説明

可視光応答性光触媒とその触媒活性促進剤並びに環境汚染有機物質の光分解法

【課題】 可視光応答性光触媒の光分解作用を補填し、かつ用いる当該光触媒の種類の如何を問わず、その光触媒活性を促進できる触媒活性促進剤および該触媒活性促進剤を併用した可視光応答性光触媒更には、該可視光応答性触媒を用いた環境汚染有機物質の効率的な光分解法を提供する。
【解決手段】 銅化合物を含有してなる、可視光応答性光触媒の触媒活性促進剤。銅化合物が、酸化銅、硝酸銅及び硫酸銅から選ばれた少なくとも一種の化合物である上記触媒活性促進剤。可視光応答性光触媒がタングステン化合物である上記触媒活性促進剤。タングステン化合物が酸化タングステンである上記触媒活性促進剤。これらの触媒活性促進剤を併用してなる可視光応答性光触媒。これらの可視光応答性光触媒を用いた環境汚染有機物質の光分解法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は可視光応答性光触媒とその触媒活性促進剤、そしてこの促進剤を併用した可視光応答性光触媒を用いる環境汚染有機物質の光分解法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境汚染物質を吸着し太陽光や室内光によって分解除去する光触媒が注目され、その研究が精力的に行われている。酸化チタンはその代表的なものであり強力な光触媒活
性を示す。
【0003】
しかし、この酸化チタンはバンドギャップが大きく、紫外光には活性を示すが太陽光の大部分を占める可視光には吸収性がなく、可視光に対する触媒活性を示さないため、太陽光を十分に利用することができず、また紫外光が極めて弱い室内では機能しないことなどの問題があった。
【0004】
このための対策として、窒素ドープなどで可視光を吸収できるようにするなどの酸化チタンの改良研究や可視光で光触媒として活性を示す新規な酸化物半導体の探索研究などが行われている(例えば、非特許文献1、2)。
【0005】
たとえば、酸化チタンに比較してバンドギャップが小さいために可視光を吸収することができる、酸化タングステン、酸化鉄、酸化インジウム、酸化バナジウム、酸化ビスマスなどの半導体化合物(金属酸化物)は可視光活性な光触媒(可視光応答性光触媒)として期待されている。これらの半導体化合物では酸素の原子軌道による価電子帯への寄与が大きく、金属が異なっても価電子帯の位置はほとんど変化しない。バンドギャップが小さいのは伝導帯下端の位置が低くなったためである。この場合、バンドギャップが小さく可視光応答性であったとしても電子励起で価電子帯に生成する正孔は吸着した基質に対する酸化力を減少することはない。(一方、上記した窒素ドープ酸化チタンの場合、価電子帯より高い位置にドープ準位があり、可視光吸収によってそのドープ準位に生成する正孔の酸化力は、酸化チタンと比較して減少する。)
しかしながら、上記半導体化合物は、可視光触媒活性があまり強力ではなく、たとえば可視光による分解対象となる環境汚染有機物質によっては、これを十分に分解できない場合があり、光触媒活性の向上が課題であった。
【0006】
すなわち、たとえば、アセトアルデヒドやホルムアルデヒドなどのアルデヒド類、酢酸や蟻酸などのカルボン酸類などの環境汚染有機物質を酸化タングステンなどの可視光応答性の光触媒を用いて可視光照射により分解除去しようとする場合、アルデヒドやカルボン酸の濃度が大きくなると、完全な分解によって最終的に生成する二酸化炭素にまで速やかに分解されるのはその一部分だけで、残りは二酸化炭素にまで速やかに分解されないという問題があった。
【0007】
具体的に言えば、高濃度(2500ppm以上)のアセトアルデヒドを酸化タングステン光触媒により光分解しようとすると、光分解反応による二酸化炭素の生成が途中から著しく遅くなり、アセトアルデヒドを完全に分解した場合に発生する量には速やかには到達せず、またアセトアルデヒドは速やかには完全消失せず長時間にわたって残留し続けるといった難点があった。
【0008】
このため、従来の可視光応答性光触媒の光分解作用を補填し、かつ用いる光触媒の種類の如何を問わず、その光触媒活性を促進できる触媒活性促進剤の開発が強く求められているが、未だそのような活性促進剤が得られていないのが現状である。
【非特許文献1】「光触媒標準研究法」、東京図書、2005年1月
【非特許文献2】「室内対応型光触媒への挑戦」、工業調査会、2004年11月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、可視光応答性光触媒の光分解作用を補填し、かつ用いる当該光触媒の種類の如何を問わず、その光触媒活性を促進できる触媒活性促進剤および該触媒活性促進剤を併用した可視光応答性光触媒、更には、該可視光応答性触媒を用いた環境汚染有機物質の効率的な光分解法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、銅化合物が共存する可視光応答性光触媒の存在下では、可視光照射下でも高濃度の環境汚染有機物質、たとえばアルデヒドやカルボン酸がほとんど二酸化炭素まで速やかに分解し、長時間にわたり残留することがないことを知見し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、この出願は、以下の発明を提供するものである。
(1)銅化合物を含有してなることを特徴とする可視光応答性光触媒の触媒活性促進剤。
(2)銅化合物が、酸化銅、硝酸銅及び硫酸銅から選ばれた少なくとも一種の化合物であることを特徴とする上記(1)の触媒活性促進剤。
(3)可視光応答性光触媒がタングステン化合物であることを特徴とする上記(1)又は(2)の触媒活性促進剤。
(4)タングステン化合物が酸化タングステンであることを特徴とする上記(3)の触媒活性促進剤。
(5)上記(1)から(4)のうちのいずれかの触媒活性促進剤を併用してなることを特徴とする可視光応答性光触媒。
(6)触媒活性促進剤が可視光応答性光触媒に混合ないしは担持されていることを特徴とする上記(5)の可視光応答性光触媒。
(7)触媒活性促進剤と可視光応答性触媒とがそれぞれ離間されていること特徴とする上記(5)の可視光応答性光触媒。
(8)粉末状又は薄膜状であることを特徴とする上記(5)から(7)のうちのいずれかの可視光応答性光触媒。
(9)上記(5)から(8)のうちのいずれかの可視光応答性光触媒を使用することを特徴とする環境汚染有機物質の光分解法。
(10)環境汚染有機物質がアルデヒド類又はカルボン酸類であることを特徴とする上記(9)の光分解法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の触媒活性促進剤は、可視光応答性光触媒の光分解作用を補填し、かつ用いる当該光触媒の種類の如何を問わず、その光触媒活性を促進することができる。したがって、当該触媒活性促進剤を併用した可視光応答性光触媒を用いると高濃度の環境汚染有機物質、たとえば2500ppm以上のアルデヒド類やカルボン酸類を可視光照射下でもほとんど二酸化炭素にまで速やかに分解して除去することが可能となる。また、本発明に係る可視光応答性光触媒は可視光によって機能するため、太陽光を有効に利用したり、紫外光が極めて弱い室内において使用したりすることが期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の触媒活性促進剤は、銅化合物を含有することを特徴としている。
【0014】
このような銅化合物は可視光応答性光触媒の光分解作用を補填し、かつ用いる当該光触媒の種類の如何を問わず、その光触媒活性を促進することができる。ここで、本発明における「可視光応答性光触媒」とは、酸化チタンに比較して価電子帯の位置は変わらず伝導帯の位置が低くなることでバンドギャップが小さくなって可視光応答性になった半導体化合物(金属酸化物)、をいう。したがって、上述したように、価電子帯より高い位置にドープ準位があり、可視光吸収によってそのドープ準位に生成する正孔の酸化力が酸化チタンと比較して減少する、窒素ドープ酸化チタンは本発明における「可視光応答性光触媒」に含まれない。
【0015】
この触媒活性促進剤を可視光応答性光触媒と併用すると可視光照射によって、たとえば高濃度(2500ppm以上)のアルデヒド類やカルボン酸類がほとんど完全に二酸化炭素にまで速やかに分解され、長時間にわたり残留することもない。銅以外の金属の化合物が共存しても同様の効果は見られないのに対して、様々な銅化合物でこの効果が得られる。
【0016】
銅化合物としては、銅を含む化合物であれば特に制限はないが、酸化銅や硝酸銅、硫酸銅、塩化銅などの銅化合物塩を用いることが好ましい。特に、CuO、Cu2O、Cu(NO3)2・3H2O、CuSO4・5H2O、CuCl2などが好ましく、そのうちCuOが特に好ましく使用される。
【0017】
これらの銅化合物は、一般的には、併用する可視光応答性光触媒に対して0.01重量%〜50重量%の範囲内において使用することが考慮される。この使用量については銅化合物と可視光応答性光触媒の種類、そして両者の併用の態様によって具体的に定めることができる。
【0018】
本発明に係る可視光応答性光触媒の触媒活性促進剤が、当該光触媒の機能を補填し、かつ用いる光触媒の種類に拘わらず、環境汚染有機物質の分解作用を促進する理由の詳細は現時点では明らかではないが、以下のように推定している。
【0019】
たとえば、可視光応答性光触媒を用いて高濃度(2500ppm以上)で存在するアルデヒド類を光分解する場合には、光触媒活性が強力でないと分解されにくい中間体が生成し、分解反応が進行しにくくなる。この場合、銅化合物が存在すると、この中間体の分解反応が促進される。銅化合物が単に可視光応答性光触媒の近傍に存在するだけで光分解反応が促進されるのはこのことによると考えられる。したがって、光触媒活性があまり強力でない可視光応答性光触媒を用いたとしても、これに銅化合物を共存併用させることにより、分解し難い中間体の分解が促進され、アルデヒド類がほとんど完全に二酸化炭素にまで速やかに分解される。
【0020】
またカルボン酸類はもともと分解されにくく、光触媒活性があまり強力でない可視光応答性光触媒を用いて光分解しても分解速度は小さい。この場合、銅化合物が存在すると、もとのカルボン酸もしくはその分解途中で生成した中間体が銅化合物により可視光応答性光触媒によって分解されやすくなるために光分解が促進され分解速度も大きくなる。したがって、光触媒活性があまり強力でない可視光応答性光触媒を用いたとしても、これに銅化合物を共存併用させることにより、カルボン酸類がほとんど完全に二酸化炭素にまで速やかに分解される。
【0021】
このように、可視光応答性光触媒を用いた環境汚染有機物質の光分解反応において、可視光応答性光触媒の光触媒活性があまり強力でない場合であっても、銅化合物はもとの環境汚染有機物質もしくは途中で生成する分解しにくい中間体を光触媒反応により分解されやすくさせることで反応を促進する。
【0022】
以上の理由から、本発明の触媒活性促進剤と併用できる可視光応答性光触媒としては、伝導帯の位置が低くなることによりバンドギャップが酸化チタンと比較して小さくて可視光を吸収できるものであれば、その光触媒活性の大小に拘わらず、従来公知の可視光応答性の半導体化合物(金属酸化物)の何れも使用できる。
【0023】
このような半導体化合物としては、酸化タングステン、酸化鉄、酸化インジウム、酸化バナジウム、酸化ビスマス、鉄―タングステン酸化物などが例示される。その中でも、酸化タングステンが特に好ましい。
【0024】
本発明に係る上記銅化合物を併用した可視光応答性光触媒は、いくつかの態様を採ることができる。
【0025】
その一つは銅化合物と可視光応答性光触媒を混合したものである。この場合、典型的には、それぞれの粉末を適宜の量をとり乳鉢を用いてよく粉砕・混合し、そのままの粉末状もしくは薄膜形状などに成形して光触媒として用いる。この態様のものは単に混合するだけなので様々な種類の銅化合物と可視光応答性光触媒を共存させることができる。
【0026】
以下に酸化タングステン粉末にCuO粉末を混合する場合を例として説明する。
【0027】
例えば、酸化タングステン粉末とCuO粉末を混合したものに高濃度のアセトアルデヒド存在下で420nmより長波長の可視光を照射するとアセトアルデヒドをほとんどすべて二酸化炭素にまで完全に分解できる。銅化合物の添加量、照射光の強度・照射時間などの最適条件は添加する銅化合物や可視光応答性光触媒の種類、形状などを考慮し適宜設定するが、酸化タングステン粉末に、市販されている比較的粒子径が大きいCuO粉末を混合する場合では、CuO粉末は酸化タングステン粉末に対して1重量%〜5重量%が好ましく、より好ましくは1重量%〜2重量%である。
【0028】
また、銅化合物と可視光応答性光触媒を併用する別の態様としては、可視光応答性光触媒に銅化合物を担持させたものを挙げることができる。この場合、担持方法により担持される銅化合物は異なるが、とくにCuOとして担持させることが好ましい。例えば、可視光応答性光触媒の粉末に硫酸銅や硝酸銅の水溶液やエタノール溶液などを加えて混合し70℃〜80℃で乾燥させてから500℃〜550℃で焼成するとCuOを担持することができる。
【0029】
銅化合物を担持させる最適な条件は、担持する銅化合物や可視光応答性光触媒の種類、形状などを考慮し適宜設定される。
【0030】
例えば、添加するCuO粉末の粒子径が小さくて表面積が大きい場合は最適な添加量も小さくなる傾向がある。それで、市販のCuO粉末は粒子径が大きくて比較的表面積が小さいのに対して、湿式低温合成したCuO粉末や低温での含浸担持法などで担持したCuOは超微粒子となっていて表面積が大きいので、必要とされる添加量も少なくできる。
【0031】
この態様の可視光応答性光触媒は、担持により銅化合物を添加することから、銅化合物が可視光応答性光触媒のすぐ近くに存在するため大きな触媒活性促進効果が期待できることや銅化合物が均一に分散されて光触媒の光吸収を妨げにくいことなどの利点がある。
【0032】
本発明による可視光応答性光触媒は上記したような銅化合物と可視光応答性光触媒を混合や担持した態様に限定されるものではなく、混合や担持することなくそれぞれを別体として存在させることも可能である。
【0033】
たとえば、銅化合物と可視光応答性光触媒を同一基板の別々の箇所に配置して共存させ一体としてこれを機能させることにより、非混合状態の可視光応答性光触媒を作製することができる。
【0034】
この態様のものは、添加する銅化合物が可視光応答性光触媒の光吸収を妨げないようにするなど使用する状況に適するように形状を設計できるといった利点を有するものである。
【0035】
本発明に係る可視光応答性光触媒においては、銅化合物を可視光応答性光触媒と接触させておくことが好ましいが、必ずしもそのような態様のものに限定されず、両者が離間した場合であっても近傍に存在すれば、その光触媒効果が十分に期待できる。
【0036】
また、本発明の可視光応答性光触媒においては、銅化合物と可視光応答性光触媒の両者に可視光を照射することが望ましいが、銅化合物に光が直接照射されなくても所望の光触媒活性を得ることができる。
【0037】
本発明による可視光応答性光触媒は粉末形状に限定されるものではなく、薄膜などに形成して使用することもできる。例えば、上記した可視光応答性光触媒粉末と銅化合物粉末の混合体を薄膜形状に形成して使用することができる。また銅化合物と可視光応答性光触媒をそれぞれ別途に薄膜に形成し共存させたり、可視光応答性光触媒薄膜上に銅化合物の薄膜を積層させたりして使用することもできる。薄膜の作製は通常に用いられているドクターブレード法やスピンコート法などによって行う。これらの薄膜の形状は可視光応答性光触媒ができるだけ銅化合物に妨げられることなく光を吸収できるように最適化する。
【0038】
本発明に係る可視光応答性光触媒は、環境汚染有機物質を光分解するための触媒として極めて有効である。
【0039】
環境汚染有機物質としては、アセトアルデヒドやホルムアルデヒドなどのアルデヒド類、酢酸や蟻酸などカルボン酸類、ベンゼン・トルエンなどの芳香族化合物類、ジクロロメタンなどのハロゲン化アルキル類などが挙げられる。またアルコール類やケトン類、エステル類、炭化水素類等にも有効である。さらに、有機物質だけでなく、COやNOx分解など無機物の無害化にも有効である。
【0040】
本発明に係る可視光応答性光触媒は、この中でもカルボン酸類やアルデヒド類に対して特に有効である。
【0041】
また環境汚染有機物質は気相に存在するものだけではなく、水などの液体に溶解しているものも本発明の可視光応答性光触媒を用いて分解することができる。液相において本発明の可視光応答性光触媒を用いると添加した銅化合物がイオンとして溶解する場合もあるが、そのような場合でも光触媒活性は促進される。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこの実施例によって何ら限定されるものではない。
<実施例1、比較例1>
酸化タングステン粉末(高純度化学、99.99%)にCuO粉末(和光純薬工業、99.9%)を1重量%、2重量%および5重量%の各々を加えて乳鉢を用いてよく粉砕・混合し、本発明の可視光応答性光触媒粉末を作製した。
【0043】
この光触媒を4mlのバイアルびんにおよそ150mg入れ、これにアセトアルデヒドの気体を約40μl(10000ppm)加えて300WのXeランプを420nmより短波長をフィルターによりカットした可視光条件で照射し、ガスクロマトグラフィーにより光分解で生じる二酸化炭素の量の時間変化をモニターした。また比較例1として酸化タングステン粉末のみを用いて同様の実験を行った。図1に結果を示す。
なお、本例では、存在するアセトアルデヒドが完全に二酸化炭素にまで分解するとおよそ20000ppmの二酸化炭素が理論的に発生する。
【0044】
図1に示すように、比較例1では90分照射後、9000ppm程度の二酸化炭素が発生するものの、その後270分照射しても、二酸化炭素の発生量はほとんど増加しなくなった。
【0045】
これに対して、CuO粉末を混合したものでは初期の二酸化炭素の発生量は少なくなるものの、270分経過後の二酸化炭素発生量は、比較例1のおよそ1.6〜1.9倍となった。
<実施例2、比較例2>
酸化タングステン粉末(高純度化学、99.99%)にCuO粉末(和光純薬工業、99.9%)、Cu2O粉末(和光純薬工業、99.5%)、Cu(NO3)2・3H2O粉末(和光純薬工業、99.9%)、CuSO4・5H2O粉末(和光純薬工業、特級)をそれぞれ2重量%ずつ加えて乳鉢を用いてよく粉砕・混合し、本発明の可視光応答性光触媒を4種類作製した。
【0046】
これらの光触媒を4mlのバイアルびんにそれぞれおよそ150mg入れ、これにアセトアルデヒドの気体を約40μl(10000ppm)加えて300WのXeランプを18時間にわたってAM1.5フィルターによる疑似太陽光条件で照射し、ガスクロマトグラフィーにより最終的な二酸化炭素生成量を調べた。また、比較例2として酸化タングステン粉末のみを用いて同様の実験を行った。表1に結果を示す。
【0047】
なお、本例の場合も、アセトアルデヒドが完全に二酸化炭素にまで分解すると理論的におよそ20000ppmの二酸化炭素が発生する。
【0048】
表1に示すように、比較例2ではおよそ14840ppmの二酸化炭素しか発生しなかったが、CuOの添加では21032ppm、Cu2Oの添加では20148ppm、CuSO4・5H2Oの添加では22108ppmの二酸化炭素が発生しておりアセトアルデヒドは完全に二酸化炭素に分解した。またCu(NO3)2・3H2Oの添加では16919ppmの二酸化炭素が発生しており比較例2よりも分解反応が進んでいた。
【0049】
【表1】

<実施例3、比較例3>
以下の方法によって酸化タングステンにCuOを担持させた、本発明の可視光応答性光触媒を作製した。
【0050】
酸化タングステン粉末(高純度化学、99.99%)1.003gに対して0.5M 硫酸銅水溶液を513μl(CuOとして2重量%に相当)加えてホットプレート上でかき混ぜながら蒸発乾固させ、さらにエタノールで再分散させ、再びホットプレート上でかき混ぜながら蒸発乾固させた後、電気炉内で加熱した。加熱は空気雰囲気において500℃で2時間行った。
【0051】
この光触媒を4mlのバイアルびんにおよそ150mg入れ、これにアセトアルデヒドの気体を約40μl(10000ppm)加えて300WのXeランプを18時間にわたってAM1.5フィルターによる疑似太陽光条件で照射し、ガスクロマトグラフィーにより最終的な二酸化炭素生成量を調べた。比較例3として酸化タングステン粉末のみを用いて同様の実験を行った。
【0052】
なお、本例の場合もアセトアルデヒドが完全に二酸化炭素にまで分解するとおよそ20000ppmの二酸化炭素が発生する。
【0053】
実験の結果、比較例3では12356ppmの二酸化炭素しか発生しなかったが、CuOを担持させたものでは18270ppmの二酸化炭素が発生しており、アセトアルデヒドはほぼ完全に二酸化炭素に分解した。
【0054】
またこのような含浸法により酸化タングステンにCuOを担持する場合についてCuO担持量の影響を調べたところ、担持量を0.1重量%付近まで減少させてもアセトアルデヒドはほぼ完全に二酸化炭素に分解し、かつその付近が二酸化炭素発生速度の最大となる最適な担持量であった。この結果は、本発明の可視光応答性光触媒はその調製条件が異なると最適な添加量も異なることを示している。
<実施例4、比較例4>
酸化タングステン粉末(高純度化学、99.99%)にCuO粉末(和光純薬工業、99.9%)を2重量%加えて乳鉢を用いてよく粉砕・混合して本発明の可視光応答性光触媒粉末を作製した。
【0055】
この光触媒を4mlのバイアルびんにおよそ150mg入れ、これに液体の酢酸を約10μl加えて300WのXeランプをAM1.5フィルターによる疑似太陽光条件で照射し、ガスクロマトグラフィーにより光分解で生じる二酸化炭素の量の時間変化をモニターした。また比較例4として酸化タングステン粉末のみを用いて同様の実験を行った。図2に結果を示す。
【0056】
図2に示すように、比較例4では二酸化炭素は発生するものの発生速度は小さく、180分照射しても、8000ppm程度の二酸化炭素しか発生しなかった。
【0057】
これに対して、CuO粉末を混合したものでは二酸化炭素の発生速度は著しく大きくなり、180分経過後の二酸化炭素発生量はおよそ37000ppmで、比較例4のおよそ4.6倍となった。
<実施例5、比較例5>
酸化タングステン粉末(関東化学、>99%)にCuO粉末(和光純薬工業、99.9%)を2重量%加えて乳鉢を用いてよく粉砕・混合して本発明の可視光応答性光触媒粉末を作製した。
【0058】
この光触媒を4.4mlのバイアルびんにおよそ150mg入れ、これに様々な種類の液体の有機物を約2μl(アセトアルデヒドでは気相で9000ppm分に相当)加えて300WのXeランプを3時間にわたってそのまま全光照射し、ガスクロマトグラフィーにより最終的な二酸化炭素生成量を調べた。またそれぞれについて比較例5として酸化タングステン粉末のみを用いて同様の実験を行った。図3に結果を示す。
【0059】
どの有機物についても、酸化タングステンを単独で用いた比較例5よりもCuO粉末を混合したものの方が多量の二酸化炭素が発生した。この結果は、酸化タングステンにCuOを添加した本発明の可視光応答性光触媒は多くの有機物の分解に対して有効であることを示している。
<実施例6、比較例6>
酸化タングステン粉末(和光純薬工業、>99%)を4.4mlのバイアルびんにおよそ150mg入れ、それにCuの量が1μmolとなるように銅化合物塩(CuSO4またはCuCl2)と水40μlを添加した。このとき銅化合物塩の一部は水に溶解している。さらにこれに分解する有機物として液体のギ酸を約2μl加えて300WのXeランプを420nmより短波長をフィルターによりカットした可視光条件で照射し、ガスクロマトグラフィーにより光分解で生じる二酸化炭素の量の時間変化をモニターした。また比較例6として銅化合物塩を添加せずに同様の実験を行った。図4に結果を示す。
【0060】
図4に示したように、銅化合物塩を添加しない比較例6では二酸化炭素の発生速度は著しく小さく、180分間照射しても、わずかの二酸化炭素しか発生しなかった。
【0061】
これに対して、銅化合物塩を添加したものでは二酸化炭素の発生速度が著しく大きくなり、180分経過後の二酸化炭素発生量では、比較例6に対して、CuSO4添加でおよそ15倍、CuCl2添加でおよそ47倍となった。この結果は、本発明の可視光応答性光触媒を液相中で用いることにより、銅化合物がイオンとして溶解する場合でも、水などの液体に溶解している環境汚染有機物質であっても分解できることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】酸化タングステン粉末にCuO粉末を混合した光触媒を用いてアセトアルデヒドを可視光の照射により光分解したときの二酸化炭素生成量の時間変化を示した図である。
【図2】酸化タングステン粉末にCuO粉末を混合した光触媒を用いて酢酸を疑似太陽光の照射により光分解したときの二酸化炭素生成量の時間変化を示した図である。
【図3】酸化タングステン粉末にCuO粉末を混合した光触媒を用いて様々な種類の有機物を3時間にわたるXeランプの全光照射により光分解したときの二酸化炭素生成量を示した図である。
【図4】酸化タングステン粉末に銅化合物塩を添加した光触媒を用いて水溶液中で蟻酸を可視光の照射により光分解したときの二酸化炭素生成量の時間変化を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅化合物を含有してなることを特徴とする可視光応答性光触媒の触媒活性促進剤。
【請求項2】
銅化合物が、酸化銅、硝酸銅及び硫酸銅から選ばれた少なくとも一種の化合物であることを特徴とする請求項1に記載の触媒活性促進剤。
【請求項3】
可視光応答性光触媒がタングステン化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の触媒活性促進剤。
【請求項4】
タングステン化合物が酸化タングステンであることを特徴とする請求項3に記載の触媒活性促進剤。
【請求項5】
請求項1から4のうちのいずれか1項に記載の触媒活性促進剤を併用してなることを特徴とする可視光応答性光触媒。
【請求項6】
触媒活性促進剤が可視光応答性光触媒に混合ないしは担持されていることを特徴とする請求項5に記載の可視光応答性光触媒。
【請求項7】
触媒活性促進剤と可視光応答性触媒とがそれぞれ離間されていること特徴とする請求項5に記載の可視光応答性光触媒。
【請求項8】
粉末状又は薄膜状であることを特徴とする請求項5から7のうちのいずれか1項に記載の可視光応答性光触媒。
【請求項9】
請求項5から8のうちのいずれか1項に記載の可視光応答性光触媒を使用することを特徴とする環境汚染有機物質の光分解法。
【請求項10】
環境汚染有機物質がアルデヒド類又はカルボン酸類であることを特徴とする請求項9に記載の光分解法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−149312(P2008−149312A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−228233(P2007−228233)
【出願日】平成19年9月3日(2007.9.3)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】