説明

可視光応答型光触媒とその製造方法

【課題】高価な原料を使用しない性能に優れた可視光応答型酸化チタン光触媒粒子を提供する。
【解決手段】少なくとも表面の一部分が無機ヨウ素化合物で被覆されていることを特徴とする可視光応答型酸化チタン光触媒粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は可視光応答型酸化チタン光触媒とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化チタンは、380nm以下の紫外線照射によって強い酸化力および超親水性を発現する光触媒材料として、脱臭、防汚、抗菌、親水化処理等への利用が進められている。しかし、室内のような弱紫外線環境下では、その光触媒活性はほとんど発現されないため、可視光下で強い酸化力を発現する可視光応答型光触媒が求められている。
【0003】
特許文献1には、酸化チタンなどの光触媒粒子の表面にハロゲン化白金を担持して、可視光下での光触媒活性を付与する技術が記載されている。しかしながら、使用する白金化合物が高価であるため、汎用性に乏しいという問題がある。
【0004】
特許文献2には、窒素原子含有酸化チタンまたは硫黄原子含有酸化チタンの表面に3価の鉄化合物を担持して、可視光下でも高い光触媒活性を示す光触媒を得る技術が記載されている。しかしながら、脱臭能力や防汚能力に代表される該光触媒の光触媒活性は、紫外光応答型光触媒と比較すると、はるかに低く、利用者が脱臭作用や防汚作用を実感することは困難という問題がある。このことは、既存の可視光応答型光触媒に共通して言える問題であり、実用化への大きな障害となっている。
【0005】
【特許文献1】特開2002−239395
【特許文献2】特開2007−090336
【0006】
そのため白金化合物に代表される高価な原料を使用せず、脱臭能力や防汚能力においてこれまで知られている可視光応答型酸化チタン光触媒よりも光触媒性能において優れる可視光応答型酸化チタン光触媒の提供が望まれる。
【発明の開示】
【0007】
上記要望を満たすため、本発明は、少なくとも表面の一部分が無機ヨウ素化合物で被覆されていることを特徴とする可視光応答型酸化チタン光触媒粒子を提供する。
【0008】
本発明はまた、本発明の可視光応答型酸化チタン光触媒粒子の製造法にも関し、該方法は、
(a)酸化チタン光触媒粒子を無機ヨウ素化合物水溶液に均一に分散させ、スラリーを得る工程、
(b)得られたスラリーから水分を蒸発乾固する工程、および
(c)生成物を粉砕する工程を含む。
【0009】
本発明において使用し得る無機ヨウ素化合物は、水溶性の無機ヨウ素化合物である。具体的にはヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化アンモニウム、ヨウ素酸ナトリウム、ヨウ素酸カリウム、ヨウ素酸アンモニウム、過ヨウ素酸ナトリウム、および過ヨウ素酸カリウムである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、酸化チタン光触媒粒子の表面に、無機ヨウ素化合物を担持することにより、可視光下で高い光触媒活性を発現する光触媒を提供する。
【0011】
ヨウ素化合物を担持することによって、可視光下で光触媒活性を発現する機構は明らかではないが、ヨウ化物イオンおよび/あるいはヨウ素酸イオンおよび/あるいは過ヨウ素酸イオンが、酸化チタンと電子および/あるいは正孔の授受をすることにより、電子-正孔対の再結合を抑制する働きを果たしていると思われる。このため、可視光のような弱エネルギー下においても、高い光触媒活性を示すと考えられる。
【0012】
ヨウ素化合物の最適担持量は、ヨウ素化合物種によって異なる。ヨウ化ナトリウムを用いた場合、0.01〜30wt%の範囲であることが好ましく、また、5〜20wt%であることがより好ましい。さらに、10wt%であることが最も好ましい。一方、ヨウ化カリウムまたはアンモニウムを用いた場合、0.01〜40wt%の範囲であることが好ましく、また、5〜30wt%であることがより好ましい。さらに、20wt%であることが最も好ましい。ヨウ素酸ナトリウムまたはカリウムを用いた場合、0.01〜20wt%の範囲であることが好ましく、また、5wt%であることが最も好ましい。過ヨウ素酸ナトリウムまたはカリウムを用いた場合、0.01〜20wt%であることが好ましい。また、5wt%であることが最も好ましい。
【0013】
使用し得るヨウ素化合物としては、各種ヨウ化物、ヨウ素酸塩、過ヨウ素酸塩を含む。例えば、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化アンモニウム、ヨウ素酸ナトリウム、ヨウ素酸カリウム、ヨウ素酸アンモニウム、過ヨウ素酸ナトリウム、過ヨウ素酸カリウムなどを使用することができる。
【0014】
酸化チタン光触媒粒子としては市販のものを使用することができる。結晶形はアナタース型でもルチル型でも良い。また、これまで知られている窒素や遷移金属をドープした可視光応答型酸化チタン光触媒を原料としても良い。可視光領域での光触媒性能がさらに増強される。
【実施例】
【0015】
実施例1
水100mlへヨウ化ナトリウム1gを溶解させ、これに市販のルチル形酸化チタン光触媒(MT-150A、テイカ株式会社)10gを添加し、攪拌したのち、120℃で乾燥することによって、可視光応答型光触媒(試料1)を得た。
【0016】
実施例2
ヨウ化ナトリウム1gに替えて、ヨウ化カリウム2gを使用する以外は、実施例1と同様にして、可視光応答型光触媒(試料2)を得た。
【0017】
実施例3
ヨウ化ナトリウム1gに替えて、ヨウ化アンモニウム2gを使用する以外は、実施例1と同様にして、可視光応答型光触媒(試料3)を得た。
【0018】
実施例4
ヨウ化ナトリウム1gに替えて、ヨウ素酸カリウム0.5gを使用する以外は、実施例1と同様にして、可視光応答型光触媒(試料4)を得た。
【0019】
実施例5
ヨウ化ナトリウム1gに替えて、過ヨウ素酸ナトリウム0.5gを使用する以外は、実施例1と同様にして、可視光応答型光触媒(試料5)を得た。
【0020】
実施例6
ヨウ化ナトリウム1gに替えて、過ヨウ素酸カリウム0.5gを使用する以外は、実施例1と同様にして、可視光応答型光触媒(試料6)を得た。
【0021】
実施例7
25%硫酸チタン水溶液400mlへアンモニア水を添加し、pH9.0に調整することにより、白色析出物を含むスラリーを得た。得られた白色析出物を濾取し、空気中、120℃で乾燥したのち、空気中、400℃で焼成することにより、窒素ドープ酸化チタンを得た。次いで、水100mlへヨウ化ナトリウム1gを溶解させ、これに上記窒素ドープ酸化チタン10gを添加し、攪拌したのち、120℃で乾燥することによって、可視光応答型光触媒(試料7)を得た。
【0022】
比較例1
市販のアナタース形酸化チタン光触媒(AMT-100、テイカ株式会社)を、紫外光応答型光触媒(試料8)として光触媒活性の評価に用いた。
【0023】
可視光下における光触媒活性評価:
光触媒粉末0.5gを、800ppmアセトアルデヒドガス3000mlが封入されたガスバックへ入れ、暗所で15時間保持静置し、吸着飽和状態とした。その後、蛍光灯を用いて光照射し、任意の時間毎にアセトアルデヒド濃度を測定した。アセトアルデヒド濃度は、光音響マルチガスモニタ(1312型、INNOVA)を用いて測定した。評価結果を表1に示す。
なお、光触媒活性の高低を示す指標として、ガス減少速度定数を以下の式より算出した。
【0024】
光照射条件は、試料を40ワット蛍光灯2本の直下25cmの距離に置いた。この時の照度は8000ルクスである。
【0025】
ガス減少速度定数k(h-1) : kt=ln(C0/Cx
tx:光照射時間(h)、 C0:暗所吸着後のガス濃度(ppm)、
Cx:所定光照射時間後のガス濃度(ppm)
【0026】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表面の一部分が無機ヨウ素化合物で被覆されていることを特徴とする可視光応答型酸化チタン光触媒粒子。
【請求項2】
無機ヨウ素化合物が、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化アンモニウム、ヨウ素酸ナトリウム、ヨウ素酸カリウム、ヨウ素酸アンモニウム、過ヨウ素酸ナトリウム、または過ヨウ素酸カリウムである請求項1の可視光応答型酸化チタン光触媒粒子。
【請求項3】
(a)酸化チタン光触媒粒子を無機ヨウ素化合物水溶液に均一に分散させ、スラリーを得る工程、
(b)得られたスラリーから水分を蒸発乾固する工程、および
(c)生成物を粉砕する工程
を含むことを特徴とする可視光応答型酸化チタン光触媒粒子の製造法。
【請求項4】
無機ヨウ素化合物がヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化アンモニウム、ヨウ素酸ナトリウム、ヨウ素酸カリウム、ヨウ素酸アンモニウム、過ヨウ素酸ナトリウム、または過ヨウ素酸カリウムである請求項3の方法。

【公開番号】特開2010−58047(P2010−58047A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−226198(P2008−226198)
【出願日】平成20年9月3日(2008.9.3)
【出願人】(000215800)テイカ株式会社 (108)
【Fターム(参考)】