説明

可視光線・赤外線透過シート

【課題】絶縁性を有し、かつ可視光線及び赤外線を透過し得る透明性に優れた可視光線・赤外線透過シートを提供すること。
【解決手段】熱可塑性樹脂を含むシートであり、外部ヘーズ値が6%以下、内部ヘーズ値が10%以下であり、波長8μm〜14μmの範囲における赤外線の平均透過率が20%以上であり、波長400nm〜800nmの範囲における可視光の平均透過率が70%以上である、可視光線・赤外線透過シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気結線端子の保護シート等に用いられる可視光線・赤外線透過シートに関する。
【背景技術】
【0002】
電気を使用する上では、分電盤等を使用して、必要な電気装置や電気設備に送電する方法が取られている。電気災害を予防する上では、まず分電盤の安全性の確保が必要となる。例えば、作業者の安全性を確保するために、絶縁性の保護カバー等を分電盤に設けることが行われている。しかし、この絶縁性の保護カバーが可視光線に対して不透明であれば、保護カバー内の結線状態等を保護カバーの外から視認することができないため、結線状態等を確認するためにはその保護カバーを分電盤から取り外す必要がある。その場合、分電盤は保護カバーにより保護されていない状態となるため、作業者の安全性が確保できない。このような観点から、保護カバーには、ガラス、アクリル樹脂、ポリカーボネート等、絶縁性があって可視光線を透過させる材料が用いられている。
【0003】
電気設備に配置する保護カバーに関して、特許文献1には、配電盤内臓器具用の保護カバーが開示されている。特許文献1では、配電盤内に内蔵される器具(内蔵器具)の前面側に、器具を保護するための保護カバーを設けることが提案されており、保護カバーの材料として透明性を有する絶縁性のプラスチックシートを用いることが提案されている。
【0004】
特許文献2には、絶縁性のスライドファスナーを用いて電気機器に配置された操作部品の列を保護し、必要に応じてスライドファスナーを開くことにより、操作したい操作部品のみを露出させる電気機器用保護カバーが開示されている。かかる保護カバーでは、操作したい端子部分を覆うファスナーのみを開くことができるので、保護カバーを取り外すことなく当該端子部品の状態を目視で確認でき、作業性はある程度向上すると思われるが、ファスナーを開放した状態では、当該端子部品はむき出しの状態となるため、安全性に問題がある。
【0005】
近年、原子力発電所等の重要施設における保守点検手法に関して、従来まで目視検査で行われていた分電盤内の設備保安点検の他に、赤外線センサーを用いてモニタリングする監視方法等について検討されている。目視検査では通電をとめる必要があるため、分電盤以降の下流に配置される電気設備・電気装置を停止させる必要がある。そのため、経済的損失が大きいという問題がある。このような問題を解決するため、通電しながら保守点検・監視できる方法が望まれている。特に、赤外線センサーを用いてモニタリングする監視方法は、電気設備・電気装置の運転を停止する必要がないので、簡便かつ経済的な手法といえる。
【0006】
また、特許文献3には、可視光線及び赤外線を透過する性質を有するフィルターやレンズ材料が開示されている。また、KRS−5(臭化タリウムとヨウ化タリウムの混合物)といった材料も赤外線を透過する性質を有するので汎用されている。特許文献4には、ポリエチレン樹脂が開示されている。特許文献5には、透明性に優れたポリオレフィン系のフィルムが開示されている。特許文献6には、超高分子量ポリエチレン製の透明シートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−143621号公報
【特許文献2】特開2008−29119号公報
【特許文献3】特開平5−43268号公報
【特許文献4】特開2001−200108号公報
【特許文献5】特許第4475699号公報
【特許文献6】国際公開第2008/001772号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記した従来の保護カバーの材料に関しては、解決すべき問題が存在する。例えば、特許文献3に記載の技術では、ゲルマニウムとイオウとハロゲンを主体とする極めて特殊なガラス素材を材料として用いており、その主要成分の1つであるゲルマニウムは非常に高価であり、幅広く産業的に使用されるには実用的ではない。そして、ゲルマニウムは水蒸気によって容易に酸化される性質があり、赤外線の透過性を低下させるという信頼性の問題もある。
【0009】
また、赤外線を透過する熱可塑性樹脂材料としては、赤外線を吸収する官能基がもっとも単純なポリオレフィン樹脂が汎用されているが、ポリオレフィン樹脂は赤外線の透過性は優れるものの、半結晶性樹脂であるため、固体構造中に内包する結晶成分の影響により、通常は白濁した状態であり、可視光領域での透明性が悪いという特性がある。
【0010】
特許文献4に関しては、赤外線センサー等を組み込んだ製品において、ポリエチレン樹脂製レンズを用いるとレンズ部が露出してしまうため、デザイン性が低下し、構造上の制約を受ける場合もある。また、レンズ部が透けて見えるのを防ぐため、あえてポリエチレン樹脂に白色添加剤を添加する必要もある。このように、従来の材料では、可視光線及び赤外線に対する透過性、経済性、安全性、その他の性能の面で、実用的といえる材料はこれまでに無いというのが現状である。
【0011】
特許文献5に関しては、材料がポリオレフィン樹脂であることから、透明性だけでなく、赤外線に対する透過性も良好であることが期待されるが、フィルム領域の厚さであるので、薄くて保護カバーとしては薄すぎるため、衝撃性や強度といった点で十分な効果は発揮できない。透明性に関して、厚みは200μmを上限としているが、これを超える厚み領域になると透明性が劣ることが推定される。
【0012】
特許文献6に関しては、シートの領域で厚みが厚く、透明性も優れているが、シートを通して目視状態で視認性を確認すると、近接した領域では優れた視認性を有するが、遠距離になると視認性が大きく低下し、離れた場所での状態確認が困難である。
【0013】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、絶縁性を有し、かつ可視光線及び赤外線を透過し得る透明性に優れた可視光線・赤外線透過シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
そこで本発明者らは、前記目的を達成するため鋭意研究を進めた結果、可視光線及び赤外線を利用して状態を観察するためのシートとして、可視光線と赤外線に対してそれぞれ特定の透過率を有する可視光線・赤外線透過シートを見出すに至った。
【0015】
即ち、本発明は以下のとおりである。
〔1〕
熱可塑性樹脂を含むシートであり、
外部ヘーズ値が6%以下、内部ヘーズ値が10%以下であり、波長8μm〜14μmの範囲における赤外線の平均透過率が20%以上であり、波長400nm〜800nmの範囲における可視光線の平均透過率が70%以上である、可視光線・赤外線透過シート。
〔2〕
前記シートが長尺シートである、〔1〕に記載の可視光線・赤外線透過シート。
〔3〕
前記シートの厚みが0.2mm〜3mmである、〔1〕又は〔2〕に記載の可視光線・赤外線透過シート。
〔4〕
前記シートの落錘衝撃強度が1J以上である、〔1〕〜〔3〕のいずれか一項に記載の可視光線・赤外線透過シート。
〔5〕
前記シートのtotalヘーズ値(B)に対する内部ヘーズ値(A)の比(α=A/B)が、0.5以上である、〔1〕〜〔4〕のいずれか一項記載の可視光線・赤外線透過シート。
〔6〕
前記熱可塑性樹脂は、ポリオレフィン樹脂を含む、〔1〕〜〔5〕のいずれか一項に記載の可視光線・赤外線透過シート。
〔7〕
前記ポリオレフィン樹脂は、ポリエチレン樹脂である、〔6〕に記載の可視光線・赤外線透過シート。
〔8〕
前記ポリエチレン樹脂の135℃デカリン溶液中で測定した極限粘度が、7dL/g以下である、〔7〕に記載の可視光線・赤外線透過シート。
〔9〕
前記ポリエチレン樹脂の密度が、960kg/m3以下であり、かつ温度190℃、荷重2.16kgfにおけるメルトフローレート(MFR)が、20g/10分以下である、〔7〕又は〔8〕に記載の可視光線・赤外線透過シート。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、絶縁性を有し、かつ可視光線及び赤外線を透過し得る透明性に優れた可視光線・赤外線透過シートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
まず可視光線・赤外線透過シートについて説明し、次いでその製造方法について説明する。
【0018】
本実施形態の可視光線・赤外線透過シートは、熱可塑性樹脂を含むシートであり、外部ヘーズ値が6%以下、内部ヘーズ値が10%以下であり、波長8μm〜14μmの範囲における赤外線の平均透過率が20%以上であり、波長400nm〜800nmの範囲における可視光線の平均透過率が70%以上である、可視光線・赤外線透過シートである(以下、単に「透過シート」という場合がある。)。
【0019】
本実施形態の透過シートは、可視光線の特定の波長領域における平均透過率の値、及びJIS K 7136:2000に規定される方法で測定したヘーズ値で特定される。透明性に関しては、可視光線の透過率が高い値である程よいが、一方でヘーズ値は曇り度の指標として使われており、低い値である程よい。どちらか一方の指標が優れた値を示しても透明性については十分ではない。従って、可視光線の平均透過率が高く、かつヘーズ値が低いことが好ましい。
【0020】
本実施形態の透過シートは、波長領域が400nm〜800nmの範囲における可視光線の平均透過率が70%以上であることが必要であり、透明性の観点から、好ましくは80%以上であり、より好ましくは85%以上である。可視光線透過率の平均値は、可視光線分光光度計を用いて、シート状の試験片を、透過法により走査速度1000nm/分で波長領域400nm〜800nmをスキャンして測定し、1nm毎の可視光線透過率の値を平均化した値である。
【0021】
本実施形態の透過シートの外部ヘーズの値は6%以下であることが必要であり、好ましくは3%以下、より好ましくは2%以下である。透過シートの内部ヘーズの値は10%以下であることが必要であり、透明性の観点から、好ましくは7%以下、より好ましくは5%以下である。可視光線透過率及びヘーズの値はシートの厚さによって変わるものであり、特に厚さの制約はないが、強度の観点から、厚さ0.2mm以上で上記値を示すものが望ましい。一般的には厚みが厚くなるほどヘーズの値は大きくなり、透明性が失われる傾向を示す。従って、現実的に上記特性が満たされる厚みとしては3mm以下が好ましく、より好ましくは2mm以下、更に好ましくは1.5mm以下である。
【0022】
本実施形態の透過シートの赤外線の透過率は、波長8μm〜14μmの範囲における赤外線の平均透過率で表される。赤外線透過率の平均値は、シート状の樹脂を試験片として、赤外線分光光度計を用いて透過法により分解能4cm-1、積算回数32回、波長領域8μm〜14μm(波数領域では、1250cm-1〜714cm-1)で透過率を測定し、上記波長領域の範囲において得られた1cm-1毎の赤外線透過率から得られた値を算出し、それを平均化した値とする。具体的には、1250cm-1〜714cm-1の波長領域の範囲を1cm-1毎に赤外線透過率を測定し、得られた値をすべて加算して全データ数で除することにより得ることができる。
【0023】
赤外線の平均透過率は20%以上が必要であり、好ましくは25%以上、より好ましくは30%以上である。一般的には厚みが厚くなるほど赤外線の透過率は低下する傾向を示す。本実施形態において、シートの厚みは、可視光線及び赤外線の透過性並びに強度の観点から、下限は0.2mm以上であることが好ましく、上限は3mm以下であることが好ましく、より好ましくは2mm以下、更に好ましくは1.5mm以下である。
【0024】
本実施形態においては、透過シートのtotalヘーズ(B)に対する内部ヘーズ(A)の比(α=A/B)は、0.5以上であることが好ましく、より好ましくは0.6以上であり、更に好ましくは0.7以上である。内部ヘーズは樹脂製シートの内部構造に起因する樹脂本来のヘーズであり、totalヘーズは表面平滑性に起因する外部の表面散乱を含んだヘーズである。すなわち、内部ヘーズ値がtotalヘーズ値に近づくほど(αが1に近づくほど)透過シートの視認性を一層向上させることができる。内部ヘーズ値が小さい材料を用いたシートであっても、αが上記した範囲であることにより優れた視認性を得ることができる。
【0025】
本実施形態の透過シートは工業的に連続的に製造し得ることが好ましい。そのため、シートは長尺であることが好ましく、長さ方向に50cm以上、好ましくは1m以上、より好ましくは5m以上の長尺シートであることが好ましい。なお、ここでいう長尺シートとは、連続的に生産したシートであって、シート形状の少なくとも1つの辺の長さが50cm以上であるシートを意味する。
【0026】
本実施形態の透過シートは落錘衝撃強度が1J以上であることが好ましく、より好ましくは2J以上である。落錘衝撃強度が1J以上とすることにより、保護カバー等の各種部材として用いた際に、外部から衝撃を受けたときの耐性が実用上十分なものとなり、作業者の安全を確保することができる。落錘衝撃強度は、常温下において、ストライカー径が10mmφ、ストライカー重量3.2kgfを試験片に落下速度5.9m/sで衝撃を与えたときの衝撃エネルギーの値である。
【0027】
本実施形態の赤外線を透過し得る透過シートは熱可塑性樹脂を含む。熱可塑性樹脂であれば、一般的な成形加工が可能であり、シートを押出成形、射出成形、圧縮成形、ブロー成形等の種々の成形方法で成形することが可能である。
【0028】
熱可塑性樹脂としては、本実施形態に規定する可視光や赤外線に対する透過性を有していれば、いかなる樹脂でも使用することができる。熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン樹脂を含むことが好ましい。一般的に、各種樹脂等に赤外線を照射すると、照射した赤外線の波長において特有の吸収が起こり、樹脂を構成する分子鎖中の官能基等の種類、量によって、赤外線の透過量が小さくなる。かかる観点から、赤外線の透過量が大きい樹脂としてはポリオレフィン樹脂が好ましい。
【0029】
ポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリブタジエン樹脂、シクロオレフィン、ブテン−1樹脂、エチレン・プロピレンゴム、及びこれらの水添物等が挙げられる。これらの中でも、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂が好ましく、特に赤外線透過性の観点から、より単純な構造であり、赤外線を吸収する官能基が少ない、ポリエチレン樹脂がより好ましい。本実施形態にいうポリエチレン樹脂とは、エチレンの単独重合体であってもよいし、エチレンと、エチレンと共重合可能な他のコモノマー(例えば、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン等のα−オレフィン、酢酸ビニル、ビニルアルコール等)との共重合体であってもよい。ポリエチレン樹脂としては、例えば、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、架橋ポリエチレン(PEX)等が挙げられる。これらのポリエチレン樹脂は1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。本実施形態にいうポリプロピレン樹脂とは、プロピレンの単独重合体であってもよいし、プロピレンと、プロピレンと共重合可能な他のコモノマー(例えば、エチレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン等のα−オレフィン、酢酸ビニル、ビニルアルコール等)との共重合体であってもよい。これらのポリプロピレン樹脂は1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0030】
ポリエチレン樹脂は、通常、結晶性部位と非晶性部位とが存在しており、これらの部位の屈折率の違いにより白濁しており、可視光での透過性が劣ると考えられていた。本実施形態において、可視光線の光透過性を得るためには、ポリエチレン樹脂の結晶化度をできるだけ下げることが好ましく、その観点から、ポリエチレン共重合体が好ましい。一方、ポリエチレン共重合体において使用する単量体の種類と量によっては、赤外線の吸収が増大することもあり、その観点から、使用するコモノマーはプロピレン、1−ブテンが好ましい。また、1−ヘキセン、1−オクテン等の単量体を使用する場合には、赤外線の透過性が20%を下回らない程度の添加量に抑えることが好ましい。通常、全単量体量に対する上記単量体の添加量が1mol%未満であれば、得られる共重合体の赤外線の吸収を抑え、かつ透明性を十分に維持することが可能である。
【0031】
本実施形態において、上記したポリエチレン樹脂の可視光線の透過性を上げるには結晶性をできるだけ下げることが好ましく、その観点からはエチレンと他の単量体との共重合体であることが好ましい。結晶化度としては、特に限定されないが、好ましくは60%以下、より好ましくは50%以下、更に好ましくは45%以下である。結晶化度は、示差走査熱量計(DSC)により、JIS K 7121:1987に示された条件で融点を測定した際に、同時に測定される融解熱量を用いて、完全結晶の理論融解熱量(286.186J/g)に対する比として求めることができる。
【0032】
本実施形態にいうポリエチレン樹脂の分子量としては、特に限定されないが、135℃デカリン溶液中で測定した極限粘度の上限は7dL/g以下が好ましく、5dL/g以下がより好ましく、3dL/g以下が更に好ましい。ポリエチレン樹脂の極限粘度を上記範囲とすることにより、耐衝撃性と成形加工性のバランスが一層向上する。特に、極限粘度を7dL/g以下とすることにより、透過シートの表面平滑性が一層向上し、視認性が一層向上する傾向にある。
【0033】
本実施形態においてポリエチレン樹脂の温度190℃、荷重2.16kgfにおけるメルトフローレート(MFR)は、20g/10分以下であることが好ましく、より好ましくは10g/10分以下、更に好ましくは5g/10分以下である。MFRが20g/10分以下であることにより、シート成形時の溶融粘度が高くなり、成形加工が向上し、更には衝撃強度等の物性も向上するので好ましい。尚、MFRはJIS K 7210:1999に従って測定する。
【0034】
本実施形態においてポリエチレン樹脂の密度は、特に限定されないが、下限は、880kg/m3以上であることが好ましく、910kg/m3以上であることがより好ましく、915kg/m3以上であることが更に好ましい。ポリエチレン樹脂の密度を880kg/m3以上とすることにより優れた剛性を得ることができる。また、ポリエチレン樹脂の上限は960kg/m3以下であることが好ましく、より好ましくは950kg/m3以下であり、更に好ましくは945kg/m3以下であり、より更に好ましくは925kg/m3以下である。ポリエチレン樹脂の密度を960kg/m3以下とすることにより、非晶性部位の占める割合が多くなり、その結果として、優れた剛性を維持しつつヘーズ値を一層低くできるので好ましい。密度は、JIS K 7112:1999に従って測定する。
【0035】
次に、本実施形態の透過シートの製造方法について説明する。本実施形態において、前記熱可塑性樹脂は通常用いられる種々の成形加工方法でシートに成形することができる。このシートは、押出、射出、プレス、スカイプ等の種々の成形方法によって得ることができる。例えば、希望する形状のスリットを設けたダイスを押出機先端に取付けて行われる押出成形や、予め円柱状に圧縮成形した成形品を切削刃により薄皮状に削った、いわゆるスカイブすることによって希望する厚さに切削する方法でもよい。また、希望する形状の金型内に樹脂を敷き詰め、所定の温度、圧力下において熱可塑性樹脂を溶融加熱した後、加圧した状態で冷却する圧縮成形によって作製してもよい。或いは、射出成形法によって低温の金型に射出成形させてシートを作製することもできる。
【0036】
また、前記シートとしては、機械的強度及び透明性に優れるという観点から、配向性を有するポリエチレン樹脂製シートであることが好ましい。配向性ポリエチレン樹脂製シートは、従来から知られている方法で製造することができる。例えば、配向性ポリエチレン樹脂製シートの製造方法について説明すると、ポリエチレン樹脂の融点未満の温度で、所定方向に延伸させる方法が好ましく、ガラス転移点温度以上融点未満の温度で延伸させる方法がより好ましい。
【0037】
延伸時の温度が融点以上であると、延伸は容易にできるようになるが、伸長延伸後の冷却過程において再結晶化が起こり、白濁した状態に戻ってしまうため、透明性が低下する傾向にある。本発明者らは、鋭意検討した結果、意外にも、延伸工程を融点未満の温度で実施することによって透明性が増すことを見出した。その理由としては定かではないが、次のように考えられる。即ち、融点未満の温度では、結晶構造が残った状態でシートを伸長延伸するため、変形により内部の結晶構造が壊れて結晶サイズが小さくなり、可視光線の波長以下のサイズになることによって可視光線の透過性が向上するからではないかと考えられる(但し、本実施形態の作用はこれに限定されない)。同時に、配向させることによって耐衝撃性等の機械物性の向上も期待できる。配向以外によっても、耐衝撃性等の機械物性の改良も可能であり、例えば樹脂の分子量分布を狭くすることによっても対応が可能である。このため、分子量分布の狭いポリエチレン樹脂としてメタロセン系樹脂を用いた原料は特に好適である。
【0038】
上記したように、未延伸のポリエチレン樹脂製シートを延伸することにより、透明性を改善することができる。延伸比(χ)は3倍以上が好ましく、より好ましくは4倍以上、更に好ましくは5倍以上である。ここでいう延伸比は、延伸前の厚み/延伸後の厚みをいい、下記式(1)により求めることができる。このようにして得られるポリエチレン樹脂製シートは、上記した可視光線と赤外線の両方に対して一層優れた透過性を発揮することができる。この場合、ポリエチレン樹脂の種類は特に限定されないが、剛性の観点や、可視光の透過性に優れる非晶性部位と、赤外線の透過性に優れる結晶性部位のバランスの観点から、ポリエチレン樹脂の密度の上限は、960kg/m3以下であることが好ましく、950kg/m3以下であることがより好ましく、945kg/m3以下であることが更に好ましい。また、密度の下限は、880kg/m3以上であることが好ましく、910kg/m3以上であることがより好ましく、915kg/m3以上であることが更に好ましい。

χ:延伸比=t1/t2 (1)
t1:延伸前のシート厚み(mm)
t2:延伸後のシート厚み(mm)
【0039】
延伸は、一軸延伸でも二軸延伸でもよく、それぞれの方向に延伸することにより目的とする透明性が得られればよい。最終的に得られる配向性ポリエチレン樹脂製シートの厚みは、特に限定されないが、機械的強度と可視光線及び赤外線の透過性のバランスの観点から、0.2mm〜3mmの範囲が好ましく、より好ましくは0.3mm〜2mm、更に好ましくは0.5mm〜1.5mmの範囲である。
【0040】
その他の加工方法としては、例えば、延伸前の原反シートとして圧縮成形により作製した円柱状の成形品から切削刃により薄皮状に削ったスカイブしたシートを圧延加工する方法がある。また、押出成形によって得られた延伸前の原反シートを圧延加工することも可能である。圧延加工に用いるシートの加工手段については特に制限されないが、原反シートの表面状態としては、表面の平滑性が良いもの、例えば切削した際にメスマークのような刃跡がないものや、押出しシートの際にメルトフラクチャー等により、表面が波状になっていないもの等が好ましい。表面平滑性が良好な原反シートを用いることにより、それにより得られる圧延シートの表面平滑性も良好となるので、シート表面における外部散乱や透明性低下を効果的に抑制することができる。即ち、上述したtotalヘーズ値を小さくすることができ、上記したtotalヘーズ(B)に対する内部ヘーズ(A)の比α(A/B)を1に近づけることができる。原反シートの表面性が劣ると圧延後のヘーズ値、特に外部ヘーズ等が劣ったものとなる恐れがあり、高い視認性を有する透明なシートが得られない恐れがある。従って、延伸前の原反シートとしては、ポリエチレン樹脂等の熱可塑性樹脂の特性により最適な加工条件、加工方法を選択し得ることが好ましい。
【0041】
原反シートの延伸手段は、圧縮成形による二軸延伸、或いは相互に逆方向に回転する一対以上のロールで圧延する延伸方法を取ることも可能であるし、端部をクランプして一軸又は二軸で延伸することでもよい。
【0042】
シートの延伸時の加工温度は、上述したように融点未満の温度で行われることが好ましい。加工温度の上限は、好ましくは(融点−3)℃未満、より好ましくは(融点−5)℃未満、更に好ましくは(融点−10)℃未満の条件で延伸される。融点は、JIS K 7121:1987に規定された方法で、DSCを用いて測定し、ピークの頂点を融点とする。尚、複数のピークが認められる場合には、最も低温側のピークの値を用いる。融点未満の温度下において延伸を行う上では、ポリエチレン樹脂製シートの分子量が高いことが好ましい。分子量が高いと延伸する加工温度において樹脂の偏肉が生じ難く、所定の延伸比にまで安定的に延伸できる傾向にある。このように延伸工程においては、選択した原料の分子量、密度、融点等が重要な条件因子になる。
【0043】
本実施形態の透過シートは、単層の樹脂シートから製造することができるが、本実施形態の効果を損なわない範囲で他のフィルム、シート等と積層したり、或いはコーティング材料等を樹脂シートに塗布したりしても構わない。また、本実施形態の透過シートは、本実施形態の効果を損なわない範囲で、熱安定剤、耐候剤、着色顔料、難燃剤等の各種添加剤を樹脂に添加してもよい。
【0044】
上記により得られる透過シートは、これらの特性を生かし、電気設備内における電気絶縁シート、例えば分電盤内の結線端子の保護カバーとして用いることが可能である。この透過シートをそのままビスやリベット等で固定することも出来るし、例えばプラスチック板、アルミニウム、鉄等他の材料で作製した枠に該透過シートを取付け、その状態で分電盤内に取付けることも可能である。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0046】
測定方法及び条件
(1)密度(ρ:kg/m3
JIS K 7112:1999に準拠し、密度勾配管法(23℃)により測定を行った。
【0047】
(2)メルトフローレート(MFR)
ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)のMFRについては、JIS K 7210:1999に準拠し、測定を行った。
【0048】
(3)粘度平均分子量:
超高分子量ポリエチレンの粘度平均分子量については、以下に示す方法によって求めた。
まず、20mLのデカリン(デカヒドロナフタレン)にポリマー20mgをいれ、150℃で2時間攪拌してポリマーを溶解させた。その溶液を135℃の恒温槽で、ウベローデタイプの粘度計を用いて、標線間の落下時間(ts)を測定した。同様に、ポリマー5mgの場合についても測定した。ブランクとしてポリマーを入れていない、デカリンのみの落下時間(tb)を測定した。以下の式に従って求めたポリマーの比粘度(ηsp/C)をそれぞれプロットして濃度(C)とポリマーの比粘度(ηsp/C)の直線式を導き、濃度0に外挿した極限粘度(η:I.V)を求めた。

ηsp/C=(ts/tb−1)/0.1
【0049】
(4)融点
樹脂原料約8mgを秤量し、アルミパンに入れて封入した。そして、50℃から180℃まで昇温速度10℃/分で昇温させ、5分間維持した後に、降温速度10℃/分で50℃まで降温させ、5分間維持した後に、再び昇温速度10℃/分で180℃まで昇温させた。2回目の昇温時における融解に伴う吸熱ピークの温度を、熱重量測定装置(パーキンエルマー社製、「Pyris 1 DSC」)により測定し、融点とした。
【0050】
(5)成形方法
(5−1)プレスシートの成形
平板開口部の寸法が、縦200mm、横200mm、厚み0.5mm、1.0mm、2mmの金型を用い、JIS K 6936−2:2007に従って樹脂原料を圧縮成形することによりプレスシートを作製した。プレスシート作製においては、厚さ5mmの平滑な鉄板に厚さ0.1mmのアルミニウム板を載せ、さらに厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ社製、商品名「ルミラー」)を載せ、この上に縦200mm、横200mm、所定の厚み(厚み0.5mm、1.0mm)を有する金型を載せ、所定量の樹脂原料をサンプルとし、その金型の中に入れた。この上に、前述のポリエチレンテレフタレートフィルム、前述のアルミニウム板、前述の鉄板を同じく載せた。これを210℃に温度調節された圧縮成形機(神藤金属工業所社製、「SFA−37」)に入れ、210℃で5MPa、5分間加熱後、エアー抜きを行った後、10MPaで25分間加圧した。加圧終了後、サンプルを取り出して、25℃に温度調節された圧縮成形機(神藤金属工業所社製、「SFA−37」)に入れ、15±2℃/分の冷却速度で、10MPaの圧力下に5分間加圧しながら冷却した。冷却時には冷却水を一定量通水し、上記冷却速度になるよう調整した。
【0051】
(5−2)原反シートの作製
[スカイブシートの作製]
外径600mmφ、内径に90mmφの穴があいたドーナツ状の金型に厚みが最終的に130mm程度になるように、ポリエチレン粉末を投入し、約10MPaで30分内部のエアーを逃がし、その後、圧力を約9MPa前後、約140〜145℃の条件下で13時間加熱を行った。さらに、圧力を約9MPaに保ったまま、約7時間冷却を行った。金型から取り出したドーナツ状の成形体を2日以上室温にて放置し、内部の熱を更に徐熱することにより冷却させた。この後、ドーナツ状の成形体をスカイブマシーンに固定し、スカイブすることで厚み2mmのスカイブシートを得た。
[押出成形シートの作製]
口径φ30、L/D=38(フルフライトスクリュー)のTダイ押出し成形機を用い、ダイス幅300mm、リップ幅1.5mmのTダイを用いてスクリュー回転数 100rpm、シリンダー及びダイス温度を190℃、引き取り速度0.3m/分で厚み2.0mmの原反シートを作製した。
【0052】
(5−3)圧延成形
[圧延シートの作製]
上記押出し成形により得られた2.0mm厚みのシートをロール径300mmφ、ロール幅500mmの圧延ロールにより、常温で押出成形シートを任意のギャップに調整し、0.6m/分のロール回転速度で圧延を行った。シートの厚みが3.0mm以上の場合は、圧延状態を確認しながら、圧延できない場合はシートを予め120℃〜130℃で予熱し、任意のギャップに調整し、同様に圧延を行った。ロールの温度も120℃〜130℃で圧延を行った。圧延ロールから出た圧延シートは、引き取り速度を変えて引き取り、テンションコントローラーをモニターしながら200N以上の張力を掛けながら巻き取りを行った。巻き取ったシートは常温で数時間放置し冷却を行った。
【0053】
(6)シートの厚み
最終のシートの厚みは、ミツトヨ社製、マイクロメーター(395−541:BMD−25DM)を用いて小数点以下第3位まで測定し、小数点以下第3位の値を四捨五入した。なお、延伸比は、実測したシートの厚さから計算し、その値の小数点以下第2位を四捨五入して算出した。
【0054】
(7)ヘーズ
totalヘーズは、各試験片を35mm×50mmに切り出し、JIS K 7136:2000に準じて測定した。内部ヘーズは、外部ヘーズの要因を無くすために、石英ガラス製ホルダーに和光純薬製、特級エタノールを充填し、この中に試験片を入れてヘーズを測定した。測定により得られたtotalヘーズの値から内部ヘーズの値を差し引いた値を外部ヘーズとした。測定機器は日本電色工業社製、ヘーズメーターNDH2000を用いて測定した。
【0055】
(8)全光線透過率
全光線透過率は、JIS K 7361−1:1997に準じて測定した。測定機器は日本電色工業社製、ヘーズメーターNDH2000を用いて測定した。
【0056】
(9)赤外線透過率の測定
日本分光計社製、FT−IRフーリエ変換赤外分光光度計「FT/IR4100」を用い、透過法で、分解能4cm-1、積算回数32回、波長領域8μm〜14μmで透過率を測定し、測定によって得られた1cm-1毎の透過率を平均して得られた数値を平均赤外線透過率とした。1250cm-1〜714cm-1の波長領域の範囲を1cm-1毎に赤外線透過率を測定し、得られた値をすべて加算して全データ数で除することにより得た。
【0057】
(10)可視光線透過率
成形して得られた可視光線透過率測定用シートを日本分光社製、分光器「V−670」を用い、透過モードにより波長領域220nm〜2200nmの範囲を、データ間隔1nm、UV/VISバンド幅5nm、走査速度1000nm/分にて行い、測定によって得られた1nm毎の透過率を波長領域400nm〜800nmにおいて平均した値を平均可視光線透過率とした。測定に際しては、ベースライン/ダーク補正を実施した。光源の切り替えは340nm、回折格子切り替え850nmとし、フィルター交換はステップ方式で行った。
【0058】
(11)落錘衝撃強度:
ROSAND社製 IFW試験機を用い、縦100mm、横100mmの試験片を作成し、常温下において、ストライカー径が10mmφ、ストライカー重量3.2kgfを試験片に落下速度5.9m/sで衝撃を与えた。このときの衝撃エネルギーの値を落錘衝撃強度の値とした。
【0059】
(実施例1)
旭化成ケミカルズ社製、高密度ポリエチレン(HDPE、商品名「クレオレックスTM K4125」;密度941kg/m3、MFR=2.5g/10分、融点126℃)を用いて押出し原反シートを作製した。押出しシート原反の厚みは2.0mmに調整した。この原反シートを、ロールGAPを0.35mm、ロール温度を120℃、ロール回転数を0.6m/分とし、ロール圧延後のシートを312Nの張力を掛けて圧延シートを巻き取ったところ、最終のシート厚みは0.45mmであった。このときの延伸比は4.5倍であった。圧延シートの内部ヘーズ値は3.6%、外部ヘーズ値は1.0%、totalヘーズ値は4.6%であった。平均赤外線透過率は51.4%、平均可視光線透過率は89.5%であった。その他の物性については表1に記載した。
【0060】
(実施例2)
プライムポリマー社製、直鎖状低密度ポリエチレン(商品名「ウルトゼックス 3520L」;密度931kg/m3、MFR=2.1g/10分、融点124℃)を用い、押出し原反シートを作製した。押出しシート原反の厚みは2.0mmに調整した。この原反シートを、ロールGAPを0.35mm、ロール温度を110℃、ロール回転数を0.6m/分とし、ロール圧延後のシートを393Nの張力を掛けて圧延シートを巻き取ったところ、最終のシート厚みは0.51mmであった。このときの延伸比は3.9倍であった。圧延シートの内部ヘーズ値は4.6%、外部ヘーズ値は0.7%、totalヘーズ値は5.3%であった。平均赤外線透過率は39.8%、平均可視光線透過率は88.5%であった。その他の物性については表1に記載した。
【0061】
(実施例3)
プライムポリマー社製、直鎖状低密度ポリエチレン(商品名「ウルトゼックス 3520L」;密度931kg/m3、MFR=2.1g/10分、融点124℃)を用い、押出し原反シートを作製した。押出しシート原反の厚みは2.0mmに調整した。この原反シートを、ロールGAPを0.35mm、ロール温度を110℃、ロール回転数を0.6m/分とし、ロール圧延後のシートを236Nの張力を掛けて圧延シートを巻き取ったところ、最終のシート厚みは0.55mmであった。このときの延伸比は3.6倍であった。圧延シートの内部ヘーズ値は3.0%、外部ヘーズ値は3.1%、totalヘーズ値は6.1%であった。平均赤外線透過率は38.3%、平均可視光線透過率は89.4%であった。その他の物性については表1に記載した。
【0062】
(実施例4)
東ソー社製、超低密度ポリエチレン(商品名「ニポロン 08L55A」;密度884kg/m3、MFR=3.6g/10分)を用い、0.5mm厚みの金型を用いてプレス成形シートを作製した。得られたシートの内部ヘーズ値は4.8%、外部ヘーズ値は1.3%、totalヘーズ値は6.1%であった。平均赤外線透過率は21.9%、平均可視光線透過率は90.8%であった。その他の物性については表1に記載した。
【0063】
(実施例5)
住友化学社製、超低密度ポリエチレン(商品名「エクセレン VL−100」;密度900kg/m3、MFR=0.8g/10分)を用い、0.5mm厚みの金型を用いてプレス成形シートを作製した。得られたシートの内部ヘーズ値は4.4%、外部ヘーズ値は2.2%、totalヘーズ値は6.6%であった。平均赤外線透過率は36.0%、平均可視光線透過率は89.1%であった。その他の物性については表1に記載した。
【0064】
(比較例1)
東ソー社製、超低密度ポリエチレン(商品名「ニポロン 08L55A」;密度884kg/m3、MFR=3.6g/10分)を用い、1.0mm厚みの金型を用いてプレスシートを作製した以外は実施例4と同様に成形及び物性測定を行った。得られたシートの内部ヘーズ値は6.7%、外部ヘーズ値は0.6%、totalヘーズ値は7.2%であった。平均可視光線透過率は90.7%であったが、平均赤外線透過率は8.0%となり、赤外線の透過性が大きく低下した。その他の物性については表2に記載した。
【0065】
(比較例2)
住友化学社製、超低密度ポリエチレン(商品名「エクセレン VL−100」;密度900kg/m3、MFR=0.8g/10分)を用い、1.0mm厚みの金型を用いてプレスシートを作製した以外は実施例4と同様に成形及び物性測定を行った。得られたシートの内部ヘーズ値は10.1%、外部ヘーズ値は2.5%、totalヘーズ値は12.6%であった。平均可視光線透過率は85.7%であったが、平均赤外線透過率は12.0%となり、赤外線の透過性が大きく低下した。その他の物性については表2に記載した。
【0066】
(比較例3)
住友化学社製、超低密度ポリエチレン(商品名「エクセレン VL−100」;密度900kg/m3、MFR=0.8g/10分)を用い、2.0mm厚みの金型を用いてプレスシートを作製した以外は実施例4と同様に成形及び物性測定を行った。得られたシートの内部ヘーズ値は19.2%、外部ヘーズ値は2.5%、totalヘーズ値は21.7%であった。平均可視光線透過率は78.3%、平均赤外線透過率は4.5%となり、厚みが2.0mmになるといずれの値も大きく低下した。その他の物性については表2に記載した。
【0067】
(比較例4)
プライムポリマー社製、直鎖状低密度ポリエチレン(商品名「モアテック 0278G」;密度939kg/m3、MFR=2.8g/10分)を用い、0.5mm厚みの金型を用いてプレスシートを作製した以外は実施例4と同様に成形及び物性測定を行った。得られたシートの平均可視光線透過率は81.4%、平均赤外線透過率は48.8%であったが、内部ヘーズ値は47.3%、外部ヘーズ値は5.1%、totalヘーズ値は52.4%となり、透明性が劣る結果となった。その他の物性については表2に記載した。
【0068】
(比較例5)
プライムポリマー社製、直鎖状低密度ポリエチレン(商品名「エボリュー SP4030」;密度938kg/m3、MFR=3.8g/10分)を用い、0.5mm厚みの金型を用いてプレスシートを作製した以外は実施例4と同様に成形及び物性測定を行った。得られたシートの平均赤外線透過率は47.0%であったが、平均可視光線透過率は79.8%、内部ヘーズ値は90.9%、外部ヘーズ値は1.5%、totalヘーズ値は92.4%となり、透明性が劣る結果となった。その他の物性については表2に記載した。
【0069】
(比較例6)
プライムポリマー社製、直鎖状低密度ポリエチレン(エボリュー SP2520;密度925kg/m3、MFR=1.9g/10分)を用い、0.5mm厚みの金型を用いてプレスシートを作製した以外は実施例4と同様に成形及び物性を測定した。得られたシートの平均赤外線透過率は45.2%、平均可視光線透過率は85.1%であったが、内部ヘーズ値は77.0%、外部ヘーズ値は1.9%、totalヘーズ値は78.9%となり、透明性が劣る結果となった。その他の物性については表2に記載した。
【0070】
(比較例7)
プライムポリマー社製、直鎖状低密度ポリエチレン(商品名「ウルトゼックス 3520L」;密度931kg/m3、MFR=2.1g/10分)を用い、0.5mm厚みの金型を用いてプレスシートを作製した以外は実施例4と同様に成形及び物性測定を行った。得られたシートの平均赤外線透過率は41.9%、平均可視光線透過率は82.8%であったが、内部ヘーズ値は50.0%、外部ヘーズ値は4.5%、totalヘーズ値は54.5%となり、透明性が劣る結果となった。その他の物性については表2に記載した。
【0071】
(比較例8)
旭化成ケミカルズ社製、低密度ポリエチレン(商品名「サンテックTM LD M2713」;密度929kg/m3、MFR=1.3g/10分)を用い、0.5mm厚みの金型を用いてプレスシートを作製した以外は実施例4と同様に成形及び物性測定を行った。得られたシートの平均赤外線透過率は48%、平均可視光線透過率は82.8%であったが、内部ヘーズ値は77.9%、外部ヘーズ値は0.4%、totalヘーズ値は78.3%となり、透明性が劣る結果となった。その他の物性については表3に記載した。
【0072】
(比較例9)
旭化成ケミカルズ社製、エチレン酢酸ビニル共重合体(商品名「サンテックTM EVA EF0510」;酢酸ビニル濃度 4.8%、MFR=1.0g/10分)を用い、0.5mm厚みの金型を用いてプレスシートを作製した以外は実施例4と同様に成形及び物性測定を行った。得られたシートの内部ヘーズ値は17.9%、外部ヘーズ値は4.8%、totalヘーズ値は22.7%、平均可視光線透過率は87.2%であったが、平均赤外線透過率は15.5%となり、平均赤外線透過率が劣る結果となった。その他の物性については表3に記載した。
【0073】
(比較例10)
旭化成ケミカルズ社製、エチレン酢酸ビニル共重合体(商品名「サンテックTM EVA EF0910」;酢酸ビニル濃度 9.0%、MFR=1.0g/10分)を用い、0.5mm厚みの金型を用いてプレスシートを作製した以外は実施例4と同様に成形及び物性測定を行った。得られたシートの内部ヘーズ値は6.7%、外部ヘーズ値は8.7%、totalヘーズ値は15.4%、平均可視光線透過率は90.0%であったが、平均赤外線透過率は9.2%となり、平均赤外線透過率が劣る結果となった。その他の物性については表3に記載した。
【0074】
(比較例11)
旭化成ケミカルズ社製、エチレン酢酸ビニル共重合体(商品名「サンテックTM EVA EF1531」;酢酸ビニル濃度 15.0%、MFR=3.0g/10分)を用い、0.5mm厚みの金型を用いてプレスシートを作製した以外は実施例4と同様に成形及び物性測定を行った。得られたシートの内部ヘーズ値は4.2%、外部ヘーズ値は6.9%、totalヘーズ値は11.1%、平均可視光線透過率は91.0%であったが、平均赤外線透過率は6.3%となり、平均赤外線透過率が劣る結果となった。その他の物性については表3に記載した。EVAは、酢酸ビニル(VA)濃度と共にヘーズ値や平均可視光線透過率等の透明性は改良されるが、一方、平均赤外線透過率は低くなる結果となった。
【0075】
(比較例12)
旭化成ケミカルズ社製、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE、商品名「サンファインTM UL901」;極限粘度(I.V)=16.9dL/g、密度920kg/m3)を用いてスカイブシートを作製した。スカイブシートの厚みは0.5mmにスカイブした。得られたシートの平均赤外線透過率は49.7%、平均可視光線透過率は89.1%であったが、内部ヘーズ値は35.9%、外部ヘーズ値は29.6%、totalヘーズ値は65.5%となり、ヘーズ値が劣る結果となった。その他の物性については表3に記載した。
【0076】
(比較例13)
旭化成ケミカルズ社製、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE、商品名「サンファインTM UL901」;極限粘度(I.V)=16.9dL/g、密度920kg/m3)を用いてスカイブシートを作製した。スカイブシートの厚みは1.0mmにスカイブした。得られたシートの平均赤外線透過率は30.2%、平均可視光線透過率は83.8%であったが、内部ヘーズ値は53.4%、外部ヘーズ値は20.1%、totalヘーズ値は73.5%となり、ヘーズ値が劣る結果となった。その他の物性については表3に記載した。
【0077】
(比較例14)
プライムポリマー社製、ポリプロピレン(商品名「ノバテック EA9ET」;密度900kg/m3、MFR=0.5g/10分)を用い、0.5mm厚みの金型を用いてプレスシートを作製した以外は実施例4と同様に成形及び物性測定を行った。得られたシートの平均赤外線透過率は24.0%、平均可視光線透過率は87.1%であったが、内部ヘーズ値は22.7%、外部ヘーズ値は3.5%、totalヘーズ値は26.2%となり透明性が劣る結果となった。その他の物性については表4に記載した。
【0078】
(比較例15)
プライムポリマー社製、ポリプロピレン(商品名「ノバテック BC3L」;密度900kg/m3、MFR=10g/10分)を用い、0.5mm厚みの金型を用いてプレスシートを作製した以外は実施例4と同様に成形及び物性測定を行った。得られたシートの平均赤外線透過率は20.4%、平均可視光線透過率は73.4%であったが、内部ヘーズ値は96.2%、外部ヘーズ値は0.9%、totalヘーズ値は97.1%となり透明性が劣る結果となった。その他の物性については表4に記載した。
【0079】
(比較例16)
プライムポリマー社製、ポリプロピレン(商品名「ノバテック BCO3C」;密度900kg/m3、MFR=30g/10分)を用い、0.5mm厚みの金型を用いてプレスシートを作製した以外は実施例4と同様に成形及び物性測定を行った。得られたシートの平均赤外線透過率は26.3%、平均可視光線透過率は79.0%であったが、内部ヘーズ値は87.0%、外部ヘーズ値は1.6%、totalヘーズ値は88.6%となり透明性が劣る結果となった。その他の物性については表4に記載した。
【0080】
(比較例17)
市販の0.5mm厚みのタキロン社製のPC(ポリカーボネート、商品名「PCSM」、PS600)製シートの諸物性を測定した。その結果、得られたシートの内部ヘーズ値は0.1%、外部ヘーズ値は0.2%、totalヘーズ値は0.3、平均可視光線透過率は89.5%であったが、平均赤外線透過率は0.3%であった。ヘーズ及び可視光線等の透明性は優れているが、赤外線についてはほとんど透過しない結果となった。その他の物性については表4に記載した。
【0081】
(比較例18)
市販の1.0mm厚みのタキロン社製のPET(ポリエチレンテレフタレート、商品名「PETEC−6010」)製シートの諸物性を測定した。その結果、得られたシートの内部ヘーズ値は0.1%、外部ヘーズ値は0.3%、totalヘーズ値は0.4、平均可視光線透過率は90.5%であったが、平均赤外線透過率は0.0%であった。ヘーズ及び可視光線等の透明性は優れているが、赤外線についてはほとんど透過しない結果となった。その他の物性については表4に記載した。
【0082】
(比較例19)
0.6mm厚みのPMMA(旭化成ケミカルズ社製、商品名「デラグラスA」、密度1190kg/m3、屈折率1.49、シャルピー衝撃強さ19kJ/m2、曲げ強さ120MPa)製シートの諸物性を測定した。なお、シャルピー衝撃強さは、ISO 179/1fUに準拠したものであり、曲げ強さは、ISO 178に準拠したものである。その結果、得られたシートの内部ヘーズ値は0.6%、外部ヘーズ値は0.5%、totalヘーズ値は1.1%、平均可視光線透過率は92.4%であったが、平均赤外線透過率は0.4%であった。ヘーズ及び可視光線等の透明性は優れているが、赤外線についてはほとんど透過しない結果となった。その他の物性については表4に記載した。
【0083】
(比較例20)
0.8mm厚みのPMMA(旭化成ケミカルズ社製、商品名「デラグラスSR」、密度1180kg/m3、屈折率1.49、シャルピー衝撃強さ47kJ/m2、曲げ強さ94MPa)製シートの諸物性を測定した。その結果、得られたシートの内部ヘーズ値は0.4%、外部ヘーズ値は1.1%、totalヘーズ値は1.5%、平均可視光線透過率は92.2%であったが、平均赤外線透過率は0.2%であった。ヘーズ及び可視光線等の透明性は優れているが、赤外線についてはほとんど透過しない結果となった。その他の物性については表4に記載した。
【0084】
(比較例21)
1.0mm厚みのPMMA(旭化成ケミカルズ社製、商品名「デラグラスA」、密度1190kg/m3、屈折率1.49、シャルピー衝撃強さ19kJ/m2、曲げ強さ120MPa)製シートの諸物性を測定した。その結果、得られたシートの内部ヘーズ値は0.3%、外部ヘーズ値は0.7%、totalヘーズ値は1.0%、平均可視光線透過率は92.4%であったが、平均赤外線透過率は0.1%であった。ヘーズ及び可視光線等の透明性は優れているが、赤外線についてはほとんど透過しない結果となった。その他の物性については表4に記載した。
【0085】
【表1】

【0086】
【表2】

【0087】
【表3】

【0088】
【表4】

【0089】
以上より、実施例1〜5は、可視光線及び赤外線のいずれに対しても実用上十分な透過性を有することが確認された。そして、実施例1〜5は、totalヘーズ値も低く透明性に優れており、表面の散乱による外部ヘーズ値も小さいことも確認された。一方、比較例1〜21は、可視光線又は赤外線の少なくとも一方に対する透過性が不良であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の可視光線・赤外線透過シートは分電盤内の結線端子の保護材等として用いることができる。本発明の可視光線・赤外線透過シートは可視光線も赤外線も透過させるので、このシートを介して目視及び赤外線で結線の状態等をモニターできる。これにより、通電させた状態で結線端子の状態等が確認できるので、分電盤以降の設備・装置を停止させる必要がなく経済的にも有利になる。更に、自動化が可能になり、その結果省力化もできる。また、作業者の安全も確保できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂を含むシートであり、
外部ヘーズ値が6%以下、内部ヘーズ値が10%以下であり、波長8μm〜14μmの範囲における赤外線の平均透過率が20%以上であり、波長400nm〜800nmの範囲における可視光線の平均透過率が70%以上である、可視光線・赤外線透過シート。
【請求項2】
前記シートが長尺シートである、請求項1に記載の可視光線・赤外線透過シート。
【請求項3】
前記シートの厚みが0.2mm〜3mmである、請求項1又は2に記載の可視光線・赤外線透過シート。
【請求項4】
前記シートの落錘衝撃強度が1J以上である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の可視光線・赤外線透過シート。
【請求項5】
前記シートのtotalヘーズ値(B)に対する内部ヘーズ値(A)の比(α=A/B)が、0.5以上である、請求項1〜4のいずれか一項記載の可視光線・赤外線透過シート。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂は、ポリオレフィン樹脂を含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の可視光線・赤外線透過シート。
【請求項7】
前記ポリオレフィン樹脂は、ポリエチレン樹脂である、請求項6に記載の可視光線・赤外線透過シート。
【請求項8】
前記ポリエチレン樹脂の135℃デカリン溶液中で測定した極限粘度が、7dL/g以下である、請求項7に記載の可視光線・赤外線透過シート。
【請求項9】
前記ポリエチレン樹脂の密度が、960kg/m3以下であり、かつ温度190℃、荷重2.16kgfにおけるメルトフローレート(MFR)が、20g/10分以下である、請求項7又は8に記載の可視光線・赤外線透過シート。

【公開番号】特開2012−126769(P2012−126769A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−277403(P2010−277403)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(000230940)日本原子力発電株式会社 (130)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【出願人】(000116736)旭化成エンジニアリング株式会社 (49)
【Fターム(参考)】