説明

可逆性のサーモクロミック物質で調製されたフォトクロミック光学物品

(a)光学基材;(b)熱可逆性のフォトクロミック物質;および(c)室温以下でUV/可視光を少なくとも部分的にフィルタにかけることができ、かつ室温より高い温度でUV/可視光をフィルタにかけにくくできる可逆性のサーモクロミック物質を含むフォトクロミック光学物品が提供される。本発明は、上記熱可逆性のフォトクロミック物質の温度依存性に「補完的」である、室温以下でUV/可視光を少なくとも部分的にフィルタにかけることができる1種以上の可逆性のサーモクロミック物質を含む光学物品を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
本出願は、2008年12月16日に出願された米国仮特許出願第61/122,902からの優先権の利益を主張し、この仮特許出願はその全体が本明細書において参照として援用される。
【0002】
(使用分野)
本発明は、室温以下で紫外線および可視光(「UV−Vis」)をフィルタにかけることができ、かつ室温より高い温度でUV/可視光をフィルタにかけにくくできる可逆性のサーモクロミック物質で調製されたフォトクロミック光学物品に関する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
フォトクロミズムは、特定のクラスの分子の特性であって、ここで可視光もしくは紫外線が、上記分子の、異なるUV−可視吸収スペクトルを有する別の形態への可逆的異性化をもたらすものである。このタイプの化合物は、日光応答性光学物品(例えば、眼用レンズ、ゴーグル、フェイスシールド、窓、飛行機用シート(aircraft transparencies)、およびディスプレイスクリーンにおける幅広い使用が見いだされている。フォトクロミック分子は、大まかに2つのタイプに分けられ得る:周囲温度に依存する速度でそれらの最初の状態に戻るもの(「熱可逆性」フォトクロミック物質)、およびそれらの最初の状態に戻るのに異なる波長の光吸収を必要とする、熱的に安定なもの。
【0004】
それらの最初の状態に熱的に戻るフォトクロミック分子のタイプについては、異性形態の間の平衡が、入射光強度およびそれらが含まれるマトリクスの温度の両方の関数であることが明らかである。これは、光学物品(例えば、以前に言及されたもの)へ代表的には組み込まれるフォトクロミック分子の場合である。すなわち、このような熱可逆性フォトクロミック分子については、それらの活性化の程度(着色の程度)は、温度依存性応答を示す。美容的および実用的両方の理由から、この温度依存性をある程度軽減することは望ましい。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
(発明の要旨)
本発明は、(a)光学基材;(b)熱可逆性のフォトクロミック物質;および(c)室温以下でUV/可視光を少なくとも部分的にフィルタにかけることができ、かつ室温より高い温度でUV/可視光をフィルタにかけにくくできる、可逆性のサーモクロミック物質、を含む、フォトクロミック光学物品に関する。
【発明を実施するための形態】
【0006】
(発明の詳細な説明)
本明細書および添付の特許請求の範囲において使用される場合、単数形「1つの、ある(a)」、「1つの、ある(an)」および「上記、この、その(the)」は、具体的にかつ明白に単数形に限定されなければ、複数形を含むことが注意される。
【0007】
本明細書の目的のために、別段示されなければ、成分、反応条件、ならびに本明細書および特許請求の範囲において使用される他のパラメーターの量を表す全ての数字は、全ての場合において用語「約」によって修飾されていると理解されるべきである。よって、そうでないと示されなければ、以下の本明細書および添付の特許請求の範囲に示される数値パラメーターは、本発明によって得られるべき望ましい特性に依存して変動し得る近似値である。少なくとも、および特許請求の範囲に対する均等論の適用を制限しようとするものではなく、各数値パラメーターは、報告された有効数字の数値に鑑みて、および通常の丸め技術を適用することによって、少なくとも解釈されるべきである。
【0008】
本明細書の全ての数値範囲は、全ての数値および示される数値範囲内の全ての数値を含む。それにも拘わらず、本発明の広い範囲を示す上記数値範囲およびパラメーターは、近似値であり、具体例において示される数値は、可能な限り正確に報告される。しかし、任意の数値は、それらそれぞれの試験測定値において見いだされる標準偏差から必然的に生じる特定のエラーを本質的に含む。
【0009】
本明細書で示されるように、本発明の種々の実施形態および例は、本発明の範囲に関して非限定的であることが各々理解される。
【0010】
以下の説明および特許請求の範囲において使用される場合、以下の用語は、示される意味を有する:
用語「〜の上に、〜に対して(on)」、「〜に付随する」、「〜に添付される」、「〜に結合される」、「〜に接着される」、もしくは類似の趣旨の用語は、指定された項目(例えば、物質、コーティング、フィルムもしくは層)が、物体の表面に直接連結される(置かれる)、もしくは上記物体の表面に(例えば、1つ以上の他のコーティング、フィルムもしくは層を介して)間接的に連結される(置かれる)のいずれかであることを意味する。
【0011】
用語「眼の」とは、眼および視覚(例えば、眼用レンズ(例えば、矯正レンズおよび非矯正レンズ)および拡大鏡が挙げられるが、これらに限定されない)と関連している要素およびデバイスに言及する。
【0012】
例えば、ポリマー物質とともに使用される場合に、用語「光学的品質」(例えば、「光学的品質の樹脂」もしくは「光学的品質の有機ポリマー物質」)とは、示された物質(例えば、ポリマー材料、樹脂、もしくは樹脂組成物)が、光学物品(例えば、眼用レンズ)として、もしくは光学物品と組み合わせて使用され得る基材、層、フィルムもしくはコーティングであるか、またはこれらを形成することを意味する。
【0013】
用語「剛性」とは、例えば、光学基材とともに使用される場合、上記特定の項目が、自己支持性(self−supporting)であることを意味する。
【0014】
用語「光誘導機能(light influencing function)」、「光誘導特性(light influencing property)」もしくは類似の趣旨の用語は、上記示された物質(例えば、コーティング、フィルム、基材など)が、上記材料に当たる入射光照射(例えば、可視光、紫外線(UV)および/もしくは赤外線(IR)照射)の吸収(もしくはフィルタリング)によって改変し得ることを意味する。代替の実施形態において、上記光誘導機能は、偏光(例えば、偏光子および/もしくは2色性色素によって);光吸収特性の変化(例えば、化学放射線へ曝した際に色が変化する発色団(例えば、フォトクロミック物質)の使用によって);入射光照射の一部のみの透過(例えば、定められたチント(tint)(例えば、従来の色素)の使用によって);またはこのような光誘導機能のうちの1つ以上の組み合わせによるものであり得る。
【0015】
用語「少なくとも1つの光誘導特性を有するように適合された」とは、例えば、剛性の光学基材とともに使用される場合、特定された項目が、上記光誘導特性がそれに組み込まれ得るかもしくはそれに付随し得ることを意味する。例えば、光誘導特性を有するように適合されたプラスチックマトリクスは、上記プラスチックマトリクスが、フォトクロミック色素もしくはチントを内部に適応させるために十分な内部自由体積を有することを意味する。このようなプラスチックマトリクスの表面は、代わりに、それに付随したフォトクロミック層もしくは着色層(tinted layer)、フィルムまたはコーティングを有し得るか、そして/あるいはそれに付随した偏光フィルムを有し得る。
【0016】
用語「光学基材」とは、上記特定の基材が、少なくとも4%の光透過率(light transmission value)を示し(入射光が透過する)、かつ例えば、Haze Gard Plus Instrumentによって550nmで測定した場合に、1%未満(例えば、0.5%未満)のヘーズ値(haze value)を示すことを意味する。光学基材としては、光学物品(例えば、レンズ)、光学層(optical layer)(例えば、光学樹脂層)、光学フィルムおよび光学的コーティング、ならびに光誘導特性を有する光学基材が挙げられるが、これらに限定されない。
【0017】
用語「透明な」とは、例えば、基材、フィルム、物質および/もしくはコーティングとともに使用される場合、上記示された基材、コーティング、フィルムおよび/もしくは物質が、向こう側にある物体が完全に見えるように、認め得るほどの散乱なしに光を透過させる特性を有することを意味する。
【0018】
語句「少なくとも部分的フィルム」もしくは「少なくとも部分的コーティング」とは、少なくとも一部(最大で上記基材の完全な表面まで)を被うフィルムの量を意味する。本明細書で使用される場合、「フィルム」とは、物質のシートタイプもしくは物質のコーティングタイプによって形成され得る。例えば、フィルムは、示された物質の少なくとも部分的に硬化されたポリマーシート、もしくは少なくとも部分的に硬化されたポリマーコーティングであり得る。
【0019】
用語「フォトクロミック」とは、少なくとも化学放射線に応じて変動する少なくとも可視性の照射に対する吸収スペクトルを有することを意味する。本明細書で使用される場合、用語「フォトクロミック物質」とは、フォトクロミック特性を示す(すなわち、少なくとも化学放射線に応じて変動する少なくとも可視性の照射に対して吸収スペクトルを有するように適合された)任意の基材を意味する。また、本明細書で使用される場合、用語「化学放射線」とは、フォトクロミック物質を、一方の形態もしくは状態から別の形態もしくは状態へ変化させ得る電磁放射線をいう。
【0020】
以前に言及したように、本発明は、(a)光学基材;(b)熱可逆性のフォトクロミック物質;および(c)室温以下でUV/可視光を少なくとも部分的にフィルタにかけることができ、かつ室温より高い温度でUV/可視光をフィルタにかけにくくできる可逆性のサーモクロミック物質、から構成されるフォトクロミック光学物品に関する。用語「UV/可視光をフィルタにかける」とは、本明細書では、上記サーモクロミック物質が、UV/可視光の透過を完全にブロックし得るか、または減衰させ得る(すなわち、その量を低下させる)ことを意味する。
【0021】
上記フォトクロミック分子が上記で言及されるように光学物品に組み込まれる場合、それは、可視性吸収形態(すなわち、色づいた状態)に向かう異性体の間の平衡を押し動かすのは、UV光の強度である。従って、本発明は、上記熱可逆性のフォトクロミック物質の温度依存性に「補完的」である、室温以下でUV/可視光を少なくとも部分的にフィルタにかけることができる1種以上の可逆性のサーモクロミック物質を含む光学物品を提供する。すなわち、暖かい温度でより多くの光を透過させる可逆性のサーモクロミック物質は、より多くの光が上記フォトクロミック分子を活性化させることを可能にし、従って、異性体間の平衡全体に対する温度の効果を低下させる。同様に、低温度でより多くのUV/可視光をブロックする(すなわち、フィルタにかける)可逆性のサーモクロミック物質は、より少ない光が上記フォトクロミック分子を活性化することを可能にし、従って、異性体間の平衡に対する温度の効果を低下させる。低温で上記UV/可視光を遮り(すなわち、フィルタにかけ)、高温での増大した透過を可能にすることによって、これら可逆性のサーモクロミック物質は、広い範囲の温度にわたってより均質に活性化する(すなわち、色づくかもしくは濃くなる)フォトクロミック光学物品を提供する。
【0022】
本発明の目的のために、上記可逆性のサーモクロミック物質(c)は、450nm未満の範囲(例えば、300〜450nm、もしくは310〜430nm、もしくは330〜410nm)のUV/可視光をフィルタにかけることができる。さらに、上記可逆性のサーモクロミック物質(c)は、室温以下の温度で、例えば、25℃(±3℃)以下で(例えば、0℃以下の温度、もしくは−10℃以下の温度)UV/可視光をフィルタにかけることができる。また、上記可逆性のサーモクロミック物質(c)は、−100℃より高い温度(例えば、−50℃より高い、もしくは−30℃より高い)でUV/可視光をフィルタにかけることができる。可逆性の物質(c)は、前述の温度のうちのいずれかの間の範囲の温度(記載されるものを含む)でUV/可視光をフィルタにかけることができる。
【0023】
以前に言及したように、上記可逆性のサーモクロミック物質(c)はまた、室温より高い温度で(すなわち、約25℃(±3℃)より高い温度で)UV/可視光をフィルタにかけにくくできる。用語「室温より高い温度でUV/可視光をフィルタにかけにくくできる」とは、室温より高い温度でいくらかのUV/可視光の吸光度を必ずしも排除しないことに注意すべきである。
【0024】
本発明の代替の実施形態において、上記可逆性のサーモクロミック物質(c)は、室温より高い温度でUV/可視光をフィルタにかけることができる。いくつかの適用に関して、例えば、30℃より高い、もしくは50℃より高い、もしくは70℃より高い温度でUV/可視光をフィルタにかけることは望ましいことであり得る。本発明の光学物品において、上記フォトクロミック物質は、上記光学物品が調製されるマトリクスに組み込まれ得るか、そして/または上記フォトクロミック物質は、上記光学基材の表面に付随し得る。上記フォトクロミック物質を上記光学物品マトリクスへ組み込むことは、例えば、1種以上のフォトクロミック物質と、上記光学物品マトリクスが型にとられるかもしくは別の方法で上記物品を形成する前に調製される上記ポリマー成分と混合することによって、達成され得る。上記フォトクロミック物質は、上記マトリクスを形成するために使用されるポリマーと反応性であってもよいし、反応性でなくてもよい。上記フォトクロミック物質を上記光学物品に付随させることは、種々の手段(例えば、フォトクロミック物質を上記基材表面に吸収(imbibition)させるか、もしくはフォトクロミックコーティング組成物を上記光学基材表面に適用して、少なくとも部分的フォトクロミックコーティングを上記光学基材上に形成することによって、が挙げられる)のうちのいずれかを介して達成され得る。本明細書で使用される場合、用語「吸収(imbibition)」とは、上記フォトクロミック物質単独の、上記光学基材物質への浸透、上記フォトクロミック物質の、多孔性ポリマー光学基材物質への溶媒補助による移動、気相移動、および他のこのような移動法を含む。室温以下でUV/可視光を少なくとも部分的にフィルタにかけることができ、かつ室温より高い温度でUV/可視光をフィルタにかけにくくできる、上記可逆性のサーモクロミック物質(c)のうちの1種以上が、上記フォトクロミック物質の上にかつこれに付随した少なくとも部分的にコーティングされた層として上記フォトクロミック光学物品に組み込まれ得るか;そして/または本発明の上記温度依存性UV吸収剤のうちの1種以上が、上記フォトクロミック物質自体の成分として含まれ得る。
【0025】
室温以下でUV/可視光を少なくとも部分的にフィルタにかけることができ、かつ室温より高い温度でUV/可視光をフィルタにかけにくくできる、上記可逆性のサーモクロミック物質(c)は、ホスト物質(host material)(すなわち、溶媒もしくは樹脂製の結合剤系)中に溶解され、上記光学基材に予め適用された上記熱可逆性のフォトクロミック物質を被う少なくとも部分的コーティングとして適用される低分子および/もしくはポリマーのいずれかを含み得るか;または上記可逆性のサーモクロミック物質(c)は、「希釈されずに」(すなわち、ホスト物質なしで)、上記フォトクロミック物質に直接(例えば、上記フォトクロミック物質の上のかつこれに付随した少なくとも部分的フィルムもしくはコーティングとして)適用され得る。
【0026】
一実施形態において、室温以下でUV/可視光を少なくとも部分的にフィルタにかけることができ、かつ室温より高い温度で吸収しにくくできる可逆性のサーモクロミック物質(c)は、互変異性体および/もしくは温度に応じて、コンホメーション誘導性クロミズムを受けるサーモクロミックポリマー(例えば、螺旋状ポリマー)を含む。
【0027】
互変異性体は、それらの原子の結合性の再配置を介して、相互転換する2種の異なる異性形態で存在する分子である。この再配置は、しばしば、あるヘテロ原子から別のヘテロ原子へのプロトンの移動、またはヘテロ原子を含む環構造を開環して、鎖構造を形成することを含む。多くの他の互変異性体性相互転換もまた、起こり得る。ある分子の上記互変異性体性形態の間の平衡は、温度、ならびに溶媒もしくはマトリクス極性とともに変動し得る。
【0028】
本発明の光学物品における上記可逆性のサーモクロミック物質(c)としての使用に適した互変異性体の非限定的例としては、シッフ塩基およびマンニッヒ塩基が挙げられ得る。
【0029】
適切なシッフ塩基としては、以下の構造式I−Aを有するものが挙げられ得る:
【0030】
【化1】

【0031】
ここでRは、水素、ヒドロキシル、ハロゲン、C−C12アルコキシ、C−C12アルキル、アミド、アミン、エステル、ニトロ、C−Cイミノ(C−C)アルキル、ベンジルイミノ(C−C)アルキル、アリールおよび置換されたアリールであり、ここで上記置換基は、水素、ヒドロキシル、ハロゲン、C−C12アルコキシ、C−C12アルキル、アミド、アミン、エステル、ニトロ、C−Cイミノ(C−C)アルキル、ベンジルイミノ(C−C)アルキル、およびアリールから選択されるか、または2個の隣接するR基(例えば、5位および6位で)が一緒になって、5員もしくは6員の環式または複素環を形成し;Rは、C−C12アルキル、アリールもしくは置換されたアリール(上記で定義される)であり;そしてRは、C−C12アルキル、ベンジル基、もしくは上記のアリール基と同じ置換基を有する置換されたベンジル基である。
【0032】
一般に、このようなシッフ塩基は、以下に示されるように、例えば、芳香族ケトンもしくはアルデヒド(例えば、化合物Aによって表されるもの)を、求核剤(例えば、化合物Bとして表される脂肪族アミン)と、アルコール溶液(例えば、エタノール溶液)中で還流することによって、調製され得る。より具体的には、化合物Aは、オルト位にヒドロキシ基を有するアセトフェノンであり得、化合物Bは、脂肪族アミンもしくはベンジル性アミン(benzylic amine)(置換されたもしくは置換されていない芳香族環の両方を伴うものが挙げられる)であり得る。そのようにして得られた上記温度依存性UV吸収剤は、代表的には、冷却した際に溶液から結晶化し、濾過によって集められ得る。非常に頻繁なことには、上記UV吸収剤は、油の形態で存在し、これは、次いで、分離技術を介して単離され得る。
【0033】
【化2】

【0034】
適切なシッフ塩基としては、例えば、以下の物質が挙げられ得る:
【0035】
【化3】

【0036】
【化4】

【0037】
【化5】

【0038】
適切なマンニッヒ塩基としては、β−アミノ−カルボニルもしくはマンニッヒ塩基を生じるアルデヒドもしくはケトンの隣にある酸性プロトンでのアミノアルキル化を含むマンニッヒ反応の最終生成物から得られるもののような物質が挙げられる。
【0039】
【化6】

【0040】
マンニッヒ塩基は、プロトンドナー(OH)とプロトンアクセプター(N)(上記のように水素結合した種)との間の分子内平衡を伴う。上記温度が低下するにつれて、平衡状態は、よりプロトン化された形態へとシフトし、吸光度スペクトルの変化が観察され得る。吸収の増大が生じる場合、上記物品を通過するUV光の量が、減衰させられる。逆に、温度が上昇すると、吸収スペクトルの低下は、さらなる光が上記物品を通過することを可能にすることが観察される。
【0041】
本明細書中以降に列挙される上記マンニッヒ塩基誘導体は、例えば、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノンを出発材料として使用する以下の一般的手順によって形成され得る。上記2,4−ジヒドロキシベンゾフェノンは、滴下漏斗、加熱マントル、マグネチックスターラー、ディーンスターク装置および窒素入り口/バブラーを備えた反応フラスコ中に導入される。トルエンおよび/もしくはトルエン/エタノールが添加され、上記溶液は、窒素下で攪拌される。2,4−ジヒドロキシベンゾフェノンの溶解度は、室温でトルエン/エタノール中でより大きい。次いで、等モル量のアミンが添加される。等モル量のホルマリン(37% ホルムアルデヒド水溶液)が上記混合物(これは、添加の間に温かくなる)に滴下される。いったん添加が完了すると、上記混合物を還流し、ディーンスターク装置を介して、水を除去する。反応混合物を、TLCによって反応物であるベンゾフェノンが残っていないかについて定期的にチェックする。一旦、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノンが存在することがTLCによってほとんどもしくは全く観察されなくなったら、上記反応混合物を冷却する。上記溶媒を除去し、その粗製生成物を再結晶化する。上記再結晶化が達成できなければ、上記粗製生成物のサンプルを、カラムクロマトグラフィーにかけ得る。上記クロマトグラフィーで使用される移動相は、使用されるアミンの塩基度に依存する。代表的には、クロマトグラフィーは、定常相としてシリカゲル、および酢酸エチル/エタノールもしくはクロロホルム/エタノール移動相のいずれかを使用して行われて、上記マンニッヒ塩基生成物を溶出する。
【0042】
適切なマンニッヒ塩基としては、以下に記載されるものが挙げられ得る:
【0043】
【化7】

【0044】
【化8】

【0045】
以前に言及したように、室温以下でUV/可視光を少なくとも部分的にフィルタにかけることができ、かつ室温より高い温度で吸収しにくくできる、上記可逆性のサーモクロミック物質(c)はまた、温度に応じて、コンホメーション誘導性クロミズムを受けるサーモクロミックポリマー(例えば、螺旋状ポリマー)を含み得る。
【0046】
このような物質は、温度変化とともに、コンホメーション誘導性クロミズム、すなわち、UV−可視光吸収スペクトルの可逆的変化を受け得る。明確な機構は未だ確立されていないが、このようなサーモクロミックポリマーは、同一平面の(高度に共役した)形態と、非平面の(共役していない)形態との間の可逆的「遷移」を受けると考えられる。文献中で公知の例のうちの多くのタイプ(例えば、ポリチオフェン、ポリシラン、ポリ(プロパルギルアミド)およびポリジアセチレン)が存在する。
【0047】
コンホメーション誘導性クロミズムを受ける適切なポリマーの非限定的例としては、以下の構造を有するものが挙げられる:ここでR’は、C−C12アルキル、ペルフルオロ(C−C12)アルキル、C−C12アルコキシ、トリチル基、C−C12エーテル、C−C12環式エーテル、C−C12環式ラクトン、1〜4個のフェニル環で置換されたC−C12アルキル鎖、ベンジル基、置換されたベンジル基(ここで上記ベンジルの置換基は、水素、ヒドロキシル、ハロゲン、C−C12アルコキシ、C−C12アルキル、アミド、アミン、エステル、ニトロ、C−Cイミノ(C−C)アルキル、ベンジルイミノ(C−C)アルキル、およびアリールから選択される)であり得;およびこれらのコポリマーは、その対応するプロパルギルアミドモノマーの重合によって調製され得る。このモノマーは、上記R’基を有する酸クロリドもしくは酸アルデヒドと、求核剤(代表的には、プロパルギルアミン)との反応によって生成される。上記ポリマーは、ビシクロ(2.2.1)ヘプタ−2,5−ジエン−ロジウム(I)テトラフェニルボレート触媒を用いる、モノマーの重合によって生成される。
【0048】
【化9】

【0049】
温度に応じてコンホメーション誘導性クロミズムを受ける適切なポリマーとしては、例えば、以下の物質が挙げられ得る:
【0050】
【化10】

【0051】
(基材)
上記光学基材(a)としての本発明のフォトクロミック光学物品の調製における使用に適した基材は、当該分野で公知のプラスチック光学基材のうちのいずれかを含み得、そして非プラスチック基材(例えば、ガラス)を含み得る。プラスチック光学基材の適切な例としては、以下が挙げられ得る:ポリオール(アリルカーボネート)モノマー(例えば、アリルグリコールカーボネート(例えば、ジエチレングリコールビス(アリルカーボネート))(このモノマーは、PPG Industries,Incによって商標CR(登録商標)−39の下で販売される);ポリウレア−ポリウレタン(ポリウレアウレタン)ポリマー(これは、例えば、イソシアネート官能性ポリウレタンプレポリマーおよびジアミン硬化剤の反応によって調製される(1つのこのようなポリマーのための組成物は、PPG Industries,Incによって商標TRIVEX(登録商標)の下で販売される);ポリオール(メタ)アクリロイル末端化カーボネートモノマー;ジエチレングリコールジメタクリレートモノマー;エトキシル化フェノールメタクリレートモノマー;ジイソプロペニルベンゼンモノマー;エトキシル化トリメチロールプロパントリアクリレートモノマー;エチレングリコールビスメタクリレートモノマー;ポリ(エチレングリコール)ビスメタクリレートモノマー;ウレタンアクリレートモノマー;ポリ(エトキシル化ビスフェノールA ジメタクリレート);ポリ(ビニルアセテート);ポリ(ビニルアルコール);ポリ(ビニルクロリド);ポリ(ビニリデンクロリド);ポリエチレン;ポリプロピレン;ポリウレタン;ポリチオウレタン;熱可塑性ポリカーボネート(例えば、ビスフェノールAおよびホスゲンから得られるカーボネート結合樹脂)(1つのこのような物質は、商標LEXANの下で販売されている);ポリエステル(例えば、商標MYLARの下で販売されている物質);ポリ(エチレンテレフタレート);ポリビニルブチラール;ポリ(メチルメタクリレート)(例えば、商標PLEXIGLASの下で販売されている物質)および多官能性イソシアネートと、ポリチオールもしくはポリエピスルフィドモノマーとを反応することによって調製されるポリマー(ポリチオールでホモポリマー化、コポリマー化および/もしくはターポリマー化されたかのいずれか)、ポリイソシアネート、ポリイソチオシアネートならびに必要に応じてエチレン不飽和化されたモノマーもしくはハロゲン化された芳香族含有ビニルモノマー。例えば、相互貫入ネットワーク生成物(interpenetrating network product)を形成するために、このようなモノマーのコポリマー、および上記のポリマーおよびコポリマーと、他のポリマーとのブレンドもまた、企図される。
【0052】
さらに、上記基材は、それらの外側表面上に、保護的コーティング(例えば、耐研磨性コーティング(例えば、ハードコート)が挙げられるが、これらに限定されない)を有し得る。例えば、市販の熱可塑性ポリカーボネート眼用レンズ基材は、しばしば、その外側表面に既に耐研磨性コーティングが適用されて販売されている。なぜなら、これら表面は、容易にひっかき傷がつきやすいか、すり減りやすいか、またはこすられやすいからである。このようなレンズ基材の例は、GENTEXTMポリカーボネートレンズ(Gentex Opticsから市販される)である。従って、本明細書で使用される場合、用語「基材」は、その表面上に保護的コーティング(例えば、耐研磨性コーティングが挙げられるが、これらに限定されない)を有する基材を含む。
【0053】
なおさらに、上記基材は、透明であり得るか、または光誘導特性を有し得る。適切な光学基材は、色づいていない、色づいた、直線偏光、円偏光、楕円偏光、フォトクロミック、もしくは色づいたフォトクロミックの基材であり得る。本明細書で使用される場合、基材に言及して、用語「色づいていない」とは、着色剤添加(例えば、従来の色素が挙げられるが、これらに限定されない)を本質的に含まず、化学放射線に応じて顕著に変化しない可視光線に対する吸収スペクトルを有する基材を意味する。さらに、基材に言及して、用語「色づいた」とは、着色剤添加(例えば、従来の色素が挙げられるが、これらに限定されない)および化学放射線に応じて、顕著に変化しない可視光線に対する吸収スペクトルを有する基材を意味する。
【0054】
本明細書で使用される場合、基材に言及して、用語「直線偏光」とは、放射線を直線偏光するように適合された基材に言及する。基材に言及して、本明細書で使用される場合、用語「円偏光」とは、放射線を円偏光するように適合された基材に言及する。本明細書で使用される場合、基材に言及して、用語「楕円偏光」とは、放射線を楕円偏光するように適合された基材に言及する。
【0055】
(フォトクロミック物質)
熱可逆性のフォトクロミック物質(b)としての本発明のフォトクロミック光学物品において使用するのに適したフォトクロミック物質としては、ピラン、フルギドおよびオキサジンが挙げられ得る。適切な熱可逆性のフォトクロミック物質の具体例としては、以下のクラスの物質が挙げられ得るが、これらに限定されない:クロメン(例えば、ナフトピラン、ベンゾピラン、インデノナフトピランおよびフェナントロピラン(phenanthropyran));スピロピラン(例えば、スピロ(ベンゾインドリン(benzindoline))ナフトピラン、スピロ(インドリン)ベンゾピラン、スピロ(インドリン)ナフトピラン、スピロ(インドリン)キノピランおよびスピロ(インドリン)ピラン);オキサジン(例えば、スピロ(インドリン)ナフトオキサジン、スピロ(インドリン)ピリドベンゾオキサジン、スピロ(ベンゾインドリン)ピリドベンゾオキサジン、スピロ(ベンゾインドリン)ナフトオキサジンおよびスピロ(インドリン)ベンゾオキサジン);フルギド、フルギミドおよびこのようなフォトクロミック化合物の混合物。このようなフォトクロミック化合物は、米国特許第4,931,220号の第8欄52行目〜第22欄40行目;同第5,645,767号の第1欄10行目〜第12欄57行目;同第5,658,501号の第1欄64行目〜第13欄17行目;同第6,153,126号の第2欄18行目〜第8欄60行目;同第6,296,785号の第2欄47行目〜第31欄5行目;同第6,348,604号の第3欄26行目〜第17欄15行目;および同第6,353,102号の第1欄62行目〜第11欄64行目に記載されている。スピロ(インドリン)ピランはまた、教科書、Techniques in Chemistry,Volume III,「Photochromism」,第3章,Glenn H.Brown,Editor,John Wiley and Sons,Inc.,New York,1971に記載されている。同様に、本発明のフォトクロミック光学物品はまた、フォトクロミック−2色性色素を含み得る。前述のうちのいずれかの混合物が使用され得る。当該分野で公知である、他の従来の着色色素および/もしくは従来の2色性色素は、前述のフォトクロミック物質とともに、同様に使用され得る。
【0056】
本発明の光学物品において使用される上記フォトクロミック物質は、上記で議論されるように、吸収(imbibition)によって上記光学基材に付随し得る。あるいは、上記フォトクロミック物質は、コーティング組成物として上記光学基材に適用されて、少なくとも部分的フォトクロミックコーティングを、上記光学基材の表面上に形成し得る。従来のフォトクロミックコーティングの非限定的例としては、上記で詳細に議論されている従来のフォトクロミック化合物のうちのいずれかを含むコーティングを含む。例えば、本明細書では限定しないが、上記フォトクロミックコーティングは、フォトクロミックポリウレタンコーティング(例えば、米国特許第6,187,444号に記載されるもの);フォトクロミックアミノプラスト樹脂コーティング(例えば、米国特許第4,756,973号、同第6,432,544号および同第6,506,488号に記載されるもの);フォトクロミックポリシランコーティング(例えば、米国特許第4,556,605号に記載されるもの);フォトクロミックポリ(メタ)アクリレートコーティング(例えば、米国特許第6,602,603号、同第6,150,430号および同第6,025,026号、ならびにWIPO公報WO 01/02449に記載されるもの);ポリ無水物フォトクロミックコーティング(例えば、米国特許第6,436,525号に記載されるもの);フォトクロミックポリアクリルアミドコーティング(例えば、米国特許第6,060,001号に記載されるもの);フォトクロミックエポキシ樹脂コーティング(例えば、米国特許第4,756,973号および同第6,268,055号に記載されるもの);およびフォトクロミックポリ(ウレア−ウレタン)コーティング(例えば、米国特許第6,531,076号に記載されるもの)であり得る。前述の米国特許および国際公開の明細書は、本明細書に参考として具体的に援用される。
【0057】
(種々のコーティング)
遷移性コーティング(transitional coating)が、例えば、上記フォトクロミック物質の適用前に、上記光学基材に適用され得ることが言及されるべきである。本明細書で使用される場合、用語「遷移性コーティング」とは、2つのコーティングの間で特性の勾配を生み出すのを補助するコーティングを意味する。例えば、本明細書では限定しないが、遷移性コーティングは、比較的硬いコーティング(例えば、以前に言及した、上記光学基材表面に直接適用され得る保護的ハードコーティング)と、比較的軟らかいコーティング(例えば、フォトクロミックコーティング)との間;または比較的より軟らかいフォトクロミックコーティングと、その後に適用される耐研磨性コーティングとの間の硬さの勾配を生み出すのを補助し得る。硬い遷移性コーティングの非限定的例としては、放射線硬化されたアクリレートベースの薄いフィルムが挙げられ得る。
【0058】
1種以上の保護的コーティングが、上記フォトクロミック物質の上に(例えば、本発明の温度依存性UV吸収剤が、上記フォトクロミック物質中に成分として含められた場合)、または上記フォトクロミック物質に適用された温度依存性UV吸収剤の上に適用され得る。保護的コーティングの非限定的例としては、有機シランを含む耐研磨性コーティング、放射線硬化されたアクリレートベースの薄いフィルムを含む耐研磨性コーティング、無機物質(例えば、シリカ、二酸化チタンおよび/もしくは二酸化ジルコニウム)に基づく耐研磨性コーティング、紫外線硬化可能なタイプの有機性耐研磨性コーティング、酸素バリアコーティング、UV遮蔽コーティング、およびこれらの組み合わせが挙げられ得る。例えば、上記保護的コーティングは、放射線硬化されたアクリレートベースの薄いフィルムの第1のコーティングおよび有機シランを含む第2のコーティングを含み得る。市販の保護的コーティング製品の非限定的例としては、SILVUE(登録商標) 124およびHI−GARD(登録商標)コーティング(それぞれ、SDC Coatings,Inc.およびPPG Industries,Inc.から市販)が挙げられる。
【0059】
本発明は、例示としてのみ意図される以下の実施例により具体的に記載されている。なぜなら、そこでの多くの改変およびバリエーションが、当業者に明らかになるからである。
【実施例】
【0060】
パートAにおいて、実施例1〜20のシッフ塩基の調製を記載した。パートBにおいて、溶液中の実施例1〜20の光学密度の変化を報告した。パートCにおいて、実施例21〜27のポリマーフィルムの調製を記載した。パートDにおいて、上記ポリマーフィルムの光学密度の変化の測定を報告した。パートEにおいて、実施例28および29のサーモクロミックポリマーの調製を記載した。パートFにおいて、上記サーモクロミックポリマーの光学密度の変化の測定を記載した。パートGにおいて、フォトクロミックコーティングチップに先だって、溶液中の実施例28のポリマーの調製およびそのアセンブリの試験を記載した。
【0061】
(パートA−シッフ塩基の調製)
(実施例1)
2−ヒドロキシアセトフェノン(0.88mL,7.4mmol)を、丸底フラスコ中の10mLのエタノールに溶解した。テトラヒドロフラン(THF)中の2M溶液として、メチルアミン(4mL,8.1mmol)を添加し、得られた反応混合物を、窒素下で還流するまで加熱した。上記反応混合物は、色が黄色になった。30分後、上記反応混合物を室温へと冷却し、上記溶媒を除去して、黄色の結晶性固体を得た。上記黄色の固体を、15mLのトルエン中に溶解し、次いで、上記トルエンをエバポレートして、黄色の結晶性生成物(890mg,5.89mmol)を得た。NMR分析から、上記生成物は以下の名称と一致する構造を有することが示された:(E)−2−(1−(メチルイミノ)エチル)フェノール。
【0062】
(実施例2)
3,5−ジクロロ−2−ヒドロキシアセトフェノン(1.5g,7.4mmol)を、100mL丸底フラスコ中の10mLのエタノールに溶解した。THF中の2M溶液として、メチルアミン(4mL,8.1mmol)を添加し、得られた反応混合物を、窒素下で還流するまで加熱した。上記溶液は、色が明るい黄色になった。上記反応混合物を、30分間にわたって還流状態で加熱し、その後、室温へと冷却した。約2mLのエタノールをエバポレートした後、上記生成物を結晶化した。濾過によって回収したところ、上記生成物(0.9g,4.1mmol)を明るい黄色の粉末として得た。NMR分析から、上記生成物は以下の名称と一致する構造を有することが示された:(E)−4,6−ジクロロ−2−(1−(メチルイミノ)エチル)フェノール。
【0063】
(実施例3)
5−ニトロ−2−ヒドロキシアセトフェノン(1g,5.5mmol)を、100mL丸底フラスコ中の10mLのエタノールに溶解した。THF中の2M溶液として、メチルアミン(4mL,8.1mmol)を添加し、得られた反応混合物を、窒素下で還流するまで加熱した。上記溶液は、色が明るい黄色になった。これを30分間にわたって還流するまで加熱し、その後室温へと冷却した。上記生成物は、室温へと冷却すると結晶化した。濾過によって回収したところ、上記生成物(0.95g,5.0mmol)を明るい黄色の繊維状結晶として得た。NMR分析から、上記生成物は以下の名称と一致する構造を有することが示された:(E)−2−(1−(メチルイミノ)エチル)−4−ニトロフェノール。
【0064】
(実施例4)
1,1’−(4,6−ジヒドロキシ−1,3−フェニレン)ビスエタノン(1g,4.8mmol)を、100mL丸底フラスコ中の10mLのエタノールに溶解した。THF中の2M溶液としてメチルアミン(8mL,16mmol)を添加し、上記反応系を、窒素下で還流するまで加熱した。上記溶液は、色が黄色になった。これを、30分間にわたって還流するまで加熱し、その後、室温へと冷却した。上記生成物は、減圧下で数mLの溶媒を除去した後に結晶化した。上記生成物(0.3g,1.4mmol)を、黄色の微細な結晶性粉末として濾過によって単離した。NMR分析から、上記生成物は以下の名称と一致する構造を有することが示された:2,4−ビス((E)−1−(メチルイミノ)エチル)ベンゼン−1,5−ジオール。
【0065】
(実施例5)
2,2’−ジヒドロキシ−ベンゾフェノン(1g,4.6mmol)を、100mL丸底フラスコ中の10mLのエタノールに溶解した。THF中の2M溶液としてメチルアミン(3mL,6mmol)を添加し、上記反応系を、窒素下で還流するまで加熱した。上記溶液は、色が黄色になった。これを、60分間にわたって還流するまで加熱し、その後、室温へと冷却した。上記生成物は、減圧下で数mLの溶媒を除去した後に結晶化した。上記生成物(0.7g,3.1mmol)を、黄色の微細な結晶性粉末として濾過によって単離した。NMR分析から、上記生成物は以下の名称と一致する構造を有することが示された:(E)−2−(1−(メチルイミノ)−o−ヒドロキシフェニル)フェノール。
【0066】
(実施例6)
6−メトキシ−2−ヒドロキシアセトフェノン(1g,6mmol)を、100mL丸底フラスコ中の10mLのエタノールに溶解した。THF中の2M溶液としてメチルアミン(4mL,8mmol)を添加し、上記反応系を窒素下で還流するまで加熱した。上記溶液は、色が黄色になった。これを、60分間にわたって還流するまで加熱し、その後、室温へと冷却した。上記溶媒をエバポレートして、油状物を得た。これは、少量のヘキサンを添加したところ、固化した。上記生成物(0.7g,3.9mmol)を、淡黄色固体として濾過によって単離した。NMR分析から、上記生成物は以下の名称と一致する構造を有することが示された:(E)−3−メトキシ−2−(1−(メチルイミノ)エチル)フェノール。
【0067】
(実施例7)
2−ヒドロキシアセトフェノン(1g,7.4mmol)を、100mL丸底フラスコ中の10mLのエタノールに溶解した。イソプロピルアミン(0.75mL,8mmol)を添加し、上記反応系を、窒素下で還流するまで加熱した。上記溶液は、色が黄色になった。これを、45分間にわたって還流するまで加熱し、その後、室温へと冷却した。上記溶媒をエバポレートして、上記生成物(1.2g,6.7mmol)を黄色油状物として得た。NMR分析から、上記生成物は以下の名称と一致する構造を有することが示された:(E)−2−(1−(イソプロピルイミノ)エチル)フェノール。
【0068】
(実施例8)
2−ヒドロキシアセトフェノン(1g,7.4mmol)を、100mL丸底フラスコ中の10mLのエタノールに溶解した。ベンジルアミン(0.96mL,8.8mmol)を添加し、上記反応系を、窒素下で還流するまで加熱した。上記溶液は、色が黄色になった。これを、30分間にわたって還流するまで加熱し、その後、室温へと冷却した。冷却すると、結晶が形成し、上記生成物(1.6g,7.1mmol)を、黄色繊維状結晶として濾過によって回収した。NMR分析から、上記生成物は以下の名称と一致する構造を有することが示された:(E)−2−(1−(ベンジルイミノ)エチル)フェノール。
【0069】
(実施例9)
5−メトキシ−2−ヒドロキシアセトフェノン(1g,6mmol)を、100mL丸底フラスコ中の25mLのエタノールに溶解した。THF中の2M溶液としてメチルアミン(4mL,8mmol)を添加し、得られた反応混合物を、窒素下で還流するまで加熱した。上記溶液は色が黄色になった。これを、40分間にわたって還流するまで加熱し、その後、室温へと冷却した。上記溶媒をエバポレートして、黄色油状物を得た。これは、少量のヘキサンを添加したところ、結晶化した。上記生成物(0.75g,4.2mmol)を、黄色固体として濾過によって回収した。NMR分析から、上記生成物は以下の名称と一致する構造を有することが示された:(E)−4−メトキシ−2−(1−(メチルイミノ)エチル)フェノール。
【0070】
(実施例10)
6−メトキシ−2−ヒドロキシアセトフェノン(1g,6mmol)を、100mL丸底フラスコ中の25mLのエタノールに溶解した。ベンジルアミン(0.8mL,7.2mmol)を添加し、上記反応系を、窒素下で還流するまで加熱した。上記溶液は、色が黄色になった。これを、120分間にわたって還流するまで加熱し、その後、室温へと冷却した。上記溶媒をエバポレートして、黄色油状物を得た。これは、静置したところゆっくりと結晶化して、上記生成物を黄色固体として得た(1.4g,5.5mmol)。NMR分析から、上記生成物は以下の名称と一致する構造を有することが示された:(E)−3−メトキシ−2−(1−(ベンジルイミノ)エチル)フェノール。
【0071】
(実施例11)
4−メトキシ−2−ヒドロキシアセトフェノン(1g,6mmol)を、100mL丸底フラスコ中の25mLのエタノールに溶解した。THF中の2M溶液としてメチルアミン(4mL,8mmol)を添加し、上記反応系を、窒素下で還流するまで加熱した。上記溶液は、色が淡黄色になった。これを、150分間にわたって還流するまで加熱し、その後、室温へと冷却した。上記溶媒をエバポレートして、上記生成物(0.8g,4.6mmol)を黄色結晶として得た。NMR分析から、上記生成物は以下の名称と一致する構造を有することが示された:(E)−5−メトキシ−2−(1−(メチルイミノ)エチル)フェノール。
【0072】
(実施例12)
2,6−ジヒドロキシアセトフェノン(1g,6.5mmol)を、100mL丸底フラスコ中の15mLのエタノールに溶解した。THF中の2M溶液としてメチルアミン(5mL,10mmol)を添加し、上記反応系を、窒素下で還流するまで加熱した。上記溶液は、色が淡黄色になった。これを、60分間にわたって還流するまで加熱し、その後、室温へと冷却した。室温へと冷却したところ、上記結晶が形成し、濾過を介して集め、エタノールで1回洗浄して、上記生成物(0.6g,3.8mmol)を黄色結晶として得た。NMR分析から、上記生成物は以下の名称と一致する構造を有することが示された:(E)−3−ヒドロキシ−2−(1−(メチルイミノ)エチル)フェノール。
【0073】
(実施例13)
6−エトキシ−2−ヒドロキシアセトフェノン(1.0g,5.5mmol)を、100mL丸底フラスコ中の15mlのエタノールに撹拌しながら溶解した。THF中の2M溶液としてメチルアミン(5mL,10mmol)を添加し、上記反応系を、2時間にわたって還流するまで攪拌した。還流後、2時間にわたって、上記黄色溶液を室温へと冷却し、上記溶媒をエバポレートしたところ、黄色油状物を得た。これを静置したところ、結晶化して、上記生成物(1.0g,5.2mmol)を黄色固体として得た。NMR分析から、上記生成物は以下の名称と一致する構造を有することが示された:(E)−3−エトキシ−2−(1−(メチルイミノ)エチル)フェノール。
【0074】
(実施例14)
1−ヒドロキシ−2−アセトナフトン(1.0g,5.4mmol)を、100mL丸底フラスコ中の15mlのエタノールに攪拌しながら溶解した。THF中の2M溶液としてメチルアミン(4mL,8mmol)を添加し、上記反応系を、30分間にわたって還流するまで加熱し、室温へと冷却した。数mLの溶媒をエバポレーションしたところ、結晶化がもたらされた。上記生成物(0.67g,3.3mmol)を、黄色結晶性固体として濾過により回収した。NMR分析から、上記生成物は以下の名称と一致する構造を有することが示された:(E)−2−(1−(メチルイミノ)エチル)−1−ヒドロキシナフタレン。
【0075】
(実施例15)
2−ヒドロキシ−1−アセトナフトン(1.0g,5.4mmol)を、100mL丸底フラスコ中の15mlのエタノールに攪拌しながら溶解した。THF中の2M溶液としてメチルアミン(4mL,8mmol)を添加し、上記反応系を、30分間にわたって還流するまで加熱し、室温へと冷却した。数mLの溶媒をエバポレーションしたところ、結晶化がもたらされた。上記生成物(0.67g,3.3mmol)を、黄色結晶性固体として濾過により回収した。NMR分析から、上記生成物は以下の名称と一致する構造を有することが示された:(E)−1−(1−(メチルイミノ)エチル)−2−ヒドロキシナフタレン。
【0076】
(実施例16)
4−メトキシ−2−ヒドロキシアセトフェノン(1.3g,7.8mmol)を、100mL丸底フラスコ中の20mlのエタノールに攪拌しながら溶解した。o−フルオロベンジルアミン(1g,7.8mmol)を添加し、上記反応系を、60分間にわたって還流するまで加熱し、室温へと冷却した。上記溶媒をエバポレートしたところ、黄色油状物がもたらされ、これは、静置したところゆっくりと結晶化して、上記生成物を得た(2.1g,7.7mmol)。NMR分析から、上記生成物は以下の名称と一致する構造を有することが示された:(E)−5−メトキシ−2−(1−(o−フルオロベンジルイミノ)エチル)フェノール。
【0077】
(実施例17)
4−フルオロ−2−ヒドロキシアセトフェノン(1.0g,6.5mmol)を、100mL丸底フラスコ中の20mlのエタノールに攪拌しながら溶解した。THF中の2M溶液としてメチルアミン(5mL,10mmol)を添加し、上記反応系を、45分間にわたって還流するまで加熱し、室温へと冷却した。数mLの溶媒をエバポレートし、アイスバス中で上記溶液を冷却したところ、結晶化がもたらされた。上記生成物(0.51g,3.1mmol)を、黄色結晶性固体として濾過により回収した。NMR分析から、上記生成物は以下の名称と一致する構造を有することが示された:(E)−5−フルオロ−2−(1−(メチルイミノ)エチル)フェノール。
【0078】
(実施例18)
4−メトキシ−2−ヒドロキシアセトフェノン(1.3g,8.1mmol)を、100mL丸底フラスコ中の20mlのエタノールに攪拌しながら溶解した。o−ヒドロキシベンジルアミン(1g,8.1mmol)を添加し、上記反応系を、15分間にわたって還流するまで加熱した。還流後、上記溶液を室温へと冷却したところ、その間に、結晶化が起こった。上記生成物(1.7g,6.3mmol)を、黄色結晶性粉末として、濾過を介して回収した。NMR分析から、上記生成物は以下の名称と一致する構造を有することが示された:(E)−5−メトキシ−2−(1−(o−ヒドロキシベンジルイミノ)エチル)フェノール。
【0079】
(実施例19)
4,6−ジメトキシ−2−ヒドロキシアセトフェノン(1.0g,5.1mmol)を、100mL丸底フラスコ中の20mlのエタノールに攪拌しながら溶解した。THF中の2M溶液としてメチルアミン(5mL,10mmol)を添加し、上記反応系を、120分間にわたって還流するまで加熱し、室温へと冷却した。数mLの溶媒をエバポレートし、アイスバス中で上記溶液を冷却したところ、結晶化がもたらされた。上記生成物(0.3g,1.4mmol)を、黄色結晶性固体として濾過によって回収した。NMR分析から、上記生成物は、以下の名称と一致する構造を有することが示された:(E)−3,5−メトキシ−2−(1−(メチルイミノ)エチル)フェノール。
【0080】
(実施例20)
4−メトキシ−2−ヒドロキシアセトフェノン(1g,6mmol)を、100mL丸底フラスコ中の20mlのエタノールに攪拌しながら溶解した。o−アミノベンジルアミン(0.74g,6mmol)を添加し、上記反応系を、45分間にわたって還流するまで加熱した。還流後、上記溶液を室温へと冷却し、数mLの溶媒を、減圧下で除去したところ、その間に結晶化が生じた。上記生成物(1.2g,6.3mmol)を、黄色結晶性粉末として濾過を介して回収した。NMR分析から、上記生成物は以下の名称と一致する構造を有することが示された:(E)−5−メトキシ−2−(1−(o−アミノベンジルイミノ)エチル)フェノール。
【0081】
(パートB−溶液中の光学密度の変化の測定)
上記実施例からの数mgの上記UV吸収剤を、上記物質を溶解するのにエタノールの添加を必要とした実施例12を除いて、クロロホルム中に溶解した。温度に関して示したλ最大(λ max)における吸光度変化を測定し、以下の表に報告した。上記λ最大が350nm未満であった場合、より高い波長を測定のために選択した。これら波長を、アスタリスク(*)付きで識別した。ブランクのクロロホルム溶液を、基準として使用した。吸光度測定を、1nmずつおよび0.1秒の積分時間ずつで、600nm/分において600〜270nmを走査するCary 6000i UV/Vis分光計で行った。100%ベースライン補正を、上記サンプルと基準ビームとの間の僅かな変化について補正するために使用した。6×6ペルチエ温度コントローラーを使用して、溶液を、40℃へと加熱もしくは0℃へと冷却し、少なくとも30分間にわたって平衡化し、その後、以下の表に列挙される波長でそれらの吸光度を測定した。上記サンプルを、ペルチエ温度コントローラー中の備え付けマグネチックスターラーで連続攪拌した。上記サンプルチャンバを、窒素ガスで連続してパージして、温度が15℃未満になったときのキュベットでの凝縮を防止した。上記実施例の全ての結果を、試験条件下で分解してしまった実施例14を除いて、以下に報告した。
【0082】
【表1】

【0083】
(パートC−ポリマーフィルムの調製)
(実施例21)
実施例1のUV吸収剤を、クロロホルム中の約7重量%のポリ(ビニルピロリドン)(MW=360,000)の溶液に溶解した。約4mLのこの溶液を、2インチ×2インチ×0.25インチ(5.08cm×5.08cm×0.635cm)の寸法の矩形の試験基材(これを、1500〜2000RPMにおいて8〜10秒にわたってCR−39(登録商標)モノマー(HOMALITEから市販される)の重合物(polymerizate)から形成した)上にスピンコーティングし、周囲温度で一晩乾燥させた。スピンコーティングの前に、上記チップを、54kVで45秒間にわたって作動するTantecユニットからのコロナ放電で処理した。
【0084】
(実施例22)
実施例11のUV吸収剤をクロロホルム中の約15重量%のポリ(イソブチルメタクリレート)(MW=130,000)の溶液に溶解したことを除いて、実施例21の手順に従った。
【0085】
(実施例23)
実施例11のUV吸収剤をクロロホルム中の約7重量%のポリ(ビニルピロリドン)(MW=360,000)の溶液に溶解したことを除いて、実施例21の手順に従った。
【0086】
(実施例24)
クロロホルム中の約7重量%のポリ(ビニルピロリドン)(MW=360,000)の溶液を、3:1重量比で、N−メチルピロリドン中の約15重量%のポリ[4,4’−メチレンビス(フェニルイソシアネート)−alt−1,4−ブタンジオール/ジ(プロピレングリコール)/ポリカプロラクトン](Aldrichから市販される)の溶液と、混合した。次いで、この溶液を、さらなるクロロホルムで約20重量%まで希釈し、約10mgの実施例16のUV吸収剤を溶解するために使用した。コーティング後に、上記サンプルを75℃で45分間にわたってオーブン中で加熱したことを除いて、実施例21のスピンコーティング手順に従った。
【0087】
(実施例25)
クロロホルム中の約7重量%のポリ(ビニルピロリドン)(MW=360,000)の溶液を、3:1重量比で、クロロホルム中約25重量%のポリ(エチレングリコール)(MW=1000)の溶液と、混合した。次いで、このポリマー溶液を、さらなるクロロホルムで約20重量%まで希釈した。次いで、この溶液を、約10mgの実施例16のUV吸収剤を溶解するために使用した。コーティング後に、上記サンプルを75℃で45分間にわたってオーブン中で加熱したこと以外、実施例21のスピンコーティング手順に従った。
【0088】
(実施例26)
クロロホルム中約7重量%のポリ(ビニルピロリドン)(MW=360,000)の溶液を、3:1重量比で、N−メチルピロリドン中の約15重量%のポリ[4,4’−メチレンビス(フェニルイソシアネート)−alt−1,4−ブタンジオール/ジ(プロピレングリコール)/ポリカプロラクトン](Aldrichから市販される)の溶液と、混合した。次いで、数滴のトリエチルアミンを添加し、得られた溶液を、約20重量%までさらなるクロロホルムで希釈した。この溶液を、約10mgの実施例16のUV吸収剤を溶解するために使用した。1分間にわたって風乾した後、トルエン中約15重量%のポリスチレン(MW=45,000)の溶液4mLを、上記サンプルの一番上に、1500〜2000RPMで8〜10秒間にわたってスピンコーティングしたことを除いて、実施例21のスピンコーティング手順に従った。得られたチップを、45分間にわたって75℃のオーブン中で加熱した。
【0089】
(実施例27)
実施例16のUV吸収剤(約10mg)を、クロロホルム中の約10重量%のポリ(スルホン)(MW=16,000)の溶液10gに溶解することを除いて、実施例21の手順に従った。
【0090】
(パートD−ポリマーフィルムの光学密度の変化の測定)
ポリマーフィルムコーティングした基材サンプルを、上記の手順に従って調製した。上記ポリマーフィルムに組み込まれた実施例1、11、および16のUV吸収剤の量は、約0.1%〜2%の間であった。その結果、測定可能な光学密度(代表的には、0.1〜3の間)を達成した。吸光度測定を、1nmずつおよび0.1秒の積分時間ずつで、600nm/分において600〜270nmを走査するCary 6000i UV/Vis分光計で行った。100%ベースライン補正を使用した。上記コーティングした基材の温度を、ラジエーターおよびファンによって、空気セルの温度を制御したRTE−140もしくはRTE−220再循環装置のいずれかを使用して制御した。この再循環装置は、その後、上記Cary 6000i内の絶縁空気セル内部の調節された空気を循環させる。上記Cary内部の空気セルは、自動的に中心に戻る基材保持デバイス、凝縮を軽減するために空気を抜いた2個のウインドウ、および上記CaryのRTDプローブのための2個の穴を備え付けていた。上記コーティングした基材の温度を、少なくとも30分間にわたって平衡化させて、その後、吸光度を測定し、以下に報告する。
【0091】
【表2】

【0092】
(パートE−サーモクロミックポリマーの調製)
(実施例28)
(工程1)
「Inorganic Chemistry」,1970,9,2339−2343ページにおけるSchrock and Osbornの手順を使用して、ビシクロ(2.2.1)ヘプタ−2,5−ジエン−ロジウム(I) テトラフェニルボレートを以下のように調製した。テトラフェニルホウ酸ナトリウム284mgを、攪拌しながら、丸底フラスコ中の20mLのメタノールに溶解した。ジクロロメタン中に溶解した200mgのビシクロ(2.2.1)ヘプタ−2,5−ジエン−ロジウム(I) クロリド二量体(Aldrichから市販される)の溶液を、ピペットを使用して滴下した。結晶が形成しはじめ、10分間撹拌後、上記生成物を濾過により回収した。上記生成物を、真空ポンプを使用して乾燥させたところ、370mgの淡褐色粉末を得た。
【0093】
(工程2)
二つ口丸底フラスコにおいて、200mLのTHFを、アイスバス中で0℃へと冷却した。ピリジン(5mL,66mmol)、ヘキサノイルクロリド(5.2mL,37mmol)、およびプロパルギルアミン(4mL,91mmol)を、連続して添加した。上記酸クロリドの添加の後に、沈殿物が形成した。5分後、上記反応系を室温へと加温し、1時間にわたって攪拌した。上記沈殿物を、濾過によって取り出し、その濾液を回収した。上記濾液を酢酸エチルで希釈し、1M HClで2回、水で1回、炭酸水素ナトリウム溶液で1回洗浄し、MgSOで乾燥させ、エバポレートして、4.5gの灰白色結晶を得た。後に、上記生成物を、特徴付けせずに次の工程で使用した。
【0094】
(工程3)
上記工程2の生成物(2g,13.1mmol)を、スターラーバー付きの丸底フラスコ中13mLのTHFに溶解した。窒素で10分間曝気した後、工程1のビシクロ(2.2.1)ヘプタ−2,5−ジエン−ロジウム(I) テトラフェニルボレート(60mg,0.13mmol)を添加し、上記反応系を、75分間にわたって室温で攪拌した。上記反応混合物は、その反応過程にわたって色が淡黄色から濃い橙色へと変化した。次いで、上記反応混合物を、300mLのヘキサンに注いで、上記ポリマーを沈殿させた。上記生成物であるポリ(N−プロパルギルヘキサンアミド)を、濾過を介して回収し、真空ポンプを使用して乾燥させて、1.5gの淡黄色薄片状固体を得た。上記ポリマーを、H NMRおよびGPCによって特徴付けたところ、ポリ(N−プロパルギルヘキサンアミド)の構造と一致することが見いだされた。
【0095】
(実施例29)
(工程1)
実施例28の工程1の手順に従った。
【0096】
(工程2)
(S)−(+)−2−メチル酪酸(7.7g,75mmol)を、丸底フラスコ中の100mLのTHFおよびN−メチルモルホリン(8mL,82.5mmol)に溶解した。上記溶液を、アイスバス中で冷却し、クロロギ酸イソブチル(10.7mL,82.5mmol)を添加した。上記溶液は、濁った。15分間攪拌した後、プロパルギルアミン(6.2mL,90mmol)を添加したところ、発熱反応を生じた。上記アイスバスを数分後に外し、上記反応系を室温で1時間にわたって攪拌した。上記反応混合物を濾過して、その沈殿物を除去し、その濾液を酢酸エチルで希釈した。得られた有機層を、1M HClおよび飽和炭酸水素ナトリウム溶液で洗浄した。これを、MgSOで乾燥させ、エバポレートした。得られた残渣を、1:1 ヘキサン/酢酸エチルで溶出するシリカゲルに対してクロマトグラフィーにかけた。生成物含有画分をエバポレートして、白色のワックス状固体(2.4g,17.3mmol)を得た。後に、これを、次の工程で使用した。
【0097】
(工程3)
15mLのTHFを含む丸底フラスコ中に、工程2の生成物(2.4g,17.2mmol)を溶解し、窒素で15分間曝気した。工程1のビシクロ(2.2.1)ヘプタ−2,5−ジエン−ロジウム(I) テトラフェニルボレート(76mg,0.17mmol)を添加し、上記反応系を、室温で75分間にわたって攪拌した。上記溶液は、色が淡黄色から橙色、濃褐色に変化し、濃くなった。75分後、上記反応物を300mLのヘキサンへと注いで、上記ポリマーを沈殿させた。上記生成物を濾過によって回収し、減圧下で乾燥させて、淡黄色固体を得た。上記ポリマーを、GPCおよびH NMRによって特徴付けたところ、上記生成物はポリ[(S)−N−プロパルギル−2−メチルブタンアミド]の構造と一致することが示された。
【0098】
(パートF−サーモクロミックポリマーの光学密度の変化の測定)
実施例28および29の数mgのポリマーを、それぞれ、クロロホルムおよびTHFを含むキュベットに溶解した。上記ポリマーの濃度を、275〜500nmの間でのそれらの光学密度が<4.0になるように調節した。ポリマーを溶解しなかったクロロホルムおよびTHFを含むキュベットも、基準セルとして使用するために調製した。吸光度を、ペルチエ6×6温度コントローラーを備えたCary Model 6000i UV/Vis分光計で390nmにおいて測定した。吸光度を、1nmずつ、0.1秒の積分時間ずつ、600nm/分の速度において、275〜500nmで走査した。以下の表は、5〜35℃の間の上記ポリマーの吸光度変化を示す。
【0099】
【表3】

【0100】
(パートG−フォトクロミック基材およびサーモクロミックポリマー溶液のアセンブリの光学密度変化の測定)
フォトクロミックポリウレタンコーティング(米国特許第6,187,444号 B1)に記載されるタイプの)を、2インチ×2インチ×0.25インチ(5.08cm×5.08cm×0.635cm)の寸法の試験基材(これを、CR−39(登録商標)モノマー(HOMALITEから市販される)の重合物(polymerizate)から形成した)上に適用し、熱硬化させた。上記フォトクロミックポリウレタンコーティングは、約20ミクロン厚であった。スピンコーティングの前に、上記試験基材を、54kVで45秒間にわたって作動するTantecユニットのコロナ放電で処理した。1mm経路長キュベット(25mm周囲)中の実施例28のポリマーの溶液を、フォトクロミックコーティングした基材の正面に位置づけて、アセンブリを形成し、これを光学台で試験した。比較のために、ポリマーを含まないクロロホルム溶液(コントロール)もまた、同じ様式で調製したフォトクロミックコーティング基材の正面に配置し、以下の手順を使用して、上記光学台で試験した。
【0101】
光学台を使用して、上記サンプルの光学的特性を測定した。上記サンプルを、作動している光源(光強度コントローラー付きNewport/Oriel Model 67005 300ワットキセノンアークランプ)とともに、上記光学台に置いた。上記光源は、迷光がデータ収集プロセスを妨害しないように、データ収集の間に一瞬にして閉じるUniblitz VS25高速コンピューター制御シャッター、Schott 3mm KG−2バンドパスフィルタ(これは、短波長放射線を除去する)、強度を弱めるための減光フィルタ(neutral density filter)、および上記サンプルの表面に対して30°〜35°の入射角で配置した光線を平行にするための集光レンズを備えた。
【0102】
応答測定値をモニターするための広域帯光源を、上記サンプルの表面に対して垂直の様式で配置した。より短い可視光波長のシグナルの増大を、100ワットタングステンハロゲンランプ(Lambda ZUP60−14定電圧電源(constant voltage powder supply)によって制御した)からの別個にフィルタがかけられた光を集め、末端が割けて2又に分かれた光ファイバーと合わせることによって得た。上記タングステンハロゲンランプに一方の側からの光を、熱を吸収するためにSchott KG1フィルタおよびより短い波長の通過を許容するためのHoya B−440フィルタでフィルタにかけた。上記光の他方の側は、フィルタにかけなかった。上記光を、上記ランプの各側からの光を、上記末端が割けて2又に分かれた光ファイバーの別個の末端に焦点を集めることによって集め、その後、上記ケーブルの単一の末端から現れる1つの光源に組み合わせた。4インチの軽いパイプを上記ケーブルの単一の末端に取り付けて、適切な混合を確実にした。
【0103】
上記サンプルを、23℃、35℃および5℃(±0.2℃以上)において、温度制御した空気セル中で作動させ、上記空気セル中のラジエーター/ファン組み合わせを介して調節した水を循環させる(Neslab RTE−17)ことによって、維持した。実施例28の溶液もしくはポリマーを含まないコントロールを含む1mm経路長の溶融シリカ「棒付き(lollipop)」キュベット(Starna)を、上記サンプルの正面にテープで巻いた。
【0104】
測定を行うために、上記サンプルを、5〜15分間にわたって上記作動している光源からの6.7W/mのUVAに曝して、上記ポリウレタンコーティング中のフォトクロミックを活性化した。検出器システム(Model SED033検出器、Bフィルタ、およびディフューザー)を備えたInternational Light Research Radiometer(Model IL−1700)を使用して、各試験前の曝露を検証した。次いで、上記モニタリング源からの光を、上記コーティングしたサンプルを通過させ、1インチ積分球上に集め、これを、単一機能光ファイバーを使用して、Ocean Optics 2000分光光度計に接続した。スペクトル情報を、上記サンプルを通過した後に、Ocean Optics OOIBase32およびOOIColorソフトウェア、ならびにPPG著作権のソフトウェア(PPG propriety software)を用いて集めた。
【0105】
吸収スペクトルを得、Igor Proソフトウェア(WaveMetricsから市販される)を用いて、各サンプルについて分析した。吸光度変化を、試験した各波長における上記サンプルの0時間(すなわち、非作動)吸光度測定値から差し引くことによって計算した。平均吸光度値を、各サンプルについて、上記フォトクロミックコーティングのフォトクロミック応答が飽和もしくはほぼ飽和した活性化プロフィールの領域(すなわち、上記測定された吸光度が増大もせず、経時的に顕著に増大もしない領域)において、この領域中の各時間間隔での吸光度を平均することによって得た。抽出した各波長について、5〜100のデータ点を、平均した。光学密度結果を、5〜23℃および5〜35℃のODにおける計算した損失%とともに、以下の表に示した。
【0106】
【表4】

【0107】
本発明の特定の実施形態は、例示目的で上記に記載されているのに対して、本発明の詳細の多くのバリエーションが、添付の特許請求の範囲に定義されるように、本発明から逸脱することなく行われ得ることは、当業者に明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォトクロミック光学物品であって、
(a)光学基材;
(b)熱可逆性のフォトクロミック物質;および
(c)室温以下でUV/可視光を少なくとも部分的にフィルタにかけることができ、かつ室温より高い温度でUV/可視光をフィルタにかけにくくできる、可逆性のサーモクロミック物質、
を含む、フォトクロミック光学物品。
【請求項2】
前記可逆性のサーモクロミック物質(c)は、300〜450nmの範囲の光をフィルタにかけることができる、請求項1に記載のフォトクロミック光学物品。
【請求項3】
前記可逆性のサーモクロミック物質(c)は、−100℃〜25℃の範囲の温度で光をフィルタにかけることができる、請求項2に記載のフォトクロミック光学物品。
【請求項4】
前記可逆性のサーモクロミック物質(c)は、互変異性体、および/もしくは温度に応じて、コンホメーション誘導性クロミズムを受け得るサーモクロミックポリマーを含む、請求項1に記載のフォトクロミック光学物品。
【請求項5】
前記可逆性のサーモクロミック物質(c)は、互変異性体を含む、請求項1に記載のフォトクロミック光学物品。
【請求項6】
前記互変異性体は、シッフ塩基および/もしくはマンニッヒ塩基を含む、請求項5に記載のフォトクロミック光学物品。
【請求項7】
前記互変異性体は、2−ヒドロキシアセトフェノンおよび/または脂肪族アミンもしくはベンジル性アミンのシッフ塩基を含む、請求項53に記載のフォトクロミック光学物品。
【請求項8】
前記マンニッヒ塩基は、(3−ピペリジニルメチル)−2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、(3−モルホリニルメチル)−2−4ジヒドロキシベンゾフェノン、(3−ピロリジニルメチル)−2−4−ジヒドロキシベンゾフェノン、(3−ベンジルメチルアミノメチル)−2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、(3,5−ジピペリジニルメチル)−2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、(3−ビス−(2−ヒドロキシエチル)アミノメチル)−2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、メチル−3−(ピロリジニルメチル)−4−ヒドロキシシンナメート、7−ヒドロキシ−(8−ピペリジニルメチル)−4−トリフルオロメチルクマリン、および/もしくは6−ヒドロキシル−5−(ピペリジニルメチル)フラボンを含む、請求項6に記載のフォトクロミック光学物品。
【請求項9】
前記可逆性のサーモクロミック物質(c)は、温度に応じて、コンホメーション誘導性クロミズムを受けるサーモクロミックポリマーを含む、請求項1に記載のフォトクロミック光学物品。
【請求項10】
前記サーモクロミックポリマーは、螺旋状ポリマーを含む、請求項9に記載のフォトクロミック光学物品。
【請求項11】
前記サーモクロミックポリマーは、ポリチオフェン、ポリシラン、ポリ(プロパルギルアミド)および/もしくはポリジアセチレンを含む、請求項10に記載のフォトクロミック光学物品。
【請求項12】
前記熱可逆性のフォトクロミック物質(b)は、ピラン、フルギド、および/もしくはオキサジンを含む、請求項1に記載のフォトクロミック光学物品。
【請求項13】
前記フォトクロミック物質(b)は、ナフトピランおよび/もしくはインデノナフトピランを含む、請求項12に記載のフォトクロミック光学物品。
【請求項14】
前記光学物品は、眼用レンズである、請求項1に記載のフォトクロミック光学物品。

【公表番号】特表2012−512429(P2012−512429A)
【公表日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−540851(P2011−540851)
【出願日】平成21年12月9日(2009.12.9)
【国際出願番号】PCT/US2009/067254
【国際公開番号】WO2010/074969
【国際公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(504175051)トランジションズ オプティカル, インコーポレイテッド (65)
【Fターム(参考)】