説明

合成ガスからジメチルエーテルを直接合成するための触媒系及び方法

【課題】本発明の目的は、合成ガスからジメチルエーテルを直接合成することである。
本発明の別の目的は、酸性型のフェリエライトゼオライトの製造のための方法である。
本発明の別の目的は、本発明の触媒系を使用した、合成ガスからジメチルエーテルを直接合成するための方法である。
【解決手段】メタノール合成用触媒、及びメタノール脱水成分としての酸性型のフェリエライトゼオライトを含み、両者が規定された粒度分布の粉末の形態で又はペレットとして物理的に混合されている、合成ガスからジメチルエーテルを直接合成するための混合床触媒系及びその活性化について記載している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成ガスから化合物を直接合成するため、より詳しくはジメチルエーテルを直接合成するための触媒に関し、より具体的にはメタノール合成用触媒及び脱水成分としてのゼオライトの物理的な混合で得られる触媒系に関する。
【背景技術】
【0002】
DMEという略号によっても知られる、ジメチルエーテルは、石油誘導体、特にディーゼル及びLPGを置き換える、有望なエネルギー代替として、中進国の企業及び研究センターの間に広まりつつある。
【0003】
DMEの大きな利点の1つは、原材料に関するその柔軟性である。実際、DMEは石炭から、石油残渣から、天然ガス又はバイオマス残渣から得られる。
【0004】
この燃料は、環境の保全に関して種々の利点を有し、この主な要因は、ディーゼルエンジンに使用された場合に微粒子を発生しないことである。
【0005】
伝統的には、DMEは、酸性特性を有する触媒を使用して、メタノールの脱水に基づいて製造される。
【0006】
一方、メタノールは一酸化炭素の水素化により製造される。
【0007】
最近、メタノール合成用触媒及び前記アルコールの脱水用触媒を組み合わせた触媒系を使用する、合成ガスからのジメチルエーテルの直接合成に対して関心が向けられている。
【0008】
メタノール合成の段階及びメタノール脱水の段階の両方を、ハイブリッド触媒としても知られる、1つの同じ触媒で同時に実施できることが、理論的及び実験的な研究に基づいて確認された。この一連の反応に対して、更に、本発明者らは、やはり同時に起こると思われる水性ガスの置換反応も付け加えなければならない。
【0009】
直接合成により、メタノール合成の熱力学的限界を打破することが可能である。
【0010】
実際、ジメチルエーテルの直接合成において、メタノールは定常的に回収され、脱水される。これにより、一酸化炭素の転化率が向上し、転化率の平衡値が非常に高いレベルに移行する。
【0011】
合成ガスからのジメチルエーテルの直接合成に関する特許文献の大多数は、多数の類似点を有している。
【0012】
一般的に、240℃〜300℃の温度範囲、3000kPaから6000kPaの範囲の圧力、500h−1から5000h−1の範囲の空間速度で操作されるプロセスにおいて、H/CO比が1〜2で合成ガスは使用される。
【0013】
これらの特許は、通常以下の元素、即ちCu/Zn、Zn/Al、Zn/Cr、Cu/Zn/Al、Cu/Zn/Cr、Cu/Zn/Co又はCu/Cr/Feを含有するメタノール合成用触媒、及びアルミナ又はゼオライト系メタノール脱水用触媒で構成されるハイブリッド触媒を使用する。大多数の特許文献では、ハイブリッド触媒はこれら2つの成分の物理的混合により形成される。
【0014】
メタノール合成触媒の中で、最良の結果を示す触媒は、通常工業規模で使用される触媒であるCuO/ZnO/Alであった。
【0015】
ジメチルエーテルを得るためのメタノールの脱水は、多孔質材料の酸性部位で起こり、大多数の特許文献及び科学論文では、γ−アルミナ並びにゼオライトHZSM−5及びHYが脱水成分として引用されている(Huang、Applied Catalyst A:General、167、1998、23及びLi、Appl.Catal.A147、1996、23)。数件の中国特許文献も、以下のゼオライト、即ち、H−フォージャサイト、モルデナイト及びHYを引用している(中国特許第1087033号)。
【0016】
関連技術
反応機構の研究に基づいて、Schiffinoら(J.Phys.Chem.、97、1993、6425)はメタノールの脱水が酸性部位で起こることを実証した。
【0017】
竹口ら(Applied Catalysis A:General、192、2000、201−209)によると、メタノールの脱水の活性中心は、ブレンステッド酸部位及びルイス酸−塩基ペアと思われる。
【0018】
Shen(Thermochimica Acta、434、2005、22−26)は、強ブレンステッド酸部位を有する触媒は脱水に関して高活性を示すことを見出した。
【0019】
反対に、Kim(Applied Catalysis A:General、264、2004、37−41)及びAppel(Catalysis Today、101、2005、39−44)は、メタノールの脱水速度は脱水成分の酸強度に依存することを実証した。
【0020】
参照として本明細書に挿入される、米国特許第4375424号(Slaugh)は、合成ガスからジメチルエーテルを製造するための触媒及び方法を示している。ここで、触媒は、表面積が約150m/g及び500m/gであり、約400℃から900℃の温度範囲で焼成され、約100℃から275℃の温度で還元された、γ−アルミナに担持された銅及び亜鉛で構成され、前記触媒は700ppm未満のナトリウムしか含有していない。
【0021】
参照として本明細書に挿入される、米国特許第3894102号(Changら)は、合成ガスからガソリンへの転化を示し、その場合、合成ガスを水素化触媒と酸性脱水触媒との混合物に接触させることにより、第1段階でジメチルエーテルを生成する。次に、高オクタン価ガソリンに転化するように、この物質を結晶性アルミノシリケートと接触させなければならない。
【0022】
参照として本明細書に挿入される、米国特許第4520216号(Skovら)は、合成炭化水素、特に高オクタン価のガソリンが、水素及び炭素の酸化物を含有する合成ガスの触媒反応により二段階で調製されることを示している。第1段階では、合成ガスがメタノール及び/又はジメチルエーテルを含有する中間体に以下の条件、即ち1000kPaから8000kPa及び200℃から300℃の条件で転化される。メタノールの合成に使用可能な触媒は、クロム、アルミニウム及び/又は銅、並びに亜鉛の酸化物であり、ジメチルエーテル合成に使用可能な触媒は、ある種のゼオライトである。第2段階で、第1段階からの中間体は、300℃から340℃の入口温度を用いて、完全に転化される。熱は、反応器全体を通じて供給され、410℃から440℃の出口温度に到達することを可能にする。入口温度と出口温度の差は、反応による温度上昇よりも、少なくとも30℃高くなければならない。第2段階の触媒としては、メタノール及び/又はジメチルエーテルを炭化水素に転化するための数種の従来触媒、特に合成ゼオライトが使用できる。第2段階で得られる生成物は、冷却され、2つの流れ、即ち濃縮された炭化水素の混合物及びリサイクルガスに分離される。後者はリサイクルされ、新しく供給される合成ガスと混合される。第2段階に使用された触媒の不活性化が低速度であること、及び炭化水素の混合物が高品質であることが観測される。
【0023】
参照として本明細書に挿入される、中国特許第1085824号(Guangyuら)は、合成ガスを原材料として用いたジメチルエーテル製造用の触媒及び方法を記載している。触媒は、メタノールの工業的合成用のある種の触媒及びホウ素、チタン又はリンの酸化物で修飾されたアルミナから形成される。触媒は簡単な調製方法を有し、高い触媒活性、及びジメチルエーテルに対する良好な選択性を示し、反応の間は安定である。この技術は、合成ガスからのジメチルエーテルの直接調製に加えて、分離の手順も含む。この方法は、エタノール又は水を抽出剤として使用し、99%を超える純度を有するジメチルエーテルが、低圧で直接得られる。
【0024】
参照として本明細書に挿入される、特開昭63−254188号(柳ら)は、合成ガスをメタノール合成用触媒及び脱水剤と接触させてジメチルエーテルとCOを形成し、膜によりCOを未濃縮のガスから分離し、精製したガスをゼオライトと接触させる、合成ガスからの炭化水素の製造によって高オクタン価を有する液状化留分を得ることを教示している。
【0025】
実際、酸性度が、脱水成分の最も関連性がある特性である。
【0026】
更に、Appelら(Catalysis Today、101、2005、39−44)により、酸性度が上がるほど、DMEの形成速度が向上することが確認された。反対に、高酸性度の系では、この速度がメタノール形成の速度の関数であることが観測された。
従って、DMEの合成を適切に実施するためには、多数の強ブレンステッド酸部位がある酸性材料を有することが、非常に望ましいことが分かる。
ゼオライトなどの多孔質酸性材料の使用は、原理的に、高い酸強度及び多数のブレンステッド部位を有することにより、ジメチルエーテルの直接合成に良好な結果を与える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0027】
【特許文献1】中国特許第1087033号
【特許文献2】米国特許第4375424号
【特許文献3】米国特許第3894102号
【特許文献4】米国特許第4520216号
【特許文献5】中国特許第1085824号
【特許文献6】特開昭63−254188号
【非特許文献】
【0028】
【非特許文献1】Huang、Applied Catalyst A:General、167、1998、23
【非特許文献2】Li、Appl.Catal.A147、1996、23
【非特許文献3】Schiffinoら、J.Phys.Chem.、97、1993、6425
【非特許文献4】竹口ら、Applied Catalysis A:General、192、2000、201−209
【非特許文献5】Shen、Thermochimica Acta、434、2005、22−26
【非特許文献6】Kim、Applied Catalysis A:General、264、2004、37−41
【非特許文献7】Appel、Catalysis Today、101、2005、39−44
【非特許文献8】Datka、Applied Catalyst A:General、6414、2003、1−7
【非特許文献9】Wichterlova、Microporous and Mesoporous Materials、24、1998、223−233
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0029】
本発明の1つの目的は、合成ガスからジメチルエーテルを直接合成するための混合床触媒系及びその活性化であり、この系はメタノール合成用触媒、及びメタノール脱水成分としての酸性型のフェリエライトゼオライトを含み、両者が規定された粒度分布の粉末の形態で又はペレットとして物理的に混合されている。
【0030】
得られた触媒系は、ジメチルエーテルに対して選択的であり、例えば、メタン及び炭化水素等の不要な生成物の形成を示さない。
【0031】
本発明の別の目的は、酸性型のフェリエライトゼオライトの製造のための方法である。
【0032】
酸性型のフェリエライトゼオライトである、H−フェリエライトゼオライトは、シリカ/アルミナ比が10に等しく、カリウム及びナトリウムの重量含有率が、それぞれ5.2%及び0.9%のオーダーである。
【0033】
本発明の別の目的は、本発明の触媒系を使用して、合成ガスからジメチルエーテルを直接合成するための方法である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】真空暴露後のH−フェリエライトゼオライト上に、25℃で吸着したピリジンの赤外領域のスペクトルを示すグラフ表示である。
【図2】プログラムされた温度における、H−フェリエライトゼオライト上のアンモニアの脱離プロフィールのグラフ表示である。
【図3】供給ガスの異なる流速における、合成ガス中に存在するCOのジメチルエーテルへの転化率のグラフ表示である。
【図4】供給ガスの異なる流速における、COのモル選択率のグラフ表示である。
【図5】供給ガスの異なる流速における、メタノールのモル選択率のグラフ表示である。
【図6】供給ガスの異なる流速における、ジメチルエーテルのモル選択率のグラフ表示である。
【図7】合成ガスからジメチルエーテルへの転化率の安定性のグラフ表示である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明は、メタノール合成用触媒、及びメタノール脱水成分としてのH−フェリエライトゼオライトとを含む、合成ガスからジメチルエーテルを直接合成するための混合床触媒系、酸性型のフェリエライトゼオライトの製造のための方法、及び本発明の触媒系を使用する合成ガスからジメチルエーテルを直接合成するための方法に関する。
【0036】
本発明の触媒系は、メタノール合成用触媒及び酸性型のフェリエライトゼオライトを含む。
【0037】
メタノール合成用触媒は、酸化銅及び酸化亜鉛の混合物から選択可能な組成物を有し、酸化銅、酸化亜鉛及び酸化アルミニウムのみでも構成可能である。他の陽イオン、例えば、Zr、Cr、Ga、Pd、Pt、又は他の金属も添加可能である。
【0038】
メタノール合成用触媒は、当該金属の硝酸塩の溶液と炭酸カルシウムの溶液との混合物から共沈殿することにより調製可能である。得られた沈殿物は、次に焼成される。
【0039】
代替として、メタノール合成用触媒は、この目的のための市販触媒から選択可能である。
【0040】
既に記載したように、ゼオライトなどの多孔質酸性材料の使用は、ジメチルエーテルの直接合成に良好な結果を与えており、その性能は酸性部位の性質及び濃度に依存する。
【0041】
ゼオライトは、アルミニウム(3価)及びケイ素(4価)の四面体の三次元系で形成された構造であり、酸素原子で四面体状に配位されている。これらの四面体は、共有する酸素原子により互いに結合している。
【0042】
この状態では、各酸素原子は、近接する隣として、2原子のAl又は2原子のSi、又は、場合により、1原子のAl及び1原子のSiを有する。Alはより低い原子価を有し、安定な構造を生成するためにプロトンの結合が必要になるので、前記最後の選択肢は電荷の不均衡を起こす。その結果、ブレンステッド酸部位が発生する。
【0043】
原理的に、ブレンステッド酸部位が高濃度及び高酸強度であるため、フェリエライトゼオライトは良好な脱水成分であることを示す。
【0044】
フェリエライトはモルデナイト群に属するゼオライトであり、2つのチャンネル系を有する。1つ目は、4.2×5.4Åの寸法及び約18Åの断面積を有する楕円形部分である。2つ目のチャンネル系は、3.5×4.8Åの直径の8員環から形成される。これらのチャンネルは、フェリエライトの特性の原因であり、水、並びにナトリウム及び/又はカリウムのイオンを含有し、これらのイオンがTO四面体の構造の負電荷を相殺する(Datka、Applied Catalyst A:General、6414、2003、1−7、及びWichterlova、Microporous and Mesoporous Materials、24、1998、223−233)。
【0045】
シリカ/アルミナ比が60〜5の値の範囲である、酸性型のフェリエライトゼオライトを製造するための方法は、基本的に、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム及び酢酸アンモニウムから選択可能な塩の溶液を使用して、フェリエライトのナトリウム及びカリウムのイオンを、NHイオンにイオン交換することにより行われ、
− 還流系で、連続的に攪拌しながら、所定量のフェリエライトゼオライトと1mol/Lよりも高濃度を有するアンモニウム塩の溶液とを、90℃の温度で、1.5から3時間の範囲で変化する時間、接触させるステップと、
− 交換後に、混合物の最終体積の4倍に対応する量の脱イオン水で、ゼオライトペーストを洗浄するステップと、
− 前記段階の交換と洗浄を繰り返すステップと、
− 80℃から120℃の範囲の温度で、酸性ゼオライトを乾燥するステップと、
− NHイオンを除去するために、300℃から700℃の範囲の温度で、2から6時間の範囲の時間、1℃/分から10℃/分の範囲の加熱速度で、酸性ゼオライトを焼成するステップと
を含む。
【0046】
好ましくは、イオン交換用の塩が硝酸アンモニウムであり、アンモニウム塩の溶液が1.5mol/Lから1.7mol/Lの範囲に好ましい濃度を有し、攪拌時間が2から2.5時間の範囲であり、乾燥温度が好ましくは90℃から100℃の範囲であり、好ましい焼成温度が400℃から500℃の範囲であり、好ましい焼成時間が4から5時間の範囲であり、好ましい加熱速度が3℃/分と8℃/分の間である。
【0047】
上記の処理の後に、フェリエライトゼオライトは、形成されたメタノールの脱水のための主な要件である、ブレンステッド酸部位及び高酸強度を有する。
【0048】
これ以降、本明細書の必須部分を形成している、図の提示と説明に移行する。図1は、25℃におけるピリジン吸着並びに25℃(A)、150℃(B)及び250℃(C)における真空暴露後のH−フェリエライトゼオライトの赤外領域のスペクトルを示す。ルイス及びブレンステッド酸部位に配位したピリジンに対応する高強度のバンドが観測された。1444cm−1において、本発明者らは、ルイス酸部位に対応するバンド(Wichterlova、Microporous and Mesoporous Materials、24、1998、223−233)、及び1488cm−1において、本発明者らは、ブレンステッド酸部位(ピリジニウムイオン及び水素結合による結合)に加えてルイス酸部位に対応するバンドを同定した。
【0049】
更に、ブレンステッド酸部位(ピリジニウムイオン)に対応する、非常に強いバンドも1545cm−1に観測された。ルイス及びブレンステッド酸部位として同定された、別の2つのバンドも1620cm−1及び1635cm−1に見出された。
【0050】
図2は、プログラムされた温度における、H−フェリエライトゼオライト上のアンモニアの脱離の結果を示し、280℃、550℃及び840℃において、3つの脱離ピークの存在が明確に観測される。これらのピークは、それぞれ弱い酸性部位、強い酸性部位及び非常に強い酸性部位として同定できる。プログラムされた温度におけるアンモニアの脱離(DTP−NH)に基づいて計算される、H−フェリエライトゼオライトの全体の酸性度は、1608μmol NH/gサンプルであり、この酸性度の71%、即ち1134μmol NH/gは強い酸性部位に対応すると思われる。
【0051】
本発明の目的の1つである、合成ガスからジメチルエーテルを直接合成するための触媒系は、上述のように得られた、メタノール合成用触媒と脱水触媒との物理的混合により調製される。これらの両方とも、粉末又はペレットの形態であり、メタノール合成用触媒及び脱水触媒のモル比は1〜10の値の範囲である。
【0052】
好ましくは、脱水触媒に対するメタノール合成用触媒の比は、3〜7の値の範囲である。
【0053】
触媒系の活性化は、3%から10%の範囲のHモル濃度を有するH/Heガス混合物中の水素の還元雰囲気により、1℃/分から10℃/分の範囲の加熱速度、及び150℃から350℃の範囲の還元温度で、40から80分の範囲の時間実施される。
【0054】
触媒系の活性化のための好ましい値は、4%から6%の範囲のHモル濃度、3℃から8℃の範囲の加熱速度、及び最大200℃から300℃の範囲の還元温度、50分から70分の範囲の時間である。
【0055】
本発明をよりよく理解し評価するために、本発明者らは、実験室における数件の実験結果を提示する。これは、単に説明を目的としており、本発明を制限するものではない。
【0056】
(実施例1)
ジメチルエーテルの直接合成用触媒系(混合床)の調製
フェリエライトゼオライト5g(東洋曹達工業(株)製、バッチ番号HZS−720 KOA)を秤量して、溶媒の蒸発を防ぐために還流系を用い、1.5mol/Lの濃度の硝酸アンモニウム溶液が75mL入っているフラスコに入れ、90℃まで2時間加熱した。
【0057】
この時間の後、ゼオライトを遠心分離により溶液から分離し、1Lの脱イオン水で洗浄した。洗浄後、第1の交換で得られたゼオライトペーストを、同濃度で同容量の硝酸アンモニウム溶液が入っている、フラスコに再度入れて、還流系を用い、更に90℃で2時間加熱した。
【0058】
ゼオライトを、遠心分離により分離して、1Lの脱イオン水で洗浄した。次に、このゼオライトをストーブ内で、90℃で12時間乾燥した。
【0059】
この材料を、液体に浸して軟化させ、篩いがけして、60メッシュの大きさの粒子状の粒度分布を得た。ゼオライトを、5℃/分の加熱速度で、窒素雰囲気内(50mL/分)、400℃の温度にて4時間焼成した。
【0060】
最後に、得られたH−フェリエライトゼオライト約0.05g及び市販のメタノール合成用触媒0.2gを秤量した。両サンプルを、評価する前にペレット化した。平均サイズが直径約7mm、厚み約3.3mmのペレットを触媒試験に使用した。
【0061】
ジメチルエーテルの直接合成のための方法は、
− メタノール合成用触媒とH−フェリエライトゼオライト脱水触媒とを物理的に混合することにより、触媒系を形成するステップと、
− 触媒系をH/Heガス混合物で還元するステップと、
− 還元終了後に、以下のパラメーター、即ち、反応のH/COの体積比が0.5〜5の値の範囲であり、反応温度が200℃〜300℃の値の範囲で変化し、反応圧力が1000kPa〜10000kPaの値の範囲で変化し、及び、反応の空間速度が2h−1から100h−1の値の範囲である、パラメーターに従って、合成ガスの供給を開始するステップと
を含む。
【0062】
(実施例2)
ジメチルエーテルの合成
合成ガスからのジメチルエーテルの合成方法を、ライン内に連結された、Berty反応器及びVarian CP−3800クロマトグラフを含む連続装置で実施した。クロマトグラフは2種の検出器、即ち熱伝導検出器(TCD)及び水素炎イオン化検出器(FID)を有する。
【0063】
供給ガス(H/COの1:1混合物)の流速は、質量流量計により制御する。
【0064】
反応器の容量は50mLである。
【0065】
Berty反応器は、温度勾配がない内部リサイクル方式の反応器であり、
− 触媒を保持する固定円筒状バスケット
− バスケットの上方にあり、反応器壁に沿って下方へとガスの動きを促進し、触媒床に流入させるために下方から上方へと戻す内部攪拌装置
− 温度測定及び制御用装置
− 圧力ゲージ
− 反応器と攪拌機の間の接続部を冷却するための恒温浴、及び
− 温度制御電気ストーブ
を備えている。
【0066】
Berty反応器と連結されたVarianクロマトグラフは、Hをキャリアーガスとするクロマトグラフ用カラム(Varian)を備えている。カラム温度のプログラムで、2分間35℃にして、次に5℃/分から150℃/分までの値の範囲で傾斜加熱した。
【0067】
反応器をクロマトグラフに接続するラインは、圧力を制御する高精度バルブ(micrometric valve)を有し、生成物の凝縮を防止するために90℃付近の温度に維持する。
【0068】
触媒を、反応器のバスケット内に置き、密封した。次に、反応器内にストーブを設置して、攪拌装置機のスイッチを入れた。触媒の還元を、流速が30mL/分のH/Heガス混合物(5%H)を使用して実施した。還元を、5℃/分の速度で加熱して、250℃で1時間実施した。
【0069】
還元終了後に、合成ガスの供給を開始した。温度及び圧力の両方を、250℃及び5066kPaの操作条件に調節した。
【0070】
反応生成物を、自動注入バルブにより実施される定期的な注入(半時間毎)により、クロマトグラフで分析した。
【0071】
初めの注入を、ガスの通過開始の10分後に開始した。次からの注入は半時間間隔であった。反応を250分間続けた。
【0072】
触媒は、活性があり、ジメチルエーテルの直接合成に対し選択的であると判明した。
【0073】
予測できたことではあるが、異なる流速の供給ガスの転化率の結果が、前記流速(10mL/分(A)、18mL/分(B)及び24mL/分(C))の増加に逆比例することを見出した。
【0074】
図3のグラフで見られ、理解できるように、転化率は70%までの値に到達した。
【0075】
図4で見られ、理解できるように、10、18及び24mL/分のCOの選択率は約30%に留まった。
【0076】
図5のグラフで見られ、理解できるように、非常に少量のメタノールが観測され、観測された値は2.6%から3.7%の範囲であった。
【0077】
図6のグラフに見ることができるように、18mL/分(B)、24mL/分(C)及び10mL/分(A)の流速において、ジメチルエーテルに関するモル選択率は67%であった。
【0078】
図7のグラフに示すように、触媒は反応の24時間後には転化率が低下することを示した。
【0079】
本発明を、好ましい実施形態及び代表的な実施例にて説明してきたが、本発明、即ち、メタノール合成用触媒とメタノール脱水成分としてのH−フェリエライトゼオライトとを含む、合成ガスからジメチルエーテルを直接合成するための混合床触媒系、完全な酸性型のフェリエライトゼオライトを得るための方法、及び本発明の触媒系を使用して合成ガスからジメチルエーテルを直接合成するための方法を導く主要な概念は、その革新的な特徴に関して保護されており、当業者であれば思いつき、問題としている操作手段に適合できる、変形、改良、変更、適合化及びその他を、しかし、以下に示す特許請求の範囲が表現する本発明の範囲と趣旨を逸脱することなく予想し実施すると思われる。
【符号の説明】
【0080】
図1のA: 25℃
図1のB: 150℃
図1のC: 250℃
図3〜6のA: 10mL/分
図3〜6のB: 18mL/分
図3〜6のC: 24mL/分


【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタノール合成用触媒及びメタノール脱水触媒を含む、合成ガスからジメチルエーテルを直接合成するための混合床触媒系であって、
メタノール脱水触媒が酸性型のフェリエライトゼオライトであり、両触媒が規定された粒度分布の粉末及びペレットから選択可能な形態で物理的に混合されており、メタノール脱水触媒に対するメタノール合成用触媒の比率が1〜10の値の範囲である
ことを特徴とする、触媒系。
【請求項2】
脱水触媒に対するメタノール合成用触媒の比率が3〜7の値の範囲であることを特徴とする、請求項1に記載の触媒系。
【請求項3】
3%から10%の範囲のHモル濃度を有するH/Heガス混合物中の水素の還元雰囲気により、1℃/分から10℃/分の範囲の加熱速度、及び150℃から350℃の範囲の還元温度で、40から80分の範囲の時間、触媒系が活性化されることを特徴とする、請求項1に記載の触媒系。
【請求項4】
4%から6%の範囲のHモル濃度、25mL/分から30mL/分の範囲の流速、3℃/分から8℃/分の範囲の加熱速度、及び200℃から300℃の範囲の還元温度で、50から70分の範囲の時間、触媒系の活性化が実施されることを特徴とする、請求項3に記載の触媒系。
【請求項5】
金属硝酸塩の溶液と炭酸カルシウム溶液との混合物からの共沈殿と、続く焼成により、メタノール合成用触媒が調製可能であり、酸化銅及び酸化亜鉛の混合物、並びに酸化銅、酸化亜鉛及び酸化アルミニウムの混合物から選択可能な組成物、並びにZr、Cr、Ga、Pd、Pt、及び他の金属から選択可能な他の添加陽イオンを有することが可能であることを特徴とする、請求項1に記載の触媒系。
【請求項6】
請求項1に記載の触媒系であって、
シリカ/アルミナ比が60〜5である酸性型のフェリエライトゼオライトが、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム及び酢酸アンモニウムから選択可能な塩の溶液を用いて、フェリエライトゼオライトのナトリウム及びカリウムのイオンをNHイオンにイオン交換し、かつ、
− 還流系で、連続的に攪拌しながら、所定量のフェリエライトゼオライトと1mol/Lよりも高い濃度を有するアンモニウム塩の溶液とを、90℃の温度で、1.5から3時間の範囲で変化する時間、接触させるステップと、
− 前記交換後に、混合物の最終体積の4倍に対応する量の脱イオン水で、ゼオライトペーストを洗浄するステップと、
− 前記交換と洗浄の段階を繰り返すステップと、
− 80℃から120℃の範囲の温度で、酸性ゼオライトを乾燥するステップと、
− NHイオンを除去するために、300℃から700℃の範囲の温度で、2から6時間の範囲の時間、1℃/分から10℃/分の範囲の加熱速度で、酸性ゼオライトを焼成するステップと
を含む方法により得られることを特徴とする、触媒系。
【請求項7】
請求項6に記載の触媒系であって、
イオン交換用の塩が硝酸アンモニウムであり、アンモニウム塩の溶液が1.5mol/Lから1.7mol/Lの範囲の濃度を有し、攪拌時間が2から2.5時間の範囲であり、乾燥温度が90℃から100℃の範囲であり、焼成温度が400℃から500℃の範囲であり、焼成時間が4から5時間の範囲であり、加熱速度が3℃/分から8℃/分の範囲である
ことを特徴とする、触媒系。
【請求項8】
合成ガスからジメチルエーテルを直接合成するための方法であって、
− メタノール合成用触媒とH−フェリエライトゼオライト脱水触媒とを物理的に混合することにより、触媒系を形成するステップと、
− 触媒系をH/Heガス混合物で還元するステップと、
− 還元終了後に、以下のパラメーター、即ち、反応のH/COの体積比が0.5〜5の値の範囲であり、反応温度が200℃〜300℃の値の範囲で変化し、反応圧力が1000kPa〜10000kPaの値の範囲で変化し、及び、反応の空間速度が2h−1から100h−1の値の範囲である、パラメーターに従って、合成ガスの供給を開始するステップと
を特徴とする、方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−12462(P2010−12462A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−153801(P2009−153801)
【出願日】平成21年6月29日(2009.6.29)
【出願人】(591005349)ペトロレオ ブラジレイロ ソシエダ アノニマ − ペトロブラス (25)
【出願人】(509183497)
【Fターム(参考)】