説明

合否判定機能付きデジタルノギス

【課題】
製造した被測定物の寸法が規定通りであるか否かを検査する際に、この種の合否判定を瞬時に可能とし、この種の判定作業にかかる手間暇を軽減すると共に、人為的なミスの発生を防止し、合否判定作業の効率が上がるようにする。
【解決手段】
スライダ111のデジタル表示器115に測定値を数値表示するデジタルノギスにおいて、スライダ111に、被測定物の規定寸法に対する上限値と下限値との公差の設定操作を行う公差設定部120と、この公差設定部120での設定操作により設定した公差設定値を記憶部132に記憶させる公差設定制御部131と、被測定物の測定によってエンコーダ130から出力される測定値が、記憶部132に記憶された公差設定値の範囲内であるか否かを判定して表示部121に表示する合否判定部133とを備えて形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械部品等の製造物の幅・厚さ・直径・深さなどの物理的寸法を測定するのに使用するデジタルノギスに関し、更に詳しくは製造物が規定寸法通りに製造加工されているか否かを測定時に瞬時に把握することができるよう形成した合否判定機能付きデジタルノギスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、測定値の人為的な読み取りミスを低減するため、測定値を数値で表示する電子式のデジタルノギスがある。この種のノギスは、測定の基準となるメインスケール(本尺)に対して移動自在に取り付けられた検出子(スライダ)を有し、この検出子の移動変位量を電気信号に変換して測定値をデジタル表示するよう構成されている(例えば特許文献1、同2参照)。
【0003】
即ち従来のこの種のノギスは、例えば図3に示されるように、一方の内側測定ジョー2及び外側測定ジョー3を有する本尺1と、他方の内側測定ジョー12及び外側測定ジョー13を有すると共に、本尺1に沿って移動自在に形成されているスライダ11と、このスライダ11の本尺1に対する移動変位量を電気信号として検出する検出電極4及び本尺1に内蔵されている静電容量式のエンコーダ(図示せず)とを備えて形成されている。
そしてスライダ11には、その上縁側に、スライダ11を本尺1に対して固定するクランプねじ14が設けられ、またその表面側に、スライダ11の移動変位量をデジタル表示するデジタル表示器15や、電源のオン・オフスイッチ16及びゼロセットスイッチ17などが設けられている。
【0004】
而してこの種のノギスは、本尺1の長手方向に沿ってスライダ11を移動させると、スライダ11の移動変位量がエンコーダによって検出され、この移動変位量に応じた検出値がデジタル表示器15にデジタル表示される。
従って測定者は、例えば被測定物の孔径を測定するときはスライダ11を移動させ、その孔内に内側用測定ジョー2,12を当接させ、また被測定物の厚みや外寸などを測定するときは、スライダ11を移動させ、その厚み方向の両側壁に外側用測定ジョー3,13を当接させる。するとこの当接時のスライダ11の移動変位量、換言すると、内側用測定ジョー2,12間、又は外側用測定ジョー3,13間の寸法が、デジタル表示器15にデジタル表示される。従ってこの種のノギスは、この表示された数値を読み取ることにより被測定物を精度良く測定できる。
【0005】
しかしながら従来、この種のノギスの場合は、製造した被測定物の寸法が規定の許容範囲に収まっているか否かの合否判定を行う場合は、前述のような測定作業を測定者が行って先ず数値を読み取り、次にこの数値と許容範囲を示す数値とを比較して判定しなければならなかった。
従って従来品によると、この種の合否判定に必要以上に手間暇がかかり、また人為的なミスが生じるのを避けられず、製造物の合否判定を効率良くできない、という問題点があった。
【特許文献1】特許第2807392号公報
【特許文献2】特開平9−329407号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような従来品の問題点に鑑み、提案されたものである。
従って本発明の解決しようとする技術的課題は、製造した被測定物の寸法が規定通りであるか否かを検査する際に、この種の合否判定を瞬時に可能とし、この種の判定作業にかかる手間暇を軽減すると共に、人為的なミスの発生を防止し、合否判定作業の効率を向上できるよう形成した合否判定機能付きデジタルノギスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するために、次のような技術的手段を採る。
即ち本発明は、図1及び図2に示されるように、本尺101の端部に一方の測定ジョー102,103が設けられ、この本尺101に沿って移動自在に形成されたスライダ111に他方の測定ジョー112,113が設けられ、スライダ111を移動して被測定物の測定部位間に双方の測定ジョー102,112又は103,113を当接し、この際のスライダ111の本尺101に対する移動変位量を内蔵するエンコーダ130で電気信号として検出し、この検出量を測定値としてスライダ111のデジタル表示器115に数値表示するデジタルノギスにおいて、上記のスライダ111に、被測定物の規定寸法に対する上限値と下限値との公差の設定操作を行う公差設定部120と、この公差設定部120での設定操作により設定された公差設定値を記憶部132に記憶させる公差設定制御部131と、被測定物の測定によって上記のエンコーダ130から出力される測定値が、上記の記憶部132に記憶された公差設定値の範囲内であるか否かを判定して表示部121に表示する合否判定部133とを備えて形成されていることを特徴とする(請求項1)。
【0008】
本発明では、被測定物の寸法を検査する際に、その寸法が規定寸法に適合しているか否かが表示部121に表示されるから、測定者は表示部を見ることによって瞬時に被測定物の合否判定を行うことができる。従ってこれによれば、製造物が規定寸法通りに、製造、加工されているか否かを、簡単且つ迅速に、またミスなく、効率良くできる。
【0009】
而して本発明の場合、上記の表示部121は、エンコーダ130から出力される測定値が記憶部132に記憶された公差設定値の範囲内であることを表示する合格状態表示部121aと、公差設定値の範囲外の場合は、公差設定値の下限値よりも小さいことを表示する第1の不合格状態表示部121bと、公差設定値の上限値よりも大きいことを表示する第2の不合格状態表示部121cとで形成されているのが好ましい(請求項2)。
なぜならこれによると、被測定物が合格品か否かを判定できるだけではなく、合格範囲よりも小さいか、或いは大きいかについてまで、瞬時に判定することができ、不合格品の不合格状態を分別することができるからである。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、このように構成されているから、製造した被測定物の寸法を検査する際に、その寸法の合否判定を瞬時に行うことができる。
従ってこれによれば、寸法検査の手間暇を軽減でき、この種の検査をミスなく、効率良く行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の好適な一実施形態を添付図面に従って説明する。
図1は、本発明に係る合否判定機能付きデジタルノギスの外観構成図である。本発明品は、同図に示されるように、一方の内側測定ジョー102及び外側測定ジョー103が設けられている本尺101と、他方の内側測定ジョー112及び外側測定ジョー113が設けられていると共に、本尺101に沿って移動自在に形成されているスライダ111とを備えて形成されている。そしてスライダ111には、その上縁側に、スライダ111を本尺101に対して固定するクランプねじ114が設けられ、表面側には、測定した寸法値をデジタル表示するデジタル表示器115と、ABS(アブソリュート)スイッチ116と、電源のオン・オフ及びゼロセット用のスイッチ117とが設けられている。またスライダ111の表面側には、本発明の特徴要素である公差表示釦120a、公差マイナス歩進釦120b、公差プラス歩進釦120c、公差設定釦120dを有する公差設定部120と、測定値が公差設定値の範囲内であるか否かの判定結果を表示する表示部121とが形成されている。この表示部121は、公差設定値の範囲内であることを表示する合格状態表示部121aと、公差設定値の下限値よりも小さいことを表示する第1の不合格状態表示部121bと、公差設定値の上限値よりも大きいことを表示する第2の不合格状態表示部121cとで形成されている。
【0012】
また本発明品は、スライダ111の本尺101に対する移動変位量を電気信号として検出し、この検出量を測定値としてデジタル表示器115に表示する静電容量式のエンコーダ130が、本尺101に内蔵されている。また本発明品は、図2に示されるように、公差設定制御部131と、公差設定値の記憶部132と、合否判定部133とを備え、これらがスライダ111に内蔵され、相互に、またデジタル表示器115、公差設定部120、表示部121、エンコーダ130と信号ラインで電気的に接続されている。
【0013】
上記の公差設定制御部131は、公差設定部120で設定した上限値(規定寸法に、例えば5/100mmを加算した値)と、下限値(規定寸法から、例えば5/100mmを減算した値)との公差設定値(下限値から上限値の範囲の合格値)を、公差設定値の記憶部132に記憶させる制御を司り、ICチップで構成されている。公差設定値の設定操作は、例えばスライダ111を規定寸法に移動し、クランプねじ114で固定した後、公差表示釦120aを押し下げると共に、公差マイナス歩進釦120bと公差プラス歩進釦120cとを押し下げることで行う。この実施形態の場合は、公差表示釦120aを押し下げると、規定寸法がデジタル表示器115に点滅する。この状態で測定者が、公差プラス歩進釦120cを押し下げると、押し下げ回数に応じて、1/100mm単位で数値が増加する。そこで上限値に至ったら、公差設定釦120dを押し下げる。すると、公差設定制御部131から、上限値を公差設定値の記憶部132に記憶させる信号が出力し、上限値が記憶部132に設定される。
【0014】
そして測定者が、再び公差表示釦120aを押し下げると、スライダ111の固定による規定寸法がデジタル表示器115に点滅し、次に公差マイナス歩進釦120bを押し下げると、規定寸法が押し下げた回数に応じて、1/100mm単位で減少する。そして下限値において、公差設定釦120dを測定者が押し下げることにより、下限値が記憶部132に記憶されるよう構成されている。
【0015】
また上記の合否判定部133は、エンコーダ130から出力される測定値と、公差設定値の記憶部132に記憶された公差設定値(下限値から上限値の範囲の合格値)とを比較し、測定値が公差設定値の範囲内であれば合格状態表示部121aを点灯させ、公差設定値よりも小さければ、第1の不合格状態表示部121b(図面上のNGとは、No−Goodの略)を例えば点滅させ、また公差設定値よりも大きければ、第2の不合格状態表示部121cを点滅させるよう構成されている。
【0016】
次に、このような構成に係る本発明品によって、被測定物の寸法が許容範囲に収まっているか否かの合否判定を行う場合の動作を説明する。被測定物の規定寸法は、100mm、許容範囲は100mmプラスマイナス5%とする。
【0017】
先ず測定者は、スライダ111及び公差設定部120を使用して公差設定を行う。即ち測定者は、先ずスライダ111を移動させ、デジタル表示器115が規定寸法(100.00mm)を表示したら、その箇所でスライダ111をクランプねじ114で固定する。次に公差表示釦120aを押し下げ、表示中の規定寸法(100.00mm)を点滅させ、その後、公差プラス歩進釦120cを押し下げて規定寸法の100.00mmに、上限の許容範囲(0.05mm)を加え、上限値(100.05mm)を設定する。そしてこの状態で測定者が、公差設定釦120dを押し下げると、その上限値(100.05mm)が、公差設定制御部131の制御によって記憶部132に記憶される。
【0018】
次に測定者が、再び公差表示釦120aを押し下げ、スライダ111の固定による規定寸法(100.00mm)を点滅させる。そして、公差マイナス歩進釦120bを押し下げ、規定寸法の100.00mmから下限の許容数値(0.05mm)が引かれたら、公差設定釦120dを押し下げる。これによって、下限値(99.95mm)が、公差設定制御部131の制御によって記憶部132に記憶される。
【0019】
測定者は、このようにして公差設定を行った後、被測定物を測定する。先ず測定した被測定物の寸法が、例えば100.03mmであったとすると、合否判定部133において、エンコーダ130から出力される測定値(100.03mm)と、記憶部132に記憶された公差設定値(99.95mm〜100.05mm)とが比較される。この場合は、測定値(100.03)が、公差設定値(99.95mm〜100.05mm)の範囲内なので、合格状態表示部121aが点灯する。従ってこれを測定者が見ることにより、瞬時に被測定物が合格品であることを判定できる。
【0020】
次に被測定物の寸法が、例えば99.90mmであったとする。この場合は、合否判定部133において、その測定値(99.90mm)と、記憶された公差設定値(99.95mm〜100.05mm)とが比較される。この結果においては、測定値(99.90mm)が下限値(99.95mm)よりも小さいので第1の不合格状態表示部121bが点滅し、これを測定者が見ることにより、瞬時に被測定物が不合格品であることを判定でき、且つ規定寸法よりも小さいことを知ることができる。
【0021】
次に被測定物の寸法が、例えば100.08mmであったとする。この場合は、合否判定部133において、その測定値(100.08mm)と、公差設定値(99.95mm〜100.05mm)とが比較され、測定値(100.08mm)の方が上限値(100.05mm)よりも大きいので第2の不合格状態表示部121cが点滅する。従ってこれを測定者が見ることによって瞬時に被測定物が不合格品であることを判定でき、且つ規定寸法よりも大きいことを知ることができる。
【0022】
この実施形態に係る本発明は、このように被測定物の寸法が規定寸法に適合しているか否かを、合格状態表示部121aによる点灯表示、第1の不合格状態表示部121b、又は第2の不合格状態表示部121cによる点滅表示で知らせるよう形成されている。従って測定者は、その点灯、又は点滅を目視することによって被測定物を瞬時に合否判定することができるから、これによればこの種の合否判定を、簡単、迅速に、またミスなく、効率良く行うことができる。
またこの実施形態の場合は、被測定物が不合格品である場合に、第1の不合格状態表示部121b、及び第2の不合格状態表示部121cによって規定寸法よりも小さいか、又は大きいかの情報も瞬時に知ることができる。従ってこの本発明を使用すれば、不合格品の不合格状態を分別することができる。そしてこの場合、規定寸法よりも大きいものは、早く再加工にまわすことができるから、これによれば不合格品の再加工効率の向上にも役立つものである。
【0023】
以上の処において、本発明は、表示部121が、上例のように合格状態表示部121a、第1の不合格状態表示部121b、第2の不合格状態表示部121cで形成される場合は、それぞれ異なる音が、点灯又は点滅と同時に鳴動するよう構成されるのでも良い。なぜならこれによると、被測定物の合否判定を、より楽に、且つ明確に行うことができるからである。
【0024】
また本発明は、上記の公差設定部120を1つのモード釦で構成し、上限値、下限値の設定をスライダ111の移動と、移動後にモード釦を操作することで行うよう形成するのでも良い。即ち、上限値の設定は、スライダ111を上限値(例えば100.05mm)に移動してクランプねじ114で固定し、その後、モード釦を所定時間(例えば2秒)以上押し下げ、上限値(100.05mm)を例えば点滅させた状態でモード釦を更に所定時間(例えば2秒)以上押し下げることにより、上限値(100.05mm)が記憶部132に記憶されるよう構成する。また下限値の設定は、スライダ111を下限値(例えば99.95mm)に移動してクランプねじ114で固定し、その後、モード釦を所定時間(例えば2秒)以上押し下げて下限値(99.95mm)を例えば点滅させ、この状態でモード釦を更に所定時間(例えば2秒)以上押し下げることにより、下限値(99.95mm)が記憶部132に記憶されるよう構成する。この構成の場合は、公差設定部120の構成、操作を、簡略化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明ノギスの好適な一実施形態を示す一部を切欠した外観構成図である。
【図2】同上ノギスの要部ブロック図である。
【図3】従来のデジタルノギスを示す一部を切欠した外観構成図である。
【符号の説明】
【0026】
101 本尺
102,103 一方の測定ジョー
112,113 他方の測定ジョー
111 スライダ
115 デジタル表示器
120 公差設定部
121 表示部
130 エンコーダ
131 公差設定制御部
132 公差設定値の記憶部
133 合否判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本尺の端部に一方の測定ジョーが設けられ、この本尺に沿って移動自在に形成されたスライダに他方の測定ジョーが設けられ、スライダを移動して被測定物の測定部位間に双方の測定ジョーを当接し、この際のスライダの本尺に対する移動変位量を内蔵するエンコーダで電気信号として検出し、この検出量を測定値としてスライダのデジタル表示器に数値表示するデジタルノギスにおいて、
上記のスライダに、被測定物の規定寸法に対する上限値と下限値との公差の設定操作を行う公差設定部と、この公差設定部での設定操作により設定された公差設定値を記憶部に記憶させる公差設定制御部と、被測定物の測定によって上記のエンコーダから出力される測定値が、上記の記憶部に記憶された公差設定値の範囲内であるか否かを判定して表示部に表示する合否判定部とを備えて形成されていることを特徴とする合否判定機能付きデジタルノギス。
【請求項2】
請求項1記載の合否判定機能付きデジタルノギスであって、表示部が、エンコーダから出力される測定値が記憶部に記憶された公差設定値の範囲内であることを表示する合格状態表示部と、公差設定値の範囲外の場合は、公差設定値の下限値よりも小さいことを表示する第1の不合格状態表示部と、公差設定値の上限値よりも大きいことを表示する第2の不合格状態表示部とで形成されていることを特徴とする合否判定機能付きデジタルノギス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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