説明

合成樹脂成形品表面の親水性疎水性制御法および合成樹脂成形品

【課題】同一合成樹脂材料による一体構造の合成樹脂成形品において、合成樹脂成形品表面の親水性や疎水性を自在に制御する方法。
【解決手段】合成樹脂成形品の内部に注入させた、または合成樹脂成形品の表面に存在させた重合性界面活性剤を、合成樹脂成形品を構成する合成樹脂の内部で重合,または表面でグラフト重合させて固定化させる第1工程、及び固定化させた後の合成樹脂成形品を一定の雰囲気下で一定時間保持する第2工程からなる親水性疎水性制御法であり、重合性界面活性剤が下記式で表される化合物から選ばれる合成樹脂成形品表面の親水性疎水性制御法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂成形品表面の親水性疎水性制御法および合成樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
合成樹脂は、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂に大別される。中でも熱可塑性樹脂は、種々の成形方法が適用可能であり、リサイクルも比較的容易であるため、多様な用途に広く用いられている。これら合成樹脂は種類が多く、その性質も多様であるため、それらの性質を利用して多くの成形品が作られ利用されている。しかし、得られる成形品が、すべての要求特性を満たすことは困難であり、不十分な性質を改善するため、各種添加剤の配合、成形加工方法の工夫等が行われてきた。
多くの合成樹脂は疎水性で帯電しやすく、この性質を利用した成形法もある。しかし、親水性に乏しい合成樹脂の製品、例えば、結露による不透明化が問題となる農業用フィルムや食品包装用ラップフィルムでは、表面の親水性が不可欠なため、原料となる合成樹脂に界面活性剤が練り込まれる。
【0003】
しかし、合成樹脂に界面活性剤を練り込む場合、合成樹脂の溶融温度以上に晒されるため熱で変質する場合があり、使用可能な界面活性剤は限られる。また、合成樹脂に添加された界面活性剤は、成形加工性を低下させたり、成形品内部に留まって表面に出てこないため全く効果を示さないか、もしくは少なくとも初期には効果を示さない場合がある。逆に、合成樹脂に添加された界面活性剤が一度に成形品表面に移行してべたつきを生じ、成形品表面の汚染をまねく場合もある。この副次的弊害を解消するため、例えば農業用積層フィルムのように中間層に界面活性剤である防曇剤を多目に添加し、中間層を挟む表層と裏層によって防曇剤を徐々に農業用積層フィルムの表面に移行させて積層フィルム表面に一定の親水性を発現させることが行われている。しかし、中間層に防曇剤を多目に添加することは、防曇剤の潤滑効果による混練機の空回り等のトラブルも起こりやすく均一に分散させることが難しい。しかも、積層による方法は異種材料の積層を伴うため、層剥離のおそれがある。
【0004】
従来の合成樹脂に各種添加剤を練り込む方法とは別に、超臨界流体を用いて合成樹脂に各種添加剤を含浸させる方法が知られており、キャリアー液体に界面活性剤を加えることが記載されている(例えば、特許文献1参照)。また、超臨界流体を用いて合成繊維に界面活性剤を含浸させる方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
これらの合成樹脂に界面活性剤を含浸させる方法によって得られた合成樹脂の製品は、一体構造であり層剥離の問題もない。しかし、合成樹脂製品の表面における疎水性乃至親水性の程度の制御方法については正確な記載はなく、合成樹脂成形品表面の親水性や疎水性を自在に制御できる方法が強く望まれていた。このため、超臨界流体を用いる方法において、処理条件と界面活性剤の種類を選択することにより改善が図られており(例えば、特許文献3参照)、効果は見られるが界面活性剤のブリードに起因する洗濯耐久性等の課題があり、効果の永続性に関しては十分満足のいくものではない。
【特許文献1】特表平8−506612号公報
【特許文献2】特開2001−226874号公報
【特許文献3】特開2008−45077号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、同一合成樹脂材料による一体構造の合成樹脂成形品において、合成樹脂成形品表面の親水性や疎水性を永続的に自在に制御する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意研究を行った。その結果、合成樹脂成形品の内部に注入させた、または合成樹脂成形品の表面に存在させた重合性界面活性剤を、合成樹脂成形品の内部で重合,または表面でグラフト重合させて固定化させる第1工程、及び固定化させた後の合成樹脂成形品を一定の雰囲気下で一定時間保持する第2工程からなる親水性疎水性制御法であり、重合性界面活性剤が下記式で表される化合物から選ばれる合成樹脂成形品表面の親水性疎水性制御法により課題が解決されることを見出し、その知見に基づいて本発明を完成させた。
【0007】
本発明は以下によって構成される。
1.合成樹脂成形品の内部に注入させた、または合成樹脂成形品の表面に存在させた重合性界面活性剤を、合成樹脂成形品の内部で重合,または表面でグラフト重合させて固定化させる第1工程、及び固定化させた後の合成樹脂成形品を一定の雰囲気下で一定時間保持する第2工程からなる親水性疎水性制御法であり、重合性界面活性剤が下記式(I)で表される化合物から選ばれることを特徴とする合成樹脂成形品表面の親水性疎水性制御法。
C(=O)O(CO)(C36O)m(C=O)2 (I)
ここで、Rは炭素数がaのアルケニル基、Rは水素、炭素数がbのアルキル基または炭素数がbのアルケニル基を表し、(CO)はエチレングリコール残基、(C36O)は分岐のプロピレングリコール残基、k及びmはそれぞれ独立して0〜100の整数を表し、かつk+mが1〜200、nは0または1であって、更に以下のQが1以上となる整数を示す。
Q=(15k+15m−3n+20c+12)/4(a+b+2k+3m+n+1)
cは、Rが水素の場合は1とし、それ以外の場合は0とする。
【0008】
2. 第1工程において、重合性界面活性剤を固定化させる方法が、
1)合成樹脂成形品を重合性界面活性剤を含有する超臨界二酸化炭素に接触処理させ、合成樹脂成形品の内部に重合性界面活性剤を注入させた後、電子線照射、紫外線照射、プラズマ照射、及び放射線照射から選ばれる方法により、合成樹脂成形品の内部で重合させる方法、
または
2)塗布、浸漬の方法により、重合性界面活性剤を合成樹脂成形品表面に存在させた状態で、電子線照射、紫外線照射、プラズマ照射、及び放射線照射から選ばれる方法により重合性界面活性剤を合成樹脂にグラフト重合させる方法、
である前記1項記載の合成樹脂成形品表面の親水性疎水性制御法。
【0009】
3.合成樹脂がポリオレフィン樹脂である前記1または2項記載の合成樹脂成形品表面の親水性疎水性制御法。
【0010】
4.式(I)で表される化合物が、kが0であることを特徴とする前記1〜3項のいずれか1項記載の合成樹脂成形品表面の親水性疎水性制御法。
【0011】
5.第1工程の1)の方法において、超臨界二酸化炭素中の重合性界面活性剤の含有量が、接触処理される合成樹脂成形品の重量に対して5〜50重量%である前記2〜4項のいずれか1項記載の合成樹脂成形品表面の親水性疎水性制御法。
【0012】
6.第1工程の1)の方法において、超臨界二酸化炭素への合成樹脂成形品の接触処理が、温度60〜120℃、圧力10〜40MPa、及び時間5〜120分で行なわれる前記2〜5項のいずれか1項記載の合成樹脂成形品表面の親水性疎水性制御法。
【0013】
7.第1工程の1)または2)の電子線照射により重合させる方法において、電子線の照射量が50〜600kGyであり、その後50〜110℃で30分〜6時間加熱処理する前記2〜6項のいずれか1項記載の合成樹脂成形品表面の親水性疎水性制御法。
【0014】
8.第2工程において、温度20〜80℃、及び相対湿度0〜100%の雰囲気下または水中で、30分〜6時間保持する前記1〜7項のいずれか1項記載の合成樹脂成形品表面の親水性疎水性制御法。
【0015】
9.第2工程において、温度20〜60℃、及び相対湿度70〜100%の雰囲気下または水中で、30分〜6時間保持することにより合成樹脂成形品表面を疎水性から親水性へ変える前記1〜7項のいずれか1項記載の合成樹脂成形品表面の親水性疎水性制御法。
【0016】
10.第2工程において、温度20〜80℃、及び相対湿度0〜30%、常圧または減圧の雰囲気下で、30分〜6時間保持することにより合成樹脂成形品表面を親水性から疎水性へ変える前記1〜7項のいずれか1項記載の合成樹脂成形品表面の親水性疎水性制御法。
【0017】
11.前記1〜10項のいずれか1項記載の合成樹脂成形品表面の親水性疎水性制御法を用いて得られる合成樹脂成形品。
【発明の効果】
【0018】
本発明の合成樹脂成形品表面の親水性疎水性制御法を用いれば、永続的に所望の親水性または疎水性を持った表面を有する、同一材料による一体の合成樹脂成形品が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、本発明の実施形態を説明する。
本発明の合成樹脂成形品表面の親水性疎水性制御法は、以下の第1工程、及び第2工程からなる。
第1工程は、以下の2つの方法から選択される工程である。
1)合成樹脂成形品を重合性界面活性剤を含有する超臨界二酸化炭素に接触処理させ、合成樹脂成形品の内部に重合性界面活性剤を注入させた後、電子線照射、紫外線照射、プラズマ照射、及び放射線照射から選ばれる方法により、合成樹脂成形品の内部で重合させ、重合性界面活性剤を固定化させる方法。
尚、ここで固定化とは、重合性界面活性剤を合成樹脂にグラフト重合させることの他に、重合性界面活性剤同士を重合させて、重合性界面活性剤が急速に合成樹脂成形品表面にブリードまたはブルームするのを防止することも含まれる。
2)塗布、浸漬の方法により、重合性界面活性剤を合成樹脂成形品表面に存在させた状態で、電子線照射、紫外線照射、プラズマ照射、及び放射線照射から選ばれる方法により重合性界面活性剤を合成樹脂にグラフト重合させ、重合性界面活性剤を固定化させる方法。
【0020】
上記の1)の工程で、超臨界二酸化炭素は合成樹脂に対しても高い拡散性を持ち、可塑剤としても働き、分子内に極性をもたない合成樹脂中に均一に重合性界面活性剤を注入することを可能にする。
また、上記の1)または2)の工程で、重合性界面活性剤を注入または付着させた後の合成樹脂に電子線照射等の活性エネルギー線を照射することで、重合性界面活性剤の重合、及び合成樹脂に対する重合性界面活性剤のグラフト重合を効率よく促進させることが可能になる。
【0021】
また、電子線照射、紫外線照射、プラズマ照射、及び放射線照射から選ばれる活性エネルギー線を照射することにより、重合開始剤が不要となるという利点もある。活性エネルギー線を照射しない場合は,重合開始剤が必要となり,種々の不具合が発生する。
重合開始剤を超臨界二酸化炭素中で、重合性界面活性剤と同時に注入しようとすると,注入される前の重合性界面活性剤が、注入前に重合してしまうものも出て、その結果、反応器内や配管の汚染が起こってしまう。一度ポリマーで汚染されると,洗浄が非常に困難となり、多大な労力を要することになる。
本発明の方法では、重合開始剤を使用しないため、注入の過程での重合を防ぐことができる。
【0022】
第2工程は、重合性界面活性剤を固定化した後の合成樹脂成形品を一定の雰囲気下で一定時間保持して、成形品表面の界面活性剤濃度や活性を制御し、所望の親水性または疎水性を発現させる。
【0023】
本発明で合成樹脂成形品に用いられる合成樹脂としては、特に限定はされないが、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂等が例示できる。
中でも、ポリオレフィン樹脂は主に炭素と水素からなる化合物であることから、焼却時の有害ガスの発生が少なく環境負荷が少ない素材である。また、軽量で比較的安価なため、ポリオレフィン樹脂成形品は、産業資材、生活資材等として広く用いられている。現に、農業用フィルムや食品包装用ラップフィルムには多くのポリオレフィン樹脂が用いられている。 また、不織布もフィルター素材や衛生材料等に多く用いられている。従って、これら合成樹脂の中で、ポリオレフィン樹脂は、多様な用途に用いられ、本発明の合成樹脂成形品表面の親水性疎水性制御法の適用に最も適した樹脂といえる。
【0024】
ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリシクロオレフィン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂等が挙げられる。ポリエチレン樹脂としては低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレンが挙げられる。ポリプロピレン樹脂としては、プロピレンの結晶性単独重合体、プロピレンとエチレンもしくは炭素数4以上のα−オレフィンから選ばれる1種以上との二元以上の結晶性共重合体、またはそれらの混合物である。具体的には、沸騰ヘプタン不溶部を70重量%以上、好ましくは80重量%以上含有する結晶性ポリプロピレン、プロピレン重合成分を70重量%以上含有する結晶性エチレン−プロピレン共重合体、結晶性プロピレン−1−ブテン共重合体、結晶性プロピレン−1−ヘキセン共重合体、結晶性エチレン−プロピレン−1−ブテン三元共重合体等の結晶融点を有するプロピレン共重合体が挙げられる。
【0025】
本発明で用いられる重合性界面活性剤は下記式(I)で表される化合物から選ばれる。
C(=O)O(CO)(C36O)m(C=O)2 (I)
ここで、Rは炭素数がaのアルケニル基、Rは水素、炭素数がbのアルキル基、またはアルケニル基を表し、(CO)はエチレングリコール残基、(C36O)は分岐のプロピレングリコール残基、k及びmはそれぞれ独立して0〜100の整数を表し、かつk+mが1〜200、nは0または1であって、更に以下のQが1以上となる整数を示す。
Q=(15k+15m−3n+20c+12)/4(a+b+2k+3m+n+1)
cは、Rが水素の場合は1とし、それ以外の場合は0とする。
中でも、式(I)で表される化合物が、kが減少しmが増える場合、特にkが0でmが1〜100である場合には、合成樹脂製成形品表面の親水性から疎水性への変化が容易に起こる。
【0026】
上記式で表される化合物としては、ポリオキシエチレン系化合物として、例えば、ポリエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、エトキシポリエチレングリコールアクリレート、オクチルオキシポリエチレングリコールアクリレート、ドデシルオキシポリエチレングリコールアクリレート、オレイルオキシポリエチレングリコールアクリレート、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート、エトキシポリエチレングリコールメタクリレート、オクチルオキシポリエチレングリコールメタクリレート、ドデシルオキシポリエチレングリコールメタクリレート、オレイルオキシポリエチレングリコールメタクリレート(オキシエチレン単位の数k=1〜100、m=0)等が挙げられる。ポリオキシプロピレン系化合物として、例えば、ポリプロピレングリコールアクリレート、ポリプロピレングリコールメタクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、メトキシポリプロピレングリコールアクリレート、エトキシポリプロピレングリコールアクリレート、オクチルオキシポリプロピレングリコールアクリレート、ドデシルオキシポリプロピレングリコールアクリレート、オレイルオキシポリプロピレングリコールアクリレート、メトキシポリプロピレングリコールメタクリレート、エトキシポリプロピレングリコールメタクリレート、オクチルオキシポリプロピレングリコールメタクリレート、ドデシルオキシポリプロピレングリコールメタクリレート、オレイルオキシポリプロピレングリコールメタクリレート(オキシプロピレン単位の数k=0、m=1〜100)等が挙げられる。ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合系化合物として、例えば、(ポリエチレングリコール)(ポリプロピレングリコール)アクリレート、(ポリエチレングリコール)(ポリプロピレングリコール)メタクリレート、(ポリエチレングリコール)(ポリプロピレングリコール)ジアクリレート、(ポリエチレングリコール)(ポリプロピレングリコール)ジメタクリレート、メトキシ(ポリエチレングリコール)(ポリプロピレングリコール)アクリレート、エトキシ(ポリエチレングリコール)(ポリプロピレングリコール)アクリレート、オクチルオキシ(ポリエチレングリコール)(ポリプロピレングリコール)アクリレート、ドデシルオキシ(ポリエチレングリコール)(ポリプロピレングリコール)アクリレート、オレイルオキシ(ポリエチレングリコール)(ポリプロピレングリコール)アクリレート、メトキシ(ポリエチレングリコール)(ポリプロピレングリコール)メタクリレート、エトキシ(ポリエチレングリコール)(ポリプロピレングリコール)メタクリレート、オクチルオキシ(ポリエチレングリコール)(ポリプロピレングリコール)メタクリレート、ドデシルオキシ(ポリエチレングリコール)(ポリプロピレングリコール)メタクリレート、オレイルオキシ(ポリエチレングリコール)(ポリプロピレングリコール)メタクリレート、(k=1〜100、m=1〜100)等が挙げられる。
【0027】
本発明で用いられる重合性界面活性剤のRの炭素数aは、2〜3であり、具体的にはアクリル酸、メタクリル酸誘導体を意味する。Rの炭素数bは0〜22であり、0の場合は水素、即ち末端がアルコール(OH)であることを意味する。
nは、Rとポリアルキレングリコール基がエステル基を介して結合している場合を表し、その場合はn=1、そうでない場合は0である。
k、mの値としては、1〜100であるが、好ましくは、1〜50更に好ましくは2〜20である。k、mの値が大きいと、分子量が大きくなり、樹脂への注入が進行しにくくなってくる。
本発明で用いられる重合性界面活性剤の分子量は、特に限定はされないが、400〜2000が好ましく、更には400〜1000が好ましい。
Q値は、1以上のものを使用する。ここで1より小さいものを用いると、親水性を発現しにくくなり、親水性疎水性の切替えが困難になる。
【0028】
ここでQ値の意味について説明する。一般に界面活性剤で使用されている有機概念図という考え方を、界面活性剤を固定化した固体に応用できるよう、新たに考案したものである。一般に、液中での界面活性剤の挙動は、界面活性剤が微量の場合は、液と親和性のある基を外側に、液と親和性の乏しい基を内側にし、液との接触面積をできるだけ小さくするように丸まろうとする。界面活性剤の量が増えてくると、粒状では収まりきれず、棒状、層状の形態をとろうとする。これは、界面活性剤が液中で自由に動くことができる所以である。しかしながら、界面活性剤が固定化された場合、動きが束縛され、束縛された状態で最善の形態をとろうとする。この場合、従来の液での理屈がそぐわなくなってくる。
本発明では、驚くべきことに、界面活性剤の世界では従来疎水性基として使用されてきたポリプロピレングリコール基も、固定化されることにより、ある雰囲気条件では、樹脂表面を親水化できることを見出した。詳細な分析はまだであるが、特にポリプロピレン樹脂に対しては、プロピレングリコール基のアルキル部の構造が似通っていることもあり、アルキル基を樹脂側に、酸素原子を外側にして並んでいるのではないかと思われる。
固定化された状態では、親水性基の代表であるポリエチレングリコール基も、疎水性の代表であるポリプロピレングリコール基も、同様の挙動をとるものと仮定し、親水性疎水性のバランスを考慮してQ値を考案した。
【0029】
ここで、有機概念図の考え方について簡単に説明する。有機化合物の極性を表現する際、その化学構造に着目し、結合や基を考慮して、(有機性、無機性)という2つの値として座標上に表現するものである。
参考文献
藤田 穆:有機化合物概念図と其の応用;化学実験学・(第2部)基本操作篇II,
225〜257,昭和16(1941),河出書房
藤田 穆:有機化合物の予測と有機概念図;化学の領域11-10(1957)719〜725

基本としてメチレン基を炭素数1個で(20,0),水酸基は(0,100)と決め,
例えば,n-ヘキサンは,(120,0),エタノールは,(40,100)と表現する。
界面活性剤として使用されるポリエチレングリコール基は,曇点以下で使用される場合は,(40,75),曇点以上で水を離す状態の時は,(40,20)という2つの状態を持つ。
一方,ポリプロピレングリコール基は,通常,疎水性基として(60,20)となっている。
今回,上述のように,固定化された状態では、親水性基の代表であるポリエチレングリコール基も、疎水性の代表であるポリプロピレングリコール基も、同様の挙動をとるものと仮定し、ポリプロピレングリコール基に(60,75)の値を与え,新たにQ値を考案した。
Q=(ポリプロピレングリコール基を補正した無機性値)/(有機性値)
その結果、Q値が1以上のものを使用した場合に、親水性疎水性を可逆的に変化させられることを見出した。
【0030】
本発明の親水性疎水性制御法が適用できる合成樹脂成形品の種類は、特に限定されるものではなく、射出成形品、フィルム、繊維等が挙げられる。
【0031】
本発明の合成樹脂成形品表面の親水性疎水性制御法は、第1工程で合成樹脂成形品に重合性界面活性剤を内部重合または表面近傍でグラフト重合させて固定化させる。その固定化方法としては、1)合成樹脂成形品に重合性界面活性剤を含有する超臨界二酸化炭素に接触処理させ、合成樹脂中に重合性界面活性剤を注入させた後,電子線照射、紫外線照射、プラズマ照射、及び放射線照射から選ばれる方法により、合成樹脂の内部で重合させ、界面活性剤を固定化させる方法が挙げられる。2)あるいは塗布、浸漬等の方法により、重合性界面活性剤を合成樹脂成形品表面に存在させた状態で、電子線照射、紫外線照射、プラズマ照射、及び放射線照射から選ばれる方法により表面近傍でグラフト重合させ、重合性界面活性剤を固定化させる方法が挙げられる。これらの2つの方法から適宜選択した方法で固定化を行なうことができる。
超臨界二酸化炭素は、31.7℃以上、圧力7.2MPa以上の状態の流体であって、わずかの圧力変化で大きな密度変化を起こす他、低粘度、高拡散性であるため、色々な重合性界面活性剤を溶解し、合成樹脂成形品の中に均一に浸透させることができる。
【0032】
合成樹脂成形品に対して重合性界面活性剤を均一に含有させるためには、耐圧容器に合成樹脂成形品と重合性界面活性剤を入れた後、超臨界二酸化炭素を耐圧容器に導入して接触処理する。処理条件は用いられる合成樹脂の種類等により適宜選択されるが、処理温度は65〜115℃が好ましく、80〜105℃がより好ましい。処理圧力は10〜40MPaが好ましく、15〜40MPaがより好ましい。処理時間は5〜60分が好ましく、10〜30分がより好ましい。処理条件が上記の範囲内であれば、処理された合成樹脂成形品には十分な量の重合性界面活性剤が導入され、内部重合させることにより、固定化することができる。
また、第1工程の処理の際に、耐圧容器に投入される重合性界面活性剤の量は、合成樹脂の種類、成形品の用途、重合性界面活性剤の種類等により変わるが、合成樹脂成形品の重量に対して5〜50重量%が好ましく、5〜30重量%がより好ましい。重合性界面活性剤の量が上記の範囲内であれば、第2工程の処理により所期の親水性または疎水性表面を有する合成樹脂成形品が得られる
【0033】
尚、第1工程の処理の際に、耐圧容器に投入される合成樹脂成形品に含まれている添加剤が、超臨界二酸化炭素により該成形品から抽出されるおそれがある場合は、処理の際に、予め耐圧容器に該添加剤を所定量投入し、抽出による損失を補償することが望ましい。
重合性界面活性剤が注入された合成樹脂成形品は、活性エネルギー線を照射した後、加熱処理を行なうことで、樹脂内部での重合が促進、完結される。加熱条件は、特に指定はされないが、50〜110℃、好ましくは80〜110℃で、30分〜6時間、好ましくは1〜4時間処理することが望ましい。
活性エネルギー線は、重合を促進させるために照射するが、装置の普及状況からUV、
電子線が有効である。エネルギー量の観点からは、電子線がより好ましい。
電子線の照射量は、重合の難易度にもよるが、50〜600kGyの範囲で照射すれば、重合は完結される。
【0034】
本発明の合成樹脂成形品表面の親水性疎水性制御法の第2工程では、合成樹脂成形品表面に所望の親水性または疎水性を発現させるため、第1工程で超臨界二酸化炭素と接触させた合成樹脂成形品を一定の雰囲気下で一定時間保持する。保持条件は重合性界面活性剤の種類や第1工程での処理条件で変わる。本発明で使用する重合性界面活性剤でQ値が1以上のものを用いる場合は、界面活性剤を導入しない合成樹脂成形品表面に比べれば親水性であることは当然である。しかし、温度20〜80℃、相対湿度0〜100%で、30分以上,好ましくは3時間、より好ましくは6時間保持すれば、一定の範囲で合成樹脂成形品表面を親水性乃至疎水性に変化させることができる。
【0035】
例えば、第2工程において、温度20〜60℃、相対湿度70〜100%の雰囲気下、または水中で、30分〜6時間保持することにより合成樹脂成形品表面を疎水性から親水性へ変えることができる。
また、第2工程において、温度20〜80℃、相対湿度0〜30%、常圧(大気圧)または減圧(大気圧未満、好ましくは0.67kPa(5Torr)、より好ましくは0.13kPa(1Torr))の雰囲気下で、30分〜6時間保持することにより合成樹脂成形品表面を親水性から疎水性へ変えることもできる。この場合は、雰囲気を減圧下にしてもよい。
【実施例】
【0036】
以下、実施例及び比較例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらにより限定されるべきものではない。尚、実施例及び比較例で用いた評価方法は下記の通りである。
【0037】
1)ポリオレフィンプレート、フィルム面の親水性
ポリオレフィンプレート、フィルムサンプル上に滴下した純水の接触角を測定して面の親水性を評価した。測定温度20℃。
2)不織布の親水性
不織布サンプル上に、水滴を滴下し、水のはじき、浸透の様子を観察。
3)重合性界面活性剤の導入率
超臨界二酸化炭素処理を行なったサンプルを蒸留水で3分洗浄した後60℃で20分乾燥し、処理前後の重量変化から増加率(重合性界面活性剤の導入率:重量%)を算出した。
4)機能の発現性
4−1)サンプルを60℃、相対湿度20%の状態に6時間放置後、20℃で10分放置し,サンプル温度を20℃にしてから,プレート、フィルムの場合は、サンプル上に滴下した水の接触角を測定して面の親水機能の発現性を評価した。
不織布の場合は、水のはじき、浸透の具合を観察。後述する表1のDryの条件。
4−2)サンプルを20℃、相対湿度80%の状態に6時間放置後、プレート、フィルムの場合は、サンプル上に滴下した水の接触角を測定して面の親水機能の発現性を評価した。不織布の場合は、水のはじき、浸透の具合を観察。後述する表1のWet-1の条件。
4−3)サンプルを40℃の温水中に6時間浸漬後、水分を拭き取り、20℃で10分放置し,サンプル温度を20℃にしてから,プレート、フィルムの場合は、サンプル上に滴下した水の接触角を測定して面の親水機能の発現性を評価した。不織布の場合は、水のはじき、浸透の具合を観察。後述する表1のWet-2の条件。
4−4)サンプルを40℃の蒸留水中で4時間洗浄し、その後60℃で2時間減圧乾燥させる。この操作を20回繰り返した。20回目に、親水性を上述の評価方法に従って評価した。結果を表1の「20回洗浄後の水の接触角あるいは水のはじき」に記載した。
【0038】
製造例1
沸騰ヘプタン不溶部を96重量%含有するMFR0.7g/10分のポリプロピレンポリマー粉末に、樹脂組成物の重量基準で、フェノール系酸化防止剤BHTを0.2重量%、及びステアリン酸カルシウムを0.1重量%の割合となるように添加し、それをヘンシェルミキサー(商品名)に投入し、混合攪拌した。得られた混合物を240℃にて射出成型し、5cm×5cm×2mm厚のポリプロピレンプレートを作成した。これを実験用に8mm幅にカットした。
製造例2
製造例1において混合攪拌した添加剤入りのポリマー混合物を、口径50mmφの裏層用単軸押出機に供給し、Tダイ温度240℃で溶融し押出を行い、表面温度30℃の鏡面冷却ロールで急冷して、厚さ150μmのフィルムを得た。このフィルムを裁断して長さ4.5cm×幅1.5cmのポリプロピレンフィルムサンプルを作成した。
【0039】
実施例1
製造例1で作成したポリプロピレンプレートサンプル(8mm幅×5cm×2mm厚)、及び該ポリプロピレンプレートサンプルの重量の20重量%にあたるポリエチレングリコールメタクリレート(オキシチレン単位の数nEO=平均9、ALDRICH製)を、容量10mlの高圧カラムに入れ、ISCO社製SFE System 2200を用い、温度95℃、圧力25MPa、時間1時間で超臨界二酸化炭素処理を行なった。処理後、試料を取り出し、蒸留水で3分洗浄した後、サンプル表面の水分を拭き取り、60℃で20分乾燥し、処理前後での重量変化から試料への重合性界面活性剤の導入率:重量%を算出した。
次に試料をチャック付きポリエチ袋に入れ、袋内を窒素雰囲気にした後、チャックを閉じ、電子線照射装置(EC250/115/180L、イワサキ電気(株)製)内を加速電圧240kV、搬送速度5m/minで4回通過させ、電子線量200kGyの照射を行った。その後、80℃に設定した乾燥機に袋ごと試料を入れ、1時間加熱処理を行った。加熱処理終了後、試料を袋から取り出し、アセトン中で24時間洗浄、次いで蒸留水で3分洗浄した後、サンプル表面の水分を拭き取り、60℃で20分減圧乾燥した。処理後の重量と超臨界二酸化炭素処理をする前の重量変化から、最終的に固定化された重合性界面活性剤の重量%を算出した。
次いで、処理後の試料について、上述の評価方法に従って親水性の度合いを評価した。結果を表1に示す。
【0040】
実施例2
重合性界面活性剤として、ポリプロピレングリコールアクリレート(オキシプロピレン単位の数nPO=平均7、ALDRICH製)を用いた以外は、実施例1と同様に実施し上述の評価方法に従って評価した。結果を表1に示す。
【0041】
実施例3
重合性界面活性剤として、ポリプロピレングリコールジアクリレート(オキシプロピレン単位の数nPO=平均13、ALDRICH製)を用いた以外は、実施例1と同様に実施し上述の評価方法に従って評価した。結果を表1に示す。
【0042】
実施例4
重合性界面活性剤として、ドデシルオキシポリエチレングリコールアクリレート(オキシチレン単位の数nEO=平均10、日油(株)製)を用いた以外は、実施例1と同様に実施し上述の評価方法に従って評価した。結果を表1に示す。
【0043】
実施例5
実施例3において、超臨界二酸化炭素処理の際、圧力を15MPaに変更した以外は、実施例3と同様に実施し上述の評価方法に従って評価した。結果を表1に示す。
【0044】
実施例6
実施例3において、超臨界二酸化炭素処理の際、重合性界面活性剤の仕込み量を50重量%に変更した以外は、実施例3と同様に実施し上述の評価方法に従って評価した。結果を表1に示す。
【0045】
実施例7
実施例3において、超臨界二酸化炭素処理の後、電子線照射処理に代えて紫外線照射処理を行なった以外は、実施例3に記載の方法と同様に実施し上述の評価方法に従って評価した。結果を表1に示す。紫外線照射処理の方法は、以下の通り。
超臨界二酸化炭素処理を終えた試料を、紫外線照射処理装置(UVE1103B、110W、ミツヤ(株)製)の中に入れ、表面、裏面にそれぞれ8分間紫外線を照射した。
【0046】
実施例8
実施例1において、ポリプロピレンプレートに代えて製造例2で作成したポリプロピレンフィルムを用いた以外は、実施例1と同様に実施し上述の評価方法に従って評価した。結果を表1に示す。
【0047】
実施例9
実施例2において、ポリプロピレンプレートに代えて製造例2で作成したポリプロピレンフィルムを用いた以外は、実施例2と同様に実施し上述の評価方法に従って評価した。結果を表1に示す。
【0048】
実施例10
実施例1において、ポリプロピレンプレートに代えてポリプロピレン不織布(商品名:インタック不織布、目付:30g/m2、7.5cm×10.5cm、チッソ(株)製)を用い、重合性界面活性剤の仕込み量を50重量%とした以外は、実施例1と同様に実施し上述の評価方法に従って評価した。結果を表1に示す。
【0049】
実施例11
実施例10において、超臨界二酸化炭素処理を省略し、電子線処理により固定化したものを評価した。
500mlのビーカーに、ポリエチレングリコールメタクリレート(オキシチレン単位の数nEO=平均9、ALDRICH製)の10%アセトン溶液を調整した。これに不織布を浸漬した後、圧搾ローラーにより絞り、余分な溶液を除去した。付着率は表1に示す。
この試料をチャック付きポリエチ袋に入れ、袋内を窒素雰囲気にした後、チャックを閉じ、以下実施例10と同様に実施し上述の評価方法に従って評価した。結果を表1に示す。
【0050】
実施例12
実施例11において、重合性界面活性剤をポリプロピレングリコールジアクリレート(オキシプロピレン単位の数nPO=平均13、ALDRICH製)に変更した以外は、実施例12と同様に実施し上述の評価方法に従って評価した。結果を表1に示す。
【0051】
[親水性、疎水性の変換速度]
実施例1〜3で得られた試料について、親水性から疎水性に変わる速さを評価した。
上述のWet-2の条件で、表面を親水性にした後、温度60℃、相対湿度20%の条件で放置し、30分おきに水の接触角を測定した。
また、Wet-2の条件で、表面を親水性にした後、温度60℃、0.67kPa(5Torr)の条件で減圧乾燥し、30分おきに水の接触角を測定した。
更に、疎水性から親水性に変わる速さを評価した。上述のDryの条件で、表面を疎水性にした後、40℃の温水中に浸漬し、30分おきに引き上げて水の接触角を測定した。この結果を表2に示す。
【0052】
比較例1
製造例1で作成した未処理のポリプロピレンプレートを上述の評価方法に従って評価した。結果を表1に示した。
【0053】
比較例2
製造例2で作成した未処理のポリプロピレンフィルムを上述の評価方法に従って評価した。結果を表1に示した。
【0054】
比較例3
未処理のポリプロピレン不織布(商品名:インタック不織布、目付:30g/m2、7.5cm×10.5cm、チッソ(株)製)を上述の評価方法に従って評価した。結果を表1に示した。
【0055】
比較例4
重合性界面活性剤として、ドデシルオキシポリエチレングリコールアクリレート(オキシチレン単位の数nEO=平均4、日油(株)製)を用いた以外は、実施例1と同様に実施し上述の評価方法に従って評価した。結果を表1に示す。
【0056】
比較例5
重合性界面活性剤として、ポリプロピレングリコールジアクリレート(オキシプロピレン単位の数nPO=平均4、ALDRICH製)を用いた以外は、実施例1と同様に実施し上述の評価方法に従って評価した。結果を表1に示す。
【0057】
比較例6
重合性界面活性剤として、ドデシルオキシポリエチレングリコールアクリレート(オキシチレン単位の数nEO=平均4、日油(株)製)を用いた以外は、実施例11と同様に実施し上述の評価方法に従って評価した。結果を表1に示す。
【0058】
比較例7
実施例3において、超臨界二酸化炭素処理の後、電子線照射処理を省略して、そのまま90℃で4時間加熱処理を行なった以外は、実施例3に記載の方法と同様に実施し上述の評価方法に従って評価した。結果を表1に示す。
【0059】
比較例8
実施例1において、超臨界二酸化炭素で処理をした後、それに続く電子線処理以降の固定化工程をすべて省略した試料を作成した。この試料について実施例1と同様に親水性を上述の評価方法に従って評価した。結果を表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
表1より、Q値が1以上のものを使用した場合に、親水性疎水性を可逆的に変化させられることがわかる。また、Q値が1以上のものを使用した場合でも、電子線照射等による固定化を行なっていない場合は、ブリード等により、効果の持続性が失われていくことがわかる。
また、表2より、Q値が1以上のものを使用した場合でも、特にプロピレングリコールを含んだ化合物を使用した場合には、疎水性から親水性への変化の場合は、大差は見られなかったが、親水性から疎水性への変化させる場合には、ポリエチレングリコールを含んだ化合物の場合よりも、容易に変化が起こることが判明した。
【0063】
実施例、比較例から明らかなように本発明の方法を用いれば、合成樹脂成形品表面を単に親水化するだけでなく、親水化の度合いを積極的に制御することができる。すなわち、ある条件では親水化し、ある条件では素材の合成樹脂に近い表面状態にし、可逆的に制御することができる。また、合成樹脂に重合性界面活性剤を固定化することにより、洗濯耐久性を格段に向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
例えばエアフィルターへの応用がある。疎水性に近い状態で静電気によりホコリや花粉その他の浮遊物を吸着する。十分に汚れたところで、水に浸漬して表面を親水化し、汚れを落とし易くすることもできる。何回でも洗浄可能なフィルターができあがる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂成形品の内部に注入させた、または合成樹脂成形品の表面に存在させた重合性界面活性剤を、合成樹脂成形品の内部で重合,または表面でグラフト重合させて固定化させる第1工程、及び固定化させた後の合成樹脂成形品を一定の雰囲気下で一定時間保持する第2工程からなる親水性疎水性制御法であり、重合性界面活性剤が下記式(I)で表される化合物から選ばれることを特徴とする合成樹脂成形品表面の親水性疎水性制御法。
C(=O)O(CO)(C36O)m(C=O)2 (I)
ここで、Rは炭素数がaのアルケニル基、Rは水素、炭素数がbのアルキル基または炭素数がbのアルケニル基を表し、(CO)はエチレングリコール残基、(C36O)は分岐のプロピレングリコール残基、k及びmはそれぞれ独立して0〜100の整数を表し、かつk+mが1〜200、nは0または1であって、更に以下のQが1以上となる整数を示す。
Q=(15k+15m−3n+20c+12)/4(a+b+2k+3m+n+1)
cは、Rが水素の場合は1とし、それ以外の場合は0とする。
【請求項2】
第1工程において、重合性界面活性剤を固定化させる方法が、
1)合成樹脂成形品を重合性界面活性剤を含有する超臨界二酸化炭素に接触処理させ、合成樹脂成形品の内部に重合性界面活性剤を注入させた後、電子線照射、紫外線照射、プラズマ照射、及び放射線照射から選ばれる方法により、合成樹脂成形品の内部で重合させる方法、
または
2)塗布、浸漬の方法により、重合性界面活性剤を合成樹脂成形品表面に存在させた状態で、電子線照射、紫外線照射、プラズマ照射、及び放射線照射から選ばれる方法により重合性界面活性剤を合成樹脂にグラフト重合させる方法、
である請求項1記載の合成樹脂成形品表面の親水性疎水性制御法。
【請求項3】
合成樹脂がポリオレフィン樹脂である請求項1または2記載の合成樹脂成形品表面の親水性疎水性制御法。
【請求項4】
式(I)で表される化合物が、kが0であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の合成樹脂成形品表面の親水性疎水性制御法。
【請求項5】
第1工程の1)の方法において、超臨界二酸化炭素中の重合性界面活性剤の含有量が、接触処理される合成樹脂成形品の重量に対して5〜50重量%である請求項2〜4のいずれか1項記載の合成樹脂成形品表面の親水性疎水性制御法。
【請求項6】
第1工程の1)の方法において、超臨界二酸化炭素への合成樹脂成形品の接触処理が、温度60〜120℃、圧力10〜40MPa、及び時間5〜120分で行なわれる請求項2〜5のいずれか1項記載の合成樹脂成形品表面の親水性疎水性制御法。
【請求項7】
第1工程の1)または2)の電子線照射により重合させる方法において、電子線の照射量が50〜600kGyであり、その後50〜110℃で30分〜6時間加熱処理する請求項2〜6のいずれか1項記載の合成樹脂成形品表面の親水性疎水性制御法。
【請求項8】
第2工程において、温度20〜80℃、及び相対湿度0〜100%の雰囲気下または水中で、30分〜6時間保持する請求項1〜7のいずれか1項記載の合成樹脂成形品表面の親水性疎水性制御法。
【請求項9】
第2工程において、温度20〜60℃、及び相対湿度70〜100%の雰囲気下または水中で、30分〜6時間保持することにより合成樹脂成形品表面を疎水性から親水性へ変える請求項1〜7のいずれか1項記載の合成樹脂成形品表面の親水性疎水性制御法。
【請求項10】
第2工程において、温度20〜80℃、及び相対湿度0〜30%、常圧または減圧の雰囲気下で、30分〜6時間保持することにより合成樹脂成形品表面を親水性から疎水性へ変える請求項1〜7のいずれか1項記載の合成樹脂成形品表面の親水性疎水性制御法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項記載の合成樹脂成形品表面の親水性疎水性制御法を用いて得られる合成樹脂成形品。

【公開番号】特開2010−53237(P2010−53237A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−219306(P2008−219306)
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(000002071)チッソ株式会社 (658)
【出願人】(504255685)国立大学法人京都工芸繊維大学 (203)
【出願人】(504145320)国立大学法人福井大学 (287)
【Fターム(参考)】