説明

各別に交流源及び直流源により発生されたマルチチャネル信号を分離する方法

本発明は、マルチチャネルMEGまたはMKG測定装置を使用して直流磁界を測定する新規な方法と、その一方で、直流電流に起因して発生した干渉信号を測定結果から除去する方法に関する。本発明は、従来のMEGまたはMKG測定において、動いている被験者の直流電流により発生した信号が、最終的な測定結果で静的な信号成分として検出できるように、被験者の移動を監視するシステムと測定信号の運動補正方法とを組み合わせる。その場合、測定において、事前に直流磁界を測定するための準備は不要である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチチャネル測定中に、時間に依存しない電流、いわゆる直流電流により発生した磁場(いわゆる直流磁界)を処理する、新規で進歩性を有する方法に関する。より詳細には、本発明は、監視対象の物体の移動によって生じ、悪影響を及ぼす直流磁界を除去する新規な方法と、その一方で、対象としている直流磁界(DC field)を詳しく調べる方法に関する。
【0002】
尚、本発明に関連して、時間に依存しない静的な直流源、磁界及び電流は、完全に静的であって、かつ変化量が最大1ヘルツの周波数でしか変わらない現象を指すのに用いている。
【背景技術】
【0003】
生体磁気信号を測定するには、通常、SQUID(超伝導量子干渉素子)センサのような磁力計が使用され、これらは動的現象に対する感度が高い。その際、センサの組に対して不動の物体の直流電流は測定信号を発生させないため、直流電流を測定する唯一の方法は、このセンサの組に対して物体を移動させることである。この場合、物体の座標において直流電流により発生した静磁場の分布は、センサの組の座標では時間の関数として変化し、それゆえ、時間の関数として変化する測定信号が発生する。
【0004】
直流磁界を発生させる直流電流は、一般にはさほど興味を引くことはないが、例えば、脳磁図記録(magneto−encephalographic:MEG)測定では、直流電流を検出することが望ましい状況がある。対象としている直流電流は、例えば、てんかん、片頭痛、及び睡眠のレム(REM)段階に関連している。
【0005】
直流磁界は、生理学的直流電流によって生じる直流磁界のほか、物体の座標において静止している全ての磁化された物によっても発生する。これには、例えば、毛髪中の磁性不純物のほか、脳外科手術で用いるドリルによって頭蓋骨内に残された小さな磁性粒子などがある。この種の磁化(magnetisation)は、物体が移動すると、一般に、生体磁気信号と比べて非常に強い干渉信号を発生させるが、研究対象の生理学的現象を検出するためには、これらを除去し、減衰させる必要がある。
【0006】
この問題は、特に、測定時に一切動かずにいることを困難と感じる患者を測定する臨床での測定において、典型的なものである。直流電流により発生した直流磁界は、MEG測定の他にも、例えば、心機能の検査のために実施される心磁図記録(magneto−cardiogpraphic:MKG)測定において重要となる場合があり、その際、例えば、呼吸運動の結果、磁化粒子が測定信号を発生させる。
【0007】
生理学的直流電流を検出するために、被験者のジオメトリ(geometry:幾何学的配置)に対して、既知の方法では、例えば、被験者を測定装置に対して周期的に既知の周波数及び振幅で動かす方法が用いられてきた。このような方法の1つは、例えば、非特許文献1及び非特許文献2に記載されている。当該方法において、被験者は、その頭部がベッドに対して移動不能に支持されるように、センサの組に対して移動可能なベッドに横たわる。頭部の移動がベッドの既知の移動に相当すると見做されるようにするために、これを行う必要がある。ベッドが、0.4Hzの周波数及び75mmの振幅で正弦波的に移動され、これにより、頭部の直流電流が、0.4Hzの変調周波数をもって、測定信号内で検出可能となる。この信号は、直流信号を容易に検査できるように復調されて再構成される。
【0008】
上記の方法は、脳磁図記録装置を使用して、対象としている生理学的直流電流を測定することに関連している。この方法では、頭部自体を移動することが禁じられ、直流信号を検出するのに必要な移動が、手段(すなわちベッド)を使用して与えられる。この場合、ベッドの磁化も、変調周波数の信号を発生させ、これが干渉信号となるため、この信号を、例えば、被験者なしの状態にて同様の方法でベッドを移動させて、その結果発生する直流信号を基準として測定することによって除去する必要がある。
【非特許文献1】ベェベラー(Wuebbeler)他、“横方向の体位の変調を使用した頭部の近直流生体磁界の測定(Measurement of near−DC biomagnetic fields of the head using a horizontal modulation of the body position)”、Recent Advances in Biomagnetism、仙台、369〜372ページ、1999年
【非特許文献2】カーボン(Carbon)他、“マルチチャネル‘直流’脳磁図記録法で非侵襲的に監視した、呼吸過多によって誘発させたヒトの脳磁場(Hyperventilation−induced human cerebral magnetic fields non−invasively monitored by multi−channel ’direct current’ magnetoencephalography)”、Neuroscience Letters、第287巻、227〜230ページ、2000年
【特許文献1】国際出願PCT/FI02/00225
【特許文献2】フィンランド特許出願第20030392号明細書
【特許文献3】フィンランド特許出願第20010558号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の方法に関連して、いくつかの課題及び制約がある。特に病弱な患者は、頭部の固定を不快に感じることがある。更に、ベッドの移動により上述の干渉信号が発生するため、その除去や、機械的な移動装置の作製、直流測定の準備には、従来のMEG測定と比べて、多くの余分な作業を要する。それゆえ、この方法は干渉の影響を非常に受けやすい。
【0010】
従来のMEG測定に関連した、移動可能な被験者による「余分な」直流磁界により発生する干渉信号を除去するために、これまで、干渉源の直流特性に基づいた如何なる方法も提供されていない。干渉除去の諸方法は、被験者の移動を考慮せず、その代わりに、移動によって生じる干渉信号を単に標準的な方法を使用して測定値から除去しようとするものである。これは、例えば、ハイパスフィルタリングによって実施できるが、ゆっくりした(slow)脳信号が同時に失われてしまう。
【0011】
本発明の目的は、前述の不都合を除去するか、又は少なくとも著しく軽減させることにある。本発明の特定の目的は、新しいタイプの方法を開示することにあり、この方法は、被験者の対象としている生理学的直流磁界を検査する一方で、従来のMEG又はMKG測定において「余分な」直流磁界によって生じる歪みを排除するために使用することができる。更に、本発明の目的は、特定の試験準備なしで、対象としている直流磁界を調べるために使用することができ、被験者がその頭部を自由に動かせるようにした解決策を開示することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の特徴については、特許請求の範囲に示す各特長を参照されたい。
【0013】
本発明は、マルチチャネルMEG又はMKG測定装置を使用して直流磁界を測定する新規な方法と、その一方で、直流電流により発生した干渉信号を測定結果から除去する方法に関する。本発明は、従来のMEG又はMKG測定において、移動中の被験者の直流電流により発生した信号が、最終的な測定結果において静的な信号成分として検出可能(可視化可能)となるように、被験者の移動を監視するシステムと測定信号の運動補正方法とを組み合わせる。この場合、測定において、事前に直流磁界を測定するための準備は特に不要である。尚、上述の移動監視システムについては、上記特許文献1に記載され、また、運動補正のための方法については、上記特許文献2に記載されている。これらは参照によりここに援用される。
【0014】
本発明の基本的な概念は、被験者の頭部の移動を監視し、頭部の移動を、不動の頭部を中心としたセンサの組の移動としてモデル化することにある。測定された磁場信号は、信号空間基底(signal space basis)における基底場(elementary field)として与えられ、該信号空間基底の基底ベクトル係数が、頭部と測定装置の間のジオメトリに関する情報を利用して頭部の座標に結び付けられる。この場合、基底ベクトル係数の経時的な挙動は、頭部の移動によって生じる歪みに関与せず、その代わり、同じ基底ベクトル係数が完全に不動の頭部についても取得されるが、その差異については、不動の場合、この係数が直流成分をもたないことである。というのも、SQUIDセンサは静的現象を測定しないからである。頭部が測定装置に対して移動すると、直流電流により発生した信号が測定信号中に現れ、その経時的な挙動は、運動補正を行わない測定において、頭部の移動に対応する。上述の移動監視及び運動補正方法の結果として、直流電流により発生された検出信号は、静的信号として基底ベクトル係数に現れるが、これは、頭部の座標において直流電流が静的信号を発生させるためである。
【0015】
基底場の算出において、有利な実施形態は、上記特許文献2に記載されているように、球面調和関数を使用するものであり、同時に外部の干渉場の一部を容易に除去できるようになる。運動補正は他の方法で行ってもよく、例えば、試験対象である物体の電流分布の最小ノルム推定(minimum norm estimate)を利用してもよい。
【0016】
本発明の結果、直流電流により発生した信号の処理が非常に容易となる。生理学的直流電流を調べるために、被験者は、自由に頭部を移動するように求められ、運動補正の結果、測定信号の直流成分が、連続的な直流電流により被験者の頭部で発生した信号のみを含むようになる。直流成分は、例えば、フーリエ変換によって分離することができる。
【0017】
上記の方法によって取得された直流信号は、当然、全ての直流電流により発生した信号の和であり、生理学的直流信号のほかに、干渉源として類別される磁性不純物の直流信号を含んでいる可能性があり、これを、何らかの方法によって生理学的信号から分離する必要がある。生理学的直流信号が検査対象ではない場合に、直流信号を、いわゆるベースライン(基準線)補正を用いて簡単に除去できるため、運動補正済みのデータから直流干渉を除去することは非常に容易である。この補正方法では、生体磁気の応答がない期間に亘って、信号の平均値が各測定チャネルにおいて計算される。この場合、この平均値はチャネルの直流レベルに対応しており、これは、測定信号から当該直流レベルの数値を引くことによって、全測定期間に亘って除去することができる。
【0018】
また、本発明は、測定装置に対する測定対象の物体の位置を特定するための新規な方式を可能にする。磁化された物品が、物体の移動に対応して信号を発生させると、物体の座標において、物体と既知の場所に対して磁性物品を結び付けるとともに、物品の移動信号に基づいて物体の移動を測定することが可能となる。この場合、移動監視システムは上記特許文献3に記載されている方法に相当するが、その違いは、本願では静的信号送信機が使用され、必要に応じて、時間積分をせずに移動信号の空間分布から直接位置の特定を行うことができ、実施中にリアルタイムで、かなり高速な移動監視システムの実現が可能となる。
【0019】
本発明では、被験者についての、対象となる生理学的直流磁界の検査が可能となる一方で、従来のMEG又はMKG測定において「余分な」直流磁界によって生じる歪みを排除することが可能になる。本発明により、これらの検査において特殊な構成が不要となり、本発明の解決策を従来の測定と組み合わせた場合に、直流電流の検査が可能になる。更には、本発明によって、直流磁界の測定中に被験者がその頭部を自由に動かすことが可能となる。
【0020】
以下のセクションでは、添付の図面を参照して本発明を更に詳細に記載する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1は、本発明による1つの有利な測定構成を示す。図1は、脳の磁場の測定のために指定されたマルチチャネル磁力計1を、例示的にかつ概略的に示している。磁力計は、例えばデュワー瓶2などの冷却された容器を有し、その内部には、低温にされた、個々の磁力計の組(すなわちSQUIDセンサ3)を有する。試験対象の物体4、ここでは被験者の頭部の表面上に、信号源5の組が配置され、該信号源の位置は、試験対象の座標Aにおいて既知とされる。つまり、信号源の位置が既知であるため、センサ3の組を使用して測定することにより、信号源の位置と、測定対象における他の信号源の位置(詳細には、対象としている生体磁気信号源の位置)を知ることが可能である。
【0022】
測定対象4が、例えば、矢印M及びMに示すように移動すると、信号源5も移動し、このためセンサ3が、直流による磁場を記録する。それゆえ、信号源は、直流源のこともあれば、交流源のこともある。
【0023】
以下のセクションでは、図1及び図2を参照して本発明の機能を説明する。ステップ21において、患者は、例えば、矢印MやMの向きに、測定装置2に対して頭部を移動するように求められる。この移動は自由であり、事前に決めておく必要はない。ステップ22において、患者の頭部に配置された信号源5を利用することによって、この移動がセンサ3の組を使用して記録される。患者の頭部にある直流源6は、対象としている生体磁気現象又は磁気片と関連している可能性があり、頭部の座標における磁場の直流成分を発生させ、これが、頭部の移動によって生じる動力学(dynamics)の結果、センサ3によって記録される。検出されたこの直流成分は、検出された移動を考慮して、頭部の座標に結び付けられた基底場成分(elementary field component)によって与えられることを条件として、測定信号から分離でき、それにより、図2のステップ23、24において、該直流成分が静的信号として検出可能となる。基底場は、例えば、与えられた球面調和関数を用いて、頭部の座標において生成することができる。
【0024】
本発明は、上記の実施形態の例のみに限られず、特許請求の範囲によって規定される発明の概念内で数多くの変形例が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一測定構成を模式的に示す図である。
【図2】本発明の一実施形態を示すフローチャート図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動的現象を測定する測定装置を使用して記録された信号から、測定対象にある静止源に関連する信号を分離するために用いる信号処理方法であって、該方法では、前記測定対象と前記測定装置とが互いに移動するものとされ、
前記測定装置と前記測定対象についての互いの移動を測定し、
前記測定対象に設定された座標内で信号を与えて、静止源によって発生した信号が静的信号として検出されるようにし、
前記測定信号から前記静的信号を分離することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記測定信号を記録する際に、前記測定装置と前記測定対象との前記移動がリアルタイムに測定されるようにしたことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記測定対象の移動を、前記測定対象を中心とした前記測定装置の移動としてモデル化し、
信号空間基底における基底場として、前記記録された信号を与えるとともに、該信号空間基底の基底ベクトル係数が、前記測定対象と前記測定装置との間の既知のジオメトリに基づいて、前記測定対象の前記座標に結び付けられたことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記基底場が球面調和関数によって計算されるようにしたことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
測定された移動については、前記測定対象の電流分布の最小ノルム推定を用いて適合されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
直流信号がハイパスフィルタによって前記測定信号から分離されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記測定信号を2つの期間に分割し、
前記期間のいずれか一方に亘って前記静的信号を分離し、
全期間に亘って原信号と前記分離された静的信号との差異を計算することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
神経磁気MEG測定に関連して、前記測定装置及び前記測定対象にかかる互いの前記移動については、監視対象者が意図的に移動するように行われることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記測定対象に付設された磁性片によって生じる信号を測定するとともに、前記測定対象の座標における当該磁性片の位置が既知であるようにし、
前記測定信号を用いて前記測定装置に対する前記測定対象の位置を決定することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
生体磁気信号に関して静的磁化の移動によって生じる干渉を低減させるために、前記記録された信号は、前記測定対象に設定された前記座標における前記信号を与える前と、前記信号を与えた後の両方においてハイパスフィルタリングが行われることを特徴とする請求項1に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2007−518483(P2007−518483A)
【公表日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−548327(P2006−548327)
【出願日】平成17年1月19日(2005.1.19)
【国際出願番号】PCT/FI2005/000038
【国際公開番号】WO2005/067789
【国際公開日】平成17年7月28日(2005.7.28)
【出願人】(505005500)エレクタ アクチボラゲット(パブル) (8)
【Fターム(参考)】