍装置に用いられる可溶栓には低融点のはんだ合金が用いられるため、有害物質であるPbやCdを含んだはんだ合金が用いられてきた。冷媒としてR22を使用するときは可溶栓の設計温度が96℃となるので、Sn-52Bi-32Pb(96℃共晶)を用いており、冷媒としてR410aを使用するときは可溶栓の設計温度が70〜75℃となるので、Sn-50Bi-10Cd-26.7Pb(固相温度69℃、ピーク温度76℃、液相温度81℃)などのはんだ合金が用いられてきた。
【0006】
ところが可溶栓は冷凍装置と共に回収されるされるもので、冷凍装置の廃棄の際には、当然のことながら法規に則った処理が必要となる。特に近年においては地球環境保護の動きが活発になっており、冷凍装置などの機器類に使用される部品から有害成分を排除しようとする傾向にある。特にCdやPb成分は人体に悪影響を及ぼすため、規制の対象になっている。
【0007】
有害なCdやPbなどの成分を含まない可溶栓用合金としては、Sn、Bi、In、Zn、Gaから選ばれた2種以上の合金を使用したもの(特開2002−115940)、錫−インジウム−ビスマス系合金であり、その組成比を、Sn:Xwt%、In:Ywt%、Bi:Zwt%であるときに、X+Y+Z=100とし、かつ、4≦X≦10、56≦Y≦63としたことを特徴とする可溶栓用低温溶融合金(特開2001−214985)、およびビスマス、インジウム、スズからなる可溶合金に金属微粒子を添加したもの(特開2003−130240)などがある。
【特許文献1】特開2002−115940号公報
【特許文献2】特開2001−214985号公報
【特許文献3】特開2003−130240号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
冷凍装置の安全装置として使用される可溶栓は、有害物質であるPbやCdを含んだはんだ合金が用いられてきた。ところが近年においては地球環境保護の動きが活発になっており、冷凍装置などの機器類に使用される部品から有害成分を排除しようとする傾向にある。特にCdやPb成分は人体に悪影響を及ぼすため、規制の対象になっている。有害なCdやPbなどの成分を含まない可溶栓用合金として、前述の特許文献1のように錫(Sn)−インジウム(In)−ビスマス(Bi)系合金が開示されているが、この可溶栓用合金は低温域でのクリープ特性が悪く、冷凍装置の安全装置として使用中に、経時的に圧力によって合金が押し出されてしまうことがあり、一定期間が経過すると冷凍装置を止めて可溶栓を交換する必要があった。
【0009】
冷凍装置の可溶栓用合金ではないが、34重量%以上63重量%以下のビスマスと1重量%以上24重量%以下のスズを含み、残部がインジウムの温度ヒューズ用合金(特開2003−13165)が開示されている。温度ヒューズでは電子機器の異常高温対策用の負荷として使用されるので、温度によって電気が遮断させれば良く、使用中に圧力が掛かることがなく合金のクリープ特性など機械的な強度が考慮されていないため、そのまま可溶栓用合金としては使用できない。
【0010】
本発明らは有害成分であるCdやPbを含有せず、冷凍装置の安全装置として長時間の使用でも、可溶栓から合金が押し出されてしまうことのない、クリープ特性など機械的な強度の強い可溶栓を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、従来の65〜75℃および85〜95℃に固相温度及びピーク温度を持つ合金の欠点について鋭意検討を重ねた結果、Bi-In-Sn系合金において、ある限定された組成域の合金が約70〜75℃および約90〜95℃に固相温度及びピーク温度を持ち、その温度域も非常に狭く、可溶栓用合金に適していることを見い出し、本発明を完成させた。しかも該合金は有害成分であるCdやPbを一切含有していない。
【0012】
本発明の約70〜75℃にて溶融する合金は、Sn0.1〜2.0質量%、Bi31〜37質量%、残部Inからなることを特徴とする可溶栓用合金である。
また本発明の約90〜95℃にて溶融する合金は、Zn0.05〜0.4質量%、Bi43〜55質量%、残部Inからなることを特徴とする可溶栓用合金である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の可溶栓用合金をは、有害成分であるCdやPbを一切含有しておらず、可溶栓から合金が押し出されてしまうことがないため、冷凍装置の安全装置として、可溶栓を交換せずに長時間の使用が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
可溶栓は、可溶栓用合金の溶融する温度に依存しているのであるが、常時冷凍機からの圧力が掛かるのでクリープ特性などの機械的な強度が弱いと安全装置の用をなさない。本発明の約70〜75℃に固相・ピーク温度を有する合金であるBi-In-Sn系合金においてSnの量が0.1質量%未満では、合金自体の機械的強度が低いため耐圧試験における合金の飛び出しが所定量を超えてしまと言う欠点があり、Snの量を2.0質量%より多くすると、Bi-In-Sn系合金の固相温度が低下するため合金の溶融温度が使用される温度域に近くなって、合金の強度の劣化が起こり、作動温度域でのクリープ特性を劣化させる。そのために本発明のBi-In-Sn系合金では、Sn含有量が0.1〜2.0質量%でなくではならない。またBi含有量が31質量%未満では、Bi-In-Sn系合金の液相温度が上昇しすぎて合金の溶融性が悪くなり溶融試験に合格しなくなり、Biの量が37質量%より多くなるとSn-In合金の共晶点を外れてしまうため、液相温度が上昇しすぎて合金の溶融性が悪くなり溶融試験に合格しなくなる。そのため本発明のBi-In-Sn系合金は、Bi含有量が31〜37質量%でなくではならない。本発明では、Sn0.1〜2.0質量%、Bi31〜37質量%、残部Inとすることで、70〜75℃の使用温度域で強いクリープ特性の可溶栓用合金を得ることが可能になる。さらに望むべきは、Sn0.5質量%、Bi35質量%、残部Inの合金とすることで、最も使用温度域に強いクリープ特性の可溶栓用合金を得ることが可能になる。本発明の可溶栓用合金の基本構成成分であるSn、Biが上述の組成から外れた場合、溶融温度域が広くなってしまい、作動安定性が損なわれてしまう。
【0015】
次に本発明の約90〜95℃に固相・ピーク温度を有する合金であるBi-In-Zn系合金においてZnの量が0.05質量%未満では、合金自体の機械的強度が低いため耐圧試験における合金の飛び出しが所定量を超えてしまと言う欠点があり、Znの量が0.4質量%より多くすると、Bi-In-Zn系合金の固相温度が低下するため合金の溶融温度が使用される温度域に近くなって、作動温度域でのクリープ特性を劣化させる。そのために本発明のBi-In-Zn系合金では、Zn含有量が0.05〜0.4質量%でなくではならない。また本発明のBi-In-Zn系合金のBi含有量が43質量%未満では、Bi-In-Zn系合金の液相温度が上昇しすぎて合金の溶融性が悪くなり溶融試験に合格しなくなり、Biの量が37質量%より多くなるとSn-In合金の共晶点を外れてしまうため、液相温度が上昇しすぎて合金の溶融性が悪くなり溶融試験に合格しなくなる。そのため本発明のBi-In-Zn系合金は、Bi含有量が43〜55質量%でなくではならない。本発明では、Zn0.05〜0.4質量%、Bi43〜55質量%、残部Inの合金とすることで、強いクリープ特性の可溶栓用合金を得ることが可能になる。さらに望むべきは、Zn0.2質量%、Bi48質量%、残部Inの合金とすることで、最も使用温度域に強いクリープ特性の可溶栓用合金を得ることが可能になる。本発明の可溶栓用合金の基本構成成分であるZn、Biが上述の組成から外れた場合、溶融温度域が広くなってしまい、可溶栓としての作動安定性が損なわれてしまう。
【0016】
また本発明のBi-In-Sn系合金およびBi-In-Zn系合金において、Cu、Sb、Ge、Ag、Au、Zn、Ni、La族などの強度添加元素を添加することができる。La族とはランタノイドとも呼ばれ、LaおよびCe、Pr、Nd、Pm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、LuのLaに似た特性を持った元素のことである。これらの強度添加元素は単独でも、また組み合わせても効果が現れる。本発明のBi-In-Sn系合金およびBi-In-Zn系合金において、特に強度添加元素としてのCuの添加は最もクリープ特性を向上させる。ただしこれらの強度添加元素は、前述の特許文献3の発明と違い、必ずBi-In-Sn系合金およびBi-In-Zn系合金に溶融させて使用するので、添加量を多くし過ぎると合金の溶融温度を上昇させてしまう。そのため強度添加元素の合計量は、2.0質量%以下にすることが望ましい。最も好ましい各強度添加元素の添加量は、Cu0.1〜1.0質量%、Sb0.2〜2.0質量%、Ge0.1〜1.0質量%、Ag0.1〜0.7質量%、Au0.1〜0.6質量%、Zn0.2〜0.6質量%、Ni0.02〜0.1質量%、La族0.01〜0.1質量%であり、これより量が少ないと合金の強度向上効果が現れず、これ以上添加してしまうと液相温度を上昇させてしまい狙った温度域で作動しなくなる。
【0017】
本発明の可溶栓は、Bi-In-Sn系合金およびBi-In-Zn系合金を溶融させブランク材に封止したものであり、ブランク材の形状から片ネジタイプ、両ネジタイプ、フレア管タイプ、多孔タイプなどの可溶栓に適応可能である。
【実施例1】
【0018】
本発明の可溶栓用合金および可溶栓を作製して、その特性を比較する。
表1および表2に示した可溶性合金を作り、各合金組成の示差熱分析による加熱曲線を測定して吸熱ピークの開始点、吸熱ピークの最下点、吸熱ピークの終了点をもって、固相温度、ピーク温度、液相温度を測定した。表1および表2に各合金の溶融温度を示す。
表1の中で比較例4および5は、特許文献2および3の可溶栓用合金である。
溶融温度の測定条件は次の通り。
1.示差熱分析の測定
・示差熱分析測定装置 SII製示差走査熱量計
・昇温速度:5deg/min
・試料重量:10 mg
【0019】
【表1】

【0020】
【表2】

【実施例2】
【0021】
次に図1で示される片ネジタイプの可溶栓のブランク材1に表1および表2の可溶栓合金を充填して可溶栓を作り、各合金組成ごとのクリープ特性(耐圧試験と呼称する)、およびその可溶栓の作動温度を測定した。耐圧試験、作動試験には、全長28mm、先端部の内径が3mmの可溶栓を使用した。
【0022】
2.耐圧試験
1.) Bi-In-Sn系合金では65℃、およびBi-In-Znでは85℃に設定した恒温室中に可溶栓を入れ、コンプレッサーに接続して、15MPaの圧力を掛ける。
2.) 24時間後に可溶栓を恒温室中から取り出し、コンプレッサーとの接続を解除する。
3.) 24時間放置後に、充填した可溶合金がブランク材から抜け出た長さを測定する。
4.) 表1および表2に耐圧試験を実施した時に伸びた合金の長さを、図2に表1の実施例と比較例の合金組成を65℃の条件で測定した代表的写真を示す。写真の中で、1は実施例8の可溶栓、2は比較例4の可溶栓、3は比較例5の可溶栓の結果である。
【0023】
3.作動温度
1.) 可溶栓をコンプレッサーに接続して、3MPaの圧力を掛ける。
2.) コンプレッサーに接続した可溶栓を水槽中に投入して、水槽の水を加熱する。
3.) 水槽中の可溶栓から一気に空気が抜けた温度を作動温度として測定する。
【0024】
図2の写真を見ても、比較例の可溶栓である2および3は固相温度が実施例の可溶栓に比較して低いため、可溶栓用合金が抜け出して伸びている。特に比較例5の可溶栓である3は、試験条件の65℃の加熱で半溶融状体になっていた。それに対して本発明の実施例の可溶栓1は、可溶栓用合金が抜け出しが少なく、可溶栓用が伸びいない。
【0025】
本発明の可溶栓は、約70〜75℃および約90〜95℃にて作動し、可溶栓合金の低温クリープ特性が良いために高温下で長時間圧力を加えても可溶栓合金がブランク材から抜け出さないので、冷凍装置の保護装置に使用したときに長期間の使用が可能である従来の可溶栓にない効果を奏するものである。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の可溶栓用合金は、冷凍装置の保護装置に使用する可溶栓だけでなく、可溶栓と同様に常時圧力を受けているスプリンクラー用の合金としても使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】可溶栓の断面図
【図2】耐圧試験後に加圧によって押し出された可溶栓の写真
【符号の説明】
【0028】
1 ブランク材
2 可溶栓合金
3 ネジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Zn0.05〜0.4質量%、Bi47〜55質量%、残部Inとする合金からなることを特徴とする可溶栓用合金。
【請求項2】
前記可溶栓用合金に、さらにCu0.1〜1.0質量%、Sb0.2〜2.0質量%、Ge0.1〜1.0質量%、Ag0.1〜0.7質量%、Au0.1〜0.6質量%、Zn0.2〜0.6質量%、Ni0.02〜0.1質量%、La族0.01〜0.1質量%の強度添加元素の中で最低でも1元素以上を合計2.0質量%以下添加したものからなる請求項1に記載の可溶栓用合金。
【請求項3】
請求項1または2に記載の可溶栓用合金を用いた作動温度が90〜95℃である可溶栓。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−303001(P2007−303001A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−185907(P2007−185907)
【出願日】平成19年7月17日(2007.7.17)
【分割の表示】特願2006−501330(P2006−501330)の分割
【原出願日】平成16年11月24日(2004.11.24)
【出願人】(000199197)千住金属工業株式会社 (101)
【Fターム(参考)】