説明

可視光応答触媒を使用したクリーンルーム用の空気浄化装置及び空気浄化設備

【課題】可視光応答触媒を設置した通風路内に外側から照明光の一部を導入することが可能な、クリーンルーム用の空気浄化装置を提案する。
【解決手段】クリーンルーム用の空気浄化装置であって、送風用のケース体6の下流側に除塵用フィルタ20を設けるとともに、この除塵用フィルタよりも上流側のケース体部分に外部から照明光bを導入するための透明な採光部14を形成し、この採光部と連なるケース体内の適所に可視光応答触媒22を設置し、この可視光応答触媒を上記採光部から導入した照明光を利用して活性化し、空気中の汚染物質を分解するように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光応答触媒を使用したクリーンルーム用の空気浄化装置及び空気浄化設備に関する。この発明は、特に半導体・液晶パネルなど電子デバイスの製造において製品歩留まりに影響するケミカル汚染物質を除去するクリーンルームの空調システムに関係するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体・液晶パネルなどの電子デバイスの製造環境では、大気汚染が空調機を通じて進入し、クリーンルームの構成材料から発生するガスや製造装置から漏洩する微量な薬品・ガスが拡散してクリーンルームの空気を汚染することがある。これらのケミカル汚染物質は、製品の表面に吸着し、化学反応により不良の原因となる。そこでクリーンルームでは、ケミカル汚染物質を除去するために、循環空調機の一部にケミカルフィルタが設置される(特許文献1)。
【0003】
上記ケミカルフィルタをクリーンルーム内の局部的清浄領域(ミニエンバイロメント)のファンフィルタユニット(FFU)に用いることも知られている(特許文献2)。
【0004】
他方、酸化チタンなどの光触媒を用いたフィルタは、接触した有機成分を分解する。上記光触媒は紫外線を照射しなければ分解が起こらないために、その近傍でUVランプを点灯しなければならない。クリーンルーム内で半導体製造装置の上方の天井用FFUに紫外線応答触媒及びUVランプを配することも知られている(特許文献3)。
【0005】
またクリーンルーム以外の空調において、照明用光源を内装した透明ダクトの内面に、可視光応答触媒を担持した空調装置が知られている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−292290
【特許文献2】特開2006−054361
【特許文献3】特開2006−322659
【特許文献4】特開2006−145183
【特許文献5】特開2006−112755
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1〜2のケミカルフィルタは、除去対象である成分によって活性炭や酸化還元剤、イオン交換樹脂などを使用して、物理吸着や化学吸着によって汚染物質を除去するため、吸着能力が徐々に低下し、容量を超えると交換しなければならない。
【0008】
特許文献3の紫外線応答触媒を利用した空気浄化装置は、天井に設けたUVランプの周りを、触媒を担持した縦筒状のダクトで囲っているが(段落0019)、ダクトから紫外線が漏れると、半導体を製造する露光工程で加工精度に支障をきたす虞がある。
【0009】
特許文献4の如く可視光応答触媒を担持した透明ダクト内に光源を設置する技術は、触媒を担持したダクトを光が透過すること、及び、空気中の汚れが光源に付くことで照度が低下する虞があり、クリーンルーム用の空気浄化装置には適用し難い。
【0010】
本発明の第1の目的は、可視光応答触媒を設置した通風路内に外側から照明光の一部を導入することが可能な、クリーンルーム用の空気浄化装置を提案することである。
【0011】
本発明の第2の目的は、可視光応答触媒を設置した箇所へ、空気の流れを妨げずに外部の光を導くことが可能なクリーンルーム用の空気浄化装置を提案することである。
【0012】
本発明の第3の目的は、空気浄化装置と照明装置とからなり、照明光の一部を空気浄化のための触媒反応を起こすために利用する空気浄化設備を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1の手段は、クリーンルーム用の空気浄化装置であって、
送風用のケース体の下流側に除塵用フィルタを設けるとともに、この除塵用フィルタよりも上流側のケース体部分に外部から照明光を導入するための透明な採光部を形成し、
この採光部と連なるケース体内の適所に可視光応答触媒を設置し、
この可視光応答触媒を上記採光部から導入した照明光を利用して活性化し、空気中の汚染物質を分解するように構成している。
【0014】
本手段は、図3の如く空気浄化装置のケース体のうち除塵用フィルタ上流側に外から照明光bを導入するための透明な採光部を設けることを提案する。製造ラインに悪影響を及ぼす紫外線を使うのではないから、クリーンルームへの適用に好適であり、かつ簡単な構成で照明装置と空気浄化装置との間で光エネルギーの授受が可能となる。
【0015】
「採光部」は、光がケース体の一部を透過できれば如何なる構造でもよい。また受光面での十分な照度を確保するため、複数の採光部から入った光を反射・屈折により同一面に重ねて集光作用を持たせてもよい。「採光部と連なるケース体内の適所」とは、採光部から直接的に又は鏡面を経由して光が届く場所という意味である。「クリーンルーム用の空気浄化装置」は、クリーンルームの全体又は一部を浄化するものである。
【0016】
第2の手段は、第1の手段を有し、かつ上記ケース体の上流側に送風手段を設けて、送風手段と除塵用フィルタとの間のケース体部分に上記採光部を配置し、かつ
上記可視光応答触媒を、除塵用フィルタの上流側の表面又はこの表面の近くに配置するとともに、上記採光部から可視光応答触媒の配置箇所へ照明光を反射する反射手段を、送風手段と除塵用フィルタとの間に設けている。
【0017】
本手段は、送風手段と除塵用フィルタとの間の採光部から取り入れた光を除塵用フィルタ側へ反射することを提案している。「反射手段」は、一つ又は複数の反射板で形成することができる。反射板は、図9に実線で示すように採光部から入射する照明光b、bを拡散する機能を有する凹曲面に形成することができる。一定の巾Wを有する除塵用フィルタに広く光を照射するためである。図示例のように複数の採光部から導入した光線を同一の受光面に重ねて集光させることもできる。
【0018】
第3の手段は、第2の手段を有し、かつ上記反射手段が気流制御用バッフル板を兼ねている。
【0019】
クリーンルーム用のFFUにバッフル板を設けて気流の向きを調整することは従来行われていたが(例えば特許文献5参照)、本手段では、気流制御用バッフル板と照明光の反射手段と兼用することを提案している。これにより部材数を減少できる。
【0020】
第4の手段は、第2の手段又は第3の手段を有し、かつ上記除塵用フィルタの濾材を、有機系バインダーを含まない材料とするとともに、この除塵用フィルタの上流側の表面に可視光応答触媒を設けている。
【0021】
本手段では、図6に示す防塵用フィルタの表面に可視光応答触媒を設けている。フィルタへの汚れの付着を低減するためである。有機系のバインダーを含まない素材で濾材を形成する理由は、光触媒がバインダーを分解することを避けるためである。
【0022】
第5の手段は、第4の手段を有し、かつ上記可視光応答触媒は、液体中に分散させて噴霧することにより除塵用フィルタの表面に付着させている。
【0023】
本手段によれば、図7に示すように除塵用フィルタに可視光応答触媒のスラリーを噴霧するので、触媒の層がケミカルフィルタのように厚くならず圧力損失を生じない。
【0024】
第6の手段は、第2の手段又は第3の手段を有し、かつ上記除塵用フィルタは波形に形成され、その隣り合う波の間に、可視光応答触媒を担持した固定板を除塵用フィルタに触れないように設置している。
【0025】
本手段では、図8に示す如く、除塵用フィルタに触れないように、可視光応答触媒を担持した固定板を設置することを提案している。これにより、有機系のバインダーを濾材に使用することができ、かつ除塵用フィルタを清浄な状態に保つことができる。
【0026】
第7の手段は、照明装置を含む空気浄化設備であって、第1の手段から第6の手段のいずれかである空気浄化装置と照明装置とからなり、照明装置は、可視光光源と、照明装置の側部に形成した投光部とを有し、この投光部から空気浄化装置の採光部まで照明光の一部を投光できるように空気浄化装置及び照明装置を位置決めして並置させている。
【0027】
本手段は、照明装置の投光部から空気浄化装置の採光部へ照明光の一部を投光することを提案する。「投光」とは空間に光を射出することをいう。可視光光源は、主として可視光のみを発する光源をいい、より好適には400nm以下の紫外線を含まない可視光光源とするとよい。こうした可視光光源であれば、各装置の対向高さに投光部と採光部とを設け両者を正しく位置合わせするだけで、照明光の一部を空気浄化装置に与えることが可能となる。空気浄化装置及び照明装置の位置関係を決める位置決め機構を両装置の設置面に設けるとよい。「照明光の一部」とは、図2に示す如く光源から水平方向へ射出した光であることが望ましい。
【発明の効果】
【0028】
第1の手段に係る発明によれば、除塵用フィルタより上流のケース体部分を経て照明光を導入するから、除塵用フィルタを清浄に保つために照明光の一部を利用できる。
【0029】
第2の手段に係る発明によれば、採光部から可視光応答触媒の配置箇所へ照明光を反射する反射手段を設けたから、可視光応答触媒へ確実に光を供給できる。
【0030】
第3の手段に係る発明によれば、気流制御用バッフル板を照明光の反射手段と兼用したから、部材数を少なくすることができる。
【0031】
第4の手段に係る発明によれば、除塵用フィルタそのものに触媒を設けたから、触媒の浄化能力を十分に活用できる。
【0032】
第5の手段に係る発明によれば、可視光応答触媒は除塵用フィルタに噴霧したから、従来のケミカルフィルタのように積層することがなく、圧力損失が大きくならない。
【0033】
第6の手段に係る発明によれば、波形の除塵用フィルタの波の間に、可視光応答触媒を担持した固定板を設置したから、汚染物質を効果的に除去することができる。
【0034】
第7の手段に係る発明によれば、空気浄化装置と照明装置とをクリーンルームの天井に相互に並設し、照明装置の照明光の一部を空気浄化装置へ取り込むから、空気浄化装置及び照明装置の何れの機能も損なわない。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の第1実施形態に係る空気浄化設備の適用例を示す図である。
【図2】図1の設備を正面方向から見た縦断面図である
【図3】図1の設備の空気浄化装置を正面方向から見た縦断面図である。
【図4】図3の空気浄化装置の側面図である。
【図5】図3の空気浄化装置のV−V方向に見た横断面図である。
【図6】図3の空気浄化装置の除塵用フィルタの斜視図である。
【図7】図6の除塵用フィルタの製作工程を示す図である。
【図8】図6の除塵用フィルタの変形例の縦断面図である。
【図9】図3の空気浄化装置の原理図である。
【図10】図1の空気浄化設備の照明装置の正面から見た縦断面図である。
【図11】図10の照明装置の側面図である。
【図12】図10の照明装置をXII−XII方向に見た横断面図である。
【図13】図10の照明装置の変形例の縦断面図である。
【図14】本発明の第2実施形態に係る空気浄化設備の適用例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
図1から図13は、本発明の第1の実施形態に係る可視光応答触媒を利用した空気浄化装置及び空気浄化設備を示している。この空気浄化設備は、クリーンルームCRの天井Tに適用されている。
【0037】
空気浄化設備2は、図1に示すように、空気浄化装置4と、照明装置28と、天井Tに形成する位置決め機構50で構成されている。これらの空気浄化装置4と照明装置28とは、一定の間隔を存して所定の位置に交互に配置されている。
【0038】
空気浄化装置4は、図2及び図3に示すように、ケース体6と、送風手段16と、除塵用フィルタ20と、反射手段である反射板26とで構成している。
【0039】
上記ケース体6は、下端開口の周壁8の上面を頂壁10で閉塞してなる。好適な図示例では、図5に示すようにケース体6の下面形状を前後方向に長い長方形としている。ケース体の周壁8下端部は天井Tに固定されている。固定の方法については後述する。そしてケース体の頂壁10の適所(図示例では中心部)には通気孔12を開口している。
【0040】
上記ケース体6は、その上流側の半部に採光部14を有する。本実施形態では、上記周壁のうち左右の側壁8a、8bに左右一対の採光部14を形成するとよい。この採光部14は、ガラスなどの透明材料を嵌め込んだ採光窓のようなシンプルな構成とすることが特に好適である。一つのクリーンルームに多数の装置を設置する必要から廉価に製造することが望ましいから、また可視光を光源としたので光が漏出しても特に不具合がないからである。これについては後述する。図示例の採光部14は、図4に実線で示すように、側壁の横方向ほぼ全長に亘る長方形状であり、上下方向中間部に配置されている。
【0041】
上記送風手段16は、送風ファンであり、上記通気孔12の真下に固定されている。送風ファンは送電線18を介して図示しない電源から給電されている。一つの送風ファンを作動させるときには、隣接する照明装置がONとなっているように送風ファン及び照明装置に対する給電を制御するように構成してもよい。
【0042】
上記除塵用フィルタ20は、ULPAフィルタなどの高性能フィルタであり、上記ケース体6の下部内に嵌め込まれている。この除塵用フィルタ20は図6に示すように波板に形成している。この波の稜線は前後方向(後述の反射板の中心線Lの方向)に配向している。この除塵用フィルタの濾材は、有機系バインダーを用いずに形成しており、具体的には無機系繊維(ガラス繊維、シリカ繊維など)および無機系バインダ(水ガラス、シリカ、ベントナイトなど)を用いて形成している。除塵用フィルタの側部にはケース体への固定用のフレーム21を形成する。
【0043】
なお、上記除塵用フィルタの表面に光を十分に取り入れるために、好適な一例として、ファンフィルタユニットの筺体(ケース体)の内面を、SUS(ステンレス特殊用途鋼)などで鏡面とすることができる。これにより光乱反射させ照度を確保することができる。また波形の除塵用フィルタの奥まで光が届き易くするために、当該波形のRを大きくしてもよい。
【0044】
上記除塵用フィルタ20の表面には、図6に示すように可視光応答触媒22が担持されている。図面では可視光応答触媒を誇張して白丸で表現している。可視光応答触媒を除塵用フィルタに担持させるためには、光触媒である数十ナノメートルの微粒子を除塵用フィルタの上流側から噴霧すればよい。可視光応答触媒は、300lx程度の照度で十分な触媒反応が得られるものを選択する。好適な触媒の例は、酸化チタンに金属イオンや窒素を導入したもの、例えば酸化亜鉛、酸化タングステンなどである。
【0045】
図7は、本発明の除塵用フィルタの製作工程を示している。可視光応答型触媒を水に分散させたスラリーとし、噴霧ノズルNからULPAフィルタの上流面にスプレーすることで均一に付着させる。スラリーの水分が蒸発することでULPAフィルタの濾材面には光触媒の微粒子のみが残る。
【0046】
図8は、本実施形態の変形例であり、除塵用フィルタ20の表面に代えて、除塵用フィルタの上流側の近傍に配置した固定板24の表面に可視光応答触媒を担持させたものである。固定板は、波板状の防塵用フィルタ20の波の間に挿入するとともに、その固定板の両端部をケース体の周壁8或いはフレーム21に連結するように設けるとよい。
【0047】
上記反射板26は、送風手段16と防塵用フィルタ20との間に、上記採光部14とほぼ同じ高さに配置されている。反射板26は、ケース体の側壁に設けた採光部14側へ裏面を向けて上側方へ傾けた傾斜板である。この裏面を鏡面仕上げして、採光部14から入射した照明光を下側へ反射できるようにしている。好適な図示例では、図5に示す前後方向の中心線Lを対称軸として左右対称であり、左右両側の採光部14からの入射光をそれぞれ下方へ投光できるようにしている。
【0048】
この反射板26は、気流制御用のバッフル板を兼用しており、反射板の左右両端とケース体6の内面との間にはそれぞれ通気路Pを形成している。気流制御機能を兼ねると言っても、主たる機能は反射作用であるので、この作用を損なうような構造(気流制御用の通気孔など)は避けることが好適である。反射板の反射率は高いほどよいが、除塵用フィルタの上流側表面の照度が300lx程度となるようにすることが望ましい。
【0049】
本実施形態では、上記反射板26は、下方側から見て図5に示す通り中心線Lの方向に長い長方形に形成している。この中心軸Lの全長に亘って、軸に直交する反射板の断面形状は一定であり、これにより、除塵用フィルタの長手方向(中心軸の方向)への光の分布状況は均一になる。
【0050】
上記反射板26の形状は、いろいろ考えられるが、図示例では中心線Lの方向から見て図3に示すように裏面を凹曲面とする弧状に形成している。
【0051】
図9は、断面弧状の形態の反射板26の作用の一例を示している。説明の都合上、反射板26の各半部26a、26bの断面形状を点O1及びO2を中心とする円弧状とする。一方の採光部14の上縁を経て入射した照明光bは、反射板26の一半部26aの裏面上の点A1、B1で反射して、除塵用フィルタ20の上面のC1に到達する。一方の採光部14の下縁を経て入射した照明光b光線は、点D1で反射して除塵用フィルタ20の上面のE1に到達する。従って反射板の一半部26aは、少なくともフィルタのうち点C1からE1までの範囲へ照明光を投光する。同様に反射板の他半部26bは、少なくともフィルタのうち点C2からE2までの範囲へ照明光を投光する。従って除塵用フィルタの短手方向のほぼ全体に対して光を照射できる。
【0052】
なお、図示例と異なり、除塵用フィルタ20の折込方向を、図9に対して90°回転した方向としてもよい。そうすることで光を除塵用フィルタに満遍なく照射させることができる。
【0053】
上記図9には採光部を透過する光として平行光線だけを描いているが、実際には水平線に対して傾斜した光も入射するために、除塵用フィルタ20の上面にはさらにさまざまな入射角度で光が入射する。これにより、除塵用フィルタ20が担持する可視光応答触媒を十分に働かせることができる。
【0054】
照明装置28は、図10及び図11に示すように有頂筒形で下端に照明口32を開口する函体30を有する。この函体は、その左右側壁がケース体の左右側壁とほぼ平行になるように配置され、かつその下端部が天井Tの開口部に固定されている。上記照明口32にはガラス板などの透明板34が嵌め込まれている。また上記函体30の内部に好ましくは左右一対の光源(可視光光源)36を配置している。この光源は、前後方向に長い棒状光源(蛍光灯など)とすることができる。なお、可視光光源といっても、紫外線を全く発しない光源に限る訳ではなく、400nm以下の紫外線を含まない可視光光源であれば許容される。近年のフォトリソグラフィの技術では照射紫外線の短波化が進んでおり、400nm以下の波長の紫外線を用いることが一般的だからである。
【0055】
上記函体30は、上記照明口32とは別の箇所に投光部38を有する。この投光部38は、光源36から投光部38を通って射出した光線が採光部14に到達するような高さに配置されている。図2の如く、図示例では、光源36、投光部38、採光部14、及び反射板26がほぼ同じ高さにある。また、投光部38は図11に示すように水平方向に細長い長方形状であり、棒状の光源36及び採光部14と同じ程度の水平方向の長さを有する。光源36の全長から側方へ発せられた照明光を空気浄化装置へ取り込むためである。なお、投光部38及び採光部14の上下巾は光源36の径Dより大きくすることが好適である。
【0056】
これら照明装置28及び空気浄化装置4の特徴の一つは、両装置を一定の位置に配置したときに、光源36から投光部38、採光部14を経て反射板26で方向転換し、除塵用フィルタ20へ至る光路を有することである。しかもその光路は光ダクトなどの特別の導光手段を必要としない。仮に光路から外れた照明光が若干外部に漏れても構わない。その照明光は紫外線を含まず、半導体の製造工程に悪影響を及ぼさないからである。照明光を導入するためにすべきことは、投光部38及び採光部14を設けること、既存のバッフル板の裏面を鏡面仕上げとしかつ反射し易い形とすることであるから、大幅な設計変更も必要ない。従って製造コストを廉価にすることができる。
【0057】
照明装置28及び空気浄化装置4の他の特徴は、光源36が発する照明光のうち水平方向外側へ向かう光を光触媒反応のために利用したことである。天井型の照明方式において、光源から下方へ向かう光は、部屋を直に照らす直接光であるから室内の照度は大きい。また光源から上方へ向かう光も函体の頂壁に当って室内側へ反射する。そこで本発明では、光源から側方へ向かう照明光を取り出すようにしており、照明装置の照明能力を殆ど下げずに光触媒を活性化することができる。
【0058】
位置決め機構50は、図2に示す如くクリーンルームの天井Tに開口された複数の嵌合孔52として構成される。これら嵌合孔52内に上記ケース体6及び函体30の下端部が嵌め込むことができる。この嵌合状態で函体30の投光部38及びケース体6の採光部14が図示の如くそれぞれ対向するようにしている。好適な図示例では、各嵌合孔52の上縁を上記函体及びケース体を載置可能な上向き段部54としている。
【0059】
上記図示例において、採光部14、反射板26、及び照明装置28の構造は、好適な一例であり、相互の適宜変更することができる。例えば本例では、照明装置の光源が棒状の蛍光灯であることを前提として、左右に隣接する照明装置の光源に対応して、左右一対の採光部を設け、採光部に対応して左右対称な反射板を設けている。しかしながら光源が水平方向の四方へ光を発するタイプであれば、長方体状のケース体の四辺全てに採光部を形成し、その採光部から触媒設置面側へ光を反射する反射手段(反射板など)を採光部毎に設けることも可能である。
【0060】
図13は、照明装置28の変形例を示している。前述の図10の図示例において、2つの光源から水平方向内側へ向かう光線は、光触媒反応に寄与しておらず、また照明にも十分利用されていない。そこで図13に示すように、各光源から水平方向内側へ向かう光線を、投光部側へ戻す補助反射手段42A、42Bを設けた。
【0061】
上記構成により、図示しない電源から送風手段16及び照明装置28に電力が供給されると、まず光源36が発光して、その照明光のうち下方へ投射する光線及び函体の頂壁で反射した光線の大部分は透明板34を透過して、クリーンルームCRを照らす。他方、光源36から側方へ投射された光線は、投光部38及び採光部14を透過し、反射板の裏面で反射して、除塵用フィルタ20の表面に到達する。これにより可視光応答触媒22が活性化し、触媒反応が可能な状態となる。
【0062】
また送風手段16の作用でクリーンルームCRの天井裏からケース体6内へ空気を吸引し、その空気は反射板の両側の通気路Pを通過して、除塵用フィルタ20の表面に達する。ここで空気中に含まれる汚染物質が分解される。また空気中の塵埃などは除塵用フィルタにより取り除かれ、クリーンルームCR内へ吹き込まれる。
【0063】
本発明では、照明光の一部を汚染物質の分解に利用するという主題に基づき、可視光応答触媒を選択している。空気に含まれる有機成分などのケミカル汚染物質は、可視光応答触媒に接触することで、製品に影響しない物質に分解される。可視光応答触媒を用いた場合には、比較的高沸点の有機成分が分解の対象となるが、半導体の製造においてはこれで十分である。
【0064】
以下、本発明の他の実施形態を説明する。これらの説明において第1実施形態と同じ構成については同一の符号を付することで解説を省略する。
【0065】
図14は、本発明の第2の実施形態に係る空気浄化装置を示している。本実施形態では、クリーンルームCRの天井Tには従来と同様にフィルタ(ケミカルフィルタなど)62を装備したFFU60と照明装置28とが設置されており、このクリーンルーム内のミニエンバイロメントMの空調系統に本発明の空気浄化装置4を適用したものである。なお、ケミカルフィルタは、交換の容易さを考慮して図示のようにファンの上流に配置することが標準である。
【0066】
上記ミニエンバイロメントMは、クリーンルームの中で特に清浄な状態を保つためにクリーンルームの他の部分から区別された領域である。ミニエンバイロメントMの躯体自身を、ケース体6とする。このケース体6の内部のうち上端部と残りの部分とを、ケース体の周壁8内面に固定した除塵用フィルタ20で区分する。ケース体6の頂壁10の一部、好ましくは中央部に通気孔12を開口し、その通気孔の下方に送風手段16を設ける。
【0067】
そして本実施形態においては、クリーンルームの照明装置28からの光をミニエンバイロメントMに導入するために、少なくともケース体6の頂壁10に十分に大きな採光部14を設ける。好適な一例として、通気孔12を囲むようにループ状の採光部14を形成してもよく、また頂壁10のほぼ全体を透明な合成樹脂などで形成しても構わない。
【0068】
また本実施形態では、クリーンルームの天井Tの照明装置28同士の間隔を比較的狭くすることが望ましく、これにより図示例に示す如く送風手段16の真下まで照明光を導入することができる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
発明の詳細の説明の欄で開示された本発明の利点をまとめると次の通りとなる。
(1)半導体などの製造環境においては、フタル酸エステルやシロキサンなど比較的高沸点の有機成分は、ウェーハなどの表面に吸着し易いことから汚染影響が高い成分である。また、製造装置からも溶媒など各種のケミカル物質がクリーンルームに拡散し、レンズなどの曇りを引き起こす。これらの成分が可視光応答触媒により分解されることで、吸着汚染の影響が少なくなる。
(2)防塵用のULPAフィルタに噴霧した粒径100nm以下の可視光応答触媒の微粒子は濾材の繊維に強固に付着して脱落することがない。また、従来のケミカルフィルタのようにFFUに積層しないので、圧力損失が増えることもない。
(3)分解作用を増長させるために必要な照度は300lx以上の可視光であればよく、クリーンルームの一般照明と兼用することが可能となり、半導体製造工程で問題となるUVランプによる紫外線の影響が回避される。
(4)また、製造装置が設置されたクリーンルームにおいては、照明器具交換作業をシステム天井内でフィルタの交換と独立して行うことができる。
(5)クリーンルームは、本来塵埃などが少ない環境であり、可視光応答触媒の表面に汚れなどが生じにくく、分解性能は長時間維持する。
(6)可視光応答触媒を用いた除塵用フィルタは、従来のケミカルフィルタのように交換・廃棄処分を行う必要がないため、環境負荷が少ない材料である。
【符号の説明】
【0070】
2…空気浄化設備 4…空気浄化装置 6…ケース体
8…周壁 8a、8b…側壁 10…頂壁 12…通気孔
14…採光部 16…送風手段 18…送電線 20…除塵用フィルタ
21…フレーム 22…可視光応答触媒 24…固定板
26…反射手段(反射板) 26a、26b…反射板の一半部及び他半部
28…照明装置 30…函体 32…照明口 34…透明板 36…光源
38…投光部 42A、42B…補助反射手段
50…位置決め機構 52…嵌合孔 54…上向き段部
60…FFU 62…ケミカルフィルタ
CR…クリーンルーム T…天井 P…通気路 M…ミニエンバイロメント
N…噴霧ノズル L…中心線 b,b,b…照明光
A1,B1,D1,A2,B2,D2…光の反射点
C1,E1,C2,E2…光の到達点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クリーンルーム用の空気浄化装置であって、
送風用のケース体の下流側に除塵用フィルタを設けるとともに、この除塵用フィルタよりも上流側のケース体部分に外部から照明光を導入するための透明な採光部を形成し、
この採光部と連なるケース体内の適所に可視光応答触媒を設置し、
この可視光応答触媒を上記採光部から導入した照明光を利用して活性化し、空気中の汚染物質を分解するように構成したことを特徴とする、可視光応答触媒を使用したクリーンルーム用の空気浄化装置。
【請求項2】
上記ケース体の上流側に送風手段を設けて、送風手段と除塵用フィルタとの間のケース体部分に上記採光部を配置し、かつ
上記可視光応答触媒を、除塵用フィルタの上流側の表面又はこの表面の近くに配置するとともに、上記採光部から可視光応答触媒の配置箇所へ照明光を反射する反射手段を、送風手段と除塵用フィルタとの間に設けたことを特徴とする、請求項1記載の可視光応答触媒を使用したクリーンルーム用の空気浄化装置。
【請求項3】
上記反射手段が気流制御用バッフル板を兼ねることを特徴とする、請求項2記載の可視光応答触媒を使用したクリーンルーム用の空気浄化装置。
【請求項4】
上記除塵用フィルタの濾材を、有機系バインダーを含まない材料とするとともに、
この除塵用フィルタの上流側の表面に可視光応答触媒を設けたことを特徴とする、請求項2または請求項3に記載の可視光応答触媒を使用したクリーンルーム用の空気浄化装置。
【請求項5】
上記可視光応答触媒は、液体中に分散させて噴霧することにより除塵用フィルタの表面に付着させたことを特徴とする、請求項4記載の可視光応答触媒を使用したクリーンルーム用の空気浄化装置。
【請求項6】
上記除塵用フィルタは波形に形成され、その隣り合う波の間に、可視光応答触媒を担持した固定板を除塵用フィルタに触れないように設置したことを特徴とする、請求項2又は請求項3に記載の可視光応答触媒を使用したクリーンルーム用の空気浄化装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6の何れかに記載の空気浄化装置と照明装置とからなり、照明装置は、可視光光源と、照明装置の側部に形成した投光部とを有し、この投光部から空気浄化装置の採光部まで照明光の一部を投光できるように空気浄化装置及び照明装置を位置決めして並置させたことを特徴とする、照明装置を含む空気浄化設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−133140(P2011−133140A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−291155(P2009−291155)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】