説明

可視光応答型酸化チタン−活性炭複合系光触媒及びその製造法

【目的】一段階で簡便かつ安全なプロセス及び装置で光触媒粉体を高収率で得ることを可
能とする。
【構成】噴霧熱分解法により窒素とフッ素をコードープした酸化チタン−活性炭複合粉末
を生成する。この方法で得られた窒素とフッ素コードープした酸化チタンと活性炭複合粉体は、窒素のドーピング量を10 ppmから2500 ppmまで、フッ素のドーピング量を10 ppmから5000 ppmまでの範囲で、波長400〜550 nmにおける吸光度が20〜50%であり、可視光による高い光触媒機能を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有害物質を一時的に貯蔵する機能と可視光による光触媒機能との両方を有す
る窒素とフッ素をコードープ(codope;共ドープ)した酸化チタン(NFTO;Nitrogen-Flu
orine-codoped TiO2)−活性炭(AC;Activated Carbon)複合光触媒及びその製造法、並
びにこの触媒を環境有害物質分解用触媒として使用する環境有害物質分解処理方法に関す
る。
【背景技術】
【0002】
酸化チタン粉末は、種々の工業製品、例えば、顔料、塗料、医薬品、UV化粧品等に用
いられている。近年、光触媒として、抗菌、防臭、防汚、防曇、環境有害物質等の分解除
去等の目的での研究は注目を集めている。しかし、酸化チタンは、高いエネルギーバンド
構造(3.2 eV)を持つため、波長が短い紫外線しか吸収せず、可視光により触媒反応がほと
んど起こらない。室内灯や太陽光の大部分を占める可視光を有効利用できる第二代の酸化
チタン光触媒の開発とその応用が現在の重要な研究課題である。
【0003】
また、今までに使われている酸化チタン光触媒は反応物質に対して吸着機能が低いとい
う欠点がある。したがって、実際の応用、例えば、空気清浄機の場合に、活性炭等吸着機
能が高い細孔体と複合して使うケースが多いということが現実である。このような例とし
ては、活性炭などの吸着剤と光触媒との混合物を焼結してなる脱臭剤(特許文献1)、二
酸化チタンと活性炭との混合物を主成分とする光触媒をフッ素樹脂などを用いて固定する
方法(特許文献2)、二酸化チタンを活性炭の表面に存在させたもの(特許文献3,4)
などが知られている。
【0004】
可視光応答型の光触媒としては、窒素雰囲気において酸化チタンをターゲットとしてス
パッタリングにより基板の上に窒素を有する酸化チタン膜を製造する方法が知られている
(特許文献5、6)。また、チタニウム水和物および/またはその乾燥物を原料として、
アンモニアガス等の還元性ガスを含む還元雰囲気中で還元焼成して、可視光励起型酸化チ
タン粉末光触媒を製造する方法(特許文献7)、水酸化チタンをフッ素及び窒素の存在下
で焼成して得られるフッ素及び窒素を含有する酸化チタン(特許文献8)などが知られて
いる。
【0005】
本発明者らは、可視光応答型酸化チタン粉末の製造方法を探索したところ、噴霧熱分解
法を用いて、可視光応答型の窒素を含む酸化チタン(特許文献9)と窒素を含む酸化チタ
ン−酸化物複合光触媒(特許文献10)の開発に成功した。
【0006】
【特許文献1】特公平6-102155号公報
【特許文献2】特開6-315614号公報
【特許文献3】特開8-208211号公報
【特許文献4】特開10-226509号公報
【特許文献5】特開2001-205103号公報
【特許文献6】WO01/010552
【特許文献7】特開2002-361097号公報
【特許文献8】特開2004-292225号公報
【特許文献9】特願2003-375908(特開2005-138008号公報)
【特許文献10】特願2003-375906(特開2005-139020号公報)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
可視光応答型光触媒開発の最大の目的は、太陽光に占める大部分の可視光の有効利用で
ある。しかし、太陽光に含まれる紫外線は、少量で、弱くても、生じる光触媒作用は、可
視光によるものに比べると無視することができない。したがって、酸化チタンの固有な紫
外光触媒活性を改善する、又は維持しながら、可視光においても高い活性を持つ光触媒の
開発は、実用化の観点からみると極めて重要だと考えられる。
【0008】
反応物質に対しての酸化チタンの吸着機能を改善するため、二つの手段が考えられる。
一つは活性炭、ゼオライト等細孔体と複合する手段である。もう一つは、酸化チタン表面
の酸性を改善する手段である。しかし、活性炭は透光性がないため、酸化チタンと活性炭
との間を、どのような手段で複合するのかということが成功のポイントになる。また、酸
化チタンの吸着機能を改善すると同時に、酸化チタンの光触媒性能も増強することが重要
な課題である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前述の従来技術又は本願発明者らの先願発明を前提の先行技術として、さら
に鋭意研究した結果、先願発明に係る窒素を含む酸化チタンを製造する際に、窒素とフッ
素のコードーピングと活性炭の添加により酸化チタンの、有害物質を貯蔵する機能が改善
されることを見いだした。これによって、先願発明のものに比し、さらに光触媒性能が優
れてなるものを得ることができた。しかも、噴霧熱分解法によってこの優れた特性を備え
てなる光触媒を得るプロセスについても開発に成功したものである。本発明は、この一連
の知見、成功に基づいて成されたものである。
【0010】
本発明者らは、噴霧熱分解法を用いて、窒素とフッ素をコードープした酸化チタン−活
性炭(以下適宜「NFTO−AC」という)複合光触媒の製造に成功した。この複合光触媒は窒
素とフッ素をコードープした酸化チタン(NFTO)単独よりも可視光においても高い活性を
有する。また、製造のプロセスは一段階で簡単であり、コストも低い。
【0011】
すなわち、本発明は、噴霧熱分解法により得られ窒素とフッ素を含有することを特徴と
するNFTO−AC複合光触媒である。この複合系光触媒は、波長400〜550nmにおける吸光度が
20〜50%である。よって、可視光による光触媒機能を有する。
【0012】
また、噴霧熱分解法により得られる窒素とフッ素を含有するNFTO−AC複合粉末粒子は、
シェル(shell)−コア(core)構造を持つため、有害物質を一時的にコアの活性炭粒子の細
孔に貯蔵する機能と有害物質を可視光応答型の光触媒で無害化するという機能一体化が可
能である。
【0013】
その製造方法は、酸化チタンの出発原料、窒素源、フッ素源の化合物を含む水、有機溶
媒、又は水−有機溶媒混合溶液に活性炭多孔体粒子を加え、得られる多成分混合溶液を噴
霧溶液として霧化器で液滴径が0.1μmから100μmの微小な液滴を霧化して、該液滴をキャ
リアーガスの流れに伴う気液混合相の状態で高温反応炉内へ送り、該反応炉内部で酸化チ
タンの出発原料、窒素源とフッ素源の出発原料を熱分解し、窒素とフッ素をコードープし
た酸化チタン−活性炭複合粉末を生成することを特徴とする上記のNFTO−AC複合粉末の一
段階での製造方法である。生成した粉末はガラスフィルタにより回収できる。
【0014】
得られるNFTO−AC複合光触媒の活性は、窒素とフッ素のコードーピング量、全活性炭の
添加量と噴霧熱分解温度に依存していることから、これらの事項については、適宜調整す
べきことは当然であり、重要である。すなわち、これらの事項は熱分解温度、噴霧溶液中
での酸化チタンの出発原料や窒素源及びフッ素源の化合物の種類と濃度、高温反応炉内へ
送るキャリアーガスの種類等によって調整する。その場合の調整の目安は、後述するよう
に窒素のドーピング量については、10 ppmから2500 ppm、フッ素のドーピング量について
は、10 ppmから5000 ppmの含有量を目安として調整すべきである。ACについては、0.5〜5
0 wt%の含有量となるよう調整されるべきである。
【発明の効果】
【0015】
前述のように、可視光応答型光触媒を得るには、アンモニアガスを混入した雰囲気でチ
タニア粉末を再焼成する方法がとられている。この方法では、多量のアンモニアガスを処
理する必要があるため、環境に悪影響を与えると言う欠点があった。また、暗所でも有害
物質を除去する目的で、活性炭やシリカゲルと単純に混合・複合化させる技術が取られて
いる。しかし、単純な混合による複合化では、多孔性は達成できるものの、有効に光を使
うには十分ではない。
【0016】
本手法では、噴霧熱分解法を用いて、多成分体系の可視光応答型光触媒を一段階で合成
する。従来法と比べ、環境に悪影響を及ぼす多量のアンモニアガスを使用することがない
ため、空気中にアンモニアガスを放出することがなく、環境負荷を最小限に抑えることが
可能である。また、NFTO−AC複合粉末粒子は、シェル−コア構造を持つため、酸化チタン
の光触媒機能と活性炭の吸着機能が同時、最大的に発揮できる。即ち、両方の互いにマイ
ナスの相殺効果がない。
【0017】
また、本発明によれば、簡便な製造プロセスにより、球状、高表面積、シェル−コア構
造を持つNFTO−AC複合光触媒を一段階で製造できる。このようなシェル−コア構造により
酸化チタンの吸着機能を改善すると同時に、酸化チタンの光触媒性能も増強することがで
きる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、チタン(IV)エトキシド、チタン(IV)イソプロポキシド、チタン(IV)テトラブ
トキシド、塩化チタン(III)、塩化チタン(IV)、硫酸チタン(IV)、フッ化チタン(IV)、フ
ッ化チタン酸等の酸化チタンの出発原料、塩化アンモニム、炭酸アンモニム、炭酸水素ア
ンモニム、フッ化アンモニム、尿素、グアニジン塩酸塩、グアニジン硝酸塩等の窒素源の
化合物、フッ化水素、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化水素カリウム、フッ化
アンモニム、トリフルオロ酢酸等のフッ素源の化合物を含む水、有機溶媒、又は水−有機
溶媒混合溶液に活性炭多孔体を加え、得られる多成分混合溶液を噴霧溶液として例えば、
ネブライザで液滴径が0.1μmから100μmまでの微小な液滴を霧化して、該液滴をアルゴン
、ヘリウム、窒素、酸素、又は空気のキャリアーガスの流れに伴う気液混合相の状態で高
温反応炉内へ送り、該反応炉内部で酸化チタンの出発原料、窒素源、フッ素源の出発原料
を熱分解して窒素とフッ素をコードープした酸化チタン−活性炭複合粉末を生成すること
を特徴とするNFTO−AC複合光触媒の一段階での製造方法である。
【0019】
活性炭多孔体粒子は、異なる表面積、細孔体積と細孔分布を持つ活性炭粉体、繊維、ナノチューブ等市販の又は実験室で合成したものから1種又は2種以上を選択できる。選択される活性炭多孔体粒子はボールミル法で平均粒径0.05μmから10μmまでの大きさに粉砕したものが好ましい。最適な活性炭粒子の平均粒径の範囲は0.1μmから2.5μmまでの範囲である。活性炭粒子が小さ過ぎると、活性炭粒子自身が持つ細孔はその上に形成された酸化チタンでブロックされ、活性炭の吸着作用がなくなる可能性がある。活性炭粒子が大きい過ぎると、出発溶液に添加した活性炭粒子が噴霧により飛びにくく、製造したNFTO−AC複合光触媒における活性炭の含有量は予定の添加量より低い可能性がある。
【0020】
NFTO−AC複合光触媒粒子の大きさは活性炭粒子の大きさに依存する。ACの添加量は0.5
wt%から50 wt%までが最適である。添加量が0.5 wt%未満の場合には、反応物質に対して一
時的な貯蔵効果の改善が少なく、複合光触媒機能としての働きは認められない。また、添
加量が50 wt%を超える場合には、酸化チタンにおける本質の光触媒特性が発揮できず、む
しろ逆効果をもたらすことがあるので、実際に触媒設計する際には、この点を充分に配慮
しておくことが肝要である。
【0021】
熱分解温度、噴霧溶液中での酸化チタンの出発原料、窒素源、フッ素源の出発原料の種
類と濃度、高温反応炉内へ送るキャリアーガスの種類によってNFTO−AC複合粉末における
窒素のドーピング量を10 ppmから2500 ppmの範囲に、フッ素のドーピング量を20 ppmから
5000 ppmの範囲にコントロールすることが好ましい。
【0022】
窒素のドーピング量が10 ppm未満の場合に、又は、フッ素のドーピング量が20 ppm未満
の場合には、窒素又はフッ素添加の効果が少なく、実際的な光触媒能向上は見られない。
また、窒素のドーピング量が2500 ppmを超える場合に、又は、フッ素のドーピング量が50
00 ppmを超える場合には、窒化物として析出するか、又はフッ素添加の逆効果が出るため
、光触媒材料として適さない。
【0023】
得られたNFTO−AC複合粉末粒子は球状、高表面積、シェル−コア構造である。コアは、
細孔を持つ活性炭粒子で、シェルはポーラスな小さいNFTO微粒子で構成されている。また
、得られた複合粉末は窒素を含有するため黄色である。色の濃度は窒素のドーピング量と
活性炭の量に依存する。得られた酸化チタン粉末における窒素とフッ素の存在状態はX−
線光電子スペクトルで解析したところ、酸化チタン結晶格子中の酸素に代わって、酸素の
サイトに窒素とフッ素がコードープされていることが分かった。また、一部分の窒素又は
フッ素は格子間に存在することも排除できない。
【0024】
以下、添付図面を参照して本発明を具体的に説明する。図1は、本発明の方法を実施す
るための装置の一具体例を示す概略図である。本発明の方法においては、懸濁液貯蔵容器
1から各出発原料と活性炭を含む水、有機溶媒、又は水−有機溶媒混合懸濁液を送液用ペ
リスタポンプ2で微小な液滴を霧化するネブライザ3へ連続供給する。噴霧溶液の微小液
滴化方法としては、ネブライザによる方法や噴霧ノズルを用いる方法等があるが、液滴径
の分布が狭くかつ微小な液滴を得るには、好ましくはネブライザによる方法が良い。
【0025】
ネブライザ3で発生した液滴をアスペレータ4の吸引によって キャリアーガス供給装
置5より送られてくるキャリアーガスに同伴させて高温反応炉として高温加熱体6を有す
る反応管7へ送り込み、反応管7内で液滴の熱分解反応を行なわせて窒素とフッ素を含む
NFTO−AC複合微粒子を生成させ、該微粒子をガラスフィルタ8で収集する。水を溜めない
ようにするため、ガラスフィルタ8はフレキシブルヒータ9で加熱して温度制御する。ガ
ラスフィルタ8の後から出る水蒸気は、トラップ10より除かれる。また、反応管7は温
度制御器11により温度調節される。キャリアーガス流量はガス流量計(図示せず)によ
りモニターされる。
【0026】
本発明に用いる酸化チタンの出発原料の一種又は二種以上を含む水、有機溶媒、又は水
−有機溶媒混合溶液の濃度は、0.005モル/リットルから0.5モル/リットルの範囲であり
、好ましくは、0.01モル/リットルから0.2モル/リットルの範囲がよい。溶液濃度が0.0
05モル/リットルより薄い場合、一定の時間内で得られる酸化チタンの量が少なく、実際
応用から見ると困難である。また、溶液濃度が0.5モル/リットルより濃い場合、酸化チ
タン沈殿の析出と酸化チタン粒子の凝集等の問題が生じる。
【0027】
本発明に用いる窒素源又はフッ素源の化合物を含む水、有機溶媒、又は水−有機溶媒溶
液の濃度は0.01モル/リットルから10モル/リットルの範囲であり、好ましくは、0.1モ
ル/リットルから5.0モル/リットルの範囲がよい。溶液濃度が0.01モル/リットルより
薄い場合、酸化チタンにドープされる窒素又はフッ素の量が少なく、可視光により触媒活
性が低い。また、溶液濃度が10モル/リットルより濃い場合、酸化チタン沈殿の析出と酸
化チタン回収率の低下等問題が生じる。
【0028】
酸化チタンの出発原料の一種又は二種以上を含む水、有機溶媒、又は水−有機溶媒混合
溶液、窒素源の化合物の一種又は二種以上を含む水、有機又は水−有機混合溶媒、フッ素
源の化合物の一種又は二種以上を含む水、有機溶媒、又は水−有機溶媒混合溶液の三つ溶
液の体積比は、最終の噴霧溶液中のチタン、窒素源、フッ素源の濃度により決める。例え
ば、酸化チタンの出発原料の溶液濃度は0.5 Mで、窒素源化合物の溶液濃度は1.0 Mである
。もし、噴霧溶液中のチタンと窒素源の濃度をそれぞれ0.25 Mと0.5 Mとすれば、両者の
体積比は1:1である。
【0029】
本発明に用いる活性炭は活性炭粉体、繊維、又はナノチューブ等から1種又は2種以上
を選択したものである。これらの活性炭は、それぞれ異なる表面積、細孔体積、細孔分布
と粒子形態を持っているが、適宜選択して使用できる。このような活性炭は、市販品とし
て入手できる。また、実験室等で合成したものを使用することもできる。その添加量は、
溶液中のチタンの濃度と合成したNFTO−AC複合酸化物中のACの含有量(wt%)により計算
される。前記で述べたように、NFTO−AC複合酸化物中のACの含有量は、0.5 wt%から50 wt
%の範囲がよく、好ましくは、1 wt%から20 wt%の範囲である。
【0030】
キャリアーガスとしては、アルゴン、ヘリウム、窒素、酸素、又は空気が用いられ、キ
ャリアーガスの流量は、0.02リットル/分から25リットル/分の範囲であり、好ましくは
、0.1リットル/分から5リットル/分の範囲がよい。キャリアーガスの流量が少ない場合
、反応管内での液滴の滞留時間が長くなり、生成するNFTO−AC複合微粒子は反応管壁へ沈
着し、回収できない。キャリアーガスの流量が多い場合、反応管内での液滴の滞留時間が
短すぎて酸化チタンの出発原料が完全に分解せず通過するために粉末回収率が極めて低い

【0031】
反応炉の温度は、好ましくは200℃から1500℃の範囲が良い。200℃より低いと酸化チタ
ンの出発原料、窒素源、フッ素源の出発原料の熱分解が進行しにくく、1500℃より高いと
酸化チタン微粒子は光触媒活性が低いルチル結晶相を生成する。また、活性炭は水蒸気で
酸化され、なくなる可能性が充分考えられる。より好ましい温度は500℃から1200℃まで
の範囲である。
【0032】
本発明により得られるNFTO−AC複合微粒子は、単分散性が良く、噴霧溶液の濃度調整に
より、平均粒径0.01μmから数十μmの範囲のものが得られるが、生成微粒子の歩留まり
や微粒化による機能向上を考慮した場合、好ましくは平均粒径0.1μmから10μmの範囲
が良い。
【0033】
噴霧熱分解により得られたNFTO−AC複合光触媒の性能はアセトアルデヒドとクロロエチ
レンの光分解反応を用いて評価される。反応は閉鎖循環系装置(500 ml)で行う。反応セ
ルは、特別設計のものである。可視光光源として青色LED (λmax = 470 nm) パネルはそ
の反応セル内に置く。反応条件として、光触媒の量は0.5 gを使用し、反応ガスは940 ppm
アセトアルデヒド、943 ppmトリクロロエチレン、又は265 ppm トルエンを含む760 Torr
人工合成空気 (N2/O2= 81:19, v/v)である。光照射により反応ガスが酸化されて生成する
COガス量をガスクロマトグラフで測定する。
【実施例1】
【0034】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、これらにより限定
されるものではない。
0.10M三塩化チタン(TiCl3)、0.30M尿素(H2NCNH2)、0.30Mフッ化水素(HF)を含む水−エ
タノール(1:1,v/v) 混合溶液に粉砕された市販の活性炭繊維(Activated carbon fiber:
ACF、その表面積と細孔パラメーターは表1に示す)を加えて、それを噴霧溶液にして
、キャリアーガスには空気ガスを使用し、噴霧熱分解温度は800℃で、前記方法に従って
、窒素とフッ素をコードープした酸化チタン−活性炭複合光触媒(NFTO−ACF)を作成し
た。また、反応管は内径30mm、長さ1メートルのセラミック製であり、横型電気加熱
炉(加熱長さ0.8メートル)内に設置されている。キャリアーガス流量は6.0リットル/分
で一定とした。
【0035】
前記条件で生成したNFTO−ACFのACF含有量は10.2 wt%である。窒素とフッ素の含有
量はX線電子分光法でそれぞれ0.18原子% と0.30 原子%である。
【0036】
前記条件で生成したNFTO−ACFの粒子の幾何形状と表面形態は、図2aの透過型電子顕
微鏡写真に示す。粒子形状は球状であり、平均粒径は約0.98μmである。NFTO−ACFにお
ける代表的な粒子の透過電子顕微鏡写真は図2b,2cに示す。粒子の表面はポーラスで
、小さい微粒子(15nm〜30nm)で構成されるという特徴がある。また、極少数の粒子はその
表面の一部分だけをNFTOで覆われているので、その中心の活性炭粒子は図2に示すように見られる。図2dは、活性炭粒子がシェル−コア構造を持つ複合粒子の中心にあることの直接の根拠である。
【0037】
前記条件で生成したNFTO−ACF粉末の結晶形はX線回折装置で測定した。XRDの結果
より酸化チタン粉末の結晶形はアタナーゼであった。1次粒子の大きさは平均18.3nm程
度である。また、ACはNFTO−ACF複合粒子の中心において、その表面はNFTOで覆われるた
め、NFTO−ACF複合粒子の色はNFTOの黄色と変わらない。
【0038】
前記条件で生成したNFTO−ACFにおいて77Kでの窒素の吸着等温線を測定した。その結果
は、図3に示す。t-plot解析法を用いてその吸着等温線の解析を行った。得られた表面積
と細孔パラメーターは表1に示す。これらのパラメーターはACFと比較すると、ACFは期待
の通りにTiO2と複合することが成功したという結論が得られた。また、本発明の方法によ
り製造されたNFTO−AC複合光触媒は高い表面積と細孔容積を持つため、反応物の吸着能力
を高めることが期待できる。
【表1】

【実施例2】
【0039】
0.15M 硫酸チタン(TiOSO4)と0.50Mフッ化アンモニウム(NH4F)を含む水−エタノール(2:
1,v/v) 混合溶液に粉砕された本発明者らのグループで合成した活性炭アエロゲル(Activa
ted carbon aerogel: ACA、その表面積と細孔パラメーターは表1に示す)を加えて、そ
れを噴霧溶液にして、前記方法に従って、窒素とフッ素をコードープした酸化チタン−活
性炭複合光触媒(NFTO−ACA)を作成した。
【0040】
前記条件で生成したNFTO−ACAのACA含有量は9.8 wt%である。窒素とフッ素の含有量
はそれぞれ0.16原子% と0.27 原子%である。その粒子の幾何形状と表面形態は、実施例
1のNFTO−ACFと同じ構造を持っている。
【0041】
前記条件で生成したNFTO−ACAにおいて77Kでの窒素の吸着等温線も測定した(図3)。そ
の解析より得られた表面積と細孔パラメーターは表1に示す。この結果より、噴霧熱分解
法を用いて、異なる酸化チタン出発原料と異なる窒素源、フッ素源を使っても窒素とフッ
素をコードープした酸化チタン−活性炭複合光触媒の合成が実現できる。
【0042】
比較例1:窒素とフッ素のコードーピング効果を調べるために、ドープしていない酸化
チタン粉末(TO)をNFTO−ACFと同じ条件で製造した。BET表面積は5.9m2/gである。
【0043】
比較例2:活性炭の添加効果を調べるために、NFTO−ACFと同じ条件で窒素とフッ素を
コードープした酸化チタン粉末(NFTO)も製造した。窒素とフッ素の含有量はそれぞれ0.21
原子% と0.34 原子%である。その表面積と細孔パラメーターは表1に示す。
【実施例3】
【0044】
前記の触媒性能の評価方法を用いてアセトアルデヒド光分解反応に対して実施例1と2
、比較例1と2の試料の光触媒活性を測定した。可視光照射開始後6時間での二酸化炭素
生成率を図4に示す。NFTO−ACFの二酸化炭素生成率はTOの16.6倍、NFTOの1.3倍になる。
NFTO−ACAの二酸化炭素生成率はTOの18.1倍、NFTOの1.5倍になる。活性炭の導入により酸
化チタン(TO)又は窒素とフッ素をコードープした酸化チタン(NFTO)の光触媒機能は可視光
において著しく改善された。
【実施例4】
【0045】
実施例1と2、比較例1と2で製造した光触媒を用いて、アセトアルデヒドの代わりに
トリクロロエチレンを環境汚染物質として同じ条件で分解反応も行った。その結果も図4
に示す。NFTO−ACFの二酸化炭素生成率はTOの14.9倍、NFTOの1.3倍になる。NFTO−ACAの
二酸化炭素生成率はTOの16.3倍、NFTOの1.5倍になる。以上の結果により、トリクロロエ
チレンの光分解除去においても、活性炭の導入によりTOとNFTOの可視光に対しての光触媒
機能は顕著に改善された。
【実施例5】
【0046】
実施例1と2、比較例1と2で製造した光触媒を用いて、アセトアルデヒドの代わりに
トルエンを環境汚染物質として同じ条件で分解反応も行った。その結果も図4に示す。NF
TO−ACFの二酸化炭素生成率はTOの10.5倍、NFTOの1.4倍になる。NFTO−ACAの二酸化炭素
生成率はTOの11.9倍、NFTOの1.6倍になる。アセトアルデヒド又はトリクロロエチレンと
比べると、トルエンの場合に二酸化炭素生成率は高くない。しかし、我々の実験は高濃度
のトルエンを使った。実際の空気中又は室内のトルエン汚染物質の濃度は非常に低い。例
えば、環境省の室内のトルエン汚染物質基準は0.07 ppmである。したがって、我々が開発
した光触媒は、一般のトルエン汚染に対して、充分に対応できる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の窒素とフッ素をコードープした酸化チタンと活性炭複合光触媒における、活性
炭粒子はシェル−コア構造を持つ複合粒子の中心にあるために、窒素とフッ素をコードー
プした酸化チタンの各特性に与える影響が最低に抑制された。したがって、窒素とフッ素
をコードープした酸化チタンの可視光吸収特性は維持したまま、活性炭の添加により有害
物質を貯蔵する機能が顕著に改善される。
【0048】
また、窒素とフッ素をコードープした酸化チタンと活性炭複合光触媒は活性炭の導入に
より可視光に対して光触媒活性が窒素とフッ素をコードープした酸化チタン単独よりも向
上した。したがって、本発明の窒素とフッ素をコードープした酸化チタンと活性炭複合光
触媒は、高エネルギーの紫外光領域しか利用されていなかった従来の光触媒に比し、可視
光領域のスペクトルがかなりの部分を占めている太陽光に対して、その利用効率を相当向
上することができるものと期待され、その意義は極めて大きい。
【0049】
そして、特に、自然光を利用して室内外において空気の浄化、更には壁及び室内装飾品
の防汚などに効果を発揮できる。また、自然光を利用して水浄化、廃水処理も利用できる
。勿論、本発明に係る光触媒は、酸化チタンと活性炭複合触媒であることから、熱に対し
ても安定であり、炉内において環境有害物質を加熱分解する反応プロセスに供し、分解反
応プロセスに直接使用し、又はプロセス終了後の煙道ガスに対してこの触媒を使用し、光
を照射し、これによって分解を一層促進、補完することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の方法に使用する装置の一具体例を示す概略図である。
【図2】実施例1のNFTO−ACA粉末の図面代用SEM写真である。
【図3】実施例1と2、比較例1と2の窒素吸着等温線である。
【図4】実施例1と2、比較例1と2の光触媒性能の比較結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0051】
1:溶液貯蔵容器
2:ペリスタポンプ
3:ネブライザ
4:アスペレータ
5:キャリアーガス供給装置
6:高温加熱体
7:反応管
8:ガラスフィルタ
9:フレキシブルヒータ
10:トラップ
11:温度調整器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
噴霧熱分解法によって活性炭粒子上に形成されてなり可視光応答性を有する、窒素とフッ
素をコードープした酸化チタンと活性炭粒子との複合粒子よりなることを特徴とする複合
光触媒。
【請求項2】
前記酸化チタンと複合する活性炭粒子が、活性炭粉体、繊維、又はナノチューブから選択
される1種又は2種以上の活性炭多孔体粒子であり、複合粒子中の含有量が0.5〜50 wt%
であることを特徴とする請求項1に記載の複合光触媒。
【請求項3】
球状で、かつシェル−コア構造を持つ粒子であり、そのシェルは窒素とフッ素をコードー
プした酸化チタン微粒子で構成され、そのコアは活性炭粒子で構成されることを特徴とす
る請求項1又は2記載の複合光触媒。
【請求項4】
波長400 nm 〜550 nmにおける吸光度が20〜50%であることを特徴とする請求項1ないし3
項の何れか1項に記載の複合光触媒。
【請求項5】
酸化チタンの出発原料の一種又は二種以上を含む水、有機溶媒、又は水−有機溶媒混合溶
液、窒素源の化合物の一種又は二種以上を含む水、有機溶媒、又は水−有機溶媒混合溶液
、フッ素源の化合物の一種又は二種以上を含む水、有機溶媒、又は水−有機溶媒混合溶液
、を用意し、これらの三つの溶液を混合して、この混合溶液に活性炭粒子を加え、得られ
る多成分懸濁液を噴霧することによって、0.1 μmから100 μmの微小な液滴を霧状に生成
し、これをキャリアーガスによって高温反応炉に搬送し、液中の酸化チタンの出発原料、
窒素源の化合物とフッ素源の化合物を熱分解し、酸化チタンを活性炭粒子上に形成する同
時に窒素とフッ素のコードーピングを行うことを特徴とする窒素とフッ素をコードープし
た酸化チタン−活性炭複合光触媒の一段階での製造方法。
【請求項6】
熱分解温度、噴霧懸濁液中での酸化チタン、窒素源、フッ素源の出発原料の種類と濃度及
び活性炭粒子の含有量、高温反応炉内へ送るキャリアーガスの種類によって酸化チタン粉
末の窒素のドーピング量を10 ppmから2500 ppmとフッ素のドーピング量を10 ppmから5000
ppmの範囲にコントロールすることを特徴とする請求項4記載の複合光触媒の一段階での
製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし4項の何れか1項に記載の光触媒の存在下で、アルデヒド、トルエン、ク
ロロエチレン、クロロベンゼン、クロロフェノール、ダイオキシン類等有害化学物質に紫
外線又は可視光を照射し、これらの有害物質を分解することを特徴とする有害物質の分解
処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−203223(P2007−203223A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−26360(P2006−26360)
【出願日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】