説明

可食性インクジェットインク組成物

【課題】インクジェットプリンタを使用した記録方法によりケーキ、チョコレート、ガム等の食品や化粧品、医薬品、医薬外品の表面にフルカラー画像を形成する際、混色部でのカラーバランスがよく、さらには耐光性の良い文字、画像形成に最適な可食性インクジェットインク組成物を提供する。
【解決手段】少なくとも食用色素、脂肪酸エステル、水溶性溶剤、精製水、シリコン樹脂を含む可食性インクジェットインク組成物であり、食用色素として複数の異なる色素の併用およびその他添加剤により色調、インク物性を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は可食性インク組成物に関するものであり、特に食品、化粧品、医薬品に直接印刷可能な可食性インクジェットインク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタによる印刷技術は、少量多品種の可変印刷に優れており、プリンタと印刷対象とを接触させずに印刷できる。このことから産業用途および工業用途での利用が期待されており、様々な用途に応じたインク開発が望まれている。
【0003】
可食性インクは、食用可能な原料のみで構成され、食品、化粧品や医薬品に製造日や消費期限、メッセージ、絵柄などを印刷できるため用いられている。しかし、不均一、不規則な表面にスクリーン印刷、フレキソ印刷などの方法を用いて直接印刷する場合、食品や基材に破損のような損傷を生じてしまう為に質の良い印刷を達成することが困難であるのに対し、インクジェット印刷は小ロット多品種に対応でき、プリンタと印刷対象とを接触させずに印刷できるため質の良い印刷が可能である。これまで可食性インクを使用したインクジェットによる文字印刷、簡単な絵柄印刷はすでに行なわれているが、フルカラー画像を形成する際、混色部の耐光性、カラーバランスが改良された画像を形成する方法は難しく、色の再現が困難であった。耐光性の良い印刷物を形成する為に特許公開番号平9―302294では、可食性安定剤を用いることで色素の印刷後の変色退色を防ぎ、維持することが出来るとしているが、耐光性は改善されるものの、各色の退色率が異なるため、経時的にカラーバランスが崩れてしまう恐れがあった。
【特許文献1】特許公開番号平9―302294
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
インクジェットプリンタを使用した記録方法によりケーキ、チョコレート、ガム等の食品や化粧品、医薬品、医薬外品の表面に文字やフルカラー画像を形成する際、混色部でのカラーバランスがよく、さらには耐光性の良い文字、画像形成に最適な可食性インクジェットインク組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
少なくとも食用色素、脂肪酸エステル、水溶性溶剤、精製水、シリコン樹脂を含む可食性インクジェットインク組成物であり、食用色素として複数の異なる色素の併用およびその他添加剤により色調、インク物性を調整する。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、吐出安定性に優れ、各色インクでの耐光性のバランスがよく、カラーバランスの整った画像を形成することができる可食性インクジェットインク組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明者らは鋭意検討の結果、少なくとも食用色素、脂肪酸エステル、水溶性溶剤、精製水、シリコン樹脂を含有し、食用色素として複数の異なる色素の併用およびその他添加剤により色調、インク物性を調整することで安定に吐出でき、且つカラーバランスの整った画像を形成することができる可食性インクジェットインク組成物である本発明を提供するに至った。
【0008】
可食性インクジェットインク組成物の色調やインク物性を調整するためには、食用色素0.5〜7重量%、脂肪酸エステル0.1〜5重量%、水溶性溶剤3〜70重量%、精製水20〜80重量%、シリコン樹脂0.01〜0.1重量%の範囲で調製されることが好ましい。
【0009】
黒色インク組成物は、色素の併用により色調を整えることができ、請求項1に記載の色素群の赤色色素、黄色色素、青色色素の中から少なくとも2つ以上の色素の組み合わせにより調製され、望ましくは、赤色の色素として赤色40号、赤色102号、赤色106号、黄色の色素として黄色4号または黄色5号、青色の色素として青色1号または青色2号の中からの赤、青、黄の色素の組み合わせから調整されることが好ましい。
【0010】
赤色インク組成物は、赤色2号、赤色3号、赤色40号、赤色102号、赤色104号、赤色105号、赤色106号から選ばれる少なくとも1種または、2種以上から調製されることが好ましい。黄色4号または、黄色5号との併用し、色目を調整しても構わない。
【0011】
黄色インク組成物は、黄色4号または黄色5号にて調整するか、黄色4号と黄色5号とを混合し、色目を調整しても構わない。
【0012】
青色インク組成物は、青色1号または青色2号にて調整するか、青色1号と青色2号とを混合し、色目を調整しても構わない。
【0013】
脂肪酸エステルは、界面活性剤として溶液の安定化に効果があり、一般にオレイン酸スクロース 、酢酸ステアリン酸スクロース 、ジステアリン酸スクロース 、ジラウリン酸スクロース、ステアリン酸スクロース 、トリステアリン酸スクロース 、トリベヘン酸スクロース 、パルミチン酸スクロース 、ポリオレイン酸スクロース 、ポリステアリン酸スクロース 、ポリパーム脂肪酸スクロース 、ポリラウリン酸スクロース 、ポリリノール酸スクロース 、ミリスチン酸スクロース 、ヤシ脂肪酸スクロース 、ラウリン酸スクロース 、リシノレイン酸スクロース、クエン酸脂肪酸グリセリル、コハク酸脂肪酸グリセリル、ラウリン酸グリセリル、酢酸グリセリル 、酢酸脂肪酸グリセリル、コハク酸グリセリル、ジアセチル酒石酸脂肪酸グリセリル、コハク酸ポリグリセリル、乳酸脂肪酸グリセリル、 ラウリン酸ポリグリセリル、パルミチン酸グリセリズ、オレイン酸ポリグリセリル、ミリスチン酸グリセリズ、オレイン酸グリセリズ、水添パーム脂肪酸グリセリズ、ラウリン酸グリセリズ、クエン酸脂肪酸グリセリズ、パーム油脂肪酸プロピレングリコール、ジヤシ油脂肪酸プロピレングリコールなどが挙げられる。
【0014】
シリコン樹脂は、消泡剤として用い、安定に吐出する為に0.01〜0.05%を添加することが望ましい。未添加では泡が消えにくい為、吐出不良の原因となる。
【0015】
可食性インクジェットインク組成物が安定に連続吐出するためには、粘度が25℃で4cps以下であり、且つ表面張力が20〜38dyne/cm の範囲であるとよく、望ましくは、粘度が2.5〜3.5cpsであり、表面張力が22〜35dyne/cmであることが好ましい。
【0016】
非吸収面への印刷性を上げるため、インク成分としてバインダー成分となる多糖類、シェラック等を含んでも構わない。
【0017】
また、退色防止剤や防腐剤等の食品添加物を含んでも良い。
【0018】
本発明は、食品衛生法で使用が認められた原料を使用し調製しているが、用途により食用グレード以外の添加物を添加しても良い。
【0019】
本発明の可食性インクジェットインク組成物は、食品、医薬品、医薬部外品、化粧品、飼料又はこれらに直接触れる容器包装等への印刷することができる。食品としては、例えば、せんべい、まんじゅう、飴などの和菓子、クッキー、ビスケット、クラッカー、ケーキ、カステラ、チョコレート、キャラメル、キャンディー、チューインガム、パンなどの各種洋菓子、ポテトチップス、パフスナックなどのスナック菓子、アイスクリーム、アイスキャンディー、シャーベットなどの氷菓、チーズなどの乳製品、ハム、ソーセージ、ベーコン、ドライソーセージなどの畜肉製品類、魚肉ハム、魚肉ソーセージ、蒲鉾、ちくわ、はんぺん等の魚介類製品またはその干物等の食品が挙げられる。医薬品、医薬部外品、化粧品の例として、錠剤、カプセル剤、トローチ、口紅、ファンデーションなどが挙げられる。
【実施例1】
【0020】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明がこれによって限定されるものではない。次の成分を混合することにより可食性インクジェット赤色インクを作成した。
精製水64.79部にグリセリン脂肪酸エステル0.2部、グリセリン30部、シリコン樹脂0.01部を加え5分間攪拌し溶解後、赤色102号4部、赤色106号1部を加え完全に溶解するまで攪拌し、その後ろ過することで調製した。
【実施例2】
【0021】
次の成分を混合することにより可食性インクジェット黒色インクを作成した。
精製水64.79部にグリセリン脂肪酸エステル0.2部、グリセリン30部、シリコン樹脂0.01部を加え、5分間攪拌し溶解後、赤色102号2.4部、赤色106号0.1部、黄色4号1.0部、青色1号1.5部を加え完全に溶解するまで攪拌し、その後ろ過することで調製した。
【実施例3】
【0022】
次の成分を混合することにより可食性インクジェット黄色インクを作成した。
精製水66.79部にグリセリン脂肪酸エステル0.2部、グリセリン28部、シリコン樹脂0.01部を加え、5分間攪拌し溶解後、黄色4号5部を加え、完全に溶解するまで攪拌するし、その後ろ過することで調製した。
【実施例4】
【0023】
次の成分を混合することにより可食性インクジェット青色インクを作成した。
精製水67.79部にグリセリン脂肪酸エステル0.2部、グリセリン28部、シリコン樹脂0.01部を加え、5分間攪拌し溶解後、青色1号4部を加え、完全に溶解するまで攪拌し、その後ろ過することで調製した。
【実施例5】
【0024】
次の成分を混合することにより可食性インクジェット赤色インクを作成した。
精製水65.79部にグリセリン脂肪酸エステル0.2部、グリセリン30部、シリコン樹脂0.01部を加え、5分間攪拌し溶解後、赤色104号3部、赤色106号1部を加え、完全に溶解するまで攪拌し、その後ろ過することで調製した。
(比較例1)
【0025】
次の成分を混合することにより可食性インクジェット赤色インクを作成した。
精製水69.78部にグリセリン脂肪酸エステル0.2部、グリセリン25部、シリコン樹脂0.02部加え、5分間攪拌し溶解後、赤色104号5部を加え、完全に溶解するまで攪拌し、その後ろ過することで調製した。
(比較例2)
【0026】
次の成分を混合することにより可食性インクジェット赤色インクを作成した。
精製水69.99部にプロピレングリコール15部、グリセリン10部、シリコン樹脂0.01部を加え5分間攪拌し溶解後、赤色102号4部、赤色106号1部を加え、完全に溶解するまで攪拌し、その後ろ過することで調製した。
(比較例3)
【0027】
次の成分を混合することにより可食性インクジェット赤色インクを作成した。
精製水 64.97部にプロピレングリコール15部、グリセリン15部、シリコン樹脂0.01部を加え、 5分間攪拌し溶解後、赤色102号4部、赤色106号1部、キサンタンガム0.02部を加え、完全に溶解するまで攪拌し、その後ろ過することで調製した。
【0028】
このようにして得られた実施例1〜5および比較例1〜3の可食性インクジェットインクを用い、ピエゾ式ヘッドを有するプリンタにて印字を出力し、その際の吐出安定性、耐光性による評価を行った。
【0029】
粘度は、B型粘度計を用い初期と保存1ヶ月後での試料を25℃にて測定を行った。
【0030】
表面張力は、表面張力計(協和界面科学社製CBVP−A3)を用い初期と保存1ヶ月後での試料を25℃にて測定を行った。
【0031】
耐光性は、印字物をカーボンアーク耐光試験機により8時間照射し、目視にて未照射の印刷物と比較し、インクの退色率を評価した。
◎:〜10%以下、○:10%〜15%、△:15〜20%、×:20%以上
【0032】
【表1】

【0033】
可食性インクジェットインク組成物である実施例1〜5では各色の耐光性のバランスがよく、粘度、表面張力も経時的に安定しているため、安定に連続吐出可能であり、画像形成に適したインクとなっているが、比較例1では、耐光性が悪く、比較例2では表面張力が40.2dyne/cmとなり連続印刷時に吐出不良が発生し、またドット径が小さく濃度がでなかった。また、比較例3では、粘度が高く、吐出不良が発生した。
【0034】
従って、少なくとも食用色素、脂肪酸エステル、水溶性溶剤、精製水、シリコン樹脂を含む可食性インクジェットインク組成物であり、食用色素として複数の異なる色素の併用およびその他添加剤により色調、インク物性を調整することで安定かつカラーバランスのよい可食性インクジェットインク組成物である本発明を提供することが可能となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可食性インクジェットインクであって、少なくとも食用色素、脂肪酸エステル、水溶性溶剤、精製水、シリコン樹脂を含み、前記食用色素が赤色2号、赤色3号、赤色40号、赤色102号、赤色104号、赤色105号、赤色106号、黄色4号、黄色5号、青色1号、青色2号の中から選ばれる少なくとも1種または2種以上からなる可食性インクジェットインク組成物。
【請求項2】
前記脂肪酸エステルがソルビタン酸脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルから選ばれる少なくとも1種または2種以上からなる請求項1に記載の可食性インクジェットインク組成物。
【請求項3】
前記水溶性溶剤が、エタノールおよびプロピレングリコール、グリセリンから選ばれる少なくとも1種または2種以上からなる請求項1〜2に記載の可食性インクジェットインク組成物。
【請求項4】
粘度が25℃で4cps以下であり、且つ表面張力が20〜38dyne/cm の範囲である請求項1〜3に記載の可食性インクジェットインク組成物。
【請求項5】
前記食用色素が0.5〜7重量%、前記脂肪酸エステルが0.1〜5重量%、前記水溶性溶剤が3〜70重量%、前記精製水が20〜80重量%、前記シリコン樹脂が0.01〜0.1重量%から構成される請求項1〜4に記載される可食性インクジェットインク組成物。

【公開番号】特開2006−169301(P2006−169301A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−360703(P2004−360703)
【出願日】平成16年12月14日(2004.12.14)
【出願人】(000115119)ユニオンケミカー株式会社 (67)
【出願人】(596162603)キリヤ化学株式会社 (6)
【Fターム(参考)】