説明

合成ポリ硫酸化オリゴ糖の、創傷の清浄剤としての使用

【課題】合成ポリ硫酸化オリゴ糖の、創傷の清浄剤としての使用。
【解決手段】本発明は1〜4の単糖単位を有する合成ポリ硫酸化オリゴ糖、その塩及び錯体から選択された化合物の、創傷の清浄剤としての使用に関する。本発明は、特に創傷を清浄することを目的とした包帯の製造に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1〜4の単糖単位を有する合成ポリ硫酸化オリゴ糖、その塩及び錯体から選択される少なくとも一つの化合物の、清浄剤としての使用に関する。
【0002】
より正確には、本発明はフィブリン(繊維素)組織の組成の一部であるフィブリン基質を分解するための薬剤としての、上記化合物の少なくとも1種の使用に関する。とりわけ、補助清浄(Assisted cleaning)の際に用いることを目的とした組成物の調製に関する。
【背景技術】
【0003】
創傷の治癒は自然で生物学的な現象であり、ヒトと動物の組織は、その固有の修復及び再生過程によって局所的な外傷を修復することができる。
【0004】
創傷の自然治癒は3つの連続的な期を通して起こり、これらの期は、それぞれ、正確な時間的順序、すなわち清浄期、肉芽形成期、及び上皮形成期という順序に従って進行する修復過程を引き起こす特定の細胞活動によって特徴づけられる。
【0005】
怪我が起こるとすぐに、出血のリスクを抑え、感染のリスクから創傷を保護するために、身体は血管及び炎症の現象を起こす事によって応答する。
【0006】
これらの現象によって、その後フィブリン(繊維素)を主成分とする基質が形成され、止血に寄与する。この基質は、創傷を閉じるための粗い仮蓋にもなる。
【0007】
次の段階の肉芽形成を開始するために、身体は並行してこのフィブリン基質の分解を行って、繊維芽細胞によって合成される細胞外基質のための余地を設ける。この繊維芽細胞は肉芽形成期での主な作用物質である。「清浄」という語は、主にフィブリン基質及び創傷中に存在する様々な種類の残留物を除去するこの期のことを意味する。
【0008】
清浄期は治癒過程に必須である。その清浄期が起こるかどうか、また起こったとしてその速度がどの程度のものかは、治療過程が成功するか、また治療過程が迅速に終わるかどうか、という点において決定的に重要である。
【0009】
しかしながら、創傷が大きい場合、あるいは患者が別の身体異常、例えば静脈傷害や糖尿病等を患っている場合には、自然清浄の能力が不十分な場合がある。従って、この場合には清浄期が著しく長くなり、その結果治療が難しい慢性の創傷、例えば下腿潰瘍等になる。
【0010】
創傷は、2つの主なタイプに分けられる。
・種々の硬度の黒色組織のプラークを有する創傷。一般的に「壊死組織」と呼ばれるもの。
・柔らかく黄色がかった組織を有する創傷。一般的に「フィブリン(繊維素)組織」又は「黄色フィブリン」と呼ばれるもの。
【0011】
自然清浄過程が不十分な創傷、例えば慢性の創傷の場合、壊死組織及び/又はフィブリン組織を除去することが必要となる。これらの壊死組織とフィブリン組織の除去は種々の技術により行うことができ、この除去のことは、自然清浄に対し、一般的に「補助清浄(Assisted cleaning)」と呼ばれる。
【0012】
用いる技術にもよるが、補助清浄は、機械的若しくは外科的清浄、酵素による清浄、自己分解清浄、又は生物学的清浄として説明することができる。
【0013】
補助清浄が目標とするのは、創傷の中に存在する健康な組織を最大限維持しながら、感染のリスクを高め、痛み又は不快な臭いの原因にもなり得る壊死組織及び/又はフィブリン組織を除去することによって創傷を清浄することである。
【0014】
しかしながら、現在用いられている清浄技術はいずれも最適なものではなく、これらの技術は全て多くの短所を有している。
【0015】
外科的又は機械的清浄は、壊死組織及び/又はフィブリン組織の切除を、ランセット、鉗子、ハサミ、又はブロック(Brock)キュレットを用いるか、あるいは加圧ジェット水流又はレーザー切開を用いた最新機器を利用して行う、迅速な技術である。この技術は、重傷度に応じて病院のベッドで行うか、又は手術室において行われる。
【0016】
しかしながらこの技術はしばしば痛みを伴い、出血する場合もあり、時には出血量が増えることもある。そのような場合には、患者に更に心的外傷が残る。また上記技術は一般的に事前の鎮痛剤の投薬を必要とし、それにより処置時間が増える。
【0017】
酵素による清浄はストレプトキナーゼ、トリプシン、又はコラゲナーゼなどのタンパク質分解酵素を用いて行われる。
【0018】
しかしながら、これらの酵素を使用するというのは最適な方法とは程遠いものである。実際、これらの酵素は消毒剤を局所的に使用することにより不活性化されてしまうことがあり、またその活性は創傷からの滲出液中に存在する血清阻害剤によって制限されることがある。さらにこれらの酵素の中には半減期が非常に短く、頻繁に補充しなければならないものもある。またこれらの酵素は、適用中や、感作又はアレルギー反応の間に痛みを引き起こすこともあり、局所的に紅斑が生じる場合すらある。
【0019】
生物学的清浄(蛆虫療法とも呼ばれる)の場合においては、壊死組織及び/又はフィブリン組織の分解を専ら死んだ組織のみを食べるハエの幼虫を使って行う。
【0020】
この技術もやはり幾つかの短所、例えば局所での強いかゆみや、ある程度の強い炎症、及び局所での焼けるような感覚を引き起こすといった短所がある。さらにこの技術は凝固障害を患う患者や、創傷の血管新生が起こりにくい患者、あるいは創傷が生命の維持に必須の器官や大動脈に近い患者に対しては使用することができない。また、効果が高いとしても、生物学的清浄は、自分の創傷の中にウジがいるということを見たり感じたりすることが耐えられない患者に対して用いるのは難しく、心理的困難を伴う。
【0021】
自己分解清浄では、ゲル化繊維を主体とする吸収性創傷被覆材を創傷の上に置き、湿潤環境を作り出すことでマクロファージと多核好中球の自然清浄力を促進しつつ、一方でフィブリン組織の柔軟化と残留物の吸収を行う。上記創傷被覆材としては、カルボキシメチルセルロースを主体とするものが、例えばCONVATEC社からAQUACEL(R)という商品名で市販されている。
【0022】
しかしながら、その作用は緩慢で大量のフィブリン組織を除去するには不十分である。従って、自己分解清浄は他の技術(よく行われるのは機械的清浄)を併用して補う必要がある。
【0023】
治癒過程の他の期を加速又は促進する化合物が入手可能であることから、酵素などのアレルギー物質を含まない化合物又は化合物の混合物を有していることが好ましい。これにより壊死組織及び/又はフィブリン組織を分解してこの清浄期を最適化することができる。
【0024】
実際に、上記化合物を使用すると、
・一方では、機械的清浄や蛆虫療法のような、肉体的、精神的なダメージを与える技術を頼らなくてもよく、
・他方では、これらの化合物を吸収性創傷被覆材中に含ませることにより、一つのステップで、壊死組織及び/又はフィブリン組織の分解を促進する物質の補給と、壊死組織及び/又はフィブリン組織の吸収を行うことができ、自己分解清浄を最適化することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本願明細書において、本発明は壊死組織及び/又はフィブリン組織を形成するフィブリン基質の分解によって創傷を清浄することができる上記化合物を補給するという新規な技術的課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
大変驚くべきことに、そして予測できなかったことに、1〜4の単糖単位を有する合成ポリ硫酸化オリゴ糖、その塩及び錯体、特にスクロースオクタスルファートのカリウム塩がフィブリン基質を分解し、その結果、清浄物質として有用となりうることを見出した。
【0027】
このように、第一の態様によれば、本発明は1〜4の単糖単位を有する合成ポリ硫酸化オリゴ糖、その塩及び錯体から選択される少なくとも一つの化合物を含む、創傷清浄剤として使用するための組成物に関する。
【発明の効果】
【0028】
上記化合物を使用すると、
・一方では、機械的清浄や蛆虫療法のような、肉体的、精神的なダメージを与える技術を頼らなくてもよく、
・他方では、これらの化合物を吸収性創傷被覆材中に含ませることにより、一つのステップで、壊死組織及び/又はフィブリン組織の分解を促進する物質の補給と、壊死組織及び/又はフィブリン組織の吸収を行うことができ、自己分解清浄を最適化することができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明において使用することができるオリゴ糖は、1〜4の単糖単位、好ましくは1〜2の単糖単位から形成される合成ポリマーであって、一般的にα又はβグリコシド結合によって結合している合成ポリマーである。別の言葉で言うと、上記オリゴ糖は単糖、二糖、三糖、又は四糖であり、好ましくは単糖又は二糖である。
【0030】
上記多糖の単糖単位の性質について特に制限はない。好ましくは、単糖単位はペントース又はヘキソースである。
【0031】
単糖の例としては、グルコース、ガラクトース、又はマンノースを挙げることができる。
【0032】
二糖の例としてはマルトース、ラクトース、スクロース、又はトレハロースを挙げることができる。
【0033】
三糖の例としては、メレジトースを挙げることができる。
【0034】
四糖の例としては、スタキオースを挙げることができる。
【0035】
好ましくは、上記オリゴ糖は二糖であり、より好ましくはスクロースである。
【0036】
「ポリ硫酸化オリゴ糖」という表現は、本願明細書においては、各単糖の少なくとも2つ、好ましくは全てのヒドロキシル基が硫酸基で置換されているオリゴ糖を意味する。
【0037】
好ましくは、ポリ硫酸化オリゴ糖はスクロースオクタスルファートである。
【0038】
本発明において使用するポリ硫酸化オリゴ糖は、塩又は錯体の形態であってもよい。
【0039】
塩の例としては、ナトリウム塩、カルシウム塩又はカリウム塩などのアルカリ金属塩;銀塩;又はアミノ酸塩などを挙げることができる。
【0040】
錯体の例としては、ヒドロキシアルミニウム錯体を挙げることができる。
【0041】
本発明において、特に好ましい化合物は以下のものである。
・スクロースオクタスルファートのカリウム塩;
・スクロースオクタスルファートの銀塩;
・スクロースオクタスルファートのヒドロキシアルミニウム錯体、一般的にはスクラルファートと呼ばれている。
【0042】
スクロースオクタスルファートのカリウム塩は、繊維芽細胞上で作用することから、肉芽形成期における創傷の治療に用いられることが25年前から知られている。この作用は、例えば、欧州特許公開第230023号明細書、国際公開第89/05645号、又は国際公開第98/22114号に説明されている。これらの文書に述べられているように、これらの化合物は補助創傷清浄を行った後、その結果、壊死組織及び/又はフィブリン組織の除去を行った後に使用される(欧州特許公開第230023号明細書、8頁、10〜15行及び実施例18;33頁、28〜30行;国際公開第89/05645号、25頁、8及び9行;並びに16頁、25〜28行;国際公開第98/22114号、17頁、18〜20行参照)。従ってスクロースオクタスルファートのカリウム塩は、清潔な、清浄後の創傷に用いられる。
【0043】
国際出願第89/05645号(7頁、13〜24参照)において、スクラルファートなどのポリ硫酸化多糖はプロテアーゼ、特にヒアルロニダーゼ(ヒアルロン酸とグリコサミノグリカンを分解することができる酵素)の阻害剤であることが述べられている。
【0044】
そのため上記化合物を創傷の清浄化に用いることができるというのは、自然洗浄過程において、プロテアーゼが損傷を受けた組織の分解を促進できる酵素であることから、かなり驚くべきことであった。上記化合物が阻害されたのでは創傷の清浄が良好に行えない。
【0045】
本発明において使用する化合物がどのような機構によって作用するかは今のところ分かっていないが、上記化合物がインビトロで再構築されたフィブリン基質を分解できることが実験的に明らかになり、またこの性質を生体(in vivo)由来のフィブリン組織から抽出したサンプルでも実証した。
【0046】
通常、上記化合物は単独で、又はその2種以上の混合物として、又は治癒を誘導する若しくは促進する、若しくは創傷の治療において好ましい役割を有する可能性のある他の活性物質の1つ以上との組み合わせにより使用してもよい。好ましくは、上記化合物は清浄期において重要な活性物質と共に使用される。これらの活性物質の中では、特に次のものを例として挙げることができる。
・壊死組織に伴う重篤な合併症への感染の危険を予防又は治療するための殺菌剤又は静菌剤(クロルヘキシジン、銀塩又は銀錯体、亜鉛塩又は銅塩、メトロニダゾール、ネオマイシン);
・局所麻酔剤(リドカイン);
・創傷に伴う事が多い痛みを和らげるための抗炎症剤、例えば非ステロイド系抗炎症剤(NSAIDs)(イブプロフェン、ケトプロフェン、ジクロフェナク)、シクロオキシゲナーゼ−2阻害剤(セレコキシブ、ロフェコキシブ)等;
・コルチコイド。
【0047】
当然ながら、本発明において使用する化合物は、清浄期において作用することが知られている他の追加の化合物1つ以上と併用することもできる。そのような追加の化合物としては、例えば、
・酵素(酵素を併用すれば上記本発明において使用する化合物をより低い濃度で用いることができ、感作の問題を避けることができる);
・尿素。
【0048】
本発明において使用できる化合物は、同時に又は順番に、清浄する創傷の性質(感染、壊死の状態、創傷が痛みを伴うものであるか否か)又は創傷の具合(フィブリン組織の水準)に応じて、清浄期の間、他の活性物質と共に使用してもよい。
【0049】
清浄剤として使用する場合、本発明において使用する化合物は、医薬製剤、たとえばゲル、溶液、エマルション、クリーム、又は創傷上に直接適用できる、ナノメートル又はマイクロメートルからミリメートルの範囲内の大きさの顆粒又はカプセルにおいて使用することができる。上記化合物が、その2つ以上の混合物として使用される場合、又は1つ以上の他の活性物質と併用される場合、上記化合物は同じ医薬製剤中に配合しても良いし、別々の医薬製剤中に配合してもよい。
【0050】
別の方法として、好ましくは、本発明において使用される上記化合物、又はこれらの化合物を含んだ医薬製剤は、創傷被覆材中に含まれていてもよい。
【0051】
本願明細書において、「創傷被覆材」とは、創傷を治療するために使用されるあらゆる種類の創傷被覆材を意味し、治療する創傷は、清浄期においては滲出性が高いことが多いことから吸収性の創傷被覆材であるのが好ましい。
【0052】
簡略化のため、以降「本発明の清浄剤」という表現を、既に上で説明し、またその用途を特許請求の範囲に記載したオリゴ糖の硫酸塩類から選択される化合物、又はそれらの化合物の混合物を示すために用いる。
【0053】
本発明の清浄剤又はその清浄剤を含有する医薬製剤は、創傷被覆材の構造のどの要素の中に組み込まれていてもよい。迅速な作用を促進するために、この化合物(又はその化合物を含む医薬製剤)は創傷に接触する創傷被覆材の層の中に含ませておくか、又は創傷に接触する創傷被覆材の表面上に付着させておくのが好ましい。
【0054】
そのような付着のための技術は当業者に周知であり、例えば国際特許出願第2006/007844号等の中で説明されている。
【0055】
本発明の清浄剤(又はその清浄剤を含む医薬製剤)は、創傷と接触させる表面上に、連続的又は不連続的に以下の様な状態で付着させておくのが有利である。
・液体の状態で、例えば上記清浄剤を含む溶液又は懸濁液の水分を飛ばすことによって付着させる、あるいは
・固体の状態で、例えば上記清浄剤を含む粉体をふりかけることにより付着させる。
【0056】
創傷と接触する層又は表面は、例えば吸収性の親水性ポリウレタンフォーム等の吸収性物質;圧定布等の織物系材料、例えば不織布、フィルム、粘着性材料(吸収性であっても非吸収性であってもよい);粘着性又は非粘着性の界面構造から構成される。
【0057】
一般的に、製剤の形態又は創傷被覆材の構造は、そのニーズに応じて本発明の清浄剤の特定の放出プロファイル、例えば速放性又は遅放性の放出プロファイルが得られるように適合されている。
【0058】
当然ながら、本発明の清浄剤の、医薬製剤又は創傷被覆材中における使用量は、求められる薬物動態、及びその薬剤の性質、溶解度、耐熱性等の制約に応じて調整される。
【0059】
このように、医薬組成物中で使用するためには、本発明の清浄剤は製剤の総重量に対し、0.1〜50重量%の量で組み込まれる。
【0060】
創傷被覆材の要素の中で使用する場合、本発明の清浄剤は創傷から滲出する滲出液中に放出される清浄剤の量が0.001g/l〜50g/l、好ましくは0.001〜10g/lとなるような量組み込まれる。
【0061】
好ましい実施形態において、本発明の清浄剤は、ゲル化繊維を主体とした吸収性創傷被覆材、例えばCONVATEC社から市販されているAQUACEL(R)という製品などに組み込まれる。このようにすれば、自己分解清浄のために既に使用されているこの種の製品の清浄力を最適化することができる。
【0062】
更に好ましい形態によれば、本発明の清浄剤は、ゲルが創傷からの滲出液と接触する高吸収性繊維を主体とする不織布からなる創傷被覆材中に組み込まれる。そのような繊維は、例えばLANSEAL(R)Fの商品名で東洋紡績株式会社から市販されている。
【0063】
吸収後の不織布の結着性を増強するために、上記高吸収性繊維は、例えばニードリングや、ポリエステルコアとポリエチレンシェルからなる2成分繊維などの熱接着性繊維と共に熱接着することにより組み合わせることもできる。
【0064】
本発明において使用できる不織布の創傷被覆材は、例えば国際公開第2007/085391号に説明されている。
【0065】
非常によく行われるのは、創傷被覆材を充てる際に、看護スタッフは包帯を使い、又は別の吸収性創傷被覆材若しくは包帯等の二次的な要素を用いて覆うことにより、その創傷被覆材を所定の位置に保持することである。創傷被覆材が創傷上に固定されたまま留まるようであれば、看護スタッフが上記二次的要素を充てる際に手が空くので便利である。
【0066】
本発明においては、上述の点から、不織布、例えば上述したような、創傷に接触する表面が不連続な粘着剤層により被覆されている不織布が好ましい。そのような不織布としては、例えば繊維状の粘着性物質、ミシン目の入った粘着性層、細片(ストリップ)状若しくは糸状、又は他の幾何学的形状を有する不連続な粘着性層等が挙げられる。
【0067】
一般的に、創傷被覆材中で汎用されている粘着性物質であればいかなるものでも本目的のために用いることができる。
【0068】
正常な組織や創傷のへりを傷つけないように、特に上記創傷被覆材を除去する際において傷つけないように、粘着性物質は皮膚には付着するものの創傷に付着しない性質を有するものであるのが好ましい。
【0069】
そのような粘着性物質の例としては、シリコーン又はポリウレタンのエラストマーを主剤とする粘着性物質、例えば、シリコーン又はポリウレタンのゲル、及び親水性コロイド粘着剤などを挙げることができる。
【0070】
上記親水性コロイドは、ポリ(スチレン−オレフィン−スチレン)ブロックポリマーから選択される1つ以上のエラストマーを主体とするエラストマー基質と、可塑剤、例えば鉱油、粘着付与樹脂、及び必要であれば酸化防止剤から選択される1つ以上の化合物との組み合わせから構成され、ある一定量、好ましくは少量の親水性コロイド(3〜20重量%)、例えばナトリウムカルボキシメチルセルロース又は高吸収性ポリマー、例えばLUQUASORB(R)という商品名でBASF社から市販されている製品等を添加する。
【0071】
これらの親水性コロイドは当該技術分野において当業者に周知であり、例えば仏国特許発明第2392076号明細書及び仏国特許発明第2495473号明細書において説明されている。
【0072】
不織布上で糸状の粘着性物質を用いると、特に有利なことに、織物材料の小繊維が創傷に接触したり組織に付着したりして、除去する際に痛みを伴う又は創傷治癒過程の妨げとなることすらあるというリスクを低減或いは回避することができる。さらに実質的に不織布の吸収能力を決める高吸収性繊維の使用によって織物材料の中又は表面上における液体の流れの制御をよりよく行うことができ、「ゲルブロッキング」のリスクを低減又は排除することができる。
【0073】
本発明の好ましい実施形態によれば、本発明の清浄剤は、上記粘着性物質中に溶解性と耐熱性とを両立するような濃度で添加される。
【0074】
上記基準に基づき、本発明の清浄剤は、粘着性物質の総重量に対し好ましくは1〜15重量%、より好ましくは5〜10重量%の量で使用される。
【0075】
この不織布の創傷被覆材の吸収性を高めることが求められる場合には、創傷被覆材に更に別の吸収剤層、好ましくはゲルではない吸着剤層、具体例としては吸収性の親水性フォーム、好ましくは不織布よりも高い吸収性能を有する親水性ポリウレタンフォームの吸着剤層を設けることができる。
【0076】
上記フォーム及びその製造方法、特にプレポリマー、水、界面活性剤等を主剤とする混合物から製造するフォームやその製造方法は当該技術分野においては当業者に周知であり、例えば国際特許出願第96/16099号、国際特許出願第94/29361号、国際特許出願第93/04101号、欧州特許第420515号明細書、欧州特許第392788号明細書、欧州特許第299122号明細書及び国際特許出願第2004/074343号等において説明されている。
【0077】
上記不織布と上記フォームは当該技術分野において当業者に周知の技術、例えばTPU/ポリカプロラクトンポリマーを主成分とするホットメルトパウダーを用いたホットカレンダリング等の技術によって組み合わせることができる。この技術は医療市場での使用を目的として不織布を結合するのに広く用いられている技術である。
【0078】
最後に、このフォーム又は不織布(不織布が単独で使用される場合)は、外部環境から創傷を保護するための補助材(サポート)によって被覆することができる。この補助材は他の層よりも大きなサイズにすることができ、また使用中、特に創傷が平坦でない体の部分にある場合に所定の位置に創傷被覆材を最適に保持するために、創傷に接触する面上に連続的又は不連続的な粘着性物質から形成されていてもよい。
【0079】
この補助材及びその粘着性物質は、創傷被覆材によって吸収される滲出液を最適に管理し、浸軟による問題を回避するために、流体は通さない(不透過性である)が、水蒸気は非常によく通すものであるのが好ましい。
【0080】
この種の補助材は当該技術分野において当業者に周知であり、例えば通気性があるものの液体を通さないフィルム、例としてはポリウレタンのフィルム、フォーム/フィルム又は不織布/フィルムの複合体等からなる補助材が挙げられる。
【0081】
別の態様によれば、本発明は1〜4の単糖単位を有する合成ポリ硫酸化オリゴ糖、その塩及び錯体から選択される少なくとも一つの化合物を含む、本発明の組成物を使用することを含む、創傷を治療する方法に関する。
【0082】
本治療方法においては、この組成物はどのような好適な手段によって創傷に適用されてもよく、特に上述の創傷被覆材によって適用できる。
【0083】
本発明の清浄剤の活性は、種々の条件で実証することができる。すなわち、
・一方においては、インビトロで調製されたフィブリン基質のモデル上で、あるいは
・他方では、創傷から取り出されたフィブリン組織上で
活性を実証することができる。
【0084】
行った試験(以下に詳細に説明する)は、この化合物がフィブリン基質及びフィブリン組織を分解する能力を実証したものである。この試験はまた、インビトロでのモデルにおいて創傷被覆材がフィブリン基質を分解する能力を実証している。創傷被覆材は自己分解清浄の際にも使用することができるものであって、創傷に接触するその表面に、本発明の清浄剤を含んだ親水性コロイド状粘着性物質の糸を有するゲル化繊維を主体とする不織布からなる。
【0085】
得られた結果によると、
・一方では、創傷の清浄において本発明の清浄剤が有利なことが示され、また、
・他方では、自己分解清浄において本発明の清浄剤を用いることが有利であることが示された。この際、吸収性創傷被覆材中にその清浄剤を含ませるという広く用いられている技術により、最適な製品を得ることができる。この製品は残留物を吸収する性質と、フィブリン組織の分解作用を組み合わせたものである。
【実施例】
【0086】
実施例1:スクロースオクタスルファートのカリウム塩の、インビトロで調製したフィブリン基質の分解に関する効果の実証
【0087】
1.インビトロでのフィブリン基質の製造
フィブリン基質を「フィブリンゲル基質における線維芽細胞の移動」(“Fibrobrast migration in fibringel matrices”)、Am J.Pathol,1993,142:273−283にて説明されているBrownのプロトコルに従って調製した。
【0088】
使用した成分と手順は以下の通りである。
以下のものを37℃で溶解させた。
・Hepes(シグマ・アルドリッチカタログ)を50ミリモル含む水溶液 5ml
・ヒト血漿フィブリノゲン(シグマ・アルドリッチカタログ) 15mg
・CaCl5mmol。
【0089】
50μlのトロンビン、100NIHのヒト血漿(シグマ・アルドリッチカタログ)を、上述のようにして調製した溶液に添加した。
【0090】
反応混合物を混合し、15mlのチューブ(又は直径60mmのペトリ皿)に入れ、37℃で静置してインキュベートした。
【0091】
37℃でのインキュベーションにおける最初の24時間の間は、大まかにいえばゲルのような外観を有するフィブリン基質が現れたように見えた。
【0092】
24時間後、顕微鏡でこのフィブリン基質を観察すると、均一な短繊維の網状組織が形成されていることを確認した。
【0093】
2.スクロースオクタスルファートのカリウム塩の、フィブリン基質の分解に関する効果の実証
上記15mlのチューブ内でフィブリン基質が形成され始めてから24時間後に、スクロースオクタスルファートのカリウム塩の溶液を、フィブリン基質を調製するのに使用したフィブリノゲン/トロンビン混合物5体積部に対し、化合物の溶液が1体積部となるよう添加した。
【0094】
それと平行に、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を用いて、試験化合物を含んでいない対照溶液を調製した。
【0095】
フィブリン基質の分解を次の24時間及び48時間に渡って目視で観察した。
【0096】
観察結果に基づき、次の3つの水準に分類した。
・分解無し:基質に変化はなかった。
・部分的に分解:基質の分解が見られた。
・完全に分解:基質が消失した。
【0097】
3.PDFsの決定
観察した結果が本当にフィブリン基質の分解に相当するかどうかを定量化し、検証するために、試験化合物溶液を添加してから24時間又は48時間後にフィブリンの分解生成物(the products of degradation of fibrin: PDFs)を測定した。
【0098】
測定は、Diagnostica Stago社から市販されている00540を参照として、血漿PDFアッセイキット(plasma PDF assay kit)を用いた通常の技術に従って行った。
【0099】
すなわち、20μlの上清を、PDFアッセイキットのプレートの赤い輪の中央に置かれている15mlのチューブから抜き取った。ラテックス粒子の懸濁液20μlを添加した。撹拌した後、分析を行った。
【0100】
目視での結果とPDFsの測定結果の相関を求めることにより得られた結果を定量化することができた。
・PDFsの値が5μg/mlを下回った場合、フィブリン基質の分解は起こっていない。
・PDFsの値が5〜20μg/mlの場合、フィブリン基質の部分的な分解が見られる。
・PDFsの値が20μg/mlを超える場合、フィブリン基質の完全な分解が見られ、フィブリン基質は消失する。
【0101】
4.スクロースオクタスルファートのカリウム塩を用いたテスト:
スクロースオクタスルファートのカリウム塩の水溶液を調製した(濃度:10g/l)。
【0102】
この溶液は上述のプロトコルに従ってテストし、フィブリン基質の溶液を添加してから48時間後にPDFsを測定した。
【0103】
結果の妥当性を評価するために、PBSの溶液を陰性対照として、また尿素とともに、パパインをたんぱく質分解酵素として含む製品であるAccuzyme(R)(酵素清浄の際に用いられる)を陽性対照として試験した。
【0104】
PDFsを測定することにより、以下の結果が得られた。
・PBS:5μg/ml未満
・Accuzyme(R):20μg/ml超
・スクロースオクタスルファートのカリウム塩の10g/l溶液:5〜20μg/ml。
【0105】
このようにして、フィブリン基質の部分的な分解を引き起こすスクロースオクタスルファートのカリウム塩の有効性が実証された。
【0106】
実施例2:スクロースオクタスルファートのカリウム塩の、生体から(in vivo)採取したフィブリン組織における効果の実証
スクロースオクタスルファートのカリウム塩の同じ溶液を生体から採取したフィブリン組織において試験した。
【0107】
この試験のために、静脈の下腿潰瘍由来の5mmのフィブリン組織の試料を準備して37℃に保持した15mlのチューブに入れた。
【0108】
24時間後、スクロースオクタスルファートのカリウム塩の溶液1mlをこの試料に載せた。
【0109】
もう一度、PBSを用いて陰性対照を調製し、Accuzyme(R)を用いて陽性対照を調製した。
【0110】
活性成分又は上記対照を加えてから48時間後にPDFsをアッセイした。
【0111】
この実験を同一の患者から得たフィブリン組織5サンプルについて繰り返した。
【0112】
こうして、このテストにおいては、スクロースオクタスルファートのカリウム塩がフィブリン基質の完全な分解を引き起こすことが認められ、その効果を実証することができた。
【0113】
PDFsの測定によってこの結果が追認され、測定された値は以下のようなものであった。
・Accuzyme(R):20μg/ml超
・PBS:5μg/ml未満
・スクロースオクタスルファートのカリウム塩:20μg/ml超
従って、この結果により、生体から(in vivo)採取されたフィブリン組織について、インビトロでのモデルで得られた結果が追認され、有効性が確認された水準はインビトロでのフィブリン基質モデルに関するものよりも良好であった。
【0114】
実施例3:吸収性創傷被覆材に組み込まれたスクロースオクタスルファートのカリウム塩の、インビトロで調製されたフィブリン基質の分解における効果の実証
【0115】
1.スクロースオクタスルファートのカリウム塩を含有する吸収性創傷被覆材の製造
熱接着を用いて、東洋紡績株式会社によって市販されているLANSEAL(R)F高吸収性繊維及び比が70%(高吸収性繊維)/30%(熱接着性繊維)の2成分熱接着性ポリエステル/ポリエチレン繊維を利用して、自己分解清浄の際に吸収性創傷被覆材として使用することができる180g/mの不織布を製造した。
【0116】
さらに、スクロースオクタスルファートのカリウム塩を含む親水性コロイド状接着性物質を、MEL G−40ミキサー中で混合することにより調製した。
【0117】
この接着性物質の組成は、接着性物質の総重量に対する重量百分率で表すと、以下の通りである。
・Shell社からOndina(R)917の商品名で市販されている鉱油:32.8%
・CMC Blanose(R)7H4XFという商品名でAQUALON社から市販されているカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩(親水性コロイド):14%
・EUTICALS社から市販されているスクロースオクタスルファートのカリウム塩:7.5%
・KRATON社からKRATON(R) G 1654の商品名で市販されているブロック共重合体、ポリ(スチレン−エチレン−ブチレン)(エラストマー):6%
・チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社からIRGANOX(R)1010の商品名で市販されている酸化防止剤:0.12%
・SEPPIC社からSEPINOV(R)EMT10という商品名で市販されている、2−メチル−2[(1−オキソ−2−プロペニル)アミノ]−1−プロパンスルホン酸の塩とプロペン酸の2−ヒドロキシエチルエステルの共重合体(塩析剤):5%
・EXXON CHEMICALS社からESCOREZ(R) 5380の商品名で市販されている粘着付与樹脂:35%。
【0118】
種々の構成成分を100〜110℃の温度で撹拌しながら添加し、均一な混合物を得た。
【0119】
より正確には、最初に上記鉱油と、上記親水性コロイドと、上記スクロースオクタスルファートのカリウム塩と、上記エラストマーを添加し、次に上記酸化防止剤と上記塩析剤を、最後に上記粘着付与樹脂を添加した。
【0120】
この粘着性物質を、予め準備しておいた不織布上に、糸状に不連続的に配置されるように塗布した。
【0121】
2.インビトロでのフィブリン基質モデルにおける創傷被覆材の試験
次に、スクロースオクタスルファートのカリウム塩を含有する創傷被覆材と、CONVATEC社からAQUACEL(R)という商品名で市販されている自己分解性創傷被覆材を比較した。
【0122】
この目的のために、フィブリン基質を、直径60mmのペトリ皿の中で、上述のプロトコルに従って調製した。
【0123】
24時間後、上記2つの創傷被覆材それぞれの直径20mmの試料を、室温で、フィブリン基質の上に置いた。
【0124】
創傷被覆材を置いてから24時間後に除去し、フィブリン基質を目視で観察した。
【0125】
フィブリン基質中の、スクロースオクタスルファートのカリウム塩を含有する創傷被覆材の試料に対応する領域の下には、幾分目立つ穴が形成されていた。これに対し、AQUACEL(R)製品の試料に対してはフィブリン基質は元のまま維持されていた。
【0126】
従って、この実験は、スクロースオクタスルファートのカリウム塩のフィブリン基質の分解における有効性と、自己分解清浄の際に使用できる創傷被覆材中にそのカリウム塩を含ませる利点を裏付けるものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1〜4の単糖単位を有する合成ポリ硫酸化オリゴ糖、その塩及び錯体から選択される少なくとも一つの化合物を含む、創傷清浄剤として使用するための組成物。
【請求項2】
前記化合物は1又は2の単糖単位を有する合成ポリ硫酸化オリゴ糖、好ましくはペントース及びヘキソース、並びにそれらの化合物の塩及び錯体から選択されることを特徴とする
請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記化合物は
・スクロースオクタスルファートのカリウム塩;
・スクロースオクタスルファートの銀塩;
・スクラルファート
から選択されることを特徴とする
請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記化合物を、1つ以上の、治療効果を誘導又は促進する活性物質又は創傷治療における好適な役割を果たす活性物質を組み合わせることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記活性物質は
・殺菌剤又は静菌剤、特にクロルヘキシジン、銀塩又は銀錯体、亜鉛塩又は銅塩、メトロニダゾール、ネオマイシン;
・局所麻酔剤、特にリドカイン;
・抗炎症剤、特に非ステロイド系抗炎症剤及びシクロオキシゲナーゼ−2阻害剤;並びに
・コルチコイド
から選択される請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記化合物を他の追加の1つ以上の創傷清浄剤と組み合わせることを特徴とする
請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記追加の創傷清浄剤は:
・酵素;及び
・尿素
から選択される
請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記化合物は、創傷上に直接適用できる医薬製剤、例えばゲル、溶液、エマルション、クリーム、顆粒、又はカプセル中で、好ましくは製剤の総重量に対し0.1〜50重量%の量で使用される
ことを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記化合物又は該化合物を含有する医薬製剤は、創傷被覆材の一要素と、創傷滲出液中に放出される前記化合物の量が好ましくは0.001g/l〜50g/l、より好ましくは0.001〜10g/lとなるような量で統合されている
請求項1〜8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
前記創傷被覆材は、吸収性繊維を主体とする創傷被覆材であることを特徴とする
請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記創傷被覆材は、創傷と接触する表面が接着性物質の不連続な層で覆われている熱接着繊維と組み合わされている高吸収性繊維からなる不織布を含む創傷被覆材であることを特徴とする
請求項9に記載の組成物。
【請求項12】
前記接着性物質は親水性コロイド状粘着性物質であり、前記ポリ硫酸化オリゴ糖は該粘着性物質に、好ましくは粘着性物質の総重量に対して1〜15重量%、より好ましくは5〜10重量%含まれていることを特徴とする
請求項11に記載の組成物。

【公表番号】特表2013−519713(P2013−519713A)
【公表日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−553376(P2012−553376)
【出願日】平成23年2月16日(2011.2.16)
【国際出願番号】PCT/FR2011/050329
【国際公開番号】WO2011/101594
【国際公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(504385395)
【Fターム(参考)】