説明

合成基材及び細胞基材に結合した抗体の同時検出による疾病診断のための方法及びシステム

本発明は、細胞基材及び/又は組織基材に結合した抗体と、特定の抗原で覆われた微粒子又はビーズ等の合成基材に結合した抗体とを同時に検出する疾病診断のための方法及びシステムに関するものであり、それによって、低い特異性(細胞又は組織)及び高い特異性(抗原)の両方において疾病に関連した抗体を同時に検出及び特性評価するための「ワンステップ」の方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞基材及び/又は組織基材に結合した抗体と、特定の抗原で覆われた微粒子又はビーズ等の合成基材に結合した抗体とを同時に検出する疾病診断のための方法及びシステムに関するものであり、それによって、低い特異性(細胞又は組織)及び高い特異性(抗原)の両方において疾病に関連した抗体を同時に検出して特性評価するための「ワンステップ」の方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
複数の抗原ソースとして異なる細胞組織及び組織基材を使用した間接免疫蛍光法(IIF)による抗体の検出が、ルーチン的診断において確立されてきた。HEp−2細胞を使用した抗核抗体(ANA)の検出等のような細胞ベースの免疫蛍光法試験が、業界標準として臨床検査薬及び研究において広く使用されている(Tan EM, Adv.Immunology 1982;33:167-240、Costes SVら, Radiat Res.2006;165(5):505-15, Sack U, et al., Ann N Y Acad Sci 2009;1 173:166-73, Conrad K, et al., Ann N Y Acad Sci 2009; 1 173:180-185)。間接免疫蛍光法に基づいたアプローチを用いて自己免疫疾患を分析する方法が当業界において知られている。WO97/06440は、患者の体液サンプル中における、微小管形成中心又はそこから延在する微小管に対する抗体の存在によって慢性関節リウマチを診断する方法を開示している。基材として使用される細胞株は、好ましくはIT−1マクロファージ細胞株である。この細胞株は、患者のサンプル中に存在する自己抗体が結合する基材として使用されている。
【0003】
規格化及び費用対効果において優れる蛍光パターンの自動的な測定及び判断の需要増加は、現在利用可能な最新のパターン認識ソフトウェア及び完全自動リーディング装置によって満たせるようになっている(Hou YN, et al., Radiat Res. 2009; 171 (3):360-7, Hiemann R, et al., Ann N Y Acad Sci 2007; 1 109:358-71 , Bocker W, et al., Radiat Res. 2006;165(1 ):1 13-24. Hiemann R, et al., Autoimmun Rev. 2009;9:17-22)。さらに、間接免疫蛍光法は、抗体力価を決定するための量的及び半量的アプローチにおいて、例えば、自己抗体の存在及び/又は量によって特徴付けられる疾患の診断に適用されてきた(WO2009/062479A2)。
【0004】
しかしながら、分析法開発及び組み換え技術における進歩によって、個々の抗原ターゲットに対する自己抗体特異性の検出への道が開かれ、それによって、抗体検査の診断力が向上した。伝染性疾患及びリウマチ性疾患等の様々な病気においてみられる抗体の多様性の増大により、単一抗体検出の欠点を克服し、かつ、結果を報告するための費用及び時間を低減する革新的技術の必要性が生じた。従って、近年、1つのサンプルにおいていくつかの抗体特異性を同時に測定するという要求を満たすための多重プラットフォームが開発されている。蛍光ビーズをベースとした流動細胞計測法及びマイクロアレイシステムに基づいた多重分析は、患者サンプルの情報量がより多い分析及びより包括的な検査を支援する強力な手段であることがわかった(Avaniss-Aghajani Eら、Clin Vaccine Immunol. 2007;14:505-9、及び、Lai Gら、J Immunol Methods 2005;296:135-47)。同様に、コンピュータ支援されたパターン認識は、疾患関連抗原のパネルに結合する抗体を検出して特定の疾病診断と関連付けることができるように抗原配列を分析するために使用されてきた(Binder SR ら、Clinical and Diagnostic Laboratory Immunology、Dec. 2005、1353-1357)。更に、リウマチ性疾患に特異的な抗体を検査するために、多色蛍光を使用して蛍光コーティングした固定マイクロビーズによる多重検出を使用することができる。パターン検出アルゴリズムを用いたこの多色蛍光分析は、抗核抗体のスクリーニングのための共通の土台技術を提供する(GroBmann Kら、Cytometry A、2011年2月、79(2):1 18-25)。
【0005】
一例として、疾患特異的自己抗体(AAB)は、全身性リューマチ症状及び自己免疫性肝臓疾患障害の血清学的現象である。特に、間接免疫蛍光法による自己抗体の検出は、全身性リウマチ性疾患の血清学的診断用のルーチン的研究において使用可能な最初の技術の1つであった。疾患特異的自己抗体を検出するための酵素結合免疫吸着定量法(ELISA)及び多重化技術の発展にもかかわらず、間接免疫蛍光分析による抗核抗体のスクリーニングは、いまなお現行の多段階診断アプローチにおける標準的方法である。組み換えた抗原又は精製した抗原をビーズ上に提供することができる。次に、選択した抗原に特異的に結合する抗体について、酵素免疫測定法を使用してそれらのビーズを分析する。しかしながら、そのようなアプローチには、異なる抗原間において著しく異なる感度及び特異性のせいで、著しい不都合がある(Hayashi Nら、2001, Clinical Chemistry、47:9 1649-1659)。細胞ベースの自己抗体診断法との妥当な相関を示す多重ビーズをベースとした蛍光分析が公表されている(Smith J, et al, 2005, Ann. N.Y. Acad. Sci. 1050: 286-294)。ただし、その分析において間接免疫蛍光法のポジティブコントロールのサンプルを識別する感度が低いことは、IIFアプローチがいまなお好ましい方法であることを示している(Nifli AP, et al, Journal of Immunological methods 31 1 (2006), 189-197)。
【0006】
抗核抗体の間接免疫蛍光分析用にいくつかの基材が提案されているが、HEp2細胞に対する臓器非特異的な自己抗体のスクリーニングは、最も確立された方法である。一般に、抗核抗体の評価は、例えば、精製された天然抗原又は組み換え抗原を使用した免疫測定法による抽出核抗原(ENA)及び細胞質抗原に対する特定の自己抗体の検出後に行われる。この二段階のアプローチは下記のメリットがある。
(i)最も頻度の高い臨床的に意義のある臓器非特異的自己抗体の非常に感度が良いスクリーニング
(ii)検出された間接免疫蛍光法パターン及び発症が疑われるとの診断に基づいた自己抗体反応性の下流における識別鑑定のための他の分析技術(例えば、SS−A/Ro及びSS−B/La)との最適な組み合わせ
(iii)さらなる試験(例えば、抗動原体自己抗体)を必要としない臨床的に意義のある自己抗体の評価
(iv)自己抗原のターゲットが未知である場合又は商業的に利用できる分析がない場合に間接免疫蛍光法だけで検出できる自己抗体の評価
【0007】
他の例は、全身性血管炎を鑑別診断するための抗好中球細胞質抗体(ANCA)の検出である(Bosch Xら、Lancet 2006;368:404-18)。これらの全身性自己免疫疾患におけるANCAの発生により、ANCA関連血管炎(AASV)という用語がこれらの臨床的概念として造語された。ANCAは間接免疫蛍光法によって発見されたが、間接免疫蛍光法は、いまなおこれらの抗体反応性を検出するための推奨される方法である。ANCAは、一般に、間接免疫蛍光法において、固定された顆粒細胞の2つの異なる染色パターン:斑点状の細胞質パターン(cANCA)及び核周囲パターン(pANCA)を示す。ヴェーゲナー肉芽腫症(WG)の患者において頻繁にみられるcANCAは、他のターゲットに加えて、主としてプロテイナーゼ3(PR3)をターゲットとする。一方で、主として顕微鏡的多発血管炎(MPA)において生じるpANCAは、他のターゲットに加えて、主としてミエロペルオキシダーゼ(MPO)をターゲットにする(Van der Woude FJら、Lancet 1985;1 :425-9; Csernok E, et al., Nat Clin Pract Rheumatol. 2006 Apr;2(4): 174-5)。
【0008】
抗体濃度の評価は、これらの臨床的概念の診断及び処置において有用であることが提案されてきた。抗体価は、一般に、疾病の重症度に関係している(Cohen Tervaert JWら、Arch Intern Med 1989;149: 2461-5)。しかしながら、間接免疫蛍光法において、非AASV患者においてみられる上記ANCAに対する他のターゲット抗原が存在している(Savige Jら、Best. Pract. Res. Clin. Rheumatol. 19: 263-76、Savige Jら、Am J Clin Path 2003;120:312-8)。従って、近年確立された合意ガイドラインに従って、抗核抗体を検出するための間接免疫蛍光法に加えて、ELISA等の他の異なる技術が推奨される。
【0009】
しかしながら、上述した二段又は多段のアプローチによっていくつかの抗体を決定するために使用される技術は、別々に名前が付けられた複数の構成試験を含んでいる。費用対効率に優れる血清学的診断法の点において、細胞及び組織の抗原性ターゲットに対する抗体の検出、及び、他方ではそれらの精製されたタンパク及び特性を明らかにしたタンパクに対する抗体の検出を、1つの名称を有する単一の方法に合体させるというはっきりとした需要がある。
【0010】
マイクロアレイ技術による現代のタンパク特性評価は、それ単独では満足な解決方法を提供しない。一度のマイクロアレイにおいて試験する抗原性ターゲットの数が増えるにつれて、関連する生産設備、小型化、特殊材料及び取り扱いの必要性が、そのようなマイクロアレイの生産をますます複雑にしかつ過剰に費用がかかるものとなる。酵素結合免疫吸着定量法(ELISA)、放射免疫定量法(RIA)、発色分析(chromogenic assay)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、ガスクロマトグラフ質量分析法(GC−MS)及び薄層クロマトグラフィー(TLC)を含む他の技術は、同時に評価することができる抗原形態の分析物の数が制限されるというデメリットを有する。また、これらの技術は、時間がかかり、高価な設備を必要とする。対照的に、抗核抗原を検出するためにHEp−2細胞基材を使用することは、抗体識別のための1200個を超える抗原性ターゲットを提供する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記先行技術を鑑みて、本発明の基礎となる技術的問題は、多段階の診断をワンステップにする疾病診断用の方法を提供することである。この問題は、本願の独立請求項に記載の特徴によって解決される。本発明の好ましい実施形態は、従属請求項によって提供される。
【0012】
したがって、本発明の目的は、細胞基材及び/又は組織基材に結合した抗体を検出し、それと同時に、特定の精製された天然の抗原及び/又は特定の組み換え抗原で覆われた微粒子等の合成基材に結合した抗体を検出する疾病診断のための方法及びシステムを提供し、それによって、低い(細胞特異的又は組織特異的)特異性及び高い(抗原特異性)特異性の両方で疾病に関連する抗体を同時に検出するための「ワンステップ」方法を提供することである。
【0013】
さらに、本発明は、本発明の方法を実行するための装置及びキットに関する。上記方法は、任意の数の特定の抗原に対する反応性について複数の患者の血清を試験することができるスクリーニング法にも適している。
【0014】
したがって、本発明は、1つ以上の細胞基材に結合した抗体及び1つ以上の合成基材に結合した抗体の同時検出を含む疾病診断のための方法であって、a)細胞基材と合成基材との混合物を提供するステップと、b)検出される抗体を含むサンプルと共に前記基材混合物を培養するステップと、c)蛍光顕微鏡を使用して、前記細胞基材及び合成基材と、これらの基材に結合した抗体とを検出及び/又は識別するステップと、d)好ましくは自動パターン認識解釈システムを使用して、免疫蛍光法のイメージデータを評価するステップとを含む方法を提供することを目的とする。
【0015】
上記細胞基材は、哺乳動物細胞等の抗原結合のための生物学的基材であって、異なる組織種の組み合わせ又は細胞の組み合わせを適用することができるものを表す。上記組織基材は、有機組織から得られる類似種の複数の細胞から構成されるものであり、本発明の方法において「細胞基材」として使用することもできる。
【0016】
上記方法の好ましい一実施形態において、上記細胞基材又は上記組織基材は、HEp−2細胞、ヒト顆粒細胞、及び/又は、有機組織(好ましくは膵臓組織)であってもよい。
【0017】
好ましい一実施形態において、上記合成基材は、精製された天然抗原及び/又は組み換えられた抗原で覆われた微粒子又はビーズである。抗原は、タンパク、ペプチド、DNA等の核酸、動原体等の複数分子細胞構造、タンパク複合体、若しくは、タンパク膜構造、又は、抗体が結合し得る実質的にすべての他の細胞成分であってもよい。上記合成基材は、特定の精製された抗原若しくは特定の組み換えた抗原のためのキャリア、又は、それらの特定の抗原の混合物のためのキャリアとして作用するように意図されている。本発明の方法に適した様々な物質及び材料からなる微粒子及びビーズのキャリアは、当業界において知られており、例えば、天然若しくは人工のポリマー、セファロース、セルロース、ガラス、又は、金属酸化物からなる微粒子、粒子又はビーズである。
【0018】
本発明の好ましい一実施形態において、上記疾病診断の方法は、合成基材の抗原コーティングに対して、疾病の存在に関連した抗体が結合することを特徴とする。合成基材を覆う抗原は、既知の疾病とのその関連性によって選択される。したがって、特定の抗原に結合する抗体の識別は、細胞基材及び/又は組織基材に結合した抗体の「低い特異性」の検出に加えて、「高い特異性」を有する疾病の診断を可能にする。
【0019】
本発明の基材は、1つ以上の特有な特徴又はパラメータによって検出及び/又は識別されるように意図されている。一実施形態において、本発明の方法は、前記基材を検出及び/又は識別するために、基材の視覚的特性、蛍光的特性、又は、物理的特性を使用することを特徴とする。例えば、顕微鏡分析において、それらの基材の大きさ、形状、蛍光的特性又は他のパラメータによって、各種基材を識別することができる。これらの各種パラメータは、各種基材のために組み合わされてもよく、それによって、基材、抗原及び/又は抗体を識別するための一種のコードを表す。
【0020】
本発明の一実施形態において、上記方法は、合成基材を識別するために、蛍光色素分子濃度(例えば、ローダミン濃度)の蛍光特性及び/又は、大きさの物理的特性を使用することを特徴とする。ビーズ又は微粒子の大きさは、好ましくは1〜100μmであり、例えば、1μm、2μm、3μm、4μm、5μm、10μm、20μm、30μm、40μm、50μm、60μm、70μm、80μm、90μm、95μm若しくは100μmであるか、又は、任意の同様の値である。異なるサイズの複数のビーズ又は微粒子を組み合わせることができ、それによって、ビーズの各サイズは異なる抗原でコーティングされる。その結果、複数の抗原に対して、細胞基材を用いて同時にアレイ様のアプローチを適用することができる。
【0021】
本発明の好ましい一実施形態において、前記基材及び/又は結合した自己抗体を識別するために、複数色の蛍光顕微鏡検査法が使用され、それによって、基材及び/又は結合した抗体が、好ましくは青、緑及び赤等の異なる蛍光色を示す。
【0022】
本発明の一実施形態において、上記細胞基材が青色発光(例えば、DAPI)を有する蛍光染料で標識され、上記合成基材が緑色発光(例えばローダミン、FITC)を有する蛍光染料で標識され、及び/又は、特異的に結合した抗体が、例えば、Cy5及び/又はアロフィコシアニン(APC)等の赤色発光を有する蛍光染料で標識された抗ヒト免疫グロブリン特異的抗体によって検出される。
【0023】
本発明の方法は、特に、抗体検出によって有効な診断が提供される疾患又は病気に関する。好ましい一実施形態において、上記方法は、前記疾患が自己免疫性又は感染性の疾患であり、好ましくは、前記疾患が全身性リューマチ症状、自己免疫性肝臓疾患、1型糖尿病、ライム病又は単純疱疹ウイルスであることを特徴とする。
【0024】
自己免疫性疾患は診断するのが難しいが、細胞基材に対する自己抗体の結合パターンに加えて、自己抗体が結合する1つ以上の特定の抗原を識別することによって、以前に知られていたものより短時間でより正確な診断が可能になる。本発明は、アレイをベースとしたアプローチと細胞をベースとしたアプローチとを組み合わせた診断方法を可能にする。この方法は現在まで可能であるとは考えられていなかったものである。
【0025】
本発明の一実施形態において、検出される抗体は、抗核抗体(ANA)又は抗好中球細胞質抗体(ANCA)である。
【0026】
本発明のさらなる一実施形態において、上記方法は、抗核抗体(ANA)の染色を分析するためにHEp−2細胞を使用することを特徴とする。
【0027】
本発明のさらなる一実施形態において、上記方法は、疾病診断において、表3、表4及び/又は表5に示されている抗核抗体の細胞染色パターン、対応する抗原、及び、関連する疾患を使用することを特徴とする。
【0028】
本発明のさらなる一実施形態において、上記方法は、抗好中球細胞質抗体(ANCA)の染色を分析するためにヒト顆粒細胞を使用することを特徴とする。
【0029】
本発明のさらなる一実施形態において、上記方法は、疾病診断において、表1及び/又は表2に示されているANCA細胞染色パターン、対応する抗原、及び、関連疾患を使用することを特徴とする。
【0030】
本発明のさらなる一実施形態において、上記方法は、抗好中球細胞質抗体(ANCA)が、ヒト顆粒細胞の核周囲染色(pANCA)又は斑点状細胞質染色(cANCA)を示すことを特徴とする。
【0031】
本発明のさらなる一実施形態において、上記方法は、抗体が、プロテイナーゼ3(PR3)タンパク若しくはミエロペルオキシダーゼ(MPO)タンパク又はこれらの抗原をターゲットとすることを特徴とする。
【0032】
本発明のさらなる一実施形態において、上記方法は、抗体がヒト顆粒細胞の斑点状細胞質染色(cANCA)を示し、プロテイナーゼ3(PR3)に結合し、それによって、これらのタンパク又は抗原が合成基材上に提供され、したがって、ヴェーゲナー肉芽腫症(WG)の診断を提供することを特徴とする。
【0033】
本発明のさらなる一実施形態において、上記方法は、抗体がヒト顆粒細胞の核周囲染色(p−ANCA)を示し、ミエロペルオキシダーゼ(MPO)に結合し、それによって、そのタンパク又は抗原が合成基材上に提供され、したがって、ANCA関連血管炎(AASV)の診断を提供することを特徴とする。
【0034】
本発明のさらなる一実施形態において、上記方法は、サンプルが、被検体から得られた血液、血清、脳脊髄液、関節液又は唾液を含み、それによって、上記被検体が本発明の方法を使用して診断しようとする疾病又は病気を有すると疑われる患者として判断されることを特徴とする。
【0035】
本発明は、本発明の方法における用途のために専用に開発されたソフトウェア等の特別設計されたソフトウェアによって判定システムを制御する方法を包含する。専用に開発されたソフトウェアは、装置及びオートフォーカスの制御用モジュール、画像取得、画像分析、及び/又は、パターン認識アルゴリズムからなる。
【0036】
一実施形態において、本発明の方法は、下記順序に従って免疫蛍光法イメージデータを評価するために、上記判定システムを使用することを特徴とする。
i)ポジティブ染色シグナル
ii)染色の位置特定、好ましくは、細胞基材又は合成基材への染色パターンの分類
iii)細胞パターンの判定、好ましくは、顆粒細胞に対する核周囲パターン及び/又は細胞質パターン;HEp−2細胞に対する有糸核分裂細胞パターンの核、細胞質、及び/又は、染色体
【0037】
この順序は、得られる顕微鏡画像の素早く正確な分析を可能にする。したがって、免疫蛍光検査法のデータ中の複数のパラメータに基づいた診断が可能になる。
【0038】
一実施形態において、本発明の方法は、染色パターンを細胞パターン又は合成パターンに分類するステップを含み、その該細胞パターンの分類は、各パターンの一組のルールを定義することによって、免疫蛍光画像の構造特性と表面模様特性との組み合わせによって決定されることを特徴とする。この分類は、本発明の方法における用途のために専用に開発されたソフトウェア等のような特別に設計されたソフトウェアによって実行することができる。
【0039】
本発明のさらなる一態様は、1つ以上の細胞基材に結合した抗体及び1つ以上の合成基材に結合した抗体を上記方法によって同時に検出するためのシステムであって、a)カメラと、走査ステージと、多重チャンネル発光ダイオード(LED)とを有する蛍光顕微鏡、及び、b)装置及びオートフォーカスの制御用モジュール、自動画像取得、自動画像分析、及び、自動化されたパターン認識アルゴリズムからなるソフトウェアを有し、それによって三色チャネル(好ましくは青、緑、及び赤)を分析する計算装置を含むシステムに関する。
【0040】
本発明のシステムは、本発明の疾病診断の方法における用途のために特別に開発されたものである。そのようなシステムは、パソコン等のデータ処理コンピュータに連結した蛍光顕微鏡を有していてもよい。
【0041】
さらに、本発明の一態様は、1つ以上の細胞基材に結合した抗体及び1つ以上の合成基材に結合した抗体を上記方法によって同時に検出又は識別するためのキットであって、該キットは、a)抗原をコーティングした合成基材と混合した細胞基材を固定したスライドであって、上記細胞基材は、好ましくはHEp−2細胞及び/又はヒト顆粒細胞であり、上記合成基材は、それらの視覚的特性、蛍光的特性、又は、物理的特性によって互いに識別されるスライドと、b)好ましくはFITC、Cy5及び/又はAPC等の蛍光標識と結合した免疫グロブリン特異的抗体を有する複合体と、c)選択的に、洗浄バッファ、カバーグラス、カバー媒体、蛍光標識された又はされていない非コーティング合成基材、及び/又は、合成基材のためのさらなる蛍光標識とを含む。
【0042】
本発明のキットは、当業界において公知の標準的方法と比較して非常に単純化されかつ経済的な診断方法を可能にする。キットスライドは、アレイに基づいたアプローチを細胞基質によるアプローチに本質的に組み合わせて、複数のエピトープを有する複数の合成基材を含んでいてもよい。したがって、経済的に実現可能なコンパクトな形態で存在する当業界で公知のあらゆるものよりもより完全でかつより効率的な診断手段を提供する。
【0043】
本発明の詳細な説明
本発明の方法は、通常は多段階の診断が必要とされる疾患の診断を可能にする。特異性を高めながら抗体結合を評価する複数の診断のステップをこの方法と組み合わせて、単一の診断解析において、素早く、より効率的で、かつ、より正確な診断を提供する。
【0044】
この方法は、特に、感染症及び自己免疫障害等のように抗体検出によって有効な診断が提供される疾患又は病気に関する。この方法は、細胞又は組織に対する抗体結合の存在及びパターンのスクリーニングを可能にするだけでなく、抗体が対象とする各抗原に関するより多くの明確な情報を提供することができる。これによって、ワンステップの方法においてはっきりとした病気の診断が可能になる。
【0045】
診断という用語は、患者の特性を評価することを通じて疾病の性質又は原因を識別及び/又は判断することを指す。本発明は、実行された時に患者に存在する特定の疾病又は疾患の指標を提供する診断法を提供する。例えば、複数の自己免疫疾患が1つの被検体に存在する可能性がある。そのため、例えば、本発明の方法は、1つの疾病の識別によって他の疾患の存在を除外しない。本発明の方法を使用して複数の疾患を同時に又は別々に検出又は分析することができる。
【0046】
本発明の方法は、特に、自己免疫性全身性血管炎等の全身性リューマチ性炎症性疾患の診断に適している。ミエロペルオキシダーゼ(MPO)に対する抗体に関係する顕微鏡的多発血管炎(MPA)等のような、顆粒細胞(ANCA)内の抗原に対する抗体に関連した疾患、及び、プロテイナーゼ3(PR3)に対する抗体に関係するヴェーゲナー肉芽腫症(WG)は、本発明の方法の使用を用いて診断することができる。例えば、二本鎖DNAに対する抗体に関係している場合には、全身性エリテマトーデスを診断することができる。例えば、tRNA合成酵素等のように、HEp−2細胞内の抗原に対する抗体に関係してる場合には、本発明を使用して多発筋炎を診断することもできる。
【0047】
例えば、HEp−2細胞内の抗原に対する抗体に関係している場合には、本発明を用いて自己免疫性肝炎等の自己免疫性肝疾患を診断することができる。線維状アクチン、アシアロ糖蛋白受容体、又は、肝細胞内の他の抗原に対する抗体に関連した疾患を診断することもできる。
【0048】
表1に示されているのは、関連性のある抗好中球細胞質抗体の種類、及び、顆粒細胞における関連する細胞パターンのリストである。表1は、抗体、染色パターン、及び、それらの関連する臨床的関連の例を提供する。この表は、本発明の範囲を限定するようには意図されていない。
【0049】
【表1】

【0050】
本発明の合成基材に塗布することができる適切な抗原の一覧を表2に示す。この一覧は、本発明の範囲を限定するようには意図されていない。表1から、各細胞パターンについて、複数の疾患を示すことができることは明らかである。より具体的な診断を提供するためには、自己抗体が結合する特定の抗原に関するより多くの詳細な情報が必要とされる。特定の抗原のそれぞれが疾病との密接な関連を示していることは、表2から明らかである。そのため、本発明の方法におけるそのような抗原についての陽性シグナルは、細胞パターンと組み合わせて、当業界において公知の技術と比較して優れた診断を可能にする。
【0051】
したがって、本発明は、改良された診断を提供するために、分析方法の新規な組み合わせを提示する。本発明は、各構成要素の新規性は重要ではないいものの、特許請求の範囲に記載されている特定の組み合わせが驚くべき結果や相乗効果をもたらす組み合わせ発明に関する。本発明は、構成要素間の相乗効果を示す。それによって、低い特異性(細胞又は組織)及び高い特異性(抗原)の両方における患者抗体の同時分析は、先行技術における公知の方法と比較して格段に速い方法及びより具体的な診断を提供する。
【0052】
【表2】

【0053】
表3に示されているのは、関連性のある抗核抗体、及び、関連性のある臨床的関連の一覧である。この一覧は、本発明の範囲を限定するものではない。全身性自己免疫疾患における抗核抗体の発生率が示されている。抗核抗体の発生率及び特定の疾患とのそれらとの関連は当業界において公知である(Arbuckle MR et al. New Engl J Med 2003;349: 1226-33, Bradwell AR and Hughes RG. Atlas of HEp-2 patterns. 3rd ed. 2007, Dalakas MC et al. Lancet 2003, 362:971 -82, Fox Rl. Lancet 2005;366:321-31 , Rahman A et al. New Engl J Med 2008;358:929-39, Tan EM et al. Arthritis Rheum 1997;40:1601-1 1 , Ziswiler H-R et al. Swiss Med Wkly 2007;137:586-90)。
【0054】
略語
SLE:全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus)
MCTD:混合結合組織病(mixed connective tissue disease)(Sharp-Syndrome)
DM/PM:皮膚筋炎/多発筋炎(dermato-/polymyositis)
RA:リウマチ性関節炎
SSc:全身性硬化症/強皮症
LSSC:局所的全身性強皮症(クレスト症候群)
LE:薬物誘導性の紅斑性狼瘡(medicament-induced lupus erythematosus)
AIC:自己免疫性胆管炎(autoimmune cholangitis)
PBC:原発性胆汁性肝硬変症(primary biliary cirrhosis)
【0055】
表1−表4に与えられている疾患は、本発明の方法によって診断される病気、症状及び/又は疾患の例として意図されている。
【0056】
【表3】

【0057】
表3の説明
a 特異性95%
b. U1・snRNP複合体:Sm及び/又はU1・snRNP p68/A及び/又は第3のエピトープに対するIgG
c. 最大で5%のケースにおいて房室ブロックを伴う新生児ループスにおける発病有意性。SS−A/Ro52 IgGは、心臓の5−HT4セロトニン作動性受容体を認識し、セロトニン活性化L型を介してカルシウムストリームを阻害する(ICa)。
d. 炎症性筋疾患においては、SS−A/Ro p52 IgGとJo−1 IgG
e. rRNP:リボソームRNPと、タンパクP0、タンパクP1、及びタンパクP2
f. 全身性硬化症/強皮症(SSc)を伴う皮膚筋炎/多発性筋炎(DM/PM)において
【0058】
表4は、HEp−2細胞に結合した時の抗核抗体の核パターン(IIF)を示している。表4から、異なる疾患について類似又は同様の細胞パターン/核パターンがみられることがわかる。表5は、HEp−2細胞に結合した抗体のさらなる細胞パターン(細胞質)を示している。細胞分析は、自己免疫疾患の存在又は不存在の証拠又は裏付けを与えることができるが、細胞基材だけを用いた間接免疫蛍光法は、最適な具体的診断を与えることができない。また、表4及び表5に与えられているのは、本発明の合成基材に塗布することができた特定の抗原の一覧である。細胞パターン(核間期、有糸分裂及び細胞質)と特定の抗原(免疫原)との組み合わせによって、病気又は病状の改良されたより確かな診断がもたらされる。
【0059】
【表4】

【0060】
【表5】

【0061】
例えば、膵臓の膵島細胞、グルタミン酸デカルボキシラーゼ又はチロシンホスファターゼIA−2に対する抗体に関係している場合には、本発明を用いて1型糖尿病を診断することもできる。
【0062】
本発明の方法で診断することができるさらなる疾患の種類は、感染症に関するものである。そのような疾患には、ボレリア症又はライム病が含まれる。これらの疾患は、p21、p41、p100、OSPC又はOSPA等のボレリア又はボレリアタンパクに対する抗体に関係している。
【0063】
単純疱疹ウイルスは、例えば、単純疱疹ウイルスタイプ1(口唇ヘルペス)及びタイプ2(陰部ヘルペス)に対する抗体に関係している場合には、本発明を用いて診断することができるもう1つの感染症である。ヘルペス感染細胞は、タイプ1に対するgG1及びgC1、タイプ2に対するgG2等のような特定のヘルペス抗原を含む合成基材と共に、細胞基材として使用され得る。
【0064】
それら自身の視覚的特性若しくは物理的特性によって又は情報分子を付着させることによってコード化された微小粒子等のような、抗原をコーティングした小さい支持体の使用は、1つの試験環境において細胞基材及び/又は組織基材と共に、驚くべきことに、上記複数段階アプローチに概説されている複数の抗体活性の同時評価のための適切な基礎を与える。
【0065】
そのような検出技術のための最適な報告方法は、複数色蛍光である。複数色蛍光は、粒子のコード化と、複数の特定の抗体・抗原の相互作用を評価するためのラベルとしての両方において同時に、容易に使用することができる。パターン認識ソフトウェアを備えた完全に自動化された顕微鏡は、粒子、細胞基材、及び/又は、組織基材の表面の対象に結合した抗体の検出から生じる蛍光シグナルに加えて、種々の特定の抗原でコーティングされた粒子をコードする蛍光シグナルを判読する。
【0066】
パターン認識ソフトウェアは、細胞基材及び/又は組織基材と、合成基材との両方の同時定量を可能にする。各パターン(細胞/組織パターンと、基材パターンとの両方)のルールの定義された集合によって、上記ソフトウェアが特定の基材に対応する各蛍光シグナルを識別することが可能になる。これは、異なる基材のユニークな視覚的特性、蛍光的特性、又は、物理的特性を通じて可能になる。これらの特性は、抗体がどの基材に(したがって、どの特定の抗原に)結合したかをソフトウェアが認識するためのコードとして機能する。MPA及びWGについて上述されているように、特定の細胞パターン(顆粒細胞の核周囲及び細胞質;HEp−2細胞の有糸核分裂細胞の核、細胞質、斑点状細胞質、クロマチン)の自動判定は、疾病の診断に結びつく付加情報を提供する。
【0067】
高性能のパターン認識を使用することによって、人員を高度に訓練し、いくつかの異なるシステム構成を理解させる必要性がなくなり、また、特定の抗体に対する特異的な蛍光パターンの必要もなくなる。そのような要件は、通常、人員訓練において莫大な費用を必要とする。品質規格及び検証仕様の点において、多くの場合、反復実験を行うことが必要であり、科学者又は高度に訓練された人員による監督が必要である。細胞ベースの間接免疫蛍光法には、一貫した再現性及び高品質が特に必要とされる。免疫蛍光法パターンの判断は、調査者の知識及び個々の技術によって影響される。したがって、研究室内及び研究室間で非常にばらつきがあるのが普通であり、特に専門でない研究所において大きな診断上の問題を提示する。
【0068】
自動化された判読システム及びインテリジェントパターン認識による細胞及び精製された抗原ターゲットに対する抗体を検出するための免疫蛍光法パターン自動判読は、特に多数のサンプルを有する研究所のための、費用効率に優れた血清学的診断方法の信頼できる基礎を与える。近代的な電子データ分析及び処理を適用する機会は、そのような研究所における負担の多い仕事を著しく和らげることができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
本発明を図面によってさらに説明する。これらの図面は、本発明の範囲を限定するように意図されたものではない。図1は、ANCA及びMPOに対する抗体の免疫蛍光検査法による同時分析である。図2は、ANCA及びPR3に対する抗体の免疫蛍光検査法による同時分析である。
【0070】
図1:ANCA及びMPOに対する抗体の免疫蛍光検査法による同時分析の結果は、図1に示されている。MPOでコーティングした微小粒子と共にヒト顆粒細胞を用いて、pANCA(MPO)について陽性であると既に評価された1つの血清サンプル、及び、cANCA(PR3)について陽性であると既に評価された他の1つの血清サンプルをスライド上で試験した。スライド上の顆粒細胞の位置は、DAPI染色法によって検出した。抗原をコーティングした微粒子は、ローダミン又はFITC蛍光によって評価した。pANCA陽性血清は、固定された顆粒細胞と、MPOでコーティングした微粒子との両方と陽性シグナルを示した。顆粒細胞内に局在して前記粒子(矢印で示されている)の表面に固定されたMPOに結合した抗体は、Cy5複合体による特異的な染色によって示されている。対照的に、cANCA陽性の血清は、顆粒細胞のみと陽性反応を生じた。
【0071】
図2:ANCA及びPR3に対する抗体の免疫蛍光検査法による同時分析の結果は、図2に示されている。PR3をコーティングした微粒子と共にヒト顆粒細胞を用いて、cANCA(PR3)に対して陽性であると既に評価された1つの血清サンプル、及び、pANCA(MPO)に対して陽性であると既に評価された1つの血清サンプルをスライド上で試験した。DAPI染色法によって顆粒細胞の位置を検出した。ローダミン蛍光又はFITC蛍光によって、抗原でコーティングした微粒子を評価した。cANCA陽性の血清は、固定された顆粒細胞と、PR3でコーティングした微粒子との両方と陽性シグナルを示した。顆粒細胞に局在して前記粒子(矢印で示されている)の表面に固定化されているPR3に結合した抗体は、Cy5複合体によって特異的な染色によって示されている。対照的に、pANCA陽性の血清は、顆粒細胞のみと陽性反応を生じた。
【0072】
実施例
実施例に示されているように本発明の実施において下記方法を使用する。それらは、実用例として本発明をさらに説明するように意図されたものであり、本発明を限定するものではない。
【0073】
患者:
11FにおいてcANCAに対して陽性(PR3陽性)のヴェーゲナー肉芽腫症(WG)を有する10人の患者、及び、pANCAに対して陽性(MPO陽性)の他のANCA関連血管炎(AASV)を有する10人の患者から血清サンプルを回収し、−20℃で保存した。ヴェーゲナー肉芽腫症(WG)の診断は、WG用のチャペルヒル・コンセンサス・デフィニション(Chapel Hill Consensus Definitions)に基づいた。全身性エリテマトーデス(SLE)の診断基準に適合する10人の患者を、研究における疾病コントロールとして登録した。健康なコントロールとして、10人の献血者から得た血清を使用した。すべてのサンプルは同意及び登録時に得た。
【0074】
従来の間接免疫蛍光法(IIF)による抗好中球細胞質抗体(ANCA)の検出:
供給業者(GA Generic Assays GmbH、Dahlewitz、ドイツ)の推奨に従ってエタノール及びホルマリンで固定したヒト顆粒細胞の表面に患者サンプルを流すことによって、ANCAを検出した。簡潔に説明すると、固定した顆粒細胞を、1:20の稀釈から始めて連続的に希釈した血清の25μlと共に、湿室において室温(RT)で30分間培養した。洗浄後に、そのサンプルを、フルオレセイン標識したヒツジの抗ヒトIgGと共に室温において30分間インキュベートすることによって、抗原抗体複合体を検出した。次に、サンプルを洗浄し、埋め込み、蛍光顕微鏡によって手作業で分析した。
【0075】
ELISAによるMPO抗体及びPR3抗体の検出:
供給業者(GA Generic Assays GmbH、Dahlewitz、ドイツ、及び、Aesku. Diagnostics GmbH、Wendelsheim、ドイツ)の推奨に従って、精製されたヒトPR3及びMPOを固体相抗原として使用する異なる世代のELISAをそれぞれ使用して、患者血清中のプロテイナーゼ3自己抗体及びMPO自己抗体を検出した。
【0076】
ANCAと、MPOに対する抗体及びPR3に対する抗体との同時検出:
ヒト顆粒細胞を密度勾配によって単離した。顆粒細胞を多く含むバンドを回収した。赤血球を溶解させた後に、PBSで顆粒細胞を洗浄した。分離した顆粒細胞をローダミン標識したMPO又はPR−3でコーティングしたビーズと混ぜた。この混合物を6ウェル診断用スライドガラスの表面に固定した。エタノールを用いてこのスライドを固定した。間接免疫蛍光法(IIF)のために、1:20に希釈した25μlの血清と共に、混合した顆粒細胞/ビーズのスライドを湿室で室温(RT)において30分間培養した。洗浄後、そのサンプルを、Cy5で標識したヤギの抗ヒトIgG抗体(Dianova、Hamburg、ドイツ)と共に室温において30分間インキュベートすることによって、結合した抗原抗体複合体を検出した。次に、サンプルを、洗浄し、埋め込み、蛍光シグナルの自動パターン認識用システムによって分析した(下記参照)。
【0077】
蛍光シグナルの自動パターン認識:
電動走査ステージ(IM120、Marzhauser、ドイツ)、400nm、490nm、525nm及び635nmの発光ダイオード(LED)(precisExcite、CoolLED、英国)、及び、グレースケールのカメラ(PS4、Kappa、ドイツ)を備えた電動倒立型顕微鏡顕微鏡(オリンパス1X81、オリンパス社、日本)を使用して、細胞の抗原に結合した抗体と、微粒子の表面にコーティングした抗原に結合した抗体とを同時に多重検出するための血清サンプルの蛍光パターンを自動的に評価した。判定システムは、装置及びオートフォーカス制御用モジュール、画像分析、及び、パターン認識アルゴリズムからなる専用に設計されたソフトウェアによって制御される。グレースケール遷移よる対象のHaralick画像特性に基づいた新規なオートフォーカスは、対象を認識及びフォーカスするための蛍光染料として4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)を使用した。人工産物を除去するために、画像を等しい大きさの部分対象に分割することによって、さらなる定性画像分析を実行した。
【0078】
ヒストグラムに基づいた閾値アルゴリズムを使用し、その後にウォータシェッド・トランスフォーメーション(watershed transformation)を使用して、対象の分割を実施した。分割された対象を、局所的記号、形態的記号、及び、テクスチャ/表面記号によって特性を記述した。1400個超の対象描写基準を実施した。
【0079】
免疫蛍光法の画像データを以下の順序で評価した。
i)陽性染色シグナル
ii)染色の位置特定(細胞又は微粒子)
iii)細胞染色パターンの判定(核周囲、細胞質)
【0080】
DAPI染色によって細胞を識別し、ローダミン蛍光によって微粒子を識別した。合成基材を識別するためにFITC蛍光も使用した。抗体の特異的結合について第3の蛍光チャネルにおいてCy5特異的免疫蛍光を分析した。各対象のルールの定義による構造特性とテクスチャ特性との組み合わせによって区別を行った。
【0081】
画像データを評価するために、絶対的画像強度、コントラスト、及び、画像全体のグレースケールレベルの数を組み合わせることによって、反応性指数(RI)を算出した。RIは露光時間によって影響され、露光時間は人工産物を除去した後の最も高い画像シグナルに依存するので、弱い絶対シグナルを有するパターンでさえも検出可能である。陽性シグナルを区別するための閾値の決定は、200人の正常な献血者のRI値に基づいて行った。
【0082】
以下の実施例によって本発明をさらに説明する。これらは、本発明の範囲を限定するように意図されていない。
【0083】
実施例1:ANCAとMPOに対する抗体との同時検出
ANCAとMPOに対する抗体とを同時に検出するために、MPOでコーティングしたビーズと共に浮遊させたヒト顆粒細胞を、6ウェル診断用スライドガラスのウェル中に固定した。DAPIで染色することによって顆粒細胞の核を検出した。ローダミン標識によってコーティングしたビーズの位置を特定した。間接免疫蛍光法(IIF)を行うために、1:20で希釈した血清と共に、混合された顆粒細胞/ビーズのスライドをインキュベートした。洗浄後に、Cy5標識したヤギの抗ヒトIgGと共にそのサンプルをインキュベートすることによって、形成された抗原抗体複合体を検出した。
【0084】
顆粒細胞とMPOでコーティングしたビーズとを有するスライドを分析した(図1)。上側のパネルにおいて、DAPI(左側)、FITC/ローダミン(中央)、及び、Cy5(右側)について3つの異なるチャネルで得られたpANCA血清の染色画像が示されている。下側のパネルにおいて、上述の混合スライドは、cANCA血清によって染色された。pANCA血清によって染色された画像だけが、特定のCy5チャネルにおいてMPOでコーティングした粒子に対する陽性染色を示した。したがって、MPO抗体に特徴的な顆粒細胞の核周囲染色は、MPOをコーティングしたビーズの染色によって確認された。
【0085】
実施例2:ANCAとPR3に対する抗体との同時検出
ANCAとPR3に対する抗体とを同時に検出するために、浮遊したヒト顆粒細胞を、PR3をコーティングしたビーズと共に、6ウェルの診断用スライドガラスのウェル中に固定した。顆粒細胞の核は、DAPIで染色することによって検出した。コーティングしたビーズは、ローダミンラベリングによって位置を特定した。間接免疫蛍光法(IIF)を行うために、混合した顆粒細胞/ビーズのスライドを、1:20に希釈した血清と共にインキュベートした。洗浄した後に、そのサンプルを、Cy5で標識したヤギの抗ヒトIgGと共にインキュベートすることによって、形成された抗原抗体複合体を検出した。
【0086】
顆粒細胞とPR3をコーティングビーズとを有するスライドを分析した(図2)。上側のパネルにおいて、DAPI(左側)、FITC/ローダミン(中央)及びCy5(右側)について3つの異なるチャネルで得られたpANCA血清の染色画像が示されている。下側のパネルにおいて、上述の混合スライドがcANCA血清で染色された。図2は、実施例1におけるMPOをコーティングした微粒子に代えて、PR3をコーティングした微粒子を用いた染色画像を示している。実施例1とは対照的に、cANCA血清は、下側のパネルにおいて、PR3をコーティングしたビーズと陽性反応を示している。したがって、PR3をコーティングしたビーズの染色によって、PR3抗体に特徴的な顆粒細胞の細胞質染色が確認された。
【0087】
実施例3:
疾患特異的及びコントロール血清の評価
顆粒細胞と抗原コーティングした微粒子との両方を有するスライドを用いた間接免疫蛍光法(IIF)によるANCA、抗PR3抗体及び抗MPO抗体の検出の特異性を試験するために、10人の抗PR3陽性のWG患者の血清、10人の抗MPO陽性のAASV患者の血清、10人のSLE患者の血清、及び、10人の献血者の血清を評価した。ヴェーゲナー肉芽腫症(WG)の診断は、WG用のチャペルヒル・コンセンサス・デフィニション(Chapel Hill Consensus Definitions)に基づいた。この研究における疾病のコントロールとして、SLEの診断基準に適合する10人の患者を登録した。10人の献血者から得た血清を健康なコントロールとして使用した。
【0088】
ANCA反応性は、陽性顆粒細胞染色の免疫蛍光法パターンに従って決定した。MPO又はPR3をコーティングした微粒子に対する反応性は、陽性微粒子染色の検出によって同時に評価した。
【0089】
間接免疫蛍光法(IIF)においてcANCAに対して陽性であったWG血清のほとんどすべてが、PR3コーティングしたビーズと陽性の反応性を示し(90%)、また、上述の混合スライドの固定した顆粒細胞とcANCAパターンを示した(100%)。対照的に、間接免疫蛍光法(IIF)においてpANCAに対して陽性であったAASV血清のすべてが、MPOコーティングしたビーズと陽性の反応性を示し、また、固定した顆粒細胞とpANCAパターンを示した。すべてのコントロール患者は、固定した顆粒細胞又は抗原コーティングした微粒子のいずれかと陰性であった。これらの結果を表6に示す。
【0090】
抗核抗体(ANA)に関連する疾患を分析するために本発明の方法を使用したさらなる研究は、同様に有効な結果を示す。
【0091】
【表6】

【図1】

【図2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上の細胞基材に結合した抗体と1つ以上の合成基材に結合した抗体との同時検出を含む疾病診断方法であって、該方法は、
a)細胞基材と合成基材との混合物を提供するステップと、
b)検出しようとする抗体を含むサンプルを、前記基材混合物と共にインキュベートするステップと、
c)蛍光顕微鏡を使用して、前記細胞基材及び前記合成基材と、前記基材に結合した抗体とを検出及び/又は識別するステップと、
d)好ましくは自動パターン認識判定システムを使用して、免疫蛍光画像データを評価するステップとを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記細胞基材が、HEp−2細胞、ヒト顆粒細胞、及び/又は、有機組織であり、好ましくは膵臓組織であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記合成基材が、精製された天然抗原及び/又は組み換え抗原でコーティングされた微粒子であることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記合成基材の抗原コーティングが、疾病の存在に関連した抗体によって結合されることを特徴とする請求項の1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記基材を識別するために、前記基材の視覚的特性、蛍光的特性、及び/又は、物理的特性を使用することを特徴とする請求項の1〜4のいずれか1項に記載の方法。。
【請求項6】
前記合成基材を識別するために、蛍光色素分子濃度(例えば、ローダミン濃度)の蛍光特性、及び/又は、サイズの物理的特性が使用され、前記微粒子のサイズが好ましくは1μm〜100μmであることを特徴とする請求項の1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記基材及び/又は前記結合した自己抗体を識別するために複数色蛍光顕微鏡検査法が使用され、前記基材及び/又は前記結合した抗体が異なる蛍光色、好ましくは、青、緑、及び赤を示すことを特徴とする請求項の1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記細胞基材が、例えばDAPI等の青色発色を有する蛍光染料で標識され、前記合成基材が、例えばローダミン又はFITC等の緑色発色を有する蛍光染料で標識され、及び/又は、特異的に結合した抗体が、例えば、Cy5及び/又はアロフィコシアニン(APC)等の赤色発色を有する蛍光染料で標識された抗ヒト免疫グロブリン特異的抗体によって検出されることを特徴とする請求項の1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記疾病が自己免疫性疾患又は伝染性疾患であり、好ましくは、前記疾病が全身性リューマチ病状、自己免疫性肝疾患、1型糖尿病、ライム病又は単純疱疹ウイルスであることを特徴とする請求項の1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
検出しようとする抗体が、抗核抗体(ANA)又は抗好中球細胞質抗体(ANCA)であることを特徴とする請求項の1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
抗核抗体(ANA)の染色を分析するために、HEp−2細胞を使用することを特徴とする請求項の1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
疾病診断において、表3、表4及び/又は表5に示されている抗核抗体(ANA)の細胞染色パターン、対応する抗原、及び、関連疾患が使用されることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
抗好中球細胞質抗体(ANCA)の染色を分析するために、ヒト顆粒細胞を使用することを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項14】
ANCA細胞染色パターン、対応する抗原及び表1及び/又は表2において示されるような関連疾患が疾病診断の中で使用されることを特徴とする請求項の1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記抗好中球細胞質抗体(ANCA)が、ヒト顆粒細胞の核周囲染色(pANCA)又は斑点状細胞質染色(cANCA)を示すことを特徴とする請求項13又は14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記抗体が、プロテイナーゼ3(PR3)タンパク若しくはミエロペルオキシダーゼ(MPO)タンパク又はそれらの抗原に対するものであることを特徴とする請求項の1〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記抗体が、ヒト顆粒細胞の斑点状細胞質染色(cANCA)を示し、プロテイナーゼ3(PR3)に結合し、それによってプロテイナーゼ3タンパク又はその抗原が前記合成基材表面に提供され、したがって、ヴェーゲナー肉芽腫症(WG)の診断が提供されることを特徴とする請求項の1〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記抗体が、ヒト顆粒細胞の核周囲染色(pANCA)を示し、ミエロペルオキシダーゼ(MPO)に結合し、それによってミエロペルオキシダーゼ・タンパク又はその抗原が前記合成基材表面に提供され、したがって、ANCA関連血管炎(AASV)の診断が提供されることを特徴とする請求項13〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記サンプルが、被検体から得た血液、血清、脳脊髄液、関節液又は唾液を含むことを特徴とする請求項の1〜18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記判定システムが、装置及びオートフォーカス制御用モジュール、画像取得、画像分析及び/又はパターン認識アルゴリズムからなる専用設計されたソフトウェアによって制御されることを特徴とする請求項の1〜19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
免疫蛍光画像データを評価するために、下記順序:
i)陽性染色シグナル;
ii)好ましくは細胞基材又は合成基材中の染色パターンの分類による染色の位置特定;
iii)細胞パターンの判定、好ましくは、顆粒細胞に対する核周囲パターン及び/又は細胞質パターン;HEp−2細胞に対する有糸核分裂細胞パターンの核、細胞質、及び/又は、染色体
に従って前記判定システムを使用することを特徴とする請求項の1〜20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
染色パターンの細胞基質又は合成基質への分類、及び、細胞パターンの決定は、各パターンのルールの組を定義することによって、免疫蛍光画像の構造的特性とテクスチャ特性との組み合わせによって達成されることを特徴とする請求項の1〜21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
請求項の1〜22のいずれか1項に記載の方法に従って、1つ以上の細胞基材に結合した抗体と、1つ以上の合成基材に結合した抗体とを同時に検出するためのシステムであって、該システムは、
a)カメラ、電動走査ステージ、及び、マルチチャンネル発光ダイオード(LED)を有する蛍光顕微鏡と、
b)装置及びオートフォーカス制御用モジュール、自動化された画像取得、自動化された画像分析、及び、好ましくは青、緑、及び赤の三色チャネルを分析する自動化されたパターン認識アルゴリズムからなるソフトウェアを有する計算装置とを有することを特徴とするシステム。
【請求項24】
請求項1−21のいずれか1項に記載の方法に従って、1つ以上の細胞基材に結合した抗体と、1つ以上の合成基材に結合した抗体とを同時に検出するためのキットであって、該キットは、
a)抗原をコーティングした合成基材を混合した固定した細胞基材を有するスライドであって、前記細胞基材が好ましくはHEp−2細胞及び/又はヒト顆粒細胞であり、前記合成基材がその視覚的特性、蛍光的特性、及び/又は、物理的特性によって互いに識別されものであるスライドと、
b)好ましくはFITC、Cy5及び/又はAPC等の蛍光標識と結合した免疫グロブリン特異的抗体を有する複合体と、
c)選択的に、洗浄バッファ、カバーグラス、カバー媒体、蛍光標識された若しくは蛍光標識されていない非コーティング合成基材、又は、合成基材のためのさらなる蛍光標識とを含むことを特徴とするキット。

【公表番号】特表2013−520664(P2013−520664A)
【公表日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−554320(P2012−554320)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【国際出願番号】PCT/EP2011/052593
【国際公開番号】WO2011/101487
【国際公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(510132392)メディパン・ゲーエムベーハー (2)
【Fターム(参考)】