説明

合成原料用糖の製造方法

【課題】高純度であり、D−キシロースをほとんど含有しない合成原料用のL−アラビノースを安価に提供する。
【解決手段】アラビナンを含有する植物体を原料とし、以下の(a)〜(e)の工程を行なうことで、L−アラビノースを97質量%以上含有し、且つD−キシロースが0.1質量%以下である合成原料用糖を得ることを特徴とする合成原料糖の製造方法。
(a)酸又は酵素による加水分解、(b)L−アラビノース以外の単糖の除去、(c)除タンパク及び/又は除多糖、(d)脱塩、(e)結晶化

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品、食品添加物、その他の化学品の合成に用いる高純度L−アラビノースである合成原料用糖の製造方法及びその製造方法により得られた合成原料用糖に関するものであり、この合成原料用糖は、合成反応において不純物生成の原因となりうるキシロースなどの不純物をほとんど含有しないという特徴を有する。
【背景技術】
【0002】
L−アラビノースは、高等植物のヘミセルロース中にアラビナン等の構成糖として存在している五単糖である。シュクロースに近い味質を持ち、難吸収性を示すノンカロリーの糖質である上に二糖加水分解酵素阻害作用を有することから、糖尿病患者向け又はダイエット向けの甘味料として利用されている。また、L−アラビノースは天然には希少なL型の単糖であり、L−型化合物の合成の際の合成原料としても利用されている。特に医薬品等の分野では光学異性体の混入が大きな問題となる為に純度の高いL−アラビノースが求められていた。
【0003】
例えば、特許文献1には、L−チミジンの合成にL−アラビノースを用いる方法が開示されており、特許文献2には、L−2−デオキシリボースの合成にL−アラビノースを用いる方法が開示されている。いずれもL型糖であるL−アラビノースを原料とすることで工程数が少なくなる利点が挙げられる。また、非特許文献1にはL−アラビノースからエリトロン酸を合成する方法が開示されている。
【0004】
L−アラビノースは、L−アラビノースをヘミセルロースの構成糖として含有する植物体よりアルカリ抽出により得られたヘミセルロースを酸加水分解あるいは酵素分解することにより(例えば、特許文献3参照)、またはL−アラビノースをヘミセルロースの構成糖として含有する植物体を直接酸加水分解(例えば、特許文献4参照)、あるいは酵素分解(例えば、特許文献5、6参照)することにより遊離されてくるものを、脱塩、精製、結晶化等の工程を経て得ている。
【0005】
しかしながら、合成原料として使用するL−アラビノースには不純物の生成を抑制するために高純度のものが必要であり、特に光学異性体の合成原料として使用する場合には他の単糖類の混入を出来る限り低減させなければならない問題があった。一般的に他の単糖類は酵母などの微生物によって資化させる方法やクロマト分離を行う方法が知られているが、D−キシロースに関しては酵母が消費できず、またL−アラビノースと類似の構造を有するためにクロマト分離は厳密に行う必要がありコスト高の要因となっていた。
【0006】
D−キシロースは、木材や穀類、豆類、トウモロコシなどの植物の芯部分や皮に多糖の状態で多く含まれる糖であり、これらを原料としたL−アラビノースの製造方法では、酸加水分解、酵素分解いずれの方法をとってもL−アラビノースと同等かそれ以上に遊離するために、除去精製が非常に困難になる。
【0007】
例えば、特許文献7には小麦ふすま及びコーンファイバーを原料として加水分解法で水溶性糖類を得る方法が開示されているが、ここでもD−キシロースがL−アラビノースとほぼ同量遊離していた。特許文献8には、トウモロコシ外皮を種々の酸を用いて種々の濃度で加水分解した時の溶液の組成が開示されているが、D−キシロース濃度が低い低濃度の酸を用いたときでもL−アラビノースに対して10質量%以上のD−キシロースが遊離していた。さらに、特許文献9には、L−アラビノースとD−キシロースを含有する糖液を擬似移動床クロマトグラフィーによって分離する方法が開示されているが、L−アラビノース画分にD−キシロースが4%以上残存しており、擬似移動床クロマトグラフィーを用いてもD−キシロースの除去が困難であることがわかる。特許文献10には、トウモロコシ繊維及び大麦繊維を原料とするL−アラビノースの分離について開示されているが、酸加水分解後にD−キシロースがL−アラビノースより多く遊離しており、2段階のクロマト分離を経てもL−アラビノース画分にD−キシロースが2%以上残存していた。また、工程が複雑であり、実用的ではなかった。特許文献11には、L−アラビノースとD−キシロースを含む糖液をD−キシロースを選択的に資化する酵母で処理する方法が開示されており、トウモロコシ外皮由来の糖液を酵母で4日間処理してD−キシロースが処理前の1.1質量%にまで低減されたが、依然L−アラビノースに対して0.8質量%のD−キシロースが残存する結果であった。特許文献12には、ビートパルプを原料とする高純度L−アラビノース結晶の製造方法が開示されているが、強アルカリ中で粗アラバンとして溶出させ、高温で酸処理を行い、中和ろ過し、カチオン交換樹脂でクロマトグラフィー分離し、カチオン、アニオン交換体及び吸着樹脂で精製し、結晶化するという多くの工程を経る方法であり実用的ではなかった。
【0008】
以上のように、合成原料としてのL−アラビノースには不純物、特にD−キシロースの出来る限りの低減が望まれているにもかかわらず、そのようなL−アラビノースが入手困難であり、たとえ入手できたとしても非常に高価なものである問題があった。
【特許文献1】特開2002−241390号公報
【特許文献2】特開2006−232861号公報
【特許文献3】特許第3031534号公報
【特許文献4】特開平11−313700号公報
【特許文献5】特開2001−286294号公報
【特許文献6】特開2002−95491号公報
【非特許文献1】Carbohydrate Res.,4,157−164(1967)
【特許文献7】特開平11−113600号公報
【特許文献8】特開平11−313700号公報
【特許文献9】特開2000−201700号公報
【特許文献10】特開2000−157300号公報
【特許文献11】特開2002−262899号公報
【特許文献12】特表2001−514018号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記のような問題に鑑みなされたものであり、その目的は、高純度であり、D−キシロースをほとんど含有しない合成原料用のL−アラビノースを安価に提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、D−キシロース遊離量が比較的少ない植物構造体を原料とし、少なくとも除タンパク及び/又は除多糖、他の単糖の除去、脱塩、結晶化の工程で精製することによって合成原料として好適に使用できる高純度L−アラビノースが得られることを見出し本発明に至った。
【0011】
すなわち、本発明の第一は、アラビナンを含有する植物体を原料とし、以下の(a)〜(e)の工程を行なうことで、L−アラビノースを97質量%以上含有し、且つD−キシロースが0.1質量%以下である合成原料用糖を得ることを特徴とする合成原料糖の製造方法を要旨とするものであり、好ましくは、アラビナンを含有する植物体が、ビートパルプ、ビートファイバー、リンゴ粕、アップルファイバー及び柑橘粕からなる群より選ばれる1以上であるものである。
(a)酸又は酵素による加水分解、(b)L−アラビノース以外の単糖の除去、(c)除タンパク及び/又は除多糖、(d)脱塩、(e)結晶化
本発明の第二は、前記した製造方法により得られた合成原料用糖を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、医薬品原料などの合成において好適に使用できる、D−キシロースをほとんど含有しない高純度のL−アラビノースを低コストで得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明で原料として使用する植物体は、本発明の効果を損なわない限りはいかなるものでも使用することができるが、ヘミセルロースを多く含むもので特にアラビナンを多く含むものが好ましく、アラビノキシラン、キシラン、マンナン、ガラクトマンナン、ラムノガラクツロナン等のL−アラビノース以外の糖が多く含まれているものの含有量が少ないものが好ましい。
【0015】
かかる例としては、柑橘類、リンゴ、ビート(甜菜)、大豆、落花生などのほか、これらの残さである柑橘粕のオレンジファイバー、みかんジュース粕、リンゴ粕のアップルファイバー、りんごジュース粕、ビートファイバー、ビートパルプ、大豆粕、落花生粕、落花生油かす等の副産物が挙げられる。廃棄物や副産物などを原料として用いることは、安価に製造する目的に則するだけでなく、産業廃棄物の有効利用という環境保護的側面から見ても、非常に好ましい方法であるといえる。オレンジファイバーやみかんジュース粕は、みかんやオレンジからジュースを搾取した後の残さであり、約3〜10質量%のL−アラビノースをアラビナンなどの形で含んでいる。アップルファイバーはリンゴからリンゴ汁を搾取した後の残さであり、約4〜7質量%のL−アラビノースをアラビナンなどの形で含んでいる。ビートパルプはビートからビート糖液を搾取した後の残さであり、約12〜18質量%のL−アラビノースをアラビナンなどの形で含んでいる。落花生粕は落花生のからなどであり、約5質量%のL−アラビノースをアラビナンなどの形で含んでいる。
【0016】
これらに含まれるアラビナンはL−アラビノースが連なった直鎖構造を有することを特徴としており、酵素によるL−アラビノース生成が比較的容易に起こる。その点L−アラビノースが遊離しやすいビートパルプ、ビートファイバー、アップルファイバー、リンゴ粕、オレンジファイバー、柑橘粕などはよい原料であるといえ、特にビートパルプはL−アラビノースが遊離しやすく作業性も良く最も好ましい。一方でアラビノキシランを多く含む米、小麦、コーン、及びこれらの残渣である米糠、小麦ふすま、コーンファイバー、コーンコブ等は原料としてやや劣る。
【0017】
これらの植物体を加水分解するに当たっては、そのまま、あるいは、それら植物体よりアルカリ抽出して得られたヘミセルロースを使用することができるが、工程が煩雑になることからそのまま加水分解を行うことが好ましい。
【0018】
本発明の上記したアラビナンを含有する植物体を原料とし、以下に示す(a)〜(e)の工程を施すことを特徴とするものである。なお、(b)、(c)、(d)の工程の順序はこれに限定されるものではない。
【0019】
(a)加水分解の工程
本発明においては最初に加水分解の工程を行う。加水分解の方法は、本発明の効果を損なうものでなければ特に限定されず、酸による加水分解及び/又は酵素を使った加水分解を行うことができる。
【0020】
酸による加水分解で使用する酸としては、特に限定されないが、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、クエン酸、リンゴ酸等が挙げられる。使用する酸の濃度は特に限定されないが、0.01規定〜2.5規定が好ましく、0.1規定〜2.0規定がより好ましく、0.16規定〜1.5規定が最も好ましい。これより低い濃度では効率が悪く、これより高い濃度ではもはやL−アラビノースの遊離量の増加は望めない。
【0021】
使用する酸の量は、原料の乾燥重量に対して2倍量〜30倍量が好ましく、3倍量〜20倍量がより好ましく、5倍量〜10倍量が最も好ましい。この範囲より少なければ充分に均一に行き渡らなかったり、遊離量が低下する可能性があり、この範囲より多くてももはや更なる遊離量の増加は望めない。
【0022】
酸による加水分解を行う温度は、50℃〜160℃が好ましく、70℃〜130℃がより好ましく、80℃〜110℃が最も好ましい。温度がこの範囲より低いと効率が悪く、この範囲より高ければ危険性があるとともに不純物の増加、L−アラビノースの分解の可能性がある。酸による加水分解を行う時間は特に限定されないが、30分〜18時間が好ましく、1時間〜10時間がより好ましく、4時間〜8時間が最も好ましい。この範囲より短ければL−アラビノース遊離量は低くなり、この範囲より長くてももはや遊離量の大幅な増加は望めない。
【0023】
酸による加水分解を行った後は、強い酸性を示すためアルカリにより中和することが好ましい。中和に使用するアルカリは特に限定されず、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、アンモニア水などを使用することができるが、比較的安価な水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化カルシウムを使用することが好ましい。特に水酸化カルシウムは硫酸などカルシウム塩が水に不要となる酸を使用したときに塩を沈殿として簡単に除去できることから好ましい。
【0024】
酵素による加水分解で使用する酵素は、原料の植物体に含まれるアラビナンに作用してL−アラビノースを遊離する活性を有する限り特に限定されないが、そのようなものとしてアラビナーゼ(アラバナーゼ)、アラビノフラノシダーゼ等のアラビナン分解酵素が挙げられる。アラビナン分解酵素の起源としては、細菌(バチルス・サチルス、ストレプトマイセス属)、酵母(ロドトルラ属)、糸状菌(アスペルギルス・ニガー、アスペルギルス・オリゼ、アスペルギルス・プルベルレンタス、アスペルギルス・テレウス、アスペルギルス・ジャポニカス、アスペルギルス・フラバス、トリコダーマ・レセイ、トリコダーマ・ビリデ、トリコスポロン・ペニシラタム、リゾプス属)などが挙げられるが、アスペルギルス属由来の酵素が好適である。特にアスペルギルス・ニガー由来の酵素が好ましい。
【0025】
これらの酵素は、上記の菌株を従来知られている方法により培養して得られた培養上清もしくは菌体中に生産されるが、本発明においては、これらの酵素を含有するいかなる画分を用いてもよい。また、必要に応じてこれらの酵素を含有する画分を常法により精製あるいは部分精製して使用することもできる。また、市販の酵素を使用してもよい。
【0026】
かかる市販の酵素として好ましい例としては、スミチームPX(新日本化学工業株式会社製)、スミチームAP2(新日本化学工業株式会社製)、スミチームARS(新日本化学工業株式会社製)、スミチームSPC(新日本化学工業株式会社製)、スミチームMC(新日本化学工業株式会社製)、スミチームPMAC(新日本化学工業株式会社製)、スミチームCXC(新日本化学工業株式会社製)、スミチームPTE(新日本化学工業株式会社製)、スミチームLC(新日本化学工業株式会社製)、中性ペクチナーゼ(新日本化学工業株式会社製)、ペクチナーゼPL「アマノ」(天野エンザイム株式会社製)、ペクチナーゼG「アマノ」(天野エンザイム株式会社製)、ペクチナーゼGL「アマノ」(天野エンザイム株式会社製)、ペクチナーゼA「アマノ」(天野エンザイム株式会社製)、セルロシンPC5(HBI株式会社製)、セルロシンPE60(HBI株式会社製)、セルロシンPEL(HBI株式会社製)、可溶性ペクチナーゼT(HBI株式会社製)、セルロシンME(HBI株式会社製)、ペクチナーゼSS(ヤクルト薬品工業株式会社製)、ペクチナーゼ3S(ヤクルト薬品工業株式会社製)、ペクチナーゼHL(ヤクルト薬品工業株式会社製)、マセロチームA(ヤクルト薬品工業株式会社製)、ROHAPECT D5L(株式会社樋口商会製)、ROHAPECT D5S(株式会社樋口商会製)、ROHAPECT MA PLUS(株式会社樋口商会製)、ROHAPECT MAX(株式会社樋口商会製)、ROHAPECT PTE(株式会社樋口商会製)、ROHAPECT PL(株式会社樋口商会製)、ROHAPECT B1(株式会社樋口商会製)、ROHAPECT VR−C(株式会社樋口商会製)、ROHAPECT 7104(株式会社樋口商会製)、ROHAPECT DA6L(株式会社樋口商会製)、ROHAPECT 10L(株式会社樋口商会製)、ROHAPECT AP1(株式会社樋口商会製)、スクラーゼN(三共株式会社製)、スクラーゼS(三共株式会社製)、ペクチネックス(ノボザイムズジャパン株式会社製)、ペクチネックスウルトラSP−L(ノボザイムズジャパン株式会社製)、ウルトラザイム(ノボザイムズジャパン株式会社製)、ビノザイム(ノボザイムズジャパン株式会社製)、ピールザイム(ノボザイムズジャパン株式会社製)、シトロザイム(ノボザイムズジャパン株式会社製)、オリベックス(ノボザイムズジャパン株式会社製)、ノボファーム12(ノボザイムズジャパン株式会社製)、ビノフロー(ノボザイムズジャパン株式会社製)、ビールザイム(ノボザイムズジャパン株式会社製)、ペクチナーゼナガセ(ナガセケムテックス株式会社製)、ペクチナーゼXP−534(ナガセケムテックス株式会社製)などが挙げられ、特に好ましい例としては、スミチームPX(新日本化学工業株式会社製)、スミチームARS(新日本化学工業株式会社製)、セルロシンPE60(HBI株式会社製)、ペクチネックスウルトラSP−L(ノボザイムズジャパン株式会社製)が挙げられる。
【0027】
本発明において、作用させるL−アラビノース遊離活性を有する酵素の量は、原料1kg当り、アラビナーゼ(アラバナーゼ)の場合、10〜100,000ユニット、好ましくは、100〜50,000ユニット、さらに好ましくは、500〜10,000ユニットである。アラビノフラノシダーゼの場合、10〜100,000ユニット、好ましくは、100〜50,000ユニット、さらに好ましくは、100〜10,000ユニットである。この範囲より少なければL−アラビノースが充分遊離しない可能性があり、この範囲より多くてももはやL−アラビノースの遊離量の増加は望めない。
【0028】
酵素反応の際に添加する水量は特に限定されないが、原料の乾燥重量に対して2倍量〜30倍量が好ましく、3倍量〜20倍量がより好ましく、5倍量〜15倍量が最も好ましい。この範囲より少なければ充分に均一に行き渡らなかったり遊離量が低下する可能性があり、この範囲より多くてももはや更なる遊離量の増加は望めない。
【0029】
酵素反応を行う温度は使用する酵素の至適温度で行うことが好ましいが、例えばアスペルギルス・ニガー由来の酵素を使用する場合には35℃〜65℃が好ましく、45〜55℃がさらに好ましい。反応液のpHは酵素の至適条件下に調整するのが好ましいが、そのまま反応しても良い。調整する場合はpH2〜7が好ましく、pH3〜6がさらに好ましい。これらの範囲を外れると酵素が効果的に働かない問題がある。反応時間は使用する基質と酵素の量に依存するが、通常1〜72時間が好ましく、8〜48時間がさらに好ましく、15〜24時間が最も好ましい。この範囲より短ければL−アラビノース遊離量は少なくなり、この範囲より長くてももはや遊離量の大幅な増加は望めない。
【0030】
上記のように酸による加水分解及び/又は酵素による加水分解によってL−アラビノースを遊離させたものは、そのまま次の精製工程に移すことができる。ここで、次の精製工程にもよるが、必ずしも固液分離を必要としない。例えば次に行う作業が中和、後述する炭酸飽充法による除タンパク、除多糖、微生物による他の単糖の除去等の場合には加水分解後の植物体の残渣を存在せしめたままで行うことができる。このことで、固液分離工程が1回省略できより安価に製造することができる。しかしながら、限外ろ過膜による除タンパク、除多糖、クロマトグラフィー分離などを行う場合には固液分離を行うことが好ましい。
【0031】
本発明において行う固液分離は従来公知の装置や方法で行うことができる。例えば、フィルタープレス、スクリュープレス、減圧濾過機、遠心分離機、スクリューデカンタ等の装置を使用して行うことが好ましい。また、必要に応じて珪藻土、セルロース等の従来公知のろ過助剤を使用することもできる。
【0032】
(b)L−アラビノース以外の単糖除去の工程
本発明においては、次にL−アラビノース以外の単糖を除去する工程を行う。L−アラビノース以外の他の単糖を除去する方法としては、本発明の効果を損なわない限りいかなる方法で行うこともできるが、好ましい例としては、L−アラビノースを資化せず、D−キシロース、D−グルコース、D−フルクトース、D−ガラクトース、D−ラムノース等のその他の単糖をすべて資化する微生物を作用させる方法、L−アラビノースのみ、又はその他の糖に作用して分離しやすい物質に変換する酵素を使用する方法、クロマトグラフィーによるL−アラビノース画分の分離などが挙げられ、特に好ましい例としてはL−アラビノースを資化せず、その他の単糖をすべて資化する微生物を作用させる方法が挙げられる。
【0033】
かかる微生物の例としては、乳酸菌、枯草菌、酵母、カビなどが挙げられ、特に好ましい例として酵母が挙げられる。酵母の中でも一般的にパン酵母として使用されているサッカロマイセス・セレビジエは入手しやすく安価な上、高い糖濃度、広いpH域で働き、温度をかけることで簡単に失活できるために好ましい。微生物は従来公知の培地で前培養したものを添加することもできるし、市販の生酵母や乾燥酵母、乳酸菌飲料、ヨーグルト、乾燥菌体をそのまま添加することもできる。
【0034】
(c)除タンパク及び/又は除多糖の工程
本発明においては、上記の加水分解の工程又はL−アラビノース以外の単糖除去の工程を経た処理物をそのまま、あるいは必要に応じて固液分離し得られた上澄液について除タンパク及び/又は除多糖の工程を行なう。その方法としては、好ましくは、限外ろ過膜、逆浸透膜などを使用した膜ろ過、クロマトグラフィーやゲルろ過による分離、凝集剤を使用した沈殿化、水酸化カルシウムと炭酸ガス吹き込みによる炭酸飽充が挙げられ、より好ましい例としては限外ろ過膜を使用した膜ろ過、炭酸飽充法が挙げられる。限外ろ過膜は分画分子量が3000〜10000の範囲にあるものが好ましい。炭酸飽充はpHを好ましくは7〜10、より好ましくは8〜9.5に保持しながら、炭酸ガスの吹き込みと水酸化カルシウムの添加とを同時に行って炭酸カルシウムの沈殿とともにタンパク質や多糖を沈降させる方法であり、詳しくは特開2004−59475号公報に記載されている。
【0035】
(d)脱塩の工程
本発明においては、脱塩の工程を行なう。脱塩の方法としては、本発明の効果を損なわない限りいかなる方法で行うこともできるが、好ましい例としては、陽イオン・陰イオン交換樹脂、イオン交換膜、電気透析、逆浸透膜等を用いる方法及び沈降する塩を形成させて沈降させて除去する方法が挙げられる。これらは単独で行ってもよいし2つ以上の方法を組み合わせて行ってもよい。これらの中で特に好ましい例としてはイオン交換樹脂による方法が挙げられる。使用するイオン交換樹脂の種類は特に限定されず、例えば三菱化学(株)のダイヤイオンシリーズ、オルガノ(株)のアンバーライトシリーズ、室町ケミカル(株)のダウエックスシリーズ等の樹脂を使用することができる。樹脂のサイズも特に限定されないが、クロマトグラフィー分離用の粒子の細かい高価なものを使用する必要は特に無く、一般的な脱塩用樹脂を使用すればよい。樹脂の種類も特に限定されないが、細孔を持ったポーラスタイプのものは同時に脱色や高分子成分の吸着除去ができるために特に好ましい。
【0036】
(e)結晶化の工程
本発明においては、最後に結晶化の工程を行う。結晶化の方法は従来公知の方法が採用できる。上記した(a)〜(d)の工程により高純度のL−アラビノース糖液が得られているが、例えば、この糖液を固形分濃度50質量%〜80質量%、好ましくは55質量%〜70質量%、さらに好ましくは57質量%〜65質量%にまで濃縮し、5〜48時間、好ましくは8〜35時間、さらに好ましくは15〜24時間、0℃〜35℃、好ましくは2℃〜25℃で放冷し、結晶を析出させることができる。種結晶は添加することにより結晶化が促進されるが、特に添加しなくても良い。結晶化の前に使用する糖液のL−アラビノース純度は70%〜100%であることが好ましく、80%〜100%であることがより好ましい。この範囲より低い純度であれば、回収した結晶の純度が低くなる、回収量が低減するなどの問題がある。
【0037】
析出した結晶は従来公知の方法で回収することができる。例えば、遠心ろ過機、減圧濾過機、加圧ろ過機等が好ましく、遠心ろ過機が特に好ましい。結晶は回収してそのまま乾燥しても良いが、少量のエタノールで洗浄することでさらに高純度化することができる。エタノールは無水エタノールでも良いし、50容量%以下、好ましくは30容量%以下、さらに好ましくは13容量%以下の水を含有していても良い。
【0038】
以上のような本発明の製造方法により得られる白色の粉末又は水溶液は、固形分に占めるL−アラビノースの割合が97質量%以上であり、好ましくは98質量%以上であり、さらに好ましくは99質量%以上である。残りの不純物としてはオリゴ糖類、有機酸類、D−グルコース、D−ガラクトース、グリセリン、エタノール、糖アルコール類がそれぞれ多くとも1質量%以下であり、好ましくは0.5質量%以下、さらに好ましくは0.1質量%以下であり、D−キシロースが多くとも0.1質量%以下、好ましくは0.05質量%以下、さらに好ましくは0.01質量%以下である。
【0039】
このような白色の粉末又は水溶液は、医薬品、食品添加物、その他の化学品の合成用原料として好適に用いられるものである。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例にて具体的に説明するが、本発明の内容を限定するものではない。
ここで示す参考例、比較例、実施例において、各糖質の分析には、高速液体クロマトグラフ法(カラム;バイオラッド社製アミネックスHPX−87P、カラム温度;60℃、移動相;イオン交換水、検出;示差屈折率計)を用いた。
【0041】
実施例1
ビートパルプ1Kgに0.2規定硫酸10Lを添加し、攪拌しながら95℃で3時間の加熱処理を行い、酸加水分解を行った。反応後、液を圧搾ろ過機で固液分離し、水酸化カルシウムを徐々に加えながらpHを4.5に調整した。生成した沈殿は珪藻土にラヂオライト#700(昭和化学工業製)を使用して珪藻土ろ過を行った。このろ液を35℃で保持しながらパン酵母:カネカイーストRED(カネカ食品製)を30g添加し、12時間攪拌、通気をし、L−アラビノース以外の単糖を除去した。反応後、パン酵母は珪藻土ろ過で除去し、分画分子量6000の限外ろ過膜に通し、透過液を回収することで除タンパク及び除多糖を行った。透過液は固形分濃度30質量%まで濃縮し、粉末活性炭太閤SA1000(二村化学製)を10g添加して60分間攪拌し、珪藻土ろ過した。ろ液はイオン交換樹脂ダイヤイオンPK216、ダイヤイオンWA30(三菱化学製)それぞれ5Lに順次通液して脱塩し、得られた液を固形分濃度60質量%まで濃縮し、攪拌しながら室温まで放冷したところ、白色結晶が析出した。白色結晶を遠心ろ過機で分離し、99%エタノール5mlでリンスし、50℃17時間減圧乾燥した。得られた結晶は48gであり、L−アラビノース純度は99.9%、D−キシロースはHPLCにおいて検出されず少なくとも0.01%未満であった。
【0042】
実施例2
実施例1において、0.2規定硫酸に代えて0.2規定硝酸を使用して酸加水分解を行い、反応後の中和を水酸化ナトリウムで行ったこと以外は同様にしてL−アラビノースを製造した。得られた結晶は白色で48gであり、L-アラビノース純度は99.8%、D−キシロースはHPLCにおいて検出されず少なくとも0.01%未満であった。
【0043】
実施例3
ビートパルプ1kgに水9Lを加え、50℃に保持した後、スミチームPX(新日本化学工業製)15gを1Lの水に溶解したものを添加して攪拌しながら50℃で24時間酵素による加水分解反応を行った。反応後、水酸化ナトリウムでpH4.5に調整し、35℃を保持しながらパン酵母:カネカイーストRED(カネカ食品製)を30g添加し、12時間攪拌・通気をしてL−アラビノース以外の単糖を除去した。酵母処理液は圧搾ろ過機で固液分離し、さらに珪藻土にラヂオライト#700(昭和化学工業製)を使用して珪藻土ろ過を行った。得られた液は分画分子量6000の限外ろ過膜に通し、透過液を回収することで除タンパク及び除多糖を行った。透過液の濃縮以降の処理は実施例1に記載の通りに行い、白色結晶を得た。得られた結晶は42gであり、L−アラビノース純度は99.9%、D−キシロースはHPLCにおいて検出されず少なくとも0.01%未満であった。
【0044】
実施例4
アップルファイバー(ニチロ製)2kgに水18Lを加え、50℃に保持した後、スミチームPX(新日本化学工業製)30gを2Lの水に溶解したものを添加して攪拌しながら50℃で24時間酵素による加水分解反応を行った。反応後、水酸化ナトリウムでpH4.5に調整し、35℃を保持しながらパン酵母:カネカイーストRED(カネカ食品製)を30g添加し、12時間攪拌・通気をしてL−アラビノース以外の単糖を除去した。酵母処理液は圧搾ろ過機で固液分離し、さらに珪藻土にラヂオライト#700(昭和化学工業製)を使用して珪藻土ろ過を行った。得られた液は分画分子量6000の限外ろ過膜に通し、透過液を回収した。透過液の濃縮以降の処理は実施例1に記載の通りに行い、白色結晶を得た。得られた結晶は43gであり、L−アラビノース純度は98.7%、D−キシロースは0.32%であった。
【0045】
実施例5
温州みかんの外皮の乾燥粉砕物2kgに水18Lを加え、50℃に保持した後、スミチームPX(新日本化学工業製)30gを2Lの水に溶解したものを添加して攪拌しながら50℃で24時間酵素反応を行った。反応後、水酸化ナトリウムでpH4.5に調整し、35℃を保持しながらパン酵母:カネカイーストRED(カネカ食品製)を30g添加し、12時間攪拌・通気をした。酵母処理液は圧搾ろ過機で固液分離し、さらに珪藻土にラヂオライト#700(昭和化学工業製)を使用して珪藻土ろ過を行った。得られた液は分画分子量6000の限外ろ過膜に通し、透過液を回収することで除タンパク及び除多糖を行った。透過液の濃縮以降の処理は実施例1に記載の通りに行い、白色結晶を得た。得られた結晶は43gであり、L−アラビノース純度は99.1%、D−キシロースは0.15%であった。
【0046】
比較例1
大豆種皮乾燥物2kgに水18Lを加え、50℃に保持した後、スミチームPX(新日本化学工業製)30gを2Lの水に溶解したものを添加して攪拌しながら50℃で24時間酵素による加水分解反応を行った。反応後、水酸化ナトリウムでpH4.5に調整し、35℃を保持しながらパン酵母:カネカイーストRED(カネカ食品製)を30g添加し、12時間攪拌・通気をしてL−アラビノース以外の単糖の除去を試みた。酵母処理液は圧搾ろ過機で固液分離し、さらに珪藻土にラヂオライト#700(昭和化学工業製)を使用して珪藻土ろ過を行った。得られた液は分画分子量6000の限外ろ過膜に通し、透過液を回収することで除タンパク及び除多糖を行った。透過液の濃縮以降の処理は実施例1に記載の通りに行い、白色結晶を得た。得られた結晶は14gであり、L−アラビノース純度は58.7%、D−キシロースは41.2%であった。
【0047】
比較例2
トウモロコシ外皮乾燥物2kgに水18Lを加え、50℃に保持した後、スミチームPX(新日本化学工業製)30gを2Lの水に溶解したものを添加して攪拌しながら50℃で24時間酵素による加水分解反応を行った。反応後、水酸化ナトリウムでpH4.5に調整し35℃を保持しながらパン酵母:カネカイーストRED(カネカ食品製)を30g添加し、12時間攪拌・通気をしてL−アラビノース以外の単糖の除去を試みた。酵母処理液は圧搾ろ過機で固液分離し、さらに珪藻土にラヂオライト#700(昭和化学工業製)を使用して珪藻土ろ過を行った。得られた液は分画分子量6000の限外ろ過膜に通し、透過液を回収することで除タンパク及び除多糖を行った。透過液の濃縮以降の処理は実施例1に記載の通りに行い、白色結晶を得た。得られた結晶は72gであり、L−アラビノース純度は92.1%、D−キシロースは7.8%であった。
【0048】
上記した実施例1〜5、比較例1、2について、用いた原料、加水分解の工程及び得られた結晶のL−アラビノース、L−キシロースの純度を表1にまとめた。
【0049】
【表1】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
アラビナンを含有する植物体を原料とし、以下の(a)〜(e)の工程を行なうことで、L−アラビノースを97質量%以上含有し、且つD−キシロースが0.1質量%以下である合成原料用糖を得ることを特徴とする合成原料糖の製造方法。
(a)酸又は酵素による加水分解、(b)L−アラビノース以外の単糖の除去、(c)除タンパク及び/又は除多糖、(d)脱塩、(e)結晶化
【請求項2】
原料から合成原料用糖を得るための精製工程において、クロマトグラフィーによる精製工程又は2回以上の晶析操作による精製工程を含まないことを特徴とする請求項1記載の合成原料用糖の製造方法。
【請求項3】
アラビナンを含有する植物体が、ビートパルプ、ビートファイバー、リンゴ粕、アップルファイバー及び柑橘粕からなる群より選ばれる1以上である請求項1又は2記載の合成原料用糖の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法により得られた合成原料用糖。


【公開番号】特開2009−207462(P2009−207462A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−56598(P2008−56598)
【出願日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】