説明

合剤スラリーおよびその製造方法

【課題】高容量なリチウムイオン二次電池を得るために、Niを含んだリチウム含有複合酸化物を主体とした正極活物質から構成される合剤スラリーにおいて、長期間にわたって粘度の安定した合剤スラリーを提供する。
【解決手段】一般式LiNi(1−y)(0.9≦x≦1.1、0.45≦y≦1.0、M=Al、Mn、Co、Cr、Mg、Fe、Zr、Tiから選択される少なくとも1種の金属)で表わされるリチウム含有複合酸化物を含む正極活物質と、炭素質材料からなる導電助剤と、ポリフッ化ビニリデンを主体としたバインダと、カールフィッシャー法による水分量が100ppm以下であるN−メチル−2−ピロリドンよりなる溶剤から構成される合剤スラリーである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池に用いられる正極を作製するための合剤スラリーに関するものであり、特に高容量なニッケル系正極活物質を含んだ合剤スラリーとその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノート型パソコンなどのポータブル電子機器の発達や、電気自動車の実用化などに伴い、小型軽量で且つ高容量のリチウムイオン二次電池やキャパシタが必要とされるようになってきた。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、シート状の正極および負極を、セパレータを介してスパイラル状に捲回した電極を主要構成部材としている。これら電極の作製方法は、例えば正極の場合は以下の通り作製される。正極の活物質材料であるリチウム含有複合酸化物、導電助剤、バインダを溶剤に混合分散させたスラリーをロールコーターやドクターブレードなどの塗布機で塗布する。その後、溶剤を気化させるために加熱処理をして正極が得られる。
【0004】
多くの場合、活物質材料のリチウム含有複合酸化物としてはコバルト酸リチウム(LiCoO2)が、導電助剤としてはカーボンブラックなどの炭素材料が、バインダとしてはポリフッ化ビニリデン(PVDF)が、そして溶剤としてはN−メチル−2−ピロリドン(NMP)が用いられる。
【0005】
前記LiCoOは、合成が容易で安定性も高い優れた正極活物質材料であるが、Coがいわゆるレアマテリアルであることなどの理由から代替となる活物質材料の開発が多く行われている。中でも、ニッケル酸リチウム(LiNiO)のような、ニッケル(Ni)を含んだ活物質材料は、容量が高い長所も兼ね備えた材料として注目されている。
【0006】
しかし、前記ニッケル(Ni)を含んだ活物質材料を、前述したPVDFを溶解したNMPの溶液に混合させると、スラリーのゲル化が生じることが多々あった。これは、前記Niを含んだ活物質材料や、NMP中に含まれるアルカリ不純物が、PVDFと反応してゲル化を誘因していると考えられる。そこで、前記スラリーに有機酸を添加してアルカリを中和する方法(特許文献1)、またはNMP中の不純物濃度を抑制し、pHを特定範囲にすることでゲル化を防止する方法(特許文献2)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許3540097号公報
【特許文献2】特許3668579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
確かにバインダ溶液やNMPのpHを抑制することで合剤スラリー作製初期時のゲル化は防止できるが、スラリーを複数日の間、貯蔵をするとスラリーの粘度が次第に高くなり、ゲル化が進行する問題が残った。
【0009】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、Niを含んだリチウム含有複合酸化物を主体とした正極活物質から構成される合剤スラリーにおいて、長期間にわたって粘度の安定した合剤スラリーを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明は、一般式LiNi(1−y)(0.9≦x≦1.1、0.45≦y≦1.0、M=Al、Mn、Co、Cr、Mg、Fe、Zr、Tiから選択される少なくとも1種の金属)で表わされるリチウム含有複合酸化物を含む正極活物質と、炭素質材料からなる導電助剤と、ポリフッ化ビニリデンを主体としたバインダと、カールフィッシャー法による水分量が100ppm以下であるN−メチル−2−ピロリドンよりなる溶剤から構成される合剤スラリーである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、長期間にわたる保存においても、粘度変化の少ない合剤スラリーを提供することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下は本発明の実施の形態について説明するが、これらは発明の実施態様の一例に過ぎず、本発明はこれらの内容に限定されない。
【0013】
本発明の合剤スラリーは、一般式LiNi(1−y)(0.9≦x≦1.1、0.45≦y≦1.0、M=Al、Mn、Co、Cr、Mg、Fe、Zr、Tiから選択される少なくとも1種の金属)で表わされるリチウム含有複合酸化物を含む正極活物質と、炭素質材料からなる導電助剤と、ポリフッ化ビニリデンを主体としたバインダと、カールフィッシャー法による水分量が100ppm以下であるN−メチル−2−ピロリドンよりなる溶剤から構成される。
【0014】
<正極活物質>
本発明の合剤スラリーに用いられる正極活物質は、一般式LiNi(1−y)(0.9≦x≦1.1、0.45≦y≦1.0、M=Al、Mn、Co、Cr、Mg、Fe、Zr、Tiから選択される少なくとも1種の金属)で表わされるリチウム含有複合酸化物を少なくとも含む。前記正極活物質は、リチウムに対して3〜4.2V付近に高い容量を示すので、高容量な電池を提供することができる。なお、前記一般式LixNiyM(1−y)O2で表わされるリチウム含有複合酸化物は、単一組成品を1単独で使用してもよく、異組成品の2種以上を併用してもよい。
【0015】
なお、前記一般式LiNi(1−y)で表わされるリチウム含有複合酸化物の組成分析は、ICP(Inductive Coupled Plasma)法を用いて以下のように行うことが出来る。まず、測定対象となるリチウム含有複合酸化物を0.2g採取して100mL容器に入れる。その後、純水5mL、王水2mL、純水10mLを順に加えて加熱溶解し、冷却後、さらに25倍に希釈してICP(JARRELASH社製「ICP−757」)にて組成を分析する(検量線法)。得られた結果から、組成式を導くことが出来る。
【0016】
前記一般式LiNi(1−y)で表わされるリチウム含有複合酸化物は、その真密度が4.55〜4.95g/cm3と大きな値になり、高い体積エネルギー密度を有する材料となる。なお、Mnを一定範囲で含む場合のリチウム含有複合酸化物の真密度は、その組成により大きく変化するが、前記の組成範囲であれば構造が安定化され、均一性を高めることができるため、例えばLiCoO2の真密度に近い大きな値となるものと考えられる。また、リチウム含有複合酸化物の質量当たりの容量を大きくすることができるとともに可逆性に優れた材料とすることもできる。
【0017】
前記一般式LiNi(1−y)で表わされるリチウム含有複合酸化物は、特に化学量論比に近い組成のときに、その真密度が大きくなるが、具体的には、前記一般組成式において、0.9≦x≦1.1とすることが好ましく、xの値をこのように調整することで、真密度および可逆性を高めることができる。xは、0.95以上1.05以下であることがより好ましく、この場合には、リチウム含有複合酸化物の真密度を4.6g/cm3以上と、より高い値にすることができる。
【0018】
前記一般式LiNi(1−y)で表わされるリチウム含有複合酸化物は、Li含有化合物(水酸化リチウム・一水和物など)、Ni含有化合物(硫酸ニッケルなど)、Co含有化合物(硫酸コバルトなど)、Mn含有化合物(硫酸マンガンなど)、および元素群Mに含まれるその他の元素を含有する化合物(硫酸アルミニウム、硫酸マグネシウムなど)を混合し、焼成するなどして製造することができる。また、より高い純度で前記リチウム含有複合酸化物を合成するには、元素群Mに含まれる複数の元素を含む複合化合物(水酸化物、酸化物など)とLi含有化合物とを混合し、焼成することが好ましい。
【0019】
焼成条件は、例えば、800〜1050℃で1〜24時間とすることができるが、一旦焼成温度よりも低い温度(例えば、250〜850℃)まで加熱し、その温度で保持することにより予備加熱を行い、その後に焼成温度まで昇温して反応を進行させることが好ましい。予備加熱の時間については特に制限はないが、通常、0.5〜30時間程度とすればよい。また、焼成時の雰囲気は、酸素を含む雰囲気(すなわち、大気中)、不活性ガス(アルゴン、ヘリウム、窒素など)と酸素ガスとの混合雰囲気、酸素ガス雰囲気などとすることができるが、その際の酸素濃度(体積基準)は、15%以上であることが好ましく、18%以上であることが好ましい。
【0020】
また、正極活物質には、前記一般式LiNi(1−y)で表わされるリチウム含有複合酸化物とは別のリチウム含有複合酸化物を併用してもよい。このようなリチウム含有複合酸化物としては、例えば、LiCoO2などのリチウムコバルト酸化物;LiMnO、LiMnOなどのリチウムマンガン酸化物;LiMn、Li4/3Ti5/3などのスピネル構造のリチウム含有複合酸化物;LiFePOなどのオリビン構造のリチウム含有複合酸化物;前記の酸化物を基本組成とし各種元素で置換した酸化物;などが挙げられる。
【0021】
正極活物質には、前記一般式LiNi(1−y)で表わされるリチウム含有複合酸化物の1種または2種以上と、前述したリチウムコバルト酸化物やリチウムマンガン酸化物などの他のリチウム含有複合酸化物の1種または2種以上を併用してもよい。
【0022】
なお、前記一般式LiNi(1−y)で表わされるリチウム含有複合酸化物を他のリチウム含有複合酸化物と併用する場合には、前記一般式LiNi(1−y)で表わされるリチウム含有複合酸化物の使用による効果をより良好に確保する観点から、他のリチウム含有複合酸化物の割合は活物質全体の80質量%以下とすることが望ましい。
【0023】
以上、前記正極活物質の大きさは、平均粒子径(レーザー散乱法において測定されるD50%)で、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは1μm以上であって、好ましくは30μm以下、より好ましくは15μm以下である。
【0024】
<バインダ溶液>
本発明の合剤スラリーには、前述した正極活物質以外に、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を主体としたバインダと、カールフィッシャー法による水分量が100ppm以下であるN−メチル−2−ピロリドン(NMP)よりなる溶剤を含む。本発明においては、前記PVDFを、カールフィッシャー法による水分量が100ppm以下であるNMPに分散、溶解させたバインダ溶液を予め作製し、これに前記正極活物質などを加えて合剤スラリーを作製することが好ましい。
【0025】
前記PVDFは、例えば重量平均分子量が10〜100万であるものの中から選択され、前記重量平均分子量が単一のPVDFを用いてもよいし、異なる重量平均分子量の2種以上を併用して用いても構わない。
【0026】
10質量%の水溶液とした場合のpHが9以上のNMPに、前記PVDFを分散、溶解させる溶液が経時的に着色する。これは、前記PVDFが脱フッ素反応を起こしているためと考えられている。また、このバインダ溶液に、前記一般式LixNiyM(1−y)O2で表わされるリチウム含有複合酸化物を加えて分散させると、前記リチウム含有複合酸化物のアルカリによる作用により、ただちに得られたスラリーがゲル化してしまう問題があった。
【0027】
一方、10質量%の水溶液とした場合のpHが7以下のNMPに、前記PVDFを分散、溶解させる溶液は経時的な着色はなく、この溶液に前記リチウム含有複合酸化物を加えて分散させても、ただちにスラリーの増粘は見られなかった。しかし、スラリーを複数日の間、貯蔵をするとスラリーの粘度が次第に高くなり、時にゲル化するまで増粘することがあった。
【0028】
そこで、本発明者は、使用されるNMPの水分量に着目したところ、カールフィッシャー法による水分量が100ppm以下であるNMPを溶剤として用いれば、前述のようなバインダ溶液の着色並びに前記一般式LiNi(1−y)で表わされるリチウム含有複合酸化物を加えた後でも、スラリーの増粘は起こらず、複数日の貯蔵下においてもほぼ一定の粘度を示すスラリーが得られることを見出した。詳細は不明であるが、おそらくNMPの水分がpHの経時的な増加を誘発するなど、スラリーの増粘やゲル化に悪影響を与えているものと考えられる。
【0029】
さらに、本発明の合剤スラリーには、カールフィッシャー法による水分量が100ppm以下であるとともに、10質量%の水溶液とした場合のpHが6〜8であるNMPを用いることが望ましい。このような、NMPを得るには、例えば蒸留やパーベーパレーション法などの分離操作により、余分な水分やアルカリなどの不純物を取り除くことで得ることができる。特に少なくとも5質量%の水分を含んだNMPを蒸留で精製する方法が望ましい。
【0030】
前記カールフィッシャー法による水分量は、例えば市販の水分測定装置(平沼産業製、AQ−7)で測定できる。pHは、例えば自動滴定装置(東亜ディーケーケー製、AUT−701)で測定できる。
【0031】
NMPの、10質量%の水溶液とした場合のpHを6〜8に調整するなどの目的で、前記NMPに例えば有機酸を添加してもかまわない。その添加量はNMPに対して500ppm以下が好ましく、特に好ましくは100ppm以下である。
【0032】
これらPVDFおよびNMPを用いてバインダ溶液を作製する方法としては、特に制限はなく、例えば撹拌翼を備えた撹拌機に、水分量を100ppm以下(好ましくはpHが6〜8)に調整したNMPを投入、さらにPVDFの粉末を任意量加え(好ましくは複数回に分けて加えるとよい)、PVDFを撹拌および溶解させる手法があげられる。また、PVDFの溶解性を向上させるために、前記撹拌機を加温してもかまわない。
【0033】
PVDFの溶解性は、例えばバインダ溶液の粘度を回転式粘度計などで管理する方法、あるいはバインダ溶液を適量取り出し、硝子板にキャストして、未溶解分がないことを目視確認する方法などがあげられる。なお、PVDFの溶解濃度は高すぎると、未溶解分が発生する、著しく粘度が高くなる、などの問題が生じるので、高くとも30質量%とすることが望ましく、低すぎるとバインダ量が不足する、または塗布するための十分なスラリー粘度が得られない、などの問題が生じるので、低くとも5質量%であることが望ましい。
【0034】
本発明においては、前記PVDFの他に、別のバインダを併用してもよい。例えば、PVDFと共にPVDF系ポリマー以外のテトラフルオロエチレン−ビニリデンフルオライド共重合体(「P(TFE−VDF))を使用してもよい。本発明において、「PVDFを主体としたバインダ」とは、全バインダを100質量%とするとき、全バインダ中のPVDFは60質量%以上含まれていることを指す。
【0035】
また、バインダには、PVDFまたは、PVDFおよびP(TFE−VDF)と共に、又は単独で、これら以外のバインダも使用することができる。このようなバインダとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリヘキサフルオロプロピレン(PHFP)、スチレンブタジエンゴム、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、プロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、または、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体およびそれら共重合体のNaイオン架橋体などが挙げられる。
【0036】
本発明で使用されるバインダ溶液の作製は、例えば前記NMPの水分量を管理するなどの目的で、ドライエア、炭酸ガス、窒素ガスあるいはヘリウム、アルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気下で実施してもよいし、またはこれらガスをバインダ溶液中にバブリングさせながら作製してもよい。作製したバインダ溶液を貯蔵する場合も、前記ドライエア、炭酸ガス、窒素ガスあるいはヘリウム、アルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気下で保存してもよい。
【0037】
<導電助剤>
本発明で使用される炭素質材料からなる導電助剤としては、合剤スラリー内およびリチウムイオン二次電池内で化学的に安定なものであればよい。例えば、天然黒鉛、人造黒鉛などのグラファイト、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(商品名)、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック、気相成長炭素繊維、カーボンナノチューブなどの炭素繊維などが挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、導電性の高い黒鉛と、吸液性に優れたカーボンブラックが好ましい。また、導電助剤の形態としては、一次粒子に限定されず、二次凝集体や、チェーンストラクチャーなどの集合体の形態のものも用いることができる。このような集合体の方が、取り扱いが容易であり、生産性が良好となる。
【0038】
前記炭素質材料からなる導電助剤の合剤スラリー中への添加濃度は、使用する正極活物質の種類もしくは合剤スラリー中への添加濃度などで適宜決定すればよく、例えば前記正極活物質に対して、0.2〜10質量%の範囲で決めればよい。
【0039】
<合剤スラリー>
本発明における合剤スラリーは、前述した、一般式LiNi(1−y)で表わされるリチウム含有複合酸化物を含む正極活物質と、炭素質材料からなる導電助剤と、PVDFを主体としたバインダと、カールフィッシャー法による水分量が100ppm以下であるNMPよりなる溶剤から構成されればよい。
【0040】
従ってその製造方法についての制限はないが、特に好ましくは、カールフィッシャー法による水分量が100ppm以下であり、10質量%の水溶液とした場合のpHが6〜8であるNMPに、PVDFを主体としたバインダを溶解または分散させたバインダ溶液に、一般式LiNi(1−y)で表わされるリチウム含有複合酸化物を含む正極活物質および炭素質材料からなる導電助剤を加えて混合する方法である。
【0041】
前記正極活物質と導電助剤は、それぞれを単独で加えてもよいし、正極活物質と導電助剤とをあらかじめ粉体混合機(複軸パドル型、V型、気流撹拌型などの混合機、あるいは乾式ボールミルなど)で混合したものを、バインダ溶液に加えてもよい。これら部材を、プラネタリーミキサーなど従来公知の撹拌機を用いて混合させることで合剤スラリーを得ることができる。
【0042】
前記作製した合剤スラリーに、粘度を調整するなどの目的で、NMPを追加してもよい。この場合も、前述のカールフィッシャー法による水分量が100ppm以下であり、より好ましくは10質量%の水溶液とした場合のpHが6〜8であるNMPを使用することが望ましい。
【0043】
前記合剤スラリーを作製する場合、前述したバインダ溶液の作製と同様に、ドライエア、炭酸ガス、窒素ガスあるいはヘリウム、アルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気下で実施してもよい。また、これらガスを合剤スラリー中にバブリングして作製してもよい。作製した合剤スラリーの貯蔵もこれらガス雰囲気で行ってもよい。
【0044】
以上の通り作製した合剤スラリーを、アルミニウムまたはその合金からなる集電体の片面または両面に塗布し、加熱させて溶剤を気化および除去することで集電体表面に正極合剤層が形成される。後に、必要に応じてカレンダ処理を施す工程などを経て正極が製造される。得られた正極は、リチウムイオン二次電池の正極として好適に用いることができる。ただし、正極の製造方法は、前記の方法に制限される訳ではなく、他の製造方法で製造してもよい。
【0045】
前記正極合剤層の組成としては、例えば、正極活物質の量が65〜98質量%であることが好ましく、バインダの量が1〜15質量%であることが好ましく、導電助剤の量が1〜20質量%であることが好ましい。
【0046】
以上、本発明の合剤スラリーで作製した正極は、従来公知の黒鉛や金属酸化物を活物質とした負極、リチウム塩を有機溶剤に溶解した非水系電解液あるいは高分子ポリマー電解質、そしてポリオレフィン製の微多孔質膜を主構成成分として組み合わせることで、リチウムイオン二次電池として活用することができる。本発明の合剤スラリーで作製した正極は、前述したように容量の高い正極活物質を使用しているので、高容量なリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【0047】
リチウムイオン二次電池の形態としては、スチール缶やアルミニウム缶などを外装缶として使用した筒形(角筒形や円筒形など)などが挙げられる。また、金属を蒸着したラミネートフィルムを外装体としたソフトパッケージ電池とすることもできる。いずれの形態においても、これらリチウムイオン二次電池は、従来から知られている各種用途と同じ用途に用いることができる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は、本発明を制限するものではない。
【0049】
(実施例1)
N−メチル−2−ピロリドン(NMP、カールフィッシャー法による水分量が60ppm、10質量%水溶液とした場合のpHが7.0)100質量部に、バインダであるポリフッ化ビニリデン(PVDF、重量平均分子量31万)15質量部を加え、撹拌してポリフッ化ビニリデンのバインダ溶液を得た。
【0050】
この溶液13質量部に、正極活物質であるLiNi0.85Co0.10Al0.05(平均粒径10μm)を96質量部、導電助剤であるアセチレンブラックを2質量部加え、プラネタリーミキサーで撹拌および混合して合剤スラリーを得た。
【0051】
得られた合剤スラリーをステンレス製のボトルに装填し、回転式粘度計(リオン社製ビスコテスター、VT−04F)を用い、作製直後と作製7日後の粘度を測定した。結果を表1に示す。
【0052】
(実施例2)
カールフィッシャー法による水分量が100ppm、10質量%水溶液とした場合のpHが7.5であるNMPを用いた以外は、すべて実施例1と同様にして合剤スラリーを作製し、実施例1と同様に合剤スラリーの粘度を測定した。
【0053】
(比較例1)
カールフィッシャー法による水分量が300ppm、10質量%水溶液とした場合のpHが7.0であるNMPを用いたこと以外はすべて実施例1と同様にして合剤スラリーを作製し、実施例1と同様に合剤スラリーの粘度を測定した。
【0054】
(比較例2)
カールフィッシャー法による水分量が1000ppm、10質量%水溶液とした場合のpHが9.0であるNMPを用いたこと以外はすべて実施例1と同様にして合剤スラリーを作製した。作製した合剤スラリーは、作製後すぐにゲル化してしまい、粘度の測定は不可能であった。
【0055】
(表1)

【0056】
水分量が100ppm以下のNMPを使用した実施例1および2の合剤スラリーは、その粘度の時間的変化が少なく、貯蔵性に優れた合剤スラリーであることがわかる。比較例1の合剤スラリーは、作製初期時はゲル化などの著しい増粘は見られなかったが、作製から7日経過すると、粘度が大幅に増大した。また、比較例2の合剤スラリーは、作製初期においてただちに増粘し、その後ゲル化してしまった。以上の結果より、水分量が100ppm以下のNMPを用いることにより、増粘性の少ない合剤スラリーを得られることが証明された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式LiNi(1−y)(0.9≦x≦1.1、0.45≦y≦1.0、M=Al、Mn、Co、Cr、Mg、Fe、Zr、Tiから選択される少なくとも1種の金属)で表わされるリチウム含有複合酸化物を含む正極活物質と、炭素質材料からなる導電助剤と、ポリフッ化ビニリデンを主体としたバインダと、カールフィッシャー法による水分量が100ppm以下であるN−メチル−2−ピロリドンよりなる溶剤から構成される合剤スラリー。
【請求項2】
カールフィッシャー法による水分量が100ppm以下であり、10質量%の水溶液とした場合のpHが6〜8であるN−メチル−2−ピロリドンに、ポリフッ化ビニリデンを主体としたバインダを溶解または分散させたバインダ溶液に、一般式LiNi(1−y)(0.9≦x≦1.1、0.45≦y≦1.0、M=Al、Mn、Co、Cr、Mg、Fe、Zr、Tiから選択される少なくとも1種の金属)で表わされるリチウム含有複合酸化物を含む正極活物質および炭素質材料からなる導電助剤を加えて混合することを特徴とする合剤スラリーの製造方法。

【公開番号】特開2012−186054(P2012−186054A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−48904(P2011−48904)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(511084555)日立マクセルエナジー株式会社 (212)
【Fターム(参考)】